(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0020】
本実施形態の有機EL素子の製造方法で製造される有機EL素子10は、
図1に模式的に示したように、基板12上に、陰極14、有機EL部16及び陽極18がこの順で積層されて構成されている。断らない限り、有機EL素子10は、基板12側からではなく、陽極18側から光を出射する。
【0021】
[基板]
基板12は、有機EL素子10を製造する工程において化学的に変化しないものが好適に用いられる。本実施形態の有機EL素子10では、透光性を有する基板12と、透光性を有さない基板12のいずれも用いることができる。基板12には、例えばガラス板、高分子フィルム、シリコン板、アルミニウムや銅箔などの金属箔、並びにこれらを積層したものなどが用いられる。基板12には有機EL素子10の用途に応じて、フレキシブルな基板、又はリジッドな基板が用いられる。基板12の厚さは、例えば30μm以上700μm以下である。
【0022】
[陰極]
陰極14は、n型半導体領域14aを含む。陰極14は、例えば、
図1に示したように、少なくとも表面部(有機EL部16側の部分)にn型半導体領域14aを含む。
図1では、陰極14が、n型半導体領域14aと金属領域14bを含む形態を例示しているが、陰極14全体がn型半導体領域14aであってもよい。本明細書におけるn型半導体領域14aは、電気抵抗率(Ω・cm)が9×10
−5Ω・cm以上1×10
−1Ω・cm以下であることが好ましい。
【0023】
陰極14は、改質されてn型半導体領域14aが形成され得る金属材料を含む。陰極14の材料(陰極材料)の例は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)などが挙げられる。これらの中ではZn、Ti又はInが好ましく、Znであることが更に好ましい。ここで、改質とは、外的要因によって元の材料とは異なる組成に化学変化することを指す。
【0024】
陰極14の厚さは、例えば0.lnm以上500nm以下である。薄すぎると陰極14を設ける効果が小さくなり、厚すぎると光の吸収量が多くなるからである。
【0025】
[有機EL部]
有機EL部16は、陰極14と陽極18の間に設けられており、陽極18と陰極14の間に印加された電力(例えば電圧)に応じて、電荷の移動及び電荷の再結合などを行い、有機EL素子10の発光に寄与する有機EL機能部である。有機EL部16は、機能層として電子注入層161と発光層162を含む。後述するように、有機EL部16は、他の機能層を含んでもよい。
【0026】
(電子注入層)
電子注入層161は、陰極14に接して配置される。電子注入層161は、イオン性ポリマーを含む。
【0027】
電子注入層161に含有されるイオン性ポリマーとしては、例えば、特開2009−239279号公報、特開2012−033845号公報、特開2012−216821号公報、特開2012−216822号公報、特開2012−216815号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0028】
(発光層)
発光層162は、光(可視光を含む)を発する機能を有する機能層である。通常、主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する有機物、又はこの有機物とこれを補助するドーパントとから構成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。上記有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよい。発光層162は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10
3〜10
8である高分子化合物を含むことが好ましい。発光層162の厚さは、例えば約2nm〜200nmである。
【0029】
主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する発光性材料である有機物としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料及び高分子系材料が挙げられる。
【0030】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0031】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、又はAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0032】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0033】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0034】
緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが挙げられる。なかでも、緑色に発光する材料としては、高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0035】
赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが挙げられる。なかでも、赤色に発光する材料としては、高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0036】
(ドーパント材料)
ドーパントの材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどが挙げられる。
【0037】
有機EL部16は、必要に応じて所定の機能層をさらに有してもよい。例えば陰極14と陽極18の間に、電子輸送層、正孔輸送層及び正孔注入層などが設けられ得る。
【0038】
有機EL素子10が取り得る層構成の一例を以下に示す。
(a)陰極/電子注入層/発光層/正孔注入層/陽極
(b)陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔注入層/陽極
(c)陰極/電子注入層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
(d)陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
(e)陰極/電子注入層/発光層/陽極
(f)陰極/電子注入層/電子輸送層/発光層/陽極
(g)陰極/発光層/陽極
(h)陰極/発光層/正孔注入層/陽極
(i)陰極/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)本実施形態の有機EL素子10は2層以上の発光層162を有していてもよい。
【0039】
(正孔注入層)
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、及び酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系化合物、スターバースト型アミン系化合物、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、及びポリチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0040】
正孔注入層の厚さは、電気的な特性や成膜の容易性などを勘案して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0041】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0042】
これらの中で正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0043】
正孔輸送層の厚さとしては、電気的な特性や成膜の容易性などを勘案して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0044】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0045】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0046】
電子輸送層の厚さは、電気的な特性や成膜の容易性などを勘案して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0047】
[陽極]
有機EL素子10のように、発光層162から放射される光が陽極18を通って出射する構成の場合、陽極18には可視光に対して透光性を有する電極が用いられる。透光性を有する電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物及び金属などの薄膜を用いることができ、光透過率の高いものが好適に用いられる。具体的には酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、金、白金、銀、及び銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、又は酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。陽極18として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0048】
陽極18の厚さは、光の透過性、電気抵抗などを考慮して、適宜選択することができ、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0049】
[有機EL素子の製造方法]
次に、
図1に示したように、有機EL部16が電子注入層161と発光層162の積層構造を有する形態の有機EL素子10の製造方法の一例について説明する。
【0050】
有機EL素子の製造方法は、
図2に示したように、電極層を形成する工程S10と、有機EL部を形成する工程S12と、陽極を形成する工程S14とを含む。以下、各工程を説明する。以下、電極層を形成する工程S10、有機EL部を形成する工程S12及び陽極を形成する工程S14をそれぞれ電極層形成工程S10、有機EL部形成工程S12及び陽極形成工程S14と称す。
【0051】
<電極層形成工程>
電極層形成工程S10では、
図3に示したように、基板12上に、電極層20を形成する。電極層20の材料は、改質されることによってn型半導体領域14aが形成される材料である。電極層20の材料の例は、陰極14の説明において、陰極材料として例示した金属材料である。電極層20は、例えばインクジェット印刷法、スクリーン印刷法、真空蒸着法、スパッタ法などによって形成され、これらの中でも真空蒸着法又はスパッタ法によって形成することが好ましい。
