特許第6777029号(P6777029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777029
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】シリコンウェーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20201019BHJP
   H01L 27/11551 20170101ALI20201019BHJP
   H01L 27/11578 20170101ALI20201019BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20201019BHJP
   H01L 29/788 20060101ALI20201019BHJP
   H01L 29/792 20060101ALI20201019BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   H01L27/11551
   H01L27/11578
   H01L29/78 371
   H01L21/304 611W
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-134917(P2017-134917)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-16749(P2019-16749A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】高 奉均
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−232003(JP,A)
【文献】 特開2009−302163(JP,A)
【文献】 特開平10−249700(JP,A)
【文献】 特開平06−112120(JP,A)
【文献】 特開平06−106524(JP,A)
【文献】 特開平09−266206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/304
H01L 21/336
H01L 27/11551
H01L 27/11578
H01L 29/788
H01L 29/792
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの一方の主面に半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜するデバイス工程において前記シリコンウェーハがお椀型に反る場合に、前記デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反り改善量yを確保するために必要な前記シリコンウェーハの初期反り量x求めるステップと
シリコン単結晶インゴットを加工して前記デバイス工程中に生じる反りと同一形状で逆向きに反った前記初期反り量xを有するシリコンウェーハを製造するステップとを備え、
前記初期反り量xを求めるステップでは、前記シリコンウェーハの初期反り量x、前記シリコンウェーハの反り改善量y、係数aとするとき、y=axの計算式に基づいて前記初期反り量xを求め、
前記係数aは、前記デバイス工程中に生じる前記シリコンウェーハの反りの種類及び反り量xに基づいて定められる1以下の値であり、
前記反り量xと前記係数aとの関係式:a=−3.0×10+0.0001x+1に基づいて、前記反り量xに応じて変化する前記係数aを計算することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
シリコンウェーハの一方の主面に半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜するデバイス工程において前記シリコンウェーハが鞍型に反る場合に、前記デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反り改善量yを確保するために必要な前記シリコンウェーハの初期反り量x求めるステップと
シリコン単結晶インゴットを加工して前記デバイス工程中に生じる反りと同一形状で逆向きに反った前記初期反り量xを有するシリコンウェーハを製造するステップとを備え、
前記初期反り量xを求めるステップでは、前記シリコンウェーハの初期反り量x、前記シリコンウェーハの反り改善量y、係数aとするとき、y=axの計算式に基づいて前記初期反り量xを求め、
