【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/太陽電池セル、モジュールの共通基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
DENG, Weiwei et al.,20.8% Efficient PERC Solar Cell on 156 mm×156 mm p-Type Multi-Crystalline Silicon Substrate,2015 IEEE 42nd Photovoltaic Specialist Conference (PVSC),IEEE,2015年12月17日,pp.1-6,DOI:10.1109/PVSC.2015.7356221,URL,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=7356221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価方法であって、
少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御ステップと、
前記光制御ステップによりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価ステップと、
を含むことを特徴とする太陽電池の評価方法。
水平面を2軸方向に指定された距離だけ移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に、波長及びスポットサイズをそれぞれ所望の値に制御した励起光を照射する光照射ステップと、
前記励起光が、前記受光面に形成された表面電極で反射して得られた反射光、及び前記受光面照射前の前記励起光の各光電変換信号と、前記表面電極の出力信号とに基づいて、励起光強度、全反射光強度及び光電流を測定し、その測定結果から前記太陽電池の内部量子効率及び反射率を算出する算出ステップと、
前記太陽電池の受光面における複数の測定点のそれぞれの測定結果から得られた前記算出ステップによる前記内部量子効率及び前記反射率と、前記励起光の波長とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る評価ステップとを含み、
前記光照射ステップは、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御した前記励起光を前記受光面に照射し、
前記評価ステップは、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行うことを特徴とする太陽電池の評価方法。
前記光照射ステップは、前記励起光の波長を、基準試料の内部量子効率よりも低い内部量子効率が得られる第1の波長又は前記太陽電池の基板が略透明に見える第2の波長に制御し、
前記評価ステップは、前記励起光が前記第1の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出ステップにより算出された第1の内部量子効率及び第1の反射率と、前記励起光が前記第2の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出ステップにより算出された第2の反射率とを用いて、前記太陽電池の裏面構造の評価を行うことを特徴とする請求項2記載の太陽電池の評価方法。
波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価装置であって、
少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御手段と、
前記光制御手段によりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価手段と、
を備えることを特徴とする太陽電池の評価装置。
前記光照射手段は、前記励起光の波長を、基準試料の内部量子効率よりも低い内部量子効率が得られる第1の波長又は前記太陽電池の基板が略透明に見える第2の波長に制御し、
前記評価手段は、前記励起光が前記第1の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出手段により算出された第1の内部量子効率及び第1の反射率と、前記励起光が前記第2の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出手段により算出された第2の反射率とを用いて、前記太陽電池の裏面構造の評価を行うことを特徴とする請求項5記載の太陽電池の評価装置。
波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価をコンピュータに実行させる太陽電池の評価用プログラムであって、
前記コンピュータに、
少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御機能と、
前記光制御機能によりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価機能と、
を実現させることを特徴とする太陽電池の評価用プログラム。
波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価をコンピュータに実行させる太陽電池の評価用プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記試料台に載置された太陽電池の受光面に、波長及びスポットサイズをそれぞれ所望の値に制御した励起光を照射する光照射機能と、
前記励起光が、前記受光面に形成された表面電極で反射して得られた反射光、及び前記受光面照射前の前記励起光の各光電変換信号と、前記表面電極の出力信号とに基づいて測定された、励起光強度、全反射光強度及び光電流の測定結果から前記太陽電池の内部量子効率及び反射率を算出する算出機能と、
前記太陽電池の受光面における複数の測定点のそれぞれの測定結果から得られた前記算出機能による前記内部量子効率及び前記反射率と、前記励起光の波長とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る評価機能とを実現させ、
前記光照射機能は、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御した前記励起光を前記受光面に照射し、
