特許第6774846号(P6774846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6774846レトルトバッター用澱粉組成物及びレトルトバッター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6774846
(24)【登録日】2020年10月7日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】レトルトバッター用澱粉組成物及びレトルトバッター
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20201019BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20201019BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   A23L29/212
   A23L7/157
   A21D2/36
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-215080(P2016-215080)
(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公開番号】特開2018-68251(P2018-68251A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愛有美
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−072128(JP,A)
【文献】 特開平09−299069(JP,A)
【文献】 液体レトルトで簡単もんじゃ★どんなもんじゃ!? 明太子味&カレー,気分だけでも★セレブに美的生活,2016年 5月24日,URL,https://ameblo.jp/pinkpenguins/entry-12161237659.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/117−9/20;29/212−29/225
A21D 2/00−17/00
A23L 23/00−25/10;35/00
A23L 21/00−21/25
A23L 29/20−29/206;29/231−29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなるレトルトバッター用澱粉組成物であって、澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉を15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有し、
前記糊化抑制澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sであるという特性を有する澱粉であり、
前記糊化促進澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合した際に糊化するという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が4,000〜50,000mPa・sであるという特性を有する澱粉である、前記レトルトバッター用澱粉組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のレトルトバッター用澱粉組成物を、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%含有し、且つ24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sであるレトルトバッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルトバッター用澱粉組成物及びレトルトバッターに関する。詳細には特定の性質を有する糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなるレトルトバッター用澱粉組成物及びそれを使用したレトルトバッターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バッターは、小麦粉又は小麦粉に小麦粉以外の穀粉類、澱粉類、乳類(生乳、加工乳、脱脂粉乳等)、卵類(全卵、卵白粉、卵黄粉等)、その他各種の副資材(乳化剤、増粘多糖類、油脂等)を配合したバッターミックスと称される小麦粉組成物に加水して得られる粘性のあるゾルである。このようなバッターは、ホットケーキ、クレープ等の洋風スナック類、たこ焼き、お好み焼き、もんじゃ焼き等の和風スナック類、天ぷら、フライ、フリッター等の揚物類といった多様なバッター利用食品の製造に使用されている。
バッターは、家庭や飲食店等で調理する直前に、粉体混合物である小麦粉組成物(いわゆるバッターミックス)に加水して調製される。しかしながら、ダマの形成や容器への小麦粉組成物の付着等がなくなるように均質なバッターを手早く調製する必要があり、調理の簡便化を図るために出来合いのバッターの提供が望まれている。
バッターには、その利用における問題点と保存における問題点がある。
