【実施例1】
【0008】
以降は電磁波としてテラヘルツ波を例に挙げて説明を行なう。
【0009】
図1は、本発明のテラヘルツ分光測定装置の第一の実施例を模式的に示す構成図である。本実施例によるテラヘルツ分光測定装置は、測定対象物101にテラヘルツ波T1を照射し、測定対象物101を構成する物質に吸収または散乱された透過テラヘルツ波T2の振幅を測定する装置として構成されている。
テラヘルツ波発生部1から出射したテラヘルツ波T1は集光素子111により測定対象物101に集光される。測定対象物101を構成する物質に吸収または散乱された透過テラヘルツ波T2は検出用非線形光学結晶102に入射する。
【0010】
図1のプローブ光源2はテラヘルツ波を検出するためのプローブ光L1を出射する。プローブ光L1はビーム径調整部20に入射し、ビーム径を拡大または縮小され、ビーム径がBであるプローブ光L2となる。その後プローブ光L2は偏光子301にて偏光され、ビームスプリッター311により反射され検出用非線形光学結晶102に入射する。測定対象物101と検出用非線形光学結晶102の間に波長選択ミラーを挿入し、検出用非線形光学結晶102の表面からプローブ光L2を入射してもよい。ここで、波長選択ミラーとはテラヘルツ波T2を透過しプローブ光L2を反射する光学素子であり、例えばペリクルや、シリコン板がある。
【0011】
テラヘルツ波T2が検出用非線形光学結晶102に入射すると電気光学効果が生じ、検出用非線形光学結晶102の複屈折率が入射テラヘルツ波T2の振幅に応じて変化する。検出用非線形光学結晶102を透過または反射したプローブ光は複屈折率変化に対応して偏光状態が変化する。検出用非線形光学結晶102から反射され、偏光状態が変化したプローブ光L2のうちビームスプリッター311を透過したプローブ光L2は補償子302、偏光子303によって偏光状態の変化を検光し、検出器304によってプローブ光L2の強度が検出される。検出器304に入射したプローブ光の成分は例えば電圧に変換され、処理部3の計測部321へと入力される。計測部321に入力された信号は検出用非線形光学結晶102に入射するテラヘルツ波T2の電場または強度に比例する。ここで、強度を測定する際はたとえば偏光子301と偏光子303の透過軸を直交させ、補償子302の速軸または遅軸を偏光子303の透過軸と一致させる方法を用いることが出来る。電場を測定する際はたとえば、偏光子301と303の透過軸を直交させ、補償子302の速軸または遅軸を偏光子303の透過軸と0度より大きい角度にすることによって得ることが出来る。偏光子303の代わりにウォラストンプリズムを配置して、プローブ光を二光路に分け、検出器304をバランスディテクターとし、それぞれの光路のプローブ光の強度差を検出することで検出効率を向上しても良い。
【0012】
以上の手順により、プローブ光L2の照射された検出用非線形光学結晶102上の部分のテラヘルツ波の強度または振幅に比例した信号が得られる。本発明では、測定対象物101による散乱により検出結晶上に広く分布するテラヘルツ波T2を測定できるよう、プローブ光L2のビーム径Bの調整制御をビーム径調整部20で行なう。
図2に検出用非線形光学結晶102上に分布するプローブ光のビームスポットL3と、測定対象物での散乱で広がったテラヘルツ波T2の空間分布T3の模式図を示す。
【0013】
ビーム径調整部20で調整可能なプローブ光L2のビーム径Bは最小値602から最大値604までの範囲を変更可能であるとする。
ここで、ビーム径調整部20でプローブ光ビーム径Bを変更する方法の具体例の一つを示す。
図3に本実施例におけるプローブ光ビーム径調整部20の模式図を示す。本実施例ではプローブ光ビーム径調整部20に凹レンズ201と、焦点可変光学系をなす凸レンズ202、203が含まれる場合を示す。このほか、ビーム径A,Bの比が可変ならばどのようなレンズ、光学素子の組み合わせでも良い。これらのレンズはレール211上に配置され、コントローラー212により駆動され、プローブ光L1、L2の光軸上を平行に移動可能である。本実施例では、レンズ202の屈折率をf
1、レンズ203の屈折率をf
2、レンズ間の距離をd
2とした場合、レンズ202と203を組み合わせたとき、焦点距離fの凸レンズとみなせる。焦点距離fは式1のように書き表せる。
【0014】
(式1)f=f
1f
2/(f
1+f
2−d
2)
ここで、焦点距離Fは複合レンズ202、203の主点Pから焦点までの距離である。主点Pはレンズ202から距離h
1、レンズ203から距離h
2の位置にある。h
1とh
2の比は式2で表される。
【0015】
(式2)h
1/h
2=f
1/f
2
さらに凹レンズ201の焦点距離をf
3として、複合レンズ202、203の主点pから凹レンズ201までの距離d
