(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物>>
本発明の電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物(以下、本発明の樹脂組成物ということがある)は、密度が0.900〜0.935g/cm
3であり、メルトフローレート(190℃、21.18N)が10g/10分以下であるポリエチレン樹脂(a1)20〜70質量%と、エチレン−αオレフィン共重合体およびエチレン単独重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体の樹脂であって、密度が0.940〜0.965g/cm
3であり、メルトフローレート(190℃、21.18N)が0.2〜10g/10分である樹脂(a2)20〜75質量%と、ポリプロピレン系樹脂(a3)3〜25質量%とを含有する。これら成分を含有する本発明の樹脂組成物は、メルトフローレート(190℃、21.18N)が0.61〜5.0g/10分の範囲にある。
【0012】
本発明に用いる各成分について説明する。
なお、各成分および本発明の樹脂組成物において、密度、MFR(190℃、21.18N)等の測定方法は、実施例にて、詳細に説明する。
【0013】
<(a1)ポリエチレン樹脂>
本発明に用いるポリエチレン樹脂(a1)は、密度およびMFRが所定のものであれば特に限定されず、例えば、エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。
【0014】
上記共重合体において、エチレン構成成分の含有率は、特に限定されないが、形状維持性の点で、共重合体の全構成成分中、50〜99.9質量%が好ましく、75〜99.9質量%がより好ましい。エチレン構成成分の含有率は、例えば赤外分光光度法によって、求めることができる。
【0015】
ポリエチレン樹脂(a1)としては、特に限定されないが、例えば、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、メタロセン触媒存在下に合成されたポリエチレン樹脂等が挙げられる。メタロセン触媒存在下に合成されたポリエチレン樹脂は、メタロセン触媒存在下で、エチレンおよびα−オレフィンを共重合させた樹脂である。ポリエチレン樹脂(a1)としては、引張強度や環境応力き裂(ESCR)の点で、LLDPEまたはメタロセン触媒存在下に合成されたポリエチレン樹脂が好ましい。
【0016】
ポリエチレン樹脂(a1)の密度は、0.900〜0.935g/cm
3であり、好ましくは0.910〜0.925g/cm
3であり、さらに好ましくは0.912〜0.923g/cm
3である。密度が小さすぎると被覆に高い耐摩耗性を付与できないことがある。一方、密度が大きすぎると押出性に劣るものとなる。また、密度が上記範囲にあると、電線等に、バランスに優れた柔軟性と耐摩耗性とを付与でき、さらに低温衝撃性も付与することができる。
【0017】
ポリエチレン樹脂(a1)のMFR(190℃、21.18N)は、10g/10分以下であり、好ましくは1.0〜5.0g/10分、さらに好ましくは1.0〜3.0g/10分である。MFRが10g/10分を超えると、押出成形後に電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物の形状が崩れて、形状維持性が低下する。特に、後述する、異形電線・ケーブル、大径厚肉電線・ケーブル、または、自己支持型の電線・ケーブル等を製造する場合に、その断面形状が崩れやすくなる。
【0018】
ポリエチレン樹脂(a1)は、上記の密度およびMFRを満たす市販品を用いてもよく、適宜、常法に基づいて合成して用いてもよい。
市販品としては、例えば、「カーネル」(商品名、日本ポリエチレン社製)、「エボリュー」(商品名、プライムポリマー社製)、「モアテック」(商品名、プライムポリマー社製)、「NUC」(商品名、日本ユニカー社製)、「ノバテック」(商品名、日本ポリエチレン社製)等を挙げることができる。
【0019】
ポリエチレン樹脂(a1)を合成する場合は、エチレンおよびα−オレフィンを、例えば、気相重合装置または液相重合装置を用いて、チーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒存在下で、共重合させる。このとき、密度は、例えば、α−オレフィンの種類や導入量等によって、所定の範囲に設定できる。また、MFRは、例えば、平均分子量等によって、所定の範囲に設定できる。
【0020】
ポリエチレン樹脂(a1)は、通常、溶融粘度が小さく、特に異形電線・ケーブル等を製造する場合には形状維持性に劣る。しかし、ポリエチレン樹脂(a1)を、後述する範囲の含有率の樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)と併用し、かつ、ポリエチレン樹脂(a1)の、本発明の樹脂組成物中の含有率を20〜70質量%にすると、形状維持性が改善され、しかも、優れた押出性を有し、高い耐摩耗性と優れた外観の被覆を形成できる樹脂組成物となる。しかも、上記の優れた、押出性、形状維持性および外観は、押出成形での線速を例えば100m/min程度まで高めても、得られる。ポリエチレン樹脂(a1)の含有率が20質量%未満であると、押出成形機への負荷が増大し、特に線速を高めると押出成形できないことがある。一方、70質量%を超えると、耐摩耗性に劣るものとなる。
ポリエチレン樹脂(a1)の含有率は、押出性および形状維持性を両立し、被覆に高い耐摩耗性と優れた外観を付与できる点で、40〜67質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
ポリエチレン樹脂(a1)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、MFR、好ましくは密度を、共重合体それぞれが満たしているのがよいが、2種以上の共重合体のブレンド物が全体として満たしていてもよい。
【0022】
<樹脂(a2)>
