(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る被覆光ファイバ10の断面図である。
図1に示すように、被覆光ファイバ10は、ガラス光ファイバ11と、ガラス光ファイバ11の外周に被覆されたプライマリ層12(1次被覆層)及びセカンダリ層13(2次被覆層)を含む2層の被覆層14とを有する。プライマリ層は0.2MPa以上3.0MPa以下のヤング率を有する軟質層であり、セカンダリ層は500MPa以上2500MPa以下のヤング率を有する硬質層である。プライマリ層12及びセカンダリ層13は、それぞれ紫外線硬化型樹脂を含む光ファイバ用被覆材料に紫外線を照射して硬化させることによって形成される層からなり、ガラス光ファイバ11を保護する機能を有している。
【0017】
被覆光ファイバ10は
図1に示した構成に限定されない。例えば、被覆層14は0.2MPa以上2000MPa以下のヤング率を有する単層からなってよい。また、被覆層14は3層以上の層を含んでよい。また、被覆光ファイバ10は、被覆層14の外周に被覆された着色層をさらに有する光ファイバ心線の形態をとってよい。また、被覆光ファイバ10は、複数の被覆光ファイバ10を束ねる一括被覆層をさらに有する光ファイバテープ心線の形態をとってよい。
【0018】
ガラス光ファイバ11の直径は、通常80μm以上150μm以下であり、124μm以上126μm以下であることが一般的である。プライマリ層12の厚さは、通常5μm以上50μm以下である。また、セカンダリ層13の厚さは、通常5μm以上50μm以下である。また、被覆光ファイバ10の直径(すなわち、セカンダリ層13の外径)は、通常200μm以上255μm以下である。
【0019】
本実施形態に係る光ファイバ用被覆材料は、被覆層14の被覆材料として用いられ、被覆層14を構成する少なくとも一層が本実施形態に係る光ファイバ用被覆材料からなる。本実施形態に係る光ファイバ用被覆材料は、好適には、例えば、プライマリ層12の被覆材料、単層からなる被覆層14等のガラス光ファイバ11と接触する被覆層の被覆材料として用いられる。以下、本実施形態に係る光ファイバ用被覆材料として、被覆層14の被覆材料について詳述する。「被覆層14の被覆材料」とは、被覆層14がプライマリ層12及びセカンダリ層13を含む場合におけるプライマリ層12の被覆材料を意味することができ、また、被覆層14が単層からなる場合における当該被覆層14の被覆材料を意味することができる。
【0020】
被覆層14の被覆材料は、紫外線硬化型樹脂を含む。紫外線硬化型樹脂は、例えば、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートのようなウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどの紫外線で重合及び硬化するエチレン性不飽和基を有する紫外線硬化型樹脂であり、エチレン性不飽和基を少なくとも2つ有するものであることが好ましい。紫外線硬化型樹脂は、紫外線の照射により重合を開始して硬化するモノマー、オリゴマー又はポリマーでありうるが、好ましくはオリゴマーである。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、ここでオリゴマーとは、重合度が2以上100以下の重合体である。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0021】
ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリエーテル骨格を有するポリオールと、有機ポリイソシアネート化合物及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応物のように、ポリエーテルセグメント、(メタ)アクリレート及びウレタン結合を有する化合物である。また、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリエステル骨格を有するポリオールと、有機ポリイソシアネート化合物及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応物のように、ポリエステルセグメント、(メタ)アクリレート及びウレタン結合を有する化合物である。
【0022】
さらに、紫外線硬化樹脂は、オリゴマー及び光重合開始剤に加えて、例えば希釈モノマー、光増感剤、連鎖移動剤及び各種添加剤を含んでもよい。希釈モノマーとしては、単官能(メタ)アクリレート又は多官能(メタ)アクリレートが用いられる。ここで、希釈モノマーとは、紫外線硬化樹脂を希釈するためのモノマーを意味する。
【0023】
希釈モノマーとしての単官能(メタ)アクリレート又は多官能(メタ)アクリレートには、以下のものを挙げることができる。例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、アダマンチルモノ(メタ)アクリレートなどのモノ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の多官能(メタ)アクリレート;前記(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0024】
上記希釈モノマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。希釈モノマーの添加量は、得られる塗膜である被覆層14の耐摩耗性を考慮して、オリゴマー100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、10〜70質量部であることがより好ましい。
【0025】
