(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の組成比でチタン、ジルコニウム及び鉛を含む第1の前駆体溶液を基材上に塗布して、焼成し、且つ所定温度で熱処理して、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であるチタン酸ジルコン酸鉛膜を形成し、
所定の組成比でチタン、ジルコニウム、鉛及びニオブを含む第2の前駆体溶液を前記チタン酸ジルコン酸鉛膜に上に塗布して、焼成し、且つ所定温度で熱処理して、前記チタン酸ジルコン酸鉛膜の配向方向に応じて、前記X線回折法により検出される全ピークに対する前記(100)方向又は前記(001)方向のピーク比が60%以上であり、ニオブのモル濃度がチタンとジルコニウムとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であるニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜を形成することを特徴とするニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ゾルゲル法において、チタン酸ジルコン酸鉛膜を結晶化の核(又はシード層)として利用することにより、ニオブの添加に伴い配向性が低下するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜の配向性を制御することが可能であることを見出したものである。
【0027】
以下、図面を参照して本発明に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体、そのニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体を用いた素子及びその製造方法について説明する。但し、本発明のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体、そのニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体を用いた素子及びその製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0028】
(ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体)
図1は、本発明に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体(以下、Nb−PZT膜積層体と称する)100の模式図(側面図)である。Nb−PZT膜積層体100は、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であるチタン酸ジルコン酸鉛膜(以下、PZT膜と称する)110と、PZT膜110に接して配置され、PZT膜110の配向方向に応じて、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であり、ニオブ(Nb)のモル濃度がチタン(Ti)とジルコニウム(Zr)とのモル数の合計値に対して10 mol%以上であるニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜(以下、Nb−PZT膜と称する)130とを備える。また、
図1に示すように、Nb−PZT膜積層体100は、基材150上に形成され、又は基材150上に配置されてもよい。
【0029】
実施例に示すように、Nbの含有量が少ないNb−PZT膜であれば、PZT膜と類似した配向性を得ることができるが、Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上となる場合には、従来のNb−PZT膜では配向性が著しく低下していた。ペロブスカイト構造を有するPZT膜110は、(100)方向又は(001)方向に高い配向性を有する。例えば、非特許文献2には、製膜条件によりPZT膜の配向制御が可能であることが記載されている。本発明においては、シード層として配置したPZT膜110が、Nb−PZT膜130が結晶成長するための起点として作用し、TiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上のモル濃度でNbを含有するNb−PZT膜130に(100)方向又は(001)方向の高い配向性を付与する。
【0030】
本明細書においては、PZT膜110及びNb−PZT膜130の配向性を、X線回折法(以下、XRDと称する)を用いて評価する。即ち、XRDにより検出される全ピークと、(100)方向又は(001)方向のピークとのピーク比により配向性を評価する。上述したようなPZT膜110の配向制御により、PZT膜110は、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上となる。本発明においては、配向性の高いPZT膜110をシード層に用いることにより、PZT膜110の配向方向に応じて、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上となるように、Nb−PZT膜130の配向を制御することができる。
【0031】
