特許第6775280号(P6775280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人高知大学の特許一覧 ▶ 藤倉航装株式会社の特許一覧 ▶ 東京航空計器株式会社の特許一覧 ▶ 有限会社ラプラスの特許一覧

<>
  • 特許6775280-圧迫システム 図000002
  • 特許6775280-圧迫システム 図000003
  • 特許6775280-圧迫システム 図000004
  • 特許6775280-圧迫システム 図000005
  • 特許6775280-圧迫システム 図000006
  • 特許6775280-圧迫システム 図000007
  • 特許6775280-圧迫システム 図000008
  • 特許6775280-圧迫システム 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6775280
(24)【登録日】2020年10月8日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】圧迫システム
(51)【国際特許分類】
   A61H 7/00 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
   A61H7/00 322B
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-70345(P2015-70345)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-189830(P2016-189830A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年2月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390005393
【氏名又は名称】藤倉航装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220354
【氏名又は名称】東京航空計器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515086746
【氏名又は名称】有限会社ラプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 文靖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】平本 享史
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徹
(72)【発明者】
【氏名】今野 光雄
(72)【発明者】
【氏名】音田 友三
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範幸
(72)【発明者】
【氏名】澤本 一哲
【審査官】 小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−166498(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129667(WO,A1)
【文献】 特開2005−348903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の少なくとも腹部を含む下半身の対象部位に装着されて前記対象部位を圧迫する圧迫装着体を備え、前記圧迫装着体により前記対象部位を圧迫することで、当該生体の上半身の血圧の低下を抑制する圧迫装置と、
前記圧迫装着体の内部の空気量を調整することにより前記圧迫装置が前記対象部位を圧迫する圧迫力を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記対象部位の体積変化に応じて変化する物理量として前記生体が吐く息の圧力を前記生体の呼吸周期よりも十分に短い周期で取得し、取得した前記物理量が前記対象部位の体積が増える方向に変化した場合に前記空気量を減少させる、及び/又は、取得した前記物理量が前記対象部位の体積が減る方向に変化した場合に前記空気量を増加させる、
圧迫システム。
【請求項2】
前記生体の脳酸素濃度を前記制御部にフィードバックする第1フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1フィードバック機構によりフィードバックされる前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定し、
取得した前記物理量の変化に応じて前記圧迫力を前記目標値に近づける、
請求項1に記載の圧迫システム。
【請求項3】
前記生体の血圧を前記制御部にフィードバックする第2フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第2フィードバック機構によりフィードバックされる前記血圧及び前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定する、
請求項2に記載の圧迫システム。
【請求項4】
記圧迫装着体は、前記対象部位に装着されたときに前記対象部位の関節部位を露出させる若しくは伸縮部材で覆う形状に形成されている、
請求項1からの何れか1項に記載の圧迫システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧迫システムに関する。
【背景技術】
【0002】
