(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被処理基板を処理容器内に収容し、前記処理容器内を減圧状態に保持し、所定の処理温度で、Ti含有ガスと窒化ガスとを前記処理容器内に交互に供給して単位TiN膜を成膜した後、前記処理容器内に酸化剤を供給して前記単位TiN膜を酸化するサイクルを、複数サイクル繰り返してTiON膜を成膜するTiON膜の成膜方法であって、
成膜初期段階において、前記Ti含有ガスと窒化ガスとの交互供給をX1回繰り返した後、酸化剤を供給するサイクルを、Y1サイクル行い、
その後の成膜段階において、Ti含有ガスと窒化ガスとの交互供給をX2回繰り返した後、酸化剤を供給するサイクルを、所望の膜厚になるまでY2サイクル行い、
前記成膜初期段階の繰り返し数X1と、前記その後の成膜段階の繰り返し数X2は、X1>X2となるように設定され、
前記X1は前記X2の3倍以上であることを特徴とするTiON膜の成膜方法。
前記成膜を行う装置と前記アルゴンイオン処理を行う装置とは、真空中で被処理基板を搬送可能な搬送系を有する処理システムに搭載され、前記成膜と、前記アルゴンイオン処理とを真空を破らずに連続して行うことを特徴とする請求項12に記載のTiON膜の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0035】
以下の説明において、ガスの流量の単位はmL/minを用いているが、ガスは温度および気圧により体積が大きく変化するため、標準状態に換算した値を用いている。なお、標準状態に換算した流量は通常sccm(Standerd Cubic Centimeter per Minutes)で標記されるためsccmを併記している。ここにおける標準状態は、温度0℃(273.15K)、気圧1atm(101325Pa)の状態である。
【0036】
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係るTiON膜の成膜方法の実施に用いる成膜装置の一例を示す概略断面図である。
【0037】
この成膜装置100は、略円筒状のチャンバ1を有している。チャンバ1の内部には、被処理基板であるウエハWを水平に支持するためのステージとして、AlNで構成されたサセプタ2がその中央下部に設けられた円筒状の支持部材3により支持された状態で配置されている。サセプタ2の外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング4が設けられている。また、サセプタ2にはモリブデン等の高融点金属で構成されたヒーター5が埋め込まれており、このヒーター5はヒーター電源6から給電されることにより被処理基板であるウエハWを所定の温度に加熱する。
【0038】
チャンバ1の天壁1aには、シャワーヘッド10が設けられている。シャワーヘッド10は、ベース部材11とシャワープレート12とを有しており、シャワープレート12の外周部は、貼り付き防止用の円環状をなす中間部材13を介してベース部材11に図示しないネジにより固定されている。シャワープレート12はフランジ状をなし、その内部に凹部が形成されており、ベース部材11とシャワープレート12との間にガス拡散空間14が形成される。ベース部材11はその外周にフランジ部11aが形成されており、このフランジ部11aがチャンバ1の天壁1aに取り付けられている。シャワープレート12には複数のガス吐出孔15が形成されており、ベース部材11には2つのガス導入孔16および17が形成されている。
【0039】
ガス供給機構20は、Ti含有ガスとしてのTiCl
4ガスを供給するTiCl
4ガス供給源21と、窒化ガスとしてのNH
3ガスを供給するNH
3ガス供給源23とを有している。TiCl
4ガス供給源21にはTiCl
4ガス供給ライン22が接続されており、このTiCl
4ガス供給ライン22は第1のガス導入孔16に接続されている。NH
3ガス供給源23にはNH
3ガス供給ライン24が接続されており、このNH
3ガス供給ライン24は第2のガス導入孔17に接続されている。
【0040】
TiCl
4ガス供給ライン22にはN
2ガス供給ライン26が接続されており、このN
2ガス供給ライン26にはN
2ガス供給源25からN
2ガスがキャリアガスまたはパージガスとして供給されるようになっている。
【0041】
NH
3ガス供給ライン24には酸化剤供給ライン28が接続されており、この酸化剤供給ライン28には酸化剤供給源27から、酸化剤として、O
2ガス、O
3ガス、H
2O、NO
2等の酸素含有ガスが供給されるようになっている。酸素含有ガスをプラズマ化して酸化剤として用いてもよい。このとき、酸化剤供給源27から予め酸素含有ガスをプラズマ化したものを酸化剤として供給してもよいし、酸素含有ガスをシャワーヘッド10内でプラズマ化してもよい。また、NH
3ガス供給ライン24にはN
2ガス供給ライン30が接続されており、このN
2ガス供給ライン30にはN
2ガス供給源29からN
2ガスがキャリアガスまたはパージガスとして供給されるようになっている。
【0042】
また、ガス供給機構20は、クリーニングガスであるClF
3ガスを供給するClF
3ガス供給源31も有しており、ClF
3ガス供給源31にはClF
3ガス供給ライン32aが接続されている。このClF
3ガス供給ライン32aは、TiCl
4ガス供給ライン22に接続されている。また、ClF
3ガス供給ライン32aから分岐して、NH
3ガス供給ライン24に接続されるClF
3ガス供給ライン32bが設けられている。
【0043】
TiCl
4ガス供給ライン22、NH
3ガス供給ライン24、酸化剤ライン28、N
2ガス供給ライン26、30、ClF
3ガス供給ライン32aには、マスフローコントローラ33およびマスフローコントローラ33を挟む2つのバルブ34が設けられている。また、ClF
3ガス供給ライン32bには、バルブ34が設けられている。
【0044】
したがって、TiCl
4ガス供給源21からのTiCl
4ガスおよびN
2ガス供給源25からのN
2ガスは、TiCl
4ガス供給ライン22を介してシャワーヘッド10の第1のガス導入孔16からシャワーヘッド10内のガス拡散空間14に至り、またNH
3ガス供給源23からのNH
3ガス、酸化剤供給源27からの酸化剤およびN
2ガス供給源29からのN
2ガスは、NH
3ガス供給ライン24を介してシャワーヘッド10の第2のガス導入孔17からシャワーヘッド10内のガス拡散空間14に至り、これらのガスはシャワープレート12のガス吐出孔15からチャンバ1内へ吐出されるようになっている。
