特許第6780330号(P6780330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6780330塗布膜除去装置、塗布膜除去方法及び記憶媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6780330
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】塗布膜除去装置、塗布膜除去方法及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20201026BHJP
   G03F 7/38 20060101ALI20201026BHJP
   B05C 9/08 20060101ALI20201026BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20201026BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20201026BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   H01L21/30 564C
   H01L21/30 564D
   G03F7/38 501
   B05C9/08
   B05C11/10
   B05D1/40 A
   B05D3/10 N
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-136224(P2016-136224)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-92445(P2017-92445A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2019年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-221489(P2015-221489)
(32)【優先日】2015年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133776
【弁理士】
【氏名又は名称】三井田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】田所 真任
(72)【発明者】
【氏名】小玉 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 崇史
(72)【発明者】
【氏名】永金 拓
(72)【発明者】
【氏名】榎本 正志
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2003/0070695(US,A1)
【文献】 特開2008−034768(JP,A)
【文献】 特開2004−363565(JP,A)
【文献】 特開平07−326571(JP,A)
【文献】 特開2004−096086(JP,A)
【文献】 特開平06−196401(JP,A)
【文献】 特開平06−208948(JP,A)
【文献】 特開2008−277359(JP,A)
【文献】 特開2001−244169(JP,A)
【文献】 特開平09−106980(JP,A)
【文献】 特開平10−209143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/26−7/42
B05C 7/00−21/00
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の基板の表面に塗布液を供給して形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去装置において、
基板を保持して回転させる回転保持部と、
前記回転保持部に保持された基板の表面の周縁部に、除去液が基板の回転方向の下流側に向かうようにかつ除去液の吐出位置から平面的に見て除去液の吐出軌跡の延長線が基板の外方側に向くように、除去液を吐出する除去液ノズルと、
前記基板の表面の周縁部における除去液の供給領域に、基板の表面に平行でかつ基板の中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成して、除去液の液流を外側に押圧するための気流形成部と、を備え
前記気流形成部は、基板の表面と対向すると共に前記除去液ノズルに対して基板の回転方向の下流側に配置された整流部材と、前記整流部材の下方側の気流形成空間に、除去液の供給領域よりも基板の中央側から基板の周縁部に向けてガスを吐出するガス吐出部と、を備え、
前記整流部材は、前記除去液ノズルから吐出された除去液が前記気流形成空間に基板の回転方向の上流側から流入して当該気流形成空間を流れるように構成されていることを特徴とする塗布膜除去装置。
【請求項2】
前記整流部材の先端は、基板の外縁よりも外方側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の塗布膜除去装置。
【請求項3】
前記ガス吐出部は、ガス供給元側から送られたガスを圧縮して前記整流部材の下方側の空間に供給するために、ガス流路が狭められた部位が当該空間に臨むように設けられていることを特徴とする請求項または記載の塗布膜除去装置。
【請求項4】
前記基板の表面に対する前記整流部材の下面の高さは、0.5mm〜3.0mmであることを特徴とする請求項ないしのいずれか一項に記載の塗布膜除去装置。
【請求項5】
前記気流形成部を、除去液の供給領域に帯状の気流を形成するための位置と、当該位置から退避する退避位置との間で移動させるための移動機構を備えたことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の塗布膜除去装置。
【請求項6】
前記帯状の気流の幅は、10mm〜50mmであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の塗布膜除去装置。
【請求項7】
前記基板の回転数は、1000rpm〜4000rpmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の塗布膜除去装置
