(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の多孔シートが、有機繊維、ガラス繊維及びパルプからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
前記第1の多孔シートの前記縁部が、前記第1の多孔シートの短手方向の露出量が2〜9mmである部分を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
前記第2の多孔シートの少なくとも一方の面が、スルホン基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
前記第2の多孔シートが内側に位置するように前記積層シートが屈曲していると共に前記第1の多孔シートの前記縁部同士が接合することにより、電極を収納可能な空間が形成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、比重は、温度によって変化するため、本明細書においては20℃で換算した比重と定義する。本明細書において、「本実施形態」との語句には、第1実施形態及び第2実施形態が包含される。
【0025】
<鉛蓄電池>
本実施形態に係る鉛蓄電池は、例えば、電槽、電極群、電解液(硫酸等)及びセパレータを備えている。電極群及び電解液は、電槽内に収容されている。電極群は、複数の電極を有しており、例えば、複数の電極板(板状の電極)を有する極板群である。電極群は、セパレータを介して対向する正極(正極板等)及び負極(負極板等)を有している。本実施形態に係る鉛蓄電池としては、液式鉛蓄電池が好ましい。
【0026】
正極及び負極は、例えば、セパレータを介して積層されることにより電極群(極板群等)を構成している。正極は、集電体(正極集電体)と、当該集電体に保持された正極材と、を有している。負極は、集電体(負極集電体)と、当該集電体に保持された負極材と、を有している。本実施形態において正極材及び負極材は、例えば、化成後の電極材である。電極材が未化成である場合、電極材(未化成の正極材及び未化成の負極材)は、電極活物質(正極活物質及び負極活物質)の原料等を含有している。集電体は、電極材からの電流の導電路を構成する。鉛蓄電池の基本構成としては、従来の鉛蓄電池と同様の構成を用いることができる。
【0027】
セパレータは、第1の多孔シート及び第2の多孔シートを有している。鉛蓄電池において第2の多孔シートの少なくとも一部は、例えば、第1の多孔シート及び負極の間に配置されている。第2の多孔シートは、例えば、第1の多孔シートに対して負極側に配置されている。本実施形態では、セパレータにおける負極と相対する表面が第2の多孔シートにより構成されるように、第1の多孔シート、及び、当該第1の多孔シートに積層された第2の多孔シートを有する積層シートをセパレータとして用いることができる。
【0028】
第1実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、長尺の第1の多孔シート、及び、当該第1の多孔シートに積層された第2の多孔シートを有する積層シートと、前記第1の多孔シート及び前記第2の多孔シートの互いの相対位置を固定する位置ずれ防止部と、を備えている。第1実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータでは、前記第1の多孔シートの前記第2の多孔シート側の面における前記第1の多孔シートの短手方向の少なくとも一方の縁部が前記第2の多孔シートから露出している。すなわち、第1の多孔シートの前記縁部は、第1の多孔シートの短手方向において第2の多孔シートよりも張り出しており、このように張り出した張り出し部同士を接合することにより袋状のセパレータを得ることができる。
【0029】
第1の多孔シートの前記縁部における第1の多孔シートの短手方向の露出量(第2の多孔シートからの露出量。第1の多孔シートの短手方向における第1の多孔シートの端部から第2の多孔シートの端部までの距離)は、下記の範囲であることが好ましい。露出量の下限は、第1の多孔シートを袋状に形成する際に第1の多孔シート同士を接合しやすく、接合部が充分な強度を有し、生産性に優れる観点から、2mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。露出量の上限は、特に制限はないが、実用的な観点から、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下が更に好ましい。露出量の上限は、成層化抑制効果を得やすい観点から、9mm以下が特に好ましい。これらの観点から、露出量は、2〜20mmが好ましく、2〜15mmがより好ましく、2〜10mmが更に好ましく、2〜9mmが特に好ましく、4〜9mmが極めて好ましく、5〜9mmが非常に好ましい。第1の多孔シートの前記縁部は、露出量が前記範囲を満たす部分(露出部)を有していることが好ましい。前記縁部の全てが前記露出量を有していてもよい。
【0030】
第1実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、例えば、前記第2の多孔シートが内側に位置するように前記積層シートが屈曲していると共に前記第1の多孔シートの前記縁部同士が接合することにより、電極を収納可能な空間(電極収納空間)が形成されている態様(鉛蓄電池用電極収納袋)であってもよい。この場合、前記空間に電極を配置することにより電極と第1の多孔シートとの間に第2の多孔シートを配置することが可能である。電極と第2の多孔シートとが当接した状態で電極が前記空間に収納されていてもよい。例えば、前記電極収納袋において、第2の多孔シートの内面は、電極収納空間を形成しており、第2の多孔シートの外面は、第1の多孔シートの内面に当接している。
【0031】
第1の多孔シートは、一方面又は両面にリブを有していてもよい。リブは、例えば、第1の多孔シートの長手方向に延びている。第1の多孔シートは、第1の多孔シートの長手方向に延びる主リブ(第1のリブ)及びミニリブ(第2のリブ)を有し、ミニリブが、第1の多孔シートの短手方向の両端部のそれぞれに複数配置されており、主リブが、前記両端部の間の領域に配置されている態様であってもよい。第1の多孔シートが一方面にリブを有している場合、例えば、当該一方面が電極収納袋の外側に位置する態様であってもよい。前記電極収納袋は、例えば、負極を収納可能な空間を有する鉛蓄電池用負極収納袋である。
【0032】
第1実施形態に係る鉛蓄電池は、例えば、前記鉛蓄電池用負極収納袋と、正極と、前記負極収納袋の前記空間に収納された負極と、を備え、前記負極と前記正極とが交互に配置されている態様である。第2実施形態に係る鉛蓄電池は、セパレータが、第1の多孔シートと、平均細孔径1〜200μmの第2の多孔シートと、を有し、前記第2の多孔シートの少なくとも一部が前記負極と前記第1の多孔シートとの間に配置されている態様である。
【0033】
PSOC下において、負極活物質の主成分は、例えば、ほとんど帯電しない海綿状鉛(金属鉛)と、負に帯電する硫酸鉛とである。従って、負極は主に負に帯電している。これは、電池の構成上、負極活物質(硫酸鉛等を含む)の固相が正極に対して電位的に低く、負電位側にあることを意味している。電池電圧は、正極及び負極の電気二重層領域の電位差の合計として現れるものである。電気二重層領域は、オングストロームオーダーの薄層領域である。鉛蓄電池の電池電圧は、正極及び負極の電気二重層領域の電位差に関して正極側の電位と負極側の電位との差に等しくなっている。正極活物質の固相は、正に帯電した電気二重層構造(すなわち、電解液に対して高い電位)を有している。一方、負極活物質の固相は、負に帯電した電気二重層構造(すなわち、電解液に対して低い電位)を有している。
【0034】
充電反応により硫酸鉛等から生成する硫酸イオン種(SO
42−、HSO
4−等)は、電解液中の水より重く、重力によって沈降しやすい性質を有している。PSOC下では、電池が満充電になることがないため、ガス発生による電解液の撹拌が行われ難い。その結果、電池下部の電解液の比重が高くなり、電池上部の電解液の比重が低くなるという、「成層化」と呼ばれる電解液濃度の不均一化が起こる。このような現象が起こると、反応面積が低下することになるために充電受入性能及び放電性能が低下する。
【0035】
上述のように、負極活物質の固相は、負に帯電した電気二重層構造を有しているので、負極側で生成する硫酸イオン種(SO
42−、HSO
4−等)は、負極と静電的に反発する関係を有している。この静電的な反発作用が加わることにより、負極側では、充電反応により負極活物質の固相(例えば、負極活物質の細孔)内で生成した硫酸イオン種(SO
42−、HSO
4−等)が電解液側に押し出され、当該硫酸イオン種の電解液中での沈降が加速される環境にある。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る鉛蓄電池では、第2の多孔シートの少なくとも一部が第1の多孔シート及び負極の間に配置されている場合(例えば、第1の多孔シート及び負極の間において、負極の表面に当接するように第2の多孔シートが配置されている場合)、負極活物質の固相内から電解液側に押し出された硫酸イオン種が電解液中で沈降することを効果的に抑えることができるため、成層化が起こることを更に抑制することができる。
【0037】
一方、正極活物質の固相は、正に帯電した電気二重層構造を有しているので、正極側で生成する硫酸イオン種(SO
42−、HSO
4−等)は、正極と静電的に反発する関係を有していない。従って、正極側に多孔シートを配置しても(例えば、正極の表面に多孔シートを当接しても)、電解液の成層化の回避効果は小さい。これは、多孔シートを負極側に配置せず(例えば、多孔シートを負極の表面に当接させず)、負極を収納した袋状セパレータの外側で正極側に多孔シートを配置する構成(例えば、多孔シートを正極の表面に当接させる構成)、及び、正極を収納した袋状セパレータ内で正極側に多孔シートを配置する構成(例えば、多孔シートを正極の表面に当接させる構成)のいずれの場合にも言えることである。
【0038】
第2の多孔シートは、負極に当接していてもよく、負極の主面(例えば、負極板の極板面)全体に当接していてもよい。本実施形態では、袋状の第1の多孔シートに収容された負極が第1の多孔シート内において第2の多孔シートと当接していてもよい。
【0039】