本発明に用いる樹脂(a2)は、エチレン−αオレフィン共重合体およびエチレン単独重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体の樹脂である。エチレン−αオレフィン共重合体は、密度およびMFRが所定のものであれば特に限定されず、例えば、エチレンと炭素数4〜12のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。
【0023】
エチレン−αオレフィン共重合体において、エチレン構成成分の含有率は、特に限定されないが、強度特性や形状維持性の点で、共重合体の全構成成分中、95質量%以上が好ましく、97〜100質量%がより好ましい。エチレン構成成分の含有率は上記方法で求めることができる。
樹脂(a2)は、エチレン単独重合体、および、エチレン−αオレフィン共重合体の樹脂のなかでも、エチレン単独重合体の樹脂が好ましい。
【0024】
樹脂(a2)としては、特に限定されないが、例えば、HDPE(高密度ポリエチレン)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。なかでも、HDPEが好ましい。
樹脂(a2)の密度は、0.940〜0.965g/cm
3であり、好ましくは0.945〜0.960g/cm
3であり、さらに好ましくは0.948〜0.958g/cm
3である。密度が小さすぎると機械的強度や耐摩耗性が維持できないことがある。一方、密度が大きすぎると押出性に劣るものとなる。
【0025】
樹脂(a2)のMFR(190℃、21.18N)は、0.2〜10g/10分未満であり、好ましくは0.8〜5g/10分であり、さらに好ましくは0.8〜3g/10分である。MFRが0.2g/10分未満であると、押出成形機にかかるモーター負荷が高くなり、押出成形性に劣る。特に押出成形での線速を高めると押出成形性が大幅に低下する(高速成形性に劣る)。一方、10g/10分を超えると、押出成形後に電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物がドローダウンして、形状維持性が低下する。
【0026】
上記範囲の密度およびMFRを有する樹脂(a2)は、上記の特性を満たす市販品を用いてもよく、適宜、常法に基づいて合成して用いてもよい。
エチレン―αオレフィン共重合体の樹脂の市販品としては、例えば、「エボリューH」(商品名、プライムポリマー社製)、「SURPASS」(商品名、NOVAケミカルズ社製)等を挙げることができる。
エチレン単独重合体の樹脂の市販品としては、例えば、「ハイゼックス」(商品名、プライムポリマー社製)、「ニポロンハード」(商品名、東ソー社製)、「ノバテック」(商品名、日本ポリエチレン社製)等を挙げることができる。
【0027】
樹脂(a2)を合成する場合は、エチレン、所望によりα−オレフィンを、例えば、チーグラー・ナッタ触媒を用いた低圧法、または、中圧法等により、重合または共重合させる。このとき、密度およびMFRは、ポリエチレン樹脂(a1)と同様にして、所定の範囲に設定できる。
【0028】
樹脂(a2)の、本発明の樹脂組成物中の含有率は、20〜75質量%である。この含有率が20質量%未満であると、耐摩耗性に劣るものとなる。一方、75質量%を超えると、押出成形機への負荷が増大し、特に線速を高めると押出成形できないことがある。
樹脂(a2)の含有率は、形状維持性を低下させることなく、押出成形機への負荷を低減できる点で、30〜57質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
樹脂(a2)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、それぞれが密度およびMFRを満たしているのがよいが、2種以上のポリエチレンブレンド物が全体として密度およびMFRを満たしていてもよい。
【0030】
<(a3)ポリプロピレン系樹脂>
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂(a3)を用いる。ポリエチレン樹脂(a1)および樹脂(a2)にポリプロピレン系樹脂を特定量含有させることにより、ポリエチレン樹脂(a1)および樹脂(a2)の特性を維持しつつ、優れた外観を被覆に付与できる。
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂(a3)は、特に限定されず、プロピレン単独重合体の樹脂(ホモポリプロピレン樹脂)や、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体の樹脂、エチレン−プロピレンブロック共重合体の樹脂等を用いることができる。ここで、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体の樹脂は、αオレフィン構成成分の含有率が1〜10質量%程度のものをいい、αオレフィン構成成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、エチレン−プロピレンブロック共重合体は、ポリエチレンやエチレン―プロピレンゴム(EPR)の含有率が5〜20質量%程度のものをいい、ポリプロピレンの中にポリエチレンやEPRが独立して存在する海島構造であるものをいう。
プロピレン−αオレフィンランダム共重合体としては、特に限定されず、例えば、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンと1−ブテンとの共重合体、プロピレンとエチレンと1−ブテンとの3元共重合体等が挙げられる。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂(a3)としては、押出成形後の外観の点で、プロピレン単独重合体の樹脂またはプロピレン−αオレフィンランダム共重合体の樹脂が好ましく、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンと1−ブテンとの共重合体、プロピレンとエチレンと1−ブテンとの3元共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体の樹脂がさらに好ましい。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂(a3)の密度は、特に限定されず、例えば、0.900〜0.920g/cm