バッターの利用における問題点としては、バッター内で形成されたグルテンが凝集物となって沈殿して液状部と塊状部に分離する現象、及び、小麦粉や穀粉類に内在しているアミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ等の消化酵素により澱粉、ヘミセルロース、タンパク質等の小麦粉や穀粉類の構成成分が消化されて粘度が低下する現象が生じるために、バッターの品質が経時的に損なわれていくことが知られている(非特許文献1)。これらの現象は冷蔵下でも進行するため、品質を維持したままバッターを冷蔵保存することも困難である。品質が損なわれたバッターに小麦粉又は小麦粉組成物を追い添加して品質を回復することが行われているが、小麦粉組成物を水に溶いて得た当初のバッターの品質に到底及ぶものではない。
食品又は調理食材を保存する方法として冷凍、レトルト処理等が上げられる。バッターの保存における問題点としては、冷凍解凍による離水等や、レトルト処理等の熱処理による澱粉質の糊化を経た餅様のゲル化が生じるために、バッターとしての品質が著しく劣化することが知られている。バッターを保存する手段として、特許文献1では真空包装した冷凍もんじゃ焼き生地だねが提案されているが、その製造方法が煩雑である上に、汎用性の高いものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−10762
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】化学と生物 Vol.52 No.8, 2014 p530-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、経時的に品質が劣化せず、保存性が高いバッターを提供することを目的とし、レトルト処理しても餅様にゲル化することなく、適度な流動性と粘性を有するバッターを得ること、また加熱調理(焼成、油調等)することでゲル化し、洋風スナック類であれば多孔性構造の基材として、和風スナックであれば外皮膜や多孔性構造の基材として、揚物類であれば調理食材(揚げ種)のバリア基材として活用することができるレトルトバッターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、所定の特性を有する糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなる澱粉組成物であって、澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉を15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有するレトルトバッター用澱粉組成物を得、前記レトルトバッター用澱粉組成物を、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%含有し且つ24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sであるレトルトバッターにより、上記課題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉とからなるレトルトバッター用澱粉組成物であって、澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉を15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有し、
前記糊化抑制澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜3,000mPa・sであるという特性を有する澱粉であり、
前記糊化促進澱粉が、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合した際に糊化するという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の24℃における粘度が4,000〜50,000mPa・sであるという特性を有する澱粉である、前記レトルトバッター用澱粉組成物。
[2]前記[1]記載のレトルトバッター用澱粉組成物を、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%含有し、且つ24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sであるレトルトバッター。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レトルト処理しても餅様にゲル化することなく、適度な流動性と粘性を有するバッターを提供することができる。また加熱調理(焼成、油調等)することでゲル化し、洋風スナック類であれば多孔性構造の基材として、和風スナックであれば外皮膜や多孔性構造の基材として、揚物類であれば調理食材(揚げ種)のバリア基材として活用することができるバッターを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においてレトルトバッターとはレトルト処理されたバッターを言う。レトルト処理とは、食品衛生法において「食品中に存在すし且つ発育しうる微生物を死滅させる方法であって、食品を気密性のある容器包装に入れて密封し、中心部の温度を120℃で4分間加圧加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法」と定義されており、例えば、食品をレトルトパウチに充填・密封し、レトルト(高圧釜)により121℃、30分以上処理することによって行うことができる。
本発明における糊化抑制澱粉とは、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しないという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sであるという特性を有する澱粉をいう。
