【文献】
CHAKRABARTI, S. et al.,High-Temperature Operation of InAs-GaAs Quantum-Dot Infrared Photodetectors With Large Responsivity and Detectivity,IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,2004年 5月,Vol.16, No.5,pp.1361-1363
【文献】
YE, Zhengmao et al.,Normal-Incidence InAs Self-Assembled Quantum-Dot Infrared Photodetectors With a High Detectivity,IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS,2002年 9月,Vol.38, No.9,pp.1234-1237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧z(V)は、前記光電変換層において電界に対する活性化エネルギーの変化が指数関数領域となるように前記光電変換層に印加される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0038】
この明細書において用いられる語句について説明する。
【0039】
「量子層」とは、量子ドットまたは量子井戸などを含む層であり、障壁層と繰り返し積層することで光電変換層を形成する層である。
【0040】
「量子ドット層」とは、量子ドット、濡れ層、中間層、量子ドットの下地層、量子ドットの部分キャップ層、および挿入層などを含む層である。
【0041】
「量子ドット」とは、100nm以下の粒子サイズを有する半導体微粒子であり、量子ドットを構成する半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料で囲まれた微粒子である。Stranski―Krastanov(S−K)成長の場合、濡れ層を形成し、量子ドットの成長に移行する。
【0042】
「量子ドットの下地層」とは、量子ドットおよび濡れ層を成長する下地となる層である。
【0043】
「量子ドットの部分キャップ層」とは、量子ドット上に成長する層であり、量子ドットを構成する半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料からなり、量子ドットの一部を少なくとも覆う層である。以下に示す
図1では、部分キャップ層が平坦であるが、量子ドット形状に沿った形状となっていても良い。また、
図1では、部分キャップ層の厚みが量子ドットの高さ以上の厚みとなっているが、厚みは、量子ドットの高さ以下であっても良い。
【0044】
「障壁層」とは、量子ドットを構成する半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料からなる層であり、量子ドット層の母体となる層である。また、量子ドットの下地層、量子ドットの部分キャップ層と同じ半導体材料であっても良い。
【0045】
図1は、この発明の実施の形態による赤外線検出器の断面図である。
図1を参照して、この発明の実施の形態による赤外線検出器10は、半導体基板1と、バッファ層2と、n型半導体層3,5と、光電変換層4と、電極6,8とを備える。
【0046】
バッファ層2は、半導体基板1の一方の面に接して半導体基板1上に配置される。n型半導体層3は、バッファ層2に接してバッファ層2上に配置される。
【0047】
光電変換層4は、n型半導体層3に接してn型半導体層3上に配置される。n型半導体層5は、光電変換層4に接して光電変換層4上に配置される。
【0048】
電極6は、n型半導体層5に接してn型半導体層5上に配置される。電極8は、n型半導体層3に接してn型半導体層3上に配置される。
【0049】
なお、n型半導体層3を「第1コンタクト層」と言い、n型半導体層5を「第2コンタクト層」と言う。
【0050】
半導体基板1は、例えば、半絶縁性のGaAsからなる。バッファ層2は、例えば、GaAsからなる。そして、バッファ層2は、例えば、100nm〜500nmの厚さを有する。
【0051】
n型半導体層3,5の各々は、例えば、n−GaAsからなる。そして、n型半導体層3,5の各々は、例えば、100nm〜1000nmの厚さを有する。
【0052】
電極6,8の各々は、n型電極であり、例えば、Au/AuGeNi、AuGe/Ni/Au、Au/Ge、Au/Ge/Ni/Auのいずれかからなる。そして、電極6,8の各々は、例えば、10nm〜500nmの厚さを有する。
【0053】
光電変換層4は、複数の量子ドット層41および障壁層42と、バリア層43とを積層した積層構造からなる。なお、
