【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 大学内発表日:平成28年 1月30日 大学内場所 :学校法人東京理科大学(東京都葛飾区新宿6−3−1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。なお、図中同一又は相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
(振動制御装置の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る振動制御装置1の設置例を示す図である。また、
図2は、振動制御装置1の概略構成を説明する外観図であり、
図2(a)は平面図であり、
図2(b)は正面図であり、
図2(c)は左側面図である。
図1に示すように、本実施形態の振動制御装置1は、構造物Sの隣り合う2本の柱P1、P2と、上下方向に隣り合う下階梁L1、上階梁L2と、によって囲まれた架構内(つまり、構面VP)に配置され、地震等の外力によって発生する構造物Sの揺れを低減する装置である。
振動制御装置1は、柱P1と下階梁L1との交差部に設けられたガゼットプレートGPと柱P2と上階梁L2との交差部に設けられたガゼットプレートGPとの間に筋交い状に配置される。以下、本明細書においては、
図2に示すように、振動制御装置1の長手方向をX軸方向、一対のスライダ板214、224が設けられている方向(つまり、
図2(a)の上下方向)をY軸方向、X軸及びY軸と直交する方向をZ軸方向と定義して説明する。また、
図2(a)及び(b)の一点鎖線は、振動制御装置1の軸心を示している。
【0013】
図2に示すように、振動制御装置1は、オイルダンパ110と、ロードコラム120と、ロッドエンド130とを含んで構成される制震装置100と、ロードコラム120に摺動可能に取り付けられた一対のスライダ板214、224と、ロッドエンド130に固定された一対のフレーム板216、226と、スライダ板214、224とフレーム板216、226との間にそれぞれ狭持されて両者を弾性的に接続する粘弾性体218、228等を含んで構成される。
【0014】
オイルダンパ110は、内部にオイル116が充填された円筒状の部材であり(
図3)、地震等の外力によって発生するエネルギをオイル116の熱エネルギに変換することで振動を低減する(詳細は後述)。
【0015】
ロードコラム120は、オイルダンパ110と共通の軸心を有するように配置された円筒状の部材である。ロードコラム120の一端面にはX軸方向に突出する一対の継手122、124が形成されており、振動制御装置1が構造物Sに取り付けられるとき、一対の継手122、124がガゼットプレートGPを跨ぐ(挟む)ように配置されて、不図示のピン等の締結部材によって回転可能に取り付けられる(
図1)。
【0016】
ロードコラム120の外周面には、スライダ板214、224がそれぞれ取り付けられる一対の支持部材210、220が形成されている。
図2(a)に示すように、一対の支持部材210、220は、ロードコラム120の外周面からY軸方向及びY軸方向と相反する方向に突出する断面略L字状のアングル部材であり、スライダ板214、224が取り付けられる平面部210a、220aを外側に向けて(つまり、平面部210a、220aがY軸方向に向くように配置されて)ロードコラム120の外周面に対して溶接等によって固定されている。また、平面部210a、220aには、ボルト212、222が挿通される貫通孔(不図示)が形成されており、ボルト212、222がスライダ板214、224の長孔214a、224a(
図2において不図示)と該貫通孔に挿通され、ナット213、223に締結されることにより、スライダ板214、224が平面部210a、220aに取り付けられる。
【0017】
ロッドエンド130は、オイルダンパ110から延出するピストンロッド112の他端と接合された矩形板状の部材である。ロッドエンド130の一端面にはX軸方向に突出する一対の継手132、134が形成されており、振動制御装置1が構造物Sに取り付けられるとき、一対の継手132、134がガゼットプレートGPを跨ぐ(挟む)ように配置されて、不図示のピン等の締結部材によって回転可能に取り付けられる(
図1)。
【0018】
一対のスライダ板214、224は、制震装置100をY軸方向に挟んでX軸方向に並行に延びる板状の部材である。一対のスライダ板214、224のX軸方向上流側の端部(図中左側に位置する基端部)には、X軸方向に延びる長孔214a、224aが形成されており(
