【文献】
NAGAI, T. et al.,Effects of oral administration of yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OL,International Immunopharmacology,2011年,Vol.11,No.12,p.2246-50,特に、p.2246 Abstract, p.2248-2249 Discussion, p.2248 Fig 3.
【文献】
木戸博,インフルエンザにおけるマクロライドの有効性の機序2:インフルエンザにおける粘膜免疫増強作用と再感染抑,呼吸器内科,日本,2013年,Vol.24, No.4,p.384-91,ISSN 1884-2887
【文献】
木戸博、外5名,マクロライド薬によるインフルエンザ感染時の粘膜免疫増強作用,臨床と微生物,日本,2012年,Vol.39, No.4,p.331-5,ISSN 0910-7029
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてより具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
(1)獲得免疫機能低下抑制用組成物
本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物は、有効成分としてラクトバチルス属乳酸菌による乳酸菌産生物を含んでいる。ここで、乳酸菌産生物には、乳酸菌発酵物、乳酸菌培養物、乳酸菌代謝物等が含まれる。乳酸菌発酵物とは、乳酸菌を用いて乳酸発酵を行った後に得られる結果物(培養物および生成物を含む)である。また、乳酸菌培養物は、乳酸菌の培養に適した培地の存在下で乳酸菌を培養して得られる結果物(培養物および生成物を含む)である。乳酸菌代謝物は、乳酸菌の代謝作用によって得られる結果物(生成物を含む)である。なお、乳酸菌発酵物と乳酸菌培養物とは、同一のものを意味する場合もあり、このような場合には、互いに言い換えて使用することもできる。
【0019】
乳酸菌産生物の中には、乳酸菌そのもの(生菌および死菌を含む)が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。なお、プロバイオティクスの観点からは、生菌を含む乳酸菌発酵物が好ましく用いられる。
【0020】
また、ここで「乳酸菌」とは、ブドウ糖を資化して対糖収率で50%以上の乳酸を生産する微生物の総称で、生理学的性質としてグラム陽性菌の球菌または桿菌で、運動性なし、胞子形成能なし、カタラーゼ陰性などの特徴を有しているものである。乳酸菌は古来、発酵乳等を介して世界各地で食されており、極めて安全性の高い微生物と言える。乳酸菌は、複数の属に分類される。
【0021】
そして、本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類されるラクトバチルス属乳酸菌による乳酸菌産生物を有効成分として含んでいる。すなわち、本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物は、ラクトバチルス属乳酸菌による発酵物、ラクトバチルス属乳酸菌の培養物およびラクトバチルス属乳酸菌の代謝物の少なくとも何れかを有効成分として含んでいる。
【0022】
ラクトバチルス属乳酸菌としては、例えば、ブルガリクス種、カゼイ種、アシドフィルス種、プランタラム種などが挙げられる。これらのラクトバチルス属乳酸菌の中でも、本発明では、ブルガリクス種に分類される乳酸菌(ブルガリクス菌とも称する)を用いることが好ましい。さらに、ラクトバチルス属乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)を用いることがより好ましい。
【0023】
また、より具体的には、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスには、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R−1菌(受託番号:FERM BP−10741)(以下では、「ブルガリクス菌R−1株」と称する)などが含まれる。
【0024】