3が好ましい。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂(a3)のMFR(230℃、21.18N)は、特に限定されず、例えば、好ましくは0.5〜50g/10分であり、より好ましくは0.5〜30g/10分であり、さらに好ましくは0.5〜10g/10分である。このようなMFR値を有するポリプロピレン系樹脂を用いることにより、本発明に使用可能な、ポリエチレン樹脂(a1)およびと樹脂(a2)両者の分子量分布を広げることができ、電線等の外観を向上させることができる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂(a3)は、上記の特性を満たす市販品を用いてもよく、適宜、常法に基づいて合成して用いてもよい。
市販品としては、例えば、「サンアロマーPP」(商品名、サンアロマー社製)、「プライムポリプロ」(商品名、プライムポリマー社製)、「ノバテックPP」(商品名、日本ポリプロ社製)等を挙げることができる。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂を合成する場合は、プロピレン、所望によりα−オレフィンを、例えば、気相重合装置または液相重合装置を用いて、各種触媒の存在下で、共重合させる。このとき、密度およびMFRは、ポリエチレン樹脂(a1)と同様にして、所定の範囲に設定できる。
【0036】
ポリプロピレン系樹脂(a3)の、本発明の樹脂組成物中の含有率は、3〜25質量%であり、好ましくは5〜15質量%である。この含有率が3質量%未満であると、耐摩耗性および外観に劣るものとなる。一方、25質量%を超えると、押出成形機への負荷が増大し、特に線速を高めると押出成形できないことがある。また、柔軟性が損なわれ、耐寒性や耐候性にも劣る電線等(被覆)となる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(a3)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、それぞれが密度およびMFRを満たしているのがよいが、2種以上のポリプロピレン系樹脂のブレンド物が全体として密度およびMFRを満たしていてもよい。
【0038】
<(b)カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラック(b)としては、その種類は特に限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック等の補強用カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック等が挙げられる。なかでも、ファーネスブラックが好ましい。
カーボンブラック(b)の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは10〜500nmである。
カーボンブラック(b)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
カーボンブラック(b)としては、例えば、「旭カーボン」、「SUNBLACK」(商品名、いずれも旭カーボン社製)等を挙げることができる。
【0039】
カーボンブラック(b)の、本発明の樹脂組成物中の含有量は、特に限定されない。例えば、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)の合計100質量部に対して、1.5〜5.0質量部が好ましく、2.0〜3.0質量部がさらに好ましい。この含有量が上記範囲にあると、被覆の機械特性や外観を損なわずに、屋外で使用され紫外線に曝されても長期間にわたる機械特性を維持できる。
【0040】
<その他成分>
本発明の樹脂組成物は、電線、ケーブル、コード、チューブ、電線部品、シート等において、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤等を、目的とする効果を損なわない範囲で、適宜に含有することができる。また、本発明の樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)以外の樹脂を、目的とする効果を損なわない範囲で、適宜に含有することができる。
【0041】
酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物に好ましく含有される。
本発明に用いることができる酸化防止剤は、通常、電線等に用いられるものであればよく、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他の酸化防止剤が挙げられる。なかでも、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
本発明において、酸化防止剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0042】
フェノール系酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、「イルガノックス」(商品名、BASF社製)等を挙げることができる。
フェノール系酸化防止剤の、本発明の樹脂組成物中の含有量は、特に限定されず、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)の合計100質量部に対して、0.01〜1.0質量部が好ましく、0.05〜0.5質量部がより好ましく、0.1〜0.3質量部がさらに好ましい。
【0043】
