(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。まず電極の構造について説明する。
【0014】
本発明の一実施形態に係る電極は、測定対象に係る電解質溶液中の電流を測定することにより、測定対象を測定するセンサに用いられる。具体的には、本発明の電極は、電解質溶液に酸化還元反応を起こさせる酸化電極および還元電極の少なくとも一方として用いられる。測定対象は、特に限られるものではない。センサにより導出されるものは、電解質溶液中の電流により導出されるものであればよく、例えば、測定対象の種類、量、濃度でもよい。電流は、測定対象と分子識別素子との生物化学反応に伴い増減することなどが想定され、当該想定の場合、当該センサはバイオセンサとなる。
【0015】
(第1の実施形態:電極の構造1)
図3は、第1の実施形態に係る電極の第1の例を示す図である。
図3に示す電極2は、絶縁性部材による基板21と、導電性部材による電極部22と、絶縁性部材によるスペーサ23を備える。
図3では、基板21は白色で示され、電極部22は灰色で示され、スペーサ23は水玉模様で示されている。
【0016】
電極部22は、基板21の表面の少なくとも一部を覆うように接着されている。スペーサ23は、基板21の表面および電極部22の一部を覆うように接着されている。後述する実験においては、蒸着法により電極部22を接着し、接着材によりスペーサ23を接着している。但し、接着方法は、特に限られるものではなく、上記以外の方法により接着されてもよい。
【0017】
本説明では、基板21内部から電極部22に向かう方向を上とする。ゆえに、
図3は、電極部22に覆われた基板21の表面を上にした状態を示すものであり、当該表面を上面とした上面図である。
【0018】
なお、
図3の例では、スペーサ23は1つであるが、複数のスペーサ23が存在してもよい。例えば、
図3のスペーサ23が、複数の細かなスペーサに分かれていてもよい。また、
図3の例では、スペーサ23は基板21および電極部22を覆っているが、スペーサ23は電極部22を覆わなくともよい。
【0019】
絶縁性部材は、基板として一般に使用される絶縁性部材を用いればよい。例えば、一般に使用されるエポキシ樹脂(SU−8)を用いてもよい。また、基板21の絶縁性部材と、スペーサ23の絶縁性部材とは、同じでもよいし、異なっていてもよい。また、スペーサ23が複数ある場合、各スペーサ23の絶縁性部材は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
導電性部材は、電極として一般に使用される導電性部材を用いればよい。例えば、金(Au)、白金(Pt)を用いてもよい。
【0021】
本実施形態の基板21は、長手方向に20μm程度、短手方向に10μm程度の平板状の形状を想定する。本実施形態では、センサの使いやすさ、小型化等を考慮して基板21を用いている。但し、平板状の形状に限られるわけではない。
【0022】
電極部22は、接続領域221と、接触領域222と、連結領域223と、の3つの領域に区別される。
図4は、電極部を説明する図である。
図4は、
図3のスペーサ23を取り除いた図である。
図4では、接続領域221は基板21の短手方向に長辺を有する長方形の領域で示されている。接触領域222は円状の領域で示されている。連結領域223は、基板21の長手方向に長辺を有する棒状の領域で示されている。但し、
図4の例は一例であり、形状が
図4の例に限られるわけではなく、3つの領域が明確に区別できなくともよい。また、接続領域221と、接触領域222と、連結領域223とが、異なる形状でなくともよい。例えば、電極部22が棒状であり、一端が接続領域221、他端が接触領域222、接続領域221と接触領域222の間が連結領域223としてもよい。
【0023】
接続領域221は、クリップ、ケーブル等を介して、交流信号源等の測定器と接続される領域である。なお、
図3の例では、クリップを付けやすくするために、接続領域221がスペーサ23に覆われていない形態を示している。しかし、接続領域221はスペーサ23に覆われていてもよい場合もある。例えば、電極2の側面において接続領域221が露わになっており、当該側面からケーブル等と接続できる場合は、基板21の上面においては、接続領域221がスペーサ23に覆われていてもよい。
【0024】
接触領域222は、電解質溶液に電流を流すために、電解質溶液と接触するための領域である。接触領域222は、電解質溶液と接触するために、スペーサ23により覆われてはいない。これにより、接触領域222の上方には、上方が開放された空間24が存在する。本実施形態の空間24は、スペーサ23を側面とし、基板21の上面上に存在する、接触領域222を含む領域を底面とする。当該底面から、上方の開口部までを空間24の高さとする。スペーサ23の高さが均一であれば、空間24の高さは、スペーサ23の高さと一致する。
【0025】
測定時に、電極2に電解質溶液である測定溶液を滴下すると、空間24に電解質溶液が留まる。これにより、接触領域222と測定溶液との間で電流が流れる。なお、
