(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0013】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0014】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、を含有し、前記エポキシ樹脂は、1分子中に下記一般式(I)で表される構造単位を2つ以上有し、かつエポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物(以下、特定エポキシ化合物ともいう)を含み、前記硬化剤は、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物(以下、特定硬化剤ともいう)を含む。
【0016】
一般式(I)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。さらに、R
1〜R
4の内の2個〜4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることがより好ましく、4個全てが水素原子であることがさらに好ましい。R
1〜R
4のいずれかが炭素数1〜3のアルキル基である場合は、R
1及びR
4の少なくとも一方が炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。
【0017】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化した状態で優れた破壊靭性と耐熱性とを示す。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
まず、エポキシ樹脂として1分子中に一般式(I)で表される構造単位を2つ以上有し、かつエポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物を用いることで、その他のメソゲン骨格を含有するエポキシ樹脂よりも融点及び粘度を下げることができ、通常の範囲内の硬化条件でも硬化物中にスメクチック構造が形成でき、優れた破壊靱性が達成されると考えられる。
さらに、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物を硬化剤として用いることで、その他の硬化剤を用いる場合に比べ、得られる硬化物中にスメクチック構造がより形成され易く、より優れた破壊靭性が達成されると考えられる。
【0018】
特定エポキシ化合物の分子中における、一般式(I)で表される構造単位はメソゲン骨格の1種である。ここで、メソゲン骨格とは、分子間相互作用の働きにより結晶性又は液晶性を発現し易くするような骨格構造のことを指す。メソゲン骨格として具体的には、ビフェニル骨格、フェニルベンゾエート骨格、アゾベンゼン骨格、スチルベン骨格、これらの誘導体等が挙げられる。
【0019】
分子構造中にメソゲン骨格を有するエポキシ化合物は、硬化して樹脂マトリックスを形成した際に高次構造を形成し易く、硬化物を作製した場合により高い熱伝導率を達成できる傾向にある。ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば、結晶相及び液晶相が相当する。このような高次構造体の存在の有無は、偏光顕微鏡観察によって判断することができる。即ち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。この高次構造体は、通常はエポキシ樹脂組成物の硬化物中に島状に存在してドメイン構造を形成しており、その島の一つが一つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は、一般には共有結合により形成されている。
【0020】
メソゲン構造に由来する規則性の高い高次構造としては、ネマチック構造とスメクチック構造とが挙げられる。ネマチック構造とスメクチック構造はそれぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみを持つ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。メソゲン骨格を有するエポキシ化合物の中でも、一般式(I)で表される構造単位をメソゲン骨格として有するエポキシ化合物は、硬化させるとスメクチック構造を形成しやすい傾向にある。
【0021】
なお、エポキシ樹脂組成物の硬化物中にスメクチック構造が形成されているか否かは、硬化物のX線回折測定を、例えば、株式会社リガク製のX線回折装置を用いて行うことで判断できる。CuKα1線を用い、管電圧40kV、管電流20mA、2θ=2°〜30°の範囲で測定を行うと、樹脂がスメクチック構造を有している硬化物であれば、2θ=2°〜10°の範囲に回折ピークが現れる。
【0022】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、特定エポキシ化合物を含む。特定エポキシ化合物は、1分子中に一般式(I)で表される構造単位を2つ以上有し、かつエポキシ基を2つ以上有するものであれば、その構造は特に制限されない。エポキシ樹脂組成物に含まれる特定エポキシ化合物は、1種のみであっても構造の異なる2種以上の組み合わせであってもよい。
【0023】
特定エポキシ化合物における、1分子中の一般式(I)で表される構造単位の数は、2以上であれば特に制限されない。耐熱性の観点からは、特定エポキシ化合物全体の平均値として5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
耐熱性の観点からは、特定エポキシ化合物は、1分子中の一般式(I)で表される構造単位の数が2である特定エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0024】