【0052】
<有機EL部形成工程>
有機EL部形成工程S12では、電極層20上に有機EL部16を形成する。有機EL部形成工程S12は、
図2に示したように、電子注入層を形成する工程(以下、「電子注入層形成工程」と称す)S12Aと、発光層を形成する工程(以下、「発光層形成工程」と称す)S12Bを含む。
【0053】
(電子注入層形成工程)
電子注入層形成工程S12Aでは、電極層20上に電子注入層161を形成する。本工程S12Aでは、電極層20の少なくとも表面部を改質可能な溶媒又は分散媒と、上述した電子注入層161用の材料を含む塗布液(例えばインキ)を用いて電子注入層161を形成する。電極層20の少なくとも表面部を改質可能な溶媒又は分散媒は、電極層20の表面部のみを改質できるものであっても、電極層20の表面部を含めた全部を改質できるものであってもよい。電極層20の少なくとも表面部を改質可能な溶媒又は分散媒としては、例えば極性溶媒又は極性分散媒が挙げられる。具体的には、電極層20を改質可能な溶媒又は分散媒としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ニトリル化合物類、ニトロ化合物類、ハロゲン化アルキル類、ハロゲン化アリール類、チオール類、スルフィド類、スルホキシド類、チオケトン類、アミド類、カルボン酸類等が挙げられ、これらの中では、溶解度が9.3以上の溶媒が好ましく、アルコール類がより好ましい。そのアルコール類としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブチルアルコール、1,2−エタンジオール等が挙げられる。
【0054】
塗布法としては、スピンコート法、インクジェット印刷法、スリットコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法及びノズルプリント法等が挙げられる。
【0055】
このように、電極層20の少なくとも表面部を改質可能な溶媒又は分散媒を含む塗布液を用いて電子注入層161を形成すれば、電子注入層161の形成過程において、電極層20の少なくとも表面部が改質され、
図4に示したように、n型半導体領域14aが形成された陰極14が得られる。したがって、電極層形成工程S12Aでは、電子注入層161が形成されるとともに、n型半導体領域14aが形成される。よって、本実施形態において、電子注入層形成工程S12Aは、n型半導体領域14aを形成する工程でもある。電極層20の少なくとも一部が改質されることで、n型半導体領域14aを含む陰極14が形成されるので、電子注入層形成工程S12Aは、陰極14を形成する工程の一部であり得る。このとき、電極層20の改質されなかった部分が金属領域14bとなる。電子注入層形成工程S12Aにおいて、電極層20の全部が改質された場合、金属領域14bを有さず、n型半導体領域14aのみを有する陰極14が形成される。
【0056】
図4では、
図3に示した電極層20のうち表面部にn型半導体領域14aが形成される形態を示している。すなわち、金属領域14bとn型半導体領域14aを含む陰極14を図示している。
【0057】
本明細書において、「電極層」は、有機EL素子の製造方法における説明において陰極に対応する層(陰極となるべき層)であって改質される前の層を意味している。「陰極」は、有機EL素子の製造方法で製造された有機EL素子に含まれる構成要素であって、電極層の少なくとも一部が改質されることによって形成された構成要素を意味している。
【0058】
(発光層形成工程)
発光層形成工程S12Bでは、電子注入層161上に発光層162を形成する。発光層162は、例えば塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法などによって形成され、工程の簡易さの観点から塗布法によって形成されることが好ましい。塗布法としては、上述の電子注入層形成工程S12Aで例示した塗布法が挙げられる。
【0059】
発光層162を塗布法で形成する場合、電子注入層161を溶解しにくい塗布液(例えばインキ)を用いて発光層162を形成することが好ましい。
【0060】
このような塗布液としては発光層162となる材料と、溶媒又は分散媒とを含む。例えば電子注入層161がアルコール類のような極性溶媒に溶解する材料から構成されている場合、電子注入層161が溶解しにくい無極性溶媒又は無極性分散媒を用いることが好ましく、このような溶媒又は分散媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒などが挙げられ、芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0061】
(陽極形成工程)
陽極形成工程S14では、発光層162上に陽極18を形成する。陽極18は、例えばスピンコート法、インクジェット塗布法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット平板印刷法、スプレーコート法、ノズルプリント法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などにより形成される。
