特許第6781593号(P6781593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エスペックミック株式会社の特許一覧 ▶ 公立大学法人大阪の特許一覧

<>
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000003
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000004
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000005
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000006
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000007
  • 特許6781593-養液栽培方法および養液栽培装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6781593
(24)【登録日】2020年10月20日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】養液栽培方法および養液栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20201026BHJP
【FI】
   A01G31/00 601A
   A01G31/00 612
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-169695(P2016-169695)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-33368(P2018-33368A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】594156020
【氏名又は名称】エスペックミック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 光生
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙治
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−105625(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140632(WO,A1)
【文献】 特開2008−061570(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0115245(US,A1)
【文献】 特開平11−069920(JP,A)
【文献】 特開平10−290638(JP,A)
【文献】 特開平08−056515(JP,A)
【文献】 特開平06−007047(JP,A)
【文献】 特開2013−111073(JP,A)
【文献】 壇和弘、大和陽一、今田成雄,光強度および赤色光/遠赤色光比の違いがコマツナの硝酸イオン濃度および硝酸還元酵素活性に及ぼす影響,園芸学研究,日本,園芸学会,2005年,Vol. 4, No. 3 ,pp. 323 - 328
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
24時間のうちに、農作物に光が照射される明期と、農作物に光が照射されないか、または、農作物に前記明期より光量が少ない光が照射される暗期と、を含む明暗サイクル下で、農作物を養液栽培する、養液栽培方法であって、
前記農作物の根を硝酸イオンを含有する第1液に接触させる、第1栽培工程と、
前記農作物の根を硝酸イオンを実質的に含まない第2液に接触させる、第2栽培工程と、を含み、
前記明期において、前記明期の10%以上の時間、前記第1栽培工程を実施し、
前記暗期において、前記暗期の50%以上の時間、前記第2栽培工程を実施する、養液栽培方法。
【請求項2】
前記第1栽培工程と前記第2栽培工程との間に、さらに、農作物の根域を洗浄する、洗浄工程を含む、請求項1に記載の養液栽培方法。
【請求項3】
前記第1液は、前記硝酸イオン以外の養分をさらに含む、請求項1または2に記載の養液栽培方法。
【請求項4】
前記農作物は野菜である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の養液栽培方法。
【請求項5】