また、より好ましくは、PZT膜110のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が70%以上であり、Nb−PZT膜130のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が80%以上である。本発明の一実施形態によると、(100)配向又は(001)配向の配向度が高いNb−PZT膜積層体100が提供される。
【0032】
Nb−PZT膜積層体100の製造方法について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係るNb−PZT膜積層体100の製造工程を示す。基材150上に、所定の組成比でTi、Zr及びPbを含む第1の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第1の塗工層111を形成する(
図2(a))。ここで、基材150には、MEMSや半導体装置の製造プロセスで利用される一般的な基板を用いることができ、例えば、シリコン基板、ガラス基板、サファイア基板等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、第1の前駆体溶液は、PZT膜110をゾルゲル法により形成するための前駆体溶液であり、Ti、Zr及びPbを所定の組成比で含む有機溶液である。第1の前駆体溶液は、酸化鉛(II)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化チタン(IV)、酢酸イソアミル、酢酸n-ブチル、酢酸n-ヘキシルおよび安定化剤から構成される。Ti、Zr及びPbを、48:52:120の組成比で第1の前駆体溶液に含有することが好ましい。
なお、第1の塗工層111を形成する乾燥温度は、第1の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。本実施形態においては、例えば、100℃以上150℃以下程度である。また、第1の塗工層111を形成するための焼成温度は、例えば、230℃以上270℃以下程度である。
【0034】
第1の塗工層111が形成された基材150を所定温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜110を形成する(
図2(b))。結晶化により、PZT膜110はペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。ここで、PZT膜110を形成する熱処理の条件は、例えば、580℃以上670℃以下程度である。
【0035】
本実施形態において、PZT膜110は、Nb−PZT膜130の結晶配向を制御するためのシード層であるため、その厚さは薄くてもよく、例えば、ゾルゲル法により形成される1層の厚みであってもよく、例えば、100nm以上150nm以下程度である。
【0036】
次に、PZT膜110上に、所定の組成比でTi、Zr、Pb及びNbを含む第2の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第2の塗工層131を形成する(
図2(c))。第2の前駆体溶液は、第1の前駆体溶液にニオブ化合物を加えたものである。ここで、第2の前駆体溶液は、Nb−PZT膜130をゾルゲル法により形成するための前駆体溶液であり、Ti、Zr、Pb及びNbを所定の組成比で含む有機溶液であり、Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上である。Ti、Zr、Pb及びNbを、48:52:13の組成比で第2の前駆体溶液に含有することが好ましい。
【0037】
なお、第2の塗工層131を形成する乾燥温度は、第2の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。本実施形態においては、例えば、100℃以上150℃以下程度である。また、第2の塗工層131を形成するための焼成温度は、例えば、280℃以上320℃以下程度である。
【0038】
第2の塗工層131が形成された基材150を所定温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜110上にNb−PZT膜130を形成する(
図2(d))。本発明においては、PZT膜110を結晶化の核(又はシード層)として利用して結晶化することにより、Nb−PZT膜130はPZT膜110の結晶構造に従ってペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。ここで、Nb−PZT膜130を形成する熱処理の条件は、PZT膜110を結晶化した熱処理温度に準じ、例えば、580℃以上670℃以下程度である。
【0039】
なお、本実施形態において、Nb−PZT膜積層体100の厚みは、PZT膜110を含めて1μm程度あればよく、ゾルゲル法により形成されるNb−PZT膜の1層の厚みは100nm以上150nm以下程度であるため、7層程度を積層してNb−PZT膜130を形成することができる。この場合、Nb−PZT膜130は、上述した塗布、乾燥、焼成及び熱処理の工程を1層ずつ繰り返すことにより形成することができる。
【0040】
