(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0012】
(1)実施例1
(1−1)装置構成
図1に、TEMの構成例を示す。電子銃1から放出されて加速された電子線は、照射系レンズ2によって収束された後、第1偏向コイル3及び第2偏向コイル4によって偏向される。更に、電子線は、対物レンズ(前磁場)5によって試料台7に装着された試料6に結像される。電子線発生装置12は、電子銃1に与える電圧を調整して電子線のエネルギーを制御する。電子線を試料6に照射する電子線照射系は、破線で囲んで示す装置本体の内部に収納される。装置本体の内部は、真空排気ポンプ16によって真空に保たれる。
【0013】
試料6を透過した電子線は、結像系レンズ8により拡大されて蛍光板11に結像される。これにより、蛍光板11には試料透過像に対応する蛍光板面像が現れる。蛍光板面像は、蛍光板撮影用のカメラ(第1の撮像装置)9により撮影される。カメラ9は、蛍光板面像に当たる画像信号を出力する。本実施例のTEMは、蛍光板11を使用しない観察方法にも対応する。当該観察方法を用いる場合、蛍光板駆動装置15が蛍光板11を電子線の光軸上から退避させ、試料6を透過した電子線をカメラ(第2の撮像装置)10の撮影面に直接入射させる。これにより、カメラ10は、試料透過像に当たる画像信号を出力する。
【0014】
画像の撮影倍率は、電子線調整装置13の制御により可変できる。撮影視野は、試料移動装置14による試料台7の位置移動により調整できる。電子線発生装置12、電子線調整装置13、試料移動装置14、蛍光板駆動装置15、真空排気ポンプ16は、いずれも装置本体側に設けられる。
【0015】
破線で囲んで示すコンピュータ17には、中央演算ユニット17a、画像表示用メモリ17b、入出力インターフェース17c、画像メモリ17d、17e、プログラム格納メモリ17f、データ保存用メモリ17gが含まれる。中央演算ユニット17aは、プログラム格納メモリ17fに格納されているプログラムを実行し、各種の機能を提供する。例えば中央演算ユニット17aは、カメラ9又は10から受信した画像信号を画像メモリ17dに一時保管する。ここでの画像信号は、蛍光板画像又は試料透過像である。画像メモリ17dに既に画像信号が保管されている場合、中央演算ユニット17aは、画像信号を画像保存メモリ17eに一時保管する。画像メモリ17dと画像保存メモリ17eの両方に既に画像信号が保管されている場合、中央演算ユニット17aは、交互に、格納されている画像信号を削除し、保管領域を確保する。
【0016】
中央演算ユニット17aは、試料透過像を画面に表示する場合、画像メモリ17d(又は17e)から読み出した画像信号を画像表示用メモリ17bに格納し、その後、入出力インターフェース17cを通じて表示装置(インターフェース部)18に表示する。TEMに関する各種データ、中央演算ユニット17aが演算により算出したデータ等は、データ保存用メモリ17gに保存される。中央演算ユニット17aは、プログラム格納メモリ17fに格納されているプログラムの実行を通じ、電子線発生装置12、電子線調整装置13、試料移動装置14、蛍光板駆動装置15、真空排気ポンプ16の動作を制御する。
【0017】
(1−2)電流軸中心の調整動作
(a)処理の概要
電流軸中心の調整時、オペレータは、操作パネルの操作を通じて中央演算ユニット17aにアクセスし、該当するプログラムの実行を指示する。中央演算ユニット17aは、電子線調整装置13を制御し、対物レンズ5の電流値を正負の方向にわずかに変化させ続ける。対物レンズ5の電流値の変化により、蛍光板11に表示される蛍光板画像又はカメラ10で観察された試料透過像は回転され、同時に拡大又は縮小される。
【0018】
次に、中央演算ユニット17aは、カメラ9又は10から受信した画像信号を画像メモリ17d又は17eに一時的に保管すると共に、画像表示用メモリ17bに画像信号を保管して、表示装置18に表示する。
【0019】
図2に、電流軸中心の調整時に表示される操作画面の一例を示す。中央演算ユニット17aは、インターフェース画面19と調整情報表示画面23に表示される情報の全部又は一部をリアルタイムで更新する。これにより、オペレータは、リアルタイムで調整結果を確認することができ、作業効率を上げることができる。