【0062】
上記有機EL素子の製造方法は、有機EL部16が電子注入層161と発光層162から構成される積層構造を有する場合の製造方法である。前述したように、有機EL部16は、電子注入層161と発光層162以外の層(例えば、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層等)を有し得る。有機EL部16が、電子注入層161と発光層162以外の層を含む形態では、電極層20側から順に対応する層を形成すればよい。電子注入層161と発光層162以外の層は、塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによって形成され得る。
【0063】
図2のフローチャートで示された製造方法で製造される有機EL素子10は、陽極18に対して陰極14が基板12側に位置する逆積層型の有機EL素子10である。上記製造方法では、改質されることでn型半導体となる金属材料を電極層20の材料に使用しており、電極層20上に電子注入層161を形成する工程において、電極層20の少なくとも表面部を改質してn型半導体領域14aを含む陰極14を形成している。そのため、低い駆動電圧で駆動可能な逆積層型の有機EL素子10を実現可能である。
【0064】
この点について、有機EL部16に接する陰極材料として、改質されてもn型半導体を形成しない材料であるアルミニウムを用いた場合と比較して説明する。
【0065】
アルミニウムは可視光の反射率が高いため、有機EL素子10の分野では、陽極18側から光を出射する場合の陰極材料として用いられることが多い。しかしながら、アルミニウムは、極性溶媒に曝されたりすることで改質され、絶縁領域を形成しやすい。そのため、逆積層型の有機EL素子において、上記アルミニウムを有機EL部に接する陰極材料として用いると、製造工程において、アルミニウムが改質され、有機EL部が絶縁領域に接する。その結果、陰極から発光層への電子注入性が低下し、有機EL素子の駆動電圧が高くなる。
【0066】
これに対して、本実施形態の有機EL素子の製造方法では、改質されることでn型半導体となる金属材料を電極層20の材料に使用し、有機EL部16の形成中(
図1に例示した素子構成では電子注入層161の形成中)に、電極層20の少なくとも表面部を改質して、n型半導体領域14aを形成する。したがって、製造された有機EL素子10において、n型半導体領域14aに有機EL部16(
図1に例示した素子構成では電子注入層161)が接する。そのため、本実施形態の有機EL素子の製造方法では、低い駆動電圧を実現可能な有機EL素子10を製造可能である。
【0067】
改質されることでn型半導体となる金属材料を電極層20の材料に用いていることから、例示したように有機EL部16のうち電極層20に接する層を塗布法で形成可能である。例えば、
図1に示した構成では、電極層20上に電子注入層161を塗布法で形成可能である。更に、電子注入層161上に発光層162も塗布法で形成可能である。塗布法は、例えば、基板12を搬送しながら実施できるので、逆積層型の有機EL素子10の生産性の向上をはかりやすい。更に、塗布法を採用することで、有機EL素子10の生産性向上に有利なロールツーロール方式を適用可能である。
【0068】
電極層20上に直接形成する層(例えば電子注入層161)を塗布法で形成する際に、電極層20の少なくとも表面部を改質可能な溶媒又は分散媒を用いることで、層形成中に電極層20の少なくとも表面部を改質してn型半導体領域14aを形成できる。この場合、電極層20上に直接形成する層の形成工程が、電極層20の改質の工程も兼ねるため、高い生産性を実現可能である。
【0069】
(変形例)
図5は、
図1に示した有機EL素子10の変形例である有機EL素子10Aの模式図である。有機EL素子10Aは、陰極14の代わりに、第1陰極221及び第2陰極222を有する陰極22を有する点で、有機EL素子10の構成と相違する。上記相違点以外の有機EL素子10の構成は、有機EL素子10と同様である。よって、相違点を中心に変形例を説明する。
【0070】
第1陰極221は、有機EL素子10が有する陰極14と同様に、改質されることによってn型半導体となる金属材料を含む。第1陰極221用の金属材料の例は、陰極14に対して例示した金属材料と同じである。第1陰極221は、その表面部(有機EL部16側の部分)にn型半導体領域221aを含む。第1陰極221の厚さの例は、0.1nm〜200nmである。
図5では、第1陰極221が、n型半導体領域221aと金属領域221bを含む形態を例示しているが、陰極14の場合と同様に、第1陰極221全体がn型半導体領域221aであってもよい。
【0071】
第2陰極222は、基板12と第1陰極221の間に配置されている。第2陰極222の厚さは、例えば0.1nm〜300nmであることが好ましい。第2陰極222は、可視光に対して第1陰極221より高い反射率を有する。
【0072】
第2陰極222の材料の例としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、及びクロム(Cr)、又はこれらのうち少なくとも2種類の金属を含む合金が挙げられる。第2陰極222は、例示した金属の中でもAl又はAgから構成されることが好ましい。
【0073】
有機EL素子10Aは、
図6に示したフローチャートのように、
