【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0049】
本実施例で用いた臨床試験方法、測定法、解析方法を以下説明する。
(臨床検査)
本実施例で用いる血清試料は、試験に使用されるまで-80℃で凍結保存され用事解凍された。本実施例で行われた臨床検査は、血小板数、プロトロンビン活性時間(PT)、血清中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ濃度(AST)、血清アラニン・アミノトランスフェラーゼ濃度(ALT)、血清アルブミン、血清中総ビリルビン(T.bil)について常法で行った。血清中αフェトプロテイン(AFP)、AFP-LCAレクチン分画(AFP-L3、%)、ビタミンK依存性凝固因子前駆体II(PIVKA-II)も初診時に同じ試料で測定をした。血清AFPはHISCL-2000i(シスメックス)、PIVKA-IIはルミパルスPrestoII(富士レビオ)自動化学発光酵素免疫測定装置(CLEIA)を用いて測定した。従来のAFP-L3は自動免疫測定装置 μTASWako i30(和光純薬)を用いてレクチン親和クロマトグラフィーおよび液相結合アッセイ法で測定した。
【0050】
(抗CSF1R抗体-WFAレクチン サンドイッチELISAおよび総CSF1R-ELISA)
WFA
+-CSF1Rおよび総CSF1Rは、本発明者らの既報(非特許文献2)の方法を一部改変して行った。Maxisorp(登録商標)イムノプレート(サーモサイエンティフックNUNC、449824)を4μg/mL抗CSF1R抗体(マウス抗ヒトM-CSFR、MAB3292、R&D Systems社)で6時間コートし、ブロッキングバッファー(3% BSA含有PBSバッファー, pH 7.4)で終夜4℃にてブロッキングした。血清試料はブロッキングバッファーで20倍希釈し、2対をプレートに2時間アプライした。次にプレートをウォッシュバッファーで6回洗浄した。ビオチン結合WFA(ベクターラボラトリ社)が検出プローブとして用いられた。プレートは100μL/well の50,000倍希釈HRP結合ストレプトアビジン溶液とともにインキュベートしウォッシュバッファーで6回洗浄した。各ウェルに基質溶液(100μL、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を加え、反応は1M H
2SO
4で止めた。各ウェルの450nmにおける吸光度を測定した。
【0051】
(観察期間およびHCCの治療)
患者の経過観察は腫瘍マーカーAFP、PIVKA-II、AFP-L3、および超音波検査、CT、磁気共鳴画像法を用いて少なくとも開始より6か月ごとに行った。HCC治療後最初の一年間の経過観察は3か月ごとに画像診断で行われ、この期間中、肺炎、敗血症、HCCを含む肝臓に関連する死亡、および食道静脈瘤出血を含む肝不全による死亡について分析した。
HCCは日本のガイドラインに従って治療された。まず患者は手術の適応について評価され、外科的治療の拒否もしくは不適格とされた場合、経皮的エタノール注入法による局所凝固療法(LAT)、または近年では高周波アブレーション(RFA)が行われた。肝移植を受けた患者はいなかった。各HCC患者のフォローアップ期間は1998年から2014年のうちに開始され患者の死亡もしくは2014年8月まで続けられた。フォローアップ期間は1か月から195ヶ月(中央値60ヶ月)だった。
【0052】
(統計学的解析)
本実施例で用いる統計解析は、患者の臨床背景はMann-WhitneyのU検定を使用、累積生存率および発がん率はカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法で算出,検定はLog rank testで行った。WFA
+-CSF1R、WFA
+-CSF1R%は最小P値法を用いて最適なカットオフ値を算出した。変数の最適なカットオフ値を決定するため、ログラング検定の10から90パーセンタイル順位間で最小のP値を示すカットオフ値を選択した。危険率(HR)と95%信頼区間(95%CI)も求められた。生存率および累積発がんの予測因子は、年齢、性別、アルブミン値、血小板数、Fib4、APRI、AFP、PIVKA-II、およびAFP-L3を検討した。時間依存性ROC解析にてWFA
+-CSF1R、WFA
+-CSF1R%の有用性を検討した。連続型変数間の相関はスピアマンの順位相関係数で数量化された。また、P<0.05を統計的有意とした。統計学的分析はSPSS.20, R 2.14.0 (survival ROCパッケージ)およびWindows
(登録商標) Excel 2010などの統計解析用ソフトウェアを用いて行った。
【0053】
(実施例1)
免疫組織化学染色法によるCSF1R糖タンパク質の解析
各種肝疾患、特に肝硬変あるいは肝臓がんの患者の組織から薄切された標本(凍結標本あるいはパラフィン包埋標本)を使用して、レクチン或いは抗体による免疫組織化学的染色による発現の検討を行うことができる。そこで、組織アレイスライド(ホルマリン固定パラフィン包埋ブロックより作製されたもの)を使用して、肝臓がん組織におけるWFAならびにCSF1R発現の検討を行った。
組織アレイスライドを脱パラフィンした後、蒸留水にて洗浄し、100 mM クエン酸バッファー(pH 9.0)中で電子レンジ(microwave oven)にて5分間加熱して抗原賦活化を行った。次いで、内因性peroxidaseの阻害処理を行い、ブロッキングバッファー (0.2% Tween-20, 5% glycerol, 3% BSA in PBS)にて、室温で20分ブロッキングを行った。PBS中で3回洗浄した後、ブロッキングバッファーで希釈した1次抗体(抗CSF1R抗体:C20クローン、Santa Cruz Biotechnology社, 1 μg/mLにて使用。またはR&D systems社AF329、抗hMCSFR抗体)あるいは、ビオチン化WFAレクチン:Vector Laboratories社, 20μg/mLにて使用)にて反応させた。一次反応後、PBS中で3回洗浄し、次に2次抗体として、2次抗体(HRP化抗ウサギIgG抗体: Life Technologies社, 10μg/mLにて使用)あるいは、HRPラベル化ストレプトアビジン:Vector Laboratories社, 20μg/mLにて使用)にて反応させた。場合によってVECTASTAIN ABC ELITEキットを使用することも出来る。発色はDAB発色(WAKO社)にて行った。また、haematoxylinにて染色を行った。
その結果、
図1に示す通り、肝細胞がん患者組織において、がん組織の辺縁部(浸潤部)にCSF1R分子ならびにWFAエピトープの共発現を認めた。また、
図2に示す通り、肝細胞がん患者組織アレイにおいて、CSF1R分子の発現を認めたものは78例/100例中であり、WFAエピトープの発現を認めたものは76例/100例中であった。CSF1R分子ならびにWFAエピトープの共発現を認めたものは、70例/100例中であった。
【0054】
(実施例2)
肝硬変(LC)に罹患し、かつ肝細胞がん(HCC)に罹患していない臨床試験患者(LC(+)HCC(-))の選択
1998年1月から2013年1月にかけて、名古屋市立大学病院通院中のC型慢性肝疾患患者214名から得られた血清を使用した。HBs抗原陽性患者、およびエントリー時から3か月以内に他臓器の悪性疾患を発症した患者は除外した。観察期間中央値は60ヶ月間(1〜195ヶ月間)で、チャイルド・ピュー分類Cの患者は、転院などにより発がん率や予後が正確に評価できないため検討から除外した。肝線維化評価は、肝生検組織または超音波やCTによりおこなった。肝細胞がんは組織学的検査また画像診断により、米国肝臓病学会の基準に基づき診断した。線維化ステージの評価はMETAVIRを用いて2名の病理専門医が個別に判定し、肝硬変をF4とした。本研究は1975年のヘルシンキ宣言をもとに、名古屋市立大学病院倫理委員会で承認され,書面上で同意を得た上で実施した。
患者選択を
図3に示す。214名(慢性肝炎[CH]99名、肝硬変[LC]115名)がエントリーされ、LC115名のうち、肝細胞がん合併は59名(HCC-LC)であった。最終的に、肝がんコントロール不良(23名)もしくは3cm・3個以上の肝細胞がんを有する27名が除外された。さらに長崎医療センター、新松戸中央総合病院、および久留米大学から得られた45名の肝細胞がん合併のない肝硬変患者検体をバリデーションコホートとして検討した。バリデーションコホートは年齢中央値62歳、男性20名(44.4%)観察期間中央値は60ヶ月であった(1〜180ヶ月)。これら2グループに年齢とALT値以外の基準特性に著しい違いはなかった(表1)。
