(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電荷輸送性ポリマーが、前記N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位以外の、電荷輸送性を有する2価の構造単位L2及び電荷輸送性を有する3価以上の構造単位B2からなる群から選択される少なくとも1つを更に含む、請求項1又は2に記載の電荷輸送性材料。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
<電荷輸送性材料>
電荷輸送性材料は電荷輸送性ポリマーを含み、上記電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位を含むことを特徴とする。電荷輸送性材料は、上記電荷輸送性ポリマーを1種、又は2種以上含有してもよい。以下、上記電荷輸送性ポリマーについて詳細に説明する。
【0020】
(電荷輸送性ポリマー)
本明細書で開示する電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を示し、かつ分子内にN−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位を含むものであればよい。上記N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位を含む電荷輸送性ポリマーは、直鎖構造を有するものであっても、又は、分岐構造を有するものであってもよい。上記電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、少なくとも電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを含み、更に分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」〜「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0021】
上記電荷輸送性ポリマーは、上記構造単位L、T及びBの少なくとも1つが、N−アリールフェノキサジン骨格を有することを特徴とする。すなわち、上記電荷輸送性ポリマーは、少なくともN−アリールフェノキサジン骨格を有する、1価以上の構造単位を含むことを特徴とする。
【0022】
(N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位)
「N−アリールフェノキサジン骨格」とは、下式に示すように、フェノキサジン骨格のN原子に置換又は非置換のアリール基(Ar)が結合した構造を意味する。フェノキサジン骨格における芳香環は非置換であっても、置換基Rを有してもよい。下式中、lは0〜4の整数であり、置換基Rの数を示す。置換基Rは、後述する構造単位AFにおけるRと同様である。
【0024】
「N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位」とは、先に説明したN−アリールフェノキサジン骨格において、少なくとも1つの水素原子を除いた原子団を構造単位内に含むことを意味する。電荷輸送性ポリマーにおいて、N−アリールフェノキサジン骨格を有する1価以上の構造単位(以下、「構造単位AF」と記載することもある)は、1以上の結合部位において他の構造単位と結合する。
【0025】
一実施形態において、構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格に由来する、1価、2価、及び3価以上の構造単位の少なくとも1つであってよい。他の実施形態において、構造単位AFは、構造単位を形成する主骨格に対する置換基として、N−アリールフェノキサジン骨格を有する1価の基(構造単位)を少なくとも1つ有するものであってよい。電荷輸送性ポリマーが構造単位AFを含むことによって、有機EL素子の駆動電圧、発光効率、及び発光寿命といった特性を向上させることが容易となる。構造単位AFは、化合物合成の容易さ、及び有機EL素子の耐久性の観点から、6価以下であることが好ましく、4価以下であることがより好ましい。
【0026】
以下、構造単位AFについてより具体的に説明する。
(1価の構造単位AF)
1価の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格を有し、かつ他の構造単位との結合部位を1個有する。一実施形態において、1価の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格から1つの水素原子を取り除いた構造を有することが好ましい。上記実施形態には、N−アリールフェノキサジン骨格における置換基から水素原子を取り除いた構造も含まれる。
1価の構造単位AFの具体例として、以下が挙げられる。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する1価の構造単位T1として、以下の構造単位を含むことが好ましい。
【0028】
上記構造単位において、lは0〜4の整数であり、mは0〜3の整数であり、それぞれRの数を示す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。一実施形態において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜22個の、直鎖、環状又は分岐の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアルコキシ基、並びに炭素数2〜30個の、アリール基及びヘテロアリール基、からなる群から選択される少なくとも1種である。上記アリール基及びヘテロアリール基は更なる置換基R1を有してもよい。上記アリール基及びヘテロアリール基における更なる置換基R1は、炭素数1〜22個の、直鎖、環状又は分岐の、アルキル基であることが好ましい。
上記構造単位において、Rは、好ましくは炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基であり、より好ましくは炭素数6〜20の置換又は非置換のアリール基であり、置換又は非置換のフェニル基又はナフチル基が更に好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、Rの少なくとも1つが、重合性官能基を含む基であってもよい。
【0029】
上記構造単位において、Arは、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ここで、芳香族炭化水素は、ビフェニルのように2以上の芳香環が結合した構造を有してもよく、ナフタレンのように2以上の芳香環が縮合した構造を有してもよい。より具体的には、Arは、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基である。アリール基に対する置換基としては、先に記載した更なる置換基R1と同様であってよい。Arは、より好ましくは炭素数6〜20の置換又は非置換のアリール基であり、置換又は非置換のフェニル基又はナフチル基が更に好ましい。
【0030】
上記構造単位において、Xは、2価の連結基を示し、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。すなわち、Xは、先に説明したArから水素原子を1つ除去した原子団であってよい。より具体的には、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数6〜20の置換又は非置換のアリーレン基である。Xは、置換又は非置換のフェニレン基又はナフチレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。フェニレン基は、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基のいずれであってもよいが、1,4−フェニレン基が好ましい。
【0031】
1価の構造単位AFの好ましい具体例として、以下が挙げられる。但し、1価の構造単位AFは以下に限定されるものではない。
【0033】
式中、Arは、それぞれ、先に説明した炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、又はアリーレン基である。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。
