【実施例】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[評価例1 糊化抑制澱粉の選抜]
本発明に使用する糊化抑制澱粉を選抜するための簡易的な評価指標として、表1記載の澱粉9質量部を91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化した澱粉液の糊化(指標1)、75℃から室温に冷却した澱粉液の状態(指標2)、75℃から室温に冷却の後、レトルトパウチに200gずつ充填して121℃で30分間レトルト処理し、室温に冷却したレトルト澱粉液の粘度(指標3)と200〜230℃のホットプレートで焼成した際のゲル化性(指標4)を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化抑制澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しない」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
澱粉液の粘度は、No.4ローターを装着したC型粘度計(東京計器社製のCVR−20形粘度計)を使用して、24℃の温度条件下、回転速度20rpmで1分間回転後の指示値を読み取ることで測定した。
【0018】
(リン酸架橋澱粉の糊化抑制澱粉としての評価)
【表1】
評価1:リン酸架橋タピオカ澱粉は、松谷化学社製のパインべークCC
評価2:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のひょうたん(高架橋タイプ)
評価3:リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のNE−2
評価4:リン酸架橋小麦澱粉は、松谷化学社製のフードスターチBS2
評価5:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のF−102
評価6:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のNo.9R(低架橋タイプ)
評価7:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社製のネオビスT−100
評価8:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、日本食品化工社製のネオビスC−6
評価9:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日殿化学社製のPB−2000
評価10:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社バッタースターチ200N(油脂加工も施されている)
【0019】
評価1のリン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した際のレトルト澱粉液の粘度が1,900mPa・sであり、良好な流動性を示したトロミのあるゾル状態であったので、本発明に使用する糊化抑制澱粉として適していた。評価2及び3のリン酸架橋澱粉は、品温を室温にしたレトルト澱粉液でやや離水があるものの、許容されるものであった。評価4のリン酸架橋澱粉は、やや離水があり、澱粉の凝集様固化が若干あり、下限として許容されるものであった。評価1〜4のレトルト処理したリン酸架橋澱粉を焼成して得たゲルは、弾力に乏しく粘りのない薄くて弱い皮膜状ゲルであるため、単独でレトルトバッターとして利用することはできない。評価5のリン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した澱粉液の粘度が37,500mPa・sと極めて高いため、糊化抑制澱粉として不適であった。評価6〜10のリン酸架橋澱粉は、75℃の加熱混合処理により糊化し、室温への冷却で餅様にゲル化したため、糊化抑制澱粉として不適であった。
評価2と6は架橋度が異なるリン酸架橋馬鈴薯澱粉であり、評価6の低架橋タイプが糊化及び餅用固化していることから、評価7〜10のリン酸架橋澱粉も低架橋タイプであると考えられた。
なお、化学変性していない穀粉(小麦粉、米粉)及び化学変性していない澱粉(タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉)を同様の指標で評価したところ、何れも75℃加熱混合処理により糊化し、室温へ冷却すると餅様に固化した。
【0020】
[評価例2 糊化促進澱粉の選抜]
本発明に使用する糊化促進澱粉を選抜するための簡易的な評価指標は、表2記載の澱粉を使用した以外は評価例1記載の指標1〜4を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化促進澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化する」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが粘性ゾル、軟餅様ゲル、餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
【0021】
(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の糊化促進澱粉としての評価)
【表2】
【0022】
評価11:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社製のクリアテクストB3
評価12:HP化リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のVA70C
評価13:HP化リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のVA70QM
評価14:HP化リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製VA70X
評価15:HP化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のエリアンVE540
評価16:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、松谷化学社製のVA70TJ
評価17:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、イングレディオン社製の78−0148
評価18:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、日澱化学社製のG−800
評価19:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、三和澱粉社のタピオカα―NTP
【0023】
評価11のHP化リン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した際の糊液の粘度が21,000mPa・sであり、良好な低流動性のトロミ及び粘りが強いゾルであったので、本発明に使用する糊化促進澱粉として適していた。評価12及び13のHP化リン酸架橋澱粉は、室温の糊液の粘度が各々6,000及び4,800mPa・sであり、トロミ及び粘りがややあるゾルであったので、本発明の糊化促進澱粉として許容されるものであった。評価11〜13のレトルト処理したHP化リン酸架橋澱粉を焼成して得たゲルは、その保水性の高さから焼成時間が長くなり、弾力が強くて硬い塊状のゲルになるため、単独でレトルトバッターとして利用することはできない。評価14のHP化リン酸架橋澱粉は、75℃加熱混合処理の後に室温まで冷却した澱粉液で離水が生じたために不適であった。評価15〜19のHP化リン酸架橋澱粉は、室温で餅用にゲル化したため、糊化促進澱粉として不適であった。
なお、市販のHP化澱粉については、室温の糊液の粘度が高くなって軟餅様のゲルになる恐れがあるため、評価を行わなかった。
【0024】
[試験例1 レトルトバッターにおける糊化促進澱粉と糊化抑制澱粉の含有比]
表4記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)と評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)とを粉体混合し、91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化し、200gをレトルトパウチに充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してレトルトバッターを得た。得られたバッターを24℃における粘度をC型粘度計により測定した。また、レトルトバッターを200〜230℃に加温したホットプレートに投入し、ヘラで混ぜながら200〜230℃で焼成した。得られた焼成ゲルの状態及び作業性を10名の専門パネラーにより下記基準表3および4に基づき官能評価を行った。
