(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C.I.Basic Blue 3と前記C.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料との合計に対して、C.I.Basic Blue 3を30〜70質量%含む請求項1に記載の染色された繊維構造体。
【背景技術】
【0002】
人工皮革に含まれる繊維構造体としては、耐熱性や成形性に優れる点からポリエステル繊維の不織布が好ましく用いられている。従来、ポリエステル繊維を染色するための染料としては発色性に優れる点から分散染料が広く用いられていた。しかしながら、分散染料は熱や圧力、または溶剤の存在下で移行しやすいという問題があった。このような問題を解決するために、カチオン染料に対する可染性を賦与したカチオン染料可染性ポリエステル繊維をカチオン染料で染色することも試みられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、カチオン染料で染色された立毛調人工皮革であって、0.07〜0.9dtexの繊度を有するカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布及び不織布の内部に付与された高分子弾性体を含み、L
*値≦50、荷重0.75kg/cm,50℃,16時間でのPVCへの色移行性評価における色差級数判定が4級以上、厚さ1mm当たりの引裂強力が30N以上、剥離強力が3kg/cm以上、であるカチオン染料で染色された立毛調人工皮革を開示する。
【0004】
ところで、カチオン染料のうち、青色系カチオン染料で染色されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維の繊維構造体には欠点があった。具体的には、青色系カチオン染料は鮮やかな青色を発色しにくかったり、耐候(光)堅牢性が低かったり、鮮やかな青色の発色と高い耐候(光)堅牢性を両立させることが困難であった。また、とくに繊度が低い極細繊維は、青色系カチオン染料を多く吸尽させなければ濃色に染色されず、この場合にはより褪色しやすくなるという問題があった。
【0005】
青色系カチオン染料として、例えば、下記特許文献2は、芳香族ポリアミド繊維を染色するための染料の一例として、Basic Blue 3を列挙している。しかしながら、C.I.Basic Blue 3の発色する青色は鮮やかでなく、また、耐候(光)堅牢性も低い。従って、ポリエステル繊維を濃色に染色するための青色系カチオン染料としては、C.I.Basic Blue 3は用いられていなかった。
【0006】
また、人工皮革に関する技術ではないが、下記特許文献3は、高濃度オゾンガス雰囲気あるいは水蒸気を含む高濃度オゾンガス雰囲気でも、より高い精度でオゾンを検知することができるインジケーターとして、カチオン染料であるオキサジン系染料及びカチオン系界面活性剤を含有し、かつ、オゾンにより変色する着色剤(但し、前記オキサジン系染料を除く。)を含まないことを特徴とするオゾン検知用インキ組成物を開示する。そして、C.I. Basic Blue 3、C.I. Basic Blue 12、C.I. Basic Blue 6、C.I. Basic Blue 10、C.I. Basic Blue 96 を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、青色系カチオン染料で濃色に染色されたカチオン染料可染性繊維の繊維構造体、またはこのような繊維構造体を含む人工皮革は、濃色性と高い耐候(光)堅牢性とを両立することが困難であった。
本発明は、カチオン染料可染性繊維の繊維構造体を青色系カチオン染料で染色する場合に、青色系カチオン染料の経時的な褪色を抑制できる、青色系カチオン染料で染色されたカチオン染料可染性繊維を含む繊維構造体及びそれを用いた人工皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、例えばポリエステル繊維の濃色の染色に用いられていなかったと思われる青色系カチオン染料のうち、C.I.Basic Blue 3の驚くべき特性を見出すことにより、本発明に想到するに至った。本発明者らは多数の青色系カチオン染料の種々の耐候(光)堅牢性を評価した。本発明者らは、複数種の染料を用いて調色する際にC.I.Basic Blue 3を配合して繊維構造体を染色した場合、耐候(光)堅牢性が低いという知見を得ていた。そして、濃色に染色された繊維構造体が経時的に色変化する現象は、染料の発色団が光反応することにより濃色から淡色に変色する現象が生じていると考えられていた。しかしながら、本発明者らの詳細な検討の中で、鮮やかさに乏しいC.I.Basic Blue 3のみで染色された繊維構造体は、QUV促進耐侯性試験において淡色から濃色に変色する性質を有することを認めた。そして、この現象を分光学的測定により分析したところ、C.I.Basic Blue 3は、その他の一般的な青色系カチオン染料と比べて異なるユニークな分光スペクトルの変化を示すことを認めた。