特許第6783969号(P6783969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6783969コラゲナーゲを用いないで脂肪組織から脂肪由来幹細胞を分離抽出培養するための方法、及び脂肪由来幹細胞分離抽出用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6783969
(24)【登録日】2020年10月26日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】コラゲナーゲを用いないで脂肪組織から脂肪由来幹細胞を分離抽出培養するための方法、及び脂肪由来幹細胞分離抽出用キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20201102BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20201102BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12M3/00 A
   A61L27/38 300
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-503553(P2020-503553)
(86)(22)【出願日】2019年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2019007472
(87)【国際公開番号】WO2019168000
(87)【国際公開日】20190906
【審査請求日】2020年5月21日
(31)【優先権主張番号】62/636,056
(32)【優先日】2018年2月27日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511267996
【氏名又は名称】ORTHOREBIRTH株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126826
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克之
(72)【発明者】
【氏名】角南 寛
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】普天間 直子
(72)【発明者】
【氏名】牧田 昌士
(72)【発明者】
【氏名】大坂 直也
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−207350(JP,A)
【文献】 特開2004−141052(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/159240(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/121775(WO,A1)
【文献】 特表2012−510279(JP,A)
【文献】 「脂肪細胞分離キット」、フナコシ株式会社 [online]、2012.11.06 [検索日 2019.03.26]、インターネット <URL: https://www.funakoshi.co.jp/contents/6904>
【文献】 高分子 (2006) Vol.55, pp.126-129
【文献】 日本衣服学会誌 (2012) Vol.56, No.1, pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シートであって、

前記不織布シートは、エレクトロスピニング法で紡糸した外径10μm〜100μmの生分解性繊維を含み、繊維と繊維の間のスペースが10μm〜500μmであり

前記不織布シートの繊維と繊維の間は脂肪由来幹細胞が密に増殖して満たされた状態であり

前記脂肪由来幹細胞は、前記不織布を構成する繊維と繊維の間に挟まれた複数の脂肪組織塊に含まれた脂肪由来幹細胞が前記脂肪組織塊の中から這い出して、前記生分解性繊維の表面に接着し増殖したものである、

前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項2】
前記生分解性繊維は、PLGA樹脂を含む、請求項1に記載の前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項3】
前記生分解性繊維は、HApを40〜80重量%含んでいる、請求項1又は2に記載の前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項4】
前記不織布は。0.1mm〜1.0mmの厚さを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項5】
前記不織布は、複数のシートが重畳的に重ねられてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項6】
前記脂肪組織は、患者の生体から採取した脂肪組織である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前記脂肪由来幹細胞が接着培養された生分解性繊維を含む不織布シート
【請求項7】
脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出し、増殖させる方法であって、前記方法は、

患者の生体から採取した脂肪由来幹細胞を含む脂肪組織塊を培養容器に入れて、外径が10μmから100μmの生分解性繊維からなり、繊維と繊維の間の間隙が10μmから500μmである不織布シートを前記脂肪組織塊に被せ、

前記培養容器に脂肪由来幹細胞培養用培地を満たすことによって、前記不織布シートを被せた前記脂肪組織塊を前記脂肪由来幹細胞培養用培地に浸し、

前記不織布シートで前記脂肪組織塊を押圧することによって、前記脂肪組織塊と前記不織布シートとの密着性を増加し、密着性の増加によって前記脂肪組織塊に含まれている前記脂肪由来幹細胞が前記生分解性繊維の表面に這い出すことを促して、前記這い出した前記脂肪由来幹細胞によって前記不織布シートの繊維と繊維の間のスペースが満たされた状態になるように密に増殖させる、

前記脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで分離抽出し、増殖させる方法。
【請求項8】
前記生分解性繊維は、エレクトロスピニング法を用いて紡糸されており、HApを40〜80重量%含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞組織塊を覆う不織布シートに上から重しを載せることによって、前記不織布シートと前記脂肪組織塊との間の密着性を高める、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記培養容器中において、前記脂肪組織塊を二枚の不織布シートの間に挟んでサンドイッチ状態で培地に浸して培養する、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記脂肪組織塊をメッシュ構造を有するセルストレーナーに入れて、前記脂肪組織塊を収容した前記セルストレーナーを培養容器に収容し、培養容器を脂肪由来幹細胞培養用培地に浸すことによって、脂肪組織塊を脂肪由来幹細胞培養用培地に浸す、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
脂肪組織塊を細胞非接着性のシャーレに入れて、そのシャーレに培地を満たして培養する、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出して増殖するために用いる脂肪由来幹細胞分離抽出用キットであって、前記キットは、