リン系酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)干すファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチル−6−メチルフェニル)−エチル−ホスファイト等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、「イルガフォス」(商品名、BASF社製)等を挙げることができる。
リン系酸化防止剤の、本発明の樹脂組成物中の含有量は、特に限定されず、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)の合計100質量部に対して、0.01〜1.0質量部が好ましく、0.05〜0.5質量部がより好ましく、0.1〜0.3質量部がさらに好ましい。
【0044】
その他の酸化防止剤としては、例えば、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
【0045】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、エステル系滑剤、アルコール系滑剤、金属石けん系滑剤、シリコーンガム等が挙げられる。
【0046】
<本発明の樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)を上記含有率で含有する。これにより、本発明の樹脂組成物は、0.61〜5.0g/10分のMFR(190℃、21.18N)を有する。さらに、本発明の樹脂組成物は、以下の特性を有することが好ましい。これらにより、形状維持性と押出性を兼ね備え、しかも耐摩耗性が高く、外観にも優れた被覆を形成することができる。本発明の樹脂組成物は、好ましくは、押出成形での線速を例えば100m/min程度まで高めても、上記の優れた、押出性、形状維持性および外観を保持できる。さらに好ましくは、電線・ケーブル(電線またはケーブル)の被覆に求められる特性、例えば機械強度、柔軟性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐寒性、耐環境応力亀裂特性等をも付与することができる。
【0047】
(MFR(190℃、21.18N))
本発明の樹脂組成物は、MFR(190℃、21.18N)が0.61〜5.0g/10分である。MFRが0.61g/10分未満であると、押出性、特に押出成形での線速を高めたときの押出性が低下する。一方、5.0g/10分を超えると、形状維持性、特に押出成形での線速を高めたときの押出性が低下する。押出成形での線速を高めた場合にも、優れた形状維持性および押出性を示し、高い耐摩耗性と優れた外観を有する被覆を形成できる点で、MFRは、0.61〜5g/10分が好ましく、0.8〜2.0g/10分がより好ましい。
【0048】
(密度)
本発明の樹脂組成物の密度は、特に限定されないが、電線・ケーブルとしての機械強度および柔軟性を両立できる点で、0.935〜0.975g/cm
3が好ましく、0.940〜0.973g/cm
3がより好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物において、MFRおよび密度は、例えば、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)の種類、含有率もしくはこれらの組み合わせ、または、添加剤の種類もしくは含有量等により、所定の範囲に設定できる。
【0050】
上記のような特性を有する本発明の樹脂組成物は、電線・ケーブルの被覆として好ましく用いられる。電線・ケーブルは、後述するように、その形態は特に限定されず、従来の電線等でもよいが、特に、後述する、異形電線・ケーブル、大径・厚肉電線・ケーブル、または、自己支持型の電線・ケーブルとしても好ましく用いられる。
【0051】
<本発明の樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)、所望により各種添加剤を、上記含有率となる割合で、混合機、混練機等を用いて、混合(溶融混練を含む)して、製造できる。
このとき、混合する際の混合順は、特に限定されず、上記成分をどのような順で混合してもよい。
【0052】
上述の成分を混合する混合温度は、少なくともポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)およびポリプロピレン系樹脂(a3)が溶融する温度以上であれば特に限定されない。例えば、160〜250℃が好ましく、180〜220℃がより好ましい。
また、混合時間等の混合条件も、特に限定されず、上記成分が混合されればよく、適宜に決定することができる。例えば、5〜30分間とすることができる。
【0053】
混合方法としては、通常用いられる方法であればよく、混合機または混練機として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーまたは各種のニーダー等が用いられる。なかでも、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等がカーボンブラックや添加剤の分散性の点で、好ましい。
【0054】
<<電線・ケーブル>>
本発明の電線・ケーブル(以下、本発明の電線等という)は、導体等の外周に、本発明の樹脂組成物を押出成形してなる押出被覆を絶縁層またはシース等として有する。
本発明の樹脂組成物が押し出される導体等は、特に限定されず、本発明の電線等の種類、用途等に応じて適宜に選択される。また、導体等の材質、形状、寸法等も、従来のものを適宜選択して用いることができる。
【0055】
電線等は、電気・電子機器に用いられるものであれば特に限定されず、電気・電子機器の内部および外部配線に使用されるものを含む。
また、ケーブルとしては、各種ケーブルが特に限定されずに適用でき、屋内に配設されるケーブルおよび屋外に配設されるケーブルを含む。例えば、電力ケーブル、通信ケーブル等が好ましく挙げられる。
【0056】
