特許第6774042号(P6774042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6774042-積層吸音材 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774042
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】積層吸音材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   B32B5/26
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-534472(P2019-534472)
(86)(22)【出願日】2018年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2018028291
(87)【国際公開番号】WO2019026798
(87)【国際公開日】20190207
【審査請求日】2020年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-147795(P2017-147795)
(32)【優先日】2017年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399120660
【氏名又は名称】JNCファイバーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 貴之
(72)【発明者】
【氏名】西島 賢
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/143857(WO,A1)
【文献】 特開2006−28708(JP,A)
【文献】 特開2009−843(JP,A)
【文献】 特開2005−266445(JP,A)
【文献】 特表2009−512578(JP,A)
【文献】 特開2017−81040(JP,A)
【文献】 特開2016−142831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D04H 1/00−18/04
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維層と、繊維層と繊維層の間に位置する基材層とを含む積層吸音材であって、前記積層吸音材は少なくとも2層の繊維層を含み、
前記繊維層のそれぞれは、平均繊維径が500nm以上5μm未満である繊維からなり、目付が10〜500g/mであり、通気度が950μm/Pa・sec以下であり、
厚みが2.9mm未満であり、
前記基材層は、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、目付が80〜800g/mであり、厚みが2.9mm以上20mm以下である、
積層吸音材。
【請求項2】
前記繊維層は、10〜200g/mの目付けであり、前記基材層は、80〜500g/mの目付けである、請求項2に記載の積層吸音材。
【請求項3】
厚みが、30mm以下である、請求項1又は2に記載の積層吸音材。
【請求項4】
前記繊維層を形成する繊維が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6,6、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリスルフォン、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項5】
前記基材層に含まれる基材が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる不織布である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項6】
垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから3200Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、200Hzから1000Hzまでの積分した値Sが、下記式を満たす範囲である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項7】
垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから3200Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、800Hzから2000Hzまでの積分した値Tが、下記式を満たす範囲である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【請求項8】
垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから5000Hzまでの吸音率を3.6Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、2000Hzから5000Hzまでの積分した値Uが、下記式を満たす範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維からなる複数の層を有する、積層構造の吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音材とは音を吸収する機能を有する製品であって、建築分野や自動車分野において多用されている。吸音材を構成する材料として、不織布を用いることが知られている。例えば特許文献1には、吸音性を有する多層物品として、支持体層と、支持体層上に積層されるサブミクロン繊維層とを含み、サブミクロン繊維層は、中央繊維直径が1μm未満かつ平均繊維直径が0.5〜0.7μmの範囲であり、溶融フィルムフィブリル化法や電界紡糸法によって形成されることが開示されている。特許文献1の実施例においては、坪量(目付)100g/m、直径約18μmのポリプロピレンスパンボンド不織布を支持体層とし、その上に、目付14〜50g/m、平均繊維直径約0.56μmのサブミクロンポリプロピレン繊維を積層した積層物品が開示されている。また別の実施例では、目付62g/mのポリエステルのカード処理ウェブの上に、目付6〜32g/m、平均繊維直径0.60μmの電界紡糸ポリカプロラクトン繊維を積層させた多層物品が開示されている。実施例で作製された多層物品は、音響吸収特性が測定され、支持体のみの音響吸収特性よりも優れた音響吸収特性を備えることが示されている。