細胞培養用容器と、セルストレーナーと、不織布シートと、前記不織布シートを押圧するために用いる目皿又はリングを含み、

前記セルストレーナーの側面と底面はメッシュ状に形成されており、メッシュの孔を通して細胞培養液がセルストレーナー内に通過浸入可能であり、

前記不織布シートは外径が10μm以上100μm以下の生分解性繊維からなり、繊維と繊維の間の間隙が10μmから500μmであり、

前記脂肪由来幹細胞を含む脂肪組織塊を前記セルストレーナーに入れて、前記不織布シートを前記セルストレーナー中の前記脂肪組織塊に被せた状態で、前記セルストレーナーを収容した培養容器に脂肪由来幹細胞培養用培地を満たすことによって前記脂肪由来幹細胞培養用培地に浸し、前記脂肪組織塊に被せた不織布シートをその状態で前記目皿又はリングを用いて上から押圧して前記脂肪組織塊と前記不織布シートとの密着性を増加させることによって、前記脂肪組織塊に含まれている前記脂肪由来幹細胞が前記生分解性繊維の表面に這い出すことを促し、前記這い出してきた前記脂肪由来幹細胞によって前記不織布シートの繊維と繊維の間のスペースが満たされた状態になるように密に増殖させる、

脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出し、増殖するためのキット。
【請求項14】
前記生分解性繊維は、エレクトロスピニング法を用いて紡糸されており、HApを40から80重量%含有する、請求項13に記載の脂肪由来幹細胞分離抽出用キット。
【請求項15】
前記培養容器は、非細胞接着性のシャーレである、請求項13又は14に記載の脂肪由来幹細胞分離抽出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラゲナーゲを用いないで脂肪組織から脂肪由来幹細胞を分離・抽出するための方法、及びその方法に用いる脂肪由来幹細胞分離抽出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した脂肪組織中に存在する脂肪由来幹細胞を抽出し、CPC施設で大量に増殖させて、増殖した脂肪由来幹細胞を患者の欠損部に注入する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
脂肪組織から脂肪由来幹細胞を抽出するための方法としては、コラゲナーゼを用いて細胞外マトリクスを構成するコラーゲンを分解して脂肪組織の結合をほぐすことが行われている。脂肪組織においてコラーゲンは、細胞同士を結ぶ糊のような働きをしているので、コラーゲンを分解することによって脂肪組織の中に埋もれている脂肪由来幹細胞を取り出すことができる。コラゲナーゼはトリプシンと異なり、タンパク質の中でもコラーゲンのみを分解するので、コラゲナーゼを用いた分解の過程で細胞に与えるダメージは比較的少ない。
【0004】
しかし、細胞はコラーゲンを一成分として含むので、コラゲナーゼもまた細胞にダメージを与える可能性がある。また、コラゲナーゼを用いて組織のコラーゲンを分解した後、脂肪由来幹細胞を単離する際には、遠心分離機を用いて、脂肪由来幹細胞を比重のより軽い脂肪細胞から分離する必要があるが、遠心分離器による分離は細胞に物理的ダメージを与える恐れがある。そこで、再生治療に用いる細胞にダメージを与えることを極力避けるためには、コラゲナーゼと遠心分離器を用いないで脂肪組織から脂肪由来幹細胞を抽出する必要がある。
【0005】
コラゲナーゼを用いないで脂肪組織から脂肪幹細胞を抽出する方法としては、脂肪組織中に含まれている幹細胞を脂肪組織の外に這い出させて、這い出てきた幹細胞を不織布シートの繊維を足場として接着培養することが提案されている。この方法に用いる市販の製品として、バイオ未来工房株式会社の脂肪幹細胞分離キットが知られている(非特許文献1)。同社の脂肪幹細胞分離キットの説明によると、HApを塗布したPE-PP芯鞘構造の不織布シートでできた三次元構造基材に脂肪組織をトラップして培養することで、細胞外マトリックスを豊富に産生する脂肪由来幹細胞を抽出分離できる。脂肪組織はフラスコ等の平面構造には接着しにくいが、繊維構造にはトラップされやすいという脂肪組織の性質を利用するものであり、培養期間を限定することによって、線維芽細胞や血管内皮細胞よりも増殖が速い幹細胞を繊維の表面で増殖させることで、高純度に分離することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2012-510279公開公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】株式会社バイオ未来工房 脂肪幹細胞分離キット製品説明 フナコシ株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記脂肪細胞分離キットは、播種された脂肪組織を不織布シートに載せるだけになっており、その状態で培地に浸たすと、脂肪組織が培地に浮いてしまう可能性がある。脂肪組織が不織布シートに対して密に接触せずに単に載っているだけの状態では、脂肪組織の中から繊維の表面に向かって這い出す幹細胞の数は限られたものになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような状況下で、本発明の発明者等は鋭意検討した結果、脂肪組織中に含まれる幹細胞は柔らかい脂肪組織中に存在する限りはIn vitro, In vivoどちらもでもあまり増殖しない。その理由は増殖力の高い脂肪幹細胞が柔らかい脂肪組織中で休眠状態にあることで、組織の恒常性が保たれているからであると考えられる。しかし、柔らかい脂肪組織の中では活発に増殖しないが、硬度をもった足場を脂肪組織の周囲に配置してやると、休眠状態にあった脂肪由来幹細胞が脂肪組織から足場に向けて活発に遊走し(這い出し)、爆発的な増殖を開始すると考えられる。
【0010】
この細胞の性質に着目して、本発明の発明者等は不織布シートからなる足場材料を脂肪組織に対して押圧することによって脂肪組織と足場材との密着性を上げてメカニカルストレスをかけると、初期細胞接着が劇的に向上し、その結果押圧された脂肪組織に含まれる脂肪由来幹細胞を大量に増殖させることができることを発見した。この発見に基づいて、繊維と繊維の間に十分なスペースを有する不織布シートを脂肪組織塊に被せて適度な力で押圧すると、脂肪組織が不織布シートの繊維と繊維の間に入り込んで、脂肪組織を囲む繊維と接触した状態になり、その状態で培地に浸すと、脂肪組織の中から多くの数の幹細胞を這い出させて周囲の繊維の表面に接着させることができることを発見した。
【0011】
上記発見に基づいて本発明の発明者等は、
脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出して増殖させる方法であって、前記方法は、

