(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776942
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】工業炉の点検用覗き窓
(51)【国際特許分類】
F23M 11/04 20060101AFI20201019BHJP
F27D 21/02 20060101ALI20201019BHJP
C22B 19/02 20060101ALI20201019BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20201019BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
F23M11/04 101
F27D21/02
C22B19/02
C22B1/02
C22B7/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-34064(P2017-34064)
(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2018-138864(P2018-138864A)
(43)【公開日】2018年9月6日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智洋
【審査官】
吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−112306(JP,A)
【文献】
実開平01−123200(JP,U)
【文献】
実開平01−141755(JP,U)
【文献】
実開昭56−149250(JP,U)
【文献】
特開平08−049988(JP,A)
【文献】
特開2003−021326(JP,A)
【文献】
特開平06−313540(JP,A)
【文献】
特開平09−222217(JP,A)
【文献】
特開2010−007182(JP,A)
【文献】
米国特許第05306209(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23M 11/04
C22B 1/02
C22B 7/02
C22B 19/02
F27D 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業炉の外壁に設置されている点検用覗き窓であって、
前記外壁の方形の点検用開口部に設置されている窓板設置箱と、
前記窓板設置箱の外側開口部に形成されている窓枠と、
前記窓枠に載置されている方形の耐熱ガラスからなる窓板と、
前記窓板設置箱の一側面に設置されていて、該窓板設置箱の内部空間にパージ用の気体を供給する気体供給部と、を備え、
前記窓板設置箱は、前記点検用開口部の外縁から前記工業炉の外部に向けて連接して立ち上がる枠板によって4つの側面が形成されていて、
前記窓枠は、方形の前記窓板に対応する四辺のうち上方の一辺が開放されていて、底辺及び両側辺の三辺には前記窓板の端部を挟持することができる一対の窓板挟持板が形成されていて、
前記窓板の各表面と、前記窓板挟持板の各内側表面との間の距離の平均値である窓板端面隙間幅が0.5mm以上であって、
前記窓板の各側辺と前記窓枠の対向する各側辺との間の距離の平均値である窓板側辺隙間幅が0.5mm以上である、工業炉の点検用覗き窓。
【請求項2】
前記窓板端面隙間幅が2.5mm以下であって、前記窓板側辺隙間幅が2.5mm以下である請求項1に記載の工業炉の点検用覗き窓。
【請求項3】
前記窓板が、横幅100mm以上300mm以下で縦高さ100mm以上300mm以下の耐熱ガラスである請求項1又は2に記載の工業炉の点検用覗き窓。
【請求項4】
前記窓板設置箱における前記気体供給部の設置面には、前記窓板に対して平行に該窓板の横幅又は縦長さと略同長の貫通スリットである気体供給スリットが形成されていて、
前記気体供給部は、該気体供給スリットの略全体にパージ用の気体を通過させながら、前記窓板設置箱の内部に該パージ用の気体を供給することができる態様で設置されている、請求項1から3のいずれかにに記載の工業炉の点検用覗き窓。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の工業炉の点検用覗き窓を備えるロータリーキルン。
【請求項6】
