(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケーキ化工程で添加する塩化カリウムの濃度は、前記溶解工程で得られた溶解液の量に対し100〜150g/Lであり、酸化還元電位が900mV以上とすることを特徴する請求項1乃至3の何れか1項に記載の高品位ロジウム粉の回収方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の技術にはジブチルカルビトール抽出工程(以下DBC抽出工程)が含まれており、溶媒抽出工程特有の問題点があった。すなわち、ロジウム溶解液中の鉄を分離するために、有機溶媒であると同時に危険物でもあるジブチルカルビトール(以下DBC)を使用していたので、危険物管理上のコストが必要であった。また、ミキサセトラ等の専用設備を使用していたため、設備コストやメンテナンスコストが必要であるという問題があった。
【0007】
また、原料種類への対応能力が低く、ニッケル・銅原料からの貴金属回収工程で発生する難溶性残渣であれば、不純物の種類や濃度が一定の範囲に制御されているため原料として問題なく使用できるが、これ以外の原料は、たとえ製品ロジウム粉末として製造され出荷検査で除外された不良品であっても、使いにくいという問題があった。簡単に言い換えれば、あまりに汚れすぎた有機溶媒中に、不純物濃度の低い抽出始液を装入しても、かえって抽出始液が汚れてしまい、有機溶媒の側にとっても担持する不純物濃度のバランスが崩れ安定した操業が困難になるという点で、同一の設備(同一の有機溶媒)で操業することができず、対応方法として、複数の溶媒抽出設備を準備するか、原料の不純物濃度の変動にあわせて有機溶媒を入れ替えるといった実操業上は現実的でない方法しか選択できなかった。別の観点では、有機溶媒の一般的特性として独特の臭気があり、法的規制とは無関係であり、個人差があるものの、作業者にとって決して好ましい環境とは言えない場合もあった。
【0008】
また特許文献2では、王水で溶解した白金族溶解液から不純物を除去するものであり、またロジウムのみを回収し高品位のロジウム粉を得る技術ではなく、ロジウム粉末を製造する方法でもない。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するため、溶媒抽出工程を経ず、かつロジウム粉のみを回収することができる高品位ロジウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、白金族元素を含有する難溶性残渣からロジウムを沈殿分離して回収する、高品位ロジウム粉の回収方法であって、前記難溶性残渣を
鉄と共に還元焙焼する還元焙焼工程と、該還元焙焼工程で得られた焙焼生成物を硫酸浸出する硫酸浸出工程と、該硫酸浸出工程で得られた浸出残渣を塩酸と過酸化水素水で溶解する溶解工程と、該溶解工程で得られた溶解液をケーキ化するケーキ化工程と、該ケーキ化工程で得られた沈殿物からロジウムブラックを得るロジウム精製工程とを有し、前記ケーキ化工程で塩化カリウムを添加し、ロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿分離し、前記ロジウム精製工程にて、前記塩化ロジウム酸カリウムに苛性ソーダを添加し、ロジウムを水酸化ロジウムとして沈殿分離することを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、DBC抽出工程を経ずにロジウム粉を回収でき、危険物管理上のコスト、設備コスト及びメンテナンスコストの増加を防止でき、更には原料の不純物の変動に対する対応能力を向上することができる。
【0012】
このとき、本発明の一態様では、前記ケーキ化工程で沈殿分離して得られた濾液に苛性ソーダを添加して沈殿分離し、得られた沈殿を、前記還元焙焼工程に戻し入れることとしても良い。
【0013】
このようにすれば、沈殿分離しきれなかったロジウムを短期間で回収できるので、ロジウムの回収効率を向上させることができる。また沈殿物にはロジウム塩だけでなく分離対象となる鉄が多く含まれているので、還元焙焼で添加する鉄分を補充することができる。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記ケーキ化工程
で使用するタンクは、前記溶解工程で使用する溶解槽と兼用であり、前記溶解槽に塩化カリウムを添加し、ロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿物を分離してもよい。
【0015】
このようにすれば、設備点数を減らすことができる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記ケーキ化工程で添加する塩化カリウムの濃度は、前記溶解工程で得られた溶解液の量に対し100〜150g/Lであり、酸化還元電位が900mV以上としてもよい。