なお、シャワーヘッド10は、TiCl
4ガスとNH
3ガスとが独立してチャンバ1内に供給されるポストミックスタイプであってもよい。
【0045】
なお、Ti含有ガスとしては、TiCl
4以外に、テトラ(イソプロポキシ)チタン(TTIP)、四臭化チタン(TiBr
4)、四ヨウ化チタン(TiI
4)、テトラキスエチルメチルアミノチタン(TEMAT)、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT)、テトラキスジエチルアミノチタン(TDEAT)等を用いることもできる。また、窒化ガスとしては、NH
3以外に、モノメチルヒドラジン(MMH)を用いることもできる。また、キャリアガスおよびパージガスとして用いるN
2ガスの代わりに、Arガス等の他の不活性ガスを用いることもできる。
【0046】
シャワーヘッド10のベース部材11には、シャワーヘッド10を加熱するためのヒーター45が設けられている。このヒーター45にはヒーター電源46が接続されており、ヒーター電源46からヒーター45に給電することによりシャワーヘッド10が所望の温度に加熱される。ベース部材11の上部に形成された凹部にはヒーター45による加熱効率を上げるために断熱部材47が設けられている。
【0047】
チャンバ1の底壁1bの中央部には円形の穴35が形成されており、底壁1bにはこの穴35を覆うように下方に向けて突出する排気室36が設けられている。排気室36の側面には排気管37が接続されており、この排気管37には排気装置38が接続されている。そしてこの排気装置38を作動させることによりチャンバ1内を所定の真空度まで減圧することが可能となっている。
【0048】
サセプタ2には、ウエハWを支持して昇降させるための3本(2本のみ図示)のウエハ支持ピン39がサセプタ2の表面に対して突没可能に設けられ、これらウエハ支持ピン39は支持板40に支持されている。そして、ウエハ支持ピン39は、エアシリンダ等の駆動機構41により支持板40を介して昇降される。
【0049】
チャンバ1の側壁には、チャンバ1と隣接して設けられた図示しないウエハ搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口42と、この搬入出口42を開閉するゲートバルブ43とが設けられている。
【0050】
成膜装置100の構成部であるヒーター電源6および46、バルブ34、マスフローコントローラ33、駆動機構41等は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えた制御部50に接続されて制御される構成となっている。また、制御部50には、オペレータが成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。さらに、制御部50には、成膜装置100で実行される各種処理を制御部50の制御にて実現するためのプログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部52が接続されている。処理レシピは記憶部52中の記憶媒体52aに記憶されている。記憶媒体はハードディスク等の固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介して処理レシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部52から呼び出して制御部50に実行させることで、制御部50の制御下で、成膜装置100での所望の処理が行われる。
【0051】
次に、以上のような成膜装置100における本実施形態に係るTiON膜の成膜方法について説明する。
【0052】
まず、チャンバ1内を排気装置38により真空引き状態とし、N
2ガス供給源25および29からN
2ガスをシャワーヘッド10を介してチャンバ1内に導入しつつ、ヒーター5によりチャンバ1内を、成膜温度に予備加熱し、温度が安定した時点で、TiCl
4ガスおよびNH
3ガスによりチャンバ1内壁、排気室36内壁およびシャワーヘッド10等のチャンバ内部材表面にTiN膜をプリコートする。
【0053】
プリコート処理が終了後、ゲートバルブ43を開にして、ウエハ搬送室から搬送装置により(いずれも図示せず)搬入出口42を介してウエハWをチャンバ1内へ搬入し、サセプタ2に載置する。そして、ヒーター5によりウエハWを好ましくは300〜500℃の範囲の所定温度に加熱し、チャンバ1内にN
2ガスを供給してウエハWの予備加熱を行う。ウエハの温度がほぼ安定した時点で、TiON膜の成膜を開始する。
【0054】
本実施形態に係るTiON膜の成膜方法においては、Ti含有ガスであるTiCl
4ガスの供給と、窒化ガスであるNH
3ガスの供給とをチャンバ1のパージを挟んで交互に複数回(X回)繰り返した後、酸化剤を供給し、その後チャンバ1をパージするサイクルを1サイクルとし、このサイクルを複数サイクル(Yサイクル)繰り返す成膜手法を前提とする。
【0055】
本実施形態の前提となる成膜手法のシーケンスの一例について
図2のタイミングチャートおよび
図3のフロー図を参照して説明する。
これらの図に示すように、最初に、TiCl
4ガス供給源21からTiCl
4ガスをチャンバ1に供給してTiCl
4ガスを吸着させ(ステップS1)、次いで、TiCl
4ガスの供給を停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS2)、次いで、NH
3ガス供給源23からNH
3ガスをチャンバ1に供給し、吸着したTiCl
4と反応させてTiNを形成し(ステップS3)、次いで、NH
3ガスを停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS4)、これらステップS1〜S4をX回繰り返す。その後、酸化剤供給源27から酸化剤(例えばO
2ガス)をチャンバ1に供給して酸化処理を行い(ステップS5)、次いでチャンバ1内をパージする(ステップS6)。このサイクルを1サイクルとし、これをYサイクル繰り返すことにより、所望の厚さのTiON膜を形成する。
【0056】
このときの成膜状態を
