(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものである、請求項1又は2に記載のスラリー。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスラリー。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスラリー。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスラリー。
第一の液と第二の液とを混合して研磨液となるように当該研磨液の構成成分が前記第一の液と前記第二の液とに分けて保存され、前記第一の液が請求項1〜8のいずれか一項に記載のスラリーであり、前記第二の液が添加剤(但し、前記芳香族複素環を有する化合物を除く)と水とを含む、研磨液セット。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものである、請求項10又は11に記載の研磨液。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものである、請求項10〜12のいずれか一項に記載の研磨液。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものである、請求項10〜13のいずれか一項に記載の研磨液。
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものである、請求項10〜14のいずれか一項に記載の研磨液。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を用いたスラリー、及び、当該スラリーを用いて得られた研磨液では、時間経過に伴い砥粒からイオンが放出される場合があることを見出した。このように砥粒からイオンが放出されると、研磨に必要のないイオンがスラリー又は研磨液に混入すること、又は、砥粒自体が変化してしまうことにより、研磨特性が変動する可能性がある。
【0008】
また、砥粒を含むスラリーと、添加剤を含む添加液とを研磨の直前に混合して研磨液を得た後、当該研磨液を用いて研磨を行う場合がある。このとき、スラリー及び添加液が、事前に定められた配合比で混合されていることを連続的に且つ簡便に確かめる方法として、混合後の研磨液の導電率を測定する場合がある。この方法は、スラリー及び添加液の導電率が一定、又は、ほとんど変化しないことを前提としている。しかしながら、前記のように砥粒からイオンが放出されることによりスラリー自体の導電率が変動してしまうと、このような手法を用いることができないため工程管理が難しい。
【0009】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、優れた砥粒の安定性を有する(例えば、導電率の経時変化量が低減した)スラリー、研磨液セット及び研磨液を提供することを目的とする。また、本発明は、前記スラリー、前記研磨液セット又は前記研磨液を用いた基体の研磨方法、及び、当該研磨方法により得られる基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を用いたスラリーについて鋭意検討した結果、芳香族複素環を有する特定の化合物を用いることにより、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の安定性を向上させることに着想した。
【0011】
すなわち、本発明に係るスラリーは、砥粒と、芳香族複素環を有する化合物と、水と、を含有し、前記砥粒が4価金属元素の水酸化物を含み、前記芳香族複素環が、水素原子と結合していない環内窒素原子を有し、Merz−Kollman法(MK法)を用いて得られる前記環内窒素原子の電荷(MK電荷)が−0.45以下である。
【0012】
本発明に係るスラリーによれば、優れた砥粒の安定性が得られる。例えば、本発明に係るスラリーによれば、時間経過に伴い砥粒から放出されるイオンが従来と比較して少ないため、スラリーの導電率の経時変化(すなわち、スラリー中のイオンの含有量の変化)を抑制できる。
【0013】
また、本発明に係るスラリーによれば、当該スラリーに添加剤を加えて得られる研磨液を用いた場合に、添加剤の添加効果を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。さらに、添加剤を加えることなく本発明に係るスラリーを研磨に用いた場合に、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。また、本発明に係るスラリーによれば、砥粒が4価金属元素の水酸化物を含むことにより、研磨傷の発生を抑制することもできる。
【0014】
また、本発明者は、砥粒を特定量含有する水分散液を、特定の遠心加速度で遠心分離したときに得られる液相の不揮発分含量が高い場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できることを見出した。すなわち、本発明に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10
5Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量500ppm以上の液相を与えるものであることが好ましい。なお、「ppm」は、質量ppm、すなわち「parts per million mass」を意味するものとする。
【0015】
さらに、本発明者は、砥粒を特定量含有する水分散液において特定波長の光に対する光透過率が高い場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できることを見出した。すなわち、本発明に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。
【0016】
本発明に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0017】
本発明に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%(65ppm)に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0018】
本発明に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0019】
本発明に係るスラリーにおいて、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素の塩とアルカリ源とを反応させて得られるものであることが好ましい。この場合、粒子径が極めて細かい粒子を得ることができるため、研磨傷の低減効果を更に向上させることができる。
【0020】
本発明に係るスラリーにおいて、4価金属元素は、4価セリウムであることが好ましい。この場合、高い化学的活性が得られるため、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0021】
また、本発明者は、前記スラリーの構成成分に加えて添加剤を含有する研磨液において、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、芳香族複素環を有する特定の化合物とを併用することにより、優れた砥粒の安定性が得られると共に、添加剤の添加に伴い被研磨材料の研磨速度が低下することを抑制できることを見出した。
【0022】
すなわち、本発明に係る研磨液セットは、第一の液と第二の液とを混合して研磨液となるように当該研磨液の構成成分が第一の液と第二の液とに分けて保存され、第一の液が前記スラリーであり、第二の液が添加剤(但し、前記芳香族複素環を有する化合物を除く)と水とを含む。
【0023】
本発明に係る研磨液セットによれば、優れた砥粒の安定性が得られる。例えば、本発明に係る研磨液セットによれば、時間経過に伴い砥粒から放出されるイオンが従来と比較して少ないため、導電率の経時変化(すなわち、イオンの含有量の変化)を抑制できる。
【0024】
また、本発明に係る研磨液セットによれば、添加剤の添加効果を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。さらに、本発明に係る研磨液セットによれば、砥粒が4価金属元素の水酸化物を含むことにより、研磨傷の発生を抑制することもできる。
【0025】
本発明に係る研磨液は、砥粒と、芳香族複素環を有する化合物と、添加剤(但し、前記芳香族複素環を有する化合物を除く)と、水と、を含有し、前記砥粒が4価金属元素の水酸化物を含み、前記芳香族複素環が、水素原子と結合していない環内窒素原子を有し、Merz−Kollman法を用いて得られる前記環内窒素原子の電荷が−0.45以下である。
【0026】
本発明に係る研磨液によれば、優れた砥粒の安定性が得られる。例えば、本発明に係る研磨液によれば、時間経過に伴い砥粒から放出されるイオンが従来と比較して少ないため、研磨液の導電率の経時変化(すなわち、研磨液中のイオンの含有量の変化)を抑制できる。
【0027】
また、本発明に係る研磨液によれば、添加剤の添加効果を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。さらに、本発明に係る研磨液によれば、砥粒が4価金属元素の水酸化物を含むことにより、研磨傷の発生を抑制することもできる。
【0028】
また、本発明者は、砥粒を特定量含有する水分散液を特定の遠心加速度で遠心分離したときに得られる液相の不揮発分含量が高い場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できることを見出した。すなわち、本発明に係る研磨液において、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10
5Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量500ppm以上の液相を与えるものであることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明者は、砥粒を特定量含有する水分散液において特定波長の光に対する光透過率が高い場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できることを見出した。すなわち、本発明に係る研磨液において、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。
【0030】
本発明に係る研磨液において、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0031】
本発明に係る研磨液において、砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%(65ppm)に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0032】