図2に示した電極層形成工程S10の代わりに、電極層形成工程(電極層を形成する工程)S20を備える点で相違する点以外は、有機EL素子10の場合と同様の製造方法で製造される。よって、有機EL素子10Aの製造方法として、主に上記相違点である電極層形成工程S20を説明する。
【0074】
電極層形成工程S20は、基板12上に下部層(第1層)を形成する工程(以下、「下部層形成工程」と称す)S20Aと、下部層上に上部層(第2層)を形成する工程(以下、「上部層形成工程」と称す)S20Bとを含む。これにより、電極層形成工程S20では、
図7に示したように、下部層241と上部層242とを有する電極層24が形成される。
【0075】
電極層24は、上部層242の少なくとも一部(例えば表面部)が改質されることによって陰極22となる2層構造の電極層である。具体的には、上部層242は、上部層242の少なくとも一部(例えば表面部)が改質されることによって第1陰極221となるべき層である。下部層241は、有機EL素子の製造方法の説明における第2陰極222に対応する層である。下部層241は、改質されない。すなわち、有機EL素子の製造方法の説明において、第2陰極222を下部層241と便宜的に称している。
【0076】
下部層形成工程S20Aでは、基板12上に、第2陰極222としての下部層241を形成する。下部層241は、第2陰極222用の材料を使用する点以外は、電極層20を形成する場合と同様の方法で形成され得る。前述した第1陰極221と第2陰極222との反射率の関係を実現するために、下部層241用の材料は、上部層242用の材料より可視光に対して高い反射率を有し、下部層241用の反射率は、例えば可視光に対して70%以上であり、90%以上であることが更に好ましい。上部層形成工程S20Bでは、下部層241上に、第1陰極221となる上部層242を形成する。上部層242は、第2陰極222用の材料を使用する点以外は、下部層241を形成する場合と同様にして上部層242を形成し得る。第2陰極222用の材料は、電極層20の材料と同様であり得るので、上部層形成工程S20Bは、電極層形成工程S10と同様とし得る。
【0077】
上記電極層形成工程S20を実施した後、有機EL素子10の場合と同様に、有機EL部形成工程S12及び陽極形成工程S14を実施することで、有機EL素子10Aが製造される。
【0078】
有機EL素子10Aの製造では、改質されてn型半導体となる金属材料を含む上部層242が構成されている。よって、有機EL部形成工程S12において、有機EL素子10の場合と同様の方法で、上部層242上に、電子注入層161を形成すれば、上部層242の少なくとも表面部が改質され、n型半導体領域14aを含む第1陰極221が形成される。よって、有機EL素子10Aの製造方法において、電極層形成工程S12Aは、電極層24(より具体的には上部層242)の改質工程を含む。
【0079】
上記製造方法で製造された有機EL素子10Aは、陰極22のうち有機EL部16に接する第1陰極221が、n型半導体領域14aを含む。よって、有機EL素子10A及びその製造方法は、有機EL素子10及びその製造方法と少なくとも同様の作用効果を有する。
【0080】
有機EL素子10Aの製造方法では、第2陰極222としての下部層241を形成した後に、第1陰極221となる上部層242を形成しており、下部層241用の材料は、上部層242用の材料より可視光に対して高い反射率を有する。そのため、本変形例の製造方法では、第1陰極221よりも高い反射率を有する第2陰極222上に第1陰極221が積層された陰極22を有する有機EL素子10Aが製造される。よって、発光層162から発光された光は陰極22で反射されやすい。その結果、陽極18側から光を出力する有機EL素子10Aの発光効率が向上する。すなわち、本変形例で説明した有機EL素子の製造方法は、低い駆動電圧を実現しながら、発光効率の向上を図られた有機EL素子10Aを製造可能である。
【0081】
以下、上記実施形態及び変形例で説明した有機EL素子の作用効果の検証実験について説明する。
【0082】
[検証実験1]
検証実験1では、改質されてn型半導体となる金属材料を陰極材料に用いることで電子注入特性が改善する点について検証した。この検証実験1では、次の素子構成を有する実験用素子(以下、実験用素子E1と称す)を用いた。
基板/下部電極/電子注入層/発光層/電子注入層/上部電極
【0083】
上記構成の実験用素子E1として、下部電極用の材料にZnを用いた素子(以下、「実験用素子E1a」と称す)と、下部電極用の材料にAlを用いた素子(以下、「実験用素子E1b」と称す)をそれぞれ製造した。
【0084】
(実験用素子E1aの製造方法)
実験用素子E1aでは、基板として0.7mm厚のガラス板を準備した。更に、1mlのメタノールに対してイオン性ポリマー2mgを混合し、イオン性ポリマーを含む塗布液(以下、「塗布液α」と称す)を準備した。更に、高分子発光材料P1とキシレンとを混合し、1.3重量%の高分子発光材料P1を含む発光層形成用組成物Cを準備した。
【0085】
次に、ロードロック式スパッタリング装置を用いて、上記基板(ガラス板)上へ下部電極として厚さが50nmでありZnからなる薄膜(Zn膜)を形成した。そのZn膜上に、上記イオン性ポリマーを含む塗布液αを窒素雰囲気中でスピンコート成膜することによって塗布膜を得て、その塗布膜を窒素雰囲気下、130℃で10分間加熱・乾燥させて、厚さ30nmの電子注入層を得た。
