特許第6776636号(P6776636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776636
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20201019BHJP
   C08J 7/044 20200101ALI20201019BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20201019BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20201019BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20201019BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20201019BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20201019BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C08J7/04 ZCEZ
   C08J7/044CFF
   B32B27/36
   B32B27/18 A
   B32B27/18 D
   B32B27/40
   B32B27/00 A
   B32B27/00 M
   B32B7/023
   C09K3/16 108B
   C09K3/16 108Z
   C09K3/16 102E
   C09K3/16 102L
   C09K3/16 106D
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-113890(P2016-113890)
(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-218507(P2017-218507A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 陽一
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−173015(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/001938(WO,A1)
【文献】 特開2014−195987(JP,A)
【文献】 特開2005−271592(JP,A)
【文献】 特開2000−052495(JP,A)
【文献】 特開2005−088389(JP,A)
【文献】 特開2002−067019(JP,A)
【文献】 特開2015−224267(JP,A)
【文献】 特開2015−214158(JP,A)
【文献】 特開2015−208898(JP,A)
【文献】 特開2011−227436(JP,A)
【文献】 特開2014−044390(JP,A)
【文献】 特開2008−246780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
B32B 7/023
B32B 27/00
B32B 27/18
B32B 27/36
B32B 27/40
C08J 7/044
C09K 3/16
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、帯電防止層を有する積層ポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムは表層の片側厚みが8.5μm以上である3層以上の積層構成からなり、その中間層に紫外線吸収剤として2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン]を含有し、当該帯電防止層は下記の化合物(A)、(B)、および(C)を含有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
(A):陰イオン化合物のドーピング或いは陰イオン基が自己ドープされたチオフェンもしくはチオフェン誘導体の重合体
(B):グリセリン(b1)、ポリグリセリン(b2)、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(b3)、およびポリアルキレンオキサイド(b4)の群から選ばれる1種以上の化合物
(C):ポリウレタン樹脂
【請求項2】
波長380nmにおける光線透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
紫外線吸収剤の含有量が、1〜20重量%である、請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステルフィルムの厚みが10〜300μmであり、帯電防止層の厚みが0.003μm〜1μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルムの帯電防止層の反対側の面に離型層を有することを特徴とする離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた帯電防止性能を有し、同時に紫外線吸収性能を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性などに優れ、例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを基材とし、シリコーン樹脂などを主成分とする離型層を設けた離型フィルムは、多くの分野で使用されている。
【0003】
偏光板(または位相差板等)やそれに準じた積層体等の光学部材の組込みは、粘着シートが使用される。また、粘着シートは偏光板等に貼り合わせる前はポリエステルフィルムを基材とした離型フィルムが使用される場合がある。離型フィルムは表面保護の目的で貼り付けられている場合もあり、光学部材の組込みが完了した後に、剥離によって除去されるが、この剥離時に静電気が発生して、周囲の物や塵埃が巻き込まれるという問題がある。
【0004】
そのため、帯電防止に関する対策が行われている。一般的には、基材となるフィルム表面に帯電防止性樹脂を塗布する方法が行われている(特許文献1)。
【0005】
ポリエステルフィルムに塗工される帯電防止剤としては、高分子量のカチオン性化合物(特許文献2)、スルホネート基やホスホネート基に代表されるアニオン性の基を含むアニオン系のものが主に用いられる。
【0006】