【0020】
インターフェース画面19には、電流値を変化させる前後に撮影された2つの画像19A又は19Bが表示されている。画像19Aは電流値の変化前の画像に対応し、画像19Bは電流値の変化後の画像に対応する。いずれも同じカメラ9又は10で撮影された画像である。すなわち、画像19A及び19Bは、いずれも蛍光板画像又は試料透過像である。
図2は、電流値の変化により、画像19Bが画像19Aに対して回転され同時に拡大された様子を表している。勿論、画像19Bが画像19Aに対して縮小されることもある。
【0021】
中央演算ユニット17aは、プログラム格納メモリ17fに格納されている画像処理プログラムを実行し、画像19Aから画像19Bへの変化に内在する変換特性と当該変換特性を打ち消すための調整量を計算する。中央演算ユニット17aは、計算結果として、回転中心位置20、回転中心移動方向21、移動量22をインターフェース画面19に表示する。回転中心位置20は、電流値の変化に伴い画像間に生じた回転変換の中心位置を示す。回転中心移動方向21は、調整時に回転中心を移動すべき方向を示す。移動量22は、調整時に回転中心位置20を移動すべき量を示す。なお、インターフェース画面19には、移動量22として、ピクセル値が表示される。ピクセル値は、後述する特徴的な図形の画面上での長さに相当する。
【0022】
中央演算ユニット17aは、回転中心位置20、回転中心移動方向21、移動量22等の情報に基づいて調整情報を計算し、計算結果(調整指標)を調整情報表示画面23に提示する。
図2の場合、調整情報表示画面23は、インターフェース画面19の右側に配置される。調整情報表示画面23には、調整手順24、簡易光線
図25、調整対象名26、擬似ツマミ27A及び27B、ツマミ回転方向28、調整量29が表示される。因みに、擬似ツマミ27AはX軸用の調整ツマミであり、擬似ツマミ27BはY軸用の調整ツマミである。調整対象名26を表す記号「BT」は、偏向コイル3及び4を表している。
【0023】
インターフェース画面19に表示される画像19A及び19Bの組が更新されるたび、中央演算ユニット17aは、前記の画像処理プログラムを実行し、その都度、回転中心位置20、回転中心移動方向21、移動量22及び調整情報表示画面23の表示内容を更新する。オペレータは、インターフェース画面19と調整情報表示画面23に提示された情報を参照し、電流軸中心調整を行う。このように本実施例では、オペレータは、具体的な数値や客観的な情報に基づいて調整作業を行うことができ、オペレータ間での調整バラツキや調整時間差を小さくすることができる。
【0024】
(b)処理動作の内容
図3に、電流軸中心調整時において、中央演算ユニット17aが実行する画像処理プログラムの処理手順例を示す。画像処理プログラムは、画像メモリ17d(又は17e)に保管された画像信号を処理対象とし、インターフェース画面19及び調整情報表示画面23に表示する情報の計算などを実行する。
【0025】
まず、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d(又は17e)から画像信号を取得する(S101)。前述したように、画像信号は、カメラ9で撮影された蛍光板面像又はカメラ10で撮影された試料透過像であり、両方ではない。次に、中央演算ユニット17aは、対物レンズ5の現在の電流値を電子線調整装置13より取得し、変化の有無を確認する(S102)。対物レンズ5の現在の電流値が、S101で読み出した画像信号を撮影したときの電流値と異なる場合、中央演算ユニット17aは、別の画像メモリ17e(又は17d)から画像信号を取得する(S103)。対物レンズ5の現在の電流値が、S101で読み出した画像信号を撮影したときの電流値と同じである場合、中央演算ユニット17aは、その変化が確認されるまでS102の確認処理を繰り返す。
【0026】
中央演算ユニット17aは、S101で取得された画像信号とS103で取得された画像信号を処理し、2枚の画像間の回転量θを算出する(S104)。この2枚の画像は同じカメラで撮影された画像である。以下、回転量θの算出手順を説明する。まず、中央演算ユニット17aは、取得した2枚の画像から特徴的な領域を抽出する。特徴的な領域とは、例えば試料上の傷や汚れである。
