【文献】
Ken R. Atkinson, et al.,Multifunctional carbon nanotube yarns and transparent sheets: Fabrication, properties, and applications,PHYSICA B,2007年,394,339-343,刊行物等提出書刊行物2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属触媒を基板上にパターニングし、その金属触媒の存在下、600度以上1000度以下の温度において水蒸気10ppm以上10000ppm以下の水蒸気を添加して、複数の単層カーボンナノチューブを化学気相成長法によって形成された、カーボンナノチューブバルク構造体を準備し、
得られたカーボンナノチューブバルク構造体を、有機側鎖フラビンを含む溶媒に分散させて、シート状に成膜してカーボンナノチューブシートを製造し、
得られたカーボンナノチューブシートを、開口部を有する支持枠にその開口面を覆うように接続すること、
を含む、ペリクルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0043】
[定義]
本明細書において、ある部材又は領域が、他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0044】
本明細書において、EUV光とは、波長5nm以上30nm以下の光を指す。EUV光の波長は、5nm以上14nm以下が好ましい。
【0045】
本明細書において、ペリクル膜とはペリクルに使用される薄膜を意味する。ペリクル膜は自立膜であることが好ましい。自立膜とは基材や基板がなく薄膜自身でその形状を保持可能なものを言う。
【0046】
ペリクルとは、ペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持枠と、を有するものを意味する。ペリクル枠体とはペリクル膜に第1の枠体を接続したものを意味する。ペリクルとは、ペリクル枠体に第2の枠体を接続したものも含む。この場合、第1の枠体および第2の枠体がペリクル膜を支持する支持枠に該当する。
【0047】
本明細書において、トリミングとは、基板、又は基板及びその上に形成されたペリクル膜を、所望のペリクルの形状に合わせて切断することである。ペリクルの形状は多くは矩形であることから、本明細書では、トリミングの具体例として矩形状に切断する例を示している。
【0048】
本明細書において、ペリクル膜を残して基板の一部を除去する工程をバックエッチングと称する。明細書中、バックエッチングの例として背面(基板の、ペリクル膜が形成されたのと反対側の面)からエッチングするものを示している。
【0049】
本発明において、端部とは、側面、角部、隅部を指す。具体的には、基板(基板を第1の枠体として使用する場合にあっては第1の枠体)や支持枠の側面と側面とがなす角部と、基板の上面(ペリクル膜と接する側の面)と側面とがなす角部と、基板の上面と2つの側面とが交わる点を含む領域である隅部と、を含む。
【0050】
本発明において、バンドルとは、複数のカーボンナノチューブから形成される束のことである。
【0051】
本発明においてカーボンナノチューブシート断面の2次元回折像において、膜面に沿った方向のことを面内方向とし、面内方向に対して垂直方向のことを膜厚方向とする。
【0052】
本発明においてバンドルが「面内方向に配向」しているとは、カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向が、カーボンナノチューブシートの面内方向と同じ向きであることをいう。言い換えれば、バンドルの長さ方向が厚さ方向(Z軸方向)には立ち上がらず、面方向(XY方向)にある、ということを意味する。バンドルの長さ方向がX軸方向またはY軸方向に並んでいる必要はなく、網目状になっていても良い。
【0053】
本発明においてバンドルが「膜厚方向に配向」しているとは、カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向が、カーボンナノチューブシートの膜厚方向を向いている状態をいう。
【0054】
[本発明において見出した従来技術の問題点]
EUV用ペリクルのペリクル膜は通常、シリコンウェハ基板上に、SiN(窒化シリコン)等を積層させて製造される。その他、EUV用ペリクルのペリクル膜にカーボンナノチューブシートを用いたものがある(特許文献1)。しかし、特許文献2には、ペリクル膜の膜強度を得るために密度を高めると高い透過率が得られないこと、カーボンナノチューブは製造過程で含まれる金属などの不純物が多く透過率が悪くなることが記載されている。
【0055】
ここで、カーボンナノチューブシートの純度が低い場合、不純物が多いことを意味し、この場合にはEUV透過率が低く、かつ、EUVを吸収し易い。そして、ペリクル膜がEUVを吸収すると、EUVのエネルギーが熱に変わるために、EUV照射部分が高温に発熱し、その結果ペリクル膜の耐久性が低下することになる。つまり、カーボンナノチューブシートの純度が低い場合にはペリクル膜の強度やEUV透過率が悪くなることがわかり、本発明者らは、カーボンナノチューブシートを用いつつ、EUV透過率の高いペリクル膜を発明するに至った。
【0056】
[実施形態1]
図1、
図2、
図3を用いて、本発明に係るペリクル10の製造方法を説明する。本発明によって製造しようとするペリクル10は、EUVフォトリソグラフィ用ペリクルである。まず、基板100(
図1(a)、たとえばシリコンウェハ)上に、ペリクル膜102を形成する(
図1(b)、
図3のS101)。本発明では、以下に述べるカーボンナノチューブシートをペリクル膜102として用いる。
【0057】
ペリクル膜102に用いるカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)は、反応系に金属触媒を存在させ、かつ反応雰囲気に酸化剤を添加するCVD法(たとえば、LP−CVD成膜、PE−CVD成膜など)によって、化学気相成長用基板上に形成する。このとき、酸化剤は水蒸気であってもよく、水蒸気の濃度としては10ppm以上10000ppm以下であってもよく、600度以上1000度以下の温度において水蒸気を添加してもよく、金属触媒を化学気相成長用基板上に配置あるいはパターニングして合成してもよい。また、得られるカーボンナノチューブは、単層であっても複層であってもよく、化学気相成長用基板面に対して垂直方向に立設するカーボンナノチューブであってもよい。詳細には、たとえば国際公開2006/011655号等に記載されたスーパーグロース法を参照して製造することができる。
【0058】
化学気相成長用基板からカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)を剥離して得られたカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)を用いてカーボンナノチューブシートを製造する。カーボンナノチューブシートは、従来のカーボンナノチューブシートと同様に成膜すればよい。具体的には、得られたカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブバルク構造体を液体中に分散させた分散液を用いる。
【0059】
分散液には、分散剤を含んでもよい。分散剤を含むと、バンドルが細くなり、面内配向しやすく好ましい。分散剤の種類として、有機側鎖フラビン、フラビン誘導体、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0060】
分散液の溶媒の種類としては、分散剤の溶解性に応じて、適宜溶媒を選定することができる。たとえば、分散剤として有機