本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物は、各種ラクトバチルス属乳酸菌の中でも、「ブルガリクス菌R−1株」による乳酸菌産生物を有効成分として含んでいることがさらに好ましい。ブルガリクス菌R−1株は、1999年2月22日付(受託日)で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD,AIST)(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、受託番号FERM P−17227として国内寄託されており、2006年11月29日に、ブタペスト条約に基づき国際寄託に移管され、受託番号IPOD FERM BP−10741が付与されている。なお、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD,NITE)が、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターより特許微生物寄託業務を承継したため、ブルガリクス菌R−1株は、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD,NITE)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託されている(受託番号:FERM BP−10741)。
【0025】
本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物に含まれる乳酸菌産生物は、乳酸菌発酵物であることが好ましい。この乳酸菌発酵物には、乳酸菌の発酵物およびその処理物、例えば、培養物(乳酸菌発酵物)をろ過・遠心分離もしくは膜分離等で除菌して得られた培養濾液や培養上清液、培養濾液・培養上清液や乳酸菌発酵物等をエバポレーター等により濃縮した濃縮物、ペースト化物、希釈物又は(凍結、加熱、減圧など)乾燥物が含まれる。なお、処理物の調製の際は、ろ過、遠心分離、膜分離等の除菌処理、沈殿、濃縮、ペースト化、希釈、乾燥などの前述の処理工程の1つ又は複数を組み合わせて実施することができる。また、乳酸菌培養物用の培地としては、例えば、脱脂粉乳培地、MRS培地等が挙げられる。
【0026】
本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物に含まれる乳酸菌産生物として、より具体的には、ブルガリクス菌R−1株を用いて、種々の基材を発酵させて得られる乳酸菌発酵物を挙げることができる。
【0027】
発酵に用いられる基材は、ブルガリクス菌R−1株が生育又は増殖した結果として、発酵が起こり得る環境を形成できるものであればよい。当該基材は、例えば、ヒトや動物の乳や野菜・果物・豆、穀類などの食品素材であり、微生物の成育用又は増殖用の培地や原料乳でもあり得る。当該基材は、好ましくは、発酵後に食品として摂取できる食品素材であり、具体的には、生乳(未殺菌乳)、殺菌乳、全脂濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、ミルクタンパク質濃縮物(MPC)、ホエイ、ホエイパウダー、脱塩ホエイ、脱塩ホエイパウダー、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、カゼイン、ナトリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、クリーム、バター、豆乳などを含んでいる培地や原料乳であり、これらの食品素材に、糖質(乳糖を含む)やミネラル、ビタミン、酵母エキスを含んでいる培地や原料乳であり得る。
【0028】
なお、ブルガリクス菌R−1株は、代謝産物として菌体外多糖(EPS)を産生することが知られている。そのため、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物には、ブルガリクス菌R−1株から産生された菌体外多糖が含まれていてもよい。本発明において、例えば、菌体外多糖の1日あたりの摂取量の下限は、500μgであり、好ましくは1.0mgであり、より好ましくは2.0mgである。上限は、特に限定されないが、例えば8.0mgである。
【0029】
また、発酵に際して、ブルガリクス菌R−1株以外の乳酸菌及び/又は納豆菌、酵母などのような種々の他の発酵菌を併用してもよい。具体的には、ヨーグルトの製造においてスターター菌として用いられるサーモフィラス菌(Streptococcus thermophillus)や納豆の発酵に用いられる納豆菌などが使用され得る。
【0030】
乳酸菌産生物は、乳酸菌の乳発酵物や乳培養物であることが特に好ましい。乳発酵物や乳培養物としては、例えば、発酵乳が挙げられる。ここで、「発酵乳」とは、乳を発酵させたものを意味する。「発酵乳」は、例えば、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳酸菌飲料」、「乳飲料」、「ナチュラルチーズ」等を包含するが、これに限定はされない。例えば、発酵乳は、乳等省令で定義される「発酵乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳および加工乳などの乳、またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これを凍結したものをいうが、これに限定はされない。
【0031】