具体的には、QUV促進耐侯性試験において、一般的な青色系カチオン染料で染色された繊維構造体は青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークは変化なく、黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなるのに対し、C.I.Basic Blue 3で染色された繊維構造体は黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなる一方で、青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークが強くなること、すなわち、青色に濃色化することを認めた。そして、このような知見から、複数の青色系カチオン染料を用いて調色する際にC.I.Basic Blue 3を配合した場合には、他の青色系カチオン染料が褪色する一方で、C.I.Basic Blue 3は濃色化することにより、全体として褪色を抑制する効果が発現されることに気付き、本発明に想到するに至った。
【0010】
すなわち本発明の一局面は、カチオン染料で染色されたカチオン染料可染性繊維を含む繊維構造体であって、カチオン染料は、C.I.Basic Blue 3と、C.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料とを含む染色された繊維構造体である。このようなC.I.Basic Blue 3を含む青色系カチオン染料を含む染料で染色された繊維構造体は、C.I.Basic Blue 3以外の一般的な青色系カチオン染料が褪色する一方で、C.I.Basic Blue 3は新たな青色の発色により濃色化することにより、全体として青色系カチオン染料の青みの褪色を小さくすることができる。それによって、青色系カチオン染料を用いて染色された繊維構造体の耐候(光)堅牢性を向上させることができる。
【0011】
そして、上記染色された繊維構造体に含まれる、C.I.Basic Blue 3以外の青色系カチオン染料とし
て、Basic Blue 15
9,Basic Blue
75から選ばれる少なくとも1種を含有する。これらの染料は、鮮やかな青色を発色しやすい点から好ましいが経時的に褪色しやすいという傾向がある。このような場合において、鮮やかな青色を発色しやすいBasic Blue 159やBasic Blue 75に、鮮やかさに乏しいが経時的に濃色に変化するC.I.Basic Blue 3を併用することにより、青色系カチオン染料全体としての耐候(光)堅牢性を向上することができる。
【0012】
また、C.I.Basic Blue 3とC.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料との合計に対しては、C.I.Basic Blue 3を30〜70質量%含むことが好ましい。C.I.Basic Blue 3の含有割合が高すぎる場合には鮮明な青みを得ることが難しくなり、C.I.Basic Blue 3の含有割合が低すぎる場合には青色系カチオン染料全体としての耐候(光)堅牢性を改善しにくくなる傾向がある。
【0013】
また、繊維構造体に対する、C.I.Basic Blue 3とC.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料の合計吸尽割合は0.5質量%以上であることが、効果が顕著になる点から好ましい。
【0014】
また、カチオン染料可染性繊維は、繊度0.5dtex以下のカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維であることが、青色系カチオン染料全体としての耐候(光)堅牢性を改善する効果がより顕著になる点から好ましい。
【0015】
また、発色としては、色座標空間(L
*a
*b
*色空間)において、L
*が35以下に入るような濃色に着色されることが、効果がより顕著になる点から好ましい。
【0016】
また、本発明の他の一局面は、上記染色された繊維構造体を含む人工皮革である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、青色系のカチオン染料で染色された繊維構造体やそれを含む人工皮革において、耐候(光)堅牢性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。
【0020】
本実施形態で用いられるカチオン染料可染性繊維を含む繊維構造体としては、カチオン染料可染性繊維を含む不織布,織布,織物,編物等が挙げられる。これらの中では、不織布、とくには極細繊維の不織布が本発明の効果が顕著に得られる点から好ましい。
【0021】