図2(b))、複数のボルト212、222が長孔214a、224aに挿通され、ナット213、223に締結されることにより、スライダ板214、224が支持部材210、220の平面部210a、220aにそれぞれ取り付けられる。つまり、一対のスライダ板214、224は、一対の支持部材210、220によってそれぞれ片持ち支持されている。なお、本実施形態においては、複数のボルト212、222とナット213、223は、所定の締め付けトルクで締結されており、スライダ板214、224が平面部210a、220aに対して摺動可能に固定されている。そして、スライダ板214、224と平面部210a、220aとの間に滑り耐力を超える応力がX軸方向に働いたとき、スライダ板214、224が平面部210a、220aに対して摺動して、所定の摩擦力が発生するようになっている(詳細は後述)。
【0019】
一対のフレーム板216、226は、一対のスライダ板214、224のそれぞれと少なくとも一部が対向するように、スライダ板214、224に近接して配置される、板状の部材である。一対のフレーム板216、226は、X軸方向下流側の端部(基端部)がロッドエンド130に固定され、片持ち支持されている。
【0020】
粘弾性体218は、スライダ板214とフレーム板216に接着により固定されることで狭持され、両者を弾性的に接続する部材である。また、同様に、粘弾性体228は、スライダ板224とフレーム板226に接着等の手法により固定されることで狭持され、両者を弾性的に接続する部材である。本実施形態においては、それぞれのスライダ板214、224のX軸方向下流側の端部と、それぞれのフレーム板216、226のX軸方向上流側の端部が対向しており、両部材の対向部分に粘弾性体218が配置されている。
本実施形態の粘弾性体218は、例えば、αGEL(登録商標)等、ゲル状物質である。本実施形態においては、地震等の外力が振動制御装置1に印加されたときに、粘弾性体218、228がX軸方向にせん断変形することにより、外力に対して抵抗力が発生するようになっている(詳細は後述)。
【0021】
(振動制御装置の動作)
次に、本実施形態の振動制御装置1の具体的な動作についてさらに詳述する。
図3は、振動制御装置1の動作を説明する図である。
図3(a)は、振動制御装置1に外力が印加されていない状態を示し、
図3(b)は、振動制御装置1に微小振幅の外力が印加されている状態を示し、
図3(c)は、振動制御装置1に大振幅の外力が印加されている状態を示している。なお、
図3(a)〜(c)においては、説明の便宜のため、オイルダンパ110について、X−Y平面における部分概略断面図を示している。
【0022】
図3(a)〜(c)に示すように、本実施形態のオイルダンパ110は、オイル116が充填されたシリンダー111と、シリンダー111内に挿通されて軸方向(X軸方向)に進退自在に支持されたピストンロッド112と、ピストンロッド112の一端部(ロードコラム120側の端部)周辺に固定され、シリンダー111内を2つの液体室111a、111bに仕切るピストン114と、を備えている。なお、ピストンロッド112の他端部は、ロッドエンド130に接合されている。
【0023】
図3(a)に示すように、振動制御装置1に外力が印加されていない場合、振動制御装置1のロッドエンド130とロードコラム120は、それぞれ初期位置に位置し、ピストン114もシリンダー111の軸方向の略中央部に位置している。
【0024】
構造物Sが地震等によって振動し、振動制御装置1に微小振幅の外力が印加されると、ロッドエンド130とロードコラム120の相対的な位置関係が変化する。このため、ピストン114もシリンダー111内を軸方向(X軸方向)に変位することとなる。
図3(b)は、ロッドエンド130に対して、白抜き矢印A1で示す方向(つまり、X軸の負方向)に微小振幅の外力が印加された様子を示している。
図3(b)に示すように、ロッドエンド130に微小振幅の外力が印加されると、ロッドエンド130に固定されたピストンロッド112が軸方向に押圧されて、ロッドエンド130とロードコラム120の相対的な位置が変位するため、ピストン114もシリンダー111内を軸方向に変位するが、同時に、ロッドエンド130に固定された一対のフレーム板216、226も軸方向に変位しようとする。このため、スライダ板214、224とフレーム板216、226との間に狭持された粘弾性体218、228に軸方向のせん断応力(軸方向に伸びようとする力)が発生するが、同時に、粘弾性体218、228の粘性抵抗(つまり、反作用)によって、黒塗り矢印A2で示す方向(つまり、X軸の正方向)に抵抗力(軸方向に縮もうとする力)を発生させる。
