特許第6781058号(P6781058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781058
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20201026BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20201026BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20201026BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C30B29/38 D
   C30B25/20
   C23C16/34
   H01L21/205
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-10964(P2017-10964)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-118873(P2018-118873A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−199631(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0125976(US,A1)
【文献】 特開2016−155706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C 16/00−16/56
H01L 21/205,21/31,21/365,21/469
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体単結晶からなり、断面形状が矩形状に形成され、少なくとも極性面の主面と無極性面の側面とを有する複数の種結晶基板を用意する第一工程と、
前記複数の種結晶基板を、前記極性面同士が接し、かつ、一方の前記極性面の一部が露出するように、前記断面形状を所定の傾斜角で傾けた状態で基台上に並べて配置して、前記基台の側とは反対側を前記極性面の一部と前記無極性面とによる階段形状とする第二工程と、
前記階段形状の上に窒化物半導体単結晶を成長させて窒化物半導体単結晶層を形成する第三工程と、
前記窒化物半導体単結晶層から半極性面の主面を持つ窒化物半導体の自立基板を得る第四工程と、
を備え
前記階段形状を構成する前記極性面が{0001}面であり、
前記窒化物半導体単結晶層の成長表面が平坦になるまで前記階段形状の前記極性面からの成長面が露出し続けるように、前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角を設定する
窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記複数の種結晶基板を、主面が前記極性面である窒化物半導体単結晶基板を前記無極性面で劈開して複数片に分割することで得る
請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記半極性面のジャスト面に対して前記階段形状が傾きを有する位置関係となるように、前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角を設定する
請求項1または2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に発光素子を構成する窒化物半導体層は下地基板の極性面(C面)上に形成されるが、極性面上に形成された窒化物半導体層を用いて発光素子を構成した場合には、その発光素子における発光層内に内部電界が生じ、電子と正孔の存在場所が分離され、これにより発光効率が低下してしまうおそれがある。この点については、極性面ではなくM面等の無極性面または{11−22}面等の半極性面の上に窒化物半導体層を形成することで、発光素子における発光層内の内部電界を弱めて、発光効率が向上することが理論的に予測されている。
【0003】
極性面以外の無極性面または半極性面を主面に有する窒化物半導体基板を得る手法としては、例えば、極性面を成長面として厚膜化したバルク結晶を縦方向にスライスして所望の面を切り出す手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、例えば、高指数面のサファイアやシリコン基板上にGaNを成長することで、無極性面のGaNを実現する手法も検討されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5271489号公報
【特許文献2】特許第5252465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、極性面以外の無極性面または半極性面は結晶成長が困難であるため、これらの面を表面に有する高品質なエピタキシャル成長用基板を効率的に得ることは、上述した従来の技術を利用しても必ずしも容易ではない。
例えば、特許文献1に記載の手法の場合、下地基板として低転位なGaN単結晶を利用できるという利点はあるものの、バルク結晶の厚膜化は数mm厚程度が限度であるため、これをスライスして所望の面を切り出しても、数mm幅の基板しか得られず、基板大口径化の実現が困難である。
また、例えば、特許文献2に記載の手法の場合、大口径な基板を利用できるという利点はあるものの、異種基板上の成長であるため、高品質な結晶が得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、半極性面の主面を持つ窒化物半導体の自立基板を得る場合に、その自立基板の大口径化を容易に実現することでき、しかも低転位で高品質な自立基板を効率的に得ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
