(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、研磨装置によって実行される研磨プロセスには、研磨対象物の種類、研磨パッドの種類、研磨砥液(スラリー)の種類などの組み合わせによって複数の研磨条件が存在する。これら複数の研磨条件の中には、駆動部の駆動負荷に変化が生じてもトルク電流の変化(特徴点)が大きく現れない場合がある。トルク電流の変化が小さい場合、トルク電流に現れるノイズや、トルク電流の波形に生じるうねり部分の影響を受け、研磨の終点を適切に検出することができないおそれがあり、過研磨などの問題が生じ得る。
【0009】
従来から、ノイズフィルタによりトルク電流からノイズを除去すること等が行われてき
た。しかし、ノイズフィルタを使用しても、ハードウェア(モータ)起因のノイズが除去できない場合があり、S/Nが改善しないという問題がある。また、トルク電流の変化が小さいことも問題である。
【0010】
なお、研磨の終点を適切に検出することは、研磨パッドのドレッシングにおいても重要である。ドレッシングは、ダイヤモンド等の砥石が表面に配置されたパッドドレッサーを研磨パッドに当てて行う。パッドドレッサーにより、研磨パッドの表面を削り、又は、粗化して、研磨開始前に研磨パッドのスラリーの保持性を良好にし、又は使用中の研磨パッドのスラリーの保持性を回復させ、研磨能力を維持する。
【0011】
そこで、本発明の一形態は、ノイズフィルタを使用してもノイズが除去できない場合でも、トルク電流の変化を良好に検出し、研磨終点検出の精度を向上させることを課題とする。
【0012】
また、本発明の他の一形態は、トルク電流の変化が小さい場合でも、トルク電流の変化を良好に検出し、研磨終点検出の精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の研磨装置の第1の形態によれば、研磨パッドと、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物との間で研磨を行うための研磨テーブルを回転駆動する第1の電動モータと、前記研磨物を保持して前記研磨パッドへ押圧するための保持部を回転駆動する第2の電動モータとを有し、前記研磨装置は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも一方の電流値を検出する電流検出部と、前記検出された電流値を所定区間に渡って蓄積する蓄積部と、前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、前記蓄積された電流値との差分を求める差分部と、前記差分部が出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する終点検出部と、を有する研磨装置が提供される。
【0014】
ここで、研磨物とは、研磨対象物である半導体ウエハの表面を平坦化するときは、半導体ウエハであり、研磨パッドのドレッシングをおこなうときは、パッドドレッサーである。従って、研磨の終了とは、半導体ウエハの場合、半導体ウエハの表面の研磨終了を意味し、研磨パッドのドレッシングをおこなうときは、研磨パッドの表面の研磨終了を意味する。
【0015】
ノイズフィルタを使用しても、ハードウェア(モータ)起因のノイズが除去できない場合について、ノイズ発生の原因を検討した結果、以下のことが原因であることが判明した。テーブルの回転数は、例えば60RPM程度であり、周波数に換算すると、1Hz前後である。そして、テーブルの回転数よりも低い周波数のノイズ、すなわち、1Hzよりも低周波の、ほぼ規則的に繰り返されるノイズがある。例えば、周期が1〜15秒、周波数換算で、1〜1/15Hzの長周期のノイズが存在する。このようなノイズは、ローパスフィルタを用いて除去する場合、ローパスフィルタのカットオフ周波数が、1〜1/15Hz以下であることが必要である。しかしこのようなローパスフィルタを用いると、検知対象である摩擦力の変化に影響してしまう。摩擦力の変化は、同程度の低周波数を有するからである。
【0016】
そこで、このノイズを除去するために、ローパスフィルタを用いずに、検出された電流値を所定区間に渡って蓄積する蓄積部と、所定区間とは異なる区間において検出された電流値と、蓄積された電流値との差分を求める差分部と、差分部が出力する差分の変化に基づいて、研磨の終了を示す研磨終点を検出する終点検出部とを設けることとしたものである。ここで、所定区間は、削除したいノイズの周期により決定される。例えば、所定区間
は、削除したいノイズの周期と一致させる。これにより、長周期のほぼ規則的に繰り返されるノイズが除去できる。
【0017】
差分の求め方としては、例えば、ノイズと同位相のデータを減算して、ノイズによるデータの凹凸をなくす、すなわち、所定区間とは異なる区間において検出された電流値から、蓄積された電流値を減算して、ノイズを除去する方法がある。また、ノイズと逆位相のデータと加算して、ノイズによるデータの凹凸をなくす、すなわち、所定区間とは異なる区間において検出された電流値に、蓄積された電流値の符号を逆転したもの加算して、ノイズを除去する方法がある。これらは、実質的に同等の処理である。
【0018】
本願発明の研磨装置の第2の形態によれば、前記研磨装置は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの少なくとも一方の回転位置を検出する位置検出部を有し、前記所定区間は、前記検出された位置を基準として、設定される。
【0019】
この場合、以下のような問題が解決できる。研磨テーブルと保持部との間には、摩擦力が常に作用しているため、研磨テーブルと保持部の回転数を精度よく一定値に維持することが困難な場合がある。この場合、所定区間に渡って蓄積された電流値と、所定区間とは異なる区間において検出された電流値の位相を合わせることは難しいという問題が発生する。すなわち、所定区間と、所定区間とは異なる区間における電流値の位相同期が見つけにくい(これは、テーブル等の回転の同期のずれに起因する)。そこで、回転位置を検出する位置検出部を設け、所定区間は、前記検出された位置を基準として、設定することにより、所定区間と、所定区間とは異なる区間における回転の同期をとることが可能になる。具体的には、テーブル回転位置を認識するためのトリガ信号発生手段を使用する、又は、テーブルの所定位置に設けられたノッチを監視する方法が可能である。
【0020】
本願発明の研磨装置の第3の形態によれば、前記蓄積部は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの少なくとも一方が少なくとも1回転する期間に検出された前記電流値を蓄積する。
【0021】
本願発明の研磨装置の第4の形態によれば、前記所定区間は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの一方が1回転以上するために要する区間である。
本願発明の研磨装置の第5の形態によれば、前記研磨テーブル及び前記保持部の回転速度が異なる場合に、速い方の回転速度をa、遅い方の回転速度をbとしたときに、前記所定区間は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうち回転速度の遅い方が(b/(a−b))回転するために必要な区間である。
【0022】
第3から第5の形態では、少なくとも1回転分の電流値を蓄積する。本発明が対象とするノイズは、研磨テーブル又は保持部の1回転以上の区間にわたる長周期を有する場合が多いからである。何回転分のデータを用いることが最適であるかは、研磨条件(ウェハ上の膜の状態、材質、モータの回転数等)に依存する。
【0023】
一例として、研磨テーブル及び保持部が何回転かした後に、研磨テーブル及び保持部が相対的に元の位置関係に戻る周期が、前記所定区間として好ましい場合がある。相対的に元の位置関係に戻る周期が、第5の形態における研磨テーブル及び保持部のうち回転速度の遅い方が(b/(a−b))回転するために必要な区間である。
【0024】
本願発明の研磨装置の第6の形態によれば、前記第1及び第2の電動モータのうち少なくとも一方の電動モータは、複数相の巻線を備え、前記電流検出部は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも2相の電流を検出し、前記蓄積部は、前記検出された少なくとも2相の電流値を所定区間に渡って蓄積し、前記差分部は、前記少なくとも2相の
電流のそれぞれについて前記差分を求め、前記研磨装置は、前記差分部が出力する差分である少なくとも2相の電流検出値を整流し、整流された少なくとも2相の信号に対して、該少なくとも2相の信号同士を加算する加算及び/又は該少なくとも2相の信号に所定の乗数を乗じる乗算を行って出力する整流演算部を有し、前記終点検出部は、前記整流演算部の出力の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する。
【0025】
本願発明の研磨装置の第7の形態によれば、前記第1及び第2の電動モータのうち少なくとも一方の電動モータは、複数相の巻線を備え、前記電流検出部は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも2相の電流を検出し、前記研磨装置は、前記電流検出部によって検出された少なくとも2相の電流検出値を整流し、整流された少なくとも2相の信号に対して、該少なくとも2相の信号同士を加算する加算及び/又は該少なくとも2相の信号に所定の乗数を乗じる乗算を行って出力する整流演算部を有し、前記蓄積部は、前記整流演算部の出力した少なくとも2相の電流値を所定区間に渡って蓄積し、前記差分部は、前記少なくとも2相の電流のそれぞれについて、前記差分を求め、前記終点検出部は、前記差分部が出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する。
【0026】
かかる形態によれば、複数相の駆動電流を整流して加算する場合、以下の効果がある。すなわち、1相の駆動電流のみを検出する場合、検出される電流値が、本形態に比べて小さい。本形態により、整流と加算により電流値が大きくなるため、検出精度が向上する。
【0027】
また、ACサーボモータなどの1個のモータ内に複数相を有するモータは、各相の電流を個別に管理せずに、モータの回転速度を管理しているため、相間で電流値がばらついていることがある。そのため従来は、電流値が他の相に比べて小さい相の電流値を検出している可能性があり、電流値の大きな相を利用できない可能性があった。本形態によれば、複数相の駆動電流を加算しているため、電流値の大きな相を利用できるため、検出精度が向上する。
【0028】
さらに、複数相の駆動電流を整流して加算しているため、1相の駆動電流のみを用いている場合と比較して、リップルが小さくなる。このため、検出された交流電流を、終点の判断に用いるために、直流電流に変換する実効値変換によって得られる直流電流のリップルも少なくなり、終点検出精度が向上する。
【0029】
加算する電流は、第1の電動モータの少なくとも1相と、第2の電動モータの少なくとも1相であってもよい。これにより、一方のモータの電流値のみを利用する場合よりも、信号値を大きくすることができる。
【0030】
複数相の駆動電流を整流して、得られた信号に対して乗算する場合、乗算して得られた値のレンジを、後段の処理回路の入力レンジに合わせることができるという効果がある。また、特定の相(例えば、ノイズが、他の相と比較して少ない相)の信号のみを大きく、または小さくできる(例えば、ノイズが、他の相と比較して大きい場合)という効果がある。
【0031】