第2の多孔シートを負極の表面に当接させる場合、成層化を更に抑制する観点から、負極と第2の多孔シートとが一体化されていないことが好ましい。例えば、負極と多孔シートとが一体化されている場合、多孔シートの間隙に負極活物質が進入する等して、負極の表面に一体に当接する多孔シートは、成層化の原因である硫酸イオン種が生成する負極活物質の固相の一部分として作用する場合がある。この場合、負極活物質の固相の一部分である多孔シートは、負極活物質の細孔内等で生成し電解液側に押し出される硫酸イオン種の沈降により顕在化する成層化現象を抑制する効果が小さい傾向がある。また、負極の表面に一体に当接する多孔シートは、電池の内部抵抗を増加させる可能性がある。
【0040】
セパレータは、正極及び負極の少なくとも一方の電極を包む袋状であることが好ましい。例えば、正極及び負極のうちの一方が袋状のセパレータに収容され、且つ、正極及び負極のうちの他方と交互に積層されている態様が好ましい。例えば、袋状のセパレータを正極に適用した場合、正極集電体の伸びにより正極集電体がセパレータを貫通する可能性があることから、負極が袋状のセパレータ(負極収納袋)に収容されていることが好ましい。
【0041】
第1の多孔シート及び第2の多孔シートのそれぞれは、屈曲部によって二つ折りに屈曲させることができる。第1の多孔シート及び第2の多孔シートのそれぞれは、多孔シートを折り曲げることにより多孔シートの表面の一部分が当該表面の他の部分と対向する構成を有していてもよい。このような構成としては、例えば、多孔シートの断面がV字状又はU字状を呈するように多孔シートを折り曲げることにより得られる構成であってもよい。
図1は、正極、負極及びセパレータの積層構造の一例を示す断面図である。但し、
図1では、第1実施形態の位置ずれ防止部の図示は省略する。
図1において正極10及び負極20は、セパレータ30を介して交互に積層されている。セパレータ30は、第1の多孔シート40と、第2の多孔シート50とを有する積層シート60を備えている。負極20を収容する袋状のセパレータ30は、例えば、第1の多孔シート40と第2の多孔シート50とを重ねて長尺の積層シート60を得た後、積層シート60の長手方向の中央において長手方向に折り曲げて形成された空間に負極を配置し、さらに、折り曲げ部に隣接する両側部のシート同士をそれぞれ接着することにより得ることができる。
【0042】
多孔シートを折り曲げることにより多孔シートの表面の一部分が当該表面の他の部分と対向する構成は、負極の両面に多孔シートを個別に配置するより、負極及び多孔シートの位置ずれが生じない点で優れている。
【0043】
また、液式鉛蓄電池においては、電極(極板等)の主面(極板面等)が鉛直方向に延在するように電極が配列される傾向がある。そのため、電極の長さを伸ばす場合、鉛直方向に伸ばす傾向がある。PSOC下では、負極に硫酸鉛が蓄積しやすく、特に、負極の鉛直方向の下部に硫酸鉛が残存する傾向が強い。硫酸鉛は、負極活物質である海綿状鉛に比べて2.7倍の体積膨張を生じるので、負極の鉛直方向の下部に硫酸鉛が蓄積すると、負極の下部が下方に伸びやすい。この場合、変形した負極の下部が多孔シートを突き破り短絡の原因になる可能性がある。一方、多孔シートを折り曲げることにより多孔シートの表面の一部分が当該表面の他の部分と対向する構成では、負極の下部が強度の高い多孔シートの折り曲げ部(屈曲部)に位置する傾向があるため、変形した負極の下部が多孔シートを突き破り短絡の原因になることを容易に抑制することができる。
【0044】
第1の多孔シートの構成材料は、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料が挙げられる。第1の多孔シートは、微多孔シート等であり、例えば、第2の多孔シートよりも小さい多孔度を有している。
【0045】
第2の多孔シートの構成材料は、電解液に対して耐性を有する材料であれば、特に制限されるものではない。第2の多孔シートの構成材料としては、具体的には、有機繊維、無機繊維(ガラス繊維等)、パルプ、無機酸化物粉末などが挙げられる。第2の多孔シートは、有機繊維、ガラス繊維及びパルプからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。第2の多孔シートの構成材料として、無機繊維及びパルプを含む混合繊維を用いてもよく、有機繊維及び無機繊維を含む有機無機混合繊維を用いてもよい。有機繊維としては、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリエチレンテレフタレート繊維などが挙げられる。第2の多孔シートとしては、例えば、前記構成材料を主成分として含有する多孔シートを用いることができる。第2の多孔シートの構成材料としては、電池の内部抵抗の増加が抑制される観点から、有機繊維が好ましい。
【0046】
第2の多孔シートの構成材料として有機繊維を用いた場合、第2の多孔シートの強度が向上することにより加工性が向上する。一方、第2の多孔シートの構成材料として無機繊維(ガラス繊維等)を用いた場合、第2の多孔シートの電解液の濡れ性及び電解液の保持性能が向上し、充電受入性能の低下を容易に抑制できる。第2の多孔シートの構成材料としてパルプを用いた場合、第2の多孔シートの密度が向上し、耐短絡性能を更に向上させることができる。
【0047】
第2の多孔シートは、不織布であってもよい。不織布は、シリカ等の無機酸化物粉末を適宜含有することができる。不織布は、繊維を水中に分散させて、これを抄造することにより製造できるので、抄造の際に前記無機酸化物粉末を繊維と一緒に水中に分散させれば、無機酸化物粉末を含有する不織布を容易に得ることができる。
【0048】
不織布は、ガラス繊維、パルプ及びシリカ粉末を主成分とする混抄不織布であることが好ましい。このような複数の繊維の混合物からなる不織布としては、例えば、特開平2002−260714号公報に開示されている薄型セパレータ(制御弁式鉛蓄電池に適用されるセパレータ。ガラス繊維の単独構成を有さず、ガラス繊維と、耐酸性有機樹脂繊維と、必要に応じてシリカとを含む構成を有するセパレータ)を好適に用いることができる。
【0049】
第2の多孔シートの少なくとも一方の面(主面)は、親水化処理されていることが好ましい。第2の多孔シートを親水化処理することで、電解液の濡れ性が向上し、電解液とセパレータとが接触した際の電気抵抗が低下し、充電受入性能又は効率放電性能を更に向上させることができる。第2の多孔シートの両方の面(主面)が親水化処理されていてもよく、第2の多孔シートにおける第1の多孔シートとは反対側の面(主面)のみが親水化処理されていてもよい。
【0050】
親水化処理としては、プラズマ処理、スルホン化処理、界面活性剤処理、フッ素ガス処理、コロナ放電処理等を用いることができ、親水性の持続力が高い観点から、スルホン化処理又はフッ素ガス処理が好ましい。親水化処理としては、親水化処理の工程の時間が短縮される観点から、フッ素ガス処理がより好ましい。
【0051】
前記スルホン化処理により、第2の多孔シートの表面にスルホン基を導入して親水性を向上させることができる。前記フッ素ガス処理としては、例えば、フッ素ガス及び酸素ガスの混合気体で第2の多孔シートを処理する方法が挙げられる。前記フッ素ガス処理により、スルホン基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種を第2の多孔シートの少なくとも一方の面に導入して親水性を向上させることができる。第2の多孔シートの少なくとも一方の面がスルホン基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することにより、親水性が向上して、電解液とセパレータとが接触した際の電気抵抗が低下し、充電受入性能又は放電特性を更に向上させることができる。
【0052】
第2の多孔シートの平均細孔径としては、硫酸イオンが透過可能な細孔径を用いることができる。第2の多孔シートの平均細孔径は、硫酸イオンの沈降を抑制しやすいと共に電池反応へ良い影響を与えることにより充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、下記の範囲が好ましい。第2の多孔シートの平均細孔径は、硫酸イオンを充分に透過させることが可能であり、充電受入性能が更に向上する観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上が更に好ましく、5μm以上が特に好ましく、6μm以上が極めて好ましい。第2の多孔シートの平均細孔径は、硫酸イオンの沈降を充分に抑制することが可能であり、サイクル特性が更に向上する観点から、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましく、90μm以下が特に好ましく、80μm以下が極めて好ましい。これらの観点から、第2の多孔シートの平均細孔径は、1〜200μmが好ましく、1〜150μmがより好ましく、1〜100μmが更に好ましく、1〜90μmが特に好ましく、1〜80μmが極めて好ましく、2〜80μmが非常に好ましく、3〜80μmがより一層好ましく、5〜80μmがより好ましく、6〜80μmが更に好ましい。第2の多孔シートの平均細孔径は、10μm以上であってもよく、30μm以上であってもよい。第2の多孔シートの平均細孔径は、10〜100μmであってもよく、30〜90μmであってもよい。
【0053】
図2(a)は、第1の多孔シートの一例を示す正面図であり、
図2(b)は、第1の多孔シートの一例を示す断面図である。
図3は、第1の多孔シート、第2の多孔シート及び電極の積層構造の一例を示す断面図である。
図2に示すように、第1の多孔シート40は、平板状のベース部41と、凸状(例えば線状)の複数のリブ(主リブ)42と、ミニリブ43とを備えている。ベース部41は、リブ42及びミニリブ43を支持している。リブ42は、多孔シート40の一方面40aにおいて互いに略平行に配置されている。リブ42の間隔は、例えば3〜15mmである。リブ42の高さ方向の一端は、ベース部41に一体化して接続されており、リブ42の高さ方向の他端は、正極10に当接している(
図3参照)。ベース部41は、リブ42の高さ方向において正極10と対向している。多孔シート40の他方面40bにはリブは配置されておらず、多孔シート40の他方面40bは、第2の多孔シート50に当接している(