本発明の電線等は、断面形状が円形の電線・ケーブル、外径が30mm以下の電線・ケーブル、被覆の厚さが5mm以下の電線・ケーブル等の従来の電線・ケーブルが挙げられる。また、円形以外の断面形状、例えば、楕円形、矩形(平型)、切込み(ノッチ)を有する形状、もしくは、これらを組み合わせた形状を持つ異形電線・ケーブル、大径化もしくは被覆厚さを厚くした大径・厚肉電線・ケーブル、または、支持線が埋設された支持線部を備えた自己支持型の電線・ケーブルも挙げられる。
本発明の電線等は、従来、製造が困難であった、異形電線・ケーブル、大径・厚肉電線・ケーブル、または、自己支持型の電線・ケーブルであることが好ましい。このような電線・ケーブルとしては、例えば、電力用捻回電線、通信ケーブル用テープ心線、通信ケーブル等が挙げられる。通信ケーブルとしては、例えば、スロット型光ケーブル、漏洩同軸ケーブル、スロットレス光ケーブル、中間分岐型架空光ケーブル、光ドロップケーブル、インドア光ケーブル等が挙げられる。これらのなかでも、形状維持性が求められる、大径・厚肉の、スロット型光ケーブル、漏洩同軸ケーブルが好ましく、また、自己支持型の電線・ケーブルも好ましい。
【0057】
以下に、本発明の好ましい電線等を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の好ましい電線等として、
図1に示されるスロット型光ケーブル1が挙げられる。
図1(a)はスロット型光ケーブル1の端面輪郭を示す端面図であり、
図1(b)はスロット型光ケーブル1の概略斜視図であり、
図1(c)はスロット型光ケーブル1のケーブル部11の端面を示す概略端面図である。
【0059】
スロット型光ケーブル1は、被覆、すなわちシース12b、19および首部13(
図1(b)参照)が本発明の樹脂組成物で形成されていること以外は、従来のスロット型光ケーブルと同様の形状および構成等をとることができる。
すなわち、スロット型光ケーブル1は、自己支持型(SSW型)の光ケーブルであり、
図1に示されるように、端面(断面)形状が略円形の支持線部12と断面形状が略円型のケーブル部11とが複数の首部(連結部)13で連結された断面形状を有している。このように、スロット型光ケーブル1の断面形状は、単純な形状ではなく、複雑な形状になっている。
【0060】
ケーブル部11は、
図1(c)に示されるように、テンションメンバー14の周面上にスロット15が被覆され、そのスロット15の軸線に沿って形成された5本の収納溝15aに光ファイバ心線16が所定の数落とし込まれ、引き裂き紐17、押さえ巻きテープ18とともに被覆(シースともいう)19に埋設されている。
支持線部12は、
図1(b)に示されるように、複数の支持線12aと、支持線12aを被覆する被覆(シース)12bを有している。
【0061】
スロット型光ケーブル1は、ケーブル部11の外径が大きく、シース19の厚さが厚くなっている。一概にはいえないが、一例を挙げると、ケーブル部11の外径は8〜35mmである。なお、シース19の厚さは後述する。
【0062】
シース12b、19および首部13は、いずれも、本発明の樹脂組成物で形成されている。したがって、ケーブル部11の外径が大きく、シース19の厚さが厚くても、また、スロット型光ケーブル1が自己支持型で支持線部12および首部13を有する複雑な断面形状であっても、シース12b、19および首部13は所定の形状を維持している。
スロット型光ケーブル1において、支持線12a、テンションメンバー14、スロット15、光ファイバ心線16、引き裂き紐17および押さえ巻きテープ18は、通常の光ケーブルに用いられるものであれば、特に限定されることなく、用いることができる。
【0063】
本発明の別の好ましい電線等として、
図2に示される漏洩同軸ケーブル2が挙げられる。
図2に、漏洩同軸ケーブル2の端面形状および構造等を示す。
【0064】
漏洩同軸ケーブル2は、被覆、すなわち、シース22b、28および首部23が本発明の樹脂組成物で形成されていること以外は、従来の漏洩同軸ケーブルと同様の形状および構成等をとることができる。
すなわち、漏洩同軸ケーブル2は、自己支持型(SSW型)のケーブルであり、
図2に示されるように、端面(断面)形状が略円形の支持線部22と断面形状が略円型のケーブル部21とが複数の首部(連結部)23で連結された断面形状を有している。このように、漏洩同軸ケーブル2の断面形状は、単純な形状ではなく、複雑な形状になっている。
【0065】
ケーブル部21は、内部導体24上に絶縁体ポリエチレン紐25および絶縁体ポリエチレンパイプ26にて覆われ、その上に外部導体27を有し、一括して被覆(シース)28に埋没されている。
支持線部22は、複数の支持線22aと、支持線22aを被覆する被覆(シース)22bを有している。
【0066】
漏洩同軸ケーブル2は、ケーブル部21の外径が大きく、シース28の厚さが厚くなっている。一概にはいえないが、一例を挙げると、ケーブル部21の外径は20〜60mmである。なお、シース28の厚さは後述する。
【0067】
シース22b、28および首部23は、いずれも、本発明の樹脂組成物で形成されている。したがって、ケーブル部21の外径が大きく、シース28の厚さが厚くなっていいても、また、漏洩同軸ケーブル2が自己支持型で支持線部22および首部23を有する複雑な形状であっても、シース22b、28および首部23は所定の形状を維持している。
漏洩同軸ケーブル2において、支持線22a、内部導体24、絶縁体ポリエチレン紐25、絶縁体ポリエチレンパイプ26および外部導体27は、通常の漏洩同軸ケーブルに用いられるものであれば、特に限定されることなく、用いることができる。
【0068】
スロット型光ケーブル1および漏洩同軸ケーブル2において、ケーブル部11、21および支持線部12、22は、いずれも、断面形状が略円形になっているが、これ以外にも、略矩形、楕円形のようなものもある。
【0069】
本発明の電線等は、導体等の外周に、例えば押出成形機、押出し被覆装置内で本発明の樹脂組成物を溶融混合しながら被覆させる等により、製造することができる。
このとき、本発明の樹脂組成物を導体等とともに押し出すと、電線・ケーブルの断面形状に対応する複雑な断面形状を崩すことなく、この形状を維持したまま成形できる。また、押出成形での線速を例えば100m/min程度まで高めても、優れた、押出性、形状維持性および外観を保持できる。したがって、形状の再現性がよく、高い歩留まりで、しかも高い構造効率で、本発明の電線等を製造できる。