前記係数aは、前記デバイス工程中に生じる前記シリコンウェーハの反りの種類及び反り量xに基づいて定められる1以下の値であり、
前記反り量xと前記係数aとの関係式:a=−4.0×10−0.0002x+1に基づいて、前記反り量xに応じて変化する前記係数aを計算することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記半導体デバイス層は3DNANDフラッシュメモリを含む、請求項1又は2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの基板材料となるシリコンウェーハ及びその製造方法に関し、特に、3次元NANDフラッシュメモリ(以下、「3DNAND」という)等の高積層型半導体デバイスの基板材料として好適なシリコンウェーハ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近3DNANDが注目されている。3DNANDはメモリセルアレイを縦方向に積層化したNANDメモリであり、積層数(ワード線の層数)を例えば64層とすることでシングルダイ当たり512Gbit(64GB)という非常に大きな記憶容量を実現可能である。また従来のプレーナ型のNANDメモリのように平面方向の密度を上げるのではなく、高さ方向の密度を上げることによって大容量化のみならず書き込み速度の向上や省電力化にも優れた高性能なフラッシュメモリを提供することができる。
【0003】
半導体デバイスの製造ではデバイス構造を形成するために酸化膜、窒化膜、金属膜等の様々な材料の膜がシリコンウェーハ上に積層される。このような積層膜は、膜の性質と工程条件によって異なる膜応力を有することになり、積層膜の膜応力によってシリコンウェーハには反りが発生する。特に、3DNANDでは個々のメモリ素子を垂直に数十個以上重ねて作るため、それに伴い積層膜の数も幾何学的に増えてくることで、それに比例して膜応力も膨大に増加してシリコンウェーハの反りも大きく増加する。デバイス工程中にシリコンウェーハが大きく反ることで、成膜、加工、検査などの後続工程での処理が出来ない等の不具合が生じてしまう。
【0004】
3層以上の配線層を有する半導体装置の製造に関して、例えば特許文献1には、製造装置に依存せずかつ特殊層間膜の工程を用いることなく、シリコン基板の反りを所定値以下に抑えることが可能な半導体装置の製造方法が記載されている。この製造方法では、シリコン基板の厚さをT(μm)、直径をD(インチ)とし、配線層数をnとして、
T≧62.4×D×[1.6(n-1)+1.0]1/2
を満足する厚さを満足するシリコン基板を用いて半導体装置を製造する。
【0005】
また特許文献2、3には、中央部が凹んだお椀状の反りが付与されたエピタキシャル成長用シリコンウェーハの表面にエピタキシャル層を形成することにより、平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−266206号公報
【特許文献2】特開2008−140856号公報
【特許文献3】特開2010−34461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の半導体装置の製造方法は、配線層の膜応力が変わらないことを前提にしておりその工程依存性を無視している。実際には工程条件によって膜応力が変動しているので、単純に配線層数だけで反り量を評価することはできず、適用が難しい。また12インチシリコンウェーハにおいて配線層数を500層とする場合、上記計算式によればシリコンウェーハの厚さT≧777.1μmを満足すればよいことになるが、これは12インチウェーハの標準の厚さである775μmと殆ど変わらず、反りを抑える効果が見込めないことは明らかである。
【0008】
また、特許文献2、3に記載の技術は、エピタキシャル成長後のウェーハの反りを低減するために予め反りを持ったエピタキシャル成長用ウェーハを用いる方法であって、デバイス工程中のウェーハの反りを低減するものではない。すなわち、このようなエピタキシャルウェーハに半導体デバイス層を形成することによってウェーハが反ったとしてもエピタキシャルウェーハ自体が反りの抑制に寄与することはない。またエピタキシャル成長工程をデバイス工程の一部と見做したとしても、低減しようとする反り量に対して作り込む形状の反り量を計算する方法については明らかで無い。また、ウェーハがお椀状に反る場合のみで、鞍型に反るウェーハの場合には適用できない。
【0009】