このような澱粉は、澱粉の水懸濁液を撹拌しながら加熱・冷却して粘度を連続的に測定した際にピーク粘度が発現した後の粘度低下(ブレークダウン)が生じ難く、つまり膨潤した澱粉粒の崩壊による糊化が起こり難く、冷却時の粘度上昇が低く、冷蔵条件下においても流動性が損なわれにくい傾向にある。このような糊化抑制澱粉としては、架橋処理が高度に施された澱粉が適しており、特にリン酸架橋澱粉が適しており、その製造方法として特開2011−211922を例示できる。前記の性質を有していれば、更にエーテル化やエステル化、酸化等の化学変性を併用した架橋澱粉であってもよく、リン酸架橋と他の化学変性が併用された糊化抑制澱粉の製造方法としては、特開2006−282785及び特開2004−204197を例示できる。また、食用として市販されている糊化抑制澱粉としては、リン酸架橋澱粉を例示できる。
なお、架橋処理が施された澱粉であっても、架橋度が低ければ膨潤した澱粉粒の崩壊を十分に抑制することができず、本発明で定義する糊化抑制澱粉として使用することはできない。
【0010】
本発明における糊化促進澱粉とは、5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化するという特性;及び前記加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が4,000〜50,000mPa・sであるという特性を有する澱粉をいう。
このような澱粉は、澱粉の水懸濁液を撹拌しながら加熱・冷却して粘度を連続的に測定した際にピーク粘度が発現した後の粘度低下が著しく生じ、つまり膨潤した澱粉粒の大多数が崩壊して糊化し、冷却時の粘度上昇が高く、冷蔵条件下においてゲル化(固化)しない傾向にある。このような糊化促進澱粉としては、ヒドロキシプロピル化(以下、HP化と略す)等のエーテル化処理又はアセチル化やリン酸化等のエステル化処理が高度に施された澱粉が適しており、特にHP化澱粉が適している。前記の性質を有していれば、更に架橋、酸化、エーテル化、エステル化等の化学変性を併用したエーテル化又はエステル化澱粉であってもよい。エーテル化又はエステル化澱粉の製造方法として、特開2008−289397を例示できる。また、食用として市販されている糊化促進澱粉としては、HP化澱粉、HP化リン酸架橋澱粉を例示できる。
【0011】
なお、架橋処理とエーテル化又はエステル化とを共処理された澱粉においては、架橋とエーテル化又はエステル化との処理度合いによって糊化抑制にも糊化促進澱粉にもなりえる。例えばリン酸架橋度が低く、HP化度が十分に高ければ糊化促進の傾向になり、その逆であれば糊化抑制の傾向になる。例えば本願実施例で使用した市販のHP化リン酸架橋澱粉群は糊化促進澱粉の例である。特開2006−282785で開示されたHP化リン酸架橋澱粉は糊化抑制澱粉の例である。
【0012】
本発明において、糊化抑制澱粉及び糊化促進澱粉を製造するための原料澱粉としては、食用に供される澱粉であれば何れも利用可能であり、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉等を例示できる。
【0013】
本発明レトルトバッター用澱粉組成物は澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15〜85質量%及び糊化促進澱粉を85〜15質量%含有する。糊化抑制澱粉が25〜75質量%及び糊化促進澱粉を75〜25質量%含有することが好ましく、最も好ましくは糊化抑制澱粉及び糊化促進澱粉共に50質量%である。澱粉の含有率は、それらの変性度、調理して得られる洋風スナック類、和風スナック類、揚物類等の食品に求められる物性等に依存して変動する。
糊化抑制澱粉が15質量%未満(糊化促進澱粉が85質量%超)になると、バッターを調製した際の粘度が高くなり過ぎ(15,000mPa・s超)、トロミ及び粘りの強いゾルになるため、調理作業性が損なわれる。また糊化抑制澱粉が85質量%超(糊化促進澱粉が15質量%未満)になると、粘度が低くなりすぎ(3,000mPa・s未満)トロミはあるもののバッターとしては流動性の高いサラサラのゾルになるため、調理作業性が損なわれる。
【0014】
本発明のレトルトバッターは前述のレトルトバッター用澱粉組成物をバッター全量に対して澱粉組成物を4.5〜13.5質量%含有する。好ましくは6〜12質量%含有し、最も好ましくは9質量%含有する。澱粉組成物が4.5質量%未満になると粘度が低くなりすぎ(3,000mPa・s未満)、調理作業性が損なわれる。澱粉組成物が13.5質量%以上になると粘度が高くなり過ぎ(15,000mPa・s超)、調理作業性が損なわれる。
上記調理作業性の観点から、本発明のレトルトバッターは24℃における粘度が3,000〜15,000mPa・sである。好ましくは4,500〜14,500mPa・sであり、最も好ましくは5,000〜10,000mPa・sである。
【0015】
本発明のレトルトバッター用澱粉組成物は糊化抑制澱粉及び糊化促進澱粉を混合することにより製造することができる。混合の為の手段は特に制限されず、例えば粉体混合機で混合することにより製造することができる。
【0016】
本発明のレトルトバッターには洋風スナック類、和風スナック類、揚物類等、バッターを使用する各種食品に適する穀粉類、澱粉類、乳類、卵類、その他各種の副資材を、本発明のレトルトバッターの効果を損なわない範囲で添加することができる。