図4に示す。この図に示すように、ステップS1〜S4をX回繰り返すことにより所定膜厚の単位TiN膜101を成膜し、その後ステップS5の酸化処理を行うことにより単位TiN膜101を酸化させる。これを1サイクルとしてYサイクル行うことにより所定膜厚のTiON膜が形成される。このときステップS1〜S4の繰り返し回数であるXによりTiON膜の酸素量を調整することができる。すなわち、Xを減らすと酸化の頻度が増えるので膜中の酸素取り込み量が増え、逆にXを増やすと膜中の酸素取り込み量は減る。また、ステップS1〜S4を繰り返した後に、ステップS5、S6を行うサイクルのサイクル数Yにより膜厚を調整することができる。
【0057】
図1に示す装置を用い、X=6とXの値を一定として上記基本的な成膜手法により実際に酸化膜の上にTiON膜を成膜した結果、サイクル数と膜厚の関係は
図5に示すようになった。ここでサイクル数はXとYの積である。
図5に示すように、成膜初期に膜成長しない状態(成膜遅れ)が存在していることがわかる。したがって、Xを一定にすると、成膜初期には実際の成膜量に対して酸化量が過剰となる。また、このように成膜初期の酸化量が多くなると、下地膜が酸化剤の影響を受け、TiON膜表面の平滑性が悪くなるおそれがある。
【0058】
そこで、本実施形態では、成膜初期段階のステップS1〜S4の繰り返し回数をその後の段階のステップS1〜S4の繰り返し回数よりも多くする。すなわち、成膜初期のステップS1〜S4の繰り返し回数をX1回とし、その後のステップS1〜S4の繰り返し回数をX2とした場合に、X1>X2とする。
【0059】
具体的には、
図6のタイミングチャートに示すように、成膜初期段階では、ステップS1〜S4を通常よりも値が大きいX1回繰り返した後に酸化剤供給ステップであるステップS5およびパージステップであるステップS6を行うサイクルをY1サイクル行い、その後の成膜段階では、ステップS1〜S4をX1よりも小さいX2回繰り返した後に酸化剤供給ステップであるステップS5およびパージステップであるステップS6を行うサイクルをY2サイクル行う。すなわち、成膜途中でステップS1〜S4の繰り返し回数であるXを変調させる。そしてY1サイクルとY2サイクルの合計によりTiON膜の膜厚が決定される。
【0060】
このようにすることにより、膜成長がほとんど行われない成膜初期にステップS5の酸化剤の供給ステップの頻度を低くすることができるので、成膜初期の酸化量を抑制することができ、成膜初期における酸化剤の影響によりTiON膜表面の平滑性が悪くなることが抑制され、平滑性の良好なTiON膜を得ることができる。また、膜成長がほとんど行われない成膜初期状態から成膜が定常状態になった際には、ステップS1〜S4の繰り返し数をX1からX2に減じることで、成膜量に対する酸化量を所望の値にすることができる。なお、TiON膜全体の酸素濃度は、酸化処理の時間や酸化剤の流量で調整することもできる。
【0061】
この場合に、定常状態におけるステップS1〜S4の繰り返し回数X2はTiON膜中の酸化量(酸素濃度)が所望の値になるように設定され、1≦X2≦25の範囲が好ましい。また、初期状態におけるステップS1〜S4の繰り返し回数X1は、X2の3倍以上が好ましく、10≦X1≦60の範囲が好ましい。成膜初期のサイクル数Y1は、膜成長しない成膜遅れの期間をカバーできればよく、1≦Y1≦5の範囲が好ましい。サイクル数Y2は、成膜しようとするTiON膜の膜厚に応じて適宜設定される。
【0062】
このようにしてTiON膜を成膜した後、チャンバ1内の真空引きを行い、ウエハWを搬出する。
【0063】
なお、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用いた場合の成膜条件の好ましい範囲は以下の通りである。
処理温度(サセプタ温度):300〜500℃
チャンバ内圧力:13.33〜1333Pa(0.1〜10Torr)
TiCl
4ガス流量:10〜200mL/min(sccm)
NH
3ガス流量:1000〜10000mL/min(sccm)
N
2ガス流量:1000〜30000mL/min(sccm)
ステップ1〜4の1回の供給時間:0.01〜3sec
O
2ガス流量:10〜3000mL/min(sccm)
O
2ガス供給時間:0.1〜60sec
【0064】
次に、Xを固定したプロセス(X固定プロセス)で成膜したTiON膜と、本実施形態に従ってXを変調させたプロセス(X変調プロセス)で成膜したTiON膜とについて、表面の平滑性を比較した。ここでは、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用いて上記範囲内の成膜条件で、X固定プロセスでは、X=6とし、膜厚をYで調整してTiON膜を成膜し、X変調プロセスでは、X1=30、Y1=1、X2=6として膜厚をY2で調整してTiON膜を成膜した。成膜温度はいずれも430℃とした。また、表面平滑性は、ヘイズ(Haze)により評価した。ヘイズは、拡散透過光の全光線透過光に対する割合から求められる光散乱を表す指標であり、表面粗さと相関がある値である。ヘイズ値が低いほど表面平滑性が良好であり、ヘイズ値が高いほど表面平滑性が悪い。
【0065】
その結果を
図7に示す。
図7は、X固定プロセスで成膜したTiON膜とX変調プロセスで成膜したTiON膜における膜厚とヘイズとの関係を示す図である。この図に示すように、成膜初期においてはX固定プロセスとX変調プロセスとでヘイズ値に差はないが、膜厚が10nmになると、X変調プロセスのほうがヘイズの値が小さくなった。すなわち、本実施形態に従ってXを変調させることにより、Xを固定した場合よりも、TiON膜の平滑性が良好になることが確認された。
【0066】
次に、成膜初期における酸化頻度の膜中酸素濃度への影響を調査した。ここでは、X線光電子分光分析(XPS)によりウエハの9点の酸素濃度を求め、その平均値を膜中の酸素濃度として求めた。その結果を
図8に示す。この図に示すように、Xを固定したX固定プロセスと本実施形態のX変調プロセスで膜中酸素濃度にほとんど差がないことが確認された。
【0067】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態においては、
図1の成膜装置100を用いて、第1の実施形態よりも窒化を強化した手法によりTiON膜を成膜する。
【0068】
以下、本実施形態のTiON膜の成膜方法の一例について説明する。
まず、第1の実施形態と同様にプリコート処理を行った後、ゲートバルブ43を開にして、ウエハ搬送室から搬送装置により(いずれも図示せず)搬入出口42を介してウエハWをチャンバ1内へ搬入し、サセプタ2に載置する。そして、ヒーター5によりウエハWを好ましくは300〜500℃の範囲の所定温度に加熱し、チャンバ1内にN