図3の例では、接触領域222は円状であり、空間24は円筒状であるが、接触領域222と空間24の形状は、
図3の例に限られるものではない。
【0026】
但し、接触領域222は、エッジ部分を有さない形状であることが好ましい。エッジ部分は製造時の欠陥等が最も入りやすい部分であるにも関わらず、接触領域222と電解質溶液とに係る電流は、
図2に示したように、エッジ部分に集中する。ゆえに、個々の電極2の精度にばらつきが生じる原因となる。そこで、接触領域222にエッジ部分がないように、接触領域222を円状にしつつ、表面全体を滑らかにすることにより、接触領域222のセンジング特性への寄与を最大化させることができる。これにより、高感度、高安定な測定を行うことができる。
【0027】
連結領域223は、接続領域221と接触領域222を連結する領域である。連結領域223を介して、接続領域221と接触領域222との間に電流が流れる。
【0028】
なお、上記では、接続領域221と、接触領域222と、連結領域223とが、1つの導電性部材の一部であることを想定した。しかし、接続領域221と、接触領域222と、連結領域223とが異なる導電部材により存在し、電極部22を構成してもよい。
【0029】
図5は、第1の実施形態に係る電極の第1の例の端面図である。
図5(A)は、
図3のA−A線による端面図である。
図5(B)は、
図3のB−B線による端面図である。
図5に示すように、スペーサ23は基板21の上面に付着された突出部であり、電極部22の最上面は、スペーサ23の最上面よりも低い位置にある。なお、
図5の例では、スペーサ23の高さは10μm程度であり、電極部22の高さは200nm程度である。
【0030】
図6は、測定時の電極を説明する図である。測定には2つの電極が用いられ、一方が酸化電極、他方が還元電極となる。
図6の例では、2つの電極の一方が電極2であり、他方が電極2と同形状であってスペーサ23を有さない電極3とする。つまり、電極3は、突出部を有さない平坦な電極である。また、
図6の楕円で囲まれた部分は、電極2と電極3とが上下に重なり合う部分の端面図である。測定の際は、
図6のように、2つの電極を重ね合わせる。ゆえに、電極2の接触領域222が、空間24を介して電極3と対向する。なお、電極2および電極3のいずれを上にしてもよい。
【0031】
2つの電極2および3が重ね合わせられても、電極部22の最上面がスペーサ23の最上面よりも低い位置にあるため、スペーサ23の最上面が対向する電極3に接触し、電極部22は対向する電極3に接触しない。ゆえに、電極2および電極3の接触領域222が平行に配置され、空間24(マイクロギャップ)が保たれる。これにより、滴下された測定溶液が空間24に均等に留まり、空間24内の測定溶液に電流を流すことができる。なお、測定溶液に流す電流の方向は、任意に定めてよい。なお、
図6では、接触領域222間の距離は、接触領域222の高さを無視すれば、スペーサ23の高さ、つまり空間24の高さと一致する。
【0032】
また、
図6のように、電極2および電極3の接触領域222が、はみ出さずにおおよそ重なるように配置されることが好ましい。重なる領域が大きい程、接触領域222の表面積を効率よく用いることができ、酸化還元反応の効率を向上させることができる。
【0033】
電極部22のその他の部分の位置は特に限られるものではない。例えば、
図6の例では、下側の電極2の連結領域223を基準として、上側の電極3の連結領域223は、接触領域222を中心に時計回りに90度程度回転している。この回転角度は何度でもよい。但し、測定の度に重なり合う面積が異なると、測定結果も異なるため、回転角度が異なることは、測定に影響を与える。しかし、接触領域222が円状であれば、当該回転角度が変化しても、重なりあう面積は変化しない。ゆえに、接触領域222が円状の場合、当該回転角度が異なることによる測定結果への影響を抑えることができる。
【0034】
なお、測定に用いられる2つの電極は、上記のように一方だけが電極2であってもよいし、両方とも電極2であってもよい。両方とも電極2の場合は、接触領域222間の距離が、両電極2のスペーサ23の高さの和となる。一方だけが電極2の場合は、電極2は酸化電極および還元電極のいずれとして用いられてもよい。また、一方だけが電極2の場合、他方の電極は、酸化電極または還元電極として用いることができるものであれば使用可能であるが、他方の電極の形状により、測定結果に違いが生じる。
【0035】
図7は、サイクリックボルタメントリー(CV)測定によるCV曲線を示す図である。
図7のCV曲線は、
図6で示した電極2および電極3を用いたCV測定により得られたものであり、スペーサ23の高さが、0.01、0.015、
0.06、1.8mmの4つの場合が示されている。スペーサ23の高さは、電極2および電極3の距離であり、空間24の高さである。
【0036】
なお、本CV測定において、電解質溶液のレドックスプローブとして、ヘキサシアノ鉄酸イオン[Fe(CN)
6]
3−/4−を用いた。また、電極部22の導電材料として金を用いた。
【0037】