【0017】
このようにすれば、ロジウムの沈殿率を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記還元焙焼工程は白金族元素を含有する難溶性残渣を鉄と共に行い、前記鉄を前記硫酸浸出工程により脱鉄し、前記溶解工程は、前記硫酸工程で得られた浸出残渣を塩酸と過酸化水素水とで溶解し、更に前記ロジウム精製工程の後に前処理加熱焙焼工程を有し、該前処理加熱焙焼工程は200℃より高く400℃以下の温度で行い、前記前処理加熱焙焼工程の後に第1段加熱焙焼工程を有し、該第1段加熱焙焼工程は600〜800℃の温度で行い、前記第1段加熱焙焼工程の後に第2段加熱焙焼工程を有し、該第2段加熱焙焼工程は900〜1100℃の温度で行うこととしてもよい。
【0019】
このようにすれば、ロジウム粉を所望の比表面積とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶媒抽出工程を経ず、かつ高品位のロジウム粉のみを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法の概略を示す工程図である。先ず還元焙焼工程S11において、白金族元素を含有する難溶性残渣を鉄と共に還元焙焼し、可溶性の鉄合金を含む焙焼生成物を得る。ここで難溶性残渣とは、ニッケル・銅原料中の貴金属を回収する工程において発生する、王水にも不要な金属を含む残渣物をいう。よって本発明の一実施形態に係る高品位ロジウムの回収方法では、王水にも不要な難溶性残渣を鉄と共に還元焙焼する。次に硫酸浸出工程S12において、還元焙焼工程S11で得られた焙焼生成物に硫酸を混合して鉄を浸出し、浸出液と浸出残渣に分離する。次に溶解工程S13において、浸出残渣を塩酸と過酸化水素水とに溶解して溶解液を得る。
【0024】
この溶解液中にはロジウムと合金化していた鉄が溶解しているため、これを分離除去することが望ましい。そこで、その後のケーキ化工程S14において、溶解液に塩化カリウムを添加し、溶解液中のロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿させ、反応後液に残存する鉄の大部分とロジウムを分離する。以下ケーキ化工程S14について詳細に説明する。
【0025】
ケーキ化工程S14では、溶解液の中のロジウムを分離する際に、当該溶液に塩化カリウムを添加し、ロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿物を分離する。このようにすればDBCでの溶媒抽出工程を経ずに、かつロジウム粉のみを回収することができ、水溶液として上述したようにロジウムを沈殿分離することができる。
【0026】
すなわち、従来法の溶解工程で得られた溶解液を溶媒抽出工程で処理するのではなく、ケーキ化工程S14において、溶解液に塩化カリウムを添加し、溶解液の中のロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿させ、溶解液中に含まれる鉄の大部分とロジウムを分離する。このようにすれば、DBC抽出工程を経ずに、かつロジウム粉のみを選択的に回収することができ、危険物管理上のコスト、設備コスト及びメンテナンスコストの増加を防止できる。更には、不純物濃度のバランスが崩れることなく、安定した創業が容易になり、原料の不純物の変動に対する対応能力を向上することができる。その工業的価値は極めて大きい。
【0027】
従来の溶媒抽出で用いられる装置は複雑であり、使用される溶媒の危険物の使用に関する問題があった。本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法においては、溶媒抽出工程を無くすことができた。それは本発明者らが、前述のケーキ化条件を究明したことにより、溶解液中のロジウムを選択的にケーキ化することが可能となり、更に塩化ロジウム酸カリウムのケーキを水酸化ロジウムに変換することが可能となったためである。
【0028】
また、ケーキ化工程S14後の濾液には、沈殿分離しきれなかったロジウムが残留しており、これを回収する方法に制限はなく、難溶性残渣を得る上流工程のニッケル・銅原料からの貴金属回収工程(不図示)に戻し入れても良いし、更に上流工程のニッケル・銅製錬工程(不図示)に戻し入れても良い。
【0029】
しかし、残留したロジウムを効率良く回収するために、