2ガスを供給してウエハWの予備加熱を行う。ウエハの温度がほぼ安定した時点で、TiON膜の成膜を開始する。
【0069】
TiON膜の成膜においては、デバイスの微細化が進み、例えばDRAMのキャパシタ構造の開口が狭くなりアスペクト比が高くなると、第1の実施形態が前提とする
図2のシーケンスでは、ビア底(シリンダ底)でのTiCl
4の還元が不十分になることがある。還元が不十分な場合、以下の(1)の反応によるTiCl
4からの塩素の離脱は起こるものの、以下の(2)の反応によるTiの窒化が十分生じないおそれがある。
(1)TiCl
4 + NH
3 → Ti- + Cl 塩素の離脱
(2)Ti- + NH
3 → TiN 窒化
【0070】
上記(1)の反応は生じるが(2)の反応が不十分である場合、
図9(a)に示すように、酸化前のTiN膜にはNと結合していないTiのダングリングボンドが生成される。ダングリングボンドは活性であるため、成膜中であっても容易に隣接するhigh−k膜中の酸素(Ox)と反応し、high−k膜中に酸素欠陥(Vo)が生じてしまう。high−k膜中に酸素欠陥(Vo)が生じると、欠陥を介して生じるPF(Poole-Frenkel)伝導によるリーク電流が増加してしまう。
【0071】
そこで、本実施形態では、単位TiN膜を形成した後、酸化処理の前に、NH
3ガスを供給するステップを追加する。これにより、
図9(b)に示すように、単位TiN膜中にダングリングボンドが形成されることを防ぐことができ、TiON膜を成膜中にhigh−k膜中の酸素がTiN膜に取り込まれてしまうことが防止される。
【0072】
具体的なシーケンス例を
図10のタイミングチャートおよび
図11のフロー図を参照して説明する。
これらに示すように、最初に、第1の実施形態のステップS1〜S4と同様、TiCl
4ガス供給源21からTiCl
4ガスをチャンバ1に供給してTiCl
4ガスを吸着させ(ステップS11)、次いで、TiCl
4ガスの供給を停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS12)、次いで、NH
3ガス供給源23からNH
3ガスをチャンバ1に供給し、吸着したTiCl
4と反応させてTiNを形成し(ステップS13)、次いで、NH
3ガスを停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS14)、これらステップS11〜S14をX回繰り返す。その後、NH
3ガス供給源23からNH
3ガスをチャンバ1に供給してNH
3ガスのポストフローを行い(ステップS15)、次いで、NH
3ガスを停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS16)、その後、酸化剤供給源27から酸化剤(例えばO
2ガス)をチャンバ1に供給して酸化処理を行い(ステップS17)、次いでチャンバ1内をパージする(ステップS18)。以上のサイクルを1サイクルとし、これをYサイクル繰り返すことにより、所望の厚さのTiON膜を形成する。
【0073】
このとき、ステップS11〜S14の繰り返し数XによりTiON膜の酸素量を調整することができる。すなわち、繰り返し数Xを減らすと酸化の頻度が増えるので膜中の酸素取り込み量が増え、逆に繰り返し数Xを増やすと膜中の酸素取り込み量は減る。また、サイクル数Yにより膜厚を調整することができる。なお、TiON膜の酸素濃度は、ステップS11〜S14の繰り返し回数を調整するのみならず、酸化処理の時間や酸化剤の流量で調整することもできる。
【0074】
このようにしてTiON膜を成膜した後、チャンバ1内の真空引きを行い、ウエハWを搬出する。
【0075】
このように、ステップ17の酸化処理の前に、ステップ15のNH
3ガスのポストフローを追加するので、単位TiN膜中にダングリングボンドが形成されることを防ぐことができ、TiON膜を成膜中にhigh−k膜中の酸素がTiN膜に取り込まれてしまうことを防止することができる。このため、high−k膜中に酸素欠陥が生成されることをより確実に防止することができ、リーク電流を低減することができる。このような効果は、極めて微細な構造のDRAMキャパシタのように、通常の交互供給のNH
3ガス供給だけではビア底(シリンダ底)が十分に還元されないおそれがある場合に特に有効であるが、本実施形態は、このような場合に限らず、high−k膜に隣接してTiON膜を形成する場合全般に適用することができる。
【0076】
本実施形態においても、酸化剤として、O
2ガス、O
3ガス、H
2O、NO
2等の酸素含有ガスを用いることができ、酸素含有ガスをプラズマ化して酸化剤として用いてもよい。また、Ti含有ガスとしては、TiCl
4以外に、テトラ(イソプロポキシ)チタン(TTIP)、四臭化チタン(TiBr
4)、四ヨウ化チタン(TiI
4)、テトラキスエチルメチルアミノチタン(TEMAT)、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT)、テトラキスジエチルアミノチタン(TDEAT)等を用いることもできる。また、窒化ガスとしては、NH
3以外に、モノメチルヒドラジン(MMH)を用いることもできる。また、キャリアガスおよびパージガスとして用いるN
2ガスの代わりに、Arガス等の他の不活性ガスを用いることもできる。
【0077】
なお、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用いた場合の成膜条件の好ましい範囲は以下の通りである。
処理温度(サセプタ温度):300〜500℃
チャンバ内圧力:13.33〜1333Pa(0.1〜10Torr)
TiCl
4ガス流量:10〜200mL/min(sccm)
NH
3ガス流量:1000〜10000mL/min(sccm)
N
2ガス流量:1000〜30000mL/min(sccm)
ステップ11〜16の1回の供給時間:0.01〜3sec
O
2ガス流量:10〜3000mL/min(sccm)
O
2ガス供給時間:0.1〜60sec
【0078】
なお、上記例では、NH
3ガスのポストフローを1回のみとしたが、NH
3ガスフローとパージをパルス的に2回以上回数繰り返すような供給形態であってもよい。
【0079】
本実施形態における酸化処理前の窒化ガスによるポストフローは、第1の実施形態に係るTiON膜の成膜方法にも適用することができ、その場合にも同様の効果を奏することができる。