窒化物半導体単結晶からなり、断面形状が矩形状に形成され、少なくとも極性面の主面と無極性面の側面とを有する複数の種結晶基板を用意する第一工程と、
前記複数の種結晶基板を、前記極性面同士が接し、かつ、一方の前記極性面の一部が露出するように、前記断面形状を所定の傾斜角で傾けた状態で基台上に並べて配置して、前記基台の側とは反対側を前記極性面の一部と前記無極性面とによる階段形状とする第二工程と、
前記階段形状の上に窒化物半導体単結晶を成長させて窒化物半導体単結晶層を形成する第三工程と、
前記窒化物半導体単結晶層から半極性面の主面を持つ窒化物半導体の自立基板を得る第四工程と、
を備える窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半極性面の主面を持つ窒化物半導体の自立基板を得る場合に、その自立基板の大口径化を容易に実現することでき、しかも低転位で高品質な自立基板を効率的に得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板の製造手順の概要を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板の製造に用いる成長装置の一構成例を示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板を製造する際の結晶成長の概要を模式的に示す説明図(その1)である。
図4】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板を製造する際の結晶成長の概要を模式的に示す説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
(1)窒化物半導体基板の製造方法
図1は、本実施形態に係る窒化物半導体自立基板の製造手順の概要を模式的に示す断面図である。
本実施形態では、窒化物半導体の自立基板として、窒化ガリウム(GaN)の単結晶からなる基板(以下、「GaN基板」ともいう)を製造する場合を例に挙げる。
【0012】
GaN結晶は、六方晶構造(ウルツ鉱型結晶構造)を有している。このような六方晶構造のGaN結晶において、極性を有する面(極性面)としては、{0001}面および{000−1}面が挙げられる。また、極性面と垂直な無極性面としては、{10−10}面および{11−20}面が挙げられる。
本明細書においては、極性面を「C面」と称し、特に{0001}面を「+C面」、{000−1}面を「−C面」と称する場合がある。また、無極性面である{10−10}面を「M面」、同じく無極性面である{11−20}面を「A面」と称する場合がある。なお、本明細書において「C面」や「M面」等といった特定の指数面を称する場合には、±0.01°以内の精度で計測される各結晶軸から10°以内のオフ角を有する範囲内の面、好ましくはオフ角が5°以内、より好ましくは3°以内である面を含むものとする。ここで、オフ角とは、面の法線方向とGaN結晶の軸方向とのなす角をいう。
また、六方晶構造のGaN結晶には、極性面以外の面で無極性面から傾いた面である半極性面がある。半極性面としては、例えば、C面からm軸方向(M面と垂直な軸方向)に傾いた{10−11}面、{10−12}面、{10−13}面、{20−21}面等が挙げられる。これら{10−11}面、{10−12}面、{10−13}面、{20−21}面は、半極性面の中でも例外的に成長により平坦面を得やすい面として知られている。
【0013】
本実施形態では、以下に説明する「第一工程」から「第四工程」までを順に実施することで、半極性面の主面21を持つGaN基板20を製造する。
【0014】
(第一工程:種結晶基板の用意)
第一工程では、図1(b)に示すように、複数の種結晶基板10を用意する。用意する種結晶基板10の数は、特に限定されるものではなく、製造しようとするGaN基板20のサイズや形状等に応じて適宜決定すればよい。
【0015】
種結晶基板10は、GaN基板20を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなり、断面形状が矩形状に形成されたものである。そして、矩形状の断面形状を囲う四つの表面11,12のうち、互いに対向する二つの主面11が極性面であるC面となっている。さらに詳しくは、二つの主面11のうちの一方の面が+C面11aであり、他方の面が−C面11bとなっている。また、これらの面11と交差する二つの側面12については、いずれも無極性面であるM面となっている。なお、ここでは、側面12がM面である場合を例に挙げるが、これに限定されることはなく、無極性面であれば例えばA面であっても構わない。つまり、種結晶基板10は、少なくとも極性面の主面11と無極性面の側面12とを有するものであればよい。
【0016】
矩形状の断面形状は、複数の種結晶基板10のそれぞれについて略同一であり、例えばC面11によって構成される長辺が10〜200mm程度、M面12によって構成される短辺が0.3〜5.0mm程度となるように形成することが考えられる。複数の種結晶基板10のそれぞれの断面形状が略同一であれば、後述するように並べて配置することが容易に実現可能となり、同じく後述する階段形状を構成する上で好適なものとなるからである。なお、ここで挙げた断面形状サイズは、好適な一具体例に過ぎず、本発明がこれに限定されるものではない。
【0017】
複数の種結晶基板10の平面形状については、それぞれを例えば矩形状とすることが考えられるが、特に限定されるものではなく、後述するように並べて配置可能であれば適宜設定されたもので構わない。