図3参照)。多孔シート50の一方面50aは、多孔シート40に当接している。多孔シート50の他方面50bは、負極20に当接している。
【0054】
ミニリブ43は、多孔シート40の幅方向における両側において、多孔シート40の長手方向に延びるように多数本形成されている。ミニリブ43は、鉛蓄電池が横方向に振動した際に、電極の角がセパレータを突き破って短絡することを防止するためにセパレータ強度を向上させる機能を有する。なお、ミニリブ43の高さ、幅及び間隔は、何れもリブ42よりも小さいことが好ましい。また、ミニリブ43の断面形状は、リブ42と同一であってもよく、異なっていてもよい。ミニリブ43の断面形状は、半円型であることが好ましい。また、ミニリブ43は形成されていなくてもよい。
【0055】
ミニリブの数は、セパレータを巻き取る際に多孔シート40の端がしわになりにくく生産性に優れる観点、及び、強度が向上する観点から、10本以上が好ましく、20本以上がより好ましい。ミニリブの数は、多孔シート40を袋状に形成しやすい観点から、40本以下が好ましい。これらの観点から、ミニリブの数は、10〜40本が好ましく、20〜40本がより好ましい。多孔シート40の短手方向の両端部にミニリブが配置されている場合、前記ミニリブの数は、例えば、両端部のそれぞれに配置される数である。
【0056】
第1実施形態におけるセパレータ30は、
図3に示すように、積層シート60における多孔シート40及び多孔シート50の互いの相対位置を固定する位置ずれ防止部70を有している。位置ずれ防止部70を形成するための位置ずれ防止手段は、多孔シート40と多孔シート50との相対位置をずれさせない手段であれば、特に制限されるものではない。位置ずれ防止手段としては、具体的には、熱溶着、超音波溶着、接着剤、両面テープ、圧着等を用いることができる。位置ずれ防止部70としては、具体的には、熱溶着部、超音波溶着部、接着剤、両面テープ、圧着部等を用いることができる。位置ずれ防止部70は、多孔シート40,50の内部に形成されていてもよく、多孔シート40,50とは別体として多孔シート40,50の外部に形成されていてもよい。
図3の位置ずれ防止部70は、例えば熱溶着部である。位置ずれ防止部70としては、生産性及び経済性に更に優れる観点から、熱溶着部又は超音波溶着部が好ましい。
【0057】
位置ずれ防止手段として熱溶着を用いる場合、多孔シート40及び多孔シート50の総厚みを変化させることなく、多孔シート40及び多孔シート50の位置ずれを防止することができる。これにより、例えば、電池の組み立て時に電極を電極収納袋に挿入する際に不良が生じる危険性を更に低下させることができる。また、電池の製造が容易である。但し、熱溶着を行う場合、溶融させることが必要であるため、多孔シートの構成材料として有機繊維を用いることが好ましい。熱溶着の温度範囲は、多孔シートの構成材料(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等)の融点を考慮すると、150〜300℃が好ましい。
【0058】
位置ずれ防止手段として超音波溶着を用いる場合、超音波の振動子と多孔シート40,50との摩擦が熱融着に比べて低下するため、多孔シート50の構成材料として有機繊維又はパルプを用いた場合であっても、多孔シート40と多孔シート50との総厚みを変化させることなく多孔シート40と多孔シート50との位置ずれを容易に防止することができる。
【0059】
位置ずれ防止手段として接着剤又は両面テープを用いる場合、多孔シートの構成材料として、有機繊維だけでなく、溶着させ難いガラス繊維を用いることができる。特に、接着剤を用いた場合、多孔シート40及び多孔シート50の接着の確実性が高い。接着剤は、耐酸性を有することが好ましい。接着剤の含有成分としては、例えば、アタクチックポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。
【0060】
位置ずれ防止手段として圧着を用いる場合、圧着時に多孔シートに対して大きな応力が負荷されるため、多孔シートの引張強度が高いことが好ましい。そのため、引張強度の高い材料(有機繊維、パルプ等)を多孔シートの構成材料として用いた場合、多孔シート40と多孔シート50との位置ずれを容易に防止することができる。
【0061】
多孔シート40の短手方向における位置ずれ防止部の幅(熱溶着の溶着幅、超音波溶着の溶着幅、接着剤の幅、圧着の幅等)は、優れた強度(溶着強度、接着強度等)を得やすい観点から、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましい。多孔シート40の短手方向における位置ずれ防止部の幅は、電池性能が更に向上する観点から、2.0mm以下が好ましく、1.6mm以下がより好ましく、1.5mm以下が更に好ましく、1.4mm以下が特に好ましく、1.0mm以下が極めて好ましく、0.7mm以下が非常に好ましい。位置ずれ防止部の幅は、例えば、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により位置ずれ防止部の任意の3点を観察した際の幅の平均値として算出することができる。
【0062】
位置ずれ防止部の構成に特に制限はない。位置ずれ防止部は任意の位置に配置することができる。位置ずれ防止部の形状としては、ドット状、平板状等が挙げられる。位置ずれ防止部の数は、一つであってもよく、複数であってもよい。位置ずれ防止部が複数配置される場合、第1の多孔シートの長手方向に沿って複数配置されていてもよい。
【0063】
位置ずれ防止部は、セパレータの総厚みが変化しにくい観点から、リブとリブの間に配置されることが好ましい。
【0064】
第1の多孔シートの短手方向における第1の多孔シートの端部(長辺の端部)から位置ずれ防止部の端部までの距離は、第2の多孔シートが折れ曲がりにくく、不良が発生しにくい観点から、35mm以下が好ましく、33mm以下がより好ましく、28mm以下が更に好ましく、23mm以下が特に好ましい。第1の多孔シートの短手方向における第1の多孔シートの端部(長辺の端部)から位置ずれ防止部の端部までの距離は、第1の多孔シートを袋状に形成する際に第1の多孔シート同士を接合しやすく、接合部が充分な強度を有し、位置ずれ防止部由来の不良が出にくい観点から、4mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。位置ずれ防止部が複数配置されている場合、複数の位置ずれ防止部の前記距離のうち最も短い距離(最短距離)が前記範囲を満たすことが好ましい。
【0065】
第1の多孔シートの短手方向における第1の多孔シートの端部(長辺の端部)から位置ずれ防止部の端部までの距離は、セパレータの製造が容易である観点から、第1の多孔シートの短手方向の露出量よりも大きいことが好ましい。
【0066】
図4は、袋状のセパレータ30に負極20を収容する状態の一例を示す図面である。上述の
図2(a)に示すように、セパレータ30の作製に用いる多孔シートは、例えば、長尺のシート状に形成されている。セパレータ30は、多孔シートを適切な長さに切断し、多孔シートの長手方向に二つ折りにしてその内側に負極20を配置して重ね合せ、両側部
を圧着
(例えばメカニカルシール)又は熱溶着する(例えば、
図4の符号32はメカニカルシール部)。これにより、
図4に示すセパレータ30が得られる。多孔シートを袋状に形成するための接合部(
図4のメカニカルシール部等)が位置ずれ防止部であってもよく、前記接合部と位置ずれ防止部とが異なっていてもよい。前記接合部と位置ずれ防止部とが異なる場合、袋状のセパレータを形成しやすい。
【0067】
ベース部41の厚みT1の上限は、充電受入性能及び放電特性が更に向上する観点から、0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下がより好ましく、0.2mm以下が更に好ましい。ベース部41の厚みT1の下限は、特に制限はないが、短絡を抑制しやすい観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。
【0068】
リブ42の高さ(ベース部41及び正極10の対向方向の高さ)Hの上限は、更に優れた充電受入性能を得る観点から、1.25mm以下が好ましく、1.0mm以下がより好ましく、0.75mm以下が更に好ましい。リブ42の高さHの下限は、正極での酸化劣化を更に抑制する観点から、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上が更に好ましい。
【0069】
ベース部41の厚みT1に対するリブ42の高さHの比率H/T1の下限は、セパレータの耐酸化性に更に優れる観点から、0.5以上であることが好ましい。比率H/T1が0.5以上であると、電極(例えば正極)と接触しない部分を充分に確保できるため、セパレータの耐酸化性が向上すると推測される。比率H/T1の下限は、セパレータの耐酸化性及び生産性に更に優れる観点から、1以上がより好ましく、2以上が更に好ましい。
【0070】
比率H/T1の上限は、リブの形状保持性に優れる観点、及び、短絡を更に抑制する観点から、6以下であることが好ましい。比率H/T1が6以下であると、正極及び負極間の距離が充分であることから短絡が更に抑制されると推測される。また、比率H/T1が6以下であると、鉛蓄電池を組み立てた際にリブが破損することなく、充電受入性能等の電池特性が更に良好に維持されると推測される。比率H/T1の上限は、短絡を抑制しやすい観点、及び、リブの形状保持性に更に優れる観点から、5以下がより好ましく、4.5以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0071】
リブ42の上底幅B(
図2(b)参照)は、リブの形状保持性及び耐酸化性に更に優れる観点から、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜1mmがより好ましく、0.2〜0.8mmが更に好ましい。リブの下底幅Aは、リブの形状保持性に優れる観点から、0.2〜4mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましく、0.4〜1mmが更に好ましい。上底幅Bと下底幅Aの比率(B/A)は、リブの形状保持性に優れる観点から、0.1〜1が好ましく、0.2〜1がより好ましく、0.3〜1が更に好ましい。
【0072】