【請求項8】
基板の表面の周縁部の塗布膜の乾燥を促進させるために少なくとも前記周縁部を加熱する加熱部を備えたことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の塗布膜除去装置。
【請求項9】
前記加熱部は、前記気流形成部により形成される帯状の気流が加熱された状態となるように構成されていることを特徴とする請求項に記載の塗布膜除去装置。
【請求項10】
円形の基板の表面に塗布液を供給して形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去方法において、
基板を回転保持部に保持して回転させながら、基板の表面の周縁部に、除去液が基板の回転方向の下流側に向かうようにかつ除去液の吐出位置から平面的に見て除去液の吐出軌跡の延長線が基板の外方側に向くように、除去液を吐出する工程と、
前記基板の表面と対向すると共に前記除去液ノズルに対して基板の回転方向の下流側に配置された整流部材の下方側の気流形成空間に、前記除去液ノズルから吐出された除去液が基板の回転方向の上流側から流入する工程と、
前記気流形成空間に、除去液の供給領域よりも基板の中央側から基板の周縁部に向けてガスを吐出することにより当該ガスが整流部材にガイドされながら基板の表面に平行でかつ基板の中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成して、除去液の液流を外側に押圧する工程と、を含むことを特徴とする塗布膜除去方法。
【請求項11】
前記整流部材の先端は、基板の外縁よりも外方側に位置するように設けられていることを特徴とする請求項10記載の塗布膜除去方法。
【請求項12】
前記除去液を吐出する工程は、少なくとも前記基板の表面の周縁部を加熱した状態で行われることを特徴とする請求項10または11に記載の塗布膜除去方法。
【請求項13】
円形の基板の表面に塗布液を供給して形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去装置に用いられるコンピュータプログラムを記憶する記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項10ないし12のいずれか一項に記載の塗布膜除去方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形の基板の表面に形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去装置、塗布膜除去方法及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に塗布膜パターンを形成するフォトリソグラフィ工程で行われる処理の一つに、表面に塗布膜が形成されたウエハに溶剤を供給して、塗布膜周縁部の不要な膜をリング状に除去する周縁部塗布膜除去(Edge Bead Removal:EBR)処理がある。このEBR処理では、スピンチャックに載置されて回転するウエハの周縁部に、局所的に溶剤ノズルから塗布膜の溶剤が吐出される。
【0003】
上記のEBR処理では、塗布膜周縁部である除去領域の膜を除去するにあたり、回路パターンの形成領域を確保して半導体装置の歩留まりを向上させるために、前記除去領域との境界近傍である塗布膜端部の形状欠陥の発生を抑制することが求められている。形状欠陥の一例としては、塗布膜端部の盛り上がり(ハンプ)などが挙げられる。回路の微細化に伴うフォトリソグラフィ工程数の増加により、EBR処理における欠陥についての要求の厳格化が予想されることから、前記形状欠陥の発生を抑制する技術の開発が期待される。
【0004】
特許文献1には、溶剤ノズルから溶剤を吐出して基板端縁の薄膜を溶解すると共に、溶剤を吐出した後の箇所にガスノズルから気体を吐出することにより、溶剤を基板端縁よりも外方に吹き飛ばして除去する技術が記載されている。この例では溶剤に対して後方斜め上方側からガスノズルにより気体を吐出しているので、この手法をEBR処理に適用すると、塗布膜の溶剤が飛散して、ウエハ周縁部以外の塗布膜も除去され、結果として塗布膜端部の形状が悪化する懸念がある。
【0005】
また特許文献2には、基板の周縁部に対して処理液供給部から処理液を供給するにあたり、処理液供給部よりも基板の周縁部の内側にガス噴出部を設けて、基板の反りを矯正する技術が記載されている。この手法をEBR処理に適用すると、ガスは塗布膜の溶剤よりもウエハの外縁に近い位置から噴出されるので、溶剤の供給領域近傍の塗布膜端部の形状についての改善は見込めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−196401号公報(図3等)
【特許文献2】特開2012−99833号公報(段落0031等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、円形の基板の表面に形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去するにあたり、塗布膜の除去領域との境界近傍である塗布膜端部の形状欠陥の発生を抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
円形の基板の表面に塗布液を供給して形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去装置において、
基板を保持して回転させる回転保持部と、
前記回転保持部に保持された基板の表面の周縁部に、除去液が基板の回転方向の下流側に向かうようにかつ除去液の吐出位置から平面的に見て除去液の吐出軌跡の延長線が基板の外方側に向くように、除去液を吐出する除去液ノズルと、
前記基板の表面の周縁部における除去液の供給領域に、基板の表面に平行でかつ基板の中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成して、除去液の液流を外側に押圧するための気流形成部と、を備え
前記気流形成部は、基板の表面と対向すると共に前記除去液ノズルに対して基板の回転方向の下流側に配置された整流部材と、前記整流部材の下方側の気流形成空間に、除去液の供給領域よりも基板の中央側から基板の周縁部に向けてガスを吐出するガス吐出部と、を備え、
