【文献】
William T. ,Precipitation of arsenic as Na3AsS4 from Cu3AsS4-NaHS-NaOH leach solutions,Hydrometallurgy,ELSEVIER,2010年 7月22日,Volume 105, Issues 1-2,P.42-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、砒素を回収する従来技術が存在するものの、更なる回収率の向上が望まれる。特に、浸出後の液において、砒素を更に効率よく析出させるための技術が望まれる。これに鑑みて、本発明は、従来よりも回収率を向上させた砒素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、回収時にNaHSを添加すると、砒素がより良好に析出し、回収効率を向上させることができることを見出した。こうした知見に基づき本発明は以下の発明を包含する。
(発明1)
砒素を回収するための方法であって:
・砒素を含むアルカリ溶液に対して、NaHSを添加する第1工程と、
・前記溶液を冷却し、それによって砒素化合物を析出させる第2工程と、
・砒素化合物と析出後溶液とに分離し、それによって砒素化合物を回収する第3工程と
を含み、
前記砒素を含むアルカリ溶液が、砒素を含む銅鉱の浸出後液であ
り、
前記第1工程前に、前記浸出後液にAs2S3を、砒素濃度を35g/L以上に上げるため添加しない、方法。
(発明2)
砒素を回収するための方法であって:
・砒素を含むアルカリ溶液に対して、NaHSを添加する第1工程と、
・前記溶液を冷却し、それによって砒素化合物を析出させる第2工程と、
・砒素化合物と析出後溶液とに分離し、それによって砒素化合物を回収する第3工程と
を含み、
砒素を含むアルカリ溶液が、砒素を含む銅鉱の浸出後液であり、
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記アルカリ溶液に元素硫黄及び/又はアンチモンを添加しない、方法。
(発明
3)
発明1
または2に記載の方法であって、
前記砒素を含むアルカリ溶液が、砒素を含む銅鉱の浸出後液であり、
前記方法は、析出後溶液を浸出液として再利用する第4工程を更に含む、
方法。
(発明
4)
発明
3に記載の方法であって、前記第1工程が、NaOHを更に添加する工程を含み、前記方法が、前記第1工程〜第4工程を繰り返すことを含む、該方法。
(発明
5)
発明
3又は
4に記載の方法であって、前記銅鉱が硫砒銅鉱である、該方法。
(発明
6)
発明1
または2に記載の方法であって、
前記砒素を含む溶液が、砒素を含む廃液である該方法。
(発明
7)
発明1〜
6いずれか1つに記載の方法であって、前記第1工程において、NaHSを、溶液1リットルあたり30〜250g添加する、該方法。
(発明
8)
砒素を回収するための方法であって:
・砒素を含む銅鉱から砒素を浸出させて浸出後液を得る工程Aと、
・前記浸出後液に対して、NaOH及びNaHSを添加する工程Bと、
・前記溶液を冷却し、それによって砒素化合物を析出させる工程Cと、
・砒素化合物と析出後溶液とに分離し、それによって砒素化合物を回収する工程Dと、
・析出後溶液を浸出液として再利用する工程Eと
を含み、
前記工程BのNaOH及びNaHSの添加量を、工程Aにおける浸出反応に関与する少なくとも1つの元素量の変化に基づいて決定
し、
前記工程Aと前記工程Bとの間に、前記浸出後液にAs2S3を、砒素濃度を35g/L以上に上げるため添加しない、該方法。
(発明9)
砒素を回収するための方法であって:
・砒素を含む銅鉱から砒素を浸出させて浸出後液を得る工程Aと、
・前記浸出後液に対して、NaOH及びNaHSを添加する工程Bと、
・前記溶液を冷却し、それによって砒素化合物を析出させる工程Cと、
・砒素化合物と析出後溶液とに分離し、それによって砒素化合物を回収する工程Dと、
・析出後溶液を浸出液として再利用する工程Eと
を含み、