しかし、特許文献2に挙げられるような、高分子側鎖を有する四級アンモニウム塩基は、一般的に耐熱性が弱く、延伸ポリエステルフィルムの製膜行程中で塗布を行うインラインコーティング法に適用した場合には、その際にかかる温度が非常に高温となるため、分解を起こしやすく、帯電防止性能を悪化させる。また、イオン導電性の帯電防止剤は周囲の湿気や水分の影響を受けやすい。特に低湿度下では導電性が低下し、所望の帯電防止性能が得られなくなる欠点がある。アニオン系の帯電防止剤において、この傾向がより顕著となることが多い。
【0007】
電子導電性化合物は、上記イオン導電性化合物に比べるとより優れた帯電防止性を発現することが可能である。電子導電性化合物は種々提案されているが、中でもポリチオフェン化合物は優れた導電性を有し、フィルムに塗布した際には高い帯電防止性能、透明性を発現させることが可能である(特許文献3、4)。延伸ポリエステルフィルムにおいては、インラインコーティング法によって塗膜を設ける事が生産性、経済性で有利であるが、ポリチオフェン化合物を含有する塗布層は、インラインコーティング法では十分な帯電防止性能を発現させることが難しい。これは、フィルムの延伸に伴い、電子導電層が延伸されるときに、導電機構を保持した状態でフィルムの延伸に追従することができず、その結果、導電機構が壊れるためと考えられる。また、そのような場合の塗布層は外観にも劣るものであった。離型フィルムは貼り付けられた状態で光学部材の検査を行う機会があり、塗布層の外観が劣る場合、検査性が悪化するため、適用が難しくなる。
【0008】
さらに、偏光板やそれに準じた積層体の光学部材の組込みにUV硬化型粘着剤を用いる場合があり、離型フィルムが貼り合わされた状態のままUV硬化を行うこともある。このため、離型フィルム自体にUV吸収性能が必要とされる状況にある。
【0009】
近年のスマートフォンの普及に伴い、液晶ディスプレイの意匠性、デザイン性が多種多様になり、UV硬化型粘着剤を用いることが光学部材の組込みの際に加工性の観点から有利になる。また、UV硬化型粘着剤の硬化速度に比例して、加工性、経済性の観点で有利であるが、最近では加工環境下の蛍光灯下でもUV硬化型粘着剤の反応が進み、ハンドリング性が悪化するという新たな問題も発生している状況にある。そのため、紫外線吸収性能と帯電防止性能を両立したポリエステルフィルムを基材とした離型フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−26223号公報
【特許文献2】特開2004−123932号公報
【特許文献3】特開2002−060736号公報
【特許文献4】特開2008−296380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、優れた帯電防止性能を有し、同時に紫外線吸収性能を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、特定構成のポリエステルフィルムによれば、上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、帯電防止層を有する積層ポリエステルフィルムであって、当該ポリエステルフィルムは紫外線吸収剤を含有し、当該帯電防止層は下記の化合物(A)、(B)、および(C)を含有することを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
(A):陰イオン化合物のドーピング或いは陰イオン基が自己ドープされたチオフェンもしくはチオフェン誘導体の重合体
(B):グリセリン(b1)、ポリグリセリン(b2)、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(b3)、およびポリアルキレンオキサイド(b4)の群から選ばれる1種以上の化合物
(C):ポリウレタン樹脂
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた帯電防止性能を有し、同時に紫外線吸収性能を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムを得ることができ、その工業的な利用価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ポリエステルフィルム]
本発明の積層ポリエステルフィルムの基材フィルムは、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルとエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。
【0016】
例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸を共重合しても構わない。
【0017】
本発明のポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0018】
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも、アンチモン化合物は安価で触媒活性が高いという利点がある。また、チタン化合物やゲルマニウム化合物は触媒活性が高く、少量で重合を行うことが可能であり、フィルム中に残留する金属量が少ないことから、フィルムの輝度が高くなるため好ましい。さらに、ゲルマニウム化合物は高価であることから、チタン化合物を用いることがより好ましい。
【0019】
本発明におけるポリエステルフィルムは、3層以上の多層構成であり、いずれかの層に、紫外線吸収剤を含有する必要がある。特に、中間層に紫外線吸収剤を含有することが好ましい。ポリエステルフィルム中に含有される紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤および無機系紫外線吸収剤が挙げられる。なお、透明性や少量の添加量で効果的な紫外線吸収性能を示すという観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。
【0020】
