特許第6779434号(P6779434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779434
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】繊維成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20201026BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   D01F6/04 E
   D01D5/04
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-219831(P2016-219831)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2017-160583(P2017-160583A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年10月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-44593(P2016-44593)
(32)【優先日】2016年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石神 朋広
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
(72)【発明者】
【氏名】住友 隆平
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−034677(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/091785(WO,A1)
【文献】 特表2009−517554(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/052898(WO,A1)
【文献】 特表2011−523981(JP,A)
【文献】 特開2013−245428(JP,A)
【文献】 特開2010−111978(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0089845(US,A1)
【文献】 J. Poly. sci. A: Polymer Chemistry ,2011年,Vol.49,p4425-4432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/04
D01D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体の製造方法であって、
混合溶媒及び脂環式構造含有重合体を含む重合体溶液を調製する工程、及び
前記重合体溶液を紡糸材料として電界紡糸を行う工程を含み、
前記混合溶媒は、比誘電率25未満の脂環式炭化水素である低誘電率溶媒及び比誘電率25以上の高誘電率溶媒を含み、
前記重合体溶液中において、前記高誘電率溶媒は粒子の形状で分散しており、その数平均粒子径が40μm以下である、
繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
前記高誘電率溶媒が、非プロトン性極性溶媒である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記高誘電率溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記低誘電率溶媒が、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記重合体溶液中における前記高誘電率溶媒の粒子の数平均粒子径が20μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記繊維成形体の繊維径が0.1〜5μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記重合体溶液が、更に無機塩を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記無機塩の前記重合体溶液における濃度が、0.01mM以上10mM以下である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記無機塩が、リチウム塩である請求項7又は8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸状又は不織布状等の形状を有する繊維成形体の製造方法の一つとして、電界紡糸が知られている。樹脂と、平坦な形状のコレクターとの間に電圧を印加し、電荷により樹脂を細い繊維の状態とし、コレクターに堆積させる紡糸方法である。電界紡糸を用いると、径の細い樹脂の繊維を含む繊維成形体を容易に形成することができる。電界紡糸においては、紡糸材料として、各種の樹脂を用いうる。例えば、紡糸材料として脂環式構造含有重合体樹脂を用い、当該樹脂からなる繊維成形体を得ることが知られている。その場合、脂環式構造含有重合体樹脂は、何等かの溶媒に溶解して溶液とした状態で用いうる(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−224655号公報
【特許文献2】特開2010−111978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電界紡糸においては、通常、ノズル先端開口等の細孔から樹脂を含む液体を吐出させ、樹脂を含む液体の液滴を形成した状態で電圧を印加する。
【0005】
ところが、脂環式構造含有重合体樹脂を、電界紡糸に適した溶媒に溶解し重合体溶液とする場合、溶液の安定性が不十分であったり、溶解度が不十分であったり、電界紡糸の実施に必要な帯電が得られなかったりといった不具合があり、そのため、良質な繊維成形体を簡単に得ることが困難であった。
【0006】