【0018】
このような複数の種結晶基板10を、本実施形態では、主面13が極性面であるGaN基板14を複数片に分割することで得るものとする。さらに詳しくは、GaN基板14を無極性面であるM面で劈開して複数片に分割し、これにより複数の種結晶基板10を得るものとする。
【0019】
そのために、本実施形態では、第一工程にあたり、先ず、複数の種結晶基板10を得る際に用いられるベース材料として、図1(a)に示すように、主面13がC面であるGaN基板14を用意する。GaN基板14は、公知の手法により、下地基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させ、成長させた結晶をスライスしてその表面を研磨すること等により作製されたものであればよい。現在の技術水準では、直径2インチ程度のものであれば、その主面13内におけるオフ角のばらつき(すなわち、オフ角の最大値と最小値との差)が例えば0.3°以内と比較的小さく、また欠陥密度や不純物濃度の少ない良質な基板を、比較的安価に得ることができる。
【0020】
GaN基板14を用意したら、次いで、そのGaN基板14を無極性面であるM面で劈開して複数片に分割する。劈開は、例えばレーザースクライブ装置による切り込みを利用して行う、といった公知の手法を利用して行えばよい。これにより、図1(b)に示すように、GaN基板14から複数の種結晶基板10が得られることになる。
【0021】
このように、本実施形態では、GaN基板14を劈開して複数の種結晶基板10を得るので、均質な複数の種結晶基板10を容易に得ることが実現可能となる。
【0022】
(第二工程:種結晶基板の配置)
第二工程では、第一工程で用意した複数の種結晶基板10を、後述する成長装置200が備える基台208上に並べて配置する。
【0023】
複数の種結晶基板10の配置にあたっては、先ず、図1(c)に示すように、配置する種結晶基板10のそれぞれについて、その断面形状を所定の傾斜角θで傾ける。ここでいう「所定の傾斜角θ」とは、その断面形状におけるc軸方向(C面と垂直な軸方向)と基台208の法線方向とがなす角度のことであり、その断面形状のC面11と基台208の上面とがなす角度と一致する。
【0024】
所定の傾斜角θは、最終的に得られるGaN基板20の主面21となる半極性面を決定する上で重要なパラメータとなるものである。つまり、傾斜角θの設定次第で主面21がどのような半極性面となるかが決定されることになる。なお、所定の傾斜角θの具体例、および、その傾斜角θと半極性面との関係については、詳細を後述する。
【0025】
そして、断面形状を所定の傾斜角θで傾けたら、その傾斜角θで傾けた状態のまま、図1(d)に示すように、複数の種結晶基板10のそれぞれを、隣り合う種結晶基板10のC面11同士が接し、かつ、一方のC面11の一部が露出するように、基台208上に並べて配置する。さらに詳しくは、隣り合う種結晶基板10における一方の+C面11aともう一方の−C面11bとが互いに接するように、それぞれの種結晶基板10を基台208の面上に並べる。このとき、平面である基台208の面上に略同一の断面形状を有する複数の種結晶基板10を並べることになるが、それぞれの種結晶基板10がいずれも傾斜角θで傾けた状態であるため、複数の種結晶基板10を並べると、基台208の側とは反対側において、隣り合う種結晶基板10における一方のC面11の一部が覆われずに露出することになるのである。このように複数の種結晶基板10を並べて配置することで、基台208の側とは反対側には、これら複数の種結晶基板10によって、露出した状態のC面11の一部とM面12とによる階段形状15が構成される。
【0026】
階段形状15を構成するC面11、すなわち複数の種結晶基板10を並べて配置した際に一部が露出することになるC面11は、+C面と−C面のいずれであっても実現可能であるが、後述する理由により+C面(すなわち{0001}面)であることが好ましい。したがって、本実施形態では、階段形状15を構成するC面11が+C面であるように、複数の種結晶基板10の向きを規定しつつそれぞれを並べるものとする。
【0027】
また、階段形状15を構成するC面(本実施形態においては+C面)11については、複数の種結晶基板10のそれぞれにおけるオフ角分布が1°以内であることが好ましい。オフ角分布とは、複数の種結晶基板10の間でのオフ角のばらつき(すなわち、オフ角の最大値と最小値との差)のことをいい、上述したように1°以内であることが好ましいが、より好ましくは0.3°以内、さらに好ましくは0.15°以内であるものとする。このように、階段形状15を構成するC面11のオフ角分布を揃えることで、詳細を後述するように階段形状15の上にGaN結晶を成長させる際に、低転位で高品質な結晶を得ることが可能となるからである。
【0028】
複数の種結晶基板10を所定の傾斜角θで傾けた状態で配置する際には、その傾斜角θで傾けた傾斜面を有した配置治具16を用いることが考えられる。配置治具16を用いれば、その配置治具16が有する傾斜面に種結晶基板10のC面11を沿わせるように配置することで、複数の種結晶基板10のそれぞれを容易かつ適切に傾斜角θで傾けて配置することができるようになる。このような種結晶基板10の配置を実現する配置治具16の形成材料としては、例えば、優れた耐熱性や機械的強度等を持つ、パイロリティックグラファイト(PG)、カーボン、石英等を用いることが好ましい。
【0029】
なお、配置治具16としては、種結晶基板10を支持する側の治具16aと種結晶基板10を抑える側の治具16bとのそれぞれを対にして用いることが考えられるが、少なくとも支持する側の治具16aがあれば、複数の種結晶基板10を傾斜角θで傾けて配置することが可能となる。また、複数の種結晶基板10の配置にあたり、必ずしも配置治具16を要することはなく、例えば、種結晶基板10が配置される基台208の上面を傾斜した階段状にして対応するようにしても構わない。