多孔シート50の厚みT2の上限は、電荷移動抵抗を低減させる観点から、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましく、0.1mm以下が更に好ましい。多孔シート50の厚みT2の下限は、成層化を更に抑制する観点から、0.05mm以上が好ましい。これらの観点から、厚みT2は、0.05〜0.3mmが好ましく、0.05〜0.2mmがより好ましく、0.05〜0.1mmが更に好ましい。
【0073】
多孔シート50の厚みT2に対するベース部41の厚みT1の比率T1/T2の下限は、電荷移動抵抗を低減させる観点、及び、成層化を更に抑制する観点から、0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が更に好ましい。比率T1/T2の上限は、電荷移動抵抗を低減させる観点、及び、成層化を更に抑制する観点から、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
【0074】
セパレータ30の総厚み(多孔シート40の厚みと多孔シート50の厚み(ベース部41の厚み及びリブ42の厚みの合計)との合計)の下限は、浸透短絡及び成層化を更に抑制する観点から、0.6mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、0.8mm以上が更に好ましい。セパレータ30の総厚みの上限は、電荷移動抵抗を低減させる観点から、1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。
【0075】
なお、本実施形態は、第1の多孔シート(多孔シート40)と第2の多孔シート(多孔シート50)との積層シートからなる袋状セパレータに負極が収容される態様に限定されず、例えば、第1の多孔シートからなる袋状セパレータ内に、負極と、枚葉状(袋状ではない)第2の多孔シートとが収容されていてもよい。また、第2の多孔シートが袋状セパレータの外側に配置される場合には、第1の多孔シートからなる袋状セパレータに正極が収容される態様であってもよい。また、第2の多孔シートの少なくとも一部が第1の多孔シート及び負極の間に配置されていてもよく、第2の多孔シートの全体が第1の多孔シート及び負極の間に配置されていてもよい。
【0076】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの製造方法は、第1の多孔シート(多孔シート40)の縁部が第2の多孔シート(多孔シート50)から露出するように前記第1の多孔シートと前記第2の多孔シートとを積層してセパレータを得る積層工程を備える。本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの製造方法は、前記積層工程の後に、位置ずれ防止部(熱溶着部、超音波溶着部、圧着部等)を形成する工程を更に備える態様であってもよい。本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの製造方法は、位置ずれ防止部(接着剤、両面テープ等)を介して前記第1の多孔シートと前記第2の多孔シートとを積層する積層工程を備える態様であってもよい。
【0077】
(正極材)
[正極活物質]
正極材は、正極活物質を含有している。正極活物質は、正極活物質の原料を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成活物質を得た後に化成することで得ることができる。化成後の正極活物質は、α−二酸化鉛(α−PbO
2)を含むことが好ましく、β−二酸化鉛(β−PbO
2)を更に含んでいてもよい。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を用いてもよい。未化成の正極材は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含む未化成の正極活物質を含有することが好ましい。
【0078】
正極活物質の平均粒径は、充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。正極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。正極活物質の前記平均粒径は、化成後の正極材における正極活物質の平均粒径である。正極活物質の平均粒径は、例えば、化成後の正極材の中央部における縦10μm×横10μmの範囲の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)の画像内における全ての粒子の長辺長さ(最大粒径)の値を算術平均化した数値として得ることができる。
【0079】
[正極添加剤]
正極材は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、炭素材料、補強用短繊維(炭素繊維を除く)等が挙げられる。炭素材料としては、炭素質導電材等が挙げられる。炭素質導電材としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。炭素質導電材としては、負極添加剤と同様の材料を用いることができる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。
【0080】
[正極材の物性]
正極材の比表面積の下限は、充電受入性能に更に優れる観点から、3m
2/g以上が好ましく、4m
2/g以上がより好ましく、5m
2/g以上が更に好ましい。正極材の比表面積の上限は、特に制限はないが、実用的な観点及び利用率に優れる観点から、15m
2/g以下が好ましく、13m
2/g以下がより好ましく、12m
2/g以下が更に好ましい。正極材の前記比表面積は、化成後の正極材の比表面積である。正極材の比表面積は、例えば、正極材ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成活物質の段階で活物質を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。
【0081】
正極材の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。具体的には、以下のBET式に基づいて測定する。
【0082】
下記式(1)の関係式は、P/P
oが0.05〜0.35の範囲でよく成立する。なお、式(1)中、各符号の詳細は下記のとおりである。
P:一定温度で吸着平衡状態であるときの吸着平衡圧
P
o:吸着温度における飽和蒸気圧
V:吸着平衡圧Pにおける吸着量
V
m:単分子層吸着量(気体分子が固体表面で単分子層を形成したときの吸着量)
C:BET定数(固体表面と吸着物質との間の相互作用に関するパラメータ)
【0084】
式(1)を変形する(左辺の分子分母をPで割る)ことにより下記式(2)が得られる。測定に用いる比表面積計では、吸着占有面積が既知のガス分子を試料に吸着させ、その吸着量(V)と相対圧力(P/P
o)との関係を測定する。測定したVとP/P
oより、式(2)の左辺とP/P
oをプロットする。ここで、勾配がsであるとすると、式(2)より下記式(3)が導かれる。切片がiであるとすると、切片i及び勾配sは、それぞれ下記式(4)及び下記式(5)のとおりとなる。
【0089】
式(4)及び式(5)を変形すると、それぞれ下記式(6)及び式(7)が得られ、単分子層吸着量V
mを求める下記式(8)が得られる。すなわち、ある相対圧力P/P
oにおける吸着量Vを数点測定し、プロットの勾配及び切片を求めると、単分子層吸着量V
mが求まる。
【0093】
試料の全表面積S
total(m
2)は、下記式(9)で求められ、比表面積S(m
2/g)は、全表面積S
totalより下記式(10)で求められる。なお、式(9)中、Nは、アボガドロ数を示し、A
CSは、吸着断面積(m
2)を示し、Mは、分子量を示す。また、式(10)中、wは、サンプル量(g)を示す。
【0096】
正極材の多孔度は、正極材中の孔に硫酸が入り込む領域が多くなり容量が増加しやすい観点から、50体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。正極材の多孔度の上限に特に制限はないが、正極材中の空孔部への硫酸含浸量が適度あり、活物質同士の結合力を良好に維持できる観点から、70体積%以下が好ましい。多孔度の上限は、実用的な観点から、60体積%以下がより好ましい。正極材の前記多孔度は、化成後の正極材の多孔度である。なお、正極材の多孔度は、例えば、水銀ポロシメーター測定から得られる値(体積基準の割合)である。正極材の多孔度は、例えば、正極材ペーストを作製する際に加える希硫酸量によって調整することができる。
【0097】
(負極材)
[負極活物質]
負極活物質は、負極活物質の原料を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成活物質を得た後に化成することで得ることができる。化成後の負極活物質としては、海綿状鉛(Spongylead)等が挙げられる。前記海綿状鉛は、電解液中の硫酸と反応して、次第に硫酸鉛(PbSO
4)に変わる傾向がある。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。未化成の負極活物質は、例えば、塩基性硫酸鉛、金属鉛、及び、低級酸化物から構成される。
【0098】
負極活物質の平均粒径は、充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。負極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。負極活物質の前記平均粒径は、化成後の負極材における負極活物質の平均粒径である。負極活物質の平均粒径は、例えば、化成後の負極材の中央部における縦10μm×横10μmの範囲の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)の画像内における全ての粒子の長辺長さ(最大粒径)の値を算術平均化した数値として得ることができる。
【0099】
[負極添加剤]
