(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778081
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】非点収差補償及びエネルギー選択を備える荷電粒子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/153 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-208981(P2016-208981)
(22)【出願日】2016年10月25日
(65)【公開番号】特開2017-139210(P2017-139210A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】16153875.6
(32)【優先日】2016年2月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】セダ,ボフスラフ
(72)【発明者】
【氏名】トゥーマ,ルボミール
(72)【発明者】
【氏名】ヘンストゥラ,アレクサンデル
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−289748(JP,A)
【文献】
特開2005−235767(JP,A)
【文献】
特表2002−524818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子顕微鏡用の荷電粒子の補正ビームを生成する方法であって、
荷電粒子の非単一エネルギー性の入力ビームを提供する工程と、
光学モジュールを通じて、前記入力ビームを通過させる工程と、により特徴づけられ、
前記光学モジュールは、
非点収差補正器であって非点収差補償がされ、エネルギー分散された、特定の単一エネルギー性のラインフォーカス方向の中間ビームを生成する、非点収差補正器と、
ビームセレクタであって、スリットの方向を前記ラインフォーカス方向に一致させるように、回転方向に方向付けされる該スリットを含み、前記中間ビームうちのエネルギー差別化部分を含む出力ビームを生成する、ビームセレクタと
の連続アレンジメントを含む、方法。
【請求項2】
前記非点収差補正器は、第一システム非点収差効果を低減するのに用いられ、
前記ビームセレクタは、第二寄生性非点収差効果に対処するのに用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一システム非点収差効果は、前記入力ビームにより横断される偏心レンズに関連付けられており、
前記第二寄生性非点収差効果は、前記ビームセレクタの上流にある光学コンポーネントにおける位置決め誤差に関連付けられている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビームセレクタは、異なる向きの複数のスリットを含む非透過性プレートを含み、
前記プレートと前記中間ビームとの適切な相対運動を生じさせることによって特定のスリットが選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビームセレクタは、調整可能な向きのスリットを有する非透過性プレートを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
荷電粒子顕微鏡用の補正デバイスであって、
荷電粒子の非単一エネルギー性の入力ビームについての入力と、
光学モジュールであって、
非点収差補正器であって、非点収差補償がされ、エネルギー分散された、特定の単一エネルギー性のラインフォーカス方向の中間ビームを生成する、非点収差補正器と、
ビームセレクタであって、スリットの方向を前記ラインフォーカス方向に一致させるように、回転方向に方向付けされる該スリットを含み、前記中間ビームうちのエネルギー差別化部分を含む出力ビームを生成する、ビームセレクタと、
の連続アレンジメントを含む光学モジュールと、を含むことを特徴とする、補正デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の補正デバイスをキャリブレートする方法であって、
アパーチャプレートを提供する工程であって、該アパーチャプレートは、該アパーチャプレートの平面内での前記中間ビームの断面よりも実質的に小さい断面を有するテストアパーチャを含む、工程と、
