特許第6784098号(P6784098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784098半導体レーザ装置の製造方法及び半導体レーザ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784098
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置の製造方法及び半導体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/022 20060101AFI20201102BHJP
【FI】
   H01S5/022
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-166735(P2016-166735)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-37440(P2018-37440A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年3月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中垣 政俊
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−290066(JP,A)
【文献】 特開2015−019040(JP,A)
【文献】 特開2015−207755(JP,A)
【文献】 特開2012−212734(JP,A)
【文献】 特開2013−254889(JP,A)
【文献】 特開2011−119699(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0197527(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 − 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の上面に、窒化物半導体構造を含む半導体レーザ素子と透光性部材とを、前記半導体レーザ素子の光出射面と前記透光性部材の光入射面とが近接するように固定する第1工程と、
原子層堆積法によって、前記半導体レーザ素子の光出射面と前記透光性部材の光入射面との隙間を埋めるように透光性無機部材を形成する第2工程と、を備え、
前記第1工程において、保護部材を前記基体の上面に配置されたサブマウントの上面に固定する工程と、前記半導体レーザ素子を、前記半導体レーザ素子の光反射面と前記保護部材とが近接するように前記サブマウントの上面に固定することで、前記サブマウントを介して前記基体の上面に固定する工程と、前記透光性部材を前記半導体レーザ素子の光出射面から離れた位置に配置する工程と、前記透光性部材を前記半導体レーザ素子の光出射面に押し当てて固定する工程とをこの順に有し、
前記第2工程において、前記半導体レーザ素子の光反射面と前記保護部材との隙間を埋めるように前記透光性無機部材を形成することを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記光入射面に向かい合う面として前記半導体レーザ素子からの光を上方に反射するよう傾斜した光反射面を有する前記透光性部材を前記基体の上面に固定する請求項1に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、温度を250℃以下に設定して前記透光性無機部材を形成する請求項1又は2に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置の製造方法及び半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子を搭載した半導体レーザ装置を小型にするために、半導体レーザ素子を金属等のキャップで覆わないオープンパッケージの半導体レーザ装置が開発されている。窒化物半導体からなる半導体レーザ素子は、バンドギャップが大きく短波長の光を発するが、短波長の光は高エネルギーであるため、光出射端面における発光部の光密度が高くなりやすい。このため、このような半導体レーザ素子をオープンパッケージとすると、半導体レーザ素子から発せられる高エネルギーのレーザ光と空間に存在する有機物とが化学反応することにより、半導体レーザ素子の光出射端面に何らかの化合物が形成される現象(以下、この現象を単に「集塵」という。)が生じるおそれがある。