(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用してフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高圧酸浸出し硫化剤を添加してニッケルコバルト混合硫化物(ミックスサルファイド)を得る湿式製錬法であるHPALプロセス等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理や、あるいはスラリー化する処理等が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉や微粒状から塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤と混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm〜30mm程度の大きさのペレットやブリケットと称せられる塊状物(以下、まとめて単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0005】
さて、ペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じるため、混合物を均一に混合し、またペレットを還元処理する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも非常に重要な技術である。なぜなら、生成したフェロニッケルが、例えば数10μm〜数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成したスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまうためである。このことから、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
また、製錬コストを如何に低く抑えることができるかについても重要な技術的事項であり、コンパクトな設備で操業できる連続処理が望まれている。
【0008】
ここで、上述した製錬方法におけるコストアップの一因としては、例えば使用する製錬炉の炉床の問題が挙げられる。すなわち、ニッケル酸化鉱石と還元剤等の成分とを含む混合物は、製錬炉内において高温で還元処理されるため、その混合物が製錬炉の炉床と反応して、その炉床を著しく損傷させてしまうことが多い。
【0009】
例えば、炉床の材質が金属製である場合には、生成したフェロニッケルと合金化したり、炭素質還元剤によって浸炭が進行して脆化することがある。さらに、炉床の材質が酸化物を主成分とする場合には、生成したスラグと反応し、そのスラグが炉床に染み込んでいくことにより、溶融したり、脆化することがある。
【0010】
そのため、炉床の上に床敷材として灰等を敷いて炉床を保護するようなことも行われるが、灰も主成分は酸化物であるため、生成したスラグと反応し、溶融又は半溶融の状態になって炉床まで傷めてしまうことが多い。
【0011】
このように、どのような炉床材や床敷材を用いても、炉床の寿命は短く、その結果として製錬コストを大きく引き上げる要因になっている。
【0012】
例えば、特許文献1には、回転炉床炉を用いて炭材内装ペレットを還元して還元鉄を製造する還元鉄の製造方法に関する技術が開示されており、具体的には、炭材内装ペレットと外装炭材を回転炉床炉に装入し、炭材内装ペレットの外装炭材内への埋没率が炭材内装ペレットの直径の0.5以上、1.0以下である状態で炭材内装ペレットを還元する方法が開示されている。また、この特許文献1には、再使用を繰り返すことにより外装炭材中の灰分及び還元ペレット粉の濃度が高くなると炉床面への付着等が起こり易くなるので、回収外装炭材の一部を系外に取り除く場合がある、ことも記載されている。
【0013】
炭材は、スラグと濡れ性が悪いため高温にしても反応しにくい。ところが、例えばフェロニッケルの製錬方法において、特許文献1のように炉内に炭材が存在する条件で還元を行うと、還元が限りなく進行してしまい、酸化鉄の一部を還元してニッケル品位の高いフェロニッケルを得ることはできない。また、特許文献1に記載されているように、炭材から生じた灰は、成分によって反応具合が異なるものの、還元ペレット粉等が混ざってしまうと反応が進み易くなり、溶融又は半溶融の状態になり炉床を傷めてしまう。炉床に損傷を与えた場合はもちろんであるが、毎回、外装炭材を炉から回収したり、回収外装炭材の一部を系外に取り除いたりすると、非常にコストがかかってしまい、安価に製錬できなくなってしまう。
【0014】