シリコンウェーハの厚さ、形状などの仕様は、事前に反り量や反り形状とは関係なく規定されている。そのため、デバイス工程中にシリコンウェーハの反りが発生してもシリコンウェーハの仕様変更の基準がなく、ウェーハの反りに対応することはできなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、3DNAND等の半導体デバイスの製造工程中に生じるウェーハの反りを低減し、ウェーハが大きく反ることによって不具合が有った後続工程を問題なく実施することが可能なシリコンウェーハ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの一方の主面に半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜するデバイス工程において前記シリコンウェーハがお椀型又は鞍型に反る場合に、前記デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反り改善量yを確保するために必要な前記シリコンウェーハの初期反り量xを求め、シリコン単結晶インゴットを加工して前記デバイス工程中に生じる反りと同一形状で逆向きに反った前記初期反り量xを有するシリコンウェーハを製造することを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記シリコンウェーハの初期反り量x、前記シリコンウェーハの反り改善量y、係数aとするとき、y=axの計算式に基づいて前記初期反り量xを求めることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記シリコンウェーハの初期反り量xの計算に用いる前記係数aは、前記デバイス工程中に生じる前記シリコンウェーハの反りの種類の反り量xに基づいて定められる1以下の値であることが好ましい。係数aをデバイス工程により生じるウェーハの反り量に応じた1以下の値とすることで、できるだけ小さな初期反り量としながら大きな反り改善効果を発揮させることができる。
【0014】
前記デバイス工程において前記シリコンウェーハがお椀型に反る場合に、前記シリコンウェーハの初期形状は、前記デバイス工程中の反りの方向とは逆向きのお椀型であることが好ましい。すなわち、前記シリコンウェーハが下凸のお椀型に反る場合には、前記シリコンウェーハの初期形状を上凸のお椀型にすることが好ましく、前記シリコンウェーハが上凸のお椀型に反る場合には、前記シリコンウェーハの初期形状を下凸のお椀型にすることが好ましい。この場合において、前記反り量xと前記係数aとの第1の関係式:a=−3.0×10+0.0001x+1に基づいて、前記反り量xに応じて変化する前記係数aを計算し、当該係数aを用いてお椀型に反るシリコンウェーハの反り改善量yを算出することが好ましい。これによれば、ウェーハのお椀型の反りの低減に適したウェーハの形状及び初期反り量を求めることができる。
【0015】
前記デバイス工程において前記シリコンウェーハが鞍型に反る場合に、前記シリコンウェーハの初期形状は、前記デバイス工程中の反りの方向とは逆向きの鞍型であることが好ましい。この場合において、前記反り量xと前記係数aとの第2の関係式:a=−4.0×10−0.0002x+1に基づいて、前記反り量xに応じて変化する前記係数aを計算し、当該係数aを用いて鞍型に反るシリコンウェーハの反り改善量yを算出することが好ましい。これによれば、ウェーハの鞍型の反りの低減に適したウェーハの形状及び初期反り量を求めることができる。
【0016】
本発明において、前記半導体デバイス層は3DNANDフラッシュメモリを含むことが好ましい。上記のように、3DNANDフラッシュメモリはメモリセルアレイの積層数が非常に多いためウェーハの反りの問題が顕著である。すなわち、デバイス工程が進んで積層数が増加するとウェーハの反りも徐々に増加し、最上層に到達する前にウェーハの反り量が許容範囲を超えてこれ以上デバイス工程を進めることができなくなる事態が生じる。しかし本発明によれば、デバイスを形成する前のウェーハの段階からウェーハの反りを押さえ込む対策を講じることで反りの問題を改善することができ、デバイス工程を進めることが出来なくなる事態を回避することができる。
【0017】
また、本発明によるシリコンウェーハは、デバイス工程で一方の主面に半導体デバイス層を構成する多層膜が形成され、前記多層膜の膜応力によってお椀型又は鞍型に反るシリコンウェーハであって、前記膜応力によって生じる反りとは逆向きに反った初期形状を有することを特徴とする。本発明によれば、デバイス工程中の膜応力によりシリコンウェーハがお椀型又は鞍型に反る場合であっても、デバイス工程中に生じる反りとは逆向きで同一形状の反りがシリコンウェーハに予め付与されるようにシリコンウェーハの初期形状が作り込まれているので、デバイス工程中に生じるシリコンウェーハの反り量を所定値以下に低減することができる。
