(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンテナの大規模補修時などには、送信機負荷の変化を把握し整合調整を行うために、アンテナの誘起電圧が高く、誘起電圧の周波数と測定信号の周波数とが同じ環境下でもアンテナインピーダンスを測定することが求められる。特許文献1および非特許文献1に開示されている方法では、このような環境下では、アンテナインピーダンスを測定することは困難である。
【0007】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、アンテナに高い高周波電圧が誘起される環境下でも、誘起電圧と同一周波数によりアンテナインピーダンスを測定することができるインピーダンス測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るインピーダンス測定装置は、アンテナインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置であって、アンテナに誘起される高周波誘起電圧成分と高周波誘起電流成分との位相差を検出する位相差検出器と、前記位相差検出器により検出された位相差、前記アンテナに接続する既知の負荷抵抗、前記高周波誘起電圧成分および前記高周波誘起電流成分に基づき、アンテナインピーダンスを算出する第1の演算器と、を備える。
【0009】
また、本発明に係るインピーダンス測定装置において、基準信号の振幅および位相を調整した第1の基準信号を生成する第1の調整部と、前記基準信号の振幅および位相を調整した第2の基準信号を生成する第2の調整部と、前記第1の調整部により生成された前記第1の基準信号を第1の入力とし、前記高周波誘起電圧成分を第2の入力とし、前記第1の基準信号と前記高周波誘起電圧成分との差を出力する第2の演算器と、前記第2の調整部により生成された前記第2の基準信号を第1の入力とし、前記高周波誘起電流成分を第2の入力とし、前記第2の基準信号と前記高周波誘起電流成分との差を出力する第3の演算器とをさらに備え、前記第1の調整部は、前記第2の演算器の出力がゼロとなるように設定され、前記第2の調整部は、前記第3の演算器の出力がゼロとなるように設定され、前記位相差検出器は、前記第1の調整部により生成された前記高周波誘起電圧成分としての前記第1の基準信号と、前記第2の調整部により生成された前記高周波誘起電流成分としての前記第2の基準信号との位相差を検出することが望ましい。
【0010】
また、本発明に係るインピーダンス測定装置において、基準信号の振幅および位相を調整した第1の基準信号を生成する第1の調整部と、前記基準信号の振幅および位相を調整した第2の基準信号を生成する第2の調整部と、前記第1の調整部により生成された前記第1の基準信号を第1の入力とし、前記高周波誘起電圧成分を第2の入力とする第2の演算器と、前記第2の調整部により生成された前記第2の基準信号を第1の入力とし、前記高周波誘起電流成分を第2の入力とする第3の演算器とをさらに備え、前記第2の演算器および前記第3の演算器はそれぞれ、前記基準信号に基づき、前記第1の入力と前記第2の入力との差分の直交検波を行い、前記直交検波により得られる同相成分と直交成分とを合成して出力し、前記第1の調整部は、前記第2の演算器の出力がゼロとなるように設定され、前記第2の調整部は、前記第3の演算器の出力がゼロとなるように設定されることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るインピーダンス測定装置によれば、アンテナに高い高周波電圧が誘起される環境下でも、誘起電圧と同一周波数によりアンテナインピーダンスを測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはもちろんである。また、図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
【0014】
まず、
図1を参照して、本発明によるアンテナインピーダンスZの測定原理について、説明する。
【0015】
図1(a)に示すように、アンテナに誘起される高周波誘起電圧成分Veを信号源とし、
図1(b)に示すように、アンテナインピーダンスZに既知の負荷抵抗Rを接続する(アンテナインピーダンスZを測定したいアンテナ基部を既知の負荷抵抗Rで終端する)。そして、負荷抵抗Rに流れる電流Iに基づき、以下の式(1)および式(2)から鳳テブナンの定理を用いて、|Z+R|を算出する。また、高周波誘起電圧成分Veと電流Iとの位相差を測定することで、アンテナインピーダンスZの実数値R