さらに、被覆層14の被覆材料は、加水分解及び脱水縮合によりガラス光ファイバ11の表面と相互作用するシランカップリング剤、及び加熱によりルイス酸やブレンステッド酸などの酸を発生する熱酸発生剤を含む。熱酸発生剤から発生した酸により、シランカップリング剤の加水分解及び脱水縮合が促進され、被覆層14に含まれる樹脂とガラス光ファイバ11との間の密着力が向上する。
【0026】
[熱酸発生剤]
酸発生剤には、光照射により酸を発生する光酸発生剤と、熱により酸を発生する熱酸発生剤の2種類が存在する。本実施形態では、熱によって酸を発生することを目的とし、熱酸発生剤を用いる。なお、後述するように、本実施形態では、熱酸発生剤とともに、光酸発生剤を用いることもできる。
【0027】
熱酸発生剤は、熱潜在性カチオン開始剤としてエポキシ樹脂の熱硬化などに使用され、所定の温度以上に加熱されると分解し、酸を発生する。本実施形態で用いる熱酸発生剤の酸発生温度(分解温度)は、熱酸発生剤の種類によって異なるが、被覆光ファイバ10への影響を低減するために、60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることが特に好ましい。
【0028】
被覆層14の被覆材料に使用できる熱酸発生剤は、熱分解によって酸を発生するものであれば特に限定されない。例えば熱酸発生剤として、カチオン成分とアニオン成分とが対になった有機オニウム塩化合物などのオニウム塩系熱酸発生剤が用いられる。熱酸発生剤のカチオン成分としては、例えば、有機スルホニウム塩化合物、有機オキソニウム塩化合物、有機アンモニウム塩化合物、有機ホスホニウム塩化合物、有機ヨードニウム塩化合物などの各種オニウム塩系化合物などが挙げられる。また、熱酸発生剤のアニオン成分としては、例えば、B(C
6F
5)
4−、SbF
6−、SbF
4−、AsF
6−、PF
6−、BF
4−、CF
3SO
3−などが挙げられる。また、例えば、アルミニウムキレート錯体、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体などの有機金属錯体、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキル又はビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤なども熱酸発生剤として機能する。これらは1種のみで用いられてよく、あるいは2種以上を混合して用いられてよい。
【0029】
熱酸発生剤の市販品としては、例えば、K−PURE(登録商標、以下省略) CXC−1612、K−PURE CXC−1613、K−PURE CXC−1614、K−PURE CXC−1738、K−PURE CXC−2700、K−PURE TAG−2689、K−PURE TAG−2681、K−PURE TAG−2685、K−PURE TAG−2690、K−PURE TAG−2712、K−PURE TAG−2713(以上、KING INDUSTRIES社製、商品名)、サンエイドSI−45L、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L、サンエイドSI−110L、サンエイドSI−150L(以上、三新化学工業株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0030】
熱酸発生剤から酸を発生させるために、被覆光ファイバ10の製造中あるいは製造後に熱酸発生剤の酸発生温度(分解温度)で加熱を行う。熱酸発生剤は、紫外線硬化型樹脂硬化時の光源からの熱や樹脂自身の反応熱により、追加の工程を行うことなく酸を発生し得る。また、後述の第2の実施形態のように、追加の加熱工程を別途設定してもよい。
【0031】
熱酸発生剤の添加量は、被覆層14の被覆材料に対して好ましくは0.01wt%以上10wt%以下、より好ましくは0.1wt%以上5wt%以下である。この範囲よりも少ないと発生する酸の量が少ないためシランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応の促進効果が低く、被覆層14とガラス光ファイバ11との間の密着性発現に時間を要する。この範囲よりも多いと被覆材料の保存安定性が低下するおそれがある。なお、「wt%」とは、重量パーセント濃度を示している(以下、同じ)。
【0032】
本実施形態では、被覆層14の被覆材料に熱によって酸を発生する熱酸発生剤を添加するため、光ファイバの製造時に熱を加えることによってシランカップリング剤の反応を促進させることができる。熱を加えていない状態では熱酸発生剤から酸がほとんど発生しないため被覆材料の取り扱いが容易である。
【0033】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、本発明の効果の妨げにならないものであれば、公知公用のものを含め任意のものを用いることができる。シランカップリング剤の添加量は、実験等によって適宜決定される。シランカップリング剤の具体的な化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0034】
シランカップリング剤の添加量は、被覆層14に対して0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上5.0wt%以下であることがより好ましい。上記範囲であると、ガラス光ファイバ11と被覆層14との密着力が十分となり、且つ被覆材の保存安定性に優れる。
【0035】
さらに、被覆層14の被覆材料は、希釈モノマー、光重合開始剤、光酸発生剤、光増感剤、連鎖移動剤及び各種添加剤を含んでよい。希釈モノマーとしては、単官能(メタ)アクリレート又は多官能(メタ)アクリレートが用いられる。希釈モノマーとは、紫外線硬化型樹脂を希釈するためのモノマーである。