スペーサ23の高さが1.8mmの場合のCV曲線は、ヒステリシスが大きい。一方、スペーサ23の高さが
0.06mm以下のCV曲線は、ヒステリシスが小さい。また、スペーサ23の高さが小さくなるにつれ、電流値が大きく増大した。この現象は、櫛形電極において、陽極および陰極の歯同士の距離を狭めた場合の振る舞いと一致する。
【0038】
ゆえに、本実施形態の電極2を用いた場合においても、櫛形電極と同じく、酸化還元のレドックスサイクルが高速化されていると考えられる。したがって、スペーサ23の高さ、つまり空間24の高さをより小さくし、ヒステリシスを小さく、電流値を大きくすることにより、測定の高速化、測定精度の向上が期待される。また、櫛形電極のように、接触領域222の表面積をより広くすることにより、酸化還元反応の効率を向上させることができると考えられる。
【0039】
また、スペーサ23の高さを小さくすることにより、注入される測定溶液を少量にすることができる。なお、測定溶液が少量でも、表面張力により、空間24に注入された測定溶液は均等になる。
【0040】
図8は、第1の実施形態に係る電極の第2の例を示す図である。
図8の例では、必要以上にある電解質溶液を排出するための排出スペース25が電極2に設けられている。
図8では、排出スペース25が2つ示されており、排出スペース251および252と区別されている。
【0041】
電解質溶液は、スペーサ23を側面として囲まれた、接触領域222の上方に存在する空間24に溜まる。空間24に電解質溶液が必要以上あると、測定時に電極を押さえつけた際に、電解質溶液の圧が高くなり、電解質溶液が適量にある場合と比べて、測定結果に誤差が生じ易くなる。ゆえに、
図8の例では、空間24と、電極2の側面に設けられた穴または窪みである排出口とを連結する排出スペース25が設けられている。これにより、必要以上にある電解質溶液が排出されて、センサによる測定の精度を高めることができる。
【0042】
排出スペース25は、スペーサ23の上面に設けられた窪みにより実現されてもよいし、スペーサ23内部に設けられた貫通穴により実現されてもよい。窪みの深さは、任意に定めてよい。スペーサ23の上面が窪んだ程度でもよいし、
図8のように窪みが基板21まで到達していてもよい。窪みが基板21まで到達している場合は、すなわち、基板21の上面に複数のスペーサ23が存在し、複数のスペーサ23の間の隙間が排出スペース25となる。
【0043】
以上のように、本実施形態の電極2は、基板21の上面に存在する突出部により、電極部22の最上面が、基板21の最上面よりも低い位置に存在する。ゆえに、測定時において、電極2の電極部22が他の電極と接触しない。また、空間24の高さを小さくする事により、測定時にレドックスサイクルが高速で行われることが期待される。したがって、本実施形態の電極2は薄くて幅が狭い電極であるにも関わらず、櫛形電極のように、微量または低濃度のサンプルでも、応答速度、精度の点で優れた測定を行うことが可能となる。
【0044】
なお、本実施形態では、スペーサ23が基板21の上面に接着されることにより、突出部が形成されたが、基板21の上面の一部が盛り上がることにより突出部が形成されてもよい。
【0045】
(第2の実施形態:電極の構造2)
第1の実施形態では、基板21の上面の突出部により、空間24を生じさせた。第2の実施形態では、突出部ではなく、窪み部により、空間24を生じさせる。第1の実施形態と同様な点は説明を省略する。
【0046】
図9は、第3の実施形態に係る電極の一例を示す図である。本実施形態に係る電極2は、第1の実施形態が備えていたスペーサ23の代わりに、基板21の上面に窪み部211を有する。
図9では、窪み部211は斜線で示されている。
【0047】
窪み部211の深さは、任意に定めてよい。但し、基板21より下に存在するものがないため、基板21の底面には達しないものとする。また、窪み部211の各箇所の深さは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
なお、
図9に示す電極2は、
図8で示した排出スペース25を有しているが、
図3の例のように、排出スペース25はなくてもよい。また、排出スペース25が基板21の窪みにより形成された場合、排出スペース25は窪み部211の一部である。
【0049】
本実施形態の電極部22は、基板21の上面の少なくとも一部を覆うように接着されている点は第1の実施形態と変わりない。しかし、本実施形態の電極部22に覆われた箇所は全て窪み部211であるとする。ゆえに、窪み部211は電極部22より広い範囲に存在する。
【0050】
図10は、第2の実施形態に係る電極の一例の断面図である。
図10(A)は、
図9のA−A線による断面図である。
図10(B)は、
図9のB−B線による断面図である。
図10に示すように、電極部22の最上面は、基板21の最上面よりも低い位置にある。本実施形態における空間24は、スペーサ23の代わりに、窪み部211の内壁により囲まれている。
【0051】
基板21の最上面により、第1の実施形態と同様、電極部22は、測定時に対向する電極3に接触しない。ゆえに、空間24に留まる電解質溶液に電流を流すことができる。