有機系紫外線吸収剤としては、サリチル酸系、例えば、フェニルサリチレート、p−t−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等;ベンゾフェノン系、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−オクトキベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン等;ベンゾトリアゾール系、例えば、2−(2´−ヒドロキシ−5´−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−5´−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´5´−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´5´−ジ−t−ブチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール等;天然物系、例えば、オリザノール、シアバター、バイカリン等;生体系、例えば、角質細胞、メラニン、ウロカニン酸等が挙げられる。これら有機系紫外線吸収剤は1種類、または2種類以上併用して用いることができる。これらの有機系紫外線吸収剤には紫外線安定剤として、ヒンダードアミン系化合物を併用することができる。
【0021】
無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン系複合酸化物、酸化亜鉛系複合酸化物、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化錫)等が挙げられる。酸化チタン系複合酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナをドープした酸化チタン等が挙げられる。これらの無機系紫外線吸収剤は1種類、または、2種類以上併用して用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤を併用しても構わない。
【0022】
紫外線吸収剤の含有量は特に限定されないが、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜10重量%の範囲である。含有率が規定された範囲内であることによって、十分な紫外線吸収性能や透明性を有することができる。
【0023】
紫外線吸収剤をポリエステルフィルムに配合する方法として、紫外線吸収剤を押出機に直接添加する方法、あらかじめ紫外線吸収剤を練り込んだポリエステル樹脂を押出機に添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれか一方の方法を採用してもよく、2つの方法を併用してもよい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムは、波長380nmにおける光線透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。波長380nmにおける光線透過率が10%より大きくなると、紫外線吸収性能が不足する可能性がある。
【0025】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で、表層に粒子を含有させることが好ましい。このような粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。なお、上記粒子のうち、酸化チタンやタルクは、前記した無機系紫外線吸収剤としての役割も有する。
【0026】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0027】
粒子の粒径や含有量はポリエステルフィルムの用途や目的に応じて選択される。平均粒径(d50)に関しては、好ましくは3μm以下、より好ましくは0.02μm〜2.8μm、さらに好ましくは0.03μm〜2.5μmの範囲である。平均粒径が大きすぎるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎたり、粒子がフィルム表面から脱落しやすくなったりする。
【0028】
表層に含まれる粒子の含有量については、好ましくは3重量%以下、より好ましくは0.0003〜1重量%、さらに好ましくは0.0005〜0.5重量%の範囲である。粒子が無い場合あるいは粒子が少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、易滑性が不十分となる場合があるため、帯電防止層中に粒子を入れることにより、易滑性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子の含有量が多すぎる場合はフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0029】
ポリエステルフィルムの表層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0030】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の紫外線吸収剤や粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定性剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0031】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜200μm、さらに好ましくは30〜100μmの範囲である。
【0032】
本発明におけるポリエステルフィルムは3層以上の積層構成からなる。表層の片側厚みは通常3.5μm以上、好ましくは6.0μm以上、さらに好ましくは8.5μm以上である。表層の片側厚みが3.5μm以上とすることで、ポリエステルフィルムから紫外線吸収剤がブリードアウトすることを軽減させることが可能になる。
【0033】
本発明におけるポリエステルフィルムフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70〜145℃で2〜6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80〜160℃で2〜6倍に延伸し、さらに、150〜250℃で1〜600秒間熱処理を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理のゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に20%以内の弛緩を行う方法が好ましい。
【0034】
[帯電防止層]
本発明における帯電防止層は、製膜したフィルムに後から塗布層を設ける、いわゆるオフラインコーティングと、フィルムの製膜中に塗布層を設ける、いわゆるインラインコーティングのいずれでも設けることができる。好ましくはインラインコーティング、特に塗布後に延伸を行う塗布延伸法により設けられることが好ましい。