本明細書において、1分子中の一般式(I)で表される構造単位の数が2以上である特定エポキシ化合物を「多量体化合物」と称し、多量体化合物の中でも1分子中の一般式(I)で表される構造単位の数が2であるものを「二量体化合物」と称する場合がある。
【0025】
特定エポキシ化合物は、下記一般式(IA)で表される構造単位及び一般式(IB)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つを有する多量体化合物であってよい。
【0027】
一般式(IA)及び一般式(IB)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、R
5はそれぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基を示す。nは0〜4の整数を示す。
【0028】
一般式(IA)及び一般式(IB)におけるR
1〜R
4の具体例は、一般式(I)におけるR
1〜R
4の具体例と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0029】
一般式(IA)及び一般式(IB)中、R
5はそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルキル基を表し、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0030】
一般式(IA)及び一般式(IB)中、nは0〜4の整数を示し、0〜2の整数であることが好ましく、0〜1の整数であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。つまり、一般式(IA)及び一般式(IB)においてR
5を付されたベンゼン環は、2個〜4個の水素原子を有することが好ましく、3個又は4個の水素原子を有することがより好ましく、4個の水素原子を有することがさらに好ましい。
【0031】
特定エポキシ化合物が1分子中に一般式(I)で表される構造単位を2つ含む二量体化合物である場合の構造としては、下記一般式(II−A)〜(II〜C)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。一般式(II−A)〜(II〜C)におけるR
1〜R
5及びnの定義は、一般式(IA)及び一般式(IB)におけるR
1〜R
5及びnの定義と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0033】
一般式(II−A)〜(II〜C)で表される二量体化合物としては、下記一般式(II−A’)〜(II−I’)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種類が挙げられる。一般式(II−A’)〜(II−I’)におけるR
1〜R
5及びnの定義は、一般式(IA)及び一般式(IB)におけるR
1〜R
5及びnの定義と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0037】
取り扱い性の観点からは、特定エポキシ化合物の含有率は、エポキシ樹脂全体の10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。耐熱性の観点からは、エポキシ樹脂全体の80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂組成物が、特定エポキシ化合物として二量体化合物を含む場合、その含有率は特に制限されない。取り扱い性の観点からは、二量体化合物の含有率は、エポキシ樹脂全体の10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。耐熱性の観点からは、二量体化合物の含有率は、エポキシ樹脂全体の60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂組成物は、下記一般式(M)で表される化合物(以下、特定エポキシモノマーとも称する)をエポキシ樹脂として含んでもよい。
【0041】
一般式(M)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。一般式(M)におけるR
1〜R
4の定義は、一般式(I)におけるR
1〜R
4の定義と同様であり、その好ましい範囲も同様である。
【0042】
エポキシ樹脂組成物が特定エポキシモノマーを含む場合、その含有率は特に制限されない。耐熱性の観点からは、特定エポキシモノマーの含有率は、エポキシ樹脂全体の30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。取り扱い性の観点からは、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂組成物は、特定エポキシ化合物及び特定エポキシモノマー以外のその他のエポキシ樹脂成分をエポキシ樹脂として含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物がその他のエポキシ樹脂成分を含む場合、その含有率は15質量%未満であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましく、実質的にその他のエポキシ樹脂成分を含まないことが特に好ましい。
【0044】
本実施形態においてエポキシ樹脂中の特定エポキシ化合物、特定エポキシモノマー及びその他のエポキシ樹脂成分の含有率は、逆相クロマトグラフィー(Reversed Phase Liquid Chromatography、RPLC)により測定する。RPLC測定は、分析用RPLCカラムとして関東化学株式会社の「Mightysil RP−18」を使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/水=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)に連続的に変化させて行う。また、流速を1.0ml/minとする。本明細書では、280nmの波長における吸光度を検出し、検出された全てのピークの総面積を100とし、それぞれ該当するピークにおける面積の比率を求め、その値をエポキシ樹脂全体における各化合物の含有率[質量%]とする。
