(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781285
(24)【登録日】2020年10月19日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス設計装置及び設計方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/18 20200101AFI20201026BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20201026BHJP
H01B 13/012 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
G06F17/50 650Z
G06F17/50 604H
G06F17/50 634Z
H01B13/012 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-22203(P2019-22203)
(22)【出願日】2019年2月12日
(62)【分割の表示】特願2015-86489(P2015-86489)の分割
【原出願日】2015年4月21日
(65)【公開番号】特開2019-114274(P2019-114274A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年2月12日
【審判番号】不服2019-17202(P2019-17202/J1)
【審判請求日】2019年12月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢司
【合議体】
【審判長】
清水 正一
【審判官】
樫本 剛
【審判官】
曽我 亮司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−176616(JP,A)
【文献】
特開平7−73224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
H01B 13/012
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を構成する部品の形状情報及び位置情報を有する3次元情報と、前記部品がワイヤーハーネスに影響を与える環境の情報である環境情報と、前記ワイヤーハーネスを構成する電線の種類及び接続先を含むハーネス情報と、を受け付ける受付手段と、
前記ワイヤーハーネスを除いた部品のうち、前記ワイヤーハーネスとの間の距離に応じて前記ワイヤーハーネスに影響を与える部品の3次元情報を、前記環境情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスの許容値の10%以内に影響を与える範囲に拡張した拡張3次元情報に変換する第1の変換手段と、
未拡張の3次元情報及び前記拡張3次元情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスを除いた部品の各立体画像を画面に表示する表示手段と、
前記画面に表示された前記各立体画像の間の空間に前記ワイヤーハーネスの立体画像を配線して前記ワイヤーハーネスのルートを決定する決定手段と、
を備えた、ワイヤーハーネス設計装置。
【請求項2】
前記環境情報は、前記部品の温度、振動、又は放射線の情報である、
請求項1に記載のワイヤーハーネス設計装置。
【請求項3】
移動体を構成する部品の形状情報及び位置情報を有する3次元情報と、前記部品がワイヤーハーネスに影響を与える環境の情報である環境情報と、前記ワイヤーハーネスを構成する電線の種類及び接続先を含むハーネス情報と、を受付手段により受付し、
前記ワイヤーハーネスを除いた部品のうち、前記ワイヤーハーネスとの間の距離に応じて前記ワイヤーハーネスに影響を与える部品の3次元情報を、前記環境情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスの許容値の10%以内に影響を与える範囲に拡張した拡張3次元情報に第1の変換手段により変換し、
未拡張の3次元情報及び前記拡張3次元情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスを除いた部品の各立体画像を画面に表示手段により表示し、
前記画面に表示された前記各立体画像の間の空間に前記ワイヤーハーネスの立体画像を配線して前記ワイヤーハーネスのルートを決定手段により決定する、
ワイヤーハーネス設計方法。
【請求項4】
前記環境情報は、前記部品の温度、振動、又は放射線の情報である、
