特許第6779871号(P6779871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

<>
  • 特許6779871-がん患者のための口腔ケア用組成物 図000003
  • 特許6779871-がん患者のための口腔ケア用組成物 図000004
  • 特許6779871-がん患者のための口腔ケア用組成物 図000005
  • 特許6779871-がん患者のための口腔ケア用組成物 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6779871
(24)【登録日】2020年10月16日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】がん患者のための口腔ケア用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20201026BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201026BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20201026BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   A61K36/82
   A61K9/06
   A61K9/08
   A61K9/10
   A61K47/10
   A61P1/02
   A61K47/36
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-524923(P2017-524923)
(86)(22)【出願日】2016年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2016068400
(87)【国際公開番号】WO2016208582
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-125011(P2015-125011)
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】高見 正雄
(72)【発明者】
【氏名】廣田 慶司
(72)【発明者】
【氏名】牧野 公子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 弘
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/100089(WO,A1)
【文献】 特表2010−508346(JP,A)
【文献】 篠原正徳,がん化学療法と口腔ケアー,臨床と研究,2014年,第91巻第10号,pp.57-65,ISSN: 0021-4965
【文献】 岩渕博史,がん治療に伴う口腔内膜炎に及ぼすカンジダ菌の影響,日本緩和医療学会学術大会プログラム・抄録集,2011年,Vol.16th,p.278
【文献】 鷹野瑠美ほか,がん化学療法に伴う口内炎の予防・改善に有効な抗酸化物質の探索,医療薬学,2009年,Vol.35 No.4,pp.247-253,ISSN: 1882-1499
【文献】 楢林麻恵,癌化学療法における口内炎に対するカテキンアイスボールの効果〜化学療法施行中のカテキン群・対照群の比較,日本農村医学会雑誌,2005年,Vol.54 No.3,p.445,ISSN: 0468-2513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる、手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受けるがん患者のための口腔ケア用組成物であって、
放射線療法または化学療法を実施する前から、単位時間あたり口腔内の茶カテキン濃度が1〜100μg/cmとなるように使用される、前記口腔ケア用組成物
【請求項2】
ん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するための、請求項1に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項3】
口腔合併症が、放射線療法または化学療法によって生じたものである、請求項1または2に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項4】
口腔合併症が、口腔粘膜炎である、請求項2または3に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項5】
口腔ケア用組成物に対する茶抽出物に含まれるカテキンの濃度が0.05〜1重量%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項6】
増粘多糖類が、キサンタンガムである、請求項1〜のいずれか一項に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項7】
保湿剤が、グリセリンまたはプロピレングリコールである、請求項1〜に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項8】
ジェル、液体、クリームまたは軟膏の形態である、請求項1〜のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国特許出願である特願2015−125011(出願日:2015年6月22日)に基づく優先権の主張を伴うものである。この先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本願発明の開示の一部とされる。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、がん患者のための口腔ケア用組成物に関する。
【0003】
背景技術
日本では生涯において、男性の2人に1人、女性の3人に1人が、がんに罹患する。がんの治療は、がんに侵された臓器や、がんの病期によって異なるが、主に手術療法、放射線療法および化学療法の3つがあり、他に特殊な腫瘍に対する内分泌療法、免疫療法などが知られている。がんの治療では、複数の治療方法を組み合わせることもあり、例えば手術療法を中心に、手術の前後に化学療法または放射線療法を併用することもある。
【0004】
がんに罹患すると、がんの進行に伴い、嘔気、食欲低下、貧血、骨髄抑制などが引き起こされ、これに伴って、口腔内の感染症(歯性感染症、口腔カンジダ症、ヘルペス症など)や口腔粘膜炎が発生する。また、がんの治療の副作用として、手術療法、放射線療法および化学療法のいずれでも、口腔に有害事象(口腔粘膜炎、口腔感染症、口腔乾燥など)が発生し、特に、治療患者の約50%において口腔粘膜炎が発症することが知られている。そのため、日本のみならず世界各国において、がん患者の口腔粘膜炎を含む口腔合併症の治療剤や予防剤の開発に取り組んでいる(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、がん患者の口腔合併症、特に口腔粘膜炎に有効な薬剤の開発は十分に進行しておらず、実際に発症した口腔粘膜炎による疼痛への局所麻酔剤の投与や口腔粘膜炎への抗炎症剤の投与、あるいは口腔保湿剤の使用および含嗽(うがい)を組み合わせた口腔ケアなどの対処療法に頼っているのが現状である。