図1に示すように、ケーキ化工程S14で沈殿分離して得られた濾液に苛性ソーダを添加して沈殿を生成させ分離し、得られた沈殿を還元焙焼工程S11に戻し入れることが好ましい。上記の上流工程(不図示)に戻し入れるよりも短期間でロジウムを回収することができ、より高品位のロジウムを回収することができ、回収効率を向上させることが可能となる。更に上記沈殿物にはロジウム塩だけでなく、分離対象となる鉄が多く含まれており、還元焙焼工程S11で添加する鉄分を補充することができる。よってより高品位なロジウムの回収率の向上、生産効率の向上が可能となる。
【0030】
また、ケーキ化工程S14は、溶解液を導入するタンクと、塩化カリウムを添加する装置と、沈殿生成後に得られるスラリーを固液分離する装置を、溶媒抽出の装置と置き換えて操業すればよいが、ケーキ化工程S14で使用する設備が、前工程の溶解工程S13の設備を利用し、溶解工程S13から得られた溶解液を溶解工程S13の溶解槽に戻し入れて、塩化カリウムを添加し、ロジウムを塩化ロジウム酸カリウムとして沈殿分離することが好ましい。本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法の実施にあたって、上記の塩化カリウムを添加する装置と固液分離する装置は必要だが、溶解液を戻し入れる送液ポンプさえあれば、溶解工程S13で使用する溶解槽と、ケーキ化工程S14で使用するタンクは兼用が可能となり、設備点数を減らすことができる。
【0031】
従来の方法では、溶媒抽出にDBCを用いていたため、設備は別々でかつ複雑であったが、本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法では、DBC溶媒抽出工程を経ないため、上述したように設備点数を減らすことができ、コストを抑えることができる。
【0032】
また、ケーキ化工程S14で添加される塩化カリウムの濃度は、溶解工程S13で得られた溶解液の量に対し100〜150g/Lが好ましい。そうすることでロジウムの沈殿率を高くすることができる。塩化カリウムの濃度が100g/L未満の場合には、ロジウムに反応する塩化カリウムの量が不十分となり、塩化ロジウム酸カリウムの沈殿率が低くなる。一方、150g/Lを超える場合には、ロジウムに反応する塩化カリウムの量は十分であるが、コストが増加する。
【0033】
次にロジウム(Rh)精製工程S15において、上記ケーキ化工程S14で得られた塩化ロジウム酸カリウムとしての沈殿物に苛性ソーダを添加し中和させ、ロジウムを水酸化ロジウムへ変換して沈殿させる。そして水酸化ロジウムとしての沈殿物を精製してロジウムブラックを得る。
【0034】
ロジウム(Rh)精製工程S15で得られるロジウムブラックは湿潤な状態であり、そのまま真空乾燥した場合は、比表面積12〜14m
2/g程度の微細な粉末となる。この湿潤状態のロジウムブラックを、後述する第1段加熱焙焼を行う前に前処理加熱焙焼工程S16に供給し、前処理の加熱焙焼を行う。その際、第1段加熱焙焼工程S18の温度よりも低い温度、具体的には200℃より高く400℃以下の温度で加熱焙焼を行う。前処理加熱焙焼工程S16で得られた焙焼生成物は、必要に応じて前処理篩解砕工程S17において、篩解砕、即ち解砕と例えば目開き1mmの篩別とを行ってもよい。
【0035】
前処理加熱焙焼工程S16で加熱温度を200より高く400℃以下で行う理由としては所望の比表面積とするためである。加熱温度が200℃以下の場合、比表面積があまり変化しなく、一方400℃より高い場合、比表面積が変化しすぎて微細な粉末が強固に焼結する。より好ましくは300℃〜400℃であり、そうすることで前述した比表面積12〜14m
2/g程度の微細な粉末を十分に無くすことができる。
【0036】
前処理の加熱焙焼に要する時間は、被焙焼物の投入量や炉のサイズによって異なるが、被焙焼部の温度が処理温度に到達してから20〜80分程度保持することが好ましい。20分未満であれば、前処理としての加熱焙焼の効果が不十分であり、80分より長いと過焼結が生じる恐れがある。また生産効率が低下する。
【0037】
次に前処理加熱焙焼工程S16で得られたロジウムブラックを第1段加熱焙焼工程S18に供給し、600〜800℃の温度で不活性ガス雰囲気により第1段加熱焙焼を行う。これにより、粉末の比表面積は0.7〜1.4m
2/g程度となる。
【0038】
続いて、湿式粉砕・洗浄工程S19に供給し、湿式粉砕すると共に洗浄によりナトリウムや塩素などの不純物を除去する。湿式粉砕処理及び洗浄処理された粉末に対しては、必要に応じて篩解砕を行ってもよい。
【0039】
次に、第2段加熱工程S20に供給し、900〜1100℃の温度で不活性ガス雰囲気中により第2段の加熱焙焼を行う。これにより、製品の粒度まで粗粒化されると同時に、湿式粉砕では除去できない酸素が解離される。最後に、実質的な検査工程としての篩解砕工程S21に供給し、目開き1mmの篩別を行って製品ロジウム粉末を得る。
【0040】