【0030】
(第三工程:GaN結晶の成長)
第三工程では、第二工程において複数の種結晶基板10によって形成した階段形状15の上に、窒化物半導体単結晶であるGaN結晶を成長させて、GaN結晶層22を形成する。
【0031】
本実施形態において、GaN結晶の成長は、ハイドライド気相成長装置(HVPE装置)を用いて行う。
図2は、本実施形態において用いるHVPE装置の一具体例を示す模式図である。
【0032】
HVPE装置200は、石英やアルミナ等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、複数の種結晶基板10および配置治具16が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。これらのサセプタ208および回転機構216は、カーボン、またいは炭化ケイ素(SiC)や窒化ホウ素(BN)等のコーティングを施したカーボンで構成されることが好ましく、それ以外の部材であれば不純物の少ない高純度石英で構成されることが好ましい。また、特に1300℃以上の高温にさらされる領域の部材については、高純度石英に代えてアルミナで構成されることが好ましい。
【0033】
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、成膜室201内へアンモニア(NH)ガスを供給するガス供給管232b、および、成膜室201内へ窒素(N)ガスを供給するガス供給管232cが接続されている。そして、ガス供給管232cには、水素(H)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a〜232dには、上流側から順に、流量制御器241a〜241d、バルブ243a〜243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種結晶基板10等に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種結晶基板10等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a〜249dは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。
【0034】
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上の種結晶基板10等を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0035】
第三工程では、上述した構成のHVPE装置200を用いて、例えば以下に説明する処理手順により、複数の種結晶基板10による階段形状15の上にGaN結晶を成長させる。
先ず、HVPE装置200においては、ガス生成器233a内に原料としてGa融液を収容しておく。そして、サセプタ208を回転させるとともに、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へHガス(あるいはHガスとNガスとの混合ガス)を供給する。さらには、成膜室201内が所望の成長温度、成長圧力に到達し、成膜室201内が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行い、複数の種結晶基板10による階段形状15の上に、成膜ガスとしてGaClガスとNHガスとを供給する。これらの成膜ガスは、Hガス、Nガスまたはこれらの混合ガスからなるキャリアガスと混合して供給してもよい。また、NHガスの供給は、種結晶基板10の劣化を防止する観点から成長温度が500℃に達した段階から開始するのが好ましい。
【0036】
これにより、第三工程では、図1(e)に示すように、階段形状15の上に、GaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶層22が形成されることとなる。
【0037】
第三工程を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(種結晶基板の温度):980〜1100℃、好ましくは、1050〜1100℃
成膜圧力(成膜室内の圧力):90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
NHガスの分圧/GaClガスの分圧:4〜20
ガスの分圧/Hガスの分圧:0〜1
【0038】
ここで、階段形状15の上へのGaN結晶のエピタキシャル成長について、さらに詳しく説明する。
図3は、本実施形態に係る窒化物半導体自立基板を製造する際の結晶成長の概要を模式的に示す説明図(その1)である。
【0039】
第三工程では、階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させる。階段形状15は、図3(a)に示すように、種結晶基板10のC面(本実施形態においては+C面)11とM面12とが露出して構成されている。GaN結晶のエピタキシャル成長は、一般に、c軸に沿った方向(図中矢印A方向)に成長する場合のほうがm軸に沿った方向(図中矢印B方向)に成長する場合よりも成長速度が速い。したがって、階段形状15の上へのGaN結晶のエピタキシャル成長にあたっては、C面11による影響の方がM面12による影響よりも支配的となる。
【0040】