前記評価機能は、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行うことを特徴とする太陽電池の評価用プログラム。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には表面での光励起キャリアの再結合を抑制するためにパッシベーション膜と呼ばれる、絶縁体や半導体の薄膜が太陽光照射面側(以下、表面側とも称する)に成膜される。シリコン系の太陽電池においては、窒化シリコン、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどがパッシベーション膜に使われる。このような絶縁体によるパッシベーション膜を表面側に有する太陽電池には、表面側と反対側の裏面に合金層をBSF(Back Surface Field)層として有する構造のものが多い。この合金層は電界効果パッシベーション膜として振舞う。
【0003】
しかし、上記の合金層は再結合速度が絶縁体によるパッシベーション膜よりも速くなり易く、また、合金層での光の吸収が効率低下の原因となる。そこで、近年では合金層に代わり光損失も再結合も少なくし、高電圧・高電流ひいては高効率を実現するための新しいパッシベーション膜を裏面側にも作る方式の太陽電池が主流になりつつある。例としては、裏面側に絶縁膜を有する構造(PERC:Passivated Emitter and Rear Contact Cell)、拡散層を有する構造(PERT:Passivated Emitter,Rear Totally-diffused)、ヘテロ接合層を有する構造(HIT:Heterojunction with Intrinsic Thin-layer)などがある。
【0004】
このような裏面側にパッシベーション膜を有する太陽電池は、以前の構造より複雑であるため、裏面プロセスの最適化が重要であり、開発段階等で裏面パッシベーション膜の評価が行えれば最適化が大きく加速される。また、裏面側パッシベーション膜の評価は、太陽電池の裏面が熱サイクル、電圧、光照射、湿気、経時変化を含む何らかの原因で劣化した際の故障原因の特定を容易にする。
【0005】
太陽電池の裏面側パッシベーション膜の特性は、主に長波長領域での分光感度の変化として現れる。シリコン系太陽電池において量子効率が測定できる場合は、励起波長900nm〜950nmの領域の量子効率が変化する様子で裏面側パッシベーション膜でのキャリア再結合速度を定性的に評価できる。この場合、量子効率の変化は1%程度であるから、測定位置での反射を同時に測定するタイプの、例えば特許文献1に記載の内部量子効率測定装置による高精度測定が必要である。太陽電池が両面受光可能な構造である場合は、裏面受光で量子効率測定を行い、300〜500nmの短波長領域での量子効率からパッシベーション膜でのキャリア再結合速度を定性的に評価できる。
【0006】
ここで、量子効率とは、或る波長の単色光が太陽電池に入射された際に、その光子が外部電流として取り出される確率を表す。太陽電池内部の品質を評価するにあたっては、太陽電池の反射率をRとしたとき、(1−R)で表される量で量子効率を除算して得られる内部量子効率がよく使われる(例えば、非特許文献1参照)。ある光子が太陽電池のnp接合にあたる位置で吸収されるとほぼ100%の確率で外部電流として取り出せるが、np接合から離れた位置で光子が吸収された場合、当該光子に起因する少数キャリアがnp接合まで拡散してはじめて外部電流として取り出せる。この場合、表面や半導体内部での被輻射再結合によりある確率で少数キャリアがnp接合まで到達しない。これを主因として、励起波長が短いと光子の大部分がnp接合より表面側で吸収されるため表面側での再結合の影響を主に受け、量子効率が1より小さくなる。
【0007】
図9は、太陽電池表面の再結合速度が量子効率に及ぼす影響を示す、太陽電池の入射光波長対内部量子効率特性を示す。同図に示す特性は表面側が平坦であり、裏面側が完全導体による電極が取り付けられた結晶シリコン太陽電池で、厚みは300μm、接合深さは1μm、少数キャリアの表面再結合速度は表面側で4cm/s、裏面側で27cm/s、拡散長は表面側で1.5μm、裏面側で200μmとし、計算方法は連続の式及びドルーデモデルにより得た特性である。
図9中、実線Iは表面再結合速度を表面側及び裏面側共に100cm/sとしたときの特性、破線IIは裏面側再結合速度を2000cm/sまで増やした場合の特性、点線IIIは表面側再結合速度を2000cm/sまで増やした場合の特性を示す。
図9に示すように、いずれも長波長と短波長の内部量子効率が下がっている様子が分かる。従来の太陽電池の評価方法では、このような内部量子効率の変化から太陽電池の性能低下の原因を探索している。
【0008】
次に、従来の太陽電池の他の評価方法について説明する。裏面での低い量子効率の理由が分かっている場合に限れば、その原因に特徴的な構造を観察しながら製造プロセスの最適化を行えばよい。例えば、両面に絶縁膜のあるPERC構造の太陽電池では、裏面側のアルミ電極に空洞ができ易く、これによって太陽電池としての特性が著しく悪化する。そこで、従来は超音波探傷機を使う方法や、単に太陽電池を切断して電子顕微鏡によって観察する方法で上記空洞などを発見している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、裏面側パッシベーション膜を有する太陽電池において、発電特性が設計よりも悪い場合、内部量子効率の変化から太陽電池の性能低下の原因を探索する従来の太陽電池の評価方法(第1の従来方法)では、励起光のスポットサイズ及び励起波長で決まる空間分解能を変化させた内部量子効率の測定ができないため、裏面側のどこが悪いのかを特定できない。一方、太陽電池を破壊して超音波探傷機や電子顕微鏡で発電特性の低下の原因を特定する後者の従来の太陽電池の評価方法(第2の従来方法)では、想定した原因と異なる異常が太陽電池にある場合異常が発見されず、その太陽電池の評価方法のみで原因の究明を行おうとすると、総当たり的に各種の測定を行わなければならない。
【0012】
そのため、現状では上記の2つの従来の太陽電池の評価方法を組み合わせた評価プロセスが採用される。例えば、表面側及び裏面側の両方にパッシベーション膜のあるp型シリコン基板を使ったPERC構造の太陽電池の場合は、第1の従来方法で複数の太陽電池を評価して比較し、裏面側に問題があるかどうかを特定する。続いて、裏面側に問題がある太陽電池のうち、裏面側の例えばアルミナによるパッシベーション膜に問題があるのか、裏面側のアルミ電極が接している部分に問題があるのかを第2の従来方法で太陽電池を破壊して特定する。すなわち、従来は太陽電池を破壊しなければ、太陽電池の裏面側の問題個所の特定が極めて困難であり、改善の目途が立たないという問題がある。