また、前処理加熱焙焼工程S16における加熱焙焼は、第1段加熱焙焼工程S18及び第2段加熱工程S20と同様に、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。そうすることでロジウム粉末の酸化を防止することができる。また、これら加熱焙焼は、いずれも石英製の反応管内で行うことが好ましい。更に、各加熱焙焼後の冷却は、例えば一晩掛けて徐冷される炉冷によって行うのが更に好ましい。これにより、再酸化を防止することができる。
【0041】
このように、第1段加熱焙焼を行う前に、前処理として、第1段加熱焙焼工程S18で行う温度よりも低い温度条件の下で加熱焙焼を行うことにより、その後の工程での粉砕が困難な粗粒化した規格外れの粉末が生じにくくなる。即ち、上記前処理加熱焙焼工程S16を施すことによって、ロジウム(Rh)精製工程S15によって得られる比表面積12〜14m
2/g程度の微細な粉末を、強固に焼結させることなく、その後の工程で粉砕可能な程度までの比較的緩やかな程度で焼結させることができる。これに加えて、同時に、第1段加熱焙焼に投入される中間物中に、比表面積12〜14m
2/g程度の微細な粉末を実質的に含まないようにすることができる。例えば、適切に温度条件を設定することによって、この中間物の比表面積を、およそ6〜9m
2/g程度にすることができる。
【0042】
ここで従来技術について
図2を用いて説明する。
図2は、従来技術に係るロジウム粉の回収方法の概略を示す工程図である。
図2に示す通り、この回収方法では、先ず、還元焙焼工程S111において白金族元素を含有する難溶性残渣を鉄と共に還元焙焼し、硫酸浸出工程S112において硫酸で鉄を浸出して浸出液と浸出残渣を得る。次に、溶解工程S113において浸出残渣を塩酸と過酸化水素で溶解して溶解液を得、ジブチルカルビトール抽出工程(以下DBC抽出工程)S114において溶解液中に残った大部分の鉄をジブチルカルビトール(以下DBC)で抽出・分離除去したうえ、その抽出残液をロジウム(Rh)精製工程S115において精製してロジウムブラックを得ている。
【0043】
しかし、従来の技術にはDBC抽出工程S114が含まれており、溶媒抽出工程特有の問題点があった。すなわち、ロジウム溶解液中の鉄を分離するために、有機溶媒であると同時に危険物でもあるDBCを使用していたので、危険物管理上のコストが必要であった。また、ミキサセトラ等の専用設備を使用していたため、設備コストやメンテナンスコストが必要であるという問題があった。そこで本発明の一実施形態に係る高品位ロジウムの回収方法では、DBC溶媒抽出工程を経ずに溶解工程S113で得られた溶解液をケーキ化している。
【0044】
そのようにすることで、危険物管理上のコスト、設備コスト及びメンテナンスコストの増加を防止できる。更には、不純物濃度のバランスが崩れることなく、安定した創業が容易になり、原料の不純物の変動に対する対応能力を向上することができ、高品位のロジウム粉のみを回収することができる。
【0045】
また、ケーキ化工程S14で得られた濾液に苛性ソーダを添加して沈殿分離し、得られた沈殿を還元焙焼に戻し入れることで、より高品位なロジウムの回収率の向上、生産効率の向上が可能となる。更にケーキ化工程S14では、溶解工程S13で得られた溶解液を、溶解工程S13で使用した溶解槽に戻し入れ再利用することで、設備点数を減らすことができる。
【0046】
また、前処理加熱焙焼によってこのような顕著な効果が現れる理由として、加熱焙焼前のロジウムブラックは、前述したように比表面積12〜14m
2/g程度の微細な粉末であるため、前処理加熱焙焼を行うことなく第1段加熱焙焼を行った場合は、比表面積が約10分の1程度まで低減し、粗粒化が生じる。その結果、引き続いて行われる処理において、適切な粒度制御が行われにくくなり、粗粒化した粉末が粉砕されることなくそのまま残留するものと考えられる。
【0047】
特に、ロジウム(Rh)精製工程S15における微妙な条件変動により、ロジウムブラックの比表面積が14m
2/gの上限近傍、即ち、想定されている粒度範囲のうち最も微細な粉末に変動したり、粒度分布が微細な方向に広がったりする場合がある。このような場合は、第1段加熱焙焼時に、より多くの微細な粉末が強固に焼結すると考えられる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法について実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
原料として表1に示す高鉄品位ロジウム粉組成の難溶性残渣を使用した。各組成の濃度は重量%で表記した。還元焙焼工程では、この高鉄品位ロジウム粉12gと鉄粉60gをナイロン袋に入れてシール封印し、よく混合した後に混合粉を黒鉛ルツボに装入した。この黒鉛ルツボを小型の電気炉にて1000℃まで加熱し、昇温後3時間保持した後、放冷した。