【0006】
口腔保湿剤では、抗菌物質を配合する保湿剤と、抗菌物質を配合しない保湿剤の2種類が用いられている。これらの口腔保湿剤では、口腔粘膜炎と同時に発生する口腔乾燥および口腔感染症の予防に効果を発揮する一方、がん患者を対象とすると、かえって、口腔環境を悪化させ、重度の口腔内膜炎を引き起こす可能性が懸念されている。
【0007】
また、含嗽では、口腔内を清潔に保持する時間が短く、効果的な口腔ケアのためには、2〜3時間に一度という頻回で実践する必要があるため、患者に煩雑さと過度の負担を強いるものである。近年、カテキンの抗菌作用に着目し、カテキン水溶液を用いた含嗽により、がん患者の口内炎を予防することが検討されている(非特許文献2)。しかしながら、茶カテキンを用いて抗菌作用および予防効果を発揮するためには、通常の茶飲料に含まれているカテキン濃度(0.8mg/ml)よりも高濃度(1.5mg/ml)のカテキン水溶液を用いる必要がある。そのため、高濃度カテキン水溶液を用いた含嗽による口内炎予防療法では、実際に含嗽する時に、苦味・渋味など味覚の刺激が強すぎたり、その味覚が刺激となって痛みを伴うなど、患者のQOL(Quality of Life)の観点から好ましいものとは言い難い。また、嚥下障害のある患者には、実際に含嗽することが困難であるため、カテキン水溶液を用いた含嗽などを適用できない。さらに、茶カテキン水溶液では、溶存酸素濃度の増加によって容易に酸化されうるので、それを用時調製する必要がある。
【0008】
一方、これまでに、本発明者らは、歯周病菌、う蝕原因菌、日和見感染症原因菌の少なくとも一種には抗菌活性を示すが、口腔内常在菌には抗菌活性を示さない、カテキンを含有し、保湿作用物質であるキサンタンガムによりジェル化されている、口腔ケア用組成物を開発している(特許文献1)。しかしながら、この口腔ケア用組成物は、口腔常在菌叢調整のために用いられており、特許文献1では、がん患者の口腔合併症、特に、がん治療患者の口腔粘膜炎への使用については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2013/100089号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Radvansky L. et al. Am J Health Syst Pharm 2013. 70: 1025-1032
【非特許文献2】酒井理恵ら、「口内炎予防におけるカテキン含嗽導入に向けての検討」、高知大学医学部付属病院、看護部、臨床看護研究集録、2004年、vol.10、288-290
【発明の概要】
【0011】
このように、発明者らが知る限り、がんの治療患者におけるQOLを改善しながら、口腔合併症の発症を予防できると共に、口腔内の炎症(症状)を治療、改善、軽減および/または緩和できる口腔ケア用組成物は知られていなかった。
【0012】
本発明者らは今般、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる口腔ケア用組成物を用いることで、がんの治療患者の口腔内の状態を再現している口腔粘膜炎モデルマウスにおいて、潰瘍発症期の潰瘍発症を抑制し、かつ、潰瘍修復期の潰瘍修復を促進することに成功した。すなわち、本発明の口腔ケア用組成物を用いることで、口腔合併症の発症を予防できると共に、口腔合併症の炎症を軽減できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0013】
すなわち、本発明は、がんの治療患者におけるQOLを改善しながら、口腔合併症の発症を予防すると共に、口腔内の炎症(症状)を治療、改善、軽減および/または緩和する、口腔ケア用組成物を提供することをその目的とする。
【0014】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる、がん患者のための口腔ケア用組成物。
(2)手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するための、上記(1)に記載の口腔ケア用組成物。
(3)口腔合併症が、放射線療法または化学療法によって生じたものである、上記(2)に記載の口腔ケア用組成物。
(4)口腔合併症が、口腔粘膜炎である、上記(2)または(3)に記載の口腔ケア用組成物。
(5)放射線治療または化学療法を実施する前から、単位時間あたり口腔内の茶カテキン濃度が1〜100μg/cmとなるように投与される、上記(3)または(4)に記載の口腔ケア用組成物。
(6)口腔ケア用組成物に対する茶抽出物に含まれるカテキンの濃度が0.05〜1重量%である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の口腔ケア用組成物。
(7)増粘多糖類が、キサンタンガムである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の口腔ケア用組成物。
(8)保湿剤が、グリセリンまたはプロピレングリコールである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の口腔ケア用組成物。
(9)ジェル、液体、クリームまたは軟膏の形態である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の口腔ケア組成物。
【0015】
本発明の口腔ケア用組成物は、口腔内の茶カテキン濃度を長時間で保持することができ、口腔合併症の発症を予防することができると共に、口腔合併症の炎症(症状)を治療、改善、軽減および/または緩和することができる。また、本発明の口腔ケア用組成物は、増粘多糖類を含むことで、局所的に摂取(投与)することができるため、摂取(投与)時のカテキンによる味覚への刺激を抑制することができ、また、摂取(投与)部分に長時間で滞留させることができる。したがって、本発明の口腔ケア用組成物は、実際の摂取(投与)回数を少なくしながら、がんの治療患者におけるQOLを改善することができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】口腔粘膜炎モデルマウスにおける潰瘍発症期(初回の抗がん剤の投与後の6〜11日目)の平均潰瘍面積の推移を示す。
図2】口腔粘膜炎モデルマウスにおける潰瘍発症期(初回の抗がん剤の投与後の6〜11日目)と潰瘍修復期(初回の抗がん剤の投与後の12〜16日目)の平均潰瘍面積の推移を示す。
図3】潰瘍発症期、潰瘍修復期、全期間の潰瘍状態(潰瘍の程度)を、潰瘍面積と測定日数の積、すなわち、AUC(曲線下面積)で示したグラフである。
図4】徐放性試験の結果を示したグラフである。(a)各時間(2時間ごと)で放出したカテキン濃度(mg/L)。(b)経過時間で放出したカテキン濃度(mg/L)。
【発明の具体的な説明】
【0017】
口腔ケア用組成物