以上のように、例えばニッケル酸化鉱等の金属酸化物を原料とした製錬方法においては、改善すべき多くの技術的事項が残されており、特に、還元処理を行う製錬炉の炉床を長寿命化することは重要な技術的課題である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
≪1.本発明の概要≫
本発明に係る金属酸化物の製錬方法は、金属酸化物を原料として、炭素質還元剤により高温下で還元処理を行って還元物を得る製錬方法である。例えば、金属酸化物として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱を原料とし、その製錬原料に対して炭素質還元剤を用いて高温下で還元することでフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0029】
具体的に、本発明に係る金属酸化物の製錬方法は、金属酸化物と炭素質還元剤とを混合して得られた混合物を乾燥する乾燥工程と、乾燥させた混合物を予熱する予熱工程と、炉床が回転し、その炉床がグラファイトで構成されている回転炉床炉を用いて還元する還元工程と、得られた還元物を冷却する冷却工程と、を有する還元処理工程を含むことを特徴としている。
【0030】
このように本発明によれば、原料の金属酸化物を含む混合物に対し、上述した各工程における処理を施し、さらに還元工程における処理を炉床がグラファイトで構成されている回転炉床炉を用いて行うことによって、金属酸化物中に含まれる金属を効果的にメタル化して、しかも効率的な製錬処理を行うことができ、さらに製錬炉の寿命を向上させることができる。
【0031】
以下では、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)として、ニッケル酸化鉱の製錬方法を例に挙げて説明する。製錬原料であるニッケル酸化鉱は酸化ニッケルを少なくとも含むものであり、このニッケル酸化鉱の製錬方法では、原料中に含まれる酸化ニッケル等を還元することによってフェロニッケル(鉄−ニッケル合金)を製造することができる。
【0032】
なお、本発明は、金属酸化物としてニッケル酸化鉱に限定されるものではなく、製錬方法としても酸化ニッケル等を含むニッケル酸化鉱からフェロニッケルを製造する方法に限られるものではない。また、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0033】
≪2.ニッケル酸化鉱の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱の製錬方法は、製錬原料であるニッケル酸化鉱を炭素質還元剤等と混合、混練して混合物を作り、その混合物に対して還元処理を施すことによって、メタルであるフェロニッケルとスラグとを生成させる方法である。なお、メタルであるフェロニッケルは、還元処理を経て得られたメタルとスラグとを含む混合物から、そのメタルを分離することで回収することができる。
【0034】
図1は、ニッケル酸化鉱の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図1に示すように、このニッケル酸化鉱の製錬方法は、ニッケル酸化鉱と炭素質還元剤等の材料とを混合して混合物を得る混合処理工程S1と、得られた混合物を塊状化あるいは所定の容器に充填する還元投入前処理工程S2と、所定の温度(還元温度)で混合物を還元する還元処理工程S3と、還元処理により生成したメタルとスラグとを含む混合物からメタルを分離して回収する分離工程S4と、を有する。
【0035】
<2−1.混合処理工程>
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的に、混合処理工程S1では、製錬原料であるニッケル酸化鉱と、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー、炭素質還元剤等の、例えば粒径が0.2mm〜0.8mm程度の原料粉末とを所定の割合で混合して混合物を得る。
【0036】
製錬原料の鉱石であるニッケル酸化鉱としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。
【0037】
鉄鉱石としては、例えば鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0038】
下記表1に、原料であるニッケル酸化鉱と、鉄鉱石の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料の組成としては、これに限定されるものではない。
【0040】