側鎖フラビンを用いる場合は、溶媒としてトルエン、キシレン、エチルベンゼンを用いることができる。分散剤を用いない場合においては、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレングリコール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などを用いることができる。
【0061】
スーパーグロース法でカーボンナノチューブを分散液中で細くて均一なバンドルに分散させる場合には、分散剤として有機
側鎖フラビンを用いることが望ましい。
【0062】
分散手法は、適宜選定することができる。超音波分散法、ボールミル、ローラーミル、振動ミル、混練機、ジェットミル、ナノマイザーなどを用いてもよい。
【0063】
分散液を基板100上にコーティングしたのち、分散液に用いた液体を除去することで、基板100上にカーボンナノチューブシートが形成される。本発明のカーボンナノチューブが液体中に分散した分散液を基板上にコーティングすると、分散液に用いた液体を除去するための蒸発に伴い、基板面に対してカーボンナノチューブが略平行である膜が得られる(すなわち、基板面に対して垂直方向に立設するカーボンナノチューブを含まないことになる)。これにより、カーボンナノチューブシートが形成される。コーティングの方法は特に限定されず、例えば、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート、エレクトロスプレーコートなどが挙げられる。
【0064】
このようにして基板100上に形成されたカーボンナノチューブシートがペリクル膜102として用いられる。カーボンナノチューブ形成に用いた金属触媒はEUV透過率低下の原因となりうるが、化学気相成長用基板からカーボンナノチューブを剥離することで、カーボンナノチューブ形成に用いた金属触媒をほとんど含まないペリクル膜102が得られるため好ましい。
【0065】
ペリクル膜が形成された面とは反対側の面(背面)にマスク104を積層し(
図1(b))、その後、露光エリア部分のマスクを除去する(
図1(c))。そして、エッチングによって露光エリア部分のペリクル膜102を残して、基板の一部を除去する(
図2(a)、
図3のS103)。
【0066】
基板の一部を除去する方法としてはバックエッチングによる。前述の通り、バックエッチングとは背面(基板の、ペリクル膜が形成された面とは反対側の面)側からのエッチングである。
【0067】
基板100はシリコンウェハ基板でなくともよい。基板の形状は正円に限定されず、オリエンテーション・フラットやノッチ等が形成されていてもよい。また、ペリクル膜は基板全体に形成されていなくてもよい。ペリクル膜が形成される基板100としては、ArFレーザー用ペリクルで用いられるようなアルミニウム合金等を用いるよりも、ペリクル全体としての熱ひずみを低減するために、ペリクル膜と線熱膨張率の近いシリコン、サファイア、炭化ケイ素の少なくともいずれかを含む材質を用いることが好ましい。より好ましくはシリコンである。
【0068】
バックエッチングの際、ペリクル膜102に接続する第1の枠体107を同時に形成することを目的として、露光エリア以外のシリコンウェハを枠状に残してもよい(
図2(a))。この場合、基板のうち除去されなかった部分を第1の枠体107と称する。このようにシリコンウェハを枠状にして枠体として利用することで、別途第1の枠体にペリクル
膜を張架するという工程を省略して、ペリクル枠体を製造可能である。
【0069】
第1の枠体の形状には特に限定はない。強度を上げるという観点から第1の枠体として残す基板を多めにするということもできる。エッチングの前に、第1の枠体となる部分に別の枠体を貼り付けた状態でエッチングを実施してもよい。別の枠体を貼り付けることによって、第1の枠体を補強することができる。別の枠体としては、例えば第2の枠体108を用いてもよい。なお、後の工程で第1の枠体107に加えて第2の枠体108を更に接続させてもよい(
図2(b)、
図3のS105)。ただし、EUV用ペリクルは、ペリクルの高さに制限があるため、ペリクル膜と支持枠との合計の高さが2.6mm以下となることが好ましい。別途接続する第2の枠体108にはペリクルを
原版184に固定したり、第1の枠体と接続したりするためのジグ穴を設けてもよい。
【0070】
第2の枠体108の形状、大きさ、材質には特に限定はない。第2の枠体108としては、EUV光に対する耐性を有し、平坦性が高く、低イオン溶出性の材料が好ましい。また、炭素由来の汚れを除去するために、水素ガスを露光装置内に流すため、水素ラジカルに対する耐性を有する材料で構成されることが好ましい。第2の枠体108の材質には特に制限はなく、ペリクルの枠に用いられる通常の材質とすることができる。第2の枠体108の材質として、具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金(5000系、6000系、7000系等)、ステンレス、シリコン、シリコン合金、鉄、鉄系合金、炭素鋼、工具鋼、セラミックス、金属−セラミックス複合材料、樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、アルミニウム合金が、軽量かつ剛性の面からより好ましい。また、第2の枠体108は、その表面に保護膜を有していてもよい。
【0071】
バンドルを備えるカーボンナノチューブシートを含むペリクル膜においては、保護層は、カーボンナノチューブシート中の各バンドルを被覆する態様であってもよい。
【0072】
ペリクル枠体(ペリクル膜に第1の枠体を接続したもの)を、第2の枠体108に接続することで、ペリクルが製造される(
図2(b))。第1の枠体107と第2の枠体108が、ペリクル膜を支持する支持枠109であり、開口部を有する枠体に該当する。また、ペリクル枠体(ペリクル膜に第1の枠体を接続したもの)と、第2の枠体108とは、接着剤で固定されていてもよく、あるいはピンによって接続されてもよい。すなわち、ペリクル枠体の角や辺上等にピン孔を設け、これとオーバーラップする第2の枠体の箇所にピン孔を設け、これらをピンで接続してもよい。
【0073】
リソグラフィ時には上記ペリクル10を、
原版184に接続して用いる(
図2(c)、
図3のS107)。
【0074】
上記のペリクル膜102は、厚さが200nm以下であり、ペリクル膜は、カーボンナノチューブシートを含み、カーボンナノチューブシートは複数のカーボンナノチューブから形成されるバンドルを備え、バンドルは径が100nm以下であり、カーボンナノチューブシート中でバンドルが面内配向している。
【0075】
カーボンナノチューブシートは、複数のカーボンナノチューブの束から形成されるバンドルを備える。カーボンナノチューブは、ファンデルワールス力によって束として集まり、バンドルを形成する。バンドルを形成することによって、太い繊維構造を形成することができるため、カーボンナノチューブ単独の場合に比べて強度が高まる。
【0076】
本実施形態において、カーボンナノチューブシートが有するカーボンナノチューブのバンドルの径は100nm以下である必要がある。というのも、バンドルの径が100nmを超えると、バンドルが重なった領域において膜厚が厚くなり、厚さ200nm以下の薄膜を得ることが困難となり、高いEUV透過率を達成することができないからである。そして、バンドルの径は、20nm以下がより好ましい。バンドルの径が細いほどバンドルが重なった領域における膜厚が薄くなるため、高いEUV透過率を有するペリクル膜を得ることができるためである。
【0077】
バンドルの径は下記の手順により求めることができる。
1)5万倍以上30万倍以下の観察倍率で撮影した、0.2μm×0.2μm以上2μm×2μm以下の範囲(領域)の走査型電子顕微鏡(SEM)像または原子間力顕微鏡(AFM)像を用いる。