【0018】
本発明において、前記シリコンウェーハの初期反り量は200μm以下であることが好ましい。初期反り量が200μm以下であればシリコンウェーハの初期形状の反りによって成膜、加工、検査などの後続工程での処理が出来ない等の不具合が生じてしまう事態を回避することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デバイス工程中に生じるウェーハの反りを低減することができ、ウェーハが大きく反ることによって不具合が有った後続工程を問題なく実施することが可能なシリコンウェーハ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、平坦なシリコンウェーハに膜応力を付与したときに生じる反りの種類を説明するための模式図であって、(a)はお椀型の反り、(b)は鞍型の反りをそれぞれ示している。
図2図2は、シリコンウェーハに付与される膜応力によるウェーハの反り方の違いを説明するための模式図である。
図3図3は、本発明の実施の形態によるシリコンウェーハの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、下凸のお椀型の反りを有するシリコンウェーハの初期形状を示す略断面図である。
図5図5は、下凸のお椀型の反りが予め付与されたシリコンウェーハと上凸の反りを発生させる膜応力を有する薄膜との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの初期反り量、縦軸が成膜後のウェーハの反り量である。
図6図6は、鞍型の反りを有するシリコンウェーハの初期形状を示す略斜視図である。
図7図7は、鞍型の反りが予め付与されたシリコンウェーハと逆向きの鞍型の反りを発生させる膜応力を有する薄膜との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの初期反り量、縦軸が成膜後のウェーハの反り量である。
図8図8は、お椀型に反ったウェーハの反り量(x)と反り改善量(y)との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの反り量(μm)、縦軸は反り改善量(μm)をそれぞれ示している。
図9図9は、膜応力によってお椀型に反るウェーハの反り量(x)と係数aとの関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの反り量(μm)、縦軸は係数aの値をそれぞれ示している。
図10図10は、鞍型に反ったウェーハの反り量(x)と反り改善量(y)との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの反り量(μm)、縦軸は反り改善量(μm)をそれぞれ示している。
図11図11は、膜応力によって鞍型に反るウェーハの反り量(x)と係数aとの関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの反り量(μm)、縦軸は係数aの値をそれぞれ示している。
図12図12は、シリコンウェーハに異方性の膜応力を付与する成膜パターンの一例を示す略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、平坦なシリコンウェーハに膜応力を付与したときに生じる反りの種類を説明するための模式図であって、(a)はお椀型の反り、(b)は鞍型の反りをそれぞれ示している。
【0023】
シリコンウェーハの反り方にはお椀型と鞍型の2種類がある。平坦なシリコンウェーハに膜応力を付与したとき、等方性の膜応力であれば図1(a)に示すようにお椀型の反りが発生し、異方性の膜応力であれば図1(b)に示すように鞍型の反りが発生する。ここで、お椀型とは、ウェーハの外周部の全周が中央部よりも上方又は下方に変位した形状のことをいう。また鞍型とは、ウェーハのX方向及びY方向のいずれか一方の両端部が中央部よりも上方(又は下方)に変位し、ウェーハのX方向及びY方向のいずれか他方の両端部が中央部よりも下方(又は上方)に変位した形状のことをいう。
【0024】
図2は、シリコンウェーハに付与される膜応力によるウェーハの反り方の違いを説明するための模式図である。
【0025】
図2に示すように、反りのない平坦なシリコンウェーハの一方の主面(上面)に半導体デバイスを構成する配線層等の積層膜を成膜すると、当該シリコンウェーハに膜応力が生じ、これにより(a)に示すようなお椀型の反り、或いは(b)に示すような鞍型の反りが発生する。このようなウェーハの反りが大きくなると後続工程で様々な問題が生じる。