加算と乗算の両方を行うこともできる。この場合、上述の加算の効果と乗算の効果の両方を得ることができる。乗算する数値(乗数)は、相ごとに変えてもよい。加算した結果が、後段の処理回路の入力レンジを超える場合等は、乗数は1より小さくする。
【0032】
なお、整流は半波整流及び全波整流のいずれでもよいが、振幅が大きくなり、かつリップルが減少するため、半波整流よりも全波整流が好ましい。
また、かかる形態によれば、実効値変換(DC化)する前のアナログ波形に対して、ハード
ウェア起因のノイズを含む基準波形(所定区間に渡って蓄積された電流値)を減算して、ノイズを除去することができる。DC化した後では、DC化しているために摩擦が変化するなかでの、ノイズ成分のみの抽出及び減算が出来ず、減算することは難しい。すなわち、ノイズの振幅を合わせて、減算することは難しいからである。
【0033】
本願発明の研磨装置の第8の形態によれば、前記研磨装置は、前記増幅部と前記減算部と前記ノイズ除去部とを有し、前記増幅部で増幅された信号を前記減算部で減算し、該減算された信号から前記ノイズ除去部でノイズを除去する。
【0034】
増幅により、トルク電流の変化を大きくすることができる。ノイズを除去することにより、ノイズに埋もれている電流の変化を顕在化させることができる。
減算部は以下の効果を有する。検出される電流は通常、摩擦力の変化にともなって変化する電流部分と、摩擦力が変化しても変化しない一定量の電流部分(バイアス)を含む。このバイアスを除去することにより、摩擦力の変化に依存する電流部分のみを取り出して、信号処理可能な範囲内で最大の振幅まで増幅することが可能になり、摩擦力の変化から終点を検出する終点検出法の精度が向上する。
【0035】
なお、増幅部、減算部、ノイズ除去部のうちの複数を有する場合、これらは、縦続接続する。例えば、増幅部とノイズ除去部を有する場合、増幅部で最初に処理した後に、処理結果をノイズ除去部に送り、ノイズ除去部で処理する、もしくは、ノイズ除去部で最初に処理を行い、その処理結果を増幅部に送って処理を行う。
【0036】
本願発明の研磨装置の第9の形態によれば、前記研磨装置は、前記増幅部と前記減算部と前記ノイズ除去部とを有し、前記増幅部で増幅された信号を前記減算部で減算し、該減算された信号から前記ノイズ除去部でノイズを除去する。かかる形態によれば、増幅後の振幅の大きな信号に対して、減算及びノイズ除去を行っているため、精度良く、減算及びノイズ除去が行える。結果として、終点検出精度が向上する。
【0037】
なお、増幅、減算、ノイズ除去は、この順番に行うことが好ましいが、この順番に必ずしも行う必要はない。例えば、ノイズ除去、減算、増幅の順番でも可能である。
本願発明の研磨装置の第10の形態によれば、前記研磨装置は、前記ノイズ除去部でノイズを除去された信号をさらに増幅する第2の増幅部を有する。かかる形態によれば、ノイズ除去によって減少した電流の大きさを回復することができ、終点検出法の精度が向上する。
【0038】
本願発明の研磨装置の第11の形態によれば、前記研磨装置は、前記増幅部と、前記増幅部の増幅特性を制御する制御部とを有する。かかる形態によれば、研磨対象物の材質や構造等に応じて、最適な増幅特性(増幅率や周波数特性等)を選択することができる。
【0039】
本願発明の研磨装置の第12の形態によれば、前記研磨装置は、前記ノイズ除去部と、前記ノイズ除去部のノイズ除去特性を制御する制御部とを有する。かかる形態によれば、研磨物の材質や構造等に応じて、最適なノイズ除去特性(信号の通過帯域や減衰量等)を選択することができる。
【0040】
本願発明の研磨装置の第13の形態によれば、前記研磨装置は、前記減算部と、前記減算部の減算特性を制御する制御部とを有する。かかる形態によれば、研磨物の材質や構造等に応じて、最適な減算特性(減算量や周波数特性等)を選択することができる。
【0041】
本願発明の研磨装置の第14の形態によれば、前記研磨装置は、前記第2の増幅部の増幅特性を制御する制御部を有する。かかる形態によれば、研磨物の材質や構造等に応じて
、最適な第2の増幅特性(増幅率や周波数特性等)を選択することができる。
【0042】
本願発明の研磨装置の第15の形態によれば、研磨方法が提供される。この研磨方法は、研磨パッドを保持するための研磨テーブルを回転駆動する第1の電動モータと、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物を保持して前記研磨パッドへ押圧するための保持部を回転駆動する第2の電動モータと、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも一方の電流値を検出する電流検出部とを有する研磨装置を用いた、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物と前記研磨パッドとの間で研磨を行う研磨方法において、該方法は、前記検出された電流値を所定区間に渡って蓄積する蓄積ステップと、前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、前記蓄積された電流値との差分を求める差分ステップと、前記差分ステップが出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する終点検出ステップとを有する。かかる形態によれば、第1の形態と同様の効果を達成できる。
【0043】
本願発明の研磨装置の第16の形態によれば、前記蓄積部は、前記所定区間に渡って検出される前記電流値から所定値を減算した電流値を蓄積し、前記差分部は、前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、減算して蓄積された前記電流値との差分を求める。かかる形態によれば、以下の効果がある。蓄積部に蓄積されるモータ電流には、第1成分と、第1成分とは異なる時間的にゆっくりと変化する成分(膜厚の変化を表す量と考えることができる成分であり、「第2成分」と以下では呼ぶ。)を有する。第1成分は、例えば周期が1〜15秒、周波数換算で、1〜1/15Hzの長周期の既述のノイズを含むものである。
【0044】
所定区間と、所定区間とは異なる区間では、第2成分は、その大きさや変化の様子が異なる。所定区間と、所定区間とは異なる区間において、第1成分は同じである。膜厚の変化を表す量である第2成分は、変化する。従って、第2成分のみを検出できることが望ましい。
【0045】
そのために、所定区間と、所定区間とは異なる区間において、第1成分は、ほぼ同じであることを利用して、所定区間内において検出される電流値から、所定区間内における第2成分(本実施形態における「所定値」である。)を減算して、第1成分のみを蓄積する。所定区間とは異なる区間において、減算して蓄積された電流値(第1成分)との差分を求めることにより、所定区間とは異なる区間における第2成分を得ることができる。なお、膜厚の変化を表す量である第2成分は、研磨対象物や研磨条件により、種々の変化率を有する。例えば、所定区間にわたって、一定である(この場合が第17の形態である。)、又は直線状である(この場合が、下記の第19の形態である。)、又は折れ線状である(この場合が、下記の第20の形態である。)、又は正弦波である(この場合が下記の第18の形態である。)と考えることができる。第2成分が、所定区間にわたって、一定である場合は(この場合が下記の第17の形態である。)、第2成分は、所定区間に渡って検出された電流値の平均値であると考えることができる。
【0046】
本願発明の研磨装置の第17の形態によれば、前記所定値は、前記所定区間に渡って検出された前記電流値の平均値である。
【0047】
本願発明の研磨装置の第18の形態によれば、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、第1の周期を有する第1の成分と、前記第1の周期よりも長い第2の周期を有する第2の成分とを加算したものであり、前記所定値は、前記第2の成分である。
【0048】
本願発明の研磨装置の第19の形態によれば、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、周期的に変化する第1の成分と、直線状に変化する第2の成分とを加算したもの
であり、前記所定値は、前記第2の成分である。
【0049】
本願発明の研磨装置の第20の形態によれば、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、周期的に変化する第1の成分と、折れ線状に変化する第2の成分とを加算したものであり、前記所定値は、前記第2の成分である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の一実施形態に係る研磨装置を図面に基づいて説明する。始めに、研磨装置の基本構成について説明し、その後、研磨対象物の研磨終点の検出について説明する。
図1は、本実施形態に係る研磨装置100の基本構成を示す図である。研磨装置100は、研磨パッド10を上面に取付け可能な研磨テーブル12と、研磨テーブル12を回転
駆動する第1の電動モータ14と、半導体ウエハ(研磨対象物)18を保持可能なトップリング(保持部)20と、トップリング20を回転駆動する第2の電動モータ22と、を備えている。
【0052】
トップリング20は、図示しない保持装置により、研磨テーブル12に近づけたり遠ざけたりすることができるようになっている。半導体ウエハ18を研磨するときは、トップリング20を研磨テーブル12に近づけることにより、トップリング20に保持された半導体ウエハ18を、研磨テーブル12に取り付けられた研磨パッド10に当接させる。
【0053】
半導体ウエハ18を研磨するときは、研磨テーブル12が回転駆動された状態で、トップリング20に保持された半導体ウエハ18が研磨パッド10に押圧される。また、トップリング20は、第2の電動モータ22によって、研磨テーブル12の回転軸13とは偏心した軸線21の回りに回転駆動される。半導体ウエハ18を研磨する際は、研磨材を含む研磨砥液が、図示しない研磨材供給装置から研磨パッド10の上面に供給される。トップリング20にセットされた半導体ウエハ18は、トップリング20が第2の電動モータ22によって回転駆動されている状態で、研磨砥液が供給された研磨パッド10に押圧される。
【0054】
第1の電動モータ14は、少なくともU相とV相とW相の3相の巻線を備えた同期式又は誘導式のACサーボモータであることが好ましい。第1の電動モータ14は、本実施形態においては、3相の巻線を備えたACサーボモータを含む。3相の巻線は、120度位相のずれた電流を第1の電動モータ14内のロータ周辺に設けられた界磁巻線に流し、これにより、ロータが回転駆動されるようになっている。第1の電動モータ14のロータは、モータシャフト15に接続されており、モータシャフト15により研磨テーブル12が回転駆動される。なお、本発明は、3相モータ以外の2相モータ、5相モータ等に適用できる。また、ACサーボモータ以外の、例えば、DCブラシレス形モータにも適用することができる。
【0055】
第2の電動モータ22は、少なくともU相とV相とW相の3相の巻線を備えた同期式又は誘導式のACサーボモータであることが好ましい。第2の電動モータ22は、本実施形態においては、3相の巻線を備えたACサーボモータを含む。3相の巻線は、120度位相のずれた電流を第2の電動モータ22内のロータ周辺に設けられた界磁巻線に流し、これにより、ロータが回転駆動されるようになっている。第2の電動モータ22のロータは、モータシャフト23に接続されており、モータシャフト23によりトップリング20が回転駆動される。
【0056】
また、研磨装置100は、第1の電動モータ14を回転駆動するモータドライバ16を備える。なお、