前記整流部材は、前記除去液ノズルから吐出された除去液が前記気流形成空間に基板の回転方向の上流側から流入して当該気流形成空間を流れるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また他の発明は、
円形の基板の表面に塗布液を供給して形成された塗布膜の周縁部を除去液により除去する塗布膜除去方法において、
基板を回転保持部に保持して回転させながら、基板の表面の周縁部に、除去液が基板の回転方向の下流側に向かうようにかつ除去液の吐出位置から平面的に見て除去液の吐出軌跡の延長線が基板の外方側に向くように、除去液を吐出する工程と、
前記基板の表面と対向すると共に前記除去液ノズルに対して基板の回転方向の下流側に配置された整流部材の下方側の気流形成空間に、前記除去液ノズルから吐出された除去液が基板の回転方向の上流側から流入する工程と、
前記気流形成空間に、除去液の供給領域よりも基板の中央側から基板の周縁部に向けてガスを吐出することにより当該ガスが整流部材にガイドされながら基板の表面に平行でかつ基板の中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成して、除去液の液流を外側に押圧する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の記憶媒体は、塗布膜除去装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記プログラムは本発明の塗布膜除去方法を実行するためにステップが組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板表面の塗布膜の周縁部を除去液により除去するにあたり、除去液ノズルから基板表面の周縁部に除去液を吐出すると共に、基板表面における除去液の供給領域に、気流形成部によって基板表面に平行でかつ基板の中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成している。塗布膜端部の形状欠陥の一例である塗布膜端部の盛り上がりは、除去液ノズルから吐出された除去液が基板に到達したときの大きな膜厚による表面張力が原因と推察される。気流形成部によって形成された気流により、基板表面の除去液の液流が外側に押圧されるため、基板に到達したときの除去液の膜厚が低減する。これによって塗布膜端部の盛り上がりが抑えられ、結果として塗布膜端部の形状欠陥の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】周縁部塗布膜除去(Edge Bead Removal:EBR)処理の概要を説明する側面図である。
図2】EBR処理の概要を説明する側面図である。
図3】EBR処理によって発生する塗布膜の形状欠陥の例を示す縦断側面図である。
図4】EBR処理によって発生する塗布膜の形状欠陥の例を示す平面図である。
図5】EBR処理によって発生する塗布膜の形状欠陥の例を示す平面図である。
図6】EBR処理によって発生する塗布膜の形状欠陥の例を示す平面図である。
図7】形状欠陥の一例の発生メカニズムを説明する縦断側面図である。
図8】形状欠陥の一例の発生メカニズムを説明する縦断側面図である。
図9】形状欠陥の一例の発生メカニズムを説明する縦断側面図である。
図10】形状欠陥の他の例の発生メカニズムを説明する部分斜視図である。
図11】塗布膜除去装置を適用した塗布装置の一実施形態を示す縦断側面図である。
図12】塗布装置を示す平面図である。
図13】塗布装置に設けられる気流形成部を示す縦断側面図である。
図14】気流形成部を示す正面図である。
図15】気流形成部と除去液ノズルと示す斜視図である。
図16】気流形成部を示す縦断側面図である。
図17】気流形成部を示す平面図である。
図18】除去液とガスの供給タイミングを示す特性図である。
図19】塗布装置の作用を示す縦断側面図である。
図20】塗布装置の作用を示す縦断側面図である。
図21】塗布装置の作用を示す縦断側面図である。
図22】気流形成部の他の例を示す斜視図である。
図23】除去液とガスの供給タイミングの他の例を示す特性図である。
図24】形状欠陥の一例の発生メカニズムを説明する縦断側面図である。
図25】塗布膜除去装置の他の例を示す斜視図である。
図26】スピンチャックの回転速度と塗布膜端部の盛り上がり(ハンプ)の高さとの関係を示す特性図である。
図27】塗布膜除去の条件と塗布膜端部の盛り上がり(ハンプ)の高さとの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗布膜除去装置の説明に先立ち、本発明を成し得るに至った経緯について説明する。本発明はEBR処理を行うにあたり、塗布膜の除去領域との境界近傍である塗布膜端部の形状欠陥の発生を抑制することを目的としている。先ずEBR処理の概要について簡単に説明する。EBR処理では、図1に示すように、表面に塗布膜10が形成されたウエハWを回転保持部であるスピンチャック11に保持させて回転させた状態で、除去液ノズル3から塗布膜10の外縁よりも設定量内側に向けて除去液が吐出される。
【0014】
ウエハWが回転していることから、ウエハW上に到達した除去液の吐出位置(着地位置)からウエハWの外方側に向けて除去液が広がり、ウエハWの周縁部の全周に亘って除去液が供給される。除去液が供給された領域では、除去液が塗布膜10を軟化させて溶解し、溶解された塗布膜10を含む除去液はウエハWの外方側へ飛散して除去される。こうして図2に示すように、塗布膜10の周縁部が除去される。塗布膜端部の形状欠陥の発生を抑制するとは、図2に示すように、除去領域12との境界近傍である塗布膜端部13の上面14及び側端面(カット面)15が平坦になるように除去することである。
【0015】
本発明者らは、EBR処理時に発生する形状欠陥の発生メカニズムを解明することにより本発明を成し得るに至ったため、形状欠陥を場合分けし、その発生メカニズムの夫々について、図3図10を参照して具体的に説明する。図3は塗布膜端部13の上面14がこぶ(ハンプ)状に盛り上がる例(欠陥例1)を示す縦断側面図である。また図4は塗布膜端部13の一部が除去液により部分的に浸食される例(欠陥例2)、図5は塗布膜端部13の側端面15が荒れる例(欠陥例3)、図6は塗布膜端部13の内側に除去液の液滴16が飛散する例(欠陥例4)を夫々示す平面図である。