【0013】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、太陽電池の裏面側の特性を非破壊で評価することで、製造プロセスの最適化を実現し得る太陽電池の評価方法及び評価装置並びに太陽電池の評価用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、第1の発明の太陽電池の評価方法は、波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価方法であって、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御ステップと、前記光制御ステップによりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、上記の目的を達成するため、第2の発明の太陽電池の評価方法は、水平面を2軸方向に指定された距離だけ移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に、波長及びスポットサイズをそれぞれ所望の値に制御した励起光を照射する光照射ステップと、前記励起光が、前記受光面に形成された表面電極で反射して得られた反射光、及び前記受光面照射前の前記励起光の各光電変換信号と、前記表面電極の出力信号とに基づいて、励起光強度、全反射光強度及び光電流を測定し、その測定結果から前記太陽電池の内部量子効率及び反射率を算出する算出ステップと、前記太陽電池の受光面における複数の測定点のそれぞれの測定結果から得られた前記算出ステップによる前記内部量子効率及び前記反射率と、前記励起光の波長とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る評価ステップとを含み、前記光照射ステップは、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御した前記励起光を前記受光面に照射し、前記評価ステップは、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行うことを特徴とする。
【0016】
また、上記の目的を達成するため、第3の発明の太陽電池の評価方法は、第2の発明の光照射ステップが、前記励起光の波長を、基準試料の内部量子効率よりも低い内部量子効率が得られる第1の波長又は前記太陽電池の基板が略透明に見える第2の波長に制御し、第5の発明の評価ステップが、前記励起光が前記第1の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出ステップにより算出された第1の内部量子効率及び第1の反射率と、前記励起光が前記第2の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出ステップにより算出された第2の反射率とを用いて、前記太陽電池の裏面構造の評価を行うことを特徴とする。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、第4の発明の太陽電池の評価装置は、波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価装置であって、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御手段と、前記光制御手段によりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、上記の目的を達成するため、第5の発明の太陽電池の評価装置は、太陽電池が載置され、その太陽電池の表面に平行な水平面を2軸方向に指定された距離だけ移動可能な試料台と、前記試料台を移動する移動機構と、波長及び前記太陽電池の受光面におけるスポットサイズがそれぞれ所望の値に制御された励起光を発生して、前記太陽電池の受光面に照射する光照射手段と、照射された前記励起光が、受光面に形成された表面電極で反射された反射光、及び前記受光面照射前の前記励起光の各光電変換信号と、前記表面電極の出力信号とに基づいて、励起光強度、全反射光強度及び光電流を測定し、その測定結果から前記太陽電池の内部量子効率及び反射率を算出する算出手段と、前記移動機構を駆動制御して、前記励起光のスポットが前記太陽電池の受光面における複数の測定点を順次位置するように前記試料台を移動させる駆動制御手段と、前記複数の測定点のそれぞれの測定結果から得られた前記算出手段による前記内部量子効率及び前記反射率と、前記励起光の波長とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る評価手段とを備え、
前記光照射手段は、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御し、前記評価手段は、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行うことを特徴とする。
【0019】
また、上記の目的を達成するため、第6の発明の太陽電池の評価装置は、第5の発明の光照射手段が、前記励起光の波長を、基準試料の内部量子効率よりも低い内部量子効率が得られる第1の波長又は前記太陽電池の基板が略透明に見える第2の波長に制御し、第2の発明の評価手段が、前記励起光が前記第1の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出手段により算出された第1の内部量子効率及び第1の反射率と、前記励起光が前記第2の波長の時に前記複数の測定点のそれぞれの測定結果に基づき前記算出手段により算出された第2の反射率とを用いて、前記太陽電池の裏面構造の評価を行うことを特徴とする。
【0020】
また、上記の目的を達成するため、第7の発明の太陽電池の評価用プログラムは、波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価をコンピュータに実行させる太陽電池の評価用プログラムであって、前記コンピュータに、
少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記太陽電池の表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御する光制御機能と、前記光制御機能によりスポットサイズが制御された前記励起光を、前記試料台に載置された前記太陽電池の受光面の複数の測定点のそれぞれに順次照射して得た、前記太陽電池の内部量子効率の空間分布に基づいて、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行う評価機能と、を実現させることを特徴とする。