前記工程BのNaOH及びNaHSの添加量を、工程Aにおける浸出反応に関与する少なくとも1つの元素量の変化に基づいて決定し、
前記工程Bと前記工程Cとの間に、前記アルカリ溶液に元素硫黄及び/又はアンチモンを添加しない、該方法。
(発明
10)
発明
8または9に記載の方法であって、前記工程BのNaOH及びNaHSの添加量を、銅鉱内及び/又は浸出液内のAsの変化量に基づいて決定する、該方法。
(発明
11)
発明
8〜10いずれか1つに記載の方法であって、NaOH及びNaHSの添加量が、前記工程AでのNaOH及びNaHSの消費量の±30%の範囲の量を添加する、該方法。
(発明1
2)
発明
8〜
11いずれか1つに記載の方法であって、工程Bにおける添加後のNaHSの濃度が2.5M以上、NaOHの濃度が2.5M以上である、該方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面では、砒素を含む溶液から、砒素を析出させる際に、NaHSを添加している。これにより、従来の添加物質では達成できなかった、砒素の高い収率を達成できる。
【0010】
本発明の別の一側面では、砒素を析出させて回収した後の析出後溶液を、新たな浸出処理に利用する。こうした再利用は工業上有益である。
【0011】
本発明の別の一側面では、砒素を析出させて回収する際に、NaHSのみならず、NaOHも添加する。NaOHを添加しないで浸出液として再利用した場合、再利用の回数が増えるほど浸出成績が悪くなる。しかし、NaOHを添加することにより、浸出液として再利用した際の浸出成績を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、具体的な実施形態を説明する。これらの説明は、本発明の理解を促進するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0014】
1.用途
本発明は、砒素を含む溶液に対して使用することができる。例えば、工業用の廃水や、銅精錬の過程で使用した電解後液には砒素が多分に含まれている。こうした溶液はそのまま廃棄すれば環境に悪影響を及ぼす。従って、溶液中の砒素を安全な形で回収することが必要となる。
【0015】
本発明の用途として、典型的には、砒素を含む銅鉱石(例えば硫砒銅鉱)から砒素を浸出させた浸出後液が挙げられる。浸出後液には、Na
3AsS
4の形態で砒素が含まれる。当該典型例を用いて、
図1を適宜参照しながら以下本発明の一実施形態を説明する。
【0016】
2.浸出工程(図1、「ヒ素浸出」)
銅の精錬には、砒素を含む銅鉱石を用いる場合がある。しかし、こうした銅鉱石を用いると、有害な砒素が生じるため、銅の精錬を行う前に砒素を除去する必要がある。銅鉱石から砒素を除去する方法として、砒素を浸出させる方法がある。
【0017】
2−1.銅鉱石(図1、「含ヒ素銅精鉱」)
鉱石の種類は、砒素を含む物(含ヒ素銅精鉱)であれば特に限定されない。典型的には、硫砒銅鉱(エナジャイト)や砒四面銅鉱(テナンタイト)などが挙げられる。硫砒銅鉱はCu
3AsS
4の形態で砒素を含む。
【0018】
2−2.浸出液
銅鉱石から砒素を浸出させる際には、銅鉱石に水を添加してパルプスラリーにすることができる。そして、パルプスラリーを浸出液に投下して、後述するパルプ濃度になるよう調節することができる。
【0019】
浸出に用いる溶液の成分は、例えば、以下の通りであってもよい。
NaOH 100〜300g/L(典型的には100〜150g/L)
NaHS 100〜300g/L(典型的には100〜150g/L)
パルプ 100〜800g/L(典型的には300〜600g/L)
【0020】
浸出液の中では、以下のような反応が起こり、溶液中に砒素が浸出すると考えられる。
2Cu
3As(V)S
4+3NaHS+3NaOH
→2Na
3As(V)S
4+3Cu
2S+3H
2O
【0021】
2−3.浸出条件
また、上記浸出液は、特に限定されないが以下のような条件で使用して、浸出反応を進行させることができる。
温度 50〜95℃(典型的には70〜90℃)