本発明の口腔ケア用組成物は、有効成分として、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなり、がん患者に使用(投与)されるものである。本発明の口腔ケア用組成物は、口腔常在菌叢を調整できる選択的な抗菌作用、化学療法または放射線療法によって生じるフリーラジカルが与える、がん患者の口腔粘膜に生じる酸化ストレス(活性酸素)の除去作用、および保湿作用を有するため、がん患者の口腔合併症を効率的に予防、治療、改善、軽減および/または緩和することができる。
【0018】
本発明において「がん患者」とは、がんに罹患している患者を意味する。そして、本発明において「がん」には、癌(癌腫)、肉腫および白血病・悪性リンパ腫などが含まれ、これは、悪性腫瘍または悪性新生物ともよばれる。
【0019】
本発明において「がん患者」とは、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者であり、より好ましくは、手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者であり、さらに好ましくは、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者である。
【0020】
「手術療法」とは、口腔・頭頸部領域のみならず、上部消化管、呼吸器に発生した、がんに対する外科的手術を示す。一般的に、口腔を含めた頭頸部の手術を受けた患者では、咀嚼や嚥下機能に関連する組織に欠損を生じ、上部消化管、呼吸器の手術を受けた患者では、非経口で栄養を摂取することで、口腔内の感染症や口腔粘膜炎が生じやすい。
【0021】
「放射線療法」とは、がん細胞に対して放射線を照射する局所的療法を示す。放射線療法では、がん細胞のみならず、その周囲の正常な細胞にも影響を与える。一般的に、放射線療法では、口腔・頭頸部領域が照射野に入る場合、口腔内に必ず有害反応(口腔有害事象)が発症し、主に、活性酸素による口腔粘膜炎を発症すると共に、不可逆的な唾液腺の萎縮による重大な口腔乾燥を発生させる。
【0022】
頭頸部がんの放射線療法では、例えば約2Gy(グレイ)を週5回で、6〜7週間かけて外照射し、照射量60〜70Gyとなるように行われ、手術や化学療法と併用されることが多い。照射量が10Gy以上(1週目以降)となると、唾液の粘稠化がみられることが多く、照射量が20Gy以上(2週目以降)となると、口腔粘膜が赤みを帯び、一部の粘膜にはがれ潰瘍がみられ、かつ、味覚の変化がみられることが多く、照射量が30Gy以上(3週目以降)になると、潰瘍の形成がすすみ、かつ、唾液の分泌量が低下することが多く、照射量が50Gy以上(5週目以降)となると、潰瘍の形成がさらに進み、かつ、食物の摂取が困難になることが多く、照射量が60Gy以上(6週目以降)になると、重度の口腔粘膜炎の症状となり、照射終了時には、口腔粘膜炎および口腔乾燥のピークを迎えることが多い。口腔粘膜炎の症状は1〜2月で治まることが多い。
【0023】
「化学療法」とは、がん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊するための抗がん剤の投与療法を示す。そして、抗がん剤として、例えば代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗がん性抗生物質、微小管作用薬、白金製剤(プラチナ系製剤)、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン系製剤、分子標的薬が挙げられる。口腔粘膜炎の発症頻度の高い抗がん剤として、代謝拮抗剤では、例えば5−FU、メトトレキサート、TS−1、カペシタビン、シタラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、アルキル化剤では、例えばブスルファン、メルファラン、シクロフォスファミド、抗がん性抗生物質では、例えばブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アクチノマイシンD、微小管作用薬、白金製剤(プラチナ系製剤)では、例えばシスプラチン、カルボプラチン、トポイソメラーゼ阻害剤では、例えばイリノテカン、エトポシド、タキサン系製剤では、例えばパクリタキセル、ドセタキセル、分子標的薬では、例えばエベロリムス、テムシロリムスが挙げられる。一般的に、化学療法では、がん細胞だけでなく、活発に増殖している正常な細胞、特に、骨髄細胞などの免疫力と関連する細胞群の機能を低下させることが多く、口腔感染症を生じやすい。また、化学療法では、抗がん剤により、口腔粘膜に活性酸素が発生し、活性酸素による口腔粘膜炎も発症しやすい。
【0024】
本発明の口腔ケア用組成物は、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために用いられ、より好ましくは、手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために用いられ、さらに好ましくは、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために用いられる。ここで、予防とは、口腔合併症の発症を未然に防ぐことや、口腔合併症の発症の程度を軽度に抑えることを意味し、具体的には、あらかじめ口腔合併症の発症機序に作用し、かかる疾患の発症を防ぐことや、あらかじめ口腔合併症の病変部に正常時または寛解時を上回る機能を獲得させ、疾患の発症後に引き起こされる病変部の生理学的な損傷を軽減することなどを意味する。
【0025】
本発明の口腔ケア用組成物では、予防、治療、改善、軽減および/または緩和される口腔合併症として、例えば口腔粘膜炎などの口腔内の炎症や虫歯、歯周病、カンジダ症などの口腔感染症、唾液腺機能不全による口腔乾燥などが挙げられ、出血や疼痛を伴うものも含まれ、好ましくは、口腔粘膜炎が挙げられる。そして、本発明において「口腔合併症」とは、これらの口腔合併症のうち、一種類の症状の単独であってもよいし、二種類以上の症状の組み合わせであってもよい。そして、本発明において「口腔合併症」とは、好ましくは、放射線療法または化学療法によって副作用として生じたものであり、より好ましくは化学療法によって生じたもの、さらに好ましくは代謝拮抗剤投与療法、特に好ましくは5−FU投与療法によって生じたものである。
【0026】
「口腔粘膜炎」とは、粘膜炎、口内炎ともよばれ、粘膜に発赤や潰瘍を形成し、強い疼痛を伴う症状を示す。ここで、口腔粘膜炎は、化学療法を受ける、がん患者の40〜70%、大量の抗がん剤投与および全身放射線照射を受ける、造血幹細胞移植の患者の80%、頭頸部に放射腺療法を受ける、がん患者の100%で発症するといわれている。そして、口腔粘膜炎では、痛みに伴って、食事の経口摂取が困難になることから、全身の状態が衰弱してしまい、治療の継続の意思や闘病の意欲に影響する重大な副作用が生じる。口腔粘膜炎では、放射線や抗がん剤などにより、口腔咽頭粘膜に活性酸素が発生し、活性酸素が口腔粘膜に長時間で滞留して、口腔粘膜炎が惹起される。一般的に、化学療法では、抗がん剤の投与開始から7〜10日後に、口腔粘膜炎が発症する。発症から2週間程度で治まることが多いが、1月以上続く場合もある。放射線治療では、照射量が20Gy以上となると、口腔粘膜が赤みを帯び、一部の粘膜にはがれ潰瘍がみられ、照射量が30Gy以上になると、潰瘍の形成がすすみ、照射量が60Gy以上になると、重度の口腔粘膜炎の症状となり、照射終了時に口腔粘膜炎のピークを迎えることが多い。多くの場合、症状は照射終了時から1〜2月後には治まる。