本発明に係る研磨液において、砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。この場合、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0033】
本発明に係る研磨液において、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素の塩とアルカリ源とを反応させて得られるものであることが好ましい。この場合、粒子径が極めて細かい粒子を得ることができるため、研磨傷の低減効果を更に向上させることができる。
【0034】
本発明に係る研磨液において、4価金属元素は、4価セリウムであることが好ましい。この場合、高い化学的活性が得られるため、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0035】
また、本発明は、前記スラリー、前記研磨液セット又は前記研磨液を用いた基体の研磨方法を提供する。これらの研磨方法によれば、優れた砥粒の安定性が得られると共に、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。また、これらの研磨方法によれば、研磨傷の発生を抑制できると共に、平坦性に優れた基体を得ることもできる。
【0036】
本発明に係る研磨方法の第一実施形態は、前記スラリーを用いる研磨方法に関する。すなわち、第一実施形態に係る研磨方法は、表面に被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨パッドに対向するように配置する工程と、研磨パッドと被研磨材料との間に前記スラリーを供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する工程と、を有する。
【0037】
本発明に係る研磨方法の第二及び第三実施形態は、前記研磨液セットを用いる研磨方法に関する。このような研磨方法によれば、添加剤を混合した後に長時間保存される場合に懸念される、砥粒の凝集、研磨特性の変化等の問題を回避することもできる。
【0038】
すなわち、第二実施形態に係る研磨方法は、表面に被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨パッドに対向するように配置する工程と、前記研磨液セットにおける第一の液と第二の液とを混合して研磨液を得る工程と、研磨パッドと被研磨材料との間に研磨液を供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する工程と、を有する。第三実施形態に係る研磨方法は、表面に被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨パッドに対向するように配置する工程と、前記研磨液セットにおける第一の液と第二の液とをそれぞれ研磨パッドと被研磨材料との間に供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する工程と、を有する。
【0039】
本発明に係る研磨方法の第四実施形態は、前記研磨液を用いる研磨方法に関する。すなわち、第四実施形態に係る研磨方法は、表面に被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨パッドに対向するように配置する工程と、研磨パッドと被研磨材料との間に前記研磨液を供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する工程と、を有する。
【0040】
被研磨材料は、酸化ケイ素を含むことが好ましい。また、被研磨材料の表面が凹凸を有することが好ましい。これらの研磨方法によれば、前記スラリー、研磨液セット及び研磨液の特長を充分に活かすことができる。
【0041】
本発明に係る基体は、前記研磨方法により研磨されたものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るスラリーによれば、優れた砥粒の安定性が得られると共に、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。本発明に係る研磨液セット及び研磨液によれば、優れた砥粒の安定性が得られると共に、添加剤の添加効果を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。本発明に係る研磨方法によれば、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できるためスループットに優れると共に、添加剤を用いる場合には所望の特性(例えば平坦性、選択性)を満たすことができる。本発明は、絶縁材料(例えば酸化ケイ素を含む絶縁材料)に対して特に優れた研磨速度を得ることができるため、絶縁材料を有する基体を研磨する用途に特に適している。
【0043】
さらに、本発明によれば、絶縁材料(例えば酸化ケイ素を含む絶縁材料)の研磨への前記スラリー、研磨液セット及び研磨液の応用が提供される。また、本発明によれば、半導体素子の製造工程における基体表面の平坦化工程への前記スラリー、研磨液セット及び研磨液の応用が提供される。特に、本発明によれば、シャロートレンチ分離絶縁材料、プリメタル絶縁材料、層間絶縁材料等の平坦化工程への前記スラリー、研磨液セット及び研磨液の応用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。なお、本明細書において、「スラリー」及び「研磨液」とは、研磨時に被研磨材料に触れる組成物である。また、砥粒の含有量を所定量に調整した「水分散液」とは、所定量の砥粒と水とを含む液を意味する。
【0046】
本実施形態においては、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、芳香族複素環を有する化合物とを併用し、芳香族複素環が、水素原子と結合していない環内窒素原子を有し、Merz−Kollman法(MK法)を用いて得られる前記環内窒素原子の電荷(MK電荷)が−0.45以下であることにより、優れた砥粒の安定性が得られると共に、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0047】
前記効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように推測している。芳香族複素環が、水素原子と結合していない環内窒素原子を有し、環内窒素原子のMK電荷が−0.45以下である場合、芳香族複素環を有する化合物における環内窒素原子の非共有電子対及びπ電子対の電子密度が高いと考えられる。このため、環内窒素原子と4価金属元素(例えばセリウム)との間に配位結合が形成されて錯体が形成されやすいと考えられる。その結果、芳香族複素環を有する化合物が砥粒中の4価金属元素に結合し、時間の経過に伴い放出されてしまいやすいイオンをあらかじめ脱離させることで、砥粒の安定性、及び、研磨速度等の研磨特性の安定性が向上すると推測される。
【0048】
<研磨液>
本実施形態に係る研磨液は、砥粒と、芳香族複素環を有する化合物と、添加剤(但し、前記芳香族複素環を有する化合物を除く)と、水と、を含有する。以下、研磨液の各構成成分について説明する。
【0049】
(砥粒)
本実施形態に係る研磨液は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を含有する。「4価金属元素の水酸化物」は、4価の金属イオン(M
4+)と、少なくとも一つの水酸化物イオン(OH
−)とを含む化合物である。4価金属元素の水酸化物は、水酸化物イオン以外の陰イオン(例えば、硝酸イオンNO
3−、硫酸イオンSO
42−)を含んでいてもよい。例えば、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素に結合した陰イオン(例えば硝酸イオン、硫酸イオン)を含んでいてもよい。
【0050】
4価金属元素は、希土類元素が好ましい。4価を取りうる希土類元素としては、セリウム、プラセオジム、テルビウム等のランタノイドなどが挙げられ、入手が容易であり且つ研磨速度に更に優れる観点から、セリウムが更に好ましい。希土類元素から二種以上を選択して使用することもできる。
【0051】
本実施形態に係る研磨液は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の特性を損なわない範囲で他の種類の砥粒を更に含有していてもよい。具体的には例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、樹脂等を含む砥粒が使用できる。
【0052】
砥粒中における4価金属元素の水酸化物の含有量の下限は、砥粒全質量基準で50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましい。砥粒は、研磨液の調製が容易であると共に研磨特性に更に優れる観点から、前記4価金属元素の水酸化物からなる(実質的に砥粒の100質量%が前記4価金属元素の水酸化物の粒子である)ことが好ましく、化学的活性が高く研磨速度に更に優れる観点から、4価セリウムの水酸化物からなる(実質的に砥粒の100質量%が4価セリウムの水酸化物の粒子である)ことがより好ましい。
【0053】
本実施形態に係る研磨液の構成成分中において、4価金属元素の水酸化物は研磨特性に与える影響が大きいと考えられる。そのため、4価金属元素の水酸化物の含有量を調整することにより、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が向上し、研磨速度を更に向上させることができる。すなわち、4価金属元素の水酸化物の含有量の下限は、4価金属元素の水酸化物の機能を充分に発現しやすい観点から、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。4価金属元素の水酸化物の含有量の上限は、砥粒の凝集を避けることが容易であると共に、被研磨面との化学的な相互作用が良好であり、砥粒の特性を有効に活用できる観点から、研磨液全質量基準で8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0054】
本実施形態に係る研磨液において、砥粒の含有量の下限は、所望の研磨速度が得られやすい観点から、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。砥粒の含有量の上限は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易であると共に、砥粒が効果的に被研磨面に作用して研磨がスムーズに進行する観点から、研磨液全質量基準で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0055】
