【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施形態の効果を確認するために実施した試験について詳細に説明するが、本発明は、以下の構成に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL 2716(FERM BP−6999)を有効成分として含有する固形状のFD改善剤は、以下の方法で調製した。原料乳、脱脂粉乳、及び水を用いて、乳脂肪分3.0重量%、無脂乳固形分9.2重量%となるように適宜調製し、得られた混合物を通常の方法により均質化して、殺菌、冷却処理を行った。その後、株式会社明治「明治プロビオヨーグルトLG21」から分離したラクトバチルス・ブルガリカスとストレプトコッカス・サーモフィラスとラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL 2716(FERM BP−6999)を接種して、通常の方法で培養し、得られた培養物を実施例1(FD改善剤)とした。なお、このFD改善剤は、便宜的に有効成分を含む乳酸菌をそのまま摂取するものとしてある。
このFD改善剤において、1g当たりのラクトバチルス・ガセリOLL 2716(FERM BP−6999)乳酸菌の菌数は、およそ10
7個であった。
【0031】
(比較例1)
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) OLL 2716(FERM BP−6999)を含有していない固形状のプラセボ(偽薬)は、以下の方法で調製した。原料乳、脱脂粉乳、及び水を用いて、乳脂肪分3.0重量%、無脂乳固形分9.2重量%となるように適宜調製し、得られた混合物を通常の方法により均質化して、殺菌、冷却処理を行った。その後、株式会社明治「明治プロビオヨーグルトLG21」から分離したラクトバチルス・ブルガリカスとストレプトコッカス・サーモフィラスを接種して、通常の方法で培養し、得られた培養物を比較例1(プラセボ)とした。
したがって、このプラセボには、実施例1に含まれるラクトバチルス・ガセリOLL 2716(FERM BP−6999)乳酸菌は含まれておらず、プラセボにおける1g当たりのラクトバチルス・ガセリOLL 2716(FERM BP−6999)乳酸菌の菌数は、0個である。
【0032】
(試験方法1)
実施例1のFD改善剤及び比較例1のプラセボ(以下、これらを試験試料と称する場合がある。)を使用し、無作為プラセボ対照二重盲検法による介入試験を実施した。
具体的には、30歳以上で器質的疾患のないピロリ菌感染者131名を、無作為に、実施例1のFD改善剤を摂取する被験者の群(以下、FD改善剤群と称する場合がある。)と、比較例1のプラセボを摂取する被験者の群(以下、プラセボ群と称する場合がある。)に分けた。なお、試験期間中において、被験者の全員及び試験の実施者に、各被験者の属する群を知られないように管理された。
そして、FD改善剤群の被験者にはFD改善剤を、プラセボ群の被験者にはプラセボをそれぞれ1日90gずつ12週間連続で摂取させた。
【0033】
また、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて、機能性消化管障害(自覚症状:胃もたれ感,腹部膨満感)を評価した。このVAS評価は、それぞれ最大の胃もたれ感、腹部膨満感と感じられる場合を100、胃もたれ感、腹部膨満感がないと感じられる場合を0として、被験者のVASスコアを集計して行った。VAS評価は、試験試料の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後に行った。
【0034】
また、各被験者の便中ピロリ菌抗原(OD値)を常法により確認した。便中ピロリ菌抗原の確認は、試験試料の摂取前、及び摂取12週間後に行った。
【0035】
(胃もたれ感の変化)
これらのVAS評価結果及び便中ピロリ菌抗原の検査結果にもとづいて、スピアマンの順位相関係数を計算し、Δ便中ピロリ菌抗原(OD値)(胃の中のピロリ菌数の変化)とΔVASスコア(胃もたれ感の変化)との相関性を検証した。その結果を
図1に示す。
相関係数γの絶対値が1に近いほど、強い相関関係があると判定されるが、同図のグラフにおいて、相関係数γは−0.100を示しており、Δ便中ピロリ菌抗原(OD値)とΔVASスコアに、相関関係はないとの結果が得られた。
すなわち、同図のグラフから、胃もたれ感の増減は、便中ピロリ菌抗原(OD値)の増減に関わりなく生じていることがわかる。
【0036】