前記テストアパーチャと前記中間ビームの断面との相対的走査動作を生成し、走査位置の関数として、前記テストアパーチャを通して伝達されたビーム強度を測定して、前記中間ビームの断面についての強度プロファイルを生成する工程と、
画像認識ソフトウェアを用いて、前記強度プロファイルを分析し、そこから関連するラインフォーカス方向を取得する工程と、
前記ラインフォーカス方向に最も一致する、前記ビームセレクタのスリット向きを選択する工程と、
を含む方法。
【請求項8】
試料を保持する試料ホルダと、
荷電粒子の照射ビームを生成するソースと、
前記試料を照射するのに前記照射ビームを指向する照明器と、
前記照射に応じて、前記試料から発生する放射束を検出する検出器と、を含み、
前記照明器は、請求項6に記載の補正デバイスを含む、荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子顕微鏡用の荷電粒子の補正ビームを生成する方法に関連する。
本発明は、また、そのような方法を利用する補正デバイスに関連する。
本発明は、さらに、そのような補正デバイスを含む荷電粒子顕微鏡に関連する。
本発明は、追加的に、そのような補正デバイスをキャリブレート/調整する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡検査は、広く知られており、特に、電子顕微鏡の形式で、微視的な対象物をイメージングする今後益々重要になる技術である。歴史的にみると、電子顕微鏡の基本的な分類は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等の広く知られた装置の種類に進化を遂げ、さらに種々の細かい種類(sub-species)に進化している。いわゆる「デュアルビーム」ツール(例えば、FIB−SEM)などであり、これは、追加的に、加工(machining)フォーカスイオンビーム(FIB)を採用して、例えば、イオンビームミリングや、イオンビーム誘起付着(IBID)などの、補助的な処理を可能にしている。より詳細には、
― SEMでは、走査電子ビームによる試料(specimen)の照射により、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線、フォトルミネセンス(赤外、可視及び/又は紫外フォトン)の形式で、試料からの「付随的(auxiliary)」放射の発生が促進される。この発生放射の一つ以上のコンポーネントがその後に検出され、画像蓄積の目的に用いられる。
― TEMでは、試料を照射するのに用いられる電子ビームは、試料を貫通する程度に十分な高いエネルギーであるものから選択される(この目的ため、概して、試料は、SEMの試料の場合のものよりも薄い)。試料から発生する送出電子は、その後、画像を生成するのに用いることができる。そのようなTEMが走査モード(つまり、STEMになる)で動作するとき、対象の(in question)画像が照射電子ビームの走査動作時に蓄積される。
【0003】
ここで説明したいくつかのトピックについてのさらなる情報は、例えば、次のWikipedia(登録商標)のリンクから収集することができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_transmission_electron_microscopy
【0004】
照射ビームとして電子を用いる代わりに、荷電粒子顕微鏡検査は、荷電粒子の他の種を用いて行うこともできる。この点、用語「荷電粒子」は、具体的には、電子、正イオン(例えば、Ga又はHeイオン)、負イオン、陽子及び陽電子を含有するものとして広く解釈される。非電子ベースの荷電粒子顕微鏡検査に関しては、さらなる情報が、例えば、次のようなソースから収集することができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
W.H. Escovitz, T.R. Fox and R. Levi-Setti, Scanning Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 72(5), pp 1826-1828 (1975).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