【0052】
(第3の実施形態:電極の構造3)
第3の実施形態では、第1の実施形態が、さらに導電性部材による基準電極部26を備える。これまでの実施形態と同様な点は説明を省略する。
図11は、第3の実施形態に係る電極の一例を示す図である。基準電極部26は、格子模様で示されている。
【0053】
基準電極部26は、電圧を測定する際に、電圧の基準点を与える。基準電極部26の導電性部材は、基準電極として一般に使用される導電性部材を用いればよい。例えば、銀(Ag)、塩化銀(AgCl)等を用いてもよい。
【0054】
第3の実施形態の基準電極部26は、電極部22と接触せず、かつ第1の実施形態の電極部22と同様に配置される。
図11の例では、基準電極部26は、電極部22に覆われていない基板21の表面の少なくとも一部を覆うように接着されている。スペーサ23は、基板21の表面、電極部22、および基準電極部26の一部を覆うように接着されている。なお、スペーサ23は、基準電極部26を覆わなくともよい。
【0055】
基準電極部26の一部は、電解質溶液と接触できるように、電解質溶液が留まる空間、つまり空間24に存在する。なお、排出スペース25がある場合は、排出スペース25内にも電解質溶液があるため、基準電極部26の一部が
図11のように排出スペース25内に存在してもよい。
【0056】
その他の点は、これまでの実施形態と同様である。これにより、第3の実施形態に係る電極2は、第1の実施形態の機能に加え、さらに電圧の値を測定することができる。
【0057】
(第4の実施形態:電極の構造4)
第4の実施形態では、第2の実施形態が、さらに第3の実施形態で示した基準電極部26を備える。これまでの実施形態と同様な点は説明を省略する。
図12は、第4の実施形態に係る電極の一例を示す図である。
【0058】
第4の実施形態の基準電極部26は、電極部22と接触せず、第2の実施形態の電極部22と同様に配置される。但し、基準電極部26に覆われた箇所は全て窪み部211であるとする。ゆえに、窪み部211は電極部22および基準電極部26より広い範囲に存在する。
【0059】
その他の点は、これまでの実施形態と同様である。これにより、第4の実施形態に係る電極2は、第2の実施形態の機能に加え、さらに電圧の値を測定することができる。
【0060】
なお、これまでの実施形態で示した電極2を一部とするマイクロチップを生成してもよい。例えば、複数の電極2の側面をつなぎ合わせて、1つのマイクロチップを生成してもよい。マイクロチップの基板は、複数の基板21から構成されているのではなく、一枚板でもよい。すなわち、1つの基板21に、複数の電極部22を接着してもよい。したがって、当該マイクロチップは、基板21と、複数の電極部22と、を備え、複数の空間24同士が、スペーサ23および窪み部211の少なくともいずれかにより分離されている。
【0061】
当該マイクロチップでは、少量の測定溶液を滴下する空間24が複数あるため、複数の空間24ごとに滴下する測定溶液を変えることにより、同時に何種類もの測定を行うことができる。なお、複数の空間24には、マイクロピペットなどにより、測定溶液を滴下してもよい。
【0062】
当該マイクロチップにより、1種類の溶液しか同時に測定できない櫛形電極とは異なり、同時に複数の測定溶液に対し測定が可能となる。
【0063】
(第5の実施形態:バイオセンサ用電極、バイオセンサ)
第5の実施形態では、これまでの実施形態にて説明した電極2を用いたバイオセンサについて説明する。
【0064】
バイオセンサは、測定対象と分子識別素子との生物化学反応に伴う測定対象の電解質溶液の電流等を測定することにより、測定対象を測定する。分子識別素子は、特異的な分子識別機能を有する生体関連物質である。例えば、酵素、受容体、抗体、微生物、核酸(例えば、DNA、RNA)などが知られている。分子識別素子とそれが特異的に認識する物質の組み合わせには、例えば、酵素と基質の組み合わせ、抗体と抗原の組み合わせが挙げられる。
【0065】
本実施形態では、免疫センサとして、ヒトの免疫グロブリン(Immunoglobulin :Ig)の一種であるIgGを測定対象とし、分子識別素子として、ProteinG(プロテインG)、ProteinA(プロテインA)、またはProteinL(プロテインL)を用いるバイオセンサを説明する。
【0066】
免疫グロブリンは、細菌、ウイルスなどの抗原に対する抗体であるため、ヒトの血液中の免疫グロブリン濃度の増減は、感染症、アレルギー疾患、免疫不全、自己免疫疾患等を早期に発見するための目安となり得る。免疫グロブリンは、定常領域の構造の違いにより、IgG、IgA、IgM、IgD、およびIgEの5つの種類に分類される。
【0067】
IgGは、血液中に最も多く含まれる免疫グロブリンであり、健常成人男性では血漿中に約1,200mg/dlほど含まれる。IgGには、種々の抗原に対する抗体が含まれる。また、ヒトの場合、IgGには、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の4種類のサブクラスが存在することが知られている。これらのサブクラスは、それぞれ異なる化学的性状や生物学的機能を有する。