カチオン染料可染性繊維は、カチオン染料に易染性または可染性の繊維であれば特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、カチオン可染性を付与する単量体成分を共重合単位として含有する、ポリエステル繊維やアクリロニトリル繊維等が挙げられる。カチオン可染性を付与するための単量体成分の具体例としては、例えば、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)や、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの5−テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や、5−テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルアンモニウムスルホイソフタル酸などの5−テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸や、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラアルキルホスホニウム塩等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
カチオン染料可染性繊維の繊度は、特に限定されず、例えば、1dtex超のようなレギュラー繊維であっても、1dtex以下のような極細繊維であってもよい。本発明の効果が顕著になる点からは、0.05dtex以上、さらには0.07dtex以上であって、4dtex以下、さらには1dtex以下、とくには0.5dtex以下のような繊度であることが好ましい。
【0023】
また、カチオン染料可染性繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤、耐候剤、防黴剤等を必要に応じて、配合されてもよい。
【0024】
本実施形態の繊維構造体は、人工皮革や合成皮革の基材として含まれていてもよい。人工皮革として用いられる場合には、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等の高分子弾性体が含浸されていることが好ましい。人工皮革中に含まれる高分子弾性体の割合は特に限定されないが、1〜50質量%程度であることが好ましい。
【0025】
カチオン染料可染性繊維を含む繊維構造体は、C.I.Basic Blue 3と
、Basic Blue 159,Basic Blue 75から選ばれる少なくとも1種を含有するC.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料とを含むカチオン染料で染色される。C.I.Basic Blue 3以外の青色系カチオン染料としては、C.I. Basic Blue 6,C.I. Basic Blue 10,C.I. Basic Blue 12
,上記C.I.Basic Blue75,C.I. Basic Blue 96等のオキサジン系青色系カチオン染料や、C.I.Basic Blue54
や上記C.I.Basic Blue159等のアゾ系青色系カチオン染料、が挙げられる。なお、本実施形態における青色系カチオン染料とは、カラーインデックス名(C.I.)において、” Blue”を含む染料を意味する。
【0026】
本発明者らは、複数種の染料を用いて調色する際にC.I.Basic Blue 3を配合して繊維構造体を染色した場合、耐候(光)堅牢性が低いという知見を得ていた。そして、濃色に染色された繊維構造体が経時的に色変化する現象は、染料の発色団が光反応することにより濃色から淡色に変色する現象が生じていると考えられていた。しかしながら、本発明者らの詳細な検討の中で、鮮やかさに乏しい青色系カチオン染料であるC.I.Basic Blue 3のみで染色された繊維構造体は、QUV促進耐侯性試験において淡色から濃色に変色する性質を有することを認めた。この現象を分光学的測定により分析した結果を
図1及び
図2に示す。
図1は後述する比較例3〜6で得られたC.I. Basic Blue 3(Blue7G)で、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革の表面の反射スペクトルであり、
図2は、後述する比較例7〜10で得られたBasic Blue 159/ Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFで、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革の表面の反射スペクトルである。それぞれQUV促進耐侯性試験前、後、及び、差スペクトルが示されている。
【0027】
図2を参照すれば、一般的な青色系カチオン染料であるC.I.Basic Blue 159/ C.I.Basic Blue 75=7/3で染色されたスエード調人工皮革は、QUV促進耐侯性試験前後において、青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークは変化なく、黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなって、差スペクトルにおいては僅かに負になることが示されて、青色が減少して淡色化していることが示されている。このことは、1%owfよりも染料の吸尽割合の多い6%owfのスエード調人工皮革において顕著に示されている。