【0005】
イメージング及び(局所的な)表面修正(例えば、ミリング、エッチング、付着)を行うことに加えて、荷電粒子顕微鏡は、分光を行う、ディフラクトグラム(diffractogram)を検査する等の他の機能性を有してもよいことに留意されたい。
【0006】
全ての場合において、非透過型荷電粒子顕微鏡(CPM)は、少なくとも次のコンポーネントを含む。
― 放射ソース。放射ソースは、ショットキー電子ソース、イオン銃等である。
― 照明器。照明器は、ソースからの「生の(raw)」放射ビームを扱い、フォーカシング、収差軽減、(アパーチャを用いた)クロッピング、フィルタリング等の所定の操作をそれに施す働きをする。照明器は、概して、一つ以上の(荷電粒子)レンズを含み、他のタイプの(粒子)光学コンポーネントも含んでよい。必要に応じて、照明は、調査対象の試料にわたって出力ビームに走査動作を行わせるように起動されることのできる偏向システムとともに設けられ得る。
― 試料ホルダ。試料ホルダ上に調査中の試料を保持及び位置決めする(例えば、傾ける、回転する)ことができる。必要に応じて、このホルダは、試料についてのビームの走査動作に影響を与えるように動かすことができる。一般的には、そのような試料ホルダは、機械的ステージなどの位置決めシステムに接続されている。
― (照射された試料から発生する放射を検出する)検出器。検出器は、その性質上、単体又は、複合的/分散的でよく、検出される放射に依存して、多くの異なる形式をとることができる。例には、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光起電力セル、X線検出器(シリコンドリフト検出器(SDD)、Si(Li)検出器等)等が含まれる。概して、CPMは、複数の異なるタイプの検出器を含んでよく、それらの選択を異なる状況に応じて求めることができる。
【0007】
透過型顕微鏡(例えば、(S)TEM等)の場合、CPMは、次も含む。
― イメージングシステム。イメージングシステムは、本質的に、試料(面)を透過した(transmitted through)荷電粒子を取り込み、検出/イメージングデバイス、分光装置(EELSデバイス等)等の分析装置等にそれらを指向する(集める(focus))。上記に示した照明器と同様に、イメージングシステムも、収差軽減、クロッピング、フィルタリング等の他の機能を行ってもよい。イメージングシステムは、概して、一つ以上の荷電粒子レンズ及び/又は、他のタイプの粒子光学コンポーネントを含む。
【0008】
以下では、本発明を、一例として、電子顕微鏡という特定の文脈でしばしば明示する。しかし、そのような単純化は、明瞭にすること/説明することの目的のみを意図しており、限定事項として解釈するべきではない。
【0009】
上記の最初の段落で明記した方法としては、例えば、米国特許第7034315号及び米国特許第8461525号(本明細書に参照により援用される)で知られており、これらは、本発明と発明者を共通にする。それらの特許では、荷電粒子ビームが(エネルギー)分散、つまり、異なる「色」(粒子エネルギー)の「スペクトル」に広げられた結果として、荷電粒子ビームが粒子光学レンズを通じて(軸外に)偏心して指向される。その次に、ダイヤフラムが、このスペクトルから粒子エネルギーの相対的に狭いレンジΔである狭ウィンドウを選択するのに用いられる。それにより、分散ビームを実質的に単一エネルギー性(制限エネルギー発散)のサブビームに変換する。
【0010】
この既知の方法での問題は、レンズを通じたビームの意図的な偏心経路に特に関連して、(2回)非点収差の有害な効果を被ることである。そのような非点収差の結果として、選択エネルギーレンジΔは、典型的には、Δを上回る及び/又は下回るエネルギーを有する荷電粒子の存在によって「汚染」されることになる。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的はこの問題に対応することである。特に、本発明の目的は、荷電粒子顕微鏡用の改善された荷電粒子ビームを生成する方法/装置を提供することである。より詳細には、本発明の目的は、そのような方法/装置が(2回)非点収差効果を補償する手段を提供することである。追加的に、本発明の目的は、その方法/装置が実質的に単一エネルギー性の出力ビームを生成することができることである。