【0068】
ProteinG、ProteinAおよびProteinLは、タンパク質(プロテイン)の一種であり、免疫グロブリンと結合する能力を有する細菌由来タンパク質である。これらのタンパク質が結合する箇所は、動物種やサブクラスに応じて異なる。
【0069】
ProteinGは、連鎖球菌(streptococci)と呼ばれる菌の細胞壁成分であり、大抵の哺乳類の免疫グロブリンと結合する能力を有する。野生型(天然)のProteinGは、免疫グロブリン(特にIgG)のFc領域と特異的に結合し、Fabフラグメントとも弱く結合し、さらに血清アルブミンや細胞表面とも結合することがある。
【0070】
ProteinAは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の細胞壁成分であり、免疫グロブリン(特にIgG)のFc領域に特異的に結合する能力を有する。
【0071】
図13は、ヒトの免疫グロブリンに対するProteinGおよびProteinAの結合性を示す図である。「◎」は結合性を有することを示し、「−」は結合性を有しないことを示す。
図13に示すように、ProteinGは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の4種類全てと結合する。一方、ProteinAは、IgG1、IgG2、およびIgG4とは結合するが、IgG3とは結合しない。また、ProteinGおよびProteinAは、IgG以外のIgA、IgM、およびIgDとは結合しない。
【0072】
したがって、全てのサブクラスを含むIgGを測定対象とする場合は、分子識別素子としてProteinGのほうがProteinAよりも好ましい。
【0073】
なお、ProteinAを分子識別素子として用いて、IgG3を除いたIgGの濃度を測定してもよい。ProteinGによる測定結果と、ProteinAの測定結果より、IgG3の濃度を算出してもよい。
【0074】
ProteinLは、Peptostreoticiccus magnusのタンパク質であり、免疫グロブリン(特にIgG)のκ軽鎖と特異的に結合する。ProteinGおよびProteinAとは異なり、重鎖には結合しないため、IgG以外に、IgM、IgA、IgE、IgDと結合することができる。κ軽鎖があれば、一本鎖抗体(scFv)およびFabフラグメントと結合することもできる。
【0075】
分子識別素子として、測定対象にあわせて、ProteinG、ProteinAおよびProteinLのいずれかを単独で用いてもよいし、これらを2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0076】
図14は、第5の実施形態に係るバイオセンサの測定原理を説明する図である。
図14の左側は、接触領域222に分子識別素子が結合されている状態を示す。なお、
図14の例では、接触領域222の導電性部材として金が、分子識別素子としてProteinGが用いられている。また、レドックスプローブとしてヘキサシアノ鉄Fe(CN)
6が電解質溶液中に溶解されており、接触領域222からの放電により、ヘキサシアノ鉄酸イオンの酸化還元反応{Fe(CN)
63−⇔Fe(CN)
64−}が生じる。
【0077】
図14の右側は、
図14の左側に示した電極2の接触領域222が、IgG溶液に十分に浸漬された後の状態を示す。ProteinGとIgGが結合していることが示されている。ProteinGとIgGが結合していることにより、接触領域222と電解質溶液とに係る電流が減少する。この電流の測定値に基づいて、IgG濃度等を算出する。測定方法は後述する。
【0078】
図15は、ProteinGの結合方法を説明する図である。まず、
図15の左上に示すように、自己組織化膜法により、接触領域222の表面に、カルボキシル基を有する自己組織化単分子膜(SAM膜)が成膜される。
図15のSAM膜には、11−メルカプトウンデカン酸(11−MUA)と、6−メルカプト−1−ヘキサノール(6−MCH)の2種類の分子が用いられている。11−MUAは、末端にチオール基、他端に反応性官能基のカルボキシル基を有する。6−MCHは、末端にチオール基、他端に不活性なOH基を有する。
【0079】
次に、
図15の右上に示すように、アミンカップリング法が行われる。アミンカップリング法は、タンパク質の基板固定化法の一つである。
図15では、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)と、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とを用いて、アミノカップリング法が行われている。SAM膜のカルボキシル基とEDCとが化学反応し、その後当該化学反応による生成物とNHSとが化学反応し、NHSエステルが生成される。
【0080】
そして、
図15の左下に示すように、NHSエステルとProteinGとが化学結合し、ProteinGのアミノ基がSAM膜のカルボキシル基に固定される。