【0027】
「口腔乾燥」とは、口腔乾燥症(ドライマウス)ともよばれ、唾液分泌量の減少により、口腔内の異常な乾燥状態を伴う症状を示す。ここで、唾液分泌量の減少は、口腔内の自浄作用、口腔内の湿潤状態および口腔内の粘膜保護作用などの低下を引き起こし、他の口腔合併症の直接的・間接的な原因となる。そして、唾液腺の萎縮は、頭頸部に放射腺療法を受ける、がん患者の放射線療法によって発生し、不可逆的で治療が困難な口腔乾燥を発生させ、その結果として、口腔内の感染症や口腔粘膜炎を発症しやすい。
【0028】
「口腔感染症」とは、口腔内の病原性微生物が原因となる感染症を示す。ここで、病原性微生物(原因菌)として、例えばう蝕原因菌(Actinomyces naeslundii および Streptococcus mutans の少なくとも一種)、歯周病原因菌(Porphyromonas gingivalis、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Prevotella intermedia および Fusobacterium nucleatum の少なくとも一種)、カンジダ菌(Candida albicans)、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)などの日和見感染症の原因菌などが挙げられる。そして、口腔感染症では、免疫力の低下などの口腔内の常在菌叢のバランスが崩れると発生しやすい。
【0029】
「茶抽出物」とは、典型的には、茶から抽出された混合物を示し、茶ポリフェノールを含んでなるものであり、好ましくは、カテキンを高濃度で含んでなるものである。本発明において「茶抽出物」とは、カテキンなどの特定のポリフェノールを精製したカテキンや合成したカテキンであってもよいし、市販の茶抽出物であってもよい。ここで、茶抽出物として、例えばサンフェノンBG−5(太陽化学社)、サンフェノンBG−3(太陽化学社)、カメリアエキス30S(太陽化学社)などが挙げられる。
【0030】
「カテキン」とは、エピ体、非エピ体、ヒドロキシ体、没食子酸エステル体などを含むものである。ここで、カテキンとして、例えばエピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキン(GC)などが挙げられる。そして、本発明において「カテキン」とは、これらのカテキンのうち、一種類の単独物であってもよいし、二種類以上の組み合わせ物(混合物)であってもよいが、入手が簡便であり、かつ風味が良好であることから、好ましくは、カテキンの混合物である。
【0031】
本発明の口腔ケア用組成物では、茶抽出物の含有量は、カテキンなどのポリフェノール由来の苦味の影響が小さく、選択的な抗菌効果および活性酸素の除去効果が発揮されれば特に限定されない。ここで、カテキンの含有量として、例えば0.05重量%以上であれば、選択的な抗菌効果および活性酸素の除去効果は十分に期待され、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.05〜0.8重量%、さらに好ましくは0.05〜0.6重量%、さらに好ましくは0.05〜0.5重量%、特に好ましくは0.1〜0.4重量%である。
【0032】
「選択的な抗菌効果」とは、有効量のカテキンにより奏され、具体的には、う蝕原因菌(Actinomyces naeslundii および Streptococcus mutans の少なくとも一種)、歯周病原因菌(Porphyromonas gingivalis、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Prevotella intermedia および Fusobacterium nucleatum の少なくとも一種)、カンジダ菌(Candida albicans)、メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)などの日和見感染症の原因菌の少なくとも一種には高い抗菌活性を示すが、口腔内の正常な常在菌叢には影響しないことを意味する。したがって、本発明の口腔ケア用組成物を使用すれば、口腔内の常在菌叢のバランスを崩すことなく、口腔内の衛生状態を常に良好に調整することができる。
【0033】
「活性酸素の除去効果」とは、化学療法または放射線療法に伴う、抗がん剤または放射線によって生じるフリーラジカルが与える、がん患者の口腔粘膜に生じる酸化ストレス(活性酸素)を除去または抑制することを意味する。
【0034】
「増粘多糖類」とは、口腔内に投与でき、特に、炎症部へ局所的に投与できると共に、口腔内の滞留性および徐放性を発揮できれば特に限定されない。ここで、増粘多糖類として、例えばキサンタンガム、寒天、アガロース、アガロペクチン、アミロペクチン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、レバン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、フコイダン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアガム、タラガム、アラビアガムなどが挙げられる。そして、本発明において「増粘多糖類」とは、これらの増粘多糖類のうち、一種類の単独物であってもよいし、二種類以上の組み合わせ物(混合物)であってもよいが、さらに保湿作用を有することから、好ましくは、キサンタンガム、グアガムであり、さらに茶カテキンの酸化を抑制できることから、より好ましくは、キサンタンガムである。
【0035】
本発明の口腔ケア用組成物では、増粘多糖類の含有量は、口腔内においてカテキンなどの滞留性および徐放性の効果が発揮されれば特に限定されない。ここで、キサンタンガムの含有量として、例えば1重量%以上であれば、口腔内においてカテキンなどのポリフェノールの滞留性および徐放性の効果は十分に期待され、好ましくは1〜8重量%、より好ましくは2〜7重量%、さらに好ましくは2.5〜5.5重量%である。なお、これに相当する含有量で、他の増粘多糖類を用いてもよい。
【0036】
「保湿剤」とは、保湿作用を有する物質であれば特に限定されない。ここで、保湿剤として、例えばカラギーナン、ヒアルロン酸、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビット液、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。そして、本発明において「保湿剤」とは、これらの保湿剤のうち、一種類の単独物であってもよいし、二種類以上の組み合わせ物(混合物)であってもよいが、口腔内の湿潤の状態を効果的に改善や維持することから、好ましくは、グリセリンおよびプロピレングリコールの混合物である。
