(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シリコン基板を、フローティングゾーン法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から製造されたものとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再結合ライフタイムの制御方法。
前記準備工程において、窒素濃度のばらつきが目標の窒素濃度値に対して10%以内に調整されたシリコン基板を用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の再結合ライフタイムの制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、粒子線照射の条件や、粒子線照射後の熱処理の条件を同じにしても、デバイス特性がばらつくという問題があった(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。再結合ライフタイムのばらつきは、デバイス特性のばらつきに直接影響するので、再結合ライフタイムのばらつきを改善することが極めて重要な課題である。特に近年では、半導体デバイスの高性能化に伴い、再結合ライフタイムを高精度で制御し、そのばらつきをできる限り小さくする必要がある。
再結合ライフタイムのばらつき要因として、シリコン基板自体に含まれる何らか
の物質が要因として疑われており、特に炭素や酸素の不純物の影響が懸念されている。
【0010】
特に、電子線やヘリウムイオンなどの粒子線をシリコン基板に照射することでキャリアの再結合ライフタイムを制御するパワーデバイスでは、0.05ppma以下の極微量の炭素がデバイス特性に悪影響を及ぼすことが指摘されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6参照)。このことから、シリコン基板に含まれる炭素をできる限り低減することが重要であると考えられている。
【0011】
また、非特許文献1では、同じ再結合ライフタイム制御を行った場合でも、スイッチング損失にウェーハ依存が発生することがある問題を指摘し、電子線照射により生成する主要な欠陥(CsI、CiCs、又はCiOi)のうち、CiOiのみ活性化エネルギーにウェーハ依存があり、酸素濃度が高い場合に活性化が高くなる傾向があるため、酸素不純物がウェーハ依存の要因になると考えられる、としている(但し、Cs:置換型炭素、Ci:格子間型炭素、Oi:格子間型酸素、I:格子間シリコンである)。
しかしながら、再結合ライフタイムのばらつきに対しては、これらの炭素や酸素の不純物が主要因であるか否か、実際には明らかになっていない。
【0012】
本発明は、前述のような問題に鑑みてなされたもので、キャリアの再結合ライフタイムを制御するパワーデバイスの製造工程において、シリコン基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを小さくでき、再結合ライフタイムを高精度で制御できる再結合ライフタイムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、
キャリアの再結合ライフタイムを制御するシリコン基板を準備する準備工程と、
前記準備したシリコン基板に粒子線を照射する粒子線照射工程と、
前記粒子線照射工程後の前記シリコン基板を熱処理する熱処理工程と
を行うことで前記シリコン基板のキャリアの再結合ライフタイムを制御する再結合ライフタイムの制御方法であって、
前記準備工程を行う前に予め、窒素濃度が異なる複数の試験用シリコン基板に前記粒子線を照射した後、熱処理を行い、前記複数の試験用シリコン基板におけるキャリアの再結合ライフタイムを測定する測定工程A1と、
前記測定した再結合ライフタイムと前記窒素濃度との相関関係を取得する相関関係取得工程A2とを有し、
前記取得した相関関係に基づいて、前記シリコン基板の前記熱処理工程後の前記シリコン基板の再結合ライフタイムが目標値になるように、前記準備工程で準備する前記シリコン基板の窒素濃度を調整することを特徴とする再結合ライフタイムの制御方法を提供する。
【0014】
このように、予め試験用のシリコン基板から得た、熱処理工程後のシリコン基板の再結合ライフタイムと窒素濃度の相関関係に基づいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【0015】
また本発明によれば、
キャリアの再結合ライフタイムを制御するシリコン基板を準備する準備工程と、
前記準備したシリコン基板に粒子線を照射する粒子線照射工程と、
前記粒子線照射工程後の前記シリコン基板を熱処理する熱処理工程と
を行うことで前記シリコン基板のキャリアの再結合ライフタイムを制御する再結合ライフタイムの制御方法であって、
