【文献】
石崎拓郎 他,ヒドロキシプロピルセルロース混合エステルのコレステリック液晶特性,高分子論文集,2015年10月23日,72(12),737-745
【文献】
松本 正一ら,2.コレステリック液晶の計測応用,液晶の基礎と応用,1992年11月20日,初版第2刷,第361−371頁
【文献】
日本学術振興会第142委員会編,9.4液晶センサと計測,液晶デバイスハンドブック,1989年 9月29日,初版第1刷,第622−633頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不飽和二重結合を有する基のモノマー単位あたりの置換度と、前記疎水性基のモノマー単位あたりの置換度との比(前記不飽和二重結合を有する基/前記疎水性基)が、3.0×10−3以上2.0以下である、請求項1に記載の液晶材料。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る液晶材料について説明する。
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方を意味する。
【0021】
〔液晶材料〕
本実施形態の液晶材料は、下記一般式(1A)又は下記一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体を含む。
上記セルロース誘導体は、疎水性基、及び、不飽和二重結合を有する基を含み、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数が、0.3個以下であり、不飽和二重結合を有する基のモノマー単位あたりの置換度(以下、「不飽和二重結合を有する基の置換度」とも称する)が、0.01以上2.0以下である、
ここで、セルロース誘導体の置換度とは、セルロースのモノマー単位(D−グルコピラノース(β−グルコース))が有する3つの水酸基のうち、少なくとも一部の水酸基又は水酸基の一部が、置換基により置換されている程度を示す指標であり、具体的には、上記置換基で置換された平均個数(≦3)を意味する。
本実施形態における「不飽和二重結合を有する基の置換度」とは、セルロース誘導体が一般式(1A)で表される分子構造を有する場合では、一般式(1A)中、R
11、R
12、及びR
13の位置に導入された「不飽和二重結合を有する基」の平均個数とする。また、セルロース誘導体が一般式(1B)で表される分子構造を有する場合では、一般式(1B)中、R
14及びR
15の位置に導入された「不飽和二重結合を有する基」の平均個数とする。
同様に、疎水性基のモノマー単位あたりの置換度(以下、「疎水性基の置換度」とも称する)とは、セルロース誘導体が一般式(1A)で表される分子構造を有する場合では、一般式(1A)中、R
11、R
12、及びR
13の位置に導入された疎水性基の平均個数とする。また、セルロース誘導体が一般式(1B)で表される分子構造を有する場合では、一般式(1B)中、L
1、R
14及びR
15の位置に導入された疎水性基の平均個数とする。
なお、本実施形態において、不飽和二重結合を有する基であり、かつ疎水性基にも該当する基の場合、かかる基は「不飽和二重結合を有する基」とみなす。
また、一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体は、キトサンのモノマー単位が有する1つのアミノ基(−NH
2)が−NHCO−L
1により置換されたキトサン誘導体にも該当する。
【0022】
本実施形態におけるセルロース誘導体では、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数を0.3個以下とし、不飽和二重結合を有する基の置換度を0.01以上2.0以下に制御する。
すなわち、本実施形態におけるセルロース誘導体は、水酸基を実質含まず、セルロース誘導体の架橋によって、不飽和二重結合を有する基が弾性を発現する程度に導入されたセルロース誘導体であると言える。
ここで、セルロース誘導体が水酸基を実質含まないとは、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数が0.3個以下であることを意味し、好ましくは0.2個以下、より好ましくは0.1個以下であることを意味する。
本実施形態では、セルロース誘導体が水酸基を実質含まないことで、セルロース誘導体の精製性が向上する。この精製性の向上は、サーモトロピックコレステリック液晶性の発現、及び、架橋後におけるセルロース誘導体の弾性の発現に寄与すると考えられる。また、不飽和二重結合を有する基の置換度を上記範囲に制御することで、架橋後のセルロース誘導体に適度な弾性が付与される。
したがって本実施形態の液晶材料によれば、セルロース誘導体のモノマー間を架橋することによって、適度な弾性を有し、さらにブラッグ反射の波長で配向が固定化された液晶フィルムを製造し得る。
【0023】
<セルロース誘導体>
セルロース誘導体は、一般式(1A)又は一般式(1B)で表される分子構造を有する。
【0024】
(一般式(1A)で表される分子構造)
一般式(1A)で表される分子構造を以下に示す。一般式(1A)で表される分子構造において、[ ]は、モノマー単位を表す。以下、[ ]を、単に「モノマー単位」とも称する。なお、一般式(1A)以外で表される一般式においても同様である。
【0026】
一般式(1A)において、X
11、X
12及びX
13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、−(R
14−O)
h−、又は、−C(=O)−R
15−を表し、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、不飽和二重結合を有する基、又は、疎水性基を表し、R
14及びR
15は、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、hは、1以上10以下の整数を表し、n11は、2以上800以下の整数を表す。
【0027】
一般式(1A)において、X
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基としては特に制限されないが、直鎖又は分岐の炭素数1〜18(好ましくは1〜12)のアルキレン基、環状の炭素数3〜18(好ましくは3〜12)のシクロアルキレン基が挙げられる。直鎖又は分岐のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1A)において、X
11、X
12及びX
13で表される−(R
14−O)
h−は、アルキレンオキシ基(アルキレンエーテル基)又はポリアルキレンオキシ基(ポリアルキレンエーテル基)である。−(R
14−O)
h−で表される基におけるアルキレン基(−R
14−)としては、前述で例示したアルキレン基(X
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基)と同様のものが挙げられる。−(R
14−O)
h−としては、例えば、エチレンオキシ基、ポリエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基等が挙げられる。
一般式(1A)において、hとしては、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下、さらに好ましくは1以上3以下である。
【0029】
一般式(1A)において、X
11、X
12及びX
13で表される−C(=O)−R
15−で表される基におけるアルキレン基(−R
15−)としては、前述で例示したアルキレン基(X
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基)と同様のものが挙げられる。−C(=O)−R
15−としては、例えば、−C(=O)−CH
2−、−C(=O)−C
2H
4−、−C(=O)−C
3H
6−等が挙げられる。
【0030】
なお、上述のアルキレン基、−(R
14−O)
h−、及び、−C(=O)−R
15−は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ハロゲン原子が挙げられる。なお、置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
一般式(1A)において、R
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基としては特に制限されないが、例えば、後述する一般式(1C)で表される基、ビニル基、アリル基、ビニルオキシ基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、ゲラニル基、オレイル基、シクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル基、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビニルベンジル基、シンナミル基等が挙げられる。
【0032】
一般式(1A)において、R
11、R
12及びR
13で表される疎水性基としては特に制限されないが、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数2〜18の直鎖若しくは分岐のアシル基、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、−COOR
1Aで表されるカルボン酸エステル基、又はハロゲン原子が好ましい。上記R
1Aとしては、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基が挙げられる。
疎水性基の中でも、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、炭素数2〜18のアシル基(直鎖、分岐のいずれも可。以下同様。)がより好ましく、炭素数2〜8のアシル基がより好ましく、炭素数2〜4のアシル基がさらに好ましく、炭素数4のアシル基(すなわちブチリル基)が特に好ましい。
【0033】
炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
炭素数3〜18のシクロアルキル基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数3〜18のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数3〜18のシクロアルキル基における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0034】
炭素数6〜18のアリール基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数6〜18のアリール基における置換基としては、前述の置換基と同様のものが挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数7〜20のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルエテニル基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数7〜20のアラルキル基における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0035】