本発明の発酵乳では、無脂乳固形分の濃度の範囲は、例えば、4.0%以上12.0%以下が好ましく、6.0%以上10.0%以下がより好ましく、7.0%以上9.0%以下がさらに好ましい。また、乳脂肪分の濃度は、例えば、0.2%以上4.0%以下が好ましく、0.3%以上3.0%以下がより好ましく、0.4%以上2.0%以下がさらに好ましい。
【0032】
発酵乳の典型例としては、ヨーグルトが挙げられる。ヨーグルトには、例えば、プレーンヨーグルト、ハードヨーグルト(セットタイプヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルトなどが含まれる。
【0033】
また、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を発酵乳として実現する場合には、1回の摂取に適切な量を1個包装の形態とすることが好ましい。これにより、有効成分の必要量を適切かつ手軽に摂取できるため、使用性を向上させることができる。ここで、「1個包装の形態」にはあらゆる包装形態が含まれる。包装形態としては、例えば、蓋付き容器、キャップ付きボトル、小袋、パウチ、チューブなどが挙げられる。本発明では、各個包装または複数の個包装を含む包装に、当該製品の用途、効能、摂取方法などの説明を記載すること、および/または、記載物を加えたパッケージとすること、および/または、別途パンフレットなどの記載物を掲示することなどにより、その用途を明確にすることができる。
【0034】
なお、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、発酵乳以外の形態の飲食品として実現することも可能である。このような飲食品の具体例としては、例えば、チーズ、清涼飲料、ガム、グミ、ゼリー、ビスケットなどが挙げられる。しかし、飲食品の形態は特に限定されない。
【0035】
続いて、本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物の生理活性について説明する。本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、抗インフルエンザ薬の使用による獲得免疫機能の低下を抑制する。
【0036】
抗インフルエンザ薬として、例えば、オセルタミビル(OSV)、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物などが知られている。これらは、いずれも、ノイラミニダーゼを阻害することにより、ウイルスの増殖を抑える抗インフルエンザ薬である。このような抗インフルエンザ薬は、インフルエンザ罹患時に投与するとウイルスの増殖を抑えることができ、罹患期間を短縮できる反面、インフルエンザウイルス感染に対する獲得免疫機能の低下を招くことが知られている。そのため、抗インフルエンザ薬を投与された人は、投与されていない人と比較して、翌シーズン以降にインフルエンザに再感染しやすくなる。これは、抗インフルエンザ薬を投与したことによって、ウイルスへの再感染を防ぐ特異的な抗体の産生量が減少することが原因である。このような特異的な抗体としては、例えば、IgA抗体が挙げられる。IgA抗体は、ヒトの気道や鼻腔などで産生されると、インフルエンザウイルスに直接作用し、気道粘膜上皮への感染を防ぐことが知られている。
【0037】
本明細書では、上述のような抗インフルエンザ薬を投与した結果として生じるインフルエンザウイルス感染に対する免疫機能の低下を、「獲得免疫機能の低下」と称する。本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、抗インフルエンザ薬を使用した結果として生じる「獲得免疫機能の低下」を抑制することができる。すなわち、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を生体が摂取することで、生体内で産生されるインフルエンザウイルスに特異的な抗体(例えば、IgA抗体、IgG抗体など)の産生量を増加させることができる。また、抗インフルエンザ薬を使用した場合であっても、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を摂取することで、生体内で産生されるインフルエンザウイルスに特異的な抗体の産生量の減少を抑えることができる。
【0038】
そのため、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を、例えば、抗インフルエンザ薬とともに投与することで、インフルエンザウイルス感染に対する免疫機能の低下を抑えることができる。したがって、抗インフルエンザ薬を使用したインフルエンザ患者が、翌シーズンなどにインフルエンザに再感染する可能性を低減させることができる。
【0039】