1は式3で表される位置とする。
【0016】
(式3)d
1=f−f
3
結果、プローブ光L1とL2のビーム径の比A/Bは、式3のように書き表せる。
【0017】
(式4)A/B=f
3/f
まとめると、プローブ光L1とL2のビーム径の比A/Bが所望の値となるようfの値を決め、そのFの値を得られるようコントローラー212に制御信号が送られ、レール211上のレンズ201〜203の位置を調整してD
2を変更し、さらに式3を満たすようD
1を変更する。
【0018】
また、コントローラー212は複合レンズ202、203および凹レンズ201の位置情報を保持し、この位置情報とプローブ光源2で決まるプローブビーム径Aの値とからプローブビーム径Bを算出する機能を持つ。なお、プローブビーム径Bを算出する方法は上記に限らず、例えばコントローラー212は複合レンズ202、203および凹レンズ201の位置情報のみを保持し、プローブ光ビーム径Bの算出は
図1の演算部322で行なってもよい。
【0019】
以上、ビーム径調整部20でビーム径Bを変更する方法として焦点距離が固定であるレンズの位置変更によりプローブ光L1とL2のビーム径の比A/Bを変更する方法を記述したが、これは例であり、これに限定されるものではない。このほか、例えば複合レンズ202、203の代わりに、異なる複数の焦点距離の凸レンズを交換可能なホルダーにセットして焦点距離およびレンズ位置を可変とし、凹レンズ201の距離を前記凸レンズの焦点距離に応じて変更し、ビーム径を変更する方法がある。
【0020】
ここからは本実施例におけるプローブ光を調整するフローを示す。この調整は、例えば装置を立ち上げた時などに行う。まず、
図4(a)に本実施例におけるプローブ光調整のフローチャートを示す。
本実施例では、計測部321に入力された信号からテラヘルツ波T2の電場または強度に比例した検出強度を計算し、このテラヘルツ波検出強度が大きくなるようにプローブ光ビーム径Bをビーム径調整部20により調整する。S21ではプローブ光ビーム径Bとテラへルツ波検出強度(演算値)の対応関係を求める。
図5の曲線601はプローブ光ビーム径Bとテラへルツ波検出強度(演算値)の対応関係を示す曲線である。手順S22については詳細を後に示す。
S22ではS21で求めた対応関係から、演算部322で計算された演算値が最大かつビーム径が小さくなるような
図5のプローブ光ビーム径603を求める。ここで、例えば、プローブ光ビーム径Bを制御するビーム径調整部20の制御精度を加味して、演算値が最大値に対して±20%のばらつきを許容するなど幅を持っても良い。
S23ではS22で求めたプローブ光ビーム径603に近づけるように制御部323からプローブ光ビーム形調整部20に制御信号を出力し、プローブ光ビーム系を変更する。以上の手順により、プローブ光ビーム径の調整を行なった後に測定を行うことで、測定対象物101を構成する物質で生じる散乱の影響を低減または除去した分光測定が可能になる。
【0021】
一度プローブ光ビーム径Bを調整した後は、調整を行わず連続で測定を行なってもよい。また、一度同じ測定条件下においてプローブ光ビーム径Bと演算部322で計算した演算値との対応関係を取得して
図1の記憶部324に記憶している場合、以降の測定では手順S22を省略しても良い。また、
図5のビーム径603が既知である場合、入力部325から直接
図5ビーム径603の値を演算部322に入力し、S22とS23を行なうことなく、S24に進んでも良い。
【0022】
図4(b)に手順S22の詳細を示す。S201で測定を行なう回数を設定する。S202では計測部321で検出器304に入射するプローブ光の強度を測定値とし、S203では演算部322により、求めたプローブ光の測定値とビーム径調整部20から得られるプローブ光のビーム径Bとの積を演算する。ここで、この演算は積に限定されるものではなく、除算でも良い。
図5の曲線601はプローブ光ビーム径Bと演算部322で計算された演算値の対応関係を示す曲線である。プローブ光ビーム径Bを小さいビーム径602あるいは大きいビーム径604から変化を開始し、測定を行なって結果は記憶部324に記憶する。S205において、S201で設定した回数に達したかどうか判断し、設定した回数になるまで、S206でビーム径調整部20によりビーム径Bを変更して、S202〜S204の手順を繰り返し、測定回数がS201で設定した回数に達したらS207に進み曲線601を求める。
【0023】
また、プローブ光ビーム径の調整に既知のパラメーターを用いて計算した結果を用いることも可能である。例えば、測定対象物に含まれる粒子の平均粒径及び屈折率や、測定対象物の構成物質が既知であるとき、プローブ光ビーム径調整のために複数回の測定を行なう必要が無く、S21を短縮でき、高速なプローブ光ビーム径調整が可能となる。この場合の、プローブ光調整のフローチャートは次のとおりである。まずS21で