【0027】
図4に、特徴的な領域の一例を示す。特徴的領域101は、対物レンズ5の電流値が変化したことにより、観察像中の特徴的領域100が回転及び平行移動した状態を表している。特徴的な領域には、例えばSIFT(Scale Invariant Feature Transform)特徴量がある。SIFT特徴量は、例えば以下の方法により抽出できる。まず、画像から特徴点を検出する。特徴点は、例えば平滑度の異なるGaussianフィルタで平滑化した画像の変化から検出する。拡大又は縮小の影響を排除するために、異なる解像度の画像を作成してGaussianフィルタによる平滑化を行う。次に、検出した特徴点からSIFT特徴量を生成する。SIFT特徴量は、特徴点周辺の輝度変化が最も大きい向きを調べる。
【0028】
特徴点の向きを基準に、特徴点を中心とした4×4のブロックを設定し、ブロック毎に輝度変化を8方向で表すことで128次元のベクトルを求める。128次元ベクトルを長さ1に正規化し、1つの特徴点に対するSIFT特徴量とする。SIFT特徴量は、一般的な画像処理ライブラリでアルゴリズムが提供されており、それらを利用しても良い。SIFT特徴量は、128次元のベクトルを扱うため、移動、回転、拡大又は縮小により変化した画像に対して、変化前の画像のSIFT特徴量と変化後のSIFT特徴量の画像を対応させることができる。
【0029】
次に、中央演算ユニット17aは、2枚の画像から抽出した特徴的な領域の座標を利用して、ホモグラフィー行列を求める。ホモグラフィー行列は、2次元の射影変換を表す。ホモグラフィー行列は、一般的な画像処理ライブラリを利用することにより容易に算出することができる。2枚の画像間で対応する特徴点座標の組みから求められるホモグラフィー行列の一般式を式1に示す。
【0031】
ここで、sxはX方向の拡大率であり、syはY方向の拡大率である。θは回転角度、eはX方向の移動量、fはY方向の移動量である。なお、*は、乗算子である。
【0032】
次に、中央演算ユニット17aは、ホモグラフィー行列を用いて回転量θを求める。式2に、その計算式を示す。
【0034】
その後、中央演算ユニット17aは、2枚の画像から特徴的な領域の拡大率又は縮小率を算出する(S105)。拡大率又は縮小率も、ホモグラフィー行列を用いて求めることが出来る。式3に、その計算式を示す。
【0036】
その後、中央演算ユニット17aは、2枚の画像から特徴的な領域の回転中心座標を算出する(S106)。回転中心座標もホモグラフィー行列から算出することができる。式4に、その計算式を示す。
【0038】
その後、中央演算ユニット17aは、求めた回転中心位置から画像の中心位置までの距離を算出する(S107)。式5に、その計算式を示す。
【0040】
次に、中央演算ユニット17aは、回転中心座標と画像の中心位置までの距離に基づいて、必要な調整値を求める(S108)。調整値を求めるために、中央演算ユニット17aは、調整パラメータに対する電子ビームの傾斜角度をキャリブレーション値として求めておく。キャリブレーション値は、例えば電流値1mA当たりのビームスポットの移動ベクトル(bx,by)である。式6に、キャリブレーション値の例を示す。
【0042】
次に、中央演算ユニット17aは、S108で求めておいたパラメータを使用し、回転中心を観察画面の中央まで調整するための傾斜用コイルの電流値を算出する。式7に、その計算式を示す。
【0044】
その後、中央演算ユニット17aは、S104〜S108で算出した結果をインターフェース画面19及び調整情報表示画面23に表示する(S109)。具体的には、調整手順24、簡易光線
図25、調整対象名26、擬似ツマミ27A及び27B、ツマミ回転方向28、調整量29が表示される。
【0045】
図5に、画面更新処理S109の詳細内容を示す。画面更新処理109は、中央演算ユニット17aによって算出した移動量や回転量を、インターフェース画面19と調整情報表示画面23に表示するための処理である。画面更新処理S109の実行時、中央演算ユニット17aは、計算値(すなわち計算結果)をデータ保存用メモリ17g(