【0036】
[光重合開始剤]
光重合開始剤は、紫外線照射装置から発せられる波長領域の光を吸収し、ラジカルを発生することによって紫外線硬化型樹脂に重合を開始させる。光重合開始剤の添加量は、実験等によって適宜決定される。光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンジルケタール系光重合開始剤、α−ヒドロキシケトン系光重合開始剤、α−アミノケトン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、オキシムエステル系光重合開始剤、アクリジン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、芳香族ケトエステル系光重合開始剤、安息香酸エステル系光重合開始剤などを用いることができる。
【0037】
ベンジルケタール系光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンが挙げられる。
【0038】
α−ヒドロキシケトン系光重合開始剤としては、例えば、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]−2−メチルプロパン−1−オンが挙げられる。
【0039】
α−アミノケトン系光重合開始剤としては、例えば、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジエチルアミノ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−エチルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−イソプロピルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ブチルフェニル)−2−ジメチルアミノ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−ジメチルアミノフェニル)−ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォルニル)フェニル]−1−ブタノンが挙げられる。
【0040】
アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシドが挙げられる。
【0041】
オキシムエステル系光重合開始剤としては、例えば、1−フェニルプロパン−1,2−ジオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニルブタン−1,2−ジオン−2−(O−メトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニルプロパン−1,2,3−トリオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム、1−[4−(フェニルチオ)フェニル]オクタン−1,2−ジオン−2−(O−ベンゾイル)オキシム、1−[4−[4−(カルボキシフェニル)チオ]フェニル]プロパン−1,2−ジオン−2−(O−アセチル)オキシム、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン−1−(O−アセチル)オキシム、1−[9−エチル−6−[2−メチル−4−[1−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルオキシ]ベンゾイル]−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン−1−(O−アセチル)オキシムが挙げられる。
【0042】
アクリジン系光重合開始剤としては、例えば、1,7−ビス(アクリジン−9−イル)−n−ヘプタンが挙げられる。
【0043】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、アルキル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、ジベンジルケトン、フルオレノンが挙げられる。
【0044】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,3−ジエトキシアセトフェノン、4−t−ブチルジクロロアセトフェノン、ベンザルアセトフェノン、4−アジドベンザルアセトフェノンが挙げられる。
【0045】
芳香族ケトエステル系光重合開始剤としては、例えば、2−フェニル−2−オキシ酢酸メチルが挙げられる。
【0046】
安息香酸エステル系光重合開始剤としては、例えば、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−エチル)ヘキシル、4−ジエチルアミノ安息香酸エチル、2−ベンゾイル安息香酸メチルが挙げられる。
【0047】
光重合開始剤の市販品としては、IRGACURE(登録商標、以下省略)651、IRGACURE 184、IRGACURE 1173、IRGACURE 2959、IRGACURE 127、IRGACURE 907、IRGACURE 369、IRGACURE 379、IRGACURE TPO、IRGACURE 819、IRGACURE OXE01、IRGACURE OXE02、IRGACURE MBF、IRGACURE 754(以上、BASF社製、商品名)、アデカアークルズ(登録商標)NCI−831(株式会社ADEKA製、商品名)などが挙げられる。
【0048】