砥粒の平均二次粒子径(以下、特に断らない限り「平均粒子径」という)がある程度小さい場合、被研磨面に接する砥粒の比表面積が増大することにより研磨速度を更に向上させることができると共に、機械的作用が抑えられて研磨傷を更に低減できる。そのため、平均粒子径の上限は、更に優れた研磨速度が得られると共に研磨傷が更に低減される観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましく、80nm以下が特に好ましく、60nm以下が極めて好ましく、40nm以下が非常に好ましい。平均粒子径の下限は、更に優れた研磨速度が得られると共に研磨傷が更に低減される観点から、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が更に好ましい。
【0056】
砥粒の平均粒子径は、光子相関法で測定できる。具体的には例えば、マルバーンインスツルメンツ社製の装置名:ゼータサイザー3000HS、ベックマンコールター社製の装置名:N5等で平均粒子径を測定できる。N5を用いた測定方法は、具体的には例えば、砥粒の含有量を0.2質量%に調整した水分散液を調製し、この水分散液を1cm角のセルに約4mL(Lは「リットル」を示す。以下同じ)入れ、装置内にセルを設置する。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行うことで得られる値を砥粒の平均粒子径として採用できる。
【0057】
[不揮発分含量]
前記砥粒は、粒度分布計で測定し得る粒子径を有する大粒子と、粒度分布計で測定し得ない粒子径を有する微細粒子とを含有していると考えられる。このような砥粒を水に分散させた水分散液を充分な遠心力を作用させて遠心分離した場合、水分散液は主に沈降物(固相)と上澄み液(液相)とに固液分離し、大粒子は沈降物として沈降し、微細粒子は上澄み液中に浮遊すると考えられる。
【0058】
本発明者は、充分量の砥粒を含有する水分散液を特定の条件(大粒子と微細粒子とを好適に分離可能な遠心力を作用し得る条件)で遠心分離したときに、不揮発分含量の高い上澄み液を与える砥粒を用いることにより、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できることを見出した。すなわち、本実施形態において砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10
5Gで50分遠心分離したときに、不揮発分含量500ppm以上の上澄み液を与えるものであることが好ましい。
【0059】
遠心分離後の上澄み液に含まれる不揮発分含量が高い場合に研磨速度の向上効果が得られる理由について、本発明者は次のように考えている。砥粒を含むスラリー及び研磨液は、一般的に、遠心加速度1.59×10
5Gで50分遠心分離した場合には、ほとんど全ての砥粒が沈降する。しかしながら、本実施形態では、粒子径が充分に小さいため前記条件で遠心分離を行っても沈降しない微細粒子が多く含まれる。すなわち、不揮発分含量が増加するに伴い砥粒中の微細粒子の割合が増加し、被研磨面に接する砥粒の表面積が増大すると考えられる。これにより、化学的作用に起因する研磨の進行が促進され、研磨速度が向上すると考えられる。
【0060】
上澄み液の不揮発分含量の下限は、更に優れた研磨速度が得られる観点から、500ppm以上が好ましく、700ppm以上がより好ましく、800ppm以上が更に好ましい。上澄み液の不揮発分含量の上限は、例えば10000ppmである。
【0061】
前記遠心分離を行う装置としては、チューブが所定の角度で配置されてなるアングルロータ、及び、チューブの角度が可変であり遠心分離中にチューブが水平又はほぼ水平になるスイングロータのいずれも使用できる。
【0062】
図1は、アングルロータの一例を示す模式断面図である。アングルロータARは、回転軸A1を中心として左右対称であり、
図1では、その一方側(図中左側)のみを図示し、他方側(図中右側)を省略している。
図1において、A2はチューブ角であり、R
minは回転軸A1からチューブまでの最小半径であり、R
maxは回転軸A1からチューブまでの最大半径である。R
avは回転軸A1からチューブまでの平均半径であり、「(R
min+R
max)/2」として求められる。
【0063】
このような遠心分離装置において、遠心加速度[単位:G]は下記式(1)から求めることができる。
遠心加速度[G]=1118×R×N
2×10
−8 ・・・(1)
[式中、Rは回転半径(cm)を示し、Nは1分間当たりの回転数(rpm=min
−1)を示す。]
【0064】
本実施形態においては、式(1)中の回転半径Rとして
図1中の平均半径R
avの値を用いて、遠心加速度が1.59×10
5Gとなるように回転数Nを設定して遠心分離を行う。なお、
図1のようなアングルロータに代えてスイングロータを使用する場合は、遠心分離中のチューブの状態から最小半径R
min、最大半径R
max、平均半径R
avをそれぞれ求めて条件を設定する。
【0065】
前記砥粒は、例えば、アングルロータとして日立工機株式会社製の超遠心分離機70P−72を用いて、大粒子と微細粒子とに分離できる。70P−72を用いた水分散液の遠心分離は、具体的には例えば、以下のようにして行うことができる。まず、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を調製し、これを遠沈管(チューブ)に充填した後に遠沈管をロータに設置する。そして、回転数50000min
−1で50分間回転させた後、ロータから遠沈管を取出し、遠沈管内の上澄み液を採取する。上澄み液の不揮発分含量は、採取した上澄み液の質量と、上澄み液を乾燥した後の残留分の質量とを量ることにより算出できる。
【0066】
[光透過率]
本実施形態に係る研磨液は、可視光に対する透明度が高い(目視で透明又は透明に近い)ことが好ましい。具体的には、本実施形態に係る研磨液に含まれる砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。これにより、添加剤の添加に起因する研磨速度の低下を更に抑制できるため、研磨速度を維持しつつ他の特性を得ることが容易である。同様の観点から、前記光透過率の下限は、60%/cm以上がより好ましく、70%/cm以上が更に好ましく、80%/cm以上が特に好ましく、90%/cm以上が極めて好ましく、95%/cm以上が非常に好ましく、98%/cm以上がより一層好ましく、99%/cm以上が更に好ましい。光透過率の上限は100%/cmである。
【0067】
このように砥粒の光透過率を調整することで研磨速度の低下を抑制することが可能な理由は詳しくは分かっていないが、本発明者は以下のように考えている。4価金属元素(セリウム等)の水酸化物を含む砥粒が有する砥粒としての作用は、機械的作用よりも化学的作用の方が優勢であると考えられる。そのため、砥粒の大きさよりも砥粒の数の方が、より研磨速度に寄与すると考えられる。
【0068】
砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が低い場合、その水分散液に存在する砥粒は、粒子径の大きい粒子(以下「粗大粒子」という)が相対的に多く存在すると考えられる。このような砥粒を含む研磨液に添加剤(例えばポリビニルアルコール(PVA))を添加すると、粗大粒子を核として他の粒子が凝集する。その結果として、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が減少し、被研磨面に接する砥粒の比表面積が減少するため、研磨速度が低下すると考えられる。
【0069】
一方、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が高い場合、その水分散液に存在する砥粒は、前記「粗大粒子」が少ない状態であると考えられる。このように粗大粒子の存在量が少ない場合は、研磨液に添加剤(例えばポリビニルアルコール)を添加しても、凝集の核になるような粗大粒子が少ないため、砥粒同士の凝集が抑えられるか、又は、凝集粒子の大きさが相対的に小さい。その結果として、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が維持され、被研磨面に接する砥粒の比表面積が維持されるため、研磨速度が低下し難いと考えられる。
【0070】
本発明者の検討では、一般的な粒径測定装置において測定される砥粒の粒子径が同じ研磨液であっても、目視で透明である(光透過率の高い)もの、及び、目視で濁っている(光透過率の低い)ものがあり得ることがわかった。これにより、前記のような作用を起こし得る粗大粒子は、一般的な粒径測定装置で検知できないほどのごくわずかの量であっても研磨速度の低下に寄与すると考えられる。
【0071】
前記光透過率は、波長500nmの光に対する透過率である。前記光透過率は、分光光度計で測定されるものであり、具体的には例えば、株式会社日立製作所製の分光光度計U3310(装置名)で測定される。
【0072】
より具体的な測定方法としては、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を測定サンプルとして調製する。この測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルをセットし測定を行う。なお、砥粒の含有量が1.0質量%より大きい水分散液において50%/cm以上の光透過率を有する場合は、これを希釈して1.0質量%とした場合も光透過率は50%/cm以上となることが明らかである。そのため、砥粒の含有量が1.0質量%より大きい水分散液を用いることにより、簡便な方法で光透過率をスクリーニングできる。
【0073】
[吸光度]
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものであることにより、研磨速度を更に向上させることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて、例えば、4価の金属イオン(M
4+)、1〜3個の水酸化物イオン(OH
−)及び1〜3個の陰イオン(X
c−)からなるM(OH)
aX
b(式中、a+b×c=4である)を含む粒子が砥粒の一部として生成すると考えられる(なお、このような粒子も「4価金属元素の水酸化物を含む砥粒」である)。M(OH)
aX
bでは、電子吸引性の陰イオン(X
c−)が作用して水酸化物イオンの反応性が向上しており、M(OH)
aX
bの存在量が増加するに伴い研磨速度が向上すると考えられる。そして、M(OH)
aX
bを含む粒子が波長400nmの光を吸光するため、M(OH)
aX
bの存在量が増加して波長400nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い、研磨速度が向上すると考えられる。また、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、例えば、M
d(OH)
aX
b(式中、a+b×c=4dである)のように複核であってもよい。
【0074】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、M(OH)
aX
bだけでなく、M(OH)