前記準備工程を行う前に予め、窒素濃度が異なる複数の試験用シリコン基板に粒子線照射した後、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に熱処理時間を変えて熱処理を行い、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎の前記熱処理時間の変化に対する、前記複数の試験用シリコン基板におけるキャリアの再結合ライフタイムの変化を測定する測定工程B1と、
前記それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に前記測定した再結合ライフタイムの変化と前記熱処理時間の変化との相関関係を取得する相関関係取得工程B2とを有し、
前記取得した相関関係に基づいて、前記シリコン基板の前記熱処理工程後の前記シリコン基板の再結合ライフタイムが目標値になるように、前記準備工程で準備したシリコン基板の窒素濃度に応じて前記シリコン基板の前記熱処理工程の熱処理時間を調整することを特徴とする再結合ライフタイムの制御方法を提供する。
【0016】
このように、予め試験用のシリコン基板から得た、熱処理時間に対するシリコン基板の再結合ライフタイムの変化と窒素濃度の相関関係に基づいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度に応じて熱処理工程の熱処理時間を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきをより小さくすることができる。
【0017】
このとき、前記シリコン基板を、FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から製造されたものとすることができる。
【0018】
FZシリコン基板では、結晶育成時に導入される結晶欠陥の低減やウェーハ強度の向上のために、結晶育成時に窒素が添加される場合が多い。育成された単結晶に導入される窒素の濃度は、結晶育成時の雰囲気ガスの調整により制御することができる。そのようなFZシリコン基板において、熱処理工程後のシリコン基板の再結合ライフタイムと窒素濃度の相関関係に基づいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。また、熱処理時間に対するシリコン基板の再結合ライフタイムの変化と窒素濃度の相関関係に基づいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度に応じて熱処理工程の熱処理時間を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきをより小さくすることができる。
【0019】
またこのとき、前記準備工程において準備されるシリコン基板は、窒素濃度のばらつきが目標の窒素濃度値に対して10%以内に調整されたシリコン基板とするのが好ましい。
【0020】
このように、窒素濃度のばらつきが10%以内であれば、シリコン基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の再結合ライフタイムの制御方法であれば、シリコン基板の窒素濃度を調整することにより、再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、シリコン基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。また、シリコン基板の窒素濃度に応じて粒子線照射後の熱処理時間を調整することにより、再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、シリコン基板に起因する再結合ライフタイムのばらつきをより小さくすることができる。また本発明は、窒素添加FZシリコン基板の再結合ライフタイムを制御する場合に、窒素濃度が異なる場合でも再結合ライフタイムを高精度で制御することができるので、特に窒素添加FZシリコン基板をパワーデバイス用に使用する際に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
上記のように、従来技術では、粒子線照射の条件と粒子線照射後の熱処理の条件を調整することによってキャリアの再結合ライフタイムを制御しており、この場合、シリコン基板に起因する何らかの要因で、再結合ライフタイムのばらつきが生じるという問題があった。
【0024】
本発明者は鋭意検討を重ねたところ、シリコン基板に粒子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムは、従来のばらつき要因と考えられていた炭素濃度及び酸素濃度がほぼ同じ場合でも、ライフタイムがばらつき、シリコン基板の窒素濃度に強く依存することを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、
図1を参照
し、本発明の再結合ライフタイムの制御方法を説明する。