次に、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少した集団における、FD改善剤群と、プラセボ群のそれぞれについて、試験試料の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後の胃もたれ感のVASスコアを集計した。その結果を
図2に示す。
また、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少しなかった集団における、FD改善剤群と、プラセボ群のそれぞれについて、試験試料の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後の胃もたれ感のVASスコアを集計した。その結果を
図3に示す。
【0037】
図2に示されるように、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少した集団、すなわち、胃の中のピロリ菌が除菌されて、その菌数が減少した集団において、FD改善剤群では、胃もたれ感が低減していることがわかる。
これに対して、プラセボ群では、摂取前から比較して、胃もたれ感の低減はほとんど見られなかった。
また、
図3に示されるように、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少しなかった集団、すなわち、胃の中のピロリ菌が減少しなかった集団において、FD改善剤群では、胃もたれ感が低減していることがわかる。
これに対して、プラセボ群では、胃もたれ感のばらつきが大きく明確な低減は見られなかった。
【0038】
これらの結果から、実施例1のFD改善剤群では、ピロリ菌が減少した被験者のみならず、ピロリ菌が減少しなかった被験者も、胃もたれ感が低減したことがわかる。
すなわち、本発明の実施形態に係る機能性消化管障害予防及び/又は改善剤による胃もたれ感の改善効果は、ピロリ菌の除菌に依存していないことがわかった。
したがって、この効果は、ピロリ菌陰性者に対しても同様に奏するものであることが期待できる。
【0039】
また、
図2及び
図3に示されるように、実施例1のFD改善剤によれば、摂取後4週間で、胃もたれ感が大きく低減している。すなわち、実施例1のFD改善剤は、摂取後4週間で機能性消化管障害改善効果を奏することが明らかとなった。経口摂取剤等により機能性消化管障害改善効果が得られるまでには、12週間程度を要することから、本発明の実施形態に係る機能性消化管障害予防及び/又は改善剤は、優れた速効性を有していることがわかった。
【0040】
(腹部膨満感の変化)
胃もたれ感の変化に関する評価と同様にして、スピアマンの順位相関係数を計算し、Δ便中ピロリ菌抗原(OD値)(胃の中のピロリ菌数の変化)とΔVASスコア(腹部膨満感の変化)との相関性を検証した。その結果を
図4に示す。
同図のグラフにおいて、相関係数γは0.069を示している。したがって、Δ便中ピロリ菌抗原(OD値)とΔVASスコアに、相関関係はないとの結果が得られた。
すなわち、同図のグラフから、腹部膨満感の増減は、便中ピロリ菌抗原(OD値)の増減に関わりなく生じていることがわかる。
【0041】
次に、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少した集団における、FD改善剤群と、プラセボ群のそれぞれについて、試験試料の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後の腹部膨満感のVASスコアを集計した。その結果を
図5に示す。
また、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少しなかった集団における、FD改善剤群と、プラセボ群のそれぞれについて、試験試料の摂取前、摂取4週間後、摂取8週間後、及び摂取12週間後の腹部膨満感のVASスコアを集計した。その結果を
図6に示す。
【0042】
図5に示されるように、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少した集団、すなわち、胃の中のピロリ菌が除菌されて、その菌数が減少した集団において、FD改善剤群では、腹部膨満感が摂取8週間後までにおいて低減していることがわかる。
これに対して、プラセボ群では、摂取前から比較して、腹部膨満感のばらつきが大きく明確な低減は見られなかった。
また、
図6に示されるように、便中ピロリ菌抗原(OD値)が減少しなかった集団、すなわち、胃の中のピロリ菌が減少しなかった集団において、FD改善剤群では、腹部膨満感が低減していることがわかる。
これに対して、プラセボ群では、摂取前から比較して、腹部膨満感のばらつきが大きく明確な低減は見られなかった。