前記野菜は葉菜類である、請求項4に記載の養液栽培方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の養液栽培方法に用いられる、養液栽培装置であって、
前記農作物の根の周囲に前記第1液を供給するための第1液供給装置と、
前記農作物の根の周囲に前記第2液を供給するための第2液供給装置と、を備える、養液栽培装置。
【請求項7】
前記農作物の根を洗浄するための洗浄装置を含む、請求項6に記載の養液栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培方法および養液栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の成長には窒素源(硝酸塩、アンモニウム塩などの窒素化合物)が必要である。土壌中の無機窒素は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、尿素態窒素があるが、農作物は硝酸態窒素を主として吸収した場合に生育がよいことが分かっている。このため、養液栽培では、培養液中に窒素源として硝酸態窒素が多く含まれている。
【0003】
したがって、養液栽培の農作物は、土壌栽培に比べ、農作物中に蓄積する硝酸塩の量が多くなりやすい。しかし、硝酸塩は、シュウ酸などのえぐ味成分増加の原因となる。また、硝酸塩は体内で亜硝酸塩になり、亜硝酸塩は、メトヘモグロビン血症の原因となる可能性がある。さらに亜硝酸塩がアミン類と反応すると、発がん性の高いニトロソアミンが生じる。これらの理由から、農作物中に含まれる硝酸塩の量は、できる限り少ないことが望ましい。
【0004】
特許文献1(特開平6−105625号公報)には、野菜の水耕栽培(養液栽培)において、収穫前の一定期間のうち2日〜数日間は硝酸態窒素を含まない水耕肥料溶液(培養液)を用いることで、野菜に含まれる硝酸塩の量を低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−105625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、養液栽培において、一定期間、硝酸態窒素を含有しない培養液を用いると、農作物の生育量が大幅に減少するという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、農作物中に含まれる硝酸塩の量を低減させつつ、農作物を十分に生育させることのできる、養液栽培方法および養液栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、24時間のうちに、農作物に光が照射される明期と、農作物に光が照射されないか、または、農作物に前記明期より光量が少ない光が照射される暗期と、を含む明暗サイクル下で、農作物を養液栽培する、養液栽培方法である。本発明の養液栽培方法では、前記農作物の根を硝酸イオンを含有する第1液に接触させる、第1栽培工程と、前記農作物の根を硝酸イオンを実質的に含まない第2液に接触させる、第2栽培工程と、を含む。そして、前記明期において、前記明期の10%以上の時間、前記第1栽培工程を実施し、前記暗期において、前記暗期の50%以上の時間、前記第2栽培工程を実施する。
【0009】
前記第1栽培工程と前記第2栽培工程との間に、さらに、農作物の根域を洗浄する、洗浄工程を含むことが好ましい。
【0010】
前記第1液は、前記硝酸イオン以外の養分をさらに含むことが好ましい。前記農作物は野菜であることが好ましい。前記野菜は葉菜類であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記の養液栽培方法に用いられる、養液栽培装置であって、前記農作物の根の周囲に前記第1液を供給するための第1液供給装置と、前記農作物の根の周囲に前記第2液を供給するための第2液供給装置と、を備える、養液栽培装置である。
【0012】
上記養液栽培装置は、前記農作物の根域を洗浄するための洗浄装置を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、農作物中に含まれる硝酸塩の量を低減させつつ、農作物を十分に生育させることのできる、養液栽培方法および養液栽培装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の養液栽培装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明の養液栽培方法の一例を説明するためのフロー図である。
図3】レタス(品種:グリーンウェーブ)についての試験例1の測定結果を示すグラフである。
図4】レタス(品種:クランチ)についての試験例1の測定結果を示すグラフである。