aと虚数値X
aとを算出する。
【0017】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態に係るインピーダンス測定装置10の構成を示す図である。
【0018】
図2に示すインピーダンス測定装置10は、分配器11と、増幅器12a,12bと、移相器13a,13bと、演算器14(第2の演算器)と、演算器15(第3の演算器)と、位相差検出器16と、演算器17(第1の演算器)とを備える。増幅器12aおよび移相器13aは、調整部18a(第1の調整部)を構成し、増幅器12bおよび移相器13bは、調整部18b(第2の調整部)を構成する。
【0019】
分配器11は、アンテナインピーダンスZの測定用の搬送波基準信号E0(高周波誘起電圧に同期した基準信号)が入力され、入力された搬送波基準信号E0を調整部18aと調整部18bとに分配する。
【0020】
調整部18aは、分配器11から出力された搬送波基準信号E0の振幅および位相を調整する。具体的には、調整部18aは、搬送波基準信号E0の振幅を調整する増幅器12aと、搬送波基準信号E0の位相を調整する移相器13aとを備える。そして、調整部18aは、振幅および位相を調整して生成した信号を基準信号E1(第1の基準信号)として演算器14、位相差検出器16および演算器17に出力する。
【0021】
演算器14は、調整部18aから基準信号E1が入力され(第1の入力)、アンテナに誘起される高周波誘起電圧成分Veが入力信号E2として入力される(第2の入力)。高周波誘起電圧成分Veは、
図1(a)に示すように、アンテナの出力端を開放した状態での電圧測定により求められる。演算器14は、差動増幅器として動作し、基準信号E1と入力信号E2との差を信号E5として出力する。調整部18aは、基準信号E1と入力信号E2とが同相同振幅となるように、すなわち、信号E5(=E1−E2)がゼロとなるように、増幅器12aおよび移相器13aを設定する。したがって、基準信号E1は、高周波誘起電圧成分Veに置き換えられる(高周波誘起電圧成分Veと同相同振幅となる)。
【0022】
調整部18bは、分配器11から出力された搬送波基準信号E0の振幅および位相を調整する。具体的には、調整部18bは、搬送波基準信号E0の振幅を調整する増幅器12bと、搬送波基準信号E0の位相を調整する移相器13bとを備える。そして、調整部18bは、振幅および位相を調整して生成した信号を基準信号E3(第2の基準信号)として演算器15、位相差検出器16および演算器17に出力する。
【0023】
演算器15は、調整部18bから基準信号E3が入力され(第1の入力)、アンテナに誘起される高周波誘起電流成分Viが入力信号E4として入力される(第2の入力)。高周波誘起電流成分Viは、負荷抵抗Rの両端電圧を測定することで求められる。演算器15は、差動増幅器として動作し、基準信号E3と入力信号E4との差を信号E6として出力する。調整部18bは、基準信号E3と入力信号E4とが同相同振幅となるように、すなわち、信号E6(=E3−E4)がゼロとなるように、増幅器12bおよび移相器13bを設定する。したがって、基準信号E3は、高周波誘起電流成分Viに置き換えられる(高周波誘起電流成分Viと同相同振幅となる)。
【0024】
位相差検出器16は、調整部18aから出力された基準信号E1(高周波誘起電圧成分Veと同相同振幅)と、調整部18bから出力された基準信号E3(高周波誘起電流成分Viと同相同振幅)との位相差θを検出し、検出した位相差θを演算器17に出力する。すなわち、位相差検出器16は、高周波誘起電圧成分Veと高周波誘起電流成分Viとの位相差θを検出していることになる。
【0025】
演算器17は、位相差検出器16により検出された位相差θ、アンテナに接続する負荷抵抗R、高周波誘起電圧成分Veおよび高周波誘起電流成分Viに基づき、アンテナインピーダンスZを算出する。具体的には、演算器17は、以下の式(3)に基づき、アンテナインピーダンスZの実数値Raを算出して、信号E7として出力する。また、演算器17は、以下の式(4)に基づき、アンテナインピーダンスZの虚数値+jXaを算出して、信号E8として出力する。なお、上述したように、|Z+R|は、式(1),(2)より高周波誘起電圧成分Ve、高周波誘起電流成分Viおよび負荷抵抗Rから算出することができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、分配器11、調整部18a,18b、演算器14,15といった、高周波誘起電圧成分Veを基準信号E1に置き換え、高周波誘起電流成分Viを基準信号E3に置き換えるための構成は必ずしも必須ではなく、要は、高周波誘起電圧成分Veと高周波誘起電流成分Viとの位相差θを検出することで、この位相差θと、高周波誘起電圧成分Veと、高周波誘起電流成分Viと、負荷抵抗Rとを用いて、アンテナインピーダンスZを算出することができる。