【0037】
本発明の口腔ケア用組成物では、保湿剤の含有量は、口腔内において、カテキンなどの有効成分の滞留性、徐放性および保湿性の効果が発揮されれば特に限定されない。ここで、グリセリンおよびプロピレングリコールの混合物であれば、グリセリンの含有量として、例えば5重量%以上であれば、口腔内において、カテキンなどの有効成分の滞留性、徐放性および保湿性の効果は十分に期待され、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜25重量%であり、プロピレングリコールの含有量として、例えば1重量%以上であれば、口腔内において、カテキンなどの有効成分の滞留性、徐放性および保湿性の効果は十分に期待され、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2.5〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%である。なお、これに相当する含有量で、他の保湿剤を用いてもよい。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、カテキン、キサンタンガムおよびグリセリンおよびプロピレングリコールを含んでなり、カテキンの含有量として、0.05重量%以上、好ましくは0.05〜1重量%、より好ましくは0.05〜0.8重量%、さらに好ましくは0.05〜0.6重量%、さらに好ましくは0.05〜0.5重量%、特に好ましくは0.1〜0.4重量%であり、キサンタンガムの含有量として、1重量%以上、好ましくは1〜8重量%、より好ましくは2〜7重量%、さらに好ましくは2.5〜5.5重量%であり、グリセリンの含有量として、例えば5重量%以上、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜25重量%であり、プロピレングリコールの含有量として、1重量%以上、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2.5〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%である。
【0039】
本発明のより好ましい態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、カテキン、キサンタンガムおよびプロピレングリコールを含んでなり、カテキンの含有量として0.05〜1重量%、キサンタンガムの含有量として、1〜8重量%、グリセリンの含有量として5〜40重量%、プロピレングリコールの含有量として1〜25重量%である。本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、カテキン、キサンタンガムおよびプロピレングリコールを含んでなり、カテキンの含有量として0.05〜1重量%、キサンタンガムの含有量として2.5〜5.5重量%、グリセリンの含有量として15〜25重量%、プロピレングリコールの含有量として5〜15重量%である。
【0040】
本発明の口腔ケア用組成物では、長期保存の観点から、好ましくは、上記の有効成分の他に、抗酸化剤、防腐剤を含んでいてもよい。
【0041】
「抗酸化剤」とは、抗酸化作用を有する物質であれば特に限定されない。ここで、抗酸化剤として、例えばエリソルビン酸、アスコルビン酸、トコフェリン酸、酢酸トコフェロール、シクロデキストリンおよびそれらの塩または誘導体が挙げられる。そして、本発明において「抗酸化剤」とは、これらの抗酸化剤のうち、一種類の単独物であってもよいし、二種類以上の組み合わせ物(混合物)であってもよいが、長期保存の観点から、好ましくは、エリソルビン酸および/またはエリソルビン酸ナトリウムの単独物や混合物である。なお、本発明において「抗酸化剤」には、通常の食品添加用のものをそのまま用いることができる。
【0042】
本発明の口腔ケア用組成物では、抗酸化剤の含有量は、長期保存における酸化防止効果が発揮されれば特に限定されない。ここで、エリソルビン酸および/またはエリソルビン酸ナトリウムの単独物や混合物の含有量として、例えば0.01重量%以上であれば、長期保存における酸化防止効果は十分に期待され、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.02〜0.5重量%、さらに好ましくは0.05〜0.1重量%である。なお、これに相当する含有量で、他の抗酸化剤を用いてもよい。
【0043】
「防腐剤」とは、防腐作用を有する物質であれば特に限定されない。ここで、防腐剤として、例えば塩化セチルピリジニウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウムが挙げられる。そして、本発明において「防腐剤」とは、これらの防腐剤のうち、一種類の単独物であってもよいし、二種類以上の組み合わせ物(混合物)であってもよいが、長期保存の観点から、好ましくは、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノールおよび/またはアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の単独物や混合物である。なお、本発明において「防腐剤」には、通常の食品添加用のものをそのまま用いることができる。
【0044】
本発明の口腔ケア用組成物では、防腐剤の含有量は、長期保存における防腐効果および雑味抑制効果が発揮されれば特に限定されない。ここで、パラオキシ安息香酸メチルおよび/またはパラオキシ安息香酸プロピルの単独物や混合物の含有量として、例えば0.01重量%以上であれば、長期保存における防腐効果および雑味抑制効果は十分に期待され、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.04〜0.5重量%、さらに好ましくは0.05〜0.1重量%である。また、フェノキシエタノールの含有量として、例えば0.1重量%以上であれば、長期保存における防腐効果および雑味抑制効果は十分に期待され、好ましくは0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.3〜1.3重量%、さらに好ましくは0.5〜1.0重量%である。また、イソプロピルメチルフェノールの含有量として、例えば0.0025重量%以上であれば、長期保存における防腐効果および雑味抑制効果は十分に期待され、好ましくは0.0025〜0.1重量%、より好ましくは0.005〜0.09重量%、さらに好ましくは0.01〜0.08重量%である。また、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩の含有量として、例えば0.03重量%以上であれば、長期保存における防腐効果および雑味抑制効果は十分に期待され、好ましくは、0.03〜0.8重量%、より好ましくは0.05〜0.4重量%、さらに好ましくは0.1〜0.2重量%である。
【0045】
