特許第6777072号(P6777072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6777072-ハイドロフルオロオレフィンの製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777072
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ハイドロフルオロオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20201019BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20201019BHJP
   B01J 21/04 20060101ALI20201019BHJP
   B01J 27/12 20060101ALI20201019BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201019BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/18
   B01J21/04 Z
   B01J27/12 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-511094(P2017-511094)
(86)(22)【出願日】2016年4月8日
(86)【国際出願番号】JP2016061560
(87)【国際公開番号】WO2016163522
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2019年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-80022(P2015-80022)
(32)【優先日】2015年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨依 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 允彦
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−115234(JP,A)
【文献】 特開平08−291086(JP,A)
【文献】 特開2008−115191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イドロフルオロカーボンである1,1,1,2−テトラフルオロエタン二酸化炭素の存在下においてハイドロフルオロオレフィンであるトリフルオロエチレンに転化し、前記ハイドロフルオロオレフィンと前記二酸化炭素とを含有する第1のガス組成物を得る工程と、
前記第1のガス組成物に含まれる前記二酸化炭素を分離し、前記ハイドロフルオロオレフィンを含有する第2のガス組成物を得る工程と
を有し、
前記第1のガス組成物を得る工程において、前記ハイドロフルオロカーボンと前記二酸化炭素とのモル比(ハイドロフルオロカーボン/二酸化炭素)が、5/95以上20/80以下であることを特徴とするハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項2】
前記第2のガス組成物を得る工程は、前記第1のガス組成物をアルカリ溶液と接触させる工程を含む、請求項1に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液は、共役酸のpKaが6より大きい無機塩基または有機塩基を含む、請求項2に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記無機塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムおよび酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、請求項3に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記有機塩基は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミンおよびN−メチルジエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、請求項3に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記第1のガス組成物を得る工程は、前記ハイドロフルオロカーボンと触媒とを接触させる工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記触媒は、金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の物質である、請求項6に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記触媒は、コバルト、ニッケル、パラジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、フッ化鉄、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化クロム、塩化クロムおよび酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の物質である、請求項6または7に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項9】
前記第1のガス組成物を得る工程において、前記ハイドロフルオロカーボンを前記ハイドロフルオロオレフィンに転化する温度は、200℃以上1200℃以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロフルオロオレフィンの製造方法、特に、ハイドロフルオロカーボンからハイドロフルオロオレフィンを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
【0003】
トリフルオロエチレン(HFO−1123)や2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)などのハイドロフルオロオレフィンは、地球温暖化係数(GWP)が小さいため、温室効果ガスであるジフルオロメタン(HFC−32)や1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)に代わる新しい冷媒として、近年大きな期待が寄せられている。
【0004】
従来から、HFO−1123の製造方法として、比較的安価な1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)を原料とする方法が知られている。また、HFO−1234yfの製造方法として、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)や1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)を原料とする方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、金属フッ化物や金属酸化物を触媒として用い、HFC−134aを脱フッ化水素反応させてHFO−1123を製造する方法が開示されている。特許文献1に開示される製造方法は、原料であるHFC−134aと希釈ガスとして窒素とを含む原料ガスを加熱反応帯域に供給し、加熱反応帯域内の触媒存在下でHFC−134aを脱フッ化水素反応させることにより、HFO−1123を含む組成物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−505337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される製造方法では、該組成物中にHFO−1123と原料のHFC−134aの希釈ガスである窒素が含まれる。HFO−1123の沸点は低いため、組成物中のHFO−1123と窒素とを分離するために、低温かつ高圧の過酷な条件が必要となる。そのため、希釈ガスとして窒素を用いた場合、反応後にHFO−1123と窒素を分離するために、反応器内を低温かつ高圧にできる設備が必要となる。さらに、このような設備は、電気代等の製造コストが高い。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ハイドロフルオロオレフィンの沸点が低い場合であっても、ハイドロフルオロオレフィンと希釈ガスとを容易に分離することができ、生産性に優れたハイドロフルオロオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[11]に記載の構成を有するハイドロフルオロオレフィンの製造方法を提供する。