図5】レタス(品種:グリーンウェーブ)についての試験例1の測定結果について、硝酸イオン含量とグルコース含量の関係を示すグラフである。
図6】レタス(品種:クランチ)についての試験例1の測定結果について、硝酸イオン含量とグルコース含量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。
【0016】
本発明の養液栽培方法は、土を用いずに、肥料(養分)を水に溶かした液(培養液)によって農作物を栽培する栽培方法である。養液栽培の長所としては、土壌病害や連作障害を回避できること、耕起、畝立、土寄せ、施肥、除草などの土耕に必要な作業が省略できること、給液や施肥管理の自動化が可能であること、肥料や水の利用効率が向上すること、などが挙げられる。
【0017】
培養液は、植物が成長するために必要な養分(必須元素)を吸収に適した濃度で水に溶かしてなる液である。栽培する農作物の種類、目標とする農作物の品質に応じて様々な種類の培養液を用いることができる。
【0018】
培養液に含まれる養分は、基本的にはイオンの状態で存在し、これが農作物に吸収される。養分としては、比較的多量に必要な養分(元素)である、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび硫黄が挙げられる。このうち、窒素は、培養液中において主に硝酸イオン(硝酸態窒素)として含まれている。また、微量でよい養分(微量元素)としては、塩素、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンなどが挙げられる。
【0019】
本実施形態において、「農作物」は、例えば、野菜、果物、穀類、豆類、茶、花などであり、好ましくは野菜である。野菜は、好ましくは葉菜類である。
【0020】
葉菜類とは、主に葉の部分を食用とする野菜のことであり、葉菜、葉物(はもの)などとも呼ばれる。従来の養液栽培方法で栽培された野菜のうち、特に葉菜類について可食部の硝酸塩の含有量が多くなる傾向があった。
【0021】
なお、特許文献1に開示された養液栽培方法は、具体的にはホウレンソウ(非結球性葉菜類)についての適用例しか開示していない。そして、本発明者らの検討により、特許文献1に開示された養液栽培方法をレタス(非結球性)に適用した場合、硝酸塩の含有量を低減できるが、生育が著しく抑制されることが確認されている。
【0022】
本発明の養液栽培方法では、24時間のうちに明期と暗期とを含む明暗サイクル下で、農作物を養液栽培する。
【0023】
明期は、農作物に光が照射される期間(時間)である。明期に農作物に照射される光の強度は、好ましくは5μmol/m/秒以上であり、より好ましくは50〜2000μmol/m/秒であり、さらに好ましくは100〜200μmol/m/秒である。
【0024】
明期においては、このような光が照射されることによる何らかの影響により、農作物に含まれる硝酸還元酵素の活性が高まることが知られている。このため、農作物が硝酸態窒素を吸収しても硝酸イオンが還元され、硝酸イオンの蓄積が抑制されると考えられる。なお、硝酸イオンの還元によって生じた亜硝酸イオンは、さらに亜硝酸還元酵素によって還元されて、最終的にアンモニウムイオンとなるが、硝酸イオンからアンモニウムイオンに至る硝酸還元反応の律速段階は、硝酸イオンから亜硝酸イオンへの還元反応である。
【0025】
なお、光は、光源6(図1参照)から照射される光であってもよく、太陽光であってもよい。光源としては、例えば、蛍光灯、HID(High Intensity Discharge)ランプ、LED(発光ダイオード)などを好適に用いることができる。
【0026】
一方、暗期は、農作物に光が照射されないか、または、農作物に明期より光量が少ない光が照射される期間である。暗期においては、硝酸還元酵素の活性が低くなるため、農作物が硝酸態窒素を吸収すると硝酸塩が蓄積され易いと考えられる。
【0027】
明期および暗期はいずれも3時間以上であることが好ましく、より好ましくは6時間以上であり、さらに好ましくは9時間以上である。
【0028】
なお、明暗サイクルは、特定の明期および暗期からなる1種の24時間サイクルの繰り返しであってもよく、特定の明期および暗期からなる複数種の24時間サイクルを組み合わせてもよい。24時間サイクルに含まれる明期および暗期は、通常、各々1回ずつであるが、複数回含まれていてもよい。
【0029】
図1は、本発明の養液栽培装置の一例を示す模式図である。また、図2は、本発明の養液栽培方法の一例を説明するためのフロー図である。以下、図1および図2を参照して、本実施形態の養液栽培方法および養液栽培装置の一例について説明する。