4、MO
2等も含み得ると考えられる。陰イオン(X
c−)としては、NO
3−、SO
42−等が挙げられる。
【0075】
なお、砥粒がM(OH)
aX
bを含むことは、砥粒を純水でよく洗浄した後にFT−IR ATR法(Fourier transform Infra-Red Spectrometer Attenuated Total Reflection法、フーリエ変換赤外分光光度計全反射測定法)を用いて陰イオン(X
c−)に該当するピークを検出する方法により確認できる。XPS法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、X線光電子分光法)により、陰イオン(X
c−)の存在を確認することもできる。
【0076】
ここで、M(OH)
aX
b(例えばM(OH)
3X)の波長400nmの吸収ピークは、後述する波長290nmの吸収ピークよりもはるかに小さいことが確認されている。これに対し、本発明者は、砥粒の含有量が比較的多く、吸光度が大きく検出されやすい砥粒含有量1.0質量%の水分散液を用いて吸光度の大きさを検討した結果、当該水分散液において波長400nmの光に対する吸光度1.00以上を与える砥粒を用いる場合に、研磨速度の向上効果に優れることを見出した。なお、前記のとおり波長400nmの光に対する吸光度は砥粒に由来すると考えられるため、波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与える砥粒に代えて、波長400nmの光に対して1.00以上の吸光度を与える物質(例えば黄色を呈する色素成分)を含む研磨液では、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できない。
【0077】
波長400nmの光に対する吸光度の下限は、更に優れた研磨速度が得られる観点から、1.00以上が好ましく、1.20以上がより好ましく、1.40以上が更に好ましく、1.45以上が特に好ましい。波長400nmの光に対する吸光度の上限は、特に制限はないが、例えば10.0以下が好ましい。
【0078】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒が、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものであることにより、研磨速度を更に向上させることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて生成するM(OH)
aX
b(例えばM(OH)
3X)を含む粒子は、計算上、波長290nm付近に吸収のピークを有し、例えばCe
4+(OH
−)
3NO
3−からなる粒子は波長290nmに吸収のピークを有する。そのため、M(OH)
aX
bの存在量が増加して波長290nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い研磨速度が向上すると考えられる。
【0079】
ここで、波長290nm付近の光に対する吸光度は、測定限界を超えるほど大きく検出される傾向がある。これに対し、本発明者は、砥粒の含有量が比較的少なく、吸光度が小さく検出されやすい砥粒含有量0.0065質量%の水分散液を用いて吸光度の大きさを検討した結果、当該水分散液において波長290nmの光に対する吸光度1.000以上を与える砥粒を用いる場合に、研磨速度の向上効果に優れることを見出した。また、本発明者は、吸光物質に吸収されると当該吸光物質が黄色を呈する傾向のある波長400nm付近の光とは別に、波長290nm付近の光に対する砥粒の吸光度が高いほど、このような砥粒を用いた研磨液及びスラリーの黄色味が濃くなることを見出し、研磨液及びスラリーの黄色味が濃くなるほど研磨速度が向上することを見出した。そして、本発明者は、砥粒含有量0.0065質量%の水分散液における波長290nmの光に対する吸光度と、砥粒含有量1.0質量%の水分散液における波長400nmの光に対する吸光度とが相関することを見出した。
【0080】
波長290nmの光に対する吸光度の下限は、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨する観点から、1.000以上が好ましく、1.050以上がより好ましく、1.100以上が更に好ましく、1.150以上が特に好ましく、1.200以上が極めて好ましい。波長290nmの光に対する吸光度の上限は、特に制限はないが、例えば10.000以下が好ましい。
【0081】
波長400nmの光に対する吸光度1.00以上を与える前記砥粒が、砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与える場合には、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる。
【0082】
4価金属元素の水酸化物(例えばM(OH)
aX
b)は、波長450nm以上、特に波長450〜600nmの光を吸光しない傾向がある。従って、不純物を含むことにより研磨に対して悪影響が生じることを抑制して更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨する観点から、砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%(65ppm)に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。すなわち、砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの範囲における全ての光に対する吸光度が0.010を超えないことが好ましい。波長450〜600nmの光に対する吸光度の下限は、0が好ましい。
【0083】
水分散液における吸光度は、例えば、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)を用いて測定できる。具体的には例えば、砥粒の含有量を1.0質量%又は0.0065質量%に調整した水分散液を測定サンプルとして調製する。この測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルを設置する。次に、波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、得られたチャートから吸光度を判断する。
【0084】
砥粒の含有量が1.0質量%より少なくなるよう過度に希釈して波長400nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が1.00以上を示すようであれば、砥粒の含有量を1.0質量%とした場合にも吸光度が1.00以上であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。砥粒の含有量が0.0065質量%より少なくなるよう過度に希釈して波長290nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が1.000以上を示すようであれば、砥粒の含有量を0.0065質量%とした場合にも吸光度が1.000以上であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。砥粒の含有量が0.0065質量%より多くなるように希釈して波長450〜600nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が0.010以下を示すようであれば、砥粒の含有量を0.0065質量%とした場合にも吸光度が0.010以下であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。
【0085】
砥粒が水分散液において与える吸光度及び光透過率は、砥粒以外の固体成分、及び、水以外の液体成分を除去した後、所定の砥粒含有量の水分散液を調製し、当該水分散液を用いて測定できる。固体成分又は液体成分の除去には、研磨液に含まれる成分によっても異なるが、数千G以下の重力加速度をかけられる遠心機を用いた遠心分離、数万G以上の重力加速度をかけられる超遠心機を用いた超遠心分離等の遠心分離法;分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法;自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、限外ろ過等のろ過法;減圧蒸留、常圧蒸留等の蒸留法などを用いることができ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0086】
例えば、重量平均分子量が数万以上(例えば5万以上)の化合物を研磨液が含む場合の方法としては、クロマトグラフィー法、ろ過法等が挙げられ、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外ろ過が好ましい。ろ過法を用いる場合、研磨液に含まれる砥粒は、適切な条件の設定により、フィルタを通過させることができる。重量平均分子量が数万以下(例えば5万未満)の化合物を研磨液が含む場合の方法としては、クロマトグラフィー法、ろ過法、蒸留法等が挙げられ、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外ろ過、減圧蒸留が好ましい。4価金属元素の水酸化物を含む砥粒以外の砥粒が研磨液に含まれる場合の方法としては、ろ過法、遠心分離法等が挙げられ、ろ過の場合はろ液に、遠心分離の場合は液相に、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒がより多く含まれる。
【0087】
クロマトグラフィー法で砥粒を分離する方法としては、例えば、下記条件によって、砥粒を分取する、及び/又は、他成分を分取できる。
試料溶液:研磨液100μL
検出器:株式会社日立製作所製、UV−VISディテクター、商品名「L−4200」、波長:400nm
インテグレーター:株式会社日立製作所製、GPCインテグレーター、商品名「D−2500」
ポンプ:株式会社日立製作所製、商品名「L−7100」
カラム:日立化成株式会社製、水系HPLC用充填カラム、商品名「GL−W550S」
溶離液:脱イオン水
測定温度:23℃
流速:1mL/分(圧力:40〜50kg/cm
2程度)
測定時間:60分
【0088】
なお、クロマトグラフィーを行う前に、脱気装置を用いて溶離液の脱気処理を行うことが好ましい。脱気装置を使用できない場合は、溶離液を事前に超音波等で脱気処理することが好ましい。
【0089】
研磨液に含まれる成分によっては、上記条件でも砥粒を分取できない可能性があるが、その場合、試料溶液量、カラム種類、溶離液種類、測定温度、流速等を最適化することで砥粒を分離できる。また、研磨液のpHを調整することで、研磨液に含まれる成分の留出時間を調整し、砥粒と分離できる可能性がある。研磨液に不溶成分がある場合、必要に応じ、ろ過、遠心分離等で不溶成分を除去することが好ましい。
【0090】
[砥粒の作製方法]