例えば、重合体溶液中に不所望な粒子や気泡が存在していたり、溶液の性状が不安定な場合、ノズルの詰まり、ノズル先端開口における液滴の不安定化等をもたらし、その結果、ノズル先端開口において形成された液滴が、繊維状ではなく、非繊維状の形状(液滴の形状等)でノズルから飛散しうる。そのような非繊維状の形状で飛散した重合体溶液は、そのまま、又は含まれる溶媒の一部又は全部が揮発した後、コレクターに到達し、繊維成形体において、不所望な粒状の樹脂の塊又は粒状の孔を形成する。そのような粒状形状が発生することにより、所望の形状の繊維成形体が得られなかったり、得られる繊維成形体の繊維径のバラツキが大きくなったり、得られる繊維成形体の強度が低下したり、コレクターからの繊維成形体の剥離が困難となったりする。また、重合体溶液を調製後長期間保存すると、そのような粒状形状がさらに発生し易くなり、製造工程の自由度が低減し得る。
【0007】
従って、本発明の目的は、電界紡糸により、良質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を簡単に得ることができる、繊維成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記課題を解決するべく検討した結果、溶媒として特定の複数種類の物質を組み合わせた非相溶の溶媒を構成し、これに脂環式構造含有重合体樹脂を溶解して溶液とし、これを用いて電界紡糸を行うことにより、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕 脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体の製造方法であって、
混合溶媒及び脂環式構造含有重合体を含む重合体溶液を調製する工程、及び
前記重合体溶液を紡糸材料として電界紡糸を行う工程を含み、
前記混合溶媒は、比誘電率25未満の脂環式炭化水素である低誘電率溶媒及び比誘電率25以上の高誘電率溶媒を含み、
前記重合体溶液中において、前記高誘電率溶媒は粒子の形状で分散しており、その数平均粒子径が40μm以下である、
繊維成形体の製造方法。
〔2〕 前記高誘電率溶媒が、非プロトン性極性溶媒である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 前記高誘電率溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群より選択される、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 前記低誘電率溶媒が、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕 前記重合体溶液中における前記高誘電率溶媒の粒子の数平均粒子径が20μm以下である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕 前記繊維成形体の繊維径が0.1〜5μmである、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕 前記重合体溶液が、更に無機塩を含む、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔8〕 前記無機塩の前記重合体溶液における濃度が、0.01mM以上10mM以下である、〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕 前記無機塩が、リチウム塩である〔7〕又は〔8〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維成形体の製造方法によれば、電界紡糸により、良質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を簡単に得ることができる。具体的には、粒状形状が少なく、繊維径のバラツキの少ない繊維成形体を、製造工程の自由度が高い方法で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明において用いうる、電界紡糸の装置及びそれを用いた電界紡糸の操作の一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す装置のノズル120の先端付近を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態及び例示物を示して本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
本願において、説明の便宜上「溶液」と呼ぶものは、その全ての成分が相溶しているものに限られない。即ち、「溶液」には、その一部の成分が他の成分と相溶せず、粒子の形状で存在しているものも含まれる。
【0014】
本発明の繊維成形体の製造方法は、
工程(A):特定の重合体溶液を調製する工程、及び
工程(B):重合体溶液を紡糸材料として電界紡糸を行う工程
を含む。
【0015】
〔工程(A)〕
工程(A)において調製される重合体溶液は、特定の混合溶媒及び脂環式構造含有重合体を含む。
【0016】
〔混合溶媒〕
混合溶媒は、比誘電率25未満の脂環式炭化水素である低誘電率溶媒及び比誘電率25以上の高誘電率溶媒を含む。
【0017】
低誘電率溶媒の比誘電率は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下としうる。低誘電率溶媒の比誘電率の下限は、特に限定されないが例えば1.5以上としうる。混合溶媒中に、比誘電率25未満の複数種類の溶媒が含まれる場合は、それらの加重平均を、低誘電率溶媒の比誘電率としうる。本願において、加重平均は、重量比を基準とした加重平均である。
【0018】
高誘電率溶媒の比誘電率は、好ましくは25以上、より好ましくは30以上としうる。高誘電率溶媒の比誘電率の上限は、特に限定されないが例えば50以下としうる。混合溶媒中に、比誘電率25以上の複数種類の溶媒が含まれる場合は、重量比を基準としたそれらの加重平均を、高誘電率溶媒の比誘電率としうる。
【0019】
混合溶媒における、高誘電率溶媒の比誘電率と、低誘電率溶媒の比誘電率との差は、ある程度以上大きいことが好ましい。具体的には、高誘電率溶媒の比誘電率(複数種類の溶媒が含まれる場合は、それらの加重平均)εrと、低誘電率溶媒の比誘電率(複数種類の溶媒が含まれる場合は、それらの加重平均)εrとの差εr−εrの値が、好ましくは25以上、より好ましくは30以上としうる。εrとの差εr−εrの値の上限は、特に限定されないが例えば50以下としうる。
