(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に加工具を装着するマウントを連結するスピンドル軸と、該スピンドル軸を囲繞して該スピンドル軸に向かってエアを噴射させ支持するエアベアリングを形成するケーシングと、を備えるスピンドルユニットであって、
該ケーシングの下端面と該マウントの上面との間の該スピンドル軸の外側面に隙間を備えて該スピンドル軸を囲繞するカバーを備え、
該カバーに形成し該隙間に水を供給する供給路を備え、
該供給路には、
該供給路に水を供給する水供給源と、
該カバーの内側面に形成され、該供給路に供給された水を該スピンドル軸の周囲に回り込ませるリング状の水溜め部と、
該カバーの内周面で該水溜め部よりも下方に配置され、該スピンドル軸の径方向における該隙間の幅を狭めるリングと、が設けられているスピンドルユニット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態の研削装置について説明する。
図1は、本実施の形態の研削装置の斜視図である。なお、本実施の形態の研削装置は、
図1に示すように研削加工専用の装置構成に限定されず、例えば、研削加工、研磨加工、洗浄加工等の一連の加工が全自動で実施されるフルオートタイプの加工装置に組み込まれてもよい。
【0011】
図1に示すように、研削装置1は、多数の研削砥石47を環状に並べた研削ホイール(加工具)46を用いて、チャックテーブル20に保持された板状ワークWを研削するように構成されている。板状ワークWは保護テープTが貼着された状態で研削装置1に搬入され、保護テープTを介してチャックテーブル20に保持される。なお、板状ワークWは、研削対象となる板状部材であればよく、シリコン、ガリウム砒素等の半導体ウェーハでもよいし、セラミック、ガラス、サファイア等の光デバイスウェーハでもよいし、デバイスパターン形成前のアズスライスウェーハでもよい。
【0012】
研削装置1の基台10の上面には、X軸方向に延在する矩形状の開口が形成され、この開口はチャックテーブル20と共に移動可能な移動板11及び蛇腹状の防水カバー12に覆われている。防水カバー12の下方には、チャックテーブル20をX軸方向に移動させるボールねじ式の進退手段(不図示)が設けられている。チャックテーブル20は回転手段(不図示)に連結されており、回転手段の駆動によって回転可能に構成されている。また、チャックテーブル20の上面には、多孔質のポーラス材によって板状ワークWを吸引保持する保持面21が形成されている。
【0013】
基台10上のコラム15には、研削手段40をチャックテーブル20に対して接近及び離反させる方向(Z軸方向)に研削送りする研削送り手段30が設けられている。研削送り手段30は、コラム15に配置されたZ軸方向に平行な一対のガイドレール31と、一対のガイドレール31にスライド可能に設置されたモータ駆動のZ軸テーブル32とを有している。Z軸テーブル32の背面側には図示しないナット部が形成され、これらナット部にボールネジ33が螺合されている。ボールネジ33の一端部に連結された駆動モータ34によりボールネジ33が回転駆動されることで、研削手段40がガイドレール31に沿ってZ軸方向に移動される。
【0014】
研削手段40は、ハウジング41を介してZ軸テーブル32の前面に取り付けられており、スピンドルユニット42で研削ホイール46を高速回転させるように構成されている。スピンドルユニット42は、いわゆるエアスピンドルであり、ケーシング43の内側でエアを介してスピンドル軸44を浮動支持している。スピンドル軸44の先端にはマウント45が連結されており、マウント45には多数の研削砥石47が環状に配設された研削ホイール46が装着されている。研削砥石47は、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドやレジンボンド等の結合剤で固めて形成されている。
【0015】
また、研削手段40の高さ位置はリニアスケール51によって測定されている。リニアスケール51は、Z軸テーブル32に設けた読取部52でガイドレール31の表面に設けたスケール部53の目盛りを読み取ることで、研削手段40の高さ位置を測定している。基台10の上面には、板状ワークWの厚みを測定する厚み測定手段55が設けられている。厚み測定手段55は、チャックテーブル20の保持面21及び板状ワークWの上面に一対の接触子56、57を接触させ、チャックテーブル20の保持面高さと板状ワークWの上面高さの差分から板状ワークWの厚みを測定している。