図1)から取得する(S201)。
【0046】
次に、中央演算ユニット17aは、取得した結果に基づいて、インターフェース画面19上に、電流の変化前後に撮影された2つの画像19A及び19Bと、その回転中心位置20を表すマーカを描画する(S202)。マーカの描画後、中央演算ユニット17aは、インターフェース画面19上に移動量22を描画し(S203)、更に、回転中心移動方向21を描画する(S204)。
【0047】
次に、中央演算ユニット17aは、調整情報表示画面23に調整手順24を描画する(S205)。調整手順24とは、例えば「1.観察画面を表示する」、「2.電源電圧を100V増やす」、「3.観察画面上に表示された観察像の変化量を確認する」、「4.調整情報表示画面で調整対象のツマミや調整量を確認する」、「5.調整対象のツマミを調整情報表示画面に表示された量だけ変化させる」、「6.電源電圧を100V減らす」、「7.調整終了」等のメッセージである。
【0048】
調整手順24の表示後、中央演算ユニット17aは、調整内容に対応した簡易光線
図25を描画する(S206)。簡易光線
図25には、例えば調整対象である磁界レンズ(照射系レンズ2、対物レンズ5、結像系レンズ等)及び偏向コイル3、4の両方又は一方の位置関係が記号又は図で表され、磁界レンズ及び偏向コイルの両方又は一方を通過する電子ビームの軌道が表される。
【0049】
その後、中央演算ユニット17aは、調整対象名26と対応する調整ツマミ模式図(
図2の場合は擬似ツマミ27A及び27B)を調整情報表示画面23の下部に表示する(S207)。最後に、中央演算ユニット17aは、調整が必要となる擬似ツマミ(擬似ツマミ27A及び27Bの両方又は一方)の上部に、調整量29と調整方向(
図2の場合はツマミ回転方向28)を描画する(S208)。調整量29は、磁界レンズ及び偏向コイル3、4の制御に用いる電流値又は電流値に相当する値である。電流値に相当する値とは、例えばディジット(digit)と呼ばれるアナログ値をデジタル値に変換した時の最小単位である。なお、
図5に示す処理手順は一例であり、各ステップの実行順序は任意である。
【0050】
(1−3)実施例の効果
前述したように、本実施例におけるTEM(
図1)は、オペレータによる電磁的軸調整作業に際し、手動調整の前後で生じた変化や調整作業をサポートする各種の情報を計算してインターフェース画面19及び調整情報表示画面23に表示する。従って、オペレータは、適切な調整手順や調整量を参照して軸調整作業を行うことができ、調整精度と調整時間差のバラツキを共に低減できる。
【0051】
(2)実施例2
(2−1)装置構成
本実施例においても、
図1に示す構成のTEMを使用する。本実施例では、オペレータが、TEMの電圧軸中心を調整する場合の動作を説明する。
【0052】
(2−2)電圧軸中心の調整動作
電圧軸中心の調整時も、オペレータは、操作パネルの操作を通じて中央演算ユニット17aにアクセスし、該当するプログラムの実行を指示する。中央演算ユニット17aは、電子線発生装置12を制御し、電子銃1に印加する電圧を正負の方向に交互に変化させ続ける。電子銃1に印加される電圧値が変化すると、蛍光板11に表示される蛍光板画像又はカメラ10で観察された試料透過像が対物レンズ5の電流値変化に合わせて拡大され又は縮小される。
【0053】
次に、中央演算ユニット17aは、カメラ9又はカメラ10から受信した画像信号を画像メモリ17d又は17eに一時的に保管すると共に、画像表示用メモリ17bに画像信号を保管して、表示装置18に表示する。
【0054】
図6に、電圧軸中心の調整時に表示されるインターフェース画面31と調整情報表示画面35の一例を示す。インターフェース画面31には、電圧値を変化させる前後に撮影された2つの画像30A及び30Bが表示される。本実施例では、画像30Aは電圧値の変化前の画像に対応し、画像30Bは電圧値の変化後の画像に対応する。いずれも同じカメラ9又は10で撮影された画像である。すなわち、画像30A及び30Bは、いずれも蛍光板画像又は試料透過像である。
図6は、電圧値の変化により、画像30Bが画像30Aに対して拡大された様子を表している。勿論、画像30Bが画像30Aに対して縮小されることもある。