【0021】
更に、上記の目的を達成するため、第8の発明の太陽電池の評価用プログラムは、波長及びスポットサイズをそれぞれ任意に可変可能な励起光を、移動可能な試料台に載置された太陽電池の受光面に照射し、前記太陽電池からの反射光及び前記励起光の各光電変換信号と前記太陽電池の出力信号とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る太陽電池の評価をコンピュータに実行させる太陽電池の評価用プログラムであって、前記コンピュータに、
前記試料台に載置された太陽電池の受光面に、波長及びスポットサイズをそれぞれ所望の値に制御した励起光を照射する光照射機能と、前記励起光が、前記受光面に形成された表面電極で反射して得られた反射光、及び前記受光面照射前の前記励起光の各光電変換信号と、前記表面電極の出力信号とに基づいて測定された、励起光強度、全反射光強度及び光電流の測定結果から前記太陽電池の内部量子効率及び反射率を算出する算出機能と、前記太陽電池の受光面における複数の測定点のそれぞれの測定結果から得られた前記算出機能による前記内部量子効率及び前記反射率と、前記励起光の波長とに基づいて、前記太陽電池の評価結果を得る評価機能とを実現させ、
前記光照射機能は、少なくとも前記励起光のスポットサイズを、前記表面電極の電極幅の2倍以上で、かつ、前記太陽電池の基板厚さに極力近い値に制御した前記励起光を前記受光面に照射し、前記評価機能は、前記太陽電池の前記受光面と反対側の裏面構造の評価を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光励起キャリアライフタイム測定などが困難な、電極形成済みの太陽電池が故障した場合や設計した性能が得られない場合における太陽電池の裏面側の原因を非破壊で特定する評価を行うことができる。これにより、本発明によれば、製造プロセスの最適化を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る太陽電池の評価装置の一実施形態の構成図を示す。本実施形態の太陽電池の評価装置100は、励起スポットサイズが可変な内部量子効率測定系と、評価対象の試料である太陽電池の測定位置を高精度に移動制御可能な可変試料台とを組み合わせた構成である。
【0025】
図1において、白色光源101は白色光を出射し、その白色光をレンズ102により平行光とし、AC測定のために光チョッパ103でチョッピングさせて分光器104に入射する。分光器104は、光路を変える反射鏡や回転可能なグレーティング1041等より構成されており、入射する白色光をグレーティング1041の回転により決まる一波長λの単色光に分光する。グレーティング1041の回転角度は、後述するパーソナルコンピュータ(以下、PCと記す)124からの制御信号により制御される。これにより、分光器104は、白色光からPC124により任意の波長に分光した単色光を励起光として出射し、暗箱105に入射する。
【0026】
暗箱105内には、絞り106、ビームスプリッタ107、放物面鏡108及び110、積分球109、励起光センサ111、反射光センサ112、電流電圧変換器113、114及び115からなる光学及び電気系と、ラボジャッキ116、試料台117、ステッピングモータ118及び119からなる機構系とが収納されている。ラボジャッキ116上に固定された試料台117は、ステッピングモータ118により水平面のx軸方向(太陽電池201の電極形成面と平行な平面における電極の長手方向と平行な方向)に、またステッピングモータ119により水平面のy軸方向にそれぞれ移動して高精度に位置決めされる可変試料台を構成している。ステッピングモータ118及び119は後述するPC124によりその動作が制御される。試料台117上には、評価対象の試料である太陽電池201が載置・固定される。太陽電池201の表面側の電極202は、励起光を反射して積分球109内に入射する。
【0027】
絞り106は、分光器104からの単色励起光のスポットサイズを、例えば50μmから3mmまでの範囲内で可変可能な可変絞りであり、所望のスポットサイズとした単色励起光をビームスプリッタ107に入射する。なお、本実施形態では、絞り106は、太陽電池201に照射される励起光のスポット径が太陽電池201の電極202の電極幅の2倍以上で、かつ、基板厚みに極力近い値となるように制御する。太陽電池201の表面では放物面鏡108により絞り106からの光が等倍で結像されるようになっているため、太陽電池201の表面のスポットサイズは絞り106と同じになる。
【0028】
ビームスプリッタ107は、絞り106によりスポット径が調整された励起光の光路を2分し、一方は放物面鏡108で反射させて太陽電池201の表面側の電極202に入射し、他方は放物面鏡110で反射させて励起光センサ111に入射して光電変換させる。積分球109は、電極202で反射された励起光を開口部より内部に導入して内壁で多重反射させた後集光し、集光された反射光を別の開口部を通して反射光センサ112に入射して光電変換させる。
【0029】
励起光センサ111は、入射励起光の受光光量に応じたレベルの電流を出力して電流電圧変換器113に供給して電圧に変換させた後、ロックインアンプ121に供給する。一方、反射光センサ112は、電極202及び積分球109でそれぞれ反射して得られた反射光の受光光量に応じたレベルの電流を出力して電流電圧変換器114に供給して電圧に変換させた後、ロックインアンプ122に供給する。また、電流電圧変換器115は、電極202から取り出された太陽電池201の出力電流を電圧に変換してロックインアンプ123に供給する。
【0030】
ロックインアンプ121、122及び123は、電流電圧変換器113、114及び115から出力される交流電圧が供給され、その交流電圧中の所定の周波数参照信号と同一周波数成分のレベルに応じた直流電圧を発生してそれぞれPC124に供給する。事前の校正と併せておくことで、ロックインアンプ121は励起光強度Pを示す直流電圧を出力し、ロックインアンプ122は電極202の全反射光強度P
rを示す直流電圧を出力し、ロックインアンプ123は太陽電池201が出力する光電流Iに応じた直流電圧を出力する。PC124は、ロックインアンプ121、122及び123から供給される直流電圧に基づいて、反射率R、及び内部量子効率η
IQEをそれぞれ次式に基づいて算出する。
R=P
r/P (1)
η
IQE=Ihc/[ePλ(1−R)] (2)
ただし、(2)式中、hはプランク定数、cは光速、eは素電荷、λは励起光の波長である。
【0031】
PC124は、算出した反射率R及び内部量子効率η