時間 1〜10時間(典型的には3〜7時間)
浸出液は、アルカリ性であることが好ましく、百倍希釈時にて、典型的にはpHが11以上であり、より好ましくは、12.5〜13.5である。
【0022】
2−4.浸出反応後(図1、「浸出後液」)
浸出反応を実行した後、浸出後液に対して濾過を行い、固液分離を行う。固体には、銅精鉱が含まれ、この銅精鉱においては大部分の砒素が除去される。そして、この銅精鉱を用いて銅精錬を行うことができる。一方、液体には、除去された(浸出した)砒素が含まれる。このような工程で得られた砒素を含む溶液から、次に述べる工程で砒素を析出させた状態で回収することができる。
【0023】
3.砒素化合物析出工程(図1、「析出工程」)
本発明は、砒素を回収する方法に関する。より具体的な一実施形態において、本発明は、砒素を含む溶液から砒素を回収する方法に関する。
【0024】
溶液中の砒素の形態は、特に限定されない。上記典型例の場合(浸出後液)には、溶液中の砒素は、Na
3As(V)S
4の形態で存在する。溶液中の砒素は、5価状態の化合物でも、3価状態の化合物でもよい。砒素の酸化状態が、3価の場合には、酸化剤などで5価に変換してから、後述する本発明の砒素化合物の析出工程を実行することができる。
【0025】
3−1.添加成分(NaHS)(図1、「添加試薬」)
析出工程においては、砒素を含む溶液に、NaHSを添加する。この時に、溶液中のNaHSの最終濃度が100〜300g/L(好ましくは200〜250g/L)になるように添加することできる。より好ましくは、140g/L以上になるように添加することができる。これにより良好に析出工程が進行する。更に好ましい実施形態においては、NaHSの最終濃度が、100〜250g/L(好ましくは140〜200g/L)になるように添加することができる。これにより、添加成分自体の析出を低減することができる。そして、析出した添加成分が、析出した砒素化合物に混入することを抑制することができる。実際には、浸出反応時のNaHSが残存しているため、析出工程においては、浸出後液1リットルあたりに、10〜250g、好ましくは30〜250g(更に好ましくは、50〜250g)添加することができる。
【0026】
従来技術(特許文献3)においては、溶液中の砒素を結晶化させるため、単体硫黄を添加している。しかし、本発明で用いるNaHSは、単体硫黄と比べて回収率がよい。また、他の硫黄化合物、例えば、硫化ヒ素と比べても回収率がよい。従って、NaHSによる良好な回収率は、硫黄の酸化数とは別の機構により達成されると考えられる。
【0027】
本発明は、以下の理論に基づいて限定されることを意図しないが、添加成分NaHSは、以下のメカニズムで、砒素化合物の析出に寄与する可能性がある。
浸出後の溶液中では、砒素化合物が以下の平衡式に基づいて溶解している。
3Na
+ + As
5+ + 4S
2- = Na
3AsS
4
また、NaHSを添加すると、溶液中でNa
+とHS
-を生じる。HS
-はOH−と反応してS
2-を生成する可能性があり、更には、このS
2-(及び/又は前記Na
+)の存在により、上記平衡式に基づいて作用し、Na
3AsS
4の析出を促進する可能性がある。
【0028】
3−2.添加成分溶解の条件(図1、「試薬溶解」)
浸出後液に、添加成分を添加する際には以下の条件で溶解させる。
温度 25〜95℃(典型的には60〜90℃)
時間 0.5〜5時間(典型的には1〜2時間)
浸出後液は、アルカリ性であることが好ましく、
百倍希釈時にて、典型的にはpHが11以上であり、より好ましくは、12.5〜13.5である。なお、試薬を添加する方法については、浸出後液に固体状の試薬を直接添加して、溶解させてもよいが、この方法に限定されるわけではない。例えば、試薬が溶解している濃縮溶液と、浸出後液とを混合してもよい。
【0029】
3−3.冷却工程(図1、「冷却」)
上記添加成分を溶解させた後、浸出後液を以下の条件に従って冷却することができる。これにより、溶液中の砒素化合物を析出・沈殿させることができる。