図1は、第1の電動モータ14を回転駆動するモータドライバ16のみを図示するが、第2の電動モータ22にも同様のモータドライバが接続される。モータドライバ16は、U相、V相、W相それぞれについて交流電流を出力し、この3相交流電流によって第1の電動モータ14を回転駆動する。
【0057】
研磨装置100は、モータドライバ16が出力する3相交流電流を検出する電流検出部24と、電流検出部24によって検出された3相の電流検出値を整流し、整流された3相の信号を加算して出力する整流演算部28と、整流演算部28の出力の変化に基づいて、半導体ウエハ18の表面の研磨終了を示す研磨終点を検出する終点検出部29とを有する。本実施例の整流演算部28は、3相の信号を加算する処理のみを行うが、加算したのちに乗算を行ってもよい。また、乗算のみを行ってもよい。
【0058】
電流検出部24は、モータドライバ16が出力する3相交流電流を検出するために、U
相、V相、W相の各相に、電流センサ31a、31b、31cを備える。電流センサ31a、31b、31cはそれぞれ、モータドライバ16と第1の電動モータ14との間のU相、V相、W相の電流路に設けられる。電流センサ31a、31b、31cはそれぞれ、U相、V相、W相の電流を検出し、整流演算部28へ出力する。なお、電流センサ31a、31b、31cは、図示しないモータドライバと第2のトップリング用モータ22との間のU相、V相、W相の電流路に設けてもよい。
【0059】
電流センサ31a、31b、31cは、本実施例では、ホール素子センサである。各ホール素子センサは、U相、V相、W相の電流路にそれぞれ設けられ、U相、V相、W相の各電流に比例した磁束を、ホール効果によりホール電圧32a、32b、32cに変換して出力する。
【0060】
電流センサ31a、31b、31cは、電流を計測できる他の方式のものでもよい。たとえば、U相、V相、W相の電流路にそれぞれ設けられたリング状のコア(一次巻線)に巻かれた二次巻線により電流を検出する、電流トランス方式でもよい。この場合、出力電流を負荷抵抗に流すことで電圧信号として検出することができる。
【0061】
整流演算部28は、複数個の電流センサ31a、31b、31cの出力を整流し、整流された信号を加算する。終点検出部29は、整流演算部28の出力を処理する処理部30と、処理部30の出力の実効値変換を行う実効値変換器48と、研磨終点の判断等を行う制御部50とを有する。整流演算部28と終点検出部29の詳細を
図2〜4により説明する。
図2は、整流演算部28と終点検出部29の詳細を示すブロック図である。
図3、4は、整流演算部28と終点検出部29による信号処理の内容を示すグラフである。
【0062】
整流演算部28は、複数個の電流センサ31a、31b、31cの出力電圧32a、32b、32cを入力されて整流する整流部34a、34b、34cと、整流された信号36a、36b、36cを加算する演算部38とを有する。加算により電流値が大きくなるため、検出精度が向上する。なお、実施例の説明では、信号線と当該信号線を流れる信号に対して、同じ参照符号を付す。
【0063】
加算する出力電圧32a、32b、32cは、本実施例では、3相分であるが、本発明はこれに限られない。例えば、2相分を加算してもよい。また、第2の電動モータ22の3相分、又は2相分を加算して、これを用いて、終点検出を行ってもよい。さらに、第1の電動モータ14の1個以上の相と、第2の電動モータ22の1個以上の相とを加算してもよい。
【0064】
図3(a)は、電流センサ31a、31b、31cの出力電圧32a、32b、32cを示す。
図3(b)は、整流部34a、34b、34cがそれぞれ整流して出力した電圧信号36a、36b、36cを示す。
図3(c)は、演算部38が、加算して出力した信号38aを示す。これらのグラフの横軸は時間であり、縦軸は電圧である。
【0065】
図3に示す電圧信号36a、36b、36cは、ハードウェア(モータ)起因のノイズが付加されている電圧信号である。本発明の差分部によるハードウェア(モータ)起因のノイズを除去する方法については後述する。
図3〜10においては、ハードウェア(モータ)起因のノイズを除去する差分部が整流演算部28、又は処理部30、又は実効値変換器48の前段に設けられて、当該ノイズが除去されている場合である。
図3〜10においては、トルク電流の変化が小さい場合でも、トルク電流の変化を良好に検出し、研磨終点検出の精度を向上させる方法について説明する。
【0066】
処理部30は、整流演算部28の出力38aを増幅する増幅部40と、整流演算部28
の出力から所定量を減算するオフセット部(減算部)42と、整流演算部28の出力38aに含まれるノイズを除去するフィルタ(ノイズ除去部)44と、ノイズ除去部でノイズを除去された信号をさらに増幅する第2の増幅部46を有する。処理部30では、増幅部40で増幅された信号40aを、オフセット部42で減算し、減算された信号42aからフィルタ44でノイズを除去する。
【0067】
図3(d)は、増幅部40が、増幅して出力した信号40aを示す。
図4(a)は、オフセット部42が、信号40aから減算して出力した信号42aを示す。
図4(b)は、フィルタ44が、信号42aに含まれるノイズを除去して出力した信号44aを示す。
図4(c)は、第2の増幅部46が、ノイズが除去された信号44aをさらに増幅して出力した信号46aを示す。これらのグラフの横軸は時間であり、縦軸は電圧である。
【0068】
増幅部40は、整流演算部28の出力38aの振幅を制御するものであり、所定量の増幅率で増幅して、振幅を大きくする。オフセット部42は、摩擦力が変化しても変化しない一定量の電流部分(バイアス)を除去することにより、摩擦力の変化に依存する電流部分を取り出して処理する。これにより、摩擦力の変化から終点を検出する終点検出法の精度が向上する。
【0069】
オフセット部42は、増幅部40が出力した信号40aのうち削除すべき量だけ減算を行う。検出される電流は通常、摩擦力の変化にともなって変化する電流部分と、摩擦力が変化しても変化しない一定量の電流部分(バイアス)を含む。このバイアスが削除すべき量である。バイアスを除去することにより、摩擦力の変化に依存する電流部分のみを取り出して、後段にある実効値変換器48の入力範囲に合わせて、最大の振幅まで増幅することが可能になり、終点検出の精度が向上する。
【0070】
フィルタ44は、入力された信号42aに含まれる不要なノイズを低減するものであり、通常、ローパスフィルタである。フィルタ44は、例えば、モータの回転数より低い周波数成分のみを通すフィルタである。終点検出では、直流成分のみがあれば終点検出ができるからである。モータの回転数より低い周波数成分を通すバンドパスフィルタでもよい。この場合も終点検出ができるからである。
【0071】
第2の増幅部46は、後段にある実効値変換器48の入力範囲に合わせて、振幅の調整を行うためのものである。実効値変換器48の入力範囲に合わせる理由は、実効値変換器48の入力レンジは無限ではなく、かつ、できるだけ振幅は大きいことが望ましいからである。なお、実効値変換器48の入力レンジを大きくすると、変換後の信号をA/Dコンバータにより、アナログ/デジタル変換する際の分解能が悪化する。これらの理由から第2の増幅部46により、実効値変換器48への入力範囲を最適に保つ。
【0072】
第2の増幅部46の出力46aは、実効値変換器48へ入力される。実効値変換器48は、交流電圧の1周期における平均、すなわち、交流電圧に等しい直流電圧を求めるものである。実効値変換器48の出力48aを
図4(d)に示す。このグラフの横軸は時間であり、縦軸は電圧である。
【0073】
実効値変換器48の出力48aは、制御部50に入力される。制御部50は、出力48aに基づいて、終点検出を行う。制御部50は、以下の条件のいずれかが満たされた場合等の、あらかじめ設定された条件を満たした場合に、半導体ウエハ18の研磨が終点に達したと判定する。すなわち、出力48aがあらかじめ設定されたしきい値より大きくなった場合、もしくは、あらかじめ設定されたしきい値より小さくなった場合、もしくは、出力48aの時間微分値が所定の条件を満たした場合に、半導体ウエハ18の研磨が終点に達したと判定する。
【0074】
本実施例の効果を、1相の電流のみを用いている比較例と対比して説明する。
図5は、比較例の終点検出法を示すブロック図及びグラフである。
図5に示すグラフは、検出法の原理を示すことを目的とするため、図示する信号は、ノイズがない場合の信号を示す。これらのグラフの横軸は時間であり、縦軸は電圧である。比較例では、1相の電流のみを用いているため、加算という処理はない。また、減算という処理も行っていない。
図2と
図5において、ホール素子センサ31aとホール素子センサ52、整流部34aと整流部54、実効値変換器48と実効値変換器56は、それぞれ同等の性能を有するものとする。
【0075】
比較例では、ホール素子センサ52は、1個であり、例えばU相の電流路に設けられ、U相の電流に比例した磁束を、ホール電圧52aに変換して信号線52aに出力する。
図5(a)にホール電圧52aを示す。ホール素子センサ52の出力電圧52aを入力されて整流部54は整流して、信号54aとして出力する。整流は、半波整流又は全波整流である。半波整流した場合の信号54aを
図5(c)に、全波整流した場合の信号54aを
図5(d)に示す。
【0076】
出力54aは、実効値変換器56へ入力される。実効値変換器56は、交流電圧の1周期における平均を求める。実効値変換器56の出力56aを
図5(e)に示す。実効値変換器56の出力56aは、終点検出部58に入力される。終点検出部58は、出力56aに基づいて、終点検出を行う。
【0077】
比較例の処理結果と本実施例の処理結果を、比較して
図6に示す。
図6(a)は、比較例の実効値変換器56の出力56aを示すグラフであり、
図6(b)は、本実施例の実効値変換器48の出力48aを示すグラフである。グラフの横軸は時間、縦軸は、実効値変換器の出力電圧を、対応する駆動電流に換算して示したものである。
図6より、本実施例により、電流の変化が大きくなっていることがわかる。
図6におけるレンジHTは、実効値変換器48、56の入力可能レンジを示す。比較例のレベル60aが、本実施例のレベル62aに対応し、比較例のレベル60bが、本実施例のレベル62bに対応する。
【0078】
比較例では、駆動電流56aの変化レンジWD(=レベル60a−レベル60b)が、入力可能レンジHTより、かなり小さい。本実施例では、駆動電流48aの変化レンジWD1(=レベル60a−レベル60b)が、入力可能レンジHTとほぼ等しくなるように、駆動電流48aが処理部30により処理されている。この結果、駆動電流48aの変化レンジWD1が、比較例の変化レンジWDよりもかなり大きくなっている。本実施例では、トルク電流の変化が小さい場合でもトルク電流の変化を良好に検出し、研磨終点検出の精度が向上している。
【0079】
比較例と本実施例との処理の結果を、比較した別のグラフを
図7に示す。
図7は、比較例の実効値変換器56の出力56aと、本実施例の実効値変換器48の出力48aを示すグラフである。グラフの横軸は時間、縦軸は、実効値変換器の出力電圧を、対応する駆動電流に換算して示したものである。本図は、
図6とは、研磨対象物が異なる。
図7は、研磨の開始時点t1から研磨終了時点t3までに、実効値変換器の出力電圧がどのように変化するかを示す。
【0080】
本図から明らかなように、本実施例の実効値変換器48の出力48aの変化量は、比較例の実効値変換器56の出力56aの変化量より大きい。出力48aと出力56aは、時刻t1で、ともに最低値64a,66aを取り、時刻t2で、ともに最高値64b,66bを取る。実効値変換器48の出力48aの変化量68(=64b−64a)は、比較例の実効値変換器56の出力56aの変化量70(=66b−66a)より、かなり大きい。なお、ピーク値72a,72bは、最高値64b,66bより大きい電流値を示すが、