【0016】
塗布膜10は例えばレジスト膜であり、レジスト膜とウエハWとの間には実際には反射防止膜などが形成されているが、図3図6ではレジスト膜以外の膜は図示を省略している。図4図5は光学顕微鏡により得られた像を模式的にトレースしたものであり、図6はウエハエッジ検査装置により得られた像を模式的にトレースしたものである。欠陥例1が発生すると、露光工程にてフォーカスが合わなくなってパターン幅が変化し、欠陥例2〜4が発生すると、欠陥部分には塗布液が存在しないため、塗布欠陥となり、夫々歩留りの低下を招いてしまう。
【0017】
先ず欠陥例1の発生メカニズムについて、図7図9を参照して説明する。除去液ノズル3から吐出される除去液の挙動について考察したところ、図7に模式的に示すように、除去液がウエハWに到達したときの吐出位置の液膜17の厚さは、塗布膜10に対して約3×10倍程度と圧倒的に大きいことが認められた。この吐出位置の液膜17は遠心力によりウエハWの外方側に向けて移動していくが、図8に示すように、塗布膜の除去領域12との境界近傍では軟化した塗布膜18が液膜17の表面張力により持ち上げられて、こぶ状の盛り上がりを発生させる。
【0018】
液膜17の膜厚が大きい程、表面張力が大きく持ち上げ力が増大するため、図9に示すように塗布膜端部13に盛り上がりが形成されるものと推察される。このような形状欠陥は、液膜17の膜厚を小さくして表面張力を減少させることにより発生が抑制できると考えられる。このためには液膜17に対して、除去液の吐出位置よりもウエハWの中央側から外方側に向けて横方向に物理力を加えることにより、液膜17の厚さを減少させることが有効である。
【0019】
また欠陥例2の発生メカニズムについては、図10に示すように、除去液の液膜17からこぼれた液滴が、浸透力で塗布膜10の中心方向に向かい、その後ウエハWの回転方向と逆方向の風力により、ウエハWの接線方向に押圧されることによって発生するものと推察される。この欠陥発生の抑制のためには、液膜17からの液滴の発生自体を抑えるか、または液滴の塗布膜10側への浸透を抑えることが必要であり、これには除去液の吐出位置よりもウエハWの中央側から外方側に向けて横方向に物理力を加えることが有効である。なお図10には液膜17から塗布膜10側に浸透した液滴で塗布膜10が削れた様子を示している。
【0020】
さらに欠陥例3の発生メカニズムについては、次のように推察される。上述の欠陥例1の検証の結果、EBR処理の初期においては塗布膜端部13に高く揃った盛り上がり(ハンプ)が発生し、時間の経過と共に脆い箇所から形が崩れていき、結果として塗布膜端部13の側端面15の荒れが発生することが認められた。従って欠陥例3の発生を抑えるためには、EBR処理の初期時に欠陥例1のハンプ現象の発生自体を抑制することが有効である。
【0021】
続いて欠陥例4については、除去液がウエハへ到達したときやウエハWのノッチ部分を通過するとき、またはウエハが高速で回転するときに除去液の液滴16が飛散することにより発生すると考えられる。このため飛散した液滴16が塗布膜10側に着地しないように、ウエハWの中央側から外方側に向けて物理力で押し出すことが有効であると推察される。以上のように、欠陥例1〜欠陥例4ではいずれも、除去液の供給領域において、当該供給領域よりもウエハWの中央側から外方側に向けて横方向に物理力を加えることにより、欠陥の発生が抑制できることが理解される。
【0022】
続いて本発明の塗布膜除去装置を適用した塗布装置1の一実施形態について、図11の縦断側面図及び図12の平面図を参照しながら説明する。この塗布装置1は、基板であるウエハWに塗布液を塗布して塗布膜を形成する処理と、EBR処理とを行うことができるように構成されている。ウエハWは円形であり、その直径は例えば300mmである。またウエハWの周縁部にはウエハWの方向を表す切り欠きとしてノッチNが形成されている。
【0023】
図中11はウエハWを保持して回転させる回転保持部をなすスピンチャックである。このスピンチャック11は、ウエハWの裏面中央部を吸着してウエハWを水平に保持すると共に、回転機構21により鉛直軸に沿って平面視時計回りに回転自在に構成されている。このスピンチャック11と回転機構21とはシャフト211により接続され、スピンチャック11に保持されたウエハWの周囲にはカップ22が設けられている。カップ22は、排気管23を介して排気されると共に、排液管24により、ウエハWからカップ22内にこぼれ落ちた液体が除去されるようになっている。図中25は昇降ピンであり、昇降機構26によって昇降することで、図示しないウエハWの搬送機構と、スピンチャック11との間でウエハWの受け渡しを行うように構成されている。
【0024】
塗布装置1は、塗布液を鉛直下方に向けて吐出する塗布液ノズル41と、塗布液の溶媒である溶剤を鉛直下方に向けて吐出する溶剤ノズル42と、を備えている。塗布液ノズル41は、開閉バルブV1を備えた流路43を介して当該ノズル41に塗布液を供給する塗布液供給機構44に接続されている。また溶剤ノズル42は、ウエハWへの塗布液を吐出する前に行う前処理に用いられるノズルであり、開閉バルブV2を備えた流路45を介して当該ノズル42に溶剤を供給する溶剤供給機構46に接続されている。図12に示すように、塗布液ノズル41及び溶剤ノズル42は、移動機構47により昇降かつ水平方向に移動自在に構成されたアーム48に支持されて、ウエハWの中心部上とカップ22の外側の退避位置との間で移動自在に構成されている。図中49は、移動機構47が上記のように水平方向に移動するためのガイドである。
【0025】
さらに塗布装置1は、上記のEBR処理を行うために用いられる除去液ノズル3を備えている。この除去液ノズル3は、回転するウエハ表面に向けて塗布膜の除去液を局所的に吐出するものであり、ウエハWの中心部側から周縁部側に向けて斜め下方に除去液を吐出することにより、除去液の吐出位置Pから平面的に見て除去液の吐出軌跡の延長線がウエハWの外方側に向くように構成されている。この例の除去液ノズル3は直管状に形成され、その先端が除去液の吐出口30として開口している。除去液の吐出位置Pとは、図12に示すように、除去液ノズル3から吐出された除去液がウエハ表面に到達したときの着地位置であり、図12には除去液の吐出軌跡を点線にて示している。また除去液ノズル3は、吐出された除去液の液撥ねを抑えるために、ウエハWの回転方向上流側から下流側に向けて除去液を吐出するように構成される。