【0016】
また、研削装置1には、装置各部を統括制御する制御手段50が設けられている。制御手段50は、各種処理を実行するプロセッサやメモリ等により構成される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成される。この研削装置1では、研削水を供給しながら研削ホイール46の研削砥石47で板状ワークWの上面を削り取ることで薄化している。このとき、制御手段50は、リニアスケール51で測定した研削手段40の高さ位置と厚み測定手段55で測定した板状ワークWの厚みとに基づいて、研削手段40の研削送り量を高精度に制御している。
【0017】
ところで、
図2Aに示すように、比較例の研削装置ではスピンドルユニット81としてエアスピンドルが使用されており、ケーシング82内で噴射したエアがケーシング82とスピンドル軸83の隙間から外部に排出される。このため、ケーシング82とスピンドル軸83の隙間から研削水等が入り込まないように、ケーシング82の下部にはスピンドル軸83の外側面を覆うカバー84が設けられている。しかしながら、スピンドル軸83とカバー84には僅かな隙間が存在するため、研削水がカバー84に接触すると毛細管現象等によってカバー84の内側に研削屑を含む研削水が入り込んでしまう。
【0018】
この場合、
図2Bに示すように、スピンドル軸83とカバー84の隙間からのエア排気量を増やすことで、隙間内に研削水が入り込むことを防止することも考えられる。しかしながら、エア排気量の増加によってカバー84の下縁周辺に乱流が生じて、カバー84の下縁にゴミ86が堆積するという問題があった。エア排気量を抑えると、カバー84内への研削水の進入を抑えることができないため、研削水が乾燥するとスピンドル軸83とカバー84の隙間が研削屑で埋められて、研削屑が固まることでスピンドル軸83が齧って回転不能になる恐れがあった。
【0019】
そこで、
図1に示すように、本実施の形態の研削装置1では、ケーシング43の下端とマウント45の上面との間で外部に露出するスピンドル軸44の外側面に対して隙間を空けて、スピンドルカバー(カバー)60でスピンドル軸44を囲繞するようにしている。また、スピンドル軸44の外側面とスピンドルカバー60の内側面の隙間を水で埋めて、研削屑を含む研削水の進入を抑えている。スピンドルカバー60の内側に水が保持されているため、隙間内に研削水が入り込んだとしても乾燥によって研削屑が固まることがなく、スピンドル軸44の齧りを効果的に防止することが可能になっている。
【0020】
以下、
図3及び
図4を参照して、本実施の形態のスピンドルユニットについて説明する。
図3は、本実施の形態のスピンドルユニットの断面模式図である。
図4は、本実施の形態のスピンドルカバーの斜視図である。
【0021】
図3に示すように、スピンドルユニット42は、直立姿勢のスピンドル軸44をケーシング43で囲繞して、スピンドル軸44に対してケーシング43からエアを噴出させて、スピンドル軸44を回転可能に支持するエアベアリングを形成している。スピンドル軸44の先端には研削ホイール46を装着したマウント45が連結され、スピンドル軸44の後端には回転駆動源のモータ71が連結されている。モータ71は、スピンドル軸44の上端部分に設けられたロータ72と、冷却ジャケット74を介してケーシング43の内周面に設けられたステータ73とで構成されている。冷却ジャケット74内には多数の冷却水路75が形成されており、冷却水路75によってモータ71の発熱が抑えられている。
【0022】
スピンドル軸44の下端部分及び中間部分には大径の円板部76、77が形成され、ケーシング43の下端部分には円板部76、77の間に入り込むように環状部78が形成されている。この場合、スピンドル軸44の円板部76、77とケーシング43の環状部78の間には、エアの通り路になる僅かな隙間が設けられている。環状部78の外面には多数の噴射口79が形成されており、各噴射口79は環状部78内の流路を通じてエア供給源80に接続されている。環状部78の多数の噴射口79からスピンドル軸44の外面に噴射されることで、スピンドル軸44がケーシング43に対してエアを介して浮動支持される。
【0023】