負極材は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、有機化合物;硫酸バリウム;炭素材料;補強用短繊維(炭素繊維を除く)等が挙げられる。補強用短繊維としては、正極添加剤と同様の材料を用いることができる。有機化合物としては、例えば、スルホン基(スルホン酸基、スルホ基)及びスルホン酸塩基(スルホン基の水素原子がアルカリ金属で置換された基等)からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する樹脂(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂)が挙げられる。スルホン基及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する樹脂を負極材が含むことにより、充放電に伴う負極活物質の粗大化を容易に抑制することが可能であり、充電受入性能を更に向上させることができる。
【0100】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、ビスフェノール系樹脂、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。リグニンスルホン酸は、リグニンの分解物の一部がスルホン化された化合物である。リグニンスルホン酸塩としては、例えば、リグニンスルホン酸カリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、充電受入性能が更に向上する観点から、ビスフェノール系樹脂が好ましい。
【0101】
ビスフェノール系樹脂は、ビスフェノール系化合物と、アミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を反応させて得られる樹脂であることが好ましい。なお、ビスフェノール系樹脂は、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有するため、前記反応に用いる化合物のうちの少なくも一種はスルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する。
【0102】
ビスフェノール系化合物は、2個のヒドロキシフェニル基を有する化合物である。ビスフェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下、「ビスフェノールS」という)等が挙げられる。
【0103】
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。アミノ酸誘導体としては、前記アミノ酸のカルボキシル基の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩等が挙げられる。アミノアルキルスルホン酸としては、アミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、2−メチルアミノエタンスルホン酸等が挙げられる。アミノアルキルスルホン酸誘導体としては、アミノアルキルスルホン酸の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、及び、アミノアルキルスルホン酸のスルホン基(−SO
3H)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩などが挙げられる。アミノアリールスルホン酸としては、アミノベンゼンスルホン酸(4−アミノベンゼンスルホン酸等)、アミノナフタレンスルホン酸などが挙げられる。アミノアリールスルホン酸誘導体としては、アミノアリールスルホン酸の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、アミノアリールスルホン酸のスルホン基(−SO
3H)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0104】
ホルムアルデヒド誘導体としては、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、トリオキサン等が挙げられる。
【0105】
ビスフェノール系樹脂は、下記式(I)で表される構造単位、及び、下記式(II)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。
【0106】
【化1】
[式(I)中、X
1は、2価の基を示し、A
1は、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R
11は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
12は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
13及びR
14は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n11は、1〜600の整数を示し、n12は、1〜3の整数を示し、n13は、0又は1を示す。]
【0107】
【化2】
[式(II)中、X
2は、2価の基を示し、A
2は、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R
21は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
22は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
23及びR
24は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n21は、1〜600の整数を示し、n22は、1〜3の整数を示し、n23は、0又は1を示す。]
【0108】
式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。ビスフェノール系樹脂としては、式(I)で表される構造単位、及び、式(II)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0109】
X
1及びX
2としては、例えば、アルキリデン基(メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、sec−ブチリデン基等)、シクロアルキリデン基(シクロヘキシリデン基等)、フェニルアルキリデン基(ジフェニルメチリデン基、フェニルエチリデン基等)などの有機基;スルホニル基が挙げられ、充電受入性能に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(−C(CH
3)
2−)基が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(−SO
2−)が好ましい。X
1及びX
2は、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。X
1及びX
2がシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
【0110】
A
1及びA
2としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜4のアルキレン基;フェニレン基、ナフチレン基等の2価のアリーレン基が挙げられる。前記アリーレン基は、アルキル基等により置換されていてもよい。
【0111】
R
11、R
13、R
14、R
21、R
23及びR
24のアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。n11及びn21は、サイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、5〜300が好ましい。n12及びn22は、充電受入性能、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n13及びn23は、製造条件により変化するが、サイクル特性に更に優れると共にビスフェノール系樹脂の保存安定性に優れる観点から、0が好ましい。
【0112】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)の重量平均分子量は、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂が鉛蓄電池において電極から電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、3000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましく、30000以上が特に好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下して分散性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、200000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、100000以下が更に好ましい。
【0113】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
【0114】
{GPC条件}
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mmol/L)及びトリエチルアミン(200mmol/L)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10
6、5.80×10
5、2.55×10
5、1.46×10
5、1.01×10
5、4.49×10
4、2.70×10
4、2.10×10
4;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10
2;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10
2;キシダ化学株式会社製)
【0115】
炭素材料としては、炭素質導電材等が挙げられる。炭素質導電材としては、正極添加剤と同様の材料を用いることができる。炭素質導電材としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、黒鉛がより好ましく、鱗片状黒鉛が更に好ましい。炭素質導電材の配合量は、満充電状態の負極活物質(海綿状金属鉛等)100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましい。