【0003】
また特許文献2には、吸音性に優れた積層不織布であって、少なくとも2種類の不織布層を含む表層部と、基盤部とを有するものが開示されている。表層部に含まれる2種類の不織布は、単繊維直径が1〜500nmのナノファイバーにより構成される不織布層(1)と、当該ナノファイバーよりも大きい繊維により構成される不織布層(2)とを含む。特許文献2の表層部は、不織布層(1)と(2)とを組み合わせることを特徴としており、(1)は吸音性を担い、(2)は吸音性を維持しながら力学的強度することが可能であることを開示している。実施例には、短繊維直径が200nmの層と短繊維直径が2μmの層とを組み合わせて、目付が72g/mである表層部を構成していることが記載されている。また、基盤層は目付200〜800g/m、単繊維直径15μm以下の繊維を10質量%以上含むものであり、基盤層の中に単繊維直径が15μm以下の繊維を含むことによって、基盤層の不織布の吸音性を向上できることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、自動車用のインシュレータとして用いられる多層成形用シートが開示されている。特許文献4の多層シートは、第1多孔性シートと第2多孔性シートとが、それらの間に挿入されるポリプロピレン製メルトブローン不織布によって融着一体化されているものである。第1多孔性シート及び第2多孔性シートとしては、短繊維の接着絡合不織布シートやガラスウールマットシート等が例示されており、それらの間に、緻密で低通気度のポリプロピレン製メルトブローン不織布を挿入するもので、メルトブローン不織布として平均繊維径が2μm以下であるものを用いることによって、繊維の分散が均一で、成型時に溶融しても、メルトブローン不織布が有する低通気度の物性を引き継げると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−15042号公報
【特許文献2】特開2015−30218号公報
【特許文献3】特開2016−137636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、吸音材としてさまざまな構成の不織布積層体が検討されており、繊維径や通気度(密度)の異なる複数の層を組み合わせることも知られている。しかしながら、特に自動車用の吸音材においては、より優れた吸音特性を有する吸音材、特に、200〜1000Hzの低周波数領域及び800〜2000Hzの中周波数領域、さらに2000〜5000Hzの高周波数領域において優れた吸音性能を示し、また、省スペース性に優れた吸音材が求められている。この状況に鑑み、本発明は、低周波数領域、中周波数領域及び高周波数領域において優れた吸音性を有するとともに、省スペース性にも優れた吸音材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは上述の課題を解決するために検討を重ねた。その結果、基材層と繊維層とを含む積層吸音材において、特定範囲の繊維径及び目付を有する複数の緻密な繊維層と、それらの間に位置し、一定の目付及び厚みを有する疎な基材層と、を含む構造とすることによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]複数の繊維層と、繊維層と繊維層の間に位置する基材層とを含む積層吸音材であって、前記積層吸音材は少なくとも2層の繊維層を含み、
前記繊維層のそれぞれは、平均繊維径が500nm以上5μm未満である繊維からなり、目付が10〜500g/mであり、通気度が950μm/Pa・sec以下であり、
厚みが2.9mm未満であり、
前記基材層は、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、目付が80〜800g/mであり、厚みが2.9mm以上20mm以下である、
積層吸音材。
[2]前記繊維層は、10〜200g/mの目付けであり、前記基材層は80〜500g/mの目付けである、[1]に記載の積層吸音材。
[3]厚みが、30mm以下である、[1]または[2]に記載の積層吸音材。
[4]前記繊維層を形成する繊維が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン6,6、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリスルフォン、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の積層吸音材。
[5]前記基材層に含まれる基材が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる不織布である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の積層吸音材。
[6]垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから3200Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、200Hzから1000Hzまでの積分値Sが、下記式を満たす範囲である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の積層吸音材。