前記圧迫システムとして、例えば、特許文献1には、生体の血圧を非侵襲で制御するための血圧制御装置であって、前記生体の血圧値に関連する血圧関連値を周期的に検出する血圧関連値検出装置と、前記生体の一部を圧迫するために該生体の一部に装着される生体圧迫装置と、前記血圧関連値検出装置によって検出された血圧関連値が目標値或いは目標範囲内となるように該血圧関連値に基づいて前記生体圧迫装置の圧迫状態を自動的に変更する圧迫状態制御装置とを、含むことを特徴とする血圧制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−348903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の血圧制御装置(圧迫システム)では、血圧の値がフィードバックされるのみで、好適な力で生体の一部(対象部位)を圧迫することが難しい(例えば、後述のように、腹式呼吸を阻害しないような圧迫などが難しい。)。また、特許文献1における生体圧迫装置(圧迫装置)は、一般的なパンツタイプであり、装着したときに生体が動き難いという不都合があった。
【0005】
本発明及び他の発明の目的は、生体の下半身の対象部位を好適に圧迫できる圧迫システムを提供することである。また、他の発明の目的は、装着されても生体が動きやすい圧迫装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧迫システムは、
生体の少なくとも腹部を含む下半身の対象部位に装着されて前記対象部位を圧迫する圧迫装着体を備え、前記圧迫装着体により前記対象部位を圧迫することで、当該生体の上半身の血圧の低下を抑制する圧迫装置と、
前記圧迫装着体の内部の空気量を調整することにより前記圧迫装置が前記対象部位を圧迫する圧迫力を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記対象部位の体積変化に応じて変化する物理量として前記生体が吐く息の圧力を前記生体の呼吸周期よりも十分に短い周期で取得し、取得した前記物理量が前記対象部位の体積が増える方向に変化した場合に前記空気量を減少させる、及び/又は、取得した前記物理量が前記対象部位の体積が減る方向に変化した場合に前記空気量を増加させる。
【0007】
圧迫システムは、前記生体の脳酸素濃度を前記制御部にフィードバックする第1フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1フィードバック機構によりフィードバックされる前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定し、
取得した前記物理量の変化に応じて前記圧迫力を前記目標値に近づける、
ようにしてもよい。
圧迫システムは、前記生体の血圧を前記制御部にフィードバックする第2フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第2フィードバック機構によりフィードバックされる前記血圧及び前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定する、
ようにしてもよい
記圧迫装着体は、前記対象部位に装着されたときに前記対象部位の関節部位を露出させる若しくは伸縮部材で覆う形状に形成されている、
ようにしてもよい。
【0008】
他の発明の第1の観点に係る圧迫システムは、
生体の一部である対象部位を圧迫する圧迫装置と、
前記圧迫装置が前記対象部位を圧迫する圧迫力を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記対象部位の体積変化に応じて前記圧迫力を変化させる制御を行う、
ことを特徴とする。
なお、前記制御部は、前記対象部位の体積が増えたときに前記圧迫力を減少させ、及び/又は、前記対象部位の体積が減ったときに前記圧迫力を増加させる、ようにするとよい。
また、圧迫システムは、前記生体の脳酸素濃度を前記制御部にフィードバックする第1フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第1フィードバック機構によりフィードバックされる前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定し、前記対象部位の体積変化に応じて前記圧迫力を変化させて当該圧迫力を前記目標値に近づける、
ようにしてもよい。
また、圧迫システムは、前記生体の血圧を前記制御部にフィードバックする第2フィードバック機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第2フィードバック機構によりフィードバックされる前記血圧及び前記脳酸素濃度に基づいて前記圧迫力の目標値を設定する、
ようにしてもよい。
【0009】
他の発明の第2の観点に係る圧迫システムは、
生体の一部である対象部位を圧迫する圧迫装置と、
前記圧迫装置が前記対象部位を圧迫する圧迫力を制御する制御部と、
前記生体の脳酸素濃度を前記制御部にフィードバックするフィードバック機構と、を備え、
前記制御部は、前記フィードバック機構によりフィードバックされる前記脳酸素濃度が目標値又は目標範囲内になるように前記圧迫力を制御する、
ことを特徴とする。
【0010】
他の発明の第3の観点に係る圧迫装置は、
生体の一部である対象部位に装着され、当該対象部位を圧迫する圧迫装着体を備え、