【0116】
ここで、「鱗片状黒鉛」とは、JIS M 8601(2005)記載のものを指す。鱗片状黒鉛の電気抵抗率は、0.02Ω・cm以下であり、アセチレンブラック等のカーボンブラックの電気抵抗率0.1Ω・cm前後より一桁小さい。従って、従来の鉛蓄電池で用いられているカーボンブラックに替えて鱗片状黒鉛を用いることにより、負極活物質の電気抵抗を下げて、充電受入性能を更に改善することができる。
【0117】
鱗片状黒鉛の平均一次粒径は、100μm以上が好ましい。鱗片状黒鉛の平均一次粒径は、JIS M 8511(2005)記載のレーザ回折・散乱法に準拠して求めることができる。例えば、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用いて、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX−100)を0.5体積%含有する水溶液に鱗片状黒鉛を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行う。求められた平均粒径(メディアン径:D50)の値を平均一次粒径として用いることができる。
【0118】
ISS車、発電制御車、マイクロハイブリッド車等に搭載される鉛蓄電池は、PSOCと呼ばれる部分充電状態で使用される。このような状況下で使用される鉛蓄電池においては、放電の際に負極活物質に生成する絶縁体である硫酸鉛が充放電の繰り返しに伴って粗大化していく、「サルフェーション」と呼ばれる現象が早期に生じる。サルフェーションが生じると、負極活物質の充電受入性能及び放電性能が著しく低下する場合がある。これに対し、負極活物質と炭素質導電材とを併用することにより、硫酸鉛の粗大化が容易に抑制されて硫酸鉛が微細な状態に維持されやすい。これにより、硫酸鉛から鉛イオンが溶け出しやすいため、充電受入性能が高い状態を容易に維持することができる。
【0119】
[負極材の物性]
負極材の比表面積は、電解液と負極活物質との反応性を高める観点から、0.4m
2/g以上が好ましく、0.5m
2/g以上がより好ましく、0.6m
2/g以上が更に好ましい。負極材の比表面積は、サイクル時の負極の収縮を更に抑制する観点から、2m
2/g以下が好ましく、1.8m
2/g以下がより好ましく、1.5m
2/g以下が更に好ましい。負極材の前記比表面積は、化成後の負極材の比表面積である。負極材の比表面積は、例えば、負極材ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成活物質の段階で活物質を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。負極材の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。
【0120】
(集電体)
集電体としては、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子などが挙げられる。集電体の材料としては、例えば、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金及び鉛−アンチモン合金が挙げられる。これらにセレン、銀、ビスマス等を微量添加することができる。例えば、これらの材料を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより集電体を得ることができる。正極及び負極の集電体は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0121】
<鉛蓄電池の製造方法>
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、例えば、電極(正極及び負極)を得る電極製造工程と、前記電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程とを備えている。組み立て工程は、例えば、正極、負極及びセパレータを用いて鉛蓄電池を得る工程である。
【0122】
電極製造工程では、例えば、電極材ペースト(正極材ペースト及び負極材ペースト)を集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極を得る。正極材ペーストは、例えば、正極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。負極材ペーストは、負極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、分散剤として、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)を含有していることが好ましく、他の添加剤を更に含有していてもよい。
【0123】
正極材を得るための正極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。正極材ペーストを作製するに際しては、化成時間を短縮できる観点から、正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を用いてもよい。
【0124】
まず、正極活物質の原料に添加剤(補強用短繊維等)を添加して乾式混合することにより混合物を得る。そして、この混合物に硫酸(希硫酸等)及び溶媒(イオン交換水等の水、有機溶媒など)を加えて混練することにより正極材ペーストが得られる。
【0125】
正極材ペーストを集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の正極を得ることができる。
【0126】
正極材ペーストにおいて補強用短繊維を用いる場合、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.005〜0.3質量%が好ましく、0.05〜0.3質量%がより好ましい。
【0127】
未化成の正極を得るための熟成条件としては、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間が好ましい。
【0128】
負極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、負極活物質の原料に添加剤(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、補強用短繊維、硫酸バリウム等)を添加して乾式混合することにより混合物を得る。そして、この混合物に硫酸(希硫酸等)及び溶媒(イオン交換水等の水、有機溶媒など)を加えて混練することにより負極材ペーストが得られる。この負極材ペーストを集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の負極を得ることができる。
【0129】
負極材ペーストにおいて、有機化合物(ビスフェノール系樹脂等の、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂)、炭素材料、補強用短繊維又は硫酸バリウムを用いる場合、各成分の配合量は下記の範囲が好ましい。有機化合物の配合量(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の場合は、樹脂固形分換算の配合量)は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%が更に好ましく、0.1〜0.3質量%が特に好ましい。炭素材料の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.1〜3質量%が好ましく、0.2〜2.5質量%がより好ましい。補強用短繊維の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.05〜0.15質量%が好ましい。硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。
【0130】
未化成の負極を得るための熟成条件としては、温度45〜65℃、湿度70〜98RH%の雰囲気で15〜30時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜60℃で15〜30時間が好ましい。
【0131】
組み立て工程では、例えば、上述のように作製した未化成の負極及び未化成の正極を、セパレータを介して交互に積層し、同極性の電極の集電部をストラップで連結(溶接等)させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成電池を作製する。次に、未化成電池に電解液を注入した後、直流電流を通電して電槽化成する。化成後の電解液の比重を適切な比重に調整して鉛蓄電池が得られる。
【0132】
電解液は、例えば、硫酸を含有している。電解液は、寿命性能に更に優れる観点から、アルカリ金属イオンを含有していることが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。これらの中でも、浸透短絡を更に抑制できる観点から、ナトリウムイオンがより好ましい。アルカリ金属イオンを含有する電解液は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等のような硫酸塩の粉末と、硫酸とを混合することにより得ることができる。電解液中に溶解させる硫酸塩としては、無水物又は水和物を用いることができる。
【0133】
電解液の化成後の比重は下記の範囲であることが好ましい。電解液の比重は、浸透短絡又は凍結を抑制すると共に放電特性に更に優れる観点から、1.25以上が好ましく、1.26以上がより好ましく、1.27以上が更に好ましく、1.275以上が特に好ましい。電解液の比重は、充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、1.33以下が好ましく、1.32以下がより好ましく、1.315以下が更に好ましく、1.31以下が特に好ましい。電解液の比重の値は、例えば、浮式比重計、又は、京都電子工業株式会社製のデジタル比重計によって測定することができる。
【0134】
