特許第6783569号(P6783569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783569
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】光半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20201102BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   H01S5/22
   G02B6/12 301
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-134024(P2016-134024)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-6638(P2018-6638A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮
(72)【発明者】
【氏名】硴塚 孝明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−220324(JP,A)
【文献】 特開2011−040632(JP,A)
【文献】 特開平02−144983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる基板と、
前記基板の上に形成されたIII−V族化合物半導体からなる光導波路型の光素子と、
前記光素子と前記基板との間に形成されて前記光素子を構成するコアより屈折率が低く、かつ熱伝導率が絶縁体より大きい中間層と
を備え、
前記コアは、コア層と前記コア層に埋め込まれた活性層とを有し、
前記光素子は、前記活性層が形成されている部分において、基板面内方向に前記コア層を挟む状態に配置されたp型半導体層およびn型半導体層を有し、
前記中間層は、前記光素子を導波する光のモードが前記基板にかからない厚さとされ
前記絶縁体は、酸化シリコン,窒化シリコン,ベンゾシクロブテンのいずれかであ
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項2】
請求項1記載の光半導体素子において、
前記中間層は、GaPx1-x(0<x≦1)またはAlPx1-x(0<x≦1)から構成されていることを特徴とする光半導体素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の光半導体素子において、
前記中間層と前記光素子との間に形成された絶縁層を備え、
前記絶縁層は、前記光素子が前記中間層に接して形成されている場合に比較して前記光素子から前記基板への熱伝導が変化しない範囲の厚さとされている
ことを特徴とする光半導体素子。
【請求項4】
請求項3記載の光半導体素子において、
前記絶縁層は、酸化シリコンから構成され、厚さが100nm以下とされていることを特徴とする光半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器用光源などに利用される光半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、小型低消費電力な素子として広く普及している。特に、シリコン(Si)基板上に形成される電子素子は、エレクトロニクスを支える非常に重要な素子である。一方で、Siは間接遷移型の半導体であるため、直接遷移型の半導体に比べて発光効率が低い。このため、発光素子をはじめとする光素子の多くは、直接遷移型の化合物半導体により作製される。
【0003】
光通信用の光素子としては、直接遷移型の半導体基板としてInP基板が多く用いられる。しかしながら、InP基板は、Si基板に比べて大口径の基板作製が困難で基板が高価であり、またSi基板上で行われるCMOS作製プロセスに比べ加工精度や加工コストが劣る。
【0004】
上記の問題を解決するため、近年ではSi基板上へ化合物光半導体素子を集積する技術が開発されてきている(非特許文献1,非特許文献2,非特許文献3参照)。特に、CMOS互換プロセスで光素子を作製し、製造コストを削減するためには、平面的に電極構造が作製され、基板面内方向に電流を注入するSi基板に貼り付けられた薄膜型の光素子が有望である(非特許文献2,非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Y. Liu et al., "High performance continuous wave 1.3m quantum dot lasers on silicon", Applied Physics Letters, vol.104, no.4, 041104, 2014.
【非特許文献2】T. Fujii et al., "Epitaxial growth of InP to bury directly bonded thin active layer on SiO2/Si substrate for fabricating distributed feedback lasers on silicon", IET Optoelectron., vol.9, no.4, pp.151-157, 2015.