請求項3に記載のワイヤーハーネス設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス設計装置及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ワイヤーハーネスの設計を容易にするため、CAD(コンピュータ支援設計)データを利用した設計支援装置及び設計支援方法、及びプログラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この設計支援方法は、部品のCADデータを用意し、ハーネスの物理特性を用意し、視点および視線方向の初期設定を用意し、部品のCADデータと初期設定とに応じて、視点から見た仮想的な3次元画像を表示し、視点および視線方向の移動命令に応じてハーネスを配線し、部品のCADデータと移動命令によって変更された視点および視線方向に応じて、変更された視点から見た仮想的な3次元画像を表示装置に表示するものであり、配線終了点を用意し、視点が配線終了点に到達した場合に、ハーネスの物理特性を参照して実際に配線することが可能か否かを判別するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−272397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の設計支援方法は、部品が制御盤のように発熱するものであった場合、それを考慮せずに物理的に配線可能か否かを判別するものであるため、制御盤に近づけてワイヤーハーネスを配線した場合、ワイヤーハーネスの寿命に影響を与えるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、部品がワイヤーハーネスに与える影響を考慮したワイヤーハーネスの設計が可能なワイヤーハーネス設計装置及び設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、移動体を構成する部品の形状情報及び位置情報を有する3次元情報と、前記部品が前記ワイヤーハーネスに影響を与える環境の情報である環境情報と、前記ワイヤーハーネスを構成する電線の種類及び接続先を含むハーネス情報と、を受け付ける受付手段と、前記受付手段により受け付けた、前記3次元情報、前記環境情報、前記電線の種類、及び前記接続先を含む情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスのルートを決定する決定手段と、を備えた、ワイヤーハーネス設計装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決するため、移動体を構成する部品の形状情報及び位置情報を有する3次元情報と、前記部品が前記ワイヤーハーネスに影響を与える環境の情報である環境情報と、前記ワイヤーハーネスを構成する電線の種類及び接続先を含むハーネス情報と、を受付手段により受付し、前記受付手段により受け付けた、前記3次元情報、前記環境情報、前記電線の種類、及び前記接続先を含む情報に基づいて、前記ワイヤーハーネスのルートを決定手段により決定する、ワイヤーハーネス設計方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品がワイヤーハーネスに与える影響を考慮したワイヤーハーネスの設計が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るワイヤーハーネス設計装置の概略の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、拡張前の3次元CADデータに基づく立体画像と拡張3次元CADデータに基づく立体画像の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、表示部の画面に表示された車両立体画像の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、ハーネスボード図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るワイヤーハーネス設計装置の概略の構成例を示すブロック図である。
【0013】
このワイヤーハーネス設計装置1は、CPU(Central Processing Unit)等によって構成され、ワイヤーハーネス設計装置1の各部を制御する制御部2と、各種の情報を記憶する記憶部3と、キーボード、マウス、ディスクドライブ等で実現される入力部4と、液晶ディスプレイ等で実現される表示部5と、プリンタ等の外部装置と通信を行う通信部6とを備える。
【0014】
記憶部3は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等から構成され、CPUのプログラム30、3次元CADデータ31、ハーネス情報32、部品情報33、拡張3次元CADデータ34、ルート情報35、ハーネスボード
図36等を記憶する。
【0015】