その場合において、階段形状15を構成するC面11が+C面(すなわち{0001}面)であれば、階段形状15の上へのGaN結晶のエピタキシャル成長に際して+C面が露出していることになるので、図3(b)に示すように、+C面から支配的な影響を受けつつその+C面に則してエピタキシャル成長させるGaN結晶の極性の向きが揃うことになる。したがって、例えば−C面が露出している場合とは異なり、GaN結晶の極性の向きが揃うことで、周囲の結晶とは極性が反転した領域である極性反転区(インバージョンドメイン)が存在してしまうことがなく、低転位で高品質なGaN結晶を得る上で非常に好適である。
【0041】
また、その場合に、階段形状15を構成するC面11におけるオフ角分布が1°以内であれば、複数の種結晶基板10の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させても、それぞれのC面11におけるオフ角分布が揃うことになり、その結果として低転位で高品質なGaN結晶を得ることが可能となる。
【0042】
ところで、第三工程において、GaN結晶のエピタキシャル成長によって得られるGaN結晶層22は、階段形状15の上に形成される。そのため、GaN結晶層22は、以下のような過程を経て形成されることになる。
図4は、本実施形態に係る窒化物半導体自立基板を製造する際の結晶成長の概要を模式的に示す説明図(その2)である。
【0043】
GaN結晶層22は、GaN結晶の成長初期段階では、図4(a)に示すように、その表面の形状が階段形状15に沿ったものとなる。ところが、GaN結晶の成長が続いてGaN結晶層22が厚くなるにつれて、図4(b)に示すように、表面の形状が階段形状15から乖離し、GaN結晶層22がある程度の厚さ(例えば、500μm以上)になると、図4(c)に示すように、表面が平坦化する。平坦化した後におけるGaN結晶層22の表面は、最終的に得られるGaN基板20の主面21と同様の半極性面である。
【0044】
このような過程を経て得られるGaN結晶層22については、そのGaN結晶層22を構成するGaN結晶のそれぞれの極性の向きが揃っており、低転位で高品質なものであることが好ましい。そのためには、少なくともGaN結晶層22の表面が平坦化するまでの間、GaN結晶のエピタキシャル成長に対して、階段形状15を構成する+C面11aからの影響が及ぶ状態が続くようにすることが考えられる。
【0045】
このことから、階段形状15を構成する基になる複数の種結晶基板10については、図4(d)に示すように、第三工程で得ようとするGaN結晶層22の半極性面のジャスト面23に対して階段形状15が傾きαを有する位置関係となるように、第二工程で配置する際の傾斜を傾斜角θ+αに設定するようにしてもよい。つまり、かかる場合には、ジャスト面23に対する傾きαの分だけ、種結晶基板10を配置する際の傾斜の角度が大きくなる方向に傾くように、それぞれの傾斜を傾斜角θ+αに設定しておくのである。
【0046】
このように、ジャスト面23に対して階段形状15が傾きαを有する位置関係となるように、それぞれの種結晶基板10の傾斜が傾斜角θ+αに設定されていれば(すなわち、ジャスト面23に揃える場合に比べて少し大きめに傾ければ)、階段形状15の上へのGaN結晶のエピタキシャル成長に際して、GaN結晶層22の表面が平坦化するまで、+C面からの成長面が露出し続けることになる。したがって、GaN結晶のエピタキシャル成長に対して、階段形状15を構成する+C面11aからの影響が及ぶ状態が続くことになるので、エピタキシャル成長させるGaN結晶の極性の向きを常に揃えることが可能となり、低転位で高品質な結晶を得る上で非常に好適である。
【0047】
つまり、第二工程において、GaN結晶層22の成長表面が平坦化するまで階段形状15の+C面11aからの成長面が露出し続けるように、複数の種結晶基板10を配置する際の傾斜を傾斜角θ+αに設定しておけば、第三工程において、階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させる際に、そのGaN結晶の極性の向きを常に揃えることが可能となり、低転位で高品質な結晶を得ることが実現可能となるのである。
【0048】
傾きαの具体的な大きさについては、例えば0.2〜3°程度とすることが考えられるが、本発明がこれに限定されるものではなく、上述したように+C面11aからの影響が及ぶ状態が続くような大きさであればよい。
【0049】
なお、第三工程においては、GaN結晶層22の成長表面が平坦化するまでGaN結晶のエピタキシャル成長を続けることが考えられるが、必ずしもその必要はなく、後述する第四工程でGaN結晶層22からの自立基板の切り出しが可能であれば、GaN結晶層22の成長表面が平坦化する前の段階(すなわち、階段形状15による影響が残っている段階)でGaN結晶のエピタキシャル成長を終了してもよい。成長表面が平坦化する前であっても、GaN結晶層22においては、GaN結晶の極性の向きが揃った状態であると考えられ、そこから切り出す自立基板について低転位で高品質なものとなるからである。
【0050】
GaN結晶のエピタキシャル成長が終了し、階段形状15の上にGaN結晶層22が形成された状態となったら、HVPE装置200では、成膜室201内へNHガス、Nガスを供給し、成膜室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、成膜室201内へのHガスの供給、ヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、成膜室201内の温度が500℃以下となったらNHガスの供給を停止し、その後、成膜室201内の雰囲気をNガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、成膜室201内を搬出可能な温度にまで低下させ、GaN結晶層22で接合させた状態の複数の種結晶基板10を成膜室201内から搬出する。
【0051】