従来は、Nb−PZT膜においてNbの添加に伴い配向性が低下していたが、本実施形態に係るNb−PZT膜積層体100は、Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であっても、配向性を制御することが可能である。
【0041】
(ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜積層体を用いた素子)
本発明の他の実施形態として、上述したNb−PZT膜積層体を用いた素子について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るNb−PZT膜積層体を用いた素子200の模式図(側面図)である。素子200は、第1の電極261と、第2の電極263と、第1の電極261と第2の電極263との間に配置されたNb−PZT膜積層体とを備える。Nb−PZT膜積層体は、センサ又はアクチュエータ材料として機能する素子である。素子200においてNb−PZT膜積層体は圧電体であり、圧電体に加えられた力が電圧に変換され、センサとして機能する。また、Nb−PZT膜積層体に印加された電圧を力に変換する圧電効果を利用した受動素子である。このような圧電体は、ピエゾ素子とも呼ばれる。
【0042】
Nb−PZT膜積層体は、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であるPZT膜210と、PZT膜210に接して配置され、PZT膜210の配向方向に応じて、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であり、Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であるNb−PZT膜230とを備える。また、
図3に示すように、素子200は、基材150上に形成され、又は基材150上に配置されてもよい。
【0043】
上述したように、PZT膜210及びNb−PZT膜230の配向性を、XRDにより検出される全ピークと、(100)方向又は(001)方向のピークとのピーク比により配向性を評価する。PZT膜210は、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上となる。また、本発明においては、配向性の高いPZT膜210をシード層に用いることにより、PZT膜210の配向方向に応じて、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上となるように、Nb−PZT膜230の配向を制御することができる。
【0044】
また、より好ましくは、PZT膜210のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が70%以上であり、Nb−PZT膜230のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が80%以上である。本発明の一実施形態によると、Nb−PZT膜積層体の(100)配向又は(001)配向の配向度が高い素子200が提供される。
【0045】
素子200の製造方法について説明する。
図4及び
図5は、本発明の一実施形態に係る素子200の製造工程を示す。基材150上に、第1の電極261を形成する(
図4(a))。基材150の詳細は上述したため、説明は省略する。第1の電極261は、圧電体であるNb−PZT膜積層体から電荷を取出す、又は電圧を印加するための電極で、MEMSに一般に用いられる金属により形成され、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。第1の電極261は、スパッタや蒸着等により形成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
第1の電極261上に、所定の組成比でTi、Zr及びPbを含む第1の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第1の塗工層211を形成する(
図4(b))。なお、第1の前駆体溶液の詳細は上述したため、説明は省略する。なお、上述したように、第1の塗工層111を形成する乾燥温度は、第1の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。
【0047】
第1の塗工層211が形成された基材150を所定温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜210を形成する(
図4(c))。結晶化により、PZT膜210はペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。
【0048】
次に、PZT膜210上に、所定の組成比でTi、Zr、Pb及びNbを含む第2の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第2の塗工層231を形成する(
図4(d))。なお、第2の前駆体溶液の詳細は上述したため、説明は省略する。上述したように、第2の塗工層231を形成する乾燥温度は、第2の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。
【0049】
第2の塗工層231が形成された基材150を所定温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜210上にNb−PZT膜230を形成する(