【0034】
(2価の構造単位AF)
2価の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格を有し、かつ他の構造単位との結合部位を2個有する。一実施形態において、2価の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格から2つの水素原子を取り除いた構造を有することが好ましい。上記実施形態には、N−アリールフェノキサジン骨格における置換基から水素原子を取り除いた構造も含まれる。
2価の構造単位AFの具体例として、以下が挙げられる。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する2価の構造単位L1として、以下の構造単位を含むことが好ましい。
【0036】
上記構造単位において、lは0〜4の整数であり、mは0〜3の整数であり、nは0〜2であり、それぞれRの数を示す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。R、Ar、及びXは、1価の構造単位AFにおいて説明したものと同様である。
構造単位におけるYは、3価の結合基を示し、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。すなわち、Yは、先に説明したArから水素原子を2つ除去した原子団であってよい。より具体的には、Yは、炭素数6〜30個の置換又は非置換のアレーントリイル基であり、より好ましくは炭素数6〜20の置換又は非置換のアレーントリイル基である。
【0037】
2価の構造単位AFの好ましい具体例として、以下が挙げられる。但し、2価の構造単位AFは以下に限定されるものではない。
【化5】
【0038】
式中、Arは、それぞれ、先に説明した炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、アリーレン基、又はアレーントリイル基である。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。
【0039】
2価の構造単位AFのより好ましい具体例として、以下が挙げられる。但し、2価の構造単位AFは以下に限定されるものではない。式中、Arは、それぞれ、先に説明した炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基である。
【化6】
【0040】
他の実施形態において、2価の構造単位AFは、後述する構造単位L2として例示する構造単位における置換基Rとして、先に説明したN−アリールフェノキサジン骨格を有する1価の構造単位を有するものであってよい。
【0041】
(3価以上の構造単位AF)
3価以上の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格を有し、かつ他の構造単位との結合部位を3個以上有する。一実施形態において、上記3価以上の構造単位AFは、N−アリールフェノキサジン骨格から3以上の水素原子を取り除いた構造を有することが好ましい。上記実施形態には、N−アリールフェノキサジン骨格における置換基から水素原子を取り除いた構造も含まれる。
【0042】
3価以上の構造単位AFは、6価以下であることが好ましい。一実施形態において、3価又は4価の構造単位AFが好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性を有する3価以上の構造単位B1として、以下の構造単位を含むことが好ましい。但し、3価又は4価の構造単位AFは以下に限定されるものではない。
【化7】
【0043】
上記構造単位において、lは0〜4の整数であり、mは0〜3の整数であり、nは0〜2であり、それぞれRの数を示す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。R、Ar、X及びYは、1価の構造単位AF及び2価の構造単位AFにおいて先に説明したものと同様である。
【0044】
3価又は4価の構造単位AFの好ましい具体例として、以下が挙げられる。但し、3価又は4価の構造単位AFは以下に限定されるものではない。
【化8】
【0045】
式中、Arは、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリーレン基又はアレーントリイル基を表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。
【0046】
上記3価又は4価の構造単位AFのより好ましい具体例として、以下が挙げられる。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。
【化9】
【0047】
他の実施形態において、3価又は4価の構造単位AFは、後述する構造単位B2として例示した構造単位において、置換基として、先に説明したN−アリールフェノキサジン骨格を有する1価の構造単位を含むものであってよい。
【0048】
一実施形態において上記電荷輸送性ポリマーは、2価の構造単位AF及び3価の構造単位AFからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。特に限定するものではないが、上記実施形態において、2価及び3価の構造単位AFの好ましい例として以下が挙げられる。
【0050】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、先に例示した1価以上の構造単位AF(以下、構造単位L1、構造単位T1、及び構造単位B1とも称す)の少なくとも1つに加えて、これらの構造単位AFとは異なる、電荷輸送性を有する1価以上の構造単位を更に含んでもよい。この任意に含まれる構造単位は、好ましくは6価以下、より好ましくは4価以下の構造単位である。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、以下にそれぞれ例示する、2価の構造単位L2、1価の構造単位T2、及び3価又以上の構造単位B2の少なくとも1つを更に含むことができる。
【0051】
(構造単位L2)
構造単位L2は、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位L2は、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位L2は、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。
一実施形態において、構造単位L2は、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。一実施形態において、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位L2は、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。構造単位L2の具体例として、以下が挙げられる。
【0054】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、−R
1、−OR
2、−SR
3、−OCOR
4、−COOR
5、−SiR
6R
7R
8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R
1〜R
8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1〜22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2〜30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。但し、本実施形態において、ヘテロアリール基は、N−アリールフェノキサジン骨格を含まないものとする。アルキル基は、更に、炭素数2〜20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1〜22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。但し、本実施形態において、ヘテロアリール基又はヘテロアリーレン基は、N−アリールフェノキサジン骨格を含まないものとする。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0055】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0056】