【0028】
一方、
図1を参照すれば、C.I.Basic Blue3で染色されたスエード調人工皮革は、QUV促進耐侯性試験後において、黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなるのに対して、青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークが強くなり、差スペクトルにおいては正になることが示されて、新たな青色が生成して濃色化していることが示されている。このことも、1%owfよりも染料の吸尽割合の多い6%owfのスエード調人工皮革において顕著に示されている。
【0029】
以上示すような現象を用いることにより、複数の青色系カチオン染料を用いて調色する際にC.I.Basic Blue3を配合した場合には、他の青色系カチオン染料が褪色する一方で、C.I.Basic Blue3が濃色化することにより、全体として褪色を抑制する効果を発現させることができる。
【0030】
本実施形態における、C.I.Basic Blue3と、C.I.Basic Blue3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料とを含むカチオン染料には、青色系カチオン染料以外のカチオン染料を含んでもよい。青色系カチオン染料以外のカチオン染料としては、クマリン系染料であるC.I.Basic Yellow 40、メチン系染料であるC.I.Basic Yellow 21,アゾメチン系染料であるC.I.Basic Yellow 28,アゾ系染料であるC.I.Basic Red 29やC.I.Basic Red 46、キサンテン系染料であるC.I.Basic Violet 11 等が挙げられる
【0031】
C.I.Basic Blue3の割合としては、C.I.Basic Blue3とC.I.Basic Blue3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料との合計に対して、30〜70質量%、さらには35〜65質量%であることが好ましい。C.I.Basic Blue3は鮮やかな青を発色しにくいために、C.I.Basic Blue3の含有割合が高すぎる場合には鮮明な青みを得ることが難しくなる。また、C.I.Basic Blue3の含有割合が低すぎる場合には青色系カチオン染料全体としての耐候(光)堅牢性を改善しにくくなる傾向がある。
【0032】
染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなどの染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色加工の条件としては、高圧で染色してもよいが、本実施形態の繊維構造体は常圧で染色可能であるために、常圧で染色することが環境負荷が低く、染色コストを低減できる点からも好ましい。常圧で染色する場合、染色温度としては60〜100℃、さらには80〜100℃であることが好ましい。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。
【0033】
また、耐光性を向上させるために、必要に応じて耐光剤を用いてもよい。耐光剤の具体例としてはベンゾトリアゾール系耐光剤、トリアジン系耐光剤、ベンゾフェノン系耐光剤等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
カチオン染料を用いて染色を行う場合、染料液中のカチオン染料の濃度は、繊維に対し、0.5〜20%owf、さらには、1.0〜15%owf、となるような範囲であることが、濃色に充分に発色させるとともに、染料の移行を抑制できる点から好ましい。染料液のカチオン染料の濃度が高すぎる場合には、染着座に固定されずに吸尽されるカチオン染料の量が多くなりすぎて染料が移行しやすくなる傾向がある。また、カチオン染料の濃度が低すぎる場合には、濃色に発色させることが困難になる傾向がある。
【0035】
また、本実施形態においては、カチオン染料により染色された繊維構造体を、アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中で洗浄処理することにより、結合力の低いカチオン染料を除去することが好ましい。このような洗浄処理により、とくに高分子弾性体に吸収されたカチオン染料が充分に除去されることにより、得られる染色された繊維構造体の色移りを抑制することができる。アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、日成化成(株)製のソルジンR,センカ(株)製のセンカノールA−900,明成化学工業(株)製のメイサノールKHM等が挙げられる。