[1]下記式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを二酸化炭素の存在下において下記式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化し、前記ハイドロフルオロオレフィンと前記二酸化炭素とを含有する第1のガス組成物を得る工程と、前記第1のガス組成物に含まれる前記二酸化炭素を分離し、前記ハイドロフルオロオレフィンを含有する第2のガス組成物を得る工程とを有することを特徴とするハイドロフルオロオレフィンの製造方法;
CRCR ・・・(1)
CR=CR ・・・(2)
(上記式(1)および式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、Rは、水素原子、フッ素原子、CH、CHF、CHFまたはCFであり、R〜Rの合計のフッ素原子数は1以上であり、R〜Rの合計の水素原子数は1以上である。XおよびXは水素原子またはフッ素原子であり、Xが水素原子であるときXはフッ素原子、Xがフッ素原子であるときXは水素原子である。)。
[2]前記第2のガス組成物を得る工程は、前記第1のガス組成物をアルカリ溶液と接触させる工程を含む、[1]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[3]前記アルカリ溶液は、共役酸のpKaが6より大きい無機塩基または有機塩基を含む、[2]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[4]前記無機塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムおよび酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、[3]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[5]前記有機塩基は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミンおよびN−メチルジエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、[3]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[6]前記第1のガス組成物を得る工程における前記ハイドロフルオロカーボンと前記二酸化炭素とのモル比(ハイドロフルオロカーボン/二酸化炭素)は、0.3/99.7以上99.5/0.5以下である、[1]〜[5]のいずれかのハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[7]前記ハイドロフルオロカーボンはHFC−134aであり、前記ハイドロフルオロオレフィンはHFO−1123である、[1]〜[6]のいずれかのハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[8]前記ハイドロフルオロカーボンはHFC−245cbおよび/またはHFC−245ebであり、前記ハイドロフルオロオレフィンはHFO−1234yfである、[1]〜[6]のいずれかのハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[9]前記第1のガス組成物を得る工程は、前記ハイドロフルオロカーボンと触媒とを接触させる工程を含む、[1]〜[8]のいずれかのハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[10]前記触媒は、金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも1種の物質である、[9]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[11]前記触媒は、コバルト、ニッケル、パラジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、フッ化鉄、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化クロム、塩化クロムおよび酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の物質である、[9]または[10]のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
[12]前記第1のガス組成物を得る工程において、前記ハイドロフルオロカーボンを前記ハイドロフルオロオレフィンに転化する温度は、200℃以上1200℃以下である、[1]〜[11]のいずれかのハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハイドロフルオロオレフィンの沸点が低い場合であっても、ハイドロフルオロオレフィンと、原料であるハイドロフルオロカーボンの希釈ガスとを容易に分離することができ、生産性に優れるハイドロフルオロオレフィンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法に使用される反応装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、以下の工程(I)および工程(II)を有する。
【0014】
工程(I):式(1)で表される少なくとも1種のハイドロフルオロカーボンを二酸化炭素の存在下において式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化し、前記ハイドロフルオロオレフィンと前記二酸化炭素とを含有する第1のガス組成物を得る反応工程。
工程(II):前記第1のガス組成物に含まれる前記二酸化炭素を分離し、前記ハイドロフルオロオレフィンを含有する第2のガス組成物を得る分離工程。
【0015】
式(1)はCRCRであり、式(2)はCR=CRである。また、式(1)および式(2)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、Rは、水素原子、フッ素原子、CH、CHF、CHFまたはCFであり、R〜Rの合計のフッ素原子数は1以上であり、R〜Rの合計の水素原子数は1以上である。XおよびXは水素原子またはフッ素原子であり、Xが水素原子であるときXはフッ素原子、Xがフッ素原子であるときXは水素原子である。
【0016】
工程(I)において、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンから式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンが生成される反応は、下記反応式(3)で表すことができる。
【0017】
【化1】
【0018】
式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを所定の条件下で適宜処理すると、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンのXとXとが同時に脱離する脱フッ化水素反応を生じる。そして、このような反応式(3)で表されるハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応により、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンとフッ化水素とが同時に生成する。
【0019】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法において、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンの炭素数は2〜3個である。
【0020】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法において、原料である式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンと目的物である式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンとの組み合わせは、例えば、トリフルオロエタン(1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)、またはHFC−143aおよびHFC−143の混合物)と1,1−ジフルオロエチレン(HFO−1132a)、テトラフルオロエタン(1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、HFC−134a、またはHFC−134およびHFC−134aの混合物)とHFO−1123、ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb、HFC−245eb、またはHFC−245cbおよびHFC−245ebの混合物)とHFO−1234yf、ペンタフルオロプロパン(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、HFC−245eb、またはHFC−245faおよびHFC−245ebの混合物)と1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)(トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、またはHFO−1234ze(E)およびHFO−1234ze(Z)の混合物)などが挙げられる。これらの中でも、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンを効率的に製造することができる点で、HFC−134aからHFO−1123、ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb、HFC−245eb、ならびにHFC−245cbおよびHFC−245ebの混合物)からHFO−1234yfをそれぞれ製造することが好ましい。なお、本明細書中において、特に言及せずに化合物名や略称を記載した場合には、化合物名や略称は、E体および/またはZ体であることを示す。また、化合物名や略称の後に(E)を付した場合には、化合物名や略称はE体であり、化合物名や略称の後に(Z)を付した場合には、化合物名や略称はZ体であることを示す。