【0045】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に制限されない。エポキシ樹脂組成物の流動性と硬化物の熱伝導率を両立する観点からは、245g/eq〜500g/eqであることが好ましく、250g/eq〜450g/eqであることがより好ましく、260g/eq〜400g/eqであることがさらに好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が245g/eq以上であれば、エポキシ樹脂の結晶性が高くなりすぎないためエポキシ樹脂組成物の流動性が低下しにくい傾向にある。一方、エポキシ樹脂のエポキシ当量が300g/eq以下であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が低下しにくいため、成形物の熱伝導率が高くなる傾向にある。本実施形態において、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、過塩素酸滴定法により測定する。
【0046】
エポキシ樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定における数平均分子量(Mn)は、エポキシ樹脂組成物の流動性と硬化物の熱伝導率を両立する観点からは、400〜1400であることが好ましく、450〜1300であることがより好ましく、500〜1200であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂のMnが400以上であれば、エポキシ樹脂の結晶性が高くなりすぎないためエポキシ樹脂組成物の流動性が低下しにくい傾向にある。エポキシ樹脂のMnが800以下であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が低下しにくいため、硬化物の熱伝導率が高くなる傾向にある。
【0047】
本明細書におけるGPC測定は、分析用GPCカラムとして東ソー株式会社の「G2000HXL」及び「3000HXL」を使用し、移動相にはテトラヒドロフランを用い、試料濃度を0.2質量%とし、流速を1.0ml/minとして測定を行う。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、ポリスチレン換算値でMnを計算する。
【0048】
特定エポキシ化合物の合成方法は、特に制限されない。例えば、特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、を反応させて合成してもよい。このとき、両化合物の種類、配合比等の条件を制御することによって、所望の構造を有する特定エポキシ化合物を得ることができる。
【0049】
具体的には、例えば、特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを溶媒中に溶解し、加熱しながら撹拌して特定エポキシ化合物を合成することができる。または、溶媒を使用せずに特定エポキシモノマーを溶融して反応させる方法で合成してもよい。安全性の観点からは、特定エポキシモノマーが溶融する温度まで高温にする必要のない溶媒を使用する方法が好ましい。
【0050】
溶媒は、特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物とを溶解でき、かつ両化合物が反応するのに必要な温度にまで加温できる溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0051】
溶媒の量は、特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、必要に応じて用いる反応触媒とを反応温度において溶解できる量であれば特に制限されない。反応前の原料の種類、溶媒の種類等によって溶解性が異なるものの、仕込み固形分濃度が例えば20質量%〜60質量%となる量であれば、反応後の溶液の粘度が好ましい範囲となる傾向にある。
【0052】
特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物は、特に制限されない。硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物は、2つの水酸基がベンゼン環に結合した構造を有する化合物(以下、2価フェノール化合物とも称する)であることが好ましい。
【0053】
特定エポキシモノマーのエポキシ基と2価フェノール化合物の水酸基とを反応させることで、一般式(IA)で表される構造単位及び一般式(IB)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つを有する化合物を合成することができる。
【0054】
2価フェノール化合物としては、カテコール(ベンゼン環上の2つの水酸基がオルト位の位置関係にある)、レゾルシノール(ベンゼン環上の2つの水酸基がメタ位の位置関係にある)、ヒドロキノン(ベンゼン環上の2つの水酸基がパラ位の位置関係にある)、及びこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、カテコール、レゾルシノール又はヒドロキノンのベンゼン環に炭素数1〜8のアルキル基等の置換基をさらに有する化合物が挙げられる。
【0055】
硬化物中におけるスメクチック構造の形成し易さの観点からは、2価フェノール化合物としては、カテコール、レゾルシノール及びヒドロキノンが好ましく、ヒドロキノンがより好ましい。ヒドロキノンはベンゼン環上の2つの水酸基がパラ位の位置関係となっているため、これを特定エポキシモノマーと反応させて得られる特定エポキシ化合物は直線構造となり易い。このため、分子のスタッキング性が高く、硬化物中にスメクチック構造を形成し易いと考えられる。2価フェノール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