2)バンドルの輪郭線を描く。
3)同じバンドルに属する2本の輪郭線に対して垂直方向の距離を測る。
4)バンドルが枝分かれおよび合流している節目付近についてはバンドルの径としてカウントしない。
5)2本の輪郭線はバンドルの径を求める点における接線が15°以下で交わるか平行であることを条件とする画像を用いる。
6)端から反対側の端へ直線を引き、その線が横断したバンドルの輪郭線ごとに上記のバンドルの径を求める。
【0078】
ペリクル膜を構成するバンドルは、膜の面内方向に配向している。なお、本発明においてカーボンナノチューブシート断面の2次元回折像において、膜面に沿った方向のことを面内方向と呼び、面内方向に対して垂直方向のことを膜厚方向(厚み方向)と呼ぶ。
【0079】
カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向が、カーボンナノチューブシートの面内方向と同じ向きであるとき、バンドルが面内方向に配向しているという。また、カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向が、カーボンナノチューブシートの膜厚方向を向いているとき、バンドルが膜厚方向に配向しているという。
【0080】
バンドルの配向は、カーボンナノチューブシートの断面の電子顕微鏡像および制限視野電子回折像によって調べることができる。
【0081】
カーボンナノチューブシートのカーボンナノチューブまたはバンドルが配向している場合、回折像に異方性が現れる。
【0082】
50nm×50nm以上の範囲のカーボンナノチューブシートの断面電子顕微鏡像において、バンドルが面内方向に配向していることが好ましい。電子線回折においては、格子間隔dは、逆格子ベクトルgの逆数で表される。
【数1】
【0083】
逆格子ベクトルgは、対象(カーボンナノチューブシート)から顕微鏡のディテクタの検出面までの距離Lと、電子線の波長λと、フィルム上における中心から回折スポットまでの距離rを用いて、以下の式で与えられる。
【数2】
【0084】
[カーボンナノチューブにおける、回折の方向性について]
カーボンナノチューブシート断面の制限視野電子回折像において、グラフェンシート構造の単位格子に由来するC−C結合距離dの3/2倍に相当するd=0.21nm(g=4.6nm
-1)の位置にピークが現れる。なお、この回折ピークはグラフェンシートの単位格子に由来するため、カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向に沿って現れる。
【0085】
また、d=0.37nm(g=2.7nm
-1)付近には、カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するピークが現れる。この回折の強度や散乱角は、ナノチューブの直径や集合状態に依存し、スーパーグロース法(SG法)で合成したカーボンナノチューブを用いたナノチューブシートにおいてはd=0.37nm近傍に現れ、またブロードな形状を示す。eDIPS法で合成したカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブシートはSG法カーボンナノチューブと異なる直径および分布を有するため、ピークの位置や形状は異なっている。
【0086】
この回折ピークはバンドル由来の格子、すなわち、束になったカーボンナノチューブの間隔を反映しているため、カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブの長軸方向に対して垂直方向に現れる。
【0087】
[カーボンナノチューブシートの配向の向きと、回折ピークの異方性の関係について]
カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブが完全に面内配向している場合、グラフェンシート構造の単位格子に由来するd=0.21nm(g=4.6nm
-1)のピークは面内方向に強く現れ、一方でカーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するd=0.37nm(g=2.7nm
-1)付近のピークは、膜厚方向に対して強く現れる。
【0088】
カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブが面内方向および膜厚方向ランダムに面内配向している場合には、いずれの回折ピークも、面内方向と膜厚方向について、同等のピーク強度で現れる。
【0089】
カーボンナノチューブのバンドルおよびカーボンナノチューブが膜面に対して完全に垂直配向している場合、グラフェンシート構造の単位格子に由来するd=0.21nm(g=4.6nm
-1)のピークは膜厚方向に強く現れ、一方でカーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するd=0.37nm(g=2.7nm
-1)付近のピークは、面内方向に対して強く現れる。
【0090】
[中間的な配向性を有する場合における、配向性の数値化について]
2次元電子回折像における、面内方向の強度プロファイルと、膜厚方向の強度プロファイルを比較・解析することによって、配向の程度を求めることができる。
図4は、カーボンナノチューブシート断面の制限視野電子線回折像の例である。
【0091】
図5は、
図4の膜厚方向における回折強度と、面内方向における回折強度を、逆格子ベクトルgに対してそれぞれプロットしたものである。
図5の縦軸は輝度(相対輝度)を表し、回折像の回折強度を0〜255の256段階の数値範囲でグレースケール表示したものである。回折強度は、電子顕微鏡のディテクタの検出強度(任意単位)を用いてもよく、また、ディテクタの検出強度分布から得られた画像を、たとえば0〜255の256段階の数値範囲でグレースケール表示した輝度(相対輝度)を用いてもよい。
【0092】
(グラフェンシート構造(g=4.6nm
-1)の配向性の定義について )
グラフェンシート構造の単位格子に由来するd=0.21nm (g=4.6nm
-1)の回折ピークについて、以下の式を用いて面内方向におけるピーク強度と、膜厚方向におけるピーク強度の比 R
c-cを定義する。
【数3】
【0094】
g=5.0nm
-1における強度との差をとる理由は、g=4.6nm
-1のピークと重ならない位置において、ベースラインとなる強度を差し引くことで、グラフェンシート構造の単位格子に由来する回折強度の大きさのみを算出するためである。
【0095】
なお、測定時の積算条件や、画像のコントラスト処理などにより、g=4.6nm
-1における回折強度が飽和していない状態でR
c-cを算出することが好ましい。
【0096】
R
c-cの値が0.20以下のときは面内配向しており、0.20を超える値のときは面内配向していないことを意味する。
【0097】
R
c-cの値は、0.20以下であることが好ましく、0.15以下がより好ましい。
【0098】
図5において、R
c-cは0.129であり、強く面内配向をしているため、ペリクル膜として好ましい。
【0099】
[バンドル構造(g=2.7nm
-1)の配向性の定義について]
カーボンナノチューブのバンドルの三角格子に由来するd=0.37nm(g=2.7nm
-1)付近のピークについて、以下の式を用いて面内方向におけるピーク強度と、膜厚方向におけるピーク強度の比 R
Bを定義する。
【数4】
【0101】
なお、測定時の積算条件や、画像のコントラスト処理などにより、g=2.7nm
-1あるいはベースラインとなるg=2.2nm
-1などの回折強度が飽和していない状態でR
Bを算出することが好ましい。
【0102】
R
Bを算出するときの、gの値は、2.7nm
-1や2.2nm
