【文献】
European Journal of Organic Chemistry,2008年,(17),p.2989-2997
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合溶媒を100体積%としたとき、酢酸エステル系溶媒50体積%以上90体積%以下、メタノール10体積%以上50体積%以下である請求項1又は2記載のピリジンカルボン酸化合物の製造方法。
さらに、Cu−Kα線を用いるX線回折により、2θが少なくとも11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを有する化合物である、請求項4に記載のピリジンカルボン酸化合物。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(II型結晶ピリジンカルボン酸)
本発明の結晶化合物である、下記式(1)
【0039】
で表わされるピリジンカルボン酸化合物は、所定の結晶構造を有する。即ち、該ピリジンカルボン酸化合物は、Cu−Kα線を用いるX線回折により、2θが少なくとも10.1°±0.2°及び13.9°±0.2°に特徴的なピークを有する結晶構造のものである(以下、この結晶構造を有するものを単に「II型結晶ピリジンカルボン酸」とする場合もある。)。
【0040】
上記II型結晶ピリジンカルボン酸は、下記の実施例において詳細に説明するが、特許文献1の方法で得られるピリジンカルボン酸化合物(以下、このピリジンカルボン酸化合物をI型結晶ピリジンカルボン酸とする場合もある)と比較して、有機溶媒に対する溶解性が飛躍的に改善されている。
【0041】
具体的には、室温において、II型結晶ピリジンカルボン酸は、I型結晶ピリジンカルボン酸よりも約1/5の量のTHFで溶解する。そして、同体積のTHFを使用した場合、速やかに溶解する。そのため、ピリジンカルボン酸化合物の還元反応が特許文献1の反応時間と比較して、短時間で終了し、ピリジンカルボン酸化合物が過剰に還元された前記式(6)で示される過剰還元体の生成を低減することができる。そのため、II型結晶ピリジンカルボン酸を使用することにより、前記式(4)で表わされるピリジンメタノール化合物、及びミルタザピンを高純度で製造することができる。なお、比較例で示すが、従来のI型結晶ピリジンカルボン酸は、10.1°±0.2°、および13.9°±0.2°にピークを有さない。
【0042】
本発明のII型結晶ピリジンカルボン酸は、Cu−Kα線を用いるX線回折により、2θが少なくとも10.1°±0.2°及び13.9°±0.2°に特徴的なピークを有するものであれば、他のピークについては、特に制限されるものではない。ただし、取り扱い易さ、生成のし易さを考慮すると、II型結晶ピリジンカルボン酸は、Cu−Kα線を用いるX線回折により、2θが少なくとも10.1°±0.2°、10.8°±0.2°、11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、13.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、18.3°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを有する化合物であることが好ましい
。
【0043】
本発明のII型結晶ピリジンカルボン酸は、特に制限されるものではないが、融点が158.5℃以上161℃未満の範囲にあることが好ましく、さらに158.5℃以上160.4℃以下の範囲にあることが好ましい。
【0044】
本発明のII型結晶ピリジンカルボン酸が、THF等の溶媒に対する溶解性が向上する理由は明らかではないが、X線回折の結果から、従来のI型結晶ピリジンカルボン酸にはないピークを有し、逆にI型結晶ピリジンカルボン酸が有する特徴的なピークを有さないため、結晶構造の違いに起因しているものと考えられる。そして、その結晶構造の違いが、融点にも反映され、従来のI型結晶ピリジンカルボン酸よりも低融点になっているものと推定される。なお、比較例に示すが、本発明者等の検討によれば、I型結晶ピリジンカルボン酸の融点は、162.0℃以上163.5℃以下である。特許文献1には、I型結晶ピリジンカルボン酸の融点は161℃以上162℃以下であることが記載されている。本発明者等の検討結果と特許文献1との融点の差は、測定方法が異なることに起因していると思われるが、何れにせよ、従来のI型結晶ピリジンカルボン酸の融点は、本発明のII型結晶ピリジンカルボン酸の融点よりも高い。