これを防ぐために、例えば特許文献1では、半導体レーザ素子の光出射端面に面して透光性部材を配置し、光出射端面と透光性部材との間に、フッ素含有の透明な液状のポリマー等を充填している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−290066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素含有の透明な液状のポリマーを充填すると、ポリマーに含まれる有機物を完全に除去するために高温で比較的長い時間の熱処理を行う必要があり、この熱処理で半導体レーザ素子の劣化を招くおそれがある。半導体レーザ素子の劣化を抑制しながら半導体レーザ素子の光出射端面の保護をより確実にすることができ、半導体レーザ素子としての信頼性の高い半導体レーザ装置がより一層強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の発明を含む。
(1)基体の上面に、窒化物半導体構造を含む半導体レーザ素子と透光性部材とを、前記半導体レーザ素子の光出射面と前記透光性部材の光入射面とが近接するように固定する第1工程と、
原子層堆積法によって、前記半導体レーザ素子の光出射面と前記透光性部材の光入射面との隙間を埋めるように透光性無機部材を形成する第2工程と、を備えることを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法。
(2)基体と、
前記基体の上面に固定され、窒化物半導体構造を含む半導体レーザ素子と、
前記基体の上面に、前記半導体レーザ素子の光出射面に近接して固定された透光性部材と、
前記透光性部材の光入射面と前記半導体レーザ素子の光出射面との間、並びに、前記半導体レーザ素子、前記透光性部材、及び前記基体の表面に連続して形成された透光性無機部材とを含む半導体レーザ装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一形態に係る半導体レーザ装置の製造方法によれば、熱による半導体レーザ素子の劣化を抑制しながら、集塵しにくい半導体レーザ装置を製造することができる。また、本発明の一形態に係る半導体レーザ装置によれば、集塵しにくく、使用環境による半導体レーザ装置の外観の変化を起こりにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1の半導体レーザ装置を示す概略斜視図である。
図2図1のX−X線における概略断面図である。
図3A図3A図3Eは、実施形態1の半導体レーザ装置の製造方法を説明するための概略断面工程図である。
図3B図3A図3Eは、実施形態1の半導体レーザ装置の製造方法を説明するための概略断面工程図である。
図3C図3A図3Eは、実施形態1の半導体レーザ装置の製造方法を説明するための概略断面工程図である。
図3D図3A図3Eは、実施形態1の半導体レーザ装置の製造方法を説明するための概略断面工程図である。
図3E図3A図3Eは、実施形態1の半導体レーザ装置の製造方法を説明するための概略断面工程図である。
図4】透光性部材の形状を変更した形態の概略斜視図である。
図5図4のX−X線における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する半導体レーザ装置は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0009】
実施形態1:半導体レーザ装置10及びその製造方法
この実施形態の半導体レーザ装置10は、図1、2及び3Eに示すように、基体2と、基体2の上面に固定され、窒化物半導体構造を含む半導体レーザ素子1と、基体2の上面に、半導体レーザ素子1の光出射面1aに近接して固定された透光性部材3と、透光性部材3の光入射面3aと半導体レーザ素子1の光出射面1aとの間、並びに、半導体レーザ素子1、透光性部材3、及び基体2の表面に、連続して形成された透光性無機部材4とを有する。ただし、図1においては、透光性無機部材4は、図示の明瞭さを確保するために省略してある。
半導体レーザ素子1の光出射面1aに透光性部材3を配置し、光出射面1aと透光性部材3との間に透光性無機部材4を配置していることにより、単位面積あたりの光強度を低減することができる。つまり、透光性無機部材4により半導体レーザ素子1からの光が光密度を低減した状態で光出射面3cから出射されることになるため、集塵を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子1における集塵を抑制するためのキャップが不要となり、いわゆるCANタイプのパッケージに比較して小型の半導体レーザ装置とすることができる。また、使用環境によっては、基体等の表面が劣化することにより半導体レーザ装置の外観が変わるおそれがある。例えば、基体の表面が金属(例えばAu)を含む場合は、塩水を含んだ大気に晒されると基体の表面が腐食(錆が発生)して変色するおそれがある。これに対して、本実施形態によれば、透光性無機部材4で半導体レーザ素子1の表面、透光性部材3の表面、及び基体2の表面が連続して覆われているため、過酷な環境下でも外観が変わりにくい半導体レーザ装置とすることができる。