【非特許文献3】T. Shindo et al., "Lateral-Current-Injection Type Membrane DFB Laser With Surface Grating", IEEE Photonics Technology Letters, vol.25, no.13, pp.1282-1285, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した光素子は、SiとInP系半導体との間の屈折率差の関係から、光素子をSi基板上に直接貼り付けた場合、Si基板側に大きく光が漏れ出し、素子として機能しない問題がある。このため、これらの技術では、Si基板の上にSiO2やベンゾシクロブテンなどの材料による層を挿入してSi基板から光素子を離間させ、光閉じ込めを確保することが行われている。
【0007】
しかし、このようなSiO2やベンゾシクロブテンなどの材料による層は、大きな熱抵抗率を有するために放熱効率が悪く、光素子の高電流注入動作領域においては、発熱により素子特性が大きく劣化するという問題があった。このため、光閉じ込めと高い放熱を両立する構造はこれまでに実現されていなかった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、Si基板上に配置されたIII−V族化合物半導体からなる光素子における光閉じ込めおよび高い放熱が両立できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る光半導体素子は、シリコンからなる基板と、基板の上に形成されたIII−V族化合物半導体からなる光導波路型の光素子と、光素子と基板との間に形成されて光素子を構成するコアより屈折率が低く、かつ熱伝導率が絶縁体より大きい中間層とを備え、コアは、コア層とコア層に埋め込まれた活性層とを有し、光素子は、活性層が形成されている部分において、基板面内方向にコア層を挟む状態に配置されたp型半導体層およびn型半導体層を有し、中間層は、光素子を導波する光のモードが基板にかからない厚さとされ、絶縁体は、酸化シリコン,窒化シリコン,ベンゾシクロブテンのいずれかである。
【0010】
上記光半導体素子において、中間層は、GaPx1-x(0<x≦1)またはAlPx1-x(0<x≦1)から構成されていればよい。
【0011】
上記光半導体素子において、中間層と光素子との間に形成された絶縁層を備え、絶縁層は、光素子が中間層に接して形成されている場合に比較して光素子から基板への熱伝導が変化しない範囲の厚さとされていてもよい。絶縁層は、酸化シリコンから構成され、厚さが100nm以下とされていればよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、光素子と基板との間に形成されて光素子を構成するコアより屈折率が低く、かつ熱伝導率が絶縁体より大きい中間層とを備えるようにしたので、Si基板上に配置されたIII−V族化合物半導体からなる光素子における光閉じ込めおよび高い放熱が両立できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態における光半導体素子の構成を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態における光半導体素子のより詳細な構成を示す斜視図である。
図3A図3Aは、基板201の上に、厚さ2μmのGaPからなる中間層202を配置し、中間層202の上に、厚さ0.301μmのInPからなるコア層204を配置し、コア層204の中に、幅1μmの活性層203を配置した実施例1構成を示す構成図である。
図3B図3Bは、基板201の上に、厚さ0.301μmのInPからなるコア層204を配置し、コア層204の中に、幅1μmの活性層203を配置した比較例1の構成を示す構成図である。
図3C図3Cは、基板201の上に、厚さ1μmのSiO2からなる中間層202aを配置し、中間層202aの上に、厚さ0.301μmのInPからなるコア層204を配置し、コア層204の中に、幅1μmの活性層203を配置した比較例2の構成を示す構成図である。
図4図4は、比較例1の光強度の分布(a)および温度分布(b)のシミュレーション結果を示す説明図である。
図5図5は、比較例2の光強度の分布(a)および温度分布(b)のシミュレーション結果を示す説明図である。
図6図6は、実施例1の光強度の分布(a)および温度分布(b)のシミュレーション結果を示す説明図である。
図7図7は、絶縁層の厚さと活性層における温度上昇との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における光半導体素子の構成を示す構成図である。この光半導体素子は、シリコン(Si)からなる基板101と、基板101の上に形成された光導波路型の光素子102と、光素子102と基板101との間に形成された中間層103とを備える。
【0015】
光素子102は、III−V族化合物半導体から構成されている。中間層103は、光素子102を構成するコアより屈折率が低く、かつ熱伝導率が、酸化シリコン,窒化シリコン,ベンゾシクロブテンなどの絶縁材料(絶縁体)より大きい材料から構成されている。また、中間層103は、光素子102を導波する光のモードが基板101にかからない厚さとされている。光素子102を導波する光もモードが、基板101にかからない状態に、中間層103の層厚が設定されていればよい。
【0016】
中間層103は、例えば、単結晶シリコンからなる基板101の上に、直接エピタキシャル成長させることが可能なIII−V族化合物半導体から構成されているとよい。このような材料として、例えば、GaPx1-x(0<x≦1)またはAlPx1-x(0<x≦1)がある。これらの材料は、単結晶シリコンと格子定数がほぼ一致している(擬似格子整合している)。言い換えると、中間層103は、基板101に擬似格子整合または格子整合する材料から構成すればよい。特に、GaPは、単結晶シリコンとの間の格子定数差が0.35%と小さく、中間層103の材料として好適である。
【0017】
光半導体素子は、例えば、図2に示すような素子である。この素子は、シリコンからなる基板201の上に、GaPから構成された中間層202を備える。また、中間層202の上に、例えばInGaAsPなどのIII−V族化合物半導体からなる多重量子井戸構造の活性層203を備えている。活性層203は、例えば、InPなどのIII−V族化合物半導体からなるコア層204に埋め込まれている。