さらに、本発明の樹脂組成物は、押出成形機に過大な負荷をかけることがなく、生産性もよい。
【0070】
本発明に用いることができる導体としては、電線の導体となりうるものであれば特に限定されず、例えば、軟銅の単線または撚線(導体束ともいう)等が挙げられる。この導体は、裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するもの(芯線ともいう)を用いることもできる。本発明に用いうるファイバ心線、テンションメンバーおよび支持線は上記した通りである。
【0071】
本発明の樹脂組成物で形成される被覆の厚さは、用途等に応じて、適宜に決定される。
絶縁層の厚さ(最大厚さ)は、特に限定されないが、通常、0.15〜5mm程度である。シースの厚さは、特に限定されないが、通常、0.15〜30mm程度である。
【0072】
本発明の樹脂組成物を押出成形する際の条件は、本発明の樹脂組成物を押し出すことができれば特に限定されないが、押出成形機への負荷を低減でき、しかも形状維持性をも確保できる点で、押出温度(ヘッド部)が140〜240℃であるのが好ましく、160〜210℃であるのがより好ましい。また、押出成形の他の条件として、スクリュー回転数が2〜80rpmであり、線速が2〜120m/minであることが好ましく、2〜100m/minであることが好ましく、さらに好ましくは2〜80m/minである。
押出成形機のスクリュー構成は、特に限定されず、通常のフルフライトスクリュー、ダブルフライトスクリュー、先端ダブルフライトスクリュー、マドックスクリュー等を使用できる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。表1および表2の各配合の数値は質量部を表す。
【0074】
各例に用いた成分を以下に示す。
ポリエチレン樹脂(a1)および樹脂(a2)は、それぞれ、エチレンと、必要によりαオレフィンを、チーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒の存在下、気相重合装置または液相重合装置を用い、70〜150℃で共重合して、合成した。用いた触媒濃度は、重合が十分に進行する濃度でよいが、重合反応器内容物の質量を基準として、0.0001〜5質量%用いた。
【0075】
<(a1)ポリエチレン樹脂>
ポリエチレン樹脂(a1−1):
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.920g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−2)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.920g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)10.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−3)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−4)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.935g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−5)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.890g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−6)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.940g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
ポリエチレン樹脂(a1−7)
エチレンと1−ブテンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.920g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)12.00g/10分
【0076】
<(a2)樹脂>
樹脂(a2−1)
エチレン単独重合体、密度0.960g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)0.70g/10分
樹脂(a2−2)
エチレン単独重合体、密度0.955g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)0.20g/10分
樹脂(a2−3)
エチレン単独重合体、密度0.958g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)10.00g/10分
樹脂(a2−4)
エチレン単独重合体、密度0.940g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)0.80g/10分
樹脂(a2−5)
エチレン単独重合体、密度0.965g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)5.50g/10分
樹脂(a2−6)
エチレンと1−ヘキセンとの共重合体、エチレン構成成分の含有率は90質量%、密度0.945g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.70g/10分
樹脂(a2−7)
エチレン単独重合体、密度0.970g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)1.00g/10分
樹脂(a2−8)
エチレン単独重合体、密度0.958g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)0.10g/10分
樹脂(a2−9)