【0026】
この例の除去液は塗布液の溶媒である溶剤であり、除去液ノズル3は、開閉バルブV3を備えた流路31を介して上記の溶剤供給機構46に接続され、溶剤ノズル42及び除去液ノズル3には、共通の溶剤供給機構46から互いに独立して溶剤(除去液)が供給されるように構成されている。また除去液ノズル3は、図12に示すように移動機構32により昇降かつ水平方向に移動自在に構成されたアーム33に支持されて、ウエハ周縁部に除去液を吐出する処理位置と、カップ22の外側の退避位置との間で移動自在に構成されている。図12中、除去液ノズル3の移動方向をY方向、Y方向に直交する水平方向をX方向として示している。図中34は、移動機構32が上記のように水平方向に移動するためのガイドである。
【0027】
さらに塗布装置1は気流形成部5を備えている。この気流形成部5は、ウエハ表面の周縁部における除去液の供給領域に、ウエハ表面に平行でかつ当該供給領域よりもウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成して、除去液の液流を外側に押圧するためのものである。本発明でいうウエハ表面に平行とは、ウエハ表面に対して10度以下の角度で上方側に傾く場合、及びウエハ表面に対して10度以下の角度で下方側に傾く場合も含まれる。
【0028】
図13は気流形成部5の縦断側面図であり、図14は気流形成部5をウエハWの外方側から見たときの正面図である。気流形成部5は、ウエハ表面と対向する整流部材51と、この整流部材51の下方側の気流形成空間50に、ウエハWの周縁部よりも中央側からウエハWの周縁部に向けてガスを吐出するガス吐出部52と、を備えている。整流部材51は、例えば平面的に見て四角形状に形成され、その基端側は屈曲して、略鉛直な四角柱状のガス導入部53として構成されている。ガス導入部53の内部にはガス流路54が形成され、このガス流路54の上流側は例えばガス導入部53の背面に形成されたガス供給口541を介して、開閉バルブV4を備えた供給路55により気流形成用のガス例えば窒素(N)ガスのガス供給源56に接続されている。
【0029】
またガス流路54の下流側は、ガス供給源56側から送られたガスを圧縮して気流形成空間50に供給するために、ガス流路54が狭められた圧縮部位57を備え、この圧縮部位57の下流端が横長に開口するガス吐出部52として構成されている。この気流形成部5は、図12に示すように移動機構61により昇降かつ水平方向に移動自在に構成されたアーム62に支持されて、EBR処理時にウエハ周縁部にガスを吐出する処理位置と、カップ22の外側の退避位置との間で移動自在に構成されている。図12中63は、気流形成部5とアーム62とを接続する接続部材、64は移動機構61が上記のように水平方向に移動するためのガイドであり、退避位置にある気流形成部5、除去液ノズル3などを一点鎖線により示している。
【0030】
除去液ノズル3及び気流形成部5が共に処理位置にあるときには、図12及び図15に示すように、例えば気流形成部5は除去液ノズル3からウエハWの周縁部に供給される除去液の吐出位置Pに対して、ウエハWの回転方向の下流側に配置される。また処理位置にある気流形成部5は、この例では整流部材51の先端はウエハWの外縁よりも外方側に位置するように設けられ、ガス吐出部52は除去液ノズル3から供給される除去液の供給領域35よりもウエハWの中央側に寄った位置に設けられる。
【0031】
こうして配置された整流部材51の左右方向(ウエハの周方向)の両側には、整流部材51の下面から下方に突出する側壁部58が設けられ、この側壁部58の下端部は塗布膜10の周縁部に供給される除去液の上方に位置するように構成されている。これにより除去液ノズル3から吐出された除去液の液流が整流部材51の下方側の気流形成空間50に形成される。またウエハ表面に対する整流部材51の下面の高さhは、例えば0.5mm〜3.0mmに設定される。このように構成された気流形成部5では、ガス吐出部52から吐出されたガスが整流部材51によりガイドされながら、ウエハWの中央側から外方側へ向けて流れ、ウエハ表面に平行な帯状の気流が形成される。この帯状の気流の幅は、例えば10mm〜50mmである。
【0032】
気流形成部5は、塗布膜や除去液の種類、EBR処理時におけるウエハWの回転速度などの処理条件などに応じて、図15図17に示すように、除去液ノズル3から吐出される除去液の吐出位置Pと気流形成部5とのウエハWの回転方向の距離d、ウエハ表面から整流部材51の下面までの高さhが適宜設定される。また整流部材51の下面と水平面とのなす角θ1、圧縮部位57の傾斜角θ2、ガス吐出部52の形状及び大きさ、ガス流路54の長さ、圧縮部位57の長さ、整流部材51の長さ及び幅についても適宜設定される。前記傾斜角θ2は、ここではガス吐出部52の上下方向の中心と、圧縮部位57の上下方向の中心とを通る直線と水平面とのなす角としている。
【0033】
またウエハWに対する気流形成部5の配置位置についても処理条件に応じて適宜設定され、気流形成部5は、整流部材51の先端がウエハWの外縁よりも内側に位置するように設けてもよい。またガス吐出部52であるガス吐出口が伸びている方向は、ウエハWの直径と直交していてもよいし、あるいは当該直径と斜めに交差していてもよい。図17は、後者の状態を示しており、ウエハWの直径に沿ったラインと直交するウエハWの接線をTで表し、当該ラインと斜めに交差している上記のガス吐出口をラインLで表している。
【0034】
さらに塗布装置1は制御部7を備えている。この制御部7は例えばコンピュータからなり、不図示のプログラム格納部を有している。このプログラム格納部には、後述する塗布膜の形成処理及びEBR処理を行うことができるように命令(ステップ群)が組まれたプログラムが格納されている。そしてこのプログラムによって制御部7から塗布装置1の各部に制御信号が出力されることで、塗布装置1の各部の動作が制御される。具体的には開閉バルブV1〜V4の開閉制御、移動機構32、47、61による除去液ノズル3、塗布液ノズル41及び溶剤ノズル42、気流形成部5の移動、回転機構21によるスピンチャック11の回転、昇降機構26による昇降ピン25の昇降などの各動作が制御される。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスクまたはメモリーカードなどの記憶媒体に収納された状態でプログラム格納部に格納される。