つまり、本実施形態の粘弾性体218、228は、オイルダンパ110と並列に設けられた、一種のばね機構として機能し、ピストンロッド112の変位に追随して
図3(b)のようにせん断変形するため、これに伴う粘性抵抗は移動方向と反対向きの抵抗力となってピストンロッド112に作用する。従って、ロッドエンド130に印加される外力は、所定の振幅範囲内(つまり、粘弾性体218、228がせん断変形する範囲内)では主として粘弾性体218、228の粘性抵抗によって吸収されることとなる。
しかしながら、このような構成においては、ロッドエンド130に印加される外力の振幅が大きくなると、粘弾性体218、228がせん断により破壊してしまう虞がある。このため、本実施形態においては、粘弾性体218、228のせん断応力が所定値以上となったときに、一対のスライダ板214、224を軸方向にスライドさせることによって、粘弾性体218、228が破壊したり、所定量以上にせん断したりしないように構成している。
【0025】
図3(c)は、ロッドエンド130に対して、白抜き矢印A3で示す方向(つまり、X軸の負方向)に大振幅の外力が印加された状態(つまり、粘弾性体218、228に作用するせん断応力が所定値以上となった状態)を示している。本実施形態においては、粘弾性体218、228に作用するせん断応力が所定値以上となったときに、一対のスライダ板214、224が軸方向に摺動するように、一対のスライダ板214、224が一対の支持部材210、220の平面部210a、220aに対して所定の締結力で固定されている。換言すると、一対のスライダ板214、224と平面部210a、220aは、一種の滑り機構を構成している。従って、ロッドエンド130に大振幅の外力が印加されると、
図3(c)に示すように、粘弾性体218、228がせん断変形した状態で、一対のスライダ板214、224が軸方向にスライドする。そして、一対のスライダ板214、224がスライドすると、平面部210a、220aとの摩擦によって移動方向と反対向き(つまり、黒塗り矢印A4方向)の抵抗力(つまり、摩擦力)を発生させる。
【0026】
また、ロッドエンド130に大振幅の外力が印加されると、一対のスライダ板214、224がスライドするため、ロッドエンド130に固定されたピストンロッド112が軸方向に大きく変位し、これに伴ってシリンダー111内のピストン114も軸方向に大きく変位することとなる。そして、シリンダー111内においてピストン114が大きく変位すると、ポンプ作用によってオイル116に流れが生じ、オイル116がピストン114に形成されたオリフィス114aを通ることで、オリフィス114aの前後に圧力差が生じる。そして、この圧力差は、シリンダー111やピストンロッド112に掛かるため、ロッドエンド130には、移動方向と反対向き(つまり、黒矢印方向)の減衰力が生じることとなる。このように、本実施形態においては、ロッドエンド130に対して大振幅の外力が印加された場合、一対のスライダ板214、224を平面部210a、220aに対してスライドさせて、移動方向と反対向きの抵抗力を発生させると共に、オイルダンパ110によって移動方向と反対向きの減衰力を発生させている。従って、ロッドエンド130に印加される外力は、一対のスライダ板214、224の抵抗力と、オイルダンパ110の減衰力によって吸収されることとなる。
【0027】
なお、
図3(b)及び
図3(c)においては、ロッドエンド130に対して、X軸の負方向に外力が印加された場合の動作(つまり、オイルダンパ110の圧縮方向の動作)を説明したが、ロッドエンド130に対して、X軸の正方向に外力が印加された場合は、単にオイルダンパ110の動作が逆方向となる(つまり、伸長方向の動作をする)だけであるので、詳細な説明は省略する。
【0028】
このように、本実施形態の振動制御装置1は、微小振幅の外力に対しては、主として粘弾性体218、228の粘性抵抗を利用して耐震機能を発揮し、大振幅の外力に対しては、一対のスライダ板214、224の摩擦力、及びオイルダンパ110の減衰力を利用して制震機能を発揮するように構成している。このため、本実施形態の振動制御装置1によれば、振動エネルギの大小に拘わらず、構造物の揺れを的確に制御することが可能となる。また、本実施形態においては、一対のスライダ板214、224を摺動可能とすることによって、粘弾性体218、228がせん断することがないように構成しているため、従来のトリガ部材のように交換部品を必要とせず、また更なる余震に対しても十分な耐震機能及び制震機能が発揮されるものとなる。また、本実施形態の振動制御装置1においては、耐震機能を有するばね機構(つまり、粘弾性体218、228)と、制震機能を有する滑り機構(つまり、スライダ板214、224)及びオイルダンパ110とが一体的に構成されているため、1つの構面VPに対しては1つの振動制御装置1を配置すればよく、柱間隔や梁間隔が狭い構造物S(つまり、狭い構面VP)にも適用可能なものとなる。