次に、II型結晶ピリジンカルボン酸の製造方法について説明する。
【0045】
(II型結晶ピリジンカルボン酸の製造方法)
上記II型結晶ピリジンカルボン酸は、特に制限されるものではないが、以下の方法で製造することが好ましい。具体的には、酢酸エステル系溶媒およびメタノールを含む混合溶媒中で、前記式(1)で表わされるピリジンカルボン酸化合物を結晶化させることが好ましい。
【0046】
(結晶化させるピリジンカルボン酸化合物)
該混合溶媒中で一旦溶解させるピリジンカルボン酸化合物は、特に制限されるものではないが、I型結晶ピリジンカルボン酸、II型結晶ピリジンカルボン酸の何れであってもよい。また、純度の高い精製物、不純物を含むもの、前記シアノピリジン化合物をアルカリ等の存在下で反応させて得られる反応溶液に含まれるものを対象とすることもできる。中でも、前記混合溶媒中で結晶化させることにより、高純度化することも可能であることから、不純物を含むもの、前記反応溶液に含まれるものを対象とすることが好ましい。
【0047】
(混合溶媒)
本発明において、対象となるピリジンカルボン酸化合物は、酢酸エステル系溶媒およびメタノールを含む混合溶媒中で溶解し、その後、該混合溶媒中で結晶化させることにより、製造できる。
【0048】
前記混合溶媒として使用する酢酸エステル系溶媒は、特に制限されるものではないが、下記式(2)
【0050】
(式中、R
1は炭素数1〜6のアルキル基である。)で示されるエステル系溶媒であることが好ましい。具体的な溶媒を例示すれば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルが挙げられる。この中でも、II型結晶ピリジンカルボン酸の純度をより高めるため、また、工業的な汎用性の観点より、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピルを使用することが好ましい。
【0051】
前記混合溶媒において、酢酸エステル系溶媒とメタノールの混合比は、特に制限されるものではないが、高収率で純度の高いII型結晶ピリジンカルボン酸を得るためには、混合溶媒を100体積%としたとき、酢酸エステル系溶媒50体積%以上90体積%以下、メタノール10体積%以上50体積%以下であることが好ましく、酢酸エステル系溶媒60体積%以上87体積%以下、メタノール13体積%以上40体積%以下であることがより好ましく、酢酸エステル系溶媒75体積%以上85体積%以下、メタノール15体積%以上25体積%以下であることがさらに好ましい。なお、この混合比は、23℃の標準状態における体積比である。
【0052】
また、混合溶媒の使用量も、対象となるピリジンカルボン酸化合物の状態、溶解時の温度等によって最適値が変わるが、操作性よく、高純度で高収率のII型結晶ピリジンカルボン酸を得るためには、以下の使用量とすることが好ましい。すなわち、ピリジンカルボン酸化合物の固形分1g当たり、混合溶媒を2ml以上10ml以上使用することが好ましく、3ml以上8ml以下使用することがより好ましく、4ml以上7ml以下使用することがさらに好ましい。
【0053】
混合溶媒中でピリジンカルボン酸化合物を溶解させる方法は特に制限されるものではない。具体的には、前記混合溶媒を準備し、混合溶媒にピリジンカルボン酸化合物を溶解させることができる。また、一方の溶媒と対象となるピリジンカルボン酸化合物とを予め混合しておき、次いで、他方の溶媒を混合してもよい。
【0054】
本発明においては、前記の通り結晶化させるため、高純度のII型結晶ピリジンカルボン酸を得ることができる。そのため、前記式(5)で表わされるシアノピリジン化合物をアルカリ等の存在下で反応させて得られる反応溶液に含まれるものを対象とすることができる。次に、この反応溶液に含まれるピリジンカルボン酸化合物を前記混合溶媒に溶解させる際の具体的な方法について説明する。
【0055】
(シアノピリジン化合物からピリジンカルボン酸化合物への変換反応)
シアノピリジン化合物のシアノ基をカルボン酸へ変換する方法は、公知の方法、例えば、特許文献1に記載された方法を採用できる。なお、シアノピリジン化合物は特開2009−167166号公報に記載の方法により製造できる。
【0056】