IQEの測定データを外部出力装置であるディスプレイ125及び印刷機126にそれぞれ出力して、ディスプレイ125により画像表示させ、印刷機126により紙に印刷させることで可視化する。可視化された測定画像及び測定データに基づいて、後述する太陽電池201の評価が行われる。また、PC124は、ステッピングモータ118及び119に駆動信号を供給し、試料台117を前述した水平面上のx軸方向及びy軸方向に移動させて太陽電池201の励起光照射位置を指定する制御も行う。
【0032】
本実施形態の太陽電池の評価装置100は、ラボジャッキ116、試料台117、ステッピングモータ118及び119からなる可動試料台機構と、それ以外の光学系及び電気系からなる励起スポットサイズが可変な内部量子効率測定系とを連携させることで、光電流Iを測定した条件での全反射光強度P
rの測定、試料台117の移動と連動した測定、及び励起光スポットサイズの選択を行うことに特徴がある。
【0033】
本実施形態の被評価太陽電池の一例であるシリコン太陽電池においては、表面側の電極は多くの場合、銀(Ag)製の電極が採用される。本実施形態の太陽電池の評価装置100において、このAg電極の幅の2倍のスポットサイズを採用し、励起光がスポットサイズと同じ円状の領域内のみを一様に照らすと仮定した場合、電極はスポットの最大61%を覆う。このとき、例えば波長950nmでの内部量子効率が0.75で空間的に一様であり、電極が無い領域の反射を無視し、電極の反射率に銀電極の反射率97.5%を採用して、反射がすべて積分球109に捕捉されるとした場合、測定される内部量子効率は0.721となり、0.029下がる。この下がり幅は、後述する
図6に示す太陽電池の裏面構造に起因する、波長950nmの励起光に対する内部量子効率の0.02程度の変化とほぼ同じであり、裏面構造による影響を隠すに至らない。より大きなスポットサイズでは、励起光スポットに示す電極の面積の割合の上限が下がるため、表面電極の影響をより小さくすることができ、太陽電池の裏面構造の影響を特別な画像処理を行わずに可視化することができる。
【0034】
また、太陽電池の評価装置100の空間分解能は、励起光スポットサイズ、主たる励起領域における少数キャリア拡散長、及び主たる励起領域に達するまでにスポットが受光面のテクスチャなどで散乱される大きさの、計三つの二乗平均平方根で決定されると考えられる。少数キャリア拡散長は、np接合面の深さやキャリアのドープ濃度、基板の種類によって全く違う値となり、太陽電池を評価するにあたって、その基板の少数キャリア拡散長はほとんどの場合不明であり、本実施形態における励起光スポットサイズの選択においては0とみなす。テクスチャはランハート則でよく近似される散乱を生じさせるため、スポットが拡散される大きさは太陽電池の厚みと同程度である。
【0035】
図2は、本発明で評価される太陽電池の一例の断面図を示す。同図中、
図1と同一構成部分には同一符号を付してある。
図2において、太陽電池201は裏面パッシベーション(PERC)型シリコン結晶太陽電池で、p型にドープされた結晶シリコンウェハであるp型シリコン基板203の表面側を受光面とし、表面側がテクスチャ構造とされ、そこにはn
+拡散層204の表面に窒化シリコン(SiN)膜205が被覆形成されている。絶縁膜であるSiN膜205は、パッシベーション膜及び反射防止膜として機能する。また、n
+拡散層204及びSiN膜205のテクスチャ構造には、複数の電極202が焼成貫通により互いに平行に形成されている。電極202は、平面が長方形状の銀(Ag)製の電極で、その長手方向(
図2の紙面と直交する方向)と直交する電極幅が一例として0.1mmで、隣接する2つの電極の幅方向の間隔(電極間距離)は1.8mmである。
【0036】
p型シリコン基板203の裏面側には絶縁膜として例えば酸化アルミ膜206がパッシベーション膜として形成されている。酸化アルミ膜206は、例えば1mm間隔で0.1mm幅の溝が掘られ、その上からアルミニウム(Al)ペーストを塗布後熱処理することで、この溝部分でAlとSiとが合金化されたBSF型の電極207が形成されている。一方、溝以外の酸化アルミ膜206上にはAl製の電極208が形成される。したがって、BSF型の電極207とAl電極208とは1mm間隔で接合されている。また、表面側の電極202及び裏面側のBSF型の電極207は、いずれも電極幅が0.1mmと同じであるが、隣接する2つの電極の幅方向の間隔(電極間距離)は、電極202が1.8mm、電極207が1.0mmと異なる。この太陽電池201の大きさは、幅156mm×奥行156mm×厚み0.2mmである。
【0037】
次に、
図1の太陽電池の評価装置100による
図2の断面構造のPERC型太陽電池201を評価対象とする評価方法について、
図3及び
図4のフローチャート並びに
図5の波長対内部量子効率特性を併せ参照して詳細に説明する。本実施形態は、
図3のステップS11以降の処理に特徴があるが、それ以前のステップS1〜S10で量子効率スペクトル測定による性能低下要因の切り分けを行う。そのため、まず、評価装置100は、試料台117の上に太陽電池201を載置した状態で太陽電池201の量子効率スペクトル測定を行う(
図3のステップS1)。また、ステップS1では事前に基準試料についても同様にして量子効率スペクトルの測定を行う。
【0038】
ここで、
図1の例えばハロゲンランプ及びキセノンランプの2灯式光源である白色光源101から出射した白色光は、レンズ102により平行光とされ、チョッビング周波数81Hzの光学チョッパ103を経て分光器104に入射し、ここでPC124からの制御により所望の波長λの単色励起光とされ、続いて絞り106により所望のスポットサイズに整形される。絞り106を出射した単色励起光は、ビームスプリッタ107により光路が2分され、一方は放射面鏡110で反射されて励起光センサ111に入射し、他方は放射面鏡108で反射されて太陽電池201の表面側の電極202に入射する。電極202に入射した単色波長光は電極202で反射されて積分球109の開口部から積分球109の内部に導入されて、積分球109の内壁面で再び反射された後集光されて、積分球109の別の開口部から導出されて反射光センサ112に入射する。
【0039】
ロックインアンプ121は、励起光センサ111及び電流電圧変換器113により得られた単色励起光の光電変換信号に基づき、励起光強度Pを示す直流電圧を出力する。また、ロックインアンプ122は、反射光センサ112及び電流電圧変換器114により得られた電極202の全反射光強度P