炭素数2〜18の直鎖若しくは分岐のアシル基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数2〜18の直鎖若しくは分岐のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数2〜18の直鎖若しくは分岐のアシル基における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0036】
炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換の炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。置換されていてもよい炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0037】
−COOR
1Aで表されるカルボン酸エステル基は、無置換であっても置換されていてもよい。無置換のカルボン酸エステル基としては、具体的には、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルエステル基(メチルエステル基、エチルエステル基等)、炭素数4〜12のシクロアルキルエステル基(シクロプロピルエステル基、シクロブチルエステル基等)、炭素数7〜12のアリールエステル基(フェニルエステル基等)が挙げられる。
置換されていてもよいカルボン酸エステル基の上記R
1A(炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は、炭素数6〜12のアリール基)における置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0038】
一般式(1A)において、n11としては、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、2以上800以下であり、好ましくは2以上400以下、より好ましくは2以上300以下である。
【0039】
一般式(1A)において、R
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基の好ましい態様については後述する。
【0040】
(一般式(1B)で表される分子構造)
一般式(1B)で表される分子構造を以下に示す。
【0042】
一般式(1B)において、X
16及びX
17は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、−(R
18−O)i−、又は、−C(=O)−R
19−を表し、R
16及びR
17は、それぞれ独立に、水素原子、不飽和二重結合を有する基、又は、疎水性基を表し、R
18及びR
19は、それぞれ独立に、アルキレン基であり、L
1は、アルキル基であり、iは、1以上10以下の整数を表し、n12は、2以上800以下の整数を表す。
【0043】
一般式(1B)において、X
16及びX
17で表されるアルキレン基としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
一般式(1B)において、X
16及びX
17で表される−(R
18−O)
i−としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表される−(R
14−O)
h−と同様のものが挙げられる。つまり、R
18はR
14と同義であり、iはhと同義である。
一般式(1B)において、X
16及びX
17で表される−C(=O)−R
19−としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表される−C(=O)−R
15−と同様のものが挙げられる。つまり、R
19はR
15と同義である。
【0044】
なお、上述のアルキレン基、−(R
18−O)
i−、及び、−C(=O)−R
19−は、置換基を有していてもよい。置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
【0045】
一般式(1B)において、R
16及びR
17で表される不飽和二重結合を有する基としては、前述の一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基と同様のものが挙げられる。
一般式(1B)において、R
16及びR
17で表される疎水性基としては、前述の一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される疎水性基と同様のものが挙げられる。
すなわち、疎水性基の中でも、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、炭素数2〜18のアシル基(直鎖、分岐のいずれも可。以下同様。)がより好ましく、炭素数2〜8のアシル基がより好ましく、炭素数2〜4のアシル基がさらに好ましく、炭素数4のアシル基(すなわちブチリル基)が特に好ましい。
【0046】
一般式(1B)において、L
1で表されるアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、前述の一般式(1A)において、R
11、R
12及びR
13で表される疎水性基として例示した炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3〜18のシクロアルキル基が挙げられる。中でも、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基が好ましい。
【0047】
一般式(1B)において、n12としては、適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、2以上800以下であり、好ましくは2以上400以下、より好ましくは2以上300以下である。
【0048】
(一般式(1A−1)で表される分子構造)
本実施形態におけるセルロース誘導体において、一般式(1A)で表される分子構造は、下記一般式(1A−1)で表される分子構造であることが好ましい。
【0050】
一般式(1A−1)において、R
1は、−CH
2−CH
2−、又は、−CH
2−CH(CH
3)−を表し、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、不飽和二重結合を有する基、又は、疎水性基を表し、m1、t1及びr1は、それぞれ独立に、0以上10以下の整数を表し、n13は、2以上800以下の整数を表す。
【0051】
一般式(1A−1)において、R
11、R
12及びR
13は、前述の一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13と同義である。
一般式(1A−1)において、m1、t1及びr1としては、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、それぞれ独立に、好ましくは0以上8以下、より好ましくは0以上5以下、さらに好ましくは0以上3以下が好ましい。
【0052】
一般式(1A−1)において、n13は、前述の一般式(1A)におけるn11と同義であり、好ましい範囲も同様である。
すなわち、一般式(1A−1)において、n13としては、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、2以上800以下であり、好ましくは2以上400以下、より好ましくは2以上300以下である。
【0053】
一般式(1A−1)において、具体的に、R
1が、−CH
2−CH(CH
3)−で表される場合の分子構造は、以下の一般式(1a)で表される。
【0055】
一般式(1a)において、R
11、R
12、R
13、及びn13は、一般式(1A−1)におけるR
11、R
12、R
13、及びn13と同義である。また、m11、t11、r11は、一般式(1A−1)におけるm1、t1、r1と同義である。
【0056】
一般式(1A−1)において、具体的に、R
1が、−CH
2−CH
2−で表される場合の分子構造は、以下の一般式(1b)で表される。
【0058】
一般式(1b)において、R
11、R
12、R
13、及びn13は、一般式(1A−1)におけるR
11、R
12、R
13、及びn13と同義である。また、m12、t12、r12は、一般式(1A−1)におけるm1、t1、r1と同義である。
【0059】
−不飽和二重結合を有する基−
一般式(1A)において、R
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基、又は、一般式(1B)において、R
16及びR
17で表される不飽和二重結合を有する基としては、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、下記一般式(1C)で表される基が好ましい。
【0061】
一般式(1C)において、R
1Cは、水素原子又はメチル基を表し、X
18は、単結合、又は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、炭素数3〜18のシクロアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、−O−、−NH−、−S−、及び−C(=O)−からなる群より選ばれる1つ若しくは2つ以上を連結した連結基を表し、p1は、1又は2の整数を表す。但し、X
18の価数は、p1+1である。
**は、上記一般式(1A)中、X
11、X
12、若しくはX
13と結合する部分、又は、X
11、X
12、若しくはX
13が単結合の場合はセルロース骨格の2位、3位、若しくは6位にある酸素原子と結合する部分を表す。また、**は、上記一般式(1B)中、X
16若しくはX
17と結合する部分、又は、X
16若しくはX
17が単結合の場合はセルロース骨格の3位若しくは6位にある酸素原子と結合する部分を表す。
一般式(1C)において、X
18で表される炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数3〜18のシクロアルキレン基としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
一般式(1C)において、X
18で表される炭素数6〜18のアリーレン基としては特に制限はないが、例えばフェニレン基、ナフタレン基が挙げられる。
なお、上述のアルキレン基、直鎖若しくは分岐のアルキレン基、シクロアルキレン基及び、アリーレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、前述で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
一般式(1C)において、X