【0030】
本実施形態の栽培方法は、第1栽培工程(S10)と、洗浄工程(S30)と、第2栽培工程(S50)とを含む。
【0031】
[第1栽培工程(S10)]
第1栽培工程(S10)では、農作物の根を硝酸イオンを含有する第1液に接触させる。
【0032】
具体的には、図1を参照して、バルブ21,31を開き(バルブ22,23,32,33は閉じた状態)、第1ポンプ41を駆動して、第1液を貯留する第1タンク51内の第1液をバルブ21を介して、養液栽培用の栽培ベッド1の一方端に供給する。
【0033】
栽培ベッド1においては、例えば、バルブ23側からその反対側の端部に向かって低くなる傾斜を有したトレー、または水平なトレー等の容器に、農作物の根などを支持するための支持体が、トレーの底面と間隔を空けて設置されている。支持体としては、例えば、定植用の複数の孔を有する樹脂板、ウレタンマット等が挙げられる。
【0034】
このような構成により、第1液は、農作物の根と接触するように栽培ベッド1の全体を通過して、バルブ31を介して第1タンク51に戻る。
【0035】
そして、第1栽培工程(S10)は、上記明期の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上の時間実施される。なお、第1栽培工程を明期の100%の時間実施してもよい。このように、明期において、硝酸イオン(硝酸態窒素)を農作物に吸収させることで、硝酸還元酵素の活性化により硝酸が還元され、硝酸塩の蓄積が抑制され、かつ、農作物が硝酸態窒素を吸収することにより農作物の成長も許容範囲内に維持される。
【0036】
第1栽培工程(S10)の後、第1液を供給するための第1ポンプ41(第1液供給装置)を停止し(S20)、次の洗浄工程(S30)に移る。
【0037】
[洗浄工程(S30)]
洗浄工程(S30)では、農作物の根域(根と、栽培ベッド1を含む根の周囲)を洗浄する。
【0038】
具体的には、バルブ23,33を開いて(バルブ21,22,31,32は閉じた状態)、除塩素水などの水をバルブ23を介して養液栽培用の栽培ベッド1の一方端に供給する。これにより、水は、農作物の根域(根および栽培ベッド1)を洗浄しながら栽培ベッド1の全体を通過して、バルブ33を介して廃水される。
【0039】
このようにして洗浄工程(S30)を実施することで、次の第2栽培工程(S50)で農作物の根域に硝酸イオンが残留しないため、第2栽培工程(S50)において、硝酸を含まない第2液を循環させることによる効果を有効に発揮させることができる。
【0040】
洗浄工程(S30)は必須の工程ではないが、洗浄工程(S30)を実施しなければ、次の第2栽培工程(S50)で第2液を循環させる場合、第2液に第1液中の硝酸イオンが含まれた状態で循環し続けることとなり、所望の効果が得られない可能性がある。
【0041】
[第2栽培工程(S50)]
第2栽培工程(S50)では、硝酸イオンを実質的に含まない第2液に接触させる。
【0042】
具体的には、バルブ22,32を開き(バルブ21,23,31,33は閉じた状態)、第2ポンプ42を駆動して、第2液を貯留する第2タンク52内の第2液をバルブ22を介して、養液栽培用の栽培ベッド1の一方端に供給する。これにより、第1栽培工程と同様に、第2液は、農作物の根と接触するように栽培ベッド1の全体を通過して、バルブ32を介して第2タンク52に戻る。
【0043】
そして、第2栽培工程(S50)は、上記暗期の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の時間実施される。なお、第2栽培工程を明期の100%の時間実施してもよい。このように、硝酸還元酵素が活性化されず、硝酸が還元され難い暗期において、硝酸イオン(硝酸態窒素)を農作物に吸収させないようにすることで、硝酸塩の蓄積が抑制される。
【0044】
第2栽培工程(S50)の後、第2液を供給するための第2ポンプ42(第2液供給装置)を停止し(S60)、栽培を継続する場合は、第1洗浄工程(S10)に戻る。
【0045】
なお、上記の実施形態において、培養液の供給方式は、培養液を栽培ベッドとタンクとの間で循環させる循環式であるが、非循環式であってもよい。養分の利用効率の向上や環境保全の面からは、培養液の供給方式は循環式であることが好ましい。
【0046】
非循環式としては、作物に吸収されなかった余剰培養液をそのまま廃棄するかけ流し式が挙げられ、固形培地耕などにおいて用いられることが多い。かけ流し式の場合、特に上記の洗浄工程(S30)は実施しなくてもよい。第2液が栽培ベッド上を所定量流れれば、第1液中の硝酸イオンは排除されるからである。
【0047】