前記圧迫装着体は、前記対象部位の関節部位で分かれた複数の装着体からなるか、又は、前記対象部位に装着されたときに当該関節部位を露出させる若しくは伸縮部材で覆う形状に形成されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る圧迫システム及び他の発明の第1及び第2の観点に係る圧迫システムによれば、生体の下半身の対象部位を好適に圧迫できる。また、他の発明の第3の観点に係る圧迫装置によれば、当該圧迫装置が装着されても生体は動きやすい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る圧迫システムの全体構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る圧力制御回路のブロック構成を示す図である。
図3】理想的なパンツ圧、実際のパンツ圧などの関係グラフを示す図である。
図4】パンツ圧、血圧、脳酸素飽和度などの関係グラフを示す図である。
図5】パンツ圧、血圧、脳酸素飽和度などの関係グラフを示す図である。
図6】第1装着部の図である。
図7】第2装着部の図である。
図8】圧迫パンツを人体に装着したときの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る圧迫システム1を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、圧迫システム1は、圧迫パンツ20と、コンプレッサ21と、エアタンク22と、減圧器23と、電空レギュレータ24と、排気用バルブ25と、リリーフバルブ26と、を備える。
【0015】
コンプレッサ21と、エアタンク22と、減圧器23と、電空レギュレータ24と、排気用バルブ25と、リリーフバルブ26とは、患者Xに装着された圧迫パンツ20を膨張させたり、収縮させたりする空圧システムを構成する。
【0016】
圧迫パンツ20は、起立性低血圧などを患う患者Xの下半身に装着されて、患者Xの下半身を圧迫する。具体的には、患者Xが起き上がるときなどに(血圧等が低下するときに)、患者Xの下半身を圧迫する。この圧迫によって、患者Xの下半身の血を上半身に絞り出すようにし、患者Xが寝た状態から起き上がったときの上半身の血圧低下や脳酸素濃度(脳酸素飽和度とも言われる。)の低下を抑制する。これによって、血圧低下や脳酸素濃度の低下による失神を防止する。
【0017】
圧迫パンツ20は、化学繊維などによって形成されており、3つの部分に分割されている(詳細な構造については後述)。当該3つの部分のうちの1つは、腹部に装着される第1装着部20Aであり、もう1つは、左足に装着される第2装着部20Bであり、最後の1つは、右足に装着される第3装着部20Cである。
【0018】
第1装着部20A〜第3装着部20Cは、それぞれ、袋状になっており、内部に空気が供給されることで膨張する。第1装着部20A〜第3装着部20C内の空気の量は、電空レギュレータ24によって調整される。第1装着部20Aが膨張することで、患者Xの腹部が圧迫される。第2装着部20Bが膨張することで、患者Xの左足が圧迫される。第3装着部20Cが膨張することで、患者Xの右足が圧迫される。このような圧迫によって、患者Xの下半身が圧迫される。
【0019】
コンプレッサ21は、空気(大気)を圧縮し、圧縮した空気(以下、第1圧縮空気という。)をエアタンク22に供給する。
【0020】
エアタンク22は、コンプレッサ21から供給された第1圧縮空気を蓄えるタンクである。エアタンク22により、コンプレッサ21で発生させた圧縮空気のエネルギーを蓄えることができる。エアタンク22に蓄えられた第1圧縮空気は減圧器23に供給される。
【0021】
減圧器23は、エアタンク22から供給される第1圧縮空気の気圧を電空レギュレータ24で使用可能な気圧まで減圧する。なお、減圧器23によって減圧された空気は、大気圧よりも高い気圧の空気であり、従って大気よりも圧縮されている。なお、減圧器23によって減圧された空気は(以下、第2圧縮空気という。)。電空レギュレータ24に供給される。
【0022】
電空レギュレータ24は、減圧器23から供給される第2圧縮空気を圧迫パンツ20に供給したり、圧迫パンツ20に供給した第2圧縮空気を圧迫パンツ20から抜いたりする。つまり、電空レギュレータ24は、圧迫パンツ20(第1装着部20A〜第3装着部20C)内の空気の量を調整する。なお、第2圧縮空気を圧迫パンツ20から抜くときには、電空レギュレータ24は、当該第2圧縮空気を圧迫システム1の外部に排気すればよい。電空レギュレータ24は、コントローラ70によって制御される。
【0023】
排気用バルブ25は、電磁バルブであり、コントローラ70による制御のもとで、開閉する。排気用バルブ25は、開いたときに、空圧システム内の第1圧縮空気を空圧システム外部に排気する。なお、排気用バルブ25には、サイレンサが取り付けられてもよく、これによって、排気時の音を小さくするようにしてもよい。
【0024】
リリーフバルブ26は、電空レギュレータ24近傍に配置され、電空レギュレータ24から圧迫パンツ20に供給される第2圧縮空気の気圧が所定気圧以上になったときに、当該第2圧縮空気を放出する。このように、リリーフバルブ26は、圧迫パンツ20の内の第2圧縮空気の気圧が過度に大きくなることを防止する安全弁として機能する。
【0025】
圧迫システム1は、さらに、気圧センサ31と、パンツ圧センサ33と、血圧センサ41と、脳酸素濃度センサ43と、緊急停止スイッチ52と、操作部54と、表示部56と、コントローラ70と、を備える。これらは、空圧システムを制御する制御系を構成する。
【0026】