(構造単位B2)
構造単位B2は、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位B2は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位B2は、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位B2は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、トリフェニルアミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。構造単位B2の具体例として、以下が挙げられる。
【0058】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2〜30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。ここで、上記ヘテロアレーントリイル基及び上記ヘテロアリーレン基は、N−アリールフェノキサジン骨格を含まないものとする。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位L2におけるRが挙げられる。
【0059】
(構造単位T2)
電荷輸送性ポリマーにおいて、構造単位T2は、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位T2は、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。一実施形態において、構造単位T2は、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位T2は重合可能な構造(すなわち、例えば、ピロール−イル基等の重合性官能基)であってもよい。
【0060】
構造単位T2の具体例として、以下が挙げられる。
【化14】
【0061】
Rは、構造単位L2におけるRと同様である。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合Rのいずれか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基であることが好ましい。
【0062】
(重合性官能基を含む基)
一実施形態において、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、電荷輸送性ポリマーは、重合性官能基を含む基を少なくとも1つ有することが好ましい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0063】
重合性官能基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン−イル基、ピロール−イル基、チオフェン−イル基、シロール−イル基)などが挙げられる。重合性官能基としては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。
【0064】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性官能基とが、アルキレン鎖で連結されていることが好ましい。
また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。更に、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第WO2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0065】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0066】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0067】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0068】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0069】
(電荷輸送性ポリマーの部分構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。但し、電荷輸送性ポリマーは、以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は電荷輸送性を有する2価の構造単位、「T」は末端基を構成する1価の構造単位、「B」は分岐構造を構成する3価又は4価の構造単位を表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0070】
直鎖状の電荷輸送性ポリマー
【化15】
【0071】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマー
【化16】
【0072】
上記部分構造において、構造単位LはL1及び/又はL2であり、TはT1及び/又はT2であり、BはB1及び/又はB2である。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFとして、構造単位L1、T1、及びB1の少なくとも1つを含み、更にその他の構造単位L2、T2、及びB2の任意の組合せを含んでよい。
一実施形態において、上記電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する2価の構造単位L1、及びN−アリールフェノキサジン骨格を有する3価以上の構造単位B1からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。上記電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する3価以上の構造単位B1を少なくとも含むことが好ましい。
【0073】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFとして2価の構造単位L1及び3価以上の構造単位B1からなる群から選択される少なくとも1つを有し、更に、上記構造単位AFとは異なる、電荷輸送性を有する2価の構造単位L2及び3価以上の構造単位B2からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよい。
【0074】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFに加えて、上記電荷輸送性を有する2価の構造単位L2を含むことが好ましい。ここで、上記2価の構造単位L2は、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される1以上の構造であることが好ましい。上記ベンゼン構造は、p−フェニレン構造、又はm−フェニレン構造を含むことが好ましい。上記2価の構造単位L2は、芳香族アミン構造及び/又はカルバゾール構造を含むことがより好ましい。上記芳香族アミン構造は、アニリン構造であってもよいが、トリアリールアミン構造が好ましく、トリフェニルアミン構造がより好ましい。
【0075】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは3価以上の構造単位B1及びB2の少なくとも一方を含み、3方向以上に分岐した構造を有することが好ましい。このような実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、3価以上の構造単位B1を含むか、上記構造単位B2に加えて構造単位L1及び/又はT1を更に有することによって、ポリマー内にN−アリールフェノキサジン骨格を導入することができる。
【0076】
本明細書において「3方向以上に分岐した構造」とは、電荷輸送性ポリマー1分子中の種々の鎖の中で、最も重合度の大きくなる鎖を主鎖とした時に、主鎖に対して重合度が同じか、主鎖よりも重合度の小さい、1以上の側鎖が存在することを意味する。上記「重合度」とは、電荷輸送性ポリマーを合成する際に用いられるモノマーの単位が、電荷輸送性ポリマー1分子当たりにいくつ含まれるかを表す。また、本明細書において「側鎖」とは、電荷輸送性ポリマーの主鎖とは異なる鎖であり、少なくとも1つ以上の構成単位を有している鎖を意味し、それ以外は側鎖ではなく置換基とみなす。