上述した本実施形態の養液栽培方法によれば、硝酸還元活性が高い明期に硝酸を含む第1液で栽培を行い、硝酸還元活性が低下する暗期に硝酸を含まない第2液で栽培を行うことにより、農作物中に含まれる硝酸塩の量を低減させつつ、農作物を十分に生育させることができる。
【0048】
また、本実施形態の養液栽培方法によれば、農作物中の糖分(グルコース、フルクトース、スクロースなど)の含有量を増加させることも可能である。
【0049】
なお、1日を明期と暗期に分け、明期と暗期に応じて日内で硝酸態窒素の投与量を調整する方法は、これまで知られていなかった。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
実施例1では、2種の結球性葉菜類(レタス)について、上記実施形態の一例である養液栽培を行った。レタスとしては、リーフレタスである「グリーンウェーブ」(タキイ種苗(株))、および、フリル系レタスである「クランチ」(ツルタのタネ(株))の2品種を用いた。
【0052】
(1)養液栽培装置
閉鎖型人工気象器(LPH−220SP−S,日本医化器械製作所)を栽培室として使用した。また、人工気象器内には、CO制御装置(SF6200,サイエンス堺電子(株))を設置した。したがって、人工気象器内は、生育気温、日長(明期の長さ)およびCO濃度を制御することが可能である。
【0053】
人口気象室内には上下2段の栽培棚が設置されており、それぞれに2つの堪液型の水耕装置(栽培ベッド)を配置した。栽培ベッドとしては、幅16cm×奥行25.5cm×高さ15cmの光を通さない水平に配置されたプラスチックトレイの上面に、プラスチック板(縦28cm×横17cm)を設けてなる装置を用いた。プラスチック板には、直径1.5cmの孔(定植用)4つと、通気用の孔が設けられている。なお、各栽培ベッドにエアーポンプを用いて通気した。
【0054】
光源として、三波長型昼白色蛍光灯を用い、栽培面での平均光合成有効光量子束密度(PPFD)は、上段300μmol/m/秒、下段250μmol/m/秒であった。
【0055】
(2)養液栽培方法
上記の養液栽培装置(人工気象器および栽培ベッド)を用いて、人工気象器内の生育気温が23℃となり、CO濃度が700ppmとなるように制御して、蛍光灯の点灯時間(明期)を12時間(9:00〜21:00)に設定して、リーフレタス(品種:クランチ(下段)およびグリーンウェーブ(上段))をレタスの育苗および定植を行った。
【0056】
すなわち、人工気象器内で、各品種のレタスの種子を50粒ずつ、吸水させた水耕用ウレタンマットに播種した。発芽後(播種から3〜4日後)から培養液を施与した.播種1週間後に、湛液型の水耕装置に移植し、さらに1週間育苗した。
【0057】
培養液としては、基本培養液を園試処方1/2単位としたものを用いた。培養液中の多量要素の組成は、表1に示す通りであり、硝酸態窒素(硝酸イオン:NO)を含んでいる。なお、培養液には、微量要素としてOATハウス肥料5号を0.05g/Lの割合で添加した。
【0058】
【表1】
【0059】
このようにして2週間育苗した後に、各品種のレタスを、3つの栽培ベッドに4株ずつ(各人口気象器内に計16株づつ)定植した。
【0060】
定植から1週間経過後から、明期(9:00〜21:00)に上記と同様の培養液で満たされた栽培ベッド(水耕装置)で栽培し、暗期(21:00〜翌9:00)に水(除塩素水)で満たされた栽培ベッドで栽培できるように、培養液と水の交換を毎日行って、2週間栽培した。培養液と水を交換する際は、根域を洗浄用の水で洗い流し、よく水をきってから栽培を再開した。すなわち、洗浄工程に要した時間を除き、第1栽培工程を明期(12時間)のほぼ100%の時間実施し、第2栽培工程を暗期(12時間)のほぼ100%の時間実施した。なお、この2週間において、1週間経過時に培養液を新しいものに交換した。この2週間の栽培後、リーフレタスの収穫を行った。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、定植後の2週間の栽培において、連続して実施例1と同様の培養液のみで栽培した。それ以外の点は、基本的に実施例1と同様にして2種のレタスの養液栽培を行った。
【0062】
(比較例2)
比較例2では、定植後の2週間の栽培において、明期(9:00〜21:00)に水(除塩素水)で満たされた栽培ベッドで栽培し、暗期(21:00〜翌9:00)に実施例1と同様の培養液で満たされた栽培ベッドで栽培できるように、培養液と水の交換を毎日行った。それ以外の点は、基本的に実施例1と同様にして2種のレタスの養液栽培を行った。
【0063】
[試験例1]