患者の生体から採取した脂肪由来幹細胞を含む脂肪組織塊を培養容器に入れて、外径が10μm以上100μm以下の生分解性繊維からなり繊維と繊維の間の間隙が10μmから500μmである不織布シートを前記脂肪組織塊に被せ、

前記培養容器に脂肪由来幹細胞培養用培地を満たすことによって、前記不織布シートを被せた前記脂肪組織塊を前記脂肪由来幹細胞培養用培地に浸し、

前記不織布シートを前記脂肪組織塊に対して押圧することによって、前記脂肪組織塊と前記不織布シートとの密着性を増加させ、それによって前記脂肪細胞組織塊に含まれている前記脂肪由来幹細胞が前記生分解性繊維の表面に這い出すことを促して、前記這い出した前記脂肪由来幹細胞を前記不織布シートの繊維と繊維の間の隙間スペースにおいて大量に増殖させる、

脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで分離抽出して増殖させる方法、という発明に想到した。
【0012】
本発明の発明者等は、さらに、脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出して増殖するために用いる脂肪由来幹細胞分離抽出用キットであって、前記キットは、

細胞培養用容器と、セルストレーナーと、不織布シートと、前記不織布シートを押圧するために用いる目皿又はリングを含み、

前記セルストレーナーの側面と底面はメッシュ状に形成されており、メッシュの孔を通して細胞培養液がセルストレーナー内に通過浸入可能であり、

前記不織布シートは外径が10μmから100μmの生分解性繊維からなり、繊維と繊維の間の間隙が10μmから500μmであり、

脂肪由来幹細胞を含む脂肪組織塊を前記セルストレーナーに入れて、前記不織布シートを前記セルストレーナー中の前記脂肪組織塊に被せた状態で、前記セルストレーナーを収容した培養容器に脂肪由来幹細胞培養用培地を満たすことによって前記脂肪由来幹細胞培養用培地に浸し、
前記脂肪組織塊に被せた不織布シートを前記目皿又はリングを用いて前記脂肪組織塊に対して押圧することによって、前記脂肪組織塊と前記不織布シートとの密着性を増加させることによって、前記脂肪細胞組織塊に含まれている前記脂肪由来幹細胞が前記生分解性繊維の表面に這い出すことを促し、前記這い出してきた前記脂肪由来幹細胞を前記不織布シートの繊維と繊維の間の隙間スペースにおいて増殖させる、