4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素の塩(金属塩)と、アルカリ源(塩基)とを反応させて得られるものであることが好ましい。これにより、粒子径が極めて細かい粒子を得ることができるため、研磨傷の低減効果を更に向上させることができる。4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素の塩とアルカリ液(例えばアルカリ水溶液)とを混合することにより得ることができる。また、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素の塩を含む金属塩溶液(例えば金属塩水溶液)とアルカリ液とを混合することにより得ることができる。4価金属元素の塩としては、金属をMとして示すと、M(NO
3)
4、M(SO
4)
2、M(NH
4)
2(NO
3)
6、M(NH
4)
4(SO
4)
4等が挙げられる。
【0091】
なお、4価金属元素の塩及びアルカリ源の少なくとも一方を液体状態で反応系に供給する場合、混合液を撹拌する手段は限定されるものではなく、回転軸回りに回転する棒状、板状又はプロペラ状の撹拌子又は撹拌羽根を用いて混合液を撹拌する方法;容器の外部から動力を伝達するマグネチックスターラーを用いて、回転する磁界で撹拌子を回転させて混合液を撹拌する方法;槽外に設置したポンプで混合液を撹拌する方法;外気を加圧して槽内に勢いよく吹き込むことで混合液を撹拌する方法等が挙げられる。
【0092】
上澄み液の不揮発分含量、光透過率及び吸光度を調整する手段としては、4価金属元素の水酸化物の製造方法の最適化等が挙げられる。上澄み液の不揮発分含量の調整手段としては、金属塩溶液とアルカリ液とにおける原料濃度の調整、金属塩溶液とアルカリ液との混合速度の調整、混合するときの撹拌速度の調整、混合液の液温の調整等が挙げられる。波長500nmの光に対する光透過率の調整手段としては、金属塩溶液とアルカリ液とにおける原料濃度の調整、金属塩溶液とアルカリ液との混合速度の調整、混合するときの撹拌速度の調整、混合液の液温の調整等が挙げられる。波長400nmの光に対する吸光度及び波長290nmの光に対する吸光度の調整手段としては、金属塩溶液とアルカリ液とにおける原料濃度の調整、金属塩溶液とアルカリ液との混合速度の調整、混合液の液温の調整等が挙げられる。
【0093】
金属塩溶液の金属塩濃度を濃くすることで上澄み液の不揮発分含量が高くなる傾向があり、アルカリ液のアルカリ濃度を薄くすることで上澄み液の不揮発分含量が高くなる傾向がある。金属塩濃度を濃くすることで光透過率が高くなる傾向があり、アルカリ濃度を薄くすることで光透過率が高くなる傾向がある。金属塩溶液の金属塩濃度を濃くすることで吸光度が高くなる傾向があり、アルカリ液のアルカリ濃度を薄くすることで吸光度が高くなる傾向がある。
【0094】
混合速度を遅くすることで上澄み液の不揮発分含量が高くなる傾向があり、混合速度を速くすることで上澄み液の不揮発分含量が低くなる傾向がある。混合速度を遅くすることで光透過率が高くなる傾向があり、混合速度を速くすることで光透過率が低くなる傾向がある。混合速度を遅くすることで吸光度が高くなる傾向があり、混合速度を速くすることで吸光度が低くなる傾向がある。
【0095】
撹拌速度を速くすることで上澄み液の不揮発分含量が高くなる傾向があり、撹拌速度を遅くすることで上澄み液の不揮発分含量が低くなる傾向がある。撹拌速度を速くすることで光透過率が高くなる傾向があり、撹拌速度を遅くすることで光透過率が低くなる傾向がある。
【0096】
液温を低くすることで上澄み液の不揮発分含量が高くなる傾向があり、液温を高くすることで上澄み液の不揮発分含量が低くなる傾向がある。液温を低くすることで光透過率が高くなる傾向があり、液温を高くすることで光透過率が低くなる傾向がある。液温を低くすることで吸光度が高くなる傾向があり、液温を高くすることで吸光度が低くなる傾向がある。
【0097】
このように作製された4価金属元素の水酸化物は、不純物を含むことがあるが、当該不純物を除去してもよい。不純物を除去する方法は、特に限定されないが、遠心分離、フィルタープレス、限外ろ過等が挙げられる。これにより、波長450〜600nmの光に対する吸光度を調整できる。
【0098】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の作製方法は、特許文献2〜4に詳しく記載されており、その記載は本明細書に援用される。
【0099】
(芳香族複素環を有する化合物)
本実施形態に係る研磨液は、芳香族複素環を有する化合物(以下、「芳香族複素環化合物」という)を含有している。芳香族複素環化合物の芳香族複素環は、水素原子と結合していない環内窒素原子(芳香族複素環を構成する窒素原子)を少なくとも一つ有する含窒素芳香族複素環化合物である。水素原子と結合していない環内窒素原子は、MK法を用いて得られる所定のMK電荷を有しており、前記環内窒素原子のMK電荷は、優れた砥粒の安定性を得る観点から、−0.45以下である。
【0100】
MK電荷とは、分子における各原子の電荷の偏りを表す指標のことをいう。MK電荷は、例えば、Gaussian 09(Gaussian社製、登録商標)及び基底関数B3LYP/6−31G(d)を用いて構造最適化を行うMerz−Kollman法(MK法)により算出できる。
【0101】
前記環内窒素原子のMK電荷の上限は、更に優れた砥粒の安定性を得る観点から、−0.50以下が好ましく、−0.52以下がより好ましく、−0.55以下が更に好ましい。前記環内窒素原子のMK電荷の下限は、特に限定されないが、例えば−1.00である。なお、化合物の価数がゼロである場合、MK電荷の下限が−1.00を下回ることは考えにくい。
【0102】
MK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する芳香族複素環化合物としては、アゾール類、ピリジン類、ピラジン類、トリアジン類等が挙げられる。アゾール類としては、イミダゾール、2−アミノイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、ベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチルメルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸、3−アミノピラゾール−4−カルボン酸エチル、3−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、4,5−ジメチルチアゾール等が挙げられる。ピリジン類としては、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−メチルピリジン、2−シアノピリジン、2−アセチルピリジン、2−アセトアミドピリジン、6−アミノ−2−ピコリン、ピコリン酸、6−ヒドロキシ−2−ピコリン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸(別名:2,6−ジピコリン酸)、ニコチンアミド等が挙げられる。ピラジン類としては、2−アミノピラジン、ピラジンカルボン酸、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、2−メチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2−エチルピラジン等が挙げられる。トリアジン類としては、2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。これらは一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0103】
前記の中でも、アゾール類、ピリジン類、ピラジン類が好ましく、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、ベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸、3,5−ジメチルピラゾール、2−ヒドロキシベンゾイミダゾール、4,5−ジメチルチアゾール、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−メチルピリジン、2−シアノピリジン、6−アミノ−2−ピコリン、ピコリン酸、6−ヒドロキシ−2−ピコリン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、2−アミノピラジン、ピラジンカルボン酸、3−アミノピラジン−2−カルボン酸がより好ましく、イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、2−メチルピリジン、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、2−アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、ピラジンカルボン酸が更に好ましい。
【0104】
MK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する芳香族複素環化合物の含有量の下限は、更に優れた砥粒の安定性が得られる観点から、研磨液全質量基準で、0.01mmol/L以上が好ましく、0.03mmol/L以上がより好ましく、0.05mmol/L以上が更に好ましく、0.1mmol/L以上が特に好ましく、0.2mmol/L以上が極めて好ましい。前記芳香族複素環化合物の含有量の上限は、砥粒の分散性が向上する観点から、研磨液全質量基準で、100mmol/L以下が好ましく、50mmol/L以下がより好ましく、20mmol/L以下が更に好ましく、10mmol/L以下が特に好ましく、5mmol/L以下が極めて好ましく、2mmol/L以下が非常に好ましい。
【0105】
本実施形態に係る研磨液が、MK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する芳香族複素環化合物を含有することにより、導電率の経時変化量を小さくすることができ、これにより、工程管理が容易になる。この観点から、導電率の経時変化量の上限は、25mS/m以下が好ましく、20mS/m以下がより好ましく、18mS/m以下が更に好ましく、15mS/m以下が特に好ましい。導電率の経時変化量の下限は、0mS/m以上が好ましいが、実用レベルでは−10mS/m以上であってもよい。なお、前記経時変化量は、研磨液を25℃に調整して測定される導電率Aと、当該研磨液を60℃で72時間加熱した後に測定される導電率Bとの差の測定値(B−A)を示す。
【0106】
(添加剤)
本実施形態に係る研磨液は、添加剤を含有する。ここで「添加剤」とは、水等の液状媒体、並びに、砥粒及び芳香族複素環化合物以外に研磨液が含有する物質を指す。本実施形態に係る研磨液では、添加剤を適宜選択することにより、研磨速度と、研磨速度以外の研磨特性とを高度に両立させることができる。
【0107】