18で表される−O−、−NH−、−S−、及び−C(=O)−からなる群より選ばれる1つ若しくは2つ以上を連結した連結基としては特に制限はないが、例えば−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−(CH
2)
2−O−、−C(=O)−NH−C(CH
3)−(CH
2−O−)
2が挙げられる。
一般式(1C)において、X
18としては、単結合、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−が好ましい。
なお、一般式(1C)で表される基において、R
1Cが水素原子又はメチル基であり、X
18が単結合であり、p1が1である基は、(メタ)アクリロイル基である。
【0062】
一般式(1C)において、p1は、1であることが好ましい。
一般式(1C)で表される基の好ましい態様としては、後述する式(1C−1)〜(1C−6)で表される基が挙げられる。なお、一般式(1C)で表される基の具体例については後述する。
【0063】
一般式(1A)で表される分子構造を有するセルロース誘導体の好ましい態様は、一般式(1a)で表される分子構造を有するセルロース誘導体、又は、一般式(1b)で表される分子構造を有するセルロース誘導体である。具体的には、一般式(1a)において、疎水性基(R
11、R
12又はR
13)が、炭素数2〜4のアシル基(特に好ましくはブチリル基)であって、不飽和二重結合を有する基(R
11、R
12又はR
13)が、(メタ)アクリロイル基、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−C(=O)−CH=CH
2であって、m11、t11及びr11が、それぞれ独立に、0以上3以下の整数であって、n13が、2以上300以下である態様;一般式(1b)において、疎水性基(R
11、R
12又はR
13)が、炭素数2〜4のアシル基(特に好ましくはブチリル基)であって、不飽和二重結合を有する基(R
11、R
12又はR
13)が、(メタ)アクリロイル基、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−C(=O)−CH=CH
2であって、m12、t12及びr12が、それぞれ独立に、0以上3以下の整数であって、n13が、2以上300以下である態様である。
【0064】
また、一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体の好ましい態様は、一般式(1B)において、疎水性基(R
16又はR
17)が、炭素数2〜4のアシル基(特に好ましくはブチリル基)であって、不飽和二重結合を有する基(R
16又はR
17)が、(メタ)アクリロイル基、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−C(=O)−CH=CH
2であって、L
1が炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基であって(−NHCOL
1は疎水性基に相当)、X
16及びX
17が単結合であって、n12が、2以上300以下である態様である。
【0065】
以下に、一般式(1C)で表される基の一例(不飽和二重結合を有する基の一例)を示す。一般式(1C)で表される基はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、下記一般式(1C−1)〜(1C−6)中、**は、結合位置を表す。
【0068】
なお、一般式(1C−5)で表される基は、一般式(1C)で表される基において、X
18が下記一般式(1C−7)で表される3価の連結基であり、R
1Cが水素原子であり、p1が2である基に該当する。なお、一般式(1C−7)中、***は、上記一般式(1C−5)における(COCH=CH
2)のCOに結合する炭素原子と結合する部分を表す。
【0070】
上記一般式(1C)で表される基(不飽和二重結合を有する基の一例)の中でも、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、一般式(1C−1)、(1C−3)、(1C−5)、(1C−6)で表される基が好ましく、一般式(1C−1)、(1C−3)で表される基がより好ましい。
【0071】
−モノマー単位あたりの水酸基の平均個数−
本実施形態におけるセルロース誘導体において、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数は、セルロース誘導体の精製性を向上させる観点、及び、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、0.3個以下であり、好ましくは0.2個以下、より好ましくは0.1個以下である。
【0072】
−不飽和二重結合を有する基の置換度−
セルロース誘導体が有する不飽和二重結合を有する基の置換度は、セルロース誘導体の架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、0.01以上2.0以下であり、好ましくは0.1以上1.5以下、より好ましくは0.2以上1.0未満である。
【0073】
−不飽和二重結合を有する基の置換度/疎水性基の置換度−
本実施形態におけるセルロース誘導体において、不飽和二重結合を有する基の置換度と、疎水性基の置換度との比(不飽和二重結合を有する基/疎水性基)は、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、好ましくは3.0×10
−3以上2.0以下、より好ましくは3.0×10
−2以上1.0以下、さらに好ましくは7.0×10
−2以上0.5以下である。
【0074】
不飽和二重結合を有する基の置換度及び疎水性基の置換度は、H
1−NMRにより、各置換基が有する特徴的なプロトンピークの積分値から算出される。具体的には、本実施形態におけるセルロース誘導体を重クロロホルムに溶解させた溶液について、以下の測定条件でH
1−NMRスペクトルを測定し、測定されたH
1−NMRスペクトルに基づき、後述する実施例に示すように、不飽和二重結合を有する基に由来するプロトンピーク;疎水性基に由来するプロトンピーク;セルロース骨格由来のプロトンピーク(例えばβ−グルコースモノマー単位にあるプロトンピーク等);セルロース骨格がヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の場合、HPC由来のプロトンピーク鎖中のヒドロキシプロピル基が有するメチン基のプロトンピーク;等の積分値に基づき算出される。
なお、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数は、上記方法で算出された不飽和二重結合を有する基の置換度及び疎水性基の置換度を、3から減ずることで算出される。
−測定条件−
装置 :BRUKER製:ULTRASHIELD400PLUS(型番)
周波数:400MHz
【0075】
(重量平均分子量)
本実施形態におけるセルロース誘導体の重量平均分子量は、架橋によって適度な弾性を有する液晶フィルムを得る観点から、好ましくは2万以上20万以下、より好ましくは5万以上20万以下、さらに好ましくは10万以上20万以下である。
上記セルロース誘導体の重量平均分子量は、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)(ポリスチレン標準)により算出される。より詳細には、以下の測定条件で得られた測定結果からポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出される。
−測定条件−
装置 :東ソー社製:HLC−8220GPC(型番)
溶剤 :テトラヒドロフラン
カラム :0021815 TSKgel SuperMultiporeHZ−N(粒子径3μm、内径4.6mm×長さ15cm、東ソー社製)
流速 :0.15mL/分
試料濃度:2.0質量%
注入量 :10μL
検出器 :示差屈折検出器
温度 :40℃
【0076】
以下に、一般式(1A)で表される分子構造、及び、一般式(1B)で表される分子構造の具体例を示す。なお、一般式(1A)及び一般式(1B)で表される分子構造はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0080】
上記式(1−1)〜式(1−8)は、一般式(1A−1)において、−R
1−O−が、−CH
2−CH(CH
3)−であり、m1が2であり、t1が2であり、r1が0である場合の例であるが、上記例以外の具体例としては、m1、t1、及びr1を、それぞれ独立に0以上10以下に置き換えた分子構造が挙げられる。
また、上記式(1−9)〜式(1−13)は、一般式(1A−1)において、−R
1−O−が、−CH
2−CH
2−であり、m1が2であり、t1が2であり、r1が0である場合の例であるが、上記例以外の具体例としては、m1、t1、及びr1を、それぞれ独立に0以上10以下に置き換えた分子構造が挙げられる。
【0081】
<セルロース誘導体の含有量>
本実施形態の液晶材料では、液晶材料の全体に占める上記セルロース誘導体の比率が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0082】
<その他の成分>
本実施形態の液晶材料は、本実施形態の効果を奏しない範囲内において、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、重合開始剤、架橋剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤(剥離剤)、耐光剤、耐候剤、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤等が挙げられる。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤(例えば熱重合開始剤、光重合開始剤)を用いることができる。
【0083】
<セルロース誘導体の合成方法>
本実施形態におけるセルロース誘導体は、例えば以下の方法で合成される。
なお、以下では、セルロース誘導体の一例として、一般式(1A)で表される分子構造を有するヒドロキシプロピルセルロース誘導体を合成する方法について説明する。
出発物質としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を溶媒に溶解してHPC溶液を調製する。
HPC溶液と、不飽和二重結合を有する基を持つ化合物(以下、「重合性化合物」とも称する)及び疎水性基を有する化合物(以下、「疎水性化合物」とも称する)の少なくとも1つを混合する。
次に、この混合溶液中で、HPCと、重合性化合物及び疎水性化合物を反応させ、HPCのモノマー単位にある3つの水酸基の水素原子を、不飽和二重結合を有する基又は疎水性基で置換する(HPCの側鎖(末端)に不飽和二重結合を有する基又は疎水性基を導入する)。なお、HPC溶液と、重合性化合物及び疎水性化合物の一方を混合して、HPCの側鎖に一方を導入した後、他方を混合してHPCの側鎖に他方を導入することが好ましい。これにより、一般式(1a)(一般式(1A)の一例)で表される分子構造を有するHPC誘導体が得られる。
【0084】
