【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明者は、上記課題の解決につき鋭意検討する中で、炭化物等の析出物、ボイド、転位、相変態等のミクロ組織が材料中に発生した場合、前記した超音波信号強度の変化に合わせて、結晶粒物性値(体積、密度、音速等)にも変化が生じることに着目した。
【0015】
即ち、例えば、ミクロ組織として結晶粒内にボイドが発生した場合、ボイドの発生に伴い、結晶粒の体積が増加するため、密度が低下する。また、ボイドの発生に伴い、ヤング率が低下するため、結晶粒を伝播する音速が低下する(
図2参照)。
【0016】
一方、ミクロ組織が発生すると、超音波信号強度に変化が生じ、例えば、
図3(a)に示すミクロ組織の発生がない場合の信号波形から、
図3(b)に示す信号波形のように、後方散乱波強度が増加した信号波形となる。
【0017】
本発明者は、従来は、ミクロ組織から直接反射する超音波の後方散乱波強度の変化によりミクロ組織の診断が行われていたため、微小なミクロ組織の診断が困難であったことに鑑み、上記した結晶粒物性値の変化と超音波信号強度の変化との関係に着目し、鋭意検討を行った。
【0018】
その結果、ミクロ組織の発生は、前記したように底面波および後方散乱波強度の変化を招くが、
図4に示すように、後方散乱波における波高や周波数分布の変化が深さ方向のミクロ組織分布に関係している一方、音速の変化及び底面波における波高や周波数分布の変化が深さ方向の材料特性変化平均値に関係していることが分かった。なお、上記した底面波および後方散乱波の周波数分布は、超音波信号波形の時間変化を周波数変換することにより算出することができる。また、上記において「材料特性変化平均値」とは、底面波が材料内部を往復する信号であり(
図1参照)、超音波が通過した材料内部のミクロ組織から影響を受けていることを利用して、音速や減衰係数の変化、及び底面波における波高や周波数分布の変化から材料特性の変化を平均値として示したものである。
【0019】
そして、検討の結果、結晶粒物性の変化による超音波信号の変化に着目することにより、微小なミクロ組織であっても、容易に、精度高く診断することができることを見出した。
【0020】
即ち、材料中に超音波を入射して、例えば、
図5上段に示すような超音波波形を得た場合、得られた超音波波形の第1底面波および第2底面波を周波数変換することにより、
図5下段に示す第1底面波および第2底面波の周波数分布が算出され、所定の周波数における振幅P
1(任意単位)、P
2(任意単位)を用いることにより、(式1)に示す減衰係数α(neper/m)が求められる。なお、(式1)において、dは材料厚さ(m)である。
【0021】
【数1】
【0022】
本発明者は、本発明が対象とする材料のように多結晶体であり、その結晶粒径が入射する超音波波長に比べて遙かに小さい(レイリー散乱領域)場合、材料(多結晶体)中に入射した縦波の減衰係数α
Lとして、上記した減衰係数αを以下の(式2)のように、結晶粒物性値を変数とした式により表すこともできることに着目した。
【0023】
【数2】
【0024】
(式2)においては、縦波の減衰係数α
Lが結晶粒物性値である密度ρの二乗および縦波の音速ν
Lの八乗に反比例しているため、結晶粒物性が変化するのであれば、微小なミクロ組織の発生に伴う超音波音速等の物性値の変化が小さくても、縦波の減衰係数α
Lが大きな変化として現れることが分かる。また、縦波の減衰係数α
Lは結晶粒の体積Vに比例しているため、縦波の減衰係数α
Lの大きな変化に対応して、結晶粒の体積Vも大きな変化として現れることが分かる。即ち、微小なミクロ組織の発生に伴う物性値の小さな変化を、結晶粒の体積の大きな変化として捉えることができる。
【0025】
以上の知見に基づき、本発明者は、以下のような手法を用いることにより、材料中のミクロ組織の発生量を容易に定量できることに思い至った。
【0026】
即ち、まず、ミクロ組織の発生がない状態の材料中に超音波を入射して材料から反射する底面波から(式1)を用いて周波数毎に減衰係数を算出する。そして、以下に示す方法を用いて別途取得した密度および音速と、上記で算出された減衰係数とを用いて、(式2)に基づいて、ミクロ組織の発生前における結晶粒の体積を算出しておく。このとき、結晶粒の体積は周波数には関係せず、一定値となる。そして、診断対象の材料中に超音波を入射して、上記と同様にして、周波数毎に減衰係数を算出した後、ミクロ組織の発生後における結晶粒の体積を算出する。
【0027】
そして、算出されたミクロ組織の発生前における結晶粒の体積とミクロ組織の発生後における結晶粒の体積との差(体積変化量)は、ミクロ組織の発生に伴う体積変化であるため、この値をミクロ組織の発生量と見なすことができ、上記の方法を適用することにより、ミクロ組織の発生量を定量することができる。
【0028】
なお、縦波音速は、
図4に示すように、超音波波形を用いて、厚さdの材料に入射された超音波の入射から第1底面波が現れるまでの時間から取得することができる。そして、密度は予め求めておけばよいが、レファレンス材から算出したり、文献値を利用してもよい。また、音響異方性は、レファレンス材から予め算出しておけばよいが、文献値を利用してもよい。また、縦波音速および横波音速は、例えば、ポアソン比、ヤング率、密度を用いた下記の公知の式より算出することができる。