【0077】
他の実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、上記構造単位L、T、及びBにおける置換基としてN−アリールフェノキサジン骨格を有する構造を含んでもよい。例えば、電荷輸送性ポリマーは、先に構造単位L2として例示した構造における置換基Rとして、N−アリールフェノキサジン骨格を有する1価の構造単位T1を含んでもよい。
【0078】
(構造単位AFの割合)
一実施形態によれば、電荷輸送性ポリマーがN−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位を含むことによって、耐久性及び発光寿命等の性能向上を図ることが容易となる。一実施形態において、優れた耐久性を得る観点から、電荷輸送性ポリマーにおける構造単位AFの割合は、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上が最も好ましい。
一方、電荷輸送性ポリマーの電荷輸送性をより高める観点から、電荷輸送性ポリマーは、構造単位AF以外の電荷輸送性を有する構造単位を更に含むことが好ましい。このような観点から、一実施形態において、全構造単位を基準として、構造単位AFの割合は、90モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましく、70モル%以下であることが更に好ましい。
【0079】
したがって、一実施形態において、電荷輸送性ポリマーにおける、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFの割合は、全構造単位を基準として、好ましくは1〜90モル%、より好ましくは3〜80モル%、更に好ましくは5〜70モル%の範囲である。上記構造単位AFの割合は、電荷輸送性材料として適度な分子量を有する電荷輸送性ポリマーが得られる点でも好ましい。ここで、上記構造単位AFの割合は、ポリマーを構成する構造単位L1、T1、及びB1の少なくとも1つの合計量を意味する。
【0080】
(構造単位L、T及びBの割合)
電荷輸送性ポリマーにおいて、2価の構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
ここで、上記構造単位Lは、構造単位L1と、その他の構造単位L2との任意の組合せを意味する。一実施形態において、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFによる効果を発現させる観点から、L1及びL2の合計量に対する構造単位L1の割合は、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上が更に好ましい。
【0081】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
ここで、上記構造単位Tは、構造単位T1と、その他の構造単位T2との任意の組合せを意味する。一実施形態において、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFによる効果を発現させる観点から、T1及びT2の合計量に対する構造単位T1の割合は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上である。
【0082】
電荷輸送性ポリマーにおいて3価以上の構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
ここで、上記構造単位Bは、構造単位B1と、その他の構造単位B2との任意の組合せを意味する。一実施形態において、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位AFによる効果を発現させる観点から、B1及びB2の合計量に対する構造単位B1の割合は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上である。
【0083】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0084】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1〜70が好ましく、100:3〜50がより好ましく、100:5〜30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10〜200:10〜100が好ましく、100:20〜180:20〜90がより好ましく、100:40〜160:30〜80が更に好ましい。
【0085】
ここで、上記構造単位Lは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位L1と、その他の2価の構造単位L2との任意の組合せである。また、上記構造単位Bは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位B1と、その他の3価以上の構造単位B2との任意の組合せである。更に、上記構造単位Tは、N−アリールフェノキサジン骨格を有する構造単位T1と、その他の1価の構造単位T2との任意の組合せである。ここで、構造単位L1とL2との割合、構造単位T1とT2との割合、構造単位B1とB2との割合は、先に説明した通りであり、一実施形態において電荷輸送性ポリマーは、構造単位L1、B1及びT1の少なくとも1つを含むことを前提とする。
【0086】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値、各構造単位の重量平均分子量等を利用し、算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0087】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0088】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
【0089】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0090】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0091】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0092】
[ドーパント]
電荷輸送性材料を使用して有機エレクトロニクス素子を構成する場合、電荷輸送性材料は、更に、有機エレクトロニクス材料として周知の添加剤を含んでもよい。一実施形態において、電荷輸送性材料は、ドーパントを更に含有してもよい。ドーパントは、電荷輸送性材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得るものであればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。電荷輸送性材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0093】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl
3、PF
5、AsF
5、SbF
5、BF
5、BCl
3、BBr
3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO
5、H
2SO
4、HClO
4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1−ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl
4、ZrCl
4、HfCl
4、NbF
5、AlCl
3、NbCl
5、TaCl
5、MoF
5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF
6−(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF
4−(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF
6−(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして上記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl
2、Br
2、I
2、ICl、ICl
3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000−36390号公報、特開2005−75948号公報、特開2003−213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
【0094】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs
2CO
3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0095】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合は、有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0096】
[他の任意成分]
電荷輸送性材料は、電荷輸送性低分子化合物、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0097】
[含有量]
電荷輸送性ポリマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0098】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、電荷輸送性材料の電荷輸送性を向上させる観点から、電荷輸送性材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、電荷輸送性材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0099】
<インク組成物>
一実施形態において、インク組成物は、上記実施形態の電荷輸送性材料と該材料を溶解又は分散し得る溶媒とを含有する。インク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成できる。
【0100】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0101】
[重合開始剤]
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、インク組成物は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、上記イオン化合物が挙げられる。
【0102】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0103】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0104】
<有機層>
一実施形態において、有機層は、上記実施形態の電荷輸送性材料又はインク組成物を用いて形成された層である。インク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよい。
【0105】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0106】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0107】
<有機エレクトロニクス素子>
一実施形態において、有機エレクトロニクス素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。
【0108】
[有機EL素子]
一実施形態において、有機EL素子は、少なくとも上記実施形態の有機層を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。一実施形態において、有機層の形成は、先に説明したインク組成物を使用し、塗布法に従って良好に実施することができる。
【0109】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。一実施形態において、正孔注入層3及び正孔輸送層6の少なくとも一方は、上記実施形態の有機層から構成することが好ましい。以下、有機EL素子を構成する各層についてより具体的に説明する。
【0110】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0111】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0112】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジネート−N,C
2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)
3(ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)
2Ir(acac)(ビス〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C
3〕イリジウム(アセチル−アセトネート))、Ir(piq)
3(トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0113】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル)、mCP(1,3−ビス(9−カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、上記実施形態の電荷輸送性材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0114】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009); Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011); Chem. Comm., 48, 9580 (2012); Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012); J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012); Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013); J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013); Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013); Chem. Comm., 49, 10385 (2013); Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0115】
[正孔輸送層、正孔注入層]
正孔輸送層及び正孔注入層からなる群から選択される少なくとも1つを構成する材料として、上記実施形態の電荷輸送性材料が挙げられる。一実施形態において、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方は、上記実施形態の電荷輸送性材料から構成されることが好ましく、少なくとも正孔注入層が上記実施形態の電荷輸送性材料から構成されることがより好ましい。例えば、有機EL素子が、上記電荷輸送性材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。また、例えば、有機EL素子が、上記電荷輸送性材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、更に正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。
正孔注入層及び正孔輸送層に用いることができる公知の材料として、例えば、(芳香族アミン系化合物(例えば、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α-NPD)などの芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、チオフェン系導電性ポリマー(例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4−スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等)等が挙げられる。