まず、複数の試験用シリコン基板を用意する。ここで用意する複数の試験用シリコン基板は、それぞれ窒素濃度が異なるものとする。また、窒素濃度以外の条件は、実際に再結合ライフタイムを制御する対象となるシリコン基板と同じ条件にすることができる。
【0026】
また、この試験用シリコン基板を用意する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出し、切断ダメージを取り除くためにシリコンウェーハに化学的エッチング処理を行った後、機械的化学的研磨を行うことにより試験用シリコン基板を用意できる。また、更にエピタキシャル成長炉内でエピタキシャル層を成長させた試験用シリコン基板を用意しても良い。
【0027】
次に、複数の試験用シリコン基板に粒子線照射した後、熱処理を行い、キャリアの再結合ライフタイムを測定する測定工程A1を行う(
図1のS11)。尚、
図1の括弧内のシリコン基板は、各工程において処理されるシリコン基板を示している。
【0028】
この測定工程A1における粒子線照射の前に、試験用シリコン基板の表面に酸化膜を形成することができる。
酸化膜は、酸化性雰囲気の熱処理により形成することができる。酸化膜形成熱処理の条件は、例えば、温度を900〜1100℃、時間を10〜60分とすることができる。この酸化膜は、測定工程A1において、再結合ライフタイムを測定する際の表面再結合を抑制する役割を有する。表面再結合が問題にならない場合には、この酸化膜の形成処理を省略することもできる。
【0029】
再結合ライフタイムの測定には、例えば、マイクロ波光導電減衰法(Microwave Photoconductive Decay method:μ―PCD法)を用いることができる。μ―PCD法における測定条件は、一般的に用いられている条件で良く、例えば、文献「JEIDA−53−1997“シリコンウェーハの反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイム測定方法”」に記載された条件等により測定することができる。測定装置は市販されているものを用いることができる。
【0030】
測定工程A1において、粒子線照射によりキャリアの再結合中心となる欠陥を発生させるが、粒子線照射の条件は、対象とする半導体デバイスの製造プロセスの制御対象シリコン基板の粒子線照射工程(
図1のS14)で使用される条件に合わせることが望ましい。例えば、粒子線として電子線を、1×10
13〜1×10
15/cm
2の線量で、0.5〜2MeVの加速電圧で照射することができる。
【0031】
測定工程A1において、粒子線照射後の熱処理(以下、回復熱処理と呼ぶことがある)を施すが、回復熱処理の条件は、対象とする半導体デバイスの製造プロセスの制御対象シリコン基板の熱処理工程(
図1のS15)で使用される条件に合わせることが望ましい。例えば、温度を300〜400℃、時間を10〜60分、雰囲気を窒素、酸素、あるいは水素などとすることができる。
【0032】
次に、相関関係取得工程A2を行う(
図1のS12)。
相関関係取得工程A2では、測定工程A1(
図1のS11)において測定した再結合ライフタイムと、複数の試験用シリコン基板の窒素濃度とを対応させることで、再結合ライフタイムと窒素濃度との相関関係を取得する。
【0033】
次に、上記のように取得した相関関係に基づいて、熱処理工程後のシリコン基板の再結合ライフタイムが目標値になるように、準備工程で準備する制御対象シリコン基板の窒素濃度を調整する(
図1のS13)。
【0034】
準備する制御対象シリコン基板の窒素濃度を調整する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶育成時の条件を調整する方法等を使用することができる。例えば、FZ法であれば、単結晶育成時の雰囲気ガス中の窒素濃度を調整することにより、シリコン単結晶中の窒素濃度を調整することができる。CZ法に磁場を印加するMCZ法であれば、ルツボ内に添加するシリコン窒化物の量で、シリコン単結晶中の窒素濃度を調整することができる。
【0035】
次に、粒子線照射工程を行う(
図1のS14)。
ここで行う粒子線照射の条件は、測定工程A1(
図1のS11)と同様の条件とすることが好ましい。例えば、電子線を、1×10
13〜1×10
15/cm
2の線量で、0.5〜2MeVの加速電圧で照射することができる。
【0036】
次に、熱処理工程を行う(
図1のS15)。
ここで行う熱処理の条件は、測定工程A1(
図1のS11)と同様の条件とすることが好ましい。例えば、温度を300〜400℃、時間を10〜60分、雰囲気を窒素、酸素、あるいは水素などとすることができる。
【0037】
以上のような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法であれば、再結合ライフタイムを高精度で制御することができ、シリコン基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【0038】