【0012】
これら及び他の目的は、最初の段落で明記した方法で達成される。その方法は、次の工程で特徴付けられる。
― 荷電粒子の非単一エネルギー性の入力ビームを提供する工程
― 入力ビームを光学モジュールを通過させる工程であって、光学モジュールは、
非点収差補正器であって、非点収差補償がされ、エネルギー分散された、特定の単一エネルギー性のラインフォーカス方向の中間ビームを生成する、非点収差補正器と、
ビームセレクタであって、スリットの方向をラインフォーカス方向に一致させるように、回転方向に方向付けされたスリットを含み、中間ビームのうちのエネルギー差別化部分を含む出力ビームを生成する、ビームセレクタとの連続アレンジメント(series arrangement)を含む。
【0013】
本明細書で用いられる専門用語は、下記にさらに説明する。
【0014】
非点収差は、従来、相互に回転した(例えば、45°)共動作する非点収差補正器(例えば、四重極光学エレメント)のペアを用いて補正されていた。本発明は、本文脈において(CPM用の許容可能な入射ビームの生成)、非点収差効果は、ただ一つの非点収差補正器と、これに関連する選択可能な回転方向スタンスを備えたスリットを用いることにより十分に補償もできるという驚くべき洞察を行っている。これは、(高電圧)CPMソース/照明器の窮屈な領域においては、非常に有利である。スペースを節約し、必要な(高電圧)電気的フィードスルー(かさばるものであり、環境振動に対して望ましくない機械ブリッジとして振る舞う)を減少させるためである。本発明は次のように動作する。
― 非点収差は、焦点位置が軸方向(ビーム伝搬方向)に沿って、互いに離れた一対のラインフォーカスに軌道をずれたもの(aberrated)を引き起こし、この影響は、入力ビームの各粒子エネルギーに対して生じる。
― 進歩性のある本発明においては、(好適に構成/励起された)非点収差補正器を用いて、中間ビームでのラインフォーカスの軸間隔を(ほとんど)最小にする(例えば、下記の実施形態3を参照)。
― 選択された一つのラインフォーカスの焦点面において(例えば、非点収差補正器に最も近い近位ラインフォーカス)、ラインフォーカスの方向は予測不能である(下記参照)。これに対応するため、ビームセレクタは自由回転角度を含まなくてはならない。それにより、スリット方向を対象の特定のラインフォーカス方向に一致させることができる。
― 中間ビームの分散は、スリット面上に平行で、それぞれ異なるエネルギーの一連の(a train/series of)平行なラインフォーカスを生成する。これらの特定の一つを、スリットに対するビームの適切な変換を行うことによって(又は、その逆を行うことによって)選択することができる。
【0015】
中間ビームにおけるラインフォーカス方向のこの特異/非対称の性質により、(従来技術にあるように)固定された方向のスリットを通過させても、よく明確に区画されたエネルギー範囲の選択にはならない。しかし、多様なスリット方向から選択することによって、所与のラインフォーカス方向に最も一致した最適選択スリット向きの選択ができる(ここで、その二つは、完全に平行、ほぼ平行、又はディスクリートなスリット向きの限られた選択肢において可能な限り平行)。ビームセレクタの「名目」回転スタンスは、(光軸についての)非点収差補正器の(極の)選択された回転スタンスに基づいて予め定めることができる。
【0016】
本発明を(機能的に)理解する他の方法は、その性質上、複合した(composite)中間ビームの非点収差を考慮することである。それにより、
― 非点収差補正器は、第一システム非点収差効果/コンポーネントを低減するのに用いられる。
― ビームセレクタは、第二寄生性非点収差効果/コンポーネントに対処するのに用いられる。
このシナリオにおいて、いくらかの緩い類似性を、「DC」(一定)ベース上の「AC」(可変)変動で構成される信号の状況に作成することができる。DCベースを減算する(非点収差が行うことと類似する)と、ACコンポーネントがあらわになる。
【0017】
前段落にて明記されたシナリオの特定の観点においては、
― 第一システム非点収差効果は、入力ビームが進行する偏心レンズに関連付けられている。
― 第二寄生性非点収差効果は、ビームセレクタの上流にある光学コンポーネントにおける位置決め誤差に関連付けられている。
【0018】