[7]垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから3200Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、800Hzから2000Hzまでの積分値Tが、下記式を満たす範囲である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の積層吸音材。
[8]垂直入射吸音率測定法において、周波数xが200Hzから5000Hzまでの吸音率を3.6Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、2000Hzから5000Hzまでの積分した値Uが、下記式を満たす範囲である、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の積層吸音材。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成を有する本発明によれば、積層吸音材中に特定の構成の繊維層及び基材層を有することで、少ない層数で高い吸音性を実現することが可能であり、吸音材として厚みの削減ができる。また、上述の構成を有する本発明によれば、低周波数領域、中周波数領域、及び高周波数領域における吸音特性に優れた吸音材が得られる。本発明の積層吸音材は、吸音特性のピークが従来の吸音材よりも低い領域にあり、2000Hz以下の領域、特に1000Hz以下の領域における吸音性能に優れる。建築分野では、生活騒音の多くは200〜500Hz程度といわれており、また自動車分野では、ロードノイズでは100〜500Hz程度、また、加速時やトランスミッション変動時の騒音は100〜2000Hz程度、車両走行時の風切り音は800〜2000Hz程度といわれている。本発明の積層吸音材は、このような騒音対策に有用である。また、本発明の積層吸音材は、多孔質材料やガラス繊維等からなる吸音材と比較して軽量であるため、部材の軽量化と省スペース化が可能であり、この点は特に自動車分野向けの吸音材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例(実施例4)及び比較例(比較例2)の吸音特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
(積層吸音材の構造)
本発明の積層吸音材は、複数の繊維層と、繊維層と繊維層の間に位置する基材層とを含む積層吸音材であって、前記積層吸音材は少なくとも2層の繊維層を含み、各繊維層は、500nm以上35μm未満の平均繊維径の繊維からなり、かつ、10〜500g/mの目付けであり、通気度が950μm/Pa・sec以下、厚みが2.9mm未満であり、前記基材層は、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、かつ、80〜800g/m以下の目付けであり、厚みが2.9mm以上20mm以下である。このように、本発明の積層吸音材は、基材層と繊維層とを含んでなり、繊維層は2層以上含まれ、繊維層の間に基材層が位置する。
【0012】
積層吸音材において、繊維層は2層以上含まれ、具体的には、2〜4層とすることができるが、吸音材の厚みを低減する観点からは2層であることがより好ましい。各繊維層は、1つの繊維集合体でもよいし、1つの繊維層の中に複数の繊維集合体が重ねられた形態であってもよい。
また、積層吸音材において、繊維層と繊維層の間には基材層が位置する。各基材層は、1つの基材からなってもよく、または複数の基材が重ねられてなる形態であってもよい。
【0013】
積層吸音材に含まれる繊維層及び基材層は、それぞれ1種類ずつでもよいが、異なる2種以上の繊維層又は基材層が含まれていてもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、繊維層及び基材層以外の構成が含まれていてもよく、例えば、本発明に規定する範囲外のさらなる繊維層(1層でも2層以上でもよい)、印刷層、発泡体、箔、メッシュ、織布等が含まれていてもよい。また、各層間を連結するための接着剤層、クリップ、縫合糸等を含んでいてもよい。
【0014】
積層吸音材の各層の間は、物理的及び/又は化学的に接着されていてもよいし、接着されていなくてもよい。積層吸音材の複数の層間のうちの一部が接着され、一部は接着されていない形態であってもよい。接着は、例えば、繊維層の形成工程において、または後工程として加熱を行い、繊維層を構成する繊維の一部を融解し、繊維層を基材層に融着させることによって繊維層と基材層とを接着してもよい。また、基材層ないし繊維層の表面に接着剤を付与し、さらに基材層ないし繊維層を重層することによって、層間を接着することも好ましい。
【0015】
積層吸音材の厚みは、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、3〜50mmとすることができ、3〜40mmとすることが好ましく、省スペース性の観点から3〜30mmとすることがより好ましい。なお、積層吸音材の厚みとは、典型的には繊維層及び基材層の厚みの合計のことを意味し、カートリッジや蓋等の外装体が取り付けられている場合、その部分の厚みは含まないものとする。
【0016】
積層吸音材の通気度は、所望の吸音性能が得られる限り特に制限されるものではないが、10〜1000μm/Pa・sとすることができ、10〜500μm/Pa・sであれば好ましい。また、繊維層の通気度が基材層の通気度よりも低いこと、言い換えると、相対的に通気度が高い層(基材層)が、通気度の低い層(繊維層)によって挟まれた構造となっていることが好ましい。従来、吸音性能とともに遮音性能を期待されていた吸音材では、通気性が低いほど音が通過しにくく、すなわち遮音性に有効であると考えられていたが、本発明の積層吸音材は、高い通気性を有することによって音の反射を低減し、さらに吸音性に優れた繊維層を採用することによって高い吸音性が得られる。通気度の調整は、例えば、繊維層を構成する繊維を細径とすることによって、密度が高く、通気性が低い繊維層を得ることができる。また、エンボス加工や熱加圧等の方法によっても、通気性を調整することができる。なお、通気度の測定は公知の方法によることができ、例えば、ガーレ試験機法で測定できる。
