特許第6774048号(P6774048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774048還元用薬液の処理方法、プリント配線板に用いる銅箔の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774048
(24)【登録日】2020年10月6日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】還元用薬液の処理方法、プリント配線板に用いる銅箔の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20201012BHJP
   H05K 3/26 20060101ALI20201012BHJP
   C23C 22/60 20060101ALI20201012BHJP
   C25D 11/34 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C23C26/00 B
   H05K3/26 D
   C23C22/60
   C25D11/34 302
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-139886(P2016-139886)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-9229(P2018-9229A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小畠 直貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−062047(JP,A)
【文献】 特開平05−247666(JP,A)
【文献】 特開2001−295068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/60,26/00
C25D 11/34
H05K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の表面を洗浄するプリコンディショニング工程、前記プリコンディショニング工程が行われた銅箔の表面を酸化用薬液により酸化する酸化処理工程、及び前記酸化工程が行われた前記銅箔を還元用薬液により還元する還元処理工程を有する、プリント配線板に用いる銅箔の処理方法であって、
前記還元処理工程に使用した後の還元用薬液に存在する銅化合物を除去する除去工程を更に有し、
前記還元処理工程は、除去工程で銅化合物が除去された前記還元用薬液を再利用することを特徴とするプリント配線板に用いる銅箔の処理方法。
【請求項2】
前記除去工程は、前記還元処理に使用した後の還元用薬液をろ過することにより行われることを特徴とする請求項1記載の還元用薬液の処理方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記還元処理に使用した後の還元用薬液を遠心分離し、その上澄みを回収することにより行われることを特徴とする請求項1または2記載の還元用薬液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔を還元処理する際に使用する還元剤を含有する薬液(還元用薬液)を処理する方法、及びプリント配線板に用いる銅箔の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板に使用される銅箔は、配線板との密着性(高い接着強度)が要求される。密着性は銅箔表面の粗度を大きくすることにより向上させることができる。また、プリント配線板の高密度化に伴い、銅箔表面を平坦化することが要求される。しかし、銅箔表面を平坦化するには粗度を小さくする必要があるため、結果として密着性が低下するという問題がある。
【0003】
密着性及び平坦化の双方の要求を満たす手法として、酸化・還元を利用した銅箔の処理方法がある。この方法は、酸化剤を含有する薬液にプリコンディショニングした銅箔を浸漬して酸化させ、銅箔表面に酸化銅の凹凸を形成する。次に、還元剤を含有する薬液に酸化させた銅箔を浸漬し、酸化銅を還元することで表面の凹凸を調整して表面の粗さを整える。このような方法によりプリント配線板への密着性を保ちつつ、高密度化の要求にも耐えうる銅箔を提供することが可能となる。これらに関連する技術は、たとえば、特許文献1または特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−259611号公報