【0116】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。また、上記実施形態の電荷輸送性材料を使用することもできる。
【0117】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0118】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0119】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、光透過性の樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0120】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0121】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0122】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されるものではない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0123】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0124】
<表示素子、照明装置、表示装置>
一実施形態において、表示素子は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0125】
また、一実施形態において、照明装置は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。更に、一実施形態において、表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして上記実施形態の照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置を構成することができる。
【0126】
(実施例)
以下、実施例に沿って本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
<1>電荷輸送性ポリマーの調製
(Pd触媒の調製)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15mL)を加え、30分間撹拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5mL)を加え、5分間撹拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間撹拌し、触媒の溶液を得た。なお、触媒の調製において、全ての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0128】
(調製例1)電荷輸送性ポリマー1
三口丸底フラスコに、下記モノマー1(4.0mmol)、下記モノマー2(5.0mmol)、下記モノマー3(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、更に、別途調製したPd触媒の溶液(7.5mL)を加え、攪拌した。30分撹拌した後、上記フラスコ内に、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間にわたって、加熱及び還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、全ての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0130】
反応終了後、有機層を水洗した。次いで、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。洗浄後の沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過した後、トルエンに溶解し、Triphenylphosphine,polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer(Strem Chemicals社、ポリマー100mgに対して200mg、以下「金属吸着剤」という。)を加えて、一晩撹拌した。
撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物をろ過によって取り除き、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液をトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3)から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−アセトン(8:3)で洗浄した。
得られた沈殿を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1を得た。
得られた電荷輸送性ポリマー1の数平均分子量は7,800であり、重量平均分子量は31,000であった。電荷輸送性ポリマー1は、3価以上の構造単位B2(モノマー3に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー1に由来する)を含み、各構造単位の割合は、順に、18.2%、45.5%、36.4%であった。
【0131】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ :L−6050 (株)日立ハイテクノロジーズ
UV−Vis検出器:L−3000 (株)日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack(登録商標) GL−A160S/GL−A150S 日立化成(株)
溶離液 :THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業(株)
流速 :1mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0132】
(調製例2)電荷輸送性ポリマー2
三口丸底フラスコに、調製例1に記載のモノマー2(5.0mmol)及びモノマー3(2.0mmol)と、下記モノマー4(4.0mmol)と、アニソール(20mL)とを加え、更に別途調製したPd触媒の溶液(7.5mL)を加え、攪拌した。以降は、調製例1に記載の方法と同様にして、電荷輸送性ポリマー2を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー2の数平均分子量は22,900であり、重量平均分子量は169,000であった。電荷輸送性ポリマー2は、3価以上の構造単位B2(モノマー3に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)を含み、各構造単位の割合は、順に、18.2%、45.5%、36.4%であった。
【0134】
(調製例3)電荷輸送性ポリマー3
三口丸底フラスコに、調製例1に記載のモノマー2(5.0mmol)及び調製例2に記載のモノマー4(4.0mmol)と、下記モノマー5(2.0mmol)と、アニソール(20mL)とを加え、更に別途調製したPd触媒の溶液(7.5mL)を加え、攪拌した。以降は、調製例1に記載の方法と同様にして、電荷輸送性ポリマー3を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー3の数平均分子量は6,300であり、重量平均分子量は50,600であった。電荷輸送性ポリマー3は、3価の構造単位B1(モノマー5に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)を含み、各構造単位の割合は、順に、18.2%、45.5%、36.4%であった。
【0136】
(調製例4)電荷輸送性ポリマー4