図1の入力部325に入力するパラメーターとして、例えば測定対象物を構成する粒子の平均粒径及び屈折率がある。入力されたパラメーターを演算部322で取得し、記憶部324に記憶する。また、テラヘルツ波照射部1から出射するテラヘルツ波T1の波長または周波数を、演算部322で取得し、同様に記憶部324に記録する。
【0024】
S22ではS21で記憶部324に記憶したパラメーターと、測定対象物101と検出用非線形光学結晶102までの距離に基づき、検出用非線形光学結晶102表面におけるテラヘルツ波の散乱の大きさを計算する。例えば測定対象物の平均粒径と平均屈折率及び入射テラヘルツ波T1の波長が既知である場合、ミー散乱の理論式に従い、テラヘルツ波T2の散乱角範囲を見積もり、求められた散乱角範囲と測定対象物101と検出用非線形光学結晶102の距離から、三角関数を利用して検出用非線形光学結晶102上のテラヘルツ波の空間分布の広がり角T3の大きさを求めても良い。目標プローブビーム径はテラヘルツ波の空間分布T3を広く取得できるように定める。最後に、プローブビーム径603に近づくように制御部323は制御信号を出し、プローブ光ビーム径調整部20によりプローブ光ビーム径Bを変更する。以上の手順により、プローブ光ビーム径Bの調整を行なった後、測定を開始することで、測定対象物101を構成する物質で生じる散乱の影響を低減または除去した分光測定が可能になる。
【0025】
また、プローブ光ビーム径の調整に用いる既知のパラメーターはリストとして記憶部324に保存され、必要に応じて制御部323に呼び出されても良い。
図6にリストの模式図を示す。この模式図に示したパラメーターはこれに限られるものではない。加えて、測定結果及び入力部325に入力された測定対象物名から322で自動的に最適なプローブ光ビーム径を学習し、リストを生成して保存しても良い。プローブ光ビーム径の調整に用いる既知のパラメーターとして、例えばプローブ光ビーム径、ビーム径調整部20に含まれる光学素子の位置などがある。
さらに、入力部325で測定条件(例えば測定対象物名、プローブ光ビーム径など)を演算部322に入力し、演算部は前記リストを基に過去の測定結果を検索し、過去の測定条件(例えばビーム径調整部20に含まれるレンズ位置等)を今回の測定に適用してもよい。
【0026】
また、検出用非線形光学結晶102と測定対象物101の距離を取得する距離測定部と、その距離を調整する距離調整部を追加し、距離調整部に制御部323から制御信号を送信して制御することで、検出用非線形光学結晶102と測定対象物101の距離を近づけ、測定対象物による散乱光の広がり角を押さえても良い。
さらに、プローブ光ビーム径調整用の測定を行なう例を次に示す。本構成によれば、散乱の影響の低減を確認したうえで分光測定が可能である。
本実施例では測定対象物101として、本来の測定対象物(対象サンプル)と同様の成分で散乱の少ない、参照となる測定対象物(参照サンプル)を別途用意する。これは例えば、対象サンプルと同じ錠剤を乳鉢ですりつぶし、ふるいにかけて粒径を十分小さくし、再び打錠したものである。
【0027】
図7(a)にこの場合のプローブ光調整のフローチャートを示す。まずS21で参照サンプルについてテラヘルツ波検出強度(演算値)を測定し、記憶部324で記憶する。その後、S22で対象サンプルの演算値をプローブ光ビーム径Bの大きさを変更しながら、繰り返し測定する。詳細は後に記す。結果は記憶部324に記憶する。参照測定S21と調整用測定S22では、複数の周波数ではなく単一の周波数で測定を行なってもよい。S23ではS22で記憶した調整用測定の結果(後に述べる差分値)から、
図1の演算部322において差分値が小さくなるプローブ光ビーム径803を求める。S24ではS23で求めたプローブビーム径803に近づくように制御部323は制御信号を出し、プローブ光ビーム径調整部20により、プローブ光ビーム径Bを変更する。
【0028】
図7(b)に手順S22の詳細を示す。S201で測定を行なう回数を設定する。S202では計測部321で検出器304に入射するプローブ光の強度を測定値として取得し、S203では演算部322により、複数、または単一の周波数におけるテラヘルツ波検出強度(演算値)を求める。さらに、この求めた対象サンプルの演算値からS21で記憶した参照サンプルの演算値を減算した差分値を算出する。S204ではS213で求めた差分値を記憶する。