【0080】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
本実施形態においては、
図1の成膜装置100を用いて、第1の実施形態が前提とする
図2のシーケンスでTiON膜の成膜を行った後、膜表面にアルゴンイオン処理を施す。
【0081】
図12は、アルゴンイオン処理を施す装置の一例を示す断面図である。
ここでは、ICP(Inductively Coupled Plasma)型プラズマスパッタ装置をアルゴンイオン処理装置として用いた例を示す。
【0082】
図12に示すように、このアルゴンイオン処理装置200は、アルミニウム等の金属からなる接地されたチャンバ201を有しており、チャンバ201の底部には排気口202およびガス導入口203が設けられている。排気口202には排気管204が接続されており、排気管204には圧力調整を行うスロットルバルブおよび真空ポンプ等からなる排気機構205が接続されている。また、ガス導入口203にはガス供給配管206が接続されており、ガス供給配管206には、アルゴン(Ar)ガス、およびN
2ガス等の他のガスを供給するためのガス供給機構207が接続されている。ステージ210は導電性材料からなり、支柱211を介して接地されている。
【0083】
チャンバ201内には、被処理基板であるウエハWを載置するためのステージ210が設けられている。ステージ210には、ウエハ吸着用の静電チャックおよびウエハを温調するための温調機構(いずれも図示せず)が設けられている。ステージ210の下面の中央には円筒状をなす支柱211が設けられている。支柱211の下部は、処理容器201の底部の中心部に形成された挿通孔212を貫通して下方へ延びている。支柱211は昇降機構(図示せず)により昇降可能となっており、これによりステージ210が昇降される。ステージ210とチャンバ201の底部との間には支柱211を囲むようにベローズ213が設けられている。ステージ210には給電ライン214が接続されており、給電ライン214は支柱211の内部を通って下方に延びている。給電ライン214には、バイアス用高周波電源215が接続されており、バイアス用高周波電源215からステージ210を介してウエハWに例えば13.56MHzの高周波バイアスが印加されるようになっている。
【0084】
チャンバ201の底部には、上方に向けて例えば3本(2本のみ図示)の支持ピン216が垂直に設けられており、支持ピン216がステージ210に設けられたピン挿通孔(図示せず)に挿通するようになっており、ステージ210を降下させた際に、支持ピン216の上端でウエハWが支持された状態となりウエハWの搬送が可能となる。
【0085】
チャンバ201の下部側壁にはウエハWを搬入出するための搬入出口217が設けられ、搬入出口217はゲートバルブ218により開閉される。
【0086】
一方、チャンバ201の天井部には、誘電体からなる透過板220が気密に設けられ、この透過板220の上面側に、チャンバ201内の処理空間SにArガスのプラズマを生成するためのプラズマ発生源221が設けられている。プラズマ発生源221は、透過板220の上面に沿って設けられた誘導コイル222と、この誘導コイル222に接続されたプラズマ生成用高周波電源223とを有している。そして、誘導コイル222にプラズマ生成用高周波電源223から例えば13.56MHzの高周波電力が印加されることにより、透過板220を介して処理空間Sに誘導電界が形成される。
【0087】
チャンバ201の上部は傾斜部201aとなっており、その内側にて断面が内側に向けて傾斜した環状(截頭円錐殻状)をなすターゲットが取り付けられるようになっており、また、ターゲットに直流電圧を印加する直流電源およびターゲットの外周側に設けられた磁石(いずれも図示せず)が設けられているが、アルゴンイオン処理装置として用いる場合はこれらは必要がないので説明を省略する。
【0088】
アルゴンイオン処理装置200も成膜装置100の制御部50と同様の制御部(図示せず)を有しており、各構成部が制御部に接続されて制御されるようになっている。
【0089】
このようなアルゴンイオン処理装置200においては、ガス供給機構207からチャンバ201内にArガスを供給し、誘導コイル222に高周波電源223から高周波電力を印加することにより、チャンバ201内の処理空間SにArプラズマを生成するとともに、バイアス用高周波電源215からステージ210にバイアス用の高周波電力を印加することによりArイオンをウエハWに引き込んで、ウエハW表面にArイオン処理を施す。
【0090】
次に、本実施形態のTiON膜の成膜方法の一例について説明する。
TiON膜の成膜においては、
図2に示すような、TiCl
4ガスとNH
3ガスの交互供給による単位TiN膜の成膜と、その後の酸化処理とを1サイクルとして、このサイクルを複数サイクル繰り返す手法のみでは、
図13に示すように、膜中に0.7at.%程度塩素(Cl)が残留し、
図14に示すように、平滑性等に問題が生じる場合があることが判明した。これは、原料ガスであるTiCl4が完全に還元されずにClが膜中に残留してしまうためである。なお、
図13はTiON膜の膜組成をX線光電分光(XPS)装置で測定した結果を示す図であり、
図14はTiON膜の表面の走査型顕微鏡(SEM)写真である。
【0091】
そこで、本実施形態では、
図2に示すようなシーケンスでTiON膜を形成した後、アルゴンイオン処理を行って残留Clを低減させる。
具体的なフローについて、
図15のフロー図に基づいて説明する。
まず、第1の実施形態と同様に、成膜装置100のプリコート処理を行った後のチャンバ1に、搬入出口42を介してウエハWを搬入し、サセプタ2に載置する。そして、ヒーター5によりウエハWを好ましくは300〜500℃の範囲の所定温度に加熱し、チャンバ1内にN
2ガスを供給してウエハWの予備加熱を行ってウエハWの温度を安定させる(ステップS21)。
【0092】
次に、第1の実施形態のステップS1〜S4と同様、TiCl
4ガス供給源21からTiCl
4ガスをチャンバ1に供給してTiCl
4ガスを吸着させ(ステップS22)、次いで、TiCl
4ガスの供給を停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS23)、次いで、NH
3ガス供給源23からNH
3ガスをチャンバ1に供給し、吸着したTiCl
4と反応させてTiNを形成し(ステップS24)、次いで、NH