【0026】
シリコンウェーハが鞍型に反る理由は、シリコンウェーハ上に形成される膜の膜応力の符号が違うことで膜応力の異方性が生じるからである。例えば、図2に示すように、X方向の圧縮応力が支配的な配線層に加えて、X方向と直交するY方向に引張応力を有する配線層を成膜すると、X方向の圧縮応力が強調され、シリコンウェーハは鞍型に反ることになる。
【0027】
上記のようなデバイス工程中のシリコンウェーハの反りを抑制するため、本実施形態においては、デバイス工程中に生じるシリコンウェーハの反りの向きとは逆向きの反りを有するようにシリコンウェーハの初期形状を予め作り込む。例えば、成膜したときに上凸のお椀型の反り(図2(a))が生じる場合には、成膜前のシリコンウェーハには下凸のお椀型の反り(図4参照)を予め付与しておけばよい。逆に成膜したときに下凸のお椀型の反りが生じる場合には、成膜前のシリコンウェーハには上凸のお椀型の反りを予め付与しておけばよい。鞍型の反りの場合もお椀型と同様に考えることができる。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態によるシリコンウェーハの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0029】
図3に示すように、本実施形態によるシリコンウェーハの製造方法は、デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反りの種類及び反り量xに基づいて、ウェーハの初期反り量xの計算に用いる係数aを求める第1ステップS1と、シリコンウェーハの反り量xに基づいてシリコンウェーハの反り改善量yを定める第2ステップS2と、シリコンウェーハの反り改善量yと初期反り量xとの関係式y=axに反り改善量y及び係数aを代入することにより、シリコンウェーハの初期反り量xを求める第3ステップS3と、シリコン単結晶インゴットを加工してデバイス工程中に生じる反りと同一形状で逆向きに反った初期反り量xを有するシリコンウェーハを製造する第4ステップとを有している。
【0030】
シリコンウェーハの一方の主面に半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜する場合、反りの形状は多層膜の膜応力が等方性か異方性かによって異なり、等方性の場合にはお椀型の反り、異方性の場合には鞍型の反りが発生する。ここで、お椀型とは、ウェーハの外周部の全周が中央部よりも上方又は下方に変位した形状のことをいう。また鞍型とは、ウェーハのX方向及びY方向のいずれか一方の両端部が中央部よりも上方(又は下方)に変位し、ウェーハのX方向及びY方向のいずれか他方の両端部が中央部よりも下方(又は上方)に変位した形状のことをいう。
【0031】
シリコンウェーハの初期反り量xの計算方法は、デバイス工程中に発生する反りの種類によって異なる。上記のように、シリコンウェーハの反りはお椀型と鞍型に大別される。デバイス工程においてシリコンウェーハがお椀型に反る場合、a=−4.0×10−0.0002x+1の計算式を用いて係数aを求めることができ、またデバイス工程においてシリコンウェーハが鞍型に反る場合、a=−3.0×10+0.0001x+1の計算式を用いて係数aを求めることができる。このようにして、第1ステップS1では、シリコンウェーハの初期反り量xの計算に用いる係数aの値を求める。
【0032】
シリコンウェーハの反り改善量yは、シリコンウェーハの反り量xに基づいて決定することができる(第2ステップS2)。シリコンウェーハの反り改善量yは、シリコンウェーハの反り量xと同じ(y=x)であってもよく、反り量xよりも小さくてもよく(y<x)、反り量xよりも大きくてもよい(y>x)。シリコンウェーハの反り量(Warp)は、測定面から基準面を引いた値の最大値と最小値の差として定義することができる。
【0033】
デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反り改善量yを確保するために必要なシリコンウェーハの初期反り量xは、y=axの計算式から求めることができる(第3ステップS3)。ただし、シリコンウェーハが最初から反っていることにより生じるデバイス工程の不具合を防ぐため、シリコンウェーハの初期反り量xは200μm以下であることが好ましい。
【0034】
上記のように、係数aは、デバイス工程中に反るシリコンウェーハの反りの種類及び反り量xによって変化する値である。係数aは1以下であることが好ましい。aをデバイス工程により生じるウェーハの反り量に応じた1以下の値とすることで、できるだけ小さな初期反り量としながら大きな反り改善効果を発揮させることができる。