【0035】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と帯電防止層塗設を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、コーティング後に延伸を行うために、薄膜で均一なコーティングとなるために帯電防止層の特性が安定する。また、二軸延伸される前のポリエステルフィルム上を、まず帯電防止層を構成する樹脂層で被覆し、その後フィルムと帯電防止層を同時に延伸することで、基材フィルムと帯電防止層が強固に密着することになる。また、ポリエステルフィルムの二軸延伸は、テンタークリップ等によりフィルム端部を把持しつつ横方向に延伸することで、フィルムが長手/横手方向に拘束されており、熱固定において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、コーティング後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、帯電防止層の造膜性が向上し、また帯電防止層とポリエステルフィルムが強固に密着する。帯電防止層を設けたポリエステルフィルムとして、帯電防止層の均一性、造膜性の向上および帯電防止層とフィルムの密着は好ましい特性を生む場合が多い。
【0036】
塗布延伸法の場合、用いる塗布液は、取扱い上、作業環境上、安全上の理由から水溶液または水分散液であることが望ましく、水を主たる媒体とすることが好ましい。なお、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
【0037】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に、化合物(A)、(B)、および(C)を含有する帯電防止層を有することを必須の要件とするものである。帯電防止層はポリエステルフィルムの両面に有していてもよいが、後述する通り、離型フィルムとして用いる場合には片面であることが好ましい。
本発明に用いる化合物(A)、(B)および(C)について説明する。なお、帯電防止層中には、その他の成分を含有していても構わない。
【0038】
化合物(A)は、陰イオン化合物のドーピング或いは陰イオン基が自己ドープされたチオフェンもしくはチオフェン誘導体の重合体である。これらの物質は、優れた導電性を示し好適である。化合物(A)としては、たとえば下記式(1)もしくは(2)の化合物を、ポリ陰イオンの存在下で重合して得られるものを例示できる。
【0039】
【化1】
【0040】
上記式(1)で、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数が1〜20の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基などを表す。
【0041】
【化2】
【0042】
上記式(2)で、nは1〜4の整数を表す。
【0043】
重合時に使用するポリ陰イオンの供給源としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが例示される。かかる重合体の製造方法としては、例えば特開平7−90060号公報に示されるような方法が採用できる。
【0044】
本発明において、好ましい様態として、上記式(2)の化合物においてnが2であり、ポリ陰イオンの供給源としてポリスチレンスルホン酸を用いたものが挙げられる。
【0045】
また、これらのポリ陰イオンの一部または全てが中和されていてもよい。中和に用いる塩基としてはアンモニア、有機アミン類、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0046】
陰イオン基が自己ドープされたチオフェンもしくはチオフェン誘導体の重合体として、上記式(1)もしくは(2)の化合物に陰イオン基がドープされたものが挙げられる。
【0047】
化合物(B)は、グリセリン(b1)、ポリグリセリン(b2)、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(b3)、およびポリアルキレンオキサイド(b4)の群から選ばれる1種以上の化合物である。
グリセリン(b1)、ポリグリセリン(b2)とは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0048】
【化3】
【0049】
上記式(3)のn=1の化合物がグリセリン(b1)であり、nが2以上の化合物はポリグリセリン(b2)である。本発明においては、式中のnは、2〜20の範囲が好ましく、より好ましくは2〜10の範囲である。
【0050】
グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(b3)とは、一般式(3)で表されるグリセリンまたはポリグリセリンのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドを付加重合した構造を有するものである。
【0051】
ここで、グリセリンまたはポリグリセリン骨格のヒドロキシル基ごとに、付加されるアルキレンオキサイドの構造は異なっていても構わない。また、少なくとも分子中一つのヒドロキシル基に付加されていればよく、全てのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体が付加されている必要はない。
【0052】
グリセリンまたはポリグリセリンに付加されるアルキレンオキサイドとして好ましいものは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドである。アルキレンオキサイドのアルキレン鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での均一な分散性が悪化し、帯電防止層の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。特に好ましいものはエチレンオキサイドである。また、その付加数は、最終的な化合物(b3)としての重量平均分子量で200〜2000の範囲になるものが好ましく、300〜800の範囲ものがさらに好ましい。
【0053】
ポリアルキレンオキサイド(b4)として好ましいものは、ポリエチレンオキサイドまたはポリプロピレンオキサイドである。アルキレンオキサイド構造中のアルキル鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での均一な分散性が悪化し、帯電防止層の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。特に好ましいものはポリエチレンオキサイドである。重量平均分子量で200〜2000のものがさらに好ましい。