脂肪組織中の脂肪由来幹細胞をコラゲナーゼを用いないで抽出し、増殖するためのキット、という発明に想到した。
【0013】
好ましくは、不織布シートは約0.1から1.0mmの厚さを有することが好ましい。不織布シートの厚さが0.1mmよりも薄いと、幹細胞が不織布シートを通りこしてしまいやすくなって、不織布シートに捕捉されづらくなる。不織布が厚すぎると、曲げたり折ったり、巻いたりのハンドリングが難しくなる可能性があるし、脂肪由来幹細胞を不織布基材ごと生体にインプラントすることを考えると、厚い組織であればあるほど時間がかかってマイナスになるので、好ましくない。また、脂肪を播種して細胞シートを作製する場合に不織布が厚すぎると、幹細胞がまんべんなく行きわたって細胞シートが均一になるのに時間がかかる可能性がある。
【0014】
好ましくは、培養容器中において、脂肪組織塊を二枚の不織布シートの間に挟んでサンドイッチ状態で培地に浸して培養する。脂肪組織塊を二枚の不織布シートの間に挟むことで、幹細胞を不織布シートの繊維間に増殖させ、培養容器又はセルストレーナーの方に這い出すのを防ぐことができる。
【0015】
好ましくは、前記不織布シートを構成する生分解性繊維はハイドロキシアパタイト粒子を含有している。
【0016】
より好ましくは、前記不織布シートを構成する生分解性繊維の外径は30μmから60μmである。
【0017】
好ましくは、前記セルストレーナーの代わりに細胞非接着性のシャーレを用い、前記シャーレに前記脂肪由来幹細胞培養用培地を満たして培養する。細胞は基材表面に吸着したタンパク質に対して細胞の持つ特定のタンパク質を結合させ、基材表面に対して接着するので、もし、基材表面に細胞が結合できるタンパク質が無ければ、細胞は基材に接着できない。MPCポリマーや超親水性ゲルなどをコートしたシャーレは超浸水表面となり、細胞接着性のタンパク質の吸着を低減できるため、細胞非接着性のシャーレとして用いることができる。
【0018】
本発明の方法及びキットを用いれば、生分解性繊維からなる不織布シートの繊維と繊維の間に脂肪由来幹細胞を大量に増殖させることができる。
【0019】
本発明の及びキットを用いれば、生分解性繊維からなる不織布シートの繊維と繊維の間に大量増殖した脂肪由来幹細胞を基材ごと患者の体内に移植することができる。
【0020】
本発明の及びキットを用いれば、不織布シートを上から被せ、又はサンドイッチした状態で上から目皿又はリング等の重しを置くので、脂肪組織が培地に浮くことがなく、重しで押さえつけることで、脂肪組織と不織布シートを密着させることができる。
【0021】
本発明の及びキットを用いれば、細胞組織の初期培養で脂肪由来幹細胞を大量に増殖させることができるので、継代培養をする必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、脂肪組織塊に含まれる脂肪由来幹細胞をセルストレーナーを用いて培養するための二種類の培養方法を示す。
図2図2は、培養容器として6ウェルプレートを用いて培養している様子を示す。
図3図3は、培養容器として10cmディッシュを用いて培養している様子を示す。
図4図4は、培養容器として15cmディッシュを用いて培養している様子を示す。
図5図5は、本発明の実施例で用いる不織布シートを脱気する方法を示す。
図6図6は、本発明の実施例のキットを用いて不織布シートへ脂肪組織を播種する流れを示す。
図7図7は、6ウェルプレートにテープを貼って固定している様子を示す。
図8図8は、6ウェルプレートでの脂肪播種の流れを示す。
図9図9は、本発明の実施例で用いる不織布シートにピペットを用いて脂肪組織を播種している様子を示す。
図10図10は、6ウェルプレートでセルストレーナーを用いることなく培養している様子を示す。
図11図11(A)は、本発明の実施例による培養実験前の不織布シートの繊維構造を示す電子顕微鏡写真であり、図11(B)は、本発明の実施例による培養実験後の不織布シートの繊維と繊維の間に脂肪幹細胞が密に増殖している様子を示す電子顕微鏡写真である。
図12図12は、バイオ未来工房株式会社の脂肪幹細胞分離キットを用いて脂肪幹細胞を増殖させた実験結果を示す画像である。12(A)は基材上に脂肪細胞を播種した状態を示し、12(B)は基材上で脂肪幹細胞を増殖させた状態を示す。
図13図13は、本発明の実施例である不織布シートをロールケーキ状に形成した場合を示す。
図14図14は、本発明の実施例である幹細胞の培養方法において、セルストレーナーと不織布シートと目皿へ接着培養した細胞の数を吸光度(波長440nm)で測定した結果を示す。
図15図15は、本発明の実施例である幹細胞の培養方法を用いて不織布シートに接着した幹細胞の軟骨細胞へ分化誘導した結果を示すSEM写真である。
図16図16は、本発明の実施例である幹細胞の培養方法を用いて不織布シートに接着した幹細胞の血管内皮細胞へ分化誘導した結果を示すSEM写真である。
図17図17は、本発明の実施例である幹細胞の培養方法を用いて不織布シートに接着した幹細胞の脂肪細胞へ分化誘導した結果を示すSEM写真である。