本発明のレトルトバッターは上記レトルトバッター用澱粉組成物、水、その他の副資材を混合してバッターを得、得られたバッターをレトルト処理することにより製造することができる。例えば糊化抑制澱粉と糊化促進澱粉を粉体混合して澱粉組成物を得、澱粉組成物を水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化することによりバッターを得た。このバッターを耐熱性容器(例えばレトルトパウチ)に充填・密封し121℃で40分間レトルト処理することにより製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[評価例1 糊化抑制澱粉の選抜]
本発明に使用する糊化抑制澱粉を選抜するための簡易的な評価指標として、表1記載の澱粉9質量部を91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化した澱粉液の糊化(指標1)、75℃から室温に冷却した澱粉液の状態(指標2)、75℃から室温に冷却の後、レトルトパウチに200gずつ充填して121℃で30分間レトルト処理し、室温に冷却したレトルト澱粉液の粘度(指標3)と200〜230℃のホットプレートで焼成した際のゲル化性(指標4)を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化抑制澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化しない」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
澱粉液の粘度は、No.4ローターを装着したC型粘度計(東京計器社製のCVR−20形粘度計)を使用して、24℃の温度条件下、回転速度20rpmで1分間回転後の指示値を読み取ることで測定した。
【0018】
(リン酸架橋澱粉の糊化抑制澱粉としての評価)
【表1】
評価1:リン酸架橋タピオカ澱粉は、松谷化学社製のパインべークCC
評価2:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のひょうたん(高架橋タイプ)
評価3:リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のNE−2
評価4:リン酸架橋小麦澱粉は、松谷化学社製のフードスターチBS2
評価5:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のF−102
評価6:リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のNo.9R(低架橋タイプ)
評価7:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社製のネオビスT−100
評価8:リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、日本食品化工社製のネオビスC−6
評価9:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日殿化学社製のPB−2000
評価10:リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社バッタースターチ200N(油脂加工も施されている)
【0019】
評価1のリン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した際のレトルト澱粉液の粘度が1,900mPa・sであり、良好な流動性を示したトロミのあるゾル状態であったので、本発明に使用する糊化抑制澱粉として適していた。評価2及び3のリン酸架橋澱粉は、品温を室温にしたレトルト澱粉液でやや離水があるものの、許容されるものであった。評価4のリン酸架橋澱粉は、やや離水があり、澱粉の凝集様固化が若干あり、下限として許容されるものであった。評価1〜4のレトルト処理したリン酸架橋澱粉を焼成して得たゲルは、弾力に乏しく粘りのない薄くて弱い皮膜状ゲルであるため、単独でレトルトバッターとして利用することはできない。評価5のリン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した澱粉液の粘度が37,500mPa・sと極めて高いため、糊化抑制澱粉として不適であった。評価6〜10のリン酸架橋澱粉は、75℃の加熱混合処理により糊化し、室温への冷却で餅様にゲル化したため、糊化抑制澱粉として不適であった。
評価2と6は架橋度が異なるリン酸架橋馬鈴薯澱粉であり、評価6の低架橋タイプが糊化及び餅用固化していることから、評価7〜10のリン酸架橋澱粉も低架橋タイプであると考えられた。
なお、化学変性していない穀粉(小麦粉、米粉)及び化学変性していない澱粉(タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉)を同様の指標で評価したところ、何れも75℃加熱混合処理により糊化し、室温へ冷却すると餅様に固化した。
【0020】
[評価例2 糊化促進澱粉の選抜]
本発明に使用する糊化促進澱粉を選抜するための簡易的な評価指標は、表2記載の澱粉を使用した以外は評価例1記載の指標1〜4を採用した。
ここで指標1及び指標3はそれぞれ糊化促進澱粉の性質「5〜15質量%の澱粉水溶液又は澱粉水分散液を70〜90℃で加熱混合処理した際に糊化する」及び「加熱混合処理した液を室温まで冷却した後、121℃で30分間加熱した液の、24℃における粘度が500〜4,000mPa・sである」の評価指標となる。なお、指標2は指標3の評価を行う上での目安であり、指標2で低粘性ゾル又は高粘性ゾルと判定したものについて指標3の粘度を測定したが粘性ゾル、軟餅様ゲル、餅様ゲルと判定したものについては評価しなかった。指標4は澱粉をレトルトバッターに使用した際の焼成ゲルの状態及び作業性の目安となる。
【0021】