図1においては、3層の量子ドット層41および4層の障壁層42を積層した場合を示しているが、赤外線検出器10においては、2層以上の量子ドット層41および障壁層42が積層されていればよい。
【0054】
複数の量子ドット層41の各々は、量子ドット411と、量子ドット411の下地層412と、量子ドット411の濡れ層413と、量子ドット411の部分キャップ層414とを含む。
【0055】
下地層412は、量子ドット411の下側に配置される。濡れ層413は、下地層412に接して下地層412上に配置される。
【0056】
なお、量子ドット層41は、量子ドット411、量子ドットの下地層412、濡れ層413および量子ドット411の部分キャップ層414に加えて挿入層等を含んでいても良い。
【0057】
一般的には、量子ドット層41は、量子ドット411および量子ドット411の部分キャップ層414を少なくとも含んでいればよい。
【0058】
量子ドット層41を構成する各材料は、特に限定されないが、III−V族化合物半導体であることが好ましい。
【0059】
量子ドット411は、バンドギャップエネルギーが障壁層42よりも小さい半導体材料からなることが好ましい。
【0060】
量子ドット層41を構成する各材料は、例えば、GaAs
xSb
1−x、AlSb、InAs
xSb
1−x、Ga
xIn
1−xSb、AlSb
xAs
1−x、AlAs
zSb
1−z、In
xGa
1−xAs、Al
xGa
1−xAs、Al
yGa
1−yAs
zSb
1−z、In
xGa
1−xP、(Al
yGa
1−y)
zIn
1−zP、GaAs
xP
1−x、Ga
yIn
1−yAs
zP
1−z、およびIn
xAl
1−xAs(これらの材料において、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1である。以下、同じ。)のいずれかであることが好ましく、これらの混晶材料であっても良い。
【0061】
なお、量子ドット層41(「量子層」とも言う。)を構成する各材料は、周期律表の第IV族半導体または第III族半導体材料と第V族半導体材料とからなる化合物半導体、または、第II族半導体材料と第VI族半導体材料とからなる化合物半導体であっても良く、これらの混晶材料であっても良い。また、量子ドット層41を構成する各材料は、カルコパイライト系材料であっても良いし、カルコパイライト系材料以外の半導体であっても良い。
【0062】
光電変換層4は、p型不純物またはn型不純物がドーピングされている。そして、この発明の実施の形態においては、光電変換層4は、量子ドット積層構造を有し、量子ドット積層構造は、量子ドット411、量子ドット411の下地層412、量子ドット411の部分キャップ層414および障壁層42を少なくとも含み、量子ドット411、下地層412、部分キャップ層414および障壁層42は、例えば、次の材料からなる。
【0063】
量子ドット411は、InAsからなり、下地層412は、InGaAsまたはGaAsからなり、部分キャップ層414(「障壁層」とも言う。以下、同じ。)は、InGaAsまたはGaAsからなり、障壁層42は、GaAsからなる。
【0064】
また、下地層412および部分キャップ層414は、AlGaAsまたはInGaPまたはGaAsPからなっていてもよい。
【0065】
図2は、
図1に示す量子ドット層41の別の構成を示す断面図である。この発明の実施の形態における量子ドット層41は、
図2の(a)に示す量子ドット層41Aからなっていてもよく、
図2の(b)に示す量子ドット層41Bからなっていてもよい。
【0066】
図2の(a)を参照して、量子ドット41Aは、
図1に示す量子ドット層41の部分キャップ層414を部分キャップ層414Aに代えたものであり、その他は、量子ドット層41と同じである。
【0067】
部分キャップ層414Aは、量子ドット411の形状に沿って量子ドット411および濡れ層413上に配置される。
【0068】
図2の(b)を参照して、量子ドット41Bは、
図1に示す量子ドット層41の部分キャップ層414を部分キャップ層414Bに代えたものであり、その他は、量子ドット層41と同じである。
【0069】
部分キャップ層414Bは、量子ドット411と同じ厚さを有し、量子ドット411および濡れ層413上に配置される。
【0070】
この発明の実施の形態においては、部分キャップ層は、
図1に示す部分キャップ層414および
図2に示す部分キャップ層414A,414Bのいずれの構成からなっていてもよい。
【0071】
この発明の実施の形態においては、光電変換層4は、量子ドット積層構造に加え、バリア層43を含む。バリア層43は、量子ドット層41とn型半導体層5との間に量子ドット層41およびn型半導体層5に接して配置される。
【0072】