【0020】
低誘電率溶媒は、脂環式炭化水素である。脂環式炭化水素とは、分子中に少なくとも1個の脂環式構造を有する化合物である。
【0021】
低誘電率溶媒は、特に、比較的沸点が高い化合物であることが好ましい。具体的には、沸点(複数種類の溶媒が含まれる場合は、それらの加重平均)が、130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。沸点の上限は特に限定されないが例えば200℃以下としうる。このように高い沸点を有することにより、液滴の非繊維状の形状での飛散を抑制し、所望の形状の繊維成形体の安定的な形成を容易に行うことができる。
【0022】
低誘電率溶媒としては、前記の比誘電率の要件を満たし、製造方法を実施する環境下で液体状となる脂環式炭化水素を適宜選択して用いうる。低誘電率溶媒の例としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、及びこれらの混合物が挙げられる。特に、高い沸点を有し、溶質である脂環式構造含有重合体を良好に溶解できる観点から、デカリンが特に好ましい。
【0023】
高誘電率溶媒としては、前記の比誘電率の要件を満たし、製造方法を実施する環境下で液体状となる物質を適宜選択して用いうる。高誘電率溶媒は、非プロトン性極性溶媒であることが、良好な電界紡糸を行うことができる観点から好ましい。高誘電率溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
混合溶媒における低誘電率溶媒と高誘電率溶媒との比率は、高誘電率溶媒の分散を安定させ、重合体の溶解度を高め、且つ良好な電界紡糸が行えるよう適宜調整しうる。具体的には、混合溶媒100重量%における高誘電率溶媒の割合は、好ましくは4重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、一方好ましくは15重量%以下、より好ましくは11重量%以下である。高誘電率溶媒の割合を4重量%以上とすることにより、液滴の非繊維状の形状での飛散を抑制し、所望の形状の繊維成形体の安定的な形成を容易に行うことができる。高誘電率溶媒の割合15重量%以下とすることにより、重合体溶液のゲル化を抑制し、安定した重合体溶液とし、安定した電界紡糸を行うことができる。
【0025】
〔脂環式構造含有重合体〕
本発明で用いる脂環式構造含有重合体は、脂環式構造を含む繰り返し単位を有する重合体である。脂環構造含有重合体は成形時における流動性が良く、高耐熱性、低吸湿性などの優れた特徴を有している。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良いが、寸法安定性、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び得られる製品の成形性の特性が高度にバランスされる。
【0026】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含む繰り返し単位の割合は、使用目的に適した割合としうる。当該割合は、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を含む繰り返し単位の割合がこの範囲にあると得られる成形体の耐熱性の観点から好ましい。
【0027】
脂環式構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素化物が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体及びその水素化物が好ましい。
【0028】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
開環重合によって得られるものの例としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なモノマーとの開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものの例としては、ノルボルネン系モノマーの付加重合体及びノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なモノマーとの付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましい。
【0029】
ノルボルネン系モノマーの例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
【0030】
置換基の例としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが挙げられる。上記ノルボルネン系モノマーは、これらを1種類又は複数種類有しうる。具体的には、置換基を有するノルボルネン系モノマーの具体例としては、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0031】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なモノマーとの開環重合体は、モノマー成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒の例としては、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒が挙げられる。
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なモノマーの例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などが挙げられる。
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0032】
ノルボルネン系モノマーの付加重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なモノマーとの付加重合体は、これらのモノマーを、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。