なお、上記合成において、例えば出発物質としてヒドロキシエチルセルロースを用いれば、一般式(1b)(一般式(1A)の一例)で表される分子構造を有するセルロース誘導体が得られる。
また、上記方法に準じる方法により、一般式(1A)で表される分子構造を有するセルロース誘導体を、例えば以下の方法で得ることができる。
まず、セルロース骨格の2位、3位、6位に結合する酸素原子と水素原子との間に、公知の方法により、アルキレン基、−(R
14−O)
h−(R
14;アルキレン基、h;1以上10以下の整数)、又は、−C(=O)−R
15−(R
15;アルキレン基)を有する連結基を導入したセルロース誘導体を準備し、これを出発物質とする。次に、このセルロース誘導体(出発物質)の末端にある水素原子を、上記方法に準じる方法により不飽和二重結合を有する基又は疎水性基で置換する。これにより、一般式(1A)で表される分子構造を有するセルロース誘導体が得られる。
また、上記方法に準じる方法により、一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体を、例えば以下の方法で得ることができる。
まず、キトサン骨格の3位、6位に結合する酸素原子と水素原子との間に、公知の方法により、アルキレン基、−(R
18−O)
i−(R
18;アルキレン基、i;1以上10以下の整数)、又は、−C(=O)−R
19−(R
19;アルキレン基)を有する連結基を導入したセルロース誘導体(キトサン誘導体)を準備し、これを出発物質とする。次に、このセルロース誘導体の末端にある水素原子を、上記方法に準じる方法により不飽和二重結合を有する基又は疎水性基で置換し、かつキトサン骨格の2位にある−NH
2を−NHCO−L
1(L
1;アルキル基)で置換する。これにより、一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体が得られる。
【0085】
出発物質(例えばHPC)としては、調製したものを用いても、市販のものを用いてもよい。
溶媒としては、出発物質を溶解できるものであれば特に制限されない。溶媒としては、例えばアセトン等のケトン類;メトキシプロパノール、エトキシエタノール、プロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン;等を挙げることができる。
不飽和二重結合を有する基を持つ化合物(重合性化合物)としては、前述の不飽和二重結合を有する基を有し、その不飽和二重結合を有する基を上記一般式(1A)におけるR
11、R
12若しくはR
13、又は、上記一般式(1B)におけるR
16若しくはR
17に導入できるものであれば特に制限されないが、中でも、ハロゲン化(メタ)アクリロイル(例えば、塩化(メタ)アクリロイル、臭化(メタ)アクリロイル等);イソシアナート(メタ)アクリレート類(例えば、昭和電工社製のカレンズMOI(2−イソシアナトエチルメタクリレート)、カレンズAOI(2−イソシアナトエチルアクリラート)、カレンズBEI(1,1-ビスアクリロイルオキシメチル(エチルイソシアナート))、カレンズMOI−EG等);が好ましい。
疎水性基を有する化合物(疎水性化合物)としては、前述の疎水性基を有し、その疎水性基を上記一般式(1A)におけるR
11、R
12若しくはR
13、又は、上記一般式(1B)におけるL
1、R
16若しくはR
17に導入できるものであれば特に制限されないが、中でも、ハロゲン化アシル(例えば、塩化アシル(アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、ブチリルクロリド、ペンタノイルクロリド等)、臭化アシル(アセチルブロミド、プロピオニルブロミド、ブチリルブロミド、ペンタノイルブロミド等);が好ましい。
なお、具体的なセルロース誘導体の合成方法の一例については、後述する実施例の項にて説明する。
【0086】
〔液晶フィルム〕
本実施形態の液晶フィルムは、三次元構造を有し、一般式(2A)又は一般式(2B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体を含み、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数が、0.3個以下であり、セルロース誘導体が、モノマー単位同士を連結する連結基を有する基を含む。
本実施形態において、三次元構造(つまり架橋構造)を有するセルロース誘導体は、前述の一般式(1A)又は一般式(1B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体のモノマー単位同士を架橋することにより得られる。一般式(1A)又は一般式(1B)で表される分子構造は、前述の通り、水酸基の平均個数及び不飽和二重結合を有する基の置換度が特定の範囲に制御されたセルロース誘導体である。
したがって、本実施形態における三次元構造を有するセルロース誘導体は、上記不飽和二重結合が開裂することで生じた連結基によって、モノマー単位同士が適度に連結(架橋)されて得られたもの、すなわち、セルロース誘導体のポリマーが架橋されて得られたものであり、また、水酸基を実質含まない。
ここで、セルロース誘導体が水酸基を実質含まないとは、モノマー単位あたりの水酸基の平均個数が0.3個以下であることを意味し、好ましくは0.2個以下、より好ましくは0.1個以下であることを意味する。
本実施形態では、上記三次元構造が、液晶フィルムの弾性の発現に寄与していると考えられる。また、三次元構造を有する上記セルロース誘導体は、水酸基を実質含まないことで、精製性が向上する。この精製性の向上は、液晶フィルムのコレステリック液晶性の発現、及び、弾性の発現に寄与すると考えられる。
したがって本実施形態の液晶フィルムによれば、弾性を有し、さらにブラッグ反射の波長で配向が固定化される。さらに、機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる。
【0087】
ここで、三次元構造の形成(架橋構造)は、架橋前後の液晶フィルムを溶媒に溶解することで確認することができる。
具体的には、架橋後の液晶フィルムは三次元構造が形成されているため、溶媒(例えばアセトン)に溶解しないが、三次元構造が形成されていない架橋前の液晶フィルム(つまり液晶材料)は溶媒に溶解する。このように溶媒に対する溶解性の有無を比較することにより、三次元構造の形成を確認することができる。
また、本実施形態の液晶フィルムは、架橋剤を用いなくても三次元構造が形成されるため、比較的簡易な方法で製造することができる。なお、架橋剤を用いてモノマー単位同士を架橋させてもよい。
また、本実施形態の液晶フィルムは、モノマー単位同士が架橋されている構造(三次元構造)を有するが、これはモノマー単位内での架橋を排除するものではない。
【0088】
<セルロース誘導体>
本実施形態におけるセルロース誘導体(以下、「三次元構造を有するセルロース誘導体」とも称する)は、一般式(2A)又は一般式(2B)で表される分子構造を有する。
【0089】
(一般式(2A)で表される分子構造)
一般式(2A)で表される分子構造を以下に示す。
【0091】
一般式(2A)中、X
21、X
22及びX
23は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、−(R
24−O)
j−、又は、−C(=O)−R
25−を表し、R
21、R
22及びR
23は、それぞれ独立に、水素原子、前記連結基を有する基、又は、疎水性基であり、R
24及びR
25は、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、jは、1以上10以下の整数を表し、n21は、2以上800以下の整数を表す。
【0092】
一般式(2A)において、X
21、X
22及びX
23で表されるアルキレン基としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
【0093】
一般式(2A)において、X
21、X
22及びX
23で表される−(R
24−O)
j−、及び、−C(=O)−R
25−としては、前述の一般式(1A)における−(R
14−O)
h−、及び、−C(=O)−R
15−と同様のものが挙げられる。なお、−(R
24−O)
j−は、アルキレンオキシ基(アルキレンエーテル基)又はポリアルキレンオキシ基(ポリアルキレンエーテル基)である。
【0094】
一般式(2A)において、R
21、R
22及びR
23で表される、モノマー単位同士を連結する連結基を有する基(以下、単に「連結基を有する基」とも称する)としては特に制限されないが、例えば、一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基が開裂することで生じる連結基が挙げられる。
【0095】
一般式(2A)において、R
21、R
22及びR
23で表される疎水性基としては、前述の一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される疎水性基と同様のものが挙げられる。
すなわち、疎水性基の中でも、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、炭素数2〜18のアシル基(直鎖、分岐のいずれも可。以下同様。)がより好ましく、炭素数2〜8のアシル基がより好ましく、炭素数2〜4のアシル基がさらに好ましく、炭素数4のアシル基(すなわちブチリル基)が特に好ましい。
【0096】
一般式(2A)において、n21としては、適度な弾性を有する観点から、2以上800以下であり、好ましくは2以上400以下、より好ましくは2以上300以下である。
【0097】
一般式(2A)において、R
21、R
22及びR
23で表される連結基を有する基の好ましい態様については後述する。
【0098】
(一般式(2B)で表される分子構造)
一般式(2B)で表される分子構造を以下に示す。
【0100】
一般式(2B)中、X
26及びX
27は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基、−(R
28−O)
k−、又は、−C(=O)−R
29−を表し、R
26及びR
27は、それぞれ独立に、水素原子、前記連結基を有する基、又は、疎水性基を表し、R
28及びR
29は、それぞれ独立に、アルキレン基を表し、L
2は、アルキル基を表し、kは、1以上10以下の整数を表し、n22は、2以上800以下の整数を表す。
【0101】
一般式(2B)において、X
26及びX
27で表されるアルキレン基としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
【0102】
一般式(2B)において、X
26及びX
27で表される−(R
28−O)
k−、及び、−C(=O)−R
29−としては、前述の一般式(1A)における−(R
14−O)
h−、及び、−C(=O)−R
15−と同様のものが挙げられる。
【0103】
一般式(2B)において、R
26及びR
27で表される、連結基を有する基としては特に制限されないが、例えば、一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される不飽和二重結合を有する基が開裂することで生じる連結基が挙げられる。
【0104】