-1に限定することなく、適宜選定することができる。特に、ピーク位置が最大となるときのgの値と、本回折ピークと重ならない位置において、ベースラインとなる強度を差し引くことができるgの値をそれぞれ用いることが好ましい。
【0104】
R
Bの値が、0.40以上では面内配向しており、0.40未満では面内配向していないことを表す。R
Bの値は、0.40以上であることが好ましく、0.6以上がより好ましい。
図5において、R
Bは1.02であり、バンドルが強く面内配向をしているため、ペリクル膜として好ましい。
【0105】
[断面電子顕微鏡像の、高速フーリエ変換(FFT)による配向の解析]
また、断面電子顕微鏡像の高速フーリエ変換(FFT)から、ペリクル膜の面内配向の度合いを調べることができる。バンドルが面内配向している場合、FFT像において、中心から膜厚方向の軸に沿って、強度の強いストリーク状のパターンが見られることが好ましい。
【0106】
図6と
図7は、バンドルが面内配向したカーボンナノチューブシートの断面のTEM像と、FFT像である。中心から膜厚方向の軸に沿って、強度の強いストリーク状のパターンが見られることがわかる。
【0107】
図8は、
図7の膜厚方向における輝度と、面内方向における輝度を、中心からのピクセル距離に対してそれぞれプロットしたものである。
【0108】
図8の縦軸は輝度(相対輝度)を表し、FFT像を0〜255の256段階の数値範囲でグレースケール表示したものである。FFT像の輝度の単位は特に問わないが、たとえば0〜255の256段階の数値範囲でグレースケール表示した輝度(相対輝度)を用いてもよい。
【0109】
以下の式を用いて面内方向における総輝度と、膜厚方向における総輝度の比 R
FFTを定義する。
【数5】
【0111】
R
FFTの値が0.60以下では面内配向しており、0.60を超える値のときでは面内配向していないことを表す。R
FFTの値は、0.60以下であることが好ましい。
図8において、R
FFTは0.519であり、バンドルが面内配向をしているため、ペリクル膜として好ましい。
【0112】
バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシートは、バンドルの径と同等の膜厚とすることが可能となり、高いEUV透過率を達成することができる。さらには、バンドルが面内配向しているカーボンナノチューブシート(またはペリクル膜)は、面内方向にバンドル同士が絡み合った網目構造とすることができるために、100nm以下の厚さであっても自立膜を形成することができる。
【0113】
カーボンナノチューブシート(またはペリクル膜)は、バンドル同士が絡み合った網目構造を有する。網目構造は、5万倍以上30万倍以下の観察倍率で撮影した、0.2μm×0.2μm以上2μm×2μm以下の範囲のSEM像またはAFM像から観察することができる。SEM像およびAFM像において、3本以上のバンドルが連結している点をバンドルの連結点とみなす。網目構造は、バンドルの直線部分と連結点と、それらを含まない隙間構造からなる。
【0114】
面内配向したバンドルが網目構造を有するカーボンナノチューブシートは、シートに応力が加わった際に、応力を分散させると同時に、バンドルの変形やバンドルの並進運動を抑制することができるため、自立膜に応力を加えても網目構造および自立膜形状を保つことができる。
【0115】
上記のペリクル膜102は、カーボンナノチューブシートを含み、カーボンナノチューブシートは、カーボンナノチューブを備える。カーボンナノチューブは合成過程に置いて、金属触媒や、酸素などの炭素以外の軽元素が不純物として混入する。ここで、軽元素とは、原子番号が18(アルゴン)未満の元素を指す。
【0116】
上記のペリクル膜102は、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上である。前記ペリクル膜としては、例えば、国際公開2006/011655号等、公知の文献に記載の方法で合成されたカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブに含まれる金属量の測定は、蛍光X線より測定することができる。また、酸洗浄により金属触媒を除されたカーボンナノチューブを用いてもよい。カーボンナノチューブシートの純度(カーボンナノチューブシート中のカーボンの含有率)が98質量パーセント以上と非常に高いため、EUV透過率が高い。そして、EUV透過率が高いことから、ペリクルのEUVに対する耐久性が優れる。カーボンナノチューブに含まれる酸素などの軽元素量は、XPSにより測定することができる。
【0117】
また、本発明において、ペリクル膜102中のカーボンナノチューブは、長さが10μm以上10cm以下であり、径が0.8nm以上6nm以下である。若しくは、カーボンナノチューブの径の中心サイズが1nm以上4nm以下であり、カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下であり、カーボンナノチューブ中のカーボンの含有量が98質量パーセント以上である。本明細書においてカーボンナノチューブの径の中心サイズは以下の通り求める。カーボンナノチューブシートの膜面において、透過電子顕微鏡(以下、TEMという)にて透過電子像を撮影し、透過電子像の画像からカーボンナノチューブの外径、すなわち直径を各々計測し、同計測されたデータに基づいてヒストグラムを作成し、このヒストグラムから、その90パーセントが有する径を計算する。したがって、カーボンナノチューブの径の中心サイズが1nm以上4nm以下とは、当該膜面において90パーセントのカーボンナノチューブの有する径が1nm以上4nm以下という径を有することを意味し、その余の10パーセントのカーボンナノチューブは径が1nm以上4nm以下の範囲内にある必要はない。
【0118】
本発明においては、カーボンナノチューブの長さが10μm以上10cm以下と長いため、カーボンナノチューブどうしが絡み合い、強靭な膜(シート)になる。さらにカーボンナノチューブの径が0.8nm以上6nm以下であり(若しくはカーボンナノチューブの径の中心サイズが1nm以上4nm以下であり)大きいため、低密度の膜になり、EUV透過率が高くなる。これらの特徴から、EUV透過率が高く、透過率が高いことによって耐熱性が高くEUVに対する耐久性に優れ、膜自体の物理的強度も高いためにペリクル製造工程やEUV露光系での大気圧〜真空の工程にも耐えうる膜強度を有することができる。
【0119】
また、本発明では、上記のカーボンナノチューブの径の範囲及び長さの範囲内において、さらにカーボンナノチューブの径に対する長さの比(長さ/径)が、1×10
4以上1×10
8以下であることが好ましい。かかる範囲内であることによって、さらにEUV透過率と、膜強度を向上させることができる。
【0120】
[実施形態2]
実施形態2は、ペリクル膜102に用いるカーボンナノチューブをCVD法によって形成する際の化学気相成長用基板を基板100として用いる形態である。
【0121】
得られたカーボンナノチューブ膜は基板面に対して垂直方向に立設しているカーボンナノチューブであることから、これに対して別の基材を用意して立設しているカーボンナノチューブを物理的に倒すか、カーボンナノチューブ膜を液体に浸漬して立設しているカーボンナノチューブを物理的に倒すか、カーボンナノチューブ膜に液体を流し込んで立設しているカーボンナノチューブを物理的に倒すか、又は、生成したカーボンナノチューブ構造体を剥がして2枚の基板で挟み込むことで立設しているカーボンナノチューブを水平方向に倒す。本発明ではこのようにして基板面に対してカーボンナノチューブ(又はカーボンナノチューブ構造体)が略平行であるカーボンナノチューブシートを、ペリクル膜102として用いる。
【0123】
[実施形態3]
実施形態3は、支持枠として第1の枠体、第2の枠体を用いず、支持枠209でペリクル膜202を支持する形態である。