【0018】
また、活性層203が形成されている部分においては、コア層204を挟む状態に、InPなどのIII−V族化合物半導体からなるp型半導体層205およびn型半導体層206が形成されている。また、p型半導体層205の上には、p型電極207が形成され、n型半導体層206の上には、n型電極208が形成されている。各電極は、コンタクト層(不図示)を介して形成されている。
【0019】
例えば、まず、高抵抗InP基板などの半導体基板の上に、活性層203、コア層204、p型半導体層205およびn型半導体層206などの素子部を形成する。一方で、基板201の上に、GaPを直接成長することで中間層202を形成する。なお、直接成長に限らず、他の方法で中間層202を形成してもよい。次に、素子部と中間層202とを貼り合わせ、この後、素子部から半導体基板を除去する。次に、上述した各電極を形成すれば、光半導体素子が得られる。このような光半導体素子において、活性層203、コア層204より屈折率が低い材料から中間層202が構成されていればよい。また、中間層202は、酸化シリコン,窒化シリコン,ベンゾシクロブテンなどの絶縁材料より熱伝導率が大きい材料から構成されていればよい。
【0020】
図2を用いて説明した光半導体素子について解析して効果を検証した。効果の検証では、実施例1として、図3Aに示すように、基板201の上に、厚さ2μmのGaPからなる中間層202を配置し、中間層202の上に、厚さ0.301μmのInPからなるコア層204を配置し、コア層204の中に、幅1μmの活性層203を配置した。また、比較例1として、図3Bに示すように、中間層を設けずに、基板201の上にコア層204を直接配置した。また、比較例2として、図3Cに示すように、厚さ1μmのSiO2からなる中間層202aを配置した。
【0021】
また、効果検証では、光強度の分布、および活性層203の片側直横に0.5W/μm3の熱源が配置された場合の温度分布をシミュレーションした。
【0022】
なお、InPの熱伝導率は62×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は3.1679である。Siの熱伝導率は130×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は3.5016である。GaPの熱伝導率は101×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は3.0745である。活性層203における熱伝導率は4×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は3.4ある。酸化シリコンの熱伝導率は1×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は1.4469ある。空気の熱伝導率は0.024×10-16W/m、波長1.3μmにおける屈折率は1である。
【0023】
まず、図4に、比較例1の結果を示す。図4の(a)に示すように、光は基板201の側へ漏れ出し、活性層203に光を閉じ込めることができていない。なお、図4の(b)に示すように、温度上昇は11K程度と比較的小さい。
【0024】
次に、図5に、比較例2の結果を示す。図5の(a)に示すように、光は、活性層203に強く閉じ込められている。一方、図5の(b)に示すように、温度上昇がおよそ47Kと非常に大きくなってしまう。
【0025】
次に、図6に、実施例1の結果を示す。図6の(a)に示すように、光は、活性層203に強く閉じ込められている。加えて、図6の(b)に示すように、温度上昇もおよそ12Kと、比較例1の場合と遜色が無い。
【0026】
上述したように、本発明の実施の形態によれば、Si基板上に配置されたIII−V族化合物半導体からなる光素子における光閉じ込めおよび高い放熱が両立できるようになる。
【0027】
ところで、前述したように、光半導体素子の作製において、活性層203、コア層204、p型半導体層205およびn型半導体層206などの素子部を中間層202に貼り付ける場合、これらの間に絶縁層を備えるようにしてもよい。例えば、SiO2からなる絶縁層を貼り付けそうとして用いることで、接着性を向上させることができる。
【0028】
ただし、絶縁層は、光素子が中間層に接して形成されている場合に比較して光素子から基板への熱伝導が変化しない範囲の厚さとされていることが重要である。例えば、SiO2から絶縁層を構成した場合、図7に示すように、絶縁層の厚さが100nmを越えると、絶縁層を用いない場合に比較し、温度上昇が2倍以上となる。このため、放熱性を悪化させないためには、SiO2からなる絶縁層を介して貼り付ける場合、絶縁層の厚さは100nm以下であることが望ましい。
【0029】
上述では、SiO2の熱伝導率を1×10-6K/mと仮定しており、SiO2からなる絶縁層の厚さを熱伝導率で割った値が100×10-32/K以下であれば、放熱性が確保されることを意味する。従って、SiO2以外の材料から絶縁層を構成する場合においても、絶縁層の厚さを熱伝導率で割った値が100×10-32/K以下とすることが重要である。
【0030】
なお、上述では、中間層をGaPから構成する場合を例に説明したが、これに限るものではなく、単結晶Siと完全に格子整合するGaPNなどをはじめ、他の材料から中間層を構成してもよい。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、シリコンからなる基板の上に、光素子を構成するコアより屈折率が低くかつ熱伝導率が絶縁体より大きい中間層を介して光導波路型の光素子を配置したので、Si基板上に配置されたIII−V族化合物半導体からなる光素子における光閉じ込めおよび高い放熱が両立できるようになる。
【0032】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、各層の厚さや活性層の断面寸法などは上述した数値に限るものではない。
【符号の説明】
【0033】
101…基板、102…光素子、103…中間層。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7