図18図18は、本発明の実施例である幹細胞の培養方法を用いて不織布シートに接着した幹細胞の脂肪細胞へ分化誘導した結果を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<不織布シート>
本発明では、脂肪組織中に含まれる幹細胞が増殖するための足場材料となる基材として、生分解性繊維からなる不織布シートを用いる。本発明の不織布シートを構成する繊維は外径が10〜100μmあるので繊維と繊維の間に十分なスペースが形成されており、脂肪組織塊を本発明の不織布シートを播種すると、脂肪組織塊が繊維と繊維の間のスペースに入り込んで、その状態で脂肪組織が繊維の表面と接触する。本発明の好ましい実施態様において、不織布を構成する繊維と繊維の間の距離は10μmから500μmある。
【0024】
本発明の不織布シートを構成する繊維は、好ましくはエレクトロスピニング法を用いて複数の繊維を平面に堆積させてシート状に形成して製造することができる。エレクトロスピニング法を用いる場合には、回転式のドラムに紡糸した繊維を堆積させることによって不織布シートをドラム上にシート状に堆積させて形成することができる。
【0025】
シート状に形成した不織布シートを長方形にカットして、長方形の端部をつまんで長手方向に巻回することで、不織布シートをロールケーキ状に作製することができる(図13参照)。ロールケーキ状にすることでコンパクトな細胞培養が可能になる。
【0026】
<生分解性繊維>
本発明の不織布シートを構成する繊維は、ポリ乳酸、PLGA等の生分解性樹脂を用いることができる。本発明の不織布シートを構成する樹脂を生分解性樹脂とすることによって、不織布シート基材上で増殖した細胞を基材ごと人体に移植することが可能になる。
【0027】
本発明の一つの実施例において、不織布シートを構成する繊維はエレクトロスピニング法を用いて溶媒で溶かした生分解性樹脂にHAp粒子を混合して調製した紡糸溶液をスピンすることによって、HApと樹脂との複合繊維として紡糸することができる。
【0028】
不織布シートを構成する繊維は、播種された脂肪組織が繊維と繊維の間のスペースに入り込んで、そこでトラップされることを考えると、繊維の外径は約10から100μmが好ましく、より好ましくは30μmから60μmが好ましい。
【0029】
<不織布シートへの脂肪組織の播種>
本発明の好ましい一つの実施態様では、患者から採取した脂肪組織塊に不織布シートを被せることによって脂肪由来幹細胞を不織布シートに播種する。患者から採取した脂肪組織は柔らかく不定形な塊であり、不織布シートを被せると不織布シートの繊維による押圧を受けて、脂肪組織塊が柔軟に形状を変えて不織布シートの繊維と繊維の間の間隙に入り込む。脂肪組織塊が繊維と繊維の間に挟まれて不織布シート中にトラップされた状態で培地に浸されて、幹細胞の培養が行われる。
【0030】
脂肪組織塊のサイズは、基本的にシートより小さく、シートを被せたり、シートで挟んだりできればどのようなサイズでもよい。シートより大きくても使用することはは不可能ではない。巨大な脂肪組織に複数枚貼り付けて使用することも可能である。本発明の実施例では、1〜5mm程度に細かくカットしたものを使用している。
【0031】
<ハイドロキシアパタイト>
本発明の不織布シートの繊維に対する細胞接着性を高めるためには、ハイドロキシアパタイト(HAp)の粒子を生分解性繊維に含有させるか、又はHApを繊維の表面にコーティングすることが好ましい。HApは殆ど全ての接着細胞と良好な親和性を有するので、本発明の不織布シートの繊維に好適に用いることができる。
【0032】
生体吸収性繊維にHApを含有させた不織布シートは細胞増殖の足場材料として用いることができる。増殖させた幹細胞を足場材ごと患者の体内に移植する場合には、HApは体内で吸収される必要があるので、外径を小さく(例えば2から3μm程度)することが好ましい。
【0033】
樹脂繊維に多量のHApを含有させると繊維は脆くなる傾向がある。繊維が脆くなると、足場材として体内に移植した後、不織布シート又は不織布シートを巻回して形成したロールケーキが三次元骨格を維持できなくなる恐れがある。その点を補うためには、HApの含有量を下げるか、又は基材シートの繊維に用いる樹脂の分子量を上げることが考えられる。
【0034】
<培養>
容器(又はウェル)に脂肪由来幹細胞増殖用培地(ADSC培地)を満たし、脂肪由来幹細胞を含む脂肪組織片の上から不織布シートを被せた状態で、容器に満たしたADSC培地に完全に浸す。
【0035】
不織布シートの上から、重しを載せる等の方法で、圧力をかけて脂肪組織と不織布シートとを密着させてメカニカルストレスをかける。脂肪組織が播種されてトラップされた状態の不織布シートに目皿等を被せて押圧することによって、脂肪組織と繊維との密着度を高めて、脂肪組織中に含まれている幹細胞が繊維表面に這い出すのを促進することができる。
【0036】