また、本発明では、前記シリコン基板を、FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から製造されたものとすることができる。
本発明では、FZシリコン基板において、熱処理工程後の再結合ライフタイムと窒素濃度の相関関係に基づいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板(制御対象シリコン基板)の窒素濃度を調整することにより再結合ライフタイムを制御でき、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【0039】
次に、
図2を参照
し、本発明の再結合ライフタイムの制御方法の別の形態を説明する。
【0040】
まず、複数の試験用シリコン基板を用意する。ここで用意する複数の試験用シリコン基板は、窒素濃度が異なるものとする。また、窒素濃度以外の条件は、実際に再結合ライフタイムを制御する対象となるシリコン基板(制御対象シリコン基板)と同じ条件にすることができる。
【0041】
また、この試験用シリコン基板を用意する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、シリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出し、切断ダメージを取り除くためにシリコンウェーハに化学的エッチング処理を行った後、機械的化学的研磨を行うことにより試験用シリコン基板を用意できる。また、更にエピタキシャル成長炉内でエピタキシャル層を成長させた試験用シリコン基板を用意しても良い。
【0042】
次に、複数の試験用シリコン基板に粒子線照射した後、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に熱処理時間を変えて熱処理を行い、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に熱処理時間の変化に対する、キャリアの再結合ライフタイムの変化を測定する測定工程B1を行う(
図2のS21)。尚、
図2の括弧内のシリコン基板は、各工程において処理されるシリコン基板を示している。
【0043】
この測定工程B1における粒子線照射の前に、試験用シリコン基板の表面に酸化膜を形成することができる。
酸化膜は、酸化性雰囲気の熱処理により形成することができる。酸化膜形成熱処理の条件は、例えば、温度を900〜1100℃、時間を10〜60分とすることができる。この酸化膜は、測定工程において、再結合ライフタイムを測定する際の表面再結合を抑制する役割を有する。表面再結合が問題にならない場合には、この酸化膜の形成処理を省略することもできる。
【0044】
再結合ライフタイムの測定には、例えば、マイクロ波光導電減衰法(Microwave Photoconductive Decay method:μ―PCD法)を用いることができる。μ―PCD法における測定条件は、一般的に用いられている条件で良く、例えば、文献「JEIDA−53−1997“シリコンウェーハの反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイム測定方法”」に記載された条件等により測定することができる。測定装置は市販されているものを用いることができる。
【0045】
測定工程B1において、粒子線照射によりキャリアの再結合中心となる欠陥を発生させるが、粒子線照射の条件は、対象とする半導体デバイスの製造プロセスの制御対象シリコン基板の粒子線照射工程(
図2のS25)で使用される条件に合わせることが望ましい。例えば、粒子線として電子線を、1×10
13〜1×10
15/cm
2の線量で、0.5〜2MeVの加速電圧で照射することができる。
【0046】
測定工程B1において、粒子線照射後の回復熱処理を施すが、回復熱処理の温度と雰囲気は、対象とする半導体デバイスの製造プロセスの制御対象シリコン基板の熱処理工程(
図2のS26)で使用される条件に合わせることが望ましい。例えば、温度を300〜400℃、雰囲気を窒素、酸素、あるいは水素などとすることができる。
そして、ここでは、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に熱処理時間の変化に対する再結合ライフタイムの変化を測定するため、熱処理時間tを、例えば、0<t≦180分の範囲で変化させて複数の試験用シリコン基板を熱処理する。
【0047】
そして、各熱処理時間tにおける、回復熱処理後の各試験用シリコン基板の再結合ライフタイム[LT(t)]をそれぞれ測定し、これらの測定値から、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に変化させた熱処理時間に対する、複数の試験用シリコン基板におけるキャリアの再結合ライフタイムの変化を測定する。
【0048】
次に、相関関係取得工程B2を行う(
図2のS22)。
相関関係取得工程B2では、測定工程B1(