気圧センサ31は、半導体の圧力センサなどである。気圧センサ31は、エアタンク22と減圧器23との間に配置され、エアタンク22から減圧器23に供給される第1圧縮空気の気圧を検知する。気圧センサ31は、検知した第1圧縮空気の気圧を示す電気信号(以下、気圧信号という。)をコントローラ70に供給する。
【0027】
パンツ圧センサ33は、半導体の圧力(気圧)センサなどである。パンツ圧センサ33は、第2圧縮空気を第1装着部20Aに供給する供給路上の第1装着部20A近傍の位置に設けられ、第2圧縮空気の気圧、つまり、第1装着部20Aの内圧(以下、パンツ圧という。)を検知する。パンツ圧センサ33は、検知した前記内圧を示す電気信号(以下、パンツ圧信号という。)をコントローラ70に供給する。
【0028】
血圧センサ41は、患者Xの腕に取り付けられて、患者Xの上半身の血圧を検知する血圧計などからなる。血圧センサ41は、検知した血圧に基づいて、平均血圧を算出し、算出した平均血圧を示す電気信号(以下、血圧信号という。)をコントローラ70に供給する。なお、平均血圧は、例えば、((収縮期血圧の値+拡張期血圧の値)÷3)+下の血圧の値によって算出される値である。
【0029】
脳酸素濃度センサ43は、患者Xの頭(額など)に取り付けられて、患者Xの脳酸素の濃度である脳酸素濃度(血流によって脳に供給される酸素の濃度)を検知するセンサである。脳酸素濃度センサ43は、検知した脳酸素濃度を示す電気信号(以下、脳酸素濃度信号という。)をコントローラ70に供給する。
【0030】
緊急停止スイッチ52は、押釦などから構成され、当該緊急停止スイッチ52が操作されたことを示す信号(以下、緊急停止信号という。)をコントローラ70に供給する。
【0031】
操作部54は、患者Xの下半身を圧迫パンツ20で圧迫したときの当該患者Xの血圧の目標値を入力するものであり、ダイアル式の操作入力装置などからなる。操作部54は、圧迫システム1を動作させるユーザ(患者X自身でもよいし、医師、看護師などの他者であってもよい。)によって操作入力された目標値(以下、目標血圧という。)を示す信号(以下、目標血圧信号という。)をコントローラ70に供給する。なお、この実施の形態では、目標血圧を、患者Xが起き上がったとき(起立時など)の平均血圧の目標値としている。当該目標血圧は、医師などが予測したものなどであればよい。
【0032】
表示部56は、液晶表示装置等からなり、コントローラ70の制御のもとで、例えば、操作部54により入力された目標血圧を表示する。
【0033】
コントローラ70は、マイクロコンピュータなどのプログラムに従って処理を実行する各種プロセッサや、プログラムを使用しない論理回路などの各種回路から構成される。コントローラ70は、圧迫システム1の動作を制御する。なお、コントローラ70は、デジタル回路であってもよいし、アナログ回路であってもよい。また、コントローラ70は、一部アナログ回路で、一部デジタル回路であってもよい。
【0034】
コントローラ70は、気圧センサ31からの気圧信号が示す気圧を監視し、当該気圧の値が予め定められた所定の閾値(異常な高圧と判断させる気圧の値)を超えたときに、排気用バルブ25を開く。このような制御によって、図1の空圧システム内の第1圧縮空気の気圧が異常な高圧になったときに、空圧システム内の第1圧縮空気を排出できる。これにより、空圧システム内の気圧を下げることができ、圧迫システム1の安全性を確保することができる。
【0035】
また、コントローラ70は、緊急停止スイッチ52から緊急停止信号が供給されたとき(例えば、患者Xに異常があったときに押される。)には、排気用バルブ25を開くとともに、電空レギュレータ24を制御して、圧迫パンツ20内の第2圧縮空気を排出させる。このような動作により圧迫システム1の安全性を確保することができる。
【0036】
また、コントローラ70は、制御信号によって電空レギュレータ24を制御することで、圧迫パンツ20内の第2圧縮空気の量を調整し、患者Xの下半身を圧迫する力(以下、圧迫力という。)を制御する。電空レギュレータ24の制御は、コントローラ70に含まれる圧力制御回路70A(図2参照)によって行われる。
【0037】
圧力制御回路70Aは、例えば、図2に示すようなブロック構成を有するように構成される。例えば、コントローラ70がマイクロコンピュータなどのプロセッサで実現されるときには、図2のようなブロック図を実現するプログラムを用意すればよい。
【0038】
圧力制御回路70Aは、移動平均フィルタ701と、加え合わせ点703と、PID(Proportional-Integral-Derivative)制御器705と、を備える。
【0039】
移動平均フィルタ701には、血圧センサ41からの血圧信号が供給される。移動平均フィルタ701は、血圧信号が示す平均血圧の値を0.01秒ごとにサンプリングし、200サンプル(2秒分の平均血圧のデータ)について移動平均を求める。移動平均フィルタ701は、求めた移動平均(以下、移動平均血圧という。)を加え合わせ点703に供給する。なお、移動平均フィルタ701側で、平均血圧を算出してもよい。具体的には、血圧センサ41は、血圧を示す電気信号を出力し、移動平均フィルタ701は、当該電気信号に基づいて、血圧の値をサンプリングして(例えば、0.01秒ごとにサンプリング)、所定のサンプリング数(200サンプル)の血圧の値から移動平均血圧を算出してもよい。
【0040】
加え合わせ点703は、減算器などからなり、目標血圧も供給される。目標血圧は、操作部54で入力されてコントローラ70のメモリなどに保持され、加え合わせ点703に供給されるものとする。加え合わせ点703では、目標血圧の値から移動平均血圧の値が減じられる。減じた後の値は、血圧偏差としてPID制御器705に供給される。