【0086】
上記で得た電子注入層の上に、発光層形成用組成物Cを窒素雰囲気中でスピンコート法により塗布し、厚さ80nmの塗布膜を得た。この塗布膜を設けた基板を窒素雰囲気下、190℃で60分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層が形成された基板を得た。
【0087】
上記発光層が形成された基板の発光層の上に、上記イオン性ポリマーを含む塗布液αを窒素雰囲気中でスピンコート成膜することによって塗布膜を得て、その塗布膜を窒素雰囲気下、130℃で10分間加熱・乾燥させて、厚さ30nmの電子注入層を得た。この電子注入層の上に真空蒸着法により上部電極として厚さが80nmでありAlからなる薄膜(Al膜)を形成し、実験用素子E1aを得た。
【0088】
上記製造方法から理解されるように、電子注入層の形成には、極性溶媒であるメタノールを含む塗布液を用いている。よって、製造過程において、Zn膜上に電子注入層を形成する際、Zn膜の表面部は改質され、Zn膜の表面部にはn型半導体領域が形成されている。一方、上部電極は、真空蒸着法で形成しているため、上部電極の電子注入層側は改質されていない。
【0089】
(実験用素子E1bの製造方法)
実験用素子E1aの製造方法において、下部電極の材料をAlに変えた点以外は、実験用素子E1aの製造方法と同様の方法で、実験用素子E1bを製造した。実験用素子E1bでも、電子注入層の形成には、極性溶媒であるメタノールを含む塗布液を用いている。よって、製造過程において、厚さが50nmである下部電極のAlからなる薄膜(Al膜)上に電子注入層を形成する際、下部電極のAl膜の表面部は改質され、下部電極のAl膜の表面部には絶縁領域が形成されている。
【0090】
(電子注入実験)
実験用素子E1aの下部電極と上部電極の間に−3Vから+10Vまで電圧を印加する場合(1回目の測定)と、+3Vから−10Vまで電圧を印加する場合(2回目の測定)とに対して、実験用素子E1aへの電子注入の様子を実験用素子E1aに流れる電流に基づいて評価した。実験結果は
図8に示した通りであった。
図8の横軸は電圧(V)を示し、縦軸は電流(A)を示す。
【0091】
図8において、白抜き正方形マークは、1回目の測定として、下部電極及び上部電極間に−3Vから+10Vまで電圧を印加した場合の電流値を示しており、白抜き菱形マークは、2回目の測定として、下部電極と上部電極の間に+3Vから−10Vまで電圧を印加した場合の電流値を示している。
図8において、1回目の測定における−3Vから0Vまでと、2回目の測定における0Vから−10Vまでは、下部電極からの電子注入性を示しており、1回目の測定における0Vから+10Vまでと、2回目の測定における+3Vから0Vまでは、上部電極からの電子注入性を示している。
【0092】
同様に、実験用素子E1bの下部電極と上部電極の間に−5Vから+10Vまで電圧を印加する場合(1回目の測定)と、+5Vから−10Vまで電圧を印加する場合(2回目の測定)とに対して、実験用素子E1bへの電子注入の様子を実験用素子E1bに流れる電流に基づいて評価した。実験結果は
図9に示した通りであった。
図9の横軸は電圧(V)を示し、縦軸は電流(A)を示す。
【0093】
図9において、白抜き正方形マークは、1回目の測定として、下部電極と上部電極の間に−5Vから+10Vまで電圧を印加した場合の電流値を示している。白抜き菱形マークは、2回目の測定として、下部電極と上部電極の間に+5Vから−10Vまで電圧を印加した場合の電流値を示している。
図8の場合と同様に、
図9において、1回目の測定における−5Vから0Vまでと、2回目の測定における0Vから−10Vまでは、下部電極からの電子注入性を示しており、1回目の測定における0Vから+10Vまでと、2回目の測定における+5Vから0Vまでは、上部電極からの電子注入性を示している。
【0094】
図8に示したように、下部電極用の材料にZnを用いた実験用素子E1aでは、下部電極からの電子注入性と、Alからなる上部電極からの電子注入性はほぼ同等となることが確認された。一方、
図9に示したように、下部電極用の材料にAlを用いた実験用素子E1bでは、下部電極からの電子注入性は、Alからなる上部電極からの電子注入性に比べて低下していることが確認された。実験用素子E1bにおける結果は、下部電極の表面部に絶縁領域が形成されているためと考えられる。
【0095】
したがって、下部電極用の材料に、改質されてn型半導体となるZnを用いることで、電子注入層側の表面部が改質されていない上部電極(Al膜)からの電子注入と同程度の電子注入を下部電極側から実現できる。すなわち、有機EL部に接する陰極材料に改質されてn型半導体となる金属材料を用いることで、電子注入性の改善が図れること検証された。
【0096】
[検証実験2]
検証実験2では、有機EL素子を製造し、改質されてn型半導体となる金属材料を陰極材料に用いることの作用効果を検証した。この検証実験2では、次の素子構成を有する実験用素子(以下、実験用素子E2と称す)を用いた。下記構成から理解されるように、実験用素子E2は、有機EL素子である。
基板/陰極/電子注入層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
【0097】