(第四工程:自立基板の切り出し)
第四工程では、第三工程で得られたGaN結晶層22から自立基板を切り出し、これにより半極性面の主面21を持つGaN基板20を得る。
【0052】
具体的には、HVPE装置200の成膜室201内から搬出した種結晶基板10上のGaN結晶層22を、成長表面が平坦化していればその成長表面と平行にスライスして、裏面側の種結晶基板10を除去する。なお、成長表面が平坦化していなくても、平坦化した場合と同視できる方向にスライスする。このスライス加工は、例えばワイヤーソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。
【0053】
これにより、図1(f)に示すように、1枚以上の自立基板(すなわち、半極性面の主面21を持つGaN基板20)を得ることができる。その後、GaN基板20の表面(半極性面)に所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、GaN基板20の裏面は、ラップ面あるいはミラー面とする。
【0054】
(2)傾斜角と半極性面との関係
次に、上述した手順の製造方法において、種結晶基板10の傾斜角θと、GaN基板20の主面21を構成する半極性面との関係について、具体的に説明する。
【0055】
GaN基板20の主面21を構成する半極性面としては、例えば、例外的に成長により平坦面を得やすい面である{10−11}面、{10−12}面、{10−13}面、または、{20−21}面のいずれかが挙げられる。このような半極性面を対象とした場合、以下に述べるように傾斜角θを設定することで、高品質なGaN基板20を実現することが可能となる。
【0056】
({10−11}面を対象とした場合)
例えば、{10−11}面を対象とした場合であれば、種結晶基板10の傾斜角θを62°に設定する。そして、62°に設定した傾斜角θで傾けた状態で、複数の種結晶基板10のそれぞれを配置する。このときの傾斜角θの設定値は、上述した傾きαを加味し、傾斜角θの設定値に傾きαの分を加えた状態(例えば、62.2〜65°とした状態)で、複数の種結晶基板10を配置するのが好ましい。
【0057】
このような設定角で形成される階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させることで、平坦な{10−11}面を表面に有するGaN結晶層22を得ることが可能となる。そして、十分な厚さにGaN結晶層22を成長させた後に、そのGaN結晶層22をスライスして裏面側の種結晶基板10を除去することで、{10−11}面を主面21に持った大面積かつ低転位な自立基板であるGaN基板20を得ることが実現可能となる。
【0058】
({10−12}面を対象とした場合)
例えば、{10−12}面を対象とした場合であれば、種結晶基板10の傾斜角θを43°に設定する。そして、43°に設定した傾斜角θで傾けた状態で、複数の種結晶基板10のそれぞれを配置する。このときの傾斜角θの設定値は、上述した傾きαを加味し、傾斜角θの設定値に傾きαの分を加えた状態(例えば、43.2〜46°とした状態)で、複数の種結晶基板10を配置するのが好ましい。
【0059】
このような設定角で形成される階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させることで、平坦な{10−12}面を表面に有するGaN結晶層22を得ることが可能となる。そして、十分な厚さにGaN結晶層22を成長させた後に、そのGaN結晶層22をスライスして裏面側の種結晶基板10を除去することで、{10−12}面を主面21に持った大面積かつ低転位な自立基板であるGaN基板20を得ることが実現可能となる。
【0060】
({10−13}面を対象とした場合)
例えば、{10−13}面を対象とした場合であれば、種結晶基板10の傾斜角θを32°に設定する。そして、32°に設定した傾斜角θで傾けた状態で、複数の種結晶基板10のそれぞれを配置する。このときの傾斜角θの設定値は、上述した傾きαを加味し、傾斜角θの設定値に傾きαの分を加えた状態(例えば、32.2〜35°とした状態)で、複数の種結晶基板10を配置するのが好ましい。
【0061】
このような設定角で形成される階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させることで、平坦な{10−13}面を表面に有するGaN結晶層22を得ることが可能となる。そして、十分な厚さにGaN結晶層22を成長させた後に、そのGaN結晶層22をスライスして裏面側の種結晶基板10を除去することで、{10−13}面を主面21に持った大面積かつ低転位な自立基板であるGaN基板20を得ることが実現可能となる。
【0062】
({20−21}面を対象とした場合)
例えば、{20−21}面を対象とした場合であれば、種結晶基板10の傾斜角θを75°に設定する。そして、75°に設定した傾斜角θで傾けた状態で、複数の種結晶基板10のそれぞれを配置する。このときの傾斜角θの設定値は、上述した傾きαを加味し、傾斜角θの設定値に傾きαの分を加えた状態(例えば、75.2〜78°とした状態)で、複数の種結晶基板10を配置するのが好ましい。
【0063】
このような設定角で形成される階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させることで、平坦な{20−21}面を表面に有するGaN結晶層22を得ることが可能となる。そして、十分な厚さにGaN結晶層22を成長させた後に、そのGaN結晶層22をスライスして裏面側の種結晶基板10を除去することで、{20−21}面を主面21に持った大面積かつ低転位な自立基板であるGaN基板20を得ることが実現可能となる。