【0055】
【表1】
【0056】
そこで、以下の実施例では、これら2つのコホートを合わせて解析することとし、特にエントリー時に肝細胞がんを有さない101名のLC患者(LC
+HCC
−)において生存率と累積発がん率を検討した(表2)。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例3)
肝硬変患者(LC)の肝細胞がん発症リスクの予測のための指標
本実施例では、肝硬変患者(LC)のうちで肝細胞がん発症リスクを予測のための指標の検討を行う。
【0059】
(3−1)全患者血清中WFA
+-CSF1R 濃度およびWFA
+-CSF1R%
肝疾患患者全体(214名)の血清試料を用いてWFA
+-CSF1Rおよび総CSF1R濃度を測定したところ、血清WFA
+-CSF1R 濃度、総CSF1R濃度ともに、肝硬変患者(LC)(115名)は肝炎患者(CH)(99名)に比べ有意に高値だった[WFA
+-CSF1R:208.9 (34.3 - 500.9) ng/ml vs. 82.3 (5.0 - 241.0) ng/ml] 、[総CSF1R:845.3 (431.6 - 1487.5) ng/ml vs. 536.4 (266.3 - 1357.2) ng/ml]。
LC患者115名(HCC 59名、非HCC 56名)において血清WFA
+-CSF1R濃度 [208.9 (85.4 - 500.9) ng/ml vs. 213.0 (34.0 - 442.0) ng/ml]および総CSF1R濃度 [820.9 (431.6 - 1415.1) ng/ml vs. 866.0 (516.0 - 1487.6) ng/ml]であった。
WFA
+-CSF1R濃度は、LC患者では肝細胞がん(HCC)罹患の有無で有意差は認めなかったが、総CSF1R濃度は肝硬変患者の中で、HCC合併例は非合併例に比べてわずかに高かった(p = 0.035)。
WFA
+-CSF1R%(総CSF1RにおけるWFA
+-CSF1Rの割合)はHCC群と非HCC群で それぞれ26.9% (11.3- 77.7)及び21.3% (6.3 - 64.1) (p = 0.0018)となり、HCC群は有意に高値であった。
またWFA
+-CSF1R%は、LC患者はCH患者に比べ有意に高値であった [23.3 (6.3 - 77.7) vs. 15.6 (0.9 - 55.8)] (p < 0.0001) (表1)。
本発明において対象とするエントリー時にHCCを認めない非HCC肝硬変患者(LC
+HCC
−)(56名)について、生存率と累積発がん率を検討した。WFA
+-CSF1R 値の中央値は213.0(34.0〜442.0)であり、WFA
+-CSF1R%値は21.3 (6.3 〜64.1)であった(表2)。
【0060】
(3−2)全患者におけるWFA
+-CSF1R%による発がん率
まず、WFA
+-CSF1Rによる累積発がん率を測定したが有意差がなかった(データ未掲載)。
一方、CSF1Rは悪性疾患と関連すると言われており、WFA
+-CSF1R%と発がんとの関連性を検討した。臨床的因子および癌関連因子を、時間依存性ROC解析で求めたAUCとコックスの回帰分析で求めた危険率(HR)で評価した。本コホートではインターフェロン治療歴およびSVR率は、HCCの進展に影響がなかったため考慮しなかった。累積発生率における診断能は、総観察期間における95%信頼区間のROC曲線下面積(AUC)として示した。連続型変数間の相関はスピアマンの順位相関係数で数量化された。P<0.05を統計的有意とした。
肝硬変患者の肝細胞がんの発がん率に対するログランク検定で求められたP値に基づく最小P値法により(上下10%の症例を除外)、発がんを予測するためのWFA
+-CSF1R%の最適カットオフ値は35.0%となった(表1)、(
図4)。本カットオフ値を用いた生存予測での危険率は1.55(95% CI 1.03-2.34, p = 0.034)だった。さらに別のサンプルセット(バリデーションセット)を用いてWFA
+-CSF1R%の有用性を検討した結果、WFA
+-CSF1R%は予測因子として有望であった(HR 4.06, 95% CI 1.63-10.13, p < 0.001)。
他のデータと総合してLC患者の累積発がん率に関与する因子を時間依存的ROC分析にて解析したところ、WFA
+-CSF1R%はAUC 0.760、HR 1.55(95%CI 1.03-2.34、p = 0.034)であった(表3)。従って、トレーニングセットとバリデーションセットの結果を考慮し、LC患者での累積発がん率との関連を示したWFA
+-CSF1R%値35.0%を最適候補とした。さらに、WFA
+-CSF1R%と他の連続型変数との相関をスピアマンの順位相関係数検定で分析した結果、相関が認められた(表3)、(
図5,6)。
【0061】
【表3】
【0062】
(3−3)肝細胞がんのない肝硬変患者(LC(+)HCC(-))の肝細胞がん(HCC)発生率について
そこで、さらに、上記で検討したWFA
+-CSF1R%カットオフ値で層別化された患者での発がん率を求めた。LC患者におけるWFA
+-CSF1R%と発がん率を明らかにするためHCC患者を二グループに分けた(高値群
>35.0%、低値群<35.0%。カプラン・マイヤー解析によると、トレーニングセットにおいて、5年の累積発がん率はWFA
+-CSF1R%高値群(
>35.0%、6名)で75%、低値群 (<35.0%、50名)は30%であり、累積発がん率はWFA
+-CSF1R%高値群で有意に高かった(P = 0.006)(
図7a)。同様に バリデーションセットにおいて、5年の累積発がん率はWFA
+-CSF1R%高値群(10名)で75%であり、低値群(35名)の42%に比べて累積発がん率は有意に高かった(P = 0.005)(
図7b)。
これらの結果よりWFA
+-CSF1R%はHCCに関連があるだけでなく、LC患者の癌化リスク予測マーカーになりうることが示唆された。そして、最小P値法で算出されたWFA
+-CSF1R%の値は、LC患者のHCC発がんリスク指数として機能する。
【0063】
(実施例4)
肝細胞がんのない肝硬変患者(LC(+)HCC(-))の予後(生存率)について
(4−1)全患者におけるWFA
+-CSF1R値による生存率
WFA
+-CSF1R値は線維化の進展において上昇するため、WFA
+-CSF1RをLC患者の予測因子として評価した。臨床的および癌関連因子を時間依存的ROC曲線のAUC(総観察期間における95%信頼区間のROC曲線下面積)およびコックス回帰分析で計算した危険率で評価した。
まずトレーニングコホートにおいて、コックス回帰分析で最少のP値を示す値をWFA
+-CSF1Rの最適カットオフ値として求めた(310 ng/ml、
図8)。生存を予測するための危険率はWFA
+-CSF1R値(
>310)において3.63 (95% CI 1.25-10.54、 p = 0.011)であった。さらにWFA
+-CSF1R値の有効性を独立したサンプルセット(バリデーションセットとする)を用いて検討した結果、WFA
+-CSF1R値(
>310)は予測因子として有望であった(HR 6.07, 95% CI 1.62-22.77, p =0.002)。
トレーニングセットとバリデーションセットを総合すると(Table 2)、継続的因子としてAUCは、WFA
+-CSF1Rで0.691(HR 1.80, 95% CI 1.23-2.62, p = 0.002)、アルブミンでは0.719 (HR 0.29, 95% CI 0.18-0.47, p< 0.001)、Fib4では0.706(HR 1.78, 95% CI 1.25-2.52, p = 0.001)であった。したがってWFA
+-CSF1Rは最適な候補であることがわかり、トレーニングセットとバリデーションセットのLC患者予後において最も強い相関を示した。WFA
+-CSF1RのLC患者の予後への相関はFib4の相関に類似していたが、本コホートではアルブミンも信頼できる予測因子であった。
さらに我々は、WFA
+-CSF1R値と他の連続変数との相関をスピアマンの順位相関係数検定を用いて調べた。(表4右)に示すようにWFA
+-CSF1R値は他の因子に多重相関を見せた。
【0064】
【表4】
【0065】
(4−2)WFA
+-CSF1R値による生存率