一般式(2B)において、R
26及びR
27で表される疎水性基としては、前述の一般式(1A)におけるR
11、R
12及びR
13で表される疎水性基と同様のものが挙げられる。
すなわち、疎水性基の中でも、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、炭素数2〜18のアシル基(直鎖、分岐のいずれも可。以下同様。)がより好ましく、炭素数2〜8のアシル基がより好ましく、炭素数2〜4のアシル基がさらに好ましく、炭素数4のアシル基(すなわちブチリル基)が特に好ましい。
【0105】
一般式(2B)において、L
2で表されるアルキル基としては、前述の一般式(1A)におけるL
1で表されるアルキル基と同様のものが挙げられる。すなわち、L
2で表されるアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基が好ましい。
【0106】
一般式(2B)において、n22としては、適度な弾性を有する観点から、2以上800以下であり、好ましくは2以上400以下、より好ましくは2以上300以下である。
【0107】
一般式(2B)において、R
26及びR
27で表される連結基を有する基の好ましい態様については後述する。
【0108】
(モノマー単位を連結する連結基を有する基)
一般式(2A)又は一般式(2B)で表される連結基を有する基としては、適度な弾性を有する観点から、下記一般式(2C)で表される基が好ましい。
【0110】
一般式(2C)中、R
2Cは、水素原子又はメチル基を表し、X
28は、単結合、又は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、炭素数3〜18のシクロアルキレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、−O−、−NH−、−S−、及び−C(=O)−からなる群より選ばれる1つ若しくは2つ以上を連結した連結基を表し、p2は、1又は2の整数を表す。
*は、モノマー単位同士が連結されたときの結合位置を表す。**は、上記一般式(2A)中、X
21、X
22、若しくはX
23と結合する部分、又は、X
21、X
22、若しくはX
23が単結合の場合はセルロース骨格の2位、3位、若しくは6位にある酸素原子と結合する部分を表す。また、**は、上記一般式(2B)中、X
26若しくはX
27と結合する部分、又は、X
26若しくはX
27が単結合の場合はセルロース骨格の3位若しくは6位にある酸素原子と結合する部分を表す。
【0111】
一般式(2C)において、X
28で表される炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数3〜18のシクロアルキレン基としては、前述の一般式(1A)におけるX
11、X
12及びX
13で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
一般式(2C)において、X
28で表される炭素数6〜18のアリーレン基としては特に制限はないが、例えばフェニレン基、ナフタレン基が挙げられる。
一般式(2C)において、X
28で表される−O−、−NH−、−S−、及び−C(=O)−からなる群より選ばれる1つ若しくは2つ以上を連結した連結基としては特に制限はないが、例えば−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−(CH
2)
2−O−、−C(=O)−NH−C(CH
3)−(CH
2−O−)
2が挙げられる。
一般式(2C)において、X
28としては、単結合、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−が好ましい。
なお、一般式(2C)で表される基において、R
2Cが水素原子又はメチル基であり、X
18が単結合であり、p2が1である基は、(メタ)アクリロイル基が開裂することで生じる連結基である。
【0112】
一般式(2C)において、p2は、1であることが好ましい。
一般式(2C)で表される基の好ましい態様としては、適度な弾性を有する観点から、後述する一般式(2C−1)〜一般式(2C−6)が挙げられる。なお、一般式(2C)で表される基の具体例については後述する。
【0113】
一般式(2A)又は一般式(2B)で表される分子構造を有するセルロース誘導体の好ましい態様は、一般式(2A)において、疎水性基(R
21、R
22又はR
23)が、炭素数2〜4のアシル基(特に好ましくはブチリル基)であって、連結基を有する基(R
21、R
22又はR
23)が、一般式(2C)で表される基(好ましくは一般式(2C)中、X
28が、単結合、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−である基)であって、n21が、2以上300以下である態様;一般式(2B)において、疎水性基(R
26又はR
27)が、炭素数2〜4のアシル基(特に好ましくはブチリル基)であって、連結基を有する基(R
26又はR
27)が、一般式(2C)で表される基(好ましくは一般式(2C)中、X
28が、単結合、又は、−C(=O)−NH−(CH
2)
2−O−である基)であって、L
2が炭素数1〜3のアルキル基であって、n23が、2以上300以下である態様である。
【0114】
以下に、一般式(2C)で表される基の一例(モノマー単位同士を連結する連結基を有する基の一例)を示す。一般式(2C)で表される基はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、*及び**は、結合位置を表す。
【0117】
なお、一般式(2C−5)で表される連結基は、一般式(2C)で表される連結基において、X
28が下記一般式(B5−1)で表される3価の連結基であり、R
2Cが水素原子であり、p2が2である基に該当する。
【0119】
上記一般式(2C)で表される連結基を有する基の中でも、適度な弾性を有する観点から、一般式(2C−1)、(2C−3)、(2C−5)、(2C−6)で表される基が好ましく、一般式(2C−1)及び一般式(2C−3)で表される基がより好ましい。
【0120】
<疎水性基の置換度>
本実施形態の液晶フィルムにおいて、疎水性基のモノマー単位あたりの置換度(疎水性基の置換度)は、セルロース誘導体中の上記連結基を有する基の比率を調整し、液晶フィルムに適度な弾性を付与する観点から、好ましくは1.0以上2.9以下であり、より好ましくは2.0以上2.9以下であり、さらに好ましくは2.5以上2.9以下である。
本実施形態の液晶フィルムにおける疎水性基の置換度は、上述の液晶材料における疎水性基の置換度と同様の方法により測定することができる。
【0121】
(重量平均分子量)
本実施形態において、三次元構造を有するセルロース誘導体の重量平均分子量は、特に制限されない。
【0122】
以下に、一般式(2A)で表される分子構造、及び、一般式(2B)で表される分子構造の具体例を示す。なお、一般式(2A)又は一般式(2B)で表される分子構造はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、*は結合位置を表す。
【0126】
上記式(2−1)〜式(2−8)は、一般式(2A−1)において、−R
2−O−が、−CH
2−CH(CH
3)−であり、m2が2であり、t2が2であり、r2が0である場合の例であるが、上記例以外の具体例としては、m2、t2、及びr2を、それぞれ独立に0以上10以下に置き換えた分子構造が挙げられる。
また、上記式(2−9)〜式(2−13)は、一般式(2A−1)において、−R
2−O−が、−CH
2−CH
2−であり、m2が2であり、t2が2であり、r2が0である場合の例であるが、上記例以外の具体例としては、m2、t2、及びr2を、それぞれ独立に0以上10以下に置き換えた分子構造が挙げられる。
【0127】
<三次元構造を有するセルロース誘導体の含有量>
本実施形態の液晶フィルムでは、液晶フィルムの全体に占める三次元構造を有するセルロース誘導体の比率が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
<その他の成分>
本実施形態の液晶フィルムは、本実施形態の効果を奏しない範囲内において、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、重合開始剤、架橋剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤(剥離剤)、耐光剤、耐候剤、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤等が挙げられる。重合開始剤としては、公知の重合開始剤(例えば熱重合開始剤、光重合開始剤)を用いることができる。
【0128】
<液晶フィルムの製造方法>
本実施形態の液晶フィルムの製造方法は、基板上に、上記実施形態の液晶材料を付与する工程(以下、「液晶材料付与工程」とも称する)と、基板上に付与された液晶材料に、熱を加える工程(以下、「熱付与工程」とも称する)又は紫外線を照射する工程(以下、「紫外線照射工程」とも称する)と、を有する。
本実施形態の液晶フィルムの製造方法では、上記工程を経ることにより、弾性を有し、ブラッグ反射が特定の波長で固定化された液晶フィルムを得ることができる。さらに、機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる液晶フィルムを製造することができる。
【0129】
(液晶材料付与工程)
液晶材料付与工程は、基板上に、上記実施形態の液晶材料を付与する工程である。
基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板(例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド(PI)基板等)、アルミ基板やステンレス基板等の金属基板、シリコン基板等の半導体基板等を用いることができる。
基板の厚さ、形状は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することが好ましい。
基板上への液晶材料の付与方法としては、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法等の塗布法;インクジェット法;スクリーン印刷法;減圧注入法等の注入法;等が挙げられる。
液晶材料の形態は、固形状(例えば粉末)であっても液状であってもよい。
液晶材料が固形状である場合は、使用する際に溶媒と混合して液状にすればよく、液晶材料が基板上に付与できる程度の液状を有する場合は、そのまま用いてもよいし、溶媒と混合して使用しやすい粘度に調整したものを用いてもよい。
なお、基板に付与される上記液晶材料は、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、既述のその他の成分(例えば重合開始剤、剥離剤)と同様のものが挙げられる。
溶媒としては特に制限されず、例えば、既述のセルロース誘導体の合成方法の項で例示した溶媒を用いることができる。
【0130】
(熱付与工程)