また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0041】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石のニッケル酸化鉱の粒度と同等の大きさを有するものであることが好ましい。また、炭素質還元剤の混合量としては、例えば、形成される混合物内に含まれる酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、ペレット内に含まれる酸化第二鉄を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100%としたときに、5%以上60%以下の炭素量の割合となるように調整することができる。
【0042】
混合処理工程S1では、上述したようなニッケル酸化鉱を含む原料粉末を均一に混合することによって混合物を得る。この混合に際しては、混練を同時に行ってもよく、混合語に混練を行ってもよい。このように、原料粉末を混合、混練することにより、原料同士の接触面積が増し、また空隙が減少することによって、還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができる。これにより、還元反応の反応時間を短縮させることができ、かつ品質のばらつきが無くなる。その結果として、生産性の高い処理することができ、かつ高い品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0043】
また、原料粉末を混練した後、押出機を用いて押出してもよい。このように押出機で押出すことによって、より一層高い混練効果を得ることができ、原料粉末同士の接触面積が増し、また空隙が減少させることができる。これにより、高品質のフェロニッケルを効率的に製造することができる。
【0044】
<2−2.還元投入前処理工程(前処理工程)>
還元投入前処理工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を、塊状物に塊状化し、あるいは容器に充填する工程である。すなわち、この還元投入前処理工程S2では、原料粉末を混合して得られた混合物を、後述する還元処理工程S3にて使用する炉に投入し易くし、また効率的に還元反応が起こるように成形する。
【0045】
(混合物の塊状化)
得られた混合物を塊状化する場合には、その混合物を塊状物に形成(造粒)する。具体的には、得られた混合物に対して塊状化に必要な所定量の水分を添加し、例えば塊状物製造装置(転動造粒機、圧縮成形機、押出成形機など)等を用いて塊(以下、「ペレット」ともいう)に成形する。
【0046】
ペレットの形状としては、特に限定されず、例えば球状とすることができる。球状のペレットであることにより、還元反応が比較的均一に進み易く好ましい。また、ペレット状にする塊状物の大きさとしては、特に限定されないが、例えば、乾燥処理(乾燥工程S31)、予熱処理(予熱工程S32)を経て、還元処理(還元工程S33)を行うために使用する製錬炉等に装入されるペレットの大きさ(球状のペレットの場合には直径)で、10mm〜30mm程度となるようにすることができる。なお、還元工程等については、詳しくは後述する。
【0047】
(混合物の容器への充填)
得られた混合物を容器に充填する場合には、その混合物を押出機等で混練しながら所定の容器に充填することができる。このように、容器に充填したのち、そのまま次工程の還元処理工程S3にて還元処理を行ってもよいが、容器に充填せいた混合物をプレス等により押し固めることが好ましい。容器内で混合物を押し固めて成形することによって、混合物の密度を上げることができるとともに、密度が均一化し、還元反応がより均一に進み易くなり、品質ばらつきの小さいフェロニッケルを製造することができる。
【0048】
容器内に充填する混合物の形状としては、特に限定されないが、例えば直方体、立方体、円柱等とすることが好ましい。また、その大きさについても特に限定されないが、例えば直方体形状や立方体形状であれば、概ね、縦、横の内寸が500mm以下であることが好ましい。このような形状、大きさとすることにより、品質ばらつきが小さく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0049】
<2−3.還元処理工程>
還元処理工程S3では、混合処理工程S1にて原料粉末が混合され、還元投入前処理工程S2にて塊状化あるいは容器に充填された混合物を、所定の還元温度に還元加熱する。還元処理工程S3における混合物の還元加熱処理により、製錬反応が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0050】
図2は、還元処理工程S3にて実行する処理工程を示す工程図である。