反応触媒の種類は特に限定されず、反応速度、反応温度、貯蔵安定性等の観点から適切なものを選択できる。具体的には、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。反応触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
硬化物の耐熱性の観点からは、反応触媒としては有機リン化合物が好ましい。
有機リン化合物の好ましい例としては、有機ホスフィン化合物、有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体などが挙げられる。
【0058】
有機ホスフィン化合物として具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0059】
キノン化合物として具体的には、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等が挙げられる。
【0060】
有機ボロン化合物として具体的には、テトラフェニルボレート、テトラ−p−トリルボレート、テトラ−n−ブチルボレート等が挙げられる。
【0061】
反応触媒の量は特に制限されない。反応速度及び貯蔵安定性の観点からは、特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物との合計質量100質量部に対し、0.1質量部〜1.5質量部であることが好ましく、0.2質量部〜1質量部であることがより好ましい。
【0062】
特定エポキシモノマーを用いて特定エポキシ化合物を合成する場合、特定エポキシモノマーのすべてが反応して特定エポキシ化合物となっていても、特定エポキシモノマーの一部が反応せずにモノマーの状態で残存していてもよい。
【0063】
特定エポキシ化合物は、少量スケールであればフラスコ(例えば、ガラス製)、大量スケールであれば合成釜(例えば、ステンレス製)等の反応容器を使用して合成できる。具体的な合成方法は、例えば以下の通りである。
まず、特定エポキシモノマーを反応容器に投入し、溶媒を入れ、オイルバス又は熱媒により反応温度まで加温し、特定エポキシモノマーを溶解する。そこに特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物(例えば、2価フェノール化合物)を投入し、溶媒中に溶解したことを確認した後に反応触媒を投入し、反応を開始する。所定時間の後に反応溶液を取り出して、特定エポキシ化合物を含む溶液が得られる。さらには、反応容器内において、加温条件のもと減圧下で特定エポキシ化合物を含む溶液から溶媒を留去することで、室温(25℃)下で固体の特定エポキシ化合物が得られる。
【0064】
反応温度は、反応触媒の存在下でエポキシ基と、エポキシ基と反応しうる官能基(例えば、フェノール性水酸基)との反応が進行する温度であれば特に制限されず、例えば100℃〜180℃の範囲であることが好ましく、100℃〜150℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることで、反応が完結するまでの時間をより短くできる傾向にある。一方、反応温度を180℃以下とすることで、ゲル化する可能性を低減できる傾向にある。
【0065】
特定エポキシ化合物の合成に用いる特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基(例えば、フェノール性水酸基)を有する化合物の配合比は特に制限されない。例えば、エポキシ基の当量数(A)と、エポキシ基と反応しうる官能基の当量数(B)との比率(A/B)が100/100〜100/1の範囲となる配合比としてもよい。硬化物の破壊靭性及び耐熱性の観点からは、A/Bが100/50〜100/1の範囲となる配合比が好ましい。
【0066】
特定エポキシ化合物の構造は、例えば、合成に使用した特定エポキシモノマーと、特定エポキシモノマーのエポキシ基と反応しうる官能基を有する化合物と、の反応より得られると推定される化合物の分子量と、UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施される液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量とを照合させることで決定することができる。
【0067】
液体クロマトグラフィーは、例えば、株式会社日立製作所製の「LaChrom II C18」を分析用カラムとして使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行う。また、流速を1.0ml/minとして行う。UVスペクトル検出器では280nmの波長における吸光度を検出し、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出する。
【0068】
(硬化剤)
硬化剤は、特定硬化剤を含む。特定硬化剤は、芳香環に直接結合しているアミノ基を2つ以上有する化合物であれば特に制限されない。エポキシ樹脂組成物に含まれる特定硬化剤は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0069】
特定硬化剤として具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメトキシビフェニル、4,4’−ジアミノフェニルベンゾエート、1,5−ジアミノナフタレン、1,3−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4−ジアミノベンズアニリド、トリメチレン−ビス−4−アミノベンゾアート等が挙げられる。
【0070】