ここで、3次元CADデータ31は、部品の形状情報及び位置情報を有する3次元情報の一例であり、移動体を構成する部品のうち、ワイヤーハーネスを除いた部品の形状情報及び位置情報をコンピュータで読み込み可能にデータ化したものをいう。「移動体」は、本実施の形態では鉄道車両であるが、自動車、バス等の陸上車両や航空機等の他の移動体でもよい。また、「部品」には、鉄道車両の外装、フレーム、台車、車輪、座席等の構造体や、制御盤、空調機器、照明器具等の電気機器等が含まれる。「ワイヤーハーネス」とは、複数の電線を束にし、各電線の両端部にプリント基板や機器に接続するためのコネクタ又は端子を有するものをいう。ハーネス情報32は、ワイヤーハーネスを構成する電線の型式、直径、接続先、コネクタの型式等を含む。なお、電線の型式は、電線の種類の一例である。
【0016】
部品情報33には、部品がワイヤーハーネスに影響を与える環境情報、及びワイヤーハーネスに影響を与えない部品の仮想のサイズ情報が含まれる。「環境情報」は、当該部品がワイヤーハーネスの寿命等の性能に影響を与える温度、振動、放射線等の環境の情報をいう。この環境は、ワイヤーハーネスが当該部品から離れるに従ってワイヤーハーネスの性能に与える影響が小さくなり、ある距離離れると、ある性能を向上させた特別仕様以外の標準のワイヤーハーネスに対して影響が無くなる。例えば、部品が制御盤の場合、温度がワイヤーハーネスの性能に影響を与える環境になる。「サイズ情報」は、ワイヤーハーネスに影響を与えない大きさあるいは範囲の情報である。
【0017】
ルート情報35は、ワイヤーハーネスのルート上の複数の点を3次元座標で表したものである。
【0018】
ハーネスボード
図36は、ワイヤーハーネスを構成する電線の布線位置を実際の寸法で直線化した布線指示線で表したものである。なお、ハーネスボード
図36には、布線指示線の他に、ワイヤーハーネスを構成する電線の型式、電線長、コネクタの型式等が各布線指示線36aに対応して記載されていてもよい。
【0019】
制御部2のCPUは、プログラム30に従って動作することにより、受付手段20、第1の変換手段21、表示手段22、決定手段23、第2の変換手段24等として機能する。なお、制御部2の各手段20〜24は、全部又は一部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウエアによって実現されてもよい。
【0020】
受付手段20は、車両を構成する部品のうち、ワイヤーハーネスを除いた部品の3次元CADデータ31、ハーネス情報32及び部品情報33を受け付ける。受付手段20は、受け付けた3次元CADデータ31、ハーネス情報32、部品情報33を記憶部3に記憶する。
【0021】
第1の変換手段21は、ワイヤーハーネスを除いた部品のうち、ワイヤーハーネスとの間の距離に応じてワイヤーハーネスに影響を与える部品の3次元CADデータを所定の範囲、例えば、ワイヤーハーネスとの間の距離に依らずワイヤーハーネスに影響を与えない範囲に拡張した拡張3次元CADデータに変換する。なお、拡張3次元CADデータは、ワイヤーハーネスに僅か(例えば、許容値の10%以内)に影響を与える範囲に拡張したものでもよい。
【0022】
表示手段22は、未拡張の3次元CADデータ及び拡張3次元CADデータに基づいて、ワイヤーハーネスを除いた部品の立体画像を表示部5の画面に表示する。
【0023】
決定手段23は、表示部5の画面に表示された立体画像の間の空間にワイヤーハーネスの立体画像を配線してワイヤーハーネスを構成する電線のルートを決定し、それをルート情報35として記憶部3に記憶する。なお、ワイヤーハーネスのルートを決定する際のワイヤーハーネスの立体画像として、電線の中心軸を表す中心線を用いてもよい。
【0024】
第2の変換手段24は、決定手段23によってルートが決定された3次元のワイヤーハーネスの立体画像を2次元状に展開したハーネスボード
図36に変換する。
【0025】
(実施の形態の動作)
次に、本実施の形態の動作の一例を説明する。
【0026】
(1)3次元CADデータの受付
受付手段20は、例えば入力部4のディスクドライブから、鉄道車両を構成する部品のうち、ワイヤーハーネスを除いた部品の3次元CADデータ31、ハーネス情報32及び部品情報33を受け付けし、3次元CADデータ31、ハーネス情報32及び部品情報33を記憶部3に記憶する。
【0027】
(2)拡張3次元CADデータの生成
第1の変換手段21は、記憶部3に記憶された部品情報33の環境情報に基づいて、ワイヤーハーネスを除いた部品から、ワイヤーハーネスとの間の距離に応じてワイヤーハーネスに影響を与える部品を抽出する。次に、第1の変換手段21は、記憶部3に記憶された部品情報33のサイズ情報に基づいて、抽出した部品の3次元CADデータをサイズ情報に対応した大きさの拡張3次元CADデータに拡張し、その拡張3次元CADデータ34を記憶部3に記憶する。
【0028】