【0055】
中央演算ユニット17aは、プログラム格納メモリ17fに格納されている画像処理プログラムを実行し、画像30Aから画像30Bへの変化をもたらす変換特性と当該変換特性を打ち消すための調整量を計算する。中央演算ユニット17aは、計算結果として、拡大・縮小中心位置32、拡大・縮小中心移動方向33、移動量34をインターフェース画面31に表示する。拡大・縮小中心位置32は、電圧値の変化に伴い画像間に生じた拡大・縮小変換の中心位置を示す。拡大・縮小中心移動方向33は、調整時に拡大・縮小中心を移動すべき方向を示す。移動量34は、調整時に拡大・縮小中心位置32を移動すべき量を示す。なお、インターフェース画面31には、移動量34として、ピクセル値が表示される。
【0056】
中央演算ユニット17aは、拡大・縮小中心位置32、拡大・縮小中心移動方向33、移動量34等の情報に基づいて調整情報を計算し、計算結果を調整情報表示画面35に提示する。
図6の場合、調整情報表示画面35は、インターフェース画面31の右隣に配置される。調整情報表示画面35には、調整手順36、簡易光線
図37、調整対象名38、擬似ツマミ39A及び39B、ツマミ回転方向40、調整量41が表示される。因みに、擬似ツマミ39AはX軸用の調整ツマミであり、擬似ツマミ39BはY軸用の調整ツマミである。調整対象名38を表す記号「BT」は、偏向コイル3及び4を表している。
【0057】
インターフェース画面31に表示される画像19A及び19Bの組が更新されるたび、中央演算ユニット17aは、前記画像処理プログラムを実行し、その都度、拡大・縮小中心位置32、拡大・縮小中心移動方向33、移動量34及び調整情報表示画面35の表示内容を更新する。オペレータは、インターフェース画面31と調整情報表示画面35に提示された情報を参照し、電圧軸中心調整を行う。このように本実施例では、具体的な数値や客観的な情報に基づいて調整作業を行うことができ、オペレータ間での調整バラツキや調整時間差を小さくすることができる。
【0058】
本処理は、実施例1で説明した処理動作と類似している処理が多い。従って、基本的な処理動作は
図3と同じになる。相違部分は、本実施例の場合、S104の回転量の算出処理が不要な点とS106で回転中心ではなく拡大・縮小中心位置を算出する点とS107で回転中心ではなく拡大・縮小中心から画像の中心までの移動距離を算出する点である。電圧軸調整時の観察像は、電圧が変化しても回転しないためである。
【0059】
(2−3)実施例の効果
前述したように、本実施例におけるTEM(
図1)は、オペレータによる電磁的軸調整作業に際し、調整前後で生じた変化や調整作業をサポートする各種の情報を計算してインターフェース画面31及び調整情報表示画面35に表示する。従って、オペレータは、適切な調整手順や調整量を参照して軸調整作業を行うことができ、調整精度と調整時間差のバラツキを共に低減できる。
【0060】
(3)実施例3
(3−1)装置構成
本実施例においても、
図1に示す構成のTEMを使用する。本実施例では、オペレータが、TEMのビーム偏向支点を調整する場合の動作を説明する。
【0061】
(3−2)ビーム偏向支点の調整動作
TEMの電子ビームを傾斜させるための偏向支点の調整時も、オペレータは、操作パネルの操作を通じて中央演算ユニット17aにアクセスし、該当するプログラムの実行を指示する。中央演算ユニット17aは、電子線調整装置13を制御して照射系レンズ2の電流値を変化させ、電子線が蛍光板11上でスポットとなるように調整する。その後、オペレータは、操作パネルを操作して中央演算ユニット17aにアクセスし、カメラ制御プログラムの実行を指示する。カメラ制御プログラムを実行した中央演算ユニット17aは、蛍光板11をカメラ9で撮影して、画像メモリ17d(又は17e)に保存する。
【0062】
この後、オペレータは、操作パネルの操作を通じて電子線調整装置13を制御し、偏向コイル3及び偏向コイル4の両方又は一方の電流値を変化させる。偏向コイル3又は偏向コイル4の電流値が変化すると、蛍光板11に照射される電子ビームのスポット位置が変化する。その後、オペレータは、カメラ制御プログラムを用いて蛍光板11をカメラ9で撮影し、画像メモリ17e(又は17d)に保存する。この状態で、中央演算ユニット17aは、プログラム格納メモリ17fに格納されている画像処理プログラムを実行し、表示装置18に表示する。