【特許文献2】特表2013−534054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸化銅の還元処理を行った還元剤を含有する薬液は、その性能が経時的に劣化することが知られている。一方、還元剤が高価であるため、還元剤を含有する薬液は長寿命化が求められている。
【0006】
本発明の目的は、還元用薬液の経時劣化を抑え、還元用薬液の寿命を長くすることが可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、未使用の還元用薬液及び使用済みの還元用薬液について、それぞれの薬液中に含まれる還元剤の濃度を経時的に測定した。その結果、未使用の還元用薬液では還元剤の濃度に変化が見られなかった。一方、使用済みの還元用薬液では、銅箔の還元処理を行っていないにも関わらず還元剤の濃度が経時的に減少するということが明らかとなった。具体的には、未使用の還元用薬液は100日以上経過しても還元剤の濃度に変化が見られなかった。一方、使用済みの還元用薬液中の還元剤の濃度は、120日経過後では初期濃度に対して7%にまで減少(93%減)しているという結果が得られた。
【0008】
また、使用済みの還元用薬液を分析したところ、薬液中に酸化銅等の銅化合物が含まれていることが判った。
【0009】
以上より、使用済みの還元用薬液中に存在する銅化合物が還元剤と反応することにより、還元用薬液の経時的な劣化が生じていると考えられる。本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。すなわち、本発明者は、還元処理に使用した使用済み薬液から銅化合物を取り除くことで薬液の経時劣化を抑え、長寿命化を可能とすることを見出した。
【0010】
上記目的を達成するための主たる発明は、酸化処理された銅箔の表面を還元処理する際に使用する還元用薬液の処理方法であって、前記還元処理に使用した後の還元用薬液中に存在する銅化合物を除去する除去工程を有することを特徴とする還元用薬液の処理方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の処理方法は、還元用薬液の経時劣化を抑え、還元用薬液の寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
==開示の概要==
本明細書の記載により、上記の主たる発明の他、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0013】
すなわち、前記除去工程は、前記還元処理に使用した後の還元用薬液をろ過することにより行われることを特徴とする還元用薬液の処理方法が明らかとなる。また、前記除去工程は、前記還元処理に使用した後の還元用薬液を遠心分離し、その上澄みを回収することにより行われることを特徴とする還元用薬液の処理方法が明らかとなる。薬液中の銅化合物は、これらろ過や遠心分離といった方法により除去することができる。
【0014】
また銅箔の表面を洗浄するプリコンディショニング工程、前記プリコンディショニング工程が行われた銅箔の表面を酸化用薬液により酸化する酸化処理工程、及び前記酸化工程が行われた前記銅箔を還元用薬液により還元する還元処理工程を有する、プリント配線板に用いる銅箔の処理方法であって、前記還元処理工程に使用した後の還元用薬液に存在する銅化合物を除去する除去工程を更に有し、前記還元処理工程は、除去工程で銅化合物が除去された前記還元用薬液を再利用することを特徴とするプリント配線板に用いる銅箔の処理方法が明らかとなる。このような処理方法によれば、経時劣化の少ない還元用薬液を繰り返し使用することができる。
【0015】
==実施形態==
プリント配線板等の基板に使用される銅箔の処理方法は、従来から知られている様々な手法を用いることが可能である。一般的な銅箔の処理方法は、主に「プリコンディショニング工程」、「酸化処理工程」、「還元処理工程」を含む。
【0016】
[プリコンディショニング工程]
プリコンディショニング工程は、アルカリ溶液による脱脂や酸による洗浄を行い、銅箔の表面を予備的に洗浄する工程である。
【0017】
アルカリ溶液による脱脂は、たとえば、銅箔を液温20〜60℃、20〜60g/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液中に2〜30分間浸漬した後、水洗することにより行う。酸による洗浄は、たとえば、銅箔を液温20〜50℃、5〜20重量%の硫酸に1〜5分間浸漬した後、水洗することにより行う。
【0018】
[酸化処理工程]
酸化処理工程は、酸化剤を含有する薬液(酸化用薬液)と接触させる方法、またはアルカリ性の電解液を用いて陽極酸化処理を行う方法によって銅箔の表面を酸化させ、酸化銅(CuO)の凹凸を形成する工程である。