本発明の口腔ケア用組成物は、上記の有効成分、抗酸化剤、防腐剤の他に、本発明の効果や、本発明の滞留性や徐放性を阻害しない範囲で、一般的な口腔ケア用組成物や食品に用いられる一般的な添加物を含んでいてもよい。ここで、キシリトールの含有量として、例えば0.02重量%以上であれば、本発明の効果の向上などは十分に期待され、好ましくは0.02〜4重量%、より好ましくは0.3〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%である。なお、本発明の口腔ケア用組成物では、一般的な口腔ケア用組成物の製造方法や製造工程を適用することができる。
【0046】
本発明の口腔ケア用組成物は、好ましくは、茶抽出物(茶カテキン)、増粘多糖類として、キサンタンガム、保湿剤として、グリセリンおよびプロピレングリコール、抗酸化剤として、エリソルビン酸ナトリウム、防腐剤として、エチルパラベンおよびプロピルパラベン、キシリトール、香料を含んでなるものである。
【0047】
本発明の口腔ケア用組成物では、所定の粘性を有しており、B型粘度計(測定温度:20〜25℃、回転数12rpmに相当するせん断速度)で測定した粘度として、例えば5〜1,000Pa・sであれば、口腔内において、カテキンなどの有効成分の滞留性や徐放性を調整しやすいことから、好ましくは10〜500Pa・s、より好ましくは20〜400Pa・s、さらに好ましくは30〜300Pa・sである。また、本発明の口腔ケア用組成物は、所定の光透過率を有しており、波長が800nmの光透過率として、例えば2%以上であれば、外観が良好であることから、好ましくは2〜95%であり、より好ましくは5〜90%、さらに好ましくは10〜80%である。
【0048】
本発明の口腔ケア用組成物では、所定の形態を有しており、具体的な形態として、ジェル、液体、フォーム、クリーム、軟膏などを適用できるし、口腔内において、唾液を利用したり、あらかじめ水などに溶解して、所定の粘性を有する限り、フィルム、錠剤などを適用してもよい。ここで、本発明の口腔ケア用組成物では、好ましくは、実際の投与(摂取)や塗布などの取扱性が良好であることや、口腔内において、カテキンなどの有効成分の滞留性や除放性を調整しやすいことから、好ましくは、ジェルであり、片手で手軽に用いることができることから、より好ましくは、スプレー可能なジェルである。なお、ジェルであれば、粘性(粘度)が良好な範囲を満たすことができる。また、本発明の口腔ケア用組成物は、ジェル等の場合、スポンジ、歯ブラシ、綿棒、またはシートにあらかじめ含浸、塗布し、個装した形態で流通してもよい。
【0049】
本発明の口腔ケア用組成物は、そのまま、あるいは他の成分と組み合わせて、医薬品、医薬部外品、または化粧品、好ましくは口腔用化粧品として使用することができる。
【0050】
本発明の一つの面によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、がん患者における口腔合併症の処置において効果的であることを示す表示が付されたもの、好ましくは、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和において効果的であることを示す表示が付されたものであってもよい。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置において効果的であることを示す表示が付されたもの、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和において効果的であることを示す表示が付されたものであってもよい。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置において効果的であることを示す表示が付されたもの、好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和において効果的であることを示す表示が付されたものであってもよい。ここで、本発明の表示は、口腔ケア用組成物に関連して付したものであれば、特に限定されず、例えば口腔ケア用組成物を含有する容器、包装材または添付文書に、口腔ケア用組成物が効果的である表示・広告などを付したものであってもよい。なお、本発明の容器や包装材として、口腔ケア用組成物の成分に不活性であれば、特に限定されず、例えばガラス、プラスチックまたは金属を適用してもよい。また、本発明の表示は、例えばチラシ、パンフレット、ポップ、カタログ、ポスター、ポスター、書籍、DVDなどの記憶媒体、電子掲示板やインターネットなどの広告などに、口腔ケア用組成物が効果的である表示・広告などを付したものであってもよい。
【0051】
本発明の一つの態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、容器詰口腔ケア用組成物である。本発明の容器詰口腔ケア用組成物は、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる口腔ケア用組成物を、ジェル、液体、フォーム、クリーム、軟膏等として適用した形態であり、例えば本発明の口腔ケア用組成物を容器に充填等することによって得られる。本発明の容器詰口腔ケア用組成物に使用される容器としては、特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチック、PETボトル、紙パックまたは金属(例えばアルミ、スチール)を用いてもよい。容器詰口腔ケア用組成物は、空気に触れないため、抗酸化機能が保たれるため好ましい。本発明のより好ましい態様によれば、本発明の容器詰口腔ケア用組成物は、1〜120回、より好ましくは1〜90回、さらに好ましくは1〜80回、さらに好ましくは1〜60回用の包装であり、具体的には、ジェルの場合、1〜100ml、より好ましくは1〜90ml、さらに好ましくは1〜80ml、さらに好ましくは1〜60mlのタイプである。本発明の容器詰口腔ケア用組成物は、1日使い切り個包装であってもよい。
【0052】
本発明の一つの態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、有効成分として、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる、がん患者の口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物であってもよい。好ましくは、本発明の組成物は、手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者の口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物であり、より好ましくは、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者の口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物である。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の口腔ケア用組成物は、有効成分として、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤を含んでなる、がん患者の、手術療法、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療により生じる副作用としての口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物、より好ましくは、がん患者の、放射線療法および化学療法から選択される少なくとも一つの治療により生じる副作用としての口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物、さらに好ましくは、がん患者の化学療法(好ましくは代謝拮抗剤投与、より好ましくは5−FU投与)により生じる副作用としての口腔合併症、好ましくは口腔粘膜炎の予防、治療、改善、軽減および/または緩和用組成物である。