硬化物中にスメクチック構造を形成する観点からは4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4−ジアミノベンズアニリド、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及びトリメチレン−ビス−4−アミノベンゾアートが好ましく、高Tgの硬化物を得る観点からは4,4’−ジアミノジフェニルスルホン及び4,4−ジアミノベンズアニリドがより好ましい。
【0071】
エポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量は特に制限されない。硬化反応の効率性の観点からは、エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の活性水素の当量(アミン当量)と、エポキシ樹脂のエポキシ当量との比(アミン当量/エポキシ当量)が0.3〜3.0となる量であることが好ましく、0.5〜2.0となる量であることがより好ましい。
【0072】
(その他の成分)
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてエポキシ樹脂と硬化剤以外のその他の成分を含んでもよい。例えば、硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒の具体例としては、特定エポキシ化合物の合成に使用しうる反応触媒として例示した化合物が挙げられる。
【0073】
<硬化物及び複合材料>
本実施形態の硬化物は、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。本実施形態の硬化物は、破壊靱性と耐熱性の両方に優れている。従って、破壊靱性と耐熱性の両方が高い水準で求められる分野に用いる硬化物として好適である。
【0074】
本実施形態の複合材料は、本実施形態のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化材と、を含む。複合材料に含まれる強化材の材質は特に制限されず、複合材料の用途等に応じて選択できる。強化材として具体的には、炭素材料、ガラス、芳香族ポリアミド系樹脂(例えば、ケブラー(登録商標))、超高分子量ポリエチレン、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、マイカ、シリコン等が挙げられる。強化材の形状は特に制限されず、繊維状、粒子状(フィラー)等が挙げられる。複合材料の強度の観点からは、強化材は炭素材料であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。複合材料に含まれる強化材は、1種でも2種以上であってもよい。
【0075】
本実施形態の複合材料は、本実施形態の硬化物を含むため、破壊靱性と耐熱性の両方に優れている。従って、破壊靱性と耐熱性の両方が高い水準で求められる航空機、宇宙船等の分野に用いるFRPとして好適である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0077】
<樹脂1の合成法>
500mLの三口フラスコに、特定エポキシモノマーとして下記式で表される化合物(4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート)を50g(0.118mol)量り取り、そこにプロピレングリコールモノメチルエーテルを80g添加した。三口フラスコに冷却管及び窒素導入管を設置し、溶媒に漬かるように撹拌羽を取り付けた。この三口フラスコを120℃のオイルバスに浸漬し、撹拌を開始した。エポキシモノマーが溶解し、透明な溶液になったことを確認した後、エポキシ基とヒドロキノン由来のフェノール性水酸基の当量比(A/B)が100/13となるように2価フェノール化合物としてヒドロキノン(和光純薬工業株式会社製、水酸基当量:55g/eq)を添加し、さらに反応触媒としてトリフェニルホスフィンを0.5g添加し、120℃のオイルバス温度で加熱を継続した。5時間加熱を継続した後に、反応溶液からプロピレングリコールモノメチルエーテルを減圧留去し、残渣を室温(25℃)まで冷却することにより、上記化合物の一部がプレポリマー化された樹脂1を得た。
【0078】
【化9】
【0079】
UV及びマススペクトル検出器を備える液体クロマトグラフを用いて実施された液体クロマトグラフィーにより求めた目的化合物の分子量を照合させることにより、特定エポキシ化合物として下記構造(エポキシモノマーの二量体化合物に相当)で表される化合物少なくとも1つが樹脂1に含まれていることを確認した。
【0080】
具体的には、液体クロマトグラフィーは、分析用カラムとして株式会社日立製作所「LaChrom II C18」を使用し、グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/10mmol/l酢酸アンモニウム水溶液=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)と連続的に変化させて測定を行った。流速を1.0ml/minとして行った。UVスペクトル検出器では、280nmの波長における吸光度を検出し、このとき、下記構造で表される化合物の少なくとも1つは17.4分の位置に、また、エポキシ樹脂モノマーは14.9分の位置にピークが見られた。また、マススペクトル検出器ではイオン化電圧を2700Vとして検出した。その結果、下記構造で表される化合物の少なくとも1つの分子量はプロトンが一つ付加した状態で959であった。
【0081】
【化10】
【0082】
樹脂1の固形分量は加熱減量法により測定した。具体的には、試料をアルミ製カップに1.0g〜1.1g量り取り、180℃の温度に設定した乾燥機内に30分間放置した後の計測量と加熱前の計測量とに基づき、次式により算出した。その結果、99.6%であった。
固形分量(%)=(30分間放置した後の計測量/加熱前の計測量)×100
【0083】
樹脂1のエポキシ当量を過塩素酸滴定法により測定したところ、275g/eqであった。
【0084】