具体的には、水酸化カリウムを含有したエタノール溶液中に前記シアノピリジン化合物を加えて、加熱還流下で反応させる。こうすることで、前記式(1)で表わされるピリジンカルボン酸化合物へ変換することができる。反応終了後、反応液に水を加え、エタノールを減圧留去し、水層をジクロロメタンで洗浄した後、塩酸で水層のpHを中性にすることで、ピリジンカルボン酸化合物を含む水溶液(反応溶液に含まれるピリジンカルボン酸化合物)を得ることができる。
【0057】
(反応溶液中のピリジンカルボン酸を溶解させる方法)
前記水溶液に含まれるピリジンカルボン酸化合物は以下の手法により、混合溶媒中で溶解させることができる。前記方法で得られた水溶液に、前記酢酸エステル系溶媒を加えて、ピリジンカルボン酸化合物を抽出する。この酢酸エステル系溶媒中に抽出されたピリジンカルボン酸化合物とメタノールとを混合して、混合溶媒中に溶解したピリジンカルボン酸化合物の混合溶液を準備することができる。ただし、酢酸エステル系溶媒の濃縮を行い、一旦、ピリジンカルボン酸化合物の固体を得、この固体を混合溶媒に溶解させることもできる。
【0058】
以上のような操作を行うことにより、反応溶液中のピリジンカルボン酸化合物を対象物として、混合溶媒中に溶解させることができる。これ以下の工程においては、溶解させる対象物が、I型結晶ピリジンカルボン酸、II型結晶ピリジンカルボン酸、純度の高い精製物、不純物を含むもの、又は反応溶液に含まれるものの何れであっても、同様の操作を行うことができる。以下、これ以降の工程について説明する。
【0059】
(溶解温度)
混合溶媒中でピリジンカルボン酸化合物を溶解させる際の温度(溶解温度)は、混合溶媒の使用量、混合比によって最適温度が変わるため、一概に限定できるものではない。ただし、操作性を向上し、純度の高いII型結晶ピリジンカルボン酸を得るためには、該溶解温度は、23℃以上混合溶媒の沸点以下であることが好ましく、40℃以上60℃以下とすることがより好ましい。
【0060】
(結晶化の温度、冷却速度等)
本発明においては、混合溶媒中でピリジンカルボン酸化合物を溶解した後、得られた混合溶液を冷却し、II型結晶ピリジンカルボン酸が結晶化したスラリー液とすることが好ましい。次いで、このスラリー液を特定の温度(熟成温度)として、II型結晶ピリジンカルボン酸を十分な量、結晶化させることが好ましい。この熟成温度は、得られるII型結晶ピリジンカルボン酸の収率、および純度を考慮すると、−15℃以上溶解温度以下とすることが好ましく、−15℃以上、溶解温度よりも低く30℃以下とすることがより好ましく、−10℃以上20℃以下とすることがさらに好ましく、−5℃以上10℃以下とすることが特に好ましい。
【0061】
また、前記溶解温度から前記熟成温度まで冷却する時間(冷却速度)は、特に制限されるものではないが、II型結晶ピリジンカルボン酸の純度を考慮すると、5℃/時間以上〜35℃/時間以下とすることが好ましく、10℃/時間以上30℃/時間以下とすることがさらに好ましい。
【0062】
本発明においては、熟成温度にしてスラリー液を放置しておくことが好ましいが、この放置しておく時間は、特に制限されるものではない。中でも、収率向上及び操作効率の観点より、1時間以上24時間以下が好ましく、1時間以上10時間以下がより好ましく、1時間以上6時間以下が特に好ましい。
【0063】
以上のような条件によれば、II型結晶ピリジンカルボン酸の結晶を効率よく得ることができる。結晶をより確実に得るためには、II型結晶ピリジンカルボン酸の種晶を混合溶液に加えることもできる。種晶を加える温度としては、結晶を確実に析出させるためには、30℃以上50℃以下の範囲で加えるのが好ましい。種晶の量としては、ピリジンカルボン酸化合物100質量部に対して、0.1質量部以上0.5質量部以下とすることが好ましい。
【0064】
(取り出し工程等の後工程)
熟成温度で放置したスラリー液は、次いで、濾過してII型結晶ピリジンカルボン酸を取り出す。濾過する際の温度は、特に制限されるものではないが、−15℃以上30℃以下であることが好ましく、−10℃以上20℃以下であることがより好ましく、−5℃以上10℃以下であることが特に好ましい。
【0065】
濾別したII型結晶ピリジンカルボン酸は、溶媒で洗浄することが好ましい。洗浄溶媒としては酢酸エステル系溶媒およびメタノールの混合溶媒を用いることが好ましい。中でも、前記混合溶媒を使用することが好ましく、溶解時に使用した混合溶媒と同じ組成のもので洗浄することが好ましい。洗浄時の溶媒の温度は、−15℃〜30℃が好ましく、−10℃〜20℃がより好ましく、−5℃〜10℃が特に好ましい。洗浄溶媒の量は、特に限定されるものではないが、固形分のピリジンカルボン酸化合物1gに対して、1ml以上5ml以下であることが好ましい。