【0010】
半導体レーザ素子1は、サブマウント6の上面に接合されていることが好ましい。本実施形態では、半導体レーザ素子1を接合したサブマウント6が、基体2の上面に、接合部材を用いて接合されている。サブマウント6を配置することにより、半導体レーザ素子1をサブマウント6の厚みに相当する高さに配置することができるため、レーザ光が基体2に当たることを防止することができる。
【0011】
半導体レーザ素子1の接合は、通常、接合部材を介して行われる。ここで、接合部材としては、例えば、錫−ビスマス系、錫−銅系、錫−銀系、金−錫系などの半田、又は、銀、金、パラジウムなどを含むペースト状導電性接合部材、が挙げられる。これらの材料のうち融点が高い材料を用いる場合は、接合部材の加熱時間を短くすることで半導体レーザ素子1の劣化を抑制することができる。例えば、金−錫系の半田を用いる場合は、350度で2秒程度加熱する。
【0012】
半導体レーザ装置10は、さらに、基体2の上面であって、半導体レーザ素子1の光反射面1bに近接して固定された保護部材5を備えている好ましい。この場合、透光性無機部材4は、保護部材5と半導体レーザ素子1の光反射面1bとの間及び保護部材5の表面にも連続して設けられていることが好ましい。これにより、半導体レーザ素子1の光反射面1b側における集塵を抑制することができ、光反射面1bの劣化による光反射面1bの反射率の低下を抑制することができる。
【0013】
(基体2)
基体2は、半導体レーザ素子1及び透光性部材3等を載置するものであり、これらの部材を載置することができる面積の上面を有していればよい。基体2の上面は、平坦であることが好ましく、上面の対向面である下面は、上面に平行であることが好ましい。これにより、透光性部材3等を配置しやすくなる。
【0014】
基体2は、半導体レーザ素子1と導通可能な配線層2aを有する。本実施形態では、配線層2aは、基体2の上面側に露出した上面部と、基体2の下面側に露出した下面部と、基体2の内部に上面部と下面部とを電気的に接続する中間部を有する。
【0015】
基体2は、半導体レーザ素子1で生じる熱を排熱しやすい材料によって形成するのが好ましく、例えば、AlN、Al23などの絶縁部材、Si、SiCなどの半導体部材、Cuなどの金属部材(導電部材)等によって形成することができる。中でも排熱性を考慮して、基体2としては金属部材を用いるのが好ましい。基体2が主として金属部材からなる場合は、使用環境によっては表面が劣化しやすくなるが、本実施形態では透光性無機部材4が基体2の表面に連続して設けられていることにより、基体2の表面の劣化を低減することができる。基体2が金属部材からなる場合は、金属部材と配線層2aとの間に絶縁膜2bを設けることで、両者を電気的に絶縁することができる。
【0016】
(半導体レーザ素子1)
本実施形態では、半導体レーザ素子1として、半導体基板からなる成長基板上に積層された半導体層の側面を光出射面(発光面)とするファブリペロー型半導体レーザを用いている。この他にも、半導体レーザ素子1としては、絶縁性基板等の成長基板上に半導体層が形成された構造、その成長基板を剥離したもの、成長基板とは異なる基板を半導体層に貼り合わせた後に成長基板を剥離したもの等を用いることができる。
【0017】
半導体レーザ素子1は、窒化物半導体層の積層構造を含む。例えば、一般式がInxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で示されるIII−V族窒化物半導体を用いることができる。活性層としては、単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造のものが挙げられる。半導体レーザ素子1としては、シングル・モードの半導体レーザ素子を用いることができる。半導体レーザ素子1の光出力が同じ場合は、シングル・モードの半導体レーザ素子は、マルチ・モードの半導体レーザ素子に比較して、光密度が高くなり、光集塵しやすい。このため、シングル・モードの半導体レーザ素子を用いた場合に光集塵抑制の効果がより顕著となる。
【0018】
(サブマウント6)