【0021】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、工程(I)および工程(II)をこの順で行う方法であれば、工程(I)および工程(II)が連続的に行われる全連続式の製造方法であってもよいし、工程(I)および工程(II)がともにバッチ式工程である全バッチ式の製造方法であってもよい。
【0022】
また、工程(I)は、連続式工程であってもよいし、バッチ式工程であってもよい。工程(II)についても、工程(I)と同様に、連続式工程であってもよいし、バッチ式工程であってもよい。整備する時間を短縮し生産性を高めるという観点から、工程(II)は連続式工程であることが好ましい。
【0023】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、工程(I)と工程(II)との間に、第1のガス組成物に含まれるフッ化水素を分離する工程(以下、工程(A)ともいう)をさらに有してもよい。工程(A)により反応式(3)で生成されるフッ化水素を分離することで、目的物としての式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンの精製や、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび二酸化炭素等を回収するプロセスの負荷が低減でき、生産性に優れる。
【0024】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法が工程(I)および工程(II)に加えて工程(A)も有する場合、当該製造方法は、全連続式の製造方法であってもよいし、全バッチ式の製造方法であってもよいし、これら工程のうちの一部の工程がバッチ式工程で、その他の工程が連続的に行われる一部連続式の製造方法であってもよい。整備する時間を短縮し生産性を高めるという観点から、工程(A)は連続式工程であることが好ましい。
【0025】
以下、工程(I)、工程(II)および工程(A)についてさらに説明する。
【0026】
<工程(I)>
工程(I)では、二酸化炭素の存在下で、原料ガス中の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化させる。式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンから式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンへの転化は、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを触媒と接触させて行うことが好ましい。以下、触媒を用いた態様について説明するが、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法における工程(I)は、このような態様に限定されない。
【0027】
(原料ガス)
原料ガスは、原料である式(1)で表されるハイドロフルオロカーボン、および該ハイドロフルオロカーボンの希釈ガスを含む。さらに、原料ガスは、本発明の効果を損なわない範囲において、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび希釈ガス以外に、その他の化合物を含んでもよい。また、原料ガスは、高圧下では一部液化していてもよい。原料ガスは、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンのみからなるガスであること、または式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンの含有割合が50モル%以上のガス組成物であることが好ましい。なお、本明細書中において、希釈ガスとは、原料を希釈するためのガスをいう。
【0028】
なお、原料ガスは式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンを含んでもよい。そのため、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法を含む各種のハイドロフルオロオレフィンの製造方法で得られた第2のガス組成物が、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを50モル%以上含有すれば、当該第2のガス組成物は工程(I)で原料ガスとして使用することができる。
【0029】
また、工程(I)が連続式工程である場合、反応成分としての式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを含む原料ガスの反応場(例えば、加熱した反応器)への供給について、原料ガスと触媒のいずれの供給も連続的に行ってもよいし、原料ガスと触媒の一方の供給のみを連続的に行い、もう一方はバッチ式で供給してもよい。整備する時間を短縮し生産性を高めるという観点から、触媒をバッチ式で反応器に供給した後、その反応器に式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを含む原料ガスを連続的に供給することが好ましい。
【0030】
(二酸化炭素)
本発明において、特に記載のない限り、二酸化炭素とは、二酸化炭素単体または二酸化炭素を99.9%以上含有するガスをいう。二酸化炭素は、工程(I)において式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンの希釈ガスとして使用する。
【0031】
工程(I)において二酸化炭素は添加してもよいし、ハイドロフルオロオレフィンを製造する過程において、副生物として発生する二酸化炭素を希釈ガスの全量または一部として工程(I)に使用してもよい。工程(I)における希釈ガスの量を調整できる点から、二酸化炭素を添加することが好ましい。
【0032】
添加する二酸化炭素としては、気体の二酸化炭素(以下、炭酸ガスともいう)単独を用いてもよいし、炭酸ガスと酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、四塩化炭素等を任意の割合で含んだ混合ガスを用いてもよい。
【0033】
その他の化合物は、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素、および式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィン以外の化合物である。その他の化合物は、例えば、製法等に由来する不純物や二酸化炭素以外の希釈ガス等が挙げられる。
【0034】
不純物としては、トリフルオロメタン(HFC−23)、HFC−32、HFC−134、HFC−143a、HFO−1132a、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))、シス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))、フッ化ビニル(HFO−1141)、HFO−1234yf、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、アセトン、酸素、フッ素、フッ化水素、塩素、塩化水素等が挙げられる。
【0035】
二酸化炭素以外の希釈ガスとしては、窒素、四塩化炭素が挙げられる。
【0036】
工程(I)における原料ガス中の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンの含有割合については、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンと二酸化炭素とのモル比(ハイドロフルオロカーボン/二酸化炭素)が0.3/99.7以上99.5/0.5以下であることが好ましい。触媒の劣化、二酸化炭素の除去率やアルカリ溶液のコストなどの点から、当該モル比は、5/95以上70/30以下であることがより好ましく、5/95以上50/50以下であることが最も好ましい。