光重合開始剤の添加量は、上述のように実験等によって適宜決定しうるが、被覆層14の被覆材料に対して0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0.1wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。光重合開始剤の添加量が過小である場合には、得られる樹脂組成物のラジカル重合の反応速度、すなわち硬化速度が低くなって硬化に時間を要したり、硬化特性が低下したりする傾向がある。一方、添加量が過大である場合には、過剰量の光重合開始剤が樹脂層の深部硬化性を低下させることがある。
【0049】
[光酸発生剤]
さらに、被覆層14の被覆材料は、光酸発生剤を含んでよい。光酸発生剤は、照射された光を吸収し、次いで分解して、溶媒又は光酸発生剤自身から水素を引き抜くことで、酸を発生する。光酸発生剤は、紫外線硬化型樹脂の硬化時に紫外線を吸収して酸を発生し、発生した酸によりシランカップリング剤の加水分解及び脱水縮合を促進する。しかし、過剰の光酸発生剤の添加は同じく紫外線を吸収しラジカル種を発生する光重合開始剤の反応を阻害する場合がある。そのため、光酸発生剤の添加量は、紫外線硬化型樹脂の硬化性を損ねない量である必要があり、光重合開始剤の添加量以下であることが好ましく、光重合開始剤の添加量よりも少ないことがより好ましい。
【0050】
光酸発生剤が吸収する光は、光酸発生剤の種類によって異なるが、例えば約10nm以上405nm以下の波長領域の紫外線である。被覆層14の被覆材料に含まれる紫外線硬化型樹脂を硬化させる光の波長領域と、光酸発生剤に酸を発生させる光の波長領域との少なくとも一部が重複していることが好ましい。これにより、一種類の光源からの光によって紫外線硬化型樹脂の硬化と光酸発生剤による酸の発生とを同時に行うことができる。
【0051】
被覆層14の被覆材料に使用できる光酸発生剤は、光の照射によって酸を発生するものであれば特に限定されない。光酸発生剤は、オニウム塩系光酸発生剤と非イオン性光酸発生剤とに大別できる。本実施形態では、オニウム塩系光酸発生剤及び非イオン性光酸発生剤の少なくとも一方が用いられるが、それ以外の種類の光酸発生剤が用いられてもよい。
【0052】
オニウム塩系光酸発生剤としては、特に限定されないが、例えば、有機スルホニウム塩化合物、有機オキソニウム塩化合物、有機アンモニウム塩化合物、有機ホスホニウム塩化合物、有機ヨードニウム塩化合物であって、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ヘキサクロロアンチモネートアニオン、トリフルオロメタンスルフォン酸イオン、又はフルオロスルフォン酸イオンなどのカウンターアニオンを有するものなどが挙げられる。カウンターアニオンは、具体的には、例えば、B(C
6F
5)
4−、SbF
6−、SbF
4−、AsF
6−、PF
6−、BF
4−、CF
3SO
3−などである。これらは1種のみで用いられてよく、あるいは2種以上を混合して用いられてよい。
【0053】
オニウム塩系光酸発生剤の市販品としては、例えば、IRGACURE(登録商標、以下省略) 250、IRGACURE 270、IRGACURE PAG 290、GSID26−1(以上、BASF社製、商品名)、WPI−113、WPI−116、WPI−169、WPI−170、WPI−124、WPAG−336、WPAG−367、WPAG−370、WPAG−469、WPAG−638(以上、和光純薬工業株式会社製、商品名)、B2380、B2381、C1390、D2238、D2248、D2253、I0591、N1066、T1608、T1609、T2041、T2042(以上、東京化成工業株式会社製、商品名)、CPI−100、CPI−100P、CPI−101A、CPI−200K、CPI−210S、IK−1、IK−2(以上、サンアプロ株式会社製、商品名)、SP−056、SP−066、SP−130、SP−140、SP−150、SP−170、SP−171、SP−172(以上、ADEKA株式会社製、商品名)、CD−1010、CD−1011、CD−1012(以上、サートマー社製、商品名)、PI2074(ローディアジャパン株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0054】
非イオン性光酸発生剤としては、特に限定されないが、例えば、フェナシルスルホン型光酸発生剤、o−ニトロベンジルエステル型光酸発生剤、イミノスルホナート型光酸発生剤、N−ヒドロキシイミドのスルホン酸エステル型光酸発生剤などが挙げられる。これらは1種のみで用いられてよく、あるいは2種以上を混合して用いられてよい。非イオン性光酸発生剤の具体的な化合物としては、例えば、スルホニルジアゾメタン、オキシムスルホネート、イミドスルホネート、2−ニトロベンジルスルホネート、ジスルホン、ピロガロールスルホネート、p−ニトロベンジル−9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホネート、N−スルホニル−フェニルスルホンアミド、トリフルオロメタンスルフォン酸−1,8−ナフタルイミド、ノナフルオロブタンスルホン酸−1,8−ナフタルイミド、パーフルオロオクタンスルホン酸−1,8−ナフタルイミド、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸−1,8−ナフタルイミド、ノナフルオロブタンスルホン酸−1,3,6−トリオキソ−3,6−ジヒドロ−1H−11−チア−アザシクロペンタアントラセン−2−イルエステル、ノナフルオロブタンスルホン酸−8−イソプロピル−1,3,6−トリオキソ−3,6−ジヒドロ−1H−11−チア−2−アザシクロペンタアントラセン−2−イルエステル、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸クロリド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸クロリド、1,2−ベンゾキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸クロリド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸ナトリウム、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸ナトリウム、1,2−ベンゾキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸ナトリウム、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸カリウム、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸カリウム、1,2−ベンゾキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸カリウム、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸メチル、1,2−ベンゾキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸メチルなどが挙げられる。
【0055】
非イオン性光酸発生剤の市販品としては、例えば、IRGACURE PAG103、IRGACURE PAG121、IRGACURE PAG203、CGI725、CGI1907(以上、BASF社製、商品名)、WPAG−145、WPAG−149、WPAG−170、WPAG−199(以上、和光純薬工業株式会社製、商品名)、D2963、F0362、M1209、M1245(以上、東京化成工業株式会社製、商品名)、SP−082、SP−103、SP−601、SP−606(以上、ADEKA株式会社製、商品名)、SIN−11(株式会社三宝化学研究所製、商品名)、NT−1TF(サンアプロ株式会社製、商品名)などが挙げられる。
【0056】
光酸発生剤の添加量は、被覆層14の被覆材料に対して好ましくは0.01wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上である。これよりも光酸発生剤が少ない場合には、光酸発生剤から発生する酸の量が少ないためにシランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応の進行速度が低下し、被覆層14とガラス光ファイバ11との間の密着性発現に時間を要する。
【0057】
また、光酸発生剤の添加量は、上述のように、被覆層14の被覆材料に含まれる光重合開始剤の添加量以下であることが好ましく、光重合開始剤の添加量よりも少ないことがより好ましい。光酸発生剤を光重合開始剤よりも多く添加する場合には、同じく紫外線を吸収してラジカル種を発生する光重合開始剤の反応を阻害するため、被覆層14の硬化性が低下して弾性率が低下するおそれがある。具体的には、光酸発生剤の添加量は被覆層14の被覆材料に対して好ましくは10wt%以下、より好ましくは5wt%以下である。
【0058】
[光増感剤]
光増感剤は、光酸発生剤の感光性を向上させる目的で被覆層14の被覆材料に添加される。光増感剤は、光酸発生剤とは異なる波長領域の光を吸収するものであることが好ましい。光増感剤は、光酸発生剤では吸収できない波長領域の光を吸収することによって、光酸発生剤の感光性を向上させる。そのため、光増感剤の吸収波長域と光酸発生剤の吸収波長域とは異なっており、それらの重なりが少ないほど好ましい。
【0059】
光増感剤の添加量は、被覆層14の被覆材料に対して0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。光増感剤の添加量が0.1wt%以上であると、所望の感度が得やすく、また、10wt%以下であると、被膜の透明性を確保しやすい。
【0060】
被覆層14の被覆材料に使用できる光増感剤としては、特に限定されないが、例えば、アントラセン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、ベンゾイン誘導体などが挙げられる。
【0061】
光増感剤の具体的な化合物としては、特に限定されないが、例えば、9,10−ジアルコキシアントラセン、2−アルキルチオキサントン、2,4−ジアルキルチオキサントン、2−アルキルアントラキノン、2,4−ジアルキルアントラキノン、p,p′−ジアミノベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アルコキシベンゾフェノン、ベンゾインエ−テル、アントロン、アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセン、9−エトキシアントラセン、ピレン、ペリレン、コロネン、フェナントレン、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイル安息香酸ブチル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−i−ブチルエーテル、9−フルオレノン、アセトフェノン、p,p′−テトラメチルジアミノベンゾフェノン、p,p′−テトラエチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、フェノチアジン、アクリジンオレンジ、ベンゾフラビン、セトフラビン−T、2−ニトロフルオレン、5−ニトロアセナフテン、ベンゾキノン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、N−アセチル−p−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、N−アセチル−4−ニトロ−1−ナフチルアミン、ピクラミド、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン、ジベンザルアセトン、1,2−ナフトキノン、3,3′−カルボニル−ビス(5,7−ジメトキシカルボニルクマリン)、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセンなどが挙げられる。これらは1種のみで用いられてよく、あるいは2種以上を混合して用いられてよい。