WFA
+-CSF1R値は線維化の進展につれて上昇するため、WFA
+-CSF1RをLC患者の予後予測因子になりうるかを評価した。LC患者の肝細胞がんの累積生存率に対するログランク検定で求められたP値に基づく最小P値法により(上下10%の症例を除外)、予後を予測するためのWFA
+-CSF1Rの最適カットオフ値は310 ng/mlであり(表1)、時間依存的ROC曲線で生存率を検討したところ、WFA
+-CSF1R値(
>310)においてHRは3.63 (95% CI 1.25-10.54、p = 0.011)であった。
トレーニングセットとバリデーションセットを合わせた結果、WFA
+-CSF1R のAUCは0.691(HR 1.80, 95% CI 1.23-2.62, p = 0.002)であり、WFA
+-CSF1RはLC患者における予後予測に良好な結果が得られた(表4)。
LC患者における累積生存率をカプラン・マイヤー解析にて検討すると、WFA
+-CSF1R高値群(
> 310 ng/ml)の1,3,5年生存率はトレーニングセット(8名)でそれぞれ88%、60%、45%であり、バリデーションセット(10名)で100%、71%、43%であった。一方WFA
+-CSF1R低値群(< 310 ng/ml)では、トレーニングセット(48名)94%、89%、74%(p= 0.010)、バリデーションセット(35名)で100%、100%、100% (p < 0.003)(
図9a,b)であった。WFA
+-CSF1R値高値群は低値群に比較し有意に生存率が低かった。
【0066】
以上の結果から、WFA
+-CSF1R値は、LC患者における予後(生存率)因子として優れていることが実証され、最小P値法で算出されたWFA
+-CSF1Rの値は、LC患者の予後予測指数として機能する。
【0067】
(実施例5)
標準CSF1R糖タンパク質の作製
(5−1) rCSF1Rの発現系の構築と精製
肝硬変の血清糖タンパク質マーカーとして開発したWFA
+-CSF1Rの微量迅速測定キットの開発において、測定のキャリブレーターとなる糖タンパク質標準品の生産系構築の検討を行った。測定キットは抗体−レクチン サンドイッチ検出系であるため、糖タンパク質標準品には、抗体とレクチンのそれぞれに反応するエピトープが必要となる。標準糖タンパク質作製において、目的の糖鎖を有する糖タンパク質を生産する細胞の選択は非常に重要であると考えられる。WFAに結合する糖鎖を持つ糖タンパク質の発現は、すでに肝線維化マーカーWFA
+-M2BPの発現において確立しており、今回もそれに倣いHEK293細胞をタンパク質発現のホスト細胞に用いた。
CSF1Rタンパク質は972アミノ酸からなる膜タンパク質であり(配列番号1,2)、1-19アミノ酸がシグナル配列、20-517アミノ酸が細胞外領域、518-538アミノ酸が膜貫通領域、539-972アミノ酸が細胞内領域である。細胞外領域には11箇所のN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列が存在し、これらのすべてあるいは一部にN結合型糖鎖が結合していることが考えられる。これらの情報を基に、リコンビナントCSF1R(rCSF1R)は、自身のシグナル配列と細胞外領域である1-489アミノ酸をコードする領域をPCRで増幅し、発現ベクターに導入した。
ヒト単球性白血病細胞株(THP-1)由来cDNAを鋳型に、2本のプライマー、
Fwd: 5’- AGGCCATGGGCCCAGGAGTTCTGCTGCT -3’, (配列番号5)
Rev: 5’- g
gaattcGTTGTGGGCCCTGCACTCGTAG -3’(下線はEcoRI部位)(配列番号6)
でPCR反応を行い、増幅した1.5 KbpのDNA断片をpCRII-Bluntベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、Genetic Analyzer 3130xl(Applied Biosystems社)で増幅核酸配列を確認した。EcoRIで切断したDNA断片を発現ベクター pcDNA3.1neo(+)DDDDK(Invitrogen社のベクターを改良)のDDDDK tag配列前のEcoRI部位に挿入し、pcDNA3.1-CSF1R-tagを構築した。この結果、このベクターから発現するrCSF1RはC末端にDDDDK tag配列を持つことになる。
このプラスミドをヒト胎児腎臓由来細胞株HEK293細胞にLipofectamine LTX(Invitrogen)を用いてトランスフェクションし、1 mg/mLのG418(ナカライテスク)を培地に添加して、安定発現株を選別した。構築した安定発現株をDMEM+10%FCS+PS培地でコンフレント状態で48時間培養後の培養上清を3回繰り返し回収し、3100 rpm、10分間の遠心分離の後、上清を回収した。
回収した培養上清から抗DDDDK抗体カラム(MBL社)を用いてrCSF1Rタンパク質を精製した。0.45μmフィルターろ過した培養上清を、DDDDK抗体カラムに供し、素通りした上清を再度カラムに供した。抗体カラム容量の10倍量の0.1%Tween含有PBS緩衝液で洗浄し、さらに、PBS緩衝液で洗浄を行った。抗体カラム容量の5倍量のDDDDKペプチドを含むPBS緩衝液にて、抗体カラムに結合したrCSF1Rの溶出を行い、さらに限外濾過膜(Amicon 10K)を用いて溶出に用いたDDDDK ペプチドの除去とタンパク質の濃縮を行った。(本発明で得られたrCSF1Rタンパク質を、以下「標準CSF1R(タンパク質)」ともいう。)
精製したrCSF1Rは、タンパク質濃度を測定した後、-30℃にて保存した。
【0068】
(5−2) 標準CSF1R(rCSF1R)の糖鎖プロファイリング
抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイのプラットフォームは基本的に上記の通りとし、検出に際しては上記被験者を直接蛍光等で標識するのではなく、抗体を介して間接的に蛍光基等を被験者に導入することで、一斉に多検体に対する分析を簡便、高速化することができる応用法である(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009)」、「平林淳、久野敦、内山昇「レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリング応用技術の開発」、実験医学増刊「分子レベルから迫る癌診断研究〜臨床応用への挑戦〜」、羊土社、Vol25(17)164-171(2007)」、久野敦、平林淳「レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリングシステムの糖鎖バイオマーカー探索への活用」、遺伝子医学MOOK11号「臨床糖鎖バイオマーカーの開発と糖鎖機能の解明」、pp.34-39、メディカルドゥ(2008)参照)。
例えば、糖タンパク質が被検物質であれば糖鎖部分はレクチンマイクロアレイ上のレクチンによって認識されるため、コアタンパク質部分に対する抗体をその上から被せる(オーバーレイ)ことによって、被検糖タンパク質を標識したり、あるいは高度に精製したりすることなく、特定的に感度高く検出することができる。
【0069】
具体的には下記の通り行った。
リコンビナントCSF1R糖タンパク質の糖鎖プロファイルを解析するために、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法による解析を行った。
レクチンマイクアロアレイは、45種の異なるレクチンが3スポットずつ固定化されているものを使用した(LecChip
TM、株式会社グライコテクニカ)。上記アレイに、緩衝液で希釈したLDN陽性とLDN陰性のリコンビナントCSF1Rをそれぞれ200ng/wellアプライし、緩やかに振盪しながら20℃で12時間レクチンへの結合反応を行った。反応後、ヒトIgGを2μg/well添加し30分間ブロッキングを行った。次にアレイ上のブロッキング剤を含む試料溶液を除去し、専用の緩衝液で3回洗浄した後、20ug/mLヒトIgGを含む緩衝液で100倍に希釈したビオチン化抗CSF1Rポリクローナル抗体(R&D Systems)を添加し、緩やかに振盪しながら20℃で1時間抗体の結合反応を行った。反応後、抗体溶液を除去し専用緩衝液で3回洗浄した後、緩衝液で5000倍に希釈したCy3結合ストレプトアビジン(GEヘルスケア)を添加し、緩やかに振盪しながら20℃で1時間二次反応を行った。 反応後、二次反応液を除去し専用緩衝液で3回洗浄した後、株式会社グライコテクニカ製レクチンマイクロアレイ用スキャナー(GlycoStation