【0029】
(効果確認実験)
図4〜
図6は、本発明の発明者等が行った、振動制御装置1の効果確認実験の結果である。
図4は、振動試験装置を用いて±10mmのストロークで正弦波加振実験を行った結果を示すグラフである。
図5は、振動試験装置を用いて±20mmのストロークで正弦波加振実験を行った結果を示すグラフである。また、
図6は、振動試験装置を用いて±20mmのストロークでランダム波応答実験を行った結果を示すグラフである。なお、
図4〜
図6において、横軸は、振動試験装置によって印加する変位量(mm)であり、振動制御装置1のロッドエンド130の変位を示している。また、縦軸は、測定器によって計測した振動制御装置1の減衰力(kN)を示している。なお、
図4〜
図6において、実線で示すグラフは、本実施形態の振動制御装置1の特性を示しており、破線で示すグラフは、粘弾性体218、228を有さない従来の建築用オイルダンパ単体の特性を示したものである。
【0030】
(試験体として用いた振動制御装置1の構成)
図4〜
図6に示す効果確認実験においては、以下の表1に示す仕様の建築用のバイリニア型オイルダンパ(三和テッキ株式会社製)をオイルダンパ110として用い、表2に示す仕様の粘弾性体を粘弾性体218、228として用いて、振動制御装置1を構成した。そして、粘弾性体218、228のせん断変形量が10mmまでは、スライダ板214、224が変位せず、粘弾性体218、228のせん断変形量が10mmを超えたときに、スライダ板214、224が変位して摩擦力が発生するように構成した。なお、振動制御装置1の試験体の主なパラメータは、以下の通りである。
(1)変位量10mmまでの剛性: 12.5kN/mm
(2)変位量10mm以上の剛性: 6.4kN/mm
(3)滑り耐力: 64kN
【0033】
(実験結果の考察)
図4に示すように、振動制御装置1のロッドエンド130を±10mmのストロークの正弦波で加振すると、スライダ板214、224が変位しない状態で、粘弾性体218、228がせん断変形するため、減衰力は、粘弾性体218、228の特性が支配的となると考えられるが、本実施形態の振動制御装置1の特性は、粘弾性体218、228を有さない従来の建築用オイルダンパ単体の特性よりも高い剛性と減衰性を示した。
【0034】
また、
図5に示すように、振動制御装置1のロッドエンド130を±20mmのストロークの正弦波で加振すると、スライダ板214、224が変位するため、減衰力は、スライダ板214、224の摩擦力と、オイルダンパ110の減衰力による特性が支配的となると考えられるが、本実施形態の振動制御装置1の特性は、スライダ板214、224を有さない従来の建築用オイルダンパ単体の特性よりも高い剛性と減衰性を示した。
【0035】
また、
図6に示すように、振動制御装置1のロッドエンド130を±20mmのストロークのランダム波で加振すると、スライダ板214、224が変位する状態と変位しない状態がランダムに発生するが、粘弾性体218、228やスライダ板214、224を有さない従来の建築用オイルダンパと同様の追従性を示していることがわかる。また、振動制御装置1の減衰力は、従来の建築用オイルダンパの減衰力をはるかに上回っていることがわかる。
【0036】
以上のことから、本実施形態の振動制御装置1は、従来の建築用オイルダンパに比較して、極めて高い減衰力を有するものであり、これを構造物Sに適用することにより、構造物Sは十分な耐震機能と制震機能を有するものとなる。
【0037】
以上が本発明の実施形態の説明であるが、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。例えば、本実施形態の粘弾性体218、228は、αゲル(登録商標)であるものとして説明したが、所定の弾性力を有するゲル状物質であれば適用できる。
【0038】
また、本実施形態の振動制御装置1は、構造物Sの隣り合う2本の柱P1、P2と、上下方向に隣り合う下階梁L1、上階梁L2と、によって囲まれた架構内(つまり、構面VP)に筋交い状に配置されるものとして説明したが、必ずしもこのような構成に限定されるものではなく、振動制御装置1の一端(つまり、ロードコラム120の一対の継手122、124)が架構の一部に回動可能に接続(又は固定)され、他端(つまり、ロッドエンド130の一対の継手132、134)が架構の他の部分に回動可能に接続(又は固定)されていればよい。
【0039】