【0041】
PID制御器705は、加え合わせ点703から供給される血圧偏差に基づいてPID制御を行って新たな目標パンツ圧を出力する。PID制御器705が行うPID制御の伝達関数のパラメータは、シミュレーション等によって予め求めて設定されていればよい(他のPID制御器についても同じ。)。目標パンツ圧は、血圧信号が示す血圧(つまり、患者Xの血圧の値)が目標血圧よりも低ければ増加し、血圧信号が示す血圧が目標血圧値よりも高ければ減少する。このような関係によって、圧迫パンツ20が患者Xの下半身を圧迫する力を適切に制御できる。目標パンツ圧は、PID制御器705から加え合わせ点715に供給される。
【0042】
また、圧力制御回路70Aは、移動平均フィルタ707と、加え合わせ点709と、PID制御器711と、を備える。
【0043】
移動平均フィルタ707には、脳酸素濃度センサ43からの脳酸素濃度信号が供給される。移動平均フィルタ707は、脳酸素濃度信号が示す脳酸素濃度の値を0.01秒ごとにサンプリングし、20サンプル(0.2秒分の脳酸素濃度のデータ)について移動平均を求める。移動平均フィルタ707は、求めた移動平均(以下、移動平均脳酸素濃度という。)を加え合わせ点709に供給する。
【0044】
加え合わせ点709は、減算器などからなり、目標脳酸素濃度も供給される。目標脳酸素濃度は、コントローラ70のメモリなどに予め記憶された固定値とし、加え合わせ点709に供給されるものとする。加え合わせ点709では、目標脳酸素濃度の値から移動平均脳酸素濃度の値が減じられる。減じた後の値は、脳酸素濃度偏差としてPID制御器711に供給される。
【0045】
PID制御器711は、加え合わせ点709から供給される脳酸素濃度偏差に基づいてPID制御を行って目標パンツ圧補正値を出力する。目標パンツ圧補正値は、脳酸素濃度信号が示す脳酸素濃度(つまり、患者Xの脳酸素濃度)が目標脳酸素濃度よりも低ければ増加し、脳酸素濃度信号が示す脳酸素濃度が目標脳酸素濃度よりも高ければ減少する。このような関係によって、圧迫パンツ20が患者Xの下半身を圧迫する力を適切に制御できる。目標パンツ圧補正値は、PID制御器711から加え合わせ点715に供給される。
【0046】
また、圧力制御回路70Aは、移動平均フィルタ713と、加え合わせ点715と、PID制御器717と、を備える。
【0047】
移動平均フィルタ713には、パンツ圧センサ33からのパンツ圧信号が供給される。移動平均フィルタ713は、パンツ圧信号が示すパンツ圧の値を0.002秒ごとにサンプリングし、20サンプル(0.04秒分のパンツ圧のデータ)について移動平均を求める。移動平均フィルタ713は、求めた移動平均(以下、移動平均パンツ圧という。)を加え合わせ点715に供給する。
【0048】
加え合わせ点715は、加算器及び減算器などからなり、目標パンツ圧の値と目標パンツ圧補正値とを加算し、加算した値から移動平均パンツ圧の値を減算する。こうして算出された値は、パンツ圧偏差としてPID制御器717に供給される。
【0049】
PID制御器717は、加え合わせ点715から供給されるパンツ圧偏差に基づいてPID制御を行って電空レギュレータ24の操作量を求め、求めた操作量を示す制御信号を電空レギュレータ24に供給する。操作量は、パンツ圧偏差が正の値であれば(実際のパンツ圧が、目標パンツ圧+補正値の値よりも小さいとき)、圧迫パンツ20に新たに第2圧縮空気を供給することを示すものとなる(操作量の絶対値の大きさは、パンツ圧偏差の絶対値の大きさに応じた大きさになる))。操作量は、パンツ圧偏差が負の値であれば(実際のパンツ圧が、目標パンツ圧+補正値の値よりも大きいとき)、圧迫パンツ20から第2圧縮空気を新たに抜くことを示すものとなる(操作量の絶対値の大きさは、パンツ圧偏差の絶対値の大きさに応じた大きさになる)。
【0050】
電空レギュレータ24は、PID制御器717から供給される制御信号が示す操作量で動作し、当該操作量に対応した量の第2圧縮空気を圧迫パンツ20に新たに供給したり、圧迫パンツ20から新たに抜いたりする。なお、供給等する第2圧縮空気の量は、操作量の絶対値の大きさに応じて変化する。このように電空レギュレータ24の動作を制御することで、圧迫パンツ20の内圧(つまり、圧迫力、膨張度合いなど)が制御される。
【0051】
なお、パンツ圧偏差が正の値であれば、圧迫パンツ20に新たに所定量(固定の量)の第2圧縮空気を供給し、パンツ圧偏差が負の値であれば、圧迫パンツ20から新たに所定量(固定の量)の第2圧縮空気を抜くような操作量を電空レギュレータ24に供給するように圧力制御回路70Aを構成してもよい。また、操作量の絶対値の大きさに係わらず、第2圧縮空気の新たな供給量及び抜く量が固定となるように、電空レギュレータ24を構成してもよい。
【0052】
上記構成によって、圧力制御回路70Aは、患者Xの血圧や脳酸素濃度が低くなるにつれて、電空レギュレータ24を制御して、圧迫パンツ20に第2圧縮空気の量を増やしていき、圧迫パンツ20内の第2圧縮空気の量(圧迫パンツ20の内圧)を増やしていく。これによって、圧迫パンツ20が膨張し、圧迫パンツ20の下半身への圧迫力が増え、下半身が圧迫されることで、患者Xの下半身の血を上半身に絞り出すことができ、これによって、患者Xの血圧や脳酸素濃度低下による失神を防ぐことができる正常範囲に近づけること(血圧を正常範囲内にすることを含む。)ができる。従って、血圧の低下(脳酸素の欠乏)による失神を防止できる。
【0053】