熱付与工程は、基板上に付与された液晶材料に、熱を加え、液晶材料を硬化させる工程である。上記熱付与工程により、架橋前のセルロース誘導体が有していた不飽和二重結合が開裂してモノマー単位同士が連結基を介して連結(架橋)され、結果、弾性が発現される。またブラッグ反射の波長で配向が固定化される。
熱付与方法としては特に制限されず、例えば公知の加熱装置(オーブン、赤外線ヒーター、ホットプレート)を用いて熱を加える方法が挙げられる。
液晶材料に熱を付与する際の温度は、適度な弾性を有する観点、及び、ブラッグ反射の波長で配向を固定化する観点から、好ましくは25℃以上130℃以下、より好ましくは25℃以上120℃以下、さらに好ましくは25℃以上110℃以下である。なお、液晶材料に熱を付与する際の温度は、液晶材料が上記範囲になるように制御される。
なお、熱付与工程では、熱付与条件(温度、加熱時間等)を制御することにより、ブラッグ反射の波長で配向が固定化されやすくなる。
【0131】
(紫外線照射工程)
紫外線照射工程は、基板上に付与された液晶材料に、紫外線を照射し、液晶材料を硬化させる工程である。上記紫外線照射工程により、架橋前のセルロース誘導体が有していた不飽和二重結合が開裂してモノマー単位同士が連結基を介して連結(架橋)され、結果、弾性が発現される。またブラッグ反射の波長で配向が固定化される。
液晶材料に紫外線を照射する際の温度(以下、「UV照射温度」とも称する)は、好ましくは25℃以上130℃以下、より好ましくは25℃以上120℃以下、さらに好ましくは25℃以上110℃以下である。なお、液晶材料に紫外線を照射する際の温度は、液晶材料が上記範囲になるように制御される。
また、紫外線の照射強度(UV照度)(以下、「UV照射強度」とも称する)は、好ましくは1mW/cm
2以上20mW/cm
2以下、より好ましくは5mW/cm
2以上20mW/cm
2以下、さらに好ましくは10mW/cm
2以上20mW/cm
2以下である。
紫外線照射工程では、UV照射温度とUV照射強度とを組み合わせて制御することによって、異なるブラッグ反射で配向が固定化された液晶フィルムが得られる。
より詳細には、UV照射温度を上記範囲に制御することによって、セルロース誘導体のサーモトロピックコレステリック液晶性が発現され、目的とする色に調整しやすくなり、所望の色が得られやすくなる。そして、UV照射温度を上記範囲に制御した上で、さらにUV照射強度を上記範囲に制御することによって、UV照射温度によって得られた色が固定化される。
したがって、上記紫外線照射工程では、UV照射温度及びUV照射強度(好ましくはUV照射時間)を共に制御することによって、目的とする箇所に目的とする色を呈する多色からなる液晶フィルムが得られる。
なお、このような多色からなる液晶フィルム(つまり異なるブラッグ反射での配向が固定化されたフィルム)は、例えばフォトマスクを用いることで容易に得ることができる。詳細は後述する。
【0132】
(配向膜形成工程)
本実施形態の液晶フィルムの製造方法は、基板上に配向膜を形成する工程(配向膜形成工程)を有してもよい。
すなわち、上記液晶材料付与工程の前に配向膜形成工程を有してもよい。配向膜を形成することにより、熱付与工程又は紫外線照射工程において、ブラッグ反射の波長での配向の固定化が容易に行える。なお、配向膜にラビング処理を施すことが好ましい。
以上の工程を経て、本実施形態の液晶フィルムが得られる。
液晶フィルムの厚さは特に制限されないが、好ましくは50μm以上2000μm以下、より好ましくは100μm以上1500μm以下、さらに好ましくは200μm以上1000μm以下である。
なお、液晶フィルムは、基板から剥離して用いてもよいし、基板上に形成したまま用いてもよい。
【0133】
ここで、異なるブラッグ反射の波長で配向が固定化された液晶フィルムの製造方法の一例について
図1(A)、
図1(B)を参照しながら説明する。ここでは、T字形状に加工されたフォトマスク(ネガティブフォトレジスト使用)を用いて液晶フィルムを製造する方法について説明する。
図1(A)に示すように、第1の基板12上に配向膜(不図示)を形成し、配向膜にラビング処理を施す。同様にして、第2の基板14上に配向膜(不図示)を形成し、必要に応じて配向膜にラビング処理を施す。次に、配向膜が形成された第1の基板12及び第2の基板14の間に、スペーサー(不図示)を介して、液晶材料18を注入する。これにより、液晶セル10を得る。液晶セル10は、配向膜付き第1の基板12及び配向膜付き第2の基板14と、これらの基板の間にスペーサー(不図示)を介して設けられた液晶材料18とで構成される。
次に、液晶セル10の上方にT字形状に切り抜かれたフォトマスク16を配置し、配向膜が形成された第1の基板12の側から、液晶セル10(液晶材料)の温度が第1の温度(
図1(A)中、X℃:例えば105℃)となるように液晶セル10を加熱する。その後、液晶セル10に対し、紫外線をフォトマスク16の開口部(T字形状)を通過させて所定の照射強度で所定時間照射する(第1のUV照射)。これにより、第1の温度で第1のUV照射が行われた液晶材料の部分の配向が第1のブラッグ反射で固定化される。
次に、フォトマスク16を外し、液晶セル10を、第1の温度(X℃)よりも低い第2の温度(
図1(B)中、Y℃:例えば95℃)まで冷却し、第2の温度を維持する。その後、第2の温度を保ったまま紫外線を液晶セル10全体に所定の照射強度で所定時間照射する(第2のUV照射)。これにより、第2の温度で第2のUV照射が行われた液晶材料の部分の配向が第2のブラッグ反射で固定化される。
以上の工程を経て、異なるブラッグ反射で配向が固定化された液晶フィルム20、及び、液晶フィルム20を備える液晶セル10Aが得られる。液晶セル10Aは、配向膜付き第1の基板12及び配向膜付き第2の基板14と、これらの基板の間にスペーサー(不図示)を介して設けられた上記液晶フィルム20とで構成される。
なお、紫外線を照射する際の液晶セル(液晶材料)の温度は、第1の温度(
図1(A)中、X℃)を第2の温度(
図1(B)中、Y℃)よりも高くすることが好ましい。これにより、異なるブラッグ反射で配向を固定化しやすくなる。なお、第1の温度を第2の温度より低くしてもよい(X℃<Y℃)。また、配向膜は形成しなくてもよい。
【0134】
<液晶フィルムの用途>
本実施形態の液晶フィルムは、例えば、偏光フィルム、位相差フィルム、バックライト、反射防止フィルム、光拡散フィルム、輝度向上フィルム、防眩フィルム等の光学フィルム;物体の歪み、伸縮、振動、衝撃等に起因する変形を、反射の波長(好ましくは反射色)によって検出するセンサー(圧力センサー、歪みセンサー、伸縮センサー、振動センサー、衝撃センサー等);脈波、呼吸、心弾動等の生体情報を、反射の波長(好ましくは反射色)によって検出するウェアラブルセンサー;上記光学フィルムを利用した光学素子;前記以外の光学素子;液晶表示素子;等に搭載して利用することができる。
本実施形態の液晶フィルムは、弾性を有し、機械的応力の印加によって、印加応力に対応する波長の反射光を得ることができるので、反射の波長(好ましくは反射色)によって機械的応力を検出できるセンサー、又は、機械的応力の印加によって反射光が得られる光学素子に搭載して利用することが好ましい。
【0135】
〔センサー〕
本実施形態のセンサーは、上記実施形態の液晶フィルムを備える。
センサーとしては、例えば、上記で例示した各種センサーが挙げられる。
【0136】
<歪みセンサー>
本実施形態のセンサーは、物体の歪みを検出する歪みセンサーであることが好ましい。
本実施形態の歪みセンサーは、上記実施形態の液晶フィルムを備えるため、物体の歪みに起因する変形を、反射の波長(好ましくは反射色)によって検出することができる。
例えば本実施形態の歪みセンサーを、歪みが生じやすい物体(例えば橋梁や建物等の構造物)の箇所に予め設置しておくことによって、物体の歪みの程度を検出することができる。また、その歪み(変形)に起因する機械的応力を可視的に、すなわち反射の波長(好ましくは反射色)によって検出することができる。
【0137】
<ウェアラブルセンサー>
本実施形態のセンサーは、生体情報を検出するウェアラブルセンサーであることが好ましい。ウェアラブルセンサーとは、身につけて使用できる比較的小型のセンサーのことである。
本実施形態のウェアラブルセンサーは、上記実施形態の液晶フィルムを備えるため、生体情報を、反射の波長(好ましくは反射色)によって検出することができる。
例えば本実施形態の歪みセンサーを、生体情報を取得したい箇所に直接(例えば肌に)貼り付ける若しくは装着する、又は、衣類、下着、靴下、手袋、ネクタイ、ハンカチ、マフラー、時計、メガネ、靴、スリッパ、帽子等に貼り付ける若しくは装着することによって、生体情報(脈波、呼吸、心弾動、体動(筋肉の動き等)など)を可視的に、すなわち反射の波長(好ましくは反射色)によって取得することができる。
【0138】
〔光学素子〕
本実施形態の光学素子は、上記実施形態の液晶フィルムを備える。
本実施形態の光学素子を、例えば人為的に機械的応力を印加する、又は、自然に機械的応力がかかる箇所に予め設置することにより、その応力に対応する異なる反射光が得られる。このような光学素子の用途としては、玩具、非常用光源、インテリア(置物、棚等)、建築部材(床、壁、階段等)、食器、容器等が挙げられる。
【実施例】
【0139】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」はすべて質量基準である。「wt%」は質量%を意味する。
【0140】
〔実施例1〕
<液晶材料1の作製>
下記スキームAに従ってセルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロース誘導体1(以下、「HPC誘導体1」とも称する)を合成した。
ヒドロキシプロピオセルロース(HPC)を減圧下、室温(25℃)で12時間以上乾燥した。窒素を充填した三口フラスコに3.0gのHPCを秤量し,10mLの脱水アセトンに撹拌しながら溶解し、HPC溶液を得た。このとき、β−グルコースモノマーユニット(モノマー単位)におけるヒドロキシ基のモル数は、MS値(モノマーユニット当たりのヒドロキシプロピル基の平均数)から15mmolと算出された。HPC溶液をアルミホイルで遮光し、室温の状態で塩化アクリロイル1.0mL(12mmol)を加えた。室温下、遮光中で24時間反応させた後、塩化ブチリル7.9mL(76mmol)を加え、さらに24時間反応させた。反応終了後、遮光状態を維持したまま、反応溶液を500mLの超純水に投入し、黒色のもち状生成物を得た。超純水で生成物の洗浄を行い、乾燥した.引き続き、少量のアセトンで生成物を溶解した後、500mLの超純水に再析出した。この再溶解、再析出の操作を3回行い、白色もち状の生成物を得た。生成物を超純水で洗浄した後、冷暗所で2日間乾燥することで、HPC誘導体1として、HPC側鎖(HPCが有する水酸基の水素原子)が、アクリロイル基又はブチリル基で置換された「HPCアクリロイル/ブチリル混合エステル」(以下、HPC−Ac/BuE(1)とも称する)を得た。これを液晶材料1とした。なお、収量は2.5gであった。
また、既述の方法により、HPC−Ac/BuE(1)の重量平均分子量を測定した結果、重量平均分子量は、1.5×10
5であった。
なお、HPC−Ac/BuE(1)は、一般式(1A)において、X