そして、バリア層43は、例えば、(Ga
0.51In
0.49P
)1−x(Al
0.52In
0.48P)
x(0.4<x≦1)またはAlAsからなる。また、バリア層43は、例えば、40nmの厚みを有する。
【0073】
図3および
図4は、それぞれ、
図1に示す赤外線検出器10の製造方法を示す第1および第2の工程図である。
【0074】
図3を参照して、赤外線検出器10の製造が開始されると、半絶縁性のGaAsからなる半導体基板1を分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)装置内に支持する(
図3の工程(a))。
【0075】
そして、MBE法によってバッファ層2を半導体基板1上に形成する(
図3の工程(b))。この場合、例えば、バッファ層2として200nmの厚さのGaAs層を形成する。バッファ層2の形成によって、バッファ層2上に形成される光電変換層4の結晶性を向上させることができる。その結果、光電変換層4での受光効率が確保された赤外線検出器を提供することができる。
【0076】
工程(b)の後、MBE法によってバッファ層2上にn型半導体層3を形成する(
図3の工程(c))。この場合、例えば、n型半導体層3として1000nmのn−GaAs層を形成する。
【0077】
引き続いて、MBE法によって、量子ドット411を含む量子ドット層41および障壁層42をn型半導体層3上に形成する(
図3の工程(d))。
【0078】
この場合、量子ドット411は、Stranski−Krastanov(S−K)成長と呼ばれる方法によって形成される。
【0079】
より具体的には、障壁層42としてGaAs層を結晶成長させ、その後、自己組織化機構によって、InAsからなる量子ドット411を形成する。この場合、量子ドット411の形成時に、例えば、n型不純物を量子ドット411にドーピングする。その後、部分キャップ層414としてGaAs層を結晶成長させることによって量子ドット411を埋め込むことで量子ドット層41を形成する。
【0080】
そして、工程(d)を、例えば、20回繰り返すことによって、量子ドット層41および障壁層42を積層した構造をn型半導体層3上に形成する(
図3の工程(e))。
【0081】
なお、障壁層42の厚みは、例えば、40nmの厚みである。
【0082】
図3の工程(e)の後、障壁層42を形成し、Al
0.7Ga
0.3Asからなるバリア層43を障壁層42上に形成する(
図4の工程(f))。これによって、光電変換層4が形成される。
【0083】
そして、MBE法によって、n型半導体層5を光電変換層4上に形成する(
図4の工程(g))。この場合、例えば、n型半導体層5として500nmの厚さを有するn−GaAs層を結晶成長させる。これにより、n
+in
+構造またはn
+nn
+構造が形成される。
【0084】
引き続いて、積層体をMBE装置から取り出し、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングを用いて、光電変換層4およびn型半導体層5の一部を除去し、n型半導体層5上に電極6を形成し、n型半導体層3上に電極8を形成する。これによって、赤外線検出器10が完成する(
図4の工程(h))。
【0085】
上記の製造工程においては、n型ドーパントして、例えば、Siを用いることができる。また、上記の製造工程においては、n型不純物を量子ドット411にドーピングすると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、量子ドット411の下部の障壁層42へのドーピング、部分キャップ層414へのドーピング、および部分キャップ層414の上部の障壁層42へのドーピングのいずれのドーピングを行ってもよい。ドーピングを行うことによって、光励起させるキャリアの効率的な生成が可能となる。
【0086】
更に、電極6,8の各々としてAuを用いることが好ましく、電極6,8の各々は、抵抗加熱の蒸着法による真空蒸着によって形成されることが好ましい。
【0087】
赤外線検出器10に赤外線が入射されると、光電変換層4における光吸収によって電子が励起され、励起された電子は、電界によって移動し、光電流として電極6,8によって取り出される。そして、赤外線検出器10において、光電変換層4は、好ましくは、伝導帯間吸収によって赤外線を吸収する。また、光電変換層4に電圧を印加する場合、好ましくは、n型半導体層5(第2コンタクト層)が負バイアスになるように電圧を印加する。
【0088】
図5は、比検出能とE
0,microとの関係を示す図である。
図5において、縦軸は、比検出能D
*を表し、横軸は、n型半導体層5の伝導帯下端と障壁層の伝導帯下端とのエネルギーレベル差(=E
0,micro)を表す。
【0089】