図2のS21)においてそれぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に測定した再結合ライフタイムの変化と、熱処理時間の変化との相関関係を取得する。
【0049】
次に、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板(制御対象シリコン基板)を準備する準備工程を行う(
図2のS23)。
【0050】
次に、相関関係取得工程B2で取得した相関関係と、準備工程(
図2のS23)で準備した制御対象シリコン基板の窒素濃度に基づいて、熱処理工程の熱処理時間を決定する熱処理時間決定工程を行う(
図2のS24)。
【0051】
次に、粒子線照射工程を行う(
図2のS25)。
ここで行う粒子線照射の条件は、測定工程B1(
図2のS21)と同様の条件とすることが好ましい。例えば、電子線を、1×10
13〜1×10
15/cm
2の線量で、0.5〜2MeVの加速電圧で照射することができる。
【0052】
次に、熱処理工程を行う(
図2のS26)。
ここで行う熱処理の温度と雰囲気は、測定工程B1(
図2のS21)と同様の条件とすることが好ましい。例えば、温度を300〜400℃、雰囲気を窒素、酸素、あるいは水素などとすることができる。熱処理の時間は、熱処理時間決定工程(
図2のS24)で決定した時間とする。
【0053】
以上のような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法であれば、再結合ライフタイムを高精度で制御することができ、シリコン基板に起因した再結合ライフタイムのばらつきを小さく抑制することができる。
【0054】
また、本発明では、前記シリコン基板を、FZ法により育成された窒素添加のシリコン単結晶から製造されたものとすることができる。
本発明では、FZシリコン基板において、熱処理時間に対する再結合ライフタイムの変化と窒素濃度の相関関係に基づいて、シリコン基板の窒素濃度に応じて熱処理工程の熱処理時間を調整することにより再結合ライフタイムを精緻に制御でき、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【0055】
本発明において、ライフタイムを高精度で制御し、シリコン基板に起因するライフタイムのばらつきを小さくするために、上述のようなシリコン基板のライフタイム制御方法を用いる理由は、以下のような実験により得られた知見による。
【0056】
(実験例)
異なる窒素濃度を有する複数のシリコン基板を用意した。複数のシリコン基板のドーパント種、ドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度、直径、結晶面方位は、以下の通りである。
ドーパント種/濃度:リン/6.2×10
13〜6.9×10
13atoms/cm
3、
酸素濃度:<0.1ppma(シリコン原料が多結晶シリコン)、0.2〜0.3ppma(シリコン原料がCZ法で育成した単結晶シリコン)(JEIDA)、
炭素濃度:<0.01ppma(JEIDA)、
窒素濃度:3.6×10
14〜3.1×10
15atoms/cm
3、
直径:200mm、
結晶面方位:(100)。
【0057】
酸素濃度が0.1ppma未満のシリコン基板は、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである。また、酸素濃度が0.2〜0.3ppmaのシリコン基板は、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである。
【0058】
次に、用意したシリコン基板に、酸化熱処理により酸化膜を形成した。熱処理温度は1000℃とし、時間は60分、雰囲気は酸素とした。
【0059】
次に、酸化膜形成後のシリコン基板に電子線を照射した。このとき、電子線の照射線量は1×10
15/cm
2とし、電子線の加速電圧は750kVとした。
【0060】
次に、電子線照射したシリコン基板に回復熱処理を施した。回復熱処理の温度は360℃とし、雰囲気は窒素、時間tは0〜180分の範囲で振った。その後、再結合ライフタイム[LT(t)]をμ‐PCD法により測定した。
【0061】
再結合ライフタイムLT(t)と窒素濃度との関係を
図3に示す。熱処理時間は、
図3(a)が0分、
図3(b)が15分、
図3(c)が30分、
図3(d)が60分、
図3(e)が120分、
図3(f)が180分である。
図3におけるシンボルの違いは酸素濃度の違いを示しており、○は0.1ppma未満、△は0.2〜0.3ppmaの場合を示している。
【0062】
図3から、熱処理時間が0分の場合[
図3(a)]、すなわち、電子線照射後に熱処理を施さない場合、LT(t)の窒素濃度依存性は弱いが、熱処理時間とともに窒素濃度依存性が強くなり、窒素濃度が高いほどLT(t)が長くなることがわかる。また、LT(t)の窒素濃度依存性は、シリコン基板の酸素濃度によって異なる。酸素濃度が0.1ppma未満の場合は、熱処理時間が短い15〜60分で窒素濃度依存性が強くなり[