【0081】
最後に、
図15の右下に示すように、SAM膜において未反応のNHSエステルに対して、ブロッキング処理が施される。未反応のNHSエステルは、アミノ基と化学結合するため、タンパク質を検出するセンサの特異性、選択性を損なう非特異吸着の原因となる。これを防ぐため、未反応のNHSエステルと非測定対象のタンパク質とを化学反応させるブロッキング処理を行う。
図15の例では、未反応のNHSエステルにウシ血清アルブミン(BSA)を結合させている。このようにして、IgG測定に特化した電極2が生成される。
【0082】
なお、上記では、分子識別素子としてProteinG、とProteinAを用いたが、電極2に結合される分子識別素子はこれらに限られるものではなく、測定対象に応じて、既知の分子識別素子に代えてよい。
【0083】
(測定方法:EIS)
次に、測定方法について説明する。本実施形態では、電気化学インピーダンス法(Electrochemical Impedance spectroscopy:EIS)を用いることを想定する。EISは、分子識別素子の化学反応により生じた測定対象等に対し、電圧または電流の制御器を用いて交流信号を印可し、インピーダンスを測定する。そして、測定されたインピーダンスに基づき、対象物質の測定を行う。EISでは、測定される試料に対し標識が不要であるため、高速かつ低コストでの測定が可能であること、電極の小型化が容易であること等の利点がある。
【0084】
具体的には、酸化還元反応における電気抵抗を、コンデンサ等の回路要素を用いて表した等価回路に置き換え、測定されたインピーダンススペクトルに基づき等価回路のパラメータを算出し、当該パラメータに基づき測定対象の値を算出する。
【0085】
図16は、等価回路の一例を示す図である。酸化還元反応におけるインピーダンス抵抗が等価回路にて示されている。等価回路は、電極部22に該当する部分と、SAM膜に該当する部分と、溶液に該当する部分とが接続された形態で示される。電解質溶液では、接触領域222の近傍にて電荷移動反応が起こり、電流が発生する。接触領域222のSAM膜に結合されたIgGは、電荷移動反応を阻害する因子となる。SAM膜における電流の流れ難さを電荷移動抵抗と称し、R
ctと記載する。また、電解質溶液に起因する抵抗要素を溶液抵抗と称し、R
solと記載する。なお、
図16では、定位相要素(CPE)が示されている。CPEはコンデンサ要素Cと、抵抗要素Rの両成分を有する素子として扱われる。
【0086】
算出されたインピーダンスZは、実数部Z
reと、虚数部Z
imとを用いて表される。そして、周波数を走査しながら測定を行うことにより、インピーダンススペクトルが得られる。得られたインピーダンススペクトルを、実数部Z
reを横軸に、虚数部Z
imを縦軸にとる極座標形において表した図は、ナイキスト線図と称される。
【0087】
図17は、ナイキスト線図の一例を示す図である。電荷移動抵抗R
ctは、ナイキスト線図にて示される半円の直径に相当する。溶液抵抗R
solは、当該半円と原点との最短距離に相当する。Z
reは、電極部22に印加された交流信号の周波数が低い程大きい。つまり、ナイキスト線図は、原点に近い領域では当該周波数が大きく、原点に遠い領域では当該周波数が小さい。
【0088】
なお、電極部22の表面が電気的に不均一である場合などでは、
図17の点線で示されるように、半円が円状から楕円状に近づく。このような場合では、
図16で示したように、等価回路にCPEを用いてもよい。
【0089】
図16で示した等価回路のインピーダンスZは、次式のように表される。
【数1】
Z
cpeは、CPEのインピーダンスであり、次式のように表される。
【数2】
上式において、iは虚数を、ωは周波数を、TはCPE定数を表す。
【0090】
また、ナイキスト線図が、低周波数領域つまり原点に遠い領域にて、実軸に対し45度程度の傾きで増加する直線となる場合は、等価回路にワールブルグインピーダンスを追加してもよい。ワールブルグインピーダンスは、イオンの拡散に由来するインピーダンスであり、次式で表される。
【数3】
上式において、Z
wはワールブルグインピーダンスを、δは拡散条件にかかる定数を表す。ワールブルグインピーダンスは、電極部22の表面での抵抗であるため、等価回路では、R
ctと直列に接続されて表される。
【0091】
このようにして、等価回路を設定し、測定されたインピーダンスZに基づき電荷移動抵抗R
ct等のパラメータを算出する。そして、算出されたパラメータ、パラメータに基づくナイキスト線図等を用いて、対象物質の濃度等を算出する。
【0092】
次に、バイオセンサ用電極2を用いた測定実験について説明する。
【0093】
(実験1:IgGに対するセンサ特性)
まず初めに、バイオセンサ用電極2の生成および本実験に用いられた試液について説明する。試液は、SAM溶液、EDC/NHS溶液、ProteinG溶液、ブロッキング溶液、水酸化カリウム水溶液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、測定溶液、2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)溶液を用いた。