図5(a))。本発明においては、PZT膜210を結晶化の核(又はシード層)として利用して結晶化することにより、Nb−PZT膜230はPZT膜210の結晶構造に従ってペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。なお、上述した塗布、乾燥、焼成及び熱処理の工程を1層ずつ繰り返すことにより、所望の厚みのNb−PZT膜積層体を形成することができる。
【0050】
Nb−PZT膜230上に、第2の電極263を形成する(
図5(b))。なお、第2の電極263は、第1の電極261と同様の材料と、同様の製造工程で形成することができるため、詳細な説明は省略する。以上の工程により、本実施形態に係る素子200を形成することができる。
【0051】
従来は、Nb−PZT膜においてNbの添加に伴い配向性が低下していたが、本実施形態に係る素子200は、Nb−PZT膜積層体に含まれるNbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であっても、結晶の配向性を制御することが可能である。
【0052】
(半導体デバイス)
本発明の他の実施形態として、上述した素子200を備える半導体デバイスについて説明する。半導体デバイスの一例として、加速度センサについて説明するが、本発明に係る半導体デバイスはこれらに限定されるものではなく、素子200を利用可能なデバイスを広く示す。
図6は、本発明の一実施形態に係る半導体デバイス1000の上面図である。また、
図7は、
図6の線AA’における半導体デバイス1000の断面図である。半導体デバイス1000は、支持部1210と、支持部1210に一端が支持された可撓部(第1の軸方向の可撓部1231及び第2の軸方向の可撓部1235)と、可撓部の他端に支持された錘部1250と、可撓部に位置し、錘部1250の変位を電気信号に変換して検出する応力電気変換手段とを備える。本実施形態において、応力電気変換手段(素子E1+、素子E1−、素子E2+、素子E2−、素子E3+、素子E3−、素子E4+、素子E4−)は上述した素子200を用いて構成される。
【0053】
半導体デバイス1000は、第1の軸方向の可撓部1231、第2の軸方向の可撓部1235、第1の軸方向の可撓部1231と第2の軸方向の可撓部1235との交差部1239(錘支持部)及び錘部1250を有する。錘部1250と隣接して開口部1270が配置され、錘部1250と支持部1210とを離間させる。ここで、第1の軸方向と第2の軸方向とは互いに直交する方向であり、X軸方向及びY軸方向と呼ぶこともできる。
【0054】
第1の軸方向の可撓部1231には、第1の軸方向の加速度を検出するために、素子200で形成された素子E1+、素子E1−、素子E2+及び素子E2−が配置され、配線1150により、それぞれ端子V1+、端子V1−、端子V2+及び端子V2−へ引き出される。
【0055】
第2の軸方向の可撓部1235には、第2の軸方向の加速度を検出するために、素子200で形成された素子E3+、素子E3−、素子E4+及び素子E4−が配置され、配線1150により、それぞれ端子V3+、端子V3−、端子V4+及び端子V4−へ引き出される。
【0056】
本実施形態において、素子E1+、素子E1−、素子E2+、素子E2−、素子E3+、素子E3−、素子E4+及び素子E4−は、第1の電極層1161と、第2の電極層1163と、第1の電極層1161と第2の電極層1163との間に配置されたNb−PZT膜積層体とにより構成される。Nb−PZT膜積層体は、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であるPZT膜1110と、PZT膜1110に接して配置され、PZT膜1110の配向方向に応じて、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上であり、Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であるNb−PZT膜1130とを備える。
【0057】
交差部1239の下側には錘部1250が形成され、加速度に応じて錘部1250が揺れることで、第1の軸方向の可撓部1231及び第2の軸方向の可撓部1235を撓ませる。半導体デバイス1000は、この撓みを第1の軸方向の加速度を検出するセンサ回路及び第2の軸方向の加速度を検出するセンサ回路で加速度を検出することができる。
【0058】
第1の軸方向の可撓部1231及び第2の軸方向の可撓部1235は支持部1210により支えられ、支持部1210には、上述した端子V1+、端子V1−、端子V2+、端子V2−、端子V3+、端子V3−、端子V4+及び端子V4−と、グランド端子(GND)とが配置される。第1の電極層1161は、グランド端子(GND)と接続される。
【0059】
なお、本実施形態においては、半導体デバイス1000が第1の軸方向の可撓部1231及び第2の軸方向の可撓部1235を有する例を示したが、本発明に係る半導体デバイス1000は梁状の可撓部の代わりにダイヤフラム状の可撓部としてもよい。すなわち、ダイヤフラムで錘部を支持し、第1の軸方向及び第2の軸方向の加速度を検出する素子を、ダイヤフラムの上部表面に互いに直交する軸方向に配置してもよい。
【0060】