TM Reader 1200)を用いてシグナル強度を測定した。バックグラウンド値を引いた真値算出後、各レクチン3スポット間の平均値を算出し、全レクチンで最大のシグナル強度を基準値と定めて、相対値を求め、数値化を行った(
図10)。
【0070】
(5−3)rCSF1Rの糖鎖構造解析
上記の精製したrCSF1Rを用いて、IGOT法にてN結合型糖鎖付加部位を決定し、さらにGlycoRidge法によりN結合型糖鎖付加部位ごとに糖鎖構造解析を行った。
ここで、GlycoRidge法は、本発明者らが開発したリコンビナントタンパク質のペプチド配列ならびに糖鎖構造の解析技術(Noro E, et al, J Proteome Res. 2015 Sep 4;14(9):3823-34.)であり、概ね以下の手順で行う。
リコンビナント糖タンパク質をDTTおよびヨードアセトアミドにより還元アルキル化し、トリプシン消化後、回収した糖タンパク質を酸性条件下(pH2以下)で高温加熱(例えば、80℃、2時間加熱)しシアル酸を切除する。この糖ペプチドをLC/MS法で分析し、個々の糖ペプチドシグナルの精密質量をリスト化する。糖鎖付加部位を含むペプチドの計算質量と、観測した糖ペプチドの質量差から、糖鎖部分の単糖組成を推定し、推定された糖鎖モチーフを含むと推定される付加部位を同定する。糖ペプチドから遊離した糖鎖をMALDI-TOF MSで分析し、推定糖鎖モチーフを含有すると思われる組成の糖鎖から、推定糖鎖モチーフに対応する断片イオンが検出されれば推定糖鎖モチーフ及びその付加位置(ペプチド配列)が正しかったことが確認できる。
【0071】
具体的には以下の手順で行った。
組換え体CSF1Rを還元アルキル化(タンパク質と等重量のDTT、およびヨードアセトアミド (タンパク質×2.5倍重量)で反応させ、その後透析するなどの常法に従う)の後、トリプシン消化し、アミド80カラム(東ソー株式会社: TOSOH)で糖ペプチドを回収した。これを酸性条件下(pH〜2)、80℃、2時間加熱し、シアル酸を切除した。この糖ペプチドをLC/MS法で分析し、個々の糖ペプチドシグナルの精密質量をリスト化した(誤差は2ppm以下:サーモサイエンティフィック社LTQ-Orbitrap Velos)。
糖鎖付加部位を含むペプチドの計算質量と、観測した糖ペプチドの質量差から、糖鎖部分の単糖組成(Hex)*i+(HexNAc)*j+(dHex)*k; Hex=Man/Gal, HexNAc=GlcNAc/GalNAc, dHex=Fucoseを推定した。推定された糖鎖組成(たとえばHex4+HexNAc5+Fuc1)からGalNAc-GlcNAc(=LacDiNAc)モチーフを含むと推定される付加部位を同定した。糖ペプチドから遊離した糖鎖をMALDI-TOF MSで分析し、LacDiNAcを含有すると思われる組成の糖鎖(以下、LDN糖鎖ともいう)から、HexNAc-HexNAc断片イオンが検出され、その存在を確認した。
【0072】
その結果、市販CSF1Rタンパク質(
図11)および標準CSF1R糖タンパク質(
図12)における糖ペプチドを同定し、糖鎖の付加位置を明らかにした(
図13)。標準CSF1R糖タンパク質では73Asnおよび153Asnの糖鎖にWFA陽性となる(エピトープとなる)LacdiNAc構造(LDN糖鎖)と結合することを確認した。
【0073】
(実施例6)
LDN欠損株を用いた組換えCSF1R上のLDN糖鎖位置の確認
(6−1)LDN欠損株の構築
(実施例5)の(5−1)で得られたrCSF1Rを産生する形質転換HEK293細胞に対してLDN糖鎖特異的な転移活性を有する糖転移酵素であるB4GALNT3及びB4GALNT4をコードする遺伝子に、CRISPR/Cas9システム(Jennifer A. Doudna, et al., Science 28 Nov 2014:Vol. 346, Issue 6213,DOI: 10.1126/science.1258096)で不活性型変異を導入することによりLDN欠損株を作製し、LDN糖鎖(WFAの結合する糖鎖)を欠損した標準CSF1R糖タンパク質を産生させた。
具体的には、LDNが発現しているHEK293細胞において、Invitrogen社のGeneArt CRISPR Nuclease Vector Kitを用いて、B4GALNT3、B4GALNT4遺伝子に連続して変異を導入した。B4GALNT3への変異の導入のために、exon2に設計した(配列番号7)に示される標的配列をGeneArt CRISPR Nuclease CD4 Vectorにクローニングしたプラスミドを構築し、Lipofectamine LTX (Invitrogen) を用いてHEK293細胞にトランスフェクションした。24〜48時間後、CD4 Enrichment Kit (Invitrogen) を用いて、プラスミドが導入された細胞を選別し、限界希釈法により複数のシングルクローンを単離した。単離したシングルクローン株のゲノムDNAから(配列番号8)及び(配列番号9)に示される塩基配列からなるプライマーセットで標的部位周辺の配列をPCRで増幅し、塩基解読して、3000bpからなるB4GALNT3遺伝子のコーディング領域の209番目にアデニン挿入によるフレームシフト変異が導入されていることを確認した。
続いて、B4GALNT4への変異の導入のために、exon2に設計した(配列番号10)に示される標的配列をGeneArt CRISPR Nuclease CD4 Vectorにクローニングしたプラスミドを構築し、Lipofectamine LTX を用いてB4GALNT3変異細胞にトランスフェクションした。同様にCD4陽性のシングルクローンを単離の後、(配列番号11)及び(配列番号12)に示される塩基配列からなるプライマーセットで標的部位周辺の配列をPCRで増幅し、塩基解読して、3120bpからなるB4GALNT4遺伝子のコーディング領域の184番目のシトシン欠失によるフレームシフト変異が導入されていることを確認した。
【0074】
(6−2)LDN欠損株産生rCSF1R上の糖鎖構造との比較による、LDN結合位置の確認
(実施例3)の(3−3)と同様の手法で、LDN欠損株が産生する変異rCSF1R上の糖鎖構造とその糖鎖位置を決定し(
図13)、rCSF1Rの73位及び153位の位置に結合した糖鎖中に、標準CSF1RではLDN糖鎖が含まれるが、市販CSF1R(NS0)では失われていることが確認できた。
【0075】
(実施例7)
抗CSF1R抗体の作製
(7−1)CSF1Rタンパク質のマウスへの免疫
市販のリコンビナントCSF1Rタンパク質(R&D Systems Inc. 329-MR-100)をマウス(Balb/cマウス、8週齢のメス)に免疫した。生理食塩水に溶解したCSF1Rタンパク質を完全フロイント アジュバントと混合し、これを初日(Day 0)に50 μg分、Day 14に25 μg分、Day 29に25 μg分、Day 42に25 μg分、Day 66に10 μg分を腹腔注射して免疫した。マウスの眼窩採血を定期的に行い、血清中の抗原に対する抗体価の上昇をモニタリングしながら免疫を行った。
抗体価が十分に上昇したことを確認した免疫マウスから抗体産生細胞を採取した。採取は、最終免疫の日から2〜5日後が好ましいため、3日後に採取した。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。マウスからの抗体産生細胞の採取方法は、当該分野で公知の技術に従って行えばよい。そこで、脾細胞を採取し、後述の融合作業を行った。
【0076】
(7−2)ハイブリドーマの作製
続いて、抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合を行うことで、抗CSF1Rモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。
免疫マウス由来脾細胞とマウス骨髄腫細胞(P3U1細胞)を使用して、常法(後述)に従い、それぞれの細胞をRPMI培地で洗浄した後に混合し、細胞融合促進剤(PEG1500)による細胞融合作業を行った。脾細胞とマウス骨髄腫細胞(P3U1)の混合比率は8:1にて行った。細胞融合後、選択培地としてHAT培地(RPMI1640培地に100単位/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン及び10% 牛胎児血清(FBS)、10-4Mヒポキサンチン、1.5×10