【0066】
洗浄後のII型結晶ピリジンカルボン酸は、0.5kpa以上5kpa以下の減圧下、40℃以上50℃以下の温度で乾燥することが好ましい。
【0067】
以上のような結晶化操作により、THF等のエーテル系溶媒に対する溶解性が高く、高純度なII型結晶ピリジンカルボン酸を得ることができる。II型結晶ピリジンカルボン酸のTHFに対する溶解性が高くなった作用機構ついては明らかではないが、I型結晶ピリジンカルボン酸と比較してII型結晶ピリジンカルボン酸の融点が低いことから、II型結晶ピリジンカルボン酸は準安定型の結晶と考えられる。そのため、THF等のエーテル系溶媒に対する溶解性が増加したものと考えられる。
【0068】
得られたII型結晶ピリジンカルボン酸を用いることにより、過剰還元体の含有量が極めて少ないピリジンメタノール化合物を製造することができる。次に、ピリジンメタノール化合物の製造方法について説明する。
【0069】
(ピリジンメタノール化合物の製造方法)
本発明においては、前記方法により得られたII型結晶ピリジンカルボン酸を使用して、前記式(3)で示されるピリジンメタノール化合物を製造する。該ピリジンメタノール化合物を製造する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用することができる。すなわち、I型結晶ピリジンカルボン酸を使用した場合と同じ条件を採用することもできる。つまり、特許文献1に記載の方法を採用することもできる。
【0070】
特許文献1の方法に従えば、還元剤を含む懸濁したTHF溶液中に、II型結晶ピリジンカルボン酸が溶解したTHF溶液を添加し、反応させることができる。この際、II型結晶ピリジンカルボン酸は溶解性が高いため、比較的少ない量のTHFであっても、短時間で溶解させることができる。
【0071】
本発明は、上記の特許文献1に記載された方法と同様の方法でピリジンメタノール化合物を製造することもできるが、溶解性が高いII型結晶ピリジンカルボン酸を使用するため、以下の方法を採用することが好ましい。具体的には、II型結晶ピリジンカルボン酸とTHFとを混合してII型結晶ピリジンカルボン酸を溶解させ、得られた溶解液に、水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を添加する方法である。なお、該還元剤は、必要に応じて有機溶媒を含む懸濁液として添加することもできる。この方法によれば、過剰な還元反応をより一層、抑制することができる。この場合、反応温度は、20℃以上THFの還流温度(約66℃)以下とすることができ、反応時間は1時間以上5時間以下とすることができる。また、II型結晶ピリジンカルボン酸の濃度(全反応溶媒(例えば、THFなどであり、懸濁液に含まれる溶媒を含む)の使用量に対する濃度)は、該II型結晶ピリジンカルボン酸1g当たり、反応溶媒を5ml以上40ml以下とすることができる。中でも、本発明のII型結晶ピリジンカルボン酸は、THF等のエーテル溶媒に対する溶解性が高いため、反応時間を2時間以上3時間以下、反応温度を20℃以上50℃以下とすることもできる。
【0072】
また、II型結晶ピリジンカルボン酸の濃度を、該II型結晶ピリジンカルボン酸1g当たり、好ましくは反応溶媒を5ml以上20ml以下とすることができ、さらに好ましくは反応溶媒を5ml以上10ml以下とすることもできる。このような条件を採用することにより、前記式(6)で示される過剰還元体の副生量をより低減できる。
【0073】
本発明において、使用する還元剤も、公知のものを使用することができる。具体的には、特許文献1で使用されている水素化リチウムアルミニウム(LiAlH
4)や、その他、ソジウムジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミネート等を使用することが好ましい。特許文献1に記載の方法よりも過剰な還元反応を抑制するためには、該還元剤の使用量(反応に使用する還元剤の全量)は、II型結晶ピリジンカルボン酸1モルに対して、2〜8モルとすることが好ましく、2〜5モルとすることがさらに好ましい。なお、還元剤は、必要に応じて有機溶媒と混合した懸濁液として使用できるが、該有機溶媒としては、トルエンのような芳香族系の溶媒を使用することもできる。特に、ソジウムジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミネートを使用する場合には、トルエンを含む懸濁液として使用することが好ましい。このような芳香族系の溶媒を使用する場合、前記のII型結晶ピリジンカルボン酸の濃度において、反応溶媒は、懸濁液に含まれる芳香族系の溶媒を含むものとして、その量が算出される。