【0025】
結果を表5に示す。
(評価基準)焼成ゲルの状態
【表3】
【0026】
(評価基準)作業性
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15〜85質量%及び糊化促進澱粉が85〜15質量%の範囲にある実施例はいずれも良好な結果を示した。具体的には、実施例1及び2では、レトルトバッターの粘度が良好であるため、ホットプレート上でバッターが適度に広がり、ヘラ混合で容易にまとまり、良好な作業性を示し、ゲルの厚みに差はあるものの弾力を有する良好な膜状ゲルが得られた。実施例3では、ホットプレート上でバッターがやや広がりやすい傾向であったが、ヘラ混合でまとめることができ許容される作業性を示し、やや薄目ではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られた。
澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15質量%未満である比較例1、2では、レトルトバッターの粘度が高く粘りが強いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが悪く、ヘラでの混合にムラが生じ易く作業性に難があり、弾力が強くて硬い塊状のゲルが得られた。澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が85質量%を超える比較例3、4では、レトルトバッターの粘度が低く流動性が高いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが著しく、作業性に難があり、弾力に乏しく粘りのない薄くて弱い皮膜状のゲルが得られた。
【0029】
[試験例2 レトルトバッターにおける糊化促進澱粉と糊化抑制澱粉の含有量]
表6記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)、評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)及び水を使用した以外は、試験例1に従ってレトルトバッターを調製して評価した。結果を表6に示す。
【0030】
【表6】
【0031】
レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%である実施例はいずれも良好な結果を示した。具体的には、実施例4では、レトルトバッターがホットプレート上でやや広がり易かったが、ヘラ混合でのまとまりがあり、得られたゲルはやや薄めではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性及びゲルの状態共に良好であった。実施例5では、レトルトバッターがホットプレート上で適度に広がり、ヘラ混合でまとまり易く、得られたゲルは厚めで弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性及びゲルの状態共に良好であった。
レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して4.5質量%未満である比較例5では、レトルトバッター粘度が低くいので、ホットプレート上でのバッターのまとまりが悪く、焼成に時間を要するため、作業性が悪かったが、得られたゲルは薄めではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には幾分及ばなかった。レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して13.5質量%を超える比較例6では、レトルトバッター粘度が高いので、ホットプレート上での広がりが悪く、ヘラでの混合にムラができ易く、作業性が悪かったが、得られたゲルは厚みがあってやや硬い膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には至らなかった。
【0032】
以下の製造例1〜5においては、糊化抑制澱粉としてパインべークCC、糊化促進澱粉としてクリアテクストB3を使用した。
[製造例1 お好み焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉6.5質量部と糊化促進澱粉6.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁87質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してお好み焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してお好み焼き用レトルトバッターを得た。
お好み焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、3mm幅のキャベツ200g、5mm角のイカ20g、揚げ玉20g、山芋パウダー10g、タマゴ2個を加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なお好み焼き様食品が得られた。
【0033】
[製造例2 たこ焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉5.5質量部と糊化促進澱粉5.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁89質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してたこ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してたこ焼き用レトルトバッターを得た。
たこ焼き用レトルトバッター300gを容器に投入し、小口切りのネギ25g、みじん切りの紅生姜25g、揚げ玉25g、ベーキングパウダー10g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したたこ焼き用鉄板に流し込み、1cm角のタコを各穴に投入して焼成したところ、良好なたこ焼き様食品が得られた。
【0034】
[製造例3 もんじゃ焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉4.5質量部と糊化促進澱粉4.5質量部とを粉体混合した後、水86質量部とウスターソース5質量部との混合液に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してもんじゃ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してもんじゃ焼き用レトルトバッターを得た。
もんじゃ焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、5mm角のキャベツ150g、スイートコーン20g、5mm角のイカ15g、揚げ玉15gを加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なもんじゃ焼き様食品が得られ、お焦げも賞味することができた。
【0035】
[製造例4 クレープ様食品の製造]
糊化抑制澱粉6質量部と糊化促進澱粉6質量部とを粉体混合した後、2質量%の砂糖水88質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してクレープ用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してクレープ用レトルトバッターを得た。
クレープ用レトルトバッター300gを容器に投入し、スキムミルク30g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したホットプレートに流し込み、円形になるようにのばして焼成したところ、良好なクレープ様食品が得られた。
【0036】
[製造例5 トンカツ様食品の製造]
糊化抑制澱粉5質量部と糊化促進澱粉5質量部とを粉体混合した後、水90質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化して揚物用バッターを得た。これをレトルトパウチに250gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理して揚物用レトルトバッターを得た。
揚物用レトルトバッター200gを容器に投入し、一口サイズの豚肉(1.0×2.5×3.5cm)へ均等に揚物用レトルトバッターを被覆させ、パン粉を満遍なく付着させた後、180℃に熱した食用油でフライしたところ、良好なトンカツ様食品が得られた。