【0029】
【数3】
【0030】
なお、上記では、同一材料を用いて、ミクロ組織の発生前(初期状態)及び発生後において、超音波を入射して材料から反射する底面波から(式1)を用いて周波数毎に減衰係数を算出しているが、このように同一材料を用いてミクロ組織の発生を定量することに代えて、診断対象の材料と同種材料で構成されたミクロ組織の発生がない状態の材料を別途用意し、これに超音波を入射して同様の測定を行って、得られたデータをミクロ組織が発生していない材料のデータとしてもよい。
【0031】
また、上記したミクロ組織が発生していない材料のデータに代えて、時間的経過の中で既にミクロ組織が発生しており、そのミクロ組織の発生量が予め分かっている診断材料に超音波を入射して同様の測定を行って、得られたデータを用いてもよく、この場合には、診断材料におけるミクロ組織の発生量の時間変化を捉えることができる。
【0032】
本発明に関連する第1〜第3の技術は上記の知見に基づく技術である。
【0033】
即ち、本発明に関連する第1の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
ミクロ組織により生じた結晶粒の物性変化が超音波散乱に影響を及ぼすことを利用して、結晶粒による超音波散乱の変化を底面波、後方散乱波から捉えることにより、ミクロ組織の変化量を定量することを特徴とする材料診断方法である。
【0034】
また、本発明に関連する第2の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
ミクロ組織の発生がない状態の材料に超音波を入射して超音波波形を得た後、前記超音波波形を周波数変換することにより作成された第1底面波および第2底面波の周波数分布より周波数毎の減衰係数を算出し、さらに、前記材料の密度および前記超音波の音速を取得し、得られた前記減衰係数、材料の密度および前記超音波の音速から結晶粒の体積を算出する初期結晶粒体積算出工程と、
診断対象の材料に超音波を入射して超音波波形を得た後、前記初期結晶粒体積算出工程と同様にして、診断対象の結晶粒の体積を算出する診断対象結晶粒体積算出工程と、
前記初期結晶粒体積算出工程および前記診断対象結晶粒体積算出工程において得られた各体積から結晶粒の体積変化量を求めることにより、ミクロ組織の発生量を定量するミクロ組織発生量定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0035】
また、本発明に関連する第3の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
初期状態にある診断対象の材料、診断対象の材料と同種材料であってミクロ組織の発生がない状態の材料、ミクロ組織の発生量が予め分かっている状態の診断対象の材料のいずれかに超音波を入射して超音波波形を得た後、前記超音波波形を周波数変換することにより作成された第1底面波および第2底面波の周波数分布より周波数毎の減衰係数を算出し、さらに、前記材料の密度および前記超音波の音速を取得し、得られた前記減衰係数、材料の密度および前記超音波の音速から結晶粒の体積を算出する第1の結晶粒体積算出工程と、
前記診断対象の材料に超音波を入射して超音波波形を得た後、前記第1の結晶粒体積算出工程と同様にして、診断対象の結晶粒の体積を算出する第2の結晶粒体積算出工程と、
前記第1の結晶粒体積算出工程および前記第2の結晶粒体積算出工程において得られた各体積から結晶粒の体積変化量を求めることにより、ミクロ組織の発生量を定量するミクロ組織発生量定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0036】
本発明に関連する第2の技術および第3の技術においては、減衰係数から結晶粒の体積を直接求め、結晶粒の体積の変化からミクロ組織の発生量を定量しているが、予め、ミクロ組織の発生量、即ち、結晶粒の体積変化量を仮定し、その仮定に基づいて(式2)により減衰係数や周波数分布を作成することもできる。そして、このミクロ組織の発生量の仮定を種々変更して、診断材料から得られた周波数分布との照合を繰り返すことにより、より簡便にミクロ組織の発生量を定量することができる。
【0037】
なお、この際、音速の変化量は、ミクロ組織が発生した材料からの超音波信号より求めることができるが、過去の知見で得られた値を用いても実用上支障のない定量を行うことができる。
【0038】
(2)次に、材料中に発生した微小なミクロ組織の深さ分布の定量について説明する。
【0039】
上記の方法を適用することにより、ミクロ組織の発生量が定量されるが、析出物やボイドなどのミクロ組織は深さ分布を有しているため、発生量のみならず、深さ分布についても定量する必要がある。
【0040】
本発明者は、このミクロ組織の深さ分布を定量するに際して、超音波の後方散乱波に着目した。即ち、底面波は、材料内部の全ての影響を受けた信号であるため、通過して反射してきた材料の平均的な物性値を算出することができる。これに対して、後方散乱波は、弱い信号でありながらもある深さから反射してきた信号であるため、深さ分布に関する情報を有しており、深さ分布を算出することができると考えた。
【0041】