【0033】
ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
これらの、ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと付加共重合可能なモノマーとを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と付加共重合可能なモノマー由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0034】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体の例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体が挙げられる。
【0035】
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体の例としては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などが挙げられる。
【0036】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体の例としては、ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;ビニル脂環式炭化水素系単量体及びこれと共重合可能な単量体との共重合体及びその水素化物;ビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;及びビニル芳香族系単量体の重合体及びこれと共重合可能な単量体との共重合体の芳香環部分の水素化物が挙げられる。ビニル脂環式炭化水素系単量体の例としては、ビニルシクロヘキセン及びビニルシクロヘキサンが挙げられる。ビニル芳香族系単量体の例としてはスチレン及びα−メチルスチレンが挙げられる。共重合体の例としては、ランダム共重合体及びブロック共重合体が挙げられる。ブロック共重合体の例としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体が挙げられる。
【0037】
工程(A)において、脂環式構造含有重合体としては、脂環式構造含有重合体を含む市販の樹脂を用いうる。かかる市販の樹脂の例としては、商品名「ZEONOR」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ZEONEX」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ARTON」(JSR株式会社製)、商品名「アペル」(三井化学株式会社製)、及び商品名「TOPAS」(TOPAS ADVANCED POLYMERS社製)が挙げられる。
【0038】
〔無機塩〕
重合体溶液は、混合溶媒及び脂環式構造含有重合体に加えて、更に無機塩を含むことが好ましく、リチウム塩を含むことが特に好ましい。重合体溶液が無機塩を含むことにより、前記重合体溶液の誘電率を高めることができる。
重合体溶液に含まれうる無機塩としては、無機アルカリ金属塩(例、LiBr、LiCl、NaNO、NaCl)、無機アルカリ土類金属塩(例、CaCl)が挙げられ、中でもLiBr、LiClなどのリチウム塩が好ましく、特にLiCl(塩化リチウム)が好ましい。
無機塩の重合体溶液における濃度は、特に限定されないが、通常0.01mM以上であり、好ましくは0.05mM以上であり、より好ましくは0.1mM以上であり、一方通常10mM以下であり、好ましくは5mM以下であり、より好ましくは1mM以下である。無機塩の濃度が、前記下限値以上であることで、重合体溶液の誘電率を効果的に高めることができる。また、無機塩の濃度が前記上限値以下であることで、無機塩が重合体溶液に溶解せずに析出することを抑制することができる。
【0039】
〔任意の成分〕
重合体溶液は、混合溶媒及び脂環式構造含有重合体に加えて、任意の成分を含みうる。例えば、重合体溶液を調製するための材料として、脂環式構造含有重合体及び任意の成分を含んだ脂環式構造含有重合体樹脂を用いた場合、当該樹脂中の任意の成分が、重合体溶液にそのまま含まれていてもよい。任意の成分の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜調整しうる。但し、高品質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を製造する観点からは、任意の成分の割合は少ないことが好ましい。具体的には、重合体溶液中の全固形分(溶媒以外の成分の合計)に対する脂環式構造含有重合体の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらにより好ましくは99重量%以上である。
【0040】
重合体溶液における全固形分の割合は、電界紡糸に適した範囲に適宜調整しうる。例えば、全固形分の割合は、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、一方好ましくは35重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0041】
〔重合体溶液の性状〕
重合体溶液中においては、高誘電率溶媒は粒子の形状で分散しており、その数平均粒子径が40μm以下である。高誘電率溶媒の粒子の数平均粒子径は、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下としうる。一方で、高誘電率溶媒は、少なくともその一部が、他の成分に溶解した状態ではなく粒子の形状で存在していることが必要であり、粒子の数平均粒子径の下限は0.5μm以上としうる。高誘電率溶媒の粒子の数平均粒子径がこの範囲であることにより、電界紡糸の工程における液滴の非繊維状の形状での飛散を抑制し、所望の形状の繊維成形体の安定的な形成を容易に行うことができる。また、ノズルにおける重合体溶液の詰まり等の不具合を抑制することができ、その結果繊維径のバラツキの少ない電界紡糸を容易に達成することができる。さらに、重合体溶液のポットライフを延長することができ、その結果、製造の工程の自由度が高まり、製造方法の実施がより容易となる。高誘電率溶媒の数平均粒子径の調整は、重合体溶液の撹拌の条件を変更することにより行いうる。高誘電率溶媒の数平均粒子径は、重合体溶液を、室温においてスライドガラスに滴下し、デジタルマイクロスコープ(例えば商品名「VHX−5000」、キーエンス製)、倒立型位相差顕微鏡(例えば商品名「CKX41」、オリンパス製)を用いて300倍にて観察し、それらの粒径を測定することにより求めうる。