【0064】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0065】
(a)本実施形態では、断面形状が矩形状に形成され少なくとも極性面の主面11と無極性面の側面12とを有する複数の種結晶基板10を用意し(第一工程)、これらのそれぞれを所定の傾斜角θで傾けた状態で並べて配置し(第二工程)、これにより形成された階段形状15の上にGaN結晶を成長させてGaN結晶層22を形成し(第三工程)、そのGaN結晶層22から自立基板を切り出して半極性面の主面21を持つGaN基板20を得る(第四工程)。
したがって、半極性面の主面21を持つGaN基板20を得る場合において、複数の種結晶基板10を並べて配置することで(第一工程)、基板大口径化を容易に実現することが可能となる。
また、複数の種結晶基板10を並べる際に、それぞれの種結晶基板10を傾けた状態で配置し、これにより形成された極性面と無極性面とによる階段形状15を利用しつつ、極性面の一部が露出する階段形状15の上へのエピタキシャル成長によりGaN結晶層22を得るので(第二工程〜第三工程)、そのGaN結晶層22について低転位で高品質な結晶が得られる。
また、エピタキシャル成長させる成長面が階段形状15のままで良いので(第三工程)、成長面として半極性面を露出させるための研磨処理等を必要とすることがなく、GaN基板20の生産性向上等を図る上で非常に有用である。
さらには、階段形状15の上にGaN結晶層22を成長させ(第三工程)、そのGaN結晶層22から直接的にGaN基板20を得るので(第四工程)、種結晶基板10同士を結合保持するために多結晶のバインダー等を必要とすることがなく、GaN基板20の生産性向上等を図る上で非常に有用である。しかも、GaN基板20には、バインダー等による多結晶領域が残存しないので、低転位で高品質なGaN基板20を得る上でも非常に有用である。
【0066】
(b)本実施形態によれば、複数の種結晶基板10を用意するのにあたり(第一工程)、主面13が極性面であるGaN基板14を無極性面で劈開して複数片に分割することで、複数の種結晶基板10を得る。したがって、均質な複数の種結晶基板10を容易に得ることが実現可能となり、それぞれの種結晶基板10の上に成長させるGaN結晶層22について低転位で高品質な結晶を得る上で非常に好適であり、またGaN基板20の生産性向上等を図る上でも非常に好適である。
【0067】
(c)本実施形態によれば、階段形状15を構成する極性面が{0001}面(すなわち+C面)である。このように、極性面が+C面であれば、階段形状15の上へのエピタキシャル成長に際して+C面が露出していることになるので、その+C面に則してエピタキシャル成長させるGaN結晶の極性の向きが揃うことになり、低転位で高品質な結晶を得る上で非常に好適である。
【0068】
(d)本実施形態で説明したように、第三工程で得ようとするGaN結晶層22の半極性面のジャスト面23に対して階段形状15が傾きαを有する位置関係となるように、第二工程で配置する際の傾斜を傾斜角θ+αに設定すれば、階段形状15の上へのGaN結晶のエピタキシャル成長に際して、GaN結晶層22の表面が平坦化するまで、+C面からの成長面が露出し続けることになる。したがって、GaN結晶のエピタキシャル成長に対して、階段形状15を構成する+C面からの影響が及ぶ状態が続くことになるので、エピタキシャル成長させるGaN結晶の極性の向きを常に揃えることが可能となり、低転位で高品質な結晶を得る上で非常に好適である。
つまり、第二工程において、GaN結晶層22の成長表面が平坦化するまで階段形状15の+C面からの成長面が露出し続けるように、複数の種結晶基板10を配置する際の傾斜を傾斜角θ+αに設定しておけば、第三工程において、階段形状15の上にGaN結晶をエピタキシャル成長させる際に、そのGaN結晶の極性の向きを常に揃えることが可能となり、低転位で高品質な結晶を得ることが実現可能となるのである。
なお、GaN結晶層22の形成は、その成長表面が平坦化する前の段階(すなわち、階段形状15による影響が残っている段階)で終了してもよい。成長表面が平坦化する前であっても、GaN結晶層22においては、GaN結晶の極性の向きが揃った状態であると考えられ、そこから切り出すGaN基板20について低転位で高品質なものとなるからである。
【0069】
(e)本実施形態で説明したように、複数の種結晶基板10の+C面のオフ角分布が1°以内であれば、階段形状15を構成するC面のオフ角分布が揃うことになる。したがって、階段形状15の上にGaN結晶を成長させる際に、低転位で高品質な結晶を得ることが可能となる。
【0070】
(f)本実施形態で説明したように、複数の種結晶基板10の配置に際して、傾斜角θで傾けた傾斜面を有した配置治具16を用いれば、その配置治具16が有する傾斜面に種結晶基板10のC面11を沿わせるように配置することで、複数の種結晶基板10のそれぞれを容易かつ適切に傾斜角θで傾けて配置することができるようになり、GaN基板20の生産性向上等を図る上で有用である。
【0071】
<他の実施形態>
以上に、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0072】
上述の実施形態では、複数の種結晶基板10を得るのにあたり、主面13が極性面であるGaN基板14を無極性面であるM面で劈開する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはなく、例えばGaN基板14を他の無極性面であるA面で劈開して複数の種結晶基板10を得るようにしても構わない。A面で劈開して得た種結晶基板10を用いた場合には、C面からa軸方向(A面と垂直な軸方向)に傾いた{11−21}面、{11−22}面、または、{11−23}面等について、これらの半極性面を主面21に持ったGaN基板20を得ることが実現可能となる。