3ガスを停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS25)、これらステップS22〜S25を所定回数繰り返す。その後、酸化剤供給源27から酸化剤(例えばO
2ガス)をチャンバ1に供給して酸化処理を行い(ステップS26)、次いでチャンバ1内をパージする(ステップS27)。このサイクルを1サイクルとし、これを所定サイクル繰り返すことにより、所望の厚さのTiON膜を形成する。
【0093】
このとき、ステップS22〜S25の繰り返し回数によりTiON膜の酸素量を調整することができる。すなわち、繰り返し回数を減らすと酸化の頻度が増えるので膜中の酸素取り込み量が増え、逆に繰り返し回数を増やすと膜中の酸素取り込み量は減る。また、サイクル数により膜厚を調整することができる。なお、TiON膜の酸素濃度は、ステップS22〜S25の繰り返し回数を調整するのみならず、酸化処理の時間や酸化剤の流量で調整することもできる。
【0094】
このようにしてTiON膜を成膜した後、チャンバ1内の真空引きを行い、チャンバ1からウエハWを搬出する(ステップS28)。
【0095】
次に、TiON膜が成膜されたウエハWをアルゴンイオン処理装置200のチャンバ201内に搬入し、ステージ210の上に載置させる(ステップS29)。そして、チャンバ201を10
−6Paオーダーの高真空まで真空引きした後、チャンバ201内にArガスを供給して所定圧力に調整し、誘導コイル222に高周波電源223から高周波電力を印加することにより、チャンバ201内の処理空間SにArプラズマを生成する。そして、バイアス用高周波電源215からステージ210にバイアス用の高周波電力を印加することにより、ArイオンをウエハWに引き込んで、ウエハW表面にArイオン処理を施す(ステップS30)。
【0096】
Arイオン処理終了後、チャンバ201内の真空引きを行い、チャンバ201からウエハWを搬出する(ステップS31)。
【0097】
本実施形態においては、チャンバ201内にプラズマを生成するとともに、プラズマ中のArイオンをウエハWに引き込んでウエハWを処理するので、ArイオンのエネルギーによりTiON膜中のClを除去することができ、膜中のCl濃度を低減することができる。すなわち、ClはTiON膜中に結合エネルギーが弱い状態で存在していると予想され、Arイオンの衝撃(ボンバーメント効果)により十分に膜中から脱離させることができ、膜中のClを極めて効果的に低減することができる。このため、純度の高いTiON膜を得ることができる。また、Arイオン処理により、膜をスパッタすることなく、表面平滑性を高めることができる。
【0098】
本実施形態においては、Ti含有ガスとしては、Clを含むものであれば用いることができる。また、酸化剤としては、O
2ガス、O
3ガス、H
2O、NO
2等の酸素含有ガスを用いることができ、酸素含有ガスをプラズマ化して酸化剤として用いてもよい。さらに、窒化ガスとしては、NH
3以外に、モノメチルヒドラジン(MMH)を用いることもできる。また、キャリアガスおよびパージガスとして用いるN
2ガスの代わりに、Arガス等の他の不活性ガスを用いることもできる。
【0099】
なお、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用いた場合の成膜条件の好ましい範囲は第1の実施形態と同様である。
【0100】
また、
図12の装置を用いたArイオン処理については、以下のような条件が例示される。
プラズマ生成用高周波電源(13.56MHz)のパワー:1kW
バイアス用高周波電源(13.56MHz)のパワー:1kW
チャンバ内圧力:0.33Pa(2.5mTorr)
Arガス流量;55mL/min(sccm)
処理時間:3sec
【0101】
次に、TiON膜にArイオン処理を施す前後でCl濃度を比較した。ここでは、成膜温度を430℃とし、ステップS22〜S25を14回繰り返した後、ステップS26、S27を行う処理を1サイクルとし、このサイクルを33サイクル行ってTiON膜を成膜し、Arイオン処理は上記例示した条件で行った。Cl濃度は、XPSによりウエハの9点で測定し、その平均値により求めた。その結果を
図16に示す。この図に示すように、Arイオン処理前ではCl濃度が0.7at.%であったが、Arイオン処理により0.1at.%まで低減した。この結果から、Arイオン処理により、残留Clを効果的に除去できることが確認された。
【0102】
次に、上記TiON膜にArイオン処理を施す前および施した後のTiON膜の組成分析をXPSにより行った。その結果を
図17に示す。この図に示すように、TiON膜の膜組成自体は、Arイオン処理前後でほとんど変化しないことが確認され、膜中のClのみが脱離されたことが確認された。
【0103】
図18(a)、(b)は、上記TiON膜に対してArイオン処理を施す前および施した後のTiON膜の表面SEM写真である。これらのSEM写真に示すように、Arイオン処理後の膜表面は、処理前よりも平滑性が高いことが確認された。
【0104】
図19は、上記TiON膜に対してArイオン処理を施す前および施した後のTiON膜の膜厚を示す図である。ここでは、ウエハの9点の膜厚を求め、その平均値を示している。この図に示すように、Arイオン処理前後のTiON膜の膜厚差は僅か(〜0.5nm)であり、スパッタリングではなく、Arイオンの衝撃による効果で平滑化されたことが確認された。
【0105】
成膜装置100とアルゴンイオン処理装置200とは、全く別個の装置であってもよいが、これらが同一搬送系に接続されて真空を破らずにTiON膜の成膜とArイオン処理を行うことができるシステムを用いることが好ましい。
【0106】
図20は、TiON膜の成膜とArイオン処理を行うことができる処理システムの一例を示す模式図である。この処理システム300は、平面形状が六角形をなす真空搬送室310を有しており、この真空搬送室310に互いに対向するように成膜装置100とアルゴンイオン処理装置200とがゲートバルブGを介して接続されている。また、真空搬送室310には2つのロードロック室320が接続されている。
【0107】
真空搬送室310内は所定の真空雰囲気に保持されるようになっており、その中には、ウエハWを搬送するウエハ搬送機構311が設けられている。ウエハ搬送機構311は、成膜装置100、アルゴンイオン処理装置200、2つのロードロック室320に対するウエハの搬送を行う。
【0108】