温度 5〜40℃(典型的には20〜30℃)
時間 0.5〜20時間(典型的には1〜5時間)
【0030】
3−4.砒素回収工程(図1、「固液分離」「ヒ素化合物回収」)
沈殿した砒素化合物は、固液分離を通して、固体形態で回収することができる。固液分離は濾過などの手段で行うことができる。
【0031】
3−5.その他の添加成分(図1、「添加試薬」)
析出工程において、他に添加可能な成分として、NaOHが挙げられる。NaOHは、添加後の溶液中の最終濃度が100〜150g/L(更に好ましくは、100〜130g/L)となるように添加することができる。これにより、析出が一層良好に進行する。更に好ましい実施形態においては、NaOHの最終濃度が、90〜160g/L(好ましくは100〜140g/L)になるように添加することができる。これにより、添加成分自体の析出を低減することができる。そして、析出した添加成分が、析出した砒素化合物に混入することを抑制することができる。実際には、浸出反応時のNaOHが残存しているため、析出工程においては、浸出後液1リットルあたりに、20〜100g(好ましくは、40〜70g)添加することができる。
【0032】
4.砒素を回収した後の溶液の再利用(図1、「析出後液」)
また、NaHSは浸出液に含まれる成分なので、そのまま浸出液として再利用できる。もし、従来のように析出工程で単体硫黄を用いた場合には、そのまま浸出液として再利用できない。従って、このような点で、有利である。
【0033】
5.浸出後液の再利用の繰り返し
また、NaOHもNaHSと同様、浸出液に含まれる成分である。従って、析出工程において、NaOHとNaHSの両方を添加した場合にも、そのまま浸出液として再利用できる。また、析出工程でNaOHを添加することの利点として、再利用の回数を重ねても浸出成績を維持できるという点が挙げられる。より具体的に説明すると、析出工程でNaOHを添加しないで再利用を繰り返すと、再利用回数が増加するたびに、砒素の浸出成績が落ちてくる。しかし、析出工程でNaOHを添加すると、再利用回数が増加しても、砒素の浸出成績を維持することができる。
【0034】
6.NaOH及びNaHSの添加量の最適化
6−1.添加後のNaOH及びNaHSの濃度
上述したように、析出工程の前に、浸出後液に添加するNaOHやNaHSの量は、適宜設定することができる。しかし、好ましい実施形態においては、NaOHやNaHSの量は、浸出後液における最終濃度が特定の濃度以上になるように添加するのが望ましい。また、添加後の両者の濃度を2.5M以上にしておくことで、析出後の液を浸出工程に繰り返し使用する際に、銅鉱石からのAs浸出速度を高めた状態でAsの浸出工程を開始することができる。この場合の上限値については、特に規定されないが、典型的には、3.5M以下であってもよい。
【0035】
NaOH及びNaHSの添加量が多ければ多いほど、析出反応が進行すると考えられる。しかし、その一方で、過剰な添加は、溶解しきれないNaOH及びNaHSが溶液中に存在することを引き起こす可能性がある。あるいは、一旦溶解したNaOH及びNaHSが再析出する可能性が高くなる。
【0036】
こうした溶解しきれない及び/又は再析出したNaOH及びNaHSが、析出した砒素化合物に混入するのは望ましくない。こうした混入を防ぐという目的から、NaOH及びNaHSの過剰な添加は避けることが好ましい。典型的には、浸出反応開始時の浸出液のNaOH及びNaHSと同程度の最終濃度になるように添加することが好ましい。これにより、析出を最大限良好に進行させることができ、且つ砒素化合物が析出する際に、NaOH及びNaHSの混入を抑制することができる。
【0037】
6−2.浸出反応に関与する元素の変化量に基づく算出方法
上述したように、硫砒銅鉱の場合、以下の浸出反応が起こると考えられる。
2Cu
3As(V)S
4+3NaHS+3NaOH
→2Na
3As(V)S
4+3Cu
2S+3H
2O
即ち、鉱石内のCu
3As(V)S
4が浸出反応して、溶液中にNa
3As(V)S