【0062】
図2は、本実施形態に係る被覆光ファイバ10の製造方法に用いる製造装置20の模式図である。光ファイバ母材21は、例えば石英系のガラスからなり、VAD法、OVD法、MCVD法など周知の方法で製造される。光ファイバ母材21の端部は、光ファイバ母材21の周囲に配置された加熱装置であるヒータ22によって加熱されて溶融し、線引きされてガラス光ファイバ23(すなわち、
図1のガラス光ファイバ11)が引き出される。
【0063】
ヒータ22の下方には、ガラス光ファイバ23の外周に紫外線硬化型樹脂を塗布する樹脂塗布装置24(ダイス)が設けられる。樹脂塗布装置24には、プライマリ層12用の被覆材料(プライマリ層材料ともいう)とセカンダリ層13用の被覆材料(セカンダリ層材料ともいう)とが別々に保持される。ここで、少なくともプライマリ層材料は上述のシランカップリング剤及び熱酸発生剤を含む被覆材料である。セカンダリ層材料は上述の構成に限られず、例えばシランカップリング剤及び熱酸発生剤を含まなくてよい。光ファイバ母材21から引き出されたガラス光ファイバ23には、樹脂塗布装置24によってプライマリ層材料とセカンダリ層材料とが一括して塗布される。
【0064】
樹脂塗布装置24の下方には、プライマリ層材料及びセカンダリ層材料が被覆されたガラス光ファイバ25に対して紫外線を照射する紫外線照射装置26が設けられる。紫外線照射装置26は、半導体発光素子、水銀ランプなどの任意の紫外線光源を備える。樹脂塗布装置24によって紫外線硬化型樹脂が塗布されたガラス光ファイバ25は、紫外線照射装置26に入り、紫外線が照射される。その結果、ガラス光ファイバ25の外周に被覆された2層の紫外線硬化型樹脂は硬化され、該2層の紫外線硬化型樹脂はプライマリ層12及びセカンダリ層13になる。
【0065】
本実施形態では、紫外線照射装置26に含まれる光源からの熱や樹脂自身の反応熱により、被覆層14の被覆材料に含まれる熱酸発生剤から酸を発生させる。熱酸発生剤の種類に応じてより高い温度が必要な場合には、紫外線照射装置26内にヒータなどの熱源を設け、紫外線照射と同時に加熱を行ってもよい。
【0066】
外周にプライマリ層12とセカンダリ層13が形成されたガラス光ファイバ(すなわち、被覆光ファイバ10)は、ガイドローラ27にガイドされ、巻取り装置28に巻き取られる。
【0067】
本実施形態に係る被覆光ファイバ10の製造方法は、プライマリ層12及びセカンダリ層13を1つのダイスで塗布して硬化させるWet−On−Wet法を用いているが、プライマリ層12及びセカンダリ層13を別々のダイスで塗布して硬化させるWet−On−Dry法を用いてもよい。
【0068】
図3は、本実施形態に係る被覆光ファイバ10の製造方法のフローチャートを示す図である。まず、ユーザは製造装置20に光ファイバ母材21を設置する(ステップS11)。次に、ヒータ22は光ファイバ母材21を加熱し、ガラス光ファイバ23の線引きを開始する(ステップS12)。
【0069】
樹脂塗布装置24は、線引きされたガラス光ファイバ23にプライマリ層材料を被覆し(ステップS13)、次いでセカンダリ層材料を被覆する(ステップS14)。紫外線照射装置26は、プライマリ層材料及びセカンダリ層材料が被覆されたガラス光ファイバ25に対して紫外線を照射するとともに、加熱を行う(ステップS15)。紫外線の照射によって、プライマリ層材料及びセカンダリ層材料が硬化し、プライマリ層12とセカンダリ層13を備える被覆光ファイバ10が形成される。それと同時に、紫外線照射装置26に含まれる光源からの熱や樹脂自身の反応熱によって被覆材料に含まれる熱酸発生剤から酸が発生し、シランカップリング剤の反応が促進される。すなわち、本実施形態では加熱工程が紫外線照射工程に含まれている。
【0070】
本実施形態に係る被覆光ファイバ10の被覆層14(特にプライマリ層12)に用いる被覆材料は、熱酸発生剤を含む。熱酸発生剤は加熱によって初めて酸を発生するため、被覆材料の紫外線硬化時の反応熱や紫外線照射後の加熱により酸が発生する。発生した酸によってシランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応の進行が促進され、ガラス光ファイバ11と被覆層14との高い密着性が得られる。
【0071】
また、本実施形態に係る被覆光ファイバ10の被覆層14(特にプライマリ層12)に用いる被覆材料は、光酸発生剤を含んでよい。光酸発生剤を含む場合、光酸発生剤は紫外線照射によって初めて酸を発生するため、被覆材料の紫外線硬化と同時に酸が発生する。光酸発生剤により発生した酸によってもシランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応の進行が促進され、紫外線硬化後すぐにガラス光ファイバ11と被覆層14との高い密着性が得られる。熱酸発生剤だけでなく光酸発生剤をも用いることにより、熱酸発生剤だけを用いる場合よりもさらにシランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応を促進することができる。
【0072】