ピーク値72a,72bは、研磨が安定するまでの初期段階で発生するノイズのようなものである。
【0081】
図7に示す変化量68、70は、半導体ウエハ18が、トップリング20が第2の電動モータ22によって回転駆動されている状態で研磨パッド10に押圧されるときの圧力に依存する。変化量68、70は、この圧力が大きいほど大きくなる。これを
図8に示す。
図8は、比較例の出力56aの変化量70と、本実施例の出力48aの変化量68の、半導体ウエハ18に加わる圧力に対する変化を示すグラフである。グラフの横軸は、半導体ウエハ18に加わる圧力、縦軸は、実効値変換器の出力電圧を、対応する駆動電流に換算して示したものである。曲線74は、本実施例の出力48aの変化量68を、圧力に対してプロットしたものである。曲線76は、比較例の出力56aの変化量70を、圧力に対してプロットしたものである。圧力0のとき、すなわち、研磨を行っていないときは、電流は0である。本図から明らかなように、本実施例の実効値変換器48の出力48aの変化量68は、比較例の実効値変換器56の出力56aの変化量70より大きく、曲線74と曲線76の差は、圧力が大きくなるほど顕著である。
【0082】
次に、制御部50による増幅部40と、オフセット部42と、フィルタ44と、第2の増幅部46の制御について説明する。制御部50は、増幅部40の増幅特性(増幅率や周波数特性等)、フィルタ44のノイズ除去特性(信号の通過帯域や減衰量等)、オフセット部42の減算特性(減算量や周波数特性等)、及び第2の増幅部46の増幅特性(増幅率や周波数特性等)を制御する。
【0083】
具体的な制御方法は、以下のとおりである。上記各部を制御するために各部の特性を変更する場合、制御部50は、回路特性の変更指示を示すデータをデジタル通信(USB(Universal Serial Bus(ユニバーサル・シリアル・バス))、LAN(Local Area Network(ローカル・エリア・ネットワーク))、RS−232等)により、上記の各部に送信する。
【0084】
データを受信した各部は、データに従って、特性に関する設定を変更する。変更方法は、各部のアナログ回路を構成する抵抗の抵抗値、コンデンサの容量値、インダクタのインダクタンス等の設定を変更する。具体的な変更方法としては、アナログSWにて抵抗等を切替える。又は、DAコンバータによって、デジタル信号をアナログ信号に変換した後、アナログ信号によって複数の抵抗等の切替や、小型モータによる可変抵抗等を回転させて、設定を変更する。複数の回路をあらかじめ設けておき、複数の回路を切り替える方式も可能である。
【0085】
送信するデータの内容は、種々可能である。例えば、番号を送信し、受信した各部が、受信した番号に従って、当該番号に対応する抵抗等を選択する、又は、抵抗値やインダクタンスの大きさに対応した値を送信して、その値に合わせて抵抗値やインダクタンスの大きさを詳細に設定する方式がある。
【0086】
デジタル通信以外の方法も可能である。例えば、制御部50と、増幅部40、オフセット部42、フィルタ44、第2の増幅部46とを直結する信号線を設け、当該信号線により、各部内の抵抗等を切り替える方式も可能である。
【0087】
制御部50によって、各部が設定される一例を
図9により説明する。
図9は、増幅部40、オフセット部42、フィルタ44、第2の増幅部46の設定の一例を示す。この例においては、実効値変換部48の入力レンジが、0A(アンペア)から100A、すなわち100Aである。整流演算部28の出力信号38aの波形の最大値が20A、最小値が10Aである。すなわち整流演算部28の出力信号38aの変化幅(振幅)が10A(=20A-10A)以内、信号38a
の下限値が10Aである。
【0088】
このような場合、出力信号38aの変化分の振幅が10Aであり、実効値変換部48の入力レンジが100Aであるため、増幅部40の増幅率の設定値78aは、10倍(=100A/10A)と設定される。増幅の結果、出力信号38aの波形の最大値78bは200A、最小値78cは100Aとなる。
【0089】
オフセット部42での減算量は、信号38aの下限値である10Aが、増幅部40により増幅されて、100Aになるため、100Aを減算することになる。従って、オフセット部42での減算量の設定値78dは、-100Aとなる。減算の結果、出力信号38aの波形の最大値78eは100A、最小値78fは0Aとなる。
【0090】
図9の例では、フィルタ44に関しては、初期設定の状態から変更しないため、設定値78gは空白としている。フィルタ処理の結果、出力信号38aの波形の最大値78hは、フィルタ特性に従った100Aより低い値に減衰され、出力信号38aの波形の最小値78iは0Aである。
図9の場合、フィルタ44は、入力が0Aのときは、出力を0Aに保持する特性を有するからである。第2の増幅部46は、フィルタ44により減衰した分を補正することを目的としている。第2の増幅部46の増幅率の設定値78jは、フィルタ44により減衰した分を補正できる値に設定される。第2の増幅の結果、出力信号38aの波形の最大値78kは100A、最小値78lは0Aとなる。
【0091】
次に、制御部50による各部の制御の一例を
図10により、さらに説明する。
図10は、制御部50による各部の制御の一例を示すフローチャートである。制御部50は、研磨開始時に、研磨レシピ(押圧力分布や研磨時間などの基板表面に対する研磨条件を定めたもの)に関する情報を、研磨装置100の操作者、又は、図示しない研磨装置100の管理装置から入力される(ステップ10)。
【0092】
研磨レシピを使用する理由は以下のとおりである。複数の半導体ウエハ等の基板に対する多段研磨プロセスを連続して行うとき、研磨前、又は各段の研磨プロセス間、又は研磨後に各基板表面の膜厚等の表面状態を計測する。計測によって得られた値をフィードバックして、次の基板や任意の枚数目後の研磨レシピを最適に修正(更新)するためである。
【0093】
研磨レシピの内容は、以下のとおりである。(1)制御部50が増幅部40と、オフセット部42と、フィルタ44と、第2の増幅部46の設定を変更するかどうかに関する情報。変更する場合は、各部との通信設定を有効にする。一方、変更しない場合は、各部との通信設定を無効にする。通信設定が無効の場合には、各部は、デフォルトで設定されている値を有効にする。(2)実効値変換部48の入力レンジに関する情報。(3)整流演算部28の出力信号38aの変化幅(振幅)を最大値と最小値で示す情報、又は変化幅で示す情報。この情報は、トルクレンジともよばれる。(4)フィルタ44の設定に関する情報。例えば、
図9の場合は、デフォルトに設定される。(5)研磨情報、例えば、テーブルの回転数に関する情報を制御に反映するかどうかに関する情報。
【0094】
次に、制御部50は、研磨情報を制御に反映するかどうかに関する研磨レシピの情報に従って、反映する設定になっている場合は、図示しない研磨装置100の管理装置から研磨テーブル12及びトップリング20の回転数、トップリング20による圧力を受信する(ステップ12)。これらの情報を受信する理由は、圧力、テーブル回転数、テーブル回転数とトップリング回転数の回転数比の影響によるリップルが生じることがあり、リップル周波数に合わせたフィルタ設定を行う必要があるからである。
【0095】
次に、制御部50は、通信設定が有効になっている場合、研磨レシピ及び、ステップ1
2で受信した情報に従って、増幅部40と、オフセット部42と、フィルタ44と、第2の増幅部46の設定値を決定する。決定した設定値をデジタル通信により、各部に送信する(ステップ14)。通信設定が無効になっている場合、増幅部40と、オフセット部42と、フィルタ44と、第2の増幅部46では、デフォルトの設定値が設定される。
【0096】
各部での設定が終了した後、研磨が開始され、研磨中は、制御部50は、実効値変換器48からの信号を受信して、研磨終点の判断を継続して行う(ステップ16)。
制御部50は、実効値変換器48からの信号に基づいて、研磨終点の判断を行った場合、図示しない研磨装置100の管理装置に研磨終点を検出したことを送信する。管理装置は、研磨を終了させる(ステップ18)。研磨終了後、増幅部40と、オフセット部42と、フィルタ44と、第2の増幅部46では、デフォルトの設定値が設定される。
【0097】
本実施例によれば、3相のデータを整流して加算し、さらに、波形増幅を行っているため、トルク変化に伴う電流の出力差が大きくなるという効果がある。また、増幅部等の特性を変更できるため、更に出力差を大きくすることができる。フィルタを使用しているため、ノイズが小さくなる。
【0098】
次に、本発明の蓄積部及び差分部について、
図11により説明する。以下では、
図2に示す電流センサ31aが出力するホール電圧32aについて処理方法を説明する。電流センサ31b、31cが出力するホール電圧32b、32cについても同様に処理される。
【0099】
最初に、ノイズフィルタを使用しても、ハードウェア(モータ)起因のノイズが除去できない場合について、そのようなノイズの特徴について説明する。テーブルの回転数は、例えば60RPM程度であり、周波数に換算すると、1Hz前後である。そして、ホール電圧32aは、テーブルの回転数よりも低いノイズ、すなわち、1Hzよりも低周波の、ほぼ規則的に繰り返されるノイズを含む。例えば、周期が1〜15秒、周波数換算で、1〜1/15Hzの長周期のノイズをホール電圧32aは含む。
【0100】
この一例を
図11,12に示す。
図11は、比較例における研磨終点検出用の電流の特性を示す図である。
図11は、研磨条件が同一である4つの研磨装置のサンプルA,B,C,Dそれぞれについて、従来技術のように特定の1相(例えばV相)の電流を検出して研磨終点検出に用いる場合の検出電流32aの推移を示すものである。
【0101】
図11(特定の1相を検出した場合)において、電流推移252,254,256,258はそれぞれ、サンプルA,B,C,Dに対応する電流推移である。例えば電流値が低めに検出されたサンプルAに対応する電流推移252と、電流値が高めに検出されたサンプルB,Dに対応する電流推移254,258とを比較すると、両者には電流値の差があることがわかる。また、サンプルCに対応する電流推移256は両者のほぼ中間ぐらいの電流となっている。このように、特定の1相の電流を研磨終点検出用として検出した場合、サンプルA,B,C,Dの電流推移にばらつきが生じる。
【0102】
しかしながら、サンプルA,B,C,Dの電流推移には、E部で表される同じ傾向の、周期が10秒程度のノイズが繰り返し現れていることがわかる。すなわちE部のノイズが繰り返されていることがわかる。
【0103】
一方、
図12は、
図11における電流推移252のE部のような繰り返し現れる部分のみを拡大して示す別の比較例の図である。
図11,12において、横軸は時間軸を示し、縦軸は研磨終点検出用の電流値を示している。ただし、
図12においては、電流推移260を、ハードウェア(モータ)起因のノイズ114と、電流推移からノイズ114を除去した成分116とに分けて示す。
【0104】
図12におけるF部が、テーブル12の1回転に相当する区間である。
図12におけるG部の時間長さが、
図11のE部の時間長さに相当する。
図12におけるG部の時間長さが、テーブル12の10回転程度であり、長周期のノイズが存在することがわかる。
【0105】