このような構造を有する半導体デバイス1000において、振動によって錘部1250が揺れ、第1の軸方向の可撓部1231及び第2の軸方向の可撓部1235に配置された素子E1+、素子E1−、素子E2+、素子E2−、素子E3+、素子E3−、素子E4+、素子E4−に応力が加わる。それぞれの素子の分極量は応力に依存するため、振動などの加速度の印加によって電荷の移動(電流)が発生する。この電流を端子V1+、端子V1−、端子V2+、端子V2−、端子V3+、端子V3−、端子V4+及び端子V4−と、グランド端子(GND)に接続した検出器(図示せず)により検出することができる。
【0061】
本実施形態に係る半導体デバイス1000の製造方法を以下に述べる。
図8〜
図10は、半導体デバイス1000の製造工程を
図6の線AA’に沿う断面図で説明する図である。基材であるシリコンウェハ1101上にシリコン酸化膜1103及びシリコン膜1105を順次形成する(
図8(a))。なお、貼り合せ法等により製造されたSOI基板を用いてもよい。シリコン酸化膜1103は、後述の工程でエッチングストッパ層としても機能する。本実施形態においては、素子E1+、素子E1−、素子E2+及び素子E2−を第1の軸方向の可撓部1231に、素子E3+、素子E3−、素子E4+及び素子E4−を第2の軸方向の可撓部1235にそれぞれ形成する。
【0062】
シリコン膜1105上に第1の電極層1161を形成する(
図8(b))。第1の電極層1161の形成材料及び形成方法は上述した第1の電極261と同様であるため、詳細な説明は省略する。第1の電極層1161上に、所定の組成比でTi、Zr及びPbを含む第1の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第1の塗工層を形成する。なお、第1の前駆体溶液の詳細は上述したため、説明は省略する。なお、上述したように、第1の塗工層を形成する乾燥温度は、第1の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。
【0063】
第1の塗工層が形成されたシリコンウェハ1101を所定の温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜1110を形成する(
図8(c))。結晶化により、PZT膜1110はペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。
【0064】
次に、PZT膜1110上に、所定の組成比でTi、Zr、Pb及びNbを含む第2の前駆体溶液を塗布し、所定の温度で乾燥させる。さらに、所定の温度で焼成して第2の塗工層を形成する。なお、第2の前駆体溶液の詳細は上述したため、説明は省略する。上述したように、第2の塗工層を形成する乾燥温度は、第2の前駆体溶液に含まれる溶媒により任意に設定可能である。
【0065】
第2の塗工層が形成されたシリコンウェハ1101を所定の温度で熱処理し、結晶化させてPZT膜1110上にNb−PZT膜1130を形成する(
図8(d))。本発明においては、PZT膜1110を結晶化の核(又はシード層)として利用して結晶化することにより、Nb−PZT膜1130はPZT膜1110の結晶構造に従ってペロブスカイト構造をとり、X線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が60%以上の配向度となる。なお、上述したように、上述した塗布、乾燥、焼成及び熱処理の工程を1層ずつ繰り返すことにより、所望の厚みのNb−PZT膜積層体を形成することができる。
【0066】
Nb−PZT膜1130上に、マスク1301を形成する(
図9(a))。マスク1107の材料としては、公知のレジスト材を用いることができる。マスク1107を配置したNb−PZT膜1130及びPZT膜1110に、RIE(Reactive Ion Etching)あるいはウェットエッチングを施し、有底孔を形成する(
図9(b))。
【0067】
次に、マスク1301を除去し、Nb−PZT膜1130上に、マスク1303を形成する(
図9(c))。マスク1303を配置したNb−PZT膜1130上に第2の電極層1163を形成して、素子E1+、素子E1−、素子E2+、素子E2−、素子E3+、素子E3−、素子E4+、素子E4−と、端子V1+、端子V1−、端子V2+、端子V2−、端子V3+、端子V3−、端子V4+及び端子V4−を形成する。また、有底孔を介して第1の電極層1161に接続するグランド端子(GND)が形成される(
図10(a))。なお、第2の電極層1163は、上述した第1の電極261と同様の材料と、同様の製造工程で形成することができるため、詳細な説明は省略する。
【0068】
マスク1303を除去し、配線1150を形成するために、マスク1305を形成する(
図10(b))。Nb−PZT膜1130上に配線1150を形成し、各素子と各端子とを接続する(
図10(c))。配線1150は、MEMSに一般に用いられる金属により形成され、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。配線1150は、スパッタや蒸着等により形成することができるが、これらに限定されるものではない。各素子及び各端子は、配線1150と同一の材料を用いて同一の工程で形成することもできる。
【0069】