【0036】
アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中での洗浄処理は、50〜100℃、さらには60〜80℃の湯浴で行うことが好ましい。また、洗浄時間としては、10〜30分間、さらには、15〜20分間程度であることが好ましい。また、この洗浄を1回以上、好ましくは2回以上繰り返してもよい。
【0037】
本実施形態のカチオン染料で染色された繊維構造体は、上述したようなカチオン染料を用いた染色により、C.I.Basic Blue 3とC.I.Basic Blue 3以外の少なくとも1種の青色系カチオン染料の合計吸尽割合としては、0.5質量%以上、さらには1.0質量%以上、とくには1.5質量%以上であって、カチオン染料の合計吸尽割合が、繊維構造体に対して、3.0質量%以上、さらには4.0質量%以上、とくには5.0質量%以上であることが、例えば、L
*値≦35、さらには、L
*値≦30のような濃色を発色させることができ、その場合には耐候(光)堅牢性の改善効果が顕著になる。
【0038】
このようにして、本実施形態の青色系カチオン染料を含むカチオン染料で染色されたカチオン染料可染性繊維を含む繊維構造体、または人工皮革が得られる。本実施形態の染色された繊維構造体または人工皮革は、青色系カチオン染料を含む濃色に染色されていても、比較的高い耐候(光)堅牢性を有する。
【0039】
染色された繊維構造体または人工皮革は、Q−PANEL社製 加速耐光試験機QUV/se(45℃、照度0.78W/m
2)を用いた耐侯性試験において24時間経過後にデータカラーのG37UV Color Changeモードで判定した級数判定が2.5級以上であることが、耐候(光)堅牢性に優れる点から好ましい。
【0040】
また、発色としては、色座標空間(L
*a
*b
*色空間)において、L
*が35以下に入るような濃色に着色されることが、効果がより顕著になる点から好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。はじめに、本実施例で用いた各種染料を以下に示す。
【0042】
(染料)
・Blue 7G:C.I. Basic Blue 3(オキサジン系青色系カチオン染料)(日成化成(株)製)
・Blue CNF:Basic Blue 159/ Basic Blue 75=7/3(アゾ系/オキサジン系青色系カチオン染料)(日成化成(株)製)
・Red GL: Basic Red 29(アゾ系赤色系カチオン染料)(日成化成(株)製)
・Yellow GL: Basic Yellow 28(アゾメチン系黄色系カチオン染料)(日成化成(株)製)
【0043】
〈実施例1〉
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(PVA;エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてスルホイソフタル酸のテトラブチルホスホニウム塩で変性されたポリエチレンテレフタレート(PET):(スルホイソフタル酸のテトラブチルホスホニウム塩単位1.7モル%,1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位5モル%,アジピン酸単位5モル%含有;ガラス転移温度62℃)を含み、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75である、海島型複合繊維を三次元絡合させた繊維構造体を調整した。
【0044】
そして、繊維構造体に、ポリウレタンエマルジョンを含浸させ、150℃の乾燥炉で乾燥することにより、ポリウレタンを付与した。そして、ポリウレタンを付与された繊維構造体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型複合繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、ポリウレタンを含浸付与された、繊度0.2dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布を含む人工皮革生機を得た。得られた人工皮革生機は、不織布/ポリウレタンの質量比が90/10であった。そして、得られた人工皮革生機をスライスして2分割し、表面を600番手のサンドペーパーでバフィングすることによりスエード調人工皮革生機を得た。スエード調人工皮革生機は、繊度0.2dtex、ポリウレタン比率10質量%で、厚さ0.78mm、見かけ密度0.51g/cm
3であった。
【0045】
スエード調人工皮革生機を、80℃の熱水中に20分間湯通しして熱水になじませると共に生地をリラックスさせた後、液流染色機((株)日阪製作所サーキュラー染色機))を用いて下記条件で染色した。
【0046】
染色条件
染料液:
・Blue 7G 1.0%o.w.f.
・Blue CNF 1.0%o.w.f.
・Red GL 1.7%o.w.f.
・Yellow GL 0.6%o.w.f.