電解液がアルカリ金属イオンを含む場合のアルカリ金属イオン濃度は、充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.06mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましい。電解液のアルカリ金属イオン濃度は、充電受入性能及びサイクル特性が更に向上する観点から、電解液の全量を基準として、0.14mol/L以下が好ましい。電解液のアルカリ金属イオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
【0135】
電解液のアルカリ金属イオン濃度が前記所定範囲であることによりサイクル特性が向上するメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、アルカリ金属イオン濃度が前記所定範囲である場合、アルカリ金属がセパレータ内(特に、表層部)に析出しやすいことで、セパレータ内における鉛の析出が容易に抑制され、且つ、析出物が成長しにくいことから、短絡(浸透短絡等)が容易に抑制されることによりサイクル特性が向上すると考えられる。
【0136】
電槽は、内部に電極(極板等)を収納可能な部材である。電槽は、電極を収納しやすい観点から、上面が開放された箱体と、この箱体の上面を覆う蓋体とを有する部材であることが好ましい。なお、箱体と蓋体との接着には、接着剤、熱溶着、レーザ溶着、超音波溶着等を適宜用いることができる。電槽の形状としては、特に限定されるものではないが、電極の収納時に無効空間が少なくなるように方形が好ましい。
【0137】
電槽の材料は、特に制限されるものではないが、電解液(希硫酸等)に対し耐性を有する材料である必要がある。電槽の材料の具体例としては、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂等が挙げられる。材料がPPであると、耐酸性、加工性(ABS樹脂では電槽と蓋の熱溶着が困難)、及び、コストの面で有利である。
【0138】
電槽が箱体及び蓋体により構成される場合、箱体及び蓋体の材料は、互いに同一の材料であってもよく、互いに異なる材料であってもよい。無理な応力が発生しない観点から、熱膨張係数の等しい材料が好ましい。
【0139】
化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程後に実施されることに限られず、電極製造工程における熟成及び乾燥後に実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例】
【0140】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
<試験A:鉛蓄電池用収納袋の作製時の折りずれの評価>
(鉛蓄電池用セパレータの作製)
[実施例1A]
8本のリブ(リブ間隔:9.8mm、リブ幅(上底幅及び下底幅):0.8mm、リブ高さ:0.55mm)並びにミニリブ(リブ間隔:1.0mm、リブ幅(上底幅及び下底幅):0.3mm、リブ高さ:0.2mm)を片面に備えた微孔性ポリエチレン製の長尺シート(以下、「シートA」という。日本板硝子株式会社製の「微多孔シート」。ベース部幅:115mm、ベース部厚み:0.20mm)と、表面(両面)をスルホン基で親水化処理したポリプロピレン製の多孔シート(以下、「シートB1」という。日本バイリーン株式会社製の「不織布」。幅:100mm、厚み:0.1mm、平均細孔径:1μm、目付:40g/m
2)とを準備した。リブ及びミニリブのそれぞれは、シートAの短手方向において互いに略平行に配置されている。ミニリブは、シートAの短手方向の両端部にそれぞれ20本ずつ配置されている。次に、シートAにおけるリブを設けていない面と、シートB1とが当接するように、シートAとシートB1とを重ね合わせて積層シートを得た。そして、設定温度250℃のヒータにて積層シートを挟み込んだ。
【0142】
なお、シートAのベース部幅は115mmであり、シートB1の幅は100mmであり、シートAのおおよそ中央にシートB1が位置されるようにシートB1をシートA上に配置した。すなわち、シートAの両端部がシートB1の両端部よりそれぞれ7.5mmはみ出すようにシートAとシートB1とを配置した。
【0143】
平均細孔径は、水銀ポロシメーター測定から得られる測定結果におけるMedian Pore Diameter (Volume)の値として算出した。水銀ポロシメーター測定の測定条件は以下に示すとおりである。
・装置:株式会社島津製作所製、オートポアIV 9500
・水銀圧入圧:0.51psia
・測定圧力での圧力保持時間:10秒
・試料と水銀との接触角:140°
・水銀の表面張力:485dynes/cm
・水銀の密度:13.5335g/mL
【0144】
ヒータにて挟み込んだ位置は、シートB1の長辺側の両端部からそれぞれ20mmの位置(シートB1の端部から位置ずれ防止部の端部までの距離(最短距離)。シートAの長辺側の両端部からそれぞれ27.5mmの位置)の計2箇所であり、シートAのリブが干渉しない部分を選択した。リブの長手方向がシートB1の長手方向に一致するようにリブは配置されていた。ヒータにて挟み込んだ後、20m/分の速度で積層シートを巻き取りながら、連続的にシートAとシートB1とを部分的に熱溶着(位置ずれ防止手段。位置ずれ防止部の幅(シートAの短手方向における幅。以下同じ):各1.0mm、溶着温度:250℃)により固定して鉛蓄電池用セパレータを得た。なお、鉛蓄電池用セパレータの1枚当たりの面積は235cm
2/枚であった。
【0145】
[実施例2A]
接着剤(位置ずれ防止手段)によりシートAとシートB1とを接着し、鉛蓄電池用セパレータを得た。シートA及びシートB1としては、実施例1Aと同様のシートを使用した。接着剤の構成材料はアタクチックポリプロピレンであった。接着位置は、実施例1Aと同様であった。接着面積は10cm
2/枚であった。
【0146】
[実施例3A]
両面テープ(位置ずれ防止手段)によりシートAとシートB1とを接着し、鉛蓄電池用セパレータを得た。両面テープとしては、基材が紙であり且つ粘着剤がアタクチックポリプロピレンであるテープを使用した。接着位置は、実施例1Aと同様であった。両面テープとしては、アスクル株式会社製の一般作業用両面テープを使用した。両面テープの幅は、10mmであった。
【0147】
[実施例4A]
圧着(位置ずれ防止手段)によりシートAとシートB1とを接着し、鉛蓄電池用セパレータを得た。圧着は、シートAとシートB1とを金属製ギアで挟み込み、ギアを回転させることで行った。接着位置は、実施例1Aと同様であった。
【0148】
[比較例1]
位置ずれ防止手段を用いることなく、シートAと、平均細孔径が40μmである多孔シート(ポリプロピレン不織布。以下、「シートB2」という。両面スルホン化処理、幅:100mm、厚み:0.1mm)とを重ね合わせて、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0149】
[実施例5A]
超音波溶着(位置ずれ防止手段)によりシートAとシートB1とを溶着し、鉛蓄電池用セパレータを得た。超音波溶着は、下記条件で行った。シートA及びシートB1としては、実施例1Aと同様のシートを使用した。超音波溶着部の配置位置は、実施例1Aと同様であった。
{超音波溶着条件}
(1)エネルギー:330J
(2)出力パワー:30W
(3)発振周波数:39.5kHz
(4)出力振幅:80%(前記(1)〜(3)の設定で決まる振幅の80%)
(5)ホーンと溶着部との距離:0.15mm
【0150】
[実施例6A]
シートB1の代わりに、表面(両面)にフッ素ガス処理が施されたポリプロピレン製の多孔シート(以下、「シートB3」という。日本バイリーン株式会社製の「不織布」。幅:100mm、厚み:0.1mm、平均細孔径:40μm、目付:40g/m
2)を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。シートB3の表面は、フッ素ガス処理が施されているため、スルホン基、カルボキシル基及び水酸基を有している。以下のフッ素ガス処理についても同様である。
【0151】
[実施例7A]
シートB1の代わりに、表面(両面)にフッ素ガス処理が施された混合繊維から構成される不織布(多孔シート。パルプ、ガラス繊維及びシリカ粉末を含む混合繊維。以下、「シートB4」という。幅:100mm、厚み:0.1mm、平均細孔径:1μm)を用いたことを除き実施例2Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0152】
[実施例8A]
シートB4の代わりに、シートB4の幅を97mmに変更した不織布(以下、「シートB5」という)を用いたことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0153】
[実施例9A]
シートB4の代わりに、シートB4の幅を111mmに変更した不織布(以下、「シートB6」という)を用いたことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0154】
[実施例10A]
位置ずれ防止部の形成位置を、シートB4の長辺側の両端部からそれぞれ15.5mmの位置(シートAの長辺側の両端部からそれぞれ23mmの位置)へ変更したことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0155】
[実施例11A]
シートB4の代わりに、シートB4の幅を113mmに変更した不織布(以下、「シートB7」という)を用いたことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0156】
[実施例12A]
シートB4の代わりに、シートB4の幅を95mmに変更した不織布(以下、「シートB8」という)を用いたことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0157】
[実施例13A]
シートB1の代わりに、表面処理を施していないガラス繊維から構成される多孔シート(以下、「シートB9」という。幅:100mm、厚み:0.1mm、平均細孔径:1μm)を用いたことを除き実施例2Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0158】
(位置ずれ評価)
金属製ギアを用いて、