樹脂1に含まれる、エポキシ樹脂全体に占める上記構造からなる二量体化合物及び未反応の特定エポキシモノマーの含有率を、逆相クロマトグラフィー(RPLC)によって測定した。分析用RPLCカラムとしては、関東化学株式会社製Mightysil RP−18を使用した。グラジエント法を用いて、溶離液の混合比(体積基準)をアセトニトリル/テトラヒドロフラン/水=20/5/75からアセトニトリル/テトラヒドロフラン=80/20(開始から20分)を経てアセトニトリル/テトラヒドロフラン=50/50(開始から35分)に連続的に変化させて測定を行った。流速は1.0ml/minとした。280nmの波長における吸光度を検出した。検出された全てのピークの総面積を100としたときに二量体化合物と特定エポキシモノマーに該当するピークにおける面積の比率から求められる含有率は、二量体化合物が20質量%であり、特定エポキシモノマーが66質量%であった。
【0085】
<実施例1>
樹脂1:81.3質量部と、硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルスルホン:18.7質量部をステンレスシャーレに入れ、ホットプレートで180℃に加熱した。ステンレスシャーレ内の樹脂が溶融した後に、180℃で1時間加熱した。常温に冷やした後にステンレスシャーレから樹脂を取り出し、オーブンにて230℃で1時間加熱して硬化を完了させた。硬化物を3.75mm×7.5mm×33mmの直方体に切り出し、破壊靱性評価用の試験片を作製した。さらに、硬化物を2mm×0.5mm×40mmの短冊状に切り出し、ガラス転移温度評価用の試験片を作製した。
【0086】
<実施例2>
樹脂1:91.6質量部と、硬化剤としてm−フェニレンジアミン:8.4質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0087】
<実施例3>
樹脂1:91.6質量部と、硬化剤としてp−フェニレンジアミン:8.4質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0088】
<実施例4>
樹脂1:92.9質量部と、硬化剤として4,4−ジアミノベンズアニリド:7.1質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0089】
<実施例5>
樹脂1:87.2質量部と、硬化剤として1,5−ジアミノナフタレン:12.8質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0090】
<実施例6>
樹脂1:84.5質量部と、硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルメタン:15.5質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0091】
<実施例7>
樹脂1:77.8質量部と、硬化剤としてトリメチレン−ビス−4−アミノベンゾアート:22.2質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0092】
<比較例1>
エポキシ樹脂(YL6121H、三菱化学株式会社製):73.8質量部と、硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルスルホン:26.2質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0093】
<比較例2>
エポキシ樹脂(YL980、三菱化学株式会社製):75.0質量部と、硬化剤として4,4’−ジアミノジフェニルスルホン:25.0質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0094】
<比較例3>
樹脂1:86.5質量部と、硬化剤としてスルファニルアミド:13.5質量部を使用した以外は実施例1と同様にして、試験片を作製した。
【0095】
[スメクチック構造の確認]
実施例1〜8、比較例1〜4の試験片について、X線回折測定(株式会社リガク製のX線回折装置を使用)することにより、液晶構造の形成を確認した。試験条件は、CuKα1線を用い、管電圧50kV、管電流300mA、走査速度を1°/分、2θ=2°〜30°の範囲で行った。
【0096】
[破壊靱性値の測定]
試験片の破壊靱性を示す指標として、破壊靱性値を用いた。試験片の破壊靱性値は、ASTM D5045に基づいて3点曲げ測定を行って算出した。評価装置としてはインストロン5948(インストロン社製)を用いた。
【0097】
[耐熱性の評価]
試験片の耐熱性を示す指標として、ガラス転移温度を用いた。試験片のガラス転移温度は、引張りモードによる動的粘弾性測定を行って算出した。測定条件は、振動数:10Hz、昇温速度:5℃/min、歪み:0.1%とした。得られたtanδチャートのピークをガラス転移温度とみなした。評価装置としてはRSA−G2(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いた。
【0098】
各試験片の液晶構造(スメクチック構造形成の有無)と、破壊靱性値及びガラス転移温度の測定結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、特定エポキシ化合物と、特定硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物を用いた実施例では硬化物中にスメクチック構造が形成され、破壊靱性値とガラス転移温度がともに高かった。
特定エポキシ化合物を含まないエポキシ樹脂組成物を用いた比較例1、2では、硬化物中にスメクチック構造が形成されておらず、破壊靱性値が実施例よりも低かった。
特定硬化剤の代わりに芳香環に直接結合しているアミノ基の数が1つである化合物を用いた比較例3では、硬化物中にスメクチック構造が形成されておらず、ガラス転移温度が実施例よりも低かった。
【0101】
日本国特許出願第2016−123976号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。