【0017】
積層吸音材は、基材層が繊維層によって挟まれた積層構造となっている。このような形態であるとき、繊維層と繊維層との間の距離(基材層の厚み、層間距離とも称する)は、2.9mm〜20mmであることが好ましく、2.9〜15mmであることがより好ましい。層間距離が2.9mm以上であれば、低周波数領域の吸音性能が良好となり、層間距離が20mm以下であれば、吸音材としての厚みが大きくなり過ぎることがなく、省スペース性に優れた吸音材が得られる。本発明の吸音材は、典型的には、薄い繊維層と繊維層の間に、厚みのある基材層を挟み込む構造を有することが好ましく、基材層の厚みが、積層吸音材の厚みの大部分を占めることが好ましい。
【0018】
(各層の構成:繊維層)
本発明の積層吸音材に含まれる繊維層は、平均繊維径が500nm以上5μm未満である繊維からなる層である。好ましくは、平均繊維径が500nm以上3μm未満である繊維からなる層である。平均繊維径が500nm以上5μm未満であるとは、平均繊維径がこの数値範囲内であることを意味する。繊維径が500nm以上5μm範囲であれば、高い吸音性が得られるため好ましい。繊維径の測定は、公知の方法によることができる。例えば、繊維層表面の拡大写真から測定ないし算出することによって得られる値であり、詳細な測定方法は実施例に詳述される。
【0019】
本発明の積層吸音材に含まれる繊維層は、1層の繊維層が一つの繊維集合体からなっていてもよく、また、1層の繊維層中に複数の繊維集合体を含み、繊維集合体の層が重ね合わされたものが1層の繊維層を形成していてもよい。なお、本明細書において、繊維集合体とは、一つの連続体となった繊維集合体のことを意味している。繊維層の目付けは、10〜500g/mであることが好ましく、10〜200/mであればより好ましい。目付けが10g/m以上であれば、繊維層と基材層との密度差による流れ抵抗の制御が良好となり、500g/m未満であれば、吸音材として生産性に優れる。繊維層の厚みは、2.9mm未満であり、吸音材としての厚みを低減する観点からはより薄い方が好ましく、好ましくは2.0mm未満、さらに好ましくは1.0mm未満、特に好ましくは700μm未満とすることができる。
【0020】
繊維層を構成する不織布は、基材層に比べて繊維径が細く緻密な層であることを特徴とする。繊維層の通気度は、例えば950μm/Pa・s以下とすることができ、10〜600μm/Pa・sであれば好ましい。
【0021】
繊維層を構成する繊維集合体は、好ましくは不織布であり、前記の範囲の繊維径及び目付を有している限り特に制限されないが、メルトブローン不織布、電界紡糸法によって形成される不織布等であることが好ましい。メルトブローン不織布によれば、細径の繊維を基材上に効率よく積層させることができる。メルトブローン不織布の詳細は製造方法に詳述する。
【0022】
繊維層を構成する樹脂としては、発明の効果を得られる限り特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン1,2等のナイロン(アミド樹脂)類、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリスルフォン、液晶ポリマー類、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が例示できる。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等を挙げることができ、ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体や、プロピレンと他の単量体、エチレンやブテン等が重合した共重合ポリプロピレン等を挙げることができる。繊維集合体は、前記の樹脂の1種を含むことが好ましく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0023】
また、前記の繊維には、樹脂以外の各種の添加剤を含んでもよい。樹脂に添加されうる添加剤としては例えば、充填剤、安定化剤、可塑剤、粘着剤、接着促進剤(例えば、シラン及びチタン酸塩)、シリカ、ガラス、粘土、タルク、顔料、着色剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、抗菌剤、界面活性剤、難燃剤、及びフッ化ポリマーが挙げられる。前記添加物のうち1つ以上を用いて、得られる繊維及び層の重量及び/またはコストを軽減してもよく、粘度を調整してもよく、または繊維の熱的特性を変性してもよく、あるいは電気特性、光学特性、密度に関する特性、液体バリアもしくは粘着性に関する特性を包含する、添加物の特性に由来する様々な物理特性活性を付与してもよい。
【0024】
(各層の構成:基材層)
本発明の積層吸音材における基材層は、吸音性を有するとともに、繊維層を支持して吸音材全体の形状を保持する機能を有している。基材層は、1層の基材からなってもよく、または、複数の基材が重ねられてなる形態であってもよい。
【0025】
基材層を構成する基材は、その少なくとも一方の表面上に繊維集合体を積層できるものであれば特に制限されず、不織布及び織布からなる群から選ばれる少なくとも1つを用いることができる。特に、基材層が不織布からなることが好ましい。積層吸音材に含まれる基材は1種であってもよく、2種以上の基材を含むことも好ましい。これらは、通気性を有していることが特に好ましいことから、通気性が低い場合には、開孔を有することが好ましい。
【0026】
基材が不織布である場合、不織布の種類は、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、スルーエア不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布等を用いることができ、所望の物性や機能によって適宜選択できる。