-5Mチミジン及び4×10
-7Mアミノプテリンを加えた培地)にて培養を行い、融合細胞のみが生存するように選択的な培養を行った。選択培地で培養開始後約10日以降に生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択するため、次に限界希釈法によって、モノクローンの細胞を得た。具体的には、96穴培養プレートに細胞溶液(濃度)を濃いものから薄いものへと希釈系列を作製するようにして播種し、数の限定された細胞由来のハイブリドーマ細胞群を選択するとともに、後述のスクリーニングによってCSF1Rに対する抗体を産生するクローン(を含む96ウェルプレートの陽性ウェル)を選択した。
【0077】
スクリーニング方法は以下の通りである。
増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗CSF1Rモノクローナル抗体が含まれる否かを酵素免疫測定法(ELISA法)によりスクリーニングした。ハイブリドーマを培養したウェル中に含まれる培養上清の一部を採取し、免疫原として使用したCSF1Rリコンビナントタンパク質に対する結合活性を指標とした。CSF1Rリコンビナントタンパク質を96ウェルプレートに固相化(1 μg/mLで100 μL/well)し、ブロッキング後、培養上清を100 μL入れて37度にて1時間反応させた。ELISAによるスクリーニングと限界希釈法(具体的には、96穴培養プレートに1ウェルあたり0.3個程度の細胞が含まれる濃度にて播種した)にて、陽性のクローンを選択していった。一次スクリーニング時には205ウェルの陽性ウェルがあり、これを展開してさらに絞り込み、二次スクリーニング時は100ウェル、そして最終的に抗CSF1Rモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを33クローン選抜した。
最終的に上記スクリーニング法によって選抜された33クローンの抗CSF1Rモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、それぞれCSR-1〜CSR-33と命名した(表5)。
【0078】
抗体の精製を行うために、得られたハイブリドーマ細胞の培養上清を100 mL〜1 L程度調整した。これをプロテインGが固相化されたカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィー法によって精製を行った。
【0079】
(7−3)ハイブリドーマの寄託
これらのクローンうち、典型的なタイプの抗CSF1Rモノクローナル抗体CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30を産生するハイブリドーマは、CSR-3(受託番号:NITE BP-02117)、あるいはCSR-4(受託番号:NITE BP -02118)CSR-18(受託番号:NITE BP -02119)CSR-21(受託番号:NITE BP -02120)CSR-30(受託番号:NITE BP -02121)として、2015年9月10日付で独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された後、2016年9月7日付で国際寄託に移管された。
これらのハイブリドーマ細胞株は、RPMI1640に10%FBSを添加した培地を用いて37℃で好適に培養することができる。
また、抗CSF1Rモノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能であり、抗体の精製が必要な場合には、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインA又はプロテインG等によるアフィニティークロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、硫酸アンモニウム塩析法等公知の方法を用いて精製することができる。
【0080】
(実施例8)
各抗CSF1R抗体の性能評価
(8−1)ウェスタンブロット法による生化学的解析
抗CSF1R抗体を使用して、該分子のウェスタンブロット法による検出を行った。ウェスタンブロット法は一般的な方法に従った。まず、(
図14左)に示すように、CSF1R(M-CSFR)ほかサンプルをSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、一次抗体(抗CSF1R抗体の各クローン)と室温にて1時間反応させた。PVDF膜の洗浄後、二次抗体(0.5μg/mLのHRPラベル化抗マウスIgG抗体)と室温で1時間反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した。
【0081】
(結果)
結果を
図14右表に示す。サンプルとしてM-CSFR (CSF1R)および細胞株THP-1の培養上清、そして、陰性コントロールとしてのヒトIgG、His-Tag融合タンパク質、ウシ血清に対する反応性を確認した。その結果、18クローンに反応性が認められ、これらがCSF1Rに対するモノクローナル抗体であることが示された。また、各クローンについて(表5)に結果をまとめたものを示しておく。
【0082】
(8−2)各抗体クローンの認識する抗原エピトープ領域の解析
性能を評価するのにあたり、標準糖タンパク質としてさらに種類を拡充した。これらの糖タンパク質は、(
図15)に示す通り、ドメインを削り込んで短くしたタンパク質として作製した。これらの各標準糖タンパク質に対する反応性をウェスタンブロット法によって検討した。ウェスタンブロット法は一般的な方法に従った。まず、各標準糖タンパク質サンプルをSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、一次抗体(抗CSF1R抗体の各モノクローナル抗体クローン)と室温にて1時間反応させた。PVDF膜の洗浄後、二次抗体(0.5μg/mLのHRPラベル化抗マウスIgG抗体)と室温で1時間反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した(
図16)。この解析の結果、(
図17)に示す通り、各クローンの産生する抗体がどのタンパク質領域に反応するのかが明らかになった。
【0083】
(実施例9)
本発明で得られた抗CSF1R抗体を用いた抗体-抗体 ELISA測定系
(9−1)抗体-抗体 ELISA測定系による総CSF1R分子の検出
抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用して、該分子(総CSF1R分子)の抗体-抗体 ELISA測定系による検出を行った。樹立した抗CSF1Rモノクローナル抗体をそれぞれELISAプレートに固相化し、検出側には市販の抗CSF1Rポリクローナル抗体を用いてELISA測定系への利用の可否についての検討を行った。抗体の組み合わせは一般的にELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、感度が高くなる抗体の組み合わせにて検出系の構築を行う。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。
まず、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(CSF1Rタンパク質:R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識抗CSF1R抗体(R&D biotinylated anti-CSF1R pAb Cat#BAF329)を2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
【0084】
その結果、(
図18)に示すように、多くの陽性クローンを確認出来た。また、これらでは陰性コントロールでは反応性が見られないことも合わせて確認された。モノクローナル抗体-ポリクローナル抗体ELISA系による反応性が確認されたが、他の組み合わせとしてポリクローナル抗体の他にモノクローナル抗体を用いても良い。その場合は、検出が可能な組み合わせにて行い、より感度の高い組み合わせを選択することが望ましい。
【0085】
(実施例10)
本発明で得られた抗CSF1R抗体を用いた抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系
(10−1)方法