【0035】
続いて塗布装置1にて行われる塗布膜の形成処理及びEBR処理について説明する。先ず図示しない搬送機構によりウエハWをスピンチャック11上に搬送して載置する。次に溶剤ノズル42からウエハWの中心部上に溶剤を吐出する一方、ウエハWの回転を開始し、遠心力によって溶剤をウエハWの表面全体に塗布して、塗布液に対するウエハWの表面の濡れ性を向上させる。然る後ウエハWを回転させた状態で塗布液ノズル41からウエハWの中心部上に塗布液を吐出し、遠心力によって塗布液をウエハWの表面全体に塗布する。その後所定時間ウエハWを回転させて液膜を乾燥させ、塗布膜10を形成する。
【0036】
次いでEBR処理を実行する。この処理では、先ず除去液ノズル3及び気流形成部5を処理位置に配置する。そしてウエハWを予め設定された回転数である例えば1000rpm〜4000rpmこの例では3000rpmで例えば時計回りで回転させた状態で、除去液ノズル3から除去液を塗布膜10の周縁部に吐出すると共に、気流形成部5のガス吐出部52からガスを供給する。図18に示すように、除去液及びガスは、例えば同じタイミングで供給開始及び供給停止が行われる。
【0037】
除去液ノズル3からは、ウエハWの回転方向の下流側に向かうようにかつ除去液の吐出軌跡の延長線が塗布膜の周縁部の外側に向かうように除去液が吐出される。そして気流形成部5からは、図15に示すように、ウエハ周縁部の除去液の供給領域35よりもウエハWの中央寄りに設けられた横長に開口するガス吐出部52からガスが吐出される。このガスは整流部材51にガイドされながら、ウエハの外方側に向かって流れ、これによりウエハWの表面に平行でかつウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流が形成される。整流部材51の下方側の気流形成空間50には、除去液ノズル3から吐出された除去液の液流が形成されているが、この液流は気流形成部5により形成された気流によりウエハWの外方側に向けて押圧される。これにより除去液の液流はウエハWの外方側に向けて押し出されるように速やかに流れていく。
【0038】
また気流形成部5において、ガスは圧縮部位57により圧縮されてからガス吐出口52から吐出されるので、大きなガスの吐出力が得られ、こうして大きな力で除去液の液流が外側へ押し出される。さらにウエハWは例えば3000rpmの高回転数で回転しているので、大きな遠心力が発生する。除去液の供給領域35では、塗布膜10が除去液により軟化され溶解し、溶解された塗布膜の成分を含む除去液は、気流形成部5による気流と大きな遠心力により、ウエハWの外方に向けて押し出されて除去される。
【0039】
従来では、既述のように除去液の吐出位置(着地位置)Pでは除去液の液膜17の膜厚が大きくなる。これに対してこの例では、図19に示すように、気流形成部5によって除去液の吐出位置PよりもウエハWの中央側から外方側に向かう気流を形成し、除去液の液流を押し出しているので、図20に示すように、液膜17の膜厚が小さくなる。また除去液を供給している間は、気流形成部5からの気流と大きな遠心力により、ウエハWの中央側から外方に向かう大きな押圧力が形成されているので、除去液が外方に向かって大きな力で流れていき、液膜17の表面張力により塗布膜端部13を持ち上げようとする力の発生が抑えられる。
【0040】
このため塗布膜端部13における盛り上がり(ハンプ、欠陥例1)の発生が抑制され、このようにEBR処理の初期時にハンプの発生自体が抑えられることにより、欠陥例3の塗布膜端部13の側端面15の荒れの発生も抑制できる。さらにウエハWの中央側から外方側に横方向に向かう大きな押圧力が作用するため、除去液の液滴16が塗布膜10側へ浸透することを抑えることができ、欠陥例2の塗布膜10への除去液の浸透が抑制される。さらにまた仮に液膜17から除去液の液滴16が飛散したとしても、この液滴16はウエハWの中央側から外方に向かう気流に沿って押し出されるため、塗布膜10側への着地が抑えられ、欠陥例4の発生が抑制される。
【0041】
こうして図21に示すように、塗布膜端部13の形状欠陥の発生を抑えて、塗布膜10の不要な周縁部が除去される。この後、除去液ノズル3からの除去液の吐出及び気流形成部5からのガスの供給を停止し、次いでウエハWの回転を停止して、図示しない搬送機構により当該ウエハWを塗布装置1から搬出する。
【0042】
上述の実施形態によれば、ウエハ表面の塗布膜の周縁部に除去液を供給して、当該周縁部の不要な塗布膜を除去するにあたり、気流形成部5により、ウエハ表面の除去液の供給領域35に、ウエハ表面に平行でかつウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成している。これに加えてウエハWの回転による遠心力も作用するため、既述のように、除去液の液流がウエハWの外方側へ押し出されて、除去液の液膜17の厚膜化や、除去液の塗布膜10側への浸透、飛散した除去液の液滴16等が原因となる塗布膜10の形状欠陥の発生が抑制される。また気流形成部5はウエハ表面に平行でかつウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成しているので、気流により塗布膜が荒れたり、除去液の液撥ねを招くおそれがない。これにより回路パターンの形成領域を確実に確保することができるので、歩留りの低下を抑えることができる。
【0043】
さらに整流部材51を設けることにより、ウエハ表面に平行な帯状の気流を確実に形成することができる上、除去液の液流がガイドされるので効果的に押圧力を作用させることができ、液流を確実に外方側へ向けて押し出すことができる。またウエハ表面に対する整流部材51の下面の高さは0.5mm〜3.0mmに設定されているので、除去液の液流から液滴16が飛散したとしても、整流部材51に当たって気流により外方側へ押し出されるため、塗布膜10側への除去液の飛散がより一層抑えられる。
【0044】