サブマウント6は、半導体レーザ素子1を載置するためのものである。本実施形態では、半導体レーザ素子1は、サブマウント6を介して基体2の上面に載置されている。光による集塵を抑制するために、透光性部材3の内部を通るレーザ光の距離(以下、「光路長」という。)はある程度長くする必要がある。このため、透光性部材3においては一定の幅(光入射面3aと垂直な方向における透光性部材3の長さ、図2の左右方向の長さ)を確保する必要があるが、幅を大きくするとレーザ光の光路長の増大に伴ってレーザ光のビーム径も拡大するため、レーザ光が基体2に当たりやすくなる。これに対して、サブマウント6を設けることで、半導体レーザ素子1の光出射面1aにおいてレーザ光が出射される部分(以下、「出射部」という。)から基体2までの距離をサブマウント6の高さの分だけ長くすることができるので、レーザ光が基体2に当たることを防ぎやすくなる。サブマウント6は、半導体レーザ素子1等を載置することができる面積の上面を有していればよい。例えば、サブマウント6の上面は、平坦であることが好ましく、上面の対向面である下面は、サブマウント6の上面に平行であることが好ましい。
【0019】
サブマウント6は、半導体レーザ素子1と線膨張係数(熱膨張係数)が近似しているものが好ましい。例えば、AlN、Al23等の絶縁部材によって形成することができる。また、サブマウント6は、上述した半導体レーザ素子1の接合に用いる接合部材と同様の接合部材によって基体2に接合することができる。この場合、半導体レーザ素子1から出射されたレーザ光がサブマウント6に当たることを抑制するために、半導体レーザ素子1の光出射面1aがサブマウント6の端面から若干突出するように半導体レーザ素子1を接合することが好ましい。これに限らず、半導体レーザ素子1の光出射面1aがサブマウント6の端面と面一となるように半導体レーザ素子1を接合していてもよい。
【0020】
(透光性部材3)
透光性部材3は、半導体レーザ素子1の光出射面1aから出射されるレーザ光が透過可能な部材からなる。ここでの透過可能とは、レーザ光の60%以上を透過することが好ましく、レーザ光の70%以上、さらには80%以上を透過することがより好ましい。
透光性部材3は、半導体レーザ素子1の光出射面1aに近接して配置されている。ここでの近接とは、透光性部材3が、半導体レーザ素子1と、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下の間隔で配置されていることを意味する。透光性部材3は半導体レーザ素子1に接触していてもよい。
【0021】
透光性部材3は、半導体レーザ素子1からの光が入射する面(光入射面3a)、光が出射する面(光出射面3c)を有しており、さらに、入射した光が反射する面(光反射面3b)を有していることが好ましい。これらの面は、いずれも平坦であることが好ましい。本実施形態では、図1等に示すように透光性部材3として、各面がそれぞれ平坦な面(典型的には鏡面)からなる7面体からなるものを用いている。なお、レーザ光が透過しない領域は、組み立て時の作業性、接合時及び接合後の安定性、強度、取り扱い易さ等を考慮して任意の形状とすることができる。例えば、図4及び図5に示すように透光性部材として6面体(直方体又は立方体)からなるものを用いることができる。
【0022】
透光性部材3は、その表面に、各種コート部材を設けてもよい。例えば、光出射面3cにARコート(無反射コート)を施すことにより、レーザ光を効率よく取り出すことができる。また、光入射面3a及び光出射面3cを除く領域に反射コートを施すことにより、意図しない部位からの光の出射又はもれを防止することができる。
【0023】
図1等では、透光性部材3における光入射面3aと対向する面は、半導体レーザ素子1から出射される光の光軸に対して傾斜した面(光反射面3b)であり、さらに、光入射面3aと光反射面3bとをつなぐように上方に光出射面3cを有する。光反射面3bには、反射コートが施されている。光入射面3aは、例えば、半導体レーザ素子1から出射される光の光軸(以下、「基準光軸」という。)に対して垂直に配置されており、光出射面3cは、基準光軸に対して平行に配置されており、光反射面3bは、半導体レーザ素子1から出射した光が上方、好ましくは、基準光軸に対して垂直に反射されるように傾斜している。光反射面3bは、例えば、透光性部材3の下面と光反射面3bとのなす角度が、120度から150度の範囲にあるようにすることができ、好ましくは135度とすることができる。このように、半導体レーザ素子1から出射した光を上方に立ち上げることにより、透光性部材3の幅(図2の左右方向)を小さくしながら光路長を長くすることができる。これにより、半導体レーザ素子1から照射されるレーザ光が基体2に当たるのを抑制しながら、光密度を緩和して、光出射面3cにおける集塵を低減することができる。レーザ光のビーム径はレーザ光の進行に伴って拡大するため、光出射面3cにおける光密度が低下するからである。