ここでは、抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用して、該分子の抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1Rモノクローナル抗体をそれぞれELISAプレート固相化側に使用し、一方WFAレクチンを検出側に用いた抗体-レクチンサンドイッチELISA測定系での使用の可否について検討した。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行うものである。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。また、WFAレクチンは市販のものを使用しても良いし、リコンビナントWFA、特にLDN特異的な単量体リコンビナントWFA(srWFA)を使用しても良い。
各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(CSF1Rリコンビナントタンパク質:R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(srWFA及びnWFA)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた。その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
【0086】
(10−2)結果
抗CSF1Rモノクローナル抗体を固相側にし、検出側にWFAレクチンを使用した検出系での結果について、代表例としてCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30クローンの抗体について(
図19、上段はsrWFA,下段はnWFA)に示す。逆に、WFAレクチンを固相側にし、検出側に抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用した検出系での結果について、代表例としてCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30クローンの抗体について(
図20、上段はsrWFA,下段はnWFA )に示す。これらの結果から多くのクローンの抗体について、抗原の濃度依存的に反応性が認められた。
【0087】
図21(左はsrWFA,右はnWFA)は、LDN糖鎖特異的単量体リコンビナントWFA(srWFA)又は市販の天然WFA(nWFA)と、抗CSF1R抗体とを組み合わせたサンドイッチELISA系を構築し、(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、および市販CSF1R(R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)に対する反応性を比較した。
その結果、単量体リコンビナントWFAを用いた場合が、LDN糖鎖特異的にCSF1R分子を検出できていることが分かる。
【0088】
(10−3)抗CSF1Rモノクローナル抗体の評価
各クローンが産生する抗CSF1R抗体について下記(表5)に結果をまとめた。
【0089】
【表5】
【0090】
(実施例11)抗体-
WFAレクチン サンドイッチELISA測定系によるWFA+-CSF1R分子の検出
(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体を使用して、該分子の抗体-WFAレクチンサンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1R抗体をそれぞれELISAプレート固相化側と検出側に用いサンドイッチELISA測定系の検討を行った。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行った。また、WFAレクチンとしては、市販の天然WFA及び単量体リコンビナントWFA(srWFA)を使用した。
具体的には、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T(PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、市販CSF1R(R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)、および健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(あるいは単量体リコンビナントWFA: srWFA)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
【0091】
その結果、(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30は、単量体srWFA、nWFAのいずれと組み合わせても、CSF1R分子上に存在するWFA/VVA結合性糖鎖を検出できることが示された(
図22)。特に、LDN特異的な単量体srWFAはLDN糖鎖の有無を特異的に識別できることが示された(
図22上段)。なお、nWFAでは僅かにLDN糖鎖を持たないrCSF1Rに対しても反応性が見られ、LDN以外の糖鎖にも反応していると考えられる。
【0092】
(実施例12)抗体CRS-3を用いた抗体-WFAレクチンサンドイッチ、および
抗体-抗体サンドイッチELISA測定系によるCSF1R分子の検出
(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体(CSR-3)、WFAレクチン、および市販抗体(R&D Systems)を使用して、CSR-3-WFAレクチンサンドイッチELISAとCSR-3-市販抗体サンドイッチELISA測定系により、同じ濃度(の希釈系列)に調整したrCSF1R(LDN+)およびrCSF1R(LDN-)の検出を行った。
具体的には、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、同じCSF1R濃度(の希釈系列)になるように調整した(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、および健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(あるいは単量体リコンビナントWFA: srWFA)あるいは市販ビオチン標識抗CSF1R抗体(R&D biotinylated anti-CSF1R pAb Cat#BAF329)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
【0093】
その結果、(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体(CSR-3)は、CSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)のいずれも、ほぼ同じように検出できることを確認した(
図23下段)。一方WFAレクチンで検出した場合はCSF1R(LDN+)を感度良く検出し、CSF1R(LDN-)の反応性は低い(
図23上段)。また、srWFAを使用したときに、よりLDN糖鎖を含有するCSF1R特異的に検出が出来ていることが確認された。
【0094】
(実施例13)
抗体-VVAレクチンサンドイッチELISA測定系によるマーカー分子の検出
WFAレクチンの代わりに、VVAレクチンなどのLacdiNAc / GalNAc結合性レクチンを使用することも出来る。そこで、抗CSF1R抗体を使用して、該分子の
抗体-VVAレクチンサンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1R抗体をそれぞれELISAプレート固相化側と検出側に用いサンドイッチELISA測定系の検討を行った。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行うものである。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。
各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1Rおよび健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識VVAレクチン(Vector Laboratories)を2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