11が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
11がアクリロイル基であり、X
12が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
12がブチリル基であり、X
13が単結合であり、R
13がブチリル基であり、n11が250である分子構造を有するHPC誘導体である。
【0141】
【化30】
【0142】
(
1H−NMRスペクトルの測定)
HPC−Ac/BuE(1)(液晶材料1)の
1H−NMRスペクトルを測定した。結果を以下に示す。
まず、HPC−Ac/BuE(1)由来ではないピークとして重クロロホルムのプロトンのピークが7.2ppmにある。HPC−Ac/BuE(1)由来のピークとして、5.8ppm、6.1ppm、6.4ppm付近のピーク(a、b、c)はそれぞれアクリロイル基の二重結合につくプロトンのピークであり、4.7ppm〜5.2ppm付近のピーク(e)は末端のヒドロキシプロピル基のメチン基のメチレン基由来のプロトンのピークである。2.7ppm〜4.5ppm付近のピークは、β−グルコースモノマーユニットにあるプロトンと鎖中のヒドロキシプロピル基が有するメチン基のプロトンのピーク(HPC骨格由来のプロトンピーク、スペクトル中「HPC」と表示)である。2.3ppm付近のピークはカルボキシル基に隣接するブチリル基のメチレン基(f)のプロトンのピークである。1.6ppm付近のピークはブチリル基の末端に隣接するメチレン基(g)のプロトンのピークである。0.9ppm〜1.0ppm付近のピークはブチリル基の末端のメチル基(h)のプロトンのピークであり、1.0ppm〜1.3ppm付近のピークはヒドロキシプロピル基の末端のメチル基(d)のプロトンのピークである。
帰属したピークをもとに、HPC側鎖(HPCが有する水酸基の水素原子)へのアクリロイル基の置換度(以下、「アクリロイル化度」とも称する)及びブチリル基の置換度(以下、「ブチリルエステル化度」とも称する)を算出した。その結果、アクリロイル基の置換度は0.77であり、ブチリル基の置換度は2.06であった。
【0143】
【化31】
【0144】
〔実施例2〕
<液晶材料2の作製>
上記スキームAに準じて、セルロース誘導体としてHPC誘導体2を合成した。
塩化アクリロイルの添加量を5.0mL(62mmol)に変更し、塩化ブチリルの添加量を4.3mL(41mmol)に変更したこと以外は、HPC−Ac/BuE(1)と同様にして、HPC−Ac/BuE(2)(HPC誘導体2)を得た。これを液晶材料2とした。なお、収量は2.5gであった。
また、既述の方法により、HPC−Ac/BuE(2)の重量平均分子量を測定した結果、重量平均分子量は、1.5×10
5であった。
なお、HPC−Ac/BuE(1)は、一般式(1A)において、X
11が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
11がアクリロイル基であり、X
12が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
12がブチリル基であり、X
13が単結合であり、R
13がブチリル基であり、n11が70である分子構造を有するHPC誘導体である。
【0145】
(
1H−NMRスペクトルの測定)
既述の方法により、
1H−NMRスペクトルを測定した。
HPC−Ac/BuE(1)のピークとほぼ同様の位置に、HPC−Ac/BuE(2)由来のピーク等が確認された。
帰属したピークをもとに、HPC側鎖(HPCが有する水酸基の水素原子)へのアクリロイル基の置換度(アクリロイル化度)及びブチリル基の置換度(ブチリルエステル化度)を算出した。その結果、アクリロイル基の置換度は1.98であり、ブチリル基の置換度は0.66であった。
【0146】
〔実施例3〕
<液晶材料3の作製>
下記スキームBに従って、セルロース誘導体としてHPC誘導体3を合成した。
ヒドロキシプロピオセルロース(HPC)を減圧下、室温(25℃)で12時間以上乾燥した。窒素を充填した三口フラスコに2.0gのHPCを秤量し,10mLの脱水アセトンに撹拌しながら溶解し、HPC溶液を得た。このとき、β−グルコースモノマーユニット(構造単位)におけるヒドロキシ基のモル数は、MS値(モノマーユニット当たりのヒドロキシプロピル基の平均数)から15mmolと算出された。HPC溶液をアルミホイルで遮光し、室温の状態で2−イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工社製:カレンズAOI)0.3mL(2.4mmol)を加えた。室温下、遮光中で24時間反応させた後、塩化ブチリル5.7mL(55mmol)を加え、さらに24時間反応させた。反応終了後、遮光状態を維持したまま、反応溶液を500mLの超純水に投入し、黒色のもち状生成物を得た。超純水で生成物の洗浄を行い、乾燥した.引き続き、少量のアセトンで生成物を溶解した後、500mLの超純水に再析出した。この再溶解、再析出の操作を3回行い、白色もち状の生成物を得た。生成物を超純水で洗浄した後、冷暗所で2日間乾燥することで、HPC誘導体3として、HPC側鎖(HPCが有する水酸基の水素原子)が、CH
2=CH−C(=O)−O−(CH
2)
2−NHC(=O)−、及び、ブチリル基で置換された「HPCアクリロイル・カルバメート/ブチリル混合エステル」(以下、HPC−Ac・Ca/BuEとも称する)を得た。これを液晶材料3とした。なお、収量は1.8gであった。
なお、HPC−Ac・Ca/BuEは、一般式(1A)において、X
11が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
11がRNHCO−(Rは、CH
2=CH−C(=O)−O−(CH
2)
2−)であり、X
12が(−CH
2−CH(CH
3)−O−)
2であり、R
12がブチリル基であり、X
13が単結合であり、R
13がブチリル基であり、n11が285である分子構造を有するHPC誘導体である。
【0147】
【化32】
【0148】
(
1H−NMRスペクトルの測定)
HPC−Ac・Ca/BuEの
1H−NMRスペクトルを測定した。結果を以下に示す。
まず、HPC−Ac・Ca/BuE由来ではないピークとして重クロロホルムのプロトンのピークが7.2ppmにある。HPC−Ac・Ca/BuE由来のピークとして、5.8ppm、6.1ppm、6.4ppm付近のピーク(a、b、c)はそれぞれアクリロイル基の二重結合につくプロトンのピークであり、4.7ppm〜5.2ppm付近のピーク(e、j)は末端のヒドロキシプロピル基のメチン基、2−イソシアナトエチルアクリレートのカルバメートと隣接するメチレン基由来のプロトンのピークである。2.7ppm〜4.5ppm付近のピークは、β−グルコースモノマーユニットにあるプロトンと鎖中のヒドロキシプロピル基が有するメチン基のプロトンと2−イソシアナトエチルアクリレートのアクリレート基に隣接するメチレン基由来のプロトンのピーク(i、HPC骨格由来のプロトンピーク(スペクトル中「HPC」と表示))である。2.3ppm付近のピークはカルボキシル基に隣接するブチリル基のメチレン基(f)のプロトンのピークである。1.6ppm付近のピークはブチリル基の末端に隣接するメチレン基(g)のプロトンのピークである。0.9ppm〜1.0ppm付近のピークはブチリル基の末端のメチル基(h)のプロトンのピークであり、1.0ppm〜1.3ppm付近のピークはヒドロキシプロピル基の末端のメチル基(d)のプロトンのピークである。
詳述すると、4.7ppm〜5.2ppmのピークについては、末端のヒドロキシプロピル基がカルバメート化(もしくはエステル化)した場合のメチン基のプロトンのピークと、β−グルコースモノマーユニットの2位または3位がカルバメート化(もしくはエステル化)した場合のメチン基のプロトンのピークの可能性がある。
帰属したピークをもとに、HPC側鎖(HPCが有する水酸基の水素原子)へのCH
2=CH−C(=O)−O−(CH
2)
2−NHC(=O)−の置換度(以下、「アクリロイル・カルバメート化度」とも称する)及びブチリル基の置換度(以下、「ブチリルエステル化度」とも称する)を算出した。その結果、CH
2=CH−C(=O)−O−(CH
2)
2−NHC(=O)−の置換度は0.05であり、ブチリル基の置換度は2.9であった。
【0149】
【化33】
【0150】
上記液晶材料1〜3を用いて、液晶フィルム1〜6を作製した。
【0151】
〔実施例4〕
<液晶フィルム1の作製>
液晶配向膜として2.0wt%のポリビニルアルコール(PVA)(Aldrich社製、M
W:1.3×10
4〜2.3×10
4、加水分解度(hydrolyzed):87%〜89%)水溶液を調製した。スピンコーター(Active社製: ACT−220D II)を用いて、市販のスライドガラス(基板)に2.0wt%PVA水溶液を800rpmで10秒間、続けて2000rpmで20秒間スピン塗布し、PVA塗布基板を得た。その後、キュプラで巻いた棒を用いてPVA塗布基板を1軸方向に50回擦り、ラビング処理を施した。さらに、剥離操作に備えて、剥離剤を200 rpmで10秒間、続けて500rpmで10秒間スピン塗布した。これにより、ラビング処理及び剥離処理が施されたPVAガラス基板(以下、「ラビング・剥離処理PVAガラス基板」とも称する)を得た。なお、ラビング・剥離処理PVAガラス基板は計2枚作製した。
90°Cに加熱したホットステージ上で、2枚のラビング・剥離処理PVAガラス基板の間に200μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーとともにHPC−Ac/BuE(1)(液晶材料1)を挟んだ。さらに、せん断配向処理を施すことで、均質に配向した液晶材料1(厚さ200μm)を備えた液晶セルAを得た。
【0152】
次に、
図1に示す方法に従い、液晶フィルム1を作製した。
まず、液晶セルAの上方にT字形状に切り抜かれたフォトマスク(ネガティブパターン)を覆った。次に、液晶材料1の第1の部分(T字形状に対応する部分)が赤色を呈するように、液晶セルA(液晶材料1)を60℃(第1の温度:
図1(A)中、X℃)で加熱し、その後、365nm付近の紫外線を(照射強度:13mW/cm
2)、水銀キセノンランプを光源として光学フィルター(UV−35/UV−D36A)を介して、フォトマスクの開口部(T字形状)を通過させて液晶セルAに40分間照射した。
次に、フォトマスクを外し、その後、液晶材料1の第2の部分(第1の部分以外の部分)が緑色を呈するように、液晶セルA(液晶材料1)を40℃(第2の温度:
図1(B)中、Y℃)になるまで冷却し、その第2の温度(40℃)を維持したまま、上記紫外線を(照射強度:13mW/cm
2)液晶セルA全体に40分間照射した。
以上の工程により、液晶フィルム1(液晶材料1の硬化膜)及び液晶フィルム1を備えた液晶セルAを作製した。
その後、液晶セルAの隙間にピンセットを差し込み、ゆっくりと引き上げることによって液晶フィルム1を液晶セルAから剥離した。これにより、液晶フィルム1を得た。