図2に示すように、本実施の形態における還元処理工程S3は、混合物を乾燥する乾燥工程S31と、乾燥させた混合物を予熱する予熱工程S32と、混合物を還元する還元工程S33と、得られた還元物を冷却する冷却工程S35と、を有する。また、好ましくは、還元工程S33を経て得られた還元物を所定の温度範囲に保持する温度保持工程S34を有する。
【0051】
ここで、還元工程S33における処理は、炉床が回転する回転炉床炉を用いて行われる。また、その回転炉床炉の炉床は、グラファイトで構成されていることを特徴としている。さらに、還元物を所定の温度範囲に保持する温度保持工程S34を実行する場合には、少なくとも、還元工程S33における処理と温度保持工程S34における処理とを回転炉床炉にて実行する。
【0052】
このように、これらの処理を回転炉床炉にて行うことによって、その回転炉床炉内の温度を高い温度で維持することができるため、それぞれの工程における処理の都度、温度を上げたり下げたりする等の必要が無くなり、エネルギーコストを大幅に低減することができる。また、回転炉床炉を用いた処理によれば、温度の制御や管理が容易になる。これらのことから、高い生産性でもって品質の良好なフェロニッケルを連続して安定的に製造することができる。
【0053】
さらに、グラファイトで構成されている炉床を有する回転炉床炉を用いて処理することにより、炉床とその炉床上に載置される混合物との反応を抑制することができ、その炉床上で還元反応を良好に進行させ、また、生成した還元物が炉床に張り付いて剥がれなくなり回収不可となることを防ぐことができる。
【0054】
(1)乾燥工程
乾燥工程S31では、原料粉末を混合して得られた混合物に対して乾燥処理を施す。この乾燥工程S31は、主に混合物中の水分や結晶水を飛ばすことを目的とする。
【0055】
混合処理工程S1にて得られた混合物には水分等が多く含まれており、そのような状態で還元処理時に還元温度のような高温まで急加熱すると水分が一気に気化、膨張し、塊状化した混合物が割れたり、場合によって破裂して粉々になってしまい、均一な還元処理を行うことが困難になる。そのため、還元処理を行うに先立ち、混合物に対する乾燥処理を施して水分を除去するようにし、ペレット等の破壊を防止する。
【0056】
乾燥工程S31における乾燥処理は、回転炉床炉に接続される形態で行われることが好ましい。回転炉床炉内において乾燥処理を施すエリア(乾燥エリア)を設けて実施することも考えられるが、このような場合、乾燥エリアでの乾燥処理が律速となって、還元工程S33における処理や温度保持工程S34における処理に影響を与える可能性がある。
【0057】
したがって、乾燥工程S31における乾燥処理は、回転炉床炉の炉外に設けられ、その回転炉床炉に接続された乾燥室にて行われることが好ましい。なお、詳しくは後述するが、
図3に、回転炉床炉1と、その回転炉床炉1に接続された乾燥室20の構成例を示す。このように、回転炉床炉1の炉外に乾燥室20を設けることで、後述する予熱、還元、冷却といった工程とは全く別に乾燥室を設計でき、望ましい乾燥処理、予熱処理、還元処理、冷却処理をそれぞれ実行し易くなる。例えば、原料に依存して混合物に水分が多く残存するような場合には、乾燥処理に時間がかかるため、乾燥室20の全長を長めに設計すればよく、または乾燥室20内での混合物の搬送速度が遅くなるように設計すればよい。
【0058】
乾燥室20における乾燥処理としては、例えば、混合物中の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように処理することができる。また、乾燥方法については、特に限定されないが、乾燥室20において搬送されてきた混合物に対し熱風を吹き付けることによって行うことができる。また、乾燥温度についても、特に限定されないが、還元反応がはじまらないようにする観点から、500℃以下とすることが好ましく、かつその500℃以下の温度で均一に乾燥することが好ましい。
【0059】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分の組成(重量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0061】
(2)予熱工程
予熱工程S32では、乾燥工程S31での乾燥処理により水分を除去した後の混合物を予熱(予備加熱)する。
【0062】
混合物を回転炉床炉に装入していきなり高温の還元温度まで上げてしまうと、熱応力によって混合物が割れたり、粉状になってしまったりすることがある。また、混合物の温度が均一に上がらず、還元反応にばらつきが生じ、生成されるメタルの品質がばらつくことがある。そのため、混合物に対して乾燥処理を施した後に、所定の温度にまで予熱することが好ましく、これにより混合物の破壊や還元反応のばらつきを抑えることができる。
【0063】