図3(b)〜
図3(d)]、それより長い熱処理時間では窒素濃度の高い領域でLT(t)が飽和する傾向が見られる[
図3(e),
図3(f)]。また、酸素濃度が0.2〜0.3ppmaの場合は、熱処理時間が比較的短い15〜30分では窒素濃度依存性が弱いが[
図3(b),
図3(c)]、それより長い熱処理時間では窒素濃度依存性が強くなる[
図3(d)〜
図3(f)]。
【0063】
FZシリコン基板の酸素濃度は、結晶製造時に用いるシリコン原料が多結晶シリコンかCZ法で育成した単結晶シリコンかによって異なるが、シリコン原料の製法が同じであれば、酸素濃度のばらつきを小さくすることができる。
【0064】
このことから、いずれの原料を用いたFZシリコン基板の場合でも、窒素濃度を調整することでLT(t)を制御できることがわかる。
【0065】
次に、再結合ライフタイムLT(t)と熱処理時間tとの関係を
図4に示す。
図4(a)は酸素濃度が0.1ppma未満の場合、
図4(b)は酸素濃度が0.2〜0.3ppmaの場合を示している。
図4におけるシンボルの違いは窒素濃度の違いを示しており、
図4(a)では、○は3.6×10
14atoms/cm
3、△は1.2×10
15atoms/cm
3、□は2.3×10
15atoms/cm
3の場合を示しており、
図4(b)では、○は3.9×10
14atoms/cm
3、△は1.5×10
15atoms/cm
3、□は3.1×10
15atoms/cm
3の場合を示している。
【0066】
図4から、再結合ライフタイムLT(t)は熱処理時間tとともに長くなるが、窒素濃度が高いほど熱処理時間がより短時間で長くなることがわかる。
【0067】
次に、再結合ライフタイムの目標値を得るための、窒素濃度と熱処理時間の関係を
図5に示す。
図5(a)は酸素濃度が0.1ppma未満の場合、
図5(b)は酸素濃度が0.2〜0.3ppmaの場合を示している。
図5におけるシンボルの違いは再結合ライフタイムの目標値の違いを示しており、
図5(a)、
図5(b)のいずれも、○は3μsec、△は5μsec、□は7μsecの場合を示している。
【0068】
このことから、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度に応じて熱処理時間を調整することにより、再結合ライフタイムが目標値になるようにすることができる。
【0069】
以上のように、電子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムが目標値になるように、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。また、電子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムが目標値になるように、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板の窒素濃度に応じて熱処理時間を調整することにより再結合ライフタイムを制御すれば、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきをより小さくすることができる。そして、窒素濃度のばらつきを小さくすることにより、再結合ライフタイムのばらつきを小さくすることができる。
【0070】
上記のように、電子線照射とその後の熱処理を施した場合の再結合ライフタイムが窒素濃度に依存する理由は、以下のように考えられる。
【0071】
シリコン基板に対して、高エネルギーの粒子線を照射すると、格子位置のシリコン原子が弾き出されて、格子間シリコン(以下、Iと称する)とその抜け殻である空孔(以下、Vと称する)が生成される。過剰に生成されたIやVは、単体では不安定なため、再結合したり(V+I→0)、I同士やV同士がクラスタリングしたり、シリコン基板中に含まれる軽元素不純物と反応して複合体を形成する。そして、IやVのクラスターや、IやVと軽元素不純物の複合体は、シリコンのバンドギャップ中に深い準位を形成して、キャリアの再結合中心として働き、再結合ライフタイムを低下させる。
【0072】
空孔Vに関連する欠陥として、Vと置換型リンPsが反応してVPが形成される(V+Ps→VP)ことが知られている。また、Vと格子間酸素Oiが反応してVOが形成され(V+Oi→VO)、更に、VとVOが反応してV
2O(V+VO→V
2O)が形成される場合もある。また、V同士が反応してVVも形成される(V+V→VV)。窒素が存在する場合には、VとNが反応してVNも形成されることになる(V+N→VN)。VとP、O、あるいはNとの反応はそれぞれ競合するため、窒素濃度が高い場合にVNが形成されやすくなるとすると、Vが関連した他の複合体が形成されにくくなる可能性がある。
【0073】
一方、格子間シリコンIが関連する欠陥として、Iと置換型ボロンBsが反応して格子間ボロンBiが形成され(I+B