超音波の後方散乱波は、以下に示す(式3)により定義されるが、変数に減衰係数αを有している。そして、前記したように、減衰係数の変化は結晶粒物性値の変化が小さくても大きな変化として表れるため、後方散乱波も大きく変化することになり、微小なミクロ組織であってもその深さ分布を定量することが可能となる。
【0042】
【数4】
【0043】
具体的には、まず、診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域をある深さ毎の区間で区切り、各区間にて周波数変換を行うことにより各区間に後方散乱波の周波数分布を算出する。
【0044】
次に、材料中のミクロ組織の深さ分布を仮定して、同じ区間毎に後方散乱波の周波数分布を(式3)に基づき算出する。
【0045】
このとき、後方散乱波の周波数分布は、仮定した深さ分布の各区間における断面積γの立体角Ωによる微分断面積(dγ/dΩ)
L,πを利用して算出される。ここで、Lは縦波、πは反射方向を示している。そして、結晶粒による微分断面積は(式4)により算出される。この(式4)にも、結晶粒物性値が変数として含まれているため、結晶粒物性値の変化により(式3)により算出された後方散乱波がさらに大きく変化する。
【0046】
【数5】
【0047】
次に、この仮定した材料中のミクロ組織の深さ分布に基づいて算出された後方散乱波の周波数分布と、上記で得られた後方散乱波の周波数分布とを照合する。そして、両者が正確に合うまで、仮定を種々変更して照合を繰り返す。
【0048】
このように、仮定に基づいて算出された後方散乱波の周波数分布を、診断対象から得られた後方散乱波の周波数分布と合わせることにより、ミクロ組織の深さ分布を容易に定量することができる。
【0049】
また、上記のミクロ組織の深さ分布の定量は、仮定した材料中のミクロ組織の深さ分布に基づいて算出された後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比と、得られた後方散乱波の周波数分布から算出されたそれぞれの後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比とを照合し、両者が正確に合うまで、仮定を種々変更して照合を繰り返すことによっても行うことができる。
【0050】
本発明に関連する第4の技術および第5の技術は上記の知見に基づく技術である。
【0051】
即ち、本発明に関連する第4の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
ミクロ組織の発生量が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間毎に周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布を算出する診断対象周波数分布算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布算出工程と同じ区間毎に算出した後方散乱波の周波数分布を照合しながら、ミクロ組織の深さ分布を決定することにより診断対象の材料におけるミクロ組織の深さ分布を定量するミクロ組織の深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0052】
また、本発明に関連する第5の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
ミクロ組織の発生量が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間毎に周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を算出する診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と同じ区間毎に算出した後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を照合しながら、ミクロ組織の深さ分布を決定することにより診断対象の材料におけるミクロ組織の深さ分布を定量するミクロ組織の深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0053】
(3)次に、材料中に発生した転位組織による微小なミクロ組織の深さ分布の定量について説明する。
【0054】
ミクロ組織には、前記したボイドや析出物の他に、転位組織によるミクロ組織もあり、転位組織によるミクロ組織の場合、転位密度の深さ分布を求める必要がある。
【0055】
ここで、本発明者は、転位組織は、析出物やボイドと異なり、超音波を散乱せず吸収のみが起こること、そして超音波の吸収により後方散乱波が減少することが分かっており、転位組織による超音波吸収、即ち、減衰α(ω)が以下の(式5)により表すことができることに着目した。
【0056】
【数6】
【0057】
なお、(式5)において、μは剛性率、bはバーガースペクトル、Cは転位の張力であり、それぞれ格子定数、密度、剛性率およびポアソン比から下式により求められる。
【0058】
【数7】
【0059】
また、平均転位長さLについては測定することが困難であるため、格子定数やあらかじめレファレンスから求めておく。そして、転位の固有振動数ω
0は、下式に示すように、平均転位長さLで決まるが、GHzオーダーであることが知られている。
【0060】
【数8】
【0061】