【0037】
工程(I)において式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンが原料ガス中に含まれる場合、原料ガス中に含まれる式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンは、反応式(3)で表される平衡反応において、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンが生成する反応の逆反応が生起する要因となる。このような観点から、原料ガス中に式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンは含まれないことが好ましい。式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンが含まれる場合には、原料ガス中の当該ハイドロフルオロオレフィンの含有割合は、0.001モル%以上20モル%以下が好ましく、0.001モル%以上10モル%以下がより好ましく、0.001モル%以上5モル%以下が最も好ましい。
【0038】
原料ガス中のその他の化合物は、触媒劣化起因の副反応を抑制するという観点や、不要な副生物の発生を抑制してその後に行われるハイドロフルオロオレフィンの精製の工程の負荷を減らすという観点から、含まれないことが好ましい。その他の化合物が原料ガス中に含まれる場合には、0.001モル%以上10モル%以下が好ましく、0.001モル%以上5モル%以下がより好ましく、0.001モル%以上1モル%以下が最も好ましい。
【0039】
(触媒)
工程(I)で用いられる触媒は、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンの脱フッ化水素反応に対して触媒作用を有する。触媒としては、金属単体、金属酸化物、金属ハロゲン化物等が挙げられる。これらの物質の中でも、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを効率よく式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化できることから、金属酸化物または金属ハロゲン化物が好ましい。触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
金属単体、金属酸化物、金属ハロゲン化物を構成する金属としては、遷移金属元素、第12族金属元素、第13族金属元素、金属ケイ素が挙げられる。中でも、第6族金属元素、第8族金属元素、第10族金属元素、第12族金属元素、第13族金属元素が好ましく、クロム、鉄、亜鉛、アルミニウムがさらに好ましい。
【0041】
金属単体は、上記した金属の1種であってもよく、2種以上の金属の合金であってもよい。
【0042】
金属酸化物は、上記した金属の1種の酸化物であってもよく、2種以上の金属の複合酸化物であってもよい。
【0043】
金属ハロゲン化物は、上記した金属の1種のハロゲン化物であってもよく、2種以上の金属の複合ハロゲン化物であってもよい。
【0044】
触媒としては、具体的には、コバルト、ニッケル、パラジウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、フッ化鉄、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化クロム、塩化クロム、酸化ケイ素等が挙げられる。酸化ケイ素はシリカゲルが好ましい。これらの中でも、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを効率よく式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化できる点で、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウムおよび酸化クロムが好ましい。
【0045】
BET法により測定した触媒の比表面積(以下、BET比表面積と示す。)は、50m/g以上400m/g以下が好ましく、200m/g以上400m/g以下がより好ましい。触媒のBET比表面積が上記範囲であれば、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンが高い反応速度で反応し、反応効率が良好であるうえに、触媒の粒子の密度が小さすぎることがないので、飛散しにくくハンドリング性が良好である。
【0046】
触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、アルミナ担体、ジルコニア担体、シリカ担体、シリカアルミナ担体、活性炭に代表されるカーボン担体、硫酸バリウム担体、炭酸カルシウム担体等が挙げられる。活性炭としては、例えば、木材、木炭、果実ガラ、ヤシガラ、泥炭、亜炭、石炭等の原料から調製した活性炭等が挙げられる。
【0047】
触媒は、転化率向上の観点から、予め活性化処理されていることが好ましい。活性化処理の方法としては、加熱下または非加熱下で触媒を活性化処理剤と接触させる方法が挙げられる。活性化処理剤としては、例えば、酸素、フッ化水素、塩化水素、含フッ素化合物等が挙げられ、これらの中でも含フッ素化合物が好ましい。含フッ素化合物としては、例えば、HFC−143、HFC−143a、HFC−134、HFC−134a、HFC−245cb、HFC−245eb、HFC−245fa、HFO−1132a、HFO−1132(E)、HFO−1132(Z)、HFO−1123、HFO−1234yf、HFO−1234ze、トリクロロフルオロメタン(HFC−11)、ジクロロフルオロメタン(HFC−21)、クロロジフルオロメタン(HFC−22)、HFC−32、テトラフルオロエチレン(FO−14)、HFC−125等が挙げられる。ただし、これら活性化処理剤のうち、工程(I)で得られる生成物を除く。
【0048】
触媒は、このような反応前の活性化処理の他に、再活性化処理を行うことが好ましい。すなわち、転化反応において触媒の活性が低下し、原料成分である式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンの転化率や、目的物である式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンの選択率が低下したときには、触媒を再活性化処理することが好ましい。再活性化処理により、触媒の活性を再生させて触媒を再利用することが好ましい。
【0049】
再活性化処理の方法としては、使用前に行われる上述の活性化処理と同様に、使用後の触媒を加熱下または非加熱下で再活性化処理剤と接触させる方法が挙げられる。再活性化処理剤としては、酸素、フッ化水素、塩化水素、含フッ素化合物等を用いることができる。含フッ素化合物としては、例えば、HFC−143、HFC−143a、HFC−134、HFC−134a、HFC−245cb、HFC−245eb、HFC−245fa、HFO−1132a、HFO−1132(E)、HFO−1132(Z)、HFO−1123、HFO−1234yf、HFO−1234ze、HFC−11、HFC−21、HFC−22、HFC−32、FO−14、HFC−125等が挙げられる。ただし、これら再活性化処理剤のうち、工程(I)で得られる生成物を除く。
【0050】
なお、副反応の抑制および触媒の耐久性向上等の点から、活性化処理剤を希釈するために、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0051】
(原料ガスと触媒との接触)
工程(I)における原料ガスと触媒との接触において、触媒は、固体の状態(固相)で原料ガスと接触してもよいし、あるいは、触媒を分散可能な液状の媒体に分散された状態(液相)で原料ガスと接触してもよい。触媒を分散させる液状の媒体としては、例えば、水、メタノールやエタノール等のアルコール、四塩化炭素等の塩素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート等が挙げられる。液状の媒体に分散された状態の触媒に原料ガスを接触させる場合は、原料ガスの圧力が高くなり、高温での反応が困難であることから、固相をなす触媒と原料ガスを接触させることが好ましい。
【0052】
以下、工程(I)について、反応器内に連続的に供給される気相の原料ガスが、反応器内にバッチ式で投入された固相の触媒と接触する態様について説明するが、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法における工程(I)は、このような態様に限定されない。
【0053】
気相の原料ガスを固相の触媒と連続的に接触させて反応させる実施形態においては、原料ガスおよび希釈ガスの各気相成分の単位時間当たりの流量を制御することで、原料ガス中の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび希釈ガスの含有割合を制御することが好ましい。
【0054】
(反応器および反応条件)