【0024】
なお、本実施形態では、レーザ光が上方に向かうように透光性部材3に光反射面3bを設けているが、図4および図5に示す半導体レーザ装置20では、透光性部材23には、光反射面を設けずに、レーザ光を上方に反射することなく取り出している。つまり、半導体レーザ素子1の光出射面1aと垂直な方向に光を取り出している。この場合は、光入射面23aに向かい合うように光出射面23cが配置されることとなる。図4等に示す透光性部材23を用いる場合は、光路長は透光性部材23の幅のみに依拠することになるため、サブマウント6を設けることによる効果がより顕著となる。
【0025】
透光性部材3は、少なくとも半導体レーザ素子1の出射部よりも大きくする必要がある。例えば、図1に示すように、透光性部材3の光入射面3aの面積を半導体レーザ素子1の光出射面1aの面積よりも大きくすることが好ましい。また、透光性部材3は、レーザ光の広がり角度等に応じて、高さ(図2の上下方向)及び幅(図2の左右方向)を適宜調整することが好ましい。言い換えると、透光性部材3は、光密度を低減できる程度の光路長を確保できる程度の高さ及び幅とすることが好ましい。ただし、幅が大きすぎると、半導体レーザ素子1からのレーザ光が基体2に当たりやすくなるため、半導体レーザ装置としての光取出し効率の低下につながるおそれがある。これらのことを考慮して、透光性部材3の幅は、透光性部材3の幅方向における半導体レーザ素子1からのレーザ光の光路長が0.5mm以上4mm以下の範囲となる程度であることが好ましく、1mm以上3mm以下の範囲となることがより好ましい。
【0026】
透光性部材3は、半導体レーザ素子1からの光が、その光入射面3aの幅方向(図2において紙面の手前から奥へ向かう方向)において中央に入射するように配置することが好ましい。これにより、半導体レーザ素子1からの光が光出射面3c以外から出るのを防止しやすくすることができる。
【0027】
透光性部材3は、例えば、無機ガラス、サファイア等の無機材料によって形成することができる。
【0028】
図1等では、透光性部材3は、基体2上に直接固定されている。なお、ここでいう「基体2上に直接固定されている」とは、サブマウント6等の他の部材を介していないことをさし、接着部材等を介しているものは含まれるものとする。これに限らず、透光性部材3と基体2との熱膨張係数の差を考慮して、透光性部材3と基体2との間に第2サブマウントを介在させて、基体2の上面に搭載してもよい。この場合、第2サブマウントとしては、透光性部材3の熱膨張係数と基体2の熱膨張係数との間の熱膨張係数を有する材料を用いる。第2サブマウントは、半導体レーザ素子を載置したものと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。なお、第2サブマウントを用いないことが好ましく、第2サブマウントを用いる場合であっても第2サブマウントの厚みはサブマウント6の厚みよりも小さいことが好ましい。これにより、レーザ光が第2サブマウントに当たることを抑制することができ、レーザ光を無駄なく取り出すことができる。
【0029】
透光性部材3の光出射面3cには波長変換部材7が設けられていてもよい。これによって、透光性部材と光出射面との間に波長変換部材が設けられる場合に比較して、光をある程度絞ったまま光の波長を変換(例えば、白色に変換)することができる。このため、半導体レーザ装置としての輝度の低下を低減することができるとともに、高光束の光を取り出すことができる。
【0030】
波長変換部材7は、樹脂やガラスからなる透光性の母材に蛍光体を分散して形成してもよいし、蛍光体を焼結して形成してもよい。蛍光体を焼結して形成する場合は、蛍光体だけを焼結してもよいし、蛍光体と焼結助剤との混合物を焼結してもよい。焼結助剤は、無機材料が好ましい。放熱性、耐光性、及び耐熱性を考慮して、透光性の母材としては、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ソーダガラス等を用いることができる。また、焼結助剤としては、酸化アルミニウム、酸化イットリウム等を用いることができる。
【0031】
蛍光体としては、半導体レーザ素子1からのレーザ光を吸収して、異なる波長の光に波長変換するものが選択される。用いる半導体レーザ素子1からの出射光の波長、得ようとする光の色などを考慮して、公知のものを用いることができる。例えば、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(LAG)、αサイアロン蛍光体、βサイアロン蛍光体などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