得られた液晶フィルム1は、赤色及び緑色を呈しており、弾性を有していた。また、液晶フィルム1を指で押すと色が変化した。したがって、実施例4では、異なるブラッグ反射の波長で配向が固定化され、さらに機械的応力の印加によって、その応力に対応する反射光が得られる液晶フィルム1が得られることがわかった。
なお、上記液晶フィルム1の作製において、液晶セルAは、
図1(A)中の液晶セル10(第1の温度で加熱後)及び
図1(B)中の液晶セル10A(第2の温度で加熱後)に該当し、2枚のラビング・剥離処理PVAガラス基板は、
図1(A)、(B)中の第1の基板12及び第2の基板14に該当し、T字形状に切り抜かれたフォトマスクは、
図1(A)中のフォトマスク16に該当し、上記液晶フィルム1は、
図1(B)中の液晶フィルム20に該当する。
【0153】
〔実施例5〕
<液晶フィルム2の作製>
T字形状に切り抜かれたフォトマスクを、U字形状に切り抜かれたフォトマスク(ネガティブパターン)に変更し、液晶材料1の第1の部分(U字形状に対応する部分)が緑色を呈するように、第1の温度を95℃とし、液晶材料1の第2の部分(第1の部分以外の部分)が青色を呈するように、第2の温度を75℃に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、液晶フィルム2及び液晶フィルム2を備えた液晶セルBを得た。
得られた液晶フィルム2は、緑色及び青色を呈しており、弾性を有していた。また、液晶フィルム2を指で押すと色が変化した。したがって、実施例5では、異なるブラッグ反射の波長で配向が固定化され、さらに機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる液晶フィルム2を作製できることがわかった。
【0154】
〔実施例6〕
<液晶フィルム3の作製>
T字形状に切り抜かれたフォトマスクを、S字形状のフォトマスク(ポジティブパターン)に変更し、液晶材料1の第1の部分(S字形状に対応する部分以外の部分)が赤色を呈するように、第1の温度を105℃とし、液晶材料1の第2の部分(S字形状に対応する部分)が青色を呈するように、第2の温度を80℃に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、液晶フィルム3及び液晶フィルム3を備えた液晶セルCを得た。
得られた液晶フィルム3は、赤色及び青色を呈しており、弾性を有していた。また、液晶フィルム3を指で押すと色が変化した。したがって、実施例6では、異なるブラッグ反射の波長で配向が固定化され、さらに機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる液晶フィルム3を作製できることがわかった。
【0155】
〔実施例7〕
<液晶フィルム4の作製>
液晶材料1を液晶材料2に変更し、フォトマスクを用いずに、硬化後の液晶材料2が赤色を呈するように、液晶セルB全体を30℃で加熱し、紫外線を10分間照射したこと以外は、実施例4と同様にして、液晶フィルム4及び液晶フィルム4を備えた液晶セルDを得た。
得られた液晶フィルム4は、赤色を呈しており、弾性を有していた。また、液晶フィルム4を指で押すと色が変化した。したがって、実施例7では、ブラッグ反射の波長で配向が固定化され、さらに機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる液晶フィルム4を作製できることがわかった。
【0156】
〔実施例8〕
<液晶フィルム5の作製>
液晶配向膜として2.0wt%のポリビニルアルコール(PVA)(Aldrich社製、M
W:1.3×10
4〜2.3×10
4、加水分解度(hydrolyzed):87%〜89%)水溶液を調製した。スピンコーター(Active社製: ACT−220D II)を用いて、市販のスライドガラス(基板)に2.0wt%PVA水溶液を800rpmで10秒間、続けて2000rpmで20秒間スピン塗布し、PVA塗布基板を得た。その後、キュプラで巻いた棒を用いてPVA塗布基板を1軸方向に50回擦り、ラビング処理を施した.さらに、剥離操作に備えて、剥離剤を200 rpmで10秒間、続けて500rpmで10秒間スピン塗布した。これにより、ラビング・剥離処理PVAガラス基板を得た。なお、ラビング・剥離処理PVAガラス基板は計2枚作製した。
90°Cに加熱したホットステージ上で、2枚のラビング・剥離処理PVAガラス基板の間に200μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーとともにHPC−Ac・Ca/BuE(液晶材料3)を挟んだ。さらに、せん断配向処理を施すことで、均質に配向した液晶材料3(厚さ200μm)を備えた液晶セルEを得た。
【0157】
次に、液晶セルE(液晶材料3)を100℃で加熱した。その後、水銀キセノンランプを光源とし、光学フィルター(UV−35/UV−D36A)を介して15mW/cm
2程度の365nm付近の紫外線(UV)を液晶セルEに40分間照射した。
その後、液晶セルEを100℃に維持したまま、15mW/cm
2の365nmの紫外線を10分間液晶セルEに照射した。これにより、液晶フィルム5(液晶材料3の硬化膜)及び液晶フィルム5を備えた液晶セルEを作製した。
その後、液晶セルEの隙間にピンセットを差し込み、ゆっくりと引き上げることによって液晶フィルム5を液晶セルEから剥離した。これにより、液晶フィルム5を得た。
得られた液晶フィルム5は、赤色を呈しており、弾性を有していた。また、液晶フィルム5を指で押すと青色に色が変化した。したがって、実施例8では、ブラッグ反射の波長で配向が固定化され、さらに機械的応力の印加によって、その応力に対応する波長の反射光が得られる液晶フィルム5を作製できることがわかった。
【0158】
〔実施例9〕
<液晶フィルム6の作製>
液晶セルEにおいて、液晶材料3の厚さを500μmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして、液晶フィルム6及び液晶セルFを得た。
得られた液晶フィルム6は、赤色を呈しており、弾性を有していた。なお、液晶フィルム6の弾性の評価については後述する。
【0159】
<評価>
(液晶材料及び液晶フィルムの光学特性)
−FT−IRスペクトルの測定−
実施例3で得た液晶材料3(HPC−Ac・Ca/BuE)を用いて、FT−IR(赤外全反射吸収測定法:ATR法)により、FT−IRスペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
図2は実施例3のFT−IRスペクトルである。
図2に示すように、1730cm
−1付近にC=O伸縮振動のピークが強く表れた。また、3300cm
−1〜3600cm
−1付近のOH伸縮振動のピークが減少した。したがって、実施例3の液晶材料3(HPC−Ac・Ca/BuE)は、アクリロイル・カルバメート化度およびブチリルエステル化度が十分であることが確認された。
【0160】
−透過スペクトルの測定(紫外線照射前)−
実施例4、8で得た、紫外線照射前の液晶セルA(液晶材料1:HPC−Ac/BuE(1))及び液晶セルE(液晶材料3:HPC−Ac・Ca/BuE)を用いて、昇温過程での透過スペクトルを測定した。結果を
図3、4に示す。
図3は液晶材料1を備えた液晶セルAの昇温過程での透過スペクトルであり、
図4は液晶材料3を備えた液晶セルEの昇温過程での透過スペクトルである。
図3に示すように、液晶材料1を備えた液晶セルAでは、60℃から120℃の昇温過程でブラッグ反射の波長は390nmから720nmへと長波長シフトすることがわかった。
図4に示すように、液晶材料3を備えた液晶セルEでは、55℃から125℃の昇温過程でブラッグ反射の波長は400nmから780nmへと長波長シフトすることがわかった。
これは、熱による外部刺激でコレステリック液晶の分子らせんピッチが拡大しているためと考えられる。したがって、実施例4で得た紫外線照射前の液晶セルA(液晶材料1:HPC−Ac/BuE(1))、及び、実施例8で得た紫外線照射前の液晶セルE(液晶材料3:HPC−Ac・Ca/BuE)はサーモトロピック液晶性を示すことがわかった。
【0161】
−異なるブラッグ反射の波長での配向の固定化−
実施例4〜6で得た液晶フィルム1〜3を備える液晶セルA〜C(いずれも液晶材料1:HPC−Ac/BuE(1))を用いて、透過スペクトルを測定した。結果を
図5〜7に示す。
図5は実施例4(液晶フィルム1)の透過スペクトルであり、
図6は実施例5(液晶フィルム2)の透過スペクトルであり、
図7は実施例6(液晶フィルム3)の透過スペクトルである。
図5に示すように、実施例4では、ブラッグ反射が赤色を呈する波長領域(600nm付近)と緑色を呈する波長領域(530nm付近)とで配向が固定化された液晶フィルム1が得られた。
図6に示すように、実施例5では、ブラッグ反射が緑色を呈する波長領域(530nm付近)と青色を呈する波長領域(420nm付近)とで配向が固定化された液晶フィルム2が得られた。
図7に示すように、実施例6では、ブラッグ反射が赤色を呈する波長領域(600nm付近)と青色を呈する波長領域(450nm付近)とで配向が固定化された液晶フィルム3が得られた。
以上の結果から、実施例4〜6の液晶フィルム1〜3では、異なるブラッグ反射(三原色)で配向が固定化することが確認された。
【0162】
−紫外線照射前後における透過スペクトルの測定−
実施例8で得た液晶セルE(液晶フィルムの厚さ:200μm、HPC−Ac・Ca/BuE)を用いて、液晶セルEを100℃に維持しながら365nmの紫外線を10分間照射する前と後における、透過スペクトルを測定した。結果を
図8に示す。
図8は紫外線照射前後における実施例8の透過スペクトルである。
図8に示すように、実施例8では、紫外線を照射する前はブラッグ反射の波長が615nmであったのに対し、照射後は569nmへと短波長シフトした。これは、紫外線照射によって、アクリロイル基のC=C結合が開裂し、HPC側鎖に導入されたアクリロイル基同士で架橋し、分子らせんピッチを収縮しているためと考えられる。
さらに、紫外線照射後の実施例8を100℃から室温へと低温化させても、反射波長がほとんど変化しないことがわかった。これにより、HPC−Ac・Ca/BuEの分子らせん構造が固定化されたことが示唆された。
【0163】
(液晶フィルムの弾性及び弾性率)
−機械的応力の印加−
実施例9で得た液晶フィルム6(HPC−Ac・Ca/BuE)に透明プラスチックスプーンで圧力(機械的応力)を印加した。この結果、目視でブラッグ反射が赤色から青色まで液晶フィルム6の色が変化することが確認された。これにより、ブラッグ反射の波長が短波長側へシフトし、らせんピッチが収縮したことが示唆された。さらに、液晶フィルム6は弾性を有しており、曲げることも可能であった。
【0164】
−機械的応力の印加と緩和との繰り返し−
実施例7で得た液晶フィルム4(HPC−Ac/BuE(2))に対し、機械的応力の印加と緩和とを繰り返し行った。結果を
図9に示す。
図9は、実施例7における機械的応力の印加及び緩和のサイクル数とブラッグ反射波長との関係を示すグラフである。
図9に示すように、機械的応力の印加(短波長側へシフト)と緩和(長波長側へシフト)とを繰り返しても、元のブラッグ反射の波長に可逆的に戻ることがわかった。つまり、液晶フィルム4は弾性を有しており、かつブラッグ反射の波長を可逆的に変調することができることがわかった。