(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体と、前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられ、ベースポリマ―と金属水酸化物を含有する難燃外層を備えた絶縁電線であって、前記水分浸入防止層は、高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、塩素系樹脂又は低密度ポリエチレンのいずれかからなり、前記難燃外層における金属水酸化物の含有量が前記ベースポリマ―100質量部に対して、150質量部以上250質量部以下である絶縁電線。
【背景技術】
【0002】
電子機器類の内部配線に使用される絶縁電線は、機器の発火事故などに際して電線を伝って火が広がらぬように難燃性を有することが求められている。内部配線材の難燃性の基準は、例えば米国のUL758規格等で定められている。
【0003】
一方で、鉄道車両網が発達している欧州ではEN規格(欧州規格)と呼ばれる地域統一規格の採用が広がっており、耐摩耗性、耐加水分解性、難燃性、耐熱性、低発煙性、電気特性(直流安定性)を備えた材料の使用が求められている。
【0004】
このような規格の要求に応えるため、従来、電線やケーブル等に使用される樹脂組成物として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物が添加された難燃性樹脂組成物が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、導体と、該導体上に、変性ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)を主成分とするベースポリマー100重量部に対して、少なくとも焼成クレー10〜100重量部を添加した樹脂組成物を被覆した内層と、更にその上に、ポリエステル樹脂を主成分とするベースポリマー100重量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150重量部、加水分解性抑制剤0.5〜3重量部、水酸化マグネシウム10〜30重量部から構成されるポリエステル樹脂組成物を被覆した外層を備える多層絶縁電線が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、難燃剤として金属水酸化物を多く含む難燃層は、吸水により絶縁破壊が起こりやすく、電気絶縁層としては機能しないため、内層として電気絶縁層を設ける必要がある。
【0008】
最近では特に絶縁電線やケーブルに細径化が求められているが、従来の上記構成では、細径化の要求に応えることが困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、難燃剤として金属水酸化物を多く含む難燃層を有していても、細径化が可能な絶縁電線及びケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の絶縁電線及びケーブルを提供する。
【0011】
[1]導体と、前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え
、前記水分浸入防止層の外周に設けられ、金属水酸化物を含有する難燃外層を備えた絶縁電線。
[
2]前記水分浸入防止層が、膜厚5μm未満の無機物膜からなる前記[1
]に記載の絶縁電線。
[
3]前記水分浸入防止層が、膜厚5μm未満の金属膜からなる前記[1
]に記載の絶縁電線。
[
4]前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる前記[1
]に記載の絶縁電線。
[
5]前記難燃内層は、前記導体の直上に設けられている前記[1]に記載の絶縁電線。
[
6]前記[1]〜[
5]のいずれか1つに記載の絶縁電線を備えたケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、難燃剤として金属水酸化物を多く含む難燃層を有していても、細径化が可能な絶縁電線及びケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔絶縁電線〕
本発明の実施形態に係る絶縁電線は、導体と、前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備える。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る絶縁電線の一例を示す横断面図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る絶縁電線10は、導体1と、導体1の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層2と、難燃内層2の外周に設けられた水分浸入防止層3とを備える。水分浸入防止層3の外周に設けられた難燃外層4を更に備えることが好ましい。
【0016】
(導体1)
導体1は、汎用の材料、例えば、純銅や錫めっき銅、アルミニウム等からなる。導体1は、
図1のように1本である場合に限られず、複数本の素線を撚合せたものであってもよい。例えば、錫めっき軟銅撚線を好適に使用することができる。導体1としては、例えば外径0.15〜7mmφ程度の導体を使用することができる。
【0017】
(難燃内層2)
難燃内層2は、難燃剤として金属水酸化物を含有する。
【0018】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0019】