s→Bi)、更に、BiとOiが反応してBiOiが形成される(Bi+Oi→BiOi)ことが知られている。また、炭素が存在する場合、Iと置換型炭素Csが反応して格子間炭素Ciが形成され(I+Cs→Ci)、更に、CiとOi、CiとCsが反応してCiOi、CiCsが形成される(Ci+Oi→CiOi、Ci+Cs→CiCs)。また、I同士が反応してIクラスターも形成される(I+I+…→In)。窒素が存在する場合には、VとNが反応することにより、VとIの再結合が抑制され、その結果として、Iが関連した複合体が形成されやすくなる可能性がある。
【0074】
IやVと軽元素不純物との反応は、それぞれの絶対濃度と濃度バランスに依存するため、極めて複雑であり、どの複合体が優勢になるか推定することは難しい。更に熱処理が施された場合には、複合体の消滅や形態変化が起こるため、更に複雑になる。
【0075】
上述の実験例で示されたように、シリコン基板の窒素濃度が高くなると、高エネルギーの粒子線照射により熱的に不安定な複合体が形成されやすくなるため、その後の熱処理により複合体が消滅しやすくなり、熱処理後の再結合ライフタイムが高くなると考えられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
図1に示すような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法でシリコン基板の再結合ライフタイムの制御を行った。このとき、再結合ライフタイムを3μsec程度に制御することを目標とした。
【0078】
まず、測定工程A1において、窒素濃度が異なる複数の試験用シリコン基板に、粒子線照射した後、熱処理を行い、複数の試験用シリコン基板におけるキャリアの再結合ライフタイムを測定した。試験用シリコン基板は多結晶シリコンをシリコン原料としたFZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は0.1ppma以下とした。
このときの電子線の照射線量は1×10
15/cm
2とし、電子線の加速電圧は750kVとした。またこのとき、熱処理の温度は360℃、時間は30分、雰囲気は窒素とした。
【0079】
次に、相関関係取得工程A2において、再結合ライフタイムと複数の試験用シリコン基板の窒素濃度との相関関係を取得した(
図3(c)の○印)。
次に、上記相関関係に基づいて、熱処理工程後のシリコン基板の再結合ライフタイムが目標値(3μsec程度)になるように、準備工程Aで準備するシリコン基板の窒素濃度を調整した。このとき、準備したシリコン基板は、多結晶シリコンをシリコン原料としたFZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は0.1ppma以下で、窒素濃度を8.0×10
14atoms/cm
3に調整したものであった。
【0080】
その後、準備したシリコン基板に、酸化熱処理により酸化膜を形成した。熱処理温度は1000℃とし、時間は60分、雰囲気は酸素とした。
その後、粒子線照射工程において、シリコン基板に電子線を照射した。電子線の照射線量は1×10
15/cm
2とし、電子線の加速電圧は750kVとした。
次に、熱処理工程において、電子線照射したシリコン基板に回復熱処理を施した。回復熱処理の温度は360℃とし、雰囲気は窒素、時間は30分とした。
【0081】
回復熱処理後の再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した結果、シリコン基板の再結合ライフタイムは2.9μsecであった。
このように、実施例1では、シリコン基板の窒素濃度を調整することにより、再結合ライフタイムの目標値を得ることができることが確認できた。
【0082】
また、上記で取得した相関関係に基づき、窒素濃度を7.2×10
14〜8.8×10
14atoms/cm
3の範囲に調整したFZシリコン基板を5枚準備し、上記と同様の条件で、酸化熱処理、電子線照射、回復熱処理を行った後、再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した。その結果、再結合ライフタイムは2.9μsec、2.9μsec、3.2μsec、2.7μsec、3.0μsecとなり、シリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのバラツキを非常に小さく抑えられることが確認できた。
【0083】
(比較例1)
試験用シリコン基板を使用して、再結合ライフタイムと窒素濃度との相関関係を取得せず、準備するシリコン基板の窒素濃度を上記相関関係に基づいて調整しなかったこと以外、実施例1と同様の条件でシリコン基板の再結合ライフタイムを制御した。
このとき、窒素濃度が1.5×10
15atoms/cm
3、多結晶シリコンをシリコン原料とした酸素濃度が0.1ppma未満のFZシリコン基板を、実施例1と同様の条件で酸化膜を形成し、電子線照射後に回復熱処理を施した。
【0084】