そして、本発明者は、以下のような手法を用いることにより、材料中の転位密度の深さ分布を容易に定量できることに思い至った。
【0062】
即ち、まず、予め転位密度および結晶粒径が判明している材料中に超音波を入射して各深さにおいて結晶粒に起因する後方散乱波の周波数分布を算出する。
【0063】
そして、材料中の転位密度の深さ分布を仮定する。結晶粒に起因する後方散乱波は、超音波の行程において存在する転位により吸収され減衰する。減衰の程度は(式5)を用いて求めることができる。以上から、各深さに後方散乱波周波数分布を算出する。
【0064】
即ち、2つの後方散乱波周波数分布から求められる後方散乱波周波数分布の減少量は、転位による超音波の吸収量と見ることができるため、この仮定に基づいて算出された後方散乱波の周波数分布と、上記で得られた後方散乱波の周波数分布とを照合する。そして、両者が正確に合うまで、仮定を種々変更して照合を繰り返すことにより、材料中の転位深さ分布を定量することができる。
【0065】
また、前記と同様に、仮定に基づいて算出された後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比と、得られた後方散乱波の周波数分布から算出されたそれぞれの後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比とを照合し、両者が正確に合うまで、仮定を種々変更して照合を繰り返すことによっても、材料中の転位深さ分布を定量することができる。
【0066】
本発明に関連する第6の技術および第7の技術は上記の知見に基づく技術である。
【0067】
即ち、本発明に関連する第6の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
転位密度および結晶粒径が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間において周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布を算出する診断対象周波数分布算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布データ算出工程と同じ区間毎に周波数分布を算出する照合用周波数分布算出工程と、
前記診断対象周波数分布作成工程および前記照合用周波数分布算出工程において得られた各周波数分布の減少量から材料中のミクロ組織の深さ分布を決定し、決定されたミクロ組織の深さ分布の仮定により、診断対象の材料におけるミクロ組織の転位深さ分布を定量するミクロ組織の転位深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0068】
また、本発明に関連する第7の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
転位密度および結晶粒径が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間において周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を算出する診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布の積分強度面積比のデータ算出工程と同じ区間毎に周波数分布の積分強度面積比を算出する照合用周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
前記診断対象周波数分布の積分強度面積比作成工程および前記照合用周波数分布の積分強度面積比算出工程において得られた各周波数分布の積分強度面積比から材料中のミクロ組織の深さ分布を決定し、決定されたミクロ組織の深さ分布の仮定により、診断対象の材料におけるミクロ組織の転位深さ分布を定量するミクロ組織の転位深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0069】
(4)次に、材料中に複数種類の微小なミクロ組織が発生している場合について説明する。
【0070】
上記した析出物、ボイド、転位組織などのミクロ組織は、個別に発生するとは限られず、複数のミクロ組織が同時に発生する場合がある。
【0071】
そこで、本発明者は、発生したミクロ組織についてその種類を判別し、その後、それぞれのミクロ組織について推定、定量することを検討した。
【0072】
その結果、前記した超音波の音速、減衰係数、底面波周波数分布および後方散乱波周波数分布のそれぞれを指標とし、診断対象の材料中に超音波を入射して得られた各指標に対して、初期状態(ミクロ組織の発生がない状態)にある診断対象の材料、診断対象の材料と同種材料であってミクロ組織の発生がない状態の材料、ミクロ組織の発生量が予め分かっている状態の診断対象の材料のいずれかに超音波を入射して予め取得しておいた各指標や材料の使用履歴等を考慮して分析を行った場合、ミクロ組織の種類によりこれらの指標が特徴的に現れるため、容易に、析出物、ボイド、転位組織等のミクロ組織を判別することができることが分かった。そして、このような判別は、1つの指標、例えば、転位組織と析出物(炭化物)の2つのミクロ組織の場合には、音速を指標として用いるだけでも、これらのミクロ組織を判別することができることが分かった。
【0073】
