(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属成分全体に対して、Al、Si、Ga、MoおよびWのうち1種以上を合計で0.005原子%〜4.000原子%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物ターゲット材。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)で駆動する方式の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置では、TFTのチャネル層に非晶質シリコン膜や結晶質シリコン膜を採用したものが主流である。そして、ディスプレイの高精細化の要求に伴い、TFTのチャネル層に使用される材料として酸化物半導体が注目されている。例えば、In(インジウム)とGa(ガリウム)とZn(亜鉛)とO(酸素)とを含む酸化物半導体膜(以下、「I−G−Z−O薄膜」という。)は、優れたTFT特性を有するとして実用化が開始されている。このI−G−Z−Oの薄膜に含まれるInやGaは、日本ではレアメタル備蓄対象鋼種に指定される希少かつ高価な金属である。
【0003】
そこで、上記I−G−Z−O薄膜に含まれるInやGaを含有しない酸化物半導体膜として、Zn−Sn−O系酸化物半導体膜(以下、「ZTO薄膜」という。)が注目されつつある。そして、このZTO薄膜は、ターゲットを用いたスパッタリング法によって成膜される。このスパッタリング法とは、イオンや原子またはクラスターをターゲット表面に衝突させて、その物質の表面を削る(あるいは飛ばす)ことにより、その物質を構成する成分を基板などの表面上に堆積させて成膜する方法である。
【0004】
ここで、ZTO薄膜は、酸素を含有する薄膜であるため、スパッタリング法においては酸素を含有した雰囲気で成膜するいわゆる反応性スパッタリング法が用いられている。この反応性スパッタリング法とは、アルゴンガスと酸素ガスで構成される混合ガスの雰囲気下でスパッタリングする方法で、イオンや原子またはクラスターを酸素と反応させながらスパッタリングすることで、酸化物系の薄膜を形成するという手法である。
【0005】
そして、この反応性スパッタリング法に用いるターゲット材は、上記ZTO薄膜の成分組成に近似した成分組成を有するZTO系酸化物焼結体からなるターゲット材が用いられる。例えば、特許文献1には、黒鉛からなる型に原料粉末を入れて、パンチで加圧してから昇温し、放電プラズマ焼結を行ない、錫酸亜鉛化合物相(以下、Zn
2SnO
4相という。)と金属錫相(以下、金属Sn相という。)とから主として構成された酸化物焼結体を得て、酸化物ターゲット材にする方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の検討によると、上述した特許文献1で開示される放電プラズマ焼結法で製造して、金属Sn相が酸化物焼結体中に分散した酸化物ターゲット材を用いてZTO薄膜を成膜すると、酸化物ターゲット材の表面に粗大なノジュールが発生する場合があることを確認した。そして、このノジュールが発生すると、継続されるスパッタリングの際にスパッタレートの変動を伴う上、異常放電の発生や微細なパーティクルが生成されてしまい、均一なZTO薄膜を得ることが困難になるという問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、ノジュールの発生が抑制可能で、スパッタリングの際に、異常放電が発生しにくく、パーティクルの生成が抑制され、均一なZTO薄膜を得ることができる酸化物ターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を検討した結果、酸化物ターゲット材に含まれる金属Sn相の存在状態がノジュールの発生に影響を及ぼすことを突き止めた。そして、この金属Sn相を所定のサイズ以下にすることで、ノジュールの発生を抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の酸化物ターゲット材は、金属成分全体に対して、Snを20原子%〜50原子%含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、10000μm