特にこの実施の形態では、脳酸素濃度をフィードバックして圧迫パンツ20の圧迫力を制御する。本願発明者は、圧迫パンツ20による圧迫が、血圧のみならず、脳酸素濃度も向上させることを見出して、圧迫パンツ20の圧迫力を制御することで脳酸素濃度を制御できることを見出した。脳酸素濃度は失神に直接関係するので、この実施の形態のように、脳酸素濃度に基づく当該制御により、患者Xの下半身を好適に圧迫できる(例えば、脳酸素濃度を適切に制御できる。)。また、血圧と脳酸素濃度との両者をフィードバックすることで、患者Xの下半身をより好適に圧迫できる。
【0054】
また、圧迫パンツ20の第1装着部20A内の第2圧縮空気の量が同じであっても、患者Xの腹式呼吸によって患者の腹部の体積が増減し、これによってパンツ圧も増減する。具体的には、腹部の体積が増えれば(息を吸ったとき)、実際のパンツ圧が上昇し、腹部の体積が減れば(息を吐いたとき)、実際のパンツ圧は減少する。このため、脳酸素濃度の低下や血圧の低下を防ぐための理想的なパンツ圧と、実際のパンツ圧(呼吸によって増減するパンツ圧)とは実際には一致しない(図4参照)。理想的なパンツ圧よりもパンツ圧が上昇すると、圧迫パンツ20の圧迫によって患者Xは呼吸が苦しいと感じ、理想的なパンツ圧よりもパンツ圧が減少すると、圧迫力が足りなくなってしまう。このように、第1装着部20A内の第2圧縮空気の量を腹部の体積変化によらず一定とすると、安定した圧迫力が得られないことがある。
【0055】
この実施の形態では、パンツ圧をフィードバックし、フィードバックしたパンツ圧に応じて、圧迫パンツ20内の第2圧縮空気の量を調整することで、実際のパンツ圧を目標パンツ圧に近づける制御を行い(特に、実際のパンツ圧に応じて、第2圧縮空気の供給量を補正することで)、呼吸によるパンツ圧の変化を打ち消すようにしている(ここでは、目標パンツ圧が同じであれば、呼吸があっても、目標パンツ圧が一定になるようにしている)。これによって、呼吸が苦しい、圧迫力が足りないなどの上記不都合を解消できる。
【0056】
図4及び図5は、多系統萎縮症及び低血圧(起立性)の69才の男性に本圧迫システム1(但し、脳酸素濃度のフィードバックは行わなかった。脳酸素濃度のフィードバックを行っても良好な結果を得ることができると考えられる。)を使用したときのグラフであり、当該男性の脳酸素飽和度(脳酸素濃度)と、起立角度(寝た状態が0度)と、血圧と、呼吸曲線と、パンツ圧と、を示す。図4(A)のグラフは圧迫パンツ20を動作させなかったとき(圧迫を行わなかったとき)のグラフである。図4に示すように、圧迫システム1が動作しないときには、当該男性の起立によって、顕著な脳酸素濃度低下と血圧低下が発生し、当該男性は、2分30秒で前失神の状態となった。図4(B)のグラフは圧迫パンツ20を動作させたときのグラフであり、図5は、図4(B)のうちの一部を拡大したグラフである。これらグラフが示すように、圧迫システムを動作させたときには、当該男性が起立しても、脳酸素濃度低下と血圧低下を予防でき、失神の兆候もなかった。また、パンツ圧のフィードバック制御によって、呼吸によるパンツ圧への影響も打ち消されており、当該男性は、呼吸苦を感じなかった(図5参照)。
【0057】
また、上記実施の形態のように、血圧と、脳酸素濃度と、パンツ圧とについて、移動平均を取る周期(PID制御に使用されるフィードバック情報の入力周期)を異ならせることで、フィードバック制御をより適正化することができる。特に,パンツ圧は、血圧等に比べても、呼吸によって短期間に急激に変化するので、パンツ圧の移動平均を取る周期を血圧などよりも短くすることで、パンツ圧についてより精度のよいフィードバック制御が可能となる。
【0058】
次に、圧迫パンツ20の形状について説明する。
【0059】
図6は、第1装着部20Aを示す図である。第1装着部20Aは、膨張部211と、第1面ファスナー部212と、第2面ファスナー部213と、空気供給チューブ214と、を備える。
【0060】
膨張部211と、第1面ファスナー部212と、第2面ファスナー部213と、は、化学繊維などで形成される。
【0061】
膨張部211の両端辺に、それぞれ面ファスナーを備える第1面ファスナー部212及び第2面ファスナー部213と、が連結されており、第1装着部20Aは、帯形状となっている。第1装着部20Aは、患者Xの腹部を含む胴体(特に胴体の下部)に巻かれる。第1装着部20Aが患者の胴体に巻かれたときに、第1面ファスナー部212と第2面ファスナー部213とが背中に回り込み面ファスナー同士が係合し合うことで、第1装着部20Aは胴体に巻き付けられて固定される(図8に装着状態を示す。)。これによって、第1装着部20Aは腹部に装着される。第1装着部20Aが胴体に装着されたとき、膨張部211は、胴体の前側の腹部に位置する。
【0062】
膨張部211は、内部に袋体211Aを有する。袋体211Aには、空気供給チューブ214が接続されている。空気供給チューブ214は、電空レギュレータ24に接続されており、電空レギュレータ24からの第2圧縮空気は、空気供給チューブ214を介して袋体211Aに供給される。第2圧縮空気が供給されることで、袋体211Aが膨らみ、従って膨張部211(第1装着部20A)が膨張し、これによって、患者Xの特に前側腹部が圧迫される。
【0063】
図7は、第2装着部20Bを示す図である。第2装着部20Bは、膨張部221と、第1面ファスナー部222と、第2面ファスナー部223と、空気供給チューブ224と、伸縮部225と、を備える。
【0064】
膨張部221と、第1面ファスナー部222と、第2面ファスナー部223と、伸縮部225と、は、化学繊維などで形成される。
【0065】