また、曲線k1は、量子ドット層41を70層積層した光電変換層4を用い、光電変換層4への印加電界を5.5kV/cmとし、動作温度を80Kとし、量子ドット411と障壁層42との間の活性化エネルギーE
0,nanoを224.7meVとして、E
0,microを20〜1000meVの範囲で変化させたときの比検出能D
*を計算した結果を示す。
【0090】
なお、比検出能D
*は、非特許文献2に記載の次式によって計算された。
【0092】
式(1)において、kは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度であり、hは、プランク定数であり、eは、素電荷であり、g
pは、光伝導ゲインであり、g
nは、ノイズゲインであり、m
bは、電子の有効質量であり、Nは、量子ドット中の平均キャリア数であり、Eは、電界であり、Kは、量子ドット数である。E
0,micro、E
0,nanoは、非特許文献3に記載の通り、それぞれ、無バイアス時の障壁層の伝導帯下端と第2コンタクト層の伝導帯下端とのエネルギーレベル差、および量子ドットのイオン化エネルギーであり、E
0およびβは、フィッティングパラメータである。
【0093】
また、素子の活性化エネルギーE
aは、次式で表される。
【0095】
非特許文献3においては、バリア層を設けないInAs/GaAsの量子ドット構造において、E
0,microが34.6meVであることが開示されており、下記の検証では、例えば、E
0,micro=30〜40meVのデータを比較値として用いた。
【0096】
また、
図5に示す計算において、印加電界を5.5kV/cmとしたのは、非特許文献1においては、平均電界として、印加電圧を光電変換層の厚みで割った場合、およそ5.5kV/cmとなるからである。
【0097】
図5を参照して、比検出能D
*は、E
0,microの増加に伴って増大する(曲線k1参照)。そして、
図5に示す矢印は、非特許文献1におけるE
0,micro(=290meV)を用いた時の比検出能D
*を示す。E
0,microが30〜40meVから290meVへ増加した場合、比検出能D
*は、約2倍になる。
【0098】
一方、本願のバリア層43を含む光電変換層4を用いて比検出能D
*を計算した結果を示す曲線k1から明らかなように、E
0,microが30〜40meVから1000meVへ増加した場合、比検出能D
*は、約11倍になる。
【0099】
このように、E
0,microを増大させることによって、比検出能D
*を増大させることができる。
【0100】
図6は、
図1に示すn型半導体層3、光電変換層4およびn型半導体層5の伝導帯のバンド図を示す模式図である。
【0101】
図6を参照して、n型半導体層5(第2コンタクト層)の伝導帯下端と障壁層の伝導帯下端とのエネルギーレベルの差E
0,microの変化は、シュレディンガー−ポアソンの自己無撞着によって見積もることができる。
【0102】
エネルギーレベルの差E
0,microを見積もるために、1次元量子井戸構造に関してシミュレーションを行った。GaAsからなる第2コンタクト層に対して非特許文献1に記載のAl
0.3Ga
0.7Asからなるバリア層を挿入した場合、エネルギーレベルの差E
0,microは、約290meVとなることが予測される。
【0103】
一方、Al
0.7Ga
0.3Asからなるバリア層43を挿入した場合、エネルギーレベルの差E
0,microは、約570meVとなることが予測される(
図6参照)。また、AlAsからなるバリア層43を挿入した場合、エネルギーレベルの差E
0,microを約1000meVに増大できることが予測される。
【0104】
従って、バリア層43を挿入することによって、E
0,microが290meVであるときの比検出能(
図5の矢印参照)よりも比検出能D
*を増大させることができる(
図5参照)。
【0105】
図7は、活性化エネルギーと印加電界との関係を示す図である。
図7において、縦軸は、素子の活性化エネルギーを表し、横軸は、印加電界を表す。また、曲線k2は、エネルギーレベルの差E
0,microが40meVであるときの活性化エネルギーと印加電界との関係を示し、曲線k3は、エネルギーレベルの差E
0,microが200meVであるときの活性化エネルギーと印加電界との関係を示し、曲線k4は、エネルギーレベルの差E
0,microが400meVであるときの活性化エネルギーと印加電界との関係を示す。
【0106】
図7を参照して、活性化エネルギーは、印加電界が低い側で増大する。そして、活性化エネルギーは、印加電界の低い領域において、エネルギーレベルの差E
0,microの増大に伴って大きくなる(曲線k2〜k4参照)。
【0107】
従って、印加電界を低い領域に設定するとともにエネルギーレベルの差E