金属水酸化物の含量は、難燃内層2を構成するベースポリマー100質量部に対して、80質量部以上250質量部以下であることが好ましく、150質量部以上250質量部以下であることがより好ましい。
【0020】
難燃内層2を構成するベースポリマーとしては、汎用の材料、例えば、塩化ビニル樹脂、ふっ素樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィンを用いることができる。
【0021】
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体(すなわちポリ塩化ビニル)のほか、塩化ビニルと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)及びこれらの混合物が挙げられる。塩化ビニル樹脂は、必要に応じて、重合度の異なるものを2種以上ブレンドして用いても良い。
【0022】
ふっ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)及びエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を用いることができる。これらは、1種で用いても併用してもよい。上記ふっ素樹脂は、架橋させることが望ましい。
【0023】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。
【0024】
難燃内層2を構成するベースポリマーには、必要に応じて、その他の難燃剤、難燃助剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、加工性改良剤、無機充填剤、相溶化剤、発泡剤、帯電防止剤等の添加物を加えることも可能である。
【0025】
難燃内層2は、例えば、金属水酸化物系フィラーを充填させた上記ベースポリマーを押出被覆等の成形手段により導体1の外周に被覆することで形成できる。その後、電子線照射等の方法により架橋を施しても良い。
【0026】
難燃内層2の厚みは、例えば、30μm以上300μm以下とすることが好ましい。
【0027】
本実施の形態においては、難燃内層2を、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0028】
(水分浸入防止層3)
難燃内層2の外周に設けられた水分浸入防止層3は、外部から難燃内層2へ水分が浸入することを防止する機能を有する。例えば、JIS K7129 感湿センサー法(Lyssy法)にて測定した水蒸気透過率が50g・m
-2・day以下となる材料・層厚を選択することが好適であり、40g・m
-2・day以下となる材料・層厚を選択することがより好適であり、30g・m
-2・day以下となる材料・層厚を選択することが更に好適である。
【0029】
水分浸入防止層3は、上記機能を有していれば、その材料等は特に限定されるものではないが、例えば、無機物膜、金属膜、高密度高分子膜、低密度高分子膜からなることが好ましい。これらは1種のみならず、2種以上を用いても良い。
【0030】
無機物膜は、例えば、SiO
2、Al
2O
3、又はTiO
2からなる。無機物膜の膜厚は、5μm未満であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることが更に好ましく、0.15μm以下であることが最も好ましい。また、膜厚の下限は、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、70nm以上であることが最も好ましい。膜厚5μm以上では、電線やケーブルの柔軟性が十分でなく、また、膜が剥離する可能性がある。
【0031】
上記無機物膜は、例えば、アルコキシシラン等の無機アルコキシから生成される。難燃内層2の外周に材料を吹き付ける等により設けることができる。
【0032】
金属膜は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、又はSnからなる。好ましい膜厚は、上記無機物膜と同様である。膜厚5μm以上では、電線やケーブルの柔軟性が十分でなく、また、膜が剥離する可能性がある。
【0033】
上記金属膜は、例えば、スパッタにて生成される。また、無電解めっきで生成することもできる。
【0034】
高密度高分子膜は、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、塩素系樹脂からなる。低密度高分子膜は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)からなる。高密度高分子膜及び低密度高分子膜の膜厚は、10μm以上200μm以下であることが好ましく、30μm以上180μm以下であることがより好ましく、50μm以上150μm以下であることが更に好ましい。
【0035】
上記高密度高分子膜は、押出被覆により形成できる。高密度高分子テープを巻き付けて形成してもよい。
【0036】
(難燃外層4)
難燃外層4は、難燃剤として金属水酸化物を含有することが好ましい。
【0037】
金属水酸化物としては、前述したものを用いることができる。
【0038】
金属水酸化物の含量は、難燃外層4を構成するベースポリマー100質量部に対して、80質量部以上250質量部以下であることが好ましく、150質量部以上250質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
難燃外層4を構成するベースポリマーとしては、難燃内層2と同様の前述したものを用いることができる。
【0040】
難燃外層4は、難燃内層2と同一の樹脂組成物からなることが好ましい。