このようなノイズは、ローパスフィルタを用いて、除去する場合、ローパスフィルタのカットオフ周波数が、1〜1/15Hz以下であることが必要である。しかしこのようなローパスフィルタを用いると、検知対象である摩擦力の変化に影響してしまう。摩擦力の変化は、低周波数を有するからである。
【0106】
そこで、本発明では、このノイズを除去するために、ローパスフィルタを用いずに、差分を用いる。具体的には、
図13に示すように、研磨装置100は、入力された電流値(整流演算部28、又は処理部30、又は実効値変換器48の前段の値)INをアナログ-デジタル変換(A/D変換)するA/D変換器111と、A/D変換された電流値111aを所定区間に渡って蓄積する蓄積部110を有する。蓄積されたデータは、蓄積後の処理における基準データとなる。研磨装置100は、所定区間とは異なる区間において入力されてA/D変換された電流値111aと、蓄積部110が出力する蓄積された電流値110aとの差分を求める差分部112を有する。差分部112が出力する差分112aは、整流演算部28、処理部30、及び実効値変換器48のうち差分部112の後段に設けられた整流演算部28、処理部30、及び実効値変換器48によって既述のように処理される。
図13における処理部154は、整流演算部28、処理部30、及び実効値変換器48のうち差分部112の後段に設けられた整流演算部28、処理部30、及び実効値変換器48を示す。
【0107】
さらに、研磨装置100は、制御部(終点検出部)50を有する。制御部50は、差分部112が出力する差分112aを処理部154によって処理して得られた信号154aを入力されて、信号154aの変化に基づいて、研磨対象物の表面の研磨終了を示す研磨終点を検出する。ここで、所定区間は、削除したいノイズの周期により決定される。例えば、
図11,12の場合、所定区間は、削除したいノイズの周期と一致させて、E部の長さ、すなわち、テーブル12が10回転する時間である。これにより、長周期のほぼ規則的に繰り返されるノイズが除去できる。差分部112は、整流演算部28、処理部30、及び実効値変換48の前段のいずれに入れてもよい。
【0108】
差分部112における差分の求め方を
図14に示す。
図14において、横軸は時間軸を示し、縦軸は研磨終点検出用の電流値を示している。1つの方法は、
図14(a)に示すように、逆位相のデータと加算して、凹凸をなくす、すなわち、所定区間とは異なる区間において検出された電流値118に、蓄積された電流値の符号を逆転した電流値120を加算して、ノイズを除去する方法がある。他の方法として、
図14(b)に示すように、同位相データを減算して、凹凸をなくす、すなわち、所定区間とは異なる区間において検出された電流値118から、蓄積された電流値122を減算して、ノイズを除去する方法がある。これらは、実質的に同等の処理であり、同一の結果が、
図14(c)に示す電流値124として得られる。
【0109】
なお、電流値118と電流値120は、異なる時間に測定されているため、電流値のレベルが異なるが、
図14では、図示の便宜のため、ほぼ同じレベルであるように図示してある。レベルに関しては、
図15に、より正確に図示してある。
【0110】
蓄積部110は、研磨テーブル及び保持部のうちの少なくとも一方の、少なくとも1回転分の電流値を蓄積する。本実施例では、研磨テーブル12の3回転分の電流値を蓄積する。すなわち、所定区間は、研磨テーブル及び前記保持部のうちの一方が1回転以上する
ために要する区間であり、本実施例では研磨テーブル12が3回転する区間である。
【0111】
研磨テーブルと保持部の回転速度が異なる場合に、速い方の回転速度をa、遅い方の回転速度をbとしたときに、所定区間は、研磨テーブル及び保持部のうち回転速度の遅い方が(b/(a−b))回転するために必要な区間としてもよい。
【0112】
本実施例では、少なくとも1回転分の電流値を蓄積している。本発明が対象とするノイズは、研磨テーブル及び保持部の1回転以上の区間にわたる長周期を有する場合が多いからである。何回転分のデータを用いることが最適であるかは、研磨条件(ウェハ上の膜の状態、材質、モータの回転数等)に依存する。一例として、研磨テーブル及び保持部が何回転かした後に、相対的に元の位置関係に戻る周期が、所定区間として好ましい場合がある。相対的に元の位置関係に戻る周期が、研磨テーブル及び保持部のうち回転速度の遅い方が(b/(a−b))回転するために必要な区間である。
【0113】
本実施例においては、研磨テーブルの回転数は、分速60回、保持部の回転数は、分速80回である。この場合、研磨テーブルが3回、回転すると、その間に保持部は、4回、回転して、研磨テーブルと保持部の相対的な回転位置が元に戻る。
【0114】
図15に、蓄積部110が蓄積するデータ、及び差分部112による処理結果の詳細を説明するための図を示す。
図15(a)は、研磨テーブルの回転位置を検出するトリガセンサ(位置検出部)220が出力するトリガ信号126を示す。横軸は、時間を表す。所定区間は、検出された位置を基準として、設定される。区間128は、テーブル12が1回転するために要する時間である。ハードウェア起因ノイズがモータにより生じるため、モータが1回転する毎に生成されるトリガを利用して、3回転単位で補正を行う。3回転単位で補正を行う理由は、本実施例の回転数の場合、研磨テーブルが3回、回転すると、その間に保持部は、4回、回転して、研磨テーブルと保持部の相対的な回転位置が元に戻るからである。研磨テーブルと保持部の回転数が本実施例と異なる場合は、3回転とは異なる回転数単位で補正を行うことが可能である。
【0115】
トリガセンサ220は、
図1に示すように、研磨テーブル12に配置された近接センサ222と、研磨テーブル12の外側に配置されたドグ224とを含む。近接センサ222は、研磨テーブル12の下面(研磨パッド10が貼り付けられていない面)に貼り付けられている。ドグ224は、近接センサ222によって検出されるように、研磨テーブル12の外側に配置されている。なお、トリガセンサ220とドグ224の位置関係は逆でもよい。トリガセンサ220は、近接センサ222とドグ224との位置関係に基づいて研磨テーブル12が1回転したことを示すトリガ信号126を出力する。具体的には、トリガセンサ220は、近接センサ222とドグ224とが最も接近した状態でトリガ信号126を制御部50に出力する。
【0116】
トリガセンサには、種々のタイプが利用可能である。例えば、近接センサ222内の検出コイルより交流磁場(磁界)が発生する。この磁界に検出物体(金属:ドグ224)が近づくと電磁誘導により、検出物体に誘導電流(渦電流)が流れる。この電流によって、検出コイルのインピーダンスが変化、発振が停止することで検出する。トリガセンサにおいてDC(直流)磁場を発生させる場合、センサ上を金属が通過した際に発生する磁場の変化を検出コイルにより検知する。
【0117】
テーブルが1回転する毎に1回のトリガ信号を入力し、加算すべき逆位相の基準データ等を取得する。トリガセンサを用いると、次の効果がある。テーブル等のモータの回転数には誤差があるため、研磨時間が長い場合、ずれが生じる。トリガセンサにより、回転むらや回転誤差を吸収し、逆位相の基準データと、補正すべきデータとの時間誤差をなくす
ことが可能である。
【0118】
制御部50は、トリガセンサ220から出力されたトリガ信号126に基づいて、蓄積開始タイミング及び差分開始タイミングを制御する。例えば、蓄積部110は、研磨開始後、トリガセンサ220からトリガ信号126を、制御部50から信号50aとして受信して、所定の回数だけトリガ信号126を受信したタイミングを蓄積開始タイミングとする。また、差分部112は、研磨開始後、トリガセンサ220からトリガ信号126を、制御部50から信号50aとして受信して、所定の回数だけトリガ信号126を受信したタイミングを差分開始タイミングとする。
【0119】
本実施例では、蓄積開始タイミングであるトリガ信号126が出力されてから蓄積部110で蓄積が開始され、テーブル12が3回転する間、蓄積を行い、4個目のトリガ信号126が出力されると、蓄積が終了する。4個目のトリガ信号126が出力されると、蓄積が終了し、差分部112において差分が開始される。研磨開始時点と、蓄積開始タイミング及び差分開始タイミングとの関係については、さらに後述する。
【0120】
なお、蓄積開始タイミング及び差分開始タイミングと、トリガ信号126との間に時間遅延を設けてもよい。例えば、蓄積部110は、トリガセンサ220からトリガ信号126が出力されてから所定時間が経過したタイミングを蓄積開始タイミングとしてもよい。また、トリガセンサ220からトリガ信号126が出力されてから所定時間が経過したタイミングを差分開始タイミングとしてもよい。これにより、回転テーブル12上の特定の位置から蓄積又は差分を開始することができる。ここで、所定時間は、あらかじめパラメータとして設定されているものとする。
【0121】
本実施例では、所定時間は、0秒である、すなわち、トリガ信号126が出力されると、蓄積及び差分が開始される。所定時間が0秒でない場合は、トリガ信号126から遅れて蓄積及び差分が開始される。
【0122】
図15(b)は、ハードウェア(モータ)起因のノイズが存在せず、他のノイズも存在しないと仮定したときの検出されるテーブル電流130を示す。
図15(b)は、1個のホールセンサの出力(1相分)を示す。
図15(b)において、テーブル12が1回転する区間128の間に、テーブル電流130は多数の正弦波(
図15(b)では、4個の正弦波)を描く理由は、テーブル12の回転数は1秒間に1回程度であるが、テーブル電流130は、テーブルモータの切替え周波数に相当する周波数を有するためである。
図15(b)〜15(c)では、説明の便宜のために、テーブル12が1回転する間におけるテーブル電流130の正弦波の数を4個とした。
【0123】
本実施例では、蓄積部110は、研磨開始後、テーブル12が数回、回転して研磨状態が安定した後(蓄積開始タイミング)に、テーブル12が、最初の3回、回転する間(1回転目128−1から3回転目128−3の間)、電流を蓄積する。蓄積部110は、入力された電流を、蓄積部110が内蔵するメモリに蓄積する。差分部112は、テーブル12の4回転目128−4以降(差分開始タイミング)のデータから、蓄積されている1回転目128−1から3回転目128−3を減算して差分を求める。
【0124】
具体的には、4回転目128−4のデータから1回転目128−1のデータを減算し、5回転目128−5のデータから2回転目128−2のデータを減算し、6回転目128−6のデータから3回転目128−3のデータを減算し、7回転目128−7のデータから1回転目128−1のデータを減算し、以下同様に減算を繰り返す。減算の際に基準となる1回転目128−1から3回転目128−3のデータは、本実施例では上述のように、研磨の初期段階で取得している。しかし本願発明はこの方法に限られるものではなく、
例えば別のウエハの研磨において予め取得した研磨の初期段階のデータを登録しておく方法でもよい。予め取得したデータを研磨開始時に蓄積部へロードし、ロードされたデータを減算の際の基準データとして使用することも可能である。
【0125】
図15(b)における1回転目128−1から3回転目128−3頃までの電流130は、研磨パッド10とウエハ18との間の摩擦に変化が生じていないときの電流であり、一定の振幅である。研磨が進み、摩擦に変化が生じたときの4回転目以降の電流132と、電流130との電流の差が、電流の振幅の差134(研磨量に相当する)として現れる。
【0126】
図15(c)は、ハードウェア(モータ)起因のノイズが存在し、他のノイズは存在しないと仮定したときに検出される電流136を示す。電流136は、
図15(b)の電流130と比較すると、後述するように、モータの回転(機器)による影響によって変化(ノイズ)が発生している。