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントであって、還元焙焼工程用のロータリーキルン、及び/又は、乾燥加熱工程用のロータリーキルンとして、請求項5に記載のロータリーキルンを備える酸化亜鉛鉱の製造プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業炉の点検用覗き窓に関する。より詳しくは、本発明は、工業炉の気相部外壁に設置することにより、運転中の炉内の状態を炉外から観察することができる点検用覗き窓に関する。
【背景技術】
【0002】
熔解炉、焙焼炉等の工業炉内で進行している熔融、焙焼状態等を目視或いは監視カメラ等にて確認するために、これらの工業炉の外壁には、通常、その内部を必要に応じて観察することができる点検用覗き窓が設置されている。
【0003】
例えば、酸化亜鉛鉱の製造プロセス等において用いられるロータリーキルン(
図1参照)にも、このような点検用覗き窓が設置されている。
図1に示す通り、ロータリーキルン10においては、通常、キルン本体4の排出端側にある炉前フード3に点検用覗き窓1が設置される。そして、この点検用覗き窓1を通して、キルン本体4の内部における炉内付着物(ベコ)5の生成状態やバーナー火炎6の状態の確認が行われる。
【0004】
旧来の工業炉においては、この点検用覗き窓は、キルン本体内の状況を確認する点検時にのみ開放可能な鉄製の扉等であることが一般的であった。しかしながら、点検用覗き窓を開放した状態での炉内の観察は、炉内の高温に起因する様々な危険から点検作業者の安全を守るための様々な制約が生じるため、望ましいだけの時間をかけて炉内の観察を十分に行うことは困難であった。
【0005】
これに対して、近年においては、ガラス窓を通して炉内の状態を視認可能な点検用覗き窓が各種の工業炉の外壁に設置されるようになっている。そして、このような構成の点検用覗き窓においては、炉内を視認できる態様で設置されるガラス窓が、炉内から発生する煤やダストの付着により視認性が低下することを防ぐために、ガラス窓の内側において、炉内から流出してくる熱気をエアカーテンで遮断する方式や(特許文献1参照)、或いはパージ用の気体を内側からガラス窓に吹き付けて汚れを吹き飛ばす方式(特許文献2参照)の覗き窓も既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭56−004753号公報
【特許文献2】特開2004−101036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラス窓を通して炉内を視認するタイプの上記いずれの点検用覗き窓においても、特にガラス窓を構成する窓板の外縁部周辺へのダストの付着や堆積を回避することは難しかった。これにより、短期間のうちに視認できる範囲がガラス窓の中央近傍部から覗くことのできる範囲のみに狭小化されてしまい、十分な炉内状態の把握に支障をきたすこととなる場合が多くあった。又、上記方式の点検用覗き窓は、いずれも窓板の設置構造が複雑であり、上述のように視認性が低下した場合であっても、その交換は容易ではなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて考案されたものであり、窓板を構成するガラス窓の外縁部周辺を含む全面におけるダストの付着堆積を十分に抑制可能で、且つ、ガラス窓の交換作業も容易に行うことができる、工業炉の点検用覗き窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ガラス窓を構成する窓板の周囲に意図的に適切な幅の隙間が形成されるようにして、供給されたパージ用の気体の一部がその隙間を通じて窓板の外縁部を通過する構造とすることにより、構造が簡単で、窓板の外縁部周辺へのダストの付着、堆積が発生せず、又、一定期間使用後の窓板の交換も容易に行うことができることに想到し、本発明を完成させるに至った。より、具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 工業炉の外壁に設置されている点検用覗き窓であって、前記外壁の方形の点検用開口部に設置されている窓板設置箱と、前記窓板設置箱の外側開口部に形成されている窓枠と、前記窓枠に載置されている方形の耐熱ガラスからなる窓板と、前記窓板設置箱の一側面に設置されていて、該窓板設置箱の内部空間にパージ用の気体を供給する気体供給部と、を備え、前記窓板設置箱は、前記点検用開口部の外縁から前記工業炉の外部に向けて連接して立ち上がる枠板によって4つの側面が形成されていて、前記窓枠は、方形の前記窓板に対応する四辺のうち上方の一辺が開放されていて、底辺及び両側辺の三辺には前記窓板の端部を挟持することができる一対の窓板挟持板が形成されていて、前記窓板の各表面と、前記窓板挟持板の各内側表面との間の距離の平均値である窓板端面隙間幅が0.5mm以上であって、前記窓板の各側辺と前記窓枠の対向する各側辺との間の距離の平均値である窓板側辺隙間幅が0.5mm以上である、工業炉の点検用覗き窓。