【0027】
前記の不織布の繊維を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が例示できる。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、若しくは4−メチルペンテン−1等の単独重合体、及びこれらと他のα−オレフィン、即ち、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1あるいは4−メチルペンテン−1などのうちの1種以上とのランダム若しくはブロック共重合体あるいはこれらを組み合わせた共重合体のことであり、またはこれらの混合物などを挙げることができる。ポリアミド系樹脂としてはナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン1,1、ナイロン1,2、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ポリメタキシリデンアジパミド、ポリパラキシリデンデカンアミド、ポリビスシクロヘキシルメタンデカンアミドもしくはこれらのコポリアミド等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートの他、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリブチルテレフタレート、ポリエチレンオキシベンゾエート、ポリ(1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート)若しくはこれらの共重合体を挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレン繊維、及びポリプロピレン繊維の1種、又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。さらに、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、アルミニウム繊維、あるいは、溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維の不織布ないしマットを用いることも好ましい。例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維、及び耐炎化繊維から選ばれた1種または2種以上の有機繊維が挙げられる。
基材が、織布である場合にも同様の樹脂を用いることができる。
【0028】
基材層の不織布を構成する繊維としては、単成分のみからなる繊維を使用することもできるが、繊維同士の交点の融着の効果を考慮すると、低融点樹脂と高融点樹脂の複合成分からなる繊維、すなわち、融点が異なる2成分以上からなる複合繊維を用いることも好ましい。複合形態は例えば鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型を挙げることができる。また、基材層の不織布を構成する繊維として、融点が異なる2成分以上の混繊繊維を用いることも好ましい。なお、混繊繊維とは、高融点樹脂からなる繊維と低融点樹脂からなる繊維とが独立して存在し、混合されてなる繊維を意味している。基材が、織布である場合にも同様の繊維を用いることができる。
【0029】
基材の不織布を構成する繊維の平均繊維径は、特に制限されるものではないが、平均繊維径が1μm〜1mmである繊維からなるものを用いることができる。平均繊維径が1μm〜1mmであるとは、平均繊維径がこの数値範囲内であることを意味する。平均繊維径が1μm以上であれば、繊維層と基材層を構成する繊維の密度差による流れ抵抗を制御することができ、1mm未満であれば、汎用性が失われることがなく、また入手も容易となるため好ましい。平均繊維径は、1.0〜100μmであれば、繊維層と基材繊維との密度差による流れ抵抗を制御することができ入手も容易であるためより好ましい。繊維径の測定は、繊維層の繊維径の測定と同様の方法で行うことができる。ここでいう流れ抵抗とは、吸音材中を流れる空気の流れにくさを表す指標である。基材が、織布である場合にも同様の繊維径の繊維を用いることができる。
【0030】
基材層は繊維層と繊維層との間に位置する。また、繊維層と繊維層との間に位置するのに加えて、積層吸音材の最外面に位置する層として含まれてもよい。基材は、1層のみで基材層を構成してもよく、2層以上が連続して配置されて1層の基材層を構成していることも好ましい。基材を2層以上連続して配置することで、基材層の厚みによって層の層間距離を制御できるという利点がある。
【0031】
基材層の目付は、80〜800g/mであり、80〜500g/mであることが好ましい。基材の目付けが80g/m以上であれば、吸音材として必要な強度を得ることができる。
【0032】
本発明において、基材層は2.9mm以上の厚みを有する。基材層の厚みの上限は特に制限されるものではないが、省スペース性の観点からは2.9〜60mmであることが好ましく、2.9〜30mmであることがより好ましい。基材層を構成する基材の厚みは、例えば、20μm〜20mmとすることができ、30μm〜10mmとすることが好ましい。基材の厚みが20μm以上であれば、皺の発生がなく取り扱いが容易で、生産性が良好であり、基材の厚みが20mm以下であれば、省スペース性を妨げる恐れがない。
【0033】
基材層は、繊維層よりも密度が低く、通気性と厚みのある層であり、この構造によって音の反射を低減し、吸音性に寄与するものと考えられている。基材層の通気度は、例えば1000μm/Pa・s以上とすることができる。
【0034】
基材層には、本発明の効果を妨げない範囲内で、各種の添加剤、例えば、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、可塑剤、及び他の熱可塑性樹脂等が添加されていてもよい。また、表面が各種の仕上げ剤で処理されていてもよく、これによって撥水性、制電性、表面平滑性、耐摩耗性などの機能が付与されていてもよい。