図15(c)は、1個のホールセンサの出力を示す。
【0127】
蓄積部110は、テーブル12が、最初の3回、回転する間の電流136−1、136−2、136−3を蓄積する。差分部112は、テーブル12の4回転目128−4以降の電流136−4、136−5、・・・から、蓄積されている1回転目128−1から3回転目128−3の電流136−1、136−2、136−3を、上述のように減算して差分を求める。
【0128】
1回転目128−1から3回転目128−3の電流138には、
図15(b)と
図15(c)を比較すると、以下の傾向があることがわかる。電流136−1と電流136−2の振幅の差140、電流136−2と電流136−3の振幅の差142が
図15(c)では発生している。モータの回転(機器)による影響によって変化(ノイズ)が発生したためである。
【0129】
電流136−1と電流136−2の振幅の差140、電流136−2と電流136−3の振幅の差142は、4回転目18−4以降においても、ほぼ同じ値を繰り返す。モータの回転(機器)による影響による変化(ノイズ)は、所定の回転数ごとに同じ大きさで繰り返すという点を利用したものが本願発明である。何回転ごとに繰り返すかは、研磨条件等によって異なる。
【0130】
なお、
図15(b)の電流130と電流132の振幅の差134と、
図15(c)の電流136−3と電流136−4の振幅の差144とを比較すると、振幅の差144の方が小さくなっている。すなわち、モータの回転による影響によって、見掛け上の研磨量の変化が小さくなっている。従って、本願のように、ノイズを除去しない場合、終点検知が困難になる。振幅の差144が小さくなるということは、次のような問題も生じさせる。モータ電流136は、通常、後段の信号処理において直流化して、研磨量の変化をモニターする。振幅の差144が小さくなると、直流化した時の変化も小さくなり、変化量の大きさから終点検知をする場合、終点検知が困難になるという問題が生じる。本願は、ノイズを除去するため、変化量が大きくなる。この点を次に説明する。
【0131】
図15(d)は、差分部112により差分が行われた後の、すなわち、ノイズが除去された後の差分部112の出力146,148を示す。差分は
図15(a)に示すトリガ信号126を基準に行われる。トリガ信号126が入力される毎に、A/Dコンバータ111におけるデータのサンプリングのタイミングをリセットして、差分部112とA/Dコンバータ111におけるデータ取得タイミングを調整する。この調整により、差分部112におけるデータ取得のずれを、A/Dコンバータ111が1サンプリングに要する期間未満の期間に抑えることが可能になる。テーブル12の3回転目128−3までの出力1
46は0である。蓄積されているデータと一致しているデータに関しては差分部112の出力は0である。4回転目128−4以降の出力148は、研磨量の変化により、0ではない。
【0132】
差分部112を整流演算部28の前段に配置した場合に関して説明すると、4回転目128−4以降の出力148は、研磨量の変化と、モータに起因しない図示しないノイズを含む。図示しないノイズは、後段の処理部30(
図2に示す)において除去される。4回転目128−4以降の出力148には、モータによるノイズ以外の原因による電流値の変化部分が、出力148の振幅150として残る。出力148の振幅150は、
図15(a)の振幅の差134と同じ大きさである。従って、モータによるノイズが消去され、研磨量の変化のみを精度よく検出することができる。
【0133】
本実施例で用いたアルゴリズムを、CPUを搭載した演算ユニット内の蓄積部(メモリ、HDD)内に保存し、このアルゴリズムをCPUにおいて実行することも可能である。
本実施例では、蓄積部110は、ホールセンサによって検出された少なくとも2相の電流値を、整流する前に、所定区間に渡って蓄積し、差分部112は、少なくとも2相の電流のそれぞれについて差分を求め、研磨装置は、差分部112が出力する差分である少なくとも2相の電流検出値を整流することとした。本発明はこれに限られるものではなく、整流後に差分を行ってもよい。例えば、蓄積部110は、整流演算部の出力した少なくとも2相の電流値を所定区間に渡って蓄積し、差分部112は、少なくとも2相の電流のそれぞれについて、差分を求め、終点検出部は、差分部112が出力する前記差分の変化に基づいて、研磨対象物の表面の研磨終了を示す研磨終点を検出してもよい。
【0134】
次に、制御部50による本実施例における制御の一例を
図16により、さらに説明する。
図16は、制御部50による各部の制御の一例を示すフローチャートである。本フローでは蓄積部110は、基準データを研磨中に収集する、すなわち基準データを研磨開始直後に取得する。
【0135】
基準データの蓄積時間の設定に関しては、テーブルモータ回転数とトップリングモータ回転数の比率により、CPU(中央演算処理装置)を有する制御部50が既述のように計算を行い、決定する。回転数に関する情報は、CMP本体側から研磨前に必要とする研磨ステップ分、取得する。ここで、研磨ステップ分、取得する理由は、研磨条件を変えながら連続して研磨する等の場合、研磨条件が変わるごとに、テーブル回転数やパッド圧力が変わり、基準データが変わるため、別の研磨ステップとみなすためである。CMP本体側と制御部50が一体でもよい。この場合、必要な情報は、共有メモリ等を経てCMP本体側と制御部50との間で受け渡しを行う。一体である場合、CMP本体側のCPUと制御部50側のCPUが別々であることによる2つのCPU処理間の時間差が最小限になる利点がある。
【0136】
制御部50は、計測開始をユーザ(すなわち、CMP装置側)から指示されると、テーブルを回転させる(S120)とともに、ホールセンサ31は、テーブルモータ電流値をA/D変換器111に入力する(S110)。近接センサは、テーブル12が回転を始めると、出力を始める(S130)。近接センサの出力は、A/D変換器111に入力され、FPGA(field-programmable gate array)等であるデジタル回路(図示しない)を用いてA/D変換のタイミング調整に利用される。近接センサの出力により、A/D変換器111内のデータをリセットするとともに、データの取り込みタイミングを一致させる。その後、A/D変換器111は、テーブルモータ電流値をA/D変換する(S140)。
【0137】
その後、制御部50は、ユーザからの研磨開始の指示を待つ(S150)。ユーザから研磨開始の指示があると、制御部50は、その内部にあるタイマをリセットした後に、基
準データ(すなわち、テーブル3回転分のデータ)を蓄積する所定時間が経過したかどうかをタイマにより判断する(S160)。基準時間が経過していないときは、基準データを蓄積部110のメモリ152に蓄積させる(S170)。これ以降は、近接センサからの情報に合わせてテーブルモータ電流値を蓄積及び差分処理する。データの先頭を一致させるためである。演算処理は具体的には、デジタル化されたデータをCPUにおいて行われる。
【0138】
基準時間が経過したときは、蓄積部110での蓄積は終わる。テーブルモータ電流値は、差分部112のFIFOメモリ(先入れ先出しメモリ)に蓄積される(S180)。FIFOメモリでは、最初に格納されたデータが、その後、最初に取出されると同時に削除される。差分部112は、ノイズを除去するために、既述のように、減算すなわち“FIFOに入力したデータ“-”基準データ”を実施する(S190)。
【0139】
次に、制御部50は、
図2の処理部30における処理、すなわち、フィルタ実施の有無を判断する(S200)。ユーザから実施するとの指示がある場合は、フィルタ処理を実施する(S210)。ユーザから実施するとの指示がない場合は、フィルタ処理を実施しない。その後、差分部112の出力に基づいて終点検出処理を開始する(S220)。終点であるかどうかを次に判断する(S230)。終点でない場合は、ステップの最初に戻り、制御部50は、テーブルの回転を続行させる(S120)とともに、ホールセンサ31は、テーブルモータ電流値をA/D変換器111に入力する(S110)。
【0140】
次に、制御部50による本実施例における別の制御例を
図17により、さらに説明する。
図17は、制御部50による各部の制御の一例を示すフローチャートである。本フローでは蓄積部110は、基準データを研磨前に設定する。すなわち、類似の研磨条件の別の研磨において、基準データを取得しておき、そのデータを利用する。
【0141】
基準データの蓄積時間の設定に関しては、テーブルモータ回転数とトップリングモータ回転数の比率により、既述のように制御部50が計算を行い、決定する。回転数に関する情報は、CMP本体側から研磨前に必要とする研磨ステップ分、取得する。CMP本体側と制御部50が一体の場合、必要な情報は共有メモリ等を使用して受け渡しを行う。
【0142】
制御部50は、計測開始をユーザから指示されると、テーブルを回転させる(S120)とともに、ホールセンサ31は、テーブルモータ電流値をA/D変換器111に入力する(S110)。制御部50は、既に取得した複数セットの基準データから研磨条件に合致するものを蓄積部110に送信し、蓄積部110は、その内部のメモリに基準データを、CSVファイル等のデータ形式で、設定する(S240)。
【0143】
近接センサは、テーブルが回転を始めると、出力を始める(S130)。近接センサの出力は、A/D変換器111に入力され、A/D変換のタイミング調整に利用される。近接センサの出力により、A/D変換器111内のデータをリセットするとともに、データの取り込みタイミングを一致させる。その後、A/D変換器111は、テーブルモータ電流値をA/D変換する(S140)。
【0144】
その後、制御部50は、ユーザからの研磨開始の指示を待つ(S150)。ユーザから研磨開始の指示があると、近接センサからの情報と合わせてテーブルモータ電流値を差分処理する。データの先頭を一致させるためである。処理は具体的には、デジタル化されたデータをCPUにおいて演算処理される。
【0145】
テーブルモータ電流値は、差分部112のFIFOメモリに蓄積される(S180)。差分部112は、ノイズを除去するために、既述のように“FIFOに入力したデータ“-”基準
データ”を実施する(S190)。
【0146】
次に、制御部50は、
図2の処理部30における処理、すなわち、フィルタ実施の有無を判断する(S200)。ユーザから実施するとの指示がある場合は、フィルタ処理を実施する(S210)。ユーザから実施するとの指示がない場合は、フィルタ処理を実施しない。その後、差分部112の出力に基づいて終点検出処理を開始する(S220)。終点であるかどうかを次に判断する(S230)。終点でない場合は、ステップの最初に戻り、制御部50は、テーブルの回転を続行させる(S120)とともに、ホールセンサ31は、テーブルモータ電流値をA/D変換器111に入力する(S110)。
【0147】
なお、本実施例では、テーブル電流等を整流する場合に、蓄積部及び差分部を適用しているが、蓄積部及び差分部は、電流値を整流しない場合にも適用でき、同様の結果が得られる。これらの処理方式の場合は、いずれも実効値変換前に蓄積及び差分を行っている。実効値変換前のデータには、実効値変換によるDC成分が入っていない。実効値変換後のデータを利用する場合、DC成分が入っているために、逆位相のデータを生成して、減算を実行することが難しい。実効値変換により、データの振幅が小さくなっているためである。
【0148】
実効値変換を実施した後、終点検出部58において移動平均、微分処理を行い、終点検出を実施する。