図12を用いて、本発明に係るペリクル20の製造方法を説明する。
【0124】
シリコンウェハやガラス、金属、ポリマーフィルム等の化学気相成長用基板上にカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブバルク構造体でもよい)を形成する。得られたカーボンナノチューブを、水や有機溶媒などの液体の液面に浮かせることで化学気相成長用基板から剥離する。液面に浮いたカーボンナノチューブの膜を、接着剤などを塗布した支持枠で掬い取ることで、支持枠に固定する。得られたカーボンナノチューブの膜がペリクル膜202となる。
【0125】
液体上に膜を浮かせてから掬い取ることで自立膜を得る方法としてグラフェンなどのtransfer技術を用いてもよい。たとえば、液面に浮いたカーボンナノチューブの膜を液体の液面から掬い取る際に、ポリマーフィルムなどの基材を用いてカーボンナノチューブの膜を支えながら、接着剤などを塗布した支持枠で固定することで膜を掬い取ってもよい。ポリマーフィルムなどの基材をエッチングにより除去することで、カーボンナノチューブシートを得ることができる。
【0126】
化学気相成長用基板上に形成されたカーボンナノチューブバルク構造体が膜としての十分な強度を有する場合は、化学気相成長用基板から機械的に剥離し、ペリクル膜202としても良い。ペリクル膜202を支持枠209で支持する方法は特に限定されず、従来のペリクルと同様の方法を用いることができる。
【0127】
カーボンナノチューブ形成に用いた金属触媒はEUV透過率低下の原因となりうるが、化学気相成長用基板からカーボンナノチューブを剥離することで、カーボンナノチューブ形成に用いた金属触媒をほとんど含まないペリクル膜202が得られるため好ましい。
【0128】
支持枠209の形状、大きさ、材質には特に限定はない。支持枠209としては、第2の枠体と同様の材質を用いることができる。
【0129】
[保護層]
EUVリソグラフィ用のペリクル膜には、水素ラジカル耐性(すなわち、還元耐性)と酸化耐性が必要であることから、水素ラジカルや酸化からカーボンナノチューブを保護するための保護層を設けてもよい。保護層106は、カーボンナノチューブシートに接するように設けることができる。たとえば、ペリクル膜102、202の
原版184側の面に設けられてもよいし、ペリクル膜102と基板100との間に設けてもよいし(
図9(a))、ペリクル膜102、202の上に積層させて最上面の層としてもよいし、これらを組み合わせてもよい。水素ラジカルはペリクル膜の両面に発生しうるから、上記を組み合わせること、すなわち、保護層106を、ペリクル膜102、202の
原版184側の面に形成し、さらにペリクル膜102、202の上にも積層させて最上面の層とすることが、好ましい。
【0130】
図9に、保護層106をペリクル膜102、202の
原版184側の面に設けた場合のペリクルの図(
図9(b))及び、保護層106をペリクル膜102と基板100との間に設けた場合のペリクル10に
原版184を接続した図(
図9(c))を示す。保護層106はSiO
x(x≦2)、Si
aN
b(a/bは0.7〜1.5)、SiON、Y
2O
3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、B
4C、SiC又はRhから選択されてもよい。
【0131】
EUV光の透過を阻害しないためには、保護層の膜厚は1nm以上10nm以下程度が望ましく、2nm以上5nm以下程度がさらに望ましい。保護層の膜厚を1nm以上10nm以下程度とすることにより、保護層にEUV光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0132】
ペリクル膜の膜厚に対する保護層の膜厚の割合は、0.03以上1.0以下の範囲にあることが望ましい。上記数値範囲であれば、保護層にEUV光が吸収されることを抑制し、透過率の低下を抑制することができる。
【0133】
また、保護層を積層すると、新たに生成した層界面、すなわち保護層と空気の界面、及び保護層とペリクル膜との界面で、EUV光の反射が生じ、透過率が低下するおそれがある。これらの層界面でのEUV光の反射率は、ペリクル膜及び保護層の厚み、ならびにペリクル膜及び保護層を構成する元素の種類に応じて、算出することができる。そして、反射防止膜の原理と同様に膜厚を最適化することによって、反射率を低下させることができる。
【0134】
保護層の厚みは、吸収によるEUV光の透過率低下及び反射によるEUV光の透過率低下を抑制しつつ、かつ酸化および還元防止の性能を有する範囲で、最適な厚みとすることが望ましい。保護層の厚み均一性や表面粗さは、特に限定されない。EUV露光のパターニング工程において、膜厚の不均一性や表面粗さに由来した透過率の不均一性やEUV光の散乱による支障が生じなければ、保護層が連続層あるいは海島状のどちらであってもよく、また、膜厚が不均一であっても表面粗さがあってもよい。
【0135】
ペリクル膜と保護層とを併せたペリクル膜の平均屈折率は1.1以上3.0以下の範囲であることが望ましい。屈折率は分光エリプソメトリーなどの手法で測定することができる。また、ペリクル膜と保護層とを併せたペリクル膜の平均密度は0.1g/cm
3以上2.2g/cm
3以下の範囲であることが望ましい。密度はX線反射法などの手法で測定することができる。
【0136】
ペリクル膜の厚さ(二層以上からなる場合には総厚)は、例えば、10nm以上200nm以下とすることができ、10nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上70nm以下がより好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましく、さらに10nm以上30nm以下が好ましい。厚さが薄いほど、EUV透過率が高いペリクル膜を得ることができる。
【0137】
ペリクル膜の厚さは以下の方法で求めることができる。ペリクル膜を基板上に転写し、AFM測定を100μm
2以上1000μm
2以下の面積で実施する。測定領域には、基板表面と膜の両方が含まれるようにする。10μm
2以上の面積で、基板と膜の平均高さをそれぞれ測定し、基板と膜の平均厚みの差分から、膜厚を求める。
【0138】
ペリクル膜はEUV光の透過率が高いことが好ましく、EUVリソグラフィに用いる光(例えば、波長13.5nmの光や波長6.75nmの光)の透過率が50パーセント以上であることが好ましく、80パーセント以上であることがより好ましく、90パーセント以上であることがさらに好ましい。ペリクル膜が保護層と積層される場合には、これらを含む膜の光の透過率が50パーセント以上であることが好ましい。
【0139】
(ペリクル膜のEUV耐性評価)
ペリクル膜にEUV光を照射し、照射部分と未照射部分について、各種の分析を行うことでEUV耐性を評価することができる。例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法、XPS、EELS、IR測定やラマン分光などの構造解析の手法、エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの膜厚評価法、顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法などを用いることができる。放熱性は、コンピューターシミュレーションによる解析結果を組み合わせることで、より詳細に検討されうる。
【0140】
ペリクル膜は、EUV光に限らず評価項目に応じて、真空紫外線照射、紫外―可視光線照射、赤外線照射、電子線照射、プラズマ照射、加熱処理などの方法を適宜選択し、ペリクル膜の耐性評価を実施してもよい。
【0141】
保護層を設けた場合は、評価はペリクル膜と保護層とを併せたペリクル膜で行ってもよい。