【0035】
こうしてシリコンウェーハの初期反り量xを求めた後、初期反り量xを有するシリコンウェーハを製造する(第4ステップS4)。通常、シリコンウェーハは、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットに外周研削、スライス、ラッピング、エッチング、両面研磨、片面研磨、洗浄等の工程を順次行うことにより製造される。
【0036】
実際のシリコンウェーハへの反りの付与は、ワイヤソーを用いたシリコン単結晶インゴットのスライス加工時に行うことができる。ワイヤソーを用いたスライス加工では、インゴットの長手方向の中央部では反りのない平坦なウェーハを容易に切り出すことができるが、インゴットの長手方向の両端部では平坦なウェーハを切り出すことが難しく、反りが発生しやすいことが知られている。通常は一本のインゴットから切り出されるすべてのウェーハにおいて反りがないことが求められており、これまではワイヤソーの設定条件を微妙に調整することでそのような加工を実現してきた。本発明では、このような従来の加工時の問題点を逆に利用することにより、反ったウェーハを意図的に作り出すことができる。またこのように反ったウェーハは、その後の研削、研磨、エッチング等の加工工程によって除去されることはなく、反りのあるウェーハ製品を完成させることが可能である。
【0037】
こうして製造されたシリコンウェーハは、3DNAND等の半導体デバイスの製造工程に送られて半導体デバイスの基板材料となる。
【0038】
上記のように半導体デバイスの製造工程ではシリコンウェーハ上にデバイス構造を形成するために酸化膜、窒化膜、金属膜を含む様々な材料の膜がシリコンウェーハ上に積層される。このように積まれた膜は膜の性質と工程条件によって異なる膜応力を有することになり、積層膜の応力によってはシリコンウェーハに反りが発生する。特に3DNANDでは個々のメモリ素子を垂直に数十個以上重ねて作るため、それに伴い積層される膜の数も幾何学的に増え、それに比例して膜応力も膨大に増加してシリコンウェーハの反りも大きく増加する。
【0039】
しかし、本発明ではシリコンウェーハの初期形状を論理的に制御することでデバイス工程中に生じる反りを低減することができ、後続工程を問題なく実施することが可能となる。すなわち、半導体デバイス工程で実際に生じる反り量を元に逆向きの適切な反り量を持つシリコンウェーハを提供することでデバイス工程中の反りを低減することができる。また、シリコンウェーハの反りによって発生する転位などの欠陥の発生を低減又は防止することができる。
【0040】
膜応力を有する薄膜をシリコンウェーハの主面に形成したときの当該シリコンウェーハの反り形状及び反り量は、有限要素法を用いた応力シミュレーションにより評価することが可能である。薄膜の膜応力の大きさがX方向とY方向とで同一であれば、成膜後のウェーハの形状は図2(a)に示すように上凸のお椀型になる。また薄膜のX方向の膜応力が圧縮応力、Y方向の膜応力が引張応力である場合、成膜後のウェーハの形状は図2(b)に示すように鞍型になる。
【0041】
またシミュレーションでは成膜前のシリコンウェーハの初期形状を、デバイス工程によって生じる反り形状とは反対の形状に設定することが可能である。例えば、成膜によって図2(a)のような上凸のお椀型の反りが生じる場合に、シリコンウェーハの初期形状を図4のように下凸のお椀型にすることができる。また成膜によって図2(b)のような鞍型の反りが生じる場合に、シリコンウェーハの初期形状を図6のようにこれとは逆向きの鞍型にすることができる。
【0042】
このように、初期形状が異なるシリコンウェーハ上に膜応力を持つ薄膜を形成して有限要素法によるシミュレーションを行うことでシリコンウェーハの形状依存性を求めることが可能である。
【0043】
図5は、下凸のお椀型の反りが予め付与されたシリコンウェーハと上凸の反りを発生させる膜応力を有する薄膜との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの初期反り量、縦軸が成膜後のウェーハの反り量である。
【0044】
図5に示すように、シリコンウェーハの初期反り量を増やすほど、成膜後のウェーハの反り量は小さくなることが分かる。特に、反りのない平坦なシリコンウェーハ(初期反り量がゼロ)に成膜したときの反り量が600μmであるのに対して、逆向きに反らせたシリコンウェーハの初期反り量が増えるほど、成膜後の反り量が減少してウェーハの反りが抑えられていることが分かる。また、初期反り量を増やしすぎると成膜後の反り量は増加することが分かる。