【0094】
SAM溶液は、SAM膜形成に用いた。EDC/NHS溶液は、アミンカップリング法に用いた。ProteinG溶液は、ProteinGを電極2へ固定するのに用いた。ブロッキング溶液は、ブロッキング処理に用いた。水酸化カリウム水溶液はpHの調整に用いた。PBSは、各溶液の作成等に用いた。測定溶液は、酸化還元反応をさせる電解質溶液として用いた。MES溶液は、EDC/NHS溶液の作成に用いた。
【0095】
各試液の生成手順について説明する。SAM溶液は、26mMの99%MUAと、7.5mMのMCHと、エタノールとを混合することにより生成した。EDC/NHS溶液は、EDCが10mMに、NHSが20mMになるように、純水に溶解させ生成した。なお、EDC/NHS溶液は、9.58mgのEDCと、5.75mgのNHSとを、pHが5.0の5mlのMES溶液に溶かして生成しても、実験結果に相違は得られなかった。ProteinG溶液は、濃度が0.1mg/mlとなるように、pHが7.0の1mlのPBS溶液に、1mgのProteinGを溶解させて生成した。ブロッキング溶液は、1.5%の濃度になるように、pHが7.0の1mlのPBS溶液に、15mgのBSAを溶解させて生成した。水酸化カリウム水溶液は、140.3mgの水酸化カリウムを50mlの純水に溶かして生成した。PBSは、2錠のPhosphate buffered salineタブレット(NaCl137mMと、KCl2.7mMとを含む)(DOJINDO社製)を、400mlの純水に溶解させて生成した。測定溶液は、105.5mgのフェロシアン化カリウム水和物と、826mgのフェリシアン化カリウムとを、pHが7.0の50mlのPBSに溶かして生成した。MES溶液は、1.066gのMESを純水100mlに溶かし、1mMのKOHを用いてpHを5.0になるように調整して生成した。
【0096】
次に、分子識別素子としてProteinGをバイオセンサ用電極2に結合させた手順について説明する。過酸化水素(H
2O
2)と硫酸(H
2SO
4)が1:3の割合で混合されたピラニア溶液を用いて電極2を10分間洗浄した上で、接触領域222をSAM溶液に室温で48時間浸漬させてSAM膜の成膜を行った。
【0097】
次に、SAM膜が形成された電極2をEDC/NHS溶液に室温で2時間程、浸漬させた。その後、浸漬された電極2を純水で乾燥させ、ProteinG溶液に室温で2時間程浸漬させた。
【0098】
そして、電極2をブロッキング溶液に室温で1時間浸漬させた後、PBSおよび純水にて洗浄を行った。以上の工程により、分子識別素子としてProteinGが結合されたバイオセンサ用の電極2が完成された。
【0099】
図18は、第5の実施形態に係るバイオセンサを説明する図である。
図18の左上に示す電極2は、分子識別素子としてProteinGが結合されている。本実験では、IgG溶液の濃度を測定することを目的とする。まず、当該電極2は、測定対象のIgG溶液に浸漬される。そして、
図18の右下に示すように、浸漬された電極2と、他の電極とが固定器(サンプルホルダ)4に固定された上で、EISによるインピーダンス測定が可能な測定器5が接続されている。これにより、
図18の右下の一連の機器は、バイオセンサとして機能する。
【0100】
なお、前述のとおり、測定には2つの電極が用いられるが、少なくとも一方の電極の接触領域222に分子識別素子が結合されていればよい。一方の電極に吸着されたIgG等により、2電極間のインピーダンス値に変化が生じるためである。ゆえに、他の電極として、
図6の例と同様に、電極2と同形状であってスペーサ23を有さない電極3を用いる。
【0101】
SAM膜による電荷移動抵抗は、接触領域222をIgG溶液に浸漬した時間により変化する。ゆえに、ProteinGとIgGとの反応が十分に済むまで、電極2をIgG溶液に浸漬させるとする。反応が十分に済むまで接触領域222をIgG溶液に浸漬させておくことにより、電荷移動抵抗が浸漬時間により変化しなくなり、浸漬時間を考慮する必要がなくなる。本実験では、電極2をIgG溶液に浸漬した時間は、1時間程度である。浸漬時間は、用いる抗体の濃度、温度により適宜調整することができる。
【0102】
固定器4は、接触領域222同士が上下に重ね合うように、電極2と電極3を固定している。但し、前述の通り、スペーサ23または窪み部211により、接触領域222同士は接触していない。また、固定される前に測定溶液が滴下され、空間24に測定溶液が存在する。
【0103】
固定器4は、2つの電極(電極2と電極3)のうち下側の電極を支える台座41と、上側の電極を抑える押さえ部42を備える。台座41と押さえ部42の間で2つの電極が押さえ付けられる。押さえ付けられた2つの電極の間が狭いため、測定溶液は少なくて済む。また、電極2に排出スペース25がある場合は、2つの電極が押さえつけられた際に、必要以上の測定溶液が排出され、測定の精度が向上する。
【0104】