4の化合物として(実際には分離イオンとして)存在することになる。そして、上記反応に関与する元素の変化量を測定することで、浸出反応で消費されたNaHS及びNaOHの量を算出することができる。例えば、溶液中のAsの量を測定することで、浸出反応のために消費されたNaHS及びNaOHの量を推定することができる。例えば、浸出反応の前後で溶液中のAs濃度の変化量がΔ2mol/Lである場合、NaOHやNaHSの消費量は、両者とも3mol/Lと推定できる。別の例では、鉱石内のAsの量を測定することで、浸出反応のために消費されたNaHS及びNaOHの量を推定することができる。
【0038】
元素量の分析については、特に限定されないが、原子吸光分光法、ICP−AES、ICP−MS、ボルタンメトリー、蛍光X線分析法(XRF)、吸光光度法等が挙げられる。特に好ましいのは、迅速分析が可能な手法である(例:XRF)。
【0039】
また、砒四面銅鉱の場合には、以下の浸出反応が起こると考えられる。
Cu
12As
4S
13(s)+6NaHS(aq)+6NaOH(aq)→5Cu
2S(s)+2CuS(s)+4Na
3AsS
3(aq)+6H
2O(l)
従って、上記反応式と、浸出反応の前後に溶液中のAsの変化量とに基づいて、消費されたNaHS及びNaOHの量を算出することができる。
【0040】
以上のように、浸出する鉱石の種類と、関連元素の変化量に基づいて、消費されたNaOH及びNaHSの量を算出することができる。そして、浸出後且つ析出反応開始前には、消費されたNaOH及びNaHSに相当する量を、添加することができる。言うまでもないことであるが、消費された量と必ずしも同じ量を添加する必要はなく、多少の増減は許容可能である。例えば、算出された消費量(モル数又はグラム数)に対して、±30%、±25%、±10%、±5%、±3%、±1%、又は±0.5%の範囲で異なる量の添加を許容できる。
【0041】
実際には、固液分離などの操作によっても、NaOH及び/又はNaHSのロスが生じる可能性がある(例えば、NaOH及び/又はNaHSがフィルターに吸着したり、浸出残渣に浸出後液が付着するなど)。従って、浸出反応時に消費されたNaOH及び/又はNaHSの量を算出したあとで、当該算出された値よりも多い量を添加することもできる。別の実施形態において、浸出残渣を、洗浄液で洗浄し、洗浄後液に含まれる、元素量(例えば、上述したAsやCu)を測定することができる。浸出後液中の元素量と、洗浄後液中の元素量の割合から、回収ロス量を算出する。そして、当該回収ロス量を考慮することで、浸出後液中のNaOH及び/又はNaHSの濃度をより正確に算出することができる。
【0042】
このように、析出工程を開始する際には、浸出反応時に消費されたNaOH及びNaHSの量をある程度補う態様で、NaOH及びNaHSを添加することが好ましい。これにより、溶解しきれない及び/又は再析出したNaOH及びNaHSが、析出した砒素化合物に混入することを抑制できる。また、必要以上のNaOH及びNaHSの添加を回避できるためコストの観点からも望ましい。さらに言えば、関連元素濃度を測定すること自体は、簡単な方法で行うことができるため(例:ICP発光分光分析装置、蛍光X線(XRF)など)、NaOHやNaHSの消費量を直接測定する方法に比べて優れている。
【0043】
6−3.NaOH及びNaHS添加後
上述した実施形態と同様、NaOHをNaHSを添加した後は、砒素化合物が析出するのを待って、回収することができる。また、添加物の溶解条件や冷却工程の条件は上述と同様の条件であってもよい。そして、析出した砒素化合物の回収についても同様であってもよい。さらに、回収後に残った溶液を、浸出工程に再利用することができる。
【実施例】
【0044】
上述した実施形態について、さらに具体的な実施例を説明する。
【0045】
砒素の回収成績については、溶液中のAs濃度を測定することによって評価した。溶液中のAsの濃度変化は、ICP発光分光分析装置(ICP−AES、セイコーインスツル株式会社製、SPS7700)で測定した。