ロードロック室320の真空搬送室310と反対側には大気搬送室330が設けられ、ロードロック室320と大気搬送室330とはゲートバルブGを介して接続されている。大気搬送室330には、ウエハWを収容するキャリア340が接続される。また、大気搬送室330内には、キャリア340の配列方向にレール331が設けられており、このレール331上を走行可能なウエハ搬送機構332が設けられている。また、大気搬送室330の側面にはウエハWのアライメントを行うアライメント室333が設けられている。
【0109】
このような処理システム300によれば、キャリア340からウエハ搬送機構332により取り出されたウエハWが、ロードロック室320に搬送され、ロードロック室320が真空に保持された後、ロードロック室320のウエハWが真空搬送室310内のウエハ搬送機構311により受け取られる。そして、ウエハWをまず成膜装置100に搬送してTiON膜の成膜を行った後、アルゴンイオン処理装置200に搬送してアルゴンイオン処理を行う。その後、ウエハ搬送機構311により処理後のウエハをロードロック室320に搬送し、ロードロック室320を大気圧に戻してウエハ搬送機構332によりウエハWをキャリア340に戻す。
【0110】
以上により、TiON膜の成膜およびArイオン処理を、真空を破ることなく連続して行うことができる。
【0111】
また、成膜装置にArイオン処理を行う機能を設ければ、同一チャンバ内でTiON膜の成膜処理およびArイオン処理を連続して行うことができる。
図21はそのような成膜装置を示す断面図である。この成膜装置100′は、基本的には
図1の成膜装置100と基本的に同様の構成を有しているが、成膜装置100にArガス供給機能およびArプラズマ生成機能が付加されている。すなわち、成膜装置100′のガス供給機構20は、Arガス供給源61と、Arガス供給源61からArガスを供給するArガス供給ライン62が付加されており、Arガス供給ライン62がN
2ガス供給ライン30に接続されている。Arガス供給ライン62には、マスフローコントローラ33およびマスフローコントローラ33を挟む2つのバルブ34が設けられている。これにより、Arガスがチャンバ1内に供給可能となっている。
【0112】
また、サセプタ2内には電極63が設けられており、電極63には給電ライン64を介して高周波電源65が接続されている。高周波電源65から電極63に高周波電力が供給されることにより、電極63とシャワーヘッド10との間に高周波電界が生じるようになっており、チャンバ1内にArガスが供給された状態でこのような高周波電界を生成することにより、Arガスのプラズマが生成される。また、高周波電源65から供給された高周波電力はサセプタ2上のウエハWにArイオンを引き込む高周波バイアスとしても機能する。このため、チャンバ1内で上述したようにTiON膜を成膜した後、引き続きチャンバ1内でArプラズマを生成し、ArイオンをウエハWに引き込んでウエハWにArイオン処理を施すことができる。
【0113】
このように、成膜装置100′により、ウエハWをチャンバ1内のサセプタ2に保持したまま、上述のステップS22〜S27によりTiON膜を成膜した後、引き続きチャンバ1内でステップ30のArイオン処理を行うことができるので、スループットを極めて高くすることができる。
【0114】
なお、Arイオン処理を行う装置は、ウエハWに対してArイオンを供給することができれば、以上の例に限るものではない。
【0115】
本実施形態におけるArイオン処理は、第1および第2の実施形態に係るTiON膜の成膜方法にも適用することができ、その場合にも同様の効果を奏することができる。
【0116】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
本実施形態においては、
図1の成膜装置100を用いて、第1の実施形態よりも酸化を強化した手法によりTiON膜を成膜する。
【0117】
以下、本実施形態のTiON膜の成膜方法の一例について説明する。
まず、第1の実施形態と同様にプリコート処理を行った後、ゲートバルブ43を開にして、ウエハ搬送室から搬送装置により(いずれも図示せず)搬入出口42を介してウエハWをチャンバ1内へ搬入し、サセプタ2に載置する。そして、ヒーター5によりウエハWを好ましくは300〜500℃の範囲の所定温度に加熱し、チャンバ1内にN
2ガスを供給してウエハWの予備加熱を行う。ウエハの温度がほぼ安定した時点で、TiON膜の成膜を開始する。
【0118】
TiON膜の成膜においては、第1の実施形態が前提とする
図2のシーケンスでは、酸化効率が十分でない場合が生じる。具体的には、デバイスの微細化が進み、例えばDRAMのキャパシタ構造の開口が狭くなりアスペクト比が高くなると、第1の実施形態が前提とする
図2のシーケンスでは、ビア底(シリンダ底)に十分な酸素が供給されずに酸化が不十分になることがある。
【0119】
そこで、本実施形態では、単位TiN膜を形成した後の酸化処理において、酸化剤(例えばO
2ガス)を間欠的に、繰り返し複数回供給する。これにより酸化剤の供給性が高まり酸化効率を高めることができる。特に、高アスペクト比のビア底にも酸化剤を供給することができ、酸化が不十分になることが防止される。これは、酸化剤を間欠的に供給する際には、バルブを閉じて酸化剤を供給していない期間に、配管内に高い圧力の酸化剤が溜められることとなり、バルブを開けた時点で高圧の酸化剤を供給できるためであると考えられる。
【0120】
具体的なシーケンス例を
図22のタイミングチャートおよび
図23のフロー図を参照して説明する。
これらに示すように、最初に、第1の実施形態のステップS1〜S4と同様、TiCl
4ガス供給源21からTiCl
4ガスをチャンバ1に供給してTiCl
4ガスを吸着させ(ステップS41)、次いで、TiCl
4ガスの供給を停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS42)、次いで、NH
3ガス供給源23からNH
3ガスをチャンバ1に供給し、吸着したTiCl
4と反応させてTiNを形成し(ステップS43)、次いで、NH
3ガスを停止し、N
2ガスによりチャンバ1内をパージし(ステップS44)、これらステップS41〜S44をX回繰り返す。その後、酸化剤供給源27からの酸化剤(例えばO
2ガス)のチャンバ1内への供給(ステップS45)と、チャンバ1内のパージ(ステップS46)とをNサイクル繰り返し、間欠的な酸素供給により酸化処理を行う。以上のサイクルを1サイクルとし、これをYサイクル繰り返すことにより、所望の厚さのTiON膜を形成する。
【0121】
このとき、酸化剤(例えばO
2ガス)の供給は、