【0063】
図7に、ビーム偏向支点の調整時に表示されるインターフェース画面51と調整情報表示画面56の一例を示す。インターフェース画面51には、移動前の基準スポット52Aと移動後のスポット53Aが表示される。また、インターフェース画面51には、移動後のビームスポット中心位置53から基準ビームスポット中心位置52の方向に向かうビームスポット移動方向54と移動量55が表示される。
【0064】
また、調整情報表示画面56には、調整手順57、調整時の簡易光線
図58、調整対象名59、擬似ツマミ60A及び60B、ツマミ調整方向61、調整量62が表示される。因みに、擬似ツマミ60AはX軸用の調整ツマミであり、擬似ツマミ60BはY軸用の調整ツマミである。調整対象名59を表す記号「BTX」は、偏向コイル3及び4のX軸成分を表している。
【0065】
偏向コイル3又は偏向コイル4の電流値を変化させる度、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d(又は17e)に画像信号を格納する。画像メモリ17d(又は17e)に格納されている画像信号は、基準ビームスポット中心位置52を求めるために必要となる。このため、この画像信号は、ビーム偏向支点の調整作業が終了するまで破棄されない。電子ビームを並行移動させるための偏向支点の調整も、同様の手順を適用できる。
【0066】
図8に、ビーム偏向支点の調整時において、中央演算ユニット17aが実行する画像処理プログラムの処理手順例を示す。画像処理プログラムは、画像メモリ17d又は17eに保存された画像信号を処理対象とし、インターフェース画面51及び調整情報表示画面56に表示する情報の計算などを実行する。
【0067】
まず、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d(又は17e)から基準となる画像信号を取得する(S301)。
図9を参照し、基準となる画像信号の具体例を説明する。
図9は、ビーム偏向支点の調整中にインターフェース画面51に表示される観察像の一例である。スポット52Aは、偏向コイル3又は4の電流値を変化させる前の電子ビームスポットを示し、スポット53Aは、偏向コイル3又は4の電流値を変化させた後の電子ビームスポットを示す。S301では、例えば観察視野内にスポット52Aのみが存在する画像信号が取得される。
【0068】
次に、中央演算ユニット17aは、偏向コイル3と偏向コイル4に流す電流が変化しているか否かを確認する(S302)。変化が無い場合、中央演算ユニット17aは、確認動作を繰り返す。変化がある場合、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17e(又は17d)から画像を取得する(S303)。この時取得される画像は、例えば観察視野内にスポット53Aのみが存在している画像である。
【0069】
2つの画像が取得されると、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d(又は17e)の画像と画像メモリ17e(又は17d)の画像に基づいてビームスポットの移動量を計算する(S304)。移動量ΔDの計算式を式8に示す。
【0071】
その後、中央演算ユニット17aは、計算した移動量ΔDに基づいて、スポット53Aをスポット52Aの位置に調整するための調整値を計算する(S305)。調整値を求めるために、中央演算ユニット17aは、調整パラメータに対する電子ビームの傾斜角度をキャリブレーション値として求めておく。キャリブレーション値は、例えば偏向コイル3及び4の電流値1mA当たりのビームスポットの移動ベクトル(bx,by)である。式9に、キャリブレーション値の例を示す。
【0073】
次に、中央演算ユニット17aは、調整値計算時に求めておいたパラメータを使用して、スポット201をスポット200の重心座標まで調整するための傾斜用コイルの電流値を算出する。式10に、その計算式を示す。