この場合、不織布シートは脂肪細胞組織塊の上からのみ被せていてもよいし、上下両方向からサンドイッチしてもよい。不織布シートを脂肪組織塊の上側のみから被せると、脂肪組織塊の下側はセルストレーナー又は培養容器の底面に接し、その接した面において脂肪組織から幹細胞がそちらに這い出してしまう。脂肪細胞組織を不織布シートによって上下両側から挟むことによって、脂肪細胞組織に含まれる幹細胞が、セルストレーナー又は培養容器底面に逃げるのを防いで、不織布シート基材に這い出させることが可能になる。
【0037】
別の好ましい実施態様として、図13に示すように、横長に調製した不織布シートを巻回して、ロールケーキ状に作製し、当該ロールケーキを脂肪幹細胞増殖用培地を満たした容器中に完全に浸す。不織布シートをロールケーキ状に作製したものを用いると、不織布シートと細胞組織を密着させるためにかける圧力をロールケーキの端部を引っ張ることによって脂肪由来幹細胞を挟み込む力を調節することができるので、それによって細胞の増殖を制御することが可能になる。
【0038】
不織布シートに外側から圧力をかけて脂肪組織と密着させることで、脂肪組織中に存在している脂肪由来幹細胞は劇的に増殖を速め、その結果、初期培養によって大量の脂肪由来幹細胞を得ることができるので、継代培養の必要がない。
【0039】
本発明で用いる基材を図13に示すようなロールケーキ状に構成した場合には、ロールケーキを作る不織布シートのサイズ、繊維径、繊維間距離等を調整することによって脂肪由来幹細胞を所望の形状と寸法を有する三次元立体構造に作製することができる。二枚の不織布シートによるサンドイッチ又はロールケーキ方式では、不織布シートの隙間に脂肪組織をしっかりと挟み込むことで、脂肪組織を両面方向に遊走させ(這い出させ)、抽出効率を上げることが可能になる。脂肪由来幹細胞を挟み込む力を調節することによって、細胞増殖を制御することが可能である。不織布シートシート、又は不織布シートシートを巻いて作製したロールケーキは、幹細胞の苗床として使用し、必要に応じて 患部に合わせて曲げたり、折ったり、潰したり、カットして使うことができるし、複数個を繋げることも可能である。このようにすることで、従来の細胞シートなどでは到達できない大きな組織を自由につくることが可能になる。
【0040】
<移植>
本発明の生分解性繊維からなる不織布シートを足場材として用いて、In Vitroで基材上に脂肪由来幹細胞を増殖させると、繊維と繊維の間に増殖した脂肪幹細胞が満たされた状態(コンフルエントな状態)になる(図11参照)。この状態に到達した時点で、増殖した脂肪由来幹細胞を不織布シートごと、患者の体内に移植することが可能である。この場合にはトリプシンを用いる必要がないので、細胞にダメージを与えずに移植することが可能である。
【0041】
別の移植方法として、不織布シートからなる足場材で脂肪由来幹細胞を増殖した後に、濃度を調整したトリプシンを用いて基材から引き剥がし、引き剥がした脂肪由来幹細胞を移植することもできる。
【0042】
細胞増殖の足場材として用いた不織布シートには、増殖した脂肪由来幹細胞と共に、患者から採取した脂肪細胞塊が残っている。脂肪組織塊は増殖した脂肪幹細胞を含む不織布シートと共に、患者の体内に移植して差し支えない。又は、挟まった脂肪塊をピンセット等で除去し、不織布シートとそれに遊走してきて増殖した脂肪幹細胞のみを移植することも勿論可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の幹細胞抽出培養用キットを用いて脂肪由来幹細胞を抽出・培養する方法について、図面を参照しながら説明する。
<本発明の脂肪由来幹細胞の抽出・培養キットの構成>
・幹細胞抽出培養シート
・ヒト脂肪由来幹細胞専用培地(血清入りのものが望ましい)
・セルストレーナー
(例)サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 型番22-363-549
・ガラス目皿やガラスリング(脱気時およびセルストレーナーなしの培養時に使用を推奨)
(例)ガラス目皿20(厚さ3 mm、穴径2 mm)株式会社東新理興
(例)クローニングリング AGCテクノグラス株式会社 型番RING-12
・培養容器(6ウェルプレート、10 cmディッシュ、15 cmディッシュなど)
(例)6ウェルマルチウェルプレート コーニング 型番3516
(例)細胞培養ディッシ100 mm ビーエム機器株式会社 型番93100
(例)接着細胞培養用シャーレ150 住友ベークライト株式会社 型番MS-10150
【0044】
<培養方法の選択>
セルストレーナーの中に脂肪を播種したシートを入れて培養を行う。シート1枚で培養する方法(脂肪の上にシートをのせる)とシート2枚で培養する方法(脂肪を上下からシートで挟む)が可能である(図1参照)。更に多くのシートを積層して培養することも可能である。
【0045】
<培養容器の選択>
6ウェルプレート、10 cmディッシュ、15 cmディッシュから培養容器を選択する。
図2,3,4参照)。培養容器ごとの最大サンプル数と推奨培地量を以下の表1に示す。
【表1】
【0046】
<シートの脱気>
シートを培地に沈めようとすると、不織布シートの空隙内に気泡を生じてしまうのでそのままでは浮いてしまう恐れがある。培地にシートが浮いてしまうのを避けるためには、以下の手順でシートの脱気をすることが望ましい。