波長変換部材7の厚みは、そこに含有される蛍光体の量、意図する光の波長又は色等によって適宜調整することができる。波長変換部材7の大きさは、光出射面3cから出射される光のスポット径よりも大きければよいが、図1等に示したように、透光性部材3の光出射面3cの全体を被覆する平面積を有するものが好ましい。スポット径よりも大きくすることで、半導体レーザ装置から出射される光の色むらを低減することができる。
【0033】
(透光性無機部材4)
透光性無機部材4は、原子層の積層構造を有する部材であり、透光性部材3の光入射面3aと半導体レーザ素子1の光出射面1aとの間に設けられている。これに加えて、本実施形態では、半導体レーザ素子1、透光性部材3及び基体2の表面に、連続して形成されている。さらに、後述するように、半導体レーザ素子1の光反射面1bに保護部材5が配置されている場合には、透光性無機部材4は、保護部材5と半導体レーザ素子1の光反射面1bとの間及び保護部材5の表面にも連続して設けられていることが好ましい。
【0034】
透光性無機部材4は、例えば、アルミニウムの酸化物、シリコンの酸化物、ニオブの酸化物等によって形成することができ、アルミニウムの酸化物又はシリコンの酸化物の一方又は双方により形成するのが好ましい。これによって、透光性を確保しながら、光吸収を効果的に防止することができる。なお、透光性無機部材4の最表面は、前述の材料のうちのアルミニウムの酸化物以外の材料からなるのがよい。これにより、半導体レーザ装置の信頼性試験(例えば、塩水噴霧試験)等によっても部分的な剥離が抑制されるので透光性無機部材4の厚みが変化しにくい透光性無機部材4とすることができる。
透光性無機部材4は、例えば、半導体レーザ素子1と透光性部材3との間の隙間を除く基体2の上面において0.1μmから1.5μmの厚みを有するものが好ましい。ただし、半導体レーザ素子1と透光性部材3との間及び/又は半導体レーザ素子1と保護部材5との間に位置する透光性無機部材4は、隙間を埋め込んだ形態となるため、さらに薄膜となることがある。
【0035】
本実施形態では、透光性無機部材4は、上述したように、半導体レーザ装置を構成する部材の露出表面のうちの配線層2aの下面部を除く全てにわたって配置される。これにより、半導体レーザ装置の構成部品の全てを有機物等から有効に保護することができる。例えば、半導体レーザ素子1を、基体2の配線層2aにワイヤ8によって電気的に接続する場合には、基体2に半導体レーザ素子1が搭載された後、透光性無機部材4が設けられる前に、ワイヤボンディングによって、半導体レーザ素子1と基体2との間で電気的接続をとっておく。そして、透光性無機部材4を、ワイヤ8及びワイヤ8の接続部位を被覆するように形成することが好ましい。これによって、ワイヤ8の接続部位をも保護することができる。
【0036】
(保護部材5)
保護部材5は、基体2の上面に、半導体レーザ素子1の光反射面1bと近接するように設けられた部材である。保護部材5は、少なくとも半導体レーザ素子1の光反射面1bにおける光反射部(レーザ光が反射される部分)を被覆できる大きさであればよく、半導体レーザ素子1の光反射面1bの全てを被覆できる大きさであるのが好ましい。保護部材5は、光反射面1bに対応した形状、つまり、少なくとも光反射面1bの表面に沿った、例えば、平面形状を有するものが好ましい。保護部材5の幅(図2の左右方向)は、効果的に半導体レーザ素子1の光反射面側の集塵を防止できるように、0.3mm〜1mmが好ましい。
【0037】
保護部材5は、例えば、上述した透光性部材3と同様の材料によって形成することができる。なかでも、無機ガラスによって形成されたものが好ましい。
図1等では、保護部材5は、半導体レーザ素子1が搭載されたサブマウント6上に接合部材等によって固定されているが、基体2上に、接合部材等によって直接固定されていてもよいし、半導体レーザ素子1を載置したサブマウント6とは異なるサブマウントに固定されていてもよい。半導体レーザ素子1の光反射面1bについてはレーザ光が基体2に当たることを考慮する必要がないため、サブマウント6上に保護部材5が固定されることが好ましい。
【0038】
実施形態2:半導体レーザ装置10の製造方法
半導体レーザ装置10を製造する方法について以下に述べる。この実施形態の半導体レーザ装置の製造方法は、図3A〜3Eに示すように、
基体2の上面に、窒化物半導体構造を含む半導体レーザ素子1と透光性部材3とを、半導体レーザ素子1の光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとが近接するように固定する第1工程と、