なお、後述の実施例に示すように、ブルガリクス菌R−1株は、インフルエンザウイルスへの感染を抑制する機能も有している。すなわち、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、インフルエンザウイルスに対する感染抑制作用をさらに有していることが好ましい。これにより、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を定期的(例えば、毎日)に摂取することで、インフルエンザ感染の予防も併せて行うことができる。
【0040】
以上のように、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、インフルエンザウイルスに対する耐性の強化、および、獲得免疫機能の低下の抑制のために、インフルエンザに感染する前に定期的に(好ましくは、毎日)摂取することが好ましい。本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を毎日手軽に摂取するために、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物は、発酵乳(例えば、ヨーグルト)の形態とすることが好ましい。ヨーグルトは、その美味しさと、美容や健康面から幅広く食されている。本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を、ヨーグルトの形態とすることで、その必要量を無理なく毎日摂取することができる。
【0041】
また、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物の1回の摂取に適切な量としては、例えば、無脂乳固形分が8.0重量%の発酵乳(例えば、ドリンクタイプ)の場合には、1回あたりで50mL以上200mL以下が好ましく、80mL以上150mL以下がより好ましく、100mL以上120mL以下がさらに好ましい。あるいは、例えば、無脂乳固形分が8.0重量%の発酵乳(例えば、ハードタイプ、ソフトタイプ)の場合には、1回あたりで50g以上200g以下が好ましく、80g以上150g以下が好ましく、100g以上120g以下がさらに好ましい。また、摂取の頻度は、例えば、1日に0.5回以上5回以下とすることが好ましく、1日に1回以上3回以下とすることがより好ましく、1日に1回以上2回以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
また、本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物は、抗インフルエンザ薬の使用による獲得免疫機能の低下を抑制するという生理活性機能を有する。そのため、飲食品(動植物そのものを除く)、機能性食品、機能性飲料、医薬品などの有効成分として利用することができる。すなわち、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を有効成分として含む飲食品飲食品(動植物そのものを除く)、機能性食品、機能性飲料、医薬品も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
また、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物そのものを、飲食品(動植物そのものを除く)、機能性食品、機能性飲料、医薬品などとして実現してもよい。すなわち、本発明の別の局面にかかる飲食品、機能性食品、機能性飲料、医薬品は、有効成分として、上述した何れかのラクトバチルス属乳酸菌による乳酸菌産生物を含んでいる。そして、抗インフルエンザ薬の使用による獲得免疫機能の低下を抑制する。
【0044】
また、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を飲食品として実現する場合には、生産効率、摂取のしやすさおよび嗜好性などの観点から、発酵乳の形態とすることが好ましい。また、本発明の一態様では、発酵乳は、乳原料にラクトバチルス属乳酸菌を添加して、当該乳酸菌を発酵(培養)して得られたヨーグルトである。
【0045】
また、本発明の飲食品には、獲得免疫機能低下抑制用組成物の他に、食品(例えば、機能性食品)に含有させることが可能な周知の添加物を含有してもよい。このような添加物としては、水、糖類、糖アルコール類、澱粉及び加工澱粉、食物繊維、牛乳、加工乳、豆乳、果汁、野菜汁、果実・野菜及びその加工品、タンパク質、ペプチド、アミノ酸類、動物及び植物生薬エキス、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチンなど)、ビタミン類、ミネラル類、増粘剤、乳化剤、保存料、着色料、香料などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物を医薬品へ利用する場合には、乳酸菌産生物の他に、医薬品に含有させることが可能な周知の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、矯味剤、香料、着色剤、甘味剤、溶剤、油脂、増粘剤、界面活性剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠剤などが挙げられる。