【0054】
本発明において、化合物(B)として特に好ましい様態としては、ポリグリセリン(b2)および、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(b3)である。
【0055】
化合物(C)はポリウレタン樹脂である。
本発明におけるポリウレタン樹脂(C)とはウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性または水溶性のものが好ましい。本発明では単独でも2種以上を併用してもよい。
【0056】
水分散性または水溶性を付与させるためには、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をポリウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記の親水性基のなかでも、塗膜物性および密着性の点からカルボキシル基またはスルホン酸基が特に好ましい。
【0057】
本発明で用いる帯電防止層の構成成分であるポリウレタン樹脂を作成する方法の一つに、水酸基とイソシアネートとの反応によるものがある。原料として用いられる水酸基としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いても良い。
【0058】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0059】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
【0060】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6−ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0061】
これらの中でもポリエステルポリオールが好ましく、芳香環を有するポリエステルポリオールがさらに好ましい。
【0062】
ポリウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0063】
ポリウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用してもよく、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0064】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0065】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1 ,8−オクタンジアミン、1 ,9−ノナンジアミン、1 ,10−デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1 ,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0066】
また、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を用いて、ウレタン骨格にカルボキシル基を導入し、後に塩基性化合物で中和してウレタンを親水化する手法も好ましく用いられる。
【0067】
本発明において化合物(A)、(B)および(C)は、ハロゲン原子を含まないものを選択する上で特段の障害はない。よって本発明において帯電防止層をハロゲン不含有とすることは容易であり好ましい。
【0068】
本発明における帯電防止層には、フィルムへの塗布性を改良するため、界面活性剤(D)を含むことができる。この界面活性剤(D)としては、特にその構造中に(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むものを使用すると、得られる帯電防止層の帯電防止性を阻害せず、より好ましい。
【0069】
本発明における帯電防止層を形成するための塗布液には、必要に応じて、架橋反応性化合物を含んでいてもよい。架橋反応性化合物は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、帯電防止層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性を改良することができる。使用することのできる架橋反応性化合物としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系などのアミノ樹脂や、イソシアネート系、オキサゾリン系、エポキシ系、グリオキサール系などが好適に用いられる。他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれる。
【0070】
さらに必要に応じて、(C)以外のバインダー樹脂の1種もしくは2種以上を併用することができる。かかるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよい。複合構造を持つバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン、ビニル樹脂グラフトポリエステル、ビニル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。これらの樹脂を含有することで、得られる帯電防止層の強度や基材フィルムへの密着性を向上することができる。
【0071】
本発明における帯電防止層は、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、離型剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。また、これら添加剤としては、その構造中に、(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むものを使用すると、得られる帯電防止層の帯電防止性を阻害せず、より好ましい。
【0072】
また、帯電防止層の形成にはブロッキング、滑り性改良を目的として粒子を併用することも可能である。その平均粒径は積層ポリエステルフィルムの透明性の観点から好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下の範囲である。また、下限は滑り性をより効果的に向上させるために、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上である。粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。その中でも透明性の観点からシリカが好ましい。