1) 10 cmディッシュに培地を8〜10 mL加える。
2) 幹細胞抽出培養シートを滅菌済みのピンセットで必要枚数取り出し、培地が入っているディッシュへ入れる。
3) シートの上から重しとして滅菌済みのガラス目皿またはガラスリングをのせてシートを完全に沈める。(図5参照)
4) -0.09 MPaで1 min程度脱気する。気圧計がない場合は、水流アスピレーターで10 min程度脱気する。
【0047】
<シートへの脂肪播種および培養>
A.セルストレーナーを用いて培養する場合(6ウェルプレートを用いる)
図6〜8に示す手順で脂肪組織塊を播種する。播種後はインキュベーター(37℃, 5%CO2)に入れて培養を開始する。なお、培地交換は2〜4日おきに全量または半量程度を交換する。
【0048】
シート1枚で培養する場合
1) ウェルに培地を約5 mL加えてセルストレーナーをセットする。
2) セルストレーナーの底の中央部分(メッシュ部分)に脂肪を約0.05 gのせる。その際には、播種しやすいようにピンセット等でセルストレーナーの底をかるく押して面を平らにすることが重要である。セルストレーナーの底に脂肪をのせたときに脂肪が浮いて分散してしまう場合は、培地量を減らして液面を低くし、分散を防ぐことが望ましい
3) 脂肪の上から脱気済みのシートを1枚のせる。
4) ウェルに培地を3 mL加えてウェルの培地量が8 mLになるようにする。
5) 6ウェルプレートの蓋が浮かないように蓋の上からテープを貼って押さえる。(図7参照)
6) インキュベーター(37℃, 5%CO2)に入れて培養を開始する。
【0049】
シート2枚で培養する場合
1) ウェルに培地を約6 mL加えてセルストレーナーをセットする。
2) セルストレーナーに脱気済みのシートを1枚入れる。
3) シートの中央部分に脂肪を約0.05 gのせる。
4) 脂肪の上から脱気済みのシートを1枚のせる。
5) ウェルに培地を2 mL加えてウェルの培地量が8 mLになるようにする。
6) 6ウェルプレートの蓋が浮かないように蓋の上からテープを貼って押さえる。
7) インキュベーター(37℃, 5%CO2)に入れて培養を開始する。
【0050】
B.セルストレーナーを用いないで培養する場合(6ウェルプレートを用いる)
セルストレーナーを使用せず、脂肪播種済みのシートを培養することが可能である。セルストレーナーを使わない場合、シートがずれる危険がある。そのため、ガラス目皿またはガラスリングなどで押さえつけて培養することが望ましい。また、この場合、ウェルプレートの底に接着し増殖する脂肪幹細胞の割合が大きくなることも考慮する必要がある。
【0051】
シート1枚で培養する場合
1) ウェルに培地を約1 mL加える。
2) 脱気済みのシートを1枚入れる。
3) シートの中央部分に脂肪を約0.05 gのせる。
4) 脂肪とウェル底が接地するように、シートをひっくり返す。
5) シートの上から重しとして滅菌済みのガラス目皿またはガラスリングをのせる。
6) ウェルに培地を2〜2.5 mL加えてウェルの培地量が3〜3.5 mLになるようにする。
7) インキュベーター(37℃, 5%CO2)に入れて培養を開始する。
【0052】
シート2枚で培養する場合
1) ウェルに培地を約1 mL加える。
2) 脱気済みのシートを1枚入れる。
3) シートの中央部分に脂肪を約0.05 gのせる。
4) 脂肪の上から脱気済みのシートを1枚のせる。
5) シートの上から重しとして滅菌済みのガラス目皿またはガラスリングをのせる。
6) ウェルに培地を2〜2.5 mL加えてウェルの培地量が3〜3.5 mLになるようにする。
7) インキュベーター(37℃, 5%CO2)に入れて培養を開始する。
【0053】
図11は、本発明のキットを用いて本発明の方法で、不織布シートに幹細胞を増殖させた結果を示す。図11(a)は培養前の不織布シートの状態を示し、図11(b)は培養後の状態を示す。図11(a)と(b)から、本発明の方法を用いて培養することによって、繊維と繊維の間のスペースに脂肪由来幹細胞が増殖してコンフルエントな状態になっているのがわかる。
図12(a)(b)は、バイオ未来工房株式会社の脂肪幹細胞分離キットを用いた脂肪細胞の培養結果を示す。図11図12の比較から、本発明の方法・キットを用いた細胞培養が従来技術と比べて大量の細胞増殖を実現できていることがわかる。
【実験】
【0054】
本発明の実施例の不織布シートにヒトの脂肪組織を播種して、不織布シートへの細胞接着をWST−1(吸光度)測定で評価した。
実験条件
使用した不織布シート:エレクトロスピニング法でPLGA50重量%/HAp50重量%の組成の複合繊維(外径10〜60μm)を紡糸して不織布シートとして回収し、直径23mm円形にカットしてサンプル1とした。
播種したもの:ヒトの脂肪組織(大腿部浅層から吸引)
使用した培地:ADSCADSC -GM
培養容器:6ウェルプレート
培地量( 1ウェル当たり):10 mL
培養温度・ CO2濃度37 ℃,5%CO2
培養日数:4日間、 12 日間、 22 日間、 32 日間、 42 日間
播種した脂肪量:0.05 g