このとき、ケーシング43の環状部78によってエアを介して広い面積でスピンドル軸44の円板部76、77が浮動支持されているため、スピンドル軸44に対してスラスト方向に作用する加工負荷が分散されている。また、スピンドル軸44とケーシング43内のエアは、モータ71を空冷しながらスピンドルユニット42の上方から排気されると共に、ケーシング43の下端に設けられた円筒状のスピンドルカバー60の排気口61から排気される。スピンドルカバー60によってケーシング43の下端から突出したスピンドル軸44(円板部77)が囲繞されているため、研削水がケーシング43内に入り込み難くなっている。
【0024】
図3及び
図4に示すように、スピンドルカバー60の側壁には、スピンドル軸44とスピンドルカバー60の隙間に水を供給する供給路62が形成されている。供給路62には可変絞り弁67及び開閉弁68を介して水供給源69が接続されており、可変絞り弁67によって水供給源69からの水の供給量が調整され、開閉弁68のよって水供給源69による水の供給及び停止が切り替えられる。スピンドルカバー60の内側面には、供給路62に連なるリング状の水溜め部63が形成されている。水溜め部63は、スピンドルカバー60の内側面全周に亘って形成され、供給路62から供給された水をスピンドル軸44の周囲に回り込ませている。
【0025】
スピンドルカバー60の内周面の下端には、水溜め部63から溢れた水を受け止めるゴムリング64が取り付けられている。ゴムリング64の内側面は、下方に向かってスピンドル軸44(円板部77)の外側面との隙間を狭めるように傾斜しており、スピンドルカバー60の下端からの水の流出を最小限に抑えている。このため、水溜め部63から溢れた水がスピンドルカバー60の内側面を伝って流れ落ちると、ゴムリング64によって水の流れが部分的に堰き止められる。この水の流れの部分的な堰き止めを切っ掛けにしてスピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に水が溜まり始める。
【0026】
スピンドルカバー60とスピンドル軸44(円板部77)の隙間が水で埋まることで、研削屑を含む研削水のスピンドルカバー60内への進入が防止されている。このとき、水がエアベアリング側に入り込まず、水が研削屑の進入を抑えるのに十分な奥行き(厚み)を持つように水の供給量(例えば、0.1〜0.5[l/min])が調整されている。なお、上記したように、スピンドルカバー60の上端側の排気口61からエアが排気されているため、スピンドルカバー60内に溜まった水がエアによって押し出されることがない。
【0027】
このように、研削中は、スピンドルカバー60とスピンドル軸44(円板部77)の隙間が水で満たされているため、スピンドルカバー60内への研削屑を含む研削水の進入が抑えられ、さらに研削屑が進入したとしても研削屑が乾燥することがない。スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に入り込んだ研削屑が固まることがないため、スピンドル軸44の齧りを防止することが可能になっている。研削終了後は、スピンドルカバー60への水の供給が停止されるが、スピンドルカバー60内への研削屑の進入量が最小限に抑えられているため、研削屑が乾燥して固まってもスピンドル軸44を齧らせることがない。
【0028】
続いて、
図5を参照して、スピンドルカバーに対する水の供給について説明する。
図5は、本実施の形態のスピンドルカバーに対する水の供給状態の説明図である。
図5Aはスピンドルカバーに水が溜まっていない状態、
図5Bはスピンドルカバーに水が溜まり始めた状態、
図5Cはスピンドルカバーに水が十分に溜まった状態をそれぞれ示している。
【0029】
図5Aに示すように、研削の開始時には開閉弁68が開かれて水供給源69から可変絞り弁67を通じてスピンドルカバー60の供給路62に水が供給され始める。供給路62内の水が、スピンドルカバー60の内側面全周に形成されたリング状の水溜め部63に流れ込み、水溜め部63を通ってスピンドル軸44を回り込む。このように、水溜め部63によって一時的に水が貯留されることで、スピンドルカバー60の全周に水を行き渡らせることができ、スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に全周から水を供給することが可能になっている。
【0030】