【0142】
[ペリクル膜の膜強度の評価について]
ペリクル膜の強度の評価方法としては、ナノインデンターによる評価方法が挙げられる。膜強度の評価方法としては、共鳴法やバルジ試験法、エアブローによる膜の破れの有無の評価法、振動試験による膜の破れの有無の評価法、引張試験装置によるペリクル膜の引張強度試験等の手法を用いることができる。
【0143】
保護層を設けた場合は、評価はペリクル膜と保護層とを併せたペリクル膜で行ってもよい。
【0144】
[膜接着剤層]
膜接着剤層は、支持枠209とペリクル膜202とを別個に製造した場合に、これらを接着するための層である。膜接着剤層は、例えばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコン樹脂接着剤、無機系接着剤等からなる層でありうる。EUV露光時の真空度を保持する観点から、膜接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。
【0145】
また、ペリクル膜を支持枠に固定する方法は特に制限されず、ペリクル膜を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある膜接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用してペリクル膜と支持枠とを固定してもよい。
【0146】
ペリクル膜と支持枠の接着性の評価方法としては、例えば圧力、面積、距離、角度を変えてエアブローにより膜の破れや剥離の有無を評価する手法や、加速度、振幅を変えて振動試験により膜の破れや剥離の有無を評価する手法などを用いることができる。
【0147】
[原版用接着剤層]
原版用接着剤層は、ペリクルと原版とを接着する層である。原版用接着剤層は、ペリクルのペリクル膜が張架されていない側の端部に設けられてもよい。原版用接着剤層は、例えば、両面粘着テープ、シリコン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、無機系接着剤等である。EUV露光時の真空度を保持する観点から、原版用接着剤層は、アウトガスが少ないものが好ましい。アウトガスの評価方法として、例えば昇温脱離ガス分析装置を用いることができる。
【0148】
膜接着剤層及び原版用接着剤層は、EUV露光装置内で散乱したEUV光に曝されるため、EUV耐性を有することが望ましい。EUV耐性が低いと、EUV露光中に接着剤の接着性や強度が低下して、露光装置内部で接着剤の剥離や異物発生などの不具合が生じる。EUV光照射による耐性評価は、例えば、XPS測定、EDS分析、RBSなどの組成分析の手法、XPS、EELS、IR測定やラマン分光などの構造解析の手法、エリプソメトリーや干渉分光法、X線反射法等などの膜厚評価法、顕微鏡観察、SEM観察やAFM観察などの外観や表面形状評価方法、ナノインデンターや剥離試験による強度及び接着性評価方法などを用いることができる。
【0149】
リソグラフィでは、回路パターンが正確に転写されることが必要である。従って、露光範囲において露光光の透過率がほぼ均一であることが必要である。本実施形態のペリクル膜を用いることで、露光範囲において一定の光透過率を有するペリクルが得られる。
【0150】
[ペリクルの用途]
本発明のペリクルは、EUV露光装置内で、原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、原版の保管時や、原版の運搬時に原版を保護するための保護部材としてもよい。例えば、原版にペリクルを装着した状態(露光原版)にしておけば、EUV露光装置から取り外した後、そのまま保管すること等が可能となる。ペリクルを原版に装着する方法には、接着剤で貼り付ける方法、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0151】
[露光原版]
本実施形態の露光原版は、原版と、原版に装着された本実施形態のペリクルと、を有する。
【0152】
本実施形態の露光原版は、本実施形態のペリクルを備えるので、本実施形態のペリクルと同様の効果を奏する。
【0153】
本実施形態のペリクルに原版を装着する方法は、特に限定されない。例えば、原版を支持枠へ直接貼り付けてもよく、支持枠の一方の端面にある原版用接着剤層を介してもよく、機械的に固定する方法や磁石などの引力を利用して原版と支持枠と、を固定してもよい。
【0154】
ここで、原版としては、支持基板と、この支持基板上に積層された反射層と、反射層上に形成された吸収体層と、を含む原版を用いることができる。吸収体層がEUV光を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層は、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜でありうる。吸収体層は、クロム(Cr)や窒化タンタル等、EUV光等の吸収性の高い材料でありうる。
【0155】
[露光装置]
本実施形態の露光装置は、本実施形態の露光原版を備える。このため、本実施形態の露光原版と同様の効果を奏する。
【0156】
本実施形態の露光装置は、露光光(好ましくはEUV光等、より好ましくはEUV光。以下同じ。)を放出する光源と、本実施形態の露光原版と、光源から放出された露光光を露光原版に導く光学系と、を備え、露光原版は、光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されていることが好ましい。
【0157】
この態様によれば、EUV光等によって微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
【0158】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態の半導体装置の製造方法は、光源から放出された露光光を、本実施形態の露光原版の前記ペリクル膜を透過させて前記原版に照射し、前記原版で反射させるステップと、前記原版によって反射された露光光を、前記ペリクル膜を透過させて感応基板に照射することにより、前記感応基板をパターン状に露光するステップと、を有する。
【0159】
本実施形態の半導体装置の製造方法によれば、異物による解像不良が問題となり易いEUV光を用いた場合であっても、異物による解像不良が低減された半導体装置を製造することができる。
【0160】
図10は、本実施形態の露光装置の一例である、EUV露光装置180の概略断面図である。
【0161】
図10に示されるように、EUV露光装置180は、EUV光を放出する光源182と、本実施形態の露光原版の一例である露光原版181と、光源182から放出されたEUV光を露光原版181に導く照明光学系183と、を備える。
【0162】
露光原版181は、ペリクル膜102及び支持枠を含むペリクル10と、原版184と、を備えている。この露光原版181は、光源182から放出されたEUV光がペリクル膜102を透過して原版184に照射されるように配置されている。
【0163】
原版184は、照射されたEUV光をパターン状に反射するものである。
【0164】
ペリクル膜102及びペリクル10は、それぞれ、本実施形態のペリクル膜及びペリクルの一例である。
【0165】
EUV露光装置180において、光源182と照明光学系183との間、及び照明光学系183と原版184の間には、フィルター・ウィンドウ185及び186がそれぞれ設置されている。
【0166】
また、EUV露光装置180は、原版184が反射したEUV光を感応基板187へ導く投影光学系188を備えている。
【0167】
EUV露光装置180では、原版184により反射されたEUV光が、投影光学系188を通じて感応基板187上に導かれ、感応基板187がパターン状に露光される。なお、EUVによる露光は、減圧条件下で行われる。