【0047】
(2)獲得免疫機能低下抑制用組成物の製造方法
続いて、本発明にかかる獲得免疫機能低下抑制用組成物の製造方法について説明する。本発明の獲得免疫機能低下抑制用組成物の製造方法は、ラクトバチルス属乳酸菌に乳原料を供給するという工程を含む。使用するラクトバチルス属乳酸菌については、上記(1)で説明したものを採用することができる。
【0048】
乳原料としては、例えば、牛乳等の獣乳や、その加工品(例えば、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、れん乳、カゼイン、乳清、生クリーム、コンパウンドクリーム、バター、バターミルクパウダー、チーズ等)、大豆由来の豆乳等の植物性乳等が挙げられる。なお、乳原料は、殺菌処理されていてもよいし、殺菌処理されていなくてもよい。また、獲得免疫機能低下抑制用組成物の製造に用いられる乳原料には、各種添加剤を添加することができる。
【0049】
ラクトバチルス属乳酸菌に乳原料を供給して、ラクトバチルス属乳酸菌を発酵または培養することで、主成分となる乳酸菌産生物を生成することができる。本発明にかかる製造方法によって製造される獲得免疫機能低下抑制用組成物は、発酵乳として得られてもよい。この場合、本発明にかかる製造方法は、ラクトバチルス属乳酸菌に乳原料を供給して、獲得免疫の低下抑制機能を有する発酵乳を製造する方法と言い換えることもできる。
【0050】
この発酵乳の製造に用いられる原料には、上述の乳原料だけでなく、その他の各種成分が含まれていてもよい。そのため、発酵乳の製造に用いられる原料として、例えば、発酵乳原料ミックスと呼ばれるものを用いることもできる。発酵乳原料ミックスとは、原料乳および他の成分を含む混合物である。この発酵乳原料ミックスは、例えば、乳原料、水、他の任意成分(例えば、砂糖、糖類、甘味料、酸味料、ミネラル、ビタミン、香料等)等の発酵乳の製造に常用される原料を加温して溶解し、混合することによって得られる。乳原料には、生乳、殺菌乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バター、クリーム、チーズ等が含まれてもよい。また、乳原料には、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)等が含まれてもよい。
【0051】
発酵乳は、従来の方法と同様に、原料ミックスの調合工程、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程、発酵乳の冷却工程等の工程を経て製造される。原料ミックスの調合工程では、原材料が混合(調合)される。なお、上述の工程では、発酵乳を製造する際に用いられる通常の条件を適宜採用すればよい。また、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程および発酵乳の冷却工程は、この順番で実施されることが好ましい。
【0052】
乳酸菌を培養するための培地としては、通常用いられる培地を使用することができる。すなわち、主炭素源のほか窒素源、無機物その他の栄養素を程良く含有する培地であれば、いずれの培地も使用することができる。炭素源としては、使用菌の資化性に応じて、ラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、澱粉加水分解物、廃糖蜜等を使用することができる。窒素源としては、カゼインの加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、グリコマクロペプチド、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物を使用することができる。ほかに増殖促進剤としては、肉エキス、魚肉エキス、酵母エキス等を使用することができる。
【0053】
乳酸菌は、嫌気状態で培養されることが好ましいが、通常、液体静置培養等で用いられる微好気状態で培養されることが好ましい。なお、嫌気状態下での培養方法には、炭素ガス気相下で培養する方法などの公知の手法を採用することができるが、他の方法が採用されてもかまわない。培養温度は一般に30℃以上47℃以下の範囲内であることが好ましく、35℃以上46℃以下の範囲内であることがより好ましく、37℃以上45℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。乳酸菌培養中の培地のpHは、6以上7以下の範囲内に維持されることが好ましいが、菌が生育するpHであれば他のpH範囲でもよい。乳酸菌等の培養時間としては、通常、1時間以上48時間以下の範囲内が好ましく、8時間以上36時間以下の範囲内であることがより好ましく、10時間以上24時間以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0054】