【0035】
(積層吸音材の吸音特性)
本発明の積層吸音材は、特に低周波数領域(1000Hz以下の周波数領域)、中周波数領域(800〜2000Hzの周波数領域)及び高周波数領域(2000〜5000Hzの周波数領域)における吸音性が優れることを特徴としている。本発明の積層吸音材は、特に400Hz〜1000Hz領域の吸音性に優れるという、従来の吸音材と異なる吸音特性を示すものである。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の積層吸音材は、繊維層と基材層の密度差を利用し音波の流れ抵抗を制御し、音波の透過と反射、及び干渉を利用する結果、厚みが薄く、かつ、低周波数領域及び中周波数領域の吸収性に優れるという性能が得られるものと考えられている。
吸音性の評価方法は、実施例に詳述される。
【0036】
(積層吸音材の製造方法)
積層吸音材の製造方法は特に制限されないが、例えば、1層の基材層上に1層の繊維集合体を形成する繊維層を作成する工程、及び、複数の繊維層を所定の順番及び枚数で重ね合わせて一体化する工程、を含む製造方法によって得ることができる。なお、繊維層を重ね合わせる工程において、繊維層以外のさらなる層(例えばさらなる基材層)をさらに加えて積層することもできる。
【0037】
基材層として不織布を用いる場合、公知の方法で不織布を製造して用いてもよいし、市販の不織布を選択して用いることもできる。基材層上に繊維層を形成する工程は、メルトブローン法や電界紡糸法を用いることが好ましい。また、基材層として織布を用いる場合、公知の方法で織布を製造して用いてもよいし、市販の織布を選択して用いることもできる。
【0038】
メルトブローン法は、基材層の上に繊維層となる樹脂をノズルから溶融状態で押し出し、加熱圧縮空気によって吹き付けることで不織布を形成する方法である。例えば、スクリュー、加熱体及びギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金、圧縮空気発生装置及び空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、及び巻取り機からなる不織布製造装置を用いて不織布を製造することができる。基材層を搬送するコンベアーの速度を調整することによって任意に目付を設定できる。紡糸に用いる樹脂としては、熱可塑性を有しており、曳糸性を有するものであれば特に限定されない。
【0039】
電界紡糸法は、紡糸溶液を吐出させるとともに、電界を作用させて、吐出された紡糸溶液を繊維化し、コレクター上に繊維を得る方法である。例えば、紡糸溶液をノズルから押し出すとともに電界を作用させて紡糸する方法、紡糸溶液を泡立たせるとともに電界を作用させて紡糸する方法、円筒状電極の表面に紡糸溶液を導くとともに電界を作用させて紡糸する方法などを挙げることができる。本発明においては、コレクター上に基材となる不織布等を挿入し、基材上に繊維を集積させることができる。紡糸溶液としては、曳糸性を有するものであれば特に限定されないが、樹脂を溶媒に分散させたもの、樹脂を溶媒に溶解させたもの、樹脂を熱やレーザー照射によって溶融させたものなどを用いることができる。
【0040】
紡糸の安定性や繊維形成性を向上させる目的で、紡糸溶液にさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤、臭化テトラブチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタモンモノラウレートなどの非イオン性界面活性剤などを挙げることができる。界面活性剤の濃度は、紡糸溶液に対して5重量%以下の範囲であることが好ましい。5重量%以下であれば、使用に見合う効果の向上が得られるため好ましい。また、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、上記以外の成分も紡糸溶液の成分として含んでもよい。
【0041】
前記によって得られた、基材層/繊維層の2層からなる繊維の積層体を、複数枚重ね合わせて一体化する方法は、特に限定されるわけではなく、接着を行わず重ね合わせるだけでもよく、また、各種の接着方法、つまり、加熱したフラットロールやエンボスロールによる熱圧着、ホットメルト剤や化学接着剤による接着、循環熱風もしくは輻射熱による熱接着などを採用することもできる。繊維層の物性低下を抑制するという観点では、なかでも循環熱風もしくは輻射熱による熱処理が好ましい。フラットロールやエンボスロールによる熱圧着の場合、繊維層が溶融してフィルム化したり、エンボス点周辺部分に破れが発生したりする等のダメージを受け、安定的な製造が困難となる可能性があるほか、吸音特性が低下する等の性能低下を生じやすい。また、ホットメルト剤や化学接着剤による接着の場合には、該成分によって繊維層の繊維間空隙が埋められ、性能低下を生じやすい場合がある。一方で、循環熱風もしくは輻射熱による熱処理で一体化した場合には、繊維層へのダメージが少なく、かつ十分な層間剥離強度で一体化できるので好ましい。循環熱風もしくは輻射熱による熱処理によって一体化する場合には、特に限定されるものではないが、熱融着性複合繊維からなる不織布及び積層体を使用することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
【0043】
実施例で用いた物性値の測定方法及び定義を以下に示す。
【0044】
<平均繊維径>
株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡SU8020を使用して、繊維を観察し、画像解析ソフトを用いて繊維50本の直径を測定した。繊維50本の繊維径の平均値を平均繊維径とした。
【0045】
<吸音率測定1>