なお、本実施例で説明した方式は、研磨中の摩擦変化に与える機器の影響をキャンセルする方式であるため、この方式は、上述のテーブルモータ電流の変化の計測に適用することに限られず、トルクの変化自体の計測にも適用することができる。
【0149】
ところで、本願におけるテーブルモータ電流値を計測するセンサと、他の方式のセンサとの併用を行い、検出精度をさらに向上させることもできる。渦電流式センサや、光学式センサとの併用が可能である。以下に2つの好適な例を挙げる。例1:金属膜にタングステン(W)が含まれるメタル研磨プロセスにおいて、テーブルモータ電流値を計測するセンサと渦電流式センサを併用して、タングステン(W)膜とバリア膜の境界をテーブルモータ電流値を計測するセンサにより検出する。渦電流式センサは、ウェハの膜厚方向に存在する物質全体の抵抗値に影響を受けるため、タングステン膜とバリア膜の抵抗値が近い場合には、タングステン膜とバリア膜の境界において、渦電流式センサセンサの検出値に変化が出にくい。一方、テーブルモータ電流値を計測するセンサは、研磨面の摩擦を検知して終点検出を行うことから、バリア膜の境界点で波形変化が現れることがあり、タングステン膜とバリア膜との境界の検知に適している。 例2:膜に酸化膜が含まれる酸化膜研磨プロセスにおいて、光学式センサとテーブルモータ電流値を計測するセンサの併用を行う。光学式センサにより膜厚検出を行った後、膜質が変化する箇所をテーブルモータ電流値を計測するセンサにより検出することが好ましい。
【0150】
なお、本発明は、一定周期にて発生するノイズの削除に適していることからインサイチュウドレッシングにおけるノイズ削減にも有効に対応可能である。
【0151】
次に、蓄積部110の別の実施例について
図18〜
図22により、説明する。
図18〜
図22では、横軸は時間(ミリ秒)、縦軸は電流値(アンペア)である。これらの実施例では、蓄積部110は、所定区間に渡って検出される電流値から所定値を減算した電流値を蓄積し、差分部112は、所定区間とは異なる区間において検出された電流値と、減算して蓄積された電流値との差分を求める。
図18、19は、所定値が、所定区間に渡って検出された電流値の平均値である実施例を説明する図である。
図18,19の実施例は、
図15の実施例を改善するものである。
図20〜22の実施例は、
図18,19の実施例を、さらに改善するものである。
図18〜
図22では、所定区間214は、研磨テーブル12が1回転する時間とする。なお、本発明では、所定区間214は、研磨テーブル12
が1回転する時間に限られず、ノイズの周期に応じて設定することができる。
【0152】
蓄積部に蓄積されるモータ電流には、第1成分226と、第1成分226とは異なる、時間的にゆっくりと変化する成分(膜厚の変化を表す量と考えることができる成分であり、「第2成分228」と以下では呼ぶ。)を有する。第1成分226は、例えば周期が1〜15秒、周波数換算で、1〜1/15Hzの長周期の既述のノイズを含むものである。
【0153】
図18では、所定区間214とは異なる区間216には、区間234と区間238が含まれるとする。所定区間214と、所定区間214とは異なる区間238では、第2成分228は、その大きさや変化の様子が異なる。但し、所定区間214と、所定区間214とは異なる区間234では、第2成分228は、その大きさや変化の様子が同じとする。
【0154】
所定区間214と、所定区間214とは異なる区間216において、第1成分226は同じである。膜厚の変化を表す量である第2成分228は、変化する。従って、第2成分228のみを検出できることが望ましい。所定区間214と、所定区間214とは異なる区間216において、第1成分226は、ほぼ同じである。所定区間内において検出されるテーブル電流210から、所定区間内における第2成分228を減算して、第1成分226のみを蓄積する。所定区間214において減算して蓄積された電流値(第1成分)を、区間216におけるテーブル電流210から減算することにより、区間216における第2成分228を得る。
【0155】
図18、19は、蓄積部110が蓄積するデータ、及び差分部112による処理結果の詳細を説明するための図である。
図18は、
図15に示す方法により処理した場合の処理結果を示す。
図19は、
図18と同じテーブル電流210を、所定区間に渡って検出される電流値から所定値を減算した電流値を蓄積する方法により処理した場合の処理結果を示す。
【0156】
図18は、差分処理前のテーブル電流210と、差分処理後の出力信号236を示す。テーブル電流210は、第1成分226と、時間的にゆっくりと変化する第2成分228との和である。なお、
図18〜
図22において、テーブル12が1回転する所定区間214の間に、テーブル電流210は2周期の正弦波を描くものとする。
【0157】
図18、
図19において、テーブル電流210は、sin波である第1成分226と、ある区間において一定である第2成分228を有する。区間230と、区間230に後続する区間238で、振幅の中心値である第2成分228が異なる。
図15に示す方法では、
図18に示すように、所定区間214におけるテーブル電流210そのものが基準データである。
【0158】
図15に示す方法により差分処理が行われて出力される信号は、区間216におけるテーブル電流210から、所定区間214におけるテーブル電流210を減算した値となる。このため、所定区間214と、所定区間214の直後にある区間234では、第2成分228が同じであり、sin波である第1成分226と、第2成分228の両方が打ち消される。
図18に示すように、減算した値236は、区間234では0となってしまう。従って、
図15に示す方法によれば、テーブル電流210の平均値が0である場合、膜厚そのものの大きさを検出することが可能である。
【0159】
図18に示すように、区間234に後続する区間238では、第2成分228が異なるため、Sin波である第2成分228は打ち消され、基準データとの中心値(第2成分228)の差が出力信号236となる。従って、
図15に示す方法によれば、平均値が0でないときには、膜厚の変化を表す量のみの検出が可能である。しかし、出力信号236は、
テーブル電流210とは、振幅の大きさが、かなり異なる。従って、膜厚そのものの大きさを知りたい場合には、
図15に示す方法は改善の余地がある。
【0160】
改善策として、所定区間214と、所定区間214とは異なる区間216において、第1成分218、すなわちsin波は、ほぼ同じであることを利用する。具体的には、
図19に示すように、所定区間214内において検出される電流値(テーブル電流210)から第2成分228を減算して、第1成分226を蓄積する。所定区間214とは異なる区間216において、テーブル電流210から、第2成分228を減算して蓄積された電流値(基準データである第1成分226)を減算することにより、第2成分228を得ることができる。
【0161】
所定区間214において、第1成分226を算出するために利用する第2成分228は以下のようにして算出する。研磨開始後、研磨が安定した時に、研磨テーブル12が1回転する時間について、テーブル電流210の平均値を算出する。算出された平均値を、当該平均値を算出した期間に後続する研磨テーブル12が1回転する時間(この期間を所定区間214とする。)において、テーブル電流210から減算することで、基準データを作成する。式で示すと、以下のとおりである。
基準データ = テーブル電流210 - 平均値
図15に示す基準データの平均値を考慮することによって、区間216において、sin波のみが打ち消され、テーブル電流210の絶対値(第2成分228)が出力される。絶対値が変化した場合であっても、第1成分226が、同じsin波成分であれば、打ち消され、テーブル電流210の絶対値が出力できる。すなわち、膜厚そのものの大きさを知ることができる。
【0162】
次に、蓄積部110の別の実施例について
図19〜
図20により、説明する。本実施例では、所定区間に渡って検出される電流値(テーブル電流210)が、周期的に変化する第1の成分と、直線状に変化する第2の成分とを加算したものであり、所定値は、所定区間214における第2の成分である。
図20、21は、蓄積部110が蓄積するデータ、及び差分部112による処理結果の詳細を説明するための図である。
図20は、
図19に示す方法により処理した場合の処理結果を示す。
図21は、
図20と同じテーブル電流210を処理するが、第2成分228が直線状に変化することを考慮して、所定値を設定する。
図21は、所定区間に渡って検出されるテーブル電流210から、この所定値を減算した電流値を蓄積する方法により処理した場合の処理結果を示す。
【0163】
図20は、差分処理前のテーブル電流210と、差分処理後の出力信号240を示す。出力信号240は、
図19の算出方法により得られたものである。テーブル電流210は、第1成分226と、時間的にゆっくりと直線状に変化する第2成分228との和である。
【0164】
図20、
図21において、テーブル電流210は、sin波である第1成分226と、区間230において直線状に変化する第2成分228を有する。区間230に後続する区間238において、一定である第2成分228を有する。
図19に示す方法では、
図20に示すように、所定区間214におけるテーブル電流210の平均値242が、所定値である。算出された平均値242を、所定区間214において、テーブル電流210から減算することで基準データを作成する。
【0165】
区間234において、テーブル電流210から基準データを減算すると、第2成分228を正確に得ることができる。所定区間214と、区間234においては、第2成分228の傾きが同じであるため、区間234においては、第1成分226を正しく打ち消すことができる。しかし、区間238では、所定区間214とは、第2成分228の傾きが異
なるため、第1成分226であるsin波は打ち消せても、出力信号240に、所定区間214における傾きが現れてしまう。区間238では、出力信号240は、平たんでなければならないが、のこぎり状の波形になる。この、のこぎり状の波が新たなノイズの原因となるため、
図20のようなテーブル電流210に対しては、基準データの生成方法を変更する必要がある。
【0166】
適切な基準データの生成方法は次のとおりである。所定区間214と、所定区間214とは異なる区間216において、第1成分218、すなわちsin波は、ほぼ同じであることを利用する。具体的には、所定区間214内において検出される電流値(テーブル電流210)から、傾きを有する第2成分228を減算して蓄積する。所定区間214とは異なる区間216において、テーブル電流210から、第2成分228を減算して蓄積された電流値(基準データである第1成分226)を減算することにより、正しい第2成分228を得ることができる。
【0167】
所定区間214において、第1成分226を算出するために利用する第2成分228は、例えば、以下のようにして算出する。研磨開始後、研磨が安定した時のsin波の2周期について、テーブル電流210の傾きを算出する。2周期とした理由は、2周期が、所定区間214の長さであるからである。
図21に示すように、2周期の開始点244における第2成分228と、終了点246における第2成分228との差は、開始点244におけるテーブル電流210と、終了点246におけるテーブル電流210との差に等しいという性質を利用する。
【0168】
なお、第2成分228の差がテーブル電流210の差に等しいという性質は、2周期の開始点244と終了点246との組み合わせに限らず生じる。この性質は、1周期の整数倍の長さだけ離れた測定点同士の間で、成立しうる。1周期の何倍の長さだけ離れた測定点同士の間で、テーブル電流210の差が等しくなるかは、研磨対象物、研磨条件、研磨開始からの経過時間等に依存する。