【0074】
反応終了後は、公知の方法で処理することができる。具体的には、反応終了後、冷却し、水を加えて過剰の水素化アルミニウムリチウムを分解し、生じた無機塩をろ過する。そして、得られたTHF溶液を濃縮し、必要に応じて、公知の精製方法により精製し、ピリジンメタノール化合物を得ることができる。
【0075】
次いで、得られたピリジンメタノール化合物は、公知に方法により、前記式(5)で示されるミルタザピンとすることができる。ミルタザピンの製造方法について、説明する。
【0076】
(ミルタザピンの製造方法)
前記方法で得られたピリジンメタノール化合物を、特許文献1に記載の方法により、ミルタザピンとすることができる。具体的には、前記ピリジンメタノール化合物を濃硫酸に徐々に加え、数時間撹拌する。反応終了後、水を加え、濃アンモニア水を加えて、反応混合物をアルカリ性とした後、反応混合物にクロロホルムを加え、抽出する。クロロホルム抽出物を濃縮し、これにジエチルエーテルを加えて結晶化させ、得られた結晶を石油エーテルにて再結晶することにより、精製されたミルタザピンとすることができる。なお、前記方法は、特許文献1に記載の方法と同じであるが、例えば、精製時の再結晶溶媒などを変更することもできる。具体的には、イソプロパノール及び水の混合溶媒を使用することもできる。
【0077】
本方法によれば、原料となるピリジンメタノール化合物が、不純物で副生物の過剰還元体の含有量が少ないため、高純度のミルタザピンを得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。なお、実施例及び比較例における各種測定および評価方法は以下の通りである。
【0079】
先ず、II型結晶のピリジンカルボン酸化合物の評価方法、分析方法、および純度の測定方法について説明する
(1)I型及びII型結晶のピリジンカルボン酸化合物の溶解性評価
100mgのI型及びII型結晶のピリジンカルボン酸化合物の結晶をナスフラスコに入れ、室温下、THFを適量加えた後、攪拌を行った。目視にて全量が溶解した時のTHF量を簡易的な溶解度の指標とした。
【0080】
(2)結晶の分析方法
<ピリジンカルボン酸化合物の結晶形の測定>
装置:X線回折装置(XRD)。
機種:SmartLab(株式会社リガク製)。
測定方法:ASC6 BB Dtex。
X 線出力:40kV−30mA。
波長:CuKa/1.541858Å。
試料量:0.5g
<ピリジンカルボン酸化合物の融点の測定>
装置:示差走査熱量計(DSC)。
機種:DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)。
昇温条件:10℃/分。(30℃〜200℃まで昇温)
ガス:窒素。
【0081】
(3)ピリジンカルボン酸化合物及びピリジンメタノール化合物の純度測定
製造したピリジンメタノール化合物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。HPLC測定に使用した装置、測定の条件は、下記の装置、条件を採用した。
装置:ウォーターズ社製2695(HPLC)
検出器:紫外吸光光度計(ウォーターズ2489)
検出波長:240nm
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリカゲルが充填されたもの。
移動相及び送液方法:以下に示す移動相A及びBを用い、試料注入後の経過時間に従い、両者の混合比を下記表1に示す様に制御し、送液した。
移動相A:ペンタンスルホン酸ナトリウム3gを水3000mLに溶解し、トリエチルアミン9mLを加えた後、リン酸を加えてpH2.5とした。
移動相B:ペンタンスルホン酸ナトリウム3gを水900mLに溶解し、トリエチルアミン9mLを加えた後、リン酸を加えてpH2.5とした。これにアセトニトリル1050mL及びメタノール1050mLを加えた。
流量:毎分1.5mL。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