【0075】
最後に、中央演算ユニット17aは、S304及びS305の情報を利用し、インターフェース画面51及び調整情報表示画面56を更新する(S306)。更新動作の内容は、
図5で説明した手順と同様である。
【0076】
(3−3)実施例の効果
前述したように、本実施例におけるTEM(
図1)は、オペレータによる電磁的軸調整作業に際し、調整前後で生じた変化や調整作業をサポートする各種の情報を計算してインターフェース画面51及び調整情報表示画面56に表示する。従って、オペレータは、適切な調整手順や調整量を参照して軸調整作業を行うことができ、調整精度と調整時間差のバラツキを共に低減できる。
【0077】
(4)実施例4
(4−1)装置構成
本実施例においても、
図1に示す構成のTEMを使用する。本実施例では、オペレータが、TEMのフォーカスを調整する場合の動作を説明する。
【0078】
(4−2)フォーカスの調整動作
フォーカスの調整時も、オペレータは、操作パネル等の操作を通じて中央演算ユニット17aに対応するプログラムの実行を指示する。プログラムを実行した中央演算ユニット17aは、カメラ9で撮影された蛍光板画像を画像メモリ17d(又は17e)に格納する。さらに、オペレータは、操作パネル等を通じて電子線調整装置13を制御し、偏向コイル3又は偏向コイル4の電流値を変化させる。
【0079】
偏向コイル3又は偏向コイル4の電流値が変化した後、中央演算ユニット17aは、カメラ9で撮影された蛍光板画像を画像メモリ17e(又は17d)に格納する。その後、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d及び17eに格納された画像信号から画像のフォーカス量を計算する。この計算結果を、中央演算ユニット17aは、表示装置(インターフェース部)18に表示する。
【0080】
図10に、フォーカス調整時に表示されるインターフェース画面71と調整情報表示画面76の一例を示す。インターフェース画面71には、目標フォーカス量を表した点線の円形72と、現在のフォーカス量を表した一点鎖線の円形73と、アンダーフォーカス又はオーバーフォーカスの方向を示す矢印74と、現在のフォーカス量75が表示される。一方、調整情報表示画面76には、調整手順77、調整時の簡易光線
図78、調整対象名79、擬似ツマミ80、調整ツマミ回転方向81、調整量82が表示される。調整対象名79を表す記号「OBJ」は、対物レンズ5を表している。
【0081】
本実施例の場合、中央演算ユニット17aは、対物レンズ5の電流値が変化する度、インターフェース画面71の表示内容(目標フォーカス量を表した点線の円形72、現在のフォーカス量を表した一点鎖線の円形73、アンダーフォーカス又はオーバーフォーカスの方向を示す矢印74、現在のフォーカス量75)と調整情報表示画面76の内容を更新する。また、偏向コイル3又は偏向コイル4の電流値が変化した場合、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d及び17eに保存されている画像信号を交互に更新する。
【0082】
図11に、フォーカス調整時において、中央演算ユニット17aが実行する画像処理プログラムの処理手順例を示す。まず、中央演算ユニット17aは、対物レンズ5の電流値を取得する(S401)。次に、中央演算ユニット17aは、カメラ9又は10を用いて蛍光板画像及び試料透過像のうちいずれか一方を撮影して、画像メモリ17d(又は17e)に画像信号を保存し、画像メモリ17d(又は17e)から画像信号を取得する(S402)。
【0083】
続いて、中央演算ユニット17aは、対物レンズ5の電流値が変化しているか否かを確認する(S403)。変化が無い場合、中央演算ユニット17aは、確認動作を繰り返す。変化がある場合、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17e(又は17d)から画像を取得する(S404)。
【0084】