予熱工程S32における予熱処理は、乾燥処理と同様に、回転炉床炉の炉外に設けられた処理室にて行われることが好ましく、その回転炉床炉に接続された予熱室にて行われるようにすることが好ましい。なお、
図3に、回転炉床炉1に接続された予熱室30の構成例を示すが、この予熱室30は回転炉床炉1の炉外に設けられており、乾燥処理を行う乾燥室20から連続的に設けられている。このように、回転炉床炉1の炉外に設けられた予熱室30にて予熱処理を行うことによって、還元処理を実行する回転炉床炉1内の温度を高い温度で維持でき、加熱に要するエネルギーを大幅に節約することができる。
【0064】
予熱室30における予熱処理としては、特に限定されないが、予熱温度を600℃以上として行うことが好ましく、予熱温度を700℃以上1280℃以下として行うことがより好ましい。このような範囲の予熱温度で処理することによって、続く還元処理における還元温度まで再加熱する際に必要なエネルギーを大幅に削減することができる。
【0065】
(3)還元工程
還元工程S33では、予熱工程S32にて予熱した混合物を所定の還元温度で還元処理する。具体的に、還元工程S33における還元処理は、炉床が回転し、その炉床がグラファイトで構成されている回転炉床炉を用いて行われる。
【0066】
このように、回転炉床炉を用いて還元処理を行うことにより、炉内の温度を高い温度範囲に維持することができ、温度を上げたり下げたりする必要がなく、エネルギーコストを大幅に低減することができる。また、温度の制御や管理が容易となり、高い品質のフェロニッケルを安定的に生産することができる。
【0067】
(回転炉床炉の構成)
ここで、
図3は、炉床が回転する回転炉床炉の構成例を示す図(平面図)である。
図3に示すように、回転炉床炉1は、炉床が回転する領域10を有し、領域10は4つ分割されてそれぞれで処理室(10a,10b,10c,10d)を構成している。
【0068】
具体的に、この回転炉床炉1においては、例えば、符号「10a」〜「10d」の4つすべての処理室を、還元処理を行う還元室とすることができる。また、還元工程S33における処理の後に後述する温度保持工程S34を実行する場合には、例えば、処理室「10a」、「10b」、「10c」を還元室とし、処理室「10d」を温度保持工程S34における処理を行う温度保持室とすることができる。
【0069】
各工程間、すなわち各処理室間は、反応温度を厳密に制御してエネルギーロスを抑制するために、仕切り壁で仕切られた構成とすることが好ましい。このように、各工程の亜大を仕切ることが可能な構造を有する回転炉床炉によれば、後述するように、還元工程S33における処理と温度保持工程S34における処理とを、エネルギーロスを抑制しながら、同一の回転炉床炉を用いて行うことができる。ただし、仕切り壁が固定式のものであると、工程間の搬送や、特に回転炉床炉への装入及び排出が困難となる可能性があるため、その仕切り壁としては、処理物の移動に差し支えることがない程度に開閉できる構造とすることが好ましい。
【0070】
なお、炉床が回転する領域10を分割して形成される処理室の数としては、
図3に例示する4つに限られるものではない。また、還元室の数や温度保持室の数についても、上述した例に限られず、処理時間等に応じて適宜設定することができる。
【0071】
また、
図4(a)は、回転炉床炉1の処理室の部分における垂直断面図であり、
図4(b)は、回転炉床炉1の処理室を上部から視たときの平面図である。回転炉床炉1は、
図4(a)に示すように、金属製炉床台(以下、単に「炉床台」ともいう)11と、その炉床台11上に構成される炉床12と、を備えている。そして、回転炉床炉1においては、その炉床12がグラファイトにより構成されている。
【0072】
このように、炉床がグラファイトにより構成された回転炉床炉を用いることにより、炉床とその炉床上に載置される混合物との反応を抑制することができる。還元処理により得られる還元物(メタルとスラグとの混在物)は、グラファイトを構成する炭素との濡れ性が悪く、反応し難いものである。このため、グラファイトにより構成される炉床を設けることで、炉床とその炉床上に載置される混合物との反応を抑制することができる。したがって、得られる還元物中のスラグが、グラファイトで構成される炉床に染み込むようなことがなく、その炉床上で還元反応が良好に進行するとともに、生成した還元物が炉床に張り付いて剥がれなくなり回収不可となることを防ぐことができる。また、炉床を損傷することを防ぐことができ、そのことにより、製錬炉の寿命を向上させることができる。
【0073】
回転炉床炉1は、上述したように、平面上に回転移動する炉床を備えており、混合物を載置した炉床が所定の速度で回転移動することで、それぞれの処理室(10a,10b,10c,10d)を通過し、その通過の際に処理が行われる。なお、