【0073】
本発明によって設けられた帯電防止層中の化合物(A)の重量は通常0.5〜15mg/mで、好ましくは1〜9mg/m、さらに好ましくは2〜5mg/mである。化合物(A)の量がこれより少ないと、帯電防止性もしくは耐大気暴露性が不十分となることがある。またこれより多いとコストが増大し、着色がめだってくる。また延伸する場合に透明性の低下等の問題を起こすことがある。
【0074】
帯電防止層を形成する塗布液中の不揮発成分に対する化合物(A)の比率は、重量比率で通常1〜80%、好ましくは2〜30%、より好ましくは3〜15%、さらに好ましくは4〜15%である。化合物(A)の比率がこれより高いと、塗膜の強度、透明性または帯電防止性能が不十分となることがある。化合物(A)の比率がこれより低いと、帯電防止性能が不十分となったり、十分な帯電防止性能を付与するための塗膜が厚くなったりすることがある。塗膜が厚くなると外観・透明性の悪化や、フィルムのブロッキング、コストアップを招きやすくなる。
【0075】
塗布液中の不揮発成分に対する化合物(B)の比率は重量比率で通常1〜90%、好ましくは5〜85%、より好ましくは20〜85%、さらに好ましくは35〜50%である。この範囲を外れると、帯電防止性能や塗膜の外観が悪化しやすい傾向がある。
【0076】
塗布液中の不揮発成分に対する化合物(C)の比率は重量比率で通常2〜90%、好ましくは3〜70%、より好ましくは5〜60%、さらに好ましくは45〜60%である。この範囲より多い場合、帯電防止性能や透明性が悪化しやすい傾向がある。また、この範囲より少ない場合は塗膜の強度や耐水性が悪化しやすい傾向がある。
【0077】
塗布液中の不揮発成分に対する界面活性剤(D)の比率は重量比率で通常0〜20%、好ましくは0.1〜15%、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜5%である。この範囲で用いることによって、帯電防止層の帯電防止性を阻害されない範囲でフィルムの塗工性が十分に得られる。
なお、上記した塗布液中の不揮発成分に対する(A)〜(D)の含有割合は、本発明の積層ポリエステルフィルムにおける帯電防止層中の含有割合とも同義として扱うことができる。
【0078】
また、帯電防止層の厚みは、最終的に得られるフィルム上の帯電防止層の厚みとして、通常0.003μm〜1μmの範囲であり、好ましくは0.005μm〜0.1μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.05μmの範囲である。厚みが0.003μmより薄い場合には、帯電防止性能が不足する場合がある。また1μmより厚い場合、帯電防止層の外観の悪化や、ブロッキングしやすくなるなどの問題が生じることがある。
【0079】
本発明におけるポリエステルフィルムに関して、例えば、偏光板等、光学部材に貼り合わされた状態で検査を行う場合、高度な透明性が要求される。かかる観点より、高度な透明性に対応するためには、帯電防止層によるヘーズ上昇(ΔH)は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。ΔHが1.0%を超える場合には、視認性の低下に伴い、検査性が悪化する場合がある。
【0080】
本発明における帯電防止層とは、具体的には、表面抵抗率が低く、電荷を漏洩する機構を持つ塗布層のことである。帯電防止層の表面抵抗率が低いほど、帯電防止性が良好であるといえる。表面抵抗率が通常1×1012Ω以下であれば帯電防止性を持つと言え、好ましくは1×10Ω以下、さらに好ましくは1×10Ω以下であればきわめて良好な帯電防止性能と言える。表面抵抗率が上記範囲より大きい場合、摩擦、粘着層剥離等の際に帯電しやすく、異物や塵埃の付着、静電気放電障害等の問題が発生する場合がある。
【0081】
[離型層]
本発明では、帯電防止層と反対面に離型層を設けることで、粘着シートに使用する離型フィルムとして好適に使用できる。離型層に使用する塗布剤は限定されないが、硬化型シリコーン樹脂を含有することが好ましい。具体的には、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。
【0082】
硬化型シリコーン樹脂としては、具体例を挙げると、信越化学工業株式会社製KS−774、KS−775、KS−778、KS−779H、KS−847H、KS−856、X−62−2422、X−62−2461;ダウ・コーニング・アジア株式会社製DKQ3−202、DKQ3−203、DKQ3−204、DKQ3−205、DKQ3−210;東芝シリコーン株式会社製YSR−3022、TPR−6700、TPR−6720、TPR−6721;東レ・ダウ・コーニング株式会社製SD7220、SD7226、SD7229等が挙げられる。さらに離型層の剥離性等を調整するために剥離コントロール剤を併用してもよい。
【0083】
硬化型シリコーン樹脂の種類としては、付加型、縮合型、紫外線硬化型、電子線硬化型、無溶剤型等何れの硬化反応タイプでも用いることができる。これらの中でも、硬化過程において、ビニル基とケイ素−水素結合を有する基の付加反応を用いる付加型シリコーンが軽剥離、移行性や低温硬化性等優れた特性を有するため、好ましい。
【0084】
本発明で用いる付加型シリコーンにおいて、その架橋反応に関与するシロキサンのSiH基とビニル基の含有比(SiH/Vi比)は、通常の場合1.2〜10、好ましくは1.5〜7、より好ましくは2〜5である。
【0085】
本発明で用いる硬化型シリコーン樹脂の架橋剤であるポリハイドロジェンシロキサン化合物は通常知られている化合物を採用でき、特に制限はない。例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン−ポリメチルシロキサン共重合物等が挙げられる。
【0086】
本発明における離型層に使用する塗布剤の形態は特に規定されない。高粘度のシリコーンを溶剤に希釈して塗工するいわゆる溶剤型、低粘度のシリコーンをそのまま塗工する無溶剤型、水系の液に微分散させた水系分散型が例示できる。
【0087】
これらの中で塗工外観がとりわけ重視されるポリエステルフィルムにおいて、塗布剤の形態は溶剤型が好ましく用いられる。
【0088】
溶剤型で用いられる希釈溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類が例示でき、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独または複数混合して使用する。
【0089】