【0046】
7.実施例1(NaHSを用いた砒素の回収)
硫砒銅鉱に水を加えパルプスラリーを作製した。これを用いて、以下の条件で浸出処理を行った。
パルプ濃度 740g/L
NaHS濃度 150g/L
NaOH濃度 100g/L
温度 80℃
時間 5時間
【0047】
上記浸出工程の後、浸出液を濾過し、固液分離を行った。液体側を浸出後液とし、浸出後液中のAs濃度を測定した(この時点でのAs濃度を「前液As濃度」と呼ぶ)。その後、該浸出後液を析出工程にかけた。具体的には、
図2の添加量で、浸出後液に試薬等を添加した。そして、温度90℃で1時間、撹拌して試薬を溶解させた。なお、
図2に記載の添加量の数値は、最終濃度ではなく、浸出後液1リットルに対して添加した試薬の重量を表す(
図3及び
図4に記載したNaHS及びNaOHの添加量についても同じ)。例えば、
図2の実施例1の硫黄20g/Lは、硫黄の最終濃度ではなく、浸出後液1リットルに対して20gの硫黄を添加したことを意味する。
【0048】
その後、溶液を20℃になるように冷却し、10時間放置した。そして、再度溶液中のAs濃度を測定した(この時点でのAs濃度を「後液As濃度」と呼ぶ)。そして、「前液As濃度」から「後液As濃度」を引いた値を、析出成績としてのAs濃度差とした。溶液中の砒素化合物が析出した場合には、「後液As濃度」の値が「前液As濃度」の値よりも小さくなるので、As濃度差の値は+となる。従って、As濃度差の値が大きいほど良好に砒素化合物が析出したことを示す。
【0049】
結果を
図2に示す。添加量の欄には、浸出後液に添加する成分及び、該成分を添加した重量(1リットルあたり)を記載した。No.1では、硫黄のみを析出工程で添加した。しかし、濃度差は殆どゼロであり、回収は実質不調であった。No.2及びNo.3では種結晶を添加したが、No.1と同様に回収は実質不調であった。
【0050】
No.4では、NaHSを添加した例であり、析出工程の前後で有意な濃度差(Δ10g/L)が見られた。これは、析出工程で、析出した砒素が得られたことを示す。特にNo.2で回収が不調であったことと対比すると、浸出時にもともと含まれるNaHSだけでは、析出工程において析出させることが困難であることが理解できる。従って、析出工程でNaHSを添加することが重要であることが理解できる。また、No.5では、NaHSの代わりに、三硫化二ヒ素(As
2S
3)を添加した。この場合も、回収が不調であり、むしろ、添加前よりも、溶液中のAs濃度が増加していた。
【0051】
8.実施例2(析出後液の再利用)
次に、砒素が析出した後の溶液を、再度浸出に用いる実験を行った。初回の浸出については、実施例1に記載した条件で浸出した。その後、実施例1に記載の条件で析出工程を行った。ただし、析出工程で添加したのはNaHS(100g/L)のみとした。そして、試薬の溶解及び冷却を行った。冷却後、析出した砒素化合物を分離し、溶液をそのまま(即ち、新たに試薬を添加することなく)再度浸出処理に用いた。この時の浸出処理では、パルプ濃度740g/L、温度80℃の条件で5時間行った。以下同様の手順を繰り返した。
【0052】
結果を
図3に示す。1回目の再利用においては、浸出後液中の砒素濃度が31g/Lとなった。そして、その後、浸出後液を析出工程(100g/LのNaHSを添加)にかけ、濃度差19g/Lに相当する分の砒素を析出させて回収できた(よって、析出後液中の砒素濃度は12g/L)。その後、析出後の液を再度浸出工程に再利用し(再利用2回目)、浸出後液中の砒素濃度が22g/Lとなった。よって、砒素濃度10g/L分を新たな浸出処理で浸出できた。このように、析出後の溶液は、浸出液として再利用できることが分かる。
【0053】
つぎに、砒素濃度10g/L分を新たな浸出処理で浸出できた後、再度析出工程(100g/LのNaHSを添加)にかけた。そして、濃度差14g/Lに相当する分の砒素を析出させて回収できた(析出後液中の砒素濃度は9g/L)。析出後再度浸出処理に再利用したところ、浸出後の砒素濃度は10g/Lであった。従って、新たに浸出されたのは砒素濃度1g/L分に相当する量であった。このように、再利用を繰り返すと、砒素を浸出させる能力が低下する傾向がみられた。