添加剤としては、例えば、砥粒の分散性を高める分散剤、研磨速度を向上させる研磨速度向上剤、平坦化剤(研磨後の被研磨面の凹凸を減らす平坦化剤、研磨後の基体のグローバル平坦性を向上させるグローバル平坦化剤)、窒化ケイ素又はポリシリコン等のストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択比を向上させる選択比向上剤などの公知の添加剤を特に制限なく使用できる。
【0108】
分散剤としては、ビニルアルコール重合体及びその誘導体、ベタイン、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。研磨速度向上剤としては、β−アラニンベタイン、ステアリルベタイン等が挙げられる。被研磨面の凹凸を減らす平坦化剤としては、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられる。グローバル平坦化剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクロレイン等が挙げられる。選択比向上剤としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン等が挙げられる。これらは一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0109】
添加剤の含有量の下限は、添加剤の効果がより効果的に得られる観点から、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましい。添加剤の含有量の上限は、被研磨材料の研磨速度の低下を更に抑制する観点から、研磨液全質量基準で10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。
【0110】
(水)
本実施形態に係る研磨液における水は、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等が好ましい。水の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた研磨液の残部でよく、特に限定されない。
【0111】
(研磨液のpH)
研磨液のpHは、更に優れた研磨速度が得られる観点から、2.0〜9.0が好ましい。これは、被研磨面の表面電位に対する砥粒の表面電位が良好であり、砥粒が被研磨面に対して作用しやすいためと考えられる。研磨液のpHが安定して、砥粒の凝集等の問題が生じにくい観点から、pHの下限は、2.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、4.0以上が更に好ましく、4.5以上が特に好ましく、5.0以上が極めて好ましい。pHの上限は、砥粒の分散性に優れ、更に優れた研磨速度が得られる観点から、9.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、7.5以下が更に好ましい。なお、pHは、液温25℃におけるpHと定義する。
【0112】
研磨液のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製の型番PH81)で測定できる。pHとしては、例えば、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液:pH6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を採用する。
【0113】
研磨液のpHの調整には、従来公知のpH調整剤を特に制限なく使用できる。pH調整剤としては、具体的には例えば、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、乳酸、安息香酸等のカルボン酸などの有機酸;エチレンジアミン、トルイジン、ピペラジン、ヒスチジン、アニリン、ピコリン酸、モルホリン、ピペリジン、ヒドロキシルアミン等のアミン類;1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、ピラジン、ベンゾトリアゾール、インダゾール−3−カルボン酸等の含窒素複素環化合物が挙げられる。なお、pH調整剤は、後述するスラリー(スラリー前駆体、スラリー用貯蔵液等を含む)、添加液などに含まれていてもよい。
【0114】
pH安定化剤とは、所定のpHに調整するための添加剤を指し、緩衝成分が好ましい。緩衝成分は、所定のpHに対してpKaが±1.5以内である化合物が好ましく、pKaが±1.0以内である化合物がより好ましい。このような化合物としては、グリシン、アルギニン、リシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸;前記カルボン酸と塩基との混合物;前記カルボン酸の塩などが挙げられる。
【0115】
<スラリー>
本実施形態に係るスラリーは、当該スラリーをそのまま研磨に用いてもよく、研磨液の構成成分をスラリーと添加液とに分けた、いわゆる二液タイプの研磨液におけるスラリーとして用いてもよい。本実施形態において、研磨液とスラリーとは添加剤の有無の点で異なり、スラリーに添加剤を添加することで研磨液が得られる。
【0116】
本実施形態に係るスラリーは、本実施形態に係る研磨液と同様の砥粒及び芳香族複素環化合物、並びに、水を少なくとも含有する。例えば、砥粒は、4価金属元素の水酸化物を含むことを特徴とするものであり、砥粒の平均二次粒子径の好ましい範囲及び測定方法は、本実施形態に係る研磨液において用いられる砥粒と同様である。
【0117】
本実施形態に係るスラリーにおいて、砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10
5Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量500ppm以上の液相を与えるものであることが好ましい。砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものであることが好ましい。砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものであることが好ましい。砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。これらの不揮発分含量、光透過率及び吸光度の好ましい範囲及び測定方法についても本実施形態に係る研磨液と同様である。
【0118】
本実施形態に係るスラリーの構成成分中において、4価金属元素の水酸化物は研磨特性に与える影響が大きいと考えられる。そのため、4価金属元素の水酸化物の含有量を調整することにより、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が向上し、研磨速度を更に向上させることができる。すなわち、4価金属元素の水酸化物の含有量の下限は、4価金属元素の水酸化物の機能を充分に発現しやすい観点から、スラリー全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。4価金属元素の水酸化物の含有量の上限は、砥粒の凝集を避けることが容易であると共に、被研磨面との化学的な相互作用が良好であり、研磨速度が更に向上する観点から、スラリー全質量基準で8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0119】
本実施形態に係るスラリーにおいて、砥粒の含有量の下限は、所望の研磨速度が得られやすい観点から、スラリー全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。砥粒の含有量の上限は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易であると共に、砥粒が効果的に被研磨面に作用して研磨がスムーズに進行する観点から、スラリー全質量基準で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0120】
MK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する芳香族複素環化合物の含有量の下限は、更に優れた砥粒の安定性が得られる観点から、スラリー全質量基準で、0.01mmol/L以上が好ましく、0.03mmol/L以上がより好ましく、0.05mmol/L以上が更に好ましく、0.1mmol/L以上が特に好ましく、0.2mmol/L以上が極めて好ましい。前記芳香族複素環化合物の含有量の上限は、砥粒の分散性が向上する観点から、スラリー全質量基準で、100mmol/L以下が好ましく、50mmol/L以下がより好ましく、20mmol/L以下が更に好ましく、10mmol/L以下が特に好ましく、5mmol/L以下が極めて好ましく、2mmol/L以下が非常に好ましい。
【0121】
本実施形態に係るスラリーが、MK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する芳香族複素環化合物を含有することにより、導電率の経時変化量を小さくすることができ、これにより、工程管理が容易になる。この観点から、導電率の経時変化量の上限は、25mS/m以下が好ましく、20mS/m以下がより好ましく、18mS/m以下が更に好ましく、15mS/m以下が特に好ましい。導電率の経時変化量の下限は、0mS/m以上が好ましいが、実用レベルでは−10mS/m以上であってもよい。なお、前記経時変化量は、スラリーを25℃に調整して測定される導電率Aと、当該スラリーを60℃で72時間加熱した後に測定される導電率Bとの差の測定値(B−A)を示す。
【0122】
本実施形態に係るスラリーのpHは、更に優れた研磨速度が得られる観点から、2.0〜9.0が好ましい。これは、被研磨面の表面電位に対する砥粒の表面電位が良好であり、砥粒が被研磨面に対して作用しやすいためと考えられる。スラリーのpHが安定して、砥粒の凝集等の問題が生じにくい観点から、pHの下限は、2.0以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。pHの上限は、砥粒の分散性に優れ、更に優れた研磨速度が得られる観点から、9.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、7.0以下が更に好ましく、6.5以下が特に好ましく、6.0以下が極めて好ましい。なお、pHは、液温25℃におけるpHと定義する。スラリーのpHは、本実施形態に係る研磨液のpHと同様の方法で測定できる。
【0123】
<研磨液セット>
本実施形態に係る研磨液セットでは、スラリー(第一の液)と添加液(第二の液)とを混合して研磨液となるように、当該研磨液の構成成分がスラリーと添加液とに分けて保存される。スラリーとしては、本実施形態に係るスラリーを用いることができる。添加液としては、添加剤を水に溶解させた液(添加剤と水とを含む液)を用いることができる。研磨液セットは、研磨時にスラリーと添加液とを混合することにより研磨液として使用される。このように研磨液の構成成分を少なくとも二つの液に分けて保存することで、保存安定性に優れる研磨液とすることができる。なお、本実施形態に係る研磨液セットでは、三液以上に構成成分を分けてもよい。