【0054】
口腔合併症の処置方法
本発明の口腔ケア用組成物を用いれば、この組成物が有する選択的な抗菌作用、がん患者の口腔粘膜に生じる酸化ストレスの除去作用、および保湿作用により、がん患者の口腔合併症を効率的に予防、治療、改善、軽減および/または緩和することができる。そして、本発明の口腔ケア用組成物を用いれば、好ましくは、がん患者の口腔合併症の発症を効率的に予防することができると同時に、口腔合併症を治療、改善、軽減および/または緩和することができる。ここで、がん患者の口腔合併症が口腔粘膜炎などの口腔内炎症の場合、本発明の口腔ケア用組成物を用いれば、がん患者の口腔合併症を治療、改善、軽減および/または緩和することができると同時に、炎症状態を抑制することができる。
【0055】
本発明の一つの別の面によれば、本発明の口腔ケア用組成物を、がん患者に投与することを含んでなる、口腔合併症の処置方法が提供され、口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和方法が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者に投与することを含んでなる、口腔合併症の処置方法が提供され、口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和方法が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者に投与することを含んでなる、口腔合併症の処置方法が提供され、口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和方法が提供される。
【0056】
本発明の口腔合併症の処置方法では、口腔合併症の予防効果を向上できることから、好ましくは、がん患者に、がんの治療を実施する前から、本発明の口腔ケア用組成物を、がん患者に投与する方法であり、より好ましくは、がん患者に、がんの化学療法または放射線療法を実施する前から、本発明の口腔ケア用組成物を、がん患者に投与する方法である。そして、本発明の口腔合併症の処置方法では、好ましくは、ヒトに対する医療行為を除くものである。ここで、ヒトに対する医療行為とは、医師等の処方を必要として、ヒトに対して医薬品を摂取させる(投与する)行為などを意味する。
【0057】
本発明の処置方法は、本発明の口腔ケア用組成物について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0058】
本発明の口腔ケア用組成物では、その使用状態および使用場面に応じて、飲食や喫食などの経口投与、口腔内への塗布などの局所的な投与、歯磨きなどの幅広い投与(摂取)方法を適用することができる。ここで、本発明の口腔ケア用組成物を飲食や喫食などによって経口投与する場合、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために有効な投与量として、カテキンを基準にすると、好ましくは10〜100mg相当である。また、本発明の口腔ケア用組成物を口腔内への塗布などによって局所的に投与する場合、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために有効な投与量として、カテキンを基準にすると、好ましくは、単位時間(1時間)あたり、口腔内のカテキン濃度を1〜100μg/cm相当である。そして、本発明の口腔ケア用組成物が市販品のオーロラコートである場合、がん患者の口腔合併症を予防、治療、改善、軽減および/または緩和するために有効な投与量として、カテキンを基準にすると、カテキンの徐放性の観点から、例えば1回の用量を1gずつとして、1日に2回以上、好ましくは1日に3回以上、より好ましくは4回以上、さらに好ましくは1日に6回以上の頻度となる(実施例の例2参照)。
【0059】
本発明の口腔ケア用組成物では、その使用状態および使用場面に応じて、口渇感を感じたとき、痛みを感じるとき、通常の食事後または就寝前などの幅広い投与(摂取)時期を適用することができる。
【0060】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。
【0061】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。
【0062】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、本発明の口腔ケア用組成物の使用が提供される。
【0063】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための口腔ケア用組成物の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。
【0064】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための薬剤の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。
【0065】
本発明の一つの別の面によれば、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。そして、本発明の一つの別の面によれば、好ましくは、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、がんの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。また、本発明の一つの別の面によれば、より好ましくは、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の処置のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供され、手術療法、放射線療法、化学療法から選択される少なくとも一つの治療を受ける、がん患者における口腔合併症の予防、治療、改善、軽減および/または緩和のための化粧品の製造における、茶抽出物、増粘多糖類および保湿剤の使用が提供される。
【0066】
本発明の使用は、本発明の口腔ケア用組成物について、本願明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0067】