発酵乳は、典型的には、無脂乳固形分が8重量%以上であり、乳酸菌数又は酵母数が10
6個/mL以上10
11個/mL以下の範囲内である。
【0055】
上述した本発明の製造方法によって、抗インフルエンザ薬の使用による獲得免疫機能の低下を抑制するための獲得免疫機能低下抑制用組成物を製造することができる。なお、上記(1)において説明した獲得免疫機能低下抑制用組成物は、本発明の製造方法によって製造される獲得免疫機能低下抑制用組成物の一例である。
【0056】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、以下に示される実施例は、例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0058】
〔試験1〕
試験1では、ブルガリクス菌R−1株を用いて製造したヨーグルト(以下、「R−1ヨーグルト」と称する)を摂取することによる抗インフルエンザ特異的抗体量(IgA抗体およびIgG抗体)への影響を検証した。具体的には、R−1ヨーグルトを事前に投与したマウスと投与しなかったマウスとの間で、インフルエンザウイルスに軽微感染させた後に産生される抗体量に違いがあるか否かを検証した。
【0059】
(1−1)R−1ヨーグルトの製造
生乳、脱脂粉乳、クリーム、砂糖、ステビアを含む混合物に、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R−1菌(受託番号:FERM BP−10741)(以下では、「ブルガリクス菌R−1株」と称する)とサーモフィルス菌をスターターとして添加して発酵させ、ヨーグルトを製造した。
【0060】
(1−2)マウスに対するR−1ヨーグルトなどの投与
試験対象として、6週齢のメスのBALB/cマウス(日本SLC株式会社)を使用した。試験を行うにあたって、マウスを以下の4つのグループにグループ分けした。マウスは、各グループについて9匹または10匹使用した。
MC:超純水(R−1ヨーグルトの代替物)および0.5%メチルセルロース溶液を投与したコントロール群(R1群の比較対照群)
R1:R−1ヨーグルトおよび0.5%メチルセルロース溶液を投与した群
OSV:超純水および0.5%メチルセルロース溶液に溶解したオセルタミビルを投
与した群
OSV+R1:R−1ヨーグルトおよび0.5%メチルセルロース溶液に溶解したオセルタミビルを投与した群
【0061】
上記のように、MC群およびOSV群では、R−1ヨーグルトの比較対照物として、超純水を用いた。また、MC群およびR1群では、OSVの比較対照物として、溶解液である0.5%メチルセルロース溶液(0.5w/v% Methyl Cellulose 400)(和光純薬)を用いた。
【0062】
上記の4つのグループのうち、MC群およびOSV群のマウスに対しては、インフルエンザウイルス感染前に、超純水(R−1ヨーグルトの代替物)を21日間(3週間)経口投与した。1回の投与量は、0.4mLとした。また、投与回数は、1日1回とし、ウイルス感染後も14日間投与を継続した。
【0063】
上記の4つのグループのうち、R1群およびOSV+R1群のマウスに対しては、インフルエンザウイルス感染前に、R−1ヨーグルトを21日間(3週間)経口投与した。R−1ヨーグルトの1回の投与量は、0.4mLとした。また、投与回数は、1日1回とし、ウイルス感染後も14日間投与を継続した。
【0064】
(1−3)マウスへのインフルエンザウイルス感染およびOSV投与
上記(1−2)の各グループのマウスに対して、インフルエンザウイルスを0.5pfu(plaque−forming unit)/mouseで経鼻感染させた。使用したインフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルス(IAV)/Puerto Rico/8/1934(PR8)(H1N1)である(以下PR8と略称する)。
【0065】
ウイルス感染後、MC群およびR1群のマウスに対しては、OSVの溶媒である0.5%メチルセルロース(OSV含まず)を経口投与した。メチルセルロースの1回投与量は、0.1mLとした。また、投与回数は、1日2回とし、投与日数は14日間とした。
【0066】
ウイルス感染後、OSV群のマウスおよびOSV+R1群のマウスに対して、抗インフルエンザウイルス薬の一種であるオセルタミビル(リン酸塩)(フナコシ株式会社)を0.5%メチルセルロースで溶解して、経口投与した。オセルタミビル(リン酸塩)の1回の投与量は、0.1mg/0.1mL/mouseとした。また、投与回数は、1日2回とし、投与日数は、14日間とした。
【0067】
以上のように、OSV群およびOSV+R1群のマウスには、抗インフルエンザ薬(OSV)を投与し、MC群およびR1群のマウスには、抗インフルエンザ薬を投与しなかった。