【0042】
重合体溶液中において、高誘電率溶媒がこのように分散していることにより、電界紡糸により良質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を簡単に得ることができる。特定の理論に拘束されるものではないが、その理由としては、以下の事項が考えられる。即ち、脂環式構造含有重合体樹脂を低誘電率溶媒のみからなる溶媒に溶解した場合、溶液の荷電が不十分となり、良質な繊維成形体の形成が困難となる。一方脂環式構造含有重合体樹脂を高誘電率溶媒のみからなる溶媒に溶解した場合、及び脂環式構造含有重合体樹脂を高誘電率溶媒と低誘電率溶媒が相溶してなる混合溶媒に溶解した場合、脂環式構造含有重合体の溶解度が不十分であったり、溶解の状態の安定性が低下したりといった現象が発生し、良質な繊維成形体の容易な形成が困難となる。ここで、本発明者が見出したところによれば、溶媒として、特定の低誘電率溶媒と高誘電率溶媒との混合溶媒を用い、且つ高誘電率溶媒が上に述べた特定の状態で分散している場合、十分な溶液の荷電と、重合体溶液の安定性と、高い脂環式構造含有重合体の溶解度とを両立させることができ、その結果、電界紡糸により良質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を簡単に得ることができる。
【0043】
重合体溶液の粘度は、電界紡糸に適した範囲に適宜調整しうる。粘度は、好ましくは0.5Pa・s以上、より好ましくは3Pa・s以上であり、一方好ましくは11Pa・s以下、より好ましくは10Pa・s以下である。重合体溶液の粘度としては、振動式粘度計で23℃において測定した値を採用しうる。粘度を前記範囲の下限以上とすることにより、液滴の非繊維状の形状での飛散を抑制し、所望の形状の繊維成形体の安定的な形成を容易に行うことができる。また、粘度を前記範囲の上限以下とすることにより、繊維径が過大になることを抑制することができ、且つ円滑な重合体溶液の吐出が可能となる。重合体溶液の粘度は、例えば固形分の割合を調整することにより調整しうる。
【0044】
〔重合体溶液の調製〕
工程(A)における重合体溶液の調製の手順は、特に限定されず、任意の手順としうる。具体的には、重合体溶液の成分を任意の順番で混合及び分散させることにより行いうる。具体的な混合及び分散の手順の例としては、(i)低誘電率溶媒に脂環式構造含有重合体を溶解して混合物とし、さらにこの混合物中に高誘電率溶媒を分散させる方法、及び(ii)低誘電率溶媒及び高誘電率溶媒を混合して混合溶媒とし、さらにこの混合溶媒中に脂環式構造含有重合体を溶解する方法、が挙げられる。これらのうち(i)が、重合体溶液を容易に溶解することができ、また高誘電率溶媒の粒径を容易に制御することができるため好ましい。
また、重合体溶液が無機塩を含む場合、無機塩を含む重合体溶液を調製する方法は特に限定されず、例えば、上記混合及び分散の手順において、無機塩を添加した低誘電率溶媒を用いる方法、無機塩を添加した高誘電率溶媒を用いる方法、無機塩を添加した、低誘電率溶媒及び高誘電率溶媒の混合溶媒を用いる方法、低誘電率溶媒、高誘電率溶媒、及び脂環式構造含有重合体を含む溶液を調製して、この溶液に無機塩を添加する方法が挙げられる。
【0045】
重合体溶液の成分を混合又は分散させる際には、例えば、超音波による混合又は分散、及び/又は撹拌機を用いた撹拌を行いうる。
超音波による混合又は分散を行う装置としては、例えば、超音波洗浄機(例えば、商品名「ブランソン CPX2800」、日本エマソン株式会社より供給)を用いうる。
撹拌器としては、粘調な溶液への気泡の混入が少なく、且つ高誘電率溶媒の分散が十分達成される撹拌を行いうる装置が好ましい。具体的には、プラネタリーミキサー(例えば、商品名「ARE−250」、株式会社シンキー製)、ボルテックスミキサーを用いうる。
【0046】
低誘電率溶媒への脂環式構造含有重合体の溶解は、溶媒を加熱して行ってもよい。しかしながら、低誘電率溶媒として、脂環式構造含有重合体を容易に溶解させうるもの(デカリン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等)を適宜選択することにより、加熱の操作を伴わなくても、室温(10〜30℃)において容易に溶解の操作を行い、且つ重合体の濃度が高く安定した溶液を得ることができる。
【0047】
〔工程(B)〕
工程(B)においては、工程(A)で得た重合体溶液を紡糸材料として電界紡糸を行う。
電界紡糸とは、樹脂と、板状のコレクターとの間に電圧を印加し、電荷により樹脂を細い繊維の状態とし、コレクターに堆積させる紡糸方法である。電界紡糸においては、通常、ノズル先端開口等の細孔から樹脂を含む液体を吐出させ、樹脂を含む液体の液滴を形成した状態で電圧を印加する。この場合、電圧の印加により、液滴がテイラーコーンと呼ばれる円錐形の形状に変形し、樹脂がコレクターに向かって細い繊維の状態となって噴出し、これにより紡糸を達成しうる。
【0048】
図1は、本発明において用いうる、電界紡糸の装置及びそれを用いた電界紡糸の操作の一例を概略的に示す斜視図であり、図2は、図1に示す装置のノズル120の先端付近を拡大して示す側面図である。図1において、電界紡糸装置10は押出装置100及びコレクター130を備え、押出装置100は内容物を押出可能な容器110及びノズル120を備える。この例において、容器110は、プランジャー111及びバレル112を含むシリンジの形状を有している。コレクター130は平坦な板状の形状を有する。コレクター130は、そのおもて面130Uがノズル120と正対する方向に設けられている。装置10はさらに、ノズル120及びコレクター130に電圧を印加する通電装置140を有している。この例において、通電装置140は、その正極がノズル120に電気的に接続され、その負極がコレクター130に電気的に接続されている。
【0049】