図3中の回転炉床炉1上の矢印は、炉床の回転方向を示すとともに、処理物(混合物)の移動方向を示す。
【0074】
また、回転炉床炉1は、その炉外に設けられた乾燥室20と、予熱室30とが接続されており、上述したように、乾燥室20にて混合物に対する乾燥処理が施されたのち、乾燥後の混合物が予熱室30に移動して予熱処理され、予熱処理後の混合物が回転炉床炉1内に順次移されるようになっている。また、回転炉床炉1は、その炉外に設けられた冷却室40が接続されており、還元室又は温度保持室(10d)を経て得られた還元物がその冷却室40にて冷却処理される(後述する冷却工程S35)。
【0075】
(回転炉床炉における還元処理)
回転炉床炉1を使用した還元処理においては、ニッケル酸化鉱に含まれる金属酸化物である酸化ニッケルは可能な限り完全に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱と共に原料粉末として混合した鉄鉱石等に由来する酸化鉄は一部だけ還元して、目的とするニッケル品位のフェロニッケルが得られようにすることが好ましい。
【0076】
具体的に、還元温度としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したメタル(フェロニッケルメタル)を生成させることができる。またより好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0077】
還元処理に際しては、上述した範囲の還元温度になるまで回転炉床炉1における還元室の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持する。
【0078】
ここで、本実施の形態においては、上述したように、炉床がグラファイトにより構成された回転炉床炉を用いて還元処理を行う。ニッケル酸化鉱の原料粉末を含む混合物に対する還元処理においては、得られるメタルやスラグと、炭素で構成されるグラファイトとの反応性が低いため、例えば生成したスラグが炉床に染み込んだり貼り付いたりすることを防ぐことができる。したがって、還元反応がより効率的にかつ効果的に生じるとともに、得られた還元物の回収に際しても容易に、しかも良好な回収率で回収することができる。
【0079】
(4)温度保持工程
必須の態様ではないが、還元工程S33を経て得られた還元物を、回転炉床炉内で所定の高い温度条件で保持する温度保持工程S34を行うようにしてもよい。このように、還元工程S33における所定の還元温度での還元処理により得られた還元物を、すぐに冷却するのではなく、高温の雰囲気で保持することによって、還元物中において生成したメタル成分を沈降させて粗大化させることができる。
【0080】
還元処理して得られた状態において還元物中のメタル成分が小さい場合、例えば200μm以下程度のバルク状のメタルであった場合には、その後の分離工程S4にてメタルとスラグとを分離することが困難になってしまう。このため、必要に応じて、還元反応が終わった後も引き続き一定時間に亘って還元物を高温保持することによって、還元物中のスラグよりも比重の大きいメタルを沈降、凝集させて、メタルを粗大化させる。
【0081】
なお、還元工程S33における還元処理により、製造上問題ないレベルまでメタルが粗大化している場合には、特にこの温度保持工程S34を設けることを必要としない。
【0082】
具体的に、温度保持工程S34における還元物の保持温度としては、1300℃以上1500℃以下の高温範囲とすることが好ましい。このような範囲で還元物を高温保持することによって、還元物中のメタル成分を効率よく沈降させて粗大なメタルとすることができる。なお、保持温度が1300℃未満であると、還元物の多くの部分が固相となるため、メタル成分が沈降しないか、沈降した場合であっても時間を要してしまい好ましくない。一方で、保持温度が1500℃を超えると、得られた還元物と炉床材との反応が進行して、還元物を回収できなくなることがあり、また、炉を損傷させてしまうことがある。
【0083】
ここで、温度保持工程S34における処理は、還元工程S33にて使用する回転炉床炉1内において、還元処理に続いて連続的に行うようにする。すなわち、
図3を用いて説明したように、回転炉床炉1において、例えば、処理室「10a」、「10b」、「10c」を還元室とし、処理室「10d」を温度保持工程S34における処理を行う温度保持室とし、還元室(10a、10b、10c)を通過して得られた還元物を、温度保持室(10d)にて所定の温度範囲に保持させる。
【0084】