【0028】
このように本実施形態によれば、インピーダンス測定装置10は、高周波誘起電圧成分Veに相当する基準信号E1と高周波誘起電流成分Viに相当する基準信号E3との位相差θを検出する位相差検出器16と、位相差検出器16により検出された位相差θ、アンテナに接続する既知の負荷抵抗R、高周波誘起電圧成分Veおよび高周波誘起電流成分Viに基づき、アンテナインピーダンスZを算出する演算器17とを備える。
【0029】
高周波誘起電圧成分Veと高周波誘起電流成分Viとの位相差θ、既知の負荷抵抗R、高周波誘起電圧成分Veおよび高周波誘起電流成分Viを用いてアンテナインピーダンスZを求めることができるので、アンテナの誘起電圧や測定信号の周波数に関わらず、アンテナインピーダンスZを測定することができる。すなわち、アンテナに高い高周波電圧が誘起される環境下でも、誘起電圧と同一周波数によりアンテナインピーダンスZを測定することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
第1の実施形態においては、周波数の異なる複数の外来波がアンテナに到来する場合や、測定周波数と同じ周波数であり、変調された高周波誘起電圧がアンテナに到来する場合には、信号E5および信号E6の零点を検出することができず、ひいてはアンテナインピーダンスZを測定することができない。本実施形態においては、このような場合にも、アンテナインピーダンスZを測定するための構成について説明する。
【0031】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るインピーダンス測定装置10Aの構成を示す図である。
【0032】
図3に示すインピーダンス測定装置10Aは、
図2に示すインピーダンス測定装置10と比較して、分配器11を分配器11Aに変更した点と、演算器14を演算器14Aに変更した点と、演算器15を演算器15Aに変更した点とが異なる。
【0033】
分配器11Aは、搬送波基準信号E0が入力され、入力された搬送波基準信号E0を調整部18aと調整部18bとに分配する。また、分配器11Aは、搬送波基準信号E0を基準信号E9として演算器14Aに出力するとともに、搬送波基準信号E0を基準信号E10として演算器15Aに出力する。
【0034】
演算器14Aは、分配器11Aから入力された基準信号E9に基づき、基準信号E1(第1の入力)と入力信号E2(第2の入力)との差分の直交検波を行う。そして、演算器14Aは、直交検波により得られる同相成分(I軸成分)と直交成分(Q軸成分)とを合成して、信号E5として出力する。
【0035】
演算器15Aは、分配器11Aから入力された基準信号E10に基づき、基準信号E3(第1の入力)と入力信号E4(第2の入力)との差分の直交検波を行う。そして、演算器15Aは、直交検波により得られる同相成分(I軸成分)と直交成分(Q軸成分)とを合成して、信号E6として出力する。
【0036】
次に、演算器14Aの構成について、
図4を参照して説明する。
【0037】
図4に示す演算器14Aは、差動増幅器21と、90度移相器22と、掛算器23a,23bと、LPF(Low Pass Filter)24a,24bと、二乗回路25a,25bと、合成器26とを備える。
【0038】
差動増幅器21は、基準信号E1と入力信号E2とが入力され、入力された基準信号E1と入力信号E2との差を掛算器23aおよび掛算器23bに出力する。
【0039】
なお、以下では、変調波により変調された高周波誘起電圧がアンテナに誘起しているものとする。この場合、入力信号E2(高周波誘起電圧成分Ve)の波形aは、以下の式(5)で表される。また、基準信号E1の波形bは、以下の式(6)で表される。
【0041】
式(5)において、Aは搬送波振幅であり、mは変調度であり、ω
pは変調波角周波数であり、tは時間であり、θ
1は搬送波位相であり、ω
cは搬送波角周波数である。また、式(6)において、Bは搬送波振幅であり、θ
2は搬送波位相である。
【0042】