その後、マスク1305を除去し、シリコン膜1105をシリコン酸化膜1103の上面が露出するまでRIEなどによりエッチングを行い、開口部を設けて、支持部1210、第1の軸方向の可撓部1231、第2の軸方向の可撓部1235及び交差部1239を形成する。また、錘部1250が下方へ変位するために必要な間隔のギャップを形成するために、マスク1307を用いて支持部1210の内枠に沿った開口部1270を形成する(
図11(a))。なお、ギャップは、例えば、5〜10μm程度である。
【0070】
さらに、支持部1210及び錘部1250を形成するために、シリコンウェハ1101の下面にマスク1309を形成する(
図11(b))。マスク1309を用いてシリコンウェハ1101及びシリコン酸化膜1103をシリコン膜1105の下面が露出するまでエッチングする(
図11(c)。エッチングには、例えば、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)を用いる。
【0071】
最後に、シリコンウェハをダイシングして加速度センサを個片化する。これにより半導体デバイス1000が構成される。半導体デバイス1000は、実装基板やパッケージ基板に搭載させることが可能である。以上は加速度センサの製造方法の一例であって、順序は、適宜に変更可能であり、上記の順序に限定されない。
【0072】
また、支持部1210の下に支持基板を配置してもよい。支持基板と支持部1210とは、直接接合、接着剤による接合等を用いて接合することができる。支持基板としては例えば、ガラス、金属、絶縁性樹脂、Si等の半導体である。接合方法として、陽極接合、直接接合、共晶接合、接着剤による接着などから適宜選択することができる。
【0073】
従来は、Nb−PZT膜においてNbの添加に伴い配向性が低下していたが、本実施形態に係る半導体デバイスは、素子に含まれるNbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して10 mol%以上であっても、結晶の配向性を制御することが可能である。
【実施例】
【0074】
(実施例)
本発明の実施例として、第1の電極を形成した基板に、PZT膜をシード層としてNb−PZT膜を形成した。4インチのSiウェハの両面に熱酸化にて1μm厚のSiO
2を形成した。これは電極材料とSiとの熱拡散による反応を防ぐためのバリア層である。次に、スパッタにより150nm Pt/15 nm Tiを電極層として形成した。なお、PZT−20(120/52/48)前駆体を用いて、配向比80%以上のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が80%以上となるPZT膜を得るため、非特許文献2を参照して、電極層の成膜時の基板温度を200℃とした。
【0075】
形成した電極層に、Pb/Zr/Ti/=120/52/48の組成比の第1の前駆体溶液(高純度化学研究所)を適量100rpmでウェハ全体へ濡れ拡がる程度に吐出し、さらに2000rpm、60秒でスピンコートし、ホットプレートにて120℃、2分で乾燥させた。その後、250℃、5分で焼成した第1の塗工層を形成した。次に、ラピッドサーマルアニール炉にて、真空引き後に大気圧酸素雰囲気下で、温度上昇勾配を100℃/秒とし、650℃、2分の結晶化を行い、PZT膜を得た。
【0076】
次に、PZT膜上にPb/Zr/Ti/Nb=120/52/48/13の組成比の第2の前駆体溶液(高純度化学研究所)を適量100rpmでウェハ全体へ濡れ拡がる程度に吐出し、さらに2000rpm、60秒でスピンコートし、ホットプレートにて120℃、2分で乾燥させた。その後、300℃、5分で焼成した第1の塗工層を形成した。次に、ラピッドサーマルアニール炉にて、真空引き後に大気圧酸素雰囲気下で、温度上昇勾配を100℃/秒とし、650℃、2分の結晶化を行い、Nb−PZT膜を得た。本実施例においては、Nb−PZT膜をさらに6層形成し、PZT膜を1層と、Nb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して13 mol%)を7層含む積層体を得た。
【0077】
(比較例1)
比較例1として、Nb−PZT膜を形成せずに、実施例と同様の方法にて、8層のPZT膜を含む積層体を得た。
【0078】
(比較例2)
比較例2として、PZT膜を形成せずに、Pb/Zr/Ti/Nb=120/52/48/3の組成比の第2の前駆体溶液(高純度化学研究所)を用いて、実施例と同様の方法にて、8層のNb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して3 mol%)を含む積層体を得た。
【0079】
(比較例3)
比較例3として、PZT膜を形成せずに、Pb/Zr/Ti/Nb=120/52/48/13の組成比の第2の前駆体溶液(高純度化学研究所)を用いて、実施例と同様の方法にて、8層のNb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して13 mol%)を含む積層体を得た。
【0080】
実施例及び比較例1〜3の積層体の厚みは、0.9μm厚であった。
【0081】
(結晶配向性の評価)
実施例及び比較例1〜3の積層体の第1層、第4層及び第8層成膜後の結晶配向性を評価した。X線回折の測定には、Bruker社のD8 DISCOVERを用いた。測定された回折ピークを