各繊維積層体より直径63mmのサンプルを採取し、各条件の積層をした後、垂直入射吸音率測定装置「ブリュエル&ケアー社製TYPE4206」を用いASTM E 1050に準拠し、周波数200〜3200Hzにおける試験片に平面音波が垂直に入射するときの垂直入射吸音率を測定した。
<低周波数領域の吸音性>
周波数xが200Hzから3200Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、200Hzから1000Hzまでの積分値Sが下記数式で得られる。
【0046】
【数1】
【0047】
積分値Sは200〜1000Hzの周波数領域の吸音性能を示し、数値が高ければ、吸音性が高いと判断される。S値が170以上の場合、低周波数領域の吸音性を良好(○)と評価し、170未満の場合、吸音性を不良(×)と評価した。
【0048】
<中周波数領域の吸音性>
周波数xが800Hzから2000Hzまでの吸音率を1Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、800Hzから2000Hzまでの吸音率の積分値Tが下記数式で得られる。
【0049】
【数2】
【0050】
積分値Tは800〜2000Hzの周波数領域の吸音性能を示し、数値が高ければ、吸音性が高いと判断される。T値が840以上の場合、中周波数領域の吸音性を良好(○)と評価し、840未満の場合、吸音性を不良(×)と評価した。
【0051】
<吸音率測定2>
各繊維積層体より直径40mmのサンプルを採取し、各条件の積層をした後、垂直入射吸音率測定装置「日本音響エンジニアリング社製WinZacMTX」を用いASTM E 1050に準拠し、周波数2000〜5000Hzにおける試験片に平面音波が垂直に入射するときの垂直入射吸音率を測定した。
【0052】
<高周波数領域の吸音性>
周波数xが200Hzから5000Hzまでの吸音率を3.6Hz間隔で測定し、得られる曲線をf(x)としたとき、2000Hzから5000Hzまでの吸音率の積分値Uが下記数式で得られる。
【0053】
【数3】
【0054】
積分値Uは2000〜5000Hzの周波数領域の吸音性能を示し、数値が高ければ、吸音性が高いと判断される。U値が2100以上の場合、高周波数領域の吸音性を良好(○)と評価し、2100未満の場合、吸音性を不良(×)と評価した。
【0055】
<通気度>
通気度測定は、株式会社東洋精機製作所製ガーレ式デンソメーター(型式:GB−3C)にてISO 5636に準拠し測定した。
【0056】
<MFR>
ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1999)に準拠し、2160g荷重条件下、230℃で測定した値である。
ポリエチレン樹脂のMFRは、JIS K 7210(1999)に準拠し、2160g荷重条件下、190℃で測定した値である。
【0057】
[実施例1]
高密度ポリエチレン樹脂として、KEIYOポリエチレン製の高密度ポリエチ「M6900」(MFR17g/10分)を用い、ポリプロピレン樹脂として、日本ポリプロ製のポリプロピレンホモポリマー「SA3A」(MFR=11g/10分)を用いて、熱溶融紡糸法により、繊維径50μmの鞘成分が高密度ポリエチレン樹脂、芯成分がポリプロピレン樹脂からなる鞘芯型熱融着性複合繊維を作製した。得られた鞘芯型熱融着性複合繊維を用いて、目付が200g/m、厚み5mm、幅が1000mmのカード法スルーエア不織布を作製し、これを基材層Aとした。
前記目付けを220g/mとした以外は、前記と同様に実施し厚み7mm、幅が1000mmのカード法スルーエア不織布を作製し、これを基材層Bとした。
繊維層の形成には、スクリュー(50mm径)、加熱体及びギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、2機の押出機より交互に樹脂が吐出される孔数501ホールが一列に並んだ、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置及び空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベアー、及び巻取り機からなる不織布製造装置を用いた。
繊維層の原料のポリプロピレン樹脂として、ポリプロピレンホモポリマー1(MFR=82g/10分)と、ポリプロピレンホモポリマー2(LOTTE CHEMICAL社製「FR−185」(MFR=1400g/10分))を用い、不織布製造装置の2機の押出機に前記2種類のポリプロピレン樹脂を投入し、押出機を240℃で加熱溶融させ、ギアポンプの質量比が50/50になる様に設定し、紡糸口金から単孔あたり0.3g/minの紡糸速度で溶融樹脂を吐出させた。吐出した繊維を400℃に加熱した98kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって紡糸口金から30cmの距離で、捕集コンベアー上に吹き付け、繊維層を形成した。捕集コンベアーの速度を調整することによって、任意に目付を設定した。平均繊維径は、1.8μmであり、繊維層の目付けは、80g/m、厚みは0.6mmであった。
得られた繊維層と基材層を使用し、繊維層/基材層A/繊維層となるように重ね合わせ、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、339であり良好であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、1011であり良好であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2602であり良好であった。
【0058】
[実施例2]
基材層Bを使用した以外は、実施例1と同様にし、繊維層と基材層とを使用し繊維層/基材層B/繊維層となるように積層し、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、291であり良好であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、1002であり良好であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2503であり良好であった。