・90%酢酸(染色助剤) 1g/L
・耐光剤 ベンゾトリアゾール系
染色温度:120℃
染色時間:40分間
浴比:1:20
【0047】
そして、同一染色浴で、アニオン系界面活性剤としてソルジンR 2g/Lを含有する湯浴を用いて70℃でソーピングした。そして、ソーピング後、乾燥することにより、紺色に染色されたスエード調人工皮革を得た。カチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布に対する、染料の吸尽率は97.2質量%であった。そして、スエード調人工皮革を次のようにして評価した。
【0048】
[QUV試験による変色評価]
試験に供する前のスエード調人工皮革について、表面のL
*a
*b*表色系の座標値を分光光度計(ミノルタ社製:CM−3700)を用いて求めた。値は、試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の平均値である。そして、Q−PANEL社製 加速耐光試験機QUV/se(45℃、照度0.78W/m
2)を用いた耐侯性試験を用いて24時間UV照射を行った。そして、試験後に取り出したスエード調人工皮革の表面のL
*a
*b*表色系の座標値、及び試験前後の色差ΔE、及び、Δa,Δb,ΔL,を求めた。さらに、促進耐候試験前後の褪色性をデータカラーのG37UV Color Changeモードで級数判定した。
【0049】
結果を下記表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
〈実施例2〜6、比較例1〜10〉
実施例1で用いた染料組成に代えて、表1に示すような染料組成に変更した以外は実施例1と同様にして、染色されたスエード調人工皮革を得、評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2は何れも近い色調の紺色に染色されたスエード調人工皮革であり、実施例1と実施例2、比較例1と比較例2は耐光剤が異なる以外は同じ染色条件で染色されたものである。
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の染色されたスエード調人工皮革を比べると、QUV試験の前に対する後のL
*値の差であるΔLを比較すると、C.I.Basic Blue 3とC.I.Basic Blue 159/ C.I.Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFとを含む青色系カチオン染料で紺色に染色した実施例1では+2.4、実施例2では+1.6に対し、C.I.Basic Blue 3を含めずに青色系カチオン染料で紺色に染色した比較例1では+4.0、比較例2では+3.4であり、C.I.Basic Blue 3を配合した実施例1,2の方が、明度差の変化が明らかに小さかった。また、実施例1,2においては、比較例1、2と比較して、Δbが負または小さい正を示しており、青みを帯びるかまたはわずかに黄みを帯びたのみであることがわかる。
また、比較例3〜6は、C.I.Basic Blue 3のみで、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革、比較例7〜10は、C.I.Basic Blue 159/ C.I.Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFで、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革である。
比較例3〜6のC.I.Basic Blue 3で染色されたスエード調人工皮革においては、染料の濃度が高くなるにつれて、ΔLが負を示し、すなわち、明度が暗くなり、濃色方向に変化していることがわかる。また、比較例3〜6の染色されたスエード調人工皮革においては、Δbも負を示しており、青みが強くなっていることがわかる。
一方、比較例7〜10のC.I.Basic Blue 159/ C.I.Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFで染色されたスエード調人工皮革においては、染料の濃度によらず、ΔLが大きく、明度が明るくなって色褪せていることがわかる。また、Δbは正を示しており、黄みが強くなっていることがわかる。
【0054】
なお、
図1は上述のように比較例3〜6で得られたC.I. Basic Blue 3で、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革の表面の反射スペクトルであり、
図2は、比較例7〜10で得られたBasic Blue 159/ Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFで、1%、2%、4%、6%owfで染色されたスエード調人工皮革の表面の反射スペクトルである。
【0055】
図2を参照すれば、比較例7〜10で得られたC.I.Basic Blue 159/ C.I.Basic Blue 75=7/3で含むBlue CNFで染色されたスエード調人工皮革は、QUV促進耐侯性試験前後において、青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークは変化なく、黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなって、差スペクトルにおいては僅かに負になることが示されて、青色が減少して淡色化していることが示されている。一方、
図1を参照すれば、比較例3〜6で得られたC.I.Basic Blue3で染色されたスエード調人工皮革は、QUV促進耐侯性試験後において、黄〜赤色を示す570〜700nmのピークが弱くなるのに対して、青〜緑色を示す450〜570nm付近のピークが強くなり、差スペクトルにおいては正になることが示されて、新たな青色が生成して濃色化していることが示されている。