本発明の離型層に使用する塗布剤の粘度は特に限定されないが、使用形態および塗工設備に応じて選択される。溶剤型においては、30%トルエン溶液とした時の粘度で、好ましくは1000〜100000mPa・s、より好ましくは1000〜20000mPa・sであることが、塗工性等の面で好ましい。
【0090】
また、離型層の特性を調整するために塗布剤に反応調整剤、密着強化剤、剥離調整剤等の助剤を添加してもよい。
【0091】
剥離調整剤は特に制限は無いが、塗布剤の乾燥時にシロキサンポリマーと反応して中に取り込まれるタイプの剥離調整剤が移行性を抑えられるので好ましい。
【0092】
本発明において、ポリエステルフィルムに離型層を設ける方法としては、リバースロールコート、グラビアコート、バーコート、ドクターブレードコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0093】
本発明における離型層の塗布量は、離型層形成後の乾燥被膜として、通常0.01〜1g/mの範囲である。離型層の塗布量は、塗布剤の重量濃度と塗布面積、塗布剤の使用量から計算できる。塗布量がこれより少ない場合、均一な離型性を得ることが難しくなり、これより多い場合、ブロッキングなどの問題が生じてくる。
【0094】
なお、離型層の厚みを前述のように透過型電子顕微鏡にて断面から確認し、比重で割ることで塗布量を求めることもできる。一般的に硬化性シリコーンの比重は0.9〜1.2程度が多い。厚み0.1μmの離型層の塗布量は、比重1の時0.1g/mである。
【0095】
本発明において、シリコーン離型層の硬化処理におけるエネルギー源は特に限定されないが、熱処理、紫外線照射、電子線照射が例示できる。これら単独、あるいは組み合わせて用いられるが、熱処理単独、熱と紫外線の併用処理が好ましく用いられる。
【0096】
離型フィルムと粘着テープとの剥離力は、通常3〜50mN/cmであり、好ましくは5〜25mN/cmである。剥離力が上記範囲である場合、粘着剤が離型フィルムに移行したり、使用前に離型フィルムが浮いたりする不具合が発生しなくなる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0099】
(1)光線透過率の測定
分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3100PC型)により、スキャン速度を低速、サンプリングピッチを2nm、波長300〜700nm領域で連続的に光線透過率を測定し、380nm波長での光線透過率を検出した。
◎:380nm波長での光線透過率5%以下(液晶パネルが劣化しないレベル)
○:380nm波長での光線透過率10%以下(実用上問題ないレベル)
×:380nm波長での光線透過率11%以上(液晶パネルが劣化するレベル)
【0100】
(2)耐ブリードアウト性
150℃30分の加熱後、サンプルの表面を顕微鏡観察することにより、紫外線吸収剤の析出有無を確認する。
○:紫外線吸収剤の析出なし(実用上問題ないレベル)
×:紫外線吸収剤の析出あり(実用上問題あるレベル)
【0101】
(3)塗布層の透明性(帯電防止層によるヘーズ上昇)
JIS−K7136に準じて、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−2000によりフィルムのヘーズを測定した。帯電防止層を設けていないフィルムと塗布層を設けたフィルムのヘーズの差を計算し、帯電防止層を設けることによるヘーズの上昇(ΔH)を求め、帯電防止層の透明性として評価した。
【0102】
(4)帯電防止層の表面抵抗率(Ω)
下記(4−1)の方法に基づき、フィルム塗布層の表面抵抗率を測定した。(4−1)の方法では、1×10Ωより高い表面抵抗率は測定できないため、(4−1)で測定できなかったサンプルについては(4−2)の方法を用いた。
(4−1)三菱化学社製低抵抗率計:ロレスタGP MCP−T600を使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面抵抗率を測定した。
(4−2)日本ヒューレット・パッカード社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面抵抗率を測定した。
【0103】
(5)帯電防止層の耐水性
フィルムを40℃の温水に24時間浸漬した後、表面抵抗率を測定し、浸漬前後で比較した。
○:処理後の表面抵抗率の増大が10倍未満
×:処理後の表面抵抗率の増大が10倍以上
【0104】
(6)帯電防止層の厚み測定方法
帯電防止層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、帯電防止層の断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。なお、厚みは粒子の部分を含まない箇所で測定した。
【0105】
(7)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0106】
(8)平均粒径(d50:μm)の測定方法
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0107】
(9)離型層の剥離力測定方法
本発明で得られた離型フィルムの離型面に粘着テープ(日東電工株式会社製「No.31B」、基材厚み25μm)を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、23℃,50%RHの測定雰囲気で1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は株式会社インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3m/minの条件下、180°剥離を行った。
【0108】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次に燐酸0.04部および三酸化アンチモン0.035部を添加し、常法に従って重合した。すなわち、反応温度を徐々に上げて、最終的に280℃とし、一方、圧力は徐々に減じて、最終的に0.05mmHgとした。4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化してポリエステル(A)を得た。得られたポリエステルチップの溶液粘度IVは、0.65であった。
【0109】
<ポリエステル(B)の製造方法>
上記ポリエステル(A)を製造する際、平均粒径2.5μmの非晶質シリカを600ppm添加し、ポリエステル(B)を作成した。
【0110】
<ポリエステル(C)の製造方法>