上記構成の実験用素子E2として、陰極材料にZnを用いた素子(以下、実験用素子E2aと称す)と、陰極材料にAlを用いた素子(以下、実験用素子E2bと称す)をそれぞれ製造した。
【0098】
(実験用素子E2aの製造方法)
実験用素子E2aの製造のために 基板として、実験用素子E1aの場合と同様に、0.7mm厚のガラス板を準備した。更に、電子注入層の形成のための塗布液として、実験用素子E1aの場合と同様に、塗布液αを準備した。更に、発光層形成のための発光層形成用組成物として、実験用素子E1aの場合と同様に、発光層形成用組成物Cを準備した。
【0099】
実験用素子E2aの製造方法では、正孔輸送層を形成するために、高分子化合物P2を0.6重量%の濃度でキシレンに溶解し、高分子化合物P2を含むキシレン溶液を準備した。更に、正孔注入層を形成するために、高分子化合物P3を溶媒に溶かして、高分子化合物P3の懸濁液を準備した。
【0100】
次に、ロードロック式スパッタリング装置を用いて、上記基板(ガラス基板)上に厚さ50nmのZn膜を形成した。そのZn膜上に、上記イオン性ポリマーを含む塗布液αを窒素雰囲気中でスピンコート成膜することによって塗布膜を得て、その塗布膜を、130℃で10分間加熱・乾燥させて、厚さ10nmの電子注入層を得た。
【0101】
上記で得た電子注入層の上に、発光層形成用組成物Cを窒素雰囲気中でスピンコート法により塗布し、厚さ80nmの塗布膜を得た。この塗布膜を設けた基板を窒素雰囲気下、190℃で60分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層が形成された基板を得た。
【0102】
上記発光層上に、高分子化合物P2を含むキシレン溶液を大気中でスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気中、180℃で60分間加熱することによって塗布膜を乾燥させて厚さ20nmの正孔輸送層を得た。
【0103】
上記正孔輸送層上に、高分子化合物P3の懸濁液を大気中でスピンコート法により塗布し、窒素雰囲気中、170℃で15分間加熱することによって厚さ60nmの正孔注入層を得た。
【0104】
上記正孔注入層上に真空蒸着法により陽極として厚さ20nmのAuからなる膜(Au膜)を形成し、発光部の大きさが2mm×2mmである実験用素子E2aを得た。
【0105】
上記製造方法から理解されるように、電子注入層の形成には、極性溶媒であるメタノールを含む塗布液を用いている。よって、製造過程において、Zn膜上に電子注入層を形成する際、Zn膜の表面部は改質されるので、その表面部にn型半導領域を有する陰極が形成されている。
【0106】
(実験用素子E2bの製造方法)
実験用素子E2aの製造方法において、陰極材料をAlに変えた点以外は、実験用素子E2aの製造方法と同様の方法で、実験用素子E2bを製造した。実験用素子E2bでも、電子注入層の形成には、極性溶媒であるメタノールを含む塗布液を用いている。よって、製造過程において、Al膜上に電子注入層を形成する際、Al膜の表面部は改質されるので、その表面部に絶縁領域を有する陰極が形成されている。
【0107】
(発光試験)
実験用素子E2a及び実験用素子E2bそれぞれが有する陰極と陽極の間に印加する電圧を変化させながら、実験用素子E2a及び実験用素子E2bを発光させ、輝度及び電流密度を測定した。輝度は、陽極側から出力される光を、輝度計を用いて測定し、電流密度は、実験用素子E2a及び実験用素子E2bに流れる電流と発光部の面積から算出した。輝度の測定結果は、
図10に示すとおりであり、電流密度の測定結果は、
図11に示すとおりであった。
図10において、横軸は電圧(V)を示し、縦軸は輝度(cd/m
2)を示す。
図6において、横軸は電圧(V)を示し、縦軸は、電流密度(mA/cm
2)を示す。
【0108】
図10に示すように、同じ駆動電圧では、実験用素子E2aの方が、実験用素子E2bより高い輝度を実現できていた。
図11に示すように、同じ電流密度では、実験用素子E2aの方が、実験用素子E2bより低い駆動電圧を実現できていた。例えば、電流密度80mA/cm
2である場合、実験用素子E2aの駆動電圧は約8Vであり、実験用素子E2bの駆動電圧は約10Vであった。すなわち、電流密度80mA/cm
2である場合、駆動電圧は、実験用素子E2aの方が、実験用素子E2bより駆動電圧が約2V低くなった。
【0109】
すなわち、陰極材料に、改質されてn型半導体を形成する金属材料(検証実験2ではZn)を用いることで、改質されて絶縁領域を形成する金属材料(検証実験2ではAl)を用いた場合より、有機EL素子の駆動電圧の低下を実現できることが検証された。
【0110】
[検証実験3]
基板として0.7mm厚のガラス板を用いロードロック式スパッタリング装置を用いて、この基板上へ厚さ50nmのZn膜を形成した実験用素子E3aを製造した。同様に、基板として0.7mm厚のガラス板を用い、ロードロック式スパッタリング装置を用いて、基板上へ厚さ50nmのAl膜を形成した後に、Al膜上に厚さ2nmのZn膜を形成することで実験用素子E3bを製造した。実験用素子E3bの製造において、Zn膜の厚さを5nm、10nm、15nm、25nmに変えた点以外は、実験用素子E3bの製造方法と同様にして、実験用素子E3c,E3d,E3e,E3fを製造した。
【0111】