rを示す直流電圧を出力する。また、ロックインアンプ123は、電流電圧変換器115を介して得られた電極202からの出力信号に応じて太陽電池201が出力する光電流Iに応じた直流電圧を出力する。PC124は、ロックインアンプ121、122及び123から供給される直流電圧に基づいて量子効率スペクトルを測定し、また前述した(2)式により内部量子効率を算出する。
【0040】
ステップS1では、太陽電池201の受光面側のある一点にスポットサイズ1mmの励起光を、波長300nmから1250nmまでの範囲で可変しながら照射して、太陽電池201の量子効率スペクトルを測定する。ステップS1では基準試料についても上記と同様にしてその量子効率スペクトルを測定する。ここで、基準試料はPERC型太陽電池201と比較して、裏面構造がパッシベーション膜を有しない構造だけでそれ以外はPERC型と同じである、BSF層の上にAl電極が形成されたBSF型太陽電池である。基準試料として用いられるBSF型太陽電池は、エネルギー変換効率が設計で期待できる値に近い19.3%を示す高品質試料である。
【0041】
図5は、PERC型太陽電池と基準試料の波長対内部量子効率特性を示す。
図5において、実線の特性aはPERC型太陽電池201の波長対内部量子効率特性、破線の特性bは上記基準試料の波長対内部量子効率特性を示す。内部量子効率は測定した量子効率スペクトルから計算により求められる。両特性a、bを比較すると、800nmから1050nmまでの波長範囲で特性aが特性bより劣っているが、他の波長範囲では特性aは特性bと同等かそれより良好な特性を示している。このことから特性aのPERC型太陽電池201は裏面側での少数キャリアの再結合速度が速いことが推定できる。この測定結果に基づく空間的に平均した特性の評価から以下に示すイメージング測定の際の波長選択を行う。
【0042】
次に、評価装置100のPC124は、ステップS1で測定された太陽電池201の量子効率が300nmから1250nmまでの全測定波長範囲において基準試料の量子効率あるいは設定値以上であるか否かを判定する(
図3のステップS2)。量子効率が全測定波長範囲において基準試料あるいは設計値と等しいかそれより高い場合、太陽電池201の開放電圧や短絡電流は基準通りの値になっているはずであり、抵抗が性能低下の要因になっている。よって、この場合は、電極不良あるいはp型シリコン基板203での高抵抗がその要因であると推定できる(
図3のステップS3)。
【0043】
一方、太陽電池201の量子効率が基準試料の量子効率あるいは設定値よりも低い場合は、全測定波長範囲にわたって低いか否かを判定する(
図3のステップS4)。太陽電池201のようなSi系太陽電池では、一般に励起波長が500nm〜750nmで98±2%程度となり、波長依存性が殆どない。これは励起光のシリコン基板への侵入長が太陽電池のnp接合の深さと近しいため、光励起キャリアがほぼすべてnp接合に到達するためである。このときの内部量子効率は電極によるキャリアの回収効率にほぼ等しい。500nm〜750nmの励起光の波長範囲で量子効率が基準試料あるいは設計値よりも低い場合は、np接合の形成不良による再結合や、np接合の短絡によるキャリア回収率の低下が起こっているため、量子効率は全測定波長範囲にわたって低い値となる。結晶品質の不良によりp型シリコン基板203中の再結合が位置にかかわらず極めて速い場合にも似たような全測定波長範囲で低い量子効率スペクトルが観測される。そのため、評価装置100のPC124は、全測定波長範囲のすべてにおいて太陽電池201の量子効率が基準試料あるいは設計値より低い場合はn
+拡散層204とp型シリコン基板203とのnp接合での再結合か、短絡あるいはSi結晶中の低品質と評価し、その対策のための処理を行う(
図3のステップS5)。
【0044】
ステップS5の処理について更に
図4(C)のフローチャートとともに説明する。np接合は太陽電池表面のテクスチャ構造を作った後、イオン拡散やイオン打ち込みによってn
+拡散層204を形成することで得られるが、特にイオン打ち込みにおいてはテクスチャ形状の陰で打ち込み量不足や熱処理不足により接合形成不良となり、量子効率の低下が起きやすくなっている。
【0045】
そこで、波長500nm以上750nm以下、及びスポットサイズ10μm以下、望ましくは1μm以下とした励起光を太陽電池201上に照射するとともに、太陽電池201の表面の横4mm×縦7mmの範囲について、横方向に10μm以下、縦方向に10μm以下のピッチで設定した測定点上に励起光スポットが順次に来るように、PC124はステッピングモータ118及び119を制御して試料台117をx軸方向及びy軸方向に間欠的に移動させながら、ロックインアンプ121〜123からの信号に基づいて、内部量子効率及び反射率を測定する(ステップS51)。以下、この試料台117及び太陽電池201の間欠移動による測定をマッピング測定というものとする。
【0046】
続いて、PC124は、ステップS51の測定結果に基づき、各測定点の前記照射光波長での内部量子効率を計算し(ステップS52)、その計算結果から内部量子効率が低い領域を判定する(ステップS53)。そして、内部量子効率が低い領域がテクスチャ構造と対応している場合は、テクスチャによる陰影の影響を低減するための対策を行う(ステップS54)。例えば、イオン打ち込み時の角度や回転条件を変更し、np接合のxy平面、つまり受光面に沿った空間一様性を高める工夫を行う。一方、内部量子効率が低い領域が一様である場合は、イオンの注入量や熱処理の変更により深さ方向、すなわち受光面と垂直な方向にドープされた物質がどう分布するかを左右するプロセスの条件を改善する、イオン注入量や熱処理の最適化を行う(ステップS55)。
【0047】
図3に戻って説明する。PC124はステップS4で太陽電池201の量子効率が測定した全波長範囲で基準試料のそれより低くない(高い波長もある)と判定したときは、低い波長領域がどの領域であるかを検出する(ステップS6)。これは評価対象の太陽電池の量子効率スペクトルを基準試料のそれや設計値と比較した場合、際立って低い波長領域がある場合はその波長から性能低下要因を推定できるからである。すなわち、励起波長500nm以下の量子効率が低い場合は、光励起キャリアはnp接合面より更に受光面である表面側近くに集中するため、表面側のパッシベーション膜(すなわち、SiN膜205)の不良による表面再結合が速く、np接合面へキャリアが到達していないと評価する(ステップS7)。
【0048】
また、ステップS6で太陽電池201の量子効率が基準試料のそれよりも低い波長領域が800nm付近(700nm〜900nm)であると検出したときは、基板での再結合と評価する(ステップS8)。すなわち、この場合、殆どの光励起キャリアはp型シリコン基板203に吸収され、受光面側への拡散の末に接合面に到達しているので、この領域での量子効率が低い場合はp型シリコン基板203でのキャリア再結合が速いことが性能の決定要因となっている。