【0054】
9.実施例3(析出後液の再利用、NaOHが有ると浸出効果が維持される)
そこで、実施例2と同様の試験を行う際に、析出工程においてNaHSのみならずNaOHを添加した。そして、析出後の液を浸出工程に再利用し、これを何度か繰り返した。その結果を
図4に示す。
【0055】
実施例2では、3回目の再利用において、浸出能力が、砒素濃度1g/L分にまで低下していた。しかし、析出工程においてNaOHを添加した実施例3では、3回目以降であっても浸出能力を維持できた。例えば、3回目では26g/L、4回目では24g/L、5回目では25g/Lの砒素濃度に相当する分の浸出能力を維持していた。このように、析出工程において、NaOHを添加することで、浸出能力が維持されることが示された。
【0056】
10.実施例4(模擬浸出後液を用いた砒素化合物の析出)
浸出後液を模した溶液を調製した。具体的には、砒素濃度が30g/Lとなるように、砒素源としてメタ亜ヒ酸ナトリウム(NaAsO
2)を溶解させた。該溶液を60℃までホットスターラーにより加熱した後、液中の砒素と同モル濃度に相当する単体硫黄を添加、溶解し、砒素の価数をV価とした(下式の反応を参照)。
・NaAsO
2+H
2O→As(OH)
3+NaOH
・As(OH)
3+3NaHS→Na
3AsS
3+3H
2O
・Na
3AsS
3+S→Na
3AsS
4【0057】
そして、NaOH及びNaHSを、2.5M、3.0M、3.5Mとなるように調整しながら添加した。その後20℃まで氷水で冷却した。0.5時間後、析出した際にはろ過を行った。ろ過後液を分析し、砒素濃度を測定した。結果を、
図5に示す。NaOH及びNaHSの濃度が高いほど、溶液中の砒素濃度が低下する傾向が見られた(即ち、砒素化合物がより多く析出した)。そして、NaOH及びNaHSの両方が2.5M以上となると、溶液中の砒素濃度を20g/L以下にまで低下させることができた。
【0058】
11.実施例5(浸出・回収の繰り返し試験)
実施例1と同様の条件で浸出処理を行った。ただし、初回の浸出反応時のNaOHは3.1M、NaHSは3.2Mとした。浸出処理後は、固液分離を行い、浸出後液を得た。一方、固体側(浸出残渣側)の方は、洗浄液で洗浄した。これにより、固液分離の際に浸出残渣側に付着したNa
3As(V)S
4を回収した。また、浸出処理の前後で、XRFを用いた迅速分析(SII(セイコーインスツル)社のSEA1200VX)により、パルプスラリー内の砒素の品位、及びパルプの重量変化を測定した。ここから砒素の浸出量を算出した。また、浸出処理後は、砒素浸出量に基づいて、NaOH及びNaHSの消費量を算出した。次に、浸出後液及び洗浄液内の砒素濃度をICP−AESにより測定した。これにより、浸出残渣側に残存したNa
3As(V)S
4を算出した。これにより、Na
3As(V)S
4の回収ロス量を算出した。浸出前のNaOH及びNaHS濃度、回収ロス量及びNaOH及びNaHSの消費量に基づいて、浸出後液中のNaOH及びNaHS濃度を算出した。そして、添加後の濃度が一定量になるように、NaHSとNaOHを添加した。その後、溶液を20℃になるように冷却し、10時間放置した。そして、再度溶液中のAs濃度を測定した。その後、ろ過処理を行って、析出した砒素化合物を回収した。残った溶液を、再度、浸出処理に再利用した。以降、浸出と回収の工程を繰り返した。
【0059】
結果を
図6に示す。浸出及び回収の両方とも十分に進行していることが示された。また、繰り返し再利用しても、良好な浸出及び回収が維持できることが示された。このように、浸出前後のAsの変化量を測定することで、浸出後のNaOH及びNaHS量を算出することができ、これによって、適切な添加量を設定することができた。また、
図4に示した結果と比較すると、NaOHとNaHSの添加量が少なく、優れた費用対効果を達成できることが示された。