モノマー2の代わりに下記モノマー6を使用したこと以外は調製例3と同様の方法で、電荷輸送性ポリマー4を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー4の数平均分子量は4,300であり、重量平均分子量は30,900であった。電荷輸送性ポリマー4は、3価の構造単位B1(モノマー5に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー6に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)を含み、各構造単位の割合は、順に、18.2%、45.5%、36.4%であった。
【0138】
(調製例5)電荷輸送性ポリマー5
モノマー4(4.0mmol)をモノマー4(2.0mmol)とモノマー1(2.0mmol)に変更したこと以外は調製例3と同様の方法で、電荷輸送性ポリマー5を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー5の数平均分子量は6,500であり、重量平均分子量は55,900であった。電荷輸送性ポリマー5は、3価の構造単位B1(モノマー5に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)、重合性置換基を有する1価の構造単位T2(モノマー1に由来する)を含み、各構造単位の割合は、順に、18.2%、45.5%、18.2%、18.2%であった。
【0139】
(調製例6)電荷輸送性ポリマー6
三口丸底フラスコに、調製例1に記載のモノマー2(5.0mmol)及び調製例2に記載のモノマー4(2.0mmol)と、下記モノマー7(4.0mmol)と、アニソール(20mL)とを加え、更に別途調製したPd触媒の溶液(7.5mL)を加え、攪拌した。以降は、調製例1に記載の方法と同様にして、電荷輸送性ポリマー6を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー6の数平均分子量は5,500であり、重量平均分子量は8,700であった。電荷輸送性ポリマー6は、2価の構造単位L1(モノマー7に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)を含み、各構造単位の割合は、36.4%、45.5%、18.2%であった。
【0141】
(調製例7)電荷輸送性ポリマー7
モノマー5(2.0mmol)をモノマー5(0.75mmol)とモノマー7(2.3mmol)に変更し、モノマー2とモノマー4を各々4.5mmol、2.3mmol用いたこと以外は調製例3と同様の方法で、電荷輸送性ポリマー7を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー7の数平均分子量は6,300であり、重量平均分子量は47,200であった。電荷輸送性ポリマー7は、3価の構造単位B1(モノマー5に由来する)、2価の構造単位L1(モノマー7に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4)を含み、各構造単位の割合は、7.7%、23.1%、46.2%、23.1%であった。
【0142】
(調製例8)電荷輸送性ポリマー8
モノマー5の代わりにモノマー8を使用したこと以外は調製例3と同様の方法で、電荷輸送性ポリマー8を調製した。
得られた電荷輸送性ポリマー8の数平均分子量は5,300であり、重量平均分子量は33,700であった。電荷輸送性ポリマー8は、3価の構造単位B1(モノマー8に由来する)、2価の構造単位L2(モノマー2に由来する)、及び1価の構造単位T2(モノマー4に由来する)を含み、各構造単位の割合は、18.2%、45.5%、36.4%であった。
【0144】
<2−1>有機EL素子の作製
(実施例1)
上記電荷輸送性ポリマーの合成で得た電荷輸送性ポリマー3(10.0mg)、下記イオン性化合物(0.5mg)、及びトルエン(2.3mL)からなるインク組成物1を調製した。窒素雰囲気下で、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、上記インク組成物1を3000min
−1でスピンコートし、次いでホットプレート上で220℃、10分間加熱して、正孔注入層(30nm)を形成した。
【0146】
次に、先に調製した電荷輸送性ポリマー2(20mg)及びトルエン(2.3mL)からなるインク組成物2を調製した。上記操作で得た正孔注入層の上に、インク組成物2を3000min
−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して乾燥させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。
【0147】
上記で得た基板を、真空蒸着機中に移し、上記正孔輸送層上にCBP:Ir(ppy)
3(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq
3(30nm)、LiF(0.8nm)、Al(100nm)の順に蒸着法で成膜し、封止処理を行って有機EL素子を作製した。
【0148】
(実施例2)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、電荷輸送性ポリマー4に変えたインク組成物3を調製した。このインク組成物3を使用して正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0149】
(実施例3)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、電荷輸送性ポリマー5に変えたインク組成物4を調製した。このインク組成物4を使用して正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0150】
(実施例4)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、上記電荷輸送性ポリマー6に変えたインク組成物5を調製した。このインキ組成物5を使用して、正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0151】
(実施例5)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、上記電荷輸送性ポリマー7に変えたインク組成物6を調製した。このインキ組成物6を使用して、正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0152】
(実施例6)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、上記電荷輸送性ポリマー8に変えたインク組成物7を調製した。このインキ組成物7を使用して、正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0153】
(比較例1)
実施例1において、有機EL素子における正孔注入層を形成するために使用したインク組成物1中の電荷輸送性ポリマー3を、電荷輸送性ポリマー1に変えたインク組成物8を調製した。このインク組成物8を使用して正孔注入層を形成したことを除き、全て実施例1と同様にして、有機EL素子を作製した。
【0154】
<2−2>有機EL素子の評価
実施例1〜6及び比較例1で得た有機EL素子に電圧を印加したところ、いずれも緑色発光が確認された。それぞれの素子について、発光輝度1000cd/m
2時の駆動電圧、及び発光効率、初期輝度3000cd/m
2における発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0156】
表1に示したとおり、実施例1〜6の有機EL素子は、比較例1よりも、駆動電圧が低く、また発光効率に優れ、長い発光寿命を示した。すなわち、正孔注入層の構成材料の観点からすれば、電荷輸送性材料として、分子内にN−アリールフェノキサジン骨格を含む構造単位を有する電荷輸送性ポリマーを使用することによって、駆動電圧の低下、発光効率及び発光寿命の向上といった効果が得られることが分かる。
【0157】
以上のように、実施例によって本発明の実施形態の効果を示した。しかし、本発明によれば、実施例で用いた電荷輸送性ポリマーに限らず、本発明の範囲を逸脱しない限り、その他の電荷輸送性ポリマーを用いた場合であっても、同様にして有機エレクトロニクス素子を得ることが可能である。また、得られた有機エレクトロニクス素子において、先の各実施例と同様に、優れた特性を得ることが可能である。