原子層堆積法によって、半導体レーザ素子1の光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとの隙間に透光性無機部材4を埋める第2工程と、を含む。
このように、原子層堆積法により半導体レーザ素子1の光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとの隙間に透光性無機部材4を形成することにより、従来の方法に比較して熱による半導体レーザ素子の劣化を抑制しながら、キャップレスの半導体レーザ装置を簡便かつ確実に製造することができる。
【0039】
(半導体レーザ素子等の固定:第1工程)
まず、図3Aに示すように、半導体レーザ素子1を、基体2の上面に接合する。
半導体レーザ素子1は、熱伝導率の良好なサブマウント6の上に接合することが好ましく、半導体レーザ素子1を接合したサブマウント6を、基体2上に、接合部材を用いて接合することが好ましい。本実施形態では、半導体レーザ素子1の光出射面1aは、サブマウント6の端面から少し飛び出すように接合されている。
【0040】
任意に、図3Aに示すように、基体2の上面又はサブマウント6の上面に、半導体レーザ素子1の光反射面1bと近接するように保護部材5を固定してもよい。これによって、光反射面1b側の集塵を防止することができる。保護部材5の固定は、半導体レーザ素子1をサブマウント6に接合する前後、透光性部材3の固定の前後のいずれのタイミングに行ってもよい。好ましくは、保護部材5をサブマウント6に配置した後に半導体レーザ素子1の固定を行う。両者をサブマウント6に固定する際に、先に配置した部材に対して後に配置する部材を押し当てながら両者の位置合わせを行うが、押し当てたときに先に配置した部材が所望の位置から動くおそれがある。つまり、半導体レーザ素子1を先に配置すると、半導体レーザ素子1の光出射面1aがサブマウント6の端面から突出しすぎるおそれがある。これに対して、後に半導体レーザ素子1を配置することで、半導体レーザ装置ごとにおける半導体レーザ素子1の光出射面1aの突出量のばらつきを低減しやすくすることができる。
【0041】
続いて、図3Bに示すように、透光性部材3を半導体レーザ素子1の光出射面1aに対面させ、かつ光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとが近接するように固定する。このとき、透光性部材3の一部が半導体レーザ素子1に接触していてもよい。透光性部材3と半導体レーザ素子1との隙間が大きくなるほど後述する透光性無機部材4によって隙間を埋めるための時間が増大するため、例えば、透光性部材3を、半導体レーザ素子1の近傍に配置した後、透光性部材3を、半導体レーザ素子1の光出射面1aに押し当てて固定することが好ましい。
【0042】
まず、半導体レーザ素子1を固定し、その後、透光性部材3を半導体レーザ素子1の光出射面1aから離れた位置に配置し、続いて、透光性部材3を半導体レーザ素子1の光出射面1aに押し当てて固定する。ただし、半導体レーザ素子1の固定及び透光性部材3の配置は、順序を逆としてもよい。この場合は、半導体レーザ素子1を透光性部材3の光入射面3aに押し当てて固定することとなる。この工程では、透光性部材3と半導体レーザ素子1との間には接合部材等が設けられていない。透光性部材3は、例えば真空コレットを用いて押し当てることができるが、透光性部材3と半導体レーザ素子1との間に接合部材等の固体物質があると、固体物質の反発により透光性部材3が半導体レーザ素子1から離れる方向に倒れるおそれがあるためである。
【0043】
透光性部材3の光出射面3cに、波長変換部材7を配置してもよい。波長変換部材7は、基体2上への透光性部材3の固定の前後、保護部材5の固定の前後等のいずれのタイミングに配置してもよい。本実施形態では、基体2上への透光性部材3の固定の前に波長変換部材7を配置している。つまり、透光性部材3に波長変換部材7を配置し、その後、透光性部材3を基体2に固定している。
【0044】
さらに、半導体レーザ素子1と基体2の配線層2aとの電気的な接続のために、ワイヤ8を用いて、ワイヤボンディングを行ってもよい。ワイヤボンディングは、半導体レーザ素子1の基体2上への固定の後であれば、基体2上への透光性部材3の固定の前後、保護部材5の固定の前後等、第1工程のいずれのタイミングに行ってもよい。また、半導体レーザ素子1をワイヤボンディングではなく、フリップチップ実装法を用いて基体2上に電気的な接続を行う場合には、接合部材として導電性を有するものを用いて、半導体レーザ素子1を基体2の上面に接合すればよい。
【0045】