進行される「レンズ」は、ここでは非点収差補正器、若しくは非点収差補正器の上流に位置したレンズ(上述の米国特許第7034315号/米国特許第8461525号におけるセットアップに類似する)、又はそれらの両方であってもよい。非点収差補正器は、差動励磁(マルチポールエフェクト(multipole effect))が下位の非差動励磁(レンズエフェクト)に重畳される場合は、非点収差補正器はレンズとして振る舞う点を忘れてはならない。ここでの文言「上流」は、ビームセレクタに先行する(ソースを含む)光学カラム(の部分)をいう。「位置決め誤差」は、ここでは、例えば、位置シフト/ドリフト、機械的変形、形成不正確等の影響を含んでよいものをいう。そのような影響の代表的な例は、ソース先端の位置シフトである。
【0019】
本発明は、従来技術に対して、多くの顕著な効果を有する。例えば、
― 例えば、上述の米国特許第7034315号/米国特許第8461525号での技術よりも、より正確/明確に区画されたエネルギー選択性を達成する。
― より高いエネルギー選択性を有する出力ビーム電流を伝搬することができる。例えば、達成可能な解像度において付随する実質的な向上(5keV未満のビームエネルギーについて)とともに、比較的低い典型的な従来技術の約25pAからより高い値の200pAに上げる。
― ソース等の上流のコンポーネントの耐用期間を効果的に延ばす。以前は、これらは、一度(累積した)ドリフト効果により使用不可能となったときは、廃棄しなくてはならなかった。しかし、本発明は、ある機能性を提供し、それにより、そのようなドリフト効果は(継続的に)補償することができるので、関連するコストの低下及び動作可能期間の改善とともに、長期間の使用をすることができる。
― 米国特許第7034315号/米国特許第8461525号で用いられたようなエネルギー選択性のダイヤフラムのエッジに沿って生じる欠陥(ばり(burr)等)に沿ってビームがかすめるときに干渉縞が生成されてしまう、「バンディング」と呼ばれるやっかいな現象を低減する。本発明のエネルギー選択性を有するスリットは、非点収差補正器から発生する、非点収差が補償された中間ビーム(の単一エネルギー性のラインフォーカス)の向きに、回転により一致させることができるので、付随する干渉効果における低下とともに、スリットのより小さい部分が照射される傾向となる。
― 非点収差の補償に第二非点収差補正器を用いる必要性をなくすことにより、コスト及び複雑性を低減し、利用可能な体積を増加させる。
【0020】
進歩性のあるビームセレクタのスリットは、必ずしも、非点収差補正器の光軸上に位置している必要はないことに特に留意されたい。代わりに、必要に応じて、(わずかに)軸外に位置していてもよく、いくつかの用途に必要とされる可能性のある、軸上の、未補正の高電流ビームの邪魔をしないようにする。これは、米国特許第7034315/米国特許第8461525に示される状況にいくらか類似する。ここでは、採用されたダイヤフラムは(非偏心ビームについての)軸上開口と、(偏心ビーム経路についての)軸外開口と、を有する。下記の
図2も参照する。
【0021】
本発明の特定の実施形態においては、
― ビームセレクタは、異なる向きの複数のスリットを含む非透過性プレートを含み、
― プレートと中間ビームとの適切な相対運動を生じさせることで、特定のスリットが選択される。
【0022】
そのようなプレートは、非点収差補正器から発生する中間ビームに対して、ディスクリートな一群のスリット向きを提供する。例えば、一群のスリットは、(プレートの平面内の)基準方向に対してnθの角度に対する。ここで、nは、整数であり、θは増分角度(具体的には、15°等)である。このタイプのプレートは、非点収差補正器に対してプレートをずらす(それにより、異なるスリットが中間ビームパス上に位置することができる)のに用いることのできるスライダ(又は、例えば、回転カルーセル)上に設置してよい。代替的/追補的に、プレートを横切る中間ビームをずらす(ビームを異なるスリット上に指向する)のに、偏向部を用いることができる。このタイプの実施形態の例は、例えば、
図2及び
図3に図示されている。ここでは、図示のプレートは、非点収差補正器の光軸に対して垂直方向に配されている。
【0023】