続いて、実施例1と同様の条件で回復熱処理後の再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した結果、5.0μsecであった。
このように、比較例1では、酸化膜形成熱処理条件、電子線照射条件、回復熱処理条件を実施例1と同様の条件にしたにも関わらず、シリコン基板の再結合ライフタイムは目標値の3μsecから大きく離れた値になってしまうことが確認された。
【0085】
また、窒素濃度が異なるFZシリコン基板を無作為に5枚準備し、上記と同様の条件で、酸化熱処理、電子線照射、回復熱処理を行った後再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した結果、再結合ライフタイムは1.6μsec、4.2μsec、7.0μsec、8.2μsec、8.9μsecとなり、実施例1と比べてシリコン基板自体に起因する再結合ライフタイムのばらつきが著しく大きくなることが確認された。
【0086】
(実施例2)
図2に示すような、本発明の再結合ライフタイムの制御方法でシリコン基板の再結合ライフタイムの制御を行った。このとき、再結合ライフタイムを7μsec程度に制御することを目標とした。
【0087】
まず、測定工程B1において、窒素濃度が異なる複数の試験用シリコン基板に、粒子線照射した後、熱処理時間を変えて熱処理を行い、熱処理時間の変化に対する、複数の試験用シリコン基板におけるキャリアの再結合ライフタイムの変化を測定した。試験用シリコン基板はCZ法で育成した単結晶をシリコン材料としてFZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は0.3ppmaとした。
このときの電子線の照射線量は1×10
15/cm
2とし、電子線の加速電圧は750kVとした。またこのとき、熱処理の温度は360℃、雰囲気は窒素とし、熱処理時間を0〜180分の範囲で変化させた。
【0088】
次に、相関関係取得工程B2において、測定工程B1においてそれぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎に測定した再結合ライフタイムの変化と、それぞれの窒素濃度の試験用シリコン基板毎の熱処理時間の変化との相関関係を取得した(
図4(b))。
次に、準備工程Bにおいて、再結合ライフタイムを制御するシリコン基板を準備した。そのシリコン基板は、CZ法で育成した単結晶をシリコン材料としてFZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものであり、酸素濃度は0.3ppmaで、窒素濃度は1.5×10
15atoms/cm
3であった。
【0089】
次に、熱処理時間決定工程において、上記相関関係に基づいて、熱処理工程後の再結合ライフタイムが目標値(7μsec程度)になるように、シリコン基板の窒素濃度が1.5×10
15atoms/cm
3の場合の、熱処理工程における熱処理時間を110分に決定した(
図4(b)の△印、
図5(b)の□印)。
【0090】
その後、準備したシリコン基板に、酸化熱処理により酸化膜を形成した。熱処理温度は1000℃とし、時間は60分、雰囲気は酸素とした。
その後、粒子照射工程において、シリコン基板に電子線を照射した。電子線の照射線量は1×10
15/cm
2とし、電子線の加速電圧は750kVとした。
次に、熱処理工程において、電子線照射したシリコン基板に回復熱処理を施した。回復熱処理の温度は360℃とし、雰囲気は窒素、時間は110分とした。
【0091】
回復熱処理後の再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した結果、シリコン基板の再結合ライフタイムは6.8μsecであった。
このように、実施例2では、熱処理工程における熱処理時間を調整することにより、再結合ライフタイムの目標値が得られることが確認できた。
【0092】
(比較例2)
試験用シリコン基板を使用して、回復熱処理時間に対する再結合ライフタイムの変化と窒素濃度との相関関係を取得せず、回復熱処理時間を上記相関関係に基づいて調整しなかったこと以外、実施例2と同様の条件でシリコン基板の再結合ライフタイムを制御した。
このとき、窒素濃度が1.5×10
15atoms/cm
3、酸素濃度が0.3ppmaのFZシリコン基板を、実施例2と同様の条件で酸化膜を形成し、電子線照射後に回復熱処理を施した。回復熱処理時間は30分とした。
【0093】
続いて、実施例2と同様の条件で回復熱処理後の再結合ライフタイムをμ‐PCD法により測定した結果、1.5μsecであった。
このように、比較例2では、シリコン基板の窒素濃度、酸化膜形成熱処理条件、電子線照射条件を実施例2と同様の条件にしたにも関わらず、シリコン基板の再結合ライフタイムは目標値の7μsecから大きく離れた値になってしまうことが確認された。
【0094】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。