さらにまたこの例では、整流部材51の先端はウエハWの外縁よりも外方側に位置しているので、除去液の液流は整流部材51にガイドされてウエハWの外方側に流出していき、ウエハWを高回転数で回転する場合であっても、除去液が広範囲に飛び散ることを抑制できる。さらにまた気流形成部5は移動機構61により、EBR処理時の処理位置とカップ22の外側の退避位置との間で移動自在に構成されているので、塗布膜の形成処理時に塗布液ノズル41や溶剤ノズル42からの液体の供給を阻害することがない。
【0045】
さらに移動機構61により移動自在に設けられているため、ウエハWの外縁に対する位置を調整することができ、処理条件に応じて適切な位置に気流形成用のガスを供給することができる。また除去液ノズル3と別個に移動機構61を設けているので、除去液ノズル3に対する距離も調整することができる。但し気流形成部5は除去液ノズル3と共通の移動機構により前記処理位置と前記退避位置との間で移動するように構成してもよい。
【0046】
以上において、気流形成部は必ずしも上述の構成には限らず、ウエハ表面の除去液の供給領域に、ウエハWの表面に平行でかつウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成するものであればよい。例えば図22に示す気流形成部8は、水平面に沿って伸びる扁平なガス流路81を備え、その先端のガス吐出部82からガスを吐出することにより、ウエハWの表面に平行でかつウエハWの中央側から外方側に向かう帯状の気流を形成するように構成したものである。
【0047】
また除去液とガスとの吐出の開始及び停止のタイミングについては、図23に示すように、除去液とガスとの間で互いに異なっていてもよく、塗布膜や除去液の種類、ウエハWの回転速度などの処理条件に応じて適宜変更可能である。図23(a)は、ガスの吐出開始を除去液より早め、ガスと除去液の吐出停止を揃える例、図23(b)は、ガスの吐出開始を除去液より遅くし、ガスと除去液の吐出停止を揃える例である。また図23(c)は、ガスと除去液の吐出開始を揃え、ガスの吐出停止を除去液よりも早める例、図23(d)は、ガスと除去液の吐出開始を揃え、ガスの吐出停止を除去液より遅くする例である。
【0048】
以上において、塗布装置1では、外部の装置において塗布膜が形成されたウエハWに対してもEBR処理を行うことができる。つまり上記の塗布装置1はEBR処理のみを行う専用の装置として構成してもよく、この場合には、塗布液ノズル41及び溶剤ノズル42を設ける必要はない。塗布液としては、溶媒に塗布膜の成分を溶解させた、例えばレジスト液やSOD材料などで、溶媒により塗布膜が軟化するタイプのものに適用できる。
【0049】
次に本発明の他の実施形態について説明する。図24は、除去液100である例えば溶剤の表面張力が小さい場合のウエハW上の塗布膜10の周縁部の状態を示している。除去液100は表面張力が小さい場合には広がりやすいことから、除去した塗布膜10がカット面に沿って押し上げられ、ハンプの形成を促進する。そこでこの実施形態では、塗布膜10の溶解を抑えることで、除去される塗布膜の量を減らし、これによりハンプの高さを低減しようとするものである。
【0050】
塗布膜の溶解を抑える手法としては、ウエハWの周縁部を加熱して塗布膜の乾燥を促進する手法が挙げられる。そしてウエハWの周縁部を加熱する手法の一例としては、既述した、ウエハWの表面に平行でかつウエハWの中央部から外方側に向かう帯状の気流が加熱された気流となるように構成することが挙げられる。図25はこのような構成を備えた塗布装置を示しており、符号は図11図13及び図15と同じ符号を用い、除去液には符号を付していない。55は、ガス管路からなるガス供給路であり、ガス供給路55の途中には、気流形成部5に送られるガス、この例では窒素ガスを加熱する加熱部9が設けられている。加熱部9は例えば流路を囲む抵抗発熱線を備えたものなどを用いることができ、ガスの温度を例えば60℃〜85℃に加熱するように構成される。即ち、図25に示す実施形態は、図11図22に示した実施形態において、加熱部9を更に備えた構成例である。
【0051】
このような実施形態では、ウエハW上に塗布膜10を形成した後、除去液ノズル3及び気流形成部5を処理位置に配置すると共にウエハWを既述のように回転させ、次いで先ず気流形成部5からガスを供給し、その後、除去液ノズル3から除去液をウエハWの周縁部に吐出する。気流形成部5からウエハWに供給されるガスは加熱されていることから、周縁部の塗布膜10の乾燥が促進され、塗布膜10が除去液により溶かされにくい状態になっている。このため塗布膜10がほどよく溶解して除去され、除去液の広がりに伴ってカット面に沿って押し上げられる作用が小さくなり、結果としてハンプの高さが低減する。
【0052】
気流形成部5から加熱されたガスをウエハW上に供給するタイミングは、除去液をウエハWの周縁部に吐出する時点よりも前であることが必要であるが、ガスの加熱温度との関係で適切なタイミングが決められる。具体的には、ガスの加熱の効果と処理効率との兼ね合いで決定されることになるが、ガスの温度が例えば60℃〜85℃であれば、5秒〜30秒ぐらいが好ましい。
【0053】
ウエハWの周縁部を加熱する手法としては、気流形成部5から加熱されたガスを供給する手法に限らず、除去液ノズル3から除去液を吐出する前から例えばウエハWの中心部に、垂直なノズルから加熱されたガス、例えば窒素ガスなどの不活性ガスを吐出するようにしてもよい。この場合加熱されたガスはウエハWの回転の遠心力により周縁部に到達して当該周縁部を加熱する。また除去液ノズル3よりもウエハWの回転方向の上流側においてウエハWの周縁部に局部的に加熱されたガスを供給するようにしてもよい。あるいはウエハWの半径方向に沿った帯状の領域に、当該領域に対向して半径方向にガス吐出孔が配列されたノズルから、加熱されたガスを供給するようにしてもよい。更にはまたウエハWの周縁部の上方側に赤外照射部を設けて当該赤外照射部からの赤外線により当該周縁部を加熱するようにしてもよい。
【0054】
ここでウエハWの周縁部に塗布膜のハンプを抑えることの効果について補充記載しておく。ハンプが高い場合には、後工程であるレジストパターンを除去するアッシング工程において、アッシングされずにレジストの一部が残る懸念がある。またハンプ付近でパターンの異常が発生し、後工程であるエッチング時あるいはアッシング時にレジストが剥がれて欠陥となる懸念がある。更にはウエハWの表面を洗浄液で洗浄するときにハンプにより洗浄液が堰き止められて洗浄液の液残りが生じる懸念があり、これらの懸念事項は歩留まりの低下につながることから、ハンプの高さを抑えることは重要である。