上記ポリエステル(A)を製造する際、紫外線吸収剤として2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン]の濃度が10重量%となるように添加してポリエステル(C)を作成した。
【0111】
<帯電防止層>
また、帯電防止層を形成する塗布液に含有する組成物としては以下を用いた。
(A1):ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸からなる導電剤(アグファゲバルト社製、Orgacon ICP1010)を濃アンモニア水で中和してpH=9とした物。
(B1):前記式(3)でn=2であるポリグリセリン骨格へ、ポリエチレンオキサイドが平均4分子付加した化合物。
(B2):前記式(3)でn=2であるポリグリセリン。
(B3):ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量400)。
(C1):テレフタル酸282重量部、イソフタル酸282重量部、エチレングリコール62重量部、およびネオペンチルグリコール250重量部を成分とするポリエステルポリオールを(C1a)としたとき、(C1a)876重量部、トリレンジイソシアネート244重量部、エチレングリコール81重量部、およびジメチロールプロピオン酸67重量部を構成成分としたポリエステルポリウレタンをアンモニアで中和して水分散させたもの(濃度20%、25℃での粘度50mPa・s)
(C2):テレフタル酸315重量部、イソフタル酸299重量部、エチレングリコール74重量部、およびジエチレングリコール265重量部を成分とするポリエステルポリオールを(B2a)としたとき、(B2a)953重量部、イソホロンジイソシアネート267重量部、エチレングリコール56重量部、およびジメチロールプロピオン酸67重量部を構成成分としたポリエステルポリウレタンをアンモニアで中和して水分散させたもの(濃度23%、25℃での粘度30mPa・s)
(D1):下記式(4)に示す、側鎖にポリエチレンオキサイドを有する構造のノニオン性界面活性剤。(下記式(4)中のm、nは、エチレンオキサイドの付加モル数を示す整数であり、m+nの平均が10となるものを用いた。)
【0112】
【化4】
【0113】
離型層を形成する塗布剤は以下のようにして準備したものである。
<塗布剤の調整>
硬化型シリコーン樹脂:KS−847H(信越化学株式会社製) 100重量部
白金含有触媒:catPL−50T(信越化学株式会社製) 1重量部
これをMEK/トルエン/イソオクタンの混合溶媒(混合重量比率は1:4:5)にて希釈し、固形分濃度2重量%の塗布剤を作成した。
【0114】
実施例1:
ポリエステル(A)、(B)を重量比で80/20でブレンドしたものを表層、ポリエステル(A)、(C)を重量比で90/10でブレンドしたものを中間層の原料として、二台の押出機にそれぞれを供給し、285℃に加熱溶融した後、2種3層で厚み構成比が9/57/9になるよう共押出し、静電密着法を用いて表面温度45℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させて、未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら、ロール周速差を利用して縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、下記表1に示す水系の塗布液1を塗布し、テンター延伸機に導き、100℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、横方向に2%の弛緩処理を行い、乾燥後の厚みが0.03μmの帯電防止層を有するフィルム厚みが75μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムの特性を下記表3に示す。得られたポリエステルフィルムは優れたUV吸収性能と帯電防止性能を示し、良好であった。
【0115】
次にこのフィルムの帯電防止層と反対の面に、離型層の塗布剤を、乾燥後の塗布量が0.1g/mになるように、リバースグラビアコート方式により塗布した後、150℃、30秒間乾燥、熱処理することにより、ポリエステルフィルムの一方の面に帯電防止層、反対面に離型層が積層された離型フィルムを得た。このようにして得られたフィルムは表3に示すように優れた剥離力を示した。
【0116】
実施例2〜9:
実施例1において、帯電防止層の塗布液の組成を表1および表2に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。得られたフィルムは表3に示す特性を有し、UV吸収性能と帯電防止性を両立し、離型フィルムとしても剥離力は良好であった。
【0117】
実施例10、11:
実施例1において、中間層の配合比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。得られた特性を表3に示す。
【0118】
実施例12〜14:
実施例1において、厚み構成比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。得られた特性を表3に示す。
【0119】
実施例15:
実施例1において、離型層を設けないこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを得た。得られた特性を表3に示す。
【0120】
比較例1:
実施例1において、帯電防止層を設けないこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。でき上がったフィルムはUV吸収性能に優れるが、帯電防止性能が乏しい結果であった。
【0121】
比較例2〜4:
実施例1において、帯電防止層の塗布液の組成を表1および表2に示す組成に変更した以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。得られたフィルムは表3に示す特性を有し、UV吸収性能は優れているが、帯電防止性能、透明性、耐水性のいずれかが乏しくなる結果であった。
【0122】
比較例5:
実施例1において、中間層の配合比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルフィルム、次いで、離型フィルムを得た。得られたフィルムはUV吸収性能が乏しい結果であった。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、優れた帯電防止性能を有し、同時に紫外線吸収性能を兼ね備えており、例えば、偏光板等、光学部材の組み立て時に使用する離型フィルムとして好適に利用することができる。