従来の光ファイバ心線において、浸水によって光損失が増すことが少なからず報告されている。光ファイバ心線が長期間浸水した場合、浸水により例えばガラス光ファイバ/プライマリ層界面の密着力が低下して部分的な剥離が生じ、それにより形成された空間に水が溜まってさらに剥離が拡大する。ガラス光ファイバ/プライマリ層界面に剥離が発生し、水が溜まるとガラス光ファイバに側圧を与えるため、マイクロベンドによる光損失増加が発生する。本実施形態に係る被覆光ファイバ10を用いた光ファイバ心線では、ガラス光ファイバ/プライマリ層界面の密着性が向上しているため、光ファイバ心線の浸水による光損失増加を抑制することができる。
【0073】
また、本実施形態に係る被覆光ファイバ10ではガラス光ファイバ/プライマリ層界面の密着性が向上しているため、ガラス光ファイバ11の破断強度の耐久性(動疲労特性で表される)を長期間にわたって安定的に維持できる。
【0074】
シランカップリング剤の反応を促進するために被覆材料を予め酸性又は塩基性にするような構成では、保管時にシランカップリング剤の反応が自然と進行するという問題がある。それに対して、本実施形態に係る被覆材料は冷暗所で保管すれば熱酸発生剤からほとんど酸が発生しないため、保存安定性が良好である。また、本実施形態に係る被覆材料が光酸発生剤をも含む場合であっても、本実施形態に係る被覆材料は冷暗所で保管すれば光酸発生剤からほとんど酸が発生しないため、保存安定性が良好である。
【0075】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では紫外線照射工程と加熱工程とが同一工程であったが、本実施形態では紫外線照射工程とは別の加熱工程を行う。加熱工程は、被覆材料を加熱できればよく、ガラス光ファイバに紫外線樹脂を塗布する被覆工程から硬化のための紫外線照射工程の前後を含むいずれかのタイミングで行われる。例えば、被覆工程、加熱工程及び紫外線照射工程をこの順に行ってよく、それらの順番を入れ替えてよい。また、被覆工程、加熱工程及び紫外線照射工程の全部又は一部が繰り返されてもよい。また、被覆工程及び加熱工程を同時に行ってよく、あるいは加熱工程及び紫外線照射工程を同時に行ってよい。
【0076】
図4〜6は、本実施形態に係る被覆光ファイバ10の製造方法に用いる製造装置20の模式図である。
図4〜6の製造装置20は、被覆材料を加熱する加熱装置29の位置が互いに異なる。
【0077】
図4の製造装置20では、第1の実施形態の構成に加えて、紫外線照射装置26の下方に筒状の加熱装置29が設けられる。加熱装置29は、紫外線照射装置26から紫外線が照射された後のガラス光ファイバ25が内部を通過する際に加熱を行う。
【0078】
図5の製造装置20では、第1の実施形態の構成に加えて、樹脂塗布装置24の側方を取り囲むように加熱装置29が設けられる。加熱装置29は樹脂塗布装置24のダイスを加熱することによって被覆材料を加熱し、樹脂塗布装置24は加熱された状態の被覆材料をガラス光ファイバ23に被覆する。
【0079】
図6の製造装置20では、第1の実施形態の構成に加えて、樹脂塗布装置24と紫外線照射装置26との間に筒状の加熱装置29が設けられる。加熱装置29は、樹脂塗布装置24によって被覆材料が被覆された後のガラス光ファイバ25が内部を通過する際に加熱を行う。
【0080】
図4〜6の加熱装置29は、テープヒータ、リボンヒータ、ラバーヒータ、オーブンヒータ、セラミックヒータ、赤外線照射ユニット、紫外線照射ユニット、電熱線ヒータ、カーボンヒータ、ハロゲンヒータなどの任意の熱源を備える。加熱装置29による加熱温度は、被覆光ファイバ10へのダメージを抑制するために、60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることが特に好ましい。
【0081】
図7は、
図4の製造装置20を用いた被覆光ファイバ10の製造方法のフローチャートを示す図である。ステップS11〜S15は第1の実施形態と同様である。ステップS15において紫外線を照射した後、加熱装置29は、被覆光ファイバ10(すなわち被覆層14の被覆材料)を所定の温度で加熱する(ステップS16)。
【0082】
図5の製造装置20を用いる場合には、
図7のフローチャートにおいて加熱工程(ステップS16)は被覆工程(ステップS13〜S14)と同時に行われる。また、
図6の製造装置20を用いる場合には、
図7のフローチャートにおいて加熱工程(ステップS16)は被覆工程(ステップS13〜S14)と紫外線照射工程(ステップS15)との間に行われる。本実施形態では被覆工程、紫外線照射工程及び加熱工程が一度ずつ行われているが、それらのうち少なくとも一部が2回以上繰り返されてもよい。
【0083】
本実施形態によれば、紫外線照射工程の温度では熱酸発生剤の分解温度に達しない場合であっても、加熱工程において被覆材料を熱酸発生剤の分解温度まで加熱して酸を発生させる。これにより、シランカップリング剤の加水分解反応及び脱水縮合反応を促進させ、ガラス光ファイバ11と被覆層14との高い密着性を得ることができる。
【0084】
また、被覆光ファイバ10の製造後に加熱工程を行ってもよい。具体的には、第1の実施形態に係る製造方法により被覆光ファイバ10を製造した後に、被覆光ファイバ10を所定の温度に設定された恒温槽に入れることによって加熱を行ってよい。これにより、製造装置20を第1の実施形態から変更することなく、加熱による界面密着力の向上効果を得ることができる。
【0085】
(実施例)
上述の実施形態に係る実施例及び比較例として以下の条件で試料を作製し、それらの性質を測定した。
【0086】
1.被覆材料の配合