この後、中央演算ユニット17aは、画像メモリ17d及び17eから画像信号を取得し、2枚の画像から必要なフォーカス量を計算する(S405)。具体的には、フォーカス量の計算のために2枚の画像間の相関値を取り、2枚の画像間の移動量を計算する。移動量の計算は、例えばテンプレートマッチングを用いる方法がある。移動量は、X方向とY方向の2つの方向の移動量が求められる。この時のX方向の移動量の符号が「+」の場合はアンダーフォーカスとなる。符号が「−」の場合はオーバーフォーカスとなる。
【0085】
画像のフォーカス量の計算例を式11に示す。式11に用いられる変数について説明する。
【0087】
ここで、Magは、フォーカス調整時の装置倍率であり、MagCamは、カメラの倍率である。また、Csは、球面収差係数であり、Focusは、移動量より計算されたフォーカス量である。また、Xは、2枚の画像間のX方向の移動量であり、Yは、2枚の画像間のY方向の移動量である。BeamTiltは、電子ビームの傾斜角度である。因みに、Csの値は、事前に実験やシミュレーションにより求める必要がある。その他の変数は装置状態を管理するソフトウェア等から取得することが可能である。
【0088】
求めたFocus量の単位は「mm」である。求めたFocus量とフォーカス調整時の対物レンズの電流値から、対物レンズ5に設定する調整値を計算することができる。フォーカス量から電流値を求める方法は、例えば実験により対物レンズ5の電流値の変化と像の移動量の関係を予め求めておき、その値を使用してフォーカス量の変化に必要な対物レンズ5の電流値を求めることが可能である。
【0089】
計算結果に従い、中央演算ユニット17aは、インターフェース画面71と調整情報表示画面76の表示内容を変更する(S406)。具体的には、中央演算ユニット17aは、インターフェース画面71に、目標フォーカス値を表した点線の円形72、現在のフォーカス量を表した一点鎖線の円形73、アンダーフォーカス又はオーバーフォーカスの方向を示す矢印74、現在のフォーカス量75を表示する。また、中央演算ユニット17aは、調整情報表示画面76に、調整手順77、調整時の簡易光線
図78、調整対象名79、擬似ツマミ80、調整ツマミ回転方向81と調整量82を表示する。
【0090】
(4−3)実施例の効果
前述したように、本実施例におけるTEM(
図1)は、オペレータによる電磁的軸調整作業に際し、調整前後で生じた変化や調整作業をサポートする各種の情報を計算してインターフェース画面71及び調整情報表示画面76に表示する。従って、オペレータは、適切な調整手順や調整量を参照して軸調整作業を行うことができ、調整精度と調整時間差のバラツキを共に低減できる。
【0091】
(5)各実施例において提供される機能
上述したように、実施例1〜4に係る画像処理機能を有するTEMには、電流軸中心調整、電圧軸中心調整、ビーム偏向支点調整又はフォーカス調整のいずれかの調整時に、以下に示す機能が実行される。
(a)表示装置18上の観察画面に特徴的な図形の重心位置(中心位置を含む。)を表示する機能
(b)軸調整のために移動する方向と移動量を表示する機能
(c)調整手順、調整時の簡易光線図、調整対象名、調整時に操作する偏向コイル又は磁界レンズを模した擬似ツマミ、ツマミの調整方向、調整量(縦方向のpixel値単位の移動量、横方向のpixel値単位の移動量を含む。)を表示する機能
(d)調整の前後で像の回転があった場合には、その回転中心を表示する機能
【0092】
(6)他の実施例
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることができる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。なお、前述の各実施例では、荷電粒子線装置の一例としてTEMを例示しているが、本発明は、荷電粒子(例えば電子線)によって照射される試料6の表面領域から出力される信号電子(例えば2次電子、反射電子など)を検出する走査型電子顕微鏡(いわゆるSEM)の軸調整等にも適用することができる。
【0093】
上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより(すなわちソフトウェア的に)実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。