【0045】
シリコンウェーハの鞍型の反りをシミュレーションで評価する場合、膜応力としてX方向の圧縮応力とY方向の引張応力の組み合わせ、あるいはその逆の組み合わせを与える必要がある。
【0046】
図7は、鞍型の反りが予め付与されたシリコンウェーハと逆向きの鞍型の反りを発生させる膜応力を有する薄膜との関係を示すグラフであり、横軸はウェーハの初期反り量、縦軸が成膜後のウェーハの反り量である。
【0047】
図7に示すように、シリコンウェーハの初期反り量を増やすほど、成膜後のウェーハの反り量は小さくなることが分かる。特に、反りのない平坦なシリコンウェーハ(初期反り量がゼロ)に成膜したときの反り量が600μmであるのに対して、逆向きに反らせたシリコンウェーハの初期反り量が増えるほど、成膜後の反り量が減少してウェーハの反りが抑えられていることが分かる。また、初期反り量を増やしすぎると成膜後の反り量は増加することが分かる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によるシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハの一方の主面に配線層等の半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜して膜応力を付与し、これによりシリコンウェーハがお椀型又は鞍型に反る場合、前記デバイス工程中に生じる反りとは逆向きで同一形状の反りを有することによって前記反りが低減されるようにシリコンウェーハの初期形状を作り込むので、シリコンウェーハ上に半導体デバイスを形成するデバイス工程中に生じるシリコンウェーハの反り量を所定値以下に低減することができる。
【0049】
また本実施形態によるシリコンウェーハは、一方の主面に半導体デバイスを含む多層膜が形成されていない初期状態において鞍型の反りが予め付与されているので、シリコンウェーハの一方の主面に配線層等の半導体デバイス層を構成する多層膜を成膜して異方性の膜応力を付与し、これによりシリコンウェーハが鞍型に反る場合であってもその反り量を所定値以下に低減することができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、3DNANDの製造に好適なシリコンウェーハの製造方法について説明したが、本発明はこのような例に限定されるものではなく、膜応力によってウェーハが反ることとなる種々の半導体デバイス用のシリコンウェーハを対象とすることができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
膜の積層によってお椀型に反る場合におけるシリコンウェーハの初期形状依存性を求めるために有限要素法を用いた応力シミュレーションを行った。膜の積層によって生じる上凸形状のお椀型の反りに対して、図4のようにこれとは反対の下凸形状(凹形状)のお椀型のシリコンウェーハの初期反り量を0、200、400、600、800μmの5通りとした。
【0053】
次に、これらのシリコンウェーハサンプルのデバイス形成面に厚さ2μmの膜を形成した。サンプル間で違う反り量を生じさせるため、−200MPa,−600MPa,−1.3GPaの膜応力(圧縮応力)を与えてウェーハを凸形状のお椀型に反らせた。平らなウェーハ(初期反り量がゼロ)の場合、成膜後に生じる反り量はそれぞれ233μm、610μm、1042μmになった。この3つの反り量を、ウェーハに最初から作り込まれた反対の反り量が0、200、400、600、800μmに合成し、成膜後の反り量を測定した。
【0054】
3つの反り量からシリコンウェーハの初期反り量依存性が分かる。平らなウェーハを用いた場合に比べて反り量がどの程度改善したかを示す反り改善量は、図8に示すようにお椀形状の初期反り量(x)と反り改善量(y)に対して3つのy=axとして表現でき、y=0.9592x、y=0.7268x、y=0.4114xになった。
【0055】
このように、初期反り量(x)と反り改善量(y)の関係式は、反り量(x)に対して違う傾きを持つようなるため、図9のように反り量(x)と係数aとの関係式を求めたところ、a=−4.0×10−0.0002x+1になった。この関係式からデバイス工程で生じる反り量(x)が分かれば係数aが求まり、計算式y=axに改善したい反り量yを入れて計算すると、反対向きに作り込む初期反り量xを求めることが可能になる。
【0056】
(実施例2)
最初に直径が300mmで厚みが775μmの平らな(110)シリコンウェーハの主面に、厚みが1.5μmのシリコン酸化膜をCVD工程で成膜したところ、反り量x=440μmの凸形状のお椀型の反りをもたらした。