【0082】
【表1】
【0083】
製造例
(シアノピリジン化合物の製造方法)
1−メチル−3−フェニルピぺラジン5.5g(31.3mmol)、2−クロロ−3−シアノピリジン4.5g(31.3mmol)、トリエチルアミン4.1g(31.3mmol)及びヨウ化カリウム5.2g(31.3mmol)をN,N−ジメチルホルムアミドに加え、窒素雰囲気下、130℃で24時間撹拌した。反応終了後、減圧下、N,N−ジメチルホルムアミド及びトリエチルアミンを反応液より留去した後、水20mLと酢酸エチル25mLを加え、10%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8〜9に調製した。分液後、水層を酢酸エチル30mLで2回抽出し、合わせた有機層を5%重層水で洗浄した。有機層を濃縮し、残渣を石油エーテルから結晶化し、シアノピリジン化合物3.1gを収率36%で得た。
【0084】
実施例1
(II型結晶ピリジンカルボン酸の製造方法)
シアノピリジン化合物19.5g(70.1mmol)を25%水酸化カリウム含有エタノールに加えて、撹拌しながら100℃で約20時間撹拌した。反応終了後、水390mLを加え、減圧下エタノールを留去し、水層をジクロロメタン100mLで2回抽出した。水層に2M塩酸を滴下し、pHを6〜7に中和し、水層を酢酸エチル100mLで2回抽出した。減圧下、酢酸エチルを留去したのち、アモルファス状物質を得た。HPLCによりピリジンカルボン酸化合物の純度を確認し、このアモルファス状物質に含まれるピリジンカルボン酸化合物は18.4gであることを確認した。
【0085】
このアモルファス状物質に酢酸エチル/メタノール(80体積%/20体積%の混合溶媒)97.5mLを加えて、60℃(溶解温度)に加熱して混合溶液を得た。次いで、混合溶液を20℃/時間の冷却速度で5℃までに冷却し、スラリー液とした後、5℃(熟成温度)で約4時間撹拌した。結晶をろ過し、5℃に冷却した酢酸エチル/メタノール(80体積%/20体積%の混合溶媒)19.5mLで2回結晶を洗浄し、ピリジンカルボン酸化合物 14.7gを収率71%で得た(HPLC純度98.7%)。
【0086】
(結晶形評価)
この結晶を試料としてXRDを測定すると、この結晶は2θ=10.1°、10.8°、11.4°、12.9°、13.9°、16.3°、17.1°、18.3°、19.9°、20.4°、22.5°、24.6°、26.8°、27.3°にピークを与える結晶構造を有する化合物であることが分かった
。この結果から、この結晶はII型結晶ピリジンカルボン酸であることを確認した。
【0087】
(融点)
159.2℃(DSC吸熱ピークのピークトップを融点とした。)であった。
【0088】
(溶解性評価)
得られた結晶のTHFへの溶解性を上記方法で確認したところ、該結晶100mgは、THF2.4mLで溶解させることが可能であった。また、THFへの溶解性を前記(2)の方法で確認したところ、該結晶100mgは、THF2.4mLで溶解させることが可能であった。また、ジオキサンに対して、該結晶100mgは、ジオキサン2.1mLで溶解させることが可能であった。
【0089】
実施例2〜12
(II型結晶ピリジンカルボン酸の製造方法)
酢酸エステル系溶媒の種類とメタノールとの混合比率を表2に示す様に変更した混合溶媒を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ピリジンカルボン酸化合物の結晶を得た。
【0090】
得られた結晶は、全て、2θ=10.1°±0.2°、10.8°±0.2°、11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、13.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、18.3°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを与える結晶構造を有する化合物であった
。
【0091】
また、融点は、158.5℃以上161℃未満の範囲にあった。
【0092】
さらに、実施例2〜12で得られた各ピリジンカルボン酸化合物のTHF及びジオキサンに対する溶解性は実施例1に示した溶解性と同様の溶解性を示した。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例13