【0124】
添加液に含まれる添加剤としては、前記研磨液において説明したものと同様の添加剤を用いることができる。添加液における添加剤の含有量の下限は、添加液とスラリーとを混合して研磨液を調製したときに研磨速度が過度に低下することを充分に抑制する観点から、添加液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましい。添加液における添加剤の含有量の上限は、添加液とスラリーとを混合して研磨液を調製したときに研磨速度が過度に低下することを充分に抑制する観点から、添加液全質量基準で20質量%以下が好ましい。
【0125】
添加液における水としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等が好ましい。水の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた残部でよく、特に限定されない。
【0126】
<基体の研磨方法及び基体>
前記研磨液、スラリー又は研磨液セットを用いた基体の研磨方法、及び、これにより得られる基体について説明する。本実施形態に係る研磨方法は、前記研磨液又はスラリーを用いる場合、一液タイプの研磨液を用いた研磨方法であり、前記研磨液セットを用いる場合、二液タイプの研磨液又は三液以上のタイプの研磨液を用いた研磨方法である。
【0127】
本実施形態に係る基体の研磨方法では、表面に被研磨材料を有する基体(例えば半導体基板等の基板)を研磨する。本実施形態に係る基体の研磨方法では、被研磨材料の下に形成されたストッパ(ストッパ材料を含む研磨停止層)を用いて被研磨材料を研磨してもよい。本実施形態に係る基体の研磨方法は、基体配置工程と研磨工程とを少なくとも有している。基体配置工程では、表面に被研磨材料を有する基体の当該被研磨材料を研磨パッドに対向するように配置する。研磨工程では、研磨液、スラリー又は研磨液セットを用いて、被研磨材料の少なくとも一部を研磨して除去する。研磨対象である被研磨材料の形状は特に限定されないが、例えば膜状(被研磨材料膜)である。
【0128】
被研磨材料としては、酸化ケイ素等の無機絶縁材料;オルガノシリケートグラス、全芳香環系Low−k材料等の有機絶縁材料;窒化ケイ素、ポリシリコン等のストッパ材料などが挙げられ、中でも、無機絶縁材料及び有機絶縁材料等の絶縁材料が好ましく、無機絶縁材料がより好ましい。酸化ケイ素の膜は、低圧CVD法、プラズマCVD法等により得ることができる。酸化ケイ素の膜には、リン、ホウ素等の元素がドープされていてもよい。被研磨材料の表面(被研磨面)は凹凸を有していることが好ましい。本実施形態に係る基体の研磨方法では、被研磨材料の凹凸の凸部が優先的に研磨されて、表面が平坦化された基体を得ることができる。
【0129】
絶縁材料が形成された半導体基板を用いる場合を例に挙げて研磨方法を更に詳細に説明する。まず、凹部及び凸部を有する凹凸が表面に形成されたウエハ1と、ウエハ1の凸部上に配置されたストッパ2と、ウエハ1の表面の凹凸を埋めるように配置された絶縁材料3とを有する基板を準備する(
図2(a))。絶縁材料3は、プラズマTEOS法等によってウエハ1上に形成される。そして、前記研磨液等を用いて基板を研磨して、ウエハ1の凸部上のストッパ2が露出するまで絶縁材料3を除去する(
図2(b))。
【0130】
一液タイプである研磨液又はスラリーを用いる場合、研磨工程では、基体の被研磨材料と研磨定盤の研磨パッドとの間に研磨液又はスラリーを供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する。例えば、被研磨材料を研磨パッドに押圧した状態で、研磨パッドと被研磨材料との間に研磨液又はスラリーを供給すると共に、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨材料の少なくとも一部を研磨する。このとき、研磨液及びスラリーは、所望の水分量を有する組成物としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよい。
【0131】
本実施形態に係る研磨液及びスラリーは、貯蔵、運搬、保管等に係るコストを抑制する観点から、水等の液状媒体で液体成分を例えば2倍以上(質量基準)に希釈して使用される研磨液用貯蔵液又はスラリー用貯蔵液として保管できる。前記各貯蔵液は、研磨の直前に液状媒体で希釈されてもよく、研磨パッド上に貯蔵液と液状媒体とを供給して研磨パッド上で希釈されてもよい。
【0132】
貯蔵液の希釈倍率(質量基準)の下限は、倍率が高いほど貯蔵、運搬、保管等に係るコストの抑制効果が高いため、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、5倍以上が更に好ましく、10倍以上が特に好ましい。希釈倍率の上限は特に制限はないが、倍率が高いほど貯蔵液に含まれる成分の量が多く(濃度が高く)なり、保管中の安定性が低下しやすい傾向があるため、500倍以下が好ましく、200倍以下がより好ましく、100倍以下が更に好ましく、50倍以下が特に好ましい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0133】
前記貯蔵液において、砥粒の含有量の上限は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易である観点から、貯蔵液全質量基準で20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。砥粒の含有量の下限は、貯蔵、運搬、保管等に係るコストを抑制する観点から、貯蔵液全質量基準で0.02質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が特に好ましい。
【0134】
二液タイプの研磨液を用いる場合、本実施形態に係る基体の研磨方法は、研磨工程の前にスラリーと添加液とを混合して研磨液を得る研磨液調製工程を有していてもよい。この場合、研磨工程では、研磨液調製工程において得られた研磨液を用いて被研磨材料が研磨され、例えば、基体の被研磨材料と研磨定盤の研磨パッドとの間に研磨液を供給すると共に、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する。このような研磨方法では、研磨液調製工程において、スラリーと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を供給配管出口の直前で合流させて研磨液を得てもよい。研磨液は、所望の水分量を有する研磨液としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよく、水分量の少ない貯蔵液として研磨パッド上に供給された後に研磨パッド上で希釈されてもよい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0135】
二液タイプの研磨液を用いる場合、研磨工程において、スラリーと添加液とをそれぞれ研磨パッドと被研磨材料との間に供給すると共に、スラリーと添加液とが混合されて得られる研磨液により被研磨材料の少なくとも一部を研磨してもよい。このような研磨方法では、スラリーと添加液とを別々の送液システムで研磨パッド上へ供給できる。スラリー及び/又は添加液は、所望の水分量を有する液としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよく、水分量の少ない貯蔵液として研磨パッド上に供給された後に研磨パッド上で希釈されてもよい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0136】
本実施形態に係る研磨方法において使用する研磨装置としては、例えば、被研磨材料を有する基体を保持するためのホルダーと、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてあり且つ研磨パッドを貼り付け可能である研磨定盤とを有する、一般的な研磨装置を使用できる。研磨装置としては、株式会社荏原製作所製の研磨装置(型番:EPO−111)、Applied Materials社製の研磨装置(商品名:Mirra3400、Reflexion研磨機)等が挙げられる。
【0137】
研磨パッドとしては、特に制限はなく、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用できる。研磨パッドには、研磨液等が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0138】
研磨条件としては、特に制限はないが、基体が飛び出すことを抑制する観点から、研磨定盤の回転速度は200min
−1(rpm)以下の低回転が好ましい。基体にかける圧力(加工荷重)は、研磨傷が発生することを更に抑制する観点から、100kPa以下が好ましい。研磨している間、研磨パッドの表面には、研磨液又はスラリー等をポンプ等で連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液又はスラリー等で覆われていることが好ましい。研磨終了後の基体は、流水中でよく洗浄後、基板に付着した水滴をスピンドライヤ等によって払い落としてから乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0139】
以下、本発明に関して実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
(4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の作製)
下記の手順に従って、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を作製した。なお、下記説明中A〜Gで示される値は、表1にそれぞれ示される値である。
【0141】
(砥粒1〜2の作製)
A[L]の水を容器に入れた後、濃度50質量%の硝酸セリウムアンモニウム水溶液(一般式Ce(NH
4)
2(NO
3)
6、式量548.2g/mol、日本化学産業株式会社製、製品名50%CAN液)をB[L]加えて混合した。その後、液温をC[℃]に調整して金属塩水溶液を得た。金属塩水溶液の金属塩濃度は表1に示すとおりである。
【0142】
次に、表1に示されるアルカリ種を水に溶解させて濃度D[mol/L]の水溶液をE[L]用意した。その後、液温を温度C[℃]に調整してアルカリ液を得た。
【0143】
前記金属塩水溶液の入った容器を、水を張った水槽に入れた。外部循環装置クールニクスサーキュレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、製品名クーリングサーモポンプ CTP101)を用いて、水槽の水温をC[℃]に調整した。水温をC[℃]に保持しつつ、撹拌速度F[min