エチレン単独重合体、密度0.950g/cm
3、MFR(190℃、21.18N)13.00g/10分
【0077】
<(a3)ポリプロピレン系樹脂>
ポリプロピレン樹脂(a3)は、それぞれ、プロピレンと、必要によりαオレフィンを、チーグラー・ナッタ触媒またはメタロセン触媒の存在下、気相重合装置または液相重合装置を用い、60〜100℃で共重合して、合成した。用いた触媒濃度は、重合が十分に進行する濃度でよいが、重合反応器内容物の質量を基準として、0.01〜0.1質量%用いた。
ポリプロピレン系樹脂(a3−1)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)0.80g/10分
ポリプロピレン系樹脂(a3−2)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)0.50g/10分
ポリプロピレン系樹脂(a3−3)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)10.00g/10分
ポリプロピレン系樹脂(a3−4)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)50.00g/10分
ポリプロピレン系樹脂(a3−5)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)0.30g/10分
ポリプロピレン系樹脂(a3−6)
プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレン構成成分の含有率は95質量%、密度0.900g/cm
3、MFR(230℃、21.18N)60.00g/10分
【0078】
<カーボンブラック(b)>
「旭カーボン#70」(商品名、旭カーボン社製、平均粒径28nm)
【0079】
実施例1〜13
、参考例1〜5および比較例1〜11
各例では、
図1(a)に示す端面輪郭を有する、所謂「眼鏡状」の簡易試験ケーブルを製造して、下記項目を評価した。この簡易試験ケーブルはスロット型光ケーブルの簡易試験体である。以下、簡易試験ケーブルを構成する部材のうち、
図1に示すスロット型光ケーブル1を構成する部材に対応するものには、便宜的に、これと同一の符号を付す。
【0080】
表1および表2に示す、ポリエチレン樹脂(a1)、樹脂(a2)、ポリプロピレン系樹脂(a3)およびカーボンブラック(b)を、表1および表2に示す含有率で、2Lバンバリーミキサーを用いて、200℃で20分間、溶融混合した後、ペレット化して、本発明の電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を得た。
次に、得られた各電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)が25で、スクリュー直径が40mmφの電線用押出成形機(聖製作所社製、モーター負荷限界:80A)、および、断面形状が眼鏡状である押出ダイスを用いて、下記押出温度条件により、並行に並べた1.0mmφの導体(軟銅線)の上に、下記のようにして一体的に押出し、被覆して、簡易試験ケーブルを製造した。
【0081】
ケーブル部11として、電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を、一方の導体の外周に、外径5.0mmφ、被覆厚さ2.0mmとなるように押し出した。また、支持線部12として、他方の導体の外周に、外径2.0mmφ、被覆厚さ0.5mmとなるように押し出した。さらに、ケーブル部11および支持線部12として押し出された電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物それぞれが厚さ1.0mmの連結部13によって繋がれるように、電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を連結部13として押し出した。
【0082】
また、0.8mmφの導体(軟銅線)の上に、外径2.4mmφ、被覆厚さ0.8mmとなる耐摩耗性試験用電線(断面形状は円形)を、簡易試験ケーブルの製造と同様にして、作製した。
【0083】
押出条件(温度)は、押出成形機のシリンダー部分における温度制御をフィーダー側からダイス側に向けて3ゾーンC1、C2、C3に分け、C1ゾーンを170℃、C2ゾーンを190℃、C3ゾーンを200℃、ダイス温度200℃に、設定した。
線速は、10m/minまたは100m/minに設定した。
【0084】
各樹脂および得られた電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物の密度、MFRを下記方法により測定した。結果を表1および表2に示す。
【0085】
<MFRの測定>
MFR(190℃、21.18N)は、JIS K 7210に規定の「A法(手動切り落とし法)」基づき、190℃、21.18Nの条件Dで計測した。
ポリプロピレン樹脂(a3)のMFR(230℃、21.18N)は、温度230℃の条件Mに変更したこと以外は、MFR(190℃、21.18N)と同様にして、測定した。
【0086】
<密度>
密度は、JIS K 7112:1999に規定の「A法(水中置換法)」に基づいて、測定した。
【0087】
<外観試験(表面粗さ)>
各線速で押出成形して得られた簡易試験ケーブルの外観を、JIS B 0601:2013に規定の算術平均表面粗さ(Ra)を下記測定条件で測定し、下記評価基準により、評価した。外観試験は、評価「B」が本試験の合格レベルであり、「A」以上であると望ましいレベルにある。
−測定条件−
作製した簡易試験ケーブルの算術平均表面粗さ(Ra)は、簡易試験ケーブルの被覆を、ランダムに5箇所サンプリングし、JIS B 0601:2013に基づき、表面粗さ測定機(MITUTOYO社製、サーフテストSJ−301(商品名))を用いて、算術平均表面粗さ(Ra、μm)を求めた。
−評価基準―
AA:1.5μm以下
A:1.5μmを超え2.5μm以下
B:2.5μmを超え3.5μm以下
C:3.5μmを超える