工程(I)で、原料ガスと触媒とを接触させて反応させる反応器としては、後述する温度および圧力に耐えることができるものであれば、形状および構造は特に限定されない。反応器は、例えば、円筒状の縦型反応器が挙げられる。反応器の材質としては、ガラス、鉄、ニッケル、鉄またはニッケルを主成分とする合金等が挙げられる。反応器は、反応器内を加熱する電気ヒータ等の加熱手段を備えてもよい。
【0055】
反応器内に投入される固相をなす触媒は、固定床型、流動床型のいずれの形式で収容されてもよい。固定床型である場合、水平固定床型と垂直固定床型のいずれであってもよい。原料ガスが多成分で構成される混合ガスの場合は、比重差による各成分の濃度分布の発生を防止しやすいことから、垂直固定床型であることが好ましい。
【0056】
原料ガスは、常温で反応器に供給してもよいが、反応器内での反応性を高めるために、反応器に供給する前に原料ガスを加熱(予熱)してから供給することが好ましい。原料ガスの予熱を行う場合、原料ガスは50℃以上400℃以下の温度に加熱してから反応器に供給することが好ましい。
【0057】
反応器に供給された原料ガスは、反応器内で固相をなす触媒と接触する。反応器内の原料ガスの温度は、反応性向上および触媒の寿命向上の観点から、200℃以上1200℃以下が好ましい。さらに、反応効率、副反応の抑制および生産設備の観点から、反応器内の原料ガスの温度は、300℃以上1000℃以下がより好ましい。また、反応器内の圧力は、臨界点付近の圧力ではなく、具体的にはゲージ圧で−0.1MPa以上2.0MPa以下が好ましく、−0.1MPa以上0.5MPa以下がより好ましい。反応器内での原料ガスと触媒との接触時間は、0.1秒以上500秒以下が好ましく、0.5秒以上50秒以下がより好ましく、5秒以上30秒以下が特に好ましい。
【0058】
(第1のガス組成物)
工程(I)では、反応器の出口ガスとして、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンと二酸化炭素と未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンとを含む第1のガス組成物を得ることができる。第1のガス組成物は、目的物である式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素、未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボン以外に、工程(I)におけるその他の化合物や、工程(I)で生成される副生物であるその他の成分を含んでもよい。第1のガス組成物に含有されるその他の成分としては、例えば、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンがHFC−134aであり式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンがHFO−1123である場合にはHFO−1141、HFO−1132a、HFO−1132(Z)、HFO−1132(E)、HFC−134、HFC−143、HFC−134a、HFC−125、HFC−23、HFC−32、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン等が挙げられる。
【0059】
<工程(II)>
工程(II)では、第1のガス組成物から二酸化炭素を分離して、ハイドロフルオロオレフィンの含有割合の増加した第2のガス組成物を得る。二酸化炭素を分離する方法としては、特には限定されず、反応条件や反応生成物に応じて任意に選択できる。例えば、二酸化炭素をアルカリ溶液に吸収させる化学吸収法、高圧、低温下において、二酸化炭素を物理的に吸収液に溶解させる物理吸収法、多孔質の吸着剤に二酸化炭素を吸着させる吸着分離法、分離膜を通過させることにより二酸化炭素を分離する膜分離法、高圧、低温下で二酸化炭素を固体状態とする分離法などが挙げられる。これらの方法は、単一の方法で行ってもよいし、複数の方法を組合せてもよい。単一の方法で行う場合には、1段階反応でもよいし、数段階に分けて反応させてもよい。二酸化炭素を分離する方法としては、二酸化炭素をアルカリ溶液に吸収させる化学吸収法が好ましい。なお、分離方法によっては二酸化炭素に加えてフッ化水素も分離されることがある。
【0060】
化学吸収法により二酸化炭素を分離する場合、工程(II)で用いられるアルカリ溶液は、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素を分離することができれば特には限定されず、反応条件や反応生成物に応じて任意に選択される。このとき、第1のガス組成物をアルカリ溶液と接触させることによって、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素はハイドロフルオロオレフィンと分離することができる。アルカリ溶液は、共役酸のpKaが6より大きい無機塩基または有機塩基を含むことが好ましく、共役酸のpKaが9より大きい無機塩基または有機塩基を含むことがより好ましい。アルカリ溶液に含まれる無機塩基および有機塩基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。pKaは塩基の共役酸の水中における酸性度である。アルカリ溶液としては、水溶液のものが好ましい。
【0061】
無機塩基としては、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、テトラアルキルアンモニウム水酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウムが好ましく、コストの観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウムがより好ましい。
【0062】
有機塩基としては、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、ポリアミン類、環状アミン類、アミノ酸類、アミノスルホン酸およびこれらの塩等が挙げられる。
【0063】
アルキルアミン類としては、トリアルキルアミンが好ましい。トリアルキルアミンとしては、メチルジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0064】
アルカノールアミン類としては、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミンが好ましい。モノアルカノールアミンとしては、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、2−メチルアミノエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−プロピルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−イソプロピルアミノエタノール、3−ピペリジンメタノール、3−キヌクリジノール、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノールが挙げられる。ジアルカノールアミンとしては、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジグリコールアミン、ジイソプロパノールアミン、3−ピペリジノー1,2―プロパンジオールが挙げられる。トリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミンが挙げられる。
【0065】
ポリアミン類としては、キシリレンジアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミンが好ましい。
【0066】
環状アミン類としては、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジンが好ましい。
【0067】
アミノ酸類としては、α−アミノ酸、β−アミノ酸が好ましい。α−アミノ酸としては、N,N−ジメチルグリシン、N−メチルアラニン、2−メチルアラニンが挙げられる。β−アミノ酸としては、β−アラニン、3−メチルアミノプロピオン酸、イミノジプロピオン酸が挙げられる。
【0068】
アミノスルホン酸としては、α−アミノスルホン酸、β−アミノスルホン酸が好ましい。α−アミノスルホン酸としてはアミノメタンスルホン酸が挙げられる。β−アミノスルホン酸としては2−アミノエタンスルホン酸、2−(メチルアミノ)エタンスルホン酸が挙げられる。
【0069】
有機塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミンがより好ましく、コストの観点から、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミンが最も好ましい。
【0070】
アルカリ溶液の濃度は、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。アルカリ溶液の温度は、5℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0071】