2当たりで、2.0μm以上の円相当径を有する金属Sn相が1個未満である。
【0011】
本発明の酸化物ターゲット材は、0.1μm以上2.0μm未満の円相当径を有する金属Sn相が10個以下であることが好ましい。
また、本発明の酸化物ターゲット材は、金属成分全体に対して、Al、Si、Ga、MoおよびWのうち1種以上を合計で0.005原子%〜4.000原子%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化物ターゲット材は、異常放電やスパッタレートの変動に影響を及ぼす粗大なノジュールの発生を抑制できる。このノジュールの発生を抑制することにより、スパッタリング時に、微細なパーティクルの発生が抑制され、均一なZTO薄膜を得ることができる。これにより、本発明は、大型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの製造工程におけるTFTのチャネル層の形成に有用な技術となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したように、ZTO薄膜は、アルゴンガスと酸素ガスで構成される混合ガスの雰囲気下で酸化物ターゲット材を用いてスパッタリングして得られる。ここで、酸化物ターゲット材は、高い投入電力による連続スパッタに伴い、大凡300℃以上に加熱された状態で連続使用されるため、高い熱負荷を受ける。このため、酸化物ターゲット材中に粗大な金属Sn相が存在すると、これが溶融してしまい、パーティクルを誘発するノジュールを形成してしまう。
本発明の酸化物ターゲット材は、10000μm
2という単位面積当たりで、2.0μm以上の円相当径を有する金属Sn相が1個未満であることに特徴を有する。これにより、本発明の酸化物ターゲット材は、スパッタリング時の酸化物ターゲット材自身の高温加熱に伴う高い熱負荷を受けても、酸化物ターゲット材に存在する金属Sn相が極限まで低減されているため、金属Snの溶融が抑制され、スパッタ面に粗大なノジュールが形成されることを防止できる。
より微細なノジュールを抑制するためには、0.1μm以上2.0μm未満の円相当径を有する金属Sn相を10個以下にすることが好ましい。そして、上記と同様の理由から、本発明の酸化物ターゲット材は、実質的に金属Sn相を含有しないことがより好ましい。
ここで、本発明でいう金属Sn相の円相当径は、酸化物ターゲット材のスパッタ面の任意の3視野において、走査型電子顕微鏡により反射電子像の白色で示される金属Sn相を撮影し、その画像を画像解析ソフト(例えば、OLYMPUS SOFT IMAGING SOLUTIONS GMBH社製の「Scandium」)を用いて測定することができる。
【0015】
本発明の酸化物ターゲット材は、金属成分全体に対して、Snを20原子%〜50原子%含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成を有する。そして、本発明の酸化物ターゲット材は、Sn量を20原子%以上とすることにより、Zn量の比率即ちZnOを減らし、ZnOが蒸発することにより発生する空孔を抑制し、酸化物ターゲット材の密度を向上させることができる。一方、Sn量を50原子%以下とすることにより、SnO
2が過剰となることを抑制し、ノジュールの発生を抑制することができる。尚、Sn量は、20原子%〜40原子%が好ましく、25原子%〜35原子%がより好ましい。
また、本発明の酸化物ターゲット材は、Zn量を50原子%以上とすることにより、Snの比率即ちSnO
2を減らし、SnO
2が過剰となることを抑制し、ノジュールの発生を抑制することができる。一方、Zn量を80原子%以下とすることにより、蒸気圧の高いZnOが蒸発することにより発生する空孔を抑制し、酸化物ターゲット材の密度を向上させることができる。尚、Zn量は、60原子%〜80原子%が好ましく、65原子%〜75原子%がより好ましい。