また、本実施形態の振動制御装置1は、オイル116が充填されたオイルダンパ110を有するものとして説明したが、必ずしもこのような構成に限定されるものではなく、オイル116に代えて、他の作動流体が充填された流体ダンパを適用することも可能である。
【0040】
(本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ)
第1の態様に係る振動制御装置(振動制御装置1)は、構造物(構造物S)の架構内(構面VP)に介装され、外力による構造物の揺れを低減する振動制御装置であって、一端(ロードコラム120)が架構の一部(下階梁L1)に固定され、他端(ロッドエンド130)が架構の他の部分(上階梁L2)に固定され、外力に対して減衰力を生成する制震装置(制震装置100)と、制震装置の一端と他端との間に、制震装置と並列に設けられ、一端と他端の相対的な変位に応じて外力に対して抵抗力を生成するばね機構(粘弾性体218、228)と、ばね機構に所定の応力が発生したときに、ばね機構を制震装置に対して摺動させて、外力に対して摩擦力を生成する滑り機構(スライダ板214、224)と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、微小振幅の外力に対しては、ばね機構の粘性抵抗によって耐震機能が発揮され、大振幅の外力に対しては、滑り機構の摩擦力、及び制震装置の減衰力によって制震機能が発揮される。このため、本態様の振動制御装置によれば、振動エネルギの大小に拘わらず、構造物の揺れを的確に制御することが可能となる。
また、本態様においては、耐震機能を有するばね機構と、制震機能を有する滑り機構及び制震装置とが一体的に構成されている。従来、構造物に対して、その剛性を高めて耐震機能を向上させる補強材と、構造物の揺れを低減する制震装置の双方を設置する場合、両者は別個の部材であることから、これらを夫々異なる構面に配置する必要があり、工事箇所及び工事費用の増大、各部材の設置による開口部の減少に伴う利便性の低下等を招いていた。本態様によれば、1つの構面に対しては1つの振動制御装置を配置すればよく、柱間隔や梁間隔が狭い構造物(つまり、狭い構面)にも適用可能なものとなる。
また、本態様によれば、ばね機構に所定の応力が発生したときに、ばね機構が制震装置に対して摺動するため、ばね機構がせん断してしまうことがない。従って、従来のトリガ部材のように交換部品を必要とせず、また更なる余震に対しても十分な耐震機能及び制震機能が発揮されるものとなる。
【0041】
第2の本態様に係る振動制御装置は、ばね機構が、一端と他端の相対的な変位に応じて変形する粘弾性体(粘弾性体218、228)を有することを特徴とする。
このような構成によれば、粘弾性体の粘性抵抗を利用して、簡単な構成でばね機構を実現することができる。
【0042】
第3の本態様に係る振動制御装置は、粘弾性体が、ゲル状物質であることを特徴とする。
このような構成によれば、粘弾性体の粘性抵抗を利用して、容易に所定の抵抗力を得ることができる。
【0043】
第4の本態様に係る振動制御装置は、ばね機構が、制震装置を挟むように互いに平行に配置され、基端部が制震装置の一端側に取り付けられた一対の第1プレート(スライダ板214、224)と、各第1プレートと対向するように各第1プレートに近接して配置され、基端部が制震装置の他端側に固定された一対の第2プレート(フレーム板216、226)と、を有し、粘弾性体は、各第1プレートと該各第1プレートに近接する第2プレートに接着されて狭持され、一端と他端の相対的な変位に応じてせん断変形することを特徴とする。
【0044】
第5の本態様に係る振動制御装置は、滑り機構が、制震装置の一端側に配置され、一対の第1プレートを摺動可能に支持する一対の支持部材を有することを特徴とする。
【0045】
第6の本態様に係る振動制御装置は、制震装置が、ばね機構が制震装置に対して摺動するときに、減衰力を生成することを特徴とする。
【0046】
第7の本態様に係る振動制御装置は、制震装置が、シリンダーと、シリンダー内に挿通され、一端が制震装置の他端に固定されたピストンロッドと、シリンダー内を2つの液体室に仕切ると共に、ピストンロッドの移動に伴ってシリンダー内を移動するピストンと、2つの液体室を満たす作動液体と、を備え、ピストンは、該ピストンが移動するときに作動液体が通過するオリフィスを有することを特徴とする。
【0047】
なお、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本態様の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。