このとき、差動増幅器21の出力波形cは、以下の式(7)で表される。
【0044】
分配器11Aから出力された信号E9(搬送波基準信号)は、掛算器23aと90度移相器22とに入力される。信号E9の波形dは、以下の式(8)で表される。
【0046】
式(8)において、Dは搬送波振幅である。
【0047】
90度移相器22は、分配器11Aから出力された信号E9(搬送波基準信号)の位相を90度シフトして掛算器23bに出力する。90度移相器22の出力波形eは、以下の式(9)で表される。
【0049】
式(9)において、Eは搬送波振幅である。
【0050】
掛算器23aは、差動増幅器21の出力と搬送波基準信号(信号E9)とを乗算し、その積をLPF24aに出力する。掛算器23aの出力波形fは、以下の式(10)で表される。
【0052】
LPF24aは、掛算器23aの出力のうち、変調波よりも低周波帯のみを通過させ、二乗回路25aに出力する。LPF24aの出力波形gは、波形a、波形bおよび波形dの搬送波に比例した直流となり、以下の式(11)で表される。
【0054】
二乗回路25aは、LPF24aの出力を二乗して、合成器26に出力する。LPF24aの出力波形gは±gの両極性を持った直流電圧となるため、二乗回路25aで二乗することで、正極性の電力に比例した値とする。二乗回路25aの出力波形hは、以下の式(12)で表される。
【0056】
掛算器23bは、差動増幅器21の出力と90度移相器22の出力とを乗算し、その積をLPF24bに出力する。掛算器23bの出力波形iは、以下の式(13)で表される。
【0058】
LPF24bは、掛算器23bの出力のうち、変調波よりも低周波帯のみを通過させ、二乗回路25bに出力する。LPF24bの出力波形jは、波形a、波形bおよび波形eの搬送波に比例した直流となり、以下の式(14)で表される。
【0060】
二乗回路25bは、LPF24bの出力を二乗して、合成器26に出力する。LPF24bの出力波形jは±jの両極性を持った直流電圧となるため、二乗回路25bで二乗することで、正極性の電力に比例した値とする。二乗回路25bの出力波形k、は以下の式(15)で表される。
【0062】
合成器26は、二乗回路25aの出力(信号E1と信号E2の差分に搬送波基準信号(cos成分)が乗算された同相成分(I軸成分))と二乗回路25bの出力(信号E1と信号E2の差分に搬送波基準信号から90度だけ位相がシフトされた信号(sin成分)が乗算された直交成分(Q軸成分))とを合成(加算)して出力する。合成器26の出力波形lは以下の式(16)で表される。
【0064】
このように、演算器14Aは、信号E1と信号E2の差分に、90度位相の異なる信号をそれぞれ乗算する直交検波を行い、直交検波により得られる同相成分(I軸成分)と直交成分(Q軸成分)とを合成して出力する。
【0065】
調整部18aは、合成器26の出力波形lがゼロとなるように、増幅器12aおよび移相器13aを設定する。ここで、式(16)においては、変調波に起因する成分(変調波角周波数ω
p)が含まれておらず、目的とする周波数の直流成分のみとなっている。したがって、希望波以外の外来波、又は変調された誘起電圧が到来する場合にも、その外来波や変調波の影響を受けずに、信号E5の零点を検出し、目的とする周波数の誘起電圧を用いて、アンテナインピーダンスZを測定することができる。
【0066】
なお、演算器15Aの構成は、演算器14Aの構成と同様である。ただし、演算器15Aおいては、信号E1と信号E2とに換えて、信号E3と信号E4とが差動増幅器21に入力され、また、信号E9に換えて、信号E10が掛算器23aおよび90度移相器22に入力される。こうすることで、演算器15Aの出力(信号E6)は、目的とする周波数の直流成分のみとなり、希望波以外の外来波、又は変調された誘起電圧が到来する場合にも、その外来波や変調波の影響を受けずに、信号E6の零点を検出し、目的とする周波数の誘起電圧を用いて、アンテナインピーダンスZを測定することができる。
【0067】
上述した第1および第2の実施形態においては、入力信号E2として、高周波誘起電圧成分Veに比例した信号(高周波誘起電圧成分Veを所定の分圧比で分圧した信号)を用いてもよいし、また、入力信号E4として、高周波誘起電流成分Viに比例した信号(高周波誘起電流成分Viを所定の分圧比で分圧した信号)を用いてもよい。
【0068】
本発明を図面および実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。