装置10の操作においては、バレル112に重合体溶液を充填し、プランジャー111を操作し、ノズル120の先端開口121から、重合体溶液を徐々に吐出させる。それにより、ノズル120の先端開口121に、重合体溶液の液滴151が形成される。この状態で、通電装置140によりノズル120及びコレクター130に電圧を印加することにより、図2に示すように、重合体溶液の液滴が円錐形の形状(テイラーコーン)に変形し、コレクターに向かって細い繊維状の重合体溶液152となって噴出する。噴出した重合体溶液からは、溶媒の一部又は全部が揮発し、重合体溶液の固形分から主になる繊維が、不織布の形状でコレクターに堆積し、これにより紡糸を達成しうる。
【0050】
本発明の製造方法では、重合体溶液として工程(A)において調製した特定のものを用いることにより、工程(B)において良質な脂環式構造含有重合体樹脂の繊維成形体を簡単に得ることができる。特に、本発明の製造方法では、工程(B)における、重合体溶液の非繊維状の形状での飛散を抑制することができ、その結果、不所望な粒状形状の発生を抑制しうる。例えば、重合体溶液中に不所望な粒子や気泡が存在していたり、溶液の性状が不安定な場合、ノズル120の詰まり、ノズル先端開口121における液滴151の不安定化等をもたらし、その結果、ノズル先端開口121において形成された液滴151が、繊維状ではなく、非繊維状の形状(液滴の形状等)でノズルから、例えば矢印A1の方向に飛散しうる。そのような非繊維状の形状で飛散した重合体溶液は、そのまま、又は含まれる溶媒の一部又は全部が揮発した後、コレクターに到達し、繊維成形体において、不所望な粒状の樹脂の塊又は粒状の孔を形成する。そのような粒状形状が発生することにより、所望の形状の繊維成形体が得られなかったり、得られる繊維成形体の繊維径のバラツキが大きくなったり、得られる繊維成形体の強度が低下したり、コレクターからの繊維成形体の剥離が困難となったりする。ここで本発明の製造方法では、重合体溶液として工程(A)において調製した特定のものを用いることにより、工程(B)において、そのような重合体溶液の非繊維状の形状での飛散を抑制することができ、その結果、それらの不具合を抑制することができる。
【0051】
工程(B)のための電界紡糸装置としては、市販の装置を用いうる。例えば、製品名「NANON」(株式会社メック製)を用いうる。
【0052】
工程(B)における、ノズル及びコレクターに印加する電圧は、好ましくは10kV以上、より好ましくは20kV以上であり、一方好ましくは30kV以下、より好ましくは27kV以下としうる。印加電圧をこの範囲内とすることにより、ノズルからの紡糸を安定化させ、液滴の非繊維状の形状での飛散及び間欠的な繊維の形成を抑制することができる。
【0053】
工程(B)における、電極間距離即ちノズル先端からコレクターまでの距離は、好ましくは5mm以上、より好ましくは100mm以上であり、一方好ましくは300mm以下、より好ましくは200mm以下である。電極間距離をこの範囲内とすることにより、安定した紡糸を達成しうる。
【0054】
工程(B)における、ノズルからの重合体溶液の吐出速度は、好ましくは0.01mL/hr以上、より好ましくは0.1mL/hr以上であり、一方好ましくは3mL/hr以下、より好ましくは1.5mL/hr以下である。吐出速度をこの範囲内とすることにより、液滴の非繊維状の形状での飛散を抑制することができ、また紡糸中のノズル先端の重合体溶液の液滴を安定させることができ、安定した紡糸を達成することができる。
【0055】
工程(B)における、紡糸を行う環境の相対湿度は、好ましくは20%以上であり、一方好ましくは40%以下である。相対湿度をこの範囲内とすることにより、安定して溶媒を揮発させることができ、安定した紡糸を達成することができる。工程(B)の実施にあたっては、このような相対湿度を得るために、除湿を行う必要が生じる場合が多い。除湿の工程においては空気を加熱する場合が多く、そのため、工程(B)における紡糸を行う環境の温度は、通常の室温かそれより高い温度、例えば20℃〜35℃の範囲となりうる。したがって、低誘電率溶媒として、このような温度範囲において安定して揮発させうる溶媒を採用することにより、安定した紡糸を有利に達成することができる。そのような観点からは、低誘電率溶媒としては、上に例示した中でも、特にデカリン、エチルシクロヘキサン等が好ましい。
【0056】
〔任意の工程〕
本発明の製造方法は、工程(A)及び工程(B)に加えて、任意の工程を含みうる。例えば、工程(B)の後にコレクター上に堆積した脂環式構造含有重合体を含む構造物は、そのまま製品たる繊維成形体としてもよいが、当該構造物にさらに任意の工程を施し、これを繊維成形体としてもよい。例えば、構造物を加熱し、その中に残存する溶媒を除去する工程等を行いうる。
【0057】
〔繊維成形体〕
本発明の製造方法により得られる繊維成形体は、脂環式構造含有重合体樹脂の成形体となる。具体的には、重合体溶液に含まれる脂環式構造含有重合体及びその他の固形分から実質的になる成形体としうる。
【0058】
繊維成形体の形状は、繊維状の形状からなるか、繊維状の形状を含む任意の形状としうる。例えば、不織布の形状、糸状の形状、紐状の形状といった形状としうる。本発明の製造方法は特に、繊維成形体として不織布を特に容易に製造しうる。
【0059】
繊維成形体に含まれる繊維の径は、所望の用途に応じて適宜調整しうるが、例えば0.1〜5μmの範囲の径を有する繊維としうる。繊維の径は、重合体溶液の粘度、重合体溶液の吐出速度等の条件を適宜調整することにより調整しうる。
【0060】
〔変形例〕
本発明の製造方法は、上に具体的に述べた例に限られず、これに様々な変更を施したものとしうる。
例えば、図1及び図2に示した例では、押出装置において重合体溶液をノズルへ押し出す容器110はシリンジの形状を有したものであるが、本発明はこれに限られず、容器110に代えて、例えばノズルへ重合体溶液を送液可能なポンプ等の任意の装置を用いうる。
また例えば、図1及び図2に示した例では、コレクター130は平坦な板状の形状のものとしたが、本発明はこれに限られず、コレクターの形状は、所望の形状の繊維成形体を得るのに適した任意の形状としうる。例えば、コレクターを、ドラム型、ベルト型等の形状とし、これを回転させながら周面において電界紡糸を行うことにより、長尺の不織布を連続的に製造することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0062】