以下の実施例によって、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
例1: 口腔粘膜炎モデルマウスを用いた抗潰瘍効果の評価試験
マウスに抗がん剤を投与して、骨髄細胞などの免疫力に関する細胞群の機能を低下させた後に、酢酸を口腔粘膜下に投与して、人工的に潰瘍を発症させる実験系により、口腔粘膜炎モデルマウスを調製し、各種の製剤の抗潰瘍効果を評価した。
【0069】
(1)口腔粘膜炎モデルマウスの調製
ICRマウス(10週齢、雄)(日本エスエルシー社)の腹腔内に、抗がん剤として、フルオロウラシル(5−FU、和光純薬工業株式会社)を、それぞれ50mg/kgで投与した。そして、抗がん剤の初回の投与日を試験の0日目とし、試験の2日目と4日目に、抗がん剤(5−FU)を追加で投与し、全部で3回、合計で150mg/kgの抗がん剤を投与し、口腔粘膜炎モデルマウスを調製した。このような口腔粘膜炎モデルマウスは、放射線を用いた疾病モデルマウスに代替するモデルマウスとして、抗がん剤の副作用によって生じる口内炎を模倣したモデルマウスとして利用されている。
【0070】
抗がん剤の3回目の投与日の翌日(試験の5日目)に、潰瘍を人工的に発症させるために、酢酸溶液(20%、3.16mol/L)を15μLで、マウスの口腔粘膜下に投与した。
【0071】
(2)各種の製剤の抗潰瘍効果の評価
上記(1)の口腔粘膜炎モデルマウスを用いて、各種の製剤の抗潰瘍効果を評価した。なお、各種の製剤には、本発明の口腔ケア用組成物(オーロラコート、明治社)および市販保湿剤(オーラルバランス、日本ダルム社)を用いた。ここで、市販保湿剤は、口腔乾燥ケアを目的として、米国や日本を中心に一般的に用いられており、この主要な保湿成分は、ポリメタクリルグリセリンである。
【0072】
ガラスシリンジ付きの経口ゾンデ針(容量;0.25ml、針径;20G、先端ボール(blunt)の直径;2.25mm、長さ;2.5cm、曲線型)(SouthPointe Surgical Supply, Coral Springs, FL, USA社)を用いて、本発明の口腔ケア用組成物または市販保湿剤を30mgずつで、口腔粘膜炎モデルマウスの口腔粘膜に、非麻酔下において、1日に2回(10時および18時)ずつにて投与(塗布)した。このとき、各群のマウス(各種の製剤を投与した口腔粘膜炎モデルマウス)を6匹ずつとした。なお、潰瘍発症の予防効果を評価するために、初回の抗がん剤の投与の7日前(試験の−7日目)から、各種の製剤の塗布を開始し、初回の抗がん剤の投与後の16日目まで継続した。
【0073】
酢酸溶液(20%)の投与日の翌日(試験6日目)から所定の間隔にて、各群のマウスの口腔内に発症した潰瘍面積を求めた(測定日:試験の6、8、11、13、16日目)。ここで、イソフルラン吸入麻酔の麻酔下において、長径と短径を定規で測定し、潰瘍面積を求めた。なお、コントロールとして、各種の製剤を投与しないマウス(無処理群)でも、潰瘍面積を求めた。
【0074】
各群と無処理群の潰瘍面積の平均値(平均潰瘍面積)を算出し、各群と無処理群の平均潰瘍面積を比較して、抗潰瘍効果を評価した。具体的には、潰瘍発症期(試験の6〜11日目)では、潰瘍発症の抑制効果(潰瘍の予防効果)を評価し、潰瘍修復期(試験の12〜16日目)では、潰瘍修復の促進効果(潰瘍の治療効果)を評価した。それぞれの結果を図1および図2に示す。
【0075】
図1に示されるように、潰瘍発症期では、無処理群の平均潰瘍面積に比べて、本発明の口腔ケア用組成物の投与群の平均潰瘍面積は小さかった。すなわち、本発明の口腔ケア用組成物には、潰瘍発症の抑制効果(潰瘍の予防効果)があることが確認された。これは、抗がん剤の投与前から、本発明の口腔ケア用組成物を口腔内に塗布すると、抗菌効果がある有効成分のカテキンにより、口腔粘膜上の口腔細菌などの抗菌効果と「抗がん剤に由来する活性酸素」の除去効果の両方の機能が発揮されて、酢酸による潰瘍発症を抑制したと推察される。一方、潰瘍発症期では、無処理群の平均潰瘍面積に比べて、市販保湿剤の投与群の平均潰瘍面積は大きかった。すなわち、市販保湿剤には、潰瘍発症の抑制効果(潰瘍の予防効果)がないことと、むしろ、潰瘍発症の促進効果があることが確認された。これは、抗がん剤の投与前から、市販保湿剤を口腔内に塗布すると、保湿成分(保湿剤)により、口腔粘膜上の口腔細菌などと「抗がん剤に由来する活性酸素」の滞留作用が発揮されて、口腔粘膜の障害を促進したと推察される。
【0076】
図2に示されるように、潰瘍修復期では、無処理群の平均潰瘍面積に比べて、本発明の口腔ケア用組成物の投与群および市販保湿剤の投与群の平均潰瘍面積は小さかった。すなわち、本発明の口腔ケア用組成物および市販保湿剤には、潰瘍修復の促進効果(潰瘍の治療効果)があることが確認された。
【0077】
さらに、潰瘍発症期、潰瘍修復期、および、これらを合わせた全期間の潰瘍状態(潰瘍の程度)を、潰瘍面積と測定日数の積、すなわち、AUC(曲線下面積)で示し、特定の期間における潰瘍状態を評価した。この結果を図3に示す。
【0078】
図3に示されるように、潰瘍発症期、潰瘍修復期、および全期間で、無処理群のAUCに比べて、本発明の口腔ケア用組成物の投与群のAUCは小さかった。一方、潰瘍発症期では、無処理群のAUCに比べて、市販保湿剤群のAUCは大きく、潰瘍修復期および全期間では、無処理群のAUCに比べて、市販保湿剤群のAUCは小さかった。
【0079】
例2: 徐放性の評価試験
本発明の口腔ケア用組成物(オーロラコート、明治社)の徐放性を確認した。ここで、徐放性は、次の手順で評価した。口腔ケア用組成物を12ウェルプレート(ファルコン社)に3mlずつで充填してから、PBSを3mlずつで充填(重層処理)した。重層処理した後の2時間毎(重層処理後の2、4、6、8、10、12時間目)に、上清(PBS)の全量を回収すると共に、上清の全量を回収した後には、新しいPBSを3mlずつで充填(重層処理)した。
【0080】
重層処理後の各時間の上清を、水で10倍に希釈してから、HPLC[機器:CBM−20A、LC−30AD−2台(ポンプ)、SIL−30AC(オートインジェクタ)、CTO−20AC(カラムオーブン)、SPD−M20A(検出器)、島津製作所]を用いて、カテキン濃度を測定した。この結果を図4に示す。なお、カテキン濃度の測定では、エピガロカテキンガレート(EGCg)(標準液:1、2、10mg/L)をスタンダードとした。また、HPLCの分析条件は、次の通りである。
【0081】
【表1】
【0082】
図4に示されるように、重層処理後の2時間では、本発明の口腔ケア用組成物の単位時間(1時間)あたりのカテキンの放出濃度は、平均値で27.1μg/cm/hであり、重層処理後の12時間(積算)では、本発明の口腔ケア用組成物の単位時間(1時間)あたりのカテキン放出濃度は、平均値で2.5μg/cm/hであった。このように、本発明の口腔ケア用組成物では、カテキンが少量(低濃度)であっても、カテキンが長時間に亘って徐々に放出されるので、抗菌効果が効率的に発揮されながら、カテキンによる刺激や苦味が抑えられていて、嗜好的に無理なく継続できる点で有用である。
図1
図2
図3
図4