−1]で金属塩水溶液を撹拌しながら、前記アルカリ液を混合速度G[m
3/min]で容器内に加え、4価セリウムの水酸化物を含む砥粒を含有するスラリー前駆体1を得た。なお、羽根部全長5cmの3枚羽根ピッチパドルを用いて金属塩水溶液を撹拌した。
【0144】
得られたスラリー前駆体1を、分画分子量50000の中空糸フィルタを用いて循環させながら限外ろ過して、導電率が50mS/m以下になるまでイオン分を除去することにより、スラリー前駆体2を得た。なお、前記限外ろ過は、液面センサを用いて、スラリー前駆体1の入ったタンクの水位を一定にするように水を添加しながら行った。得られたスラリー前駆体2を適量とり、乾燥前後の質量を量ることにより、スラリー前駆体2の不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出した。なお、この段階で不揮発分含量が1.0質量%未満であった場合には、限外ろ過を更に行うことにより、1.1質量%を超える程度に濃縮した。
【0145】
【表1】
【0146】
(砥粒の構造分析)
スラリー前駆体2を適量採取し、真空乾燥して砥粒を単離した。純水で充分に洗浄して得られた試料について、FT−IR ATR法による測定を行ったところ、水酸化物イオンに基づくピークの他に、硝酸イオン(NO
3−)に基づくピークが観測された。また、同試料について、窒素に対するXPS(N−XPS)測定を行ったところ、NH
4+に基づくピークは観測されず、硝酸イオンに基づくピークが観測された。これらの結果より、スラリー前駆体2に含まれる砥粒は、セリウム元素に結合した硝酸イオンを有する粒子を少なくとも一部含有することが確認された。
【0147】
(吸光度及び光透過率の測定)
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒の含有量が0.0065質量%(65ppm)となるように水で希釈して測定サンプルA(水分散液)を得た。測定サンプルAを1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長290nmの光に対する吸光度と、波長450〜600nmの光に対する吸光度とを測定した。結果を表2に示す。
【0148】
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒の含有量が1.0質量%となるように水で希釈して測定サンプルB(水分散液)を得た。測定サンプルBを1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長400nmの光に対する吸光度と、波長500nmの光に対する光透過率とを測定した。結果を表2に示す。
【0149】
(上澄み液の不揮発分含量の測定)
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒の含有量が1.0質量%となるように水で希釈して測定サンプルC(水分散液)を得た。この測定サンプルCを日立工機株式会社製の超遠心分離機(装置名:70P−72)に付属の遠沈管(チューブ)に充填し、前記超遠心分離機を用いて回転数50000min
−1で50分間遠心分離した。前記超遠心分離機において、チューブ角は26°、最小半径R
minは3.53cm、最大半径R
maxは7.83cm、平均半径R
avは5.68cmであった。平均半径R
avから計算される遠心加速度は、158756G=1.59×10
5Gであった。
【0150】
遠心分離後の遠沈管から上澄み液(液相)を5.0gとり、アルミシャーレに入れて150℃で1時間乾燥させた。乾燥前後の質量を量ることにより、上澄み液に含まれる不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出した。結果を表2に示す。
【0151】
(平均二次粒子径の測定)
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒の含有量が0.2質量%となるように水で希釈して測定サンプルD(水分散液)を得た。測定サンプルDを1cm角のセルに約4mL入れ、ベックマンコールター社製の装置名N5内にセルを設置した。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行い、表示された平均粒子径値を平均二次粒子径とした。結果を表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
(スラリー用貯蔵液の作製)
[比較例1]
前記砥粒1を含むスラリー前駆体2に水を添加して総質量を1000gに調整することにより、比較例1のスラリー用貯蔵液1を得た。スラリー用貯蔵液1において、砥粒の含有量は1.0質量%であった。
【0154】
[実施例1〜18、比較例2〜10]
前記砥粒1を含むスラリー前駆体2に、表3又は表4に示される化合物0.23gを加えた。さらに、水を添加して総質量を1000gに調整することにより、実施例1〜18及び比較例2〜10のスラリー用貯蔵液1を得た。スラリー用貯蔵液1において、砥粒の含有量は1.0質量%、表3又は表4に示される化合物の含有量は0.023質量%(230ppm)であった。
【0155】
(MK電荷の算出)
Merz−Kollman法(MK法)を用いて下記のとおり各化合物の環内窒素原子のMK電荷を算出した。ChemDraw 7.0に各化合物の構造を入力した後、該構造をChem3D 7.0に貼り付け、分子力学法(MM2)により構造最適化を行った。次に、得られたデータをGaussian 09(Gaussian社製、登録商標)に入力した後、基底関数B3LYP/6−31G(d)を用いて構造最適化を行うことにより、各化合物の環内全窒素原子のMK電荷を算出した。なお、分子中に環内窒素原子が複数ある場合、最も値の小さいMK電荷を採用した。
【0156】
(導電率変化量の測定)
前記スラリー用貯蔵液1を適量採取し、25℃に調整した後、株式会社堀場製作所製の電気導電率計(装置名:ES−51)を用いて導電率(初期導電率)を測定した。また、前記スラリー用貯蔵液1を60℃で72時間加熱した後、同様に導電率(加熱後導電率)を測定した。これらの導電率の差(加熱後導電率−初期導電率)を導電率変化量として算出した。比較例1(含窒素芳香族複素環化合物を添加しなかった例)のスラリー用貯蔵液1の導電率変化量を1.00としたときの導電率変化量の相対値を表3及び4に示す。
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
表3及び表4の結果から、芳香族複素環化合物ではない化合物を用いた比較例8及び9では、導電率変化量が殆ど変化しないことがわかった。また、含窒素複素環化合物であるものの芳香族複素環化合物ではないクレアチニンを用いた比較例10では、導電率変化量が大幅に増加することがわかった。
【0160】
実施例1〜18及び比較例2〜7において用いた化合物は、含窒素芳香族複素環化合物であり且つ水素原子と結合しない環内窒素原子を有している。
図3は、実施例1〜18及び比較例2〜7に関するMK電荷と導電率変化量との関係を示している。
図3に示される結果から、MK電荷が−0.45以下である場合に導電率変化量が顕著に小さいことがわかった。
【0161】
(研磨液の作製)
表5に示す砥粒を含むスラリー前駆体2に、純水、及び、表5に示す化合物を加え、砥粒の含有量を1.0質量%、化合物の含有量を表5に示す含有量に調整して、スラリー用貯蔵液2を得た。60gのスラリー用貯蔵液2に純水180gを添加して、スラリー240gを得た。
【0162】
また、添加液として5質量%のポリビニルアルコール水溶液を準備した。前記スラリー240gに前記添加液を60g添加した後に混合撹拌した。最後に、アンモニア水溶液を用いてpHを調整して、実施例19〜22及び比較例11〜12の研磨液を得た。研磨液において、砥粒の含有量は0.2質量%であり、ポリビニルアルコール含有量は1.0質量%であり、アンモニアの含有量はX質量%であり、化合物の含有量は表5に示す含有量であった。ここで、前記X質量%は、研磨液のpHが6.0に調整されるように決定した。なお、ポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールのケン化度は80mol%であり、平均重合度は300であった。
【0163】
(絶縁膜の研磨)
研磨装置(Applied Materials社製、200mmウエハ研磨機Mirra)における基板取り付け用の吸着パッドを貼り付けたホルダーに、絶縁膜(酸化ケイ素膜)が形成されたφ200mmシリコンウエハをセットした。多孔質ウレタン樹脂製パッドを貼り付けた定盤上に、絶縁膜がパッドに対向するようにホルダーを載せた。前記で得られた研磨液を、供給量200mL/minでパッド上に供給しながら、研磨荷重20kPaでウエハをパッドに押し当てた。このとき定盤を78min
−1、ホルダーを98min
−1で1分間回転させて研磨を行った。
【0164】
(研磨速度の評価)
研磨後のウエハを純水でよく洗浄した後に乾燥させた。光干渉式膜厚測定装置を用いて研磨前後の絶縁膜の膜厚変化を測定して研磨速度(SiO
2研磨速度)を求めた。結果を表5に示す。
【0165】
(研磨傷の評価)
前記条件で研磨及び洗浄したシリコンウエハを0.5質量%のフッ化水素の水溶液に15秒間浸漬した後に60秒間水洗した。続いて、ポリビニルアルコールブラシで絶縁膜の表面を、水を供給しながら1分間洗浄した後に乾燥させた。Applied Materials社製Complusを用いて、絶縁膜の表面における0.2μm以上の欠陥を検出した。さらに、Complusで得られた欠陥検出座標とApplied Materials社製SEM Visionを用いて、絶縁膜の表面を観測し、絶縁膜の表面における0.2μm以上の研磨傷の個数を計測した。その結果、実施例19〜22及び比較例11のいずれにおいても0〜1個/ウエハであり、研磨傷の発生が充分に抑制されていた。一方、比較例12では、5個/ウエハ以上の研磨傷が発生した。
【0166】
【表5】
【0167】
これらの結果から、実施例19〜22では、比較例11と同等の研磨速度が得られると共に研磨傷が抑制できることがわかった。また、比較例11及び12の対比から、砥粒が、所定の条件で遠心分離したときに所定の不揮発分含量の液相を与えること、所定の波長の光に対して所定の光透過率を与えること、又は、所定の波長の光に対して所定の吸光度を与えることによって、高い研磨速度と少ない研磨傷とを両立できることがわかった。
【0168】
なお、表5に示す化合物に代えて、実施例1〜6、8〜14及び16において用いた化合物(表3)をそれぞれ含む以外は実施例19〜22と同様に作製した14種の研磨液を用いて、前記と同様に絶縁膜(酸化ケイ素膜)が形成されたシリコンウエハを研磨したところ、実施例19〜22と同程度の研磨速度が得られ、研磨傷の発生も充分に抑制されていた。
【0169】
以上より、水素原子と結合しておらず且つMK電荷が−0.45以下である環内窒素原子を有する含窒素芳香族複素環化合物を用いることにより、研磨特性に大きな影響を与えることなく導電率の変化量を小さくできることがわかった。