〔評価方法〕
(粘度の測定)
重合体溶液の粘度は、JIS Z8803:2011に準拠し、音叉型振動式粘度計(「SV−10」、エー・アンド・デイ社製)で23℃において測定した。
【0063】
(高誘電率溶媒の粒子径の測定)
下記(a)又は(b)の方法により、高誘電率溶媒の粒子径を測定した。
(a)重合体溶液を、室温においてスライドガラスに滴下し、デジタルマイクロスコープ(商品名「VHX−5000」、キーエンス製)を用いて300倍で観察した。任意に60個の高誘電率溶媒の粒子を選択し、それらの粒径を測定し、その平均値を、高誘電率溶媒の数平均粒子径として求めた。
(b)重合体溶液を、室温においてスライドガラスに滴下し、倒立型位相差顕微鏡(商品名「CKX41」、オリンパス製)を用いて300倍で観察した。任意に2800個以上の高誘電率溶媒の粒子を選択し、それらの粒径を画像解析により測定し、その平均値を、高誘電率溶媒の数平均粒子径として求めた。
【0064】
(繊維径の測定)
不織布中の繊維を、FE−SEMにより観察し、任意の20箇所の繊維径を測定し、その平均値、標準偏差(σ)、及び変動係数(=σ/平均値)を求めた。FE−SEMの装置としては、型番「7401F」(日本電子製)を用い、観察条件は、加速電圧5kV、エミッション電流10μA、作動距離8mm、観察倍率4500倍とした。
【0065】
(粒状形状の有無の評価)
不織布の表面をデジタルマイクロスコープ(商品名「VHX−5000」、キーエンス製)を用いて100倍で観察し、直径40μmから500μmの粒状形状の有無を調べた。粒状形状が見られた場合は粒状形状「有」とし、見られない場合は「無」とした。また、粒状形状が目視で観察できる場合は、目視にて確認し「有」と評価した。
【0066】
〔実施例1〕
(1−1.工程(A))
脂環式構造含有重合体を含む樹脂として、商品名「ZEONOR1430」(日本ゼオン株式会社社製)のペレットを用意した。このペレット11gをデカリン(和光純薬工業株式会社製)27.55gに溶解させ、混合物とした。溶解は、混合物に撹拌子を入れ、マグネチックスターラー(ホットスターラーREXIM、型番 RSH−1DN アズワン製)を用い、混合物が粘調かつ透明で均一な溶液になったことを確認するまで撹拌することにより行った。
【0067】
その後、混合物にさらにDMF(和光純薬工業株式会社製)1.45gを加え、プラネタリーミキサー(商品名「ARE−250」、株式会社シンキー製)で、2000rpmで2分間撹拌を行い、混合物中にDMFを均一に分散させた。これにより、デカリン、DMF及び脂環式構造含有重合体樹脂を含む、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液を試料とし、粘度の測定及び高誘電率溶媒の粒子径の測定を行った。高誘電率溶媒の粒子径の測定は、上記(a)の方法により行った。
【0068】
(1−2.工程(B))
(1−1)で重合体溶液を得た後直ちに、これを紡糸材料として、電界紡糸を行った。電界紡糸は、図1及び図2に概略的に示す電界紡糸装置(商品名「NANON」、株式会社メック製)を用いて行った。具体的には、5mLのシリンジ状の容器110に2.5mL程度の重合体溶液を充填し、容器110の先に27G(内径0.2mm)の金属製のノズル120を取り付け、平坦な板状のコレクター130に対向するよう設置した。コレクター130の面上にアルミ箔を敷き、下記の紡糸条件を設定した後、ノズル120及びコレクター130間に電圧を印加し、電界紡糸を実施した。
【0069】
・電界紡糸条件
印加電圧22kV、重合体溶液の吐出速度0.5mL/hr、ノズル先端からコレクターまでの距離(電極間距離)150mm、紡糸時間2時間、ノズル27G(内径0.2mm)、ノズルの長さ15mm、装置内温度30℃、装置内相対湿度30%。
【0070】
その結果、液滴の非繊維状の形状での飛散を伴わずに、ノズルから重合体溶液が糸状の形状に噴出し、安定的に紡糸を行うことができ、その結果樹脂がアルミ箔上に堆積し、不織布状の繊維成形体が形成された。
【0071】
(1−3.繊維成形体の評価)
(1−2)で得られた不織布について、繊維径を測定し、その平均値、標準偏差、及び変動係数を求めた。
【0072】
(1−4.粒状形状の有無の評価)
(1−2)で得られた不織布について、粒状形状の有無を評価した。
【0073】
(1−5.ポットライフ評価)
(1−1)で重合体溶液を得て2週間経過後に、当該重合体溶液を用いた他は上記(1−2)及び(1−4)と同様にして、不織布を得て粒状形状の有無を評価した。
【0074】
〔実施例2〕
(1−1)において、DMFに代えてDMSOを用いた他は、実施例1と同様にして、重合体溶液及び不織布を得て評価した。
【0075】
〔実施例3〕
下記の点を変更した他は、実施例1と同様にして、不織布を得て評価した。
・(1−1)において、脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットの量を11gから10gに変更した。
・(1−1)において、デカリン27.55gに代えて、デカリン及びエチルシクロヘキサン(いずれも和光純薬工業株式会社製)の重量比80:20の混合物28.5gを用いた。
・(1−1)において、DMFの量を1.45gから1.5gに変更した。
【0076】
〔実施例4〕
(1−1)の工程中、DMF添加後の撹拌において、条件を回転数を2000rpmで2分間から500rpmで2分間に変更した他は、実施例1と同様にして、重合体溶液及び不織布を得て評価した。
【0077】
〔実施例5〕
(1−1)において、脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットとして、商品名「ZEONOR1430」のペレット11gに代えて、商品名「ARTON F5023」(JSR株式会社製)のペレット11gを用いた他は、実施例1と同様にして、重合体溶液及び不織布を得て評価した。
【0078】
〔実施例6〕
下記の点を変更した他は、実施例1と同様にして、不織布を得て評価した。