【0049】
ステップS8の処理について、更に
図4(A)のフローチャートとともに説明する。まず、波長500nm以上750nm以下の励起光を1mm以上、望ましくは1cm程度の大きなスポットサイズで太陽電池201上に照射し、横方向に1cm以下、縦方向に1cm以下のピッチで設定した測定点の量子効率及び反射率のマッピング測定を行う(ステップS81)。続いて、PC124は、ステップS81の測定結果に基づき、各測定点の前記照射光波長での内部量子効率を計算し(ステップS82)、その計算結果から量子効率が低い領域を判定する(ステップS83)。
【0050】
ここで、単結晶シリコンでは結晶の中心に対して回転対称な構造が、また多結晶シリコンの場合は結晶粒の大きさに対応した斑模様が観測されるような場合、p型シリコン基板203中のキャリア再結合が太陽電池の性能を下げている。そこで、ステップS83において、内部量子効率が低い領域が、太陽電池の中心に対して同心円状の領域等、シリコン結晶特有の構造を示している場合は、シリコン結晶の低品質による再結合であると評価する(ステップS84)。一方、内部量子効率が低い領域が上記のシリコン結晶特有の構造を示していないときは、評価対象の太陽電池の性能を下げている原因はnp接合での再結合や短絡であると評価する(ステップS85)。
【0051】
ところで、電極未形成の太陽電池や半導体ウェハに対してはμPCD法などでキャリア寿命の空間分布図が得られるが、電極が既に形成された太陽電池では同様の評価を行うためには電極領域を光励起しないような工夫が必要であり、非常に難しい。これに対し、本実施形態ではマッピング測定する量として内部量子効率を選び、1cm程度に空間解像度を落とすことで大面積の太陽電池における品質の空間的な不均一を可視化することができる。
【0052】
再び
図3に戻って説明する。PC124はステップS6で太陽電池201の量子効率が基準試料のそれより低い波長領域が1000nm以上1250nm以下であると検出したときは、光閉じ込め不良が試料の太陽電池201に生じていると評価する(ステップS9)。例えば、1050nm以上の波長領域では励起光の侵入長が1mm以上となり、励起光が太陽電池中で何度も反射したうえで吸収されるため、光励起キャリアの深さ方向の非一様性はなくなり、その波長依存性もない。この波長領域では光閉じ込めによる励起光の多重反射が行われる回数が多いほど、量子効率スペクトルの長波長へのテールが伸びる。この波長領域の量子効率が低い場合は、光閉じ込め構造の不良が考えられる。
【0053】
ステップS9の評価について更に
図4(B)に示すフローチャートとともに説明する。まず、波長500nm以上750nm以下、及びスポットサイズ10μm以下、望ましくは1μm以下とした励起光を太陽電池201上に照射するとともに、太陽電池201の表面の横10μm×縦10μm以上の範囲について、横方向に10μm以下、縦方向に10μm以下のピッチで設定した測定点の反射率のマッピング測定を行う(ステップS91)。続いて、PC124は、ステップS91の各測定点の測定結果が示す反射率の構造が、結晶粒界と対応しているか一様であるかを判定し(ステップS92)、反射率の変化が結晶粒界と対応していると判定したときは、太陽電池の性能低下が結晶方位による異方性の影響によるものと評価する(ステップS93)。こうした変化は水酸化カリウム系溶液による化学プロセスで起きやすいため、弗酸・硝酸混合液やプラズマエッチングといった、より面方位の影響を受けにくいプロセスの採用を検討する。一方、反射率が一様であると判定したときは、テクスチャの設計・条件を見直す(ステップS94)。
【0054】
再び
図3に戻って説明する。PC124はステップS6で太陽電池201の量子効率が基準試料のそれより低い波長領域が900nm付近、すなわち750nm以上1100nm以下であると検出したときは、
図5に示したように太陽電池201は裏面側での少数キャリアの再結合が生じていると判定し(ステップS10)、以下本発明特有の処理を行う。励起波長900nm〜1000nmでは光励起キャリアが太陽電池裏面付近でも生成し始めるため、この波長領域の量子効率が低い場合、裏面側のパッシベーション膜不良などによる速い少数キャリア再結合が疑われる。
【0055】
ステップS10に続いて評価対象の太陽電池に裏面側構造があるか否かを判定し(ステップS11)、Al-BSF型などの裏面が一様な太陽電池の場合は裏面プロセスの改良を行う(ステップS12)。一方、PERC型太陽電池のような裏面側構造がある場合は表面電極があるか否かを判定し(ステップS13)、表面電極が無い場合は絞り106により励起光のスポットサイズを基板厚み程度とし(ステップS14)、表面電極が有る場合は絞り106により励起光のスポットサイズを電極幅の2倍以上、かつ、基板厚みに極力近いスポットサイズとする(ステップS15)。ここで、マッピング測定する場合の励起光のスポットサイズは小さいほど空間分解能が良くなるが、裏面構造を評価する場合の空間分解能は基板の表面に平行な方向の少数キャリア拡散及び表面側のテクスチャ構造による基板厚み程度の励起光スポットの滲みの影響により、ある程度以上は良くならない。
【0056】
小さなスポットサイズでは励起パワーを大きくしずらいため、また、必要以上にスポットサイズを小さくするとS/N比の低下が起きるため、本実施形態では太陽電池に裏面構造があるが表面電極が無い場合は、ステップS14にてスポットサイズを基板の厚み程度に選ぶ。一方、
図2に示した太陽電池201のように裏面構造のある太陽電池の表面側に電極202がある場合、スポットサイズが大きいほど表面側の電極202による影響を平均化して抑制することができるため、本実施形態では上記のステップS15において、励起光のスポットサイズを電極202による影響を抑制するために電極幅の2倍以上とし、この条件を満たしたうえで基板厚みに極力近いスポットサイズとする。このようにステップS15により決定されるスポットサイズは、評価対象の太陽電池の表面側から入射する励起光により、その太陽電池の表面側構造の影響を殆ど受けることなく裏面側構造を実用上十分に観測できるサイズである。
【0057】
ここでは、太陽電池201は
図2に示したPERC型であり表面側には電極202が、裏面側には電極207がそれぞれ存在するので、励起光のスポットサイズは、ステップS15により電極幅の2倍以上、かつ、基板厚みに極力近い値とされる。一例として、太陽電池201が基板厚さ0.12mm、選択可能なスポットサイズは0.8mm、0.4mm、0.2mm、0.1mmであり、その中から電極202の電極幅0.1mmの2倍以上、かつ、基板厚みに最も近い0.2mmを使用するスポットサイズとして決定した。