【0011】
(1)の発明においては、工業炉の外壁に設置されている点検用覗き窓を、ガラス窓を構成する窓板の周囲に意図的に隙間を形成し、供給されたパージ用の気体の一部が当該窓板の外縁部を通過して適度に外部に漏出する構造とした。従来の厳密な密閉構造とは全く設計思想の異なるこのような構造の点検用覗き窓によれば、ガラス窓を構成する窓板の外縁部周辺を含む窓板全面に十分な気流を通過させることができ、これにより、ダストの付着堆積をガラス窓全体において十分に抑制することができ、且つ、窓枠への窓板の着脱が容易であり、交換作業も迅速に行うことができる。
【0012】
(2) 前記窓板端面隙間幅が2.5mm以下であって、前記窓板側辺隙間幅が2.5mm以下である(1)に記載の工業炉の点検用覗き窓。
【0013】
(2)の発明によれば、前記窓板端面隙間幅が2.5mm以下であって、窓板側辺隙間幅が2.5mm以下であるため、気体供給部から供給されるべき必要なパージ用の気体量の増大によるランニングコストや排ガス流量の増大を回避することができる。また、窓板が窓枠から外れることも無い。
【0014】
(3) 前記窓板が、横幅100mm以上300mm以下で縦高さ100mm以上300mm以下の耐熱ガラスである(1)又は(2)に記載の工業炉の点検用覗き窓。
【0015】
(3)の発明によれば、窓板及び点検用開口部の横幅と縦高さが、それぞれ100mm以上であることにより、炉内の状態を観察するために必要十分な視野が確保しやすい。一方で窓板の横幅と縦高さをいずれも300mm以下とすることで、重量増大による窓板の交換作業の容易性の低下、或いは、気体供給部から供給されるべき必要なパージ用の気体量の増大によるランニングコストや排ガス流量の増大を回避することができる。よって、窓板の横幅と縦高さを上記範囲とすることができるように工業炉の点検用覗き窓の全体設計を行うことが好ましい。
【0016】
(4) 前記窓板設置箱における前記気体供給部の設置面には、前記窓板に対して平行に該窓板の横幅又は縦長さと略同長の貫通スリットである気体供給スリットが形成されていて、前記気体供給部は、該気体供給スリットの略全体に気体を通過させながら、前記窓板設置箱の内部に前記パージ用の気体を供給することができる態様で設置されている、(1)から(3)のいずれかに記載の工業炉の点検用覗き窓。
【0017】
(4)の発明によれば、窓板設置箱内へのパージ用の気体の供給を窓板の幅と略同長の貫通スリットである気体供給スリットを通じて行うこととした。これによれば、(1)から(3)のいずれかに記載の工業炉の点検用覗き窓における、ガラス窓の隅々までダストの付着堆積を抑制するという特段の効果を、より少ないガス量で効率よく発現させることができる。
【0018】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の工業炉の点検用覗き窓を備えるロータリーキルン。
【0019】
(5)の発明によれば、(1)から(4)のいずれかの工業炉の点検用覗き窓を備えるロータリーキルンの導入により、ロータリーキルンを用いた各種の製造プラントにおける、ロータリーキルンの保守容易性と稼働率の向上に寄与することができる。
【0020】
(6) ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントであって、還元焙焼工程用のロータリーキルン、及び/又は、乾燥加熱工程用のロータリーキルンとして、(5)に記載のロータリーキルンを備える酸化亜鉛鉱の製造プラント。
【0021】
(6)の発明によれば、(5)に記載のロータリーキルンの導入により、特に酸化亜鉛鉱の製造プラントの稼働率向上や経済性の向上に寄与することができる。工業炉の点検用覗き窓は、上述の通り、窓枠と窓板との間に意図的に隙間が形成されるようにすることにより、当該隙間から気流を漏出させる非密閉構造とした。このため、厳密に気密性が要求される工業炉、例えば多量の一酸化炭素ガスが発生する製鉄業の高炉等には適用することができない。しかしながら、酸化亜鉛鉱の製造プラントを構成する還元焙焼工程用のロータリーキルン、乾燥加熱工程用のロータリーキルンにおいては、これらのロータリーキルンの排出端側は、通常、−5〜0mm水柱程度の微減圧下で排出端が炉外に開かれた状態で使用される。よって、上記各工程を行う酸化亜鉛鉱の製造プラントには、独特の非密閉構造からなる本発明の工業炉の点検用覗き窓を備えるロータリーキルンを、極めて好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、窓板を構成するガラス窓の外縁部周辺を含む全面におけるダストの付着堆積を十分に抑制可能で、且つ、ガラス窓の交換作業も容易に行うことができる、工業炉の点検用覗き窓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の工業炉の点検用覗き窓を設置したロータリーキルンの構成概略を示す模式図である。