図24に示すように、パルス状にすることが好ましい。また、酸化剤の1回の供給時間は、0.05〜30secとすることができ、好ましくは0.05〜5secであり、0.05〜3secがより好ましい。1回の供給時間にサイクル数を掛けた値がトータルの酸化時間となる。酸化効率は1回の供給時間をある程度少なくしてサイクル数Nを増加させることにより上昇する傾向にあるが、1回の供給時間が短すぎると酸化剤を供給し難くなる。
【0122】
このとき、ステップS41〜S44の繰り返し数XによりTiON膜の酸素量を調整することができる。すなわち、繰り返し数Xを減らすと酸化の頻度が増えるので膜中の酸素取り込み量が増え、逆に繰り返し数Xを増やすと膜中の酸素取り込み量は減る。また、サイクル数Yにより膜厚を調整することができる。なお、TiON膜の酸素濃度は、ステップS41〜S44の繰り返し回数を調整するのみならず、酸化処理の時間や酸化剤の流量で調整することもできる。
【0123】
このようにしてTiON膜を成膜した後、チャンバ1内の真空引きを行い、ウエハWを搬出する。
【0124】
このように、ステップ45の酸化剤の供給とステップ46のパージとを繰り返し行い、酸化剤を間欠的に供給して酸化処理を行うので、酸化効率を高めることができ、高アスペクト比のビア底にも十分に酸化剤を供給することができ、十分に酸化させることができる。
【0125】
本実施形態においても、酸化剤として、O
2ガス、O
3ガス、H
2O、NO
2等の酸素含有ガスを用いることができ、酸素含有ガスをプラズマ化して酸化剤として用いてもよい。また、Ti含有ガスとしては、TiCl
4以外に、テトラ(イソプロポキシ)チタン(TTIP)、四臭化チタン(TiBr
4)、四ヨウ化チタン(TiI
4)、テトラキスエチルメチルアミノチタン(TEMAT)、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT)、テトラキスジエチルアミノチタン(TDEAT)等を用いることもできる。また、窒化ガスとしては、NH
3以外に、モノメチルヒドラジン(MMH)を用いることもできる。また、キャリアガスおよびパージガスとして用いるN
2ガスの代わりに、Arガス等の他の不活性ガスを用いることもできる。
【0126】
なお、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用いた場合の他の成膜条件の好ましい範囲は以下の通りである。
処理温度(サセプタ温度):300〜500℃
チャンバ内圧力:13.33〜1333Pa(0.1〜10Torr)
TiCl
4ガス流量:10〜200mL/min(sccm)
NH
3ガス流量:1000〜10000mL/min(sccm)
N
2ガス流量:1000〜30000mL/min(sccm)
ステップ41〜44の1回の供給時間:0.01〜3sec
O
2ガス流量:10〜3000mL/min(sccm)
トータルのO
2ガス供給時間:0.1〜60sec
【0127】
次に、本実施形態の効果を確認した結果について説明する。
ここでは、Ti原料ガスとしてTiCl
4ガス、窒化ガスとしてNH
3ガス、キャリアガス・パージガスとしてN
2ガス、酸化剤としてO
2ガスを用い、X=6、Y=50とし、酸化処理の際のO
2ガスの供給方法を以下に説明する条件A、B、Cと変化させ、かつYサイクル内での酸化時間をそろえてTiON膜を成膜し、膜中酸素濃度を測定した。O
2ガスの供給方法は、条件A:流量1400sccmの連続供給、条件B:流量300sccmの連続供給、条件C:流量300sccmのパルス供給とした。条件Cのパルス供給は、1回のO
2ガスの供給を0.2secとし、サイクル数Nで酸化時間を調整した。このときの酸化時間とサイクル数Nの関係は以下の通りである。
酸化時間 サイクル数N
0.2sec 1
2sec 10
4sec 20
10sec 50
15sec 75
【0128】
その際の酸化時間と膜中酸素濃度との関係を
図25に示す。連続供給である条件Aと条件Bを比較すると、同じ酸化時間ではO
2ガス流量の多い条件Aのほうが膜中酸素濃度が高くなった。また、同じO
2ガス流量の条件Bと条件Cを比較すると、同じ酸化時間ではパルス供給の条件Cのほうが酸素の取り込み量(膜中酸素濃度)が増加した。また、条件Aと条件Cを比較すると、パルス供給の条件CはO
2ガス流量が300sccmにもかかわらず、同じ酸化時間で、連続供給で1400sccmの条件Aと同等の酸素取り込み量(膜中酸素濃度)であり、O
2ガスをパルス供給することにより、酸化効率を高められることが確認された。
【0129】
本実施形態における間欠的な酸化剤の供給は、第1〜第3の実施形態に係るTiON膜の成膜方法にも適用することができ、その場合にもTiON膜を成膜する際に酸化効率を高める効果を奏することができる。
【0130】
特に、第2の実施形態に適用することにより、窒化を強化して単位TiN膜中にダングリングボンドが形成されることを防止しつつ、その後の間欠的な酸化剤供給による酸化処理により酸化効率的を高めることができるといった大きな効果を奏する。
【0131】
このように第2の実施形態に本実施形態を適用した際のタイミングチャートを
図26に示す。
図26は、
図24に示す方法に、さらにNH
3ガスのポストフロー(ステップS47)、およびN
2ガスによるチャンバ1内のパージ(ステップS48)を加えたものである。すなわち、ステップ41〜44による単位TiN膜の形成をX回繰り返した後、NH
3ガスのポストフロー(ステップS47)およびN
2ガスによるパージ(ステップS48)を1回または繰り返し行い、次いで、酸化剤(例えばO
2ガス)のチャンバ1内への供給(ステップS45)と、チャンバ1内のパージ(ステップS46)とをNサイクル繰り返して間欠的な酸化処理を行い、以上のサイクルを1サイクルとし、これをYサイクル繰り返すことにより、所望の厚さのTiON膜を形成する。これにより、ダングリングボンドが少なく、かつ酸化効率の高いTiON膜を得ることができる。
<他の適用>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の技術思想の範囲内で種々変形可能である。例えば、上記実施形態で用いた
図1の成膜装置は、あくまで例示であって、
図1の装置に限るものではない。また、被処理基板として半導体ウエハを例示したが、本発明の原理上、これに限定されるものではなく、例えば液晶表示装置用基板に代表されるFPD用基板等の他の基板であってもよいことは言うまでもない。