【0041】
難燃外層4は、例えば、金属水酸化物系フィラーを充填させたベースポリマーを押出被覆等の成形手段により水分浸入防止層3の外周に被覆することで形成できる。その後、電子線照射等の方法により架橋を施しても良い。
【0042】
難燃外層4の厚みは、例えば、50μm以上450μm以下とすることが好ましい。難燃内層2と難燃外層4の合計厚さが、従来の絶縁電線の難燃層と同程度の厚さであれば良いので、電気絶縁層を別途、設ける必要がない分、本実施の形態に係る絶縁電線10は細径化に適している。
【0043】
本実施の形態においては、難燃外層4を、単層で構成してもよく、また、多層構造とすることもできる。さらに、必要に応じて、セパレータ、編組等を施してもよい。
【0044】
絶縁電線10は、本発明の効果を奏する範囲内において、上記以外の層を備えていても良い。例えば、導体1と難燃内層2の間や、難燃内層2と水分浸入防止層3の間に、難燃剤を含有していないポリエチレン等からなる電気絶縁層が設けられていても良い。但し、細径化の観点からは、設けない方が好ましく、設けるとしても、層厚300μm以下とすることが好ましく、200μm以下とすることがより好ましく、150μm以下とすることが更に好ましい。
【0045】
〔ケーブル〕
本発明の実施形態に係るケーブルは、本発明の実施形態に係る上記絶縁電線を備えることを特徴とする。
【0046】
本実施の形態に係るケーブルは、例えば、絶縁電線10と、その外周に押出被覆されたシースとを備える。絶縁電線10は多芯撚り線としてもよい。
【0047】
〔本発明の実施形態の効果〕
本発明の実施形態によれば、水分浸入防止層3及びその内側に難燃内層2を設けたことにより、難燃内層2が電気絶縁層としても機能するため、電気絶縁層を別途設ける必要が無いので、難燃剤として金属水酸化物を多く含む難燃層を有していても、細径化が可能な絶縁電線及びケーブルを提供することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
図1の構造の絶縁電線10を下記の通りの方法で製造し、評価を行なった。
【0050】
〔絶縁電線の作製〕
外径1.23mmの錫めっき導体(径0.18mmの素線37本を撚り合わせた撚り導体)の外周に、40mm押出機で難燃内層2を被覆し、難燃内層2上に水分浸入防止層3を被覆し、水分浸入防止層3上に難燃外層4を被覆した。難燃内層2及び難燃外層4の材料としては、下記表1に示す配合の樹脂組成物を用いた。水分浸入防止層3の材料としては、実施例1〜4、7及び8は高密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製、商品名:ハイゼックス(登録商標)5305E、MFR:0.8g/10min、密度:0.951/cm
3)100質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製、商品名:イルガノックス1010)1質量部を混練した樹脂組成物、実施例5及び6は低密度ポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン(株)製、商品名:UBEポリエチレン(登録商標)UBE C450、MFR:1g/10min、密度:0.921/cm
3)100質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製、商品名:イルガノックス1010)1質量部を混練した樹脂組成物を用いた。各層の厚さは、下記表2に記載の通りとなるように成形した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
〔水分浸入防止層3の水蒸気透過率の測定〕
測定サンプルとして各実施例の水分浸入防止層3に相当する膜を板ガラス上に作製した。水蒸気透過率は、JIS K7129 感湿センサー法(Lyssy法)にて測定した。
【0054】
〔絶縁電線の評価〕
作製した絶縁電線を次に示す方法で評価した。評価結果を表2に示す。
【0055】
(1)電気特性試験
EN50305.6.7に準拠し、300V直流安定性試験を実施した。240時間短絡しなかったものを合格とし、240時間未満で短絡したものを不合格とした。
【0056】
(2)難燃性試験
難燃性は、以下のVFT及びVTFTにて評価した。
(VFT)
垂直燃焼試験(VFT=Vertical Flame Test)を行なった。長さ600mmの絶縁電線を垂直にて保ち、絶縁電線に炎を60秒間当てた。炎を取り去った後、30秒以内に消火したものを合格(◎)とし、31秒以上60秒以内に消火したものを合格(○)とし、60秒以内に消火しなかったものを不合格(×)とした。
(VTFT)
EN50266−2−4に基づき、垂直トレイ燃焼試験(VTFT=Vertical Tray Flame Test)を実施した。具体的には、全長3.5mの絶縁電線を7本撚りの1束とし、11束を等間隔で垂直に並べ、絶縁電線の下方よりバーナで20分間燃焼させた後、自己消炎後、炭化長が下端部より2.5m以下を目標とした。炭化長が1.5m以下であれば、合格(◎)とし、炭化長が1.5mを超えて2.5m以下であれば、合格(〇)とし、2.5mを超えた場合、不合格(×)とした。
【0057】
〔総合判定〕
総合判定として、上記試験のすべての評価が合格のものを合格(◎)とし、直流安定性試験及びVFTの評価が合格でありVTFTが不合格のものを合格(○)とし、直流安定性試験とVFTのいずれかが不合格のものを不合格(×)とした。
【0058】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。