【0019】
酸化剤としては、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム等を用いることができる。また、酸化用薬液は、酸化剤、アルカリ性化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、及び溶媒(純水等)を含む液体である。酸化用薬液は、各種の添加剤(たとえば、リン酸三ナトリウム十二水和物のようなリン酸塩)を添加してもよい。
【0020】
酸化処理工程は、たとえば亜塩素酸ナトリウム10〜200g/L、リン酸三ナトリウム塩十二水和物5〜60g/L、水酸化ナトリウム5〜50g/Lを含む薬液に、銅箔を液温40〜95℃、1〜10分間浸漬することにより行う。
【0021】
電解液に用いるアルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。たとえば、水酸化ナトリウムを用いる場合、電解液に含まれる水酸化ナトリウム100〜300g/L、液温60〜95℃、陽極電流密度0.5〜3A/dm2、処理時間2〜30分間の条件で酸化処理工程を行う。
【0022】
[還元処理工程]
還元処理工程は、還元剤を含有する薬液(還元用薬液)を用いて銅箔に形成された酸化銅を還元させ、凹凸を調整する工程である。
【0023】
還元剤としては、ジメチルアミンボラン(DMAB)、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。また、還元用薬液は、還元剤、アルカリ性化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、及び溶媒(純水等)を含む液体である。
【0024】
還元処理工程は、たとえばジメチルアミンボラン2〜50g/L、水酸化ナトリウム等を用いてpHを9以上に調整した薬液に、銅箔を液温20〜60℃、2秒〜5分間浸漬することにより行う。
【0025】
なお、上記各工程で使用される薬液は、繰り返し使われる。
【0026】
[除去工程]
本実施形態における銅箔の処理方法は、更に除去工程を有する。除去工程は、還元処理に使用した後の還元用薬液(使用済み薬液)中に存在する銅化合物を除去する工程である。
【0027】
上述の通り、還元剤を含有する薬液を使用して還元処理を行った場合、使用済み薬液中には銅化合物(たとえば、酸化処理された銅箔表面の酸化銅が一部脱落したもの)が含まれている。従って、そのままの状態で放置すれば還元剤と銅化合物とが反応し、使用済み薬液中の還元剤の濃度が経時的に減少する(還元用薬液が劣化する)と考えられる。
【0028】
そこで、本実施形態においては、使用済みの還元用薬液中から銅化合物を除去する処理を行う。この処理により、還元剤の濃度の減少を抑制できるため、還元用薬液の寿命を延ばすことが可能となる。銅化合物を除去された還元用薬液は還元処理工程で再利用される。
【0029】
銅化合物を除去する具体的な方法は、ろ過又は遠心分離、及びそれらの組み合わせが可能である。
【0030】
ろ過は、濾紙やフィルターを使用して行うことができる。濾紙は、たとえば、桐山ロート用濾紙(桐山製作所製)を使用することができる。銅化合物の粒径等を考慮し、桐山ロート用濾紙No.4(保留粒子径1μm。桐山製作所製)を使用することが好ましい。フィルターは、市販の様々なフィルターを使用することができる。たとえば、フィルターカートリッジSRL−005(株式会社ロキテクノ製)を使用することが好ましい。なお、濾紙やフィルターは、銅化合物の粒子を捕捉することができれば、上述の濾紙やフィルターに限られない。たとえば、大量の還元用薬液(数トン)をろ過する場合には、その量に合ったフィルター等を用いる。
【0031】
ろ過は1μm以下の濾過精度を有することが好ましい。
【0032】
遠心分離は、遠心分離機を用いて還元用薬液と薬液中に存在する銅化合物を遠心分離する。遠心分離機は、たとえば、テーブルトップ遠心機5420(クボタ商事株式会社製)のような小型サイズのものから、工業用の大型遠心分離機のようなものまで薬液の量に応じて様々なものを使用することができる。遠心分離機は、テーブルトップ遠心機5420(クボタ商事株式会社製)のようなバッチ式でも、横型連続式遠心分離機H−800(株式会社コクサン製)のような連続式でも使用することができる。
【0033】
遠心分離は、2200×g以上の遠心力で行うことが好ましい。
【0034】
また、ろ過と遠心分離を組み合わせてもよい。たとえば、最初に濾紙を用いて使用済み薬液中の銅化合物をろ過し、その後、遠心分離を行って更に銅化合物を除去する。このように、異なる除去方法を組み合わせることにより、使用済み還元用薬液中に存在する銅化合物をより確実に除去することが可能となる。