【0059】
[実施例3]
基材層Aを2枚使用した以外は、実施例1と同様にし、繊維層と基材とを使用し繊維層/基材層A/基材層A/繊維層となるように積層し、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、378であり良好であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、1038であり良好であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2511であり良好であった。
【0060】
[実施例4]
基材層Bを2枚使用した以外は、実施例1と同様にし、繊維層と基材層とを使用し繊維層/基材層B/基材層B/繊維層となるように積層し、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、394であり良好であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、1062であり良好であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2446であり良好であった。
【0061】
[比較例1]
繊維層1枚と基材層1枚を使用した以外は実施例1と同様に実施し、繊維層/基材層Aとなるように積層し、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、87であり不良であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、554であり不良であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2645であり良好であった。
【0062】
[比較例2]
繊維層2枚を使用した以外は実施例1と同様に実施し、繊維層/繊維層となるように積層し、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、167であり不良であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、897であり良好であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2294であり良好であった。
【0063】
[比較例3]
市販されているポリプロピレン樹脂製不織布(3M社製シンサレートT2203、繊維径0.7μm〜4.0μm、厚み29mm)を直径63mmの円形に打ち抜き、吸音率測定をし、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、129であり低周波数領域の吸音性が得られず、不良であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、804であり不良であった。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2580であり良好であった。
【0064】
実施例1〜4及び比較例1〜3のまとめを表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるとおり、本発明の実施例1〜4の積層吸音材はいずれも、低周波吸音性、中周波吸音性、高周波吸音性、及び省スペース性に優れていた。一方、繊維層が1層のみで、基材層が繊維層に挟まれた構造になっていない比較例1は、吸音性が不十分であった。また、基材層を挟まず、2層の繊維層のみで構成した比較例2は、中周波吸音性は優れていたが低周波吸音性が不十分であった。さらに、比較的細径の繊維のみで構成した単層の吸音材である比較例3は、厚みを大きくしても低周波数吸音性及び中周波数吸音性が不十分であった。
【0067】
[実施例5]
市販されているガラス繊維材料として、旭ファイバーグラス社製アクリアマット厚み50mmを、目付け160g/m、厚み10mmに加工し基材Cとした。得られた基材Cと実施例1で得られた繊維層とを使用し、繊維層/基材層C/繊維層となるように重ね合わせ、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、380であり良好であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、1045であり良好であった。40mm径の円形で切り出し、高周波吸音性評価サンプルを作製した。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2494であり良好であった。
【0068】
[比較例4]
実施例5で得られた基材Cを使用し、基材層Cのみで、63mm径の円形に切り出し吸音率測定用サンプルを作成した。垂直入射吸音率を測定し、低周波数領域の吸音性(200Hzから1000Hzまでの積分した値S)を評価したところ、120であった。中周波数領域の吸音性(800Hzから2000Hzまでの積分した値T)を評価したところ、745であった。40mm径の円形で切り出し、高周波吸音性評価サンプルを作製した。高周波数領域の吸音性(2000Hzから5000Hzまでの積分した値U)を評価したところ、2140であり良好であった。
【0069】
実施例5及び比較例4のまとめを表2に示す。
【0070】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の積層吸音材は、低周波数領域から中周波数領域、高周波領域の吸音性に特に優れるため、低周波数領域から中周波数領域の騒音が問題になる分野における吸音材として利用されうる。具体的には住宅の天井、壁、床等に用いられる吸音材、高速道路や鉄道路線等の防音壁、家電製品の防音材、鉄道や自動車等の車両の各部に配置される吸音材等として用いられうる。
図1