【0073】
また、上述の実施形態では、階段形状15の上にGaN結晶層22を形成する第三工程において、ハイドライド気相成長法(HVPE法)を用いる場合について説明したが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、第三工程では、有機金属気相成長法(MOCVD法)等のHVPE法以外の気相成長法を用いるようにしてもよい。その場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0074】
また、上述の実施形態では、窒化物半導体がGaNである場合を例に挙げたが、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等の窒化物結晶、すなわち、AlInGa1−x−yN(0≦x+y≦1)の組成式で表される窒化物結晶からなる自立基板を製造する際にも、好適に適用可能である。
【0075】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0076】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
窒化物半導体単結晶からなり、断面形状が矩形状に形成され、少なくとも極性面の主面と無極性面の側面とを有する複数の種結晶基板を用意する第一工程と、
前記複数の種結晶基板を、前記極性面同士が接し、かつ、一方の前記極性面の一部が露出するように、前記断面形状を所定の傾斜角で傾けた状態で基台上に並べて配置して、前記基台の側とは反対側を前記極性面の一部と前記無極性面とによる階段形状とする第二工程と、
前記階段形状の上に窒化物半導体単結晶を成長させて窒化物半導体単結晶層を形成する第三工程と、
前記窒化物半導体単結晶層から半極性面の主面を持つ窒化物半導体の自立基板を得る第四工程と、
を備える窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0077】
[付記2]
付記1に記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板を、主面が前記極性面である窒化物半導体単結晶基板を前記無極性面で劈開して複数片に分割することで得る。
【0078】
[付記3]
付記1または2に記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記階段形状を構成する前記極性面が{0001}面である。
【0079】
[付記4]
付記3に記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記半極性面のジャスト面に対して前記階段形状が傾きを有する位置関係となるように、前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角を設定する。
【0080】
[付記5]
付記3または4に記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記窒化物半導体単結晶層の成長表面が平坦になるまで前記階段形状の前記極性面からの成長面が露出し続けるように、前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角を設定する。
【0081】
[付記6]
付記1から4のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記窒化物半導体単結晶層の成長表面が階段形状を有した状態で、前記窒化物半導体単結晶層から前記自立基板を切り出す。
【0082】
[付記7]
付記1から6のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板の前記極性面におけるオフ角分布が1°以内である。
【0083】
[付記8]
付記1から7のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板の配置に際して、前記傾斜角で傾けた傾斜面を有した治具を用いる。
【0084】
[付記9]
付記1から8のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角が前記基台の面上に対して62〜65°の傾斜を有した角であり、
前記自立基板における前記半極性面が{10−11}面である。
【0085】
[付記10]
付記1から8のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角が前記基台の面上に対して43〜46°の傾斜を有した角であり、
前記自立基板における前記半極性面が{10−12}面である。
【0086】
[付記11]
付記1から8のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角が前記基台の面上に対して32〜35°の傾斜を有した角であり、
前記自立基板における前記半極性面が{10−13}面である。
【0087】
[付記12]
付記1から8のいずれか一つに記載の窒化物半導体基板の製造方法において、好ましくは、
前記複数の種結晶基板を配置する際の前記傾斜角が前記基台の面上に対して75〜78°の傾斜を有した角であり、
前記自立基板における前記半極性面が{20−21}面である。
【符号の説明】
【0088】
10…種結晶基板、11…主面(極性面、C面)、11a…+C面、11b…−C面、12…側面(無極性面、M面)、14…GaN基板、15…階段形状、16,16a,16b…配置治具、20…GaN基板(窒化物半導体基板)、21…主面(半極性面)、22…GaN結晶層、23…ジャスト面
図1
図2
図3
図4