【0035】
==実施例==
以下の実施例1〜3及び比較例1について、使用済みの還元用薬液中に含まれる銅化合物の量、及び還元用薬液中の還元剤の濃度の経時的な変化を求めた。
【0036】
全ての実施例及び比較例において、銅箔はDR−WS(古河電工株式会社製)を用いた。この銅箔(厚み 18μm)に対して、以下の処理を行い、使用済みの還元用薬液A〜Dを得た。なお、各処理で使用する薬液等は未使用のものを用いている。
【0037】
[アルカリ脱脂処理]
銅箔を、液温50℃、40g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に3分間浸漬した後、水洗を行った。
【0038】
[酸洗浄処理]
アルカリ脱脂処理を行った銅箔を、液温25℃、10重量%の硫酸水溶液に2分間浸漬した後、水洗を行った。
【0039】
[酸化処理]
酸洗浄処理を行った銅箔を、液温85℃の酸化用薬液に2分間浸漬した後、水洗を行った。
酸化用薬液は以下の成分からなる。
・亜塩素酸ナトリウム(NaClO2):90g/L
・リン酸三ナトリウム塩十二水和物(Na3PO4/12H2O):10g/L
・水酸化ナトリウム(NaOH):15g/L
・純水:1Lになる量
【0040】
[還元処理]
酸化処理を行った銅箔を、液温50℃の還元用薬液に2分間浸漬した。なお、還元用薬液に対して0.36m2/Lに相当する量の銅箔を還元処理した。
還元用薬液は以下の成分からなる。
・ジメチルアミンボラン((CH32NHBH3):25g/L
・水酸化ナトリウム(NaOH):5g/L
・純水:1Lになる量
【0041】
[除去処理]
実施例1〜3については、以下の方法により、使用済みの還元用薬液A〜C中から銅化合物を除去する処理を行った。一方、使用済みの還元用薬液Dについては、銅化合物を除去する処理を行なっていない(比較例1に相当)。
【0042】
(実施例1)
実施例1は、還元処理を行った後、桐山ロート用濾紙No.4(保留粒子径1μm。桐山製作所製)を用いて使用済みの還元用薬液Aをろ過した。
【0043】
(実施例2)
実施例2は、還元処理を行った後、フィルターカートリッジSRL−005(株式会社ロキテクノ製)を用いて使用済みの還元用薬液Bをろ過した。
【0044】
(実施例3)
実施例3は、還元処理を行った後、テーブルトップ遠心機5420(クボタ商事株式会社製)を用いて使用済みの還元用薬液Cを遠心分離した後、上澄みを回収した。
【0045】
(使用済みの還元用薬液中に含まれる銅化合物の量)
使用済みの還元用薬液に含まれる銅化合物の濃度を銅元素の濃度として測定した。測定は、使用済みの還元用薬液に60%硝酸を加えて銅化合物を完全に溶解させた後、Agilent 5100 IPC−OES(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。なお、使用済みの還元用薬液A〜Cについては、上述の除去処理を行った後に、銅化合物の濃度を測定した。以下の表1に示す各実施例の銅化合物の量は、比較例1における銅化合物の濃度を100とした場合の比較値である。
【0046】
(還元用薬液中の還元剤の濃度変化)
還元用薬液中の還元剤の濃度変化を求めた。具体的には、まず銅箔を還元処理した直後の還元用薬液A〜D中の還元剤の濃度を自動滴定装置GT−200(株式会社三菱化学アナリテック製)を用い、ヨウ素法の逆滴定により測定し基準値とした。その後、実施例1〜3については上述の除去処理を行った。そして、還元処理を行った日から16日経過後に還元用薬液A〜D中の還元剤の濃度を再度測定し、基準値からの変化率を求めた。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示す銅化合物の量から明らかなように、使用済み還元用薬液に対してろ過や遠心分離を行うことにより、多くの銅化合物を除去できることが分かった。特にフィルターカートリッジを用いた場合(実施例2)、銅化合物をより効率的に除去できることが分かった。
【0049】
また、表1に示す還元剤の濃度変化率から明らかなように、比較例1の使用済み還元用薬液Dに比べ、銅化合物を除去した使用済み還元用薬液A〜C(実施例1〜3)の方が還元剤の濃度変化が少ない(還元剤が減少していない)ことが分かった。
【0050】
本発明の実施形態及び実施例を説明したが、上記実施形態及び実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態や実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。