(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の糊化促進澱粉としての評価)
【表2】
【0022】
評価11:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、日本食品化工社製のクリアテクストB3
評価12:HP化リン酸架橋コーンスターチは、松谷化学社製のVA70C
評価13:HP化リン酸架橋ワキシーコーンスターチは、松谷化学社製のVA70QM
評価14:HP化リン酸架橋馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製VA70X
評価15:HP化リン酸架橋ワキシー馬鈴薯澱粉は、松谷化学社製のエリアンVE540
評価16:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、松谷化学社製のVA70TJ
評価17:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、イングレディオン社製の78−0148
評価18:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、日澱化学社製のG−800
評価19:HP化リン酸架橋タピオカ澱粉は、三和澱粉社のタピオカα―NTP
【0023】
評価11のHP化リン酸架橋澱粉は、レトルト処理の後に室温に冷却した際の糊液の粘度が21,000mPa・sであり、良好な低流動性のトロミ及び粘りが強いゾルであったので、本発明に使用する糊化促進澱粉として適していた。評価12及び13のHP化リン酸架橋澱粉は、室温の糊液の粘度が各々6,000及び4,800mPa・sであり、トロミ及び粘りがややあるゾルであったので、本発明の糊化促進澱粉として許容されるものであった。評価11〜13のレトルト処理したHP化リン酸架橋澱粉を焼成して得たゲルは、その保水性の高さから焼成時間が長くなり、弾力が強くて硬い塊状のゲルになるため、単独でレトルトバッターとして利用することはできない。評価14のHP化リン酸架橋澱粉は、75℃加熱混合処理の後に室温まで冷却した澱粉液で離水が生じたために不適であった。評価15〜19のHP化リン酸架橋澱粉は、室温で餅用にゲル化したため、糊化促進澱粉として不適であった。
なお、市販のHP化澱粉については、室温の糊液の粘度が高くなって軟餅様のゲルになる恐れがあるため、評価を行わなかった。
【0024】
[試験例1 レトルトバッターにおける糊化促進澱粉と糊化抑制澱粉の含有比]
表4記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)と評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)とを粉体混合し、91質量部の水に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化し、200gをレトルトパウチに充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してレトルトバッターを得た。得られたバッターを24℃における粘度をC型粘度計により測定した。また、レトルトバッターを200〜230℃に加温したホットプレートに投入し、ヘラで混ぜながら200〜230℃で焼成した。得られた焼成ゲルの状態及び作業性を10名の専門パネラーにより下記基準表3および4に基づき官能評価を行った。
【0025】
結果を表5に示す。
(評価基準)焼成ゲルの状態
【表3】
【0026】
(評価基準)作業性
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15〜85質量%及び糊化促進澱粉が85〜15質量%の範囲にある実施例はいずれも良好な結果を示した。具体的には、実施例1及び2では、レトルトバッターの粘度が良好であるため、ホットプレート上でバッターが適度に広がり、ヘラ混合で容易にまとまり、良好な作業性を示し、ゲルの厚みに差はあるものの弾力を有する良好な膜状ゲルが得られた。実施例3では、ホットプレート上でバッターがやや広がりやすい傾向であったが、ヘラ混合でまとめることができ許容される作業性を示し、やや薄目ではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られた。
澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が15質量%未満である比較例1、2では、レトルトバッターの粘度が高く粘りが強いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが悪く、ヘラでの混合にムラが生じ易く作業性に難があり、弾力が強くて硬い塊状のゲルが得られた。澱粉組成物全量に対して糊化抑制澱粉が85質量%を超える比較例3、4では、レトルトバッターの粘度が低く流動性が高いために、ホットプレート上でのバッターの広がりが著しく、作業性に難があり、弾力に乏しく粘りのない薄くて弱い皮膜状のゲルが得られた。
【0029】
[試験例2 レトルトバッターにおける糊化促進澱粉と糊化抑制澱粉の含有量]
表6記載の質量部の評価1の糊化抑制澱粉(リン酸架橋澱粉)、評価11の糊化促進澱粉(HP化リン酸架橋澱粉)及び水を使用した以外は、試験例1に従ってレトルトバッターを調製して評価した。結果を表6に示す。
【0030】
【表6】
【0031】
レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して4.5〜13.5質量%である実施例はいずれも良好な結果を示した。具体的には、実施例4では、レトルトバッターがホットプレート上でやや広がり易かったが、ヘラ混合でのまとまりがあり、得られたゲルはやや薄めではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性及びゲルの状態共に良好であった。実施例5では、レトルトバッターがホットプレート上で適度に広がり、ヘラ混合でまとまり易く、得られたゲルは厚めで弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性及びゲルの状態共に良好であった。
レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して4.5質量%未満である比較例5では、レトルトバッター粘度が低くいので、ホットプレート上でのバッターのまとまりが悪く、焼成に時間を要するため、作業性が悪かったが、得られたゲルは薄めではあるものの弾力を有する膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には幾分及ばなかった。レトルトバッター用澱粉組成物が、バッター全量に対して13.5質量%を超える比較例6では、レトルトバッター粘度が高いので、ホットプレート上での広がりが悪く、ヘラでの混合にムラができ易く、作業性が悪かったが、得られたゲルは厚みがあってやや硬い膜状ゲルが得られ、作業性とゲルの状態とを勘案すると許容範囲には至らなかった。
【0032】
以下の製造例1〜5においては、糊化抑制澱粉としてパインべークCC、糊化促進澱粉としてクリアテクストB3を使用した。
[製造例1 お好み焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉6.5質量部と糊化促進澱粉6.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁87質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してお好み焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してお好み焼き用レトルトバッターを得た。
お好み焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、3mm幅のキャベツ200g、5mm角のイカ20g、揚げ玉20g、山芋パウダー10g、タマゴ2個を加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なお好み焼き様食品が得られた。
【0033】
[製造例2 たこ焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉5.5質量部と糊化促進澱粉5.5質量部とを粉体混合した後、魚節と昆布のだし汁89質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してたこ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してたこ焼き用レトルトバッターを得た。
たこ焼き用レトルトバッター300gを容器に投入し、小口切りのネギ25g、みじん切りの紅生姜25g、揚げ玉25g、ベーキングパウダー10g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したたこ焼き用鉄板に流し込み、1cm角のタコを各穴に投入して焼成したところ、良好なたこ焼き様食品が得られた。
【0034】
[製造例3 もんじゃ焼き様食品の製造]
糊化抑制澱粉4.5質量部と糊化促進澱粉4.5質量部とを粉体混合した後、水86質量部とウスターソース5質量部との混合液に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してもんじゃ焼き用バッターを得た。これをレトルトパウチに200gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してもんじゃ焼き用レトルトバッターを得た。
もんじゃ焼き用レトルトバッター200gを容器に投入し、5mm角のキャベツ150g、スイートコーン20g、5mm角のイカ15g、揚げ玉15gを加えて十分に練り上げた。これを220℃に加熱したホットプレートで焼成したところ、良好なもんじゃ焼き様食品が得られ、お焦げも賞味することができた。
【0035】
[製造例4 クレープ様食品の製造]
糊化抑制澱粉6質量部と糊化促進澱粉6質量部とを粉体混合した後、2質量%の砂糖水88質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化してクレープ用バッターを得た。これをレトルトパウチに300gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理してクレープ用レトルトバッターを得た。
クレープ用レトルトバッター300gを容器に投入し、スキムミルク30g、タマゴ1個を加えて十分に練り上げた。これを200℃に加熱したホットプレートに流し込み、円形になるようにのばして焼成したところ、良好なクレープ様食品が得られた。
【0036】
[製造例5 トンカツ様食品の製造]
糊化抑制澱粉5質量部と糊化促進澱粉5質量部とを粉体混合した後、水90質量部に懸濁し、75℃で加熱混合して均質化して揚物用バッターを得た。これをレトルトパウチに250gずつ充填・密封し、121℃で30分間レトルト処理して揚物用レトルトバッターを得た。
揚物用レトルトバッター200gを容器に投入し、一口サイズの豚肉(1.0×2.5×3.5cm)へ均等に揚物用レトルトバッターを被覆させ、パン粉を満遍なく付着させた後、180℃に熱した食用油でフライしたところ、良好なトンカツ様食品が得られた。