Zn膜側から光を入射した際の実験用素子E3a〜E3fの反射率を、Scientific Computing International社製 光学薄膜測定システム(Film Tek 3000)を用いて測定した。実験結果は、
図12に示したとおりであった。
図12に示したように、基板上にZn膜が単層で形成されている実験用素子E3aより、Al膜とZn膜との積層構造の方が高い反射率を示すことが検証された。
【0112】
[検証実験4]
検証実験4では、陰極が第2陰極及び第1陰極の積層構造であり、第2陰極が第1陰極より可視光に対して高い反射率を有する場合の有機EL素子の作用効果を検証した。
【0113】
検証実験4では、次の素子構成を有する有機EL素子である実験用素子(以下、実験用素子E4と称す)を用いた。
基板/陰極/電子注入層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
【0114】
検証実験4では、次の素子構成を有する有機EL素子である実験用素子(以下、実験用素子E5と称す)も用いた。
基板/第2陰極/第1陰極/電子注入層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層/陽極
【0115】
上記構成の実験用素子E5として、第1陰極の厚さを2nm、5nm、10nm、15nmとした素子(以下、実験用素子E5a,E5b、E5c,E5d)をそれぞれ製造した。
【0116】
(実験用素子E4の製造方法)
実験用素子E4を、発光層の厚さを70nmに変更するとともに、正孔注入層の厚さを65nmに変更した点以外は、実験用素子E2aの製造方法と同様にして製造した。よって、製造過程において、Zn膜上に電子注入層を形成する際、Zn膜の表面部は改質され、Zn膜の表面部にはn型半導体領域が形成されている。
【0117】
(実験用素子E5aの製造方法)
実験用素子E5aの製造のために 基板として、実験用素子E1aの場合と同様に、0.7mm厚のガラス板を準備した。更に、電子注入層の形成のための塗布液として、実験用素子E1aの場合と同様に、塗布液αを準備した。更に、発光層形成のための発光層形成用組成物として、実験用素子E1aの場合と同様に、発光層形成用組成物Cを準備した。
【0118】
実験用素子E5aの製造方法では、実験用素子E2aの場合と同様に、正孔輸送層を形成するために、高分子化合物P2を0.6重量%の濃度でキシレンに溶解し、高分子化合物P2を含むキシレン溶液を準備した。更に、正孔注入層を形成するために、実験用素子E2aの場合と同様に、高分子化合物P3の懸濁液を準備した。
【0119】
次に、ロードロック式スパッタリング装置を用いて、上記基板(ガラス基板)上へ、第2陰極として厚さ50nmのAl膜を形成した後、そのAl膜上に、厚さ2nmのZn膜を形成した。その後は、実験用素子E4の製造方法と同様にして実験用素子E5aを得た。実験用素子5aの製造過程において、Zn膜上に電子注入層を形成する際、Zn膜の表面部は改質されるので、その表面部にn型半導体領域を有する陰極が形成されている。
【0120】
(実験用素子E5b〜E5dの製造方法)
実験用素子E5b〜E5dは、第2陰極である厚さ50nmのAl膜上に形成するZn膜の厚さが5nm、10nm、15nmである点以外は、実験用素子E5aの製造方法と同様にして製造された。よって、実験用素子E5b〜E5dそれぞれの製造過程において、Zn膜上に電子注入層を形成する際、Zn膜の表面部は改質されるので、その表面部にn型半導体領域を有する陰極が形成されている。
【0121】
(発光試験)
実験用素子E4及び実験用素子E5a〜5dそれぞれが有する陰極と陽極の間に印加する電圧を変化させながら、実験用素子E4及び実験用素子E5a〜5dを発光させ、実験用素子E4及び実験用素子E5a〜5dそれぞれの発光効率を算出した。具体的には、検証実験2と同様にして輝度及び電流密度を取得し、それらに基づいて発光効率を算出した。実験結果は、
図13に示したとおりである。
図13において、横軸は電圧(V)を示し、縦軸は発光効率(cd/A)を示している。
【0122】
図13に示したように、陰極材料としてZnのみを用いた実験用素子E4よりAlと積層させた実験用素子E5a〜E5dの方が発光効率がよい。これは、Alからなる第2陰極で光がより多く反射しているためと考えられる。したがって、
図5に示した有機EL素子10Aのように、第1陰極221より高い反射率を有する第2陰極222と第1陰極221との積層構造を有する陰極22を形成することで、低い駆動電圧を実現しながら発光効率の向上が図れる有機EL素子を製造可能である。
【0123】
以上、本発明の種々の実施形態及び実施例について説明した。しかしながら、本発明は上述した種々の実施形態及び実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0124】
図2及び
図6に例示した有機EL素子の製造方法では、有機EL部が有しており電極層に接する層を、塗布法で形成する際の溶媒又は分散媒を利用して電極層の改質を実施していたが、電極層を改質できる方法であれば、改質の方法は特に限定されない。
【0125】
電極層の改質は、電極層を形成する工程の後に実施されていればよく、有機EL部を形成する工程時に実施されていても、有機EL部を形成する前に実施されていてもよい。
【0126】
陰極は透光性を有し、改質されてn型半導体となる材料を含んで構成されるのであれば、有機EL素子は、基板側から光を出射する形態でもよい。