抗CSF1R抗体(CSR-3)を固相側に用いた結果について(
図24)に示す。この結果から、VVAレクチンを用いた検出系によってもWFA
+-CSF1Rを検出・測定することが出来ることが明らかとなった。
【0095】
(実施例14)
本発明の抗CSF1R抗体によるWFA+-CSF1Rの検出
(14−1)WFAレクチン−抗CSF1R抗体サンドイッチELISA系による検出
本実施例では、(実施例8)で作製した抗CSF1Rモノクローナル抗体が肝疾患マーカー分子WFA
+-CSF1Rの検出に使用可能であることを確認するために、非特許文献2に記載の方法に従って、抗CSF1R抗体-WFAレクチンサンドイッチELISA法に適用し、血清中のWFA
+-CSF1R値を測定した。
具体的には、被検体血清として、健常人血清プール血清(17名分、NHS)、HBV感染肝細胞がん患者プール血清(K1)、HCV感染肝がん患者プール血清(K2)、HCV感染肝細胞がん患者(脾摘済み)プール血清(K3)、を使用した。(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体のうちCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30を用い、コートしたMaxisorp(登録商標)イムノプレ−ト上に血清試料(遮断緩衝液で1:20に希釈)を37℃にて2時間作用させた。その後、緩衝液で10分洗浄し、ビオチン化WFA(Vector Laboratories)を検出用プローブとして反応させた。次いで、洗浄後にHRP-結合ストレプトアビジンの1/50,000希釈液を100μ/wellで反応させた。反応後、緩衝液で6回洗浄し、基質溶液(100μL、Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに加え、適切な時間反応をさせた後、1M硫酸溶液で反応を終了させた。吸光度系にて450nm波長の吸光度を測定した。
【0096】
その結果、抗体のクローン毎に差は認められるが、いずれの抗CSF1R抗体クローン(CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30)も健常人と比較して肝細胞がん患者でシグナルの増強が認められ、検査系に使用可能であることが確認された(
図25)。
なお、(表5)に記載された他の抗CSF1R抗体(CSR-5、CSR-6など)もCSR-3、CSR-4、CSR-18の結果ほどの差ではないが、血清試料中の肝細胞がん検出用ELISAに用いることができることを示している(
図26)。
【0097】
(14−2)VVAレクチン−抗CSF1R抗体サンドイッチELISA系による検出
本実験は、WFA に代えてVVAレクチンを用いても、抗CSF1R抗体とのサンドイッチELISAで、WFAと同様に肝細胞がん患者由来pool血清と健常人由来のpool血清とを識別できることを確認するための実験である。
具体的には、(14−1)と同様に、健常人血清プール血清(17名分、NHS)、HBV感染肝細胞がん患者プール血清(K1)、HCV感染肝がん患者プール血清(K2)、HCV感染肝細胞がん患者(脾摘済み)プール血清(K3)を被検体血清とし、(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体のうちCSR-18を用いて、(14−1)の方法にならい、ビオチン化WFA(Vector Laboratories)及びビオチン化VVA(Vector Laboratories)を検出用プローブとして反応させた。
次いで、洗浄後にHRP-結合ストレプトアビジンの1/20,000希釈液を100μ/wellで反応させた。反応後、緩衝液で4回洗浄し、基質溶液(100μL、Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに加え、適切な時間反応をさせた後、1M硫酸溶液で反応を終了させた。吸光度系にて450nm波長の吸光度を測定した。
その結果、抗体CSR-18とVVAレクチンとのサンドイッチELISA測定系においても、WFAレクチンとのサンドイッチELISA測定系の場合と同様に、健常人と比較して肝細胞がん患者でシグナルの増強が認められ、肝細胞がん患者血清pool血清と健常人のpool血清とを識別できることが確認された(
図27)。
このことは、VVAレクチンが、実際の臨床体液試料を用いた場合でも、WFAレクチンと遜色なく、肝細胞がん患者で特異的に増大するCSF1R上の糖鎖に対する結合性を発揮すること、すなわちVVAレクチンを抗CSF1R抗体と組み合わせたアッセイ系に使用することで、臨床体液試料中の「WFA/VVAレクチン結合性糖鎖含有CSF1R量」を測定可能であることを意味する。
【0098】
(実施例15)
「全CSF1R量」測定用のELISAとして用いることのできる「CSF1R特異的糖鎖結合性レクチン-抗CSF1R抗体サンドイッチELISA」系の構築
本実施例では、本発明の肝細胞がん発症リスク指数である「WFA
+-CSF1R%」の測定、すなわち被検試料中の「全CSF1R量」に対する「WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量」の比率は、「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖を有するCSF1R量」に対する「WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量」を測定すれば良いことを実証する。
具体的には、「CSF1R特異的レクチン」として典型的な「RCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA」を用い、CSF1R特異的レクチン-抗CSF1R抗体サンドイッチ測定系を構築し、当該レクチン-抗体サンドイッチアッセイ系が全CSF1R測定のための2つの抗CSF1R抗体を使用するサンドイッチ測定系に代え使用できることを実証する。
なお、各レクチンによって糖鎖反応性(結合性)がそれぞれ異なるので、本実施例での測定値を比較する判定工程では、WFA(又はVVA)-CSF1R値との相対値での値(比率)として算出されたものを使用した。
【0099】
(15−1)WFA
+-CSF1Rおよび全CSF1R測定における希釈系の検討(BSA希釈液、10%NHS希釈液)
<方法>
WFA
+-CSF1Rおよび全CSF1Rは、本発明者らの既報(非特許文献2)の方法を一部改変して行った。Nunc Immobilizer Aminoプレート(サーモサイエンティフック、43613)を4μg/mL(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体(CSR-3)で2時間コートし、洗浄バッファー(0.05% Tween20含有PBSバッファー, pH 7.4)で洗浄後、TBS(50mM Tris-pH8.0, 0.15M NaCl)により終夜4℃でブロッキングした。サンプルとして、(実施例5)の組換えCSF1R (LDN+)と(実施例6)の組換えCSF1R (LDN-)をそれぞれ疾患検体、正常検体由来CSF1Rの代替として用いた。希釈バッファーとして3%BSA, 0.1%Tween20含有PBSバッファー, pH7.4(BSA希釈液)または10%NHS含有の上記BSA希釈液(10%NHS希釈液)を用意し、上記組換えCSF1R(rCSF1R)の希釈溶液(1.11〜810 ng/mlの範囲で複数段階を設定)を調製し、100μlをプレートにアプライして室温にて2時間振盪した。洗浄バッファーで4回洗浄後、検出用プローブとして、洗浄バッファーで希釈したビオチン結合の各レクチン(250〜20,000倍希釈)[WFA(Vector Laboratory, B-1355, 5,000倍希釈)、VVA (Vector Laboratory, B-1235, 250倍希釈)、RCA120 (Vector Laboratory, B-1085, 20,000倍希釈)、DSA(Vector Laboratory, B-1185, 10,000倍希釈)、PHA-E4(J-オイルミルズ, J211, 2,000倍希釈)、SNA(Vector Laboratory, B-1305, 10,000倍希釈)、SSA(J-オイルミルズ, J218, 3,000倍希釈)、TJA-1(生化学工業, 300443, 500倍希釈)、LEL(Vector Laboratory, B-1175, 5,000倍希釈)、STL(Vector Laboratory, B-1165, 1,000倍希釈)、Con A(Vector Laboratory, B-1005, 20,000倍希釈)]、または抗CSF1R抗体(R&D Systems, BAF329、2,000倍希釈)を添加し室温にて1時間半振盪した。再び洗浄バッファーで4回洗浄後、20,000倍希釈HRP結合ストレプトアビジン溶液とともに1時間インキュベートし洗浄バッファーで4回洗浄した。各ウェルにTMB基質溶液(1-Step Ultra, サーモサイエンティフィック、34028)を加え反応を1M H