・(1−1)において、脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットとして、商品名「ZEONOR1430」のペレット11gに代えて、商品名「ARTON F5023」(JSR株式会社製)のペレット11gを用いた。
・(1−1)において、デカリンの量を27.55gから26.1gに変更した。
・(1−1)において、DMFの量を1.45gから2.9gに変更した。
【0079】
〔実施例7〕
脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットとして、商品名「ZEONEX790R」(日本ゼオン株式会社製)を用意した。このペレット10.0gを、塩化リチウムを1mMの濃度で含む、デカリンとDMFとの重量比90:10の混合溶媒36.0gに溶解させ、混合物とした。溶解は、混合物が粘稠かつ均一の溶液になったことを確認するまで継続して混合物を転倒混和することにより行った。
その後、混合物をボルテックスミキサーで強く1分間撹拌することで分散させ、次いで超音波洗浄機(商品名「ブランソン CPX2800」、日本エマソン株式会社より供給)で2分間、110Wで超音波を照射して、デカリン、DMF、リチウム塩、及び脂環式構造含有重合体を含む重合体溶液を得た。ペレットを混合溶媒に溶解させた後の重合体溶液は、混合溶媒の体積とほぼ同じである。したがって、混合溶媒における塩化リチウムの濃度を重合体溶液における塩化リチウムの濃度とみなしてよい。得られた重合体溶液を試料とし、高誘電率溶媒の粒子径の測定を上記(b)の方法により行った。
得られた重合体溶液を用い、電界紡糸条件のうち、印加電圧、重合体溶液の吐出速度、及び電極間距離を下記のように変更した以外は、実施例1の(1−2.工程(B))と同様にして、電界紡糸を行った。
印加電圧28kV、重合体溶液の吐出速度1.0mL/hr、電極間距離100mm
電界紡糸により得られた不織布状の繊維成形体を実施例1と同様にして評価した。
【0080】
〔実施例8〕
混合溶媒におけるデカリンとDMFとの重量比を95:5に変更した以外は実施例7と同様にして電界紡糸を行い、得られた不織布状の繊維成形体を実施例1と同様にして評価した。
【0081】
〔比較例1〕
(1−1)において、DMFを添加せず、デカリンの添加量を29.00gに変更した他は、実施例1と同様にして、重合体溶液を得て評価した。また、不織布の形成を試みたが、繊維が発生せず、粒状形状の樹脂がコレクター上に堆積し、電界紡糸を行うことが出来なかった。
【0082】
〔比較例2〕
(1−1)の工程中、DMF添加後の撹拌において、条件を回転数を2000rpmで2分間から100rpmで2分間に変更した他は、実施例1と同様にして、重合体溶液及び不織布を得て評価した。得られた不織布においては、粒状形状が見られた。
【0083】
〔比較例3〕
(C3−1.工程(A))
脂環式構造含有重合体を含む樹脂のペレットとして、商品名「ARTON F5023」(JSR株式会社製)のペレットを用意した。このペレット12gをトルエン(和光純薬工業株式会社製)28gに溶解させ、混合物とし、これを重合体溶液とした。溶解は、混合物に撹拌子を入れ、マグネチックスターラー(ホットスターラーREXIM、型番 RSH−1DN アズワン製)を用い、混合物が粘調かつ透明で均一な溶液になったことを確認するまで撹拌することにより行った。得られた重合体溶液を試料とし、粘度の測定を行った。
【0084】
(C3−2.工程(B)及び評価)
(1−1)で得た重合体溶液に代えて、(C3−1)で得た重合体溶液を用いた他は、実施例1の(1−2)〜(1−5)と同様にして、不織布を得て評価した。
電界紡糸においては、ノズル先端で重合体溶液の固化が見られた。紡糸が困難になったため、適宜、ノズル先端をクリーニングしながら紡糸した。得られた不織布においては、粒状形状が見られた。
【0085】
〔比較例4〕
(C4−1.工程(A))
脂環式構造含有重合体を含む樹脂として、商品名「ARTON F5023」(JSR株式会社製)のペレットを用意した。このペレット12gをトルエン(和光純薬工業株式会社製)25.2gに溶解させ、混合物とした。溶解は、混合物に撹拌子を入れ、マグネチックスターラー(ホットスターラーREXIM、型番 RSH−1DN アズワン製)を用い、混合物が粘調かつ透明で均一な溶液になったことを確認するまで撹拌することにより行った。
【0086】
その後、混合物にさらにDMF(和光純薬工業株式会社製)2.8gを加え、撹拌した。その結果、DMFはトルエン等と相溶し、均一な溶液である重合体溶液を得た。得られた重合体溶液を試料とし、粘度の測定を行った。また、高誘電率溶媒の粒子径の測定を試みたところ、粒子は観察されなかった。
【0087】
(C4−2.工程(B)及び評価)
(1−1)で得た重合体溶液に代えて、(C4−1)で得た重合体溶液を用いた他は、実施例1の(1−2)〜(1−5)と同様にして、不織布を得て評価した。
電界紡糸においては、ノズル先端で重合体溶液の固化が見られた。紡糸が困難になったため、適宜、ノズル先端をクリーニングしながら紡糸した。得られた不織布においては、粒状形状が見られた。
【0088】
〔比較例5〕
(1−1)の工程中、DMF添加後の撹拌において、条件を回転数を2000rpmで2分間から100rpmで2分間に変更した他は、実施例5と同様にして、重合体溶液及び不織布を得て評価した。得られた不織布においては、粒状形状が見られた。
【0089】
実施例及び比較例の結果を、表1〜表3にまとめて示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表1の結果から明らかな通り、実施例1〜6では、良好な電界紡糸が行われ、粒状形状が無く且つ繊維径のバラツキの少ない繊維成形体の製造を行うことができた。
【0094】
また、表2の結果から明らかな通り、無機塩としてリチウム塩を含む重合体溶液を用いた実施例7及び8でも、良好な電界紡糸が行われ、繊維径のバラツキの少ない繊維成形体の製造を行うことができた。
【符号の説明】
【0095】
10:電界紡糸装置
100:押出装置
110:容器
111:プランジャー
112:バレル
120:ノズル
121:ノズルの先端開口
130:コレクター
130U:コレクターのおもて面
140:通電装置
151:重合体溶液の液滴
152:繊維状の重合体溶液
図1
図2