別の実施形態においては、ビームセレクタは、調整可能な向きのスリットを有する非透過性プレートを含む。そのようなプレートは、具体的には、非点収差補正器の光軸(又は、これと平行な軸外方向)について、例えば、プレートをリング形状のベアリングチェイスに設置して、具体的には、歯/スクリュードライブを採用する機構を用いた所与の(ロール)スタンスにプレートを回転させることによって、回転可能であってよい。必要に応じて、そのような回転可能なプレート内のスリットは、例えば、スリット開口を横切って前後に移動可能なナイフのエッジをずらすことによって、幅方向に調整可能であってもよい。
【0024】
前述の2つの実施形態のさらに別の実施形態おいては、異なる複数のスリットプレートのライブラリ(例えば、ラック/カセット)をインシチュで保管し、回収デバイス(ロボットアーム等)を用いて、要求に応じて、特定のプレートを(ライブラリから)取ってきて、ビームセレクタ位置にそのプレートを挿入する。使用後は、対象のプレートをその回収アームでライブラリに戻すことができる。
【0025】
本発明は、さらに、進歩性のある補正デバイスをキャリブレート/調整する方法に関連する。これを行う一つのやり方は、次のような比較的基本的な処理を用いることになる。
― ビームセレクタ内の第一スリット向きを選択し、そこから発生する出力ビームのエネルギー分布を測定する工程と、
― この処理を少なくとも、第二スリット向きに対して反復する工程と、
― 選択された(少なくとも2つの)スリット向きのセットから、最小測定エネルギー分布を有する部材を選択する工程。
しかし、本発明者は、より効率的/洗練された、次の工程を含む代替方法を開発した。
― アパーチャプレートであって、そのアパーチャプレートの平面内での中間ビームの断面よりも実質的に小さい断面を有するテストアパーチャを含むアパーチャプレートを提供する工程
― テストアパーチャと中間ビームの断面の相対的走査動作を生成し、走査動作の関数として、テストアパーチャを通して伝達されたビーム強度を測定することで、ビーム断面についての強度プロファイルを生成する工程
― 画像認識ソフトウェアを用いて、強度プロファイルを分析し、そこから関連したラインフォーカス方向を得る工程
― ラインフォーカス方向に最も一致する、ビームセレクタのスリット向きを選択する工程
【0026】
そのような処理は、所望の間隔で行うことができ、補正デバイスの最適パフォーマンスを確立/維持する。示唆の走査動作は、中間ビームをテストアパーチャを横切る方向に走査することによって、及び/又は、ビームに対してアパーチャプレートを横方向にずらすことによって生成してよい。ここでいうテストアパーチャは、例えば、約100nmのオーダの幅を有する正方形又は円形の孔であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明を、これより、例となる実施形態と添付の概略図に基づいて、より詳細に説明する。
【
図1】
図1は、本発明が実装されるCPMの長手方向断面図を表す。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の構造及び動作原理の説明を表す。
【
図3】
図3は、本発明で用いられるようなビームセレクタの特定の実施形態の平面図を表す。
【0028】
図面において、対応する部分は、対応する参照符号を用いて示されてよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<実施形態1>
図1は、本発明が実装されるCPMの実施形態の高度に概略化された描写である。より詳細には、
図1は、顕微鏡Mの実施形態を示し、本件では、SEMである(しかし、本発明とのからみでは、例えば、(S)TEM又はイオンベース顕微鏡は妥当である)。顕微鏡Mは、照明器(粒子光学カラム)1を含む。照明器1は、入力荷電粒子のビーム3(本件では、電子ビーム)を生成する。ビーム3は、粒子光軸3´に沿って伝搬する。照明器1は、真空チャンバ5上に設置される。真空チャンバ5は、試料ホルダ7と、試料Sを保持/位置決めする、試料ホルダ7に関連したステージ/アクチュエータ7´と、を含む。真空チャンバ5は、真空ポンプ(図示せず)を用いて排気される。電圧源17を用いて、試料ホルダ7又は少なくとも試料Sは、所望により、グラウンドに対するある電位にバイアス(フロート(floated))されてもよい。
【0030】