酢酸エチルとメタノールの混合溶媒を用いての結晶化操作において、II型結晶ピリジンカルボン酸の熟成温度を10℃とした以外は実施例1と同様の操作を行い、ピリジンカルボン酸化合物の結晶14.3gを収率69%で得た(HPLC純度98.7%)。
【0095】
得られた結晶は、2θ=10.1°±0.2°、10.8°±0.2°、11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、13.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、18.3°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを与える結晶構造を有する化合物であった
。
【0096】
また、融点は、158.5℃以上161℃未満の範囲にあった。
【0097】
さらに、得られた各ピリジンカルボン酸化合物のTHF及びジオキサンに対する溶解性は実施例1に示した溶解性と同様の溶解性を示した。
【0098】
得られた結晶は、全て、2θ=10.1°±0.2°、10.8°±0.2°、11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、13.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、18.3°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを与える結晶構造を有する化合物であった
。
【0099】
得られた結晶は、全て、2θ=10.1°±0.2°、10.8°±0.2°、11.4°±0.2°、12.9°±0.2°、13.9°±0.2°、16.3°±0.2°、17.1°±0.2°、18.3°±0.2°、19.9°±0.2°、20.4°±0.2°、22.5°±0.2°、24.6°±0.2°、26.8°±0.2°、27.3°±0.2°にピークを与える結晶構造を有する化合物であった。また、前記2θが7.5°±0.2°及び12.8°±0.2°に特徴的なピークを有さないことも確認した。
【0100】
また、融点は、158.5℃以上161℃未満の範囲にあった。
【0101】
さらに、得られた各ピリジンカルボン酸化合物のTHF及びジオキサンに対する溶解性は実施例1に示した溶解性と同様の溶解性を示した。
【0102】
実施例15
(II型結晶ピリジンカルボン酸を用いてのピリジンメタノール化合物の製造)
撹拌翼、温度計を取り付けた1Lの三口フラスコ中で、実施例1で得られたII型結晶ピリジンカルボン酸20.3g、(68.3mmol)を無水テトラヒドロフラン100mLに溶解し、溶液を5℃に冷却した後、窒素気流下にて、THF80mlで希釈した水素化リチウムアルミニウム7.8g(205.5mmol)の懸濁液を徐々に加え、加熱還流下で3時間反応した。反応終了後、0℃まで冷却し、蒸留水82mLを序々に滴下した後、室温にて1時間撹拌し、析出した無機塩をろ過により分離した。ろ過物を減圧下、濃縮し、18.2gのピリジンメタノール化合物の粗体を得た(粗収率99%、過剰還元体 0.2%)。
【0103】
該粗体に、ジエチルエーテル400mLを加えて、40℃に加熱した後、5℃まで冷却して再結晶をおこない、ピリジンメタノール化合物14.5g(51.1mmol)を得た(収率76%、HPLC純度98.7%、過剰還元体 0.2°%)。
【0104】
実施例16
(II型結晶ピリジンカルボン酸を用いてのピリジンメタノール化合物の製造)
撹拌翼、温度計を取り付けた1Lの三口フラスコ中で、実施例1で得られたII型結晶ピリジンカルボン酸20.3g、(68.3mmol)を無水テトラヒドロフラン100mLに溶解し、溶液を5℃に冷却した後、窒素気流下にて、70質量%ソジウムジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミネート含有トルエン溶液81.2g(238.9mmol)を徐々に加え、45℃で3時間反応した。反応終了後、0℃まで冷却し、蒸留水82mLを序々に滴下した後、室温にて1時間撹拌し、析出した無機塩をろ過により分離した。ろ過物を減圧下、濃縮し、18.2gのピリジンメタノール化合物の粗体を得た(粗収率99%、過剰還元体 0.1%)。該粗体に、ジエチルエーテル400mLを加えて、40℃に加熱した後、5℃まで冷却して再結晶をおこない、ピリジンメタノール化合物14.3g(50.4mmol)を得た(収率75%、HPLC純度98.9%、過剰還元体 0.1°%、)。