上記の実施例1、比較例1および比較例2で収穫されたレタス(「グリーンウェーブ」および「クランチ」)について、収穫後すぐに、地上部生体重、葉中硝酸イオン含量および葉中グルコース含量を測定した。
【0064】
(1)地上部生体重の測定
収穫されたリーフレタスを地上部と根に分けて、地上部の生体重を測定した。
【0065】
地上部生体重の測定結果(平均値:n=3)を、グリーンウェーブについて図3(a)に示し、クランチについて図4(a)に示す。
【0066】
(2)葉中硝酸イオン含量の測定
収穫されたリーフレタスの半分程度に4倍量の水を加え、ミキサーですりつぶし、ガーゼに包んで搾り、汁液を得た。得られた汁液を10倍に希釈し、希釈液の硝酸濃度を小型反射式分光光度計(RQフレックス2,Merck KGaA)を用いて測定し、葉中硝酸イオン含量を算出した。
【0067】
葉中硝酸イオン含量の測定結果(平均値:n=3)を、グリーンウェーブについて図3(b)に示し、クランチについて図4(b)に示す。
【0068】
(3)葉中グルコース含量の測定
0ppmから1000ppmまで100ppmごとのグルコース溶液を調整した。グルコース溶液1mLに酵素液3mL(グルコースキット グルコースCII−テストワコー,和光純薬(株))を混合し、37℃に設定した恒温槽で5分間反応させた後、505nmの吸光度を測定し、検量線を作成した。その結果、250ppm付近まで測定可能と判断し、0ppm〜200ppmの検量線を用いた。
【0069】
収穫したレタスの1/4程度を細かく刻み、部位が均一になるようにかき混ぜ、サンプル瓶に6g採取した。4倍量の99%エタノールを加え、ブレンダーで磨砕した。得られた抽出液に対して、遠心分離機を用い15000Gで5分間の遠心分離を行った。遠心沈殿管に上澄み1mLを採取し、40℃で3時間遠心濃縮した。得られたサンプルに水10mLを加え、再溶解し、試料とした。
【0070】
試料0.5mLに酢酸バッファー0.5mLを加えた混合液を調製し、37℃で5分間保持した。その後、混合液1mLに酵素液3mL(グルコースキット:「グルコースCII−テストワコー」,和光純薬(株))を加えて混合し、酵素反応液を調製した。酵素反応液を37℃に設定した恒温槽で5分間反応させた後、該酵素反応液について505nmの吸光度を測定した。吸光度の測定値を検量線で得られた式に代入し、葉中グルコース含量を算出した。
【0071】
葉中グルコース含量の測定結果(平均値:n=3)を、グリーンウェーブについて図3(c)に示し、クランチについて図4(c)に示す。
【0072】
(4) 考察
図3(a)および(b)、並びに、図4(a)および(b)に示される地上部生体重および葉中硝酸イオン含量の測定結果から、硝酸イオンを含む培養液を常に循環させた比較例1に対して、暗期に培養液を水に切り替えた実施例1では、葉中硝酸イオン含量が低減することが分かる。
【0073】
また、明期に培養液を水に切り替えた比較例2よりも、暗期に培養液を水に切り替えた実施例1の方が、葉中硝酸イオン含量が低減することが分かる。この結果から、農作物が硝酸イオンに接触している時間(農作物に接触する硝酸イオンの量)が同じであっても、暗期に培養液を水に切り替える方が葉中硝酸イオン含量を低減できることが分かる。
【0074】
さらに、図3(c)および図4(c)に示される葉中グルコース含量の測定結果から、実施例1では、比較例1および比較例2よりも、葉中グルコース含量が増加することが分かる。
【0075】
また、図5および図6は、グリーンウェーブおよびクランチの各々についての試験例1の測定結果(n=3)について、硝酸イオン含量とグルコース含量の関係を示すグラフである。図5および図6に示されるように、比較例1および実施例1のデータに基づく回帰直線の傾きと、比較例1および比較例2のデータに基づく回帰直線の傾きと、を比較すると、グリーンウェーブおよびクランチのいずれの場合も、前者(実施例1)の方が後者(比較例2)よりも、硝酸イオン含量の低下に対するグルコース含量の増加率が大きいことが分かる。
【0076】
したがって、明期に培養液を水に切り替えた比較例2よりも、暗期に培養液を水に切り替えた実施例1の方が、硝酸イオン含量の低減量に比して、より効果的にグルコース含量を増加させることができると考えられる。
【0077】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 栽培ベッド、21,22,23 供給バルブ、31,32,33 排出バルブ、41 第1ポンプ、42 第2ポンプ、51 第1タンク、52 第2タンク、6 光源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6