図12〜
図15に示す。
図12は比較例1の回折ピークを示し、(a)は1層目、(b)は4層目、(c)は8層目成膜後の回折ピークを示す。
図13は比較例2の回折ピークを示し、(a)は1層目、(b)は4層目、(c)は8層目成膜後の回折ピークを示す。
図14は比較例3の回折ピークを示し、(a)は1層目、(b)は4層目、(c)は8層目成膜後の回折ピークを示す。
図15は実施例の回折ピークを示し、(a)は1層目、(b)は4層目、(c)は8層目成膜後の回折ピークを示す。なお、
図12〜
図15において、●:PZT(100)/(001)、▲:PZT(110)、■:PZT(111)、○:PZT(200)/(002)、★:Pt(111)のピークを示す。
【0082】
図12から明らかなように、比較例1の積層体においては、PZT膜の層数に応じて(100)/(001)及び(200)/(002)でピーク強度が大きくなる。また、
図13から明らかなように、PZT膜を形成せず、8層のNb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して3 mol%)を含む比較例2の積層体でも、比較例1とほぼ同等の結果を示した。これは、Nbの含有量が低いため、結晶配向性に対する影響が小さいことを示す。
【0083】
一方、
図14から明らかなように、PZT膜を形成せず、8層のNb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して13 mol%)を含む比較例3の積層体では、(100)/(001)及び(200)/(002)でピーク強度が、比較例1及び2に比して顕著に小さいものの、(111)のピーク強度が大きくなり、従来と同様に配向性が低いことが明らかとなった。
【0084】
これに対して、
図15から明らかなように、シード層としてPZT膜を形成し、Nb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して13 mol%)を7層含む実施例の積層体においては、比較例1及び2と同様の傾向が見られ、(100)/(001)及び(200)/(002)での大きなピークが検出された。
【0085】
図12〜
図15のピーク強度データを
図16にまとめる。
図16の結果から、本実施例に係る積層体は、PZT膜のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が70%以上であり、Nb−PZT膜のX線回折法により検出される全ピークに対する(100)方向又は(001)方向のピーク比が80%以上となる高い配向性を示すことが明らかとなった。実施例及び比較例1〜3のピーク存在比を表1に示す。
【表1】
【0086】
この実施例の配向性は、PZT膜のみを積層した比較例1に匹敵するとともに、PZT膜を形成せず、8層のNb−PZT膜(Nbのモル濃度がTiとZrとのモル数の合計値に対して3 mol%)を含む比較例2よりも優れたものであった。
【0087】
(ラマン分光分析)
Nbのモル濃度とラマンシフトの関係を検討した。ラマン分光分析には、HORIBA社のLabRAMを用いた。測定結果を
図17に示す。
図17の結果から、Nbの添加量に応じてピークが低波数側にシフトすることが明らかとなった。
【0088】
(加速度センサ)
実施例として、
図18に示した加速度センサ2000を作製した。725μm厚のシリコン基板2101上に1μm厚のシリコン酸化膜2103及び5μm厚のシリコン膜2105を順次形成した。シリコン膜2105上に15nmのTi及び175nmのPtを積層して、第1の電極層2161を形成した。2μm厚のNb−PZT膜積層体2100を形成した。
【0089】
2μm厚のNb−PZT膜積層体2100の形成手順は次のとおりである。第一層を前駆体溶液の組成Pb/Zr/Ti/Nb=120/52/48/0を用い成膜した。前駆体溶液を適量100 rpmでウェハ全体へ濡れ拡がる程度に吐出し、その後2000 rpm、60 secにてスピンコートしたのち、ホットプレートにて120℃、2 minで乾燥、250℃、5 minで焼成した。次に、ラピッドサーマルアニール炉にて、真空引き後に大気圧酸素雰囲気下で、温度上昇勾配を100℃/secとし、650℃、2 minの結晶化を行った。さらに、第二層以降はPb/Zr/Ti/Nb=120/52/48/13を用い17回成膜した。熱処理条件について焼成温度が300℃である以外は上記のとおりである。合計で18層形成し、2μm厚のNb−PZT膜積層体2100を形成した。
【0090】
Nb−PZT膜積層体2100上に、15nmのTi及び175nmのPtを積層して、第2の電極層2163を形成した。次に、反応性イオンエッチング(RIE)により上部電極となるPt/Tiをパタニングし、ウェットエッチングによりNb−PZT膜積層体2100をデバイス形状へと加工した。次に、下部電極となるPt/Tiとバリア層であるシリコン酸化膜2103をRIEにより除去した。さらに、ワイヤーボンデイングによる配線のためのコンタクトパッド2170及び2190を、Au/Crをスパッタ成膜した後にウェットエッチングで形成した。梁形状へと加工するためにシリコン膜2105をボッシュプロセス(Deep RIE)で加工した。最後に、シリコン基板2101をDeep RIEで除去し、片持ち梁構造を作製した。