アルカリ溶液は、リン酸系等の防食剤、シリコーン系等の消泡剤、酸化防止剤、吸収促進剤等を含んでいてもよい。
【0072】
物理吸収法により二酸化炭素を分離する場合、工程(II)で用いられる吸収液は、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素を分離することができれば特には限定されず、反応条件や反応生成物に応じて任意に選択される。吸収液としては、メタノール、ポリエチレングリコール、グライム、スルホラン、イオン性液体([R,R’−Nと[R−NC、PFとBFなどの組み合わせ)が挙げられる。吸収液は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
吸着分離法により二酸化炭素を分離する場合、工程(II)で用いられる吸着剤は、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素を分離することができれば特には限定されず、反応条件や反応生成物に応じて任意に選択される。吸着剤としては、ゼオライトや活性炭などの多孔質体などが挙げられる。吸着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
膜分離法により二酸化炭素を分離する場合、工程(II)で用いられる分離膜は、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素を分離することができれば特には限定されず、反応条件や反応生成物に応じて任意に選択される。分離膜としては、ポリアミドアミンデンドリマーなどの高分子膜、セラミック膜、カーボン膜、含浸型液体膜などが挙げられる。分離膜は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
(二酸化炭素の回収方法)
工程(II)において分離された二酸化炭素は、回収することができる。回収方法は二酸化炭素の分離方法によって異なる。例えば、化学吸収法の場合には、アルカリ溶液などの吸収液を加熱することにより二酸化炭素を放出させて回収する方法、物理吸収法の場合には、吸収液を減圧、加熱することにより二酸化炭素を放散させて回収する方法、吸着分離法の場合には、吸着剤を低圧下におき、二酸化炭素を脱着させて回収する方法等が挙げられる。回収された二酸化炭素は、再度工程(I)の希釈ガスとして再利用することが出来る。
【0076】
(第2のガス組成物)
工程(II)では、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンと未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンとを含む第2のガス組成物を得ることができる。第2のガス組成物は、目的物である式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンおよび未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボン以外に、上記工程(I)におけるその他の化合物やその他の成分と同じ化合物や成分を含んでもよい。工程(II)では、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素を選択的に分離することにより、第2のガス組成物中のハイドロフルオロオレフィンの含有割合は、第1のガス組成物中のハイドロフルオロオレフィンの含有割合よりも高い。
【0077】
第2のガス組成物は、そのまま各種の用途に使用することが可能であり、さらに精製を行うことが好ましい。精製の方法としては、蒸留、吸着、酸性水溶液、塩基性水溶液または中性水溶液による洗浄等の公知の方法が挙げられる。第2のガス組成物に含まれる式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィン以外の物質は、公知の手段で除去し、所望の程度に分離することができる。好ましくは、精製の方法は、常圧下、加圧下または減圧下で蒸留する方法である。このような圧力下で蒸留を実施することにより、高純度のハイドロフルオロオレフィンを得ることができる。また、第2のガス組成物から分離された未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンは、工程(I)の原料ガスの一部としてリサイクルが可能である。
【0078】
<工程(A)>
さらに、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、工程(I)と工程(II)との間に、第1のガス組成物中に含まれるフッ化水素を分離する工程(A)を有することが好ましい。工程(A)を有する場合、上述した工程(II)で分離されるフッ化水素の量は、工程(A)で分離されるフッ化水素の量に比べて非常に少ない。
【0079】
第1のガス組成物は、そのまま工程(A)に供給してもよいが、工程(I)と工程(A)との間に他の処理工程を設け、第1のガス組成物に対して他の処理を行ったものを工程(A)に供給してもよい。ここで、他の処理とは、フッ化水素および二酸化炭素の分離以外の処理、かつ、第1のガス組成物中に含まれる水分以外の物質の組成を変化させない処理である。他の処理としては、例えば、タンクへの保管、コンプレッサーによる圧縮、加熱、冷却、水分除去等の処理が挙げられる。
【0080】
第1のガス組成物からフッ化水素を分離する方法としては、蒸留、吸着、二相分離等の方法が挙げられる。
【0081】
蒸留は、第1のガス組成物を蒸留してフッ化水素を分離する方法である。蒸留は、常圧下、加圧下または減圧下で実施可能であるが、分離効率向上の観点から、加圧下で実施することが好ましい。
【0082】
吸着は、第1のガス組成物を吸着剤と接触させ、フッ化水素を吸着剤に吸着させて分離する方法である。吸着剤は、固相をなしてもよいし、吸着剤が溶解しない液状の媒体に分散された状態(液相)であってもよい。吸着剤としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ゼオライト、活性炭等を用いることができる。フッ化水素を効率的に分離できることから、フッ化ナトリウムが特に好ましい。
【0083】
二相分離は、第1のガス組成物を加圧下で、液相にして、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンや二酸化炭素、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを含む有機相とフッ化水素を含む酸相との二相に分離させ、相分離した酸相を分離する方法である。
【0084】
フッ化水素の分離処理を行う工程(A)によって、第1のガス組成物に比べてフッ化水素の含有割合の低いガス組成物が得られる。すなわち、工程(A)により、フッ化水素の含有割合が低く、かつ、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素および未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを含有するガス組成物が得られる。本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法が工程(A)を有する場合には、当該ガス組成物を上記第1のガス組成物として用いることができる。工程(A)で得られるガス組成物においては、塩化水素、二酸化炭素等の酸性成分の含有割合や、上記その他の化合物やその他の成分中に含まれる酸性成分以外の化合物の含有割合が、第1のガス組成物よりも低い場合がある。工程(A)で二酸化炭素が分離される場合、工程(A)で分離される二酸化炭素の量は、工程(II)で分離される二酸化炭素の量に比べて非常に少ない。
【0085】
なお、工程(A)で得られたガス組成物は、そのまま工程(II)に供給してもよいが、工程(A)と工程(II)との間に他の処理工程を設け、ガス組成物に対して他の処理を行ったものを工程(II)に供給してもよい。ここで、他の処理とは、二酸化炭素の分離以外の処理、かつ、ガス組成物中に含まれる水分以外の物質の組成を変化させない処理である。他の処理としては、例えば、タンクへの保管、コンプレッサーによる圧縮、加熱、冷却、水分除去等の処理が挙げられる。
【0086】
<反応装置>
図1は、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法に使用される反応装置の一例を示す概略図である。反応装置1は、工程(I)を実施するための電気ヒータ等の加熱手段を備えた反応器2と、工程(II)を実施するための二酸化炭素トラップ3を備える。なお、反応器2において、加熱手段の設置は必須ではない。また、必要に応じて、工程(I)と工程(II)との間に、工程(A)を実施するためのフッ化水素トラップ4を備えてもよい。図1では、アルカリ溶液を使用する化学吸収法を用いた態様について説明するが、本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法における二酸化炭素の分離方法は、このような態様に限定されない。
【0087】