【0043】
これらの結果から、実施例1のFD改善剤では、ピロリ菌が減少した被験者のみならず、ピロリ菌が減少しなかった被験者も、腹部膨満感が低減したことがわかる。
すなわち、本発明の実施形態に係る機能性消化管障害予防及び/又は改善剤による腹部膨満感の改善効果についても、ピロリ菌の除菌に依存していないことが明らかとなった。
【0044】
(試験方法2)
実施例1のFD改善剤を使用し、胃食道逆流症(GERD)用のFスケール問診票(Frequency Scale for the Symptoms of GERD、以下、FSSGと称する場合がある)による試験を実施した。
具体的には、胃酸分泌抑制剤を服用している患者24名(ピロリ菌陰性者23名、ピロリ菌陽性者1名)を、実施例1のFD改善剤を摂取する被験者の群とした。
そして、この群の被験者にFD改善剤を、1日118gずつ12週間連続で摂取させた。
【0045】
また、胃食道逆流症(GERD)用のFスケール問診票を用いて、機能性消化管障害(自覚症状:酸逆流関連症状(Reflux),運動不全(もたれ)症状(Dysmotility))を評価した。このFSSG評価は、それぞれ最大の症状と感じられる場合を4、症状を感じられない場合を0として、所定項目毎に被験者のスコアを集計して行った。
FSSGの酸逆流関連症状の評価は、質問1(胸やけがしますか?)、質問2(思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか?)、質問3(食後の胸やけがおこりますか?)、質問4(喉の違和感(ヒリヒリなど)がありますか?)、質問5(ものを飲み込むと、つかえることがありますか?)、質問6(苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか?)、質問7(前かがみすると胸やけがしますか?)の合計を集計して行った。
また、FSSGの運動不全症状の評価は、質問8(おなかがはることがありますか?)、質問9(食事をした後に胃が重苦しい(もたれる)ことがありますか?)、質問10(食べたあと気持ちが悪くなることがありますか?)、質問11(食事の途中で満腹になってしまいますか?)、質問12(ゲップがよくでますか?)の合計を集計して行った。
さらに、FSSGの総合評価では、上記の質問1〜12の合計を集計した。
これらのFSSG評価は、試験試料の摂取前、及び摂取12週間後に行った。また、FSSG評価は、被験者毎のスコアの平均値と標準偏差で表し、有意差(P値)で判断した。
【0046】
(FSSGの酸逆流関連症状の評価)
被験者毎に質問1〜質問7の合計を集計し、その平均値と標準偏差を算出した。試験試料の摂取前は合計のスコアの平均値が6.2であり、標準偏差が6.2であった。一方、試験試料の摂取12週間後は合計のスコアの平均値が4.8であり、標準偏差が4.7であった。試験試料の摂取前と、試験試料の摂取12週間後の合計スコアの有意差検定をしたところ、P値が0.008であり、試験試料の摂取によりスコアが有意に低下したことがわかった。
【0047】
(FSSGの運動不全症状の評価)
被験者毎に質問8〜質問12の合計を集計し、その平均値と標準偏差を算出した。試験試料の摂取前は合計のスコアの平均値が4.6であり、標準偏差が3.8であった。一方、試験試料の摂取12週間後は合計のスコアの平均値が3.6であり、標準偏差が2.5であった。試験試料の摂取前と、試験試料の摂取12週間後の合計スコアの有意差検定をしたところ、P値が0.021であり、試験試料の摂取によりスコアが有意に低下したことがわかった。
【0048】
(FSSGの総合評価)
被験者毎に質問1〜質問12の合計を集計し、その平均値と標準偏差を算出した。試験試料の摂取前は合計のスコアの平均値が10.8であり、標準偏差が0.5であった。一方、試験試料の摂取12週間後は合計のスコアの平均値が8.4であり、標準偏差が6.6であった。試験試料の摂取前と、試験試料の摂取12週間後の合計スコアの有意差検定をしたところ、P値が0.005であり、試験試料の摂取によりスコアが有意に低下したことがわかった。
【0049】
これらの結果から、実施例1のFD改善剤によれば、被験者24名のうちピロリ菌陰性者が23名存在する群においても、胃酸分泌抑制剤で胃酸の分泌を止めている状態での、すなわち、胃酸分泌によらないで発生する、胃食道逆流症(GERD)の自覚症状(酸逆流関連症状、及び運動不全症状)を低減できたことがわかる。
すなわち、本発明の実施形態に係る機能性消化管障害予防及び/又は改善剤による、特に胃より上部の、例えば、食道などの上腹部における機能性消化管障害の改善効果は、ピロリ菌の除菌、及び胃酸の分泌抑制に依存していないことがわかった。