【
図2】本発明の工業炉の点検用覗き窓の斜視図である。
【
図3】本発明の工業炉の点検用覗き窓の断面図である。
【
図4】本発明の工業炉の点検用覗き窓の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、主として、本発明の工業炉の点検用覗き窓を適用する工業炉が、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて用いられる大型のロータリーキルンである場合の具体例について、その詳細を説明する。但し、本発明は、以下に説明するこの実施形態に限定されるものではなく、工業炉の気相部の外壁に設置してその内部状態を観察するための点検用覗き窓として、上記のロータリーキルンに限らず、その他の様々な工業炉への適用が可能である。
【0025】
<ロータリーキルン>
先ず、本発明の工業炉の点検用覗き窓(以下、単に「点検用覗き窓」とも言う)を設置したロータリーキルンについて、その全体構成及び好ましい使用の態様につき説明する。
【0026】
図1は、点検用覗き窓1を備えるロータリーキルン10の基本構成と、ロータリーキルン10の運転時における、キルン本体4、焼成物の排出口側に設けられる炉前フード3、炉内付着物(ベコ)5、バーナー火炎6と、点検用覗き窓1の一般的な位置関係を表した模式図である。ロータリーキルン10においては、炉前フード3に点検用覗き窓1が設けられ、点検作業者2は点検用覗き窓1より、ベコ5の生成状態、バーナー火炎6の状態を観察して点検することができる。この観察は目視によるものでもよいし、例えば、点検用覗き窓1に接続したカメラによって撮影された映像を確認する態様によるものであってもよい。
【0027】
キルン本体4は、耐火性を備える円筒形の釜であり、金属シェルの内面にモルタルや耐火煉瓦等の耐火物が貼設されている構成が一般的である。炉前フード3は、所定の耐熱性を有する金属部材等からなり、各プラント毎に求められる所定の精度の範囲内で、キルン本体4から排出される排ガスの拡散を防止可能なものであればよい。
【0028】
ロータリーキルン10においては、排出口側に設置されたバーナー(図示せず)から噴射されるバーナー火炎6により、キルン本体4の内部を1100℃〜1300℃程度の高温に加熱し、キルン本体4を円筒形状の中心軸を回転軸として回転させながら、粗酸化亜鉛等の被焼成物を排出口の方向に向かって撹拌しつつ移動させ、その過程で被焼成物の焙焼又は焼成を行う。
【0029】
このようなロータリーキルン10の運転において、キルン本体4の内壁に被処理物の熔融物等が付着し成長することがある。この炉内付着物は、一般にベコ或いはリングとも称される。本明細書においては、このような炉内付着物を「ベコ」と総称するものとする。
図1に示すように、ロータリーキルン10では、キルン本体4の内壁のうちでも、特に高温となる排出端側、中でもバーナー火炎6の先端部近傍付近にとりわけ大量のベコが生成し成長しやすい。
【0030】
キルン本体4の内壁にベコ5が発生すると、ベコ5が被処理物の流動を妨げ、被処理物の滞留時間、即ち、被処理物が受ける熱量が増加する。そして、これにより、被処理物が熔融しやすくなり、ベコ5の成長が更に加速度的に進行する。すると、キルン本体4内の被処理物の流動が更に著しく妨げられ、これにより、ロータリーキルンの運転を停止してキルン本体4内を冷却した後、ベコ5の掘取り作業を行わなければならなくなる。この掘取り作業は、停止操作、冷却、昇温操作も伴うため、掘取り作業のために、一般的に3日以上の操業停止を余儀なくされる。又、キルン本体4内でベコ5が自然剥離し、大塊となって排出されると、シュート等の設備を閉塞させ、コンベア内に引っ掛かってコンベアを停止、損傷させるという深刻な障害を引き起こす場合もある。
【0031】
上記のような操業の長期停止や深刻な障害を回避するためには、ロータリーキルン10の運転中に、炉内の状況を定期的且つ継続的に観察し、ベコ5の生成状況に応じて、その生成の初期段階において、バーナーの燃焼状態の調整、キルン回転速度の変更等の対応をとることが不可欠である。本発明の点検用覗き窓1を設置したロータリーキルン10においては、この点検用覗き窓1を通して、上記のような定期的且つ継続的な観察を安全且つ十分に行うことができる。
【0032】
<点検用覗き窓>