【0105】
実施例17
(ミルタザピンの製造方法)
撹拌翼、温度計を取り付けた100mLの四口フラスコに、窒素雰囲気下、濃硫酸17.6g(176.4mmol)を入れ、15℃付近に冷却した。次いで、実施例15で得られたピリジンメタノール化合物5.0g(17.64mmol)を、35℃以下で20分間かけて少量ずつ加えた。得られた混合物を35℃に加温し、9時間反応させた。
【0106】
反応終了後、5℃付近まで冷却し、水35mLを35℃以下で少しずつ加えた。次いで、23%水酸化ナトリウム水溶液41.2gを35℃以下で少しずつ加えた後、トルエン18mLを加えた。さらに、23%水酸化ナトリウム水溶液を加え中和した。60℃付近で15分間撹拌した後、水層を分液した。有機層に水10mLを加え、60℃付近で10分間撹拌した後、水層を分液し、ミルタザピンのトルエン溶液として有機層を得た。この有機層を減圧下濃縮し、ミルタザピンの固形物を得た。該固形物に20℃〜30℃でメタノール20mLを加え溶解させた、5℃付近に冷却下後、活性炭0.8gを加え、5℃付近で30分間撹拌した。減圧ろ過により、活性炭をろ別し、得られた溶液を減圧濃縮し、粗体のミルタザピン4.05g(15.26mmol)を得た。
【0107】
得られた粗体のミルタザピンにイソプロパノール12.5mLを加え、75℃付近で加熱溶解し、水25mLを加えた。約4時間かけて、5℃付近に冷却し、5℃付近で1時間撹拌した後、減圧ろ過により、結晶をろ別した。ろ別した結晶を60℃で減圧下、15時間乾燥し、ミルタザピン3.93g(14.83mmol)を得た(収率:83.9%、純度:99.92%、過剰還元体 0.02°%)。
【0108】
比較例1
(特許文献1に記載の方法によるI型結晶の製造)
シアノピリジン化合物19.5g(70.1mmol)に25%水酸化カリウム含有エタノールを加えて、撹拌しながら100℃で約20時間撹拌した。反応終了後、減圧下、エタノールを留去し、水層をジクロロメタン100mLで2回抽出した。水層に2M塩酸を滴下し、pHを6〜7に中和し、水層をクロロホルム100mLで2回抽出した。減圧下、クロロホルムを留去したのち、オイル状物質を得た。このオイル状物質にエタノール68.3mLを加えて、60℃に加熱後、20℃/時間の冷却スピードで5℃に冷却し、スラリー溶液とした後、5℃で約4時間撹拌した。結晶をろ過し、5℃に冷却したエタノール19.5mLで2回結晶を洗浄し、ピリジンカルボン酸化合物 14.3gを収率69%で得た(HPLC純度98.3%)。
【0109】
(結晶形評価)
この結晶を試料としてXRDを測定すると、この結晶は2θ=7.6°、10.6°、13.4°、15.8°、16.7°、17.8°、18.3°、20.1°、22.7°、25.7°、28.4°、29.4°特徴的なピークを与える結晶構造を有する化合物であることが分かった。この結果から、この結晶はI型結晶のピリジンカルボン酸であることを確認した。
【0110】
(融点)
162.7℃(DSC吸熱ピークのピークトップを融点)であった。
【0111】
(溶解性評価)
得られた結晶のTHFへの溶解性を上記方法で確認したところ、該結晶100mgは、THF12.5mLで溶解させることが可能であった。また、ジオキサンに対して、該結晶100mgは、ジオキサン10.4mLで溶解させることが可能であった。
【0112】
比較例2
(I型結晶ピリジンカルボン酸を用いてのピリジンメタノール化合物の製造)
撹拌翼、温度計を取り付けた1Lの三口フラスコ中で、比較例1で得られたI型結晶ピリジンカルボン酸20.3g、(68.3mmol)を無水テトラヒドロフラン300mLに縣濁し、窒素気流下にて、水素化リチウムアルミニウム20.4g(537.5mol)を含有したTHF600mL縣濁溶液に1時間かけて徐々に加えた。この溶液を加熱還流下、4時間反応した。反応終了後、氷浴で冷却し、蒸留水82mLを序々に滴下した後、室温にて1時間撹拌し、析出した無機塩をろ過により分離した。ろ過物を減圧下、濃縮し、18.2gのピリジンメタノール化合物の粗体を得た(粗収率99%、過剰還元体 0.9%)。
【0113】
該粗体に、ジエチルエーテル400mLを加えて、40℃に加熱した後、5℃まで冷却して再結晶をおこない、ピリジンメタノール化合物14.3g(51.0mmol)を得た(収率75%、HPLC純度97.9%、過剰還元体 0.8%)。