図2は、拡張前の3次元CADデータに基づく立体画像10と拡張3次元CADデータに基づく立体画像11の一例を示す斜視図である。例えば、拡張前の3次元CADデータが制御盤であった場合、制御盤は発熱し、周囲に温度という環境を与える。この場合、標準のワイヤーハーネスを制御盤の近くに通すと、熱の影響でワイヤーハーネスの寿命が短くなるおそれがある。このような場合は、拡張前の立体画像10を立体画像11のように拡張させることにより、その拡張した立体画像11の外側を経由するようにワイヤーハーネスの立体画像12を配線することによりワイヤーハーネスの寿命が短くなるというおそれを回避することができる。
【0029】
(3)ワイヤーハーネスのルートの決定
表示手段22は、未拡張の3次元CADデータ及び拡張3次元CADデータに基づいて、ワイヤーハーネスを除いた部品の立体画像を表示部5の画面に表示する。
【0030】
図3は、表示部5の画面に表示された車両立体画像の一例を示す斜視図である。車両立体画像100には、鉄道車両の外装111、内部フレーム112、台車113、車輪114、座席115等の構造体や、制御盤121、空調機器122、照明器具123等の電気機器等の各立体画像が含まれる。
【0031】
決定手段23は、表示部5の画面に表示された立体画像の間の空間にワイヤーハーネスの立体画像を配線してワイヤーハーネスのルートを決定する。具体的には、決定手段23は、入力部4のマウス等の操作に基づいて、ワイヤーハーネスを構成する電線の複数の経由点の3次元座標を確定してルートを決定する。決定手段23は、ワイヤーハーネスごとに電線の経由点の3次元座標をルート情報35として記憶部3に記憶する。
【0032】
(4)ハーネスボード図の作成
第2の変換手段24は、記憶部3に記憶されているハーネス情報32及びルート情報35に基づいて、決定手段23によってルートが決定されたワイヤーハーネスを、布線指示線として2次元状に展開したハーネスボード
図36に変換し、そのハーネスボード
図36を記憶部3に記憶する。
【0033】
図4は、ハーネスボード
図36の一例を示す図である。ハーネスボード
図36には、ワイヤーハーネスを構成する電線の布線位置を実際の寸法で直線化した布線指示線36aが示されている。
【0034】
制御部2は、入力部4のキーボード等の操作に基づいて、記憶部3に記憶されているハーネスボード
図36を通信部6を介してプリンタにより用紙に印刷する。印刷されたハーネスボード
図36は、木製のハーネスボードに貼り付けられ、ワイヤーハーネスの製作に供される。
【0035】
(実施の形態の作用、効果)
本実施の形態によれば、以下の作用、効果を奏する。
(a)ワイヤーハーネスに影響を与える部品の3次元CADデータをワイヤーハーネスとの間の距離に依らずワイヤーハーネスに影響を与えない範囲に拡張した拡張3次元CADデータに変換し、その拡張3次元CADデータに基づく立体画像を画面に表示し、その立体画像を避けるようにワイヤーハーネスの立体画像を配線することで、部品がワイヤーハーネスに与える影響を考慮したワイヤーハーネスの設計が可能になる。
(b)新型車両のように現物が存在しない場合でも、画面上でワイヤーハーネスの配線シミュレーションを行えるので、ワイヤーハーネスの設計が可能になる。
(c)自動車と比べて鉄道車両は、多くが床下配線のため、実車合わせによる加工作業が多いが、本実施の形態によれば、実車合わせによる加工作業を少なくすることができ、ワイヤーハーネスの設計が極めて容易になる。
【0036】
[他の変形例]
なお、本発明の実施の形態は、上記各実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々な実施の形態が可能である。
【0037】
また、本発明の実施の形態の構成要素の一部を本発明の要旨を逸脱しない範囲内において省いてもよい。
【0038】
また、本発明の要旨を変更しない範囲内で、上記実施の形態の組立工程において、工程の追加、削除、変更、入替え等が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、鉄道車両用ハーネス、自動車用ハーネス、航空機用ハーネス、医療用ハーネス、機器内ハーネス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…ワイヤーハーネス設計装置、2…制御部、3…記憶部、4…入力部、5…表示部、6…通信部、10…拡張前の立体画像、11…拡張後の立体画像、12…ワイヤーハーネスの立体画像、20…受付手段、21…第1の変換手段、22…表示手段、23…決定手段、24…第2の変換手段、30…プログラム、31…3次元CADデータ、32…ハーネス情報、33…部品情報、34…拡張3次元CADデータ、35…ルート情報、36…ハーネスボード図、36a…布線指示線、100…車両立体画像、111…外装、112…内部フレーム、113…台車、114…車輪、115…座席、121…制御盤、122…空調機器、123…照明器具