(本件における)照明器1は、電子ソース9(例えば、ショットキー銃)と、電子ビーム3の焦点を試料S上に合わせるレンズ11、13と、(ビーム3のビーム方向付/走査を行う)偏向部15と、を含む。装置Mは、さらに、コントローラ/演算処理装置25を含む。コントローラ/演算処理装置25は、とりわけ、偏向部15、レンズ11、13及び検出器19、21を制御し、検出器19、21により収集された情報をディスプレイ部27に表示する。
【0031】
検出器19、21は、入力ビーム3による放射に応じて、試料Sから発する様々なタイプの発生放射Eを検査するのに用いることができる多様な可能性のある検出器タイプから選択される。ここで示される装置においては、(非限定的に)次の検出器の選択がなされている。
― 検出器19は、試料Sから発するフォトルミネセンスを検出するのに用いられるソリッドステート検出器(フォトダイオード等)である。あるいは、例えば、シリコンドリフト検出器(SDD)、シリコンリチウム(Si(Li))検出器等の、X線検出器であることができる。
― 検出器21は、セグメント化されたシリコン電子検出器であり、(プライマリビーム3の通過を許容する)中央アパーチャ23について環状構成(例えば、四分円状)で配置された複数の独立した検出セグメントを含む。そのような検出器は、例えば、試料Sから発する発生後方散乱電子束の角度依存を調査するのに用いられることができる。代表的には、正電位にバイアスされ、試料Sから放出された電子を引き付ける。
当業者は、示されているもの等のセットアップにおいて、多くの様々なタイプの検出器を選択することができると理解するものである。
【0032】
入力ビーム3を試料S上で走査することにより、発生放射(例えば、X線、赤外/可視/紫外光、二次電子(SE)及び/又は後方散乱電子(BSE)を含む)が試料Sから発する。そのような発生放射は(走査動作により)位置感度性があるので、検出器19、21から取得された情報も位置依存性がある。この事実により、(例えば、)検出器21からの信号を試料S(の一部)のBSE画像を生成するのに用いることができる。BSE画像の画像は、基本的には、試料S上での走査パス位置の関数として信号のマップである。
【0033】
検出器19、21からの信号は制御線(バス)25´に沿って通過し、コントローラ25によって処理され、ディスプレイ部27上に表示される。そのような処理は、合成、統合、減算、偽色、エッジ強調、当業者に既知の他の処理等の操作を含んでよい。追加的に、自動認識処理(例えば、粒子分析に用いられるものとして)をそのような処理に含んでよい。
【0034】
そのようなセットアップの多くの改良品及び代替品が当業者に既知であり、非限定的に、
― デュアルビームの使用(例えば、撮像用の電子ビーム3と、試料Sの加工(machining)用(又は、いくつかの場合においては、撮像用)のイオンビーム)
― 試料Sでの制御環境の使用(例えば、(いわゆる環境制御型SEMで用いられるような)数ミリバールの圧力を維持する、又はエッチング若しくは前駆体ガス等のガスを収容することにより)
等を含むことに留意されたい。
【0035】
本発明との特定の実施形態においては、照明器1は、上記に記載し、下記の
図2、3により詳細に図示する、非点収差補正器(stigmator)及びビームセレクタの連続アレンジメントを含む補正デバイスCを含む。このデバイスCは、非点収差補償及びエネルギー選択を行う働きをして、優れた品質(例えば、(より高い)ビーム電流(beam current)と(低減した)帯域エラー(banding error)について)を有し、アイテムCの上流、例えば、補償されるソース9内での機械的不整合を許容する出力ビーム3を生成する。下記の実施形態2を参照する。
【0036】
<実施形態2>
図2は、本発明に従う方法/補正デバイスの実施形態の構造及び動作を概略的に示す(
図1も参照する)。
図2において、ソース9は、多方向に荷電粒子(例えば、電子)を放出し、ここでは、ソース9の先端から発する円錐により示されている。空間フィルタ31(抽出アパーチャプレート)は、光軸3´に対して考慮された、軸外アパーチャ31aと、軸上アパーチャ31bと、を含む。入力ビーム3aは、ソース9からアパーチャ31aを通じて伝搬し、偏心して(軸3´を中心とする)非点収差補正器(四重極レンズ)33を通過し、中間ビーム3bとして非点収差補正器33から発する。一方、(軸上)ビーム3a´は、偏心せずに非点収差補正器33の中央を通過する。すでに上記に記載したように、中間ビーム3bは、(2回)非点収差及びエネルギー分散を示す。