図8の曲線801はプローブ光ビーム径Bと演算部322で計算された差分値の対応関係を示す曲線である。プローブ光ビーム径Bを小さいビーム径602あるいは大きいビーム径604から変化を開始し、測定を行なって結果は上記のとおり記憶部324に記憶する。S205において、S201で設定した回数に達したかどうか判断し、設定した回数になるまで、S206でビーム径調整部20によりビーム径Bを変更して、S202〜S204の手順を繰り返す。測定回数がS201で設定した回数に達したらS207に進み曲線801を求める。その後S23にて記憶した差分値の最も差分値が小さくなるビーム径803をS21算出・取得する。
【0029】
以上の手順により、調整用測定と参照測定の結果の差が少なくなるプローブ光ビーム径803を求め適用することにより、測定対象物101を構成する物質で生じる散乱の影響をより精度よく低減または除去した分光測定が可能になる。
【実施例2】
【0030】
図9は、本発明のテラヘルツ分光測定装置の第2の実施例を模式的に示す構成図である。本実施例が実施例1と異なるのはプローブ光ビーム径Bの調整にテラヘルツ波の空間分布のイメージング結果を用いる点である。本構成により、実際のテラヘルツ波の空間分布を観測しながらプローブ光のビーム径を制御できるため、複数回の測定を行なう必要が無く、正確な調整が可能となる。
本実施例では、実施例1との差分について説明を行う。
【0031】
結像レンズ312を検出用非線形光学結晶102の後ろに配置し、ハーフミラー313でビームを分け、一方をイメージセンサ305に入射し、もう一方は検出器304に入射する。
図2に示すような検出用非線形光学結晶102上のテラヘルツ波の空間分布T3の情報を含んだプローブ光L3をイメージセンサ305に結像する。ここで、例えば、ハーフミラー313と検出器304を配置しないで、イメージセンサ305で検出結晶上のテラヘルツ波の空間分布T3の撮像および強度測定の両方を行なってもよい。
【0032】
図10に本実施例におけるプローブ光調整のフローチャートを示す。S11でプローブ光ビーム径Bを最大値604とする。最大値604でプローブ光強度不足等により次に示すテラヘルツ波イメージングが出来ない場合は、イメージングが可能な径までプローブ光ビーム径Bを変更する。このとき、検出結晶上のテラヘルツ波照射部T3の大きさがプローブ光ビーム径Bより大きくなる場合、実施例7に記載の方法を用いて測定対象物と検出用非線形光学結晶102の距離を調整し、T3の大きさが小さくなるようにしても良い。
テラヘルツ波T2が検出用非線形光学結晶102に入射すると電気光学効果が生じ、検出用非線形光学結晶102の複屈折率が入射テラヘルツ波T2の振幅に応じて変化する。検出用非線形光学結晶102を透過または反射したプローブ光は複屈折率変化に対応して偏光状態が変化する。
S12ではイメージセンサ305に入射したプローブ光を処理部3の計測部321で撮像し、検出イメージとして出力する。実施例1に記載の方法と同様に、演算部322で前記検出イメージからテラヘルツ波の電場または強度の検出用非線形光学結晶102上の空間分布T3を算出する。
【0033】
S13では演算部322で前記検出イメージから前記受光部に照射されるテラヘルツ波の空間分布の大きさと、前記ビーム径調整部から得られるプローブ光のビーム径との差を計算し、差が小さくなるようなプローブ光ビーム径Bを求める。
【0034】
S14ではS13で求めたプローブビーム径に近づくように制御部323は制御信号を出し、プローブ光ビーム径Bを変更する。以上の手順により、プローブ光ビーム径Bの調整を行なった後、測定を開始することで、測定対象物101を構成する物質で生じる散乱の影響を低減または除去した分光測定が可能になる。
ここで、例えば
図10のS13において、テラヘルツ波の空間分布T3を撮影し、その結果、テラヘルツ波の空間分布T3の大きさがプローブ光のビーム径Bの最大値604より大きいことが推測された場合に、検出用非線形光学結晶102を測定対象物101に近づけるよう調整を行ない、テラヘルツ波の空間分布T3の大きさを小さくする例を示す
図11は、この例におけるテラヘルツ分光測定装置を模式的に示す構成図である。
図9と異なる点は、制御部323からの制御信号により、ビーム径調整部20のほかに、検出用非線形光学結晶102の位置を制御している点である。検出用非線形光学結晶102はモーター1021により駆動され、その位置情報はモーター1021に保持される。
【0035】
検出用非線形光学結晶102と測定対象物101の距離を小さくする方法として例えば、プローブ光調整を行なう前に測定対象物101の厚みを
図1の入力部325に入力しておき、検出用非線形光学結晶102と測定対象物101の距離が測定対象物101の厚みより大きく、元の位置より近くなるよう制御部323の制御信号によりモーター1021を制御する方法がある。以上の方法により、テラヘルツ波の空間分布T3の大きさを小さくすることが出来る。