反応器2内には、触媒5が垂直固定床をなすように収容されている。また、反応器2の入口側である上部は、原料ガス供給ライン7によって、電気ヒータ等の加熱手段を備えた予熱混合器6に接続されている。原料ガス供給ライン7にも電気ヒータ等の加熱手段が設けられることが好ましい。
【0088】
なお、反応器2においては、反応器2の上部から下部へ原料ガスを供給してもよいし、反応器2の下部から上部へ原料ガスを共有してもよい。
【0089】
予熱混合器6には、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを供給するハイドロフルオロカーボン供給ライン8と希釈ガスである二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給ライン9とが、それぞれ接続されている。式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび二酸化炭素は、それぞれハイドロフルオロカーボン供給ライン8および二酸化炭素供給ライン9により予熱混合器6に導入され、予熱混合器6内で混合されかつ所定の温度に加熱された後、原料ガス供給ライン7によって反応器2に供給される。反応器2に供給されたハイドロフルオロカーボンは、二酸化炭素の存在下で触媒5と接触して、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンに転化される。そして、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンや二酸化炭素、フッ化水素、未反応の式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンを含有する第1のガス組成物が得られる。
【0090】
なお、ハイドロフルオロカーボン供給ライン8と二酸化炭素供給ライン9とを、予熱混合器6に接続する前で連結し、式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンと二酸化炭素とを混合してから予熱混合器6に供給してもよい。また、ハイドロフルオロカーボン供給ライン8および二酸化炭素供給ライン9の少なくとも一方に、電気ヒータ等を備えた予熱器(プレヒータ)を設置し、予熱器を設置したラインで供給される式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンおよび二酸化炭素の少なくとも一方を予熱してから、予熱混合器6に供給してもよい。
【0091】
反応器2の出口側である下部は、電気ヒータ等の加熱手段を備えた反応器出口ライン10により、フッ化水素を吸着する吸着剤を充填しているフッ化水素トラップ4に接続されている。反応器2で得られた第1のガス組成物は、フッ化水素トラップ4に供給され、吸着剤を充填しているフッ化水素トラップ4を通過することにより、第1のガス組成物に含まれているフッ化水素が吸着剤に吸着される。そして、フッ化水素を除去した第1のガス組成物が得られる。
【0092】
フッ化水素トラップ4の出口は、出口ライン11により、アルカリ溶液を収容している二酸化炭素トラップ3に接続されている。フッ化水素トラップ4を通過した第1のガス組成物は二酸化炭素トラップ3に供給され、第1のガス組成物がアルカリ溶液中でバブリングされることにより、第1のガス組成物に含まれている二酸化炭素はアルカリ溶液と反応する。そして、第1のガス組成物に含まれる二酸化炭素が分離されて、式(2)で表されるハイドロフルオロオレフィンを含有する第2のガス組成物が得られる。
【0093】
二酸化炭素トラップ3の出口は、出口ライン12により、脱水装置13に接続されている。二酸化炭素トラップ3で得られた第2のガス組成物は脱水装置13に供給され、第2のガス組成物に含まれる水分が除去される。脱水装置13により水分を除去した第2のガス組成物は、サンプリングバッグ14に集められた後、ガスクロマトグラフィー(GC)等の分析装置15により、第2のガス組成物の含有成分が分析される。
【0094】
本発明のハイドロフルオロオレフィンの製造方法によれば、ハイドロフルオロオレフィンの沸点が低い場合であっても、ハイドロフルオロオレフィンと希釈ガスである二酸化炭素とを容易に分離することができる。その結果、製造コストを抑えるとともに、ハイドロフルオロオレフィンの生産性を上げることができる。
【0095】
本発明の製造方法により製造されたハイドロフルオロオレフィン、例えばHFO−1123やHFO−1234yfは、温室効果ガスであるHFC−32やHFC−125に代わる冷媒として、また圧電素子やフィルムのような機能性材料の原料モノマーおよび合成用中間体として有用である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<反応装置>
実施例および比較例では、図1に示す反応装置(以下、反応装置(1)と示す。)を用いた。
【0098】
(反応装置(1))
反応装置(1)において、反応器2はSUS316L(JIS規格)製で内径22.66mm×高さ300mmの垂直固定床反応器を用いた。反応器2内には、各実施例および比較例で示す触媒5を、100mmの高さで充填した。また、反応器2内は、電気炉により加熱した。
【0099】
反応器2の入口側に接続された原料ガス供給ライン7は、リボンヒーターによって100℃以上120℃以下の範囲になるように加熱した。式(1)で表されるハイドロフルオロカーボンであるHFC−134aおよび希釈ガスである二酸化炭素は、それぞれハイドロフルオロカーボン供給ライン8および二酸化炭素供給ライン9に設置されたマスフローコントローラー(図示を省略。)で流量を調整し混合した後、予熱混合器6に供給するように構成した。
【0100】
反応器2の出口側に接続された反応器出口ライン10は、リボンヒーターによって100℃以上120℃以下の範囲になるように加熱し、1/16インチのフッ化ナトリウムペレット30gを充填したフッ化水素トラップ4に接続した。フッ化水素トラップ4の出口側に接続された出口ライン11は、20質量%水酸化カリウム水溶液を収容している二酸化炭素トラップ3に接続した。二酸化炭素トラップ3の出口側に接続された出口ライン12は、ペレット状のモレキュラーシーブス3A(純正化学株式会社製、1/8インチペレット)を120g充填した脱水装置13に接続した。また、脱水装置13を通過した第2のガス組成物は、脱水装置13に接続されたポリフッ化ビニリデン(PVdF)製のサンプリングバック14で採取された後、第2のガス組成物の組成分析を分析装置15で行うように構成した。
【0101】
<分析条件>
分析装置15において、第2のガス組成物の組成分析には、GCを用いた。カラムは、DB−1(アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ60m×内径250μm×厚さ1μm)を用いた。検出器はFIDを用いた。
【0102】
<線速度>
線速度は空塔速度を意味し、原料ガスを流通する反応器がその内部に充填物を充填していない空塔であると仮定し、流量(体積流量)を空塔である反応器の断面積で割ることで算出した。なお、この線速度は1cm/sで実験を行った。
線速度(空塔速度)(cm/s)=流量(cm/s)/断面積(cm
【0103】
[実施例1]
反応装置(1)の反応器2に、アルミナ触媒(日揮触媒化成社製、商品名:ACBM−1、形状:粒径2mm球状)の40gを充填し、窒素ガスを300mL/minで供給しながら350℃で48時間加熱して乾燥させた。
【0104】
次いで、反応器2の器内温度を350℃とし、HFC−134aを5モル%および窒素を95モル%で混合した混合ガスを線速度1cm/sで反応器2に供給した。HFC−134aおよび窒素を連続的に流し続け、4時間後にフッ化ナトリウムペレットを充填したフッ化水素トラップ4を通過した出口ガスの組成が安定したことを確認した。
【0105】
次いで、反応器2の器内温度を350℃とし、HFC−134aを5モル%および希釈ガスとして二酸化炭素を95モル%で混合した原料ガスを反応器2に供給した。HFC−134aおよび二酸化炭素を連続的に流し続け、フッ化水素トラップ4を通過した出口ガス(以下、NaF通過出口ガスという)の組成が安定したことを確認した。次いで、NaF通過出口ガスを二酸化炭素トラップ3および脱水装置13に供給し、二酸化炭素トラップ3および脱水装置13を通過した出口ガス(以下、KOH通過出口ガスという)の組成が安定してから2時間毎にKOH通過出口ガスのサンプルを採取した。二酸化炭素トラップ3内のアルカリ水溶液は撹拌子で撹拌した。このとき、二酸化炭素トラップ3を通過した第1のガス組成物は、アルカリ水溶液中で微小な気泡を形成していた。なお、サンプル採取時の室温は25℃であった。
【0106】
GCでの分析で得られたKOH通過出口ガス中の各成分のモル比率(モル%)を基にして、HFC−134aの転化率およびHFO−1123の選択率をそれぞれ次のようにして求めた。
【0107】
以下の計算式において、(HFC−134a)in、(HFC−134a)out、(HFO−1123)outおよび(total)outは、それぞれ原料ガス中のHFC−134a、希釈ガスを除いたKOH通過出口ガスにおけるHFC−134a、HFO−1123およびKOH通過出口ガス成分全体のGC面積を表す。ただし、二酸化炭素および空気は検出されないため除く。なお、本実施例においては、(HFC−134a)in=(total)outと仮定して算出する。