【0088】
<耐摩耗性試験>
水平に設置した耐摩耗性試験用電線の上に、15Nの荷重を加え、0.25mmφのピアノ線を用いて被覆を摩耗させた。ピアノ線が導体に達するまで連続して往復させ、その往復回数を測定した。摩耗させる部分は、1サンプルにつき、円周方向に90、180、270および360°の4か所として4回実施し、4回の往復回数の平均値を、耐摩耗性の指標とした。耐摩耗性を往復回数の平均値により下記評価基準で評価した。耐摩耗性試験は、評価「B」が本試験の合格レベルであり、「A」以上であると望ましいレベルにある。
−評価基準―
AA:300回以上
A:200回以上300回未満
B:100回以上200回未満
C:100回未満
【0089】
<形状維持性(耐ドローダウン性)試験>
各簡易試験ケーブルを、10m/minの線速で押出成形して製造した各例において、上記押出成形機により押し出された各電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を冷水等で冷却することなく大気中に最長20秒放置し、所定の形状を維持しているか否かを目視にて、確認し、下記評価基準により、評価した。本試験において、形状を維持しているとは、押出成形した後(押出成形機から押し出された後)から所定時間経過するまでに、ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物にて連結された押出後の簡易電線連結部13の傾き角度が、押出ダイスの形状に対して5度以内で保たれていることをいう。形状維持性試験は、評価「B」が本試験の合格レベルであり、「A」以上であると望ましいレベルにある。
−評価基準―
AA:20秒放置しても形状を維持していた場合
A:10秒放置しても形状を維持し、20秒放置すると形状を維持できない場合
B:5秒放置しても形状を維持し、10秒放置すると形状を維持できない場合
C:5秒未満で形状が崩れた場合
【0090】
<押出性試験>
簡易試験ケーブルを線速が100m/minで押出成形して製造した各例において、上記押出成形機により各電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形した際の、押出成形機のモーターに作用した負荷値の最大値を読み取った。
読み取った値をモーター負荷限界値で除して、モーター負荷限界に対する負荷率(%)を算出した。電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物の押出性を、上記負荷率を指標として、下記評価基準により、評価した。押出性試験は、評価が「B」であると押出機にかかる負荷が許容でき、本試験の合格レベルであり、「A」以上であると望ましいレベルにある。
−評価基準―
AA:74%以下
A:74%を超え85%以下
B:85%を超え100%以下
C:100%を超える
【0091】
<耐寒性試験>
各実施例
及び各参考例で調製した電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物を厚さ2mmのシート状に成形した試験片を用いて、JIS C 3005に基づき、脆化温度を測定した。その結果、実施例1〜13
および参考例1〜5で調製した電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物で作製した試験片は、いずれも、クラック発生温度が−40℃以下であり、耐寒性に優れていた。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1および表2の結果から以下のことがわかる。
すなわち、特定の密度およびMFRを持つポリエチレン樹脂(a1)と、特定の密度およびMFRを持つ樹脂(a2)と、ポリプロピレン系樹脂(a3)とを特定の割合で含有させ、MFRを特定の値に設定した、本発明の電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物は、いずれも、形成する被覆の断面形状が眼鏡状であっても、押出性および形状維持性に優れていた。また、これらケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物により、耐摩耗性が高く、表面が平滑で外観にも優れた被覆を形成することができた。しかも、線速を100m/minの高速に設定して押出成形しても、上記の優れた、押出性、形状維持性および外観を保持していた。
【0095】
これに対して、ポリエチレン樹脂(a1)の含有率が高い比較例1は耐摩耗性が十分ではなかった。一方、ポリエチレン樹脂(a1)の含有率が低い比較例2は、MFRが小さすぎ、押出性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。ポリエチレン樹脂(a1)の密度が小さすぎる比較例3は耐摩耗性が十分ではなかった。一方、ポリエチレン樹脂(a1)の密度が大きすぎる比較例4は押出性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。ポリエチレン樹脂(a1)のMFRが大きすぎる比較例5は形状維持性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。
また、樹脂(a2)の密度が大きすぎる比較例6および樹脂(a2)のMFRが小さすぎる比較例7は押出性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。樹脂(a2)のMFRが大きすぎる比較例8は形状維持性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。
さらに、ポリプロピレン系樹脂(a3)を含有しない比較例10は外観および耐摩耗性が十分ではなかった。一方、ポリプロピレン系樹脂(a3)の含有率が高い比較例11は押出性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。電線・ケーブル被覆用ポリオレフィン樹脂組成物のMFRが小さすぎる比較例9は押出性が十分ではなく、押出性と形状維持性とを両立できなかった。