0,microを増大させることによって活性化エネルギーを大きくできる。そして、この発明の実施の形態においては、電圧は、光電変換層4において電界に対する活性化エネルギーの変化が指数関数領域となるように光電変換層4に印加される。
【0108】
図8は、印加電界を変化させたときの比検出能とE
0,microとの関係を示す図である。
図8において、縦軸は、比検出能D
*を表し、横軸は、エネルギーレベルの差E
0,microを表す。また、曲線k5は、印加電界が3kV/cmであるときの比検出能D
*とE
0,microとの関係を示し、曲線k6は、印加電界が5kV/cmであるときの比検出能D
*とE
0,microとの関係を示し、曲線k7は、印加電界が7kV/cmであるときの比検出能D
*とE
0,microとの関係を示す。
【0109】
図8を参照して、比検出能D
*は、各印加電界において、エネルギーレベルの差E
0,microの増大に伴って大きくなる。また、比検出能D
*は、同じエネルギーレベルの差E
0,microにおいては、印加電界の低下に伴って大きくなる(曲線k5〜k7参照)。
【0110】
従って、エネルギーレベルの差E
0,microを大きくし、かつ、印加電界を低下させることによって比検出能D
*を向上させることができる。
【0111】
図9は、エネルギーレベルの差E
0,microと電界との関係を示す図である。
図9において、縦軸は、エネルギーレベルの差E
0,microを表し、横軸は、電界を表す。また、曲線k8は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の5倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと電界との関係を示し、曲線k9は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の10倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと電界との関係を示し、曲線k10は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の30倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと電界との関係を示す。更に、星印は、非特許文献1における比検出能を表す。非特許文献1におけるエネルギーレベルの差E
0,microは、約290meVであり、印加電界は、5.5kV/cmである。
【0112】
図9を参照して、エネルギーレベルの差E
0,microは、電界の増加に伴って指数関数的に増加する。エネルギーレベルの差E
0,microをyとし、光電変換層4に印加される電界をxとしたとき、曲線k8は、y=27.12exp(0.64x)によって表され、曲線k9は、y=37.88exp(0.63x)によって表され、曲線k10は、y=51.61exp(0.63x)によって表される。
【0113】
そして、曲線k8〜k10よりも左上に位置するエネルギーレベルの差E
0,microおよび印加電界を有する場合、それぞれ、動作温度が70℃、85℃および125℃で典型的な熱型赤外線センサよりも高い比検出能D
*を有する。従って、QDIPの高速応答および波長選択性を生かした赤外線センサを提供できる。
【0114】
xは、光電変換層4に印加される電界であるため、光電変換層4に印加される電圧をz(V)とし、光電変換層4の厚みをd(nm)とした場合、曲線k8は、y=27.12exp(0.64z
/d×1000
0)によって表され、曲線k9は、y=37.88exp(0.63z
/d×1000
0)によって表され、曲線k10は、y=51.61exp(0.63z
/d×1000
0)によって表される。ここで、z
/d×1000
0の単位は、(kV/cm)である。
【0115】
従って、赤外線センサ10は、動作温度が70℃であるとき、y≧27.12exp(0.64z
/d×1000
0)を満たし、動作温度が85℃であるとき、y≧37.88exp(0.63z
/d×1000
0)を満たし、動作温度が125℃であるとき、y≧51.61exp(0.63z
/d×1000
0)を満たす。
【0116】
次に、バリア層43の材料をAlInGaPに変えて障壁層の伝導帯下端とコンタクト層(n型半導体層5)の伝導帯下端とのエネルギーレベルの差のシミュレーションを行った。なお、AlInGaPは、GaAsからなる基板と格子整合する材料である。
【0117】
シミュレーションを行った結果、AlInGaPは、(Ga
0.51In
0.49P)
1−z(Al
0.52In
0.48P)
z(0<z<1)のとき、GaAs基板と格子整合し、z>0.4のとき、非特許文献1において想定されるエネルギーレベルの差E
0,micro(=約290meV)よりも大きな値を期待できる。
【0118】