このように、還元処理を経て得られた還元物を所定の温度に保持する処理を、回転炉床炉1を用いて連続的に行うことによって、還元物中のメタル成分を効率的に沈降させて粗大化させることができる。しかも、還元工程S33における処理と、温度保持工程S34における処理とを別々の炉ではなく、回転炉床炉1を用いて連続的に行うことで、各処理間におけるヒートロスを低減して効率的な操業を可能にする。
【0085】
しかも、その回転炉床炉1は、炉床がグラファイトにより構成されているため、その炉床とメタルやスラグとの反応を抑制することができ、メタルの粗大化をより良好に進行性させることができる。
【0086】
(5)冷却工程
冷却工程S35では、還元工程S33を経て得られた還元物、または温度保持工程S34にて所定の時間に亘り高温保持した後の還元物を、続く分離工程S4にて分離回収できる温度まで冷却する。
【0087】
冷却工程S35は、上述したように得られた還元物を冷却する工程であるため、回転炉床炉1の炉外に接続された冷却室にて行うことが好ましい。なお、
図3に、回転炉床炉1に接続された冷却室40の構成例を示すが、この冷却室40は回転炉床炉1の炉外に接続して設けられている。このように、回転炉床炉1の炉外に設けられた冷却室40にて冷却処理を行うことによって、回転炉床炉1の内部温度の低下を防ぐことができ、エネルギーロスを抑えることができる。これにより、効率的なフェロニッケルの生産を可能とする。
【0088】
ここで、本実施の形態においては、上述したように、炉床がグラファイトにより構成された回転炉床炉を用いて、還元処理や温度保持処理を行っている。そのため、その炉床と、生成した還元物中のメタルやスラグとの反応を抑制することができ、還元物が炉床に貼り付いてしまう等の不具合を防ぐことができ、容易に回収することができる。
【0089】
したがって、冷却工程における処理を、回転炉床炉1の炉外に設けた冷却室40にて行う場合であっても、回転炉床炉1内で生成した還元物をスムーズに冷却室40に移行させることができ、効率的な操業を行うことができる。
【0090】
冷却工程S35における温度(以下、「回収時温度」ともいう)は、還元物が実質的に固体として扱える温度であって、できるだけ高い温度であることが好ましい。回収時温度をできるだけ高くすることにより、回転移動する回転炉床炉1の炉床が、予熱工程S32を実行する予熱室30との接続箇所に戻ったときでもヒートロスを低減でき、再加熱に要するエネルギーをより一層節約することができる。
【0091】
具体的に、回収時温度としては600℃以上とすることが好ましい。このように回収時温度を高い温度にすることによって、再加熱に要するエネルギーを大幅に削減でき、低コストで効率的な製錬処理を行うことができる。また、回転炉床炉1の内部における温度差の減少することによって、その炉床や炉壁等に加わる熱応力を減少させることができ、回転炉床炉1の寿命を大きく延ばすことができる。さらに、操業中の不具合も大幅に減らすことができる。
【0092】
またさらに、回収時温度を高くすることにより、炉床に用いたグラファイトにスラグが染み込んだり貼り付いたりすることを防ぐことができ、還元物の回収を容易にし、高い回収率を実現することができる。
【0093】
<2−4.分離工程>
分離工程S4は、還元処理工程S3にて生成した還元物からメタル(フェロニッケルメタル)を分離し回収する。具体的に、分離工程S4では、混合物を還元加熱処理することによって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)から、メタル相を分離して回収する。
【0094】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0095】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタル相を回収し、フェロニッケルの製品とすることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0097】
(混合処理工程)
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石と、バインダーと、炭素質還元剤である石炭粉(炭素含有量:85重量%、平均粒径:約190μm)とを、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。なお、炭素質還元剤は、酸化ニッケルと酸化鉄(Fe
2O
3)とを過不足なくメタルに還元するのに必要な化学当量の合計値を100%としたときに、炭素量で33%に相当する分量で含有させた。
【0098】
そして、混合機によって混合して得られた混合物を、二軸混練機によって混練した。
【0099】
(還元投入前処理工程)