【0168】
EUV光源182は、照明光学系183に向けて、EUV光を放出する。
【0169】
EUV光源182には、ターゲット材と、パルスレーザー照射部等が含まれる。このターゲット材にパルスレーザーを照射し、プラズマを発生させることで、EUVが得られる。ターゲット材をXeとすると、波長13nm以上14nm以下のEUVが得られる。EUV光源が発する光の波長は、13nm以上14nm以下の範囲に限られず、波長5nm以上30nm以下の範囲内の、目的に適した波長の光であればよい。
【0170】
照明光学系183は、EUV光源182から照射された光を集光し、照度を均一化して原版184に照射する。
【0171】
照明光学系183には、EUVの光路を調整するための複数枚の多層膜ミラー189と、光結合器(オプティカルインテグレーター)等が含まれる。多層膜ミラーは、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)が交互に積層された多層膜等である。
【0172】
フィルター・ウィンドウ185、186の装着方法は特に制限されず、接着剤等を介して貼り付ける方法や、機械的にEUV露光装置内に固定する方法等が挙げられる。
【0173】
光源182と照明光学系183との間に配置されるフィルター・ウィンドウ185は、光源から発生する飛散粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が照明光学系183内部の素子(例えば多層膜ミラー189)に付着しないようにする。
【0174】
一方、照明光学系183と原版184との間に配置されるフィルター・ウィンドウ186は、光源182側から飛散する粒子(デブリ)を捕捉し、飛散粒子(デブリ)が原版184に付着しないようにする。
【0175】
また、原版に付着した異物は、EUV光を吸収、もしくは散乱させるため、ウェハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル10は原版184のEUV光照射エリアを覆うように装着されている。EUV光はペリクル膜102を通過して、原版184に照射される。
【0176】
原版184で反射されたEUV光は、ペリクル膜102を通過し、投影光学系188を通じて感応基板187に照射される。
【0177】
投影光学系188は、原版184で反射された光を集光し、感応基板187に照射する。投影光学系188には、EUVの光路を調製するための複数枚の多層膜ミラー190、191等が含まれる。
【0178】
感応基板187は、半導体ウェハ上にレジストが塗布された基板等であり、原版184によって反射されたEUVにより、レジストがパターン状に硬化する。このレジストを現像し、半導体ウェハのエッチングを行うことで、半導体ウェハに所望のパターンを形成する。
【0179】
また、ペリクル10は、原版用接着剤層等を介して原版184に装着される。原版に付着した異物は、EUVを吸収、もしくは散乱させるため、ウェハへの解像不良を引き起こす。したがって、ペリクル10は原版184のEUV光照射エリアを覆うように装着され、EUVはペリクル膜102を通過して、原版184に照射される。
【0180】
ペリクル10の原版184への装着方法としては、原版表面に異物が付着しないように原版に設置できる方法であればよく、ペリクル10と原版184とを接着剤で貼り付ける方法や、静電吸着法、機械的に固定する方法などが挙げられるが特に限定されない。好ましくは、接着剤で貼り付ける方法が用いられる。
【0181】
[変形例1]
本発明では、粒子を除去する工程を含んでもよい。粒子を除去する方法としては、たとえばウェット洗浄法、機械的洗浄法、ドライ洗浄法等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ウェット洗浄法としては、SC1洗浄やSC2洗浄のRCA洗浄が挙げられる。SC1洗浄はアンモニアと過酸化水素によるパーティクル洗浄作用があり、SC2洗浄は塩酸と過酸化水素による重金属洗浄作用がある。他にも純水による洗浄、有機溶剤による洗浄が可能である。また、硫酸過水洗浄(硫酸と過酸化水素の混合物)、バッファードフッ酸(フッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合物)、フッ化水素酸等による洗浄が可能である。また、任意の順番で洗浄を組み合わせてもよい。ドライ洗浄法としては、0
2プラズマを用いたアッシング洗浄、アルゴンスパッタリング等がある。
【0182】
[変形例2]
本発明では、基板、支持枠、第1の枠体、第2の枠体の少なくとも1箇所において面取り加工を行ってもよい。本明細書において面取りとはR面加工及びC面加工を含む概念である。R面加工とは、基板、支持枠、第1の枠体(基板をバックエッチングしたものを含む)、第2の枠体の少なくとも1つの端部(側面、角または隅部等を指す)を加工することで湾曲部を形成することをいう。本明細書におけるC面加工とは、上記少なくとも1つの端部を斜め(100度以上170度以下)に削ることをいう。このような加工を施すことで、尖った部分(鋭角部)が除去され、製造後の輸送時やハンドリング時に何らかの部材と衝突しても破片が出にくいようになる。
【0183】
[変形例3]
本発明では、基板100に1つ以上の孔を開けてもよい(
図11)。
図11(a)〜
図11(c)は、孔130を基板の4方向に形成した図面である。
図11(a)は、上面図、
図11(b)及び
図11(c)は上面図である
図11(a)のA−A’間の断面図である。
図11(b)に示すように、形成された基板100上のペリクル膜102に、1つ以上の孔130を開けてもよい。孔は
図11(b)のように、基板を貫通していなくてもよい。もちろん、
図11(c)に示すように、基板を貫通してもよい。
図11(b)及び
図11(c)のように、孔はペリクル膜及び基板に形成されていてもよい。基板を貫通する孔を設ける場合であって、トリミング工程においてエッチングによるトリミングを選択した場合、及び、バックエッチングを行う場合には、孔の保護を行うためにエッチングを行う際に孔を一旦ふさぐか、又は、レジストによって孔部分の保護を行うなどの工程を設けてもよい。孔130の大きさには限定がないが、たとえば、孔が略円形の形状であれば、直径50μm以上2000μm以下程度の孔を開ける。好ましくは、直径200μm以上700μm以下程度の孔を開ける。また、孔130の形状には、特に限定はなく、多角形(たとえば略四角形)でもよい。略四角形の場合、1辺の長さに限定はないが、長辺の長さが100μm以上3000μm以下、短辺の長さが50μm以上1000μm以下の孔を開けることができ、好ましくは長辺の長さが150μm以上2000μm以下、短辺の長さが100μm以上700μm以下が好ましい。孔130は、
図11(a)に示すように、ペリクルの側面側に配置してもよいが、孔を設ける位置に限定はない。孔130は、ペリクル膜をフォトマスクに取り付けたりデマウントしたりする際のジグ穴や通気口として使用することができるが、ペリクルとして孔が必須の構成要素というわけではない。
【0184】
孔130は、極短パルスレーザー、その他のレーザー、エッチング等によって形成する。レーザーによって形成する場合、塵埃等の少ない高品質なペリクル膜を作製する観点から、デブリを低減して加工可能な、極短パルスレーザー(たとえば、ピコ秒レーザーや、ナノ秒レーザー)を使用して孔を形成することが好ましい。もっとも、この時点で孔を形成するのではなく、後述の基板のバックエッチング時にエッチングによって孔130を同時に形成することで、工程を単純化することが可能である。すなわち、トリミングを行った後に、孔形成とエッチングが同時に行われる、という順序である。ナノ秒レーザーを使用する場合の条件としては、繰返し発振周波5kHz以上15kHz以下、パルスエネルギー5W以上15W以下、スキャン毎秒5mm以上30mm以下、スキャン回数40回以上300回以下とすることができるが、これに限定されるものではない。また、極短パルスレーザーを用いて加工する際には、レーザー用のドロス付着防止剤を用いてもよい。たとえば、ドロス防止剤としては、孔を形成する前に基板上にイソプロピルアルコール(IPA)にマイクログラファイトを混合したCBXなどの薬剤を塗布することを挙げることができるが、これに限定されるものではない。ドロス付着防止剤を用いた場合には、孔形成後にこれを洗浄により除去する。その他のドロス付着防止法としては、例えばヘリウムガスを加工基板に吹き付けながらレーザー加工を行うことでドロス付着を抑制することができる。