2SO
4で止めた後、450nmにおける吸光度を測定しELISAシグナル値とした。
【0100】
<結果>
上記ELISAにおいて検出用プローブとして抗CSF1R抗体を用いた場合のシグナル値を全CSF1R測定値とし、組換えCSF1R [LacdiNAc(LDN)糖鎖(+)]と[LDN糖鎖(-)]の値が一致するよう濃度を調整した。濃度調整後の全CSF1R測定値はBSA希釈液、10%NHS希釈液のどちらを用いた場合もよく一致した(
図28A,B)。このことはBSA希釈液系、10%NHS希釈液系のどちらでも、本測定系が問題無く使用可能であることを示している。
【0101】
(15−2)全CSF1R値の代用としての各種CFS1R特異的レクチンの評価
全CSF1R値の代用としての各種レクチンを評価するために、検出用プローブとしてビオチン標識各レクチンを用いた場合のシグナル値を濃度依存性のある範囲で平均値により標準化したものを相対的シグナル値として用いた。各レクチン-CSF1R相対的シグナル値に対するWFA-CSF1R相対的シグナル値の比を算出し、rCSF1R (LDN+)とrCSF1R (LDN-)それぞれ2点または3点のCSF1R濃度における平均値を、抗CSF1R抗体を用いた場合の全CFS1R値と比較した(
図29)。いずれのレクチンも抗CSF1R抗体を用いた場合と同様にrCSF1R (LDN+)の値がrCSF1R (LDN-)に対して高く、rCSF1R (LDN-)に対するrCSF1R (LDN+)の比は抗CSF1R抗体の場合が2.2であったのに対してレクチンの場合は2.0±0.25(1.7〜2.6)であった。このことからRCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL、Con Aのいずれのレクチンも抗CSF1R抗体の代用として全CSF1R値の測定に用いることができる。以上より、全CSF1R値の代用として、「CSF1R特異的な共通糖鎖結合性レクチン」である各種レクチンの数値によって評価することが出来ると言える。また、疾患特異的なものとして、WFA-CSF1Rの代わりにVVA-CSF1Rも同様に測定、計算した結果も
図29に示している。
【0102】
また、レクチンはそれぞれが認識する糖鎖に対して異なる結合力を有するので、ELISAシグナル値(450nmにおける吸光度、
図29)はレクチンに依って強弱を認めている。そこで、測定対象CSF1R分子の濃度に補正して比較した。補正の方法は以下の通りである。
rCSF1R(LDN+)タンパク質は、前述の
図13にもある通り、LDN糖鎖を有しているが、そのLDN糖鎖の陽性率は全てのタンパク質のうちの約60%である。そこでrCSF1R(LDN+)濃度の補正を係数0.6として計算し補正値とした。このrCSF1R (LDN+)補正値を用いて標準曲線を作成し、これにrCSF1R (LDN-)シグナル値を当てはめて補正値(補正した相対濃度値)を算出し、相互に比較できるrCSF1R (LDN+)補正値、rCSF1R (LDN-)補正値として、これをグラフ化した(
図30)。この補正値での結果も同様に、いずれのレクチンも抗CSF1R抗体を用いた場合と同様にrCSF1R (LDN+)の値がrCSF1R (LDN-)に対して高く、WFAと各共通糖鎖プローブレクチンとの比率において、rCSF1R (LDN-)とrCSF1R (LDN+)に対する値の相対比は3.8±0.9(2.7〜5.7)あった。
図30のように、平均値ではどのレクチンでもほぼ同じような量、傾向を示しており、このことからRCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL、Con Aのいずれのレクチンも抗CSF1R抗体の代用として全CSF1R値の測定に用いることができると考えられる。以上より、全CSF1R値の代用として、「CSF1R特異的な共通糖鎖結合性レクチン」である各種レクチンの数値によって評価することが出来ると言える。
【0103】
(15−3)VVAを検出用プローブとした場合の希釈系の検討
次に、(15−1)に記載のサンプルを検出用プローブにVVAを用いて測定したところ、組換えCSF1R (LDN+)が濃度依存性にシグナル値が上昇したのに対して、(LDN-)ではシグナル値が殆ど上昇せず、またこの結果は10%NHS希釈液でも変わらなかったことから、VVAは疾患由来CSF1Rと正常CSF1Rを鑑別できるプローブであることが示された(
図31A,B)。また、このことはバッファー(BSA希釈液)系、血清(10%NHS希釈液)系のどちらでも、本願の測定系が問題無く使用可能であることを示している。
【0104】
(15−4)抗体-各CSF1R特異的レクチン測定系における希釈系の検討
また、同じ濃度(の希釈系列)に調整したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-各CSF1R特異的共通糖鎖プローブレクチンでのサンドイッチ(ELISA)検出による全CSF1R測定を行った。ここでは、各共通糖鎖プローブレクチンとして幾つかをランダムに選択(LEL, STL, TJA-I)し、系の確認を行った。その結果、濃度調整後の全CSF1R測定値はBSA希釈液、10%NHS希釈液のどちらを用いた場合もよく一致していた(
図32A〜F)。このことはバッファー(BSA希釈液)系、血清(10%NHS希釈液)系のどちらでも、本願の測定系が問題無く使用可能であることを示している。
【0105】
(15−5)
以上より、前記(15−1)〜(15−4)において構築された検出系(抗体-レクチン サンドイッチELISA系)が血清でも問題無く測定を行うことが出来るものであることが示唆された。
また、これによって、例えばWFAやVVA などの疾患特異的プローブ(レクチン)とCSF1R共通糖鎖に結合性を有するプローブ(レクチン)を組み合わせたマルチレクチンアッセイによって、疾患特異的な糖鎖を有する分子量を測定することによって、その疾患に罹患しているのかどうかを判定することが可能であることが実証された。
液体クロマトグラフィーや、抗体を用いた免疫沈降法・磁気ビーズ分離などの分離精製方法によってサンプルから分離精製されたターゲットとなる分子(CSF1Rタンパク質)の、複数のレクチンに対する結合量を測定することでも同様に疾患を判定することが出来る。このようなマルチレクチンアッセイによる測定方法は、臨床試料から分離精製されたCSF1Rタンパク質を1つないし2つ以上のレクチンでサンドイッチした複合体を形成させ、これを検出(定量)することで行うことが出来る。CSF1Rタンパク質とレクチンとの複合体の検出については、本願で行っているようなサンドイッチELISA系で検出することが出来る。本実施例で用いた「抗体-レクチンサンドイッチELISA」に代えて、疾患特異的プローブ(すなわちWFA又はVVAレクチン)またはCSF1R特異的共通糖鎖に結合性を有するプローブ(RCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL又はCon Aレクチン)のいずれか一方を固相化した後、臨床試料から分離精製されたCSF1Rタンパク質を加えて反応させ、さらにもう一方を液相側(検出側)にしてサンドイッチするようなELISA系として、(マルチ)レクチン-タンパク質複合体を形成させ、この複合体の量を検出してもよく、又はレクチン-レクチン サンドイッチ検出系による系でもよい。
他にも、キャピラリー電気泳動法や、マイクロフリュイディクス技術を用いた分離・検出システムによって、CSF1Rタンパク質とレクチンとの複合体を検出することも出来る。さらには、酵素免疫測定法、二抗体サンドイッチELISA法、金コロイド法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)又は水晶振動子マイクロバランス(QCM)法等による定性的又は定量的手法などでも同様に測定が出来る。