本発明の点検用覗き窓は、工業炉の外壁に形成されている点検用開口部に設置される点検用覗き窓である。ここで本明細書において「工業炉の外壁」とは燃焼炉の炉内と炉外との間を隔離する壁構造であり、これに開口部を設けることによって当該開口部から炉内が視認可能となる位置に配置されている壁構造全般のことを言うものとする。
図1のロータリーキルン10においては、炉前フード3もロータリーキルン10の外壁の一部であってこれに該当する。回転加熱炉であり、キルン本体4の排出端側に多量のベコが生成しやすいロータリーキルン10においては、ロータリーキルン10の炉前フード3において排出端近傍のベコ5及びバーナー火炎6の状態を視認によりできるだけ観察しやすい位置に方形の貫通孔として点検用開口部を形成することが好ましい。そして、このように設計された点検用開口部の位置に併せて点検用覗き窓1を設置する。尚、本明細書においては、このように工業炉の外壁に形成されていて、炉内を視認可能に外壁を貫通して形成されている開口部のことを、点検用開口部と言うものとする。
【0033】
図2〜4に示す通り、点検用覗き窓1は、窓板設置箱11、窓板設置箱11の外側開口部に形成されている窓枠12、窓枠12に載置されている方形の窓板13、及び、窓板設置箱11の内部空間にパージ用の気体を供給する気体供給部14を必須の構成要件とする。そしてこのような構成からなる点検用覗き窓1は、内部観察用の窓板が交換容易な態様で窓枠と一体化されてなる工業炉用の付属部材であり、ロータリーキルン10等の工業炉の外壁に設置された状態で用いられる。
【0034】
点検用覗き窓1を構成する窓板設置箱11は、方形の点検用開口部の外縁からロータリーキルン10の外部に向けて連接して立ち上がる枠板によって、その4つの連接する側面が形成されている。窓板設置箱11の点検用開口部側の面は点検用開口部の大きさと形状に合わせた開放構造となっている。又、窓板設置箱11の他方の面、即ち、外側開口部には窓枠12が形成されていて、この窓枠12に窓板13を構成するガラス窓が本願特定の態様で載置されている。
【0035】
窓枠12には、
図2〜4に示すように、方形の窓板13に対応する四辺のうち上方の一辺が開放されていて、底辺及び両側辺の三辺には窓板13の端部を挟持することができる一対の窓板挟持板121が形成されている。このように窓板挟持板121が、上辺を除く三辺に形成されていることにより、窓枠12には、窓板13をその上方から簡易な作業で差し込んで載置することができ、又、窓板13の交換時には、上方に向けて容易にこれを窓枠から外すことができる。
【0036】
窓枠12は、これに載置して用いるガラス窓等の窓板13の横幅、厚みに対して、窓板13の載置時に、窓枠12と窓板13の各端部との間に所望の気流が通過することができる程度の隙間が空くような形状及び大きさで各部の形状等を形成したものとする。
【0037】
図3及び
図4に示すように、一対の窓板挟持板121は、窓板13の載置時における窓板13の各表面と対応する窓板挟持板121の各内側表面との間の距離s
1とs
1’との平均値(この値を、本明細書においては、「窓板端面隙間幅」と言うものとする)が、0.5mm以上、好ましくは0.5mm以上2.5mm以下となるように、点検用覗き窓1の各部を形成する。又、窓枠12は、窓板13の載置時における窓板13の各側辺と、これらに対向する窓枠12の各側辺との間の距離s
3とs
3’との平均値(この値を、本明細書においては、「窓板側辺隙間幅」と言うものとする)が0.5mm以上、好ましくは0.5mm以上2.5mm以下となるように点検用覗き窓1の各部を形成する。
【0038】
尚、窓枠12の内側表面に微小な凸部を形成し、窓板13をこれらの複数の点で支持することにより、窓板13と窓枠12との間の上記の各隙間を均等に確保してもよい。このようにすれば、例えば、窓板13と窓枠12の底辺との間の隙間幅s
2も任意の所定隙間幅として、確実に保持することができる。この場合、窓板13と窓枠12の底辺との間の隙間幅s
2が0.5mm以上、好ましくは0.5mm以上2.5mm以下となるように隙間幅を確保することが好ましい。
【0039】
点検用覗き窓1は、上記の「窓板端面隙間幅」及び「窓板側辺隙間幅」の各隙間幅が、上記幅となるように形成することにより、気体供給部14から窓板設置箱11内に供給されたパージ用の気体の一部が、当該各隙間を通って点検用覗き窓1の外部、即ち、窓板13の外側にも適切に漏出する構造とされている。これにより、後述の通り、窓板13の外縁近傍部分の隅々にまで到達し通過するパージ用の気体気流が生成され、これらの部分の汚れやダストの付着、堆積を防止することができる。このパージ用の気体気流の流動態様詳細については後述する。
【0040】