図5Bに示すように、水溜め部63から溢れ出た水がスピンドルカバー60の内側面を伝って流れ落ち、スピンドルカバー60の下端でゴムリング64によって受け止められる。ゴムリング64によってスピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間が狭められているため、水の流れがゴムリング64によって部分的に堰き止められる。ゴムリング64とスピンドル軸44の僅かな隙間から水が流出しているが、スピンドルカバー60からの水の流出量よりもスピンドルカバー60への水の供給量が多いため、スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に徐々に水が溜まり始める。
【0031】
図5Cに示すように、スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に十分な水が溜まると、所定の水位になるようにスピンドルカバー60に対する水の供給量が調整される。スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間が水で満たされることで、研削屑を含む研削水Lがスピンドルカバー60内に入り込み難くなっている。すなわち、ゴムリング64によってスピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間が狭められ、さらにゴムリング64とスピンドル軸44の隙間から水が流出することで、スピンドルカバー60内に入り込もうとする研削水が押し戻される。
【0032】
また、毛細管現象等でスピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間に研削屑が入り込んでも、水で満たされた隙間内で研削屑が乾燥して固まることがない。すなわち、研削屑がスピンドルカバー60の内側面やスピンドル軸44の外側面に付着して固まることがなく、再び外部に研削屑を排出させることができる。さらに、エアスピンドルのエアの排気に抗して、隙間に入り込んだ研削屑がエアスピンドル側に向おうとしても、水溜め部63によって水と共に研削屑が途中で捉えられる。このように、スピンドルカバー60内に研削屑が入り込んでもエアスピンドルまで研削屑が到達し難くなっている。
【0033】
以上のように、本実施の形態のスピンドルユニット42によれば、ケーシング43の下端面から突出したスピンドル軸44がスピンドルカバー60に囲繞されるため、研削時に発生した研削屑等がケーシング43内に入り込み難くなっている。また、スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間が水で埋められ、水によってスピンドルカバー60の内側への研削屑の進入が抑えられている。スピンドルカバー60の内側が水で満たされているため、スピンドルカバー60の内側に研削屑が入り込んでも研削屑が乾燥して固まることがない。よって、研削屑によるスピンドル軸44の齧りを効果的に防止することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、研削装置1のスピンドルユニット42について説明したが、この構成に限定されない。スピンドルユニットはスピンドルカバーの内側に水を供給することができる構成であればよく、例えば研磨装置のスピンドルユニットでもよい。この場合、スピンドルユニットには加工具として研削ホイールの代わりに研磨パッドが装着される。
【0035】
また、本実施の形態では、スピンドルカバー60の内側面にリング状の水溜め部63が形成される構成にしたが、この構成に限定されない。スピンドルカバー60の内側面には水溜め部63が形成されていなくてもよい。
【0036】
また、本実施の形態では、スピンドルカバー60の内側面にゴムリング64が取り付けられる構成にしたが、この構成に限定されない。スピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間を水で満たすことができる構成であればよく、例えば、ゴムリング64を設けずに、スピンドルカバー60に対する水の供給量を増やしてスピンドルカバー60とスピンドル軸44の隙間を水で満たすようにしてもよい。
【0037】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0038】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0039】
また、本実施の形態では、本発明を研削装置に適用した構成について説明したが、カバーとスピンドル軸の隙間を水で満たして加工屑の進入を抑え、スピンドル軸の齧りを防止することができる加工装置に適用することも可能である。