【0057】
この反り量xに対して、a=−4.0×10−0.0002x+1の計算式を用いて係数aを計算すると、a=0.865になる。これによって、お椀形状の初期反り量(x)と反り改善量(y)の関係式は、y=0.865xになった。反り改善量y=40μmを代入して計算すると、お椀形状の初期反り量x=34.6μmになった。
【0058】
直径が300mmで厚みが775μmのシリコンウェーハを作製するときにウェーハにお椀型の反りが付与される特殊な研削工程を用いて、反り量が約34.6μmの下凸形状のお椀型のシリコンウェーハを作製した。このシリコンウェーハの主面に厚みが1.5μmシリコン酸化膜をCVD工程で成膜したところ、上凸形状のお椀型の反りをもたらした。測定された反り量は404.2μmであり、その反り改善量は440−404.2=35.8μmであり、目標の反り改善量34.6μmとほぼ同じであった。
【0059】
(実施例3)
膜の積層によって鞍型に反る場合におけるシリコンウェーハの初期形状依存性を求めるために有限要素法を用いた応力シミュレーションを行った。膜の積層によって生じる鞍型の反りに対して、図6のようにこれとは反対向きの鞍型のシリコンウェーハの初期反り量を0、200、400、600、800μmの5通りとした。
【0060】
次に、これらのシリコンウェーハサンプルのデバイス形成面に厚さ2μmの膜を形成した。サンプル間で違う反り量を生じさせるため、(x,y)方向に対して(−50MPa、50MPa)、(−150MPa,150MPa)、(−350MPa,350MPa)の膜応力を与えてウェーハを鞍型に反らせた。平らなウェーハ(初期反り量がゼロ)の場合、成膜後に生じる反り量はそれぞれ213μm、608μm、1217μmになった。この3つの反り量を、ウェーハに最初から作り込まれた反対の反り量が0、200、400、600、800μmに合成し、成膜後の反り量を測定した。
【0061】
3つの反り量からシリコンウェーハの初期反り量依存性が分かる。平らなウェーハを用いたに比べて反り量がどの程度改善したかを示す反り改善量は、図10に示すように鞍形状の初期反り量(x)と改善反り量(y)に対して3つのy=axとして表現でき、y=1.0243x、y=0.9249x、y=0.6149xになった。
【0062】
このように、初期反り量(x)と反り改善量(y)の関係式は、反り量(x)に対して違う傾きを持つようなるため、図11のように反り量(x)と係数aとの関係式を求めたところ、a=−3.0×10+0.0001x+1になった。この関係式からデバイス工程で生じる反り量(x)が分かれば係数aが求まり、計算式y=axに改善したい反り量yを入れて計算すると、反対向きに作り込む初期反り量xを求めることが可能になる。
【0063】
(実施例4)
最初に直径が300mmで厚みが775μmの平らな(100)シリコンウェーハの主面に、厚みが1μmのシリコン酸化膜をCVD工程で成膜した後にマスクを利用してシリコン酸化膜の一部をエッチングし、次に厚みが0.7μmのシリコン窒化膜をCVD工程で成膜した後にマスクを利用して一部をエッチングして、図12のような形状の膜を成膜した。その結果、反り量x=605μmの鞍型の反りをもたらした。
【0064】
この反り量xに対して、a=−3.0×10+0.0001x+1の計算式を用いて係数aを計算すると、a=0.95になる。これによって、鞍形状の初期反り量(x)と反り改善量(y)の関係式は、y=0.95xになった。反り改善量y=35μmを代入して計算すると、鞍形状の初期反り量x=36.83μmになった。
【0065】
直径が300mmで厚みが775μmのシリコンウェーハの反り測定データベースから上記の鞍型の反り方向が反対で反り量が36.0μmのシリコンウェーハを選別した。このシリコンウェーハの主面に、厚みが1μmのシリコン酸化膜をCVD工程で成膜した後にマスクを利用してシリコン酸化膜の一部をエッチングし、次に厚みが0.7μmのシリコン窒化膜をCVD工程で成膜した後にマスクを利用して一部をエッチングして、図12のような形状の膜を成膜したところ、鞍型の反りをもたらした。測定された反り量は571.2μmであり、その反り改善量は605−571.2=33.8μmであり、目標の反り改善量35μmとほぼ同じであった。
【符号の説明】
【0066】
S1 第1ステップ(係数算出ステップ)
S2 第2ステップ(反り改善量設定ステップ)
S3 第3ステップ(初期反り量算出ステップ)
S4 第4ステップ(シリコンウェーハ製造ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12