図4に示すように、実施例1A〜13A及び比較例1の鉛蓄電池用セパレータ(多孔シート付き微孔シート)にメカニカルシールを形成して鉛蓄電池用負極収納袋を作製した際のシートA及びシートB1〜B9の位置ずれの有無を評価した。不織布が負極収納袋の内側に位置するように調整した。鉛蓄電池用負極収納袋を作製した数(n数)は、実施例1A〜13A及び比較例1のそれぞれにおいて100とした。位置ずれの有無は、目視で判断した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
表1及び表2から明らかなように、実施例1A〜13Aでは、位置ずれ防止手段を用いることにより位置ずれの発生数が皆無であったが、比較例1では、位置ずれが23%も発生した。これは、シートAとシートB1〜B9との位置ずれを防止する手段が施されていないためと考えられる。
【0162】
<試験B:電池性能の評価>
(鉛蓄電池用セパレータの作製)
[実施例1B]
実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0163】
[実施例2B]
多孔シートとしてシートB2を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0164】
[実施例3B]
多孔シートとして、平均細孔径が80μmである多孔シート(ポリプロピレン不織布。以下、「シートB10」という。両面スルホン化処理、幅:100mm、厚み:0.1mm)を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0165】
[実施例4B]
多孔シートとして、平均細孔径が100μmである多孔シート(ポリプロピレン不織布。以下、「シートB11」という。両面スルホン化処理、幅:100mm、厚み:0.1mm)を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0166】
[実施例5B]
多孔シートとして、平均細孔径が200μmである多孔シート(ポリプロピレン不織布。以下、「シートB12」という。両面スルホン化処理、幅:100mm、厚み:0.1mm)を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0167】
[実施例6B]
比較例1において位置ずれしなかった鉛蓄電池用負極収納袋(袋状の二重セパレータ)を準備した。
【0168】
[実施例7B]
多孔シートとして、平均細孔径が40μmである多孔シート(ポリプロピレン不織布。以下、「シートB13」という。両面フッ素ガス処理、幅:100mm、厚み:0.1mm)を用いたことを除き実施例1Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0169】
[実施例8B]
実施例8Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0170】
[実施例9B]
実施例12Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0171】
[実施例10B]
実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0172】
[実施例11B]
位置ずれ防止部の幅を0.4mmに変更したことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0173】
[実施例12B]
位置ずれ防止部の幅を1.5mmに変更したことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0174】
[実施例13B]
位置ずれ防止部の幅を1.6mmに変更したことを除き実施例7Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0175】
[実施例14B]
多孔シートとしてシートB9を用いたことを除き実施例2Aと同様にして、鉛蓄電池用セパレータを得た。
【0176】
[参考例1]
比較例1において位置ずれした鉛蓄電池用負極収納袋(袋状の二重セパレータ)を準備した。
【0177】
(鉛蓄電池の作製)
[正極板の作製]
正極活物質の原料として鉛粉及び鉛丹(Pb
3O
4)を用いた(鉛粉:鉛丹=90:3.9(質量比))。正極活物質の原料と、正極活物質の原料の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを混合して混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、正極材ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの正極材ペーストを充填した。次いで、正極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の正極板を作製した。
【0178】
[負極板の作製]
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。ビスパーズP215(ビスフェノール系化合物とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、日本製紙株式会社製、商品名)を0.2質量%(固形分換算)、補強用短繊維(アクリル繊維)を0.1質量%、硫酸バリウムを1.0質量%、炭素材料(鱗片状黒鉛(粒径180μm))を2質量%含む混合物を前記鉛粉に添加した後に乾式混合した(前記配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)。次に、水を加えた後に混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、負極材ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの負極材ペーストを充填した。次いで、負極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の負極板を作製した。
【0179】
[電池の組み立て]
実施例1B〜5B,7B〜14Bの鉛蓄電池用セパレータの長手方向の中央において長手方向に折り目をつけて断面U字状に折り曲げた後、未化成の負極板を断面U字状の空間の内側に配置した。そして、折り曲げ部に隣接する両側部をそれぞれメカニカルシールによってシールして、袋状の二重セパレータ(内側:不織布、外側:ポリエチレン製セパレータ)を得た。不織布が負極収納袋の内側に位置するように調整した。続いて、実施例1B〜14B及び参考例1の袋状の二重セパレータに未化成の負極板を収納した。さらに、袋状の二重セパレータに入った未化成の負極板6枚と、未化成の正極板5枚とを交互に積層した。
【0180】
続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。極板群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS D 5301規定のB19サイズの単セルに相当)を組み立てた。化成後の仕上がり状態の電解液(希硫酸)に含まれるナトリウムイオン濃度が0.1mol/Lになるように硫酸ナトリウムを溶解させた比重1.210の希硫酸をこの電池に注入した。その後、40℃の水槽中、通電電流10Aで20時間の条件で化成して鉛蓄電池を得た。化成後の電解液の比重は1.280(20℃換算)であった。なお、参考例1では、化成することができず、鉛蓄電池を得ることができなかった。
【0181】
(電池性能の評価)
これらの鉛蓄電池について、充電受入性能、5時間率容量、放電特性、成層化の抑制効果、及び、寿命サイクル数を評価した。結果を下記表3及び表4に示す。各測定の測定方法を下記に示す。
【0182】
[充電受入性能]
25℃の恒温槽の中で、組み立て初期の鉛蓄電池のSOC(充電状態)を満充電状態の90%に調整した後、2.33Vの充電電圧の印加(但し、2.33Vに達する前の電流を100Aに制限)開始時から5秒目の充電電流値(5秒目充電電流値)を計測した。5秒目充電電流値が高い場合ほど、初期の充電受入性能が高いことを意味する。充電受入性能は、実施例1Bの測定結果を100として相対評価した。
【0183】
[5時間率容量]
作製した電池において、25℃、6Aで定電流放電し、セル電圧が1.75Vを下回るまでの放電持続時間に基づき5時間率容量を算出した。5時間率容量は、実施例1Bの測定結果を100として相対評価した。
【0184】
[放電特性]
放電特性として、−15℃において5Cで定電流放電し、電池電圧が1.0Vに達するまでの放電持続時間を測定した。放電持続時間が長いほど放電特性に優れる電池であると評価される。なお、前記Cとは、満充電状態から定格容量を定電流放電するときの電流の大きさを相対的に表したものである。例えば、定格容量を1時間で放電させることができる電流を「1C」、2時間で放電させることができる電流を「0.5C」と表現する。放電特性は、実施例1Bの測定結果を100として相対評価した。
【0185】
[成層化の抑制効果及び寿命サイクル数]
鉛蓄電池を25℃の雰囲気に保持しつつ、(i)放電電流45Aで59秒放電、(ii)放電電流300Aで1秒放電、(iii)充電電圧2.33V(制限電流100A)で定電流定電圧充電の(i)〜(iii)を1サイクルとするサイクル試験を3600回繰り返した(電池工業会規格:SBAS0101)。3600回目における電解液上部と下部の比重を測定し、この比重の差によって成層化の抑制効果を評価した。数値が小さいほど、成層化を抑制できることを意味する。また、サイクルを継続し、電池電圧が1.2Vまで低下するまでのサイクル数を寿命サイクル数として評価した。
【0186】
【表3】
【0187】
【表4】
【0188】
充電受入性能に着目すると、多孔シートの平均細孔径が大きいほど、充電受入性能が向上することが確認できる。これは、多孔シートの平均細孔径が大きいことで、硫酸イオンの移動が阻害されにくいためと考えられる。成層化の抑制効果に着目すると、多孔シートの平均細孔径が小さいほど、成層化の抑制効果が向上することが確認できる。これは、多孔シートの平均細孔径が小さいことで、硫酸イオンを保持する性能が向上するためと考えられる。寿命サイクル数に着目すると、成層化の抑制効果が高いほど、寿命サイクル数が大きいことが確認できる。なお、実施例2A〜6A、9A〜11A、13Aの鉛蓄電池用セパレータを用いて実施例1Bと同様に鉛蓄電池を作製した後に寿命サイクル数を評価した結果、実施例1Bと同等の評価結果が得られた。