【0055】
なお、塗布膜10の溶解を抑える手法としては、塗布膜10を加熱することに代えて、除去剤を処理雰囲気の温度よりも低くなるように冷却しよもよい。この場合塗布膜10が冷却されるので、溶解が抑えられ、同様の効果が期待できる。
【0056】
(評価例1)
上述の塗布装置1に図22に示すタイプの気流形成部8を設け、塗布膜が形成されたウエハWをスピンチャック11に保持して1000rpmで回転させた状態で、その表面の周縁部に、除去液ノズル3から除去液を供給すると共に、気流形成部8からガスを吐出させてEBR処理を行った。塗布膜としてはレジスト膜、除去液としてはレジスト膜の溶媒である溶剤を用いた。この処理を複数枚のウエハWに対して行い、処理後にウエハWの塗布膜端部の盛り上がり(ハンプ)の形状を接触式段差測定機により測定した(実施例1)。また気流形成部8を設けない場合についても同様にEBR処理を行い、処理後にウエハWの塗布膜端部のハンプの形状を測定した(比較例1)。
【0057】
この結果、ハンプの高さの平均値は実施例1では74.3nm、比較例1では117.8nmであり、実施例1では比較例1に対してハンプの高さを約35%低減できることが認められた。またハンプの幅についても、実施例1は比較例1に比べてかなり小さくなることが認められた。これによりEBR処理時において、気流形成部8によりウエハWの中央側から外方側に向けて帯状の気流を形成することによって、塗布膜端部のハンプの発生が抑制できることが確認された。この実施例1は、整流部材を備えていない気流形成部8を用いているが、整流部材を備えた気流形成部を用いれば、ウエハWの表面に平行な気流が形成されやすくなるため、塗布膜端部におけるハンプの発生がより一層抑えられ、塗布膜端部の形状欠陥の発生が抑制されることが理解される。
【0058】
(評価例2)
塗布装置1において、気流形成部5は退避位置に退避させ、塗布膜としてレジスト膜が形成されたウエハWをスピンチャック11に保持して回転させた状態で、その周縁部に、除去液ノズル3から除去液を供給してEBR処理を行った。除去液としてはレジスト液の溶媒である溶剤を用いた。この処理をスピンチャック11の回転数を変えて行い、処理後にウエハWの塗布膜端部の盛り上がり(ハンプ)の形状を評価例1と同様に測定した。
【0059】
この結果を図26に示す。図中横軸はスピンチャック11の回転数、縦軸はハンプの高さである。これによりスピンチャック11の回転数が大きいほど、ハンプの高さが小さくなることが認められた。これは回転数が大きいと遠心力が増大し、除去液の供給領域において液流がウエハWの外方に向けてより強く押圧されて除去液の液膜の膜厚が小さくなり、塗布膜端部の持ち上げ力が低減するためと推察される。この評価例2は、気流形成部を用いていないため、気流形成部によりウエハWの中央側から外方側に向かう気流が形成することにより、除去液の液流がウエハWの外方側に向けてより大きな力で押圧され、塗布膜端部におけるハンプの発生がより一層抑制されることが理解される。
【0060】
(評価例3)
ウエハWの周縁部を加熱して塗布膜の乾燥を促進することにより、ハンプが低減することを確認するために次のような評価試験を行った。試験装置としては、図11に示す塗布装置において、気流形成部5を用いずに、除去液ノズル3におけるウエハW上の除去液供給位置よりもウエハWの回転方向で見て少し上流側の位置であるウエハWの周縁部と対向するように、垂直に配置されたガスノズルを設けた装置を用いた。EBRの対象となる塗布膜は、膜厚が220nmのSOC膜(低分子量のポリマーと架橋剤とを含む有機膜)である。
【0061】
そしてウエハWに対して塗布液をスピンコーティングして塗布膜10を形成した後、ウエハWを1000rpmで25秒回転させ、その後この回転速度を維持しながらガスノズルからおよそ70℃に加熱されたガスを前記周縁部に設定時間だけ供給した。次いで加熱されたガスの供給を停止した後、1秒経過後に除去液ノズル3から0.1秒間除去液である溶剤を塗布膜の周縁部に供給した。ガスの供給時間は、0秒(加熱されたガスを供給しない比較例)、5秒、30秒、60秒、120秒に設定し、各条件ごとにウエハWの周縁部において周方向に等間隔な6点の位置のハンプの高さを測定した。結果は図27に示すとおりであり、各条件ごとに示した矢印は、上記の6点のハンプの高さの範囲を示している。なお60秒の条件においては、ハンプの高さの測定値の信憑性に疑問があった2点の測定値を外している。
【0062】
またこの評価試験とは別に、ガスノズルを用いずに、同様の塗布液を同様にスピンコーティングした後、ウエハWを1000rpmで25秒回転させ、その後直ちに除去液ノズル3から0.1秒間除去液を周縁部に供給してハンプの高さを測定した。更に別の評価試験として、塗布液をスピンコーティングした後、ウエハWを1000rpmで25秒回転させ、その後120秒間ウエハWをその回転速度を維持したまま回転させて塗布膜の乾燥を促進させ、同様にハンプの高さを測定した。
【0063】
図27から分かるように、加熱されたガスをウエハWの周縁部に供給すると、加熱されたガスを供給しない場合に比べてハンプの高さが低減している。またガスノズルを用いない評価試験において、ウエハWの乾燥時間が長い場合と短い場合とでは、既述のように乾燥時間に120秒の差があるにもかかわらず、ハンプの高さに差がない。従って、図27の結果は、加熱されたガスの供給時間を長くするほど、ハンプの高さの低減効果が大きくなっているということを裏付けている。
【符号の説明】
【0064】
1 塗布装置
11 スピンチャック
21 回転機構
3 除去液ノズル
5、8 気流形成部
50 気流形成空間
51 整流部材
52、82 ガス吐出部
54 ガス流路
57 圧縮部位
61 移動機構
W ウエハ
P 吐出位置
9 加熱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図15
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図17
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