【0185】
[変形例4]
また、
図11(d)に示すように、発塵の少ないトリミング方法として、伸縮性があり外部からの刺激を受けると粘着力が低下する粘着シート112を基板の両面側に貼り付けた上で、粘着シートが貼り付けられた部分の基板の内部にあるブリッジ124を作り、この後、このブリッジ124に切れ込みを入れることでトリミングを行ってもよい。なお、本発明では、基板のみをトリミングしてもよく、または、基板上に形成されたペリクル膜を基板とともにトリミングしてもよい。
【0186】
トリミングの例としては、たとえば矩形形状にトリミングすることが考えられるが、トリミング形状には限定がなく、任意の形状に加工可能である。また、トリミング方法に限定はない。たとえば、機械的に力を加えて、ペリクル膜および基板を切断するという方法もあるし、レーザー切断やレーザーハーフカット(ステルスダイシング)やブレードダイシングやサンドブラストや結晶異方性エッチングやドライエッチングによることもできる。もっとも、トリミングする際に異物粒子の発塵が少ない手法が好ましい。なお、バックエッチング後にはペリクル膜の膜厚が極薄であることから洗浄ができないものの、トリミング工程といった発塵工程をバックエッチング以前に行えば、バックエッチング前に洗浄を行うことができ、粉塵の少ないペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクルを製造可能である。
【実施例】
【0187】
(実施例1)
国際公開2006/011655号に記載の方法で合成したカーボンナノチューブ(直径3nm以上5nm以下、長さ100μm以上600μm以下、炭素量99パーセント以上)300mgと、分散剤として有機側鎖フラビン1gをトルエン100mLに加えた。マグネチックスターラーで約480rpmで2時間撹拌した後、懸濁液にプローブ型ホモジナイザーを用いて出力40パーセントで合計2時間超音波分散させた。この間、20分ごとに5分間氷冷した。得られたカーボンナノチューブ分散液を脱泡した。
【0188】
シリコン基板に分散液をブレードコートした。ブレードとシリコン基板とのギャップは240μmであった。乾燥後、厚さ200nmの膜を得た。クロロホルムで有機側鎖フラビンを除去したのち、シリコン基板を水浴に浸透することでカーボンナノチューブシートの膜を剥離し、枠で膜を掬い取ることで自立膜であるペリクル膜を得た。
【0189】
得られたペリクル膜の断面電子顕微鏡像(
図6)から、膜の全域にわたってバンドルが面内配向している様子が観察された。
制限視野電子回折像(
図13)から、d=0.21nmと0.12nmに見られる、カーボンナノチューブ内の炭素―炭素結合に由来した2つのリングが、膜厚方向において強度が弱くリングが切れており、またd=0.37nmに見られる、バンドルの三角格子構造に由来するブロードなスポットが、膜厚方向に並んで現れており、膜厚方向と面内方向とで散乱強度に異方性が見られた。
【0190】
図5は、厚み方向における回折強度と、面内方向における回折強度を、逆格子ベクトルgに対してそれぞれプロットしたものである。
図5から求められる、R
c-cは0.129であり、R
Bは1.02であった。これにより、カーボンナノチューブから形成されるバンドルは強く配向していることが分かった。
【0191】
断面電子顕微鏡像のFFT像(
図7)において、中心から膜厚方向の軸に沿って、強度の強いストリーク状のパターンが見られ、面内方向へのバンドルの配向が確認された。
【0192】
図8は、FFT像の膜厚方向における輝度と、面内方向における輝度を、中心からのピクセル距離に対してそれぞれプロットしたものである。R
FFTは0.519であり、バンドルが面内配向をしていることが確認された。SEM画像(
図14)から求められたバンドルの平均径は9.0nmであり、径が100nmを超えるバンドルは見られなかった。
【0193】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で作製した分散液を用いて、シリコン基板に分散液をブレードコートした。ブレードとシリコン基板とのギャップは50μmであった。乾燥後、厚さ40nmの膜を得た。クロロホルムで有機側鎖フラビンを除去したのち、シリコン基板を水浴に浸透することでカーボンナノチューブシートの膜を剥離し、枠で膜を掬い取ることで自立膜からなるペリクル膜を得た。得られたペリクル膜のEUV透過率は、85パーセントであった。SEM画像(
図15)から求められたバンドルの平均径は10.0nmであり、径が100nmを超えるバンドルは見られなかった。
【0194】
(比較例1)
国際公開2006/011655号に記載の方法で合成したカーボンナノチューブ(直径3nm以上5nm以下、長さ100μm以上600μm以下、炭素量99パーセント以上)400mgを有機溶媒であるプロピレングリコール100gに加えた。マグネチックスターラーで2時間撹拌した後、プローブ型ホモジナイザーを用いて超音波分散させた。得られたカーボンナノチューブ分散液を脱泡した。シリコン基板に分散液をブレードコートした。ブレードとシリコン基板とのギャップは240μmであった。乾燥後の厚みは200nmであった。
【0195】
得られた膜の断面電子顕微鏡像(
図16)から、カーボンナノチューブシートのバンドルは面内配向していないことが分かった。制限視野電子回折像(
図17)から、d=0.21nmに見られる、カーボンナノチューブ内の炭素―炭素結合に由来したリングが、膜厚方向においてもリングがつながっており、ほとんどの領域で面内配向していないことが確認された。
【0196】
R
c-cは0.239、R
Bは0.353であった。断面電子顕微鏡像のFFT像(
図18)において、中心から膜厚方向の軸に沿った強度の強いストリーク状のパターンは見られず、面内方向への配向していないことが確認された。R
FFTの値は0.616であった。
【0197】
SEM画像(
図19)からは、径が100nmを超えるバンドルが観察された。上記の基板を水浴に浸透したところ、基板から剥離したカーボンナノチューブシートの膜は、枠に掬い取る際に細かく砕け、自立膜からなるペリクル膜は得られなかった。
【0198】
(比較例2)
比較例1と同様の方法で作製した分散液を用いて、シリコン基板に分散液をブレードコートした。ブレードとシリコン基板とのギャップは100μmであった。乾燥後、厚み90nmの膜を得た。
【0199】
上記の基板を水浴に浸透したところ、基板から剥離したカーボンナノチューブシートの膜は、枠に掬い取る際に細かく砕け、自立膜であるペリクル膜は得られなかった。SEM画像からは、径が100nmを超えるバンドルが観察された。
【0200】
以上、本発明の好ましい実施形態によるペリクル膜の製造方法について説明した。しかし、これらは単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲はそれらには限定されない。実際、当業者であれば、特許請求の範囲において請求されている本発明の要旨を逸脱することなく、種々の変更が可能であろう。よって、それらの変更も当然に、本発明の技術的範囲に属すると解されるべきである。