吸光度(波長440 nm)をWST-1測定 全5回測定
【実験結果】
【0055】
培養日数:4日間、 12 日間、 22 日間、 32 日間、 42 日間における吸光度を、セルストレーナー、不織布シートサンプル1、目皿について測定した結果をそれぞれ図14(a),図14(b)、図14(c)に示す。
【実験結果の考察】
【0056】
1)図14(a)に示す通り、セルストレーナーの底面に脂肪組織塊をおいて、その上から一枚の不織布シートを被せた場合、脂肪組織が接しているセルストレーナーの面に幹細胞が這い出してそこで、接着培養された結果は、培養日数32日で吸光度0.772であった。
2)図14(b)に示す通り、脂肪組織塊から幹細胞が不織布シートに這い出して接着培養された結果は、培養日数32日で吸光度0.346であった。
3)図14(c)に示す通り、脂肪組織塊から不織布シートに這い出した幹細胞が不織布シートを経由して不織布シートの上に置いた目皿に這い出してそこで接着培養された結果は、培養日数32日で吸光度0.293であった。
4)セルストレーナーに不織布シートを敷いて脂肪組織塊を載せてその上から別の不織布シートで覆うことによって、脂肪組織塊の上下から不織布シートで挟んだ状態で培地に浸して培養すると、セルストレーナーに接着する幹細胞は目皿に接着した培養とほぼ同様に減少し、その分不織布シートに接着培養される幹細胞の数が増加すると考えられる。
5)図14(a)〜(c)から、脂肪組織を二枚の不織布シートで上下からサンドイッチして挟んだ状態で培地に浸して培養することによって、かなりの量の幹細胞がセルストレーナーに逃げるのを防いで、不織布シートに接着させることができると考えられる。
【0057】
サンプル1の不織布シートを使用して培養した脂肪由来幹細胞の分化を観察・評価することによって、脂肪由来幹細胞が分化能を維持した状態で増殖しているか否かを確認した。
【0058】
軟骨細胞への分化実験
脂肪組織播種前日にセルストレーナー上に不織布シート2枚とガラス目皿1個を乗せ、6 well plateに3セット静置し、 PBS 1% PSで脱気・浸漬を行った。翌日、 脂肪組織を受け取った後0.02 g の脂肪組織を中心付近に置き、不織布シートで挟むようにして中心付近に置き、 ADSCGM 培地で3日毎に培地交換を行い24日間培養した。不織布シート上に脂肪由来幹細胞( ADSCs )が過密状態になったタイミングで軟骨分化培地に交換し、3日ごとに培地交換し3週間培養を行った。
【0059】
血管内皮細胞への分化実験
脂肪組織播種前日にセルストレーナー上に不織布シート2枚とガラス目皿1個を乗せ、6 well plateに3セット静置し、 PBS 1% PSで脱気・浸漬を行った。翌日、 脂肪組織を受け取った後0.02 g の脂肪組織を不織布シートで挟むようにして中心付近に置き、 ADSCGM 培地で培養を行った。三日後にEBM-2培地(LONZA)に培地交換し、32日間3日ごとに培地交換して培養を行った。
【0060】
軟骨細胞への分化実験
脂肪組織播種前日にセルストレーナー上に不織布シート2枚とガラス目皿1個を乗せ、6 well plateに3セット静置し、 PBS 1% PSで脱気・浸漬を行った。翌日、 脂肪組織を受け取った後0.02 g の脂肪組織を中心付近に置き、不織布シートで挟むようにして中心付近に置き、 ADSCGM 培地で3日毎に培地交換を行い40日間培養した。不織布シート上に脂肪由来幹細胞( ADSCs )が過密状態になったタイミングで脂肪細胞分化培地(DSファーマ)に交換し1週間培養を行った後、脂肪細胞培養用培地(DSファーマ)に培地交換し、3日ごとに培地交換し1週間培養を行った。
【分化実験結果】
【0061】
軟骨細胞へ分化誘導して得られた細胞のSEM写真を図15に示し、血管内皮細胞へ分化誘導して得られた細胞のSEM写真を図16に示し、脂肪細胞へ分化誘導して得られた細胞のSEM写真を図17及び図18に示す。これらの分化実験の結果から、本発明の方法を用いて培養した脂肪由来幹細胞は、未分化の状態で増殖しており、軟骨細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞への分化する能力を有していることが分かった。
【0062】
以上、本発明を生分解性繊維からなる不織布シートに幹細胞を増殖して基材ごと体内に移植する実施例に基づいて説明したが、本発明は、必ずしもその場合に限られず、体外で本発明の方法・キットを用いて大量に増殖させた幹細胞をトリプシンを用いて不織布シート基材から引き剥がして、幹細胞だけを体内に移植することも可能である。
また、本発明の方法及びキットは、脂肪組織だけでなく臍帯組織や皮膚組織、滑膜組織、歯髄組織、骨髄組織などからも各体性幹細胞を分離抽出するのにも同様に用いることが可能である。さらに、本発明に用いる不織布シートは、脂肪組織から脂肪幹細胞を抽出するだけでなく、脂肪幹細胞やその他の体性幹細胞、iPS細胞、ES細胞などを直接的に播種して培養する足場としても使用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図18