【0050】
【表1】
【0051】
硫酸浸出工程では、取り出した焙焼物をステンレスの乳鉢にて細かく粉砕し、0.6Lの純水に薄硫酸(79%)を0.1L加えた溶液中に装入し、余分な鉄分を除去した。この硫酸溶解液の鉄溶解液組成を表2に示した。なお、各組成の濃度はg/Lで示した。表2に示した通り、ロジウムの濃度は0.01g/L未満でありロジウムのロスは見られず、49.0g/Lの濃度の鉄のみが溶解し、添加した60gの鉄粉の約7割を除去できた。
【0052】
【表2】
【0053】
溶解工程では、鉄溶解後の溶解残渣をビーカーに装入し、これに濃塩酸0.8Lを添加し、70℃まで昇温後、過酸化水素水0.2Lを徐々に添加した。この時の液温は100℃近くまで上昇した。過酸化水素水添加後は冷却して溶解残渣を濾過した。得られた溶解残渣は0.8gであった。塩酸と過酸化水素水で溶解した溶解液の組成を表3に示す。なお、各組成の濃度はg/Lで示した。表3で示した通り、塩酸溶解液中のロジウムの濃度は9.9g/Lとロジウム浸出率は約97%であり、良好な結果を得た。また、硫酸による脱鉄で取り切れなかった鉄は、ロジウム等と合金化しているものと考えられ、溶液中の鉄濃度は11.8g/Lと非常に高かった。
【0054】
【表3】
【0055】
ケーキ化工程では、ロジウムと鉄の分離のため、塩化カリウム(粉)添加によるケーキ化を実施した。溶解残渣を濾過した塩酸溶解液1.1Lに酸化剤である亜塩素酸ソーダ溶液を3mL添加することで、溶解液の酸化還元電位を900mV以上に保持した後、常温(24℃)にて撹拌した状態で塩化カリウムを138g(溶解液に対して125g/L)添加することでロジウムのケーキ化処理を実施した。得られたケーキ化濾液の分析結果を表4に示す。なお、各組成の濃度はg/Lで示した。表4に示した通り、ケーキ化濾液中のロジウムの濃度は、1.3g/Lとロジウムの沈殿率が約87%となり、鉄については約2%となり、良好な結果となった。
【0056】
【表4】
【0057】
ロジウム(Rh)精製工程では、上記工程で得られたケーキ86gに、苛性ソーダを添加し、中和殿物として、水酸化ロジウム35gを得て、亜硫酸ナトリウム添加による亜硝酸中和処理(中和終点のpH=6)、硫化ナトリウム添加による硫化処理(温度=常温、硫化ナトリウム添加量/Rh量=50g/kg)を経て、塩化アンモニウム添加による澱物ケーキを生成(塩化アンモニウム添加量/Rh量=2.5kg/kg)し、蟻酸還元処理(温度80℃、蟻酸添加量/Rh量=2.5リットル/kg)によって、ロジウム量として約20gの湿潤状態のロジウムブラックを得た。
【0058】
解砕工程では、目開き1mm篩を通過させる程度の力を加えて解砕し、その全量を目開き1mm篩に通過させた。
【0059】
前処理加熱焙焼工程では、1mの均熱帯をもつ石英製の管状炉で、350℃、30分保持した後、一晩炉冷した。第1段加熱焙焼工程では、上記管状炉で、700℃、30分保持した後、一晩炉冷した。そして湿式・洗浄工程では、取り出した焙焼物に対して湿式粉砕及び水洗浄を行った。第2段加熱工程では、上記管状炉で1000℃、30分保持した後、一晩炉冷した。
【0060】
篩解砕工程では、最終的に実質的な検査工程である目開き1mmの篩別を行った。その結果、得られた高品位ロジウム粉の組成を表5に示す。なお、各組成の濃度は重量%で示した。表5に示した通り、得られたロジウムの濃度は99.95重量%以上の高品位ロジウム粉が得られた。またロジウム以外のIr、Ru、Au、Pt、Ag、Feの濃度は、全て0.01重量%未満となり、本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法では、不純物の少ない高品位のロジウム粉を得られた。また得られた高品位ロジウム粉末の重量は9g、比表面積は0.7m
2/g以上(粒径720μ以上のため測定不可能)であり、組成、粒径ともに製品規格を満たしていた。
【0061】
【表5】
【0062】
以上より、本発明の一実施形態に係る高品位ロジウム粉の回収方法によれば、溶媒抽出工程を経ずに、かつ製品規格を満足する高品位ロジウム粉のみを選択的に製造することができた。これにより危険物管理上のコスト、設備コスト及びメンテナンスコストの増加を防止でき、更には原料の不純物の変動に対する対応能力を向上することができた。
【0063】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0064】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また高品位ロジウム粉の回収方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。