【0068】
(1−4)ELISAによる抗インフルエンザ特異抗体価の評価
ウイルス感染から14日目に、ELISAにより抗インフルエンザ特異抗体価を評価した。具体的には、マウスの肺洗浄液中のIgAの抗体価、およびマウスの血清中のIgGの抗体価を評価した。
【0069】
ELISAは以下の手順で実施した。96穴プレートに抗原調整液(PR8(0.5μg/ml)BSA(0.1%)/PBS)を100μL/wellで加え、抗原の固相化を実施した(抗原0.05μg/wellとなる)。4℃で12時間保持した後、洗浄バッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.14M NaCl、0.05% Tween20)を用いて、各ウエルを3回洗浄した。各ウエルに十分量のブロッキングバッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.14M NaCl、1%BSA)を加え、37℃で2時間保持した。洗浄バッファーを用いて、各ウエルを3回洗浄した後、サンプルバッファー(50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.14M NaCl、0.05% Tween20、1%BSA)で適宜希釈した測定試料(各グループのマウスから採取した肺洗浄液または血清)を、100μL/wellで加えた。洗浄バッファーを用い、各ウエルを5回洗浄した。
【0070】
10,000倍希釈したHRP-conjugate anti-mouse IgG(BETHYL LABORATORIES社製、♯A90−131P)、又は2,000倍希釈したHRP-conjugate anti-mouse IgA(BETHYL LABORATORIES社製、♯A90−103P)を十分量各ウエルに加えた。その後、洗浄バッファーを用いて、各ウエルを5回洗浄した。発色液(TMB(3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine)、KPL社製、SureBlue、♯52−00−02)を100μL/wellで加え、室温で15分放置後、停止液(TMB Stop Solution、KPL社製、♯50−85−05)を100μL/wellで加えた。その後、各測定試料について450nmでの吸光度を測定して、測定試料中の抗インフルエンザ特異抗体価を評価した。
【0071】
図1には、IgAの測定結果を示す。
図2には、IgGの測定結果を示す。各図のグラフにおいて、各縦棒は各グループ(MC群、OSV群、R1群、OSV+R1群)内の標準偏差を示す。また、各グループ間の*印は危険率5%未満で有意差あり、**印は危険率1%未満で有意差ありを意味する。
【0072】
図1に示すように、肺洗浄液中のIgA抗体量は、オセルタミビルのみを投与した群(OSV群)と比較して、R−1ヨーグルトおよびオセルタミビルを投与した群(OSV+R1群)で有意に増加した。また、
図2に示すように、血清中のIgG抗体量は、OSV群と比較してOSV+R1群で有意に増加した。
【0073】
以上の結果より、ブルガリクス菌R−1株(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R−1菌)を用いて調製したR−1ヨーグルトに、抗インフルエンザ薬による獲得免疫機能の低下の抑制効果があることが確認された。
【0074】
〔試験2〕
試験2では、上記の試験1の(1−3)で得られた各グループ(MC群、OSV群、R1群、OSV+R1群)のマウスから、鼻腔洗浄液を採取した。この鼻腔洗浄液50μLをインフルエンザウイルスPR8(100pfu)と中和させた。その後、MDCK細胞(イヌ腎由来細胞)に作用させ、16時間後に感染細胞数を計測することで、R−1ヨーグルトのインフルエンザウイルス感染の中和活性を評価した。
【0075】
その結果を
図3に示す。グラフにおいて、各縦棒は各グループ(MC群、OSV群、R1群、OSV+R1群)内の標準偏差を示す。また、各グループ間の*印は危険率5%未満で有意差あり、**印は危険率1%未満で有意差ありを意味する。R−1ヨーグルト投与群(R1群)では、コントロール群(MC群)に比べて、感染細胞数の有意な減少が認められた。また、R−1ヨーグルトおよびOSV投与群(OSV+R1群)とOSV投与群(OSV群)との間には、有意差は見られなかったが、
図3に示すように、OSV群と比較して、OSV+R1群の方に感染細胞数がやや減少する傾向が見られた。
【0076】
以上の結果より、ブルガリクス菌R−1株(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073R−1菌)を用いて調製したR−1ヨーグルトに、インフルエンザウイルスに対する中和活性を高める効果があることが確認された。