また、本発明の酸化物ターゲット材は、金属成分全体に対して、Al、Si、Ga、MoおよびWのうち1種以上を合計で0.005原子%〜4.000原子%含有することが好ましい。
これら元素のうち、Al、Ga、Mo、Wは、キャリアの移動度の制御や光劣化を防止するのに有用な元素である。また、Siは、焼結性の向上に有用な元素である。
【0016】
以下に、本発明の酸化物ターゲット材の製造方法の例を説明する。本発明の酸化物ターゲット材は、例えば、ZnO粉末とSnO
2粉末を純水、分散剤と混合してスラリーとし、このスラリーを乾燥させた後、造粒粉を作製し、その造粒粉を仮焼して仮焼粉末(Zn
2SnO
4)を作製する。そして、その仮焼粉末を湿式解砕した後、鋳込み成形により成形体を作製し、脱脂を経て、大気雰囲気で焼成することで得ることができる。
上記の仮焼粉末を作製するための造粒粉の仮焼温度は、1000℃〜1200℃に設定することが好ましい。仮焼温度を1000℃以上にすることで、ZnO粉末とSnO
2粉末の反応を十分に進行させることができる。一方、仮焼温度を1200℃以下にすることで、ZnO粉末とSnO
2粉末の過度な反応が抑制できるとともに、適度な粉末粒径を維持することができ、これにより緻密な酸化物ターゲット材を得ることができる。
【0017】
大気雰囲気における焼成温度は、1300℃〜1450℃に設定することが好ましい。焼成温度を1300℃以上にすることで、焼結を促進させることができ、緻密な酸化物ターゲット材を得ることができる。一方、焼成温度を1450℃以下にすることで、ZnO粉末が蒸発することに加え、金属Sn相の粒成長を抑制することができ、10000μm
2当たりで、2.0μm以上の円相当径を有する金属Sn相が1個未満の酸化物ターゲット材を得ることができる。そして、本発明では、上記と同様の理由から、焼成温度は1350℃〜1400℃の範囲にすることがより好ましい。
【0018】
焼成温度での保持時間は、長くするほど、焼成による緻密化が進む反面、15時間を超えると、金属Sn相の粒成長を助長し、2.0μm以上の円相当径を有する金属Sn相が形成されてしまい、スパッタリング時に粗大なノジュールが出やすくなる。このため、本発明の酸化物ターゲット材を得るためには、焼成温度での保持時間を15時間以下にすることが好ましい。そして、本発明では、上記と同様の理由から、保持時間は5時間〜10時間の範囲にすることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の酸化物ターゲット材は、上記と同様な方法で得られた仮焼粉末を解砕、造粒、脱脂して造粒粉を作製し、この造粒粉を加圧焼結することで得ることもできる。加圧焼結する手段としては、ホットプレス、熱間静水圧プレスなどの方法を適用することができる。
加圧焼結における焼結温度は、900℃〜1100℃に設定することが好ましい。焼結温度を900℃以上にすることで、焼結を促進させることができ、緻密な酸化物ターゲット材を得ることができる。一方、焼結温度を1100℃以下にすることで、SnO
2粉末が加圧焼結用部材と反応する還元反応を抑制することに加え、金属Sn相の粒成長を抑制することができ、10000μm
2当たりで、2.0μm以上の円相当径を有する金属Sn相が1個未満の酸化物ターゲット材を得ることができる。
加圧焼結の加圧力は、10MPa〜30MPaに設定することが好ましい。加圧力を10MPa以上とすることで、緻密な酸化物ターゲット材を得ることができる。一方、加圧力を30MPa以下にすることで、加圧焼結用部材の割れや、得られる酸化物ターゲット材の割れを防止することができる。
加圧焼結の焼結時間は、3時間〜15時間に設定することが好ましい。焼結時間を3時間以上にすることで、焼結を十分に進行させることができ、緻密な酸化物ターゲット材を得ることができる。一方、焼結時間を15時間以下にすることで、製造効率の低下を抑制できる。
【実施例】
【0020】
先ず、金属成分全体に対してSnが30原子%となるように、平均粒径(累積粒度分布のD50)が0.70μmのZnO粉末と、平均粒径(累積粒度分布のD50)が1.85μmのSnO