窓板13は、点検用覗き窓1が炉前フード3に設置された状態において、これを通して、キルン本体4内のベコ5やバーナー火炎6等の状態を視認可能な程度の透光性と、使用条件に応じて必要とされる耐熱性を有するものであればよい。例えば、所定サイズに切断形成された一般的な耐熱ガラスを好ましく用いることができる。窓板13として、必要に応じて耐熱性を有する偏光板を用いることもできるが、一般的な加熱炉においては、入手が容易且つ安価である点において、耐熱ガラス板を所定の寸法に切断したものを窓板13として用いることが好ましい。
【0041】
窓板13の大きさは、炉内状態の観察に必要とされる点検用開口部の大きさに合わせて任意の大きさの方形のガラスを用いることができる。一例としては、窓板の横幅が100mm以上300mm以下で縦高さが100mm以上300mm以下、又、厚さについては5mm以上25mm以下程度である耐熱ガラスを、生産性、経済性、交換容易性の観点から好ましい窓板の具体例として挙げることができる。一例として、300mm×300mm×10mmの一般的な耐熱ガラスの重量は、2〜3kg程度であり、手作業による交換も十分に可能である。
【0042】
気体供給部14は、窓板設置箱11の上述の4つの側面のうちの一側面、好ましくは、
図2等に示すように、窓板設置箱11の上面側の側面に設置される。又、気体供給部14は当該側面において、可能な限り窓板13の近傍部寄りに設置されることが好ましい。気体供給部14は、以下にその詳細を説明するパージ用の気体による気流を窓板設置箱11の内部空間に形成することできるものであればよい。例えば、気体供給部への気体の供給は、ファンやコンプレッサーのような加圧装置と配管やホースのような流送装置により行うことができる。尚、空気以外の不活性ガス等を供給する場合は、加圧装置の代わりにボンベを用いても良い。
【0043】
窓板設置箱11における気体供給部14の設置箇所には、気体供給部14から供給されるパージ用の気体が窓板設置箱11に流入することができるような位置に、この気体の通路となる開口部が形成される。この気体通路となる開口部は、窓板設置箱11内及び窓板13の周囲において、本願発明の効果を発現させるために必要な気流が形成可能な大きさ、形状及び配置であればよく、特定の形状等には限定されない。但し、
図3及び
図4に示すように、窓枠12と平行な貫通スリットであるもの(気体供給スリット141)が好ましい。この気体供給スリット141は、窓板13に対して平行に上記いずれかの側面に形成され、
図3及び
図4に示すように窓板設置箱11の上面に形成される場合は窓板13の横幅(同側面に形成される場合は窓板13の縦長さ)と略同長の貫通スリットであることが特に好ましい。これにより、より高い精度でパージ用の気体を窓板13の隅々まで行き渡らせることができる。
【0044】
図3及び
図4において、実線の矢印は空気又はその他の不活性ガス等からなるパージ用の気体の流れ(気流)を表している。これらのパージ用の気体の一部が、窓枠12と窓板13との間に敢えて意図的に形成した隙間を通して、点検用覗き窓1の外部にも漏れ出すことで、窓板の外縁近傍部分の隅々まで気流が通過し、当該部分の汚れやダストの付着、堆積を防止することができる。又、常に気流で押し流された状況を作ることにより、窓枠12においては、一対の窓板挟持板121の間の窪み部分へのダストの堆積も防止してダスト付着による窓板13の窓枠12への固着も防ぐことができる。
【0045】
空気等のパージ用の気体の供給流量は、炉側、即ちフード内の制御圧力によって変わるが、窓板13と窓枠12との隙間を通して、供給されたパージ用の気体の一部が点検用覗き窓の外部にも漏れ出す程度であればよい。例えば、窓板のサイズが、200mm×200mmであり、窓板端面隙間幅が1mm、窓板側辺隙間幅が1mm、窓板設置箱11の枠板の幅(箱の厚み)が約200mmであり、窓板設置箱11の内部空間の容積が8000cm
3程度である場合、1分当たり50〜250リットルのパージ用の気体を気体供給部14から窓板設置箱11へ供給することにより、本発明の上述の各効果が十分に発現する。
【0046】
<酸化亜鉛鉱の製造プラント>
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントは、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストからフッ素及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る乾燥加熱工程を順次行うプロセスを実施する工業プラントである。本発明は、このような酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、上記の還元焙焼工程で用いる還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)若しくは乾燥加熱工程で用いる乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)、或いは、同プラントにおけるそれら両方のロータリーキルンに設置する点検用の除き窓として好ましく用いることできる。