膨張部221の両端辺に、それぞれ面ファスナーを備える第1面ファスナー部222及び第2面ファスナー部223と、が連結されており、第2装着部20Bは、太もも及びふくらはぎを含む足に巻き付く形状になっている。第2装着部20Bが患者の足に巻かれたときに、第1面ファスナー部222と第2面ファスナー部223とが足の内側に回り込み面ファスナー同士が係合し合うことで、第2装着部20Bは足に巻き付けられて固定される(図8に装着状態を示す。)。これによって、第2装着部20Bは患者Xの左足に装着される。第2装着部20Bが左足に装着されたとき、膨張部221は、左足の外側に位置する。
【0066】
膨張部221は、内部に袋体221Aを有する。袋体221Aには、空気供給チューブ224が接続されている。空気供給チューブ224は、電空レギュレータ24に接続されており、電空レギュレータ24からの第2圧縮空気は、空気供給チューブ224を介して袋体221Aに供給される。第2圧縮空気が供給されることで、袋体221Aが膨らみ、従って膨張部221(第2装着部20B)が膨張し、これによって、患者Xの足が圧迫される。
【0067】
なお、第2装着部20Bは、足に装着されたときに膝を覆う部分を切欠き226としたり、伸縮部225(伸縮可能なゴム繊維等により形成される)としたりしている。これによって、第2装着部20Bは、足に装着されたときに、膝や膝裏を露出させたり伸縮部225で覆うようにしたりすることができる(図8では伸縮部225を省略している。)。
【0068】
なお、第3装着部20Cは、第2装着部20Bと左右対象の構造となっているので、第3装着部20Cの構成の説明は省略する。
【0069】
圧迫パンツ20は、患者Xに装着されたときに、股関節の部分で第1装着部20Aと、第2装着部20B及び第3装着部20Cとに分かれており、さらに、第2装着部20B及び第3装着部20Cは、膝関節を露出させたり、伸縮部で覆ったりしている。このため、患者Xが立ち上がるなどの動作を行うときであっても、圧迫パンツ20が当該動作を阻害しないようになっており、患者Xは圧迫パンツ20が装着されていても動きやすい。
【0070】
なお、圧迫パンツ20の形状は、適宜変更してもよい。第1装着部20Aは、背中側の部分が膨張するようにしてもよいが、当該膨張によって患者Xが寝ているときに背中が反ってしまうことがあるので、上記のように、腹部側の部分を膨張させた方がよい。また、第2装着部20Bや第3装着部20Cは、足の裏側(後側)の部分、内側(内股側)の部分、表側(前側)の部分の少なくともいずれかを膨張させてもよいが、これらの部分を膨張させると、患者Xは動き難くなるので、第2装着部20Bや第3装着部20Cは、上記のように足の外側の部分を膨張させた方がよい。
【0071】
本発明は、この実施の形態に限定されず、この実施形態に種々の変更(構成の削除を含む)を加えることもできる。以下に変形例を提示するが、下記で例示する変形例は、適宜組合せることができる。
【0072】
上記実施の形態では、第1装着部20A〜第3装着部20Cに同じ供給ラインで第2圧縮空気を供給しているが、第1装着部20A〜第3装着部20Cそれぞれへの空気の供給ラインを別個にして、それぞれの空気の量(圧迫力)を個別に制御してもよい。
【0073】
圧迫する対象は、生体の一部であればよい。また、圧迫する対象は、腰のみ、足のみなどであってもよい。また、圧迫する対象は、他の部分であってもよい。
【0074】
フィードバックされる血圧は、上記では、腕の血圧となっているが、脳への血流の血圧に関連する血圧であればよく、他の部分の血圧であってもよい。
【0075】
また、上記実施の形態では、平均血圧を用いて制御を行っているが、収縮期血圧、拡張期血圧、又は、両者の間の範囲が、失神を防止する許容範囲内になるように、これらのいずれかをフィードバックしてもよい。フィードバックされる血圧、脳酸素濃度、パンツ圧は、上記のように血圧(平均血圧)そのもの、脳酸素濃度そのもの、パンツ圧そのものでなくてもよく、これらを間接的に示す情報(但し、血圧そのものと血圧を間接的に示す情報とは一対一の相関関係にあることが望ましい。脳酸素濃度、パンツ圧についても同様である。)であってもよい。これら情報がフィードバックされる場合であっても、血圧、脳酸素濃度、パンツ圧がフィードバックされることになる。
【0076】
なお、図3を参照して説明した実際のパンツ圧の変動は、上記の呼吸の他、足など筋肉の収縮などによっても生じる。つまり、実際のパンツ圧の変動は、圧迫対象部位(特に、圧迫パンツが装着される部位)の体積変化によって生じる。このため、第2装着部20Bのパンツ圧をフィードバックするようにして、圧迫力(第2圧縮空気の供給量など)を制御してもよい。なお、パンツ圧の制御は、例えば、呼吸の苦しさや圧迫力の足りなさを軽減出来る程度の制御であってもよい。
【0077】
圧迫力(加圧パンツ20に供給されている第2圧縮空気の量など)を制御するためにフィードバックされる情報は、圧迫対象部位の体積変化に応じて変化する物理量であればよく、パンツ圧の他、吐く息の圧力等を検出してフィードバックしてもよい。前記の物理量は、上記実施の形態では、圧迫対象部位の体積が増えると増加し、圧迫対象部位の体積が減ると減少するものである。しかし、フィードバック制御に用いられる物理量は、圧迫対象部位の体積が増えると減少し、圧迫対象部位の体積が減ると増加するものであってもよい(このような場合、例えば、物理量が増えたときには加圧パンツ20内の第2圧縮空気を減らし、物理量が減ったときには加圧パンツ20内の第2圧縮空気を増やすようにすればよい。)。
【0078】