被覆材料の紫外線硬化型樹脂として、紫外線硬化型のポリエーテル系ウレタンアクリレート系樹脂を使用した。オリゴマー中のポリエーテル部分の分子量、希釈モノマー及び反応性モノマーの種類及び配合量を変えることによって、ヤング率が1.0MPaになるように調整した。光重合開始剤としてLucirin(登録商標)TPO(BASF社製、商品名)3.0wt%を使用し、シランカップリング剤としてKBM−5103(信越化学工業株式会社製、商品名)1.5wt%を使用した。
【0087】
被覆材料に添加する熱酸発生剤として、1−ナフチルメチルメチル−p−ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(三新化学工業株式会社製、商品名サンエイドSI−60L、分解温度60℃)、又は2−メチルベンジルメチル−p−ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(三新化学工業株式会社製、商品名サンエイドSI−80L、分解温度80℃)を使用した。また、一部の実施例及び比較例の被覆材料には、熱酸発生剤であるSI−60Lに加えて、光酸発生剤であるジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(サンアプロ株式会社製、商品名CPI−101A)を添加した。各実施例及び比較例において、被覆材料に添加した酸発生剤の種類及び量は後述の表1のように様々に設定した。
【0088】
2.フィルムの作製
板状のガラス基材に各実施例及び比較例に係る被覆材料を100μmの厚さでスピンコートした。作製された試料をパージボックスに入れて窒素雰囲気にし、コンベヤ型紫外線照射装置にて積算光量500mJ/cm
2(波長365nm)になるように照度及び速度を調整して紫外線を照射した。これにより硬化された被覆材料を各実施例及び比較例に係るフィルムとした。コンベヤ型紫外線照射装置の光源としては、無電極UVランプ(表1中のDバルブ)、又は365±10nmにピーク波長を有する半導体発光素子(UV−LED)を備えた紫外線照射ユニット(表1中のLED)を用いた。
【0089】
3.熱エージング
一部の実施例については、光ファイバ製造後に熱エージングする場合を模擬して、紫外線照射後のフィルムを80℃に調整した恒温槽に24時間静置した。
【0090】
4.樹脂温度の測定
スピンコート後の被覆材料上に特定温度で変色し、一度変色すると元の色に戻らない不可逆性のサーモラベル(日油技研工業株式会社製、3E−60(温度組み合わせ60−70−80)及び3E−90(温度組み合わせ90−100−110))を貼り付け、紫外線照射後にサーモラベルが示す温度を紫外線照射時の樹脂温度とした。
【0091】
5.ヤング率の測定
被覆材料の硬化性の判定のために、フィルムのヤング率(引張弾性率)を用いた。各実施例及び比較例に係るフィルムをガラス基材より剥がし、6mm幅に切断して短冊状にし、それの2.5%モジュラスをJIS K7161に準拠して測定した。
【0092】
6.ガラス密着力の測定
被覆材料とガラス基材との界面密着力の判定のために、ガラス密着力を用いた。各実施例及び比較例に係るフィルムを10mm幅に切り、常温にて50mm/minでガラス基材の表面から90°の方向に引っ張ってガラス基材より剥がした際の力をガラス密着力として測定した。測定はフィルム作製の24時間後(24時間の熱エージングを行った実施例については熱エージングの直後)に行った。
【0093】
各実施例及び比較例の条件及び測定結果を表1に示す。
【0095】
実施例1〜4において、無電極UVランプから紫外線照射した際の熱(110℃より大)により熱酸発生剤SI−60Lから酸が発生してシランカップリング剤の反応が促進されるため、熱酸発生剤が添加されない場合よりもガラス密着力が向上することが確認された。また実施例5〜6において、LEDから紫外線照射した際の熱(60℃)により熱酸発生剤SI−60Lから酸が発生してシランカップリング剤の反応が促進されるため、熱酸発生剤が添加されない場合よりもガラス密着力が向上することが確認された。実施例7〜9において、無電極UVランプから紫外線照射した際の熱により熱酸発生剤SI−80Lから酸が発生してシランカップリング剤の反応が促進されるため、熱酸発生剤が添加されない場合よりもガラス密着力が向上することが確認された。実施例1〜9のいずれにおいてもヤング率は約1.0MPaに維持されており、熱酸発生剤は樹脂の硬化性に影響していない。
【0096】
一方、被覆材料に熱酸発生剤が添加されていない比較例1では、シランカップリング剤の作用によりある程度のガラス密着力は得られるものの、試料の作製から24時間後の段階では各実施例よりもガラス密着力が小さいことが確認された。
【0097】
実施例10に用いられた熱酸発生剤SI−80Lは、分解温度が80℃であるため、LEDから紫外線照射した際の熱(60℃)では酸が発生しにくい。しかしながら、実施例10では紫外線照射後に80℃、24時間の加熱エージングを行ったため、熱酸発生剤から酸が十分に発生してシランカップリング剤の反応が促進され、ガラス密着力が向上することが確認された。
【0098】
一方、熱酸発生剤SI−80Lを用いたが加熱エージングを行わなかった比較例2では、熱酸発生剤から酸が十分に発生しないため、ガラス密着力が小さいことが確認された。
【0099】
熱酸発生剤に加えて光酸発生剤が添加されている実施例11は、同量の熱酸発生剤のみが添加されている実施例3と同等又はやや高いガラス密着力が得られることが確認された。一方、光酸発生剤の量(5.0wt%)が光重合開始剤の量(3.0wt%)よりも多い比較例3ではヤング率が大幅に低下し、樹脂の十分な硬化性が得られなかった。これは光酸発生剤が同じく紫外線を吸収しラジカル種を発生する光重合開始剤の反応を阻害しているためであると考えられる。
【0100】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。