【0047】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程においては、鉄鋼ダストを還元材とともに予めペレット化した原材料等を、還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)によって還元焙焼する処理が行われる。この還元焙焼処理においては、被処理物の最高温度が1100〜1200℃程度になるように制御される。RRKには、クリンカーを排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。装入端側の排ガス温度は、400℃から700℃の範囲内の適切な温度で管理される。そしてRRKにおいては、カルシウム源として石灰石を投入することにより、炉内残留物の融点を上昇させ、キルン内にベコを付着させないように調節しているが、あえて燃焼状態が持続しやすいコークス等の炭材を使用していること、そして還元された金属鉄は一酸化炭素ガス濃度が低下すればキルン内で速やかに酸化され、酸化反応に伴い発熱することにより、特に排出端付近の残留物が高温になりやすく、これに起因して、炉内の排出端側にベコが生成しやすい。
【0048】
[湿式工程]
還元焙焼工程に続く湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストに含有される塩素、フッ素等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。
【0049】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程においては、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)に投入して焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。粗酸化亜鉛ケーキは、含水ケーキ状のまま、スクリューフィーダ等の定量装入装置によってDRKに投入される。DRKに投入された粗酸化亜鉛ケーキは、ロータリーキルンの内部の装入端側でペレット状に造粒され、次に乾燥され、加熱され、排出端側で焼成される。DRKには、酸化亜鉛鉱を排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。ロータリーキルンから排出される酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度は900℃以上1200℃以下の範囲となるように維持管理する。RRKと同様に、DRKにおいても、バーナーの火炎に近い排出端側の酸化亜鉛鉱が高温になりやすく、排出端側のキルン内にベコが生成しやすい。
【0050】
[点検用覗き窓の適用]
上述の通り、酸化亜鉛製造プラントを構成する上記の還元焙焼用ロータリーキルンや乾燥加熱用ロータリーキルンは、排出端側が−5〜0mm水柱程度の微減圧下で炉外に開かれた状態で使用されるため、厳密な気密性を敢えて排除するように形成されている点検用の覗き窓1を備えるロータリーキルンを極めて好ましく用いることができる。
【0051】
尚、一般に、還元雰囲気の回転炉の場合は炉内に外気(空気)が混入すると爆発を起こす場合があるとされるが、一般的な酸化亜鉛製造プラントの還元焙焼炉においては、ロータリーキルンの入り口側から反応用或いは揮発した亜鉛の搬送用の空気を導入し、同時に気流搬送中における再酸化を促進している。一酸化炭素の空気中の爆発限界は12.5体積%以上であり、それ以下で運転されるためである。そのため、パージ用の気体として必ずしも不活性ガスではなく、空気をパージ用の気体として導入しても何ら問題はない。よって、点検用の覗き窓1を酸化亜鉛製造プラントに導入する場合には、専用のパージガスやそれを供給するための専用機器等を用いずに、簡易な外気導入機器によってこれを形成することができるという点においても、本発明は、酸化亜鉛製造プラントに好適である。
【符号の説明】
【0052】
1 点検用覗き窓
10 ロータリーキルン
11 窓板設置箱
12 窓枠
121 窓板挟持板
13 窓板
14 気体供給部
141 気体供給スリット
2 点検作業者
3 炉前フード
4 キルン本体
5 炉内付着物(ベコ)
6 バーナー火炎