【0058】
続いて、PC124はステップS14又はステップS15により決定されたスポットサイズの励起光の波長λを、分光器104を制御して750nm以上1100nm以下、実施例においては950nmとし、太陽電池201の表面の横1mm×縦1mm以上の範囲について、横方向に0.2mm以下、縦方向に0.2mm以下のピッチで設定した測定点、実施例においては横4mm×縦7mmの範囲について、横方向に0.2mm、縦方向に0.1mmのピッチで設定した20×70点の測定点上で量子効率のマッピング測定及び反射率のマッピング測定を行う(ステップS16)。そして、PC124は量子効率のマッピング測定値に基づいて前記(2)式により内部量子効率を計算し、反射率のマッピング測定値に基づいて前記(1)式により反射率を計算する(ステップS17)。ステップS17で計算された内部量子効率及び反射率の一例を
図6及び
図7に示す。
【0059】
図6は、太陽電池201の励起光波長950nmにおける内部量子効率を濃淡プロットした図を示す。同図において、x軸方向は電極202及び207の長手方向であり、y軸方向は電極202及び207の幅方向である(後述の
図7及び
図8も同様)。同図において黒色領域は内部量子効率の低い電極間の領域を示しており、励起光波長950nmにおける内部量子効率は、x軸方向にほぼ一様で、y軸方向では裏面側の電極207の電極間距離である1mm間隔で内部量子効率の高い領域と低い領域とが交互に現れている。すなわち、
図6は表面側(受光面)からの内部量子効率の図ではあるが、表面側の電極202の特徴を排して裏面側の構造による内部量子効率の変化がディスプレイ125及び印刷機126により可視化されている。このように、
図6は太陽電池201の励起光波長950nmにおける内部量子効率は裏面側の電極207の影響があることを示している。
【0060】
図7は、太陽電池201の励起光波長950nmにおける反射率を濃淡プロットした図を示す。同図において、黒色領域は反射率の低い電極間の領域を示しており、励起光波長950nmにおける反射率は、x軸方向にほぼ一様で、y軸方向では表面側の電極202の電極間距離である1.8mm間隔で反射率の高い領域と低い領域とが交互に現れている。このように、
図7は太陽電池201の励起光波長950nmにおける反射率は表面側の電極202の反射率のみを示している。
【0061】
PC124はステップS17に続いて、分光器104を制御して励起光の波長λを1200nm以上(実施例においては1200nm)に切り替えて前述した20×70点の各測定点の反射率のマッピング測定を行う(ステップS18)。そして、ステップS17で計算した内部量子効率が所定値より低い領域において、ステップS18で測定した反射率が設定値よりも高いか否かを判定する(ステップS19)。
【0062】
図8は、太陽電池201の励起光波長1200nmにおける反射率を濃淡プロットした図を示す。
図8は、表面側の電極202による反射率の上昇が無い領域で、非一様な反射率が観測されている。これは、この波長1200nmでは入射光がp型シリコン基板203に吸収されないため、裏面側の構造が透けて見えたものである。裏面側の合金層である電極207による吸収がある領域が、全反射による高い反射率を示す絶縁膜領域よりも暗く見えることによるものである。すなわち、
図8は、波長1200nmの励起光を用いて測定される反射率により、電極207等の裏面側の構造が観測できることを示している。
【0063】
PC124は、ステップS19で反射率が設定値よりも高いと判定したときは、裏面側のパッシベーション膜として機能する酸化アルミ膜206の導電率が設計値よりも高いと判断し、成膜条件を見直す(ステップS20)。一方、PC124は、ステップS19で反射率が設定値以下と判定したときは、裏面側の合金層である電極207の導電率が設計値より低く、電極207の形成不良であると判断し、合金層の焼成条件を見直す(ステップS21)。なお、ステップS20及びS21の判定時には、1100nm以下の波長(実施例では950nm)の励起光で測定される反射率により見えた表面の電極202の影響は排除する必要がある。
【0064】
このように、本実施形態の太陽電池の評価装置100によれば、高精度で内部量子効率が測定できる測定系に、高精度で評価対象の太陽電池201を水平面の2軸方向に移動できる試料台117を組み合わせ、太陽電池201の受光面側のある一点にスポットサイズ1mmの励起光を照射して測定した量子効率が、或る波長の時に基準試料のそれよりも低い場合は、その理由が裏面側構造の影響によるものと判断し、その波長でスポットサイズを表面側電極202の幅の2倍以上でかつ基板厚みに極力近い値とした励起光を太陽電池に照射することで表面側構造の影響を殆ど受けることなく裏面側構造の測定及び評価ができる。このため、光励起キャリアライフタイム測定などが困難である、既に電極が形成された太陽電池の裏面側構造の非破壊評価ができ、製造プロセスの最適化を促進することができる。
【0065】
また、本実施形態の太陽電池の評価装置100によれば、上記スポットサイズの励起光の波長を950nmとしてシリコン系太陽電池に照射してマッピング測定して得た内部量子効率と、シリコン基板に吸収されない波長1200nmの励起光をシリコン系太陽電池に照射してマッピング測定して得た反射率とに基づいて裏面構造の酸化アルミ膜206及び合金層である電極207が設計通りの効率が得られているかを評価することができる。
【0066】
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、例えば基準試料の量子効率スペクトルは評価対象の太陽電池のうち故障していないものの量子効率スペクトルで代用してもよく、また設計上理論的に得られる量子効率スペクトルで代用してもよい。また、
図6−
図8で内部量子効率や反射率を濃淡プロットとして可視化しているが、等高線を用いて可視化することもできる。
【0067】
また、本発明は、
図3及び
図4に示したフローチャートの動作をPC124により実行させる太陽電池の評価用プログラムも包含するものである。この太陽電池の評価用プログラムは、通信ネットワークを介して配信されてPC124の実行プログラム格納メモリ(
図1ではPC124のブロック内にあるものとしている)にダウンロードしたものでもよいし、記録媒体から再生されて上記メモリにダウンロードされたものでもよく、ダウンロードの方法は問わない。