コントローラ70は、例えば、圧迫対象部位の体積変化に応じて変化する物理量を取得し、取得した物理量の変化に応じて前記圧迫力を制御すればよいが(例えば、物理量の変化によって特定できる体積変化に応じて圧迫力を変化させるなど)、コントローラ70に予め呼吸等の周期を設定しておき、コントローラ70は、設定された周期に応じて圧迫力を増減させてもよい。圧迫力の増減の度合い(第2圧縮空気を減少又は増加させる量)は、固定であってもよい。
【0079】
PID制御における伝達関数のパラメータは、フィードバックされる情報などに応じて適宜決定されればよい(失神を防止するために圧迫力を適切に制御するようにパラメータが設定されればよい。)。
【0080】
圧迫システム1は、血圧や脳酸素濃度をフィードバックしない構成であってもよい。例えば、患者Xが立ち上がる際に、予め定められた量の第2圧縮空気を圧迫パンツ20に供給してもよい。このような場合であっても、上記実施の形態のようにパンツ圧をフィードバックして、パンツ圧を調整するとよい。
【0081】
上記圧迫システム1では、腹部の体積が増えたときにパンツ圧を減らし、腹部の体積が減ったときにパンツ圧を増やしているが、腹部の体積が増えたときにパンツ圧を減らすのみを行うか、腹部の体積が減ったときにパンツ圧を増やすのみする制御を行うようにしてもよい。例えば、パンツ圧が、目標のパンツ圧よりも低いときには圧迫パンツ20の第2圧縮空気の量を増やすが、目標のパンツ圧よりも高いときには第2圧縮空気を減らすようにしてもよい。
【0082】
上記圧迫システムでは、血圧に基づいて目標パンツ圧を設定し、脳酸素濃度に基づいて当該目標パンツ圧を補正するようしているが、脳酸素濃度に基づいて目標パンツ圧を設定し、血圧に基づいて目標パンツ圧を補正するようにしてもよい。また、フィードバックされる血圧が所定範囲内にあるときに、脳酸素濃度を用いたフィードバック制御を行うようしてもよい。また、フィードバックされる脳酸素濃度が所定範囲内にあるときに、血圧を用いたフィードバック制御を行うようしてもよい。目標となる脳酸素濃度や血圧は、ユーザによって指定されても、固定値であってもよい。
【0083】
脳酸素濃度についてはフィードバックし、血圧やパンツ圧はフィードバックしないようにしてもよい。つまり、脳酸素濃度が正常値(目標値)となるように、脳酸素濃度を示す情報に基づいて圧迫力を制御し、血圧やパンツ圧のいずれか少なくとも一方は使用しないようにしてもよい。圧迫システム1は、例えば、血圧及び/又は脳酸素濃度が予め設定される各目標値(理想的な正常値の他、失神を防止できる程度の低い値などでもよい。)になる又は近づくように加圧パンツ20内の第2圧縮空気の量(パンツ圧など)を増減させればよい(例えば、フィードバックされる血圧が目標値よりも低ければ第2圧縮空気の量を増やし、フィードバックされる血圧が目標値よりも高ければ第2圧縮空気の量を減らせばよい。脳酸素濃度についても同様である。)
【0084】
圧迫システム1は、例えば、血圧、脳酸素濃度、圧迫対象部位の体積変化、の少なくともいずれかについてサーボ制御を行うものであればよく、その詳細な構成は上記実施の形態に限らず適宜変更できる。
【0085】
上記実施の形態では、PID制御によるフィードバック制御を行っているが、各種の方法でフィードバック制御を行ってもよい。例えば、目標パンツ圧の変化を緩やかにするため、血圧偏差に応じて増加させる目標パンツ圧の増加量に上限値を設定してもよいし、増加量を固定としてもよい。このようなことは、目標パンツ圧補正値や操作量についても同様である。また、上記実施の形態では、目標パンツ圧を、フィードバックされる血圧及び脳酸素濃度とこれらの各目標値との偏差に基づいて設定し、当該目標パンツ圧を、フィードバックされるパンツ圧に基づいて補正して、電空レギュレータ24の操作量を決定しているが、例えば、目標操作量(目標パンツ圧の一種としても捉えられる。)を、フィードバックされる血圧及び脳酸素濃度とこれらの各目標値との偏差に基づいて設定し、当該目標操作量を、フィードバックされるパンツ圧に基づいて補正して、電空レギュレータ24の実際の操作量を決定してもよい。
【0086】
電空レギュレータ24の動作量(空気の供給量や排出量)と操作量とは、一定の関係にあればよく、どのような関係とするかは任意である。
【0087】
患者Xの体の一部を加圧する方法としては、空気による膨張の他、各種気体や各種液体の供給による膨張によってもよく、また、機械的に体の一部を締め付けてもよい(例えば、内周の長さが機械的に変化するベルトのようなもので締め付けるなど)。
【0088】
血圧、脳酸素濃度、パンツ圧などの目標値は、幅があってもよく、血圧、脳酸素濃度、パンツ圧などが目標値の範囲内に入るように、電空レギュレータ24の操作量(圧迫力など)を制御してもよい。
【0089】
また、本発明は、救急時のショック、手術時、献血時、透析時の低血圧の防止のための圧迫システムなどにも適用できる。また、神経疾患(シャイ・ドレーガー症候群、パーキンソン病など)、脊髄損傷、糖尿病神経症などの起立性低血圧を改善のための圧迫システムなどにも適用できる。また、本発明は、戦闘機のパイロットの失神防止のための圧迫システムなどにも適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1・・・圧迫システム、20・・・圧迫パンツ、20A・・・第1装着部、20B・・・第2装着部、20C・・・第3装着部、24・・・電空レギュレータ、31・・・気圧センサ、33・・・パンツ圧センサ、41・・・血圧センサ、43・・・脳酸素濃度センサ、70・・・コントローラ、70A・・・圧力制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8