次に、混練して得られた混合物を18つに分類し、それぞれの混合物試料を、パン型造粒機を用いてφ17±1.5mmの球状のペレットに成形した。
(還元処理工程)
次に、
図3に例示したような還元炉床炉1を用いて、18つに分類したそれぞれの混合物試料を用いて処理条件を変えて還元処理を行った。回転炉床炉1としては、
図3に示すように、その炉外に、ペレットを乾燥する乾燥室20と、乾燥室20に連続して設けられた予熱室30と、炉内における処理室10a〜10dを経て得られた還元物を冷却する冷却室40とが接続されているものを用いた。
【0100】
具体的には、9つのペレット試料を、還元炉床炉1の炉外に接続された乾燥室20に装入し、乾燥処理を施した。乾燥処理は、実質的に酸素を含まない窒素雰囲気中において、ペレット中を固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、250℃〜350℃の熱風をペレットに吹き付けることによって行った。下記表3に、乾燥処理後のペレットの固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0101】
【表3】
【0102】
続いて、乾燥処理後のペレットを、乾燥室20に連続して設けられた予熱室30に移行させ、予熱室30内の温度を700℃以上1280℃以下の範囲に保持して、ペレットに対する予熱処理を行った。
【0103】
続いて、予熱処理後のペレットを、回転炉床炉1の内部に移行させて還元処理及び温度保持処理を行った。具体的に、回転炉床炉1としては、炉床が回転移動する領域10を4分割して4つの処理室を備えるものとし、4つの処理室のうち、処理室10a〜10cを還元処理を実行する還元室と、処理室10dを還元物を高温保持する温度保持室とした。また、この回転炉床炉1においては、金属製炉床台の上に、グラファイトにより構成される炉床をセットした。
【0104】
なお、試料18に対する処理においては、セラミックからなる炉床を有する回転炉床炉を用い、その炉床上には、予め、灰(主成分はSiO
2であり、その他の成分としてAl
2O
3、MgO等の酸化物を少量含有するもの)を敷き詰めた。
【0105】
なお、還元物を高温保持する処理を行わない態様の実施例では、温度保持室の内部温度を0℃として、その温度保持室を通過させるのみとした。また、還元処理、又は、還元処理及び温度保持処理を経て得られた還元物については、回転炉床炉1に接続された冷却室に移行させ、窒素を流しながら速やかに室温まで冷却して大気中へ取り出した。なお、還元物の回転炉床炉から回収は、冷却室40に還元物を移行させる形態で行い、冷却室40に設置したガイドによって還元物を沿わせるようにして回収した。
【0106】
下記表4に、還元処理工程における還元処理及び温度保持処理の条件を示す。
【0107】
また、取り出した試料のニッケル品位をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100型)により分析し、ニッケルメタル率とメタル中ニッケル含有率とをそれぞれ算出した。なお、回収した試料は、湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタル(フェロニッケルメタル)を回収した。
【0108】
ここで、ニッケルメタル率は下記(i)式により、メタル中ニッケル含有率は下記(ii)式により、それぞれ算出した。
ニッケルメタル率=ペレット中のメタル化したNiの量÷(ペレット中の全てのNi量)×100(%) ・・・(i)
メタル中ニッケル含有率=ペレット中のメタル化したNiの量÷(ペレット中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%) ・・・(ii)
【0109】
また、還元物の回収時の回収率(以下、「還元物回収率」という)について、下記式(iii)により算出した。
還元物回収率=回収した還元物の重量÷(回収した還元物の重量+回収時に炉床に残った還元物の重量)×100(%) ・・・(iii)
【0110】
【表4】
【0111】
表4から分かるように、原料鉱石を含む混合物に対して、乾燥工程と、予熱工程と、炉床が回転する回転炉床炉を用いて還元する還元工程と、得られた還元物を冷却する冷却工程と、を少なくとも有する還元処理工程を実行することにより、ニッケル品位の高いフェロニッケルを得ることができ、回収率としても90%以上の高い回収率でニッケルを回収することができた。また、グラファイトで構成された炉床を備えた回転炉床炉を用いて還元処理することで、還元物回収率を100%とすることができた。
【0112】
一方、従来の回転炉床炉を用いて還元処理した試料18では、試料1〜17の結果に比して、還元物回収率が90%程度と低くなり、効率的に還元物を回収できなかった。