次に、図3Cに示すように基体2の下面を粘着シートに貼り合わせる。これにより、基体2の配線層2aの下面部が粘着シートで被覆された状態で透光性無機部材4を形成することができるため、基体2の下面に設けられた配線層2aの下面部に透光性無機部材4が形成されることを防止することができる。なお、半導体レーザ素子1等を基体2の上面に固定する前に、基体2の下面を粘着シートに貼り合わせ、その後半導体レーザ素子1等を固定してもよい。
【0046】
粘着シートとしては、例えば、熱剥離シートを用いることができ、剥離時の温度が、原子層堆積法による透光性無機部材4の成膜温度よりも高く半導体レーザ素子1が劣化する温度よりも低いものを用いる。例えば、剥離時の温度が100℃以上250℃以下のものを用いることができる。熱剥離シートを用いる場合は、半導体レーザ素子1への負荷を考慮して加熱時間は数秒程度とすることがよい。なお、配線層2aの下面部に粘着シートを貼り合わせない場合は、透光性無機部材4を形成した後に、配線層2aの下面部に設けられた透光性無機部材4を除去してもよい。
【0047】
(透光性無機部材4の埋め込み:第2工程)
その後、図3Dに示すように、原子層堆積法によって、少なくとも、半導体レーザ素子1の光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとの隙間に、透光性無機部材4を埋め込む。これによって、半導体レーザ素子1の光出射面1aの集塵の防止を確実に行うことができる。例えば、スパッタ法、CVD法等の成膜材料が直進性を有して被着体に積層される成膜方法では、極狭い隙間を確実に埋め込むことが容易ではないが、原子層堆積法を利用することによって、極狭い隙間にも、成膜材料を侵入させることができ、確実に隙間を埋め込むことができる。また、隙間に埋める部材がその形成過程において有機物を含む場合は、有機物を除去するために高温で透光性無機部材を形成する必要があり、半導体レーザ素子の劣化を招くおそれがある。これに対して、原子層堆積法により隙間に埋める部材を形成すれば比較的低温で透光性無機部材4を形成することができ半導体レーザ素子1の劣化を抑制することができる。
原子層堆積法では、成膜温度を250℃以下に設定することが好ましい。例えば、100℃以上200℃以下に設定することができる。半導体レーザ素子1等の被着体への高温負荷を回避して、各種部材への熱応力又は伸縮による応力負荷等を和らげ、各種部材の劣化等を防止するためである。
【0048】
透光性無機部材4は、半導体レーザ素子1の光出射面1aと透光性部材3の光入射面3aとの隙間のみならず、半導体レーザ素子1の露出表面、透光性部材3の露出表面、基体2のうちの外部と電気的に接続する部分を除く露出表面、さらに存在する場合には、サブマウント6の露出表面、保護部材5の露出表面、保護部材5と半導体レーザ素子1の光反射面1bとの隙間、ワイヤ8の露出表面等の全表面に連続して設けられていることが好ましい。これにより、使用環境による基体2等の外観の変化を防止することができるため、過酷条件下での半導体レーザ装置の試験又は過酷な環境下での半導体レーザ装置の使用にも有利となる。
【0049】
次に、図3Eに示すように、基体2の下面を粘着シートから剥がす。本実施形態では、上述のように加熱することで基体2の下面を熱剥離シートから剥がしている。
【0050】
なお、図3Aから図3Eでは1つの半導体レーザ装置のみ図示しているが、第2の工程の前に第1の工程を繰り返して基体2の上面に半導体レーザ素子1等が配置されたものを複数準備し、その後に透光性無機部材4を設けることもできる。キャップを用いて集塵を抑制する場合は、半導体レーザ装置の数だけキャップを設ける必要があり工程数が多くなるが、本実施形態によれば1回の工程により集塵が抑制された複数の半導体レーザ装置を作製することができるため量産しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の各実施形態の半導体レーザ装置は、前照灯等の車載用、バックライト光源、各種照明器具、ディスプレイ、広告、行き先案内等の各種表示装置、さらには、プロジェクタ装置の各種照明などに利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 半導体レーザ素子
1a 光出射面
1b 光反射面
2 基体
2a 配線層
2b 絶縁膜
3、23 透光性部材
3a、23a 光入射面
3b 光反射面
3c、23c 光出射面
4 透光性無機部材
5 保護部材
6 サブマウント
7 波長変換部材
8 ワイヤ
10、20 半導体レーザ装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5