GaAsからなるn型半導体層5(コンタクト層)に対して(Ga
0.51In
0.49P)
1−z(Al
0.52In
0.48P)
z(z=0.7)からなるバリア層43を導入した場合、エネルギーレベルの差E
0,microが約390meVになることが期待できる。
【0119】
また、GaAsからなるn型半導体層5(コンタクト層)に対して(Ga
0.51In
0.49P)
1−z(Al
0.52In
0.48P)
z(z=0.9)からなるバリア層43を導入した場合、エネルギーレベルの差E
0,microが約470meVになることが期待できる。
【0120】
従って、AlInGaPからなるバリア層43を導入することによって効果を発揮することが分かった。
【0121】
QDIPは、波長選択性の特徴を有するので、波長選択性を生かすことによって、より精度の高い温度検出等に利用できる。
【0122】
一方、典型的な熱型赤外線センサは、波長選択性が無く、広範囲の波長帯域で赤外光を検出して利用する。
【0123】
波長選択性の特徴を有するQDIPを広範囲の波長帯域で赤外光を検出して利用する場合(例えば、8〜14μm帯を広く利用するアプリケーション)、QDIPのピーク感度は、熱型赤外線センサよりも高い必要がある。
【0124】
そこで、上記を鑑みた場合の見積を行った。より具体的には、民生用途での利用を想定し、10μmの検出ピークを有するQDIPに対して、8〜14μm帯の大気の窓領域で見積を行った。QDIPの検出ピークの半値幅は、典型的には、Δλ/λが約30%であり、今回の計算においては、約3μmの半値幅を採用した。
【0125】
図10は、比検出能と波長との関係を示す図である。
図10において、縦軸は、比検出能D
*を表し、横軸は、波長を表す。また、曲線k11は、QDIPの比検出能D
*と波長との関係を示し、直線k12は、熱型センサの比検出能D
*と波長との関係を示す。
【0126】
図10を参照して、8〜14μm帯でのみ、赤外光を検出する場合、典型的な熱型赤外線センサと同程度のシグナルを得るためには、QDIPの感度は、Al
0.7Ga
0.3AsまたはAlAsからなるバリア層43を用いたときの比検出能D
*の2倍である必要があることが分かる。即ち、比検出能D
*が5倍、10倍、および30倍のそれぞれ2倍、つまり、10倍、20倍および60倍となる必要がある。
【0127】
図11は、エネルギーレベルの差E
0,microと印加電界との関係を示す図である。
図11において、縦軸は、エネルギーレベルの差E
0,microを表し、横軸は、印加電界を表す。また、曲線k13は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の10倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと印加電界との関係を示し、曲線k14は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の20倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと印加電界との関係を示し、曲線k15は、比検出能D
*が非特許文献1における比検出能の60倍になるときのエネルギーレベルの差E
0,microと印加電界との関係を示す。
【0128】
図11を参照して、曲線k13は、y=37.88exp(0.63x)によって表され、曲線k14は、y=45.07exp(0.63x)によって表され、曲線k15は、y=63.02exp(0.62x)によって表される。
【0129】
xを電圧zと厚みdで表すと、曲線k13は、y=37.88exp(0.63z
/d×1000
0)によって表され、曲線k14は、y=45.07exp(0.63z
/d×1000
0)によって表され、曲線k15は、y=63.02exp(0.62z
/d×1000
0)によって表される。
【0130】
そして、曲線k13〜k15によって表される近似曲線よりも左上に位置するエネルギーレベルの差E
0,microおよび印加電界を有する場合、それぞれ、動作温度が70℃、85℃および125℃において、典型的な熱型赤外線センサと同じレベルの比検出能が期待できる。
【0131】
即ち、赤外線センサ10は、動作温度が70℃であるとき、y≧37.88exp(0.63z
/d×1000
0)を満たし、動作温度が85℃であるとき、y≧45.07exp(0.63z
/d×1000
0)を満たし、動作温度が125℃であるとき、y≧63.02exp(0.62z
/d×1000
0)を満たす。
【0132】
従って、QDIPの特徴である高速応答および波長選択性を生かした赤外線センサを提供できる。
【0133】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。