【0037】
非点収差補正器33の下流には、一式の偏向器35a、35bがある。偏向器35a、35bは、非点収差補正器33から発するビーム3b、3a´の方向を変更するのに用いることができる。より詳細には、適切な電気励起を偏向器35a、35bに加えた結果として、
― 中間ビーム3bは、その経路を変更することができ、ビームセレクタ37の様々な領域上に指向することができる移動可能ビームセグメント3cになる。ビームセレクタ37は、ビーム3b/3cのラインフォーカスの一つの焦点面(スリット面)内に位置している。ビームセレクタ37に関する、さらなる詳細は下記に示す。
― 軸上ビーム3a´は、下流で必要とされないときは、経路からそらして、スクリーン(ビームブロック)37´上に衝突させる。
中間ビーム3b/3cは、ビームセレクタ37から出力ビーム3dとして発する。出力ビーム3dは、上記に記載したように、中間ビーム3b/3dよりも多エネルギー性が低い(less polyenergetic)(よりエネルギーが差別化されている(energy-discriminated))。そして、出力ビーム3dは、出力ビーム3dを「軸上」に偏向するのに用いることができる偏向器ペア39a、39bを通過し、出力ビーム3dが、光軸3´に沿って/実質的に平行に伝搬するようにする。
【0038】
非限定的な詳細な例を示すと、次の適切な(軸3´に沿った)軸間隔(axial separation)を採用してよい。
― ソース9から空間フィルタ31まで:2.6mm
― ソース9から非点収差補正器33(の中央面)まで:5.5mm
― ソース9からビームセレクタ37(スリット面)まで:12.5mm
【0039】
これより、
図3に戻る。
図3は、軸3´(Z軸)に平行な方向からみたときの、ビームセレクタ37をより詳細に示している。ここで示している特定の実施形態は、複数のスリット状(細長い)開口が設けられているプレート41を含む。これらのスリットのうちの特定の(中央にある)一つ(43)は、Y軸に沿って方向付けられている。その他のスリットは、この基準に対して時計回り又は反時計回りに量を変化させて傾斜している。例えば、スリット43a、43a´は、Y軸に対して、それぞれ+5°、−5°で傾斜しており、スリット43b、43b´は、Y軸に対して、それぞれ+10°、−10°で傾斜している等である。偏向器ペア35a、35b(
図2)を用いることにより、及び/又は好適にXY平面内にプレート41を配置することにより、ビーム3c(
図2)(非点収差補正器33からの発生後に特定の(単一エネルギー性の)ラインフォーカス方向を有する)の断面は、プレート41内のスリットとベストフィットで一致させる(整合させる)ことができる。結果として、ビーム断面の横方向に限定された(laterally-confined)(及び方向的に一致した)部分だけがビームセレクタ37を横切ることができる。非限定的な例として、プレート41内の示したスリットは、それぞれ、例えば、約2μmの長さ及び約0.15μmの幅を有する。
【0040】
<実施形態3>
次のものは、本発明に用いることのできる分かりやすい非点収差補正器の調整(キャリブレーション)の例である。
(i) 第一ラインフォーカス(例えば、非点収差補正器から最も遠い遠位ラインフォーカス)について、非点収差補正器の特定差分励起(differential excitation)(E
D)を選択し、非点収差補正器の非差分励起(non-differential excitation)(E
C)を調整して、スリット面での最適なフォーカスを達成する。その後、少なくとも一つの他のE
Dの値についてこの処理を繰り返し、第一プロットがE
C対E
Dからできているようにする。
(ii) (i)の処理を第二ラインフォーカス(非点収差補正器に最も近い近位ラインフォーカス)について反復し、E
C対E
Dの第二プロットをもたらす。
(iii) 第一プロットと第二プロットとの交点でのE
Dの値が、第一ラインフォーカスと第二ラインフォーカスの軸間隔を最小化する値である。
そのような処理は、当業者の範囲には周知である。当業者であれば、例えば、全部でたった3つのデータ点から必要な情報を取得できるようにその処理を簡潔にすることができる(一つのラインフォーカスから2つ、他のラインフォーカスから1つ)。