また、押さえつける際に重ね合わせたセンサがずれないように、センサを固定する溝、棒等が固定器4に設けられてもよい。
【0105】
固定器4により2つの電極が押さえられた際に、接続領域221は固定器4の外側に出る。これにより、グリップ等の付け外しが容易となる。
【0106】
なお、固定方法は、上記の例に限られるものではなく、接触領域222を上下以外、例えば左右に重ね合わせて測定してもよい。
【0107】
次に、EISにより、測定溶液における酸化還元反応のインピーダンスを測定した。電極2を浸漬させたIgG溶液の濃度は、0.01から10000ng/mlまで10倍ずつ増加させた。
【0108】
図19は、測定されたインピーダンスによるナイキスト線図である。0.01から100ng/mlまでは、各濃度に対するナイキスト線図の円の直径が、濃度が増加するにつれ増大している。これは、IgG濃度が大きくなるにつれてSAM膜にIgGが多く吸着され、吸着されたIgGが電子のやり取りを阻害することにより、電荷移動抵抗R
ctが増大したためと考えられる。つまり、IgGの吸着により、ナイキスト線図の半円の大きさが変動する。また、IgG溶液の濃度が100ng以上では、半径の大きさがほぼ変動しない。これは、IgG溶液の濃度が100ngにおいて、SAM膜のProteinGがほぼIgGと結合されており、IgG溶液の濃度が100ng以上増加しても電荷移動抵抗R
ctが増加しなかったためと考えられる。
【0109】
図20は、第5の実施形態に係るバイオセンサのIgG溶液に対する検量線を示す図である。当該検量線は、R
ctをセンシングの指標として用い、IgG濃度によるR
ctの変化を示す。横軸はIgG溶液の濃度の対数を示す。縦軸は、IgG溶液に浸漬させていない状態でのバイオセンサの電荷移動抵抗R
ct0に対する電荷移動抵抗R
ctの比率を示す。当該比率を抵抗比率と称し、ΔR
ct(ΔR
ct=R
ct/R
ct0)と記載する。
【0110】
IgG濃度が0.01から10ng/mlまでは、抵抗比率ΔR
ctの値は、比例して増大している。また
図20においても、濃度100ng/ml以降で検量線の変化幅が小さいことから、濃度100ng/ml付近にて、SAM膜のProteinGがほとんどIgGと結合していると考えられる。
【0111】
本結果より、本実施形態に係るバイオセンサは、IgG溶液の濃度が1×10
−13から1×10
−7g/ml程度までの範囲において、IgG溶液の濃度を測定することができることが分かる。
【0112】
(実験2:IgAに対するセンサ特性)
バイオセンサを実際の血清サンプルに用いる際は、様々なタンパク質を含む血清中から特定の免疫物質のみを選択的に検出する能力が要求される。そのため、センサの選択性は、センサの性能を評価する上で重要な要素となる。そこで、本実験では、実験1で用いたIgG溶液に代わって、IgA溶液を用いて、測定を行った。その他の点は、実験1と同様であるため、省略する。
【0113】
IgAは、IgGとは異なるクラスの免疫グロブリンであり、IgGとよく似たタンパク質構造を有する。しかし、前述のように、ProteinGはIgAと結合しないため、抵抗比率ΔR
ctは増加しないと考えられる。
【0114】
図21は、第5の実施形態に係るバイオセンサのIgA溶液に対する検量線を示す図である。当該検量線は、IgA濃度によるR
ctの変化を示し、横軸および縦軸は
図20と同様である。
図21にて示されるように、抵抗比率ΔR
ctは増加せず一定となった。このことにより、本実施形態のバイオセンサは、IgAに対しては反応しないことが証明され、本実施形態のバイオセンサは、IgGに対しての高い選択性を有すると考えられる。
【0115】
(実験3:ProteinGの有効性)
本実験では、SAM膜に結合されたProteinGの有効性を確認するために、本実施形態のバイオセンサではなく、比較用のバイオセンサを用いて、実験を行った。比較用バイオセンサは、アミンカップリング後に、BSA溶液に1時間浸漬させたものである。すなわち、比較用バイオセンサのSAM膜にはProteinGの代わりにBSAが結合されている。
【0116】
図22は、比較用バイオセンサのIgG溶液に対する検量線を示す図である。
比較用バイオセンサを用いた点以外は、実験1と同様である。
図22に示すように、抵抗比率ΔR
ctは増加せず一定となる。これにより、IgGが接触領域222に物理吸着することなどにより電荷移動抵抗が増加するとった事態は生じておらず、本実施形態に係るProteinGの有効性が証明された。
【0117】
以上のように、第5の実施形態に係るバイオセンサ用電極によるバイオセンサは、EISにより、高感度かつ広い測定可能領域を有する。また、当該バイオセンサは、IgG以外の免疫グロブリンに対し反応せず、物理吸着等によりIgGを捉えておらず、高い選択性を有する。ゆえに、既存のバイオセンサが有する櫛形電極の代わりに、第5の実施形態に係るバイオセンサ用電極を用いることができる。
【0118】
なお、上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。