【0108】
なお、KOH通過出口ガス中の各成分のモル比率は、GCで同定された各成分の面積比に対して、組成比が既知である標準物質を用いて測定した検出感度ファクターをかけることで算出した。また、原料ガス中のHFC−134aと二酸化炭素のモル比率は、HFC−134aと二酸化炭素の流量比より算出した。
【0109】
[HFC−134aの転化率(モル%)]
HFC−134aの転化率とは、反応によりHFC−134aがHFO−1123を含む他の成分に転化し消費された割合をいう。HFC−134aの転化率は、以下の式により算出される。
【0110】
HFC−134aの転化率(モル%)={1−(HFC−134a)out/(HFC−134a)in}×100
【0111】
[HFO−1123の選択率(モル%)]
HFO−1123の選択率とは、反応したHFC−134aのうち、HFO−1123に転化した割合をいう。HFO−1123の選択率は、以下の式により算出される。
【0112】
HFO−1123の選択率(モル%)=
(HFO−1123)out/{1−(HFC−134a)out/(HFC−134a)in}×100
【0113】
なお、これらの結果は反応が安定してから反応終了までの間に採取したサンプルの分析の平均値とした。
【0114】
HFC−134aの転化率およびHFO−1123の選択率の算出結果を、反応条件(反応器に供給されるHFC−134a流量(モル%)、二酸化炭素流量(モル%)、器内温度(℃))とともに、表1に示す。
【0115】
なお、器内温度は、反応器2の器内温度であり、実測値である。また、線速度は、反応器に供給される原料ガスの線速である。
【0116】
[実施例2〜10]
反応条件を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、連続的に反応を行った。そして、HFC−134aの転化率およびHFO−1123の選択率を、それぞれ実施例1と同様にして求めた。得られた結果を表1に示す。
【0117】
[実施例11、12]
反応装置(1)の反応器2に、触媒として三フッ化アルミニウム(関東化学株式会社製、商品名:Aluminium Trifluoride、形状:粉末)を40g充填し、反応条件を表2に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、連続的に反応を行った。そして、HFC−134aの転化率およびHFO−1123の選択率を、それぞれ実施例1と同様にして求めた。得られた結果を表2に示す。
【0118】
[実施例13]
原料ガスの組成および反応条件を表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、連続的に反応を行った。そして、HFC−245ebの転化率およびHFO−1234yfの選択率を下記式から算出した。
【0119】
以下の計算式において、(HFC−245eb)in、(HFC−245eb)out、(HFO−1234yf)outおよび(total)outは、それぞれ原料ガス中のHFC−245eb、希釈ガスを除いたKOH通過出口ガスにおけるHFC−245eb、HFO−1234yfおよびKOH通過出口ガス成分全体のGC面積を表す。ただし、二酸化炭素および空気は検出されないため除く。なお、本実施例においては、(HFC−245eb)in=(total)outと仮定して算出する。
【0120】
得られた結果を表3に示す。
【0121】
HFC−245ebの転化率(モル%)={1−(HFC−245eb)out/(HFC−245eb)in}×100
【0122】
HFO−1234yfの選択率(モル%)=
(HFO−1234yf)out/{1−(HFC−245eb)out/(HFC−245eb)in}×100
【0123】
[実施例14]
原料ガスの組成および反応条件を表4に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、連続的に反応を行った。そして、HFC−245cbの転化率およびHFO−1234yfの選択率を下記式から算出した。
【0124】
以下の計算式において、(HFC−245cb)in、(HFC−245cb)out、(HFO−1234yf)outおよび(total)outは、それぞれ原料ガス中のHFC−245cb、希釈ガスを除いたKOH通過出口ガスにおけるHFC−245cb、HFO−1234yfおよびKOH通過出口ガス成分全体のGC面積を表す。ただし、二酸化炭素および空気は検出されないため除く。なお、本実施例においては、(HFC−245cb)in=(total)outと仮定して算出する。
【0125】
得られた結果を表4に示す。
【0126】
HFC−245cbの転化率(モル%)={1−(HFC−245cb)out/(HFC−245cb)in}×100
【0127】
HFO−1234yfの選択率(モル%)=
(HFO−1234yf)out/{1−(HFC−245cb)out/(HFC−245cb)in}×100
【0128】
[比較例1〜7]
原料ガスの組成および反応条件を表5に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、連続的に反応を行った。そして、HFC−134aの転化率およびHFO−1123の選択率を、それぞれ実施例1と同様にして求めた。得られた結果を表5に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
表1、2および表5から、希釈ガスとして二酸化炭素を用いた実施例1〜12は、希釈ガスとして窒素を用いた比較例1〜5と同程度の反応性(転化率、選択率)であった。表1、2および表5から、原料ガス中のHFC−134aのモル比が小さいほど、または器内温度を高くするほど、HFC−134aの転化率が高くなることが分かる。
【0135】
[実施例15]
反応装置(1)の反応器2に、アルミナ触媒(日揮触媒化成社製、商品名:ACBM−1、形状:粒径2mm球状)の40gを充填し、窒素ガスを300mL/minで供給しながら350℃で48時間加熱して乾燥させた。
【0136】
次いで、反応器2の器内温度を350℃とし、HFC−134aを5モル%および窒素を95モル%で混合した混合ガスを線速度1cm/sで反応器2に供給した。HFC−134aおよび窒素を連続的に流し続け、4時間後にフッ化ナトリウムペレットを充填したフッ化水素トラップ4を通過した出口ガスの組成が安定したことを確認した。
【0137】
次いで、反応器2の器内温度を450℃とし、HFC−134aを5モル%および希釈ガスとして二酸化炭素を95モル%で混合した原料ガスを反応器2に供給した。HFC−134aおよび二酸化炭素を連続的に流し続け、NaF通過出口ガスの組成が安定してから5時間後に、NaF通過出口ガスのサンプルを出口ライン11に接続されたサンプリングバックで採取した後、分析装置で組成分析を行った(図示略)。次いで、NaF通過出口ガスを二酸化炭素トラップ3および脱水装置13に供給し、KOH通過出口ガスの組成が安定してから5時間後に、KOH通過出口ガスのサンプルを採取した。二酸化炭素トラップ3内のアルカリ水溶液は撹拌子で撹拌した。このとき、二酸化炭素トラップ3を通過した第1のガス組成物は、アルカリ水溶液中で微小な気泡を形成していた。なお、サンプル採取時の室温は25℃であった。
【0138】
ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、そのピーク面積から得られたNaF通過出口ガスおよびKOH通過出口ガスのサンプル中に含まれる二酸化炭素の量を評価した。ガスクロマトグラフ質量分析装置により評価した結果を表6に示す。なお、表6中のCO/HFO−1123のモル比は標準サンプルを用いて算出した検量線から求めた。なお、ガスクロマトグラフ質量分析装置のカラムは、DB−1(アジレント・テクノロジー株式会社製、長さ60m×内径250μm×厚さ1μm)を用いた。検出器はTCDを用いた。
【0139】
【表6】
【0140】
表6から、第1のガス組成物に含まれていた二酸化炭素の97%がアルカリ水溶液により分離できたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の製造方法によれば、沸点の低いハイドロフルオロカーボンからそれに対応する沸点の低いハイドロフルオロオレフィンを効率よく安定的に製造することができる。また、安価な原料であるアルカリ溶液で希釈ガスである二酸化炭素を容易に分離することができることから、工業的製造方法として有用である。さらに、地球環境に悪影響を与えるとされる二酸化炭素を原料に有用していることから、地球環境に配慮した製造方法であるといえる。
【符号の説明】
【0142】
1…反応装置、2…反応器、3…二酸化炭素トラップ、4…フッ化水素トラップ、5…触媒、6…予熱混合器、7…原料ガス供給ライン、8…ハイドロフルオロカーボン供給ライン、9…二酸化炭素供給ライン、10…反応器出口ライン、11…出口ライン、12…出口ライン、13…脱水装置、14…サンプリングバッグ、15…分析装置。
図1