【0169】
本実施例では、研磨開始後、研磨が安定した時に、所定区間214の長さだけ離れた測定点の間におけるテーブル電流210の差を求めることにより、第2成分228の差を求めることができる。所定区間214の長さだけ離れた測定点の間における第2成分228の差が求まると、第2成分228の傾きがわかり、第2成分228を、時間に関する一次関数で表現することができる。傾きを決定した期間に後続する2周期を所定区間214とする。一次関数を用いると、所定区間214において、テーブル電流210から、正確に第2成分228を減算できる。このようにして、基準データを作成する。基準データを区間216に用いることにより、区間216において、第2成分228を正確に算出することができる。
【0170】
図21は、
図20に示す基準データを補正した結果である。
図20に示す基準データの傾きを考慮することによって、sin波のみが打ち消され、テーブル電流210の中心値(第2成分228)が出力される。第2成分228が直線状に変化した場合であっても、第1成分226が、同じsin波成分であれば、打ち消され、テーブル電流210の絶対値が出力できる。すなわち、膜厚そのものの大きさを知ることができる。
【0171】
所定区間214の長さの間に、第1成分226の周期とは異なる特定の周期を有する第2成分228が含まれる場合や、所定区間214の長さの間に、第2成分228に折れ線状の屈曲がある場合にも、
図21と類似の方法が適用できる。そのような例を
図22に示す。
図22では、第2成分228が折れ線状である。折れ線は、直線の組み合わせと考えられるため、各々の直線について、
図21の方法を適用することにより、第2成分228を、時間に関する一次関数で表現することができる。得られた1次関数を用いて、所定区
間214において、テーブル電流210から、第2成分228を減算する。このようにして、基準データを作成する。
【0172】
所定区間214の長さの間に、第1成分226の周期とは異なる特定の周期を有する第2成分228が含まれる場合、特定の周期が、第1成分226の周期と比較して長く、直線で近似できる場合がある。そのようなときは、
図21の方法を適用することにより、第2成分228を、時間に関する一次関数で表現することができる。次に、所定区間214において、テーブル電流210から、第2成分228を減算する。このようにして、基準データを作成する。
【0173】
次に、制御部50による、
図18〜
図19の実施例における制御の一例を
図23により、さらに説明する。
図23は、制御部50による各部の制御の一例を示すフローチャートである。本フローでは蓄積部110は、基準データを研磨中に収集する、すなわち基準データを研磨開始直後に取得する。本フローは、
図16に示すフローを一部変更したものである。ステップS250が追加されている。
【0174】
ステップS250では、以下の処理が行われる。研磨開始後、研磨が安定した時の2周期について、メモリ152に、2周期分のテーブル電流210が蓄積された直後に、テーブル電流210の平均値を算出する。後続する2周期(所定区間214)において、算出された平均値を、テーブル電流210から減算することで基準データを作成して、メモリ152に蓄積する。
以上説明したように、本発明は以下の形態を有する。
形態1
研磨パッドと、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物との間で研磨を行うための研磨装置であって、
研磨パッドを保持するための研磨テーブルを回転駆動する第1の電動モータと、
前記研磨物を保持して前記研磨パッドへ押圧するための保持部を回転駆動する第2の電動モータとを有し、
前記研磨装置は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも一方の電流値を検出する電流検出部と、
前記検出された電流値を所定区間に渡って蓄積する蓄積部と、
前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、前記蓄積された電流値との差分を求める差分部と、
前記差分部が出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する終点検出部と、を有することを特徴とする研磨装置。
形態2
形態1において、前記研磨装置は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの少なくとも一方の回転位置を検出する位置検出部を有し、
前記所定区間は、前記検出された位置を基準として、設定されることを特徴とする研磨装置。
形態3
形態1又は2において、前記蓄積部は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの少なくとも一方が少なくとも1回転する期間に検出された前記電流値を蓄積することを特徴とする研磨装置。
形態4
形態1から3までのいずれか1項において、前記所定区間は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうちの一方が1回転以上するために要する区間であることを特徴とする研磨装
置。
形態5
形態1から3までのいずれか1項において、前記研磨テーブル及び前記保持部の回転速度が異なる場合に、速い方の回転速度をa、遅い方の回転速度をbとしたときに、前記所定区間は、前記研磨テーブル及び前記保持部のうち回転速度の遅い方が(b/(a−b))回転するために必要な区間であることを特徴とする研磨装置。
形態6
形態1から5までのいずれか1項において、前記第1及び第2の電動モータのうち少なくとも一方の電動モータは、複数相の巻線を備え、
前記電流検出部は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも2相の電流を検出し、
前記蓄積部は、前記検出された少なくとも2相の電流値を前記所定区間に渡って蓄積し、
前記差分部は、前記少なくとも2相の電流のそれぞれについて前記差分を求め、
前記研磨装置は、前記差分部が出力する差分である少なくとも2相の電流検出値を整流し、整流された少なくとも2相の信号に対して、該少なくとも2相の信号同士を加算する加算及び/又は該少なくとも2相の信号に所定の乗数を乗じる乗算を行って出力する整流演算部を有し、
前記終点検出部は、前記整流演算部の出力の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出することを特徴とする研磨装置。
形態7
形態1から5までのいずれか1項において、前記第1及び第2の電動モータのうち少なくとも一方の電動モータは、複数相の巻線を備え、
前記電流検出部は、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも2相の電流を検出し、
前記研磨装置は、前記電流検出部によって検出された少なくとも2相の電流検出値を整流し、整流された少なくとも2相の信号に対して、該少なくとも2相の信号同士を加算する加算及び/又は該少なくとも2相の信号に所定の乗数を乗じる乗算を行って出力する整流演算部を有し、
前記蓄積部は、前記整流演算部の出力した少なくとも2相の電流値を前記所定区間に渡って蓄積し、
前記差分部は、前記少なくとも2相の電流値のそれぞれについて、前記差分を求め、
前記終点検出部は、前記差分部が出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出することを特徴とする研磨装置。
形態8
形態6又は7において、前記研磨装置は、前記整流演算部の出力を増幅する増幅部と、前記整流演算部の出力に含まれるノイズを除去するノイズ除去部と、前記整流演算部の出力から所定量を減算する減算部とのうち、少なくとも1つを有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態9
形態8に記載の研磨装置において、前記研磨装置は、前記増幅部と前記減算部と前記ノイズ除去部とを有し、前記増幅部で増幅された信号を前記減算部で減算し、該減算された信号から前記ノイズ除去部でノイズを除去する、ことを特徴とする研磨装置。
形態10
形態9の研磨装置において、前記研磨装置は、前記ノイズ除去部でノイズを除去された信号をさらに増幅する第2の増幅部を有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態11
形態8に記載の研磨装置において、前記研磨装置は、前記増幅部と、前記増幅部の増幅特性を制御する制御部とを有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態12
形態8に記載の研磨装置において、前記研磨装置は、前記ノイズ除去部と、前記ノイズ除去部のノイズ除去特性を制御する制御部とを有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態13
形態8に記載の研磨装置において、前記研磨装置は、前記減算部と、前記減算部の減算特性を制御する制御部とを有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態14
形態10に記載の研磨装置において、前記研磨装置は、前記第2の増幅部の増幅特性を制御する制御部を有する、ことを特徴とする研磨装置。
形態15
研磨パッドを保持するための研磨テーブルを回転駆動する第1の電動モータと、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物を保持して前記研磨パッドへ押圧するための保持部を回転駆動する第2の電動モータと、前記第1及び第2の電動モータのうちの少なくとも一方の電流値を検出する電流検出部とを有する研磨装置を用いた、前記研磨パッドに対向して配置される研磨物と前記研磨パッドとの間で研磨を行う研磨方法において、該方法は、
前記検出された電流値を所定区間に渡って蓄積する蓄積ステップと、
前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、前記蓄積された電流値との差分を求める差分ステップと、
前記差分ステップが出力する前記差分の変化に基づいて、前記研磨の終了を示す研磨終点を検出する終点検出ステップとを有する、ことを特徴とする研磨方法。
形態16
形態1から14までのいずれか1項において、
前記蓄積部は、前記所定区間に渡って検出される前記電流値から所定値を減算した電流値を蓄積し、
前記差分部は、前記所定区間とは異なる区間において前記検出された電流値と、減算して蓄積された前記電流値との差分を求めることを特徴とする研磨装置。
形態17
形態16において、前記所定値は、前記所定区間に渡って検出された前記電流値の平均値であることを特徴とする研磨装置。
形態18
形態16において、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、第1の周期を有する第1の成分と、前記第1の周期よりも長い第2の周期を有する第2の成分とを加算したものであり、
前記所定値は、前記第2の成分であることを特徴とする研磨装置。
形態19
形態16において、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、周期的に変化する第1の成分と、直線状に変化する第2の成分とを加算したものであり、
前記所定値は、前記第2の成分であることを特徴とする研磨装置。
形態20
形態16において、前記所定区間に渡って検出される前記電流値が、周期的に変化する第1の成分と、折れ線状に変化する第2の成分とを加算したものであり、
前記所定値は、前記第2の成分であることを特徴とする研磨装置。