2粉末を秤量して、所定量の純水と分散剤の入った撹拌容器内に投入後、混合してスラリーを得た。このスラリーを乾燥、造粒させた後、1090℃で仮焼成し、仮焼粉末を得た。仮焼粉末は、湿式解砕により平均粒径(累積粒度分布のD50)が1μmになるように粒度調整した。
仮焼粉末を湿式解砕した後、鋳込み成形により、厚さ10mm×直径125mmの成形体を得た。
次に、得られた成形体を1400℃、10時間、大気雰囲気で焼成し、次いで、1400℃、4時間、窒素雰囲気で常圧の還元熱処理を行ない、酸化物焼結体を得た。そして、この焼結体に機械加工をして、厚さ5mm×直径50mmの本発明例1となる酸化物ターゲット材を得た。
【0021】
また、上記で得た仮焼粉末を解砕、造粒、脱脂して造粒粉を作製し、この造粒粉をカーボン製の加圧容器に充填し、ホットプレス装置の炉体内部に設置して、970℃、20MPa、12時間の条件で加圧焼結を実施して酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体を、ダイヤモンド砥石を用いて平面研削による板厚加工を実施した後、ウォータージェット切断機を用いて、厚さ5mm×直径50mmの本発明例2となる酸化物ターゲット材を作製した。
【0022】
また、上記で得た仮焼粉末を解砕、造粒、脱脂して造粒粉を作製し、この造粒粉をカーボン製の加圧容器に充填し、放電プラズマ焼結装置の炉体内部に設置して、950℃、40MPa、12時間の条件で加圧焼結を実施し、加圧焼結後にカーボン製の加圧容器から取り出し、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体を、ダイヤモンド砥石を用いて平面研削による板厚加工を実施した後、ウォータージェット切断機を用いて、厚さ5mm×直径50mmの比較例となる酸化物ターゲット材を作製した。
【0023】
上記で得た各酸化物焼結体から、10mm×10mm×10mmの電子顕微鏡観察用試料を切り出し、試料表面の鏡面研磨を行なってから観察した。そして、各焼結体の表面を走査型電子顕微鏡の反射電子像で、任意の視野のうち、10000μm
2となる視野を3視野観察し、各視野内に存在する金属Sn相の有無と、その金属Sn相の円相当径を測定し、2.0μm以上の金属Sn相、および0.1μm以上2.0μm未満の金属Sn相の個数を計測し、3視野の個数の平均値を得た。その結果を表1に示す。また、各焼結体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を
図1〜
図3に示す。
表1、
図1および
図2の結果から、本発明の酸化物ターゲット材は、Zn
2SnO
4相1とZnO相2からなり、円相当径が2.0μm以上の金属Sn相はなく、また、
図2の白色部で示されるように、円相当径が0.1μm以上2.0μm未満の金属Sn相3は10個以下であることが確認できた。
一方、比較例の酸化物ターゲット材は、Zn
2SnO
4相1とZnO相2の他に、
図3の白色部で示されるように、円相当径が2.0μm以上の金属Sn相3が2個存在していることに加え、円相当径が0.1μm以上2.0μm未満の金属Sn相は10個を超えていた。
【0024】
【表1】
【0025】
次に、各酸化物ターゲット材を用いてスパッタテストを実施した。スパッタリングは、Ar、0.5Pa、DC電力300Wの条件で実施した。尚、今回は、酸化物ターゲット材自体の評価をするために、反応性スパッタではなく、Ar雰囲気でスパッタを実施した。そして、スパッタテスト後の各酸化物ターゲット材の表面を光学顕微鏡で観察した。その結果を
図4〜
図6に示す。また、円相当径が500.0μm以上のノジュールの個数を表2に示す。
比較例の酸化物ターゲット材は、
図6および表2に示すように、異常放電の起点やパーティクルの発生原因となる、円相当径が500.0μm以上の粗大なノジュールが確認された。
一方、本発明の酸化物ターゲット材は、
図4、
図5および表2に示すように、比較例で見られた円相当径が500.0μm以上の粗大なノジュールは一切確認されず、ノジュールの発生が大幅に低減されており、本発明の有効性が確認できた。本発明の酸化物ターゲット材によれば、これを用いたスパッタリング時に、微細なパーティクルの発生を抑制することができる。
【0026】
【表2】