なお、ここで「材料の使用履歴等を考慮する」とは、使用温度、照射量、使用時間等の使用環境を考慮することを指す。
【0074】
本発明に関連する第8の技術は、上記の知見に基づいてなされたものであり、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
材料中に超音波を入射して得られる超音波の音速、減衰係数、底面波の周波数分布、低周波数側波高、高周波数側波高、後方散乱波の周波数分布および後方散乱波の周波数の積分強度面積比から選択された1個以上の指標を用いて、
初期状態にある診断対象の材料、診断対象の材料と同種材料であってミクロ組織の発生がない状態の材料、ミクロ組織の発生量が予め分かっている状態の診断対象の材料のいずれかについて予め取得しておいた基準材料データと診断時において得られた診断対象材料データとの間の変化、および前記材料の使用履歴に基づいて、
発生したミクロ組織の種類を判別することを特徴とする材料診断方法である。
【0075】
本技術により判別されたそれぞれのミクロ組織欠陥については、前記した第1〜第7の技術の各診断方法を適用することにより、発生量や深さ分布を推定、ないし定量することができる。
【0076】
(5)以上のように、本発明者は、従来のように超音波信号波形の後方散乱波強度の変化だけに着目してミクロ組織の診断を行うのではなく、炭化物等の析出物、ボイド、転位、相変態などのミクロ組織の発生に伴う結晶粒物性値(体積、密度、音速等)の変化も加味して分析を行うことにより、微小なミクロ組織であっても容易に精度高く診断することができることを見出した。
【0077】
即ち、本発明に関連する第9の技術は、
材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に診断する材料診断方法であって、
初期状態にある診断対象の材料、診断対象の材料と同種材料であってミクロ組織の発生がない状態の材料、ミクロ組織の発生量が予め分かっている状態の診断対象の材料のいずれかに超音波を入射して、超音波波形および材料の結晶粒物性値を取得する第1のデータ取得工程と、
診断対象の材料中に超音波を入射して、超音波波形および材料の結晶粒物性値を取得する第2のデータ取得工程と
を備えており、
前記第1のデータ取得工程および前記第2のデータ取得工程において得られた結晶粒物性値の変化を加味して、前記超音波波形を評価することにより、材料中に生じたミクロ組織を診断することを特徴とする材料診断方法である。
【0078】
また、本発明に関連する第10の技術は、
前記材料中に発生したミクロ組織が、析出物、ボイド、転位および相変態のいずれか1つ以上のミクロ組織であることを特徴とする第9の技術に記載の材料診断方法である。
【0080】
本発明は、上記した各技術に基づいてなされたものであり、請求項
1に記載の発明は、
析出物、ボイド、転位および相変態のいずれか1つ以上のミクロ組織が生じた結晶粒において、後方散乱波の変化が深さ方向のミクロ組織分布に関係していることに基づいて、材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に定量して診断する材料診断方法であって、
ミクロ組織の発生量が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間毎に周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を算出する診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と同じ区間毎に算出した後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を照合しながら、ミクロ組織の深さ分布を決定することにより診断対象の材料におけるミクロ組織の深さ分布を定量するミクロ組織の深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。
【0082】
請求項
2に記載の発明は、
析出物、ボイド、転位および相変態のいずれか1つ以上のミクロ組織が生じた結晶粒において、後方散乱波の変化が深さ方向のミクロ組織分布に関係していることに基づいて、材料中に生じたミクロ組織を、超音波を用いて非破壊的に定量して診断する材料診断方法であって、
転位密度および結晶粒径が既知である診断対象の材料中に超音波を入射して取得された超音波波形の後方散乱波領域を、前記材料の深さ方向に所定の幅の区間に区切り、各区間において周波数変換を用いて後方散乱波の周波数分布の積分強度面積比を算出する診断対象周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
ミクロ組織の深さ分布を仮定して、前記診断対象周波数分布の積分強度面積比のデータ算出工程と同じ区間毎に周波数分布の積分強度面積比を算出する照合用周波数分布の積分強度面積比算出工程と、
前記診断対象周波数分布の積分強度面積比作成工程および前記照合用周波数分布の積分強度面積比算出工程において得られた各周波数分布の積分強度面積比から材料中のミクロ組織の深さ分布を決定し、決定されたミクロ組織の深さ分布の仮定により、診断対象の材料におけるミクロ組織の転